説明

角度応答検出信号合成方法および装置

【課題】複数の角度センサから得られる角度応答における不連続点を除去する。
【解決手段】対象角度を測定する第一の角度センサと、前記第一の角度センサに較べて狭レンジであって、前記対象角度を前記第一の角度センサよりも高精度に測定する、第二の角度センサと、第一の角度センサから得られた第一の角度応答検出信号と、第二の角度センサから得られた第二の角度応答検出信号とを、前記第一の角度応答検出信号と前記第二の角度応答検出信号とのそれぞれに対して屈曲点の無い関数を用いて重み付けを行ってから合成することによって、制御演算の定義域において時間で微分可能な合成角度信号を生成する、合成角度信号生成ユニットとを含む角度応答検出信号合成装置を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の角度センサの出力を合成する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
角度センサを用いて角度・角速度を測定する際には、調整のやりやすさなどを考慮すると、分解能の異なる複数の角度センサを組み合わせて使用することが好ましい。
精密な用途のためには、こうして組み合わせたセンサを、高精度を以って同期させる必要がある。従来のセンサの同期方法としては、例えば、複数のレゾルバを組み合わせたものである複速レゾルバを用いる方法がある。また、その他の方法としては、特許文献1に開示されているような、広レンジ角度センサとして精度の粗い小型角度センサを用い、且つ、狭レンジセンサとして高精度一次元位置検出素子(PSD)を備えた精度の高い角度センサを用いるような方法がある。
【0003】
[制御系の構成]
図7には、従来技術に係る角度センサ制御系構成の一例のブロック線図を示している。
まず、目標値として指令角度 710 が制御系 700 に与えられる。比例動作と積分動作を行うPI補償器 720 、ならびに、比例動作を行うP補償器 730 を経て、ブロック 740 で制御対象に操作が加えられる。次に、制御対象からの応答信号に対して、ブロック 750 で演算が行われて、角度応答検出値 760 が出力される。角度応答(検出値) 760 を、指令角度 710 と加え合わせるようにフィードバックする。また、角度応答 760 はブロック 770 にも送られて数値微分され、角速度信号 780 が算出され出力される。さらに角速度信号 780 を、PI補償器 720 の出力と加え合わせるようにフィードバックする。
【0004】
図8は、従来技術に係る角度センサの一般的な切り替え方式による制御系構成の一例のブロック線図である。
制御系 800 の基本的な構成は図7の制御系 700 と同様であるが、角度応答 860 が広レンジ角度センサ 914 および狭レンジ角度センサ 916 (詳細は後述する)へと二つの経路で送られ、或る条件(例えば角度とレンジセンサ範囲との関係に基づく条件)によって二種の角度センサが切替えられ、角度応答検出値 890 を得ているところが異なっている。
【0005】
[二開口光束合成視軸機構]
図9には、角度センサとして光センサ(例えば、赤外線センサ)を用いた場合の、従来技術に係る二開口光束合成視軸機構の一例を示している。機構 900 は、駆動体(図示せず)の中に存在している。この駆動体が、進行方向(ここでは前方向とも呼ぶ)に進むにあたって、例えば赤外線などの光を放射している対象物と、進行方向との角度を算出する必要が生じることがある。機構 900 は、角度センサによってこの角度を算出して、姿勢制御装置(図示せず)へと送ることにより、駆動体の運動の制御もしくは補助を行う。
【0006】
ここでは、広レンジ・狭レンジセンサのセット(以下、センサセットと略記する)が二つ存在する例を示す。この場合、機構 900 は、第一センサセット 912 に対応する第一システム開口部 910 、および、第二センサセット 922 に対応する第二システム開口部 920 、を含む。第一システム開口部 910 および第二システム開口部 920 は、測定対象物が存在する外界からの光を、システム内部に導入するための開口部である。さらに、機構 900 は、集光系・検出器 936 への導光部であるユニット開口部 930 を有する。さらに加えて、機構 900 から見て駆動体の進行方向には、前方遮蔽物 940 が存在する。前方遮蔽物 940 が存在する場合、直接に駆動体の前方を測定することができないため、後述するような複数のセンサセットが必要となってくる。
【0007】
第一センサセット 912 には、第一広レンジ角度センサ 914 、第一狭レンジ角度センサ 916 、および第一ミラー 918 が含まれる。第二センサセット 922 には、第二広レンジ角度センサ 924 、第二狭レンジ角度センサ 926 、および第二ミラー 928 が含まれる。各センサの構造の詳細については後述する。
【0008】
機構 900 の外部から第一システム開口部 910 を通ってきた光は、第一ミラー 918 で反射し、さらに第一開口合成ミラー 932 で反射して、ユニット開口部 930 に入る。また、機構 900 の外部から第二システム開口部 920 を通ってきた光は、第二ミラー 928 で反射し、さらに第二開口合成ミラー 934 で反射して、ユニット開口部 930 に入る。
【0009】
