説明

複数コイルのプローブを備えたMNR分光法

【課題】NMR検査装置とNMR分析方法の提供。
【解決手段】NMR検査装置は、溶解した超偏極サンプルを提供するシステム(7)と、超偏極システムに接続されたNMR分析システム(80)とを有する。NMR分析システムは、NMRを実行するのに適した可動範囲中で、実質的に均一な磁場を発生させるための磁石(12)と、可動範囲中に位置づけられた、複数のRF磁場発生器(2A−2D)とを含む。非導電性導管(10)は、超偏極サンプルを、各RF磁場発生器(2A−2D)を通って順次搬送するために、隣接するRF磁場発生器を通り、かつ超偏極システム(7)に接続されている、サンプル制御システム(20)は、導管を通るサンプルの動きを制御する。NMR信号獲得システムは、所定のパルスシーケンスに応じてRF磁場を発生させるようにRF磁場発生器を制御し、およびRF磁場にさらされたサンプルの部分から結果として生じるNMR信号を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NMRを用いて、サンプルの化学物質含有量を検査するNMR検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
化学分析のために、サンプルからNMR情報を獲得するための公知の方法は多く存在する。頻繁に生じる問題としては、主にNMR装置中でのサンプルの偏極が弱いために、NMR信号は非常に弱いという点がある。したがって、サンプルを超偏極させるために、すなわち、磁気偏極を増強するために様々な技術が開発されてきた。特に重要な超偏極の方法は、動的核偏極(DNP)を行って、続いてサンプル溶解を行う方法である。これは、例えば、非特許文献1および特許文献1中に記載されている。この方法を、「溶解DNP」と呼ぶが、これは、固体状態でのサンプルを、DNPを用いて超偏極し、その後NMR測定を行う磁石中に液体として迅速に移動させる前に、これを熱い溶媒中で溶解させる工程を含む。DNP処理では、通常サンプルを数ケルビン以下に冷却し、強力な磁場にさらす必要がある。
【0003】
有意義な超偏極を維持し続けるために、サンプルの温度を強力な磁場におきつつ非常に急速に上昇させねばならない。実際上は、これは、まだ偏極低温保持装置内にある間に、サンプルを溶解させるということを意味する。これにより、溶媒からの熱が著しく失われ、したがって、超偏極されたサンプルを溶解させるために、熱容量のみから予想されうる量よりも多量の溶媒が必要となる。通常200μlのサンプルを溶解するために、4〜5mlの水が必要とされる。これは、標準的な5mmのNMR管(0.8ml)の容量を超え、溶解された超偏極サンプル中の顕著な割合が、オーバーフロー用の容器に向かわねばならず、これに関しては測定がなされず、したがって無駄になるので、感度が悪くなってしまう。
【0004】
より大きな10mmのNMR管およびプローブを用いることもでき、この場合、溶解サンプルのほぼ全部が、管内(通常、約3.6mlの容量を有する)に入るが、その中で一部分(約40%)のみが、RFコイルにより観察可能な容量範囲内に入る。その上、これには、比較的大きなコイルの使用が必要となり、これによっても感度が下がる。流量プローブで見られるような、マイクロコイルなどの小さなコイルの感度を得て、溶解サンプル全ての測定を行うことが望ましい。
【0005】
【特許文献1】WO−A−02/37 1312号
【非特許文献1】2003年9月2日付けPNAS 第100巻、Ardenkjaer−Larsen他著“Increase in signal−to−noise ratio of >10000 times in liquid state NMR”
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の観点によれば、NMR検査装置は、溶解した超偏極サンプルを提供するシステムと、
超偏極システムに接続されたNMR分析システムと、
を有し、NMR分析システムが、
i)NMRを実行するのに適した可動範囲中で、実質的に均一な磁場を発生させるための磁場発生手段と、
ii)可動範囲中に位置づけられた、複数のRF磁場発生器と、
iii)超偏極サンプルを、各RF磁場発生器を通って順次搬送するために、隣接するRF磁場発生器を通り、かつ超偏極システムに接続されている、非導電性導管と、
iv)導管を通るサンプルの動きを制御するための、サンプル制御システムと、
v)所定のパルスシーケンスに応じてRF磁場を発生させるようにRF磁場発生器を制御するため、およびRF磁場にさらされたサンプルの部分から結果として生じるNMR信号を検出するための、NMR信号獲得システムと、
