説明

視神経障害抑制剤及びそれを含有する飲食品

【課題】優れた視神経障害抑制作用(視神経細胞減少抑制作用等)を有し、かつ、安全性の高い視神経障害抑制剤、及び、前記視神経障害抑制剤を利用した飲食品を提供すること。
【解決手段】ツルレンゲ(Astragalus complanatus R.Br.)の抽出物を含有することを特徴とする視神経障害抑制剤、及び、前記視神経障害抑制剤を含有することを特徴とする飲食品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ツルレンゲの抽出物を含有する視神経障害抑制剤、及び、前記視神経障害抑制剤を含有する飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
網膜は、視覚的な映像を神経信号に変換する機能を有する組織であり、視機能に関わる重要な役割を果たしている。網膜は、外側から、網膜色素上皮層、視細胞層、外境界膜、外顆粒層、外網状層、内顆粒層、内網状層、神経節細胞層(視神経細胞層)、神経線維層、内境界膜の10層からなり、これらの層構造の中には、視細胞、双極細胞、水平細胞、アマクリン細胞、神経節細胞(視神経細胞)の5種類の神経細胞が存在している。目に入った光は、視細胞で神経信号に変換され、その信号は双極細胞、水平細胞、双極細胞、アマクリン細胞を経て、最終的に神経節細胞(視神経細胞)の軸策(視神経)を経て、脳中枢に伝えられる。
【0003】
この網膜が、例えば虚血状態となると、網膜上にある視神経細胞がダメージを受けて減少し、視神経障害が引き起こされる。視神経障害は視力低下などの重大な問題を引き起こすため、このような視神経障害を防ぐ技術について、従来から広く研究が行われており、例えば、プロポリス抽出物を有効成分とする視機能障害改善剤(特許文献1);セクレターゼ阻害剤を有効成分とする網膜神経細胞保護剤(特許文献2);特定のスルファメート誘導体を有効成分とする視神経細胞保護剤(特許文献3);インターロイキン−1阻害活性を有する化合物を有効成分とする視神経細胞保護剤(特許文献4);などが報告されている。
【0004】
網膜虚血を発症し、視神経障害が引き起こされ得る眼病は数多く存在し、一例では、糖尿病性網膜症、高血圧網膜症、動脈硬化性網膜症、網膜静脈閉塞症などが挙げられる。また近年、緑内障においても、網膜血流循環障害による視神経細胞死に起因して、視野障害が進行することが報告がされており、視神経細胞死を抑制することが緑内障の治療につながるという考え方が確立されつつある。
このようなことから、網膜虚血などに起因する視神経細胞の減少を防ぎ、視神経障害を抑制することのできる薬剤は、様々な眼病の治療又は予防に効果を奏することができることが期待され、したがって、更に新たな視神経障害抑制剤の開発が、未だ望まれているのが現状である。
【0005】
【特許文献1】特開2006−248946号公報
【特許文献2】特開2005−330260号公報
【特許文献3】特開2004−331502号公報
【特許文献4】特開2002−154985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、優れた視神経障害抑制作用(視神経細胞減少抑制作用等)を有し、かつ、安全性の高い視神経障害抑制剤、及び、前記視神経障害抑制剤を利用した飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、ツルレンゲ(Astragalus complanatus R.Br.)の抽出物が、優れた視神経障害抑制作用(視神経細胞減少抑制作用等)を有することを見出し、本発明の完成に至った。 ツルレンゲ(Astragalus complanatus R.Br.)は、マメ科ゲンゲ属の植物であり、ツルゲンゲとも呼ばれ、中国などの山野に生える多年草である。草丈は1m以上、全体が短い剛毛に覆われ、茎はやや扁平で地上をはうように生える。ツルレンゲの種子は円みのある腎臓形で、沙苑子(シャエンシ)とも呼ばれ、肝機能や腎機能を補うなどの薬効があるとされている。しかしながら、ツルレンゲの抽出物が、優れた視神経障害抑制作用を有することは従来全く知られておらず、本発明者らによる新たな知見である。
【0008】
本発明は、本発明者らの前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> ツルレンゲ(Astragalus complanatus R.Br.)の抽出物を含有することを特徴とする視神経障害抑制剤である。
