説明

親水性生理活性物質含有微粒子の製造方法

【課題】粒度分布の狭い親水性生理活性物質含有微粒子の製造法を提供する。
【解決手段】
親水性生理活性物質を含有する微粒子の製造方法であって、
(a)親水性生理活性物質を溶解した水系溶媒と、ポリ(ヒドロキシ酸)の疎水セグメントと多糖またはポリエチレングリコールの親水性セグメントからなる両親媒性ポリマーを溶解した水非混和性有機溶媒を混合することにより逆相エマルジョンを形成する工程、
(b)逆相エマルジョンから溶媒を除去して親水性生理活性物質含有固形分を得る工程、
(c)親水性生理活性物質含有固形分を両親媒性ポリマーの疎水性セグメントが可溶かつ親水性セグメントが不溶である溶媒Aに分散する工程、および
(d)(c)工程で得られる親水性生理活性物質含有固形分分散液を、表面改質剤を溶解しており、両親媒性ポリマーの疎水性セグメントが不溶かつ溶媒Aと相溶性である溶媒Bに加える工程、を含む製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両親媒性ポリマーで構成される微粒子であって、親水性生理活性物質を内包する微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノパーティクル、マイクロパーティクル、ナノスフィア、マイクロスフィアあるいはマイクロカプセルなどと呼ばれる微粒子に薬剤を封入した微粒子製剤が開発され、薬物のキャリアとして用いることが検討されている。
【0003】
ポリマー化合物を基材とする微粒子製剤としては、生分解性であるポリ乳酸またはポリ乳酸・ポリグリコール酸を用いた微粒子、親水性ポリマーと疎水性ポリマーを共有結合させた両親媒性ポリマーを用いたポリマーミセルやナノパーティクルが挙げられる。このような微粒子製剤においては、薬剤を内包すべきコンパートメントは疎水的環境であり、親水性薬剤を微粒子内に封入する効率は低い。特に、親水性かつ分子量の大きいタンパク質・ペプチド医薬を、該粒子に生理活性を保った状態で封入することは難しい。
【0004】
このような課題を解決するために、両親媒性ポリマーの界面活性作用を利用して、親水性生理活性物質の水溶液を、両親媒性ポリマーを添加した有機溶媒中で、所謂、逆相エマルジョン(逆ミセル)を形成させた後、微粒子を形成する方法 (特許文献1〜3参照)が提案されてきた。
【0005】
特許文献1では、疎水性セグメントとして生体内分解性ポリマーを親水性セグメントとしてポリアミノ酸を有する両親媒性ブロックコポリマーを使用して逆相ミセルを形成させ、内部が親水環境であり外層が疎水的である微粒子が記載されている。しかしながら、このような微粒子について、具体的な製造方法には言及されていない。
【0006】
特許文献2には、生分解性の両親媒性ブロックコポリマーを有機溶媒に溶解させた溶液を用い、内水相に親水性生理活性物質を含有させ、表面改質剤を結合することで、生体内に投与可能で、水系分散体となり、かつ平均粒径が1ミクロン以下となる微粒子が開示されている。しかしながら、粒子径を均一にするための方法については言及されていない。
【0007】
特許文献3には、生分解性の両親媒性ブロックコポリマーからなる逆相エマルジョンから固形分を製造し、該固形分をS相とするS/O/WもしくはS/O/O型エマルジョンを経て微粒子を製造する方法が開示されている。しかしながら、エマルジョンを経る微粒子製造法では、平均粒径を200nm以下にすることは困難である。
【0008】
特許文献4では、両親媒性ブロックコポリマーを溶解させた有機溶媒を用い、内水相に親水性生理活性物質を含有させたW/O/W型乳化物を乾燥することで微粒子を製造している。しかしながら、このような粒子では、乾燥条件下でも除去されない有機溶媒を用いているため、粒径が100ミクロンから数ミリメートルと非常に大きく、また均一な粒径を得ることは困難である。
【0009】
また、生体内に微粒子を投与する場合は、その粒径が非常に重要になってくる。非特許文献1,2においては、各種粒子のサイズの違いによる細胞への相互作用や取り込みの違いについて述べてあり、生体内に投与された微粒子はそのサイズによって大きく細胞内動態が異なってくることを報告している。特に、非特許文献2においては、体内での炎症反応に大きく関わっているマクロファージ細胞での影響について報告している。これらの点から、生体内に投与する微粒子は炎症といった副作用の危険を減らす観点からできるだけ均一な粒径をもつ粒子群であることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−269097号公報
【特許文献2】国際公開第2006/095668号パンフレット
【特許文献3】特開2008−88158号公報
【特許文献4】特表2004−511631号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】ジョアンナ・レイマン(Joanna Rejman)他3名、「Size−Dependent internalization of particle via the pathways of clathrin− and caveolae−mediatede endocytosis」バイオケミカル・ジャーナル(Biochemical Journal)、2004年、第377巻、p159−169
【非特許文献2】ジェームス・エム・ブリュワー(James M. Brewer)他3名、「Vesicle size influences the trafficking,Processing,and presentation of antigens in lipid vesicles」、ザ・ジャーナル・オブ・イムノロジー(The Journal of immunology)、2004年、第173巻、p6143−6150