を含む。
【0007】
本発明の第2の観点によれば、本発明の第1の観点による装置を利用して、溶解した超偏極サンプルからNMR信号を得る方法は、
超偏極サンプルを導管に供給する工程と、
サンプルの部分が、隣接する各RF磁場発生器にあるように、サンプル制御システムを利用してサンプルを導管に沿って動かす工程と、
サンプルの各部分からNMR情報を得るために、NMR信号獲得システムを操作する工程と、
を含む。
【0008】
我々は、マイクロコイルなどの実質的により高感度のRF磁場発生器を、例えば、溶解DNP処理で提供されるような相対的に大容量の従来の超偏極サンプルと共に利用することができる方法を発見した。マイクロコイルは、直径が通常2〜5mmで、長さが通常5〜15mmの小さなソレノイドコイルである。これは、溶解サンプルを、隣接する複数のRF磁場発生器を順次通過させ、必要なNMRパルスシーケンスを実行し、それから、新しく磁化または偏極された部分を、隣接するRF磁場発生器に運ぶためにサンプルを増分し、その結果、さらなるパルスシーケンスセットが実行されうることにより実現される。サンプルの各部分は小さくなり、通常50〜200μlのサイズになる。
【0009】
サンプルの移動は、様々な方法で制御可能であるが、例えば、選択的に導管の下流端部を真空にすることにより、これが実現可能である。しかし、好ましくは、導管の上流端部に連結されているガス圧力発生器を用いて、サンプルを導管内の所定の位置に移動させるために、導管に選択的に加圧して、これを行う。
【0010】
RF磁場発生器は、好ましくはマイクロコイルなどのソレノイドであるが、サドルコイルなどの他のコイルも使用可能である。
【0011】
サンプルの部分を検査するために、公知のいずれのNMRパルスシーケンスを用いてもよいが、各シーケンスが、一次元NMRスペクトルを発生させる場合がある。各RF発生器にかけられるパルスシーケンスは異なりうるので、二次元NMRスペクトルの間接方向の異なる線が、各部分から得られる。
【0012】
以下により詳細に説明するように、本発明は、例えば、Frydman他による2002年12月10日付けPNAS 第99巻、“The acquisition of multidimensional spectra within a single scan”中で記載されたように(この場合、単一のパルスシーケンスから二次元NMRスペクトルが発生可能である)、より複雑なパルスシーケンスと共に用いられるのに、特に適している。
【0013】
超偏極システムは、通常DNPシステムであるが、本発明は、他の超偏極システム、例えばパラ水素誘導偏極、「brute force(力技)」偏極および光学誘導偏極などの偏極システムと共に用いるのにも適している。
【0014】
本発明の方法および装置の一例を、添付の図面を参照して説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1に図示した装置は、従来型のDNPポラライザシステム7を有し、これは、冷たい穴71を有する低温保持装置70と、この低温保持装置中にあり穴71内で規定された可動範囲を囲む超伝導磁石8とを含んでいる。DNP挿入部9は、溶媒注入および抽出管10を有し、冷たい穴71中に位置し、従来の様式の(不図示の)マイクロ波室を内蔵している。超偏極されるべきサンプルは、可動範囲中に置かれ、超偏極に続いて、溶媒制御システム20から供給された水などの溶媒中に溶解される。溶解されたサンプルは、次に溶媒制御システム20の制御の元、非導電性材料から形成される搬送管または導管10を流れる。図1中の溶媒および溶解サンプルの流れは、導管10の上流端に位置する溶媒制御システム20からのヘリウムガスの加圧により制御される。あるいは溶媒/溶解サンプルの流れは、下流に部分的な真空を作ることにより、例えば、NMRプローブ14中のサンプル管でポンプを使うことにより制御されうる。
【0016】
導管の下流部分10Aは、従来型のNMR磁石アセンブリ80の室温穴13中に入る。このNMR磁石アセンブリ80は、超伝導磁石12を囲む低温保持装置11を有する。この磁石12は、穴13内の(不図示の)可動範囲内で、NMRに適した均一な磁場を規定する。導管10Aは、穴13中に位置づけられたNMRプローブ14内を通過する。
【0017】
