説明

複数層からなる薄膜の各構成層の膜厚測定方法および膜厚測定装置

【課題】 磁気テープに形成された複数層の磁性膜の膜厚を迅速、簡易に、かつ高い精度で測定し得る膜厚測定方法及び膜厚測定装置を提供すること
【解決手段】 X線源21によって磁気テープ22の磁性膜10にX線を照射し、磁性膜10とシリコンドリフト検出器(SDD)33との間にTiフィルタ26とAlフィルタ27を配置し、下層磁性膜11、上層磁性膜12に含まれるFeと、上層磁性膜12にFeと共に少量含まれるYとから放射される蛍光X線の内、Yからの蛍光X線の強度を相対的に強調してSDD33に入射させる。SDD33よって電流パルスとして検出される蛍光X線の強度を電圧パルスに変換し、その電圧パルスの波高を計数回路34によって蛍光X線の強度としてカウントして、小型コンピュータ25により蛍光X線スペクトルを描かせ、FeとYについて波形分離して定量分析し、検量線に基づいて下層磁性膜11、および磁性膜10の膜厚を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気テープにおける磁性膜の膜厚測定方法および測定装置に関するものである。更に詳しくは、磁気テープの基材フィルムに形成された複数層からなる磁性膜の各構成層の膜厚を、迅速に、簡易に、かつ精度高く測定する測定方法および膜厚測定装置に関するものである。また本発明は基材面に形成された複数層からなる薄膜の各構成層の膜厚測定方法および膜厚測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
基材面に形成された薄膜の膜厚を非接触で求める方法として、電子線を照射して散乱するオージェ電子の強度を求めるオージェ電子分光法(AES)、X線を照射して放出される光電子の強度を求めるX線光電子分光法(XPS)があるが、何れも深さ数nmまでの表面分析であり、その深さよりも大である膜厚の薄膜について測定するには、Arイオン等によって薄膜をスパッタエッチングして表面から深さ方向に削り取り、削った面からのオージェ電子強度や光電子強度を求めることを要する。すなわち破壊分析となる。ラザフォード後方散乱法は非破壊で元素の定量、 深さ方向の分布を求め得るが、Heイオンを加速して照射することを要するために装置自体が大型となり測定場所が制約される。
【0003】
そのほか、膜厚を求める方法として、物体の表面で光が反射する場合に、光の偏光状態が反射の前後で変化することを利用するエリプソメトリ法によって膜厚を測定する方法、膜厚と透過率とが最も相関している単波長成分の光を照射し、その透過減衰量から膜厚を測定する方法もあるが、光学的な性質が同等な複数層の磁性膜それぞれの膜厚を測定することはできない。
【0004】
更には、基板上に形成された厚さ数nm程度の多層薄膜(例えばSi基板に形成された下層のSi酸化膜と上層のSi窒化膜)における各層の組成を非破壊で求める方法として、試料に単色X線(例えばMgの特性X線であるMg−Kα線)を照射し放出される光電子の強度から、各層の膜厚を求めると共に、各層に含まれる元素の組成比を決定する方法が開示されている(特許文献1を参照)。しかし特許文献1の方法は、その明細書にも記載されているように、原理的にはXPS法によるものであり、XPS法による測定結果から各層に含まれる元素の組成比を求め得るほか各層の膜厚も求め得るが、深さ方向には数nm程度までの測定しかできない。従って膜厚が数nm程度以上の試料については例えばArガスによって試料面を掘り下げるスパッタリングが必要であり破壊測定となる。
【0005】
また、加速した電子ビームで励起した膜厚既知の多層膜試料から放射される成分元素の特性X線の強度と、同じく加速した電子ビームで励起した各成分元素から放射される特性X線の強度との強度比から、多層膜試料の各層の成分元素濃度を決定するX線分析方法が開示されている(特許文献2を参照)。しかし、この方法は膜厚既知の試料について成分元素濃度を決定する場合に適用される方法であり、膜厚を求める方法には採用し得ない。また、電子ビームを使用する方法であるために測定可能な膜厚は特許文献1と同じく数nm程度迄であり、それ以上の膜厚の試料については、特許文献1と同様、Arガスによるスパッタリングが必要である。
【0006】
また、Si基板上のアルミニウム合金(Al−Si−Cu)膜中のSiについて蛍光X線分析を行うために、Si基板と(Al−Si−Cu)膜との間にGe膜を形成させて、蛍光X線分析時にSi基板から散乱される2次X線(Si−Kα線)をGe膜に吸収させ、(Al−Si−Cu)膜中のSiについての分析精度を向上させた半導体基板が開示されている(特許文献3を参照)。しかし、Ge膜の形成によって分析精度を向上させることを要する分析は限られた分野における分析である。
【0007】
【特許文献1】特開平6−222019号公報
【特許文献2】特開平3−226664号公報
【特許文献3】特開平5−206240号公報
【0008】
磁気テープに形成された複数層からなる磁性膜の各膜厚を蛍光X線法によって求める測定方法については先行文献には見出せないが、上記の特許文献3から類推されるように、蛍光X線法によって磁性膜の膜厚を求めることは可能である。図1は基材フィルム(例えばポリエステルフィルム)Bの面に膜厚2μm程度の下層磁性層11と膜厚600nm程度の薄い上層磁性層12とからなる磁性膜10が形成された磁気テープ22の磁性膜10部分の拡大図である。そして下層磁性膜11は磁性材としてのFe(鉄)のほかにAl(アルミニウム)を含み、上層磁性膜12は磁性材としてのFe、Co(コバルト)のほかにAl、Y(イットリウム)を含むものである。このような磁気テープ22に含まれるFeとYとの元素量を蛍光X線法によって定量分析することにより上下各層の膜厚を求めることができる。
【0009】
