説明

複製画およびその製造方法

【課題】岩絵の具独特の凹凸感を有する質感の高い複製画を提供する。
【解決手段】紙基材1上に形成された下地凹凸層2と、下地凹凸層上に形成された受容層3と、受容層上に形成された絵柄層4を有する複製画であって、下地凹凸層2は、凸部と凹部の平均高度差が100〜120μmの範囲内であり、凸部又は/及び凹部の形成密度が80〜1500個/cm2の範囲内であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複製画、特には岩絵の具調の日本画の複製画およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
岩絵の具は粒状、粉状の原料鉱物を膠水等を用いて彩色するものであり、この岩絵の具を用いて描いた日本画は表面が粗面状の微小な多数の凹凸を有する。
【0003】
岩絵の具調の日本画には独特の色調があるほか、前記の粗面状の表面形状が特殊な風合を醸成し、これが絵画の美しさを創成する一要素となっているため、岩絵の具調の日本画の複製に当たっては、その絵画の色調の他に粗面状の表面状態も再現する必要がある。
【0004】
従来、岩絵の具調の日本画を複製する際には、紙基材にオフセット印刷で絵柄層を形成し透明凹凸加工フィルムを積層させることで岩絵の具独特の凹凸感を表現していたが、フィルムのてかりが原因で、本物の日本画の風合いが表現しづらいという問題があった。
【0005】
一方、特許文献1には、和紙等の基底材上に、マテリアル層を形成し、該マテリアル層上に色材受理層を形成し、色材受理層上にオリジナル画像に対応した画像を再生する複製物の製造方法が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−14387号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されている複製物の製造方法では、前記マテリアル層は、バインダと白色顔料とから成る地塗材と、添加材とから成り、厚みのある立体的な肌合いを表現したり、凹凸やざらざら等の質感を出すために用いられている。また、色材受理層の形成には市販の色材受理材を用いている。
【0008】
特許文献1に開示された方法によれば、従来のような透明凹凸加工フィルムを積層させることなく凹凸形状を形成しているため、前述したようなてかりによる問題を解消することができる。
【0009】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献1のように単に凹凸を有するマテリアル層上に市販の色材受理材を用いて色材受理層を形成しただけでは、岩絵の具独特の凹凸感を十分に表現することは困難であると共に、色材受理層自体の密着性にも問題があることが判明した。
【0010】
そこで本発明は、より本物に近い岩絵の具独特の凹凸感を有する質感の高い複製画、更には受理層の密着性を向上せしめ表面剥離を防止した商品価値の高い複製画を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決すべく成された本発明の構成は以下の通りである。
【0012】
即ち、本発明の第1の複製画は、紙基材上に形成された下地凹凸層と、該下地凹凸層上に形成された受容層と、該受容層上に形成された絵柄層を有する複製画であって、前記下地凹凸層は、凸部と凹部の平均高度差が100〜120μmの範囲内であり、凸部又は/及び凹部の形成密度が80〜1500個/cm2の範囲内であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の第2の複製画は、紙基材上に形成された油性インキ層と、該油性インキ層上に形成された下地凹凸層と、該下地凹凸層上に形成された受容層と、該受容層上に形成された絵柄層を有する複製画であって、前記下地凹凸層は、凸部と凹部の平均高度差が100〜120μmの範囲内であり、凸部又は/及び凹部の形成密度が80〜1500個/cm2の範囲内であることを特徴とする。
【0014】
また、前記下地凹凸層は、凸部又は/及び凹部の平均形成密度が480〜520個/cm2の範囲内であることを特徴とする。
【0015】