可動範囲中に位置づけられたNMRプローブ14の部分を、図2Aおよび図2B中により詳細に示す。このプローブは、導管10Aを支持する円筒状の支持部6を有する。4つのマイクロコイル2A〜2Dは、導管10Aの各部分の周りに巻かれている。これらの各部分は、コイルの軸が、主磁場B0(プローブと磁気軸(Z)に沿って伸びている)に対して垂直であり、一方、導管10Aに沿った隣接するコイルの軸は、互いに直交している(すなわち、これらの軸は、X軸およびY軸に沿った方向にある)ように選択されている。コイル2A〜2D間の間隔は十分とられ、相互インダクタンスは最小限となる。
【0018】
コイル2A〜2D間の作用が確実に最小限になるように、さらなる電界シールドが必要となる場合もある。
【0019】
この例では、4つのマイクロコイル2A〜2Dが用いられるが、原理的にはいくつでもよい。しかし、実際には、全てのマイクロコイルが主磁場の均一な可動範囲に入らねばならない。
【0020】
導管10Aは、各コイル2A〜2Dを順次通過し、プローブの垂直軸を横断し、再横断し、連続する水平領域が直交する。この配置の重要な特徴は、コイル間の導管の連結ループの配置が、コイルからのRF場が導管のこれらの部分内で最低限になり、超偏極溶液がこれらの連結ループに貯蔵され、その間にサンプルの他の部分がNMRを用いて測定されているという点である。これは、連結ループが、コイルからのRF場の影響の外側にあるために、この中の磁化は、静的磁場B0に沿った方向を向き続けるからである。貯蔵中は、特徴的な指数時定数T1で緩和し続ける。
【0021】
導管10A中のサンプルの流れは、システム20の制御下でガス圧を利用して、止められ、また、始まるので、超偏極サンプルのカラムは、導管または搬送管内で、コイルセットを通って、制御されたステップで前方に進められうる。この過程を、図3に概略的に示す。この図面では、導管10Aは巻かれていない状態で示され、RFコイル2A〜2Dは、導管10Aに沿って規則的な間隔を保って、位置づけられて示されている。
【0022】
図3(a)〜図3(d)は、NMR測定終了直後の4つの連続した時点における、超偏極溶液の位置を示す。NMRパルスシーケンスが与えられた際、RFコイル内の溶液の超偏極磁化は、測定活動により、消耗するが、これを点線(4)で示す。縦方向(B0に沿った方向)に超偏極磁化され、特性T1で減衰している未測定のサンプルを、斜線(3)で示す。この例では、磁化がサンプリングされていないサンプル領域がある。器械の設計を改善することで、これらの領域を最小限にし、いずれのサンプルの無駄も回避される。
【0023】
以下に示すように、サンプルの各位置において、コイル2A〜2Dは、所定のRF磁場パルスシーケンスを発生させるために励起され、その後の連続処理のために、結果のNMR信号を獲得するために用いられる。
【0024】
本装置は、全コイルと全サンプルに、単に同じパルスシーケンスを与え、データを共に足すことにより、信号体騒音比を高めて、一次元のスペクトルを獲得するために、用いられうる。しかし、本装置は、二次元NMRスペクトルを獲得するために用いられることが好ましい。最も単純な形態では、(J結合を解明する)データの間接次元の各線が、サンプルの1つの部分に関する測定を行う1つのコイルにより獲得される。間接次元での線の位置を制御するパラメータは、通常、パルスシーケンスのタイミングを変えることにより制御される。当業者には公知であるように、このようなパルスシーケンスが多数存在する。
【0025】
二次元スペクトルを獲得する通常の処理の例を以下に示す。
1.冷凍したサンプルを、ポラライザシステム7中でDNPを用いて超偏極する。
2.極低温ハードウェアと適合しうる最小量の溶媒中で、サンプルを溶解する。
3.サンプルの流れを移動させるために、ヘリウムガス圧を用いて、ポラライザからNMR磁石アセンブリ80へ搬送管10、10Aに沿って、超偏極溶液を流す。
4.溶液が、全ての測定コイル2A〜2Dに入った時点(a)(図3)で、流れを止め、パルスシーケンスを与え、NMR信号データを獲得し、各コイルに与えられたパルスシーケンスを調整して、二次元スペクトルにおける異なる線を収集する。
5.溶液を、さらに動かし、これまでRFコイル間にあった未測定の溶液を、RFコイル内に入れる。(必要な場合、変更したパラメータを持つ)パルスシーケンスを再び与え、時点(b)で追加データを獲得する。
6.溶液を、再び動かし続け、RFコイル内に新しい磁化を行う。(二次元シーケンス中で、異なる線のセットを選択するために、変更したパラメータを持つ)パルスシーケンスを再び与え、時点(c)で追加NMRデータを獲得する。
7.溶液を、再び動かし続け、これまでRFコイル間にあった未測定の溶液を、RFコイル内に入れる。(必要な場合、変更したパラメータを持つ)パルスシーケンスを再び与え、時点(d)で追加データを獲得する。
8.二次元NMRスペクトルを提供するために、NMRデータを処理する。
【0026】
