説明

視覚再生補助装置

【課題】 設置台を介して電子回路と基板との接続状態を良好に保ち、電子回路への体液の侵襲を防ぎ高い信頼性で長期埋植できる視覚再生補助装置を提供する。
【解決手段】 視覚再生補助装置は、複数の配線の一端に網膜を電気刺激する刺激電極が各々設置される基板と、各刺激電極に送信する電気刺激パルスを制御するマルチプレクサからなる制御部と、制御部を封止するためのハーメチック用の底部材及び制御部の設置面と基板との接触面とを有し,制御部と配線との電気接続のため肉厚方向に複数の貫通孔を有するセラミックス焼成体からなる設置台と、銀、モリブデン又はタングステンを導電材料の主材として制御部の設置面側に形成される開口から所定の深さまで充填される第1導電部材と、プラチナ又は金を導電材料として第1導電部材で充填されていない残りの貫通孔に充填される第2導電部材とを有する内部導体を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は患者の視覚を再生するための視覚再生補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、失明治療方法の一つとして、多数の電極を有する装置を眼内等に埋植し、視覚を形成する細胞に対して電極からパルス状の刺激電流を出力して刺激することにより、失われた視覚機能の一部を代行させる視覚再生補助装置の研究がされている。このような視覚再生補助装置は、眼内に置くための体内装置を有し、体内装置には網膜を構成する細胞を電気刺激するための電極と、それを制御するためのマルチプレクサ機能を有する集積回路からなる制御部が設けられている。
【0003】
このような、体内装置を構成する集積回路等の電子回路に体液の侵襲が起こると、回路の機能に悪影響が出るため、体液等から電子回路を保護するための工夫がされている。例えば、電子回路をセラミックス等の生体適合性の良い絶縁材料で形成された設置台に搭載し、生体適合性及び気密性のある素材で形成された金属のケースで覆うことで、電子回路を封止する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このとき、電極が形成されている基板上に設けられた電極と電子回路とを電気的に繋ぐ配線は設置台に設けられた貫通孔に充填された導電部材によってなされる。このような導電部材は、焼成前のセラミックス等で形成された設置台の貫通孔に隙間無く充填された後、焼成されるが、焼成時に設置台と導電部材との間に熱膨張率差があると設置台表面に歪み又はクラックが発生し易く、電子回路の設置に影響を及ぼす。そこで、導電部材に用いられる材料としては、設置台と銀、タングステン又はモリブデン等との熱膨張率の整合性を図るための所定の添加物を混入したものが一般的に使用されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008‐55000号公報
【特許文献2】特開2001‐15869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、タングステン又はモリブデン(及び添加物)の生体適合性は検証されておらず、基板と設置台との境界(隙間)に体液が進入した場合を想定すると採用し難い。また、導電部材として金やプラチナ等の生体適合性が良いとされる導電材料を使用することが考えられるが、前述した設置台との熱膨張率差の影響が大きく、焼成時に設置台が割れたり、歪む等の問題を生じやすくなってしまう。
【0007】
そこで、本発明は上記従来技術の問題点に鑑み、設置台を介して電子回路と基板との電気的な接続状態を良好に保つと共に、電子回路への体液の侵襲を防ぎ高い信頼性で長期埋植ができる視覚再生補助装置を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を備えることを特徴とする。
【0009】