また、前記下地凹凸層は、寒水粉と炭酸カルシウム粉を含有する材料からなることを特徴とする。
【0016】
また、前記寒水粉は粒径が300μm以下であり、その粒度分布において、粒径50〜80μmの範囲内に第一のピークを有し、粒径170〜230μmの範囲内に第二のピークを有しており、前記炭酸カルシウム粉の平均粒径が3〜5μmであることを特徴とする。
【0017】
また、前記受容層は、平均粒径が3〜5μm、白色度が98%以上の炭酸カルシウム粉を含有する材料からなることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の第1の複製画の製造方法は、
紙基材上に、少なくともエチレン酢酸ビニルエマルジョンと寒水粉と炭酸カルシウム粉を含有する水系の下地凹凸層形成用スクリーンインキを用いて、下地凹凸層を形成する工程と、
前記下地凹凸層上に、少なくとも硬化剤を含有する水系の受容層形成用スクリーンインキを用いて、受容層を形成する工程と、
前記受容層上に、インクジェットプリンターによって絵柄層を形成する工程と、
を有することを特徴とする。
【0019】
また、本発明の第2の複製画の製造方法は、
紙基材上に、油性インキ層を形成する工程と、
前記油性インキ層上に、少なくともエチレン酢酸ビニルエマルジョンと寒水粉と炭酸カルシウム粉を含有する水系の下地凹凸層形成用スクリーンインキを用いて、下地凹凸層を形成する工程と、
前記下地凹凸層上に、少なくとも硬化剤を含有する水系の受容層形成用スクリーンインキを用いて、受容層を形成する工程と、
前記受容層上に、インクジェットプリンターによって絵柄層を形成する工程と、
を有することを特徴とする。
【0020】
また、前記下地凹凸層形成用スクリーンインキは、前記エチレン酢酸ビニルエマルジョンを20〜25重量%、前記寒水粉を44〜46重量%含有することを特徴とする。
【0021】
また、前記寒水粉は粒径が300μm以下であり、その粒度分布において、粒径50〜80μmの範囲内に第一のピークを有し、粒径170〜230μmの範囲内に第二のピークを有しており、前記炭酸カルシウム粉の平均粒径が3〜5μmであることを特徴とする。
【0022】
また、前記受容層形成用スクリーンインキは、前記硬化剤を6.5〜11.5重量%含有することを特徴とする。
【0023】
また、前記受容層形成用スクリーンインキは、平均粒径が3〜5μm、白色度が98%以上の炭酸カルシウム粉を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明の複製画によれば、下地凹凸層の凸部と凹部の平均高度差を100〜120μmの範囲内とし、凸部又は/及び凹部の形成密度を80〜1500個/cm2の範囲内としたことにより、この上に形成した受容層上に形成される絵柄層自体が岩絵の具調の凹凸を表現でき、より本物に近い岩絵の具独特の凹凸感を有する質感の高い複製画となる。
【0025】
また、本発明の第2の複製画によれば、更に、紙基材の上に油性インキ層を設けたことにより、油性インキ層が紙基材への水分の浸透を防ぐ役割を果たす為、用紙のカール(波打ち)を防止できる。従って、例えば、インクジェットプリンター等で印刷する場合に、ヘッドが用紙に当たる等の障害が軽減され、出力がより安定されることとなる。
【0026】
本発明の複製画の製造方法によれば、より本物に近い岩絵の具独特の凹凸感を有し、且つ、受容層の密着性を向上せしめ表面剥離を防止した商品価値の高い複製画を製造することができる。また、水系材料を使用しているため、有機溶剤及び有毒ガスを出さず、環境負荷が少ない。
【0027】
また、本発明の第2の複製画の製造方法によれば、更に、用紙のカールを防止できる複製画を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態例を図面を参照して説明する。
【0029】
図1は本発明の第1の複製画の一部を模式的に示した断面図であり、1は紙基材、2は下地凹凸層、3は受容層、4は絵柄層である。
【0030】
図2は本発明の第2の複製画の一部を模式的に示した断面図であり、1は紙基材、2は下地凹凸層、3は受容層、4は絵柄層、5は油性インキ層である。
【0031】