集光系・検出器 936 が含む画像制御部(図示せず)は、第一ミラー 918 からの反射光に基づく画像(例えば赤外線画像)と、第二ミラー 928 からの反射光に基づく画像(例えば赤外線画像)とを合成して、駆動体の外部の光景を、表示手段(図示せず)に検知器画像(図示せず)として表示することになる。このとき、検知器画像のボケを防ぐためには、第一ミラー 918 と第二ミラー 928 を一定の範囲で高精度同期動作させる必要がある。
【0010】
第一センサセット 912 については、高い同期精度が要求される範囲 950 と、高い同期精度が要求されない範囲 952, 954 が存在する。
同様に、第二センサセット 922 についても、高い同期精度が要求される範囲 960 と、高い同期精度が要求されない範囲 962, 964 が存在する。
【0011】
図10は、従来技術に係るセンサセットの例 1000 の構造と簡単な原理の説明図である。
センサセット 1000 には、広レンジ角度センサ 1010 と狭レンジ角度センサ 1020 とミラー 1030 とが含まれる。広レンジ角度センサ 1010 は、狭レンジ角度センサ 1020 に較べて低精度となっている。
【0012】
ここでは、広レンジ角度センサ 1010 は、単一レゾルバである。また、狭レンジ角度センサ 1020 は、PSDセンサである。狭レンジ角度センサ 1020 には、レーザー光源 1022 および一次元位置検出素子(PSD) 1024 が含まれている。レーザー光源 1022 からPSD 1024 までの距離を d[m] 、狭レンジ角度センサ 1020 の回転により生ずる変位(PSD検出値)を Px[m] とすると、回転角 θ[rad] は以下の数式 (1) で算出できる。
【0013】
【数1】

【特許文献1】特開2001−99652号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前述したような二開口光束合成視軸機構において、複数のセンサについて高水準の同期精度を得ようとするにあたって、従来技術に係る複速レゾルバを用いた方法では、複速レゾルバではセンサ自体のサイズが一般に大きくなる傾向があるため、センサの格納容積に制限がある用途(例えば誘導弾)には不向きである。
【0015】
また、前述の特許文献1に係る方法では、広レンジ角度センサの検出範囲全般に亘って狭レンジセンサを複数個配置する必要があるため、コスト面・重量面・サイズ面での問題があった。
【0016】
[角度応答検出値/角速度信号]
図11には、例えば図8の制御系から得られるはずであるところの、理想的な角度応答検出値と角速度信号を示すグラフを示した。しかしながら、実際には、従来技術に係る角度センサ切り替え方式では、このような滑らかな(則ち、時間で微分可能な)曲線を得ることは難しい。
【0017】
図12は、従来技術に係る角度センサの一般的な切り替え方式による角度信号出力を示す。ここでは、図12(a)に低精度な広レンジ角度センサの出力を、図12(b)に高精度な狭レンジ角度センサの出力を示している。一般的な切り替え方式では、狭レンジ角度センサの有効な角度範囲では狭レンジ角度センサの出力を用い、そのほかの角度範囲では広レンジ角度センサの出力を用いるようにしている。その(合成した)出力結果が図12(c)である。図中に番号 1202 および 1204 として示した領域は、精粗二種のセンサの出力を切替える角度に相当する箇所である。実際に二種のセンサから得られる角度応答には、精度の違いがあるため、このような不連続点が生じてしまう。
【0018】
図13は、例えば図8の制御系から実際に得られる信号を示すグラフである。
図13(a)は、横軸に計測時間、縦軸に角度応答検出値を示すグラフである。ここで計測時間とは、ユーザーが適切に設定する時刻のこととする。グラフ中に点線の囲みで示した箇所に、上述した不連続点の存在に因る応答信号の歪みが見てとれる。
【0019】
図13(b)は、横軸に計測時間、縦軸に角速度応答検出値を示すグラフである。グラフ中に点線の囲みで示した箇所に、上述した不連続点の存在に因る信号の乱れが見てとれる。
【0020】
従来技術においては、このような応答の歪み、および信号の乱れによって、二開口光束合成視軸機構を内蔵する駆動体の姿勢がスムースに制御できなくなるという問題があった。
【0021】
本発明は、上述した問題を解決する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の或る特徴においては、
対象角度を測定する、第一の角度センサと、
前記第一の角度センサに較べて狭レンジであって、前記対象角度を前記第一の角度センサよりも高精度に測定する、第二の角度センサと、
第一の角度センサから得られた第一の角度応答検出信号と、第二の角度センサから得られた第二の角度応答検出信号とを、前記第一の角度応答検出信号と前記第二の角度応答検出信号とのそれぞれに対して屈曲点の無い関数を用いて重み付けを行ってから合成することによって、制御演算の定義域において時間で微分可能な合成角度信号を生成する、合成角度信号生成ユニットと
を含む角度応答検出信号合成装置を提供する。
【0023】
また、本発明の別の特徴においては、駆動体を所定の姿勢角度だけ駆動させるための姿勢角度制御装置において、
対象角度を測定する、第一の角度センサと、
前記第一の角度センサに較べて狭レンジであって、前記対象角度を前記第一の角度センサよりも高精度に測定する、第二の角度センサと、
第一の角度センサから得られた第一の角度応答検出信号と、第二の角度センサから得られた第二の角度応答検出信号とのそれぞれに対して、屈曲点の無い関数を用いて重み付けを行ってから合成することによって、制御演算の定義域において時間で微分可能な合成角度信号を生成する、合成角度信号生成ユニットと、