(1) 患者の視覚を再生するための視覚再生補助装置において、所定の配線が複数形成され,各配線の一端に網膜を構成する細胞に電気刺激を与えるための刺激電極が各々設置される基板と、前記各刺激電極に送信する電気刺激パルスを制御するためのマルチプレクサからなる制御部と、該制御部を外部から隔離し封止するためのハーメチック用の底部材とされ前記制御部を設置する面と前記基板に接触させる面とを有する設置台であって,前記制御部と前記配線とを電気的に接続するために肉厚方向に複数の貫通孔を有するセラミックス焼成体からなる設置台と、前記制御部と前記配線とを電気的に接続するために前記貫通孔に充填される内部導体であって,銀、モリブデン、またはタングステンから選ばれる少なくとも1種を導電材料の主材とし前記制御部の設置面側に形成される開口から所定の深さまで充填される第1導電部材と、プラチナ、または金を導電材料として前記第1導電部材にて充填されてない残りの前記貫通孔内に充填される第2導電部材とを有する内部導体と、を有することを特徴とする。
(2) (1)の視覚再生補助装置において、前記第1導電部材は前記設置台を形成する材料の熱膨張率に対して調整を図るための副材を含有し、前記第2導電部材は前記設置台を形成する材料との熱膨張率に対する調整を行うための副材を含有しないことを特徴とする。
(3) (2)の視覚再生補助装置において、前記第1導電部材及び前記第2導電部材に跨って包埋される導電性の接続部材とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、設置台を介して電子回路と基板との電気的な接続状態を良好に保つと共に、電子回路への体液の侵襲を防ぎ高い信頼性で長期埋植が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。図1は視覚再生補助装置の外観を示した概略図、図2は実施の形態で使用する視覚再生補助装置における体内装置を示す図である。視覚再生補助装置1は、外界を撮影するための体外装置10と、網膜を構成する細胞に電気刺激を与えて視覚の再生を促す体内装置20とからなる。体外装置10は、患者が掛けるバイザー11と、バイザー11に取り付けられるCCDカメラ等からなる撮影装置12と、外部デバイス13、一次コイルからなる送信手段14等にて構成されている。
【0012】
外部デバイス13には、CPU等の演算処理回路を有するパルス信号変換手段13aと、視覚再生補助装置1(体外装置10及び体内装置20)の電力供給を行うためのバッテリー13bが設けられている。パルス信号変換手段13aは、撮影装置12にて撮影した被写体像を画像処理し、さらに画像処理データを視覚再生のための電気刺激パルス用データに変換する処理を行う。送信手段14は、パルス信号変換手段13aにて変換された電気刺激パルス用データ、及び後述する体内装置20を駆動させるための電力を電磁波として体内装置20側に伝送(無線送信)することができる。また、送信手段14の中心には磁石15が取り付けられている。磁石15は送信手段14によるデータ伝送効率を向上させるとともに後述する受信手段23との位置固定にも使用される。
【0013】
バイザー11は眼鏡形状を有しており、図1に示すように、患者の眼前に装着して使用することができるようになっている。また、撮影装置12はバイザー11の前面に取り付けてあり、患者に視認させる被写体を撮影することができる。
【0014】
体内装置20は、体外装置10からの電磁波を受信する2次コイルからなると共に、図示を略す磁石により送信手段14を固定する受信手段23と、受信手段23が受信した電気刺激パルス用データと電力を含む電磁波から、電気刺激パルスと,指定された各電極に電気刺激パルスを分配するためのマルチプレクサ制御信号(以下、制御信号と略す)と電力とを抽出する制御部25と、電気刺激パルスを出力させるための複数の電極27が形成された基板21と、制御部25からの電気刺激パルスを各電極27に分配させる制御手段で有るマルチプレクサ40と、基板21とマルチプレクサ40との間に配置され、基板21とマルチプレクサ40とを電気的に接続するための設置台60と、ケーブル22、対向電極26等にて構成されている。
【0015】