図示のように、本発明の複製画には、紙基材1上に形成された下地凹凸層2と、下地凹凸層2上に形成された受容層3と、受容層3上に形成された絵柄層4を有する第1の複製画と、紙基材1上に形成された油性インキ層5と、油性インキ層5上に形成された下地凹凸層2と、下地凹凸層2上に形成された受容層3と、受容層3上に形成された絵柄層4を有する第2の複製画がある。
【0032】
[紙基材]
本発明の複製画の製造方法では水系のインキを使用するため、第1の複製画の紙基材1としては、吸水性が良くあまりカールしない用紙が好ましく、例えば画材紙(上質紙)や和紙が好適であり、特に坪量が250〜320g/m2であるものが最も好ましい。坪量が250g/m2未満であると、吸水によってカールが生じ易くなる。一方、坪量が320g/m2を超えると、紙厚が厚くなりその表面が印字ヘッドに触れやすくなるため、画像形成が困難となる。
【0033】
また、第2の複製画には、防水壁としての役割を果たす油性インキ層5が紙基材上に形成されている為、第2の複製画の紙基材1は特に限定されない。
【0034】
[油性インキ層]
油性インキ層5の材料としては、紙基材1への水分の浸透を防ぐ役割を果たすものを用いればよく、例えば、公知の油性インキに、色材としての顔料を含有した油性インキ等が挙げられ、特に、紙基材が白色であればホワイトインキを用いる等、紙基材1と同系色のインキを用いることが好ましい。そして、油性インキ層5の形成には公知の方法、例えば、オフセット印刷方式、グラビア印刷方式、フレキソ印刷方式、スクリーン印刷方式等を用いることができる。
【0035】
また、油性インキ層5の厚さは、35〜48μmの範囲内であることが好ましい。この厚さにすることにより、油性インキ層5が防水壁としての役割を果たし、紙基材1が各層から流入する水分を吸収しなくなる。
【0036】
[下地凹凸層]
岩絵の具独特の凹凸感を持たせるためには、下地凹凸層2は、凸部と凹部の平均高度差が100〜120μmの範囲内であることが必要である。この平均高度差が100μm未満であると、岩絵の具調が弱く、岩絵の具独特の凹凸感を有する質感が得られない。一方、この平均高度差が120μmを超えると、凹凸が目立ち過ぎ、十分満足できる岩絵の具調が得られない。
【0037】
また、下地凹凸層は、凸部又は/及び凹部の形成密度が80〜1500個/cm2の範囲内であることが必要である。この形成密度が80個/cm2よりも少ないと、岩絵の具調が弱く、岩絵の具独特の凹凸感を有する質感を得ることが難しい。一方、この形成密度が1500個/cm2よりも多いと、凹凸が目立ち過ぎ、十分満足できる岩絵の具調が得られない場合がある。
【0038】
また、下地凹凸層は、凸部又は/及び凹部の平均形成密度が480〜520個/cm2の範囲内であることが好ましい。これにより複製画全体として十分満足できる岩絵の具調を得ることができる。
【0039】
下地凹凸層の凸部と凹部の高度差および形成密度は、例えばコンフォーカル顕微鏡(共焦点顕微鏡)やSEM(走査型電子顕微鏡)等を用いて観察・測定することができる。コンフォーカル顕微鏡の場合には表面形状を観察し、その結果から高度差測定を行うことができる。また、SEMの場合には、例えば垂直スライサーにて断面加工後、断面観察を行って高度差測定を行うことができる。
【0040】
本発明で規定する下地凹凸層の凸部と凹部の形成密度は、コンフォーカル顕微鏡により観察される高度差が50μm以上のものだけをカウントした値である。なお、後述の実施例に記載の下地凹凸層の凸部と凹部の形成密度は、レーザーテック(株)製のオプテリクスC130を用いて2130μm×1710μmの領域を表面観察した結果から算出した値である。
【0041】
[下地凹凸層の形成]
本発明の複製画の製造方法では、上記のような表面凹凸形状を有する下地凹凸層を、少なくともエチレン酢酸ビニルエマルジョンと寒水粉と炭酸カルシウム粉を含有する水系の下地凹凸層形成用スクリーンインキを用いて形成する。
【0042】
エチレン酢酸ビニルエマルジョンは接着剤としての機能を有し、紙基材又は油性インキ層への下地凹凸層の密着性を高めるためのものである。このエチレン酢酸ビニルエマルジョンは、下地凹凸層形成用スクリーンインキに20〜25重量%含有せしめるのが好ましく、21〜23重量%が特に好ましい。20重量%未満であると、十分な密着性が得られずに、下地凹凸層が剥離し易くなったり、下地凹凸層に掠れが生じ易くなる。一方、25重量%を超えると、前述したような下地凹凸層の凸部と凹部の高度差および形成密度を実現するのが難しく、岩絵の具独特の凹凸感を有する質感を得ることが難しい。
