説明

親綱支持装置

【課題】 支柱がなくても設置することが可能であり、構造がシンプルで耐久性に富み、親綱を確実に支えることができる親綱支持装置の提供。
【解決手段】 足場などの支柱50の間に架設された横梁52に脱着可能に取り付けられるブラケット12と、ブラケット12から下方へ延びる縦桿部14と、縦桿部14の下方位置に取り付けられ、安全帯1の端部に取り付けられた環状部材2が挿通される親綱54に対し、その下方から当接することによって親綱54を支える支持片を備えた回転可能な星形支持部材16と、星形支持部材16の先端部付近、並びに親綱に沿って移動する安全帯の環状部材2が、それぞれ当接することによって左右方向に揺動可能であり、環状部材2の移動経路上からの逸脱を防止する規制部材18とを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いわゆる安全帯(命綱)を使用して行われる高所作業の際に、足場などに張設された親綱を支える場合に使用する親綱支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、多層階の建物などの建設現場や工場などの作業現場では、建物の周囲などに足場を設け、その足場を利用して作業員が高所での各種作業・工事を行う。このような足場は、鋼製パイプなど複数の支柱を立設するとともに、それらの支柱を利用して床板(足場板)を設置し、当該床板の上を作業員が移動しながら作業を行うことが多い。高所での作業は、落下事故を防止する観点から、作業員には安全帯(命綱)の身体への装着が義務付けられている。安全帯は足場などに沿って張設された親綱に支持されるが、親綱に弛みが生じないよう所定の間隔毎に親綱の支持装置が設置されている。この親綱の支持装置は作業中における作業員の移動を妨げず、円滑な作業を可能にするために、従来より種々の支持装置が提案されている。
【0003】
従来の支持装置の一例として、実開平5−48965号公報(特許文献1)記載の高所作業用親綱保持治具がある。同文献記載の治具は、支柱に脱着可能なコ形取付部材に、回転可能なターンテーブル形回転爪を備え、このターンテーブル形回転爪によって親綱を支持するとともに、ストッパー式ダンパーにより親綱がターンテーブル形回転爪から離脱するのを防止するようになっている。また、安全帯は、端部に取り付けられたカラビナ等の環状の金具によって親綱に沿って摺動しながら移動可能に支持され、且つ移動時には保持治具のターンテーブル形回転爪が回転しつつ親綱の下面を当接支持することにより、スパン毎に立設されている支柱の部分を安全帯を身に着けた作業員が自由に通過し得るようになっている。これによって、作業員は逐一、安全帯を外す必要がなくなり、墜落事故の危険から身を守ることは勿論、効率的に高所での作業を行い得るとされている。
【0004】
また、特開平9−290030号公報(特許文献2)記載の発明は、横長の一対の案内部材を備え、案内部材における内側壁の間に親綱を張設し、当該内側壁の間を、安全帯の端部が取り付けられた移動金具を通過させるための案内路としている。また、同文献記載の「親綱支持装置」では、案内路を通過させるための移動金具として専用品が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平5−48965号公報
【特許文献2】特開平9−290030号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述した特許文献1記載の「高所作業用親綱保持治具」に関する発明は、支柱に対し、片持ち支持された状態で取り付けられており、支柱から距離がある所で作業を行うような場合は、安全帯の長さを伸ばす必要があるなど、使い勝手の点で万全とは言い難かった。
また、特許文献2記載の「親綱支持装置」では、安全帯の端部が取り付けられる移動金具に滑車が必要であるなど、支持装置全体として構造が複雑なためコスト高の要因となっていた。
【0007】
本発明は、このような諸事情に対処するために提案されたものであって、支柱がなくても設置することが可能であり、構造がシンプルで耐久性に富んだ親綱支持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、足場などを構成する支柱、又は支柱の間に架設された横梁に脱着可能に取り付けられるブラケットと、前記ブラケットから下方へ延びる縦桿部と、前記縦桿部の下方位置に取り付けられ、安全帯の端部に取り付けられた環状部材が挿通される親綱に対し、その下方から当接することによって該親綱を支える支持片を備えた回転可能な星形支持部材と、前記星形支持部材並びに親綱に沿って移動する安全帯の環状部材が、それぞれ当接することによって左右方向に揺動可能であり、該親綱の移動経路上からの逸脱を防止する規制部材とを具備したことを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