好適な実施形態では、二次元スペクトルの存在する順序が、最終スペクトル中の信号対雑音比(S/N)を最大限にするように、パルスシーケンスが適応される。これについて、以下に説明する。
【0027】
溶解サンプルは、搬送導管を流れるにつれ、その超偏極が指数関数的に減衰するという点を認識することが重要である。この減衰速度は、スピン格子緩和により、そしてT1で表されるように、対象となる原子の原子核の化学環境(すなわち、検査時に対象となる原子核が、分子中で結合されている原子)に依存する。理想的には、ポラライザからNMR磁石へ溶解サンプルを搬送するのにかかる時間は、最短のT1信号よりもずっと短く、したがって減衰は最小限になるべきである。実際には、離れた磁石間での搬送には、数秒かかる。このため、Ardenkjaer−Lansen他が記載した装置は、1H(陽子)スペクトルよりも、直接検出される炭素−13(13C)スペクトルを獲得する方が、より適切である。これは、陽子のT1(数秒まで)は短いが、13CのT1は、通常2〜60秒の範囲であるからである。搬送時にサンプルが「見る」磁場および温度環境によっても、緩和速度は影響を受ける。実際には、搬送時間は、しばしば、サンプルの最短T1に類似し、対象とする原子の超偏極が、搬送時に著しく減衰し、信号対雑音比に悪影響を与える場合がある。
【0028】
これゆえに、まず短いT1の原子から、急速に減衰するNMR信号を収集し、最終スペクトルのS/N比を最大限にすることが非常に望ましい。急速に減衰する信号は、スペクトル中で低い周波数で生じる傾向にある。(これは、慣例により直接次元の右の端の方にある。)したがって、急速に減衰する信号を含む完全なスペクトルのサブセットをまず収集することが望ましい。これらの部分スペクトルは、図4中「時点(a)」と記した箱により表され、二次元スペクトルを表している。このスペクトルのサブセットの獲得は、当業者には理解されるであろうが、現代的な分光計で、適切な周波数オフセットを用いおよび狭い帯域で獲得することにより、容易に行うことができる。
【0029】
しかし、この方法ではいくつかの線(すなわち、部分スペクトル)が同時に獲得されることが必要である。なぜならば、実際上の制限により、少数のRFコイル(例えば、4つ)のみが利用可能であるからである。通常の二次元スペクトルは、間接方向に64〜256の線を含む。例として128線を想定すると、各コイルは、同時に128/4=32の部分スペクトルを獲得する必要がある。これは、いわゆる「迅速な信号スキャン」パルスシーケンスを用いた場合、例えば、Frydman他に記載の方法(2002年12月10日付けPNAS第99巻、#25、L.Frydman,A. Tali &A.Lupulescu著の“The acquisition of multidimensional spectra within a single scan”)を用いた場合に可能である。
【0030】
Frydmanの技術では、切り替えられた磁場勾配を利用し、サンプルを単一セル内に区分化するため、かつ単一マルチエコー獲得においていくつかスペクトルを得るために、RFパルスを一掃した。この技術は、迅速なMR造影(例えば、エコープラナー撮像法)分野の当業者には、ある程度よく知られている技術である。これらの技術は、勾配ハードウェアとRFハードウェアとに対して厳しい要求を行う(前者は、急勾配の迅速なスイッチングであり、後者は、高帯域の要求、すなわち信号の迅速なサンプリングである)。これは特に、炭素スペクトルの場合に当てはまる。炭素スペクトルは、陽子スペクトルに比して、非常に広い周波数範囲を網羅する(5ppmまでに比して300ppm)。従来のハードウェアと共に彼の技術を用いると、炭素全体の一次元スペクトルを得る(すなわち、直接次元で1つの全ての線を得る)のは実際的ではない。したがって、狭い周波数域を網羅する一連の測定において、各線を収集することが望ましい。
【0031】
急速に減衰する信号中最適なSNRを有する二次元スペクトルを獲得するための好ましい方法を、以下に述べる。
1.冷凍したサンプルを、ポラライザシステム7中でDNPを用いて超偏極する。
2.極低温ハードウェアと適合しうる最小量の溶媒中で、サンプルを溶解する。
3.サンプルの流れを移動させるために、ヘリウムガス圧を用いて、ポラライザからNMR磁石アセンブリ80へ搬送管10、10Aに沿って、超偏極溶液を流す。この時間の間に、超偏極が、(分子環境に依存する)時定数T1で指数関数的に減衰する。
4.溶液が、全ての測定コイル2A〜2Dに入った時点(a)(図3)で、流れを止め、迅速な二次元単一スキャンタイプのパルスシーケンスを与え、NMR信号データを二次元スペクトルの複数の線用に獲得し、まず、最も急速に減衰する信号を含む周波数帯域を収集する。