<2> 視神経細胞減少抑制作用を有する前記<1>に記載の視神経障害抑制剤である。
<3> 前記<1>から<2>のいずれかに記載の視神経障害抑制剤を含有することを特徴とする飲食品である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、従来における諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、優れた視神経障害抑制作用(視神経細胞減少抑制作用等)を有し、かつ、安全性の高い視神経障害抑制剤、及び、前記視神経障害抑制剤を利用した飲食品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(視神経障害抑制剤)
本発明の視神経障害抑制剤は、ツルレンゲの抽出物を含有してなり、更に必要に応じて適宜その他の成分を含有してなる。
【0011】
前記視神経障害抑制剤は、視神経細胞減少抑制作用、特に、網膜虚血による視神経細胞の減少を抑制する作用を、少なくとも有するものである。なお、本明細書中において、前記「視神経細胞」を、「神経節細胞」或いは単に「神経細胞」等と称することがある。
前記ツルレンゲの抽出物中に存在すると考えられる、視神経細胞減少抑制作用を発揮する物質の詳細については不明であるが、前記ツルレンゲの抽出物が、このような優れた作用を有し、視神経障害抑制剤として有用であることは、従来には全く知られておらず、本発明者らによる新たな知見である。
【0012】
前記ツルレンゲ(Astragalus complanatus R.Br.)は、マメ科ゲンゲ属の植物であり、ツルゲンゲとも呼ばれ、中国などの山野に生える多年草である。草丈は1m以上、全体が短い剛毛に覆われ、茎はやや扁平で地上をはうように生える。ツルレンゲの種子は円みのある腎臓形で、沙苑子(シャエンシ)とも呼ばれ、肝機能や腎機能を補うなどの薬効があるとされている。
前記ツルレンゲは、中国の遼寧、吉林、河北、陜西、甘粛、山西、内モンゴル等の山野に生え、これらの地域から容易に入手可能である。
【0013】
抽出原料となる前記ツルレンゲの部位としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ツルレンゲの葉部、花部、茎部、果実、種子、根部などを用いることができる。これらの中でも、種子が特に好ましい。
【0014】
抽出原料である前記ツルレンゲは、例えば、乾燥した後に、そのままの状態で、又は粗砕機を用いて粉砕した状態で、溶媒抽出に供することができる。前記乾燥は、例えば、天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。なお、前記ツルレンゲは、ヘキサン、ベンゼン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、ツルレンゲの極性溶媒による抽出処理を、効率よく行うことができる。
【0015】
前記ツルレンゲの抽出物は、植物の抽出に一般に用いられる方法を利用することによって、容易に得ることができる。なお、前記ツルレンゲの抽出物には、ツルレンゲの抽出液、該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、該抽出液の乾燥物、又は、これらの粗精製物若しくは精製物のいずれもが含まれる。
【0016】
抽出に用いる溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、親水性有機溶媒、又は、これらの混合溶媒等を用いることができる。
【0017】
前記抽出溶媒として使用し得る水としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等の他、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、ろ過、イオン交換、浸透圧の調整、緩衝化等が含まれる。なお、前記抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0018】