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、親水性生理活性物質を効率よく封入しうるように親水性部分を内部に有し、かつ粒度分布が狭い粒径の揃った親水性生理活性物質含有微粒子の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下のような構成を有する。
【0014】
(1)親水性生理活性物質を含有する微粒子の製造方法であって、
(a)親水性生理活性物質を溶解した水系溶媒と、ポリ(ヒドロキシ酸)の疎水セグメントと多糖またはポリエチレングリコールの親水性セグメントからなる両親媒性ポリマーを溶解した水非混和性有機溶媒を混合することにより逆相エマルジョンを形成する工程、
(b)逆相エマルジョンから溶媒を除去して親水性生理活性物質含有固形分を得る工程、
(c)親水性生理活性物質含有固形分を両親媒性ポリマーの疎水性セグメントが可溶かつ親水性セグメントが不溶である溶媒Aに分散する工程、および
(d)(c)工程で得られる親水性生理活性物質含有固形分分散液を、表面改質剤を溶解しており、両親媒性ポリマーの疎水性セグメントが不溶かつ溶媒Aと相溶性である溶媒Bに加える工程、を含む製造方法。
【0015】
(2)前記(c)工程の溶媒Aが、アセトン、アセトニトリル、1、4−ジオキサン、テトラヒドロフランまたはこれらを主成分とする混合溶媒である、(1)に記載の製造方法。
【0016】
(3)前記(d)工程の溶媒Bが、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、1−ペンタノールまたはこれらを主成分とする混合溶媒である、(1)または(2)に記載の製造方法。
【0017】
(4)前記(b)工程の逆相エマルジョンから溶媒を除去する方法が、凍結乾燥法であることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法。
【0018】
(5)前記(d)工程の表面改質剤が、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体あるいはポリエチレングリコールまたはその誘導体で修飾された脂質である、(1)〜(4)のいずれかに記載の製造方法。
【0019】
(6)前記(d)工程において、溶媒Bの分量が親水性活性物質含有固形分分散液の分量に対して体積比として3倍以上である、(1)〜(5)のいずれかに記載の製造方法。
【0020】
(7)前記両親媒性ポリマーが、多糖主鎖の親水性セグメントおよびポリ(ヒドロキシ酸)グラフト鎖の疎水性セグメントからなるグラフト型両親媒性ポリマー親水性セグメントである、(1)〜(6)のいずれかに記載の製造方法。
【0021】
(8)前記両親媒性ポリマーの親水性セグメントにおける多糖がデキストランである、(1)〜(7)のいずれかに記載の製造方法。
【0022】
(9)前記両親媒性ポリマーが、ポリエチレングリコールの親水性セグメントとポリ(ヒドロキシ酸)の疎水性セグメントからなるブロックポリマーである、(1)〜(6)のいずれかに記載の製造方法。
【0023】
(10)前記両親媒性ポリマーの疎水性セグメントにおけるポリ(ヒドロキシ酸)がポリ(乳酸−グリコール酸)である、(1)〜(9)のいずれかに記載の製造方法。
【0024】
(11)前記親水性生理活性物質がペプチド、タンパク質または核酸である、(1)〜(10)のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によって製造された親水性生理活性物質含有微粒子は、いわゆるドラッグデリバリーシステム(Drug Delivery System)として用いる微粒子として有用である。また、タンパク質、核酸等の生理活性物質を安定的に封入した微粒子を得ることができ、かつ粒度分布が狭いことより、粒子の大きさのバラツキに起因する余分な副作用を軽減でき、例えば、従来では投与した微粒子群中にわずかに含まれる大もしくは小粒径の粒子に由来する免疫反応の惹起や血中薬物濃度のコントロールの困難さが解決でき、患者にとって優しい薬物治療が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、両親媒性ポリマーで構成される微粒子であって、親水性生理活性物質を内包する親水性生理活性物質含有微粒子(以下、単に「微粒子」とも言う。)の製造方法に関する。まず、親水性生理活性物質含有微粒子の構成成分について説明する。
【0027】
本発明の微粒子を構成する両親媒性ポリマーは、ポリ(ヒドロキシ酸)の疎水セグメントと多糖またはポリエチレングリコールの親水性セグメントからなる両親媒性ポリマーであることを特徴とする。ここでいう両親媒性とは、親水性と疎水性の両方の性質を有しているということで、親水性とは、任意の部位の水への溶解度が、他のセグメントより高いとき、該部位を親水性であるという。親水性セグメントは、水に可溶であることが好ましいが、難溶であっても他の部位と比較して、水への溶解度が高ければ良い。また、疎水性とは、任意の部位の水への溶解度が、他の部位より低いとき、該セグメントを疎水性であるという。疎水性セグメントは、水に不溶であることが好ましいが、可溶であっても他の部位と比較して、水への溶解度が低ければ良い。
【0028】
また、前記両親媒性ポリマーは、微粒子の生体投与時に著しく有害な影響を与えるものでないことが好ましいため、生体適合性高分子であることが好ましい。ここで生体適合性高分子とは、生体に投与した際に著しく有害な影響を及ぼさないものを言い、より具体的には、ラットに該高分子を経口投与する場合のLD50が2,000mg/kg以上のものを言う。
【0029】
