説明

視覚障害者誘導用ブロック

【課題】視覚障害者誘導用ブロックの平面状本体と、そのうえに形成される突起との接着強度、表面の凹凸による識別性及び輝度差による視認性を高め、突起の耐摩耗性、弾性係数を高くし、且つ防滑性等諸物性を高める。
【解決手段】型締圧200t〜400t、射出容量 主400〜600cc、副100〜200ccでそれぞれL/D=20〜30、圧縮比2.5〜3.5の射出ヘッドを備えた異種材料が成型可能な射出成型機を用い、点状突起成形用金型に黒色顔料を配合した熱可塑性ポリウレタン配合物を射出し、次に金型をスライドさせて、平面状本体成形用金型に黄色顔料を配合したオレフィン系熱可塑性エラストマー配合物を射出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、視覚障害者誘導用ブロックに関するもので、より詳細に述べると、視覚障害者誘導用ブロックを構成する平面状本体部と突起との一体性を高め、且つ弱視者を含む視覚障害者、及び高齢者による視認性を向上させた視覚障害者誘導用ブロックに関する。
本発明で使用する用語「視覚障害者」は、弱視者、高齢者等弱者を包含する広義で解釈されるべきである。
【背景技術】
【0002】
用語の定義
いわゆる視覚障害者誘導用ブロックに関しては、平成13年9月20日「視覚障害者誘導用ブロック等の突起の形状・寸法及びその配列」がJIS T 9251として制定された。
【0003】
さらに、平成13年11月29日国土交通省により「道路の移動円滑化整備ガイドライン(基礎編)」が策定された。当該ガイドラインでは、「視覚障害者誘導用ブロッック」を、「視覚障害者に対する誘導又は段差の存在等の警告若しくは注意喚起を行なうため路面に敷設されるブロックをいう。」と定義している。従って、本発明でもその定義を採用する。
【0004】
従来、当業者によっては、ブロックの上に線状突起を形成し、視覚障害者に対して、前方の危険の可能性若しくは歩行方向の変更の必要性を予告すること又は歩行方向を案内するブロックを誘導用ブロッックと呼称し、また、ブロックの上に点状突起を形成し、視覚障害者に対して、横断歩道であることを注意を喚起したり、出入口や案内板等の誘導対象施設の位置を示すブロックを注意喚起用ブロッックと呼称している。然しながら、本発明の定義では、これらの両者を包含することとする。
【0005】
従来当業者は、視覚障害者用点字タイル、点字ブロック、歩行誘導体、誘導マーカ−、案内鋲等恣意的に使用していたが、本発明の視覚障害者誘導用ブロックは、従来から使用されていたこれら類似の用語を包含する。
【0006】
図1〜4は、前記JISで規定された視覚障害者誘導用ブロックの形状を記載する。図1は、平面状本体2の上に点状突起3が形成された視覚障害者誘導用ブロック1の正面図である。図2は図1の断面図である。
【0007】
図1及び図2に示したように、視覚障害者誘導用ブロック1は、長さ及び幅が300mm以上の正方形の平面状本体部2と、その表面の一体に形成された点状突起3から構成されている。点状突起3は、内径aが12mm、外径bが(内径a+10)mm、高さcが5mmで、隣接する点状突起3同士の心−心間隔dが55〜60mmで、最低25個(5×5)形成することと規定されている。
【0008】
さらに、図3及び図4に示したように、視覚障害者誘導用ブロック1は、長さ及び幅が300mm以上の正方形の平面状本体部2と、その表面の一体に形成された線状突起4から構成されている。線状突起4は、下底幅eが27mm、上底幅fが17mm、上底長hが270mm以上、下底長iが、上底長(h+10)mmで、隣接する線状突起4同士の心−心間隔jが75mmで、最低4本形成することと規定されている。
【0009】
従来、視覚障害者誘導用ブロックは、平面状本体部2、点状突起3、及び線状突起4の全てが、主として安全色という理由だけで、黄色の単一色で形成されていた。この理由は、色彩のもつ機能とその心理作用を、災害防止に応用することを目的として、表面色、色光、蛍光色を含めた安全色に関して15件のJISが制定されているからである(JIS Z9101, 9104, 9106)。その中で、黄色(マンセルの表示記号で2.5Y8/13)は、注意を示す表示事項として、「注意標識」等が使用例として例示されている。
【0010】
ところで、視覚障害者の行動範囲が広くなるにつれて、視覚障害者誘導用ブロックは、前述した一般道路の歩道や駅構内、プラットホームだけではなく、地下街、事務所ビル、学校、病院・診療所、美術館・博物館、劇場・ホール、会館、ホテル(ロビー、客室、宴会場)、銀行、店舗、大規模店舗、店舗街のプロムナード、スポーツ施設、公園等と広範な箇所に敷設することが要求され、また実際に敷設されるようになってきている。
【0011】
これらの箇所では採光度も、照明計画も照明設計もそれぞれ異なっている。また、近年、床面に敷設する材料も、従来のようなモノト−ンのアスファルト、或いはコンクリートだけではなく、様々に着色したゴム、プラスチック、カラーインターロッキングブロック、カラータイル、カラー弾性舗装材、アンツーカー、石材、木材等多種多様な床材が、単品で或いは組み合わせて使用されてきている。
【0012】
視覚障害者誘導用ブロックは、視覚障害者が足の裏や白杖の先端で誘導ブロックの表面の点状突起や線状突起を識別して、また、弱視の人は、突起だけではなく、誘導ブロック自体の色や敷設箇所の周辺の色とのコントラストを視認して進行方向や危険な個所を認識するものである。
【0013】
従って、前述したように、採光度も照明計画も照明設計も異なり、さらに、材料も色も多種多様な路面或いは床面に、平面状本体部と突起が、主として黄色の単一色で形成された視覚障害者誘導用ブロックを敷設した場合、弱視の人が、視覚障害者誘導用ブロックと周辺の色とのコントラストを視認することが困難か不可能という欠陥が生じる。
【0014】
その欠陥を解消するために、視覚障害者誘導用ブロックの平面状本体と突起の色調を変えて、弱視者が視認、識別し易くする方法が提案されている。
【0015】
たとえば、特許第3422750号公報は、概略、「本発明において、多色点字タイル及び点字ブロック又は歩行誘導体の平面状本体と突起の色調の違いを輝度の違い、即ち輝度比で表すと、前記平面状本体及び笠部と突起の輝度比が1.5〜2.5であることが好ましい。」と記載している。
【0016】
然しながら、特許第3422750号公報記載の発明は、平面状本体と突起の色調の違いを決定するに当たり、色彩学或いは色覚学等から、本格的且つ具体的に検討した情報、知見を与えるものではない。
【0017】
さらに、特許第3422750号公報に記載された発明では、平面状本体の材料としてSBR又はEPDMが好ましいこと、また突起の材料としてポリフェニレンエーテルが好ましいと記載している。然しながら、これは、平面状本体の材料と、突起の材料の組み合わせが極めて狭く、加工性、成形性等に改良の余地がある。