前記抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5の低級アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2〜5の多価アルコールなどが挙げられ、これら親水性有機溶媒と水との混合溶媒なども用いることができる。なお、前記水と前記親水性有機溶媒との混合溶媒を使用する際には、低級アルコールの場合は水10質量部に対して1質量部〜90質量部、低級脂肪族ケトンの場合は水10質量部に対して1質量部〜40質量部を混合したものを使用することが好ましい。また、多価アルコールの場合は水10質量部に対して1質量部〜90質量部を混合したものを使用することが好ましい。
【0019】
抽出原料である前記ツルレンゲから、視神経細胞減少抑制作用を少なくとも有する抽出物を抽出するにあたって、特殊な抽出方法を採用する必要はなく、室温又は還流加熱下で、任意の抽出装置を用いて抽出することができる。
具体的には、抽出溶媒を満たした処理槽内に、抽出原料としてのツルレンゲを投入し、更に必要に応じて時々攪拌しながら、30分間〜2時間静置して可溶性成分を溶出した後、ろ過して固形物を除去し、得られた抽出液から抽出溶媒を留去し、乾燥することにより抽出物を得ることができる。抽出溶媒量は通常、抽出原料の5〜15倍量(質量比)である。抽出条件は、抽出溶媒として水を用いた場合には、通常50℃〜95℃にて1〜4時間程度である。また、抽出溶媒として水とエタノールとの混合溶媒を用いた場合には、通常40℃〜90℃にて30分間〜4時間程度である。なお、溶媒で抽出することにより得られる抽出液は、抽出溶媒が安全性の高いものであれば、そのまま本発明の視神経障害抑制剤として用いることができる。
【0020】
抽出により得られるツルレンゲの抽出液は、該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、該抽出液の乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物を得るため、常法に従って希釈、濃縮、乾燥、精製等の処理を施してもよい。なお、得られるツルレンゲの抽出液は、そのままでも視神経障害抑制剤として使用することができるが、濃縮液又はその乾燥物としたものの方が利用しやすい。抽出液の乾燥物を得るにあたっては、常法を利用することができ、また、吸湿性を改善するためにデキストリン、シクロデキストリン等のキャリアーを添加してもよい。また、ツルレンゲの抽出物の生理活性の低下を招かない範囲で、脱色、脱臭等を目的とする精製を行うことも可能であるが、未精製のままでも実用上支障はない。なお、精製は、具体的には、活性炭処理、吸着樹脂処理、イオン交換樹脂処理等によって行うことができる。
【0021】
以上のようにして得られるツルレンゲの抽出物は、視神経細胞減少抑制作用を少なくとも有しており、この作用に基づいて、本発明の視神経障害抑制剤の有効成分として好適に利用可能である。
なお、前記視神経障害抑制剤中の、前記ツルレンゲの抽出物の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、また、前記視神経障害抑制剤は、前記ツルレンゲの抽出物そのものであってもよい。
【0022】
また、前記視神経障害抑制剤中に含まれ得る、前記ツルレンゲの抽出物以外のその他の成分としても、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記ツルレンゲの抽出物を所望の濃度に希釈等するための、生理食塩液などが挙げられる。また、前記視神経障害抑制剤中の前記その他の成分の含有量にも、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0023】
本発明の視神経障害抑制剤は、優れた視神経障害抑制作用を有すると共に、安全性に優れるため、例えば、後述する本発明の飲食品などへの利用に好適である。
【0024】
(飲食品)
本発明の飲食品は、前記した本発明の視神経障害抑制剤を含有してなり、更に必要に応じて適宜その他の成分を含有してなる。
ここで、前記飲食品とは、人の健康に危害を加えるおそれが少なく、通常の社会生活において、経口又は消化管投与により摂取されるものをいい、行政区分上の食品、医薬品、医薬部外品、などの区分に制限されるものではなく、例えば、経口的に摂取される一般食品、健康食品、保健機能食品、医薬部外品、医薬品などを幅広く含むものを意味する。