したがって、前記両親媒性ポリマーの疎水性セグメントであるポリ(ヒドロキシ酸)としては、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリ(2−ヒドロキシ酪酸)、ポリ(2−ヒドロキシ吉草酸)、ポリ(2−ヒドロキシカプロン酸)、ポリ(2−ヒドロキシカプリン酸)、ポリ(リンゴ酸)またはこれらの高分子化合物の誘導体ならびに共重合体が具体例として挙げられるが、生体適合性高分子であるポリグリコール酸、ポリ乳酸またはポリ(乳酸−グリコール酸)の共重合体が好ましい。なお、ポリ(乳酸−グリコール酸)である場合のポリ(乳酸−グリコール酸)の組成比(乳酸/グリコール酸)(モル/モル%)は、本発明の目的が達成される限り特に限定されないが、100/0〜30/70のものが好ましく、60/40〜40/60のものが特に好ましい。
【0030】
前記両親媒性ポリマーの親水性セグメントである多糖またはポリエチレングリコールは、いずれも生体適合性高分子である。多糖としては、セルロース、キチン、キトサン、ジェランガム、アルギン酸、ヒアルロン酸、プルランもしくはデキストランが具体例として挙げられるが、デキストランであることが好ましい。
【0031】
前記両親媒性ポリマーの親水性セグメントが多糖である場合、該両親媒性ポリマーは多糖主鎖にポリ(ヒドロキシ酸)のグラフト鎖がグラフト重合したグラフト型両親媒性ポリマーであることが好ましい。多糖主鎖の分子量は1,000から100,000であることが好ましく、1,000から50,000であることがより好ましい。ポリ(ヒドロキシ酸)の分子量は500から100,000であることが好ましく、1,000から10,000であることが更に好ましい。多糖の平均分子量に対するポリ(ヒドロキシ酸)の平均分子量の値としては、0.01倍から100倍であることが好ましく、0.02倍から10倍であることが好ましく、0.02倍から1倍であることが更に好ましい。多糖主鎖に結合しているポリ(ヒドロキシ酸)グラフト鎖の数は、1から50であることが好ましい。ここでいうグラフト数は、グラフト型両親媒性ポリマー、多糖主鎖、ポリ(ヒドロキシ酸)グラフト鎖平均分子量から求めることができる。
【0032】
前記両親媒性ポリマーの親水性セグメントがポリエチレングリコールである場合、該両親媒性ポリマーは、ポリエチレングリコールとポリ(ヒドロキシ酸)のブロックポリマーであることが好ましい。本発明において、用語「ブロック」とは、ポリマー分子の一部分で,少なくとも5個以上のモノマー単位からなり,その部分に隣接する他の部分と化学構造上あるいは立体配置上異なるものを言い、少なくとも2以上のブロックが線状に連結してできたポリマーをブロックポリマーと言う。ブロックポリマーを構成する各ブロック自体が、2種類以上のモノマー単位からなる、ランダム、交互、グラジエントポリマーであっても良い。なお、両親媒性ポリマーの親水性セグメントがポリエチレングリコールである場合、該両親媒性ポリマーは、ポリエチレングリコールとポリ(ヒドロキシ酸)がそれぞれ1つずつ連結したブロックポリマーであることが好ましい。
【0033】
ポリエチレングリコールとしては、直鎖もしくは分岐のポリエチレングリコールまたはその誘導体が具体例として挙げられるが、直鎖のポリエチレングリコール誘導体であることが好ましい。なお、ポリエチレングリコール誘導体の好ましい例としては、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテルが挙げられる。ポリエチレングリコールモノアルキルエーテルのアルキル基としては炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐状アルキル基が挙げられ、炭素数1〜4の直鎖状もしくは分岐状アルキル基が好ましく、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル基がより好ましい。ポリエチレングリコールの分子量には特に制限はないが、2,000〜15,000であることが好ましく、2,000〜12,000であることがより好ましく、4,000〜12,000であることが更に好ましく、5,000〜12,000であることが特に好ましい。
【0034】
前記両親媒性ポリマーの親水性セグメントがポリエチレングリコールである場合のポリ(ヒドロキシ酸)の平均分子量は特に限定されないが、5,000〜200,000であることが好ましく、15,000〜150,000であることより好ましく、20,000〜100,000であることが更に好ましい。また、ポリエチレングリコールの平均分子量に対するポリ(ヒドロキシ酸)の平均分子量としては、好ましくは1倍以上であり、より好ましくは2倍以上であり、更に好ましくは4倍以上であり、特に好ましくは4倍以上25倍以下である。
【0035】
なお、本明細書での平均分子量は、特に断りがない限り数平均分子量を言い、数平均分子量とは、分子の大きさの重み付けを考慮しない方法で算出した平均分子量であり、両親媒性ポリマー、多糖およびポリエチレングリコールの平均分子量は、ゲルパーミテーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレンやプルラン換算の分子量として求めることができる。また、ポリ(ヒドロキシ酸)の平均分子量は核磁気共鳴(1H−NMR)測定により、末端残基のピーク積分値と末端残基以外の積分値の比から求めることができる。
【0036】
前記両親媒性ポリマーについては、国際公開第2009/095668号に記載される両親媒性ポリマーの製造方法に従って製造することができる。
【0037】
本発明において親水性生理活性物質とは、低分子化合物、タンパク質、ペプチド、DNA、RNA、修飾核酸が例示される。なお、疎水性生理活性物質であっても、シクロデキストリンやその類縁体等の可溶化剤などで親水性を付与したものであれば、ここで言う親水性生理活性物質に相当する。
【0038】