【0018】
さらに、特許第3422750号公報に記載された発明では、突起に陥入部を設け、その陥入部に平面状本体より硬度が高いポリフェニレンエーテルを嵌合させている、即ち、突起の一部を平面状本体と色調、材料を変えてある。従って、弱視者による視認性、識別性が小さいという改良点がある。
【0019】
従来のように、平面状本体と線状突起或いは点状突起を、同一材料で黄色の単一色で成形する場合は、成形は容易にできるが、平面状本体と線状突起或いは点状突起を、異なる材料で異なる色で成形する場合には、材料の組み合わせ、加工方法等に工夫が要求される。
【0020】
【特許文献1】特許第3422750号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
発明が解決しようとする第1の課題は、視覚障害者にとっては、足の裏や白杖の先端で誘導ブロックの表面の突起を識別して、また、弱視の人にとっては、突起だけではなく、誘導ブロック自体の色や敷設箇所の周辺の色とのコントラストを視認して進行方向や危険な個所を認識することができる視覚障害者誘導用ブロックを提供することである。
【0022】
発明が解決しようとする第2の課題は、視覚障害者誘導用ブロックに形成される突起の耐摩耗性を向上させることである。
【0023】
発明が解決しようとする第3の課題は、視覚障害者誘導用ブロックを、突起と平面状本体を接着処理しなくても強固に接着する材料の組み合わせを選択し、それにより視覚障害者誘導用ブロックの加工性を向上させることである。
【0024】
発明が解決しようとする第4の課題は、視覚障害者誘導用ブロックの耐候性(耐変色性)を向上させることである。
【0025】
発明が解決しようとする第5の課題は、視覚障害者誘導用ブロックの成型性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
前記課題を解決するために、先ず、視覚障害者誘導用ブロックに要求される基本的物性、機能を考察する。視覚障害者誘導用ブロックの突起に要求される物性、機能は、第1に、耐摩耗性に優れることである。
【0027】
前記JISで規定された突起の形状は、JISが規定される前の従来の形状よりも小さくなり、且つピッチが大きくなった。従って、視覚障害者への識別性が向上するが、一方、歩行による単位面積当たりの荷重が大きく、引かかり易いという欠点も発生する。このために、従来の突起の形状と比較してさらに耐摩耗性の向上が要求される。
【0028】
次に、視覚障害者誘導用ブロックに要求される物性は、突起と平面状本体が接着処理しなくても強固に接着することである。平面状本体の厚さは、通常2ミリ程度なので、突起を係止するための係止部を設けることは加工上困難である。従って、突起と平面状本体を同時成型することにより、強固に接着する二種類の材料系を選択することが必要である。
【0029】
さらに、視覚障害者誘導用ブロックの突起に要求される物性、機能は、弾性係数が高く、かつ滑り難いことである。この両者は相反する物性であるが、前記JISの規定により、突起が小さく規定されたので、突起全体を平面状本体と違う材質にすることが必要不可欠である。特許第3422750号の様に、部分的では弱視者による視認性、識別性が小さい。視覚障害者への識別性を維持するためには人の足裏による圧縮、せん断による変形が少ないことが必要である。
【0030】
上記の諸点を勘案して、視覚障害者誘導用ブロックの平面状本体の材料として熱可塑性エラストマーを策定した。
【0031】
熱可塑性エラストマー(以下、「TPE」と略記する)は、常温では加硫ゴムと同じような性質をもち、弾性のあるのが特徴であり、高温では熱可塑性樹脂と同じく、従来の成形機を使用して成形できる材料である。TPEは、分子中に弾性をもつゴム成分(ソフトセグメント、或いは軟質相)と塑性変形を防止するための分子拘束成分(ハー分(ソフトセグメント、或いは軟質相)をもっている。ハードセグメントとソフトセグメントの加硫度、種類、分子量、配列によって組み合わせて多種多様なTPEが製造されている。
【0032】
TPEの最大の特徴は、通常の熱可塑性樹脂の成形機で加工出来る点にあり、成形サイクルが短く、スクラップの再生利用が可能であり、またゴムと違って、素練り工程、加硫工程が必要なく、省資源、省エネルギー及び作業環境改善に資することができる。
【0033】
本発明で使用されるTPEとしては、スチレン系(スチレン・ブロック。コポリマー、SBC)、オレフィン系(TPO)、ウレタン系(TPU)、ポリエステル系(TPEE)、ポリアミド系(TPAE)、1,2−ポリブタジエン系、塩ビ系(TPVC)、フッ素系、アイオノマー樹脂、塩素化ポリエチレン、シリコーン系等がある。
【0034】
本発明で使用されるスチレン系TPEは、一般に、ポリスチレンブロックとゴム中間ブロックとを有し、ポリスチレン部分が機械的架橋(ドメイン)を形成して橋架け点となり、中間のゴムブロックは製品に弾性を与える。
【0035】
中間のソフトセグメントには、ポリブタジエン(B)、ポリイソプレン(I)、及びポリオレフィン(エチレン・ブチレン、EB)の3種類がある。ハードセグメントのポリスチレン(S)との配列状態によって、直鎖状(リニアタイプ)及び放射状(ラジカルタイプ)とに別れ、それぞれ、S−B−S、S−I−S、S−EB−S、(S−B)nXと略記される。
【0036】
これらスチレン系TPEは、S−B−Sが、旭化成、シェルジャパン、日本合成ゴム、電気化学、日本エラストマー等から入手可能である。S−I−Sが、シェルジャパン、日本合成ゴム、日本ゼオンー等から入手可能である。S−B−Sコンパウンドが、アロン化成等から入手可能である。S−EB−Sが、旭化成、シェルジャパン等から入手可能である。S−EB−Sコンパウンドが、アロン化成、三菱油化、住友化学等から入手可能である。
【0037】
本発明で使用するスチレン系TPEは、前述したようにTPEに共通の性質である素練り工程及び加硫工程が不要である他に、広範な溶剤に可溶で、溶解速度が速く、溶液粘度が低き、通常の熱可塑性樹脂と同じように、溶液状態で加工できる。配合剤を添加したコンパウンドとしても使用できる。また、スチレン系TPEには、プロセスオイル、各種充填剤、ポリスチレンのような樹脂系加工助剤を添加して、流動性や物性を改良することができる。また、硫黄、過酸化物によって化学的架橋を行うこともできる。
【0038】
本発明で使用するスチレン系TPEは、高強度、高弾性、低温特性がよく、耐酸、耐アルカリ性に優れている。特に、S−EB−Sは、中間ポリブタジエンブロック部分を水素添加して飽和にし、残存二重結合のないS−EB−Sをベースにしたブロック共重物で、従来の不飽和タイプのTPEでは限界のあった耐候性、耐熱性を向上させてあるので、特に好ましい。
