説明

複数領域におけるリードのコーティング

個別の性能特性をもたらすために複数の表面改質物を用いてリードの静脈内領域、心臓内領域、及び/又は先端領域を処理する、医療用リードの複数領域表面処理。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用電気リード器具及び体内の身体構造空間にアクセスする方法に関し、より詳細には、リードコンポーネントの表面処理に関する。
【背景技術】
【0002】
心調律管理(CRM)システム及び神経刺激システムにおいて用いられる医療用電気リードは様々なタイプのものが知られている。CRMシステムにおいては、このようなリードは、血管を経て患者の心臓の表面又は内部の植え込み箇所まで延び、パルス発生器や、心臓の電気活動の感知や治療的刺激の伝達等を行う他の植え込み装置等に連結される。リードは、患者の自然な動きに対応可能であるように高い可撓性を有し、また断面が小さくなるよう構成されることが好ましい。またリードには、人体の筋肉系及び骨格系、パルス発生器、他のリード、又は植え込み又は除去時に用いられる手術器具等による様々な外力が加えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は複数領域の表面処理を有する医療用リードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の実施例は医療料電気リードに関する。この医療用電気リードは、少なくとも1つの長手方向に延びるルーメンが貫通する可撓性を有する長尺状のポリマー製リード本体と、ルーメン内を延びる少なくとも1本の導電線と、医療用電気リードを植え込み式パルス発生器に対して機械的及び電気的に接続すべくリード本体に対して連結されるコネクタと、リード本体の外側部に配置され、導電線に対して電気的に接続する電極とを備える。医療用電気リードの外面は少なくとも先端領域、診療用の心臓内領域、及び基端側の静脈内領域を有し、外面が2つ以上の表面改質物を有し、先端領域、心臓内領域、及び静脈内領域のうち2つ以上の領域が表面改質物を含み、2以上の表面改質物が、グリムを含むポリマー被覆材を含む第1の表面改質、シラザンを含む第2の表面改質物、フルオロカーボンを含む第3の表面改質物、及びNiPAMポリマー被覆材を含む第4の表面改質物から選択される。
【0005】
本発明の第2の実施例は、医療用電気リードの外面が3つ以上の表面改質物を含む第1の実施例の医療用電気リードに関する。
本発明の第3の実施例は、静脈内領域が少なくとも第1の表面改質物を含み、心臓内領域が第1の表面改質物、第2の表面改質物、及び第3の表面改質物のうち少なくとも1つを含み、先端領域が少なくとも第3の表面改質物を含む第1の実施例の医療用電気リードに関する。
【0006】
本発明の第4の実施例は、第1の表面改質物、第2の表面改質物、第3の表面改質物、及び第4の表面改質物のうち少なくとも1つを含むポケット領域をさらに有する第1の実施例の医療用電気リードに関する。
【0007】
本発明の第5の実施例は、第1の表面改質物のポリマー被覆材がテトラグリムを含む第1の実施例の医療用電気リードに関する。
本発明の第6の実施例は、シラザンがヘキサメチルジシラザン処理剤を含む第1の実施例の医療用電気リードに関する。
【0008】
本発明の第7の実施例は、フルオロカーボンが、テトラフルオロメタン処理剤、ヘキサフルオロエタン処理剤、オクタフルオロプロパン処理剤、オクタフルオロシクロブタン処理剤、及びヘキサフルオロシクロプロパン処理剤のいずれかを含む第1の実施例の医療用電気リードに関する。
【0009】
本発明の第8の実施例は、NiPAM被覆材が細胞接着タンパク質、ペプチド、ペプチド断片、及びこれらの組み合わせのいずれかを含む第1の実施例の医療用電気リードに関する。
【0010】
本発明の第9の実施例は、基端側の静脈内領域、診療用の心臓内領域、及び先端領域を有する医療用電気リードの外面を改質させる方法に関する。この方法は、少なくとも1つの領域の一部を、グリムを含んだポリマー被覆材、シラザン処理剤、フルオロカーボン処理剤、及びNiPAMポリマー被覆材から選択される少なくとも1つの表面改質物を用いて処理する処理工程と、少なくとも第2の領域の一部を少なくとも1つの表面改質物を用いて処理する処理工程と、を含み、医療用電気リードの外面が少なくとも2つの異なる表面改質物を用いて処理する方法である。