基板21は、ポリイミド等の生体適合性の高い樹脂を所定の厚さにおいて折り曲げ可能に長板状に加工したものをベース部とし、この上にリード線21aを複数配線することによって形成される。基板21の配線は、ベース部に周知のフォトレジスト法、真空蒸着法又はスパッタ法等を用いて、耐腐食性の金属材料を蒸着させることによって、図2(a),(b)に示すリード線21aとなる導電層を形成する。導電層の形成後、マスクを取り除き、導電層を被覆するように所定の厚さを有した絶縁層を塗布又は貼り付けする。絶縁層としては、例えば、生体適合性の高いポリイミドやパリレン等の絶縁材料が用いられる。なお、リード線21aの末端位置の絶縁層にRIE(reactive ion etching)等の手法によって孔をあけ、リード線21aの末端を露出させ、ここに導電材料を積層(蒸着)し、設置台60と基板21との電気的な接合部分を形成する。このような工程を経てリード線21aや電極27が形成された基板21が製作される。また、リード線21aを立体的に複数本配線したい場合には、これらの工程を複数回行うことによって、立体配線を形成することができる。
【0016】
また、電極27は、図2(a)に示すように、基板21の長手方向に沿ってマトリックス状の等間隔にて複数個配置、または2次元的に等間隔で互い違いになるように複数個配置され、電極アレイを形成している。このような電極27の個数は、視覚を再生する際の解像度に応じて決定されるが、十数個〜数百個程度形成される。また、電極の設置スペースや配線方法が可能であれば、それ以上の個数があってもよい。なお、前述したように、基板21上に形成される電極27は、金、白金等の生体適合性、耐食性に優れた導電性を有する材料にて、基板21に形成した各リード線21aの末端に各々形成される。
【0017】
設置台60は、絶縁性や、ガスや水分に対する気密性を有する(透過性が低い)と共に、生体適合性を有するセラミックス等の素材にて平板状に形成される。また、設置台60には、マルチプレクサ40が持つパターン配線の端子部分と電気的に接続するための配線61が、設置台60の肉厚方向を貫通するように形成されている。配線61は、マルチプレクサ40を設置台60に接合した時に前述のパターン配線の端子位置に対応する箇所に設けられた貫通孔内に充填されることにより形成されており、配線61を介して基板21とマルチプレクサ40とが電気的に接続される。
【0018】
なお、詳細な説明は後述するが、本実施形態の配線61は2種類の導電材料の接合により形成される導電部材からなる。具体的には、基板21上に設置台60が取り付けられ、さらに設置台60上にマルチプレクサ40が取り付けられた状態で、設置台60に形成された貫通孔に形成(充填)される配線61は、マルチプレクサ40側に設けられた開口(貫通孔口)から所定の深さまでは、設置台60に対して熱膨張率の整合性が図られた第1導電材料の焼成により形成された配線61a(第1配線)が充填され、配線61aにて充填されていない貫通孔の残りの部分には、生体適合性を有する第2導電材料の焼成により形成された配線61b(第2配線)が充填される(図3参照)。
【0019】
例えば、第1導電材料としては主材として銀、タングステン又はモリブデンが1種または複数混合して用いられる。さらに設置台60に対して熱膨張率の整合性を図るための添加剤が副材として所定量混入されたものが使用される。副材としては銅や金属酸化物等が好適に用いられる。また、第2導電材料としては生体適合性の良い金属材料、例えば金や白金が使用される。なお、このような第1導電材料及び第2導電材料はセルロース系あるいはアクリル系樹脂からなる有機バインダーをターピネオール、トリメチルベンゼン、メチルエチルケトン等からなる有機溶剤に溶解して得られた有機ビヒクル(混合物)中に金属粉として分散させ、粘度調整用の希釈剤を加えることにより得られるペーストとして用意される。
【0020】
マルチプレクサ40は、半導体集積回路により構成され、制御部25から送られる電気刺激パルスと制御信号と電力に基づいて、網膜を構成する細胞を刺激する電気刺激パルス(刺激電流)を各電極27に分配する役目を果たす。マルチプレクサ40は、制御部25とケーブル22を介して接続されると共に、各電極27とは設置台60の配線61を介して、基板21に配線されたリード線21aと電気的に接続される。