【0039】
本発明で使用されるオレフィン系TPEは、ハードセグメントにポリプロピレンやポリエチレンなどの熱可塑性結晶質ポリオレフィンを使用し、ソフトセグメントに、完全加硫または部分加硫したゴムを使用したブレンドである。
【0040】
本発明で好ましく使用されるオレフィン系TPEは、熱可塑性結晶質ポリオレフィン10〜90質量部と、完全加硫または部分加硫したゴム90〜10質量部とのブレンドである。この場合の熱可塑性結晶質ポリオレフィンは、1〜4個の炭素原子を有するαーオレフィンのホモポリマー又は2種以上のコポリマーである。特に、ポリエチレン又はポリプロピレンが好ましい。ソフトセグメント成分は、プチルゴム、ハロブチルゴム、EPDM、EPRゴム、アクリロニトリル/ブタジエンゴム、NBR、天然ゴム等である。に、完全加硫または部分加硫したゴムを使用したブレンドである。
【0041】
本発明で特に好ましく使用されるオレフィン系TPEは、ポリプロピレン10〜90質量部と、完全又は部分フェノール加硫EPDM粒子90〜10質量部から成るポリマーアロイである。この理由は、ポリプロピレンとEPDMとの相溶性が特に良好なため、機械的に混練することにより一方のポリマーが他方のポリマー中に分散して、微視的に均一に分散し、巨視的な相分離を起こさず、特に耐候性が向上するからである。
【0042】
本発明で使用するオレフィン系TPEは、前述したようにTPEに共通の性質である素練り工程及び加硫工程が不要である他に、比重が0.9前後と軽い。耐寒性がよく−60℃〜150℃の幅広い温度範囲で使用できる。主鎖に二重結合がなく、耐熱性、耐候性に優れている。溶融粘度の感温性が小さく、加工時の粘度が高いなどの特徴がある。
【0043】
これらオレフィン系TPEは、住友化学、三井石油化学、日本合成ゴム、三菱油化、日本石油化学、東燃化学、モンサント、アドバンスド・エラストマー・システムズ・エル・ピー等から入手可能である。
【0044】
特に、本発明で特に好ましく使用されるオレフィン系TPEは、エーイーエスジャパン(株)ら製造販売されている商品名「サントプレンTextile Bondable TPV(TBTPV)」である。これは、硬度(デューロメーターA)が85、比重が0.90、引張強さ(MPa)が11.0、伸び(%)が700、100%モジュラス(MPa)が3.0、圧縮永久歪(23℃×22h%)が32、引裂強さ(N/mm)が45.5、接着性(VS TPU、N/mm)が7.2である。
【0045】
本発明で使用されるウレタン系TPEは、分子内に部分架橋を有する不完全熱可塑性タイプと、完全に線状の高分子体である完全熱可塑性タイプの2種類がある。不完全熱可塑性タイプは、再加工に限界があるが、耐熱、耐薬品、機械強度等に優れている。
【0046】
通常、不完全熱可塑性タイプのウレタン系TPEは、溶融温度が高く、溶液粘度の安定性は不安定、圧縮永久歪及び永久伸びは良好である。一方、完全熱可塑性タイプのウレタン系TPEは、溶融温度が低く、溶液粘度の安定性は良好、圧縮永久歪、永久伸びは大きいのが特徴である。従って、本発明では、不完全熱可塑性タイプのウレタン系TPEを使用することが好ましい。
【0047】
本発明で使用されるウレタン系TPEは、(1)カプロラクトンを開環して得たポリラクトンエステルポリオールに、短鎖ポリオールの存在下に、ポリイソシアネートを付加重合させたカプロラクトン型、(2)アジピン酸とグリコールとのアジピン酸エステルポリオールに、短鎖ポリオールの存在下に、ポリイソシアネートを付加重合させたアジピン酸型(アジペート型)、(3)テトラヒドロフランの開環重合で得たポリテトラメチレングリコール(PTMG)に、短鎖ポリオールの存在下に、ポリイソシアネートを付加重合させたPTMG型(エーテル型)の3種類に大別される。
【0048】
これらウレタン系TPEは、旭硝子、協和発酵、クラレ、三洋化成、住友バイエルウレタン、大日精化、ダウ・ケミカル、日本ミラクトン、日本ポリウレタン、大日本インキ化学、武田薬品、東洋紡績、日清紡績、北辰化学等から入手可能である。
【0049】
本発明で使用するウレタン系TPEは、前述したようにTPEに共通の性質である素練り工程及び加硫工程が不要である他に、柔軟性・反発弾性に富む、耐摩耗性に優れている、機械的強度が大である、耐油性、耐ガソリン性に優れている、低温特性に優れている、耐候性、耐オゾン性が良好である、消音効果、防振効果が大きい、成型時の熱安定性がよい、再生使用が可能である等の物性上の特徴を備えている。
【0050】
本発明で使用されるポリエステル系TPEは、ハードセグメントに高融点で高結晶性の芳香族ポリエステル、たとえばポリブチレンテレフタレート(PBT)を、ソフトセグメントに、ガラス転移温度が−70℃の非晶性ポリエーテル、たとえば、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)を使用したマルチブロックポリマーである。
【0051】
本発明で使用されるポリエステル系TPEは、TPEの中でも、高温から低温まで最も幅広い温度範囲で使用できる特性をもつ。耐荷重性が大きく、屈曲疲労抵抗が大きく、耐油、耐薬品性に優れ、成形性に優れている。
【0052】
これらポリエステル系TPEは、東洋紡績、東レ・ヂュポン、大日本インキ化学、日本イージープラスチックス等から入手可能である。
【0053】
本発明で使用されるポリアミド系TPEの代表的なものは、ナイロンをハードセグメントとし、これにポリエステルまたはポリオールをソフトセグメントとしたブロックコポリマーである。
【0054】
本発明で使用されるポリアミド系TPEは、ナイロン樹脂のもつ成形性、耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性の特徴と、ゴムの特性である柔軟性、耐衝撃性、低温度特性を備えている。ポリアミド系TPEを、ウレタンTPEやポリエステル系TPEなどと比べると、比重が低い、成形性がよい、ガソリン、芳香族油に強い等の特徴があるが、耐水性、耐強酸、アルカリ性はポリエステル系TPEより劣る。
【0055】
これらポリアミド系TPEは、宇部興産、ダイセル・ヒュルス、東レ、三菱化成、大日本インキ化学等から入手可能である。
【0056】
本発明で使用される1、2ポリブタジエン系TPEは、日本合成ゴムが開発した低結晶性1,2−ポリブタジエン(商品名JSRRB)で、1,2−結合が90%以上、分子量は10数万であり、結晶化度は15〜35%である。結晶化度によって、RB805、RB810、RB820、RB830、及びRB840のグレードがある。
【0057】
