説明

複数の薬物を分離して保持する錠剤

【課題】一錠中に同種または異種の複数の薬物を保持し接触を避けるべき複数の種類の薬物を安定的に保持している錠剤、特に、分割後も接触を避けるべき複数の種類の薬物を安定的に保持している断片が得られる割線錠の提供。
【解決手段】A層とB層とからなる二層錠、またはA層、B層、C層の順に三層をなしている三層錠であって、該B層は、薬物を含んでいてもよい医薬添加物層であり、該A層は医薬添加物を含んでいてもよい薬物層であって、B層上で分断されており、該A層の分断された各部分はB層に固着していることにより保持されていて、それぞれ同一もしくは異なる薬物を含有しており、さらにC層を有する場合の該C層も医薬添加物を含んでいてもよい薬物層であって、B層上で分断されており、該C層の分断された各部分はB層に固着していることにより保持されていて、それぞれ同一もしくは異なる薬物を含有している錠剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の薬物保持部位をもつ医薬用の錠剤に関する。さらに詳しくは、接触を避けるべき複数の薬物であってもひとつの錠剤中に分離して安定的に保持できる錠剤に関する。また、分割後も接触を避けるべき複数の種類の薬物を安定的に保持している断片が得られる割線錠に関する。また、本発明は一錠中に複数の種類の薬物を保持しているが、分割により一種類の薬物のみを含む断片が容易に得られる割線錠に関する。
【背景技術】
【0002】
割線錠は服用量に応じて薬剤師または患者によって分割される錠剤であり、服用量管理を最適にし、処方の際の融通性を高めるために用いられている(例えば特開平9−104619、米国特許第5520929号参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平9−104619号公報
【特許文献2】米国特許第5520929号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の第一の目的は、同種あるいは異種の複数の薬物、例えば接触を避けるべき異種の複数の薬物を安定的に保持できる錠剤を提供することである。
【0005】
本発明の第二の目的は、接触を避けるべき複数の薬物がひとつの錠剤中に分離して保持されていて、分割後も接触を避けるべき複数の薬物を安定的に保持している断片が得られる割線錠を提供することである。
【0006】
本発明の第三の目的は、複数の薬物(接触を避けるべきものを含む)がひとつの錠剤中に分離して保持されているが、分割後は一種の薬物のみを含む断片が得られる割線錠を提供することである。
【0007】
本発明のさらなる目的は、上記のいずれかの錠剤であり、分割後も口腔内もしくは食道での薬物の接触が患者の不利益になることを避ける機能が維持される被覆錠を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、A層とB層とからなる二層錠、またはA層、B層、C層の順に三層をなしている三層錠であって、
該B層は、薬物を含んでいてもよい医薬添加物層であり、
該A層は医薬添加物を含んでいてもよい薬物層であって、B層上で分断されており、
該A層の分断された各部分はB層に固着していることにより保持されていて、それぞれ同一もしくは異なる薬物を含有しており、
さらにC層を有する場合の該C層も医薬添加物を含んでいてもよい薬物層であって、B層上で分断されており、
該C層の分断された各部分はB層に固着していることにより保持されていて、それぞれ同一もしくは異なる薬物を含有している錠剤である。そしてA層またはC層の少なくとも一つの領域に含まれる薬物は、A層またはC層の他の領域に含まれる薬物と接触すべきでない他の薬物であってもよい(第一発明)。
【0009】
また、本発明は上記第一発明において、さらにB層の片面もしくは両面に一つ以上の割線があり、
A層、およびC層がある場合のC層の分断部位がB層上の割線のある部位もしくはその裏面の対応部位である錠剤である(第二発明)。
【0010】
さらに本発明は、A層とB層とからなる二層錠、またはA層、B層、C層の順に三層をなしている三層錠であって、
該B層は、薬物を含んでいてもよい医薬添加物層であって、その片面もしくは両面に一つ以上の割線を有しており、
該A層は医薬添加物を含んでいてもよい薬物層であって、B層上の割線のある部位もしくはその裏面の対応部位によって分断されており、
該A層の分断された各部分はB層に固着していることにより保持されていて、それぞれ同一もしくは異なる薬物を含有しており、
