説明

観測システム

【課題】計測装置が故障または異常になったとき、これを確実に検知して、中央監視装置に誤った観測データが送信されるのを防止する。
【解決手段】観測装置3によって、計測装置2から出力される各計測データのうち、対になっている計測データ、例えば各水位データなどの時系列的な差分積算値が閾値を超えているかどうかに基づき、計測装置2の故障有無、異常有無を判定しながら、所定時間毎に、観測地点の計測データをまとめた観測データを無線信号で中央監視装置に送信し、集中管理させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水位や雨量などを観測する観測システムに係わり、特に各センサなどの故障または異常などを確実に検知し得るようにした観測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
河川の水位や降雨量などを観測する従来の観測システムでは、各観測地点毎に配置された計測装置で得られた各計測データを観測装置で観測データにまとめ、無線信号などで、中央監視装置に送信して、集中管理するようにしている。
【特許文献1】特開平7−294039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、このような従来の観測システムでは、各観測地点に設けられた観測装置で、観測データが取得できない場合や観測データが既定値外の場合に、観測装置に接続された計測装置の故障・異常とみなすことで、計測装置の故障・異常を自動検出している。
【0004】
このため、観測データの値が既定値内に留まっていれば、計測装置が正常であると判断してしまい、計測装置の故障時でも、また計測装置の設置状態や環境が悪化し、正確な計測が行われなくなっていても、観測データの値が既定値内に留まっている場合には、計測装置の故障・異常を自動検出できない。
【0005】
また、観測装置の保守点検時に計測装置の稼動状況、設置状態、設置環境を確認しているものの、例えば水門観測では水位計に藻やごみが付着して、正常に動作しない状態になっていたり、雨量計の上空が木の繁茂などで覆われていたりということが点検時に発見されることがあり、正確な計測が継続的に行われていない場合があるのが現状である。
【0006】
本発明は上記の事情に鑑み、計測装置が故障や異常となったとき、これを確実に検知でき、中央監視装置に誤った観測データが送信されるのを未然に防止できる観測システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために本発明は、観測地点で収集された計測データを観測データとして中央監視装置に伝送して集中管理する観測システムにおいて、1つの観測対象に対して複数個の計測センサを有し、前記計測センサでそれぞれ計測された各計測データを出力する計測手段と、前記計測手段で得られた各計測データを時系列に記憶する記憶手段と、各計測データ間の同一時刻での差分値を求め、求められた各差分値を時系列的に所定時間に渡って積分した値が予め設定されている閾値を超えているとき、前記計測手段の故障または異常と判定する異常判定手段とを備えたことを特徴としている。
【0008】
また、前記異常判定手段により、前記計測手段で得られた各計測データが正常であるとき、各計測データの同一時刻での平均値を求めてこれを観測データとし、また前記計測手段で得られた各計測データのいずれか一方が正常なとき、正常な方の計測データを観測データとする観測データ演算手段を備えている。
【0009】
本発明において、計測データとしては、河川や湖沼等の水位計測データ、河川流域における雨量計測データなどが考えられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、計測装置が故障または異常になったときでも、これを確実に検知することができ、中央監視装置に誤った観測データが送信されるのを未然に防止することができる。
【0011】
これにより、計測装置から出力される各計測データがぶれたときにも、観測データがぶれないようにさせることができ、さらに、計測装置から出力される計測データのいくつかが異常になったときにも、観測データが異常にならないようにさせて、正確な観測を行わせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は本発明による観測システムの一実施形態を示すブロック図である。