ポリブタジエンは、ブタジエンを重合することによって得られるが、ブタジエンの結合によって1,4−ポリブタジエンと1,2−ポリブタジエンに分かれ、さらに、1,4−ポリブタジエンは、その立体構造によってシス1,4−ポリブタジエンとトランス1,4−ポリブタジエンに分けられる。汎用ゴムとしては、シス1,4−ポリブタジエンを90%以上含んだ、いわゆるハイシスポリブタジエンと、シス1,4−ポリブタジエンを35%程度含んだ、いわゆるローシスポリブタジエンである。本発明では、ハイシスポリブタジエンがより好ましい。
【0058】
本発明で使用される塩ビ系TPEは、現在11社が製造しているが、改善点として圧縮永久歪と成形性の改良があげられる。
【0059】
これら塩ビ系TPEとしては、住友ベークライト、三菱化成ビニル、チッソ、東亞合成化学、信越ポリマー、鐘淵化学、電気化学、理研ビニル、日本ゼオン、東ソー、プラス・テク、三菱化成等から入手可能である。
【0060】
一方、視覚障害者誘導用ブロックの突起の材料を策定するに当たって、耐摩耗性に優れていること、耐候性(耐変色性)を向上することができること、平面状本体の材料である前記熱可塑性エラストマーと接着処理しなくても二色成型機により容易に一体成型ができることを検討して、熱可塑性ポリウレタン(以下、TPUと略記する)を使用することとした。
【0061】
TPU、TPE共に熱可塑性であるので、容易に二色成型機により一体成型可能である。また耐加水分解性の優れたポリエーテル系のTPUにUV処理することにより、耐候性(耐変色性)を向上することができる。さらに、平面状本体に特殊なサントプレングレードTBTPV(オレフィン系)を使用すると、2色成型によりTPUと接着可能である。
【0062】
熱可塑性ポリウレタン(TPU)は、多種多様なグレードのものが製造されているが、特に硬度の高いグレードのTPUを使用することにより、突起の耐摩耗性を一層向上させることができる。
【0063】
このようなTPUは、硬さ(デューロメーターD)が50〜80、100%モジュラス(N/mm)が10〜40、引張強さ(N/mm)が40〜70、伸び(%)が250以上、引裂強度(N/mm)が100〜200、摩耗減量(テーバー摩耗 H22摩耗輪、mg)が60以下の範囲のものが好ましい。TPUの各物性がこれらの範囲を外れると、突起の耐摩耗性を顕著に向上させることができないので、好ましくない。
【0064】
本発明で最も好ましく使用されるTPUの一例は、BASFジャパン(株)ら製造販売されている商品名「エラストラン1198」である。これは、硬さ(デューロメーターD)が54、100%モジュラス(N/mm)が18、引張強さ(N/mm)が50、伸び(%)が400、引裂強度(N/mm)が150、摩耗減量(テーバー摩耗 H22摩耗輪、mg)が40である。
【0065】
本発明の視覚障害者誘導用ブロックを製造するには、前述した熱可塑性エラストマーと、熱可塑性ポリウレタンを主成分として、所要の各種添加剤を添加して所定の射出成形機により一体成形される。熱可塑性エラストマー或いは熱可塑性ポリウレタンに添加される添加剤としては、カーンボンブラック、シリカ、二酸化チタン、各種顔料、クレー、酸化亜鉛、ステアリン酸、促進剤、加硫剤、硫黄、安定剤、劣化防止剤、加工助剤、粘着付与剤、可塑剤、ワックス、早期加硫促進剤、エクステンダー油等が例示される。これらは必要により適宜選択されて添加される。カーンボンブラックは引張り強度を改良し、エクステンダー油は熱可塑性加硫物の油膨潤抵抗性、熱安定性、ヒステリシス、コスト及び永久伸びを改善する。
【0066】
本発明の視覚障害者誘導用ブロックを製造するには、前述した熱可塑性エラストマー、及び熱可塑性ポリウレタンを主成分とする組成物を、それぞれの射出ヘッドを備えた異種材料が成型可能な射出成型機を用いて成型する。
【0067】
次ぎに、視覚障害者誘導用ブロックが敷設される路面或いは床面の色と、視覚障害者誘導用ブロックの平面状本体の色とのコントラスト、平面状本体の色と突起の色とのコントラスト関して解説する。
【0068】
前述したように、視覚障害者誘導用ブロックは、採光度も照明計画も照明設計も異なり、材料も色も多種多様な路面或いは床面に、敷設される場合がある。従って、視覚障害者誘導用ブロックの平面状本体と突起の色のコントラストを大きくしただけでは不都合が発生することがあるので、視覚障害者誘導用ブロックが敷設される路面或いは床面の色と、視覚障害者誘導用ブロックの平面状本体の色とのコントラスト、平面状本体の色と突起の色とのコントラストも高くしなければならない。
【0069】
視機能は対象物の形や大きさ、距離、運動、色その他の印象を眼を通して入手するための能力である。その主な視機能は、視力、奥行知覚、視野、調節、色覚である。視覚障害者は、これらの視機能が完全に又は極度に低下した人である。弱視は、広義には、レンズでは矯正することができない一般的な視力障害を意味し、狭義には、器質的変化がないか、あってもそれでは説明が付かない程度の視機能障害と定義されている。
【0070】
晴眼者が、誘導ブロック自体の色や敷設箇所の周辺の色とのコントラストを視認する場合、視力、奥行知覚、視野、調節、色覚等の視機能が自然に総合的に働いているものと考えられる。然しながら、弱視者の場合は、これらの視機能に障害があるために誘導ブロック自体の色や敷設箇所の周辺の色とのコントラストがなかなか視認することができない。たとえば、視力機能に障害がある場合にも、当然誘導ブロック自体の色や敷設箇所の周辺の色とのコントラストがなかなか視認することができないことがあると考えられる。また、奥行知覚、視野、調節機能に障害がある場合にも、誘導ブロック自体の色や敷設箇所の周辺の色とのコントラストがなかなか視認することができないことがあると考えられる。
【0071】
然しながら、本発明者は、弱視を専門に研究した者ではないので、視力、奥行知覚、視野、調節機能に障害がある場合に、誘導ブロック自体の色や敷設箇所の周辺の色とのコントラストがなかなか視認することができない理由等を解明する能力をもたない。従って、以下、色覚に関してのみ論及する。
【0072】
眼に光りが入ると、明るさと同時にその組成によって色を感じる。この場合、光の方から見れば、スペクトル組成の変化として考えられ、一方、眼の方から見れば、感覚の変化としてとらえられる。
【0073】
光源自体の放射する光の色、及びこの光源色を受けたときの鏡面反射による色を光源色という。これに対して、それ自身では光を放射せずに他の光源の光で照明されて現れる色を物体色という。物体色のうち、絵や草花のように、照明光を表面で反射する拡散反射によって現れる色を表面色と云い、カラースライドのように拡散透過によって現れる色を透過色と云う。
【0074】