さらにC層を有する場合の該C層も医薬添加物を含んでいてもよい薬物層であって、B層上の割線のある部位もしくはその裏面の対応部位によって分断されており、
該C層の分断された各部分はB層に固着していることにより保持されていて、それぞれ同一もしくは異なる薬物を含有しており、
A層またはC層の少なくとも一つの領域に含まれる薬剤は、同じ層の他の領域に含まれる薬剤と同一ではなく、かつ少なくとも一つの割線に従って錠剤を分割すれば、一種類の薬物のみを含む断片が得られるようA層またはC層の薬物が配置された錠剤である(第三発明)。
【0011】
さらに本発明は、上記第一、第二、または第三発明の錠剤において錠剤全体が被覆され、該被覆層が、口腔内もしくは食道での薬物の接触が患者の不利益になることを避ける機能を有しており、分割しても上記被覆層の機能が維持される錠剤である。
【発明の効果】
【0012】
第一発明の錠剤は、同種あるいは異種の複数の薬物、例えば接触を避けるべき異種の複数の薬物をひとつの錠剤中に分離して、したがって安定的に保持できるという効果を有する。
【0013】
第二発明の割線錠は、接触を避けるべき複数の薬物がひとつの錠剤中に分離して安定に保持されているが、分割後もそれら接触を避けるべき複数の薬物が各断片に分離して安定に保持されている状態が維持されるという効果を有する。
【0014】
第三発明の割線錠は、複数の薬物(接触を避けるべきものを含む)がひとつの錠剤中に分離して安定に保持されているが、分割後はその一種の薬物のみを含む断片が得られるという効果を有する。これらの効果は処方の際の融通性を増す。
【0015】
さらに、上記第一ないし第三発明の錠剤において、口腔内もしくは食道での薬物の接触が患者の不利益になることを避ける機能を有する被覆層をさらに有する錠剤は、割線錠の場合にそれを分割した後の断片も含め、当該被覆の効果が付加される。
【0016】
また、本発明のなかでも割線錠は、分割時に薬物量のばらつきを生ぜず、正確に分割することができる効果がある。
本発明は、これらの効果を簡便な構造により達成する。したがって、その製造コストが低い利点をもつ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
第一発明は、A層とB層とからなる二層錠、またはA層、B層、C層の順に三層をなしている三層錠であって、
該B層は、薬物を含んでいてもよい医薬添加物層であり、
該A層は医薬添加物を含んでいてもよい薬物層であって、B層上で分断されており(以下、「分断領域」ともいう。)、
該A層の分断された各部分はB層に固着していることにより保持されていて、それぞれ同一もしくは異なる薬物を含有しており、
さらにC層を有する場合の該C層も医薬添加物を含んでいてもよい薬物層であって、B層上で分断されており(以下、「分断領域」ともいう。)、
該C層の分断された各部分はB層に固着していることにより保持されていて、それぞれ同一もしくは異なる薬物を含有している錠剤である。
【0018】
かかる錠剤の大きさは、錠剤として服用するのに不都合でなく、上記構成を実現しうるものである限り、問題とならない。形状についても、通常の製造装置により、またはそれに手を加えた製造装置により困難なく製造できるものである限り特に限定されないが、一般的な錠剤の概念である、円盤状のものが典型例として例示できる。他に、高さの低い三ないし六角柱状のもの、直方体状のものも典型例として挙げることができるが、以下に述べるような各層の基本的機能が害されない限り、形状は特に問題とならない。
【0019】
B層の形状は、基本的には上下面が平面的であることが望ましいが、A層やC層の各分断領域を保持しうるような形態である限り、起伏や凹凸があってもよい。特に、二層錠の場合におけるA層と反対側の面は、保持すべき層がないから錠剤の片面として採用できるものである限り、何ら限定はない。
【0020】
A層やC層は、活性成分たる薬物のみで構成されていても、医薬添加物を含んでいてもよいが、本発明錠剤の一部をなすものであり、一定の形状を保つ固形のものでなければならない。なお、医薬添加物が含まれる場合にも、当該薬物は均一に分散していることが望ましい。
【0021】