親水性生理活性物質であるタンパク質またはペプチドの具体例としては、ペプチドホルモン、生理活性タンパク、酵素タンパク、抗体などが挙げあれ、具体例としては、副甲状腺ホルモン(PTH)、カルシトニン、インスリン、インスリン様成長因子、アンギオテンシン、グルカゴン、GLP−1やエキセンジン4に代表されるGLP−1受容体アゴニストペプチド、ボンベシン、モチリン、ガストリン、成長ホルモン、プロラクチン(黄体刺激ホルモン)、ゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)、サイロトロピックホルモン、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、ACTH誘導体(エビラタイド等)、メラニン細胞刺激ホルモン、卵胞刺激ホルモン(FSH)、セルモレリン、バソプレシン、オキシトシン、プロチレリン、黄体形成ホルモン(LH)、コルチコトロピン、セクレチン、ソマトロピン、チロトロピン(甲状腺刺激ホルモン)、ソマトスタチン、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)、G−CSF、エリスロポエチン(EPO)、トロンボポエチン(TPO)、メガカリオサイトポテンシエーター、HGF、EGF、VEGF、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγ、インターロイキン類、FGF(線維芽細胞増殖因子)類、BMP(骨形成蛋白)類、胸腺液性因子(THF)、血中胸腺因子(FTS)、スーパーオキサイドジスムターゼ(SOD)、ウロキナーゼ、リゾチーム、組織プラスミノーゲン活性化因子、アスパラギナーゼ、カリクレイン、グレリン、アディポネクチン、レプチン、心房性ナトリウム利尿ペプチド、心房性ナトリウム利尿因子、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、コナントキンG、ダイノルフィン、エンドルフィン、キョウトルフィン、エンケファリン、ニューロテンシン、アンジオスタチン、ブラジキニン、サブスタンスP、カリジン、ヘモグロビン、プロテインC、VIIa因子、グルコセレブロシダーゼ、ストレプトキナーゼ、スタフィロキナーゼ、サイモシン(チモシン)、パンクレオザイミン、コレシストキニン、ヒト胎盤ラクトーゲン、腫瘍壊死因子(TNF)、ポリミキシンB、コリスチン、グラミシジン、バシトラシン、サイモポエチン、ボムベシン、セルレイン、サイモスチムリン、セレクチン、レジスチン、ヘプシジン、ニューロペプチドY、ニューロペプチドS、コレシストキニン−パンクレオザイミン(CCK−PZ)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ワクチン等をあげることができ、これらは、天然のタンパクまたはペプチドであっても、その配列の一部を改変した誘導体であっても、ポリエチレングリコールや糖鎖などで修飾したものであっても構わない。
【0039】
親水性生理活性物質である修飾核酸の具体例としては、カチオン性界面活性剤、カチオン性脂質、カチオン性ポリマーおよびそれらの類縁体と複合化したものが挙げられる。
【0040】
本発明は、前記両親媒性ポリマーと前記親水性生理活性物質を主原料として、以下の(a)〜(d)の工程により、親水性生理活性物質含有微粒子を製造する方法に関する。
(a)親水性生理活性物質を溶解した水系溶媒と、ポリ(ヒドロキシ酸)の疎水セグメントと多糖またはポリエチレングリコールの親水性セグメントからなる両親媒性ポリマーを溶解した水非混和性有機溶媒を混合することにより逆相エマルジョンを形成する工程
(b)逆相エマルジョンから溶媒を除去して親水性生理活性物質含有固形分を得る工程
(c)親水性生理活性物質含有固形分を両親媒性ポリマーの疎水性セグメントが可溶かつ親水性セグメントが不溶である溶媒Aに分散する工程
(d)(c)工程で得られる親水性生理活性物質含有固形分分散液を、表面改質剤を溶解しており、両親媒性ポリマーの疎水性セグメントが不溶かつ溶媒Aと相溶性である溶媒Bに加える工程。
【0041】
以下、工程ごとに本発明を説明する。
【0042】
工程(a)における水系溶媒には、水あるいは水溶性成分を含有する水溶液を使用する。該水溶性成分として、例えば、無機塩類、糖類、有機塩類、アミノ酸などが挙げられる。
【0043】
工程(a)における水非混和性有機溶媒とは、水への溶解度が30g(有機溶媒)/100mL(水)以下、好ましくは10g(有機溶媒)/100mL(水)以下、より好ましくは1g(有機溶媒)/100mL(水)以下、更に好ましくは0.1g(有機溶媒)/100mL(水)以下の有機溶媒である。その他、水非混和性有機溶媒の特徴としては、両親媒性ポリマーの疎水性セグメントが可溶で且つ、親水性セグメントが難溶または不溶であることが好ましく、また、凍結乾燥により揮散除去できることが好ましい。このような水非混和性有機溶媒として、例えば、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、塩化メチレン、クロロホルムが挙げられる。
【0044】
工程(a)において、親水性生理活性物質を溶解した水系溶媒と両親媒性ポリマーを溶解した水非混和性有機溶媒の混合比は、好ましくは1:1〜1:1000、より好ましくは1:3〜1:100である。なお、水系溶媒中の親水性生理活性物質の濃度は、親水性生理活性物質の種類によって異なりうるが、好ましくは0.01mg/mL〜100mg/mL、より好ましくは0.1mg/mL〜10mg/mL、更に好ましくは0.5mg/mL〜5mg/mLである。また、水非混和性有機溶媒中の両親媒性ポリマーの濃度は、有機溶媒、両親媒性ポリマーの種類によって異なるが、好ましくは0.01〜90%(w/w)、より好ましくは0.1〜50%(w/w)、更に好ましくは1〜20%(w/w)である。
【0045】