視覚障害者誘導用ブロックの平面状本体と突起のそれぞれの色は、物体色のうち、拡散反射によって現れる表面色を利用するものである。
【0075】
前述したように、晴眼者の場合は、視力、奥行知覚、視野、調節、色覚等の視機能を総合的に作用させて、誘導ブロック自体の色や敷設箇所の周辺の色とのコントラストを視認することができる。然しながら、主として視力機能に障害がある弱視者の場合、各視力機能を総合的に機能させて誘導ブロック自体の色や敷設箇所の周辺の色とのコントラストを視認することが困難である。それを解決するためにも、色覚機能によって、誘導ブロック自体の色や敷設箇所の周辺の色とのコントラストを視認することが理想的である。そのためにも、視覚障害者誘導用ブロックが敷設される路面或いは床面の色と、視覚障害者誘導用ブロックの平面状本体の色とのコントラスト、及び平面状本体の色と突起の色とのコントラストをできるだけ大きくしなければならない。
【0076】
日本照明学会編:最新やさしい明視論(改訂版)、10,1979は、「視覚の働き得る明るさ(照度)の範囲」として、物の色と形がはっきりと分かる10〜10ルックスの範囲を明所視、物の色と形がいくらか分かる10〜10−2ルックスの範囲を薄明視、物の明暗だけがおぼろげに分かる10−2ルックス以下を暗所視と定義している。晴眼者の場合は、視覚系が眼に入ってくる光量に従ってその応答の感度を変えて、明順応、暗順応、及び薄明視と適切に順応できるが、弱視者を含め視覚障害者は、この機能が低下した人たちである。
【0077】
輝度は、視覚障害者誘導用ブロックが敷設されている環境下の照明、路面・床面の色(輝度)によって変わるので、視覚障害者誘導用ブロックの平面状本体と突起を輝度で表現しても、それは弱視者を含め視覚障害者にとって適切な指標ではない。そこで、視覚障害者誘導用ブロックが敷設されている環境下の照明、路面・床面の色(輝度)によって左右されない輝度比を採用することが好ましい。
【0078】
そこで、本発明の視覚障害者誘導用ブロックは、それが敷設される路面又は床面の輝度と平面状本体の輝度との比が、1.5〜2.5の範囲が好ましい。輝度比がこの範囲にあると、視覚障害者誘導用ブロックが敷設される路面又は床面の照度に関係なく、即ち、明所視、薄明視、暗所視環境下で、本発明の視覚障害者誘導用ブロックが敷設される路面又は床面と、視覚障害者誘導用ブロックの平面状本体のコントラストが大きく、くっきりと視認できる。
【0079】
また、本発明の視覚障害者誘導用ブロックは、平面状本体の輝度と突起との輝度比が、1.5〜2.5の範囲が好ましい。平面状本体と突起との輝度比がこの範囲にあると、視覚障害者誘導用ブロックが敷設される路面又は床面の照度に関係なく、即ち、明所視、薄明視、暗所視環境下で、本発明の視覚障害者誘導用ブロックの平面状本体と突起とのコントラストが大きくなり、突起がくっきりと視認できる。
【0080】
本発明の視覚障害者誘導用ブロックの平面状本体の輝度と突起との輝度比を、別の観点、即ち、色彩学上の配色による可視度に関するデータから検討する。
【0081】
塚田敢1978:色彩の美学、紀伊国屋書店、及び千々岩英彰、1983:色彩学、福村出版、は純色の赤、橙、黄、緑、紫、白、灰(N5)、び黒の9色を、それぞれ図柄と地にして組み合わせたときの、可視度(Visibility)を記載している。図柄は、直径15mm、太さ3mm、円環の欠如部3mmのランドルト環(Landolt)で、2000lxの照度下で観察して、欠如部が視認できた最大距離(m)で示してある。これを表−1として記載する。左側縦軸は地色、上横軸が図柄である。
【0082】
【表1】

【0083】
このデータから、視覚障害者誘導用ブロックが敷設される路面或いは床面の色(以下「路面・床面色」と略記する)、視覚障害者誘導用ブロックの平面状本体の色(以下「平面状本体色」と略記する)と、突起の色(以下「突起色」と略記する)、との三色の好ましい組合せは下記の通りであることが理解される。
路面・床面色が赤色−平面状本体色が黄色−突起色が赤色
路面・床面色が橙色−平面状本体色が黒色−突起色が橙色
路面・床面色が黄色−平面状本体色が黒色−突起色が黄色
路面・床面色が緑色−平面状本体色が白色−突起色が緑色
路面・床面色が青色−平面状本体色が白色−突起色が青色
路面・床面色が紫色−平面状本体色が黄色−突起色が紫色
路面・床面色が紫色−平面状本体色が白色−突起色が紫色
路面・床面色が白色−平面状本体色が黒色−突起色が白色
路面・床面色が灰色−平面状本体色が黄色−突起色が灰色
路面・床面色が灰色−平面状本体色が白色−突起色が灰色
路面・床面色が黒色−平面状本体色が黄色−突起色が黒色
【0084】
さらに、路面・床面色と、平面状本体色と、突起色の三色の最も好ましい組み合わせは下記の順位の通りである。尚、左側数字は順位を示している。4と4は同じ順位である。
1 路面・床面色が黒色−平面状本体色が黄色−突起色が黒色
2 路面・床面色が黄色−平面状本体色が黒色−突起色が黄色
3 路面・床面色が黒色−平面状本体色が白色−突起色が黒色
4 路面・床面色が紫色−平面状本体色が黄色−突起色が紫色
4 路面・床面色が紫色−平面状本体色が白色−突起色が紫色
【0085】
以下本発明で使用する色相名を、JISZ 8721に従って、一般色名が代表する色の三属性による表示記号で定義する。下記の記載において一般色名の後の記号は三属性による表示記号である。
【0086】
本発明で使用する赤色は、「ごくうすい赤色 5R 8/3」「明るい灰赤色 5R 6/3」「灰赤色 5R 4.5/3」「暗い灰赤色 5R 2.5/2」「ごく暗い灰赤色 5R 1.5/2」「うす赤色 5R 6/7」「にぶ赤色 5R 4/7」「暗い赤色5R 2.5/6」「あざやかな赤色 5R 5/10」「赤色 5R 4/12」「ふかい赤色 5R 2.5/10」「さえた赤色 5R 4/14」「あざやかな赤色 5R 5/10」を包含する。
【0087】
本発明で使用する黄色は、「ごくうすい黄色 5Y 9/3」「明るい灰黄色 5Y 8/3」「灰黄色 5Y 6.5/3」「暗い灰黄色 5Y 5/3」「ごく暗い灰黄色 5Y 3/2」「うす黄色 5Y 9/7」「にぶ黄色 5Y 7.5/7」「暗い黄色 5Y 5.5/6」「あざやかな黄色 5Y 9/12」「黄色 5Y 8/13」「ふかい黄色 5Y 6/10」「さえた黄色 5Y 8.5/14」を包含する。
【0088】
本発明で使用する緑色は、「ごくうすい緑色 2.5G 8/3」「明るい灰緑色2.5G 6.5/3」「灰緑色 2.5G 4.5/3」「暗い灰緑色 2.5G 3/3」「ごく暗い灰緑色 2.5G 1.5/3」「うす緑色 2.5G7/6」「にぶ緑色 2.5G 4.5/5」「暗い緑色 2.5G 3/5」「あざやかな緑色 2.5G 6.5/9」「緑色 2.5G 5/9」「ふかい緑色 2.5G 3/8」「さえた緑色 2.5G 5/12」を包含する。
