説明

親杭および親杭横矢板工法

【課題】 隣接する親杭のフランジ間にわたって簡単に土留め用横矢板を設置することができる親杭および親杭横矢板工法を提供することである。
【解決手段】 親杭1は、H形鋼2の一方のフランジ3の裏面に裏込め用横矢板4を縦側にして設置し、この裏込め用横矢板4をクリップ5でフランジ3に挟み付けて固定し、H形鋼2の下部は裏込め用横矢板4を設置せずに挿入部7としたことである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は親杭および親杭横矢板工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
親杭横矢板工法は最も経済的な工法として、地盤の掘削後横矢板を設置するまでの間に掘削面(地山)が崩壊されないところで多用され、図6〜図8に示す工程で行われている。まず、図6に示すように、適宜間隔ごとに掘削された掘削孔17にH形鋼18の親杭19を挿入して、その下部を根固め材20に挿入する。次に、図7に示すように、親杭19が挿入された掘削孔17に、掘削土またはセメントミルクなどの埋戻材21を埋め戻す。次に、図8に示すように、根切りを行って親杭19のフランジ22を露出させ、隣接する親杭19のフランジ22間にわたって土留め用横矢板23を設置して地山43の土留めを行うものである。また、その他の親杭横矢板工法としては、例えば特開2006−104782号公報の発明が知られている。
【特許文献1】特開2006−104782号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記のような親杭横矢板工法は掘削土をそのまま埋め戻し材として使用しているため、親杭裏側の地山を掘削するときに崩れるという問題があった。一方、埋め戻し材としてセメントミルクなどを使用すると親杭裏の地山を掘削するときに手間を要するという問題があった。
【0004】
本願発明はこれらの問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、隣接する親杭のフランジ間にわたって簡単に土留め用横矢板を設置することができる親杭および親杭横矢板工法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するための親杭は、H形鋼の一方のフランジの裏面に裏込め用横矢板を縦方向にして設置し、この裏込め用横矢板をクリップでフランジに挟み付けて固定し、H形鋼の下部は裏込め用横矢板を設置せずに挿入部としたことを特徴とし、裏込め用横矢板の厚さは親杭横矢板壁に使用する土留め用横矢板よりも厚いことを含むものである。
親杭横矢板工法は、H形鋼の一方のフランジの裏面に裏込め用横矢板を縦方向にして設置し、この裏込め用横矢板をクリップでフランジに挟み付けて固定し、H形鋼の下部は裏込め用横矢板を設置せずに挿入部とした親杭を形成し、該親杭の挿入部を、地盤に適宜間隔をもって掘削した掘削孔の根固め材に挿入して、掘削孔に掘削土の埋め戻しを行った後、上記根固め材の上面まで根切りしてフランジの表面を露出させ、該フランジの裏面から裏込め用横矢板を取り外してフランジの裏面側に空隙部を形成し、該空隙部を利用して隣接する親杭間にわたって、フランジの裏面から取り外した裏込め用横矢板と土留め用横矢板とを設置することを特徴とし、裏込め用横矢板の厚さは親杭横矢板壁に使用する土留め用横矢板よりも厚いことを含むものである。
【発明の効果】
【0006】
親杭のフランジの裏面から裏込め用横矢板を取り外すことにより、フランジの裏面側に横矢板設置用の空隙部を形成することができる。また親杭のフランジの裏面に裏込め用横矢板をクリップで簡単に取り付けることができる。また親杭のフランジの裏面における裏込め用横矢板を地山の土留め用として利用することができる。また親杭のフランジの裏面側の地山の削り取り作業を省略できるので作業の効率化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本願発明の親杭および親杭横矢板工法の実施の形態について説明する。はじめに親杭について説明し、次に、この親杭を使用した親杭横矢板工法の実施の形態について説明するが、各実施の形態において同じ構成は同じ符号を付して説明し、異なった構成にのみ異なった符号を付して説明する。
【0008】
図1は親杭1であり、H形鋼2の一方のフランジ3、例えば前面側に位置するフランジ3の裏面に裏込め用横矢板4がクリップ5で固定されて構成されている。
【0009】
この裏込め用横矢板4は幅および長さが土留め用横矢板と同じであるが、土留め用横矢板の差し込み用の間隙部を形成するために、厚さが土留め用横矢板よりも厚くなっている。なお、この厚さは、土留め用横矢板と同じであってもよく、同じでも土留め用横矢板を差し込む間隙部は形成できる。
【0010】
また裏込め用横矢板4の長さは、地盤に打設された親杭間(フランジ間)の長さによって決定され、この長さが短い場合は二枚以上が上下に連続して設置され、これが長い場合は一枚のみが設置される。
【0011】
この裏込め用横矢板4は縦方向で二枚連続して、ウエブ6両側のフランジ3の裏面に設置され、この裏込め用横矢板4とフランジ3とを挟み付けるようにして、一枚につき3個(これ以上またはこれ以下であっても良い)の平面コ字形のクリップ5がフランジ3の外側から嵌め込まれている。したがって、このクリップ5によって裏込め用横矢板4が片方のフランジ(ウエブの片方側)3の裏面に二枚固定され、クリップを取り外すと裏込め用横矢板4がフランジ3の裏面から取り外せるようになっている。