B層に含まれる医薬添加物やA層やC層が含んでいてもよい医薬添加物は、製薬学的に許容されるものであり、錠剤の形状を安定に保つことを妨げないものである限り、特に限定されない。具体的には、苦みや刺激等のマスキングの目的のためには、例えば、結晶セルロース、乳糖、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、部分アルファー化デンプン、デンプン、エリスリトール、マンニトール、ソルビトール、トレハロース、軽質無水珪酸またはこれらの混合物や造粒物が用いられ、さらに製造性、成形性、製剤機能を向上させる目的で、滑沢剤、崩壊剤、流動化剤などを含んでもよい。腸溶機能の維持または発現の目的のためには、メタアクリル酸コポリマー、酢酸フタル酸セルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースまたはこれらの混合物に可塑剤が添加されたものが用いられ、徐放機能の維持または発現の目的のためには、ヒドロキシエチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボキシビニルポリマーまたはこれらの混合物に可塑剤が添加されたものが用いられる。また、分割後の光安定性の維持を目的として、酸化チタンなどを上記B層の成分に加えてもよい。
【0022】
A層やC層は、B層上で分断されている。その分断の幅は、隣接する分断領域との接触が実質的に避けられる程度以上であればよい。すなわち、接触すべきでない複数の薬物が、保存中やPTPシートから取り出すときに、または服用のために手にとったときに互いに接触しない程度以上である。A層やC層は分断されているが、各分断領域はいずれもB層に固着していることによりB層に保持されていて剥離することはない。
【0023】
一方、A層やC層の各分断領域におけるB層との接合面以外の部分の形状は、製造に支障がない限り、全く自由といってよい。例えば直方体状や半球状である。各分断領域の形状は同一である必要はない。またA層とC層の分断領域の形状は一致する必要はない。
【0024】
さらに、図面に沿って本発明錠剤の具体的形態を説明するが、これはあくまでも例示である。図1には、B層の形状が円盤状で、A層およびC層の分断領域の形状は半円柱状である3層錠が示されている。図2の錠剤は、それに対応する2層錠である。図3には、B層の形状が正四角柱状で、A層の分断領域の形状が直方体状である2層錠が示されている。図4には図3と類似する形状の3層状が示されているが、A層およびC層の分断部分の形状が、B層上の割線と一体化した形状になっている点に特徴がある。図5には、図3の2分割2層錠に対応する4分割2層錠が示されている。ここでは、A層の4つの分断領域は同一形状の正方形柱となっている。図6には、それに対応する3層状が示されている。図7には、図6の錠剤におけるA層およびC層の分断領域が半球状のものが示されている。なお、図1から図7まではいずれも割線錠が示されているが、それらに対応する割線のない錠剤も本発明に含まれる(第一発明)。
【0025】
A層の薬物と、B層が薬物を含む場合の薬物と、C層がある場合のC層の薬物はそれぞれ異なっていてもよい。かかる活性成分たる薬物は、通常の製造方法で本発明の錠剤となしうるものである限り、特に限定はないが、例えば中枢神経系用薬、末梢神経系用薬、循環器官用薬、消化器官用薬、ホルモン剤、泌尿生殖器官用薬、血液・体液用薬、代謝性医薬品、痛風治療薬、腫瘍用薬、アレルギー用薬、気管支拡張剤、抗生物質、抗細菌薬、抗ウイルス薬、創傷治癒物質、鎮痙剤、抗コリン作用剤、抗ヒスタミン剤、抗炎症剤、抗コレステロール血剤、抗脂質剤、食欲抑制剤、興奮剤、凝血剤、制酸剤、化学療法剤、栄養補給剤、診断薬、麻薬・覚醒剤、鎮痛剤、鎮咳剤、喀痰剤等から選ばれる1種または2種以上の活性成分が挙げられる。さらに具体的には、例えば、アスコルビン酸、アセトアミノフェン、エテンザミド、塩酸アンブロキソール、アレンドロネート、フェブキソスタット、塩酸クレンブテロール、イコサペント酸エチル、タカルシトール、ピコスルファート、アルファカルシドール、国際公開WO99/26918号記載の化合物、国際公開WO01/53291記載の化合物、国際公開WO99/25686号記載の化合物およびこれらの塩および/または水和物からなる群から選ばれる1種または2種以上の活性成分が挙げられる。ここで、A層の薬物とB層が薬物を含む場合のB層の薬物、あるいはC層がある場合のC層の薬物とB層が薬物を含む場合のB層の薬物は、相互に接触しても不都合を生じない組合せであることが望ましい。なお、典型的には、B層は薬物を含まない。
【0026】
一方、第一発明にはA層またはC層の少なくとも一つの分断領域に含まれる薬物が、A層またはC層の他の領域に含まれる薬物と接触すべきでない他の薬物である実施態様がある。
【0027】
これを図8の錠剤について説明する。仮に、薬物Pと薬物Qが接触すべきでないものとする。図8の錠剤ではA層の二つの分断領域に薬物Pが配置され、他の二つの分断領域に薬物Qが配置されている。すなわち、これらの薬物は錠剤中に分離されて安定的に保持されている。3層錠である図9の錠剤の右半分では、薬物Pと薬物QがB層を隔ててA層とC層の対応する分断領域に位置しており、同様な効果を奏している。