工程(a)における逆相エマルジョンは、親水性生理活性物質を溶解した水系溶媒を、両親媒性ポリマーを溶解した水非混和性有機溶媒に添加し、混和することで形成され、必要であれば、例えば、マグネティックスターラーなどの撹拌装置、タービン型攪拌機、ホモジナイザー、多孔質膜を装備した膜乳化装置などを使用しても良い。なお、逆相エマルジョンを形成する工程においては、製剤学的目的に応じて、2種以上の両親媒性ポリマーを溶解した水非混和性有機溶媒により逆相エマルジョンを形成してもよい。また、逆相エマルジョンを形成する工程においては、逆相エマルジョンの形成を補助し、均一かつ微小な逆相エマルジョンを形成する目的のために、共剤を添加してもよい。共剤としては、例えば、炭素数3から6のアルキルアルコール、炭素数3から6のアルキルアミン、炭素数3から6のアルキルカルボン酸から選ばれる化合物が挙げられ、これら共剤のアルキル鎖の構造は、直鎖構造でも分岐構造でも良く、また、飽和アルキルでも不飽和アルキルでも良いが、tert−ブタノール、iso−プロパノール、ペンタノールが好ましい。
【0046】
工程(a)により得られる逆相エマルジョンの平均粒径は特に限定されないが、本発明の目的である医薬品用の微粒子を製造するには、5μm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましく、200nm以下であることがさらに好ましい。逆相エマルジョンの平均粒径の下限は、10nmであることが好ましく、25nmであることがより好ましい。逆相エマルジョンの平均粒径は、水系溶媒、水非混和性有機溶媒、両親媒性ポリマー、共剤の重量比によって変化するため、好ましい平均粒径を得るためには、4成分の割合を適宜決定すれば良い。
【0047】
工程(b)において、逆相エマルジョンから溶媒を除去する方法としては、例えば、加熱、減圧乾燥、透析、凍結乾燥、遠心操作、濾過、再沈殿およびそれらの組み合わせが挙げられるが、凍結乾燥は、逆相エマルジョン中の粒子の合一などによる構造変化への影響少なく、また、親水性生理活性物質の高温による変性を回避しうるため、好ましい。
【0048】
凍結乾燥の工程としては、予備凍結後、常温下での減圧乾燥を経る工程が好ましいが、予備凍結、低温下での一次減圧乾燥、常温下での二次減圧乾燥を経る工程でも良い。例えば、逆相エマルジョンを構成する、水系溶媒と水非混和性有機溶媒の融点以下に冷却することで凍結させ、次いで減圧乾燥することにより、凍結乾燥された親水性生理活性物質含有固形分が得られる。予備凍結の温度としては、溶媒組成から適宜実験的に決定すれば良いが、−20℃以下が好ましい。また、乾燥過程における減圧度も、溶媒組成から適宜実験的に決定すれば良いが、3,000Pa以下が好ましく、より好ましくは、500Pa以下が乾燥時間の短縮のためにより好ましい。凍結乾燥装置としては、コールドトラップを備え真空ポンプと接続可能なラボ用凍結乾燥機や、医薬品の製造などに用いられる棚式真空凍結乾燥機を使用することが好ましい。液体窒素、冷媒などによる予備凍結の後、冷却下または室温で真空ポンプなどの減圧装置で減圧乾燥を行えば良い。
【0049】
工程(c)において、親水性生理活性物質含有固形分を分散させる溶媒Aは、親水性生理活性物質含有固形分を構成する逆相エマルジョンの構造を反映した両親媒性ポリマーと親水性生理活性物質を含む微粒子構造を保持する目的で、両親媒性ポリマーの疎水性セグメントが可溶で且つ、親水性セグメントが不溶であることを特徴とする。溶媒Aとしては、例えば、アセトン、アセトニトリル、1、4−ジオキサン、テトラヒドロフランまたはこれらを主成分とする混合溶媒が挙げられるが、好ましくはアセトニトリルである。なお、ここでいう主成分とは、前記両親媒性ポリマーの疎水性セグメントであるポリ(ヒドロキシ酸)を可溶とすることができる含量以上であることをいい、好ましくは50体積%以上、より好ましくは70体積%以上、更に好ましくは80体積%以上である。親水性生理活性物質含有固形分を分散させるためには、単に親水性生理活性物質含有固形分に溶媒Aを添加するだけで良いが、必要に応じて攪拌、超音波処理などを行っても良い。
【0050】
工程(d)において、溶媒Bは親水性生理活性物質含有固形分を構成する両親媒性ポリマーの疎水性セグメントが不溶で且つ、前述の溶媒Aと相溶性がある溶媒群であることが重要であり、例えば、水性溶媒、アルコール化合物溶媒またはこれらを主成分とする混合溶媒が挙げられる。なお、ここでいう主成分とは、前記両親媒性ポリマーの疎水性セグメントであるポリ(ヒドロキシ酸)が実質的に不溶となる含量以上であることをいい、好ましくは50体積%以上、より好ましくは70体積%以上、更に好ましくは80体積%以上である。
【0051】
水性溶媒としては、例えば、水、塩酸または水酸化ナトリウム水溶液などが挙げられるが、好ましくは水である。また、水性溶媒には水溶性成分が含有されていてもよく、該水溶性成分として、例えば、無機塩類、糖類、有機塩類、アミノ酸などが挙げられる。
【0052】
アルコール化合物溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、1−ペンタノールなどが挙げられるが、好ましくはメタノール、エタノールである。
【0053】
工程(d)における表面改質剤は、親水性生理活性物質固形分表面に物理吸着あるいは化学吸着することにより微粒子のコロイド安定性を向上させる目的で使用される。ここでコロイド安定性を向上させるとは、微粒子の溶媒中における凝集を防ぐことまたは遅延させることを言う。本発明の目的に適した表面改質剤としては、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体、ポリエチレングリコールで修飾された脂質またはポリエチレングリコール誘導体で修飾された脂質が挙げられる。
【0054】
表面改質剤がポリビニルアルコールの場合、ポリビニルアルコールの分子量は、好ましくは5,000〜100,000、より好ましくは10,000〜50,000である。
【0055】
表面改質剤がポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体の場合、BASF社から市販されるPluronic(BASF社の登録商標)もしくは同等品が好ましい。また、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体の分子量は、5,000〜100,000であることが好ましく、10,000〜50,000であることが好ましい。