図2はその膜厚測定装置1の構成を概略的に示す図である。図2を参照して、磁気テープ22の基材フィルムBに例えば塗布して形成された下層磁性膜11と上層磁性膜12の膜厚を測定するには、図示を省略した測定台に載置した磁気テープ22に対し、X線源21、例えばMo(モリブデン)、Rh(ロジウム)、W(タングステン)、またはその他の金属をターゲットするX線管球を所定の照射角度に設置し、熱陰極から放出される熱電子を高速度に加速してターゲットに衝突させてターゲット金属の特性X線を放射させ、その特性X線を含む1次X線を磁気テープ22に照射することにより、下層磁性膜11と上層磁性膜12とに含まれるFe、および上層磁性膜12にFeと共に含まれる少量のYから放射される蛍光X線の強度を検出器(半導体検出器またはシリコンドリフト検出器)23で検出して電流パルスまたは電圧パルスに変換し、電流パルスまたは電圧パルスの波高を計数回路24によって蛍光X線の強度としてカウントすることにより、小型コンピュータ25によって、図3に示す蛍光X線スペクトルを描かせることができる。
【0010】
図3の蛍光X線スペクトルを得るに際しては、図2の膜厚測定装置1において、X線源21にはMoをターゲットとするX線管球を使用し、陰極からの熱電子線の加速電圧45kV、電流0.2mAとし、ターゲットのMoから放射されるMo−Kα線を含む一次X線のビーム径は3mmφとした。また、検出器23には検出面積5mm2 のシリコンドリフト検出器を使用し、これに組み合わせた計数回路23には単位時間当りのカウント数である計数率が20kcps(キロカウント毎秒)のものを使用した。そして、小型コンピュータ25によって、図3の蛍光X線スペクトルを描かせ、その蛍光X線スペクトルをエネルギー6.9keV付近のFeとエネルギー14.8keV付近のYとについて波形分離してFeとYを定量分析し、予め作成した検量線、すなわち、測定対象の磁性膜と同一構成で膜厚既知の標準磁性膜についての蛍光X線の強度と膜厚との関係を示す検量線と対照することにより、下層磁性膜11および磁性膜10の膜厚を求めることができ、上層磁性膜12の膜厚を算出することができる。
【0011】
しかし、磁性材の主体であるFe元素は下層磁性膜11と上層磁性膜12に含まれるに対し、Y元素は下層磁性膜11のみに含まれ、かつ少量であるので、下層磁性膜11、上層磁性膜12の全体で見ればFe元素の量に比べてY元素の量は微量である。従って図3に見られるように、エネルギー6.9keV付近のFe元素の強度に比べて、エネルギー14.8keV付近のY元素の強度は極端に小さい。そのために上記の蛍光X線による測定では、膜厚600nm程度の上層磁性膜12について、膜厚の測定再現性を標準偏差σ<10nmとして測定するには、すなわち、全データの99.7%が30nmの範囲内に存在するような精度で測定するには、蛍光X線の積算時間をかなり長く取る必要があるために、100秒以上の時間を要しており、磁気テープの製造現場で求められる迅速な測定に対応し得る測定ではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上述の問題に鑑みてなされ、磁気テープに形成された複数層からなる磁性膜における各層の膜厚を非接触で迅速に、簡易に、かつ高い精度で測定し得る膜厚測定方法および膜厚測定装置を提供することを課題とする。 また、光学フィルムや光情報記録媒体に形成された複数層からなる薄膜の各膜厚を非接触で迅速に、簡易に、かつ高い精度で測定し得る膜厚測定方法および膜厚測定装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題は請求項1または請求項6、そして請求項11または請求項12の構成によって解決されるが、その解決手段を説明すれば次に示す如くである。
【0014】
請求項1の磁気テープにおける磁性膜の膜厚測定方法は、磁気テープの基材フィルムに形成された複数層からなる磁性膜にX線を照射して、前記磁性膜に含まれる磁性金属元素、および前記磁性膜中の特定層に含まれる少量の特定元素から放射される蛍光X線を検出器で検出し、検出される前記蛍光X線の強度を求めて、前記磁性膜と同一の構成で複数層の膜厚が既知の標準磁性膜からの蛍光X線の強度と前記標準磁性膜中の各層の膜厚との関係を示す検量線に基づき、前記磁性膜中の前記複数層の膜厚を求める膜厚測定方法において、
前記特定元素を励起し易い特性X線を放射する金属をターゲットとするX線源によって前記磁性膜にX線を照射し、前記磁性膜と前記検出器としてのシリコンドリフト検出器との間にX線の透過率が異なる2種の金属フィルタを配置して前記磁性金属元素からの前記蛍光X線の強度に対して前記特定元素からの前記蛍光X線の強度を相対的に強調し、前記2種の金属フィルタを透過した前記蛍光X線の強度を前記シリコンドリフト検出器によって検出して電圧パルスに変換し、前記電圧パルスの波高を計数回路によって前記蛍光X線の強度としてカウントし、コンピュータによってデータ処理する方法である。
【0015】
このような磁気テープにおける磁性膜の膜厚測定方法は、X線源によって磁性膜にX線を照射した時に、X線源のターゲットから放射される特性X線が磁性膜中に微量含まれる特定元素を効果的に励起し、磁性膜から放射される蛍光X線を磁性膜とシリコンドリフト検出器との間に配置した2種の金属フィルタを透過させることによって磁性金属元素からの蛍光X線の強度に対して特定元素からの蛍光X線の強度を相対的に強調してシリコンドリフト検出器へ導き、シリコンドリフト検出器によって蛍光X線の強度を検出して電圧パルスに変換し、計数回路によって電圧パルスの波高を蛍光X線の強度としてカウントし、そのカウント結果に基づいてコンピュータにより蛍光X線スペクトルを描かせ、その蛍光X線スペクトルを磁性金属元素と特定元素について波形分離して定量分析することにより予め作成された検量線と比較して、磁性膜の膜厚を迅速、簡易に、かつ高い精度で求めることができる。
【0016】
請求項2の磁気テープにおける磁性膜の膜厚測定方法は、前記磁性金属元素がFeであり、前記特定元素がYである場合に、前記X線源として前記ターゲットがMo(モリブデン)であるものを使用する方法である。
このような磁気テープにおける磁性膜の膜厚測定方法はX線源のターゲットであるMoから放射される特性X線のMo−Kα線が磁性膜に微量含まれるY元素を効果的に励起してYの定量分析の精度を高め、測定する磁性膜の膜厚の測定精度を高める。
【0017】
請求項3の磁気テープにおける磁性膜の膜厚測定方法は、前記磁性金属元素がFeであり、前記特定元素がYである場合に、前記2種の金属フィルタとして、Ti(チタン)フィルタとAl(アルミニウム)フィルタとを使用する方法である。