【0043】
寒水粉(方解石の粉)と炭酸カルシウム粉(胡粉:牡蠣や帆立貝の粉)は、岩絵の具独特の凹凸感を得るためのものである。岩絵の具(天然岩絵の具、新岩絵の具、合成岩絵の具)には、方解石や胡粉などの粒状、粉状の原料鉱物が含有されており、本発明ではこのような実際に使われている岩絵の具材を下地凹凸層に含有せしめることにより、岩絵の具調の絵肌を美しく再現することができる。
【0044】
寒水粉は、下地凹凸層形成用スクリーンインキに44〜46重量%含有せしめるのが好ましい。44重量%未満であると、岩絵の具調が弱く、岩絵の具独特の凹凸感を有する質感を得ることが難しい。一方、46重量%を超えると、凹凸が目立ち過ぎ満足できる岩絵の具調を得ることが難しくなると共に、インクの印刷適性が悪化する。
【0045】
前記寒水粉の粒径は、300μm以下が好ましい。岩絵の具に実際に含有されている方解石の粒径は概ね200μm以下であり、前記寒水粉の粒径が300μmを超えると、十分満足できる岩絵の具調を得るのが難しくなる。
【0046】
また、前記寒水粉は、その粒度分布において、粒径50〜80μmの範囲内に第一のピークを有し、粒径170〜230μmの範囲内に第二のピークを有するものが好ましい。このような粒度分布を有していれば、本発明の凸部と凹部の平均高度差が100〜120μmの範囲内である下地凹凸層を再現性良く安定して形成することができる。
【0047】
前記炭酸カルシウム粉の平均粒径は、3〜5μmが好ましい。岩絵の具に実際に含有されている胡粉(日本画の白色画材)の粒径は概ね5μm前後であり、前記炭酸カルシウム粉の平均粒径が5μmを超えると、十分満足できる岩絵の具調を得るのが難しくなる。また、前記炭酸カルシウム粉は、白色度が高い高純度のものが好ましい。
【0048】
岩絵の具画材の胡粉は、盛り上げたり、白色の下地を作る目的で使用されており、本発明の実施例で用いている炭酸カルシウム粉(商品名シェルライム/北海道共同石灰(株)製)は、帆立貝殻を原料とし、平均粒径が3〜5μm、白色度が98%の高純度であることから、胡粉の質感を表現するのに最適である。
【0049】
なお、下地凹凸層2は全面に形成される場合だけではなく、オリジナル画像の表面凹凸に応じて部分的に形成される場合があり、また、オリジナル画像に対応した凹凸形状を得るために部分的に重ね刷りをして盛り上げる場合もある。
【0050】
[受容層]
本発明では凹凸形状を有する面にオリジナル画像に対応した絵柄層を形成するため、この絵柄層形成には非接触型のインクジェット方式が好適である。このため、前記下地凹凸層2上に、インクジェットプリンターによる印刷適性を有する受容層3を設ける。
【0051】
従来よりインクジェットプリンターによる印刷適性を持つ受容層には、インク発色性、インク吸収性に優れ、高精細な画質・高い印字濃度を発現するために、シリカや炭酸カルシウム等の顔料を利用することは広く知られている。
【0052】
しかしながら、本発明では前述したような凹凸形状を有する下地凹凸層2上に受容層3を設けるため、従来の受容層の組成では十分な密着性が得られず、表面剥離し易くなるという問題がある。
【0053】
このため本発明の複製画の製造方法では、従来の受容層の組成に加え、更に硬化剤を含有する水系の受容層形成用スクリーンインキを用いて受容層3を形成する。
【0054】
前記硬化剤としては水酸基と架橋反応する例えばイソシアネート等が適宜用いられる。この硬化剤は、受容層形成用スクリーンインキに6.5〜11.5重量%の割合で含有せしめるのが好ましい。6.5重量%未満であると、硬化剤による十分な効果が得られず、密着性が不十分となり易い。一方、11.5重量%を超えると、十分な密着性が得られるものの、絵柄層を形成した際に色の鮮やかさが劣る結果となり易い。
【0055】
また、受容層形成用スクリーンインキには、岩絵の具画材の胡粉の質感を十分に表現するために、平均粒径が3〜5μmであり、白色度が高く、白色度98%以上の高純度の炭酸カルシウム粉を含有せしめるのが好ましい。