【0013】
この図に示す観測システム1は、各観測地点毎に配置され、水位、降雨量などを計測する計測装置2と、計測装置2で得られた計測データを取り込んで観測データを生成する観測装置3と、観測装置3に電源を供給する電源装置4と、観測装置3で生成された観測データを無線信号にして中央監視装置に送信する無線装置5とを備え、計測装置2で得られた計測データのうち、対になっている計測データ、例えば各水位データなどを比較して計測装置2の故障有無、異常有無を判定しながら、所定時間毎に、観測地点の計測データをまとめた観測データを無線信号で中央監視装置に送信するように構成されている。
【0014】
計測装置2は、観測地点の水位を計測する第1水位計6と、この第1水位計6とほぼ同じ観測地点に置かれた第2水位計7と、観測地点の降雨量を計測する第1雨量計8と、この第1雨量計8とほぼ同じの観測地点に置かれた第2雨量計9とを備え、第1水位計6、第2水位計7で得られた各水位データをデジタル信号形式で観測装置3に供給するとともに、第1雨量計8および第2雨量計9で得られた各雨量データをパルス信号形式で観測装置3に供給する。
【0015】
また、観測装置3は、電源装置4から供給される電源電圧を取り込み、指定された各電圧値の電源電圧を生成して装置各部に供給する電源部11と、バス12を介して装置各部の動作を制御する基本制御部13と、第1デジタル入力部14と、第2デジタル入力部15と、第1パルス入力部16と、第2パルス入力部17と、記憶部18と、観測データ演算部19と、変復調部20と、伝送制御部21と、試験部22とを備えている。
【0016】
第1デジタル入力部14および第2デジタル入力部15は、基本制御部13から出力される制御指示に基づき、第1水位計6および第2水位計7から出力されるデジタル信号形式の水位データを取り込んで、並列データ形式に変換し、バス12上に送出する。
【0017】
第1パルス入力部16および第2パルス入力部17は、基本制御部13から出力される制御指示に基づき、第1雨量計8および第2雨量計9で得られたパルス信号形式の雨量データをカウント処理して、並列データ形式に変換し、バス12上に送出する。
【0018】
記憶部18は、基本制御部13から出力される制御指示に基づき、バス12上から各水位データおよび各雨量データを取り込み、時系列に記憶するとともに後述する演算処理によって得られた演算結果を記憶する。
【0019】
観測データ演算部19は、記憶部18に記憶しているn個の同種データ、例えばn個の各水位データに対し、n次元空間上の距離積算値を求めて、計測装置2の故障有無、異常有無などを判定する処理、各水位データ、各雨量データを処理して、観測データを演算する処理などを行う。
【0020】
変復調部20は、中央監視装置から無線信号が送信される毎に、無線装置5から出力される周波数変調信号(指示信号)を復調して直列データに変換する処理、入力された直列データ形式の観測データ、状況データなどを変調し、周波数変調信号にして無線装置5に供給する処理などを行う。
【0021】
伝送制御部21は、基本制御部13から出力される状況データ、観測データ演算部19から出力される観測データなどの並列データを直列データに変換して、変復調部20に供給する処理、変復調部20から出力される指示データなどの直列データを並列データに変換して、基本制御部13に供給する処理などを行う。試験部22は、保守員などが観測装置3の動作を直接、監視するとき、あるいは保守点検を行うとき、装置各部からデータを収集して、解析などを行う。
【0022】
また、電源装置4は、商用電源ラインから供給される電力または発電機などから供給される電力を使用して観測装置3用の電源電圧を生成し、観測装置3を動作させる。
【0023】
さらに、無線装置5は、中央監視装置から無線信号が送信されたとき、空中線10によって、これを受信して得られた周波数変調信号を観測装置3に供給し、また観測装置3から周波数変調信号が出力されたとき、これを取り込んで、空中線10から無線信号を中央監視装置に向けて送信する。
【0024】
<作用>