このような磁気テープにおける磁性膜の膜厚測定方法は、磁性膜とシリコンドリフト 検出器との間に配置したTiフィルタおよびAlフィルタがFe元素からの蛍光X線の強度に対し、微量含まれているY元素からの蛍光X線の強度を相対的に強調し、測定する磁性膜の膜厚の測定精度を高める。
【0018】
請求項4の磁気テープにおける磁性膜の膜厚測定方法は、前記シリコンドリフト検出器として、検出面積が小さくとも10mm2 であるものを使用する方法である。
このような磁気テープにおける磁性膜の膜厚測定方法は、蛍光X線の強度の検出精度を確実に高める。
【0019】
請求項5の磁気テープにおける磁性膜の膜厚測定方法は、前記計数回路として、計数率が低くとも100kcpsであるものを使用する方法である。
このような磁気テープにおける磁性膜の膜厚測定方法は、検出された蛍光X線の強度を殆ど漏れなくカウントし、測定する磁性膜の膜厚の測定精度を高める。
【0020】
請求項6の磁気テープにおける磁性膜の膜厚測定装置は、磁気テープの基材フィルムに形成された複数層からなる磁性膜にX線を照射して、前記磁性膜に含まれる磁性金属元素、および前記磁性膜中の特定層に含まれる少量の特定元素から放射される蛍光X線を検出器で検出し、検出される前記蛍光X線の強度を求めて、前記磁性膜と同一の構成で複数層の膜厚が既知の標準磁性膜からの蛍光X線の強度と前記標準磁性膜中の各層の膜厚との関係を示す検量線に基づき、前記磁性膜中の前記複数層の膜厚を求める膜厚測定装置において、
前記磁性膜にX線を照射した時に前記特定元素を励起し易い特性X線を放射する金属をターゲットとするX線源と、前記磁性膜中の前記磁性金属元素からの前記蛍光X線の強度に対して前記特定元素からの前記蛍光X線の強度を強調するために前記磁性膜と前記検出器としてのシリコンドリフト検出器との間に配置されるX線の透過率が異なる2種の金属フィルタと、前記2種の金属フィルタを透過した前記蛍光X線の強度を検出して電圧パルスに変換する前記シリコンドリフト検出器と、前記電圧パルスの波高を前記蛍光X線の強度としてカウントする計数回路と、データ処理を行うコンピュータとからなる装置である。
【0021】
このような磁気テープにおける磁性膜の膜厚測定装置は、X線源によって磁性膜にX線を照射する時に、X線源はそのターゲットから放射される特性X線によって磁性膜中に微量含まれる特定元素を効果的に励起し、磁性膜とシリコンドリフト検出器との間に配置した透過率の異なる2種の金属フィルタは磁性金属元素から放射される蛍光X線の強度に対して特定元素から放射される蛍光X線の強度を相対的に強調し、シリコンドリフト検出器は2種の金属フィルタを通過した蛍光X線の強度を電圧パルスに変換し、計数回路は電圧パルスの波高を蛍光X線の強度としてカウントし、コンピュータは計数回路によるカウントに基づいて蛍光X線スペクトルを描かせ、その蛍光X線スペクトルを磁性金属元素と特定元素について波形分離して定量分析することにより、予め作成された検量線と比較して、磁性膜の膜厚を迅速、簡易に、かつ高い精度で測定することを可能にする。
【0022】
請求項7の磁気テープにおける磁性膜の膜厚測定装置は、前記磁性膜における前記磁性金属元素がFe(鉄)であり前記特定元素がY(イットリウム)である場合に、前記X線源の前記ターゲットとしてMo(モリブデン)が使用されている装置である。
このような磁気テープにおける磁性膜の膜厚測定装置は、X線源のターゲットのMoから放射される特性X線のMo−Kα線が磁性膜に微量含まれるY元素を効果的に励起してYの定量分析精度を高め、測定する磁性膜の膜厚の測定精度を高める。
【0023】
請求項8の磁気テープにおける磁性膜の膜厚測定装置は、前記磁性膜における前記磁性金属元素がFeであり前記特定元素がYである場合に、前記2種の金属フィルタとして、Ti(チタン)フィルタとAl(アルミニウム)フィルタとが使用されている装置である。
このような磁気テープにおける磁性膜の膜厚測定装置は、磁性膜とシリコンドリフト検出器との間に配置したTiフィルタおよびAlフィルタがFe元素からの蛍光X線の強度に対し、含有量が微量であるY元素からの蛍光X線の強度を相対的に強調し、測定する磁性膜の膜厚の測定精度を高める。
【0024】
請求項9の磁気テープにおける磁性膜の膜圧測定装置は、前記シリコンドリフト検出器が小さくとも10mm2 の検出面積を有している装置である。
このような磁気テープにおける磁性膜の膜厚測定装置は、蛍光X線の強度を高い精度で検出することができる。
【0025】
請求項10の磁気テープにおける磁性膜の膜厚測定装置は、前記計数回路が低くとも100kcpsの計数率を有している装置である。
このような磁気テープにおける磁性膜の膜厚測定装置は、検出される蛍光X線の強度を殆ど漏れなくカウントし、測定する磁性膜の膜厚の測定精度を高める。
【0026】
請求項11の複数層からなる薄膜の各構成層の膜厚測定方法は、基材面に形成された複数層からなる薄膜にX線を照射して、前記薄膜に含まれる主体元素および前記薄膜中の特定層に含まれる少量の特定元素から放射される蛍光X線を検出器で検出し、検出される前記蛍光X線の強度を求めて、前記薄膜と同一の構成で前記複数層の膜厚が既知の標準薄膜からの蛍光X線の強度と前記標準膜中の各膜厚との関係を示す検量線に基づき、前記薄膜中の前記複数層の膜厚を求める膜厚測定方法において、
前記特定元素を励起し易い特性X線を放射する金属をターゲットとするX線源によって前記薄膜にX線を照射し、前記薄膜と前記検出器としてのシリコンドリフト検出器との間にX線の透過率が異なる2種の金属フィルタを配置して前記主体元素からの前記蛍光X線の強度に対して前記特定元素からの前記蛍光X線の強度を相対的に強調し、前記2種の金属フィルタを透過した前記蛍光X線の強度を前記シリコンドリフト検出器によって検出して電圧パルスに変換し、前記電圧パルスの波高を計数回路によって前記蛍光X線の強度としてカウントし、コンピュータによってデータ処理する方法である。
【0027】