、上記1項において、前記縦桿部には安全帯の環状部材を親綱側へ案内するガイド部材が設けられていることを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、上記1項又は2項において、前記規制部材は前記縦桿部から外側へ延設された延出部に、その上端部を中心として左右方向に揺動可能に支持された棒状片を備えていることを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明は、上記1項〜3項のうちいずれか1項において、前記星形支持部材における支持片は、前記規制部材に対し、回転時に当接可能な寸法に形成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項5記載の発明は、上記1項〜4項のうちいずれか1項において、前記規制部材における棒状片の長さ寸法は、前記星形支持部材における前記親綱の支持面よりも下方へ長く形成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項6記載の発明は、上記1項〜4項のうちいずれか1項において、前記規制部材としての棒状片は、少なくとも左右一対設けられ、安全帯の環状部材が一方の棒状片に当接した場合に、該一方の棒状片は該環状部材の移動方向に揺動して移動経路上における該環状部材の移動を許容するとともに、他方の棒状片は前記星形支持部材の支持面よりも下方に突出して位置し、前記親綱の移動経路上からの逸脱を該他方の棒状片によって防止することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
上述のように、各請求項記載の発明によれば、安全帯の環状部材の円滑な移動が可能であるとともに、親綱を確実に支えることによって、親綱の弛みを防止することができる。また、環状部材の移動経路上からの逸脱を防ぐことが可能であり、高所作業などの際の安全性向上に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る本発明の一実施形態に係る親綱支持装置の設置状況を示した斜視図である。
【図2】同じく、本発明の一実施形態に係る親綱支持装置の分解斜視図である。
【図3】同じく、本発明の一実施形態に係る親綱支持装置の平面図である。
【図4】同じく、本発明の一実施形態に係る親綱支持装置の正面図である。
【図5】同じく、本発明の一実施形態に係る親綱支持装置の側面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る親綱支持装置の平面図で、ブラケットを取り外した状態を示した図である。
【図7】同じく、本発明の一実施形態に係る親綱支持装置であって、ブラケットを取り外した状態を示した正面図である。
【図8】同じく、本発明の一実施形態に係る親綱支持装置に使用される他のブラケットの一実施例を示す正面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る親綱支持装置の好適な実施形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る親綱支持装置の設置状況を示した斜視図、図2は本実施形態に係る親綱支持装置の分解斜視図、図3は親綱支持装置の平面図、図4は親綱支持装置の正面図、図5は側面図、図6はブラケットを取り外した状態を示した底面図である。
【0017】
図1〜図3に示されるように、本実施形態の親綱支持装置10は、ブラケット12と、縦桿部14と、星形支持部材16と、規制部材18等とを具備して構成されている。
ブラケット12は、足場を構成する複数の支柱50に架設された横梁52に支持装置10全体を脱着可能に固定し、足場に沿って張設される親綱54を支え、張設された親綱54に弛みが生じないように所定間隔毎の要所に設置されている。このブラケット12は平板12A、円弧状に形成された固定板12B、左右一対のボルト12C,12D、ナット12Eを備え、これらを接合することによって横梁52に支持装置10全体を固定するようになっている。
なお、図1及び図2では、横梁52に固定した場合について図示しているが、これに限らず立設された支柱50に対し、支柱用のブラケットを別途製作しておき、支柱用ブラケットを利用して固定することも可能である。
【0018】
縦桿部14は鉛直軸14A、沈頭ボルト14B等を有し、ブラケット12の平板12Aの中央部に沈頭ボルト14Bによって取り付けられ、下方に向かって懸垂支持されている。また、縦桿部14には規制部材18を取り付けるための平面視略T状(図6参照)をなす固定片20が延出して設けられている。
【0019】