【0089】
本発明で使用する青色は、「ごくうすい青色 2.5PB 8.5/3」「明るい灰青色 2.5PB 6.5/3」「灰青色 2.5PB 4.5/3」「暗い灰青色 2.5PB 2.5/2」「ごく暗い青色 2.5PB 1.5/2」「うす青色 2.5PB 6.5/7」「にぶ青色 2.5PB 4.5/7」「暗い青色 2.5PB 2.5/5」「あざやかな青色 2.5PB 6/10」「青色2.5PB 4/10」「ふかい青色 2.5PB 2.5/9」「さえた青色 2.5PB 4/12」を包含する。

【0090】
本発明で使用する紫色は、「ごくうすい紫色 5P 8/3」「明るい紫色 5P6/3」「灰紫色 5P 4/3」「暗い灰紫色 5P 2.5/2」「ごく暗い紫色5P 1.5/2」「うす紫色 5P 7/7」「にぶ紫色 5P 4/7」「暗い紫色 5P 7/6」「あざやかな紫色 5P 4.5/12」「紫色 5P 3/12」「ふかい紫色 5P 2/10」「さえた紫色 5P 3/12」を包含する。
【0091】
本発明で使用する無彩色は、「白色 N9」「明るい灰色 N7」「灰色 N5」「暗い灰色 N3」「黒色 N1」を包含する。
【0092】
また、米国の画家マンセルは、物体の表面色について、色の三属性、すなわち、色相(hue:H)、明度(value:V)、彩度(chroma:C)を提唱した。これを受けて建築学会等では、室内各部位ならびに外壁の一般的色彩調節として、推奨される色彩の範囲を推奨している。その中で、床面として、色相で5R〜10R、10YR〜2.5Y、7.5GY〜5G、5BG〜10BG、10B〜5PB及び無彩色と、明度で、5〜6、彩度で4以下を推奨している。
【0093】
また、設計の統一、迅速簡易化、最低水準の保証や指定の確実性、施工管理の便利性、技術の蓄積等の利点から、いくつかの標準色を規定している。内部配色の床面にしては、色相で暗色系で2.5YR〜2.5Y、中色系で7.5GY〜7.5G、寒色系で7.5BG〜7.5B、明度/彩度比で4〜6/2〜4を推奨している。従って、本発明でも、室内の床の色彩は、これらの推奨色、或いは標準色を採用することが好ましい。
【0094】
ところで、視覚障害者誘導用ブロックの平面状本体と突起のそれぞれの色は、物体色のうち、拡散反射によって現れる表面色を利用するものであることは前述した通りである。視覚障害者誘導用ブロックの平面状本体と突起から反射された光は瞳孔を通り眼の中に入り、網膜を刺激して、眼に明るさの感覚を起こさせ色覚反応を起こさせる。視覚障害者や弱視者にとって、この過程で重要なことは、視覚障害者誘導用ブロックの平面状本体と突起から反射された光が一定方向からではなく、あらゆる方向からは視覚障害者や弱視者の瞳孔を通り眼の中に入り、網膜を刺激して、眼に明るさの感覚を起こさせ色覚反応を起こさせることである。以下、添付した図面を参照して、この点に関して詳述する。
【0095】
物体の面における光の反射のしかたには、正反射と拡散反射、並びに正反射と拡散反射が混在した不完全拡散反射の3種類の形態がある。
【0096】
図5は物体の表面Sからの反射光L2が正反射で反射する状態を示す概念図である。正反射の典型的な例は鏡面反射で、入射光L1は、入射角θ1と同じ角度の反射角θ2で一定方向に反射光L2として反射する。従って、この場合、視覚障害者や弱視者は、反射光L2と同じ方向に居ない限り、反射光L2が瞳孔に入らないので、好ましくない。
【0097】
図6は物体の表面Sからの反射光L2が不完全拡散で反射する状態を示す概念図である。不完全拡散反射は、光沢のある紙の表面のように、入射光L1が、色々な方向に反射光L2として反射され、しかもそれぞれの反射光L2の輝度が同じでないので、光度の軌跡Tは不完全な円形となる反射形式である。即ち、不完全拡散反射の場合、視覚障害者誘導用ブロックの平面状本体と突起から反射された光の輝度にばらつきがあり、場所によって明暗があるので好ましくない。
【0098】
図7は物体の表面Sからの反射光L2が拡散反射で反射する状態を示す概念図である。拡散反射は、壁面のように、入射光L1が、あらゆる方向に反射光L2として反射され、しかもどの方向から見ても輝度が同じである。従って、この場合、視覚障害者や弱視者が、どの方向に居ても同じ輝度の反射光が瞳孔に入るので、好ましい。
【0099】
拡散反射の場合、その面の輝度がどの方向から見ても一定である面を完全拡散面という。図8は、ランベール(Lambert)の余弦法則を説明する概念図である。図8において、法線方向の光度をdInとし、θ方向の光度をdIθとすると、これらの間には式dIθ=dIn・cosθが成立する。従って、視覚障害者誘導用ブロック1上の1点Pを通りPでの接平面または接線に垂直な直線、即ち法線方向に反射される光の光度dInと、前記法線と角度θをなす方向の光度dIθの間に、dIθ=dIn・cosθが成立し、光度の軌跡Tが円形であることが好ましい。
【発明の効果】
【0100】
請求項1に記載した発明により、下記に提示する効果が得られる。
(1)視覚障害者誘導用ブロックの平面状本体と、平面状本体の表面に形成される点状突起又は線状突起の両方が熱可塑性材料であるので、二色射出成形機により容易に一体成形することができる。
(2)突起が熱可塑性ポリウレタンなので、耐摩耗性に優れ、弾性係数が高く、且つ滑り難く、足裏による圧縮、剪断による変形が少なく、耐候性を改良することができる。
(3)平面状本体の材料に使用する熱可塑性エラストマーと、突起の材料に使用する熱可塑性ポリウレタンの組合せを適切に選択することにより、二色射出成形機による一体成形により、平面状本体と突起を強固に接着させることができる。
【0101】
請求項2に記載した発明により、平面状本体の材料に使用する熱可塑性エラストマーがオレフィン系TPEなので、比重が0.9前後と軽く、耐寒性がよく−60℃〜150℃の幅広い温度範囲で使用でき、主鎖に二重結合がなく、耐熱性、耐候性に優れている他に、溶融粘度の感温性が小さく、加工時の粘度が高いなどの効果がある。
【0102】
請求項3に記載した発明により、熱可塑性エラストマーが、ポリプロピレン10〜90質量部と、フェノール系加硫剤で完全又は部分加硫されたエチレン・プロピレン・ジエン・ターポリマー粒子90〜10質量部から成るポリマーアロイであるので、ポリプロピレンとEPDMとの相溶性が特に良好なため、機械的に混練することにより一方のポリマーが他方のポリマー中に分散して、微視的に均一に分散し、巨視的な相分離を起こさず、特に耐候性が向上し、適当な硬度(デューロメーターA)、引張強さ(MPa)、モジュラス(MPa)、圧縮永久歪(23℃×22h%)、引裂強さ(N/mm)、接着性(VSTPU、N/mm)が得られる。
【0103】