このような複数層からなる薄膜の各構成層の膜厚測定方法は、X線源によって薄膜にX線を照射した時に、X線源のターゲットから放射される特性X線が薄膜中に微量含まれる特定元素を効果的に励起し、薄膜から放射される蛍光X線を薄膜とシリコンドリフト検出器との間に配置した2種の金属フィルタを透過させることによって主体元素からの蛍光X線の強度に対して特定元素からの蛍光X線の強度を相対的に強調してシリコンドリフト検出器へ導き、シリコンドリフト検出器によって検出される蛍光X線の強度を電圧パルスに変換し、計数回路によって電圧パルスの波高を蛍光X線の強度としてカウントし、コンピュータにより計数回路のカウント結果に基づいて蛍光X線スペクトルを描かせ、その蛍光X線スペクトルを主体元素と特定元素について波形分離して定量分析することにより、予め作成された検量線と比較して、薄膜中の各構成層の膜厚を迅速に、簡易に、かつ高い精度で求めることができる。
【0028】
請求項12の複数層からなる薄膜の各構成層の膜厚測定装置は、基材面に形成された複数層からなる薄膜にX線を照射して、前記薄膜に含まれる主体元素および前記薄膜中の特定層に含まれる少量の特定元素から放射される蛍光X線を検出器で検出し、検出される前記蛍光X線の強度を求めて、前記薄膜と同一の構成で前記複数層の膜厚が既知の標準薄膜からの蛍光X線の強度と前記標準薄膜中の各膜厚との関係を示す検量線に基づき、前記薄膜中の前記複数層の膜厚を求める膜厚測定装置において、
前記薄膜にX線を照射した時に前記特定元素を励起し易い特性X線を放射する金属をターゲットとするX線源と、前記薄膜中の前記主体元素からの前記蛍光X線の強度に対して前記特定元素からの前記蛍光X線の強度を強調するために前記薄膜と前記検出器としてのシリコンドリフト検出器との間に配置されるX線の透過率が異なる2種の金属フィルタと、前記2種の金属フィルタを透過した前記蛍光X線の強度を検出して電圧パルスに変換する前記シリコンドリフト検出器と、前記電圧パルスの波高を前記蛍光X線の強度としてカウントする計数回路と、データ処理を行うコンピュータとからなる装置である。
【0029】
このような複数層からなる薄膜の各構成層の膜厚測定装置は、X線源によって薄膜にX線を照射する時に、X線源はそのターゲットから放射される特性X線によって薄膜膜中に微量含まれる特定元素を効果的に励起し、薄膜とシリコンドリフト検出器との間に配置した透過率の異なる2種の金属フィルタは主体元素から放射される蛍光X線の強度に対して特定元素から放射される蛍光X線の強度を相対的に強調し、シリコンドリフト検出器は2種の金属フィルタを通過した蛍光X線の強度を検出して電圧パルスに変換し、計数回路は電圧パルスの波高を蛍光X線の強度としてカウントし、コンピュータは計数回路によるカウント結果に基づいて蛍光X線スペクトルを描かせ、その蛍光X線スペクトルを主体元素と特定元素について波形分離して定量分析することにより、予め作成された検量線と比較して、薄膜中の各構成層の膜厚を迅速に、簡易に、かつ高い精度で測定することを可能にする。
【発明の効果】
【0030】
請求項1の磁気テープにおける磁性膜の膜厚測定方法によれば、磁気テープの基材フィルムに形成された複数層の磁性膜に含まれる磁性金属元素、および磁性膜中の特定層に少量含まれる特定元素を蛍光X線分析法によって精度高く定量分析するので、予め作成された検量線に基づいて、磁性膜の複数層の膜厚を迅速に、簡易に、かつ高い精度で求めることができる。例えば2層構成の磁性膜の膜厚測定に従来は100秒以上の時間を要していたが、この方法によればその測定を3秒程度の時間で行い得るので、磁気テープの製造現場における製造プロセスの管理に使用する磁性膜の膜厚測定方法として極めて好適である。
【0031】
請求項2の磁気テープにおける磁性膜の膜厚測定方法によれば、X線源のターゲットであるMoから放射されるMo−Kα線が磁性膜に微量含まれるY元素を効果的に励起してYの定量分析の精度を高めるので、磁性膜の膜厚を迅速に、簡易に、かつ高い精度で与える。
【0032】
請求項3の磁気テープにおける磁性膜の膜厚測定方法によれば、磁性膜と検出器との間に配置したTiフィルタおよびAlフィルタがFe元素からの蛍光X線の強度に対し、含有量が微量であるY元素からの蛍光X線の強度を相対的に強調してYの定量分析の精度を高めるので、磁性膜の膜厚を迅速に、簡易に、かつ高い精度で与える。
【0033】
請求項4の磁気テープにおける磁性膜の膜厚測定方法によれば、小さくとも10mm2 の検出面積を有するシリコンドリフト検出器を使用するので、蛍光X線の強度の検出精度を高め、測定する磁性膜の膜厚の測定精度を高めることを容易化させる。
【0034】
請求項5の磁気テープにおける磁性膜の膜厚測定方法によれば、低くとも100kcpsの計数率を有する計数回路を使用するので、検出された蛍光X線の強度を殆ど漏れなくカウントし、測定する磁性膜の膜厚の測定精度を高める。
【0035】
請求項6の磁気テープにおける磁性膜の膜厚測定装置によれば、磁気テープの基材フィルムに形成された複数層の磁性膜に含まれる磁性金属元素、および磁性膜中の特定層に少量含まれる特定元素を蛍光X線分析法によって精度高く定量分析するので、予め作成された検量線に基づいて、磁性膜の膜厚を迅速に、簡易に、かつ高い精度で求めることができる。例えば、2層構成の磁性膜の膜厚測定に従来は100秒以上の時間を要していたが、この測定装置によればその測定を3秒程度の時間で行い得るので、磁気テープの製造現場における製造プロセスの管理に使用する磁性膜の膜厚測定装置として極めて好適である。
【0036】
請求項7の磁気テープにおける磁性膜の膜厚測定装置によれば、X線源のターゲットのMoから放射されるMo−Kα線が磁性膜に微量含まれるYを効果的に励起してYの定量分析精度を高めるので、測定する磁性膜の膜厚を迅速に、簡易に、かつ高い精度で得ることを可能にする。
【0037】
請求項8の磁気テープにおける磁性膜の膜厚測定装置によれば、磁性膜とシリコンドリフト検出器との間に配置するTiフィルタおよびAlフィルタが、Feからの蛍光X線の強度に対し含有量が微量であるYからの蛍光X線の強度を相対的に強調し、測定する磁性膜の膜厚の測定精度を高めるので、測定する磁性膜の膜厚を迅速に、簡易に、かつ高い精度で得ることを可能にする。
【0038】
請求項9の磁気テープにおける磁性膜の膜厚測定装置によれば、シリコンドリフト検出器が小さくとも10mm2 の検出面積を有しているので、蛍光X線の強度を精度高く検出することができ、測定する磁性膜の膜厚を迅速に、簡易に、かつ高い精度で得ることを容易化させる。
【0039】