前記飲食品は、ツルレンゲの抽出物を、その活性を妨げないように任意の飲食物に配合したものであってもよいし、ツルレンゲの抽出物を主成分とする栄養補助食品であってもよい。また、前記飲食品は、ツルレンゲの抽出物そのものであってもよい。
【0025】
前記飲食品としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料;アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の冷菓;そば、うどん、はるさめ、ぎょうざの皮、しゅうまいの皮、中華麺、即席麺等の麺類;飴、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子、パン等の菓子類;カニ、サケ、アサリ、マグロ、イワシ、エビ、カツオ、サバ、クジラ、カキ、サンマ、イカ、アカガイ、ホタテ、アワビ、ウニ、イクラ、トコブシ等の水産物;かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品;加工乳、発酵乳等の乳製品;サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂及び油脂加工食品;ソース、たれ等の調味料;カレー、シチュー、親子丼、お粥、雑炊、中華丼、かつ丼、天丼、うな丼、ハヤシライス、おでん、マーボドーフ、牛丼、ミートソース、玉子スープ、オムライス、餃子、シューマイ、ハンバーグ、ミートボール等のレトルトパウチ食品;種々の形態の健康食品や栄養補助食品;錠剤、カプセル剤、ドリンク剤、トローチ等の医薬品、医薬部外品などが挙げられる。
【0026】
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記飲食品を製造するにあたって通常用いられる、補助的原料又は添加物などが挙げられる。
前記補助的原料又は添加物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ブドウ糖、果糖、ショ糖、マルトース、ソルビトール、ステビオサイド、ルブソサイド、コーンシロップ、乳糖、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、L−アスコルビン酸、dl−α−トコフェロール、エリソルビン酸ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アラビアガム、カラギーナン、カゼイン、ゼラチン、ペクチン、寒天、ビタミンB類、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、アミノ酸類、カルシウム塩類、色素、香料、保存剤などが挙げられる。
【0027】
前記飲食品中の、前記視神経障害抑制剤の含有量としては、対象となる飲食品の種類に応じて異なり、一概には規定することができないが、例えば、飲食品本来の味を損なわない範囲で任意の飲食物に配合することを目的とする場合には、有効成分であるツルレンゲの抽出物の量として、0.001質量%〜50質量%が好ましく、0.01質量%〜20質量%がより好ましい。また、例えば、ツルレンゲの抽出物を主成分とする顆粒、錠剤、カプセル形態等の栄養補助飲食品を製造することを目的とする場合には、有効成分であるツルレンゲの抽出物の量として、0.01質量%〜100質量%が好ましく、5質量%〜100質量%がより好ましい。
【0028】
(効果)
本発明の視神経障害抑制剤、及び、本発明の飲食品は、日常的に経口摂取することが可能であり、有効成分であるツルレンゲの抽出物の働きによって、少なくとも、視神経細胞減少抑制作用、特に、網膜虚血による視神経細胞の減少を抑制する作用を、極めて効果的に発揮させることができるものである。そのため、本発明の視神経障害抑制剤、及び、本発明の飲食品は、例えば、網膜虚血等による視神経障害が引き起こされ得る種々の眼病の治療又は予防のために、広く有効であると考えられる。このような眼病としては、例えば、糖尿病性網膜症、高血圧網膜症、動脈硬化性網膜症、網膜静脈閉塞症などが挙げられる。また近年、緑内障においても、網膜血流循環障害による視神経細胞死に起因して、視野障害が進行することが報告がされており、本発明の視神経障害抑制剤、及び、本発明の飲食品は、このような緑内障の治療又は予防のためにも有効であると考えられる。