請求項4に記載した発明により、耐摩耗性に優れ、弾性係数が高く、且つ滑り難く、足裏による圧縮、剪断による変形が少なく、耐候性を改良することができる突起を、平面状本体と強固に接着して一体成形することができる。
【0104】
請求項5に記載した発明により、本発明の視覚障害者誘導用ブロックが敷設される路面又は床面の照度に関係なく、即ち、明所視、薄明視、暗所視環境下で、本発明の視覚障害者誘導用ブロックが敷設される路面又は床面と、視覚障害者誘導用ブロックの平面状本体のコントラストが大きく、くっきりと視認できる。
【0105】
請求項6に記載した発明により、視覚障害者誘導用ブロックが敷設される路面又は床面の照度に関係なく、即ち、明所視、薄明視、暗所視環境下で、本発明の視覚障害者誘導用ブロックの平面状本体と突起とのコントラストが大きくなり、突起がくっきりと視認できる。
【0106】
請求項7に記載した発明により、平面状本体の色を黄色、突起の色を黒色にすることにより、特に路面・床面色が黒色の場合に、平面状本体と突起の視認性が良くなる。
【0107】
請求項8に記載した発明により、平面状本体の色を黒色、突起の色を黄色にすることにより、特に路面・床面色が黄色の場合に、平面状本体と突起の視認性が良くなる。
【0108】
請求項9に記載した発明により、平面状本体の色を白色、突起の色を黒色にすることにより、特に路面・床面色が黒色の場合に、平面状本体と突起の視認性が良くなる。
【0109】
請求項10に記載した発明により、平面状本体の色を黄色、突起の色を紫色にすることにより、特に路面・床面色が紫色の場合に、平面状本体と突起の視認性が良くなる。
【0110】
請求項11に記載した発明により、平面状本体の色を白色、突起の色を紫色にすることにより、特に路面・床面色が紫色の場合に、平面状本体と突起の視認性が良くなる。
【0111】
請求項12に記載した発明により、本発明の視覚障害者誘導用ブロックの平面状本体と突起から反射された光があらゆる方向に均等に反射され、しかもどの方向から見ても輝度が同じであるので、視覚障害者や弱視者がどの方向に居ても同じ輝度の反射光が瞳孔に入り、視覚障害者誘導用ブロックの突起を良好に視認できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0112】
以下、実施例により本発明を実施するための最良の形態を説明する。
実施例1
本発明の視覚障害者誘導用ブロックの平面状本体を製造するためのTPE組成物の配合は下記の通りである。
配合物 質量部
(1)TPE:「サントプレン」(既述) 100
(2)顔料 10
(3)紫外線吸収剤 0.5
(4)紫外線安定剤 0.5
【0113】
本発明の視覚障害者誘導用ブロックの突起を製造するためのTPU組成物の配合は下記の通りである。
配合物 質量部
(1)TPU:「エラストラン1198」(既述) 100
(2)顔料:「カーボンブラック」 5
(3)紫外線吸収剤 0.5
(4)紫外線安定剤 0.3
【0114】
射出成型には、型締圧200t〜400t、射出容量 主400〜600cc、副100〜200ccでそれぞれL/D=20〜30、圧縮比2.5〜3.5の射出ヘッドを備えた異種材料が成型可能な射出成型機を用いた。このタイプの射出成型機は、まず、突起部の金型にTPUを射出し、次に金型をスライドさせて平面部を射出する成型法である。
【0115】
図1及び2に示した形状・寸法の突起が成形されるように設計した金型に、上記視覚障害者誘導用ブロックの突起を製造するためのTPU組成物を射出した。そのときの成形条件は、下記の通りであった。
シンリンダ−後部温度 190〜210℃
〃 中央部 200〜220
〃 前部 210〜220
〃 ノズル部 220〜240
射出時間 10〜20秒
金型温度 40〜60℃
射出圧 1300〜1500kg/cm

【0116】
次に、突起用金型をスライドさせて、図1及び2に示した形状・寸法の平面状本体が成形されるように設計した金型に、上記視覚障害者誘導用ブロックの平面状本体を製造するためのTPE組成物を射出した。そのときの成形条件は、下記の通りであった。
シンリンダ−後部温度 180〜200℃
〃 中央部 190〜215
〃 前部 210〜230
〃 ノズル部 220〜240
射出時間 5〜10秒
金型温度 40〜60℃
射出圧 1300〜1500kg/cm
【0117】
成形後、平面状本体と突起の剥離強度試験を行った結果、接着強度は7.0N/mmであった。
【0118】
また、平面状本体の硬さ(デューロメーターA)は86で、100%モジュラス(N/mm)は2.9、引張強さ(N/mm)は11.3、伸び(%)は650、引裂強度(N/mm)は43.3であった。
【0119】
突起の硬さ(デューロメーターD)は55、100%モジュラス(N/mm)は20、引張強さ(N/mm)は52.0、伸び(%)は380、引裂強度(N/mm)は140、摩耗減量(テーバー摩耗 H22摩耗輪、mg)は35であった。
【0120】
輝度比の測定
実施例1で製造した視覚障害者誘導用ブロックを、黒色の路面及び床面に敷設した。光度を自由に調節できる人工光源を使用して、物の色と形がはっきりと分かる10〜10ルックスの明所視、物の色と形がいくらか分かる10〜10−2ルックスの薄明視、物の明暗だけがおぼろげに分かる10−2ルックス以下の暗所視環境を作った。コニカミノルタ製の輝度計「LS−100」を利用して、路面・床面と平面状本体、及び平面状本体と突起それぞれの輝度比を測定した結果、2.5であった。
【0121】
実施例2
実施例1において、視覚障害者誘導用ブロックの平面状本体のTPE配合物の顔料をカーボンブラックに変え、視覚障害者誘導用ブロックの突起のTPU配合物の顔料をカドミイエローに変えた以外には、実施例1と同じ手法で実験を繰り返した。
【0122】
製造した視覚障害者誘導用ブロックの平面状本体と突起の物性は実施例1と実質的に同じであった。
【0123】
実施例2で製造した視覚障害者誘導用ブロックを、黄色の路面及び床面に敷設して、実施例1と同じ方法で路面・床面と平面状本体、平面状本体と突起それぞれの輝度比を測定した結果、2.5であった。
【0124】
実施例3
実施例1において、視覚障害者誘導用ブロックの平面状本体のTPE配合物の顔料を酸化チタンに変え、視覚障害者誘導用ブロックの突起のTPU配合物の顔料をカーボンブラックに変えた以外には、実施例1と同じ手法で実験を繰り返した。
【0125】
製造した視覚障害者誘導用ブロックの平面状本体と突起の物性は実施例1と実質的に同じであった。
【0126】
実施例3で製造した視覚障害者誘導用ブロックを、黒色の路面・床面に敷設して、実施例1と同じ方法で路面・床面と平面状本体、平面状本体と突起それぞれの輝度比を測定した結果、2.5であった。