請求項10の磁気テープにおける磁性膜の膜厚測定装置によれば、計数回路が低くとも100kcpsの計数率を有しているので、検出された蛍光X線の強度を殆ど漏れなくカウントし、測定する磁性膜の膜厚を迅速に、簡易に、かつ高い精度で得ることを可能にする。
【0040】
請求項11の複数層からなる薄膜の各構成層の膜厚測定方法によれば、基材面に形成された複数層からなる薄膜に含まれる主体元素、および薄膜中の特定層に少量含まれる特定元素を蛍光X線分析法によって精度高く定量分析するので、予め作成された検量線に基づいて、薄膜中の複数層の膜厚を迅速に、簡易に、かつ高い精度で求めることができる。
【0041】
請求項12の複数層からなる薄膜の各構成層の膜厚測定装置によれば、基材面に形成された複数層からなる薄膜に含まれる主体元素、および薄膜中の特定層に少量含まれる特定元素を蛍光X線分析法によって精度高く定量分析することができるので、予め作成された検量線に基づいて、薄膜中の複数層の膜厚を迅速、簡易に、かつ高い精度で求めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
本発明の複数層からなる薄膜の各構成層の膜厚測定方法および膜厚測定装置について、磁気テープに形成された複数層からなる磁性膜の膜厚を測定する方法および装置によって説明すれば、複数層の膜厚測定は、上述したように、複数層からなる磁性膜にX線を照射し、磁性膜に含まれる磁性金属元素および磁性膜の特定層に含まれる少量の特定元素から放射される蛍光X線を検出器で検出し、検出される蛍光X線の強度を求めて、磁性膜と同一の構成で複数層の膜厚が既知の標準磁性膜からの蛍光X線の強度と標準磁性膜中の各層の膜厚との関係を示す検量線に基づき、磁性膜中の膜厚を求める膜厚測定方法および測定装置においては、特定元素を励起し易い特性X線を放射する金属をターゲットとするX線源によって磁性膜にX線を照射し、磁性膜と検出器としてのシリコンドリフト検出器との間にX線の透過率が異なる2種の金属フィルタを配置して磁性金属元素からの蛍光X線の強度に対して特定元素からの蛍光X線の強度を相対的に強調し、2種の金属フィルタを透過した蛍光X線の強度を上記シリコンドリフト検出器によって検出して電圧パルスに変換し、その電圧パルスの波高を計数回路によって蛍光X線の強度としてカウントし、コンピュータによってデータ処理して行われる。すなわち、コンピュータによってX線スペクトルを描かせ、そのX線スペクトルを磁性金属元素と特定元素とについて波形分離して定量分析し、予め作成された検量線に基づいて、各磁性膜の膜厚が測定される。
【0043】
X線源としては、特定元素を励起させ易い特性X線を放射する金属をターゲットとして加速した熱電子を衝突させるが、特定元素を励起し易いターゲットとしての金属には、特定元素の原子番号よりも好ましくは原子番号が2〜5程度大きい金属が選択される。例えば特定元素がYである場合、Yの原子番号は39であるが、このYを励起させ易い特性X線を発生するターゲットとして原子番号42のMoを使用したX線源を使用することが好ましい。勿論、それ以外の金属、例えばRu(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Ta(タンタル)、W(タングステン)、Re(レニウム)等の一般的にターゲットとされている金属の使用を排除するものではない。
【0044】
本発明においては、2種の金属フィルタを磁性膜と後述するシリコンドリフト検出器との間に配置する。すなわち2種の金属フィルタを2次フィルタとして使用する。これは2種の金属フィルタが持つ波長の異なる吸収端を組み合わせることによって、磁性金属元素からの蛍光X線の強度に対して微量の特定元素からの蛍光X線の強度を相対的に強調させるためのものである。2種の金属フィルタにおける金属の種類、および各金属フィルタの厚さは上記の観点から適宜選択される。
【0045】
磁性金属元素がFeであり特定元素がYである磁性膜について、FeとYとについて定量分析して磁性膜の膜厚を求める場合、Fe元素から放射される蛍光X線の強度に対して微量のY元素から放射される蛍光X線の強度を強調する2種の金属フィルタとして適しているのは、TiフィルタとAlフィルタとの組合せである。図4は厚さ20μmのTiフィルタについてのX線のエネルギー(=波長の逆数)と透過率との関係を示す図であり、図5は厚さ100μmのAlフィルタについてのX線のエネルギーと透過率との関係を示す図である。図4、図5に見られるように、TiフィルタおよびAlフィルタは共に、エネルギーが6.9keV付近にあるFe元素からの蛍光X線の透過は抑制し、エネルギーが14.8keV付近にあるY元素からの蛍光X線は比較的透過させ易い透過率を有している。すなわち、TiフィルタとAlフィルタとを組み合わせた2種の金属フィルタは両者における蛍光X線のエネルギーによる透過率の違いを利用してFeからの蛍光X線の強度を抑制し、Yからの蛍光X線の強度を相対的に強調するものであると言える。
【0046】
金属フィルタを配置する位置としては、上記のように2次フィルタとして磁性膜と検出器との間に配置する場合のほか、1次フィルタとしてX線源と磁性膜との間に配置する場合がある。1次フィルタはX線源から照射される1次X線における不要な成分、例えばノイズ成分を除去し、得られるX線スペクトルにおけるバックグラウンド・レベルを低減させる効果を有するが、他方、磁性膜に照射する1次X線の強度を低下させる。磁性膜の膜厚を短時間で測定すると言う本発明の目的からは、可及的に強度の大きい1次X線を磁性膜に入射させたいので、後述するように、本発明においては1次フィルタを使用していない。
【0047】
すなわち、本発明においては、実施例における図9に示すように、Tiフィルタ36とAlフィルタ37とを二次側に配置する。しかし、二次側にフィルタを配置した場合はX線源21等に起因するノイズを低減することはできない。 従って、上記のTiフィルタ36とAlフィルタ37とからなる二次フィルタのほかに、X線源21と磁気テープ22との間、すなわち一次側に、厚さ20μmのNi(ニッケル)フィルタを同時に配置することを試みた。 その結果を図6、図7に示した。 図6は二次フィルタのみを使用した場合、図7は一次フィルタと二次フィルタを使用した場合であるが、図6と図7を比較して、Niによる一次フィルタの使用はノイズを低下させて蛍光X線スペクトルのバックグラウンド・レベルを低減させる効果は顕著でなく、それよりも磁気テープ22から放射されるる蛍光X線の強度を低下させた。従って、本発明では二次フィルタのみを使用することにしている。