【0056】
受容層3の厚さは12〜25μm程度であり、その表面は前述のような岩絵の具調の凹凸を有する下地凹凸層2の凹凸形状を反映したものとなる。
【0057】
[絵柄層]
絵柄層4は、受容層3上にインクジェットプリンターによって形成される。岩絵の具調の凹凸を有する下地凹凸層2の凹凸形状を反映した受容層3の表面に形成される絵柄層4は、それ自体が岩絵の具調の凹凸を表現でき、より本物に近い岩絵の具独特の凹凸感を有し、質感の高い複製画が得られる。
【実施例】
【0058】
以下に本発明の実験例および実施例を説明する。なお、以下に記載の部はすべて重量部である。
【0059】
[実験例1]
岩絵の具独特の凹凸感・質感を再現できる下地凹凸層に関する検討を以下のように行った。
【0060】
下地凹凸層形成用インキを下記A液とB液の配合比を変化させて調製し、質感再現性、用紙への密着性、印刷適性を調べた。
A液:カルボキシメエチルセルロース(#1190/ダイセル化学工業(株)製)
1.6部
水 100部
寒水粉(粒径300μm以下) 220部
炭酸カルシウム(粒径3〜5μm)
(シェルライムHPC/北海道共同石灰(株)製) 50部
B液:エチレン酢酸ビニルエマルジョン(EH−004、新田ゼラチン(株)製)
100部
水 10部
【0061】
(A液とB液の配合比)
A液/B液=100部/25部、100部/30部、100部/35部、100部/50部、100部/60部の配合比で5種類のインキを調製した。この時、脱泡するために、消泡剤を少々添加した。
【0062】
なお、接着剤として機能するエチレン酢酸ビニルエマルジョンに直接寒水および炭酸カルシウムの粉体を混ぜると、これらを均一に分散させるのが困難であるため、上記のようにA液とB液に分けて調製した。
【0063】
(印刷方式)
スクリーン版として60メッシュ(膜厚:8μm)、ベタ版(100%網版)を用い、画材紙(かきた:300g/m2)にスクリーン印刷方式で塗工した。
【0064】
本実験例で用いた寒水粉は、その粒度分布において、粒径70μm付近に第一のピークを有し、粒径200μm付近に第二のピークを有している。このため、スクリーン版として目の粗い60メッシュを用いている。また、スクリーン版として厚盛りの膜厚50〜60μmのものを用いると、寒水粉が埋もれて岩絵の具調が弱くなり易いため、通常盛りの膜厚8μmのものを用いている。本実験例による評価結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
[実験例2]
次に、下地凹凸層形成用インキの前記A液中の寒水配合比を変え、下地凹凸層の凸部と凹部の平均高度差、凸部及び凹部の形成密度、質感再現性、印刷適性、白色度を調べた。
【0067】
(A液中の寒水の配合比)
A液中の寒水の配合比を、200部、210部、220部、230部、240部、250部に変化させた6種類のA液を用い、A液/B液=100/30の配合比で6種類のインキを調製した。
【0068】
実験例1と同様に、スクリーン版として60メッシュ(膜厚:8μm)、ベタ版(100%網版)を用い、画材紙(かきた:300g/m2)にスクリーン印刷方式で塗工した。本実験例による評価結果を表2に示す。
【0069】
【表2】

【0070】
これらの実験結果から、下地凹凸層の凸部と凹部の平均高度差を100〜120μmの範囲内にするとともに、凹凸の形成密度を80〜1500個/cm2の範囲内にすることにより、凹凸が目立ち過ぎることもなく、十分満足できる岩絵の具調が得られることが分かった。
【0071】
また、下地凹凸層形成用インキに、エチレン酢酸ビニルエマルジョンを20〜25重量%、寒水粉を44〜46重量%含有せしめることにより、下地凹凸層の十分な密着性と印刷適性を確保しつつ、上記範囲の凸部と凹部の平均高度差および形成密度で下地凹凸層を形成できることが分かった。
【0072】
[実施例1]
本発明の第1の複製画の実施例として、画材紙上に以下のようにして下地凹凸層および受容層を形成し、この受容層上にインクジェットプリンターによって絵柄層を形成した例を説明する。
【0073】
(下地凹凸層の形成)