なお、本発明の視神経障害抑制剤、及び、本発明の飲食品は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、その作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、サルなど)に対して適用することも可能である。また、本発明の視神経障害抑制剤、及び、本発明の飲食品は、天然由来のツルレンゲの抽出物を有効成分としたものであり、安全性に優れる点でも、有利である。
【実施例】
【0029】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0030】
(製造例1:ツルレンゲの水抽出物の製造)
抽出原料としてツルレンゲの種子の粉砕物1,000gを、水5,000mLに投入し、攪拌しながら2時間、90℃に保った後、ろ過した。ろ液を60℃で減圧下に濃縮し、更に減圧乾燥機で乾燥して、抽出物(粉末状)を得た。得られた抽出物の収率を表1に示す。
【0031】
(製造例2:ツルレンゲの30質量%エタノール抽出物の製造)
抽出原料としてツルレンゲの種子1,000gを、30質量%エタノール(水とエタノールとの質量比7:3)5,000mLに投入し、攪拌しながら2時間、還流下に保った後、ろ過した。ろ液を60℃で減圧下に濃縮し、更に減圧乾燥機で乾燥して、抽出物(粉末状)を得た。得られた抽出物の収率を表1に示す。
【0032】
(製造例3:ツルレンゲの70質量%エタノール抽出物の製造)
抽出原料としてツルレンゲの種子1,000gを、70質量%エタノール(水とエタノールとの質量比3:7)5,000mLに投入し、攪拌しながら2時間、還流下に保った後、ろ過した。ろ液を60℃で減圧下に濃縮し、更に減圧乾燥機で乾燥して、抽出物(粉末状)を得た。得られた抽出物の収率を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
(実施例1:視神経細胞減少抑制作用試験)
製造例1〜3の各ツルレンゲ抽出物を被験試料として用い、下記の試験法により、ツルレンゲ抽出物のラット網膜虚血モデルにおける視神経細胞減少抑制作用を試験した。
【0035】
(1)使用動物及び飼育条件
実験動物には、6週齢、165〜196gの雄性SD系ラット(SPF:日本チャールズ・リバー株式会社)を使用した。動物は実験期間を通じて、温度20〜26℃、相対湿度40〜70%、換気回数10〜20回/時間、照明時間12時間(7:00〜19:00)の範囲内に設定したクリーン飼育室内の、ステンレス製ハンガーラック(株式会社ケアリー)に設置されたステンレス製ケージに、2〜3匹ずつ収容して飼育した。飼料には放射線滅菌された粉末飼料(FR−2,株式会社船橋農場)を使用し、飲料水には上水道水を給水瓶により、それぞれ自由に摂取させた。
各群(各ツルレンゲ抽出物1650mg/kg投与群;注射用水投与群)につき、ラット10匹を用い、実験を行った。ラットは、馴化終了時の体重をもとに、完全無作為抽出法により各群にランダムに割り当てた。
【0036】
(2)被験物質の調製
各ツルレンゲ抽出物1650mg/kg投与群で使用する投与液は、各ツルレンゲ抽出物の粉末を乳棒及び乳鉢で注射用水に溶解し、20mL中にツルレンゲ抽出物が1650mg含まれるように調製した。各投与液は全て用事に調製した。
【0037】
(3)ラット網膜虚血モデルの作製及び被験物質の投与
ラットの体重を測定の後、ペントバルビタールナトリウム(50〜75mg/kg)を腹腔内投与し、麻酔した。ラットを固定台に固定し、ラットの体温を体温コントローラーを用いて37℃前後に保った。ラットの眼の位置から液面が170±5cmの高さになるように、生理食塩液(株式会社大塚製薬工場)のボトルをつり上げ、173.3hPa(130mmHg)前後の圧力がかけられるようにし、ボトルに延長チューブを接続して、その先端には注射針(27gauge×3/4inch)を装着した。ミドリンP点眼液でラットの瞳を散瞳させた後、ピンセットで瞼を開きながら針を鼻側から前眼房内に刺入し、45分間の虚血負荷を行った。
各群における被験物質の投与は、虚血前7日間及び虚血後7日間(1日1回、計14日間)、ディスポーザブル注射筒及び経口ゾンデを用いて、経口投与により行った。投与期間中、体重は週2回測定し、投与液量は測定日の体重に基づき、個体別に算出した。なお、虚血及び剖検は、被験物質投与の1時間後に行った。全例、左眼を処置眼とし、右眼をコントロール(無処置眼)とした。