【0048】
二次フィルタを透過した蛍光X線の検出にはエネルギー分散型X線検出器を使用する。従来は蛍光X線の検出に際し、分光結晶によって波長的に分光する波長分散型検出器を使用することが多かったが、波長分散型検出器は装置内に分光結晶が配置されるほか、分光結晶への1次X線の入射角を変化させるためのゴニオメータを要するために装置が大型化し、磁気テープの製造現場での測定には不向きである。これに対して、エネルギー分散型X線検出器はP型Si(シリコン)にLi(リチウム)を拡散させたPIN接合を有する半導体検出器によって蛍光X線の強度をエネルギー的に分光して電流パルスに変換し、計数回路によって電流パルスの波高を蛍光X線の強度としてカウントするものであり、シンチレーション計数管ないしは光電子増倍管を使用しないので装置が小型になることから多用されている。
【0049】
上記の半導体検出器においても、最近は検出性能が優れたシリコンドリフト検出器(SDD)が使用されるようになっている。SDDはP型Siから発生した電子を同心円状の電極構造のアノードへ効率よく導き、検出される電流パルスを内蔵された電気回路によって電圧パルスに変換する検出器である。SDDにおける蛍光X線の検出面積は5mm2 のものが一般的であるが、本発明においては検出面積が10mm2 のSDDを採用している。このSDDはKETEC社からSDD10−138500(型番)として市販されている検出器であり、検出面積を2倍にすることによって、蛍光X線の強度の検出能力が約1.7倍に上昇することが判明したからである。
【0050】
すなわち、膜厚が既知の500nmである上層磁性膜12Aについて、検出面積が5mm2 のSDDと検出面積が10mm2 のSDDによって得られた蛍光X線スペクトルを比較して図8に示した。そして図8の蛍光X線スペクトルに見られるエネルギーが14.8keV付近のY元素から蛍光X線(Y−Kα線)についてカウントされた強度を、検出面積が5mm2 のSDDと検出面積が10mm2 のSDDについて比較して表1に示した。また表1には膜厚が既知の500nmである上層磁性膜12Bについても同様に比較した。表1に見られるように、検出面積を2倍にすることによって、上層磁性膜12Aについては、カウントされる蛍光X線の強度が1.7倍になり、上層磁性膜12Bについては、カウントされる蛍光X線の強度が1.8倍になった。なお、表1における蛍光X線の強度において丸括弧内に示した数字は無効率と称される値であり、通常は30%以下にすることが薦められているが、実際に使用した感覚から、膜厚測定する場合には50%を超えなければ問題はないと判断している。そのほか、従来の半導体検出器が液体窒素による冷却を要するに対し、シリコンドリフト検出器はペルチェ効果による冷却が可能であり、取り扱いが極めて簡便であると言う利点も有している。
【0051】
【表1】

【0052】
そして、シリコンドリフト検出器からの電圧パルスの波高を蛍光X線の強度としてカウントする上記の計数回路には、カウント漏れを生じないように電圧パルスを高速でカウントし得る回路と、その電圧値を蛍光X線として識別する処理方法とが従来例の測定装置1で使用した他社品の計数回路24と異なる計数回路34、すなわち、XIA社から商品名DXP−Saturn(サターン)として市販されているデジタル・シグナル・プロセッシング基板(DSP基板)を採用した。このDSP基板は100kcps以上のカウントが可能とされているものである。すなわち、本発明においては、電圧パルスの波高を蛍光X線の強度として漏れなくカウントするには計数率が低くとも100kcpsであるものを使用することが望まれる。本発明においては、蛍光X線の検出面積が10mm2 であるシリコンドリフト検出器(SDD)と計数率が100kcps以上の計数回路(DSP基板)とを組み合わせて使用するが、そのことによって蛍光X線の強度を低くとも100kcpsでカウントすることを可能として、複数層の磁性膜の膜厚を短時間で精度高く計測し得るようにしたのである。
【0053】
計数回路には小型コンピュータを接続してデータ処理を行わせる。すなわち、小型コンピュータによって蛍光X線スペクトルを描かせ、その蛍光X線スペクトルをFe元素とY元素とについて波形分離してFe元素とY元素の定量分析を行い、予め測定対象の磁性膜と同一構成で膜厚既知の標準磁性膜について作成した蛍光X線の強度と標準磁性膜の各層の膜厚との関係を示す検量線と対照することにより、上層磁性膜の膜厚および磁性膜全体の膜厚を求めることができ、その結果から下層磁性膜の膜厚を算出することができる。
【実施例】
【0054】
図9は磁気テープ22における磁性膜の膜厚の測定時関を短縮することができた実施例の膜厚測定装置2の構成を概略的に示す図であり、従来例の膜厚測定装置1の図2に対応する図である。実施例の膜厚測定装置2はX線源21、シリコンドリフト検出器33(検出面積10mm2 )、計数回路34、および小型コンピュータ25から構成されているほか、磁気テープ22とシリコンドリフト検出器33との間、すなわち二次側に厚さ20μmのTiフィルタ36と、厚さ100μmのAlフィルタ37との2種の金属フィルタを挿入していることにある。上記において、X線源21はMoをターゲットとするX線管球を使用しており、Tiフィルタ36とAlフィルタ37を使用することによってシリコンドリフト検出器33で検出される蛍光X線の強度が低下することに対処するために、陰極からの熱電子の加速電圧45kV、電流1mAとし、かつターゲットのMoから放射されるMo−Kα線を含む一次X線のビーム径を7mmφとした。
【0055】