【0028】
ここで、接触すべきでない薬物の組合せとしては、例えばコデインとアスピリン、トリメタジオンとエトトインがある。その理由はそれぞれ、エステル転移反応、湿潤・液化、という不都合を生じるからである。また、これ以外のも加水分解や酸化を受けやすい薬物は、酸性薬物や塩基性薬物に触媒されることにより変質する。加水分解されやすい薬物としては、塩酸プロカイン、ワルファリン、ベンジルペニシリン、フェノバルビタール、ジアゼパムなどがあり、酸化されやすいものとしては、エピネフリン、アスコルビン酸、トコフェロール、カプトリル、スルピリンなどがある。
かかる第一発明の構成により、配合性の悪い2種類以上の薬物を相互に接触することなく1錠中に配合できるという効果が得られる。
【0029】
第二発明は上記第一発明において、さらにB層の片面もしくは両面に一つ以上の割線があり、A層、およびC層がある場合のC層の分断部位がB層上の割線のある部位もしくはその裏面の対応部位である割線錠である。
【0030】
ここで、錠剤の大きさや形状はこの場合であっても基本的に第一発明について前述した通りであるが、大きさが割線錠として分割するのに不適当なほど小さくなく、厚みについても分割を妨げるほどでない必要がある。B層の形状や、A層やC層の各分断領域におけるB層との接合面以外の部分の形状も第一発明について前述した通りであるが、いずれも割線部位のみでの切断に支障があるものであってはならない。
【0031】
第二発明においては、B層の片面もしくは両面には一つ以上の割線がつけてある。割線は割溝と表現されることもあるが、本明細書では割溝も含めて「割線」と総称する。錠剤に割線をつけること、およびその一般的形状は既にこの分野の技術常識となっている。したがって、患者や薬剤師らが錠剤全体を困難なく分割できるものである限り本発明における割線の形状は特に限定されず、当業者であれば技術常識に基づき容易に形成することができる。具体的には上記特許文献中に開示された割線の形状を例示することができる。なお、複数の割線を有する錠剤の場合には、分割を意図した割線のみで分割できるように構成する必要があるが、これも当業者にとって格別の困難はない。
【0032】
A層やC層は、B層上の割線のある部位もしくはその裏面の対応部位によって分断されている。「その裏面の対応部位」とは、B層上のある割線が片面にのみ刻まれている場合において、B層上の当該割線のない面における対応部位を意味する。
【0033】
図10の左上には割線のない2層錠が、左下にはA層が割線のある部位によって分断されている2層錠が、右上にはA層が割線のある部位の裏面の対応部位によって分断されている2層錠が、右下にはB層の両面に割線があり、A層がその部位で分断されている2層錠が示されている。
なお、A層やC層の分断領域は、B層上、割線よって区切られる領域(割線が片面のみにある場合における割線のない面の対応部位によって区切られる領域を含む)すべてに存在しなくてもよい。
【0034】
第二発明における分断の幅は、前述した第一発明のそれでは必ずしも足りない。錠剤を割線部位で分割すると必ずしも一定の割れ方とはならず、若干のばらつきが生ずるのを避けられない。したがって、A層やC層の分断領域は、割線の機能の妨げにならないのみならず、分割のばらつきの影響を受けない程度に割線のある部位もしくはその裏面の対応部位から離れている必要がある。「B層上の割線のある部位もしくはその裏面の対応部位によって分断」とは、そのために十分な幅をもって分断されていることを意味する。このことが、分割時に薬物量のばらつきを生ぜず、正確に分割できる効果につながる。
【0035】
かかる第二発明によれば、分割することにより、分割前の錠剤が保持していた複数の薬物のうち一部を保持する断片を与える割線錠が得られる。
特に一組以上の接触すべきでない2種の薬物が、各組ともB層を隔ててA層とC層の対応する分断領域に位置している三層の割線錠を作成すれば、分割後も、接触すべきでない2種の薬物が、B層を隔ててA層とC層の対応する分断領域に位置している状態が維持される。すなわち、分割後の断片中でもそれらの接触すべきでない2種の薬物が安定的に保持される効果を奏するのである。
【0036】
これを図11の錠剤について説明する。仮に、薬物Pと薬物Qが接触すべきものでなく、薬物Rと薬物Sも接触すべきものでないとする。図11の錠剤では、2組の接触すべきでない2種の薬物が、各組ともB層を隔ててA層とC層の対応する分断領域に位置しており、分割後もその状態が維持される。なお、図11の錠剤では、薬物Pは二つの分断領域に存在しているが、いずれも同一の層(A層)に位置している。