【0011】
本発明の第10の実施例は、静脈内領域の少なくとも一部を、グリムを含むポリマー材にて被覆する工程を含む第9の実施例の方法に関する。
本発明の第11の実施例は、心臓内領域の少なくとも一部をシラザン及びフルオロカーボンの一方もしくは両方に対して接触させる工程を含む第10の実施例の方法に関する。
【0012】
本発明の第12の実施例は、先端領域の少なくとも一部をNiPAMポリマー被覆材にて被覆する工程を含む第9の実施例の方法に関する。
本発明の第13の実施例は、処理工程の少なくとも1つが、プラズマ堆積処理、噴射被覆処理、及び浸漬被覆処理のいずれかを含む第9の実施例の方法に関する。
【0013】
本発明の第14の実施例は、外面の一部に少なくとも1つの被覆材が施され、被覆された部分にマイクロパターン及びナノパターンのいずれかが形成される第9の実施例の方法に関する。
【0014】
本発明の第15の実施例は、処理工程のそれぞれがプラズマ堆積処理を含む第9の実施例の方法に関する。
本発明の第16の実施例は、静脈内領域、心臓内領域、及び先端領域のそれぞれを1以上の表面改質物にて処理する工程を含む第9の実施例の方法に関する。
【0015】
本発明の第17の実施例は、基端側の静脈内領域、診療用の心臓内領域、及び先端領域を有する医療用電気リードの外面を改質させる方法に関する。この方法は、静脈内領域の少なくとも一部を、グリムを含む第1のポリマー被覆材にて被覆する被覆工程と、心臓内領域の少なくとも一部を、第1のポリマー被覆材、シラザン、フルオロカーボン、及びこれらの組み合わせのいずれかに接触させる接触工程と、先端領域の少なくとも一部を、NiPAMポリマーを含む第2のポリマー被覆材にて被覆する被覆工程と、を含む方法である。
【0016】
本発明の第18の実施例は、第1のポリマー被覆材がテトラグリムを含む第17の実施例の方法に関する。
本発明の第19の実施例は、接触工程が心臓内領域をヘキサメチルジシラザンに接触させる工程を含む第17の実施例の方法に関する。
【0017】
本発明の第20の実施例は、接触工程が心臓内領域をCF、C及びCのいずれかに接触させる工程を含む第17の実施例の方法に関する。
本発明の第21の実施例は、第2のポリマー被覆材が、メタクリル酸ヒドロキシエチル、エチレングリコール、及びポリビニルピロリドン、細胞接着生体分子、及びこれらの組み合わせのいずれかとNiPAMとの共重合体を含む第17の実施例の方法に関する。
【0018】
本発明の第22の実施例は、静脈内領域の基端側に位置するポケット領域の少なくとも一部を被覆工程及び接触工程の少なくともいずれかにより改質する第17の実施例の方法に関する。
【0019】
本明細書において複数の実施形態が記載されるが、本発明の他の実施形態も下記の記載より当業者に明らかになるであろう。図面及び下記の記載は例示的なものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態による、患者の心臓内に配置された一対の医療用電気リードに対して連結するパルス発生器を有する心調律管理システムを示す概要図。
【図2】本発明の一実施形態による図1のリードを示す斜視図。
【図3】いくつかの物質に対する組織吸収及び付着に関する棒グラフを示す図。
【図4】組織培養におけるヒト細胞増殖の比較を示す図。
【図5】フルオロカーボン処理剤の赤外分光法による測定結果を示す図。
【図6】組織層付着に関する比較を示す図。
【0021】
本発明は種々の変形例が可能であるが、説明のために特定の実施形態を図面及び下記の記載により示す。しかし、これらの実施形態は本発明の範囲を限定するものではない。本発明は、添付の特許請求の範囲に記載される本発明の範囲に入るすべての変形例を含むものとする。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書に記載する種々の実施形態は、複数領域の表面処理を有する医療用電気リードおよび同リードの製造方法に関する。本発明のいくつかの実施形態によるリードは、内因性電気活動の感知及び/又は患者への治療的電気刺激の付与を好適に行うことができる。本リードの用途の例としては、心調律管理(CRM)システム及び神経刺激システムが挙げられる。