図10は図9に示した実施例の膜厚測定装置2によって得られた蛍光X線スペクトルを示す図であり、図3の蛍光X線スペクトル対応するものである。磁気テープ22とシリコンドリフト検出器33との間にAlフィルタ37とTiフィルタ36を挿入したことにより、図10に見られるように、エネルギーが6.9keV付近にあるFe元素からの蛍光X線の強度に対して、エネルギーが14.8keV付近にあるY元素からの蛍光X線の強度が相対的に強調された蛍光X線スペクトルが得られた。上記の2次フィルタを使用して得た図10の蛍光X線スペクトルから上層磁性膜12、および上層磁性膜12と下層磁性膜11とを含む磁性膜10の膜厚を求める場合にも、2次フィルタを使用した検量線が作成されることは言うまでもない。このようにして、上層磁性膜12および磁性膜10の膜厚を所要時間3秒で、かつ下記するように高い精度で測定することができた。
【0056】
図11、図12は実施例の膜厚測定装置2によって得られた蛍光X線の強度と磁性膜の膜厚との関係を示す図である。図11はY元素からの蛍光X線の強度と上層磁性膜12の膜厚との関係をプロットした図であるが、膜厚が0.1μmから3μmまでの範囲にわたって蛍光X線の強度と膜厚とは決定係数R2 =0.9917と言う高い値で0点を通る直線関係を示しており、この蛍光X線法による膜厚測定装置2によって求められる上層磁性膜12の膜厚は極めて信頼性が高いことを示している。なお、横軸の下層磁性膜11の膜厚はその静磁気特性によって求めた値である。そして図12は、下層磁性膜11と上層磁性膜12とに含まれるFe元素からの蛍光X線の強度と、下層磁性膜11および上層磁性膜12からなる磁性膜10の膜厚との関係をプロットした図であるが、磁性膜10の膜厚が1.1μmから3μmまでの範囲にわたって蛍光X線の強度と磁性膜10の膜厚とは決定係数R2 =0.9828と言う高い値で0点を通る直線関係を示しており、この蛍光X線法による膜厚測定装置2によって求められる磁性膜10の膜厚も極めて信頼性が高いことを示している。なお、横軸の磁性膜10の膜厚は、その静磁気特性によって求めた値である。そして、磁性膜10の膜厚と上層磁性膜12の膜厚が求められると下層磁性膜11の膜厚は容易に算出される。
【0057】
以上、本発明の磁気テープにおける磁性膜の膜厚測定方法および膜厚測定装置を実施例によって説明したが、勿論、本発明はこれに限定されることなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0058】
例えば本実施例においては、Feを含む下層磁性膜11とFeと共に少量のYを含む上層磁性膜12とからなる2層の磁性膜についての膜厚測定について説明したが、含有する第3の元素によって他層と区別し得る第3の磁性層、ないしは含有する第4の元素によって他層と区別し得る第4の磁性層を構成要素とする複数層の磁性膜について、同様な測定方法、測定装置を適用してそれぞれの膜厚の測定が可能である。
【0059】
また本実施例においては、基材フィルムBに塗布して形成された下層磁性膜11と上層磁性膜12とからなる磁性膜10についての膜厚測定を例示したが、磁性膜は塗布以外の方法によって形成された磁性膜、例えば蒸着、スパッタリング等の真空下の薄膜形成法によって形成された磁性膜にも適用される。
【0060】
また本実施例においては、磁気テープにおける複数層の各磁性膜の厚さを測定する場合を説明したが、本発明は各薄膜中に含まれる元素を定量分析することによって各薄膜の膜厚を求める方法であるから、磁性膜以外の複数層からなる薄膜における各複数層の膜厚の測定も可能である。例えば、SiO2 層とSiNx層とからなる時計ガラスの反射防止膜、フラットパネル・ディスプレイの前面に積層されているSiO2 層と金属酸化物層とによる反射防止膜が設けられた透明プラスチックフィルム、GeSbTeによる記録層とSiO2 、TiO2 による保護層とAuによる反射層等が基板に形成されている光情報録媒体などにおける、薄膜中の複数層の膜厚を測定するに際し、その測定時間の短縮にも本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】膜厚測定対象の磁気テープにおける磁性膜部分を示す拡大図である。
【図2】従来の膜厚測定装置の概略的な構成を示す図である。
【図3】従来の装置によって得られた磁性膜の蛍光X線スペクトルである。
【図4】Tiフィルタ(厚さ20μm)によるX線の透過率を示す図である。
【図5】Alフィルタ(厚さ100μm)によるX線の透過率を示す図である。
【図6】二次フィルタのみを使用した蛍光X線スペクトルである。
【図7】一次フィルタと二次フィルタとを使用した蛍光X線スペクトルである。
【図8】検出面積が異なるSDDによる蛍光X線スペクトルを比較した図である。
【図9】実施例の膜厚測定装置の概略的な構成を示す図である。
【図10】実施例の膜厚測定装置によって得られた磁性膜の蛍光X線スペクトルである。
【図11】Y元素による蛍光X線の強度と上層磁性膜の膜厚との関係を示す図である。
【図12】Fe元素による蛍光X線の強度と磁性膜全体の膜厚との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
1 従来例の膜厚測定装置 2 実施例の膜厚測定装置
10 磁性膜(全体) 11 下層磁性膜
12 上層磁性膜 21 X線源
22 磁気テープ 23 半導体検出器
24 計数回路 33 シリコンドリフト検出器
34 計数回路 36 Tiフィルタ
37 Alフィルタ B 基材フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気テープの基材フィルムに形成された複数層からなる磁性膜にX線を照射して、前記磁性膜に含まれる磁性金属元素、および前記磁性膜中の特定層に含まれる少量の特定元素から放射される蛍光X線を検出器で検出し、検出される前記蛍光X線の強度を求めて、前記磁性膜と同一の構成で複数層の膜厚が既知の標準磁性膜からの蛍光X線の強度と前記標準磁性膜中の各層の膜厚との関係を示す検量線に基づき、前記磁性膜中の前記複数層の膜厚を求める膜厚測定方法において、
前記特定元素を励起し易い特性X線を放射する金属をターゲットとするX線源によって前記磁性膜にX線を照射し、前記磁性膜と前記検出器としてのシリコンドリフト検出器との間にX線の透過率が異なる2種の金属フィルタを配置して前記磁性金属元素からの前記蛍光X線の強度に対して前記特定元素からの前記蛍光X線の強度を相対的に強調し、前記2種の金属フィルタを透過した前記蛍光X線の強度を前記シリコンドリフト検出器によって検出して電圧パルスに変換し、前記電圧パルスの波高を計数回路によって前記蛍光X線の強度としてカウントし、コンピュータによってデータ処理する