【0037】
一方、第二発明の他の実施態様は、接触すべきでない各組の2種の薬物がいずれも同じ層に位置している割線錠である。この場合には、A層やC層における薬物の配置と割線との位置関係により、分割すると接触すべきでない2種の薬物が異なる断片に分離される割線錠が得られる。この中には、C層の分断領域のすべてにおいて、B層を隔てて対応するA層の薬物と同一の薬物を含有している三層の割線錠が含まれる。典型的には、第二発明における接触すべきでない2種の薬物の組数は一組であり、なかでも錠剤中にかかる一組の薬物以外の薬物を含まない割線錠がさらに典型的である。このような割線錠は、処方の際の融通性を高める効果がある。
【0038】
その一例が図12に示される錠剤である。この錠剤では、薬物Pと薬物Qはいずれも同じ層(A層およびC層)に位置している。そして、C層の分断領域のすべてにおいて、B層を隔てて対応するA層の薬物と同一の薬物が配置されている。この錠剤では接触すべきでない2種の薬物の組数は一組である。そして、A層およびC層には接触すべきでない薬物以外の薬物を含まない。この錠剤を図面上で上下方向の割線に従って分割すると、薬物Pのみを含む断片と、薬物Qのみを含む断片が得られる。一方、この錠剤を図面上で左右方向の割線に従って分割すると、薬物Pと薬物Qのそれぞれ半量が分離されて安定的に保持されている断片が得られる。
【0039】
第三発明はA層とB層とからなる二層錠、またはA層、B層、C層の順に三層をなしている三層錠であって、
該B層は、薬物を含んでいてもよい医薬添加物層であって、その片面もしくは両面に一つ以上の割線を有しており、
該A層は医薬添加物を含んでいてもよい薬物層であって、B層上の割線のある部位もしくはその裏面の対応部位によって分断されており、
該A層の分断された各部分はB層に固着していることにより保持されていて、それぞれ同一もしくは異なる薬物を含有しており、
さらにC層を有する場合の該C層も医薬添加物を含んでいてもよい薬物層であって、B層上の割線のある部位もしくはその裏面の対応部位によって分断されており、
該C層の分断された各部分はB層に固着していることにより保持されていて、それぞれ同一もしくは異なる薬物を含有しており、
A層またはC層の少なくとも一つの領域に含まれる薬剤は、同じ層の他の領域に含まれる薬剤と同一ではなく、かつ少なくとも一つの割線に従って錠剤を分割すれば、一種類の薬物のみを含む断片が得られるようA層またはC層の薬物が配置された錠剤である。
【0040】
第三発明における、錠剤全体の大きさや形状、「A層」、「B層」、「C層」、「医薬添加物」、「割線」、「割線のある部位もしくはその裏面の対応部位によって分断」の意義は、割線錠について前述したものと同様である。薬物については、「接触すべきでない」といった制限はないが、接触すべきでない複数の薬物を異なる分断領域、例えば同じ層の他の分断領域に含んでいてもよい。この場合には、分割前であっても配合性の悪い2種類以上の薬物を相互に接触することなく1錠中に配置できるという効果が加わる。
【0041】
ここで、「A層またはC層の少なくとも一つの領域に含まれる薬剤は、同じ層の他の領域に含まれる薬剤と同一ではなく、かつ少なくとも一つの割線に従って錠剤を分割すれば、一種類の薬物のみを含む断片が得られるようA層またはC層の薬物が配置」することは、当業者であれば容易に定めうることである。典型的にはB層は薬物を含まない。かかる薬剤は、分割前には複数種類の薬剤を同時に服用できる錠剤であるのに対し、分割後には一種類の薬物のみを含む断片が得られるなど、処方の際の融通性を高める効果を奏する。
その具体例としては、前述した図8、図9、図12の錠剤が挙げられる。
【0042】
さらに、本発明の錠剤は、被覆層を有していてもよい。かかる被覆層は、例えば、口腔内もしくは食道での薬物の接触が患者の不利益になることを避ける機能を有する。かかる患者の不利益としては、例えば苦み等の不快な味や不快臭、刺激、口腔内での意図しない薬物吸収による副作用、または口腔内もしくは食道での薬物の溶解による副作用が挙げられる。このほか、被覆は不溶性、速溶性、速崩壊性、腸溶性、徐放性、時限放出性といった薬物放出制御機能の付与、水分や湿気に対する安定化、投与後に接する胃液や酵素等の生体内成分に対する安定化、あるいは光安定性の目的でも施される。
【0043】