下地凹凸層形成用インキを実験例1のA液とB液を用いて調製し(A液/B液=100部/30部、100部/35部の配合比で2種類のインキを調製した。)、スクリーン版として60メッシュ(膜厚:8μm)、ベタ版(100%網版)を用い、画材紙(かきた:300g/m2)上にスクリーン印刷方式で塗工した。
【0074】
(受容層の形成)
受容層形成用インキを下記のA液とB液を用いて調製し(A液/B液=70部/100部)、スクリーン版として150メッシュ(膜厚:8μm)、ベタ版(100%網版)を用い、下地凹凸層上にスクリーン印刷方式で塗工した。スクリーン版として150メッシュを用いているのは、下地凹凸層形成時よりも目の細かな版を用いることにより、下地凹凸層の凹凸に追従させるためである。なお、本発明においては、150〜200メッシュが好適に用いられる。
A液:6%PVA水溶液(#224/クラレ(株)製) 100部
シリカ(平均粒径:5.5μm)
(G−0166/東ソー・シリカ(株)製) 15部
B液:6%PVA水溶液(#224/クラレ(株)製) 100部
炭酸カルシウム(粒径3〜5μm)
(シェルライムHPC/北海道共同石灰(株)製) 50部
【0075】
次に、受容層上にインクジェットプリンターによって絵柄層を形成し、目視によって質感再現性を評価したところ、いずれの下地凹凸層形成用インキを用いた場合にも絵柄層自体が岩絵の具調の凹凸を十分に表現できており、岩絵の具独特の凹凸感を有する質感の高い複製画が得られた。
【0076】
[実施例2]
本実施例は、受容層形成用インキに以下のように硬化剤を添加した以外は、実施例1と同様にして第1の複製画を製造した例である。
【0077】
実施例1の受容層形成用インキに、(A液+B液)/硬化剤=100部/5部、100部/7部、100部/10部、100部/13部、100部/15部、100部/20部の配合比で硬化剤を添加した6種類のインキを調製した。なお、硬化剤としては、イソシアネート(アクアネート#120/日本ポリウレタン工業(株)製)を用いた。
【0078】
本実施例の複製画の色彩性及び摩耗性について評価した結果を表3に示す。なお、表3には実施例1の複製画(硬化剤部数=0のもの)の評価結果も併せて記載している。
【0079】
【表3】

【0080】
表3の結果から、受容層形成用インキに硬化剤を添加することにより、本発明の凹凸形状を有する下地凹凸層の上に密着性の高い受容層を形成できることが分かる。また、特に、受容層形成用インキに6.5〜11.5重量%の割合で硬化剤を含有せしめることにより、インクジェットプリンターによる絵柄層の色の鮮やかさを阻害することなく、商品価値の高い複製画を製造することができる。
【0081】
[実施例3]
本発明の第2の複製画の実施例として、画材紙上に以下のようにして油性インキ層、下地凹凸層および受容層を形成し、この受容層上にインクジェットプリンターによって絵柄層を形成した例を説明する。
【0082】
(油性インキ層の形成)
油性インキ層形成用インキを用いて、スクリーン版として200メッシュ(膜厚:8μm)、ベタ版(100%網版)を用い、画材紙(ファブリアーノ紙:220g/m2)上にスクリーン印刷方式で二度刷りした。なお、油性インキとしては、ホワイトインキ(JRP白/(株)セイコーアドバンス製)を用いた。
【0083】
(下地凹凸層の形成)
A液/B液=100部/30部の配合比でインキを調製した以外は実施例1と同様である。
【0084】
(受容層の形成)
下地凹凸層上にスクリーン印刷方式で二度刷りした以外は実施例1と同様である。
【0085】
次に、受容層上にインクジェットプリンターによって絵柄層を形成したところ、実施例1と同様に、岩絵の具独特の凹凸感を有する質感の高い複製画が得られ、更に、紙基材の坪量が実施例1よりも少ないにもかかわらず、紙基材が各層の水分を吸収しなくなり、用紙のカールを防ぎ、インクジェットプリンターの出力がより安定した。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の第1の複製画の一部を模式的に示した断面図である。
【図2】本発明の第2の複製画の一部を模式的に示した断面図である。
【符号の説明】
【0087】
1 紙基材
2 下地凹凸層
3 受容層
4 絵柄層