ことを特徴とする磁気テープにおける磁性膜の膜厚測定方法。
【請求項2】
前記磁性金属元素がFe(鉄)であり前記特定元素がY(イットリウム)である場合に、前記X線源として前記ターゲットがMo(モリブデン)であるものを使用する
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気テープにおける磁性膜の膜厚測定方法。
【請求項3】
前記磁性金属元素がFeであり、前記特定元素がYである場合に、前記2種の金属フィルタとして、Ti(チタン)フィルタとAl(アルミニウム)フィルタとを使用する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の磁気テープにおける磁性膜の膜厚測定方法。
【請求項4】
前記シリコンドリフト検出器として、検出面積が小さくとも10mm2 であるものを使用する
ことを特徴とする請求項1から請求項3までの何れかに記載の磁気テープにおける磁性膜の膜厚測定方法。
【請求項5】
前記計数回路として、計数率が低くとも100kcpsであるものを使用する
ことを特徴とする請求項1から請求項4までの何れかに記載の磁気テープにおける磁性膜の膜厚測定方法。
【請求項6】
磁気テープの基材フィルムに形成された複数層からなる磁性膜にX線を照射して、前記磁性膜に含まれる磁性金属元素、および前記磁性膜中の特定層に含まれる少量の特定元素から放射される蛍光X線を検出器で検出し、検出される前記蛍光X線の強度を求めて、前記磁性膜と同一の構成で複数層の膜厚が既知の標準磁性膜からの蛍光X線の強度と前記標準磁性膜中の各層の膜厚との関係を示す検量線に基づき、前記磁性膜中の前記複数層の膜厚を求める膜厚測定装置において、
前記磁性膜にX線を照射した時に前記特定元素を励起し易い特性X線を放射する金属をターゲットとするX線源と、前記磁性膜中の前記磁性金属元素からの前記蛍光X線の強度に対して前記特定元素からの前記蛍光X線の強度を強調するために前記磁性膜と前記検出器としてのシリコンドリフト検出器との間に配置されるX線の透過率が異なる2種の金属フィルタと、前記2種の金属フィルタを透過した前記蛍光X線の強度を検出して電圧パルスに変換する前記シリコンドリフト検出器と、前記電圧パルスの波高を前記蛍光X線の強度としてカウントする計数回路と、データ処理を行うコンピュータとからなる
ことを特徴とする磁気テープにおける磁性膜の膜厚測定装置。
【請求項7】
前記磁性膜における前記磁性金属元素がFe(鉄)であり前記特定元素がY(イットリウム)である場合に、前記X線源の前記ターゲットとしてMo(モリブデン)が使用されている
ことを特徴とする請求項6に記載の磁気テープにおける磁性膜の膜厚測定装置。
【請求項8】
前記磁性膜における前記磁性金属元素がFeであり前記特定元素がYである場合に、前記2種の金属フィルタとしてTi(チタン)フィルタとAl(アルミニウム)フィルタとが使用されている
ことを特徴とする請求項6または請求項7に記載の磁気テープにおける磁性膜の膜厚測定装置。
【請求項9】
前記シリコンドリフト検出器が小さくとも10mm2 の検出面積を有している
ことを特徴とする請求項6から請求項8までの何れかに記載の磁気テープにおける磁性膜の膜厚測定装置。
【請求項10】
前記計数回路が低くとも100kcpsの計数率を有している
ことを特徴とする請求項6から請求項9までの何れかに記載の磁気テープにおける磁性膜の膜厚測定装置。
【請求項11】
基材面に形成された複数層からなる薄膜にX線を照射して、前記薄膜に含まれる主体元素および前記薄膜中の特定層に含まれる少量の特定元素から放射される蛍光X線を検出器で検出し、検出される前記蛍光X線の強度を求めて、前記薄膜と同一の構成で複数層の膜厚が既知の標準薄膜からの蛍光X線の強度と前記標準膜中の各層の膜厚との関係を示す検量線に基づき、前記薄膜中の前記複数層の膜厚を求める膜厚測定方法において、
前記特定元素を励起し易い特性X線を放射する金属をターゲットとするX線源によって前記薄膜にX線を照射し、前記薄膜と前記検出器としてのシリコンドリフト検出器との間にX線の透過率が異なる2種の金属フィルタを配置して前記主体元素からの前記蛍光X線の強度に対して前記特定元素からの前記蛍光X線の強度を相対的に強調し、前記2種の金属フィルタを透過した前記蛍光X線の強度を前記シリコンドリフト検出器によって検出して電圧パルスに変換し、前記電圧パルスの波高を計数回路によって前記蛍光X線の強度としてカウントし、コンピュータによってデータ処理する
ことを特徴とする複数層からなる薄膜の各構成層の膜厚測定方法。
【請求項12】
基材面に形成された複数層からなる薄膜にX線を照射して、前記薄膜に含まれる主体元素および前記薄膜中の特定層に含まれる少量の特定元素から放射される蛍光X線を検出器で検出し、検出される前記蛍光X線の強度を求めて、前記薄膜と同一の構成で複数層の膜厚が既知の標準薄膜からの蛍光X線の強度と前記標準薄膜中の各層の膜厚との関係を示す検量線に基づき、前記薄膜中の前記複数層の膜厚を求める膜厚測定装置において、
前記薄膜にX線を照射した時に前記特定元素を励起し易い特性X線を放射する金属をターゲットとするX線源と、前記薄膜中の前記主体元素からの前記蛍光X線の強度に対して前記特定元素からの前記蛍光X線の強度を強調するために前記薄膜と前記検出器としてのシリコンドリフト検出器との間に配置されるX線の透過率が異なる2種の金属フィルタと、前記2種の金属フィルタを透過した前記蛍光X線の強度を検出して電圧パルスに変換する前記シリコンドリフト検出器と、前記電圧パルスの波高を前記蛍光X線の強度としてカウントする計数回路と、データ処理を行うコンピュータとからなる
ことを特徴とする複数層からなる薄膜の各構成層の膜厚測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−78616(P2007−78616A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−269866(P2005−269866)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】