不快な味や不快臭のマスキングのためには、例えばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースが、腸溶性の付与のためには、例えばメタアクリル酸コポリマー、酢酸フタル酸セルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースまたはこれらの混合物に可塑剤が添加されたものが、徐放性の付与のためには、例えばヒドロキシエチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボキシビニルポリマーまたはこれらの混合物に可塑剤が添加されたものが、水分等に対する安定化のためにはエチルセルロース、メタアクリル酸コポリマー、セラック、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートが用いられる。また、胃液や酵素などの生体内成分に対する安定化のためにはマスキング、腸溶性、徐放性機能をもつ医薬品添加物を単独あるいは組合せて使用し、光安定性の目的のためにはこれらのコーティング基材の中に酸化チタンなどを添加する。かかる被覆層は種類の異なるもの複数層であってもよい。
【0044】
なお、被覆層を有する割線錠の場合において、被覆層のもつ効果の維持のためには、分割後も割線のある部位もしくはその裏面の対応部位近傍のB層上に被覆層が残り、A層やC層の分断された各部分がB層または被覆層に接していて露出することがない程度に、割線のある部位もしくはその裏面の対応部位から離れていることが望ましい。そのような被覆状態の一例が、図13に示されている。さらに、分割後に露出するB層の医薬添加物の特性は、不溶性であるか、または当該被覆層と同種の特性であることが、分割後における被覆層の効果維持のためには望ましい。
【0045】
図14、図15、図16、図17、図18、図19は、それぞれ前記の図1、図2、図3、図4、図5、図6の錠剤の被覆錠を示す。図20には前記の図7の錠剤に対応する2層錠の被覆錠を示す。
なお、本発明の効果に類似する効果をもつ錠剤は、いわゆる有核錠とすることでも得られる場合がある。しかしながら、本発明の錠剤と同様の効果を有する有核錠を製造するためにはより高度な製造技術を要する。また、有核錠の製造工程ではロスが多く、速度を上げられない。したがって、有核錠では高コストの問題を避けることができない。
【実施例】
【0046】
次に、本発明を実施例を用いて説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0047】
実施例1:(多層錠法)上層充填 → 下層充填 → 圧縮成型
打錠機(畑鐵工製 HT−AP6SS−U)に楕円型杵臼(富士薬品機械製 F−J0392−1上杵割線入り)を装着した。この臼にダイラクトーズR(フロイント製)にステアリン酸マグネシウム0.5%を混合したものを80mg充填し、上層にダイラクトーズR(フロイント製)にHPC−Lと青色1号で着色した粉体を30mg充填した。これを、与圧杵先間隔1.56mm 本圧杵先間隔1.35から1.40mmで圧縮成型することにより特殊割線杵の割線部分で主薬層が分断された錠剤が得られた。
【0048】
実施例2:(多層錠法)上層充填 → 下層充填 → 圧縮成型
打錠機(畑鐵工製 HT−AP6SS−U)に楕円型杵臼(富士薬品機械製 F−J0392−1上杵割線入り)を装着した。この臼にダイラクトーズR(フロイント製)にステアリン酸マグネシウム0.5%を混合したものを80mg充填し、上層にダイラクトーズR(フロイント製)とアスコルビン酸ナトリウムとステアリン酸マグネシウムを混合した粉体を30mg充填した。これを、与圧杵先間隔1.56mm 本圧杵先間隔1.35から1.40mmで圧縮成型することにより特殊割線杵の割線部分で主薬層が分断された錠剤が得られた。
【0049】
実施例3
アスコルビン酸ナトリウム、乳糖、部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルセルロースからなる顆粒と乳糖、部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルセルロースからなる顆粒に、それぞれクロスカルメロースナトリウム、ステアリン酸マグネシウムを混合し打錠用粉体とした。
【0050】
打錠機(畑鐵工製 HT−AP6SS−U)に特殊オーバル錠杵臼(富士薬品機械製 上杵F−J0375 下杵F−J0374)を装着した。この臼の下層に、フェブキソスタットを含まない打錠用粉体を120mg充填し、さらに上層にフェブキソスタットを含む打錠用粉体を30mg充填し、圧縮成型することにより特殊割線杵の割線部分で主薬層が分断された錠剤が得られた。
【0051】
実施例4