【0021】
蓋部材80は、生体適合性、気密性の高い素材、例えば、セラミックスやチタン、白金、金等の金属でマルチプレクサ40を覆うような形状に成型される。例えば、図4に示す蓋部材80は断面形状がハット状に形成され、設置台60と接合するための鍔部81を有する。蓋部材80は、マルチプレクサ40を収めることができる程度の大きさ及び内部空間を有し、内部空間の高さは設置台60に接合されたマルチプレクサ40の上面よりも僅かに高い程度とされる。このような蓋部材80は、既知のセラミックス加工技術や板金技術等で作製され、蓋部材80の厚み(肉厚)は好ましくは数十μm〜500μm程度、さらに好ましくは100μm〜200μm程度に薄く形成される。このような蓋部材80及び設置台60によりマルチプレクサ40がハーメチックシールされる(詳細な説明は後述する)。
【0022】
制御部25は、受信手段23にて受信された電磁波に含まれる電気刺激パルス用データと電力とを分ける回路、電気刺激パルス用データを基に視覚を得るための電気刺激パルスとマルチプレクサ制御信号を得るための変換回路や、変換した電気刺激パルス及びマルチプレクサ制御信号をマルチプレクサ40へ送るための電気回路等のいくつかの制御回路を有する半導体集積回路(LSI)からなる。このような構成を有する制御部25により電気刺激パルス用データが変換処理され、変換処理によって生成された電気刺激パルスと制御信号がマルチプレクサ40へ送られる。電気刺激パルスとマルチプレクサ制御信号を受け取ったマルチプレクサ40は、マルチプレクサ制御信号に応じて、網膜を構成する細胞を刺激する電気刺激パルスを各電極27へと送る(分配する)。つまり、マルチプレクサ40によって電気刺激パルスが制御される。なお、多数の各電極27は、設置台60の配線61を介してマルチプレクサ40と各々独立して接続される。ケーブル22は、絶縁性を有する生体適合性の高い材料(図示を略す)にて被覆されており、受信手段23(制御部25)とマルチプレクサ40とを電気的に接続するために用いられる。
【0023】
以上のような構成の視覚再生補助装置1の製造方法について、設置台60の作製方法を中心に説明する。図3は設置台60の作製手順の説明図である。設置台60は、ファインセラミックス(ニューセラミックス)の既存の成型技術により作製される。本実施形態では、酸化物セラミックス(アルミナ)を材料とする場合を例に挙げて説明するが、これ以外にもガラスセラミックス等、絶縁性を有すると共に生体適合性を有する材料が選択されれば良い。
【0024】
はじめに、アルミナの粉末を用いて板状の層を形成する。なお、本実施形態の設置台60は後述の方法により、3つの板状の層を一体化させることにより形成される。この場合、最もマルチプレクサ40側に配置される層を第1層62、中間位置の層を第2層63、最も基板21側に配置される層を第3層64とする。各層62〜64は、アルミナの粉末をプレス成型又は圧延成型など周知の方法で加工することにより形作られる。例えば、各層62〜64は0.15mmの均一な厚さとなるように加工される。これ以外にも、設置台60を形成する層は、少なくとも1層であって、2層以上から構成されていてもよい。この場合、各層の厚さは成型後の設置台60が所望の厚さに形成されるように設定されれば良い。また、各層の厚さは均一に形成されていれば、層毎に厚さが異なっていても良い。
【0025】
次に、各層62〜64に対して、マルチプレクサ40のパターン配線の端子位置に対応する位置に複数の貫通孔70を形成させる(各層62〜64の肉厚方向に貫通孔70a〜70cを形成させる)。貫通孔70は、パンチ、マイクロドリル、レーザ照射等により形成することができ、ここでは、各層62〜64に対して直径約100〜200μmの貫通孔70を同じように複数形成させるとする。
【0026】