図2に示されるように、固定片20は、縦桿部14に対し嵌挿可能なパイプ状部20A、親綱54にほぼ平行な延出部20B、ガイド部材20Cを備えている。固定片20におけるパイプ状部20Aは鉛直軸14Aに嵌挿された状態でピン21によって回り止めが施されて縦桿部14と一体化されている。
また、図1〜図3等に示されるように、ガイド部材20Cは、平面視ウイング状に形成され、安全帯1の環状部材2を親綱54側へ案内するようになっている。また、ガイド部材20Cは、親綱54に沿って移動する環状部材2が、不用意に縦桿部14側へ移動して引っ掛かるなどの事態を防止し、安全帯1を装着した作業員が円滑に足場に沿って移動することができるようにしている。
【0020】
図5に示されるように、縦桿部14、星形支持部材16、規制部材18、ガイド部材20Cによって囲まれた部分に親綱54が位置するとともに、同部分は、図1に示される安全帯1の端部に連結されたカラビナ若しくはフック等、親綱54に沿って移動する環状部材2の移動経路3となる。
規制部材18は左右一対の棒状片18A,18Bを備え、これらの棒状片18A,18Bの上端部は、ねじ部及びボルト・ワッシャ等によって固定片20の延出部20Bに左右方向(環状部材2の移動方向、つまり親綱54の張設方向)に自由に揺動可能に取り付けられている。さらに、縦桿部14の下部には星形支持部材16が配設されている。また、規制部材18は、その内側の側面が親綱54に対して当接することにより、親綱54が移動経路3から逸脱することを防止する。また、棒状片18A,18Bの長さ寸法は、後述する星形支持部材16よりも下方へ長く形成されている。
【0021】
図2に示されるように、星形支持部材16は、縦桿部14の下端に、ワッシャ22A,22Bとの間に位置する形で、鉛直軸14Aの下端付近に取付ナット22によって取り付けられている。星形支持部材16の上方にはパイプ状部20Aが位置している。これによって、星形支持部材16は縦桿部14に対し、自由に回転することができるようになっている。また、星形部材16は、放射方向に延びる合計5個の支持片16A〜Eを備え、平面視星形の形状に形成されている。
【0022】
図3に示されるように、上方から視た場合に、各支持片16A〜Eは、移動経路3並びに規制部材18よりも、外側に突出する寸法に形成されており、親綱54をその上面(支持面)に当接させて支えることによって張設された親綱54の弛みを防止するようになっている。このように、支持片16A〜Eにつき規制部材18よりも外側に突出する寸法としたのは、親綱54を確実に支えることを可能ならしめるためであり、前述した規制部材18の存在とも相まって親綱54が移動経路3からはずれることを防ぐことができる。
【0023】
図7はブラケット12を取り外した状態の親綱支持金具10を示した正面図、図8は他のブラケットの一実施例を示す正面図である。これらの図に示されるように、ブラケット12に代替し太径の横梁などに取付可能なブラケット40を用いることも可能である。同ブラケット40は回動可能なアーム40A、円弧状の取付部40Bを備え、アーム40Aの先端に取り付けられたねじ部に対し、ナット40Cを締め付けることによって、ブラケット40とともに、親綱支持金具10を横梁に固定することが可能になっている。
【0024】
前述のように構成した本実施形態の親綱支持具10の作用は以下の通りである。
図1に示されるように、安全帯1の環状部材2は親綱54に沿って、矢印X方向に移動した場合、環状部材2は規制部材18の棒状片18A,18Bと接触するが、その際に棒状片は二点鎖線に示す方向へ揺動して環状部材2の通り道を確保するため、環状部材2の通過を妨げることはない。
【0025】
また、親綱54を支えている星形支持部材16に対しても同様に環状部材2が接触するが、星形支持部材16は環状部材2の接触に伴って回転し、環状部材2の通過前に親綱54を支えていた支持片16が回転して棒状片18A,18B間からはずれる。その後、環状部材2が通過した後は、隣接する支持片が棒状片18A,18B間に位置して親綱54を支えるようになる。棒状片18A,18Bは、星形支持部材16よりも下方へ長く形成されていることから、環状部材2が通過する際に星形支持部材16の支持片が接触することによっても棒状片18A,18Bは進行方向に揺動し、より確実に環状部材2の通過を可能とし、環状部材2の通過を邪魔することがない。
【0026】
さらに、環状部材2が一方の棒状片18Aに当接した場合に、棒状片18Bは環状部材2の移動方向に揺動して移動経路3上における環状部材2の移動を許容するとともに、他方の棒状片18Bは鉛直な状態のままであり、星形支持部材16よりも下方に突出した状態が維持されるので、親綱54の移動経路3上からの逸脱を棒状片18Bによって防止することができる。
なお、棒状片18A,18Bの上端部を固定片20の延出部20Bに取り付けるに際しては、延出部20Bとの間にバネなどの弾性体を介在させておき、通常時、弾性体の付勢力によって各18A,18Bを鉛直方向に向くようにしておき、環状部材2の接触時に弾性体の付勢力に抗しながら揺動するように構成してもよい。これによれば、棒状片18A,18Bの姿勢が安定するために、より確実に親綱54の移動経路3上からの逸脱を防止することが可能である。