5 油性インキ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材上に形成された下地凹凸層と、該下地凹凸層上に形成された受容層と、該受容層上に形成された絵柄層を有する複製画であって、前記下地凹凸層は、凸部と凹部の平均高度差が100〜120μmの範囲内であり、凸部又は/及び凹部の形成密度が80〜1500個/cm2の範囲内であることを特徴とする複製画。
【請求項2】
紙基材上に形成された油性インキ層と、該油性インキ層上に形成された下地凹凸層と、該下地凹凸層上に形成された受容層と、該受容層上に形成された絵柄層を有する複製画であって、前記下地凹凸層は、凸部と凹部の平均高度差が100〜120μmの範囲内であり、凸部又は/及び凹部の形成密度が80〜1500個/cm2の範囲内であることを特徴とする複製画。
【請求項3】
前記下地凹凸層は、凸部又は/及び凹部の平均形成密度が480〜520個/cm2の範囲内であることを特徴とする請求項1又は2に記載の複製画。
【請求項4】
前記下地凹凸層は、寒水粉と炭酸カルシウム粉を含有する材料からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の複製画。
【請求項5】
前記寒水粉は粒径が300μm以下であり、その粒度分布において、粒径50〜80μmの範囲内に第一のピークを有し、粒径170〜230μmの範囲内に第二のピークを有しており、前記炭酸カルシウム粉の平均粒径が3〜5μmであることを特徴とする請求項4に記載の複製画。
【請求項6】
前記受容層は、平均粒径が3〜5μm、白色度が98%以上の炭酸カルシウム粉を含有する材料からなることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の複製画。
【請求項7】
紙基材上に、少なくともエチレン酢酸ビニルエマルジョンと寒水粉と炭酸カルシウム粉を含有する水系の下地凹凸層形成用スクリーンインキを用いて、下地凹凸層を形成する工程と、
前記下地凹凸層上に、少なくとも硬化剤を含有する水系の受容層形成用スクリーンインキを用いて、受容層を形成する工程と、
前記受容層上に、インクジェットプリンターによって絵柄層を形成する工程と、
を有することを特徴とする複製画の製造方法。
【請求項8】
紙基材上に、油性インキ層を形成する工程と、
前記油性インク層上に、少なくともエチレン酢酸ビニルエマルジョンと寒水粉と炭酸カルシウム粉を含有する水系の下地凹凸層形成用スクリーンインキを用いて、下地凹凸層を形成する工程と、
前記下地凹凸層上に、少なくとも硬化剤を含有する水系の受容層形成用スクリーンインキを用いて、受容層を形成する工程と、
前記受容層上に、インクジェットプリンターによって絵柄層を形成する工程と、
を有することを特徴とする複製画の製造方法。
【請求項9】
前記下地凹凸層形成用スクリーンインキは、前記エチレン酢酸ビニルエマルジョンを20〜25重量%、前記寒水粉を44〜46重量%含有することを特徴とする請求項7又は8に記載の複製画の製造方法。
【請求項10】
前記寒水粉は粒径が300μm以下であり、その粒度分布において、粒径50〜80μmの範囲内に第一のピークを有し、粒径170〜230μmの範囲内に第二のピークを有しており、前記炭酸カルシウム粉の平均粒径が3〜5μmであることを特徴とする請求項7乃至9のいずれかに記載の複製画の製造方法。
【請求項11】
前記受容層形成用スクリーンインキは、前記硬化剤を6.5〜11.5重量%含有することを特徴とする請求項7乃至10のいずれかに記載の複製画の製造方法。
【請求項12】
前記受容層形成用スクリーンインキは、平均粒径が3〜5μm、白色度が98%以上の炭酸カルシウム粉を含有することを特徴とする請求項7乃至11のいずれかに記載の複製画。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−312306(P2006−312306A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−352853(P2005−352853)
【出願日】平成17年12月7日(2005.12.7)
【出願人】(000162113)共同印刷株式会社 (488)
【Fターム(参考)】