5.溶液を、さらに動かし、これまでRFコイル間にあった未測定の溶液を、RFコイル内に入れる。(必要な場合、変更したパラメータを持つ)パルスシーケンスを再び与え、時点(b)で追加データを獲得し、第2番目に急速に減衰する信号を含む周波数帯域を獲得する。
6.溶液を、再び動かし続け、RFコイル内に新しい磁化を行う。(二次元シーケンス中で、異なる線のセットを選択するために、変更したパラメータを持つ)パルスシーケンスを再び与え、時点(c)で追加NMRデータを獲得する(第3番目の、最もゆっくり減衰する信号帯域)。
7.溶液を、再び動かし続け、これまでRFコイル間にあった未測定の溶液を、RFコイル内に入れる。(変更したパラメータを持つ)パルスシーケンスを再び与え、時点(d)で追加データを獲得する。
8.T1が短い信号でSNRを最適化した二次元NMRスペクトルを提供するために、NMRデータを処理する。
【0032】
各時点で各コイルから得られたNMRデータを用いて、図4に示すようなサンプルのNMR応答の、完全な二次元スペクトルを作り上げることができる。急速に減衰する信号を含む周波数域(短いT1)を最初に(図3中、時点(a))で獲得し、よりゆっくり減衰する信号を最後に(時点(d))獲得するという点に注意をされたい。この技術によれば、スペクトルの全体的な信号対雑音比を最大限にしつつ、しかし、高帯域データ収集の要件を低下させる(すなわち、全二次元スペクトルを単一スキャンで獲得する場合に比して、勾配性能要求が低い)。
【0033】
図示したDNP−NMRハードウェアは、炭素や窒素などの長いT1を有する核種のNMR測定に最も適している。陽子のT1は、一般に短すぎて、このハードウェアは有用ではない。
【0034】
Frydmanタイプのシーケンスを利用する好適な実施形態では、切り替えられた磁場勾配は、線形である必要はないが、結果となる磁場は、各コイル内のサンプルに渡って、1つの値を有さねばならない。この勾配が、RFコイル内のサンプルの長さ方向であることが有用である。本発明では、ソレノイドRFコイルは、交互に、疎結合のために、互いに直交して配置されている(すなわち、X軸およびY軸に沿っている)。図2を参照されたい。パルス磁場勾配の理想的な妥協方向は、したがって、XY面で、XおよびY軸に対して、45°である。従来技術に記載されているような、プローブを取り囲んでいるが、RFプローブに関してZ軸の周りを45°回転している従来のXまたはY勾配磁場コイル(例えば、dB0z/dx)で十分である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】超偏極およびNMR信号獲得システムの概略図である。
【図2A】図1に図示した装置中のNMRプローブ内のマイクロコイルの配置を図示した平面図および部分断面図である。
【図2B】図1に図示した装置中のNMRプローブ内のマイクロコイルの配置を図示した平面図および部分断面図である。
【図3a】サンプルが図2に図示したマイクロコイルを通過する際の、サンプルの流れを制御する方法を示す。
【図3b】サンプルが図2に図示したマイクロコイルを通過する際の、サンプルの流れを制御する方法を示す。
【図3c】サンプルが図2に図示したマイクロコイルを通過する際の、サンプルの流れを制御する方法を示す。
【図3d】サンプルが図2に図示したマイクロコイルを通過する際の、サンプルの流れを制御する方法を示す。
【図4】NMR信号獲得装置により得られた情報から、どのように二次元スペクトルを作り上げるかを示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解した超偏極サンプルを提供するシステムと、
前記超偏極システムに接続されたNMR分析システムと、
を有するNMR検査装置であって、前記NMR分析システムが、
i)NMRを実行するのに適した可動範囲中で、実質的に均一な磁場を発生させるための磁場発生手段と、
ii)前記可動範囲中に位置づけられた、複数のRF磁場発生器と、
iii)超偏極サンプルを、各RF磁場発生器を通って順次搬送するために、隣接する前記RF磁場発生器を通り、かつ前記超偏極システムに接続されている、非導電性導管と、
iv)前記導管を通るサンプルの動きを制御するための、サンプル制御システムと、
v)所定のパルスシーケンスに応じてRF磁場を発生させるようにRF磁場発生器を制御するため、およびRF磁場にさらされたサンプルの部分から結果として生じるNMR信号を検出するための、NMR信号獲得システムと、
を含むNMR検査装置。
【請求項2】