【0127】
実施例4
実施例1において、視覚障害者誘導用ブロックの平面状本体のTPE配合物の顔料をカドミイエローに変え、視覚障害者誘導用ブロックの突起のTPU配合物の顔料をジオキサジンバイオレットに変えた以外には、実施例1と同じ手法で実験を繰り返した。
【0128】
製造した視覚障害者誘導用ブロックの平面状本体と突起の物性は実施例1と実質的に同じであった。
【0129】
実施例4で製造した視覚障害者誘導用ブロックを、紫色の路面・床面に敷設して、実施例1と同じ方法で路面・床面と平面状本体、平面状本体と突起それぞれの輝度比を測定した結果、2.5であった。
【0130】
実施例5
実施例1において、視覚障害者誘導用ブロックの平面状本体のTPE配合物の顔料を酸化チタンに変え、視覚障害者誘導用ブロックの突起のTPU配合物の顔料をジオキサジンバイオレットに変えた以外には、実施例1と同じ手法で実験を繰り返した。
【0131】
製造した視覚障害者誘導用ブロックの平面状本体と突起の物性は実施例1と実質的に同じであった。
【0132】
実施例5で製造した視覚障害者誘導用ブロックを、紫色の路面・床面に敷設して、実施例1と同じ方法で路面・床面と平面状本体、平面状本体と突起それぞれの輝度比を測定した結果、2.5であった。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明の視覚障害者誘導用ブロックは、平面状本体部と突起が強固に一体化されていて、平面状本体の硬さ、100%モジュラス(N/mm)、引張強さ、伸び、引裂強度、摩耗減量等物性が優れていて、敷設される路面・床面との輝度比が約1.5〜2.5であるので、視覚障害者及び弱視者にとって優れた視覚障害者誘導用ブロックとして利用される。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】本発明の1実施例の上面図
【図2】図1の断面図
【図3】本発明の別の実施例の上面図
【図4】図3の断面図
【図5】物体からの正反射を示す概念図
【図6】物体からの不完全拡散反射を示す概念図
【図7】物体からの拡散反射を示す概念図
【図8】ランベールの余弦法則示す概念図
【符号の説明】
【0135】
1:視覚障害者誘導用ブロック
2:平面状本体
3:点状突起
4:線状突起
a:点状突起の内径
b:点状突起の外径
c:点状突起の高さ
d:隣接する点状突起同士の心−心間距離
e:線状突起時の下底の幅
f:線状突起時の上底の幅
g:線状突起時の高さ
h:線状突起時の上底の長さ
i:線状突起時の下底の長さ
j:隣接する線状突起同士の心−心間距離
l:視覚障害者誘導用ブロックの辺
L1:入射光
L2:反射光
θ1:入射角
θ2:反射角
S:物体表面
T:光度の軌跡
dIn:法線方向の光度を
θ:角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面状本体2と、平面状本体2の表面に形成された点状突起3又は線状突起4から構成され、路面又は床面に敷設される視覚障害者誘導用ブロック1であって、
平面状本体2が熱可塑性エラストマーで成形され、点状突起3又は線状突起4が熱可塑性ポリウレタンで成形されていることを特徴とする視覚障害者誘導用ブロック。
【請求項2】
熱可塑性エラストマーが、オレフィン系熱可塑性エラストマーである請求項1に記載した視覚障害者誘導用ブロック。
【請求項3】
オレフィン系熱可塑性エラストマーが、ポリプロピレン10〜90質量部と、完全又は部分加硫されたエチレン・プロピレン・ジエン・ターポリマー粒子90〜10質量部から成るポリマーアロイである請求項1〜2のいずれか1項に記載した視覚障害者誘導用ブロック。
【請求項4】
熱可塑性ポリウレタンが、硬さ(デューロメーターD)が50〜80、100%モジュラス(N/mm)が10〜40、引張強さ(N/mm)が40〜70、伸び(%)が250以上、引裂強度(N/mm)が100〜200、摩耗減量(テーバー摩耗 H22摩耗輪、mg)が60以下のものであることを特徴とする請求項1に記載した視覚障害者誘導用ブロック。
【請求項5】
視覚障害者誘導用ブロック1が敷設される路面又は床面の輝度と平面状本体の輝度との比が、1.5〜2.5の範囲であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載した視覚障害者誘導用ブロック。
【請求項6】
視覚障害者誘導用ブロック1の平面状本体の輝度と突起の輝度の比が、1.5〜2.5の範囲であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載した視覚障害者誘導用ブロック。
【請求項7】
平面状本体が黄色、突起が黒色であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載した視覚障害者誘導用ブロック。
【請求項8】
平面状本体が黒色、突起が黄色であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載した視覚障害者誘導用ブロック。
【請求項9】
平面状本体が白色、突起が黒色であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載した視覚障害者誘導用ブロック。
【請求項10】
平面状本体が黄色、突起が紫色であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載した視覚障害者誘導用ブロック。
【請求項11】
平面状本体が白色、突起が紫色であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載した視覚障害者誘導用ブロック。
【請求項12】
視覚障害者誘導用ブロック1上の1点Pを通りPでの接平面または接線に垂直な直線、即ち法線方向に反射される光の光度dInと、前記法線と角度θをなす方向の光度dIθの間に、dIθ=dIn・cosθが成立し、光度の軌跡Tが円形であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載した視覚障害者誘導用ブロック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−57324(P2006−57324A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−240268(P2004−240268)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(000167820)広島化成株式会社 (65)
【出願人】(594139012)財団法人安全交通試験研究センター (7)
【Fターム(参考)】