フェブキソスタット、乳糖、部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルセルロースからなる顆粒と乳糖、部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルセルロースからなる顆粒に、それぞれクロスカルメロースナトリウム、ステアリン酸マグネシウムを混合し打錠用粉体とした。
【0052】
打錠機(畑鐵工製 HT−AP6SS−U)に特殊オーバル錠杵臼(富士薬品機械製 上杵F−J0375 下杵F−J0374)を装着した。この臼の下層に、フェブキソスタットを含まない打錠用粉体を120mg充填し、さらに上層にフェブキソスタットを含む打錠用粉体を30mg充填し、圧縮成型することにより特殊割線杵の割線部分で主薬層が分断された錠剤が得られた。
【0053】
実施例5:(多層錠法)上層充填 → 下層充填 → 圧縮成型 → コーティング
打錠機(畑鉄工製 HT−AP6SSU)に楕円型杵臼(富士薬品機械製 F−J0392−1上杵割線入り)を装着した。この臼にダイラクトーズR(フロイント製)にステアリン酸マグネシウム0.5%を混合したものを80mg充填し、上層にダイラクトーズR(フロイント製)にHPC−Lと青色1号で着色した粉体を30mg充填した。これを、与圧杵先間隔1.56mm 本圧杵先間隔1.35から1.40mmで圧縮成型することにより特殊割線杵の割線部分で上層が分断された錠剤が得られた。
【0054】
この錠剤を、コーティング機(ハイコーターミニ フロイント製)を用いてフィルムコーティングを行った。運転条件は、吸気68から74℃、排気温度44から50℃、パン回転数20から30rpm、アトマイズエアー60NL/min、パターンエアー30NL/minで、コーティング液(6%HPMC TC−5 0.12%PEG 6000P水溶液)を233g噴霧後、乾燥した。
【0055】
実施例6:(多層錠法)上層充填 → 下層充填 → 圧縮成型 → コーティング
打錠機(畑鉄工製 HT−AP6SSU)に楕円型杵臼(富士薬品機械製 F−J0392−1上杵割線入り)を装着した。この臼にダイラクトーズR(フロイント製)にステアリン酸マグネシウム0.5%を混合したものを80mg充填し、上層にダイラクトーズR(フロイント製)とアスコルビン酸ナトリウムとステアリン酸マグネシウムを混合した粉体を30mg充填した。これを、与圧杵先間隔1.56mm 本圧杵先間隔1.35から1.40mmで圧縮成型することにより特殊割線杵の割線部分で上層が分断された錠剤が得られた。
【0056】
この錠剤を、コーティング機(ハイコーターミニ フロイント製)を用いてフィルムコーティングを行った。運転条件は、吸気68から74℃、排気温度44から50℃、パン回転数20から30rpm、アトマイズエアー60NL/min、パターンエアー30NL/minで、コーティング液(6%HPMC TC−5 0.12%PEG 6000P水溶液)を233g噴霧後、乾燥した。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、医薬品製造のために利用される。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の3層2分割錠の具体例。上から平面図、側面図。
【図2】本発明の2層2分割錠の具体例。上から平面図、側面図。
【図3】本発明の2層2分割錠の具体例。上から平面図、側面図。
【図4】本発明の3層錠の具体例。側面図。
【図5】本発明の2層4分割錠の具体例。上から平面図、側面図。
【図6】本発明の3層4分割錠の具体例。上から平面図、側面図。
【図7】本発明の3層4分割錠の具体例。上から平面図、側面図。
【図8】本発明の2層4分割錠の具体例。上から平面図、側面図。
【図9】本発明の3層4分割錠の具体例。上から平面図、側面図。
【図10】本発明の2層錠4種の側面図。4種の錠剤は割線の有無や位置が異なる。
【図11】本発明の3層4分割錠の具体例。上から平面図、側面図。
【図12】本発明の3層4分割錠の具体例。上から平面図、側面図。
【図13】本発明の2層錠3種の側面図。3種の錠剤は割線の位置が異なる。周囲の破線は被覆層を表す。
【図14】本発明の3層2分割錠の具体例。上から平面図、側面図。周囲の破線は被覆層を表す。
【図15】本発明の2層2分割錠の具体例。上から平面図、側面図。周囲の破線は被覆層を表す。
【図16】本発明の2層2分割錠の具体例。上から平面図、側面図。周囲の破線は被覆層を表す。
【図17】本発明の3層錠の具体例。側面図。周囲の破線は被覆層を表す。
【図18】本発明の2層4分割錠の具体例。上から平面図、側面図。周囲の破線は被覆層を表す。