例えば、ペースメーカー、植え込み式細動除去器、及び/又は心臓再同期療法(CRT)装置等を使用するCRMシステムにおいて、本発明の実施形態による医療用電気リードは、心臓の1つ又は複数の室又は房の内部に部分的に植え込まれる心内膜リードとして機能し、心臓の電気活動の感知や、心臓内組織への治療的電気刺激の付与を行う。さらに、本発明の一実施形態により形成されるリードは、CRT又はCRT−D(心臓再同期治療除細動器)システムの両心室ペーシングを容易にするために、心臓左側付近の冠状静脈に配置される用途に特に適している。さらに、本発明の一実施形態により形成されるリードは、心臓の外面に固定することもできる(心外膜リードとして使用可能である)。
【0023】
図1は、心調律管理システム10を示す概略図である。このシステム10は、患者の心臓20内に配置された一対の医療用電気リード14,15に連結するパルス発生器12を有する。心臓20は、右心房22、右心室24,左心室26、左心室28、右心房22内の冠静脈洞入口部30、冠状静脈洞31、及び冠状静脈洞31の血管枝34等の様々な冠状静脈を有する。
【0024】
図1に示すように、本発明の一実施形態によるリード14は基端部及び先端部40を有し、この先端部40は右心房22、冠静脈洞入口部30、及び冠状静脈洞31を経て冠状静脈洞31の枝血管34内まで誘導される。先端部40は先端46及び電極50を有し、これらは枝血管34内に配置される。図1に示されるリード14の配置は、心臓20の左側にペーシングや除細動刺激を施すための配置である。リード14は冠静脈の他の領域にも部分的に配置することができ、心臓20の左側又は右側を治療するために大心臓静脈又は枝血管内に配置してもよい。
【0025】
図1に示す実施形態においては、電極50は比較的小型の低電圧電極である。この電極50は、内因性電気的律動の感知や、枝冠状静脈34の内部から左心室28に対する比較的低電圧のペーシング刺激の付与を行うことができる。いくつかの実施形態においては、リード14が追加のペーシング用電極や感知用電極を有し、多極的ペーシングやペーシング位置選択が可能となっている。
【0026】
図1に示すリード15はさらに基端部51、及び右心室24内に植え込まれる先端部52を含む。他の実施形態においては、CRMシステム10はさらに別のリード、例えば右心房22内に植え込まれたリードを有する。先端部52は可撓性を有する高電圧電極53、及び比較的低電圧の環状電極54を有する。高電圧電極53の表面積は環状電極54よりも大きく、除細動/カルジオバージョン治療のために心臓組織に比較的高電圧の電気的刺激を印加できるようになっている。一方、環状電極54は比較的低電圧のペーシング/感知電極である。リードの先端は固定具55を用いて心臓又は血管壁に固定することができる。
【0027】
いくつかの実施形態においては、追加の除細動/カルジオバージョン電極やペーシング/感知電極がリード15に配置され、多極的な除細動/カルジオバージョンが可能となっている。一実施形態においては、リード15が電極53に加えて別の基端側高電圧電極を有し、この電極は植え込み時に右心房22(及び/又は上大静脈)に位置するようリード15に配置される。また、さらに別の構成の電極をリード15と共に使用してもよい。つまり、リード15は、本発明の範囲より逸脱することなく、あらゆる電極構成と共に用いることが可能である。
【0028】
一般的に、パルス発生器12は、患者の胸部又は腹部の植え込み位置に皮下的に植え込まれる。パルス発生器12は、患者に治療的電気刺激を付与可能ないかなる植え込み式医療器具であってよく、周知のものであってもよいし、後に開発されるものであってよい。いくつかの実施形態においては、パルス発生器12は、両心室ペーシング用のペースメーカー、植え込み式細動除去器、又は心臓再同期療法(CRT)装置であり、また、ペーシング、CRT、及び除細動の機能を組み合わせて有するものであってもよい。
【0029】
図2は、図1のリード15を示す斜視図である。当然ながら、リード15と同様の構想がリード14及び他の種類のCRMリードや神経刺激リードに適用可能である。前述したとおり、リード15は、心臓を刺激するための電気的パルスの印加、及び電気的パルスの受信による心臓の監視のいずれかもしくは両方を行うよう構成される。リード15は長尺状のポリマー製リード本体56を有し、このリード本体は、ポリウレタン、シリコンゴム等のあらゆるポリマー材料により形成可能である。