次に、層62の貫通孔70aと層63の貫通孔70bに第1導電材料を充填させる。なお、ここでは、銀、タングステン又はモリブデンと熱膨張率を調整するために銅等の所定の添加物とが混合された材料を第1導電材料として使用する。なお、ここでいう熱膨張率を調整する(整合性をとる)という意味は、焼成前の設置台60の貫通孔に第1導電材料を充填し高温で焼成した際に、設置台60の熱膨張と第1導電材料の熱膨張とによって設置台60にマルチプレクサ40を設置する際に障害となる歪みや割れが生じないように、第1導電材料側の熱膨張率を調整することをいう。
【0027】
つまり、設置台60を形成する材料の熱膨張率に対する第1導電材料の熱膨張率の差が大きいと、焼成による熱膨張によって設置台60と第1導電材料により形成される配線61aとが干渉してしまい、歪又は割れが発生してしまう原因となる。そこで、熱膨張率の調整により設置台60を形成する材料の熱膨張率と第1導電材料の熱膨張率とが略等しくなるようにすることで、これを防ぐことができるようになる。
【0028】
上述した第1導電材料を構成する金属粉を有機バインダーとなる樹脂を有機溶剤に溶かした有機ビヒクル中に分散させ、ペーストを作る。これにより、第1導電材料の形を自由に変形することができるようになる。次に、図3(a)に示すように、第1導電材料のペーストを、貫通孔70aに隙間が無いように詰める。また、図示は略すが第2層63の貫通孔70bにも配線61aを形成するための第1導電材料のペーストを隙間無く充填する。このとき、重なり合う層62と層63との位置合わせを考慮して、これらの境界面には第1導電材料のペーストが多めに充填されると良い。このようにすると、層62と層63との重ね合わせにより隣合う配線61a同士が好適に接続されるようになる。また、層63と層64との位置合わせを考慮して、これらの境界面にもペーストが多めに充填されると良い。なお、本実施形態では設置台60を形成する3層のうち、2層分に第1導電材料のペーストを充填し、残りの1層に第2導電材料のペーストを充填するものとしているが、これに限るものではない。例えば、設置台60を形成する3層のうちマルチプレクサ40側の1層に第1導電材料のペーストを充填させ、残りの2層に第2導電材料のペーストを充填させても良い。また、3層のうちマルチプレクサ40側の1層の途中まで第1導電材料のペーストを充填させ、残りに第2導電材料のペーストを充填させても良い。つまり、貫通孔70に充填される第2導電材料の充填深さが第1導電材料の充填深さよりも深くなっていればよい。
【0029】
次に、図3(b)に示すように、貫通孔70a〜70cの位置が一致するように各層62〜64を重ね合わせ、所定の温度、所定の圧力で数分間熱圧着により一体化させる。なお、図示は省略するが、貫通孔70a、70bに第1導電材料のペーストが充填された焼成前の状態で、層62と層63の接続部分に銀、タングステン、又はモリブデン等による金属の膜を印刷させると良い。このようにすると、層62と層63との電気的な接続状態をより良好にすることができる。なお、金属の膜は層62と層63の接続位置で表面全体に印刷する他、貫通孔70a及び70bを含む所定範囲内で行っても良い。
【0030】
次に、重ね合わせた層62〜64を、周知の炉での高温加熱により1回目の焼成を行う。なお、層62〜64にアルミナを用いる場合、炉の温度は、例えば、1500〜1800℃(純度90〜97%のアルミナは1500〜1600℃、純度99%以上の高純度アルミナの場合は1500〜1800℃)に設定されれば良い。 炉による高温加熱により、アルミナが若干膨張すると共に第1導電材料のペーストの溶媒が蒸発して焼成する。また、加熱後の冷却による収縮で貫通孔70の内径が狭まることによって、貫通孔70a及び貫通孔70bに配線61aが隙間無く形成される(図3(c)において、貫通孔70の収縮前の状態を点線で、収縮後の状態を実線で示している)。
【0031】
マルチプレクサ40が配置される側に、アルミナの熱膨張率に対して整合性が図られた第1導電材料による配線61aが形成されることで、設置台60の表面の歪又はクラックの発生が抑制されて、層62側の表面状態が平らになり、マルチプレクサ40と設置台60とが電気的に好適に接続させることができるようになる。また、何も充填されていない貫通孔70cが形成されている層64の表面状態も平らになるので、基板21と設置台60とが好適に接続される。