【0027】
上記のように構成した本実施形態の親綱支持装置10によれば、に星形支持部材16における支持片の数を支合計5個とし、且つ支持片16A〜Eは、平面的に視た状態にて、規制部材18よりも外側に突出する寸法に形成しているので、親綱54を確実に支えることができる。また、環状部材2の通過を円滑に行わせることが可能であり、高所作業等を行う作業員に負担を与えることがない。
【0028】
なお、本実施形態では、横梁52に支持装置10を設置した場合について説明したが、これに限らず、支柱に設置することも勿論可能である。
また、本実施形態における星形部材16は合計5個の支持片16A〜Eを備えているが、これに限らず、親綱54を支持するのに支障がなく、環状部材2の移動を妨げることがなければ、その個数は限定されない。
さらに、本実施形態では、規制部材18における棒状片18A,18Bの長さ寸法につき、星形支持部材16よりも下方へ長く突出するように形成しているが、その長さ寸法は星形支持部材16における親綱54の支持面(上面)よりも下方へ、やや長く形成されていれば親綱54が移動経路3から逸脱することを防止することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
以上説明したように、本発明によれば、安全帯の環状部材の円滑な移動が可能であり、且つ、環状部材の移動経路上からの逸脱を防ぐことができる。
【符号の説明】
【0030】
1 安全帯
2 環状部材
3 移動経路
10 親綱支持装置
12 ブラケット
12A 平板,
12B 固定板
12C 12D ナット
12E ボルト
14 縦桿部
16 星形支持部材
16A〜E 支持片
18 規制部材
18A 18B 棒状片
20 固定片
20A パイプ状部
20B 延出部
20C ガイド部材
21 ピン
22 取付ナット
22A 22B ワッシャ
22C ピン
40 ブラケット
40A アーム
40B 取付部
40C ナット
50 支柱
52 横梁
54 親綱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
足場などを構成する支柱、又は支柱の間に架設された横梁に脱着可能に取り付けられるブラケットと、
前記ブラケットから下方へ延びる縦桿部と、
前記縦桿部の下方位置に取り付けられ、安全帯の端部に取り付けられた環状部材が挿通される親綱に対し、その下方から当接することによって該親綱を支える支持片を備えた回転可能な星形支持部材と、
前記星形支持部材並びに親綱に沿って移動する安全帯の環状部材が、それぞれ当接することによって左右方向に揺動可能であり、該親綱の移動経路上からの逸脱を防止する規制部材とを具備したことを特徴とする親綱支持装置。
【請求項2】
前記縦桿部には安全帯の環状部材を親綱側へ案内するガイド部材が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の親綱支持装置。
【請求項3】
前記規制部材は前記縦桿部から外側へ延設された延出部に、その上端部を中心として左右方向に揺動可能に支持された棒状片を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の親綱支持装置。
【請求項4】
前記星形支持部材における支持片は、前記規制部材に対し、回転時に当接可能な寸法に形成されていることを特徴とする請求項1〜3のうち、何れか1項に記載の親綱支持装置。
【請求項5】
前記規制部材における棒状片の長さ寸法は、前記星形支持部材における前記親綱の支持面よりも下方へ長く形成されていることを特徴とする請求項1〜4のうち、何れか1項に記載の親綱支持装置。
【請求項6】
前記規制部材としての棒状片は、少なくとも左右一対設けられ、安全帯の環状部材が一方の棒状片に当接した場合に、該一方の棒状片は該環状部材の移動方向に揺動して移動経路上における該環状部材の移動を許容するとともに、他方の棒状片は前記星形支持部材の支持面よりも下方に突出して位置し、前記親綱の移動経路上からの逸脱を該他方の棒状片によって防止することを特徴とする請求項1〜5のうち、何れか1項に記載の親綱支持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−48644(P2013−48644A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183448(P2011−183448)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(511185195)有限会社伊藤工務店 (1)
【Fターム(参考)】