【0030】
図2に示すように、リード15はリード本体56の基端に動作可能に連結するコネクタ57を備える。コネクタ57は、リード15をパルス発生器12に対して機械的及び電気的に接続すべく構成されており、いかなる型、サイズ、及び構成のものであってもよい。コネクタ57は、リード本体56内に配置された一本以上の導電線(図示しない)により電極53,54,55に対して機械的及び電気的に連結される。ここで使用する導電線は、必要な機能を供するものであればいかなる構成のものであってもよい。例えば、電極54及び/又は電極55をコネクタ57(及びパルス発生器12)に連結する導電線は、リード搬送のためのスタイレット又はガイドワイヤを受容する内腔を形成するコイル状導電体であってもよい。別の実施形態においては、高電圧電極53への導電線は、複数のより線からなる導電ケーブルである。
【0031】
図2に示すリード15の外面は複数の領域からなる。これらの領域の境界は破線にて示されている。複数の領域は、ポケット領域61、静脈内領域62、心臓内領域64、及び先端領域66である。ポケット領域61は、心臓から若干離れて血管内に位置する領域である。静脈内領域62は、心臓につながる血管内に位置する領域である。心臓内領域64は心臓内に位置する領域であり、1又は複数の電極を有する。先端領域66は、リードの先端部分の領域であり、歯や螺旋ネジ等の受動的又は能動的リード固定具を有する。図2に示す領域の長さや位置は、リードのタイプ及びサイズや、行う治療及び植え込み方法に応じて変更可能である。
【0032】
一実施形態においては、1つ又は複数の領域が1つ以上の表面改質物を含み、別の実施形態においては2つ以上の表面改質物を含む。さらに別の実施形態においては、2つ以上の表面改質物が3つ以上の領域の処理に用いられる。これらの表面改質物は、所望のリード性能をもたらすために、領域ごとに調節することができる。
【0033】
第1の表面改質物は、付着物を寄せ付けない、血栓を形成させない、潤滑性を有する、等の好ましい特性を多く有するポリマー被覆材である。従って、この第1の表面改質物は、静脈内領域62及び心臓内領域64に特に好適である。また、第1の被覆材は、ポケット領域61及びパルス発生器(図示しない)等の他のリード領域やリードコンポーネントにも好適に用いることができる。
【0034】
一実施形態においては、第1の表面改質物のポリマー被覆材は、一般的にグリムと称されるグリコール・エーテルである。好適なグリムの例としては、モノグリム、エチルグリム、ジグリム、エチルジグリム、トリグリム、ブチルジグリム、テトラグリム、ペンタグリム、ヘキサグリム、及びこれらに対応するモノアルキルエーテルが挙げられる。他の実施形態においては、これらのグリムは例えばシラン等により官能化されていてもよい。
【0035】
以下の示性式によるテトラグリムが特に好適である。
【0036】
【化1】

テトラグリムが被覆された表面においては、高分子吸収及び付着が減少される。図3に示す2つの棒グラフは、いくつかの物質に対する細胞付着の生体外試験の結果を示すものである。テトラグリムが被覆された物質(黒棒)のフィブリノゲン吸収は被覆されていない物質(白棒)に比べて著しく低い。これらの試験はリード材には行なっていないが、このようなテトラグリム材が被覆されたリード本体表面においても同様の結果が出ると思われる。
【0037】
第2及び第3の表面改質物は、低い組織付着性、熱安定性、環境応力亀裂に対する耐性、金属イオン酸化に対する耐性等、第1の表面改質物とは異なる特性を有する。従って、これらの改質物は、電極の表面を含めて心臓内領域の表面処理に特に適している。第2及び第3の表面改質物の好適な材料の例としては、シラザン及びフルオロカーボンが挙げられる。
【0038】
シラザンはシリコン及び窒素の水素化物であり、シリコン及び窒素の直鎖又は分鎖を有する。特に好適なシラザンはヘキサメチルジシラザンであり、以下の式で表される。
【0039】
【化2】