中央監視装置から観測指示が出されているとき、観測装置3は、計測装置2の第1水位計6および第2水位計7から出力される各水位データ、第1雨量計8および第2雨量計9から出力される各雨量データを取り込んで、並列データに変換し、時系列に記憶部18に記憶する(ステップS1)。次いで、計測データ間の同一時刻での差分値を求め、求められた各差分値を時系列的に所定時間に渡って積分する。具体的には、予め設定されている計算式、例えば下記に示す(1)式、(2)式を用いて、記憶しているn個の同種データ、例えばn個の各水位データX1k、X2kに対し、n次元空間上の距離H1、H2を求める(ステップS2)。
【数1】

【0025】
但し、n:自然数
X1k:時系列に記憶している第1水位計6のk番目水位データ
X2k:時系列に記憶している第2水位計7のk番目水位データ
Y1k:時系列に記憶している第1雨量計8のk番目雨量データ
Y2k:時系列に記憶している第2雨量計9のk番目雨量データ
この後、下記に示す演算を行い、(3)式が成り立っているときには、第1水位計6、第2水位計7が正常に動作していると判定し(ステップS3,S4)、また(4)式が成り立っているときには、第1水位計6、第2水位計7のいずれかに故障または異常が発生したと判定する(ステップS3,S6)。
【0026】
H1≦Sh1 …(3)
H1>Sh1 …(4)
但し、Sh1:過去の水位データなどに基づいて得られた閾値
同様に、下記に示す演算を行い、(5)式が成り立っているときには、第1雨量計8、第2雨量計9が正常に動作していると判定する(ステップS4)。また(6)式が成り立っているときには、第1雨量計8、第2雨量計9のいずれかに故障または異常が発生したと判定する(ステップS6)。
【0027】
H2≦Sh2 …(5)
H2>Sh2 …(6)
但し、Sh2:過去の雨量データなどに基づいて得られた閾値
また、上述した動作と平行し、第1水位計6、第2水位計7が正常に動作しているとき、下記に示す(7)式を使用して、各時制kの水位データXkを演算する。同様に第1雨量計8、第2雨量計9が正常に動作しているとき、下記に示す(8)式を使用して、各時制kの雨量データYkを演算する。
【0028】
Xk=(X1k+X2k)/2 …(7)
Yk=(Y1k+Y2k)/2 …(8)
但し、X1k:時系列に記憶している第1水位計6のk番目水位データ
X2k:時系列に記憶している第2水位計7のk番目水位データ
Y1k:時系列に記憶している第1雨量計8のk番目雨量データ
Y2k:時系列に記憶している第2雨量計9のk番目雨量データ
そして、中央監視装置から指示された送信タイミングになったとき、伝送制御部19、変復調部20によって、記憶部18に記憶されている各時制kの水位データXk、各時制kの雨量データYkを順次、取り込み、直列データに変換した後、周波数変調信号に変換して、無線装置5から無線信号形式で、中央監視装置に送信する(ステップS5)。
【0029】
一方、第1水位計6、第2水位計7のいずれかが故障/異常、または第1雨量計8、第2雨量計9のいずれかが故障/異常と判定された場合には、正常な値を示す方の計測データを観測データとして中央監視装置に送信する(ステップS7)。
【0030】
次の演算周期が到来すると、先の演算に用いた所定数の古い計測データは捨て、所定数の最新(過去n時制)の計測データを用いて上記演算を実行する。こうして、順次、最新の計測データによって観測データが生成される。
【0031】
このように、この実施形態では、過去n時制の計測データをn次元空間の1つの点とみなし、ペアになっている計測センサ(第1水位計6、第2水位計7などの水位センサ、または第1雨量計8、第2雨量計9などの雨量センサ)でそれぞれ得られた計測データの変動の違いをn次元空間の2点間の距離積算値で表現し、2点間の距離積算値が閾値以下の場合、2つの計測センサがいずれも正常であると判断し、閾値よりも大きい場合、2つの計測センサのうちのいずれかが故障または異常であると判断するようにしている。このため、従来方法のような誤検出を防ぐことができ、従来方法では検出できなかった故障または異常も検出可能となる。
【0032】
また、2つの計測データの平均値を観測データとして使用するようにしているので、正確な計測が行われているとき、観測データのぶれを減少させることができる。
【0033】