【0032】
次に、図3(c)に示すように、1回目の焼成により層62〜64と配線61aが焼成された状態で、貫通孔70cに第2導電材料である白金を含むペーストを詰め込む。なお、このペーストも前述同様に金属粉(白金)を有機バインダーとなる樹脂を有機溶剤に溶かした有機ビヒクル中に分散させることによってペーストが得られ、自由に形を変形することができるようになっている。
【0033】
貫通孔70cに白金が充填された状態で、2回目の焼成を行う。この時、炉の温度は白金の焼成の開始温度よりも高く、白金の融点よりも低い温度に設定される。2回目の焼成によって白金のペーストの溶媒が蒸発することにより白金が焼成され、これにより貫通孔70cに配線61bが形成される。なお、2回目の焼成によって白金のみが残り、これにより生体適合性を有する白金のみによる配線61bが形成される。
【0034】
ところで、白金の熱膨張率はアルミナの熱膨張率に比べて高い。しかし、1回目の焼成により設置台60が焼き固められることでその形状が固定され、2回目の焼成では設置台60の形状は変化しない。その為、第2導電材料である白金の焼成による配線61bが貫通孔70cに隙間無く配置されると共に、基板21が接続される層64の表面状態が平らに保たれる。また、1回目の焼成により形成された第1導電材料からなる配線61aと白金による配線61bとが接着され、これにより配線61a〜61bが電気的に接続されるようになる。
以上のように、層62〜64により形成される設置台60に配線61が形成されたら、
上記の処理により作製されたものの余分なところをカット、グラインド等することにより、図3(d)に示すような設置台60が完成される。
【0035】
次に、以上のように形成された設置台60とマルチプレクサ40とを接合する。図4は体内装置20の作製方法の説明図である。始めに図4(a)に示すように、設置台60とマルチプレクサ40を接合する。マルチプレクサ40のパターン配線の端子部分(ボンディングパッド)に既存技術を用いて予め金等によりバンプ42を形成しておき、バンプ形成面を設置台60に対向した状態で、設置台60の配線61とバンプ42とを位置合せして当接させる。この時、設置台60の表面(層62の外側表面)が平らに形成されているので、マルチプレクサ40の各端子はバンプ42を介して好適に接続される。
【0036】
その後、フリップチップ実装により、両者を接合させる。このフリップチップ実装は、高温高圧により、金属同士であるパターン配線の端子部分と配線61とをバンプ42を介して強固に接合させる。なお、マルチプレクサ40と設置台60の間隙には、絶縁性を有するフィラー(接着剤)が充填される。フィラーにより、マルチプレクサ40と設置台60の接合度が増すと共に、接合時のマルチプレクサ40上のパターン配線等が保護される。また、フィラーが間隙に充填されることで、接合箇所の空気が排除される。なお、マルチプレクサ40と設置台60の接合は、超音波、高圧力、熱を用いるものであってもよい。また、マルチプレクサ40と設置台60の間隙には、接合後に、エポキシ等が流入される構成でもよい。
【0037】
次に、図4(b)に示すように、設置台60と蓋部材80とを接合する。この工程は、不活性ガス(アルゴンや窒素ガス)雰囲気下で行う。ここでは不活性ガスとしてアルゴンを用いる。これにより、蓋部材80の内部空間は、アルゴンで充填される。アルゴン雰囲気下で、設置台60上にメタライズ処理により形成された図示なき金属層と蓋部材80の鍔部81とを位置合せし、当接させる。その後、鍔部81を図示なきローラで加熱、加圧しながら、なぞることによって、メタライズ処理により形成された金属層と鍔部81とがシーム接合される。
【0038】