前記RF磁場発生器はソレノイドを有し、前記導管は、前記ソレノイドにより規定された穴を順次通過する請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記各RF磁場発生器は、前記導管に沿ってこれに隣接する各RF磁場発生器と、実質的に結合されていない請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記導管に沿って互いに隣接するソレノイドは、互いに直交する軸に対して配置されている、請求項2に従属している場合の請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記サンプル制御システムは、サンプルを前記導管内の所定の位置に動かすために、前記導管を選択的に加圧するために前記導管に結合されたガス圧発生器を有する請求項1〜4のいずれかに記載の装置。
【請求項6】
前記超偏極システムはDNPシステムを有する請求項1〜5のいずれかに記載の装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の装置を利用して、溶解した超偏極サンプルからNMR信号を得る方法であって、前記方法が、
超偏極サンプルを導管に供給する工程と、
前記サンプルの部分が、隣接する各RF磁場発生器にあるように、前記サンプル制御システムを利用してサンプルを導管に沿って動かす工程と、
前記サンプルの各部分からNMR情報を得るために、NMR信号獲得システムを操作する工程と、
を含むNMR信号を得る方法。
【請求項8】
前記サンプルを前記導管に沿って動かし、NMR情報が今までに獲得されていないさらなるサンプルの部分を隣接する各RF磁界発生器の所に搬送するように前記サンプル制御システムを作動する工程と、NMR獲得処理を繰り返す工程とをさらに含む請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記NMR信号獲得システムを操作して、RF磁場発生器にRF磁場を同時に発生させる請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記RF磁場発生器が、異なるパルスシーケンスを実行するように適応させ、サンプルから、間接方向で異なるオフセットで各々一次元NMR信号を得る請求項7〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記装置は、さらに、可動範囲に選択的に磁場勾配を課する手段を有し、前記RF磁場発生器は、サンプルから二次元NMR信号を得るために、磁場勾配に連動して制御される請求項7〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記二次元NMR信号は、Frydman他の技術を用いて得られる請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記二次元NMR信号獲得パルスシーケンスは、2度以上実行されるが、帯域を小さくし、連続的に増分された周波数オフセットで実行される、請求項8に従属している場合の請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
前記二次元NMR信号獲得パルスシーケンスは、2度以上実行されるが、急速に減衰する信号を含む周波数帯域を最初に獲得し、これに続いてよりゆっくり減衰する信号は比較的後に獲得される、請求項8に従属している場合の請求項11または12に記載の方法。
【請求項15】
前記サンプルの二次元NMRスペクトルを形成するために、一次元信号を組み立てる工程をさらに含む請求項10〜14のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図3d】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−530596(P2009−530596A)
【公表日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−558895(P2008−558895)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【国際出願番号】PCT/GB2007/000882
【国際公開番号】WO2007/104975
【国際公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(507246338)オックスフォード インストルメンツ モレキュラー バイオツールス リミテッド (6)