また、一方の計測センサが故障したり、異常があるときには、正常に動作している方の測定データのみを使用して、観測データを演算するようにすることにより、中央監視装置に継続的に観測データを送信することができ、システム全体の観測動作を安定化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明による観測システムの一実施形態を示すブロック図である。
【図2】観測装置で実行される処理の手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0035】
1:観測システム
2:計測装置
3:観測装置
4:電源装置
5:無線装置
6:第1水位計
7:第2水位計
8:第1雨量計
9:第2雨量計
10:空中線
11:電源部
12:バス
13:基本制御部
14:第1デジタル入力部
15:第2デジタル入力部
16:第1パルス入力部
17:第2パルス入力部
18:記憶部
19:観測データ演算部
20:変復調部
21:伝送制御部
22:試験部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
観測地点で収集された計測データを観測データとして中央監視装置に伝送して集中管理する観測システムにおいて、
1つの観測対象に対して複数個の計測センサを有し、前記計測センサでそれぞれ計測された各計測データを出力する計測手段と、
前記計測手段で得られた各計測データを時系列に記憶する記憶手段と、
各計測データ間の同一時刻での差分値を求め、求められた各差分値を時系列的に所定時間に渡って積分した値が予め設定されている閾値を超えているとき、前記計測手段の故障または異常と判定する異常判定手段と、
を備えたことを特徴とする観測システム。
【請求項2】
請求項1に記載の観測システムにおいて、
前記異常判定手段により、前記計測手段で得られた各計測データが正常であると判定されたとき、各計測データの同一時刻での平均値を求めてこれを観測データとし、また前記計測手段で得られた各計測データのいずれか一方が正常であると判定されたとき、正常な方の計測データを観測データとする観測データ演算手段、
を備えたことを特徴とする観測システム。
【請求項3】
水位観測地点で収集された水位計測データを水位観測データとして中央監視装置に伝送して集中管理する観測システムにおいて、
1つの観測対象に対して複数個の水位センサを有し、前記水位センサでそれぞれ計測された各水位計測データを出力する水位計測手段と、
前記水位計測手段で得られた各水位計測データを時系列に記憶する記憶手段と、
各水位計測データ間の同一時刻での差分値を求め、求められた各差分値を時系列的に所定時間に渡って積分した値が予め設定されている閾値を超えているとき、前記水位計測手段の故障または異常と判定する異常判定手段と、
前記異常判定手段により、前記水位計測手段で得られた各水位計測データが正常であると判定されたとき、各水位計測データの同一時刻での平均値を求めてこれを水位観測データとし、また前記水位計測手段で得られた各水位計測データのいずれか一方が正常なとき、正常な方の水位計測データを水位観測データとする観測データ演算手段と、
を備えたことを特徴とする観測システム。
【請求項4】
雨量観測地点で収集された雨量計測データを雨量観測データとして中央監視装置に伝送して集中管理する観測システムにおいて、
1つの観測対象に対して複数個の雨量センサを有し、前記雨量センサでそれぞれ計測された各雨量計測データを出力する雨量計測手段と、
前記雨量計測手段で得られた各雨量計測データを時系列に記憶する記憶手段と、
各雨量計測データ間の同一時刻での差分値を求め、求められた各差分値を時系列的に所定時間に渡って積分した値が予め設定されている閾値を超えているとき、前記雨量計測手段の故障または異常と判定する異常判定手段と、
前記異常判定手段により、前記雨量計測手段で得られた各雨量計測データが正常であると判定されたとき、各雨量計測データの同一時刻での平均値を求めてこれを雨量観測データとし、また前記雨量計測手段で得られた各雨量計測データのいずれか一方が正常であると判定されたとき、正常な方の雨量計測データを雨量観測データとする観測データ演算手段と、
を備えたことを特徴とする観測システム。

【図1】
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【図2】
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