このように設置台60と蓋部材80とが接合されることにより、マルチプレクサ40は密封され、外部から保護されることとなる。つまり、設置台60と蓋部材80にて、マルチプレクサ40のハーメチックシール用のケースが構成される。また、設置台60の配線61とケーブル22とを接合しておく。ケーブル22の先端を配線61に当接させ、高温高圧下で接合させる。金属同士のケーブル22と配線61は強固に接合される。
【0039】
最後に、図4(c)に示すように、設置台60におけるマルチプレクサ40が接合された面と反対の面に基板21を接合させる。前述の工程と同様に、設置台60に予め形成しておいたバンプ62とリード線21aの外部への露出部分を位置合せして当接させる。このとき、設置台60の表面(層64の表面)は1回目の焼成により平らに形成されているので、設置台60と基板21とが電気的に好適に接続されるようになる。
【0040】
その後、当接部に超音波等をかけることにより、設置台60と基板21を接合させる。このとき、設置台60と基板21の間隙は、生体適合性を有するエポキシ樹脂にて充填する。なお、設置台60と基板21の接合では、バンプ62を設置台60に形成する構成としたが、これに限るものではない。基板21の露出するリード線21a上にバンプを形成する構成としてもよい。
【0041】
以上の一連の接合後、電極27以外の基板21全体を、生体適合性の高い樹脂(シリコーン、パリレン、生体適合性の高いポリイミド等)で包埋する。樹脂での包埋により、さらにマルチプレクサ40は、生体と接触しないように密封されることとなる。
【0042】
図5に体内装置20が眼Eの内部に埋植された状態の概略図を示す。基板21の電極27が配置された厚みの薄い部分は脈絡膜E2上に設置される。一方、基板21のマルチプレクサ40等が配置された厚みのある部分は、ここでは、強膜E3の外側に配置される。ところで、体液が設置台60側に流れ込む可能性があるが、設置台60の基板21側には生体適合性の良い白金による配線61bが配置されているので、体液が配線61bまで到達したとしても生体への悪影響は発生しない。また、体液が貫通孔70の内部に僅かでも侵入する可能性が残ることを考慮すると、貫通孔70には、生体適合性を有する第2導電材料の焼成による第2配線が出来るだけ深く形成されることが好ましい。
【0043】
以上のような構成を備える視覚再生補助装置において、視覚再生のための動作を図6に示す制御系のブロック図を基に説明する。撮影装置12により撮影された被写体の撮影データ(画像データ)は、パルス信号変換手段13aに送られる。パルス信号変換手段13aは、撮影した被写体を患者が視認するために必要となる所定の帯域内の信号(電気刺激パルス用データ)に変換し、送信手段14より電磁波として体内装置20側に送信する。
【0044】
また同時に、パルス信号変換手段13aは、バッテリー13bから供給されている電力を前述した信号(電気刺激パルス用データ)の帯域と異なる帯域の信号(電力)に変換し、電磁波として電気刺激パルス用データと合わせて体内装置20側に送信する。
【0045】
体内装置20側では、体外装置10より送られてくる電気刺激パルス用データと電力とを受信手段23で受信し、制御部25に送る。制御部25では受けとった信号から、電気刺激パルス用データが使用する帯域の信号を抽出する。制御部25は、抽出した電気刺激パルス用データに基づいて、各電極27に分配される電気刺激パルスと、電気刺激パルスの分配を制御するマルチプレクサ制御信号を生成し、その電気刺激パルスとマルチプレクサ制御信号をマルチプレクサ40へと送る。マルチプレクサ40は受け取ったマルチプレクサ制御信号に基づいて、電気刺激パルスを複数の各電極27へと分配し、電気刺激パルスを各電極27より出力させる。各電極27から出力される電気刺激パルスによって網膜を構成する細胞が刺激され、患者は視覚を得る。
【0046】
なお、上記では、設置台60を3層構造にした場合を説明したが、設置台60は1層構造でも良い。図7に設置台60の変用例1として貫通孔70付近の断面拡大図を示す。この場合は、所定の厚み(例えば、0.45mm厚)を有する1層構造の設置台60に貫通孔70を設け、貫通孔70途中まで第1導電材料を充填させて1回目の焼成を行う。次に、第1導電材料が充填されていない残りの貫通孔70に第2導電材料を充填させて2回目の焼成を行う。このようにすると、より簡単に上記と同様の効果を奏する設置台60を形成することができるようになる。