【図19】本発明の3層4分割錠の具体例。上から平面図、側面図。周囲の破線は被覆層を表す。
【図20】本発明の2層4分割錠の具体例。上から平面図、側面図。周囲の破線は被覆層を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A層とB層とからなる二層錠、またはA層、B層、C層の順に三層をなしている三層錠であって、
該B層は、薬物を含んでいてもよい医薬添加物層であり、
該A層は医薬添加物を含んでいてもよい薬物層であって、B層上で分断されており、
該A層の分断された各部分はB層に固着していることにより保持されていて、それぞれ同一もしくは異なる薬物を含有しており、
さらにC層を有する場合の該C層も医薬添加物を含んでいてもよい薬物層であって、B層上で分断されており、
該C層の分断された各部分はB層に固着していることにより保持されていて、それぞれ同一もしくは異なる薬物を含有している錠剤。
【請求項2】
A層またはC層の少なくとも一つの領域に含まれる薬物は、A層またはC層の他の領域に含まれる薬物と接触すべきでない他の薬物である請求項1に記載の錠剤。
【請求項3】
B層の片面もしくは両面に一つ以上の割線があり、
A層、およびC層がある場合のC層の分断部位がB層上の割線のある部位もしくはその裏面の対応部位である請求項1または2に記載の錠剤。
【請求項4】
一組以上の接触すべきでない2種の薬物が、各組ともB層を隔ててA層とC層の対応する分断領域に位置している三層錠である請求項3に記載の錠剤。
【請求項5】
接触すべきでない2種の薬物の一方がすべて同一の層に位置している請求項4に記載の錠剤。
【請求項6】
接触すべきでない各組の2種の薬物がいずれも同じ層に位置している請求項3に記載の錠剤。
【請求項7】
C層の分断領域のすべてにおいて、B層を隔てて対応するA層の薬物と同一の薬物を含有している三層錠である請求項6に記載の錠剤。
【請求項8】
錠剤中の接触すべきでない2種の薬物が一組である請求項2から7のいずれかに記載の錠剤。
【請求項9】
A層およびC層には接触すべきでない薬物以外の薬物を含まない請求項8に記載の錠剤。
【請求項10】
A層とB層とからなる二層錠、またはA層、B層、C層の順に三層をなしている三層錠であって、
該B層は、薬物を含んでいてもよい医薬添加物層であって、その片面もしくは両面に一つ以上の割線を有しており、
該A層は医薬添加物を含んでいてもよい薬物層であって、B層上の割線のある部位もしくはその裏面の対応部位によって分断されており、
該A層の分断された各部分はB層に固着していることにより保持されていて、それぞれ同一もしくは異なる薬物を含有しており、
さらにC層を有する場合の該C層も医薬添加物を含んでいてもよい薬物層であって、B層上の割線のある部位もしくはその裏面の対応部位によって分断されており、
該C層の分断された各部分はB層に固着していることにより保持されていて、それぞれ同一もしくは異なる薬物を含有しており、
A層またはC層の少なくとも一つの領域に含まれる薬剤は、同じ層の他の領域に含まれる薬剤と同一ではなく、かつ少なくとも一つの割線に従って錠剤を分割すれば、一種類の薬物のみを含む断片が得られるようA層またはC層の薬物が配置された錠剤。
【請求項11】
A層またはC層の少なくとも一つの領域に含まれる薬物は、同じ層の他の領域に含まれる薬物と接触すべきでない他の薬物である請求項10に記載の錠剤。
【請求項12】
一回の分割操作で一種類の薬物のみを含む断片が得られる、請求項10または11に記載の錠剤。
【請求項13】
B層に薬物を含まない請求項1から12のいずれかに記載の錠剤。
【請求項14】
全体が一つ以上の被覆層により被覆された請求項1から13のいずれかに記載の錠剤。
【請求項15】
被覆層が、口腔内もしくは食道での薬物の接触が患者の不利益になることを避ける機能を有する、請求項14に記載の錠剤。
【請求項16】
口腔内もしくは食道での薬物の接触による患者の不利益が、苦み、刺激、口腔内での意図しない薬物吸収による副作用、または口腔内もしくは食道での薬物の溶解による副作用である請求項15に記載の錠剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2007−51094(P2007−51094A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−237371(P2005−237371)
【出願日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【出願人】(503369495)帝人ファーマ株式会社 (159)
【Fターム(参考)】