【0056】
表面改質剤がポリエチレングリコールで修飾された脂質である場合、ポリエチレングリコールの分子量は、500〜15,000であることが好ましく、500〜10,000であることがより好ましく、1,000〜10,000であることが更に好ましい。
【0057】
表面改質剤がポリエチレングリコール誘導体で修飾された脂質である場合、該ポリエチレングリコール誘導体の好ましい例としてはポリエチレングリコールの片末端に官能性基が導入されているものが挙げられる。該官能性基としては、特に限定されるものではないが、−OH、−COH、−COOH、−NH、−SH、―NO、−SOH、−OSOH、−CHOSOH、マレイミド基、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)基が挙げられる。本発明により製造される微粒子にターゲティング抗体や機能性ペプチドを修飾する目的として、COOH、−NH、マレイミド基、NHS基を持つポリエチレングリコール誘導体が好んで用いられる。また、ポリエチレングリコール誘導体の分子量は、前記ポリエチレングリコールの分子量と同様の範囲であることが好ましい。
【0058】
表面改質剤がポリエチレングリコールまたはポリエチレングリコール誘導体で修飾された脂質である場合、脂質としては、長鎖脂肪酸あるいは炭化水素鎖部分を有する化合物であって顕著な毒性を示さないものであれば良い。例えば、リン脂質やオレイン酸が挙げられる。また、コレステロールなどのステロイドであっても良い。
【0059】
工程(d)において、親水性生理活性物質含有固形分分散液と溶媒Bの混合比率は、溶媒Bの分量が該分散液の分量に対して体積比として3倍以上であることが好ましく、5倍以上であることがより好ましく、5倍以上20倍以下であることがさらに好ましい。また、親水性生理活性物質含有固形分分散液を表面改質剤を含む溶媒Bに導入する際、該表面改質剤を含む溶媒Bが攪拌されている状態であることが好ましい。攪拌には、マグネティックスターラーなどの撹拌装置やタービン型攪拌機を用いることができるが、これらに限定されるものではない。撹拌速度は100〜10,000rpmが好ましく、150〜5,000rpmがより好ましく、200〜2,000rpmが更に好ましい。親水性生理活性物質含有固形分分散液を導入するにはポンプ等を用いることもできるし、用いなくてもよい。また、液中添加でも液外添加でもどちらでもよい。該親水性生理活性物質含有固形分分散液を表面改質剤を含む溶媒Bに導入する速度としては、特に限定されるわけではないが、0.01〜1,000ml/minが好ましく、0.05〜500ml/minがより好ましく、0.05〜100ml/minが更に好ましい。
【0060】
本発明によって製造される微粒子は、ポリ(ヒドロキシ酸)の疎水セグメントと多糖またはポリエチレングリコールの親水性セグメントからなる両親媒性ポリマーを含み、内部に両親媒性ポリマーの親水性セグメントからなる親水性部分を有し、両親媒性ポリマーの疎水性セグメントからなる疎水性外層とからなり、疎水性外層に表面改質剤が結合した親水性生理活性物質含有微粒子である。得られる微粒子の形状は特に限定されず、球状又は略球状であればよいが、楕円球状、不定形であってもよい。
【0061】
本発明によって製造される微粒子は粒度分布が狭いことを特徴とする。ここでいう粒度分布とは、対象となる粒子群の中に、どのような大きさ(平均粒径)の粒子が、どのような割合(全体を100%とする相対粒子量)で含まれているかを示す指標のことを意味する。平均粒径の測定方法としては、顕微鏡法、質量法、光散乱法、光遮断法、電気抵抗法、音響法、動的光散乱法が挙げられるが、顕微鏡法、動的光散乱法により好ましく測定される。顕微鏡法に用いられる顕微鏡としては、例えば、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡などが挙げられる。動的光散乱法による粒子測定装置として、例えば、大塚電子社製ELS−Z1/Z2などが挙げられる。測定で得られたデータから光子相関法にて自己相関関数を求め、例えばCONTIN法およびヒストグラム法によって解析することで算出することができる。なお、微粒子の形状が球状以外の場合は、長軸径の平均値をもって、該微粒子の平均粒径とみなすことができる。そして、粒度分布が狭いということは、対象となる粒子群に含まれる個々の粒子の粒径のバラツキが少ないことを意味し、粒度分布が狭いほど大きさが均一で単一な粒子群とみなされる。粒度分布は多分散度指数(PDI:Polydispersity Index)によって評価できる。この多分散度指数は、動的光散乱法によって求めることができる粒子拡散係数の分布の規格化されたz平均分散であり、この値が小さい程粒度分布が狭く粒径の揃った粒子であることを意味する。
【実施例】
【0062】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0063】
(参考例1)デキストランおよびポリ(乳酸−グリコール酸)共重合体のグラフトポリマーの合成