【0047】
これ以外にも、図8に設置台60の変容例2として示すように、第1導電材料と第2導電材料とはバルク状の導電性の接続部材90を介して接続するようにしても良い。なお、接続部材90としては、白金など生体適合性を有する金属が使用されることが好ましい。この場合、設置台60の貫通孔70の途中まで、ペースト状の第1導電材料を充填させた状態で、接続材料90の一部を埋め込む。この状態で1回目の焼成を行い、その後、第1導電材料が充填されていない残りの貫通孔70に第2導電材料を充填させて、2回目の焼成を行う。このようにすることにで、接続部材90が第1導電材料と第2導電材料とに跨って包埋されるので、焼成後に第1導電材料及び第2導電材料により形成される配線61a及び61bの物理的な接続状態が良好となり、貫通孔70から抜け落ち難くできる。また、電気的な接続状態もより良好にできるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】視覚再生補助装置の外観を示した概略図である。
【図2】視覚再生補助装置の体内装置を示す図である。
【図3】設置台の作製手順の説明図である。
【図4】体内装置の作製方法の説明図である。
【図5】体内装置が眼内に埋植された状態の概略図である。
【図6】制御系のブロック図である。
【図7】変用例1の貫通孔付近の断面拡大図である。
【図8】変用例2の貫通孔付近の断面拡大図である。
【符号の説明】
【0049】
1 視覚再生補助装置
10 体外装置
20 体内装置
21 基板
27 電極
40 マルチプレクサ設置台
60 設置台
61 配線
61a 第1配線
61b 第2配線
70 貫通孔
80 蓋部材
90 接続部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の視覚を再生するための視覚再生補助装置において、
所定の配線が複数形成され,各配線の一端に網膜を構成する細胞に電気刺激を与えるための刺激電極が各々設置される基板と、
前記各刺激電極に送信する電気刺激パルスを制御するためのマルチプレクサからなる制御部と、
該制御部を外部から隔離し封止するためのハーメチック用の底部材とされ前記制御部を設置する面と前記基板に接触させる面とを有する設置台であって,前記制御部と前記配線とを電気的に接続するために肉厚方向に複数の貫通孔を有するセラミックス焼成体からなる設置台と、
前記制御部と前記配線とを電気的に接続するために前記貫通孔に充填される内部導体であって,銀、モリブデン、またはタングステンから選ばれる少なくとも1種を導電材料の主材とし前記制御部の設置面側に形成される開口から所定の深さまで充填される第1導電部材と、プラチナ、または金を導電材料として前記第1導電部材にて充填されてない残りの前記貫通孔内に充填される第2導電部材とを有する内部導体と、
を有することを特徴とする視覚再生補助装置。
【請求項2】
請求項1の視覚再生補助装置において、前記第1導電部材は前記設置台を形成する材料の熱膨張率に対して調整を図るための副材を含有し、前記第2導電部材は前記設置台を形成する材料との熱膨張率に対する調整を行うための副材を含有しないことを特徴とする視覚再生補助装置。
【請求項3】
請求項2の視覚再生補助装置において、前記第1導電部材及び前記第2導電部材に跨って包埋される導電性の接続部材とを有することを特徴とする視覚再生補助装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−115287(P2011−115287A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273850(P2009−273850)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(000135184)株式会社ニデック (745)
【Fターム(参考)】