【0012】
またH形鋼2の下部のフランジ3には裏込め用横矢板4を設置せずに、ここを根固め用ソイルセメントの挿入部7としている。そのため挿入部7の長さが、裏込め用横矢板4の設置長さにより決定される。
【0013】
次に、この親杭1を使用した親杭横矢板工法を図2〜図5に基づいて説明する。はじめに、図2に示すように、地盤8に掘削孔9を適宜間隔ごとに掘削し、その底部に根固め用ソイルセメント10を打設する。そして、この根固め用ソイルセメント10が硬化する前に、ここに挿入部7を挿入して親杭1を掘削孔9内に建て込む。この挿入の深さはフランジ3の裏面に設置された裏込め用横矢板4を基準とし、該裏込め用横矢板4の下端が根固め用ソイルセメント10の上面に接するまで挿入する。
【0014】
次に、図3に示すように、親杭1を建て込んだ掘削孔9に、流動化土にした掘削土11をハイワッシャーで攪拌しながら埋め戻す。このような流動化土は親杭1の隅々まで充実に充填され、空隙を作ることがない。この埋め戻した掘削土11は一〜三週間で十分に固化する。
【0015】
次に、図4に示すように、根切りを行って、根固め用ソイルセメント10の上面まで掘削し、親杭1の一方のフランジ(前面側)3を露出させるように地山12を削り取る。この削り取りはフランジ3のやや奥側、すなわち裏込め用横矢板4をフランジから取り外せるように、裏込め用横矢板4の厚さ分まで行う。
【0016】
次に、クリップ5を取り外して裏込め用横矢板4をフランジ3から引き抜くと、フランジ3の裏面側に裏込め用横矢板4の厚さ分の幅の差し込み用の間隙部13が形成される。そして、フランジ3の裏面の裏込め用横矢板4を全て引き抜くと、フランジ3の上端から根固め用ソイルセッメント10の上面にかけての裏面側に横矢板設置用の間隙部13が形成される。
【0017】
次に、この横矢板設置用の間隙部13を利用して、隣接する親杭1のフランジ間にわたって土留め用横矢板14と、フランジ3の裏面から引き抜いた裏込め用横矢板4とを設置すると親杭横矢板壁15が形成され、これにより地山12の土留めができる。この差し込み用の間隙部13は裏込め用横矢板4の厚さ分の幅があるため、裏込め用横矢板4はもとより、これより薄い土留め用横矢板14も容易に差し込むことができる。
【0018】
このようにして、全ての親杭1間に裏込め用横矢板4と、土留め用横矢板14とを設置して親杭横矢板壁15を形成することにより、地山12の土留めをすることができる。
【0019】
なお、上記の実施の形態においては根固め用ソイルセメント10を使用したが、これに限定されるものではなく、根固め用コンクリートを使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】親杭であり、(1)は平面図、(2)は正面図、(3)は(1)のA−A断面図である。
【図2】(1)は掘削孔に親杭を建て込んだ横方向の断面図、(2)は同縦方向の断面図である。
【図3】(1)は埋め戻しをした掘削孔の横方向の断面図、(2)は同縦方向の断面図である。
【図4】(1)は根切りをした断面図、(2)は同縦方向の断面図、(3)は要部の断面図である。
【図5】(1)は親杭横矢板壁の横方向の断面図、(2)は同縦方向の断面図である。
【図6】従来の親杭横矢板工法であり、(1)は親杭を建て込んだ掘削孔の横方向の断面図、(2)は同縦方向の断面図である。
【図7】従来の親杭横矢板工法であり、(1)は埋め戻しをした掘削孔の横方向の断面図、(2)は同縦方向の断面図である。
【図8】従来の親杭横矢板工法であり、(1)は根切りをした断面図、(2)は同縦方向の断面図、(3)は要部の断面図である。
【符号の説明】
【0021】
1、19 親杭
2、18 H形鋼
3、22 フランジ
4 裏込め用横矢板
5 クリップ
6 ウエブ
7 挿入部
8 地盤
9、17 掘削孔
10 根固め用ソイルセメント
11 掘削土
12、24 地山
13 間隙部
14、23 土留め用横矢板
15 親杭横矢板壁
20 根固め材
21 埋め込み材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
H形鋼の一方のフランジの裏面に裏込め用横矢板を縦方向にして設置し、この裏込め用横矢板をクリップでフランジに挟み付けて固定し、H形鋼の下部は裏込め用横矢板を設置せずに挿入部としたことを特徴とする親杭。
【請求項2】
裏込め用横矢板の厚さは親杭横矢板壁に使用する土留め用横矢板よりも厚いことを特徴とする請求項1に記載の親杭。
【請求項3】
請求項1または2の親杭の挿入部を、地盤に適宜間隔をもって掘削した掘削孔の根固め材に挿入して、掘削孔に掘削土の埋め戻しを行った後、上記根固め材の上面まで根切りしてフランジの表面を露出させ、該フランジの裏面から裏込め用横矢板を取り外してフランジの裏面側に空隙部を形成し、該空隙部を利用して隣接する親杭間にわたって、フランジの裏面から取り外した裏込め用横矢板と土留め用横矢板とを設置することを特徴とする親杭横矢板工法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−197397(P2009−197397A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−37224(P2008−37224)
【出願日】平成20年2月19日(2008.2.19)
【出願人】(000166432)戸田建設株式会社 (328)
【Fターム(参考)】