デキストラン(ナカライテスク株式会社、ナカライ規格特級適合品、数平均分子量13,000、5.0g)をホルムアミド(100ml)に加え、80℃に加熱した。この溶液に1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン(100ml)を20分掛けて滴下した。滴下終了後、80℃で2時間攪拌した。反応終了後、反応溶液を室温に戻し、分液漏斗で2層を分離した。上の層を減圧下濃縮した後、メタノール(300ml)を加え、得られた固体をろ過、乾燥し、TMS−デキストラン(11.4g)を白色固体として得た。TMS−デキストラン(500mg)とtert−ブトキシカリウム(35mg)を減圧下1時間乾燥後、テトラヒドロフラン(10ml)を加え、1.5時間室温で攪拌した。この溶液に(DL)−ラクチド(0.78g)とグリコリド(0.63g)のテトラヒドロフラン(15ml)溶液を滴下し、5分間攪拌した。反応終了後、溶媒を減圧下濃縮し、クロロホルム−メタノール系およびクロロホルム−ジエチルエーテル系で再沈殿精製を行うことによってTMS−デキストランおよびポリ(乳酸−グリコール酸)共重合体のグラフトポリマー(以下、TMS−デキストラン−PLGA)を白色固体として得た。TMS−デキストラン−PLGAのクロロホルム(9.0ml)溶液に、トロフルオロ酢酸(1.0ml)を加え、 室温で30分間攪拌した。溶媒を減圧下留去後、残渣をクロロホルム(7ml)に溶解し、0℃に冷却したジエチルエーテル(200ml)に滴下することで生成物を析出させた。析出物をろ別後、減圧乾燥させることにより、デキストランおよびポリ(乳酸−グリコール酸)共重合体のグラフトポリマー(0.65g)を白色固体として得た。
【0064】
(参考例2)ポリエチレングリコールおよびポリ(乳酸−グリコール酸)共重合体のブロックポリマーの合成
ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(日本油脂株式会社製、SUNBRIGHT MEH−20H、数平均分子量5,128、Mw/Mn=1.02)(0.3g)、(DL)−ラクチド(2.16g)とグリコリド(1.74g)を混合し、140℃に加熱した。20分攪拌後、オクチル酸すず(II)(ポリエチレングリコールモノメチルエーテルに対して0.05重量%)を加え、180℃で3時間攪拌した。反応液を室温に戻した後、クロロホルム(約100mg/ml濃度になるよう)に溶解し、0℃に冷却したジエチルエーテルで再沈殿精製し、得られた固体を濾別、減圧乾燥することでポリエチレングリコールおよびポリ(乳酸−グリコール酸)共重合体のブロックポリマーを白色固体として得た。
【0065】
(実施例1)
参考例1のデキストラン−g−ポリ(乳酸−グリコール酸)(デキストランの平均分子量17,500、ポリ(乳酸−グリコール酸)グラフト鎖の平均分子量4,290、平均グラフト鎖数20〜26本)5mgを炭酸ジメチル100μLに溶解し、ポリマー溶液を調製した。該ポリマー溶液に、tert−ブタノール 20μL加えた後、1mg/mLのFITC標識牛血清アルブミン(FITC−BSA)溶液50μLを滴下し、ボルテックスにて攪拌することで逆相エマルジョンを製造した。該逆相エマルジョンを液体窒素で予備凍結した後、凍結乾燥機(EYELA、FREEZE DRYER FD−1000)を用いて、トラップ冷却温度−45度、真空度30Paに12時間凍結乾燥した。得られた固形分をアセトニトリル1mLに分散させ固形分分散液を調製した。該固形分分散液を各種表面改質剤(ポリビニルアルコール(PVA)分子量13,000〜23,000、ケン化率87〜89%(アルドリッチ社製)、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体“Pluronic(BASFの登録商標)F68”((PEO−PPO−PEOブロックポリマー)、BASF社製、分子量8,400)、ポリエチレングリコール修飾リン脂質“SUNBRIGHT DSPE−020CN”(1,2-distearoyl-sn-glycero-3-phosphatidylethanolamine-N-monomethoxy-[poly(ethylene glycol)]、日本油脂株式会社製、ポリエチレングリコール分子量2,000)を含む水溶液5mLに攪拌下で滴下することで、それぞれの表面改質剤が結合したFITC−BSA内包微粒子を得た。得られた微粒子の平均粒径と多分散度を動的光散乱装置(大塚電子株式会社製ELS−Z)を用いて測定した。
【0066】
(比較例1)
参考例1のデキストラン−g−ポリ(乳酸―グリコール酸)(デキストランの平均分子量17,500、ポリ(乳酸−グリコール酸)グラフト鎖の平均分子量4,290、平均グラフト鎖数20〜26本)10mgを酢酸エチル2mLに溶解し、ポリマー溶液を調製した。該ポリマー溶液に、1mg/mLのFITC−BSA溶液100μLを滴下し、マグネティックスターラーを用いて1,600rpmで1時間攪拌することで逆相エマルジョンを製造した。次に、逆相エマルジョンから溶媒を除去して固形分を得るのではなく、該逆相エマルジョンをジオキサン20mLに添加し、ロータリーエバポレーターを用いて2mLまで濃縮し、該濃縮液を各種表面改質剤(PVA、“Pluronic(BASFの登録商標)F68”、“SUNBRIGHT DSPE−020CN”)を含む水溶液10mLに攪拌下で滴下することで、それぞれの表面改質剤が結合したFITC−BSA内包微粒子を得た。得られた微粒子の平均粒径と多分散度を動的光散乱装置(大塚電子株式会社製ELS−Z)を用いて測定した。
【0067】
<結果>
実施例1、比較例1方法によって製造された微粒子の測定結果を表1、2に示す。いずれの表面改質剤を用いた場合においても、比較例1と比較して多分散度の値が小さく、より粒度分布が狭い粒子が製造できた。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
(実施例2)
参考例2のポリエチレングリコール−b−ポリ(乳酸−グリコール酸)(ポリエチレングリコールの平均分子量5,000、ポリ(乳酸−グリコール酸)グラフト鎖の平均分子量55,000)5mgを炭酸ジメチル100μLに溶解し、ポリマー溶液を調製した。該ポリマー溶液に、tert−ブタノール 20μL加えた後、1mg/mLのFITC標識牛血清アルブミン(FITC−BSA)溶液50μLを滴下し、ボルテックスにて攪拌することで逆相エマルジョンを製造した。該逆相エマルジョンを液体窒素で予備凍結した後、凍結乾燥機(EYELA、FREEZE DRYER FD−1000)を用いて、トラップ冷却温度−45度、真空度30Paに12時間凍結乾燥した。得られた固形分をアセトニトリル1mLに分散させ固形分分散液を調製した。該固形分分散液を実施例1の各種表面改質剤(PVA、“Pluronic(BASFの登録商標)F68”、“SUNBRIGHT DSPE−020CN”)を含む水溶液5mLに攪拌下で滴下することで、それぞれの表面改質剤が結合したFITC−BSA内包微粒子を得た。得られた微粒子の平均粒径と多分散度を動的光散乱装置(大塚電子株式会社製ELS−Z)を用いて測定した。