ヘキサメチルジシラザン(HMDS)は液体状又は気体状にてリードの表面処理に使用可能な化学試薬であり、多くの供給源から市販されている。対照表面及びHMDSが被覆された表面に対する細胞物質の付着を比較するための画像を図4に示す。対照表面には配向した細胞がより糸状に多量に確認され、細胞の密集付着の発生を示している。一方、HMDSが被覆された表面には細胞の付着は少なく、より糸状に配向された細胞も少ない。本試験はリード本体に対して行われたものではないが、同様の方法でリード本体のある部分や領域にHMDSを被覆した場合にも付着の低減が可能であることが図4に示す結果から予測される。
【0040】
リードの表面処理に使用可能なフルオロカーボンの例としては、フルオロメタン、フルオロエタン、及びフルオロプロパン等のフルオロアルキルが挙げられる。特に好適なフルオロカーボンとしてはCF、C及びCが挙げられ、これらはプラズマ堆積により基板表面に施すことができる気体である。他の好適なフルオロカーボンとしては、オクタフルオロシクロブタン及びヘキサフルオロシクロプロパン等のフルオロシクロカーボンが挙げられる。図5は赤外分光法による測定結果を示すものであり、この図に示されるようにこのような気体状フルオロカーボンを用いて処理された表面は、PTFEと同様な不活性表面となる。この測定はリード本体においては行われてはいないが、リード本体の複数の領域に同様の処理を施すことにより、PTFEに類似した表面を形成可能であると図5の測定結果より推測し得る。
【0041】
一実施形態においては、シラザン処理剤とフルオロカーボン処理剤の両方がリード本体の異なる領域又は領域部分に対して施される。別の実施形態においては、これらの処理剤が同一の領域又は領域部分に対して連続して施さる。さらに別の実施形態においては、2つの表面改質物のうち片方のみが用いられる。
【0042】
リード固定及び細胞増殖を向上させるために第4の表面改質物を用いてもよい。この第4の表面改質物は、先端領域66に使用でき、特に好適には、リード本体先端の固定コイル55を含むリード固定構造に使用可能である。
【0043】
一実施形態においては、第4の表面改質物はN−イソプロピルアクリルアミド(NiPAM)を含むポリマー被覆材である。特定のNiPAMポリマーは温度に応じた固着特性を有し、特に好適に使用される。例えば、あるNiPAM材は生理的温度(約摂氏37度)においては組織付着を促進し、約摂氏25度等の低温においては著しく付着が減少する。このようなNiPAM材を用いることにより、低温におけるリードの挿入及び除去、及び生理的温度におけるリード固定が容易になる。
【0044】
好適なNiPAMポリマーの例としては、NiPAMポリマーセグメントに加えて、ポリメタクリル酸ヒドロキシエチル(ポリHEMA)セグメント、ポリエチレングリコール(PEG)セグメント、及びポリビニルピロリドン(PVP)セグメント等の追加的ポリマーセグメントを一種以上含んだポリマーが挙げられる。また、天然又は合成のタンパク質/ペプチド、ペプチド断片、並びにAsp−Gly−Glu−Ala(DGEA)、Gly−Arg−Gly−Asp(GRGD)、GFOGER等のアミノ酸配列等の細胞及び組織接着生体分子を一種以上含んだNiPAMも好適に使用可能である。さらに、タリン、α−アクチニン、フィラミン、パキシリン、及びビンキュリン等の焦点接着タンパク質を一種以上含んだものも好適に使用できる。
【0045】
一実施形態においては、NiPAMポリマーは、下記の化学式によるPEG−PVP−NiPAMトリブロックポリマーである。
【0046】
【化3】

図6に、NiPAM材に付着した細胞層の一連の画像を示す。左側の画像は摂氏37度における細胞単層を示し、高い付着性が確認される。中央の画像は摂氏25度における細胞シートを示し、ここでは付着が低減されている。三番目の画像は温度を摂氏25度に下げてNiPAM材から除去した後に元の状態を維持している細胞シートを示している。この試験はリード本体に対して行われたものではないが、NiPAMポリマーが被覆された1以上のリード本体領域が同様の結果をもたらすことが図6に示す結果より推測できる。
【0047】
本明細書に記載の表面改質は様々な方法で行うことができる。例えば、被覆材は、化学気相堆積やプラズマ化学気相堆積により被覆してもよいし、浸漬被覆や噴射被覆により施してもよい。
【0048】