前記合成角度信号生成ユニットの出力に基づいて、前記駆動体の姿勢角度を制御する、姿勢角度制御ユニットと
を含む姿勢角度制御装置を提供する。
【0024】
さらに、本発明のなおも別の特徴においては、
第一の角度センサから得られた第一の角度応答検出信号に対して、屈曲点の無い関数を用いて重み付けをするステップと、
第二の角度センサから得られた第二の角度応答検出信号に対して、前記屈曲点の無い関数を用いて重み付けをするステップと、
重み付けされた前記第一の角度応答検出信号と、重み付けされた前記第二の角度応答検出信号とを、合成して、制御演算の定義域において時間で微分可能な合成角度信号を生成するステップと
を含む角度応答検出信号合成方法を提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る角度応答検出信号合成方法および装置を用いることにより、精粗二種のセンサから得られる角度応答を滑らかに合成することができるという効果が得られ、また、光束合成視軸機構を内蔵する駆動体の姿勢がスムースに制御できるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明するが、これは本発明を何ら限定するものではない。
[本発明の実施形態に係る制御系の構成]
図1は、本発明の実施形態に係る角度センサ制御系 100 の構成のブロック線図である。
【0027】
まず、目標値として指令角度 110 が制御系 100 に与えられる。積分動作および比例動作を行うPI補償器 120 と、比例動作を行うP補償器 130 とを経て調節されてから、ブロック 140 で制御対象に操作が加えられる。次に、制御対象からの応答信号に対して、ブロック 150 で演算が行われて、角度応答(検出値) 160 が出力される。さらに、角度応答(検出値) 160 を、広レンジ角度センサ 214 と狭レンジ角度センサ 216 に送り、それぞれ、出力 θW 、 θN を得る。
【0028】
次に、合成角度信号生成ユニットであるブロック 170 において、得られた出力 θW、 θN を、下記の数式 (2) に従って計算し、角度応答検出値 θ 190 を得る。
【0029】
【数2】

【0030】
この計算(重み付け)については、後の節で詳述する。さらに、角度応答検出値 190 を、指令角度 110 と加え合わせるようにフィードバックする。
また、角度応答検出値 190 は、合成角速度信号生成ユニットであるブロック 180 にも送られ、数値微分されて、角速度信号 182 が算出され出力される。さらに角速度信号 182 を、PI補償器 120 の出力と加え合わせるようにフィードバックする。
【0031】
[本発明の実施形態に係る二開口光束合成視軸機構]
図2は、角度センサとして光センサ(例えば、赤外線センサ)を用いた場合の、本発明の実施形態に係る二開口光束合成視軸機構の一例を示している。ここで示す機構 200 は、駆動体(図示せず)の中に置くように設計される。なお、ここでは例としてシステム開口部が二つ存在する二開口型である光束合成視軸機構を示しているが、本発明はこれには限定されず、当業者が実施可能である数のシステム開口部を有する光束合成視軸機構について適用することができる。また、図2では、機構 200 中に、前方遮蔽物 240 および姿勢角度制御ユニット 280 が含まれているように記載されているが、本発明はこれには限定されず、前方遮蔽物 240 および姿勢角度制御ユニット 280 は機構 200 の外部に存在するものであってもよい。ここで、本明細書中で用いる「システム開口部」という語は、光束合成視軸機構の外部と内部とをつなぐ開口部のことを指し、当業者はシステム開口部の位置を適切に設定することができ、また、例えば赤外線である光が適切にシステム開口部を通過するように設定することもできる。
【0032】
二開口型である光束合成視軸機構 200 は、センサセット(広レンジセンサと狭レンジセンサの組)を二つ備える(当業者は、システム開口部の数とセンサセットの数を適切に調整することができる)。
【0033】
この場合、機構 200 は、第一センサセット 212 に対応する第一システム開口部 210 、および、第二センサセット 222 に対応する第二システム開口部 220 、を含む。第一システム開口部 210 および第二システム開口部 220 は、測定対象物が存在する外界からの光を、システム内部に導入するための開口部である。さらに、機構 200 は、集光系・検出器 236 への導光部であるユニット開口部 230 を有する。さらに加えて、機構 200 から見て駆動体の進行方向には、前方遮蔽物 240 が存在することがある。こうした前方遮蔽物 240 が存在する場合、直接に駆動体の前方を測定することができないため、センサセットが複数存在することが好ましい。
【0034】
第一センサセット 212 には、第一広レンジ角度センサ 214 、第一狭レンジ角度センサ 216 、および第一ミラー 218 が含まれる。第二センサセット 222 には、第二広レンジ角度センサ 224 、第二狭レンジ角度センサ 226 、および第二ミラー 228 が含まれる。各センサの構造の詳細については、図10の構造に準じる。なお、本明細書中での「ミラー」という語は、当業者が本発明において適切に使用することができる任意の形状のミラーのことを指す。当業者は、例えば、平面鏡、凹面鏡などといった形状のミラーを、本