【0071】
(比較例2)
参考例2のポリエチレングリコール−b−ポリ(乳酸−グリコール酸)(ポリエチレングリコールの平均分子量5,000、ポリ(乳酸−グリコール酸)グラフト鎖の平均分子量55,000)10mgを酢酸エチル2mLに溶解し、ポリマー溶液を調製した。該ポリマー溶液に、1mg/mLのFITC−BSA溶液100μLを滴下し、マグネティックスターラーを用いて1,600rpmで1時間攪拌することで逆相エマルジョンを製造した。次に、逆相エマルジョンから溶媒を除去して固形分を得るのではなく、該逆相エマルジョンをジオキサン20mLに添加し、ロータリーエバポレーターを用いて焼く2mLまで濃縮し、該濃縮液を各種表面改質剤(PVA、PluronicF68、SUNBRIGHT DSPE−020CN)を含む水溶液10mLに攪拌下で滴下することで、それぞれの表面改質剤が結合したFITC−BSA内包微粒子を得た。得られた微粒子の平均粒径と多分散度を動的光散乱装置(大塚電子株式会社製ELS−Z)を用いて測定した。
【0072】
<結果>
実施例2、比較例2方法によって製造された微粒子の測定結果を表3、4に示す。いずれの表面改質剤を用いた場合においても、比較例2と比較して多分散度の値が小さく、より粒度分布が狭い粒子が製造できた。
【0073】
【表3】

【0074】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明により製造される親水性生理活性物質は医薬品組成物として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性生理活性物質を含有する微粒子の製造方法であって、
(a)親水性生理活性物質を溶解した水系溶媒と、ポリ(ヒドロキシ酸)の疎水セグメントと多糖またはポリエチレングリコールの親水性セグメントからなる両親媒性ポリマーを溶解した水非混和性有機溶媒を混合することにより逆相エマルジョンを形成する工程、
(b)逆相エマルジョンから溶媒を除去して親水性生理活性物質含有固形分を得る工程、
(c)親水性生理活性物質含有固形分を両親媒性ポリマーの疎水性セグメントが可溶かつ親水性セグメントが不溶である溶媒Aに分散する工程、および
(d)(c)工程で得られる親水性生理活性物質含有固形分分散液を、表面改質剤を溶解しており、両親媒性ポリマーの疎水性セグメントが不溶かつ溶媒Aと相溶性である溶媒Bに加える工程、を含む製造方法。
【請求項2】
前記(c)工程の溶媒Aが、アセトン、アセトニトリル、1、4−ジオキサン、テトラヒドロフランまたはこれらを主成分とする混合溶媒である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記(d)工程の溶媒Bが、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、1−ペンタノールまたはこれらを主成分とする混合溶媒である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記(b)工程の逆相エマルジョンから溶媒を除去する方法が、凍結乾燥法であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記(d)工程の表面改質剤が、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体あるいはポリエチレングリコールまたはその誘導体で修飾された脂質である、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記(d)工程において、溶媒Bの分量が親水性活性物質含有固形分分散液の分量に対して体積比として3倍以上である、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記両親媒性ポリマーが、多糖主鎖の親水性セグメントおよびポリ(ヒドロキシ酸)グラフト鎖の疎水性セグメントからなるグラフト型両親媒性ポリマー親水性セグメントである、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記両親媒性ポリマーの親水性セグメントにおける多糖がデキストランである、請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記両親媒性ポリマーが、ポリエチレングリコールの親水性セグメントとポリ(ヒドロキシ酸)の疎水性セグメントからなるブロックポリマーである、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
前記両親媒性ポリマーの疎水性セグメントにおけるポリ(ヒドロキシ酸)がポリ(乳酸−グリコール酸)である、請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
前記親水性生理活性物質がペプチド、タンパク質または核酸である、請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−140470(P2011−140470A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2765(P2010−2765)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】