プラズマ堆積法は特に好適であり、一実施形態においては、鉛製造法の一部としてプラズマ堆積により各表面改質が行われる。プラズマ堆積においては、例えば処理剤又はその前駆体をヘリウムや窒素等の概して不活性である搬送ガスと組み合わせることにより、プラズマを形成可能である。プラズマは反応室に搬送され、交流又は直流の電流、もしくは高周波信号をプラズマに印加することによりプラズマが基板に堆積される。被覆材の堆積に関しては、電流強度及び堆積時間の両方に応じて被覆厚さが異なる。プラズマ堆積法に関しては当業者に周知である。
【0049】
プラズマ放電により複数領域を処理する方法の一実施形態においては、1本以上のリードが複数のプラズマ反応室内を搬送され、それぞれの室が異なる表面改質を施すよう構成される。別の実施形態においては、複数のリードコンポーネント又はリード領域がそれぞれ個別に表面改質を施された後、複数の表面改質を含んだ領域を有するリードを形成すべく組み合わされる。このような表面改質は、各領域の所望の特性に応じて最適化可能である。さらに別の実施形態においては、ある領域の一部が被覆処理前にマスキングされるか、又は被覆処理後にレーザー処理を施すことにより、所望の形状のマイクロパターン又はナノパターンがその領域に形成される。被覆剤は、処理後に従来の熱硬化、赤外光硬化、又はUV硬化を行うことにより硬化することができる。
【0050】
本発明の種々の別例が、本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく、当業者に明らかになるであろう。本発明は、前記の例示的実施形態に限定されるものでないことに留意されたい。
【0051】
本発明の範囲から逸脱することなく、前記の例示的実施形態に対して様々な変更及び追加を行い得る。例えば、前述の実施形態は特定の特徴に関するものであるが、他の組み合わせの特徴を有する実施形態や、記載された特徴のすべてを含んでいない実施形態も本発明の範囲内とする。従って、本発明の範囲は、特許請求の範囲に含まれるすべての変更例及びその同等物を含むものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用電気リードであって、
少なくとも1つの長手方向に延びるルーメンが貫通し、かつ可撓性を有する長尺状のポリマー製リード本体と、
前記少なくとも1つのルーメン内を延びる少なくとも1つの導電線と、
前記医療用電気リードを植え込み式パルス発生器に対して機械的及び電気的に接続すべく前記リード本体に対して連結されるコネクタと、
前記リード本体の外側部に配置され、前記導電線に対して電気的に接続する電極と、を備え、
前記医療用電気リードの外面は少なくとも先端領域、診療用の心臓内領域、及び基端側の静脈内領域を有し、
前記外面が少なくとも2つの表面改質物を有し、
前記先端領域、心臓内領域、及び静脈内領域のうち少なくとも2つの領域が表面改質物を含み、
少なくとも2つの表面改質物が、グリムを含むポリマー被覆材を含む第1の表面改質、シラザンを含む第2の表面改質物、フルオロカーボンを含む第3の表面改質物、及びNiPAMポリマー被覆材を含む第4の表面改質物から選択される医療用電気リード。
【請求項2】
前記外面が少なくとも3つの表面改質物を含む請求項1に記載の医療用電気リード。
【請求項3】
前記静脈内領域が少なくとも第1の表面改質物を含み、心臓内領域が第1の表面改質物、第2の表面改質物、及び第3の表面改質物のうち少なくとも1つを含み、先端領域が少なくとも第3の表面改質物を含む請求項1に記載の医療用電気リード。
【請求項4】
前記第1の表面改質物、第2の表面改質物、第3の表面改質物、及び第4の表面改質物のうち少なくとも1つを含むポケット領域をさらに有する請求項1に記載の医療用電気リード。
【請求項5】
前記第1の表面改質物のポリマー被覆材がテトラグリムを含む請求項1に記載の医療用電気リード。
【請求項6】
前記シラザンがヘキサメチルジシラザン処理剤を含む請求項1に記載の医療用電気リード。
【請求項7】
前記フルオロカーボンが、テトラフルオロメタン処理剤、ヘキサフルオロエタン処理剤、オクタフルオロプロパン処理剤、オクタフルオロシクロブタン処理剤、及びヘキサフルオロシクロプロパン処理剤のいずれかを含む請求項1に記載の医療用電気リード。
【請求項8】
前記NiPAMポリマー被覆材が細胞接着タンパク質、ペプチド、ペプチド断片、及びこれらの組み合わせのいずれかを含む請求項1に記載の医療用電気リード。
【請求項9】
基端側の静脈内領域、診療用の心臓内領域、及び先端領域を有する医療用電気リードの外面を改質させる方法であって、