【0038】
(4)一般状態の観察及び病理学的検査
投与期間中は、全例について一般状態及び生死を1日1回観察した。
剖検日にラットを麻酔致死した後、眼球を摘出し、網膜虚血による視神経障害の病理学的検討を行った。摘出眼球(左:処置眼、右:無処置眼)をDavidson液で固定後、視神経乳頭部を通る横断面でパラフィン切片を作製し、ヘマトキシリン・エオジン染色標本を作製した。全例の視神経乳頭より0.5mmの部位を中心として、20倍の対物レンズを用いてディジタル写真撮影を行った。撮影した写真(画像幅:379.23μm)を用いて、神経細胞層(視神経細胞層、神経節細胞層)の神経細胞数(視神経細胞数、神経節細胞数)を算定し、1mm幅当たりの神経細胞数(GCL,cell/mm)を算出した。結果を表2に示す。
【0039】
(5)統計学的方法
測定値は各群ごとに平均値±標準誤差で表した。統計学的手法は、F検定により分散に一様性が認められた場合はStudentのt検定を、分散に一様性が認められなかった場合はAspin−Welchのt検定を用いた。有意水準は5%で表示した。統計解析にはExcel97及び2004(マイクロソフト株式会社)、市販の統計プログラムSAS SYSTEM(Ver.8.02;株式会社SASインスティチュートジャパン)、SAS統計処理システム(株式会社住商情報システム)及びEXSAS(ver.7.16;株式会社サイエンティスト社)を使用した。
【0040】
【表2】

【0041】
表2の結果から、ツルレンゲ抽出物1650mg/kg投与群の処置眼(左)では、注射用水群の処置眼(左)に比べて、神経細胞数(GCL,cell/mm)で有意な増加が認められたことがわかる。
【0042】
以上、前記実施例1の結果から、ツルレンゲ抽出物は、網膜虚血による神経細胞の減少を抑制する、強い作用を有していることが認められた。このことから、ツルレンゲ抽出物は、視神経障害抑制剤として非常に有用であり、網膜虚血等による視神経障害が引き起こされ得る種々の眼病の治療又は予防を目的とした、健康食品、栄養補助食品などに幅広く利用可能であることが示唆された。
【0043】
(配合実施例1:錠剤状栄養補助食品)
下記の混合物を打錠して、錠剤状栄養補助食品を製造した。
・製造例2のツルレンゲ30質量%エタノール抽出物・・・11質量%
・粉糖(ショ糖)・・・52質量%
・グアガム分解物・・・33質量%
・グリセリン脂肪酸エステル・・・4質量%
【0044】
(配合実施例2:顆粒状栄養補助食品)
下記の混合物を顆粒状に形成して、栄養補助食品を製造した。
・製造例1のツルレンゲ水抽出物・・・6.7質量%
・ビートオリゴ糖・・・59.3質量%
・ビタミンC・・・33.3質量%
・ステビア抽出物・・・0.7質量%
【0045】
(配合実施例3:ソフトカプセル状栄養補助食品)
下記の混合物をソフトカプセルに充填して、栄養補助食品を製造した。
・製造例2のツルレンゲ30質量%エタノール抽出物・・・38質量%
・植物油・・・38質量%
・グリセリン脂肪酸エステル・・・4質量%
・ミツロウ・・・20質量%
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の視神経障害抑制剤は、ツルレンゲの抽出物を含むことから、優れた視神経障害抑制作用を有し、かつ、安全性にも優れたものである。したがって、本発明の視神経障害抑制剤は、例えば、網膜虚血等による視神経障害が引き起こされ得る種々の眼病の治療又は予防を目的とした、健康食品、栄養補助食品などに幅広く利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ツルレンゲ(Astragalus complanatus R.Br.)の抽出物を含有することを特徴とする視神経障害抑制剤。
【請求項2】
視神経細胞減少抑制作用を有する請求項1に記載の視神経障害抑制剤。
【請求項3】
請求項1から2のいずれかに記載の視神経障害抑制剤を含有することを特徴とする飲食品。

【公開番号】特開2009−107945(P2009−107945A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−279656(P2007−279656)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【Fターム(参考)】