少なくとも1つの領域の一部を、グリムを含んだポリマー被覆材、シラザン処理剤、フルオロカーボン処理剤、及びNiPAMポリマー被覆材から選択される1以上の表面改質物を用いて処理する処理工程と、
少なくとも第2の領域の一部を1つ以上の前記表面改質物を用いて処理する処理工程と、を含み、
前記医療用電気リードの外面を2つ以上の異なる表面改質物を用いて処理する方法。
【請求項10】
前記静脈内領域の少なくとも一部を、グリムを含むポリマー材にて被覆する工程を含む請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記心臓内領域の少なくとも一部をシラザン及びフルオロカーボンの一方もしくは両方に対して接触させる工程を含む請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記先端領域の少なくとも一部をNiPAMポリマー被覆材にて被覆する工程を含む請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記処理工程の少なくとも1つが、プラズマ堆積処理、噴射被覆処理、及び浸漬被覆処理のいずれかを含む請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記外面の一部に少なくとも1つの被覆材が施され、被覆された部分にマイクロパターン及びナノパターンのいずれかが形成される請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記処理工程のそれぞれがプラズマ堆積処理を含む請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記静脈内領域、心臓内領域、及び先端領域のそれぞれを、少なくとも1つの表面改質物にて処理する工程を含む請求項9に記載の方法。
【請求項17】
基端側の静脈内領域、診療用の心臓内領域、及び先端領域を有する医療用電気リードの外面を改質させる方法であって、
静脈内領域の少なくとも一部を、グリムを含む第1のポリマー被覆材にて被覆する被覆工程と、
心臓内領域の少なくとも一部を、第1のポリマー被覆材、シラザン、フルオロカーボン、及びこれらの組み合わせのいずれかに接触させる接触工程と、
先端領域の少なくとも一部を、NiPAMポリマーを含む第2のポリマー被覆材にて被覆する被覆工程と、を含む方法。
【請求項18】
前記第1のポリマー被覆材がテトラグリムを含む請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記接触工程が心臓内領域をヘキサメチルジシラザンに接触させる工程を含む請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記接触工程が心臓内領域をCF、C及びCのいずれかに接触させる工程を含む請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記第2のポリマー被覆材が、メタクリル酸ヒドロキシエチル、エチレングリコール、ポリビニルピロリドン、細胞接着生体分子、及びこれらの組み合わせのいずれかとNiPAMとの共重合体を含む請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記静脈内領域の基端側に位置するポケット領域の少なくとも一部を前記被覆工程及び接触工程の少なくともいずれかにより改質する請求項17に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−524605(P2012−524605A)
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−507227(P2012−507227)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【国際出願番号】PCT/US2010/024709
【国際公開番号】WO2010/123616
【国際公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(505003528)カーディアック ペースメイカーズ, インコーポレイテッド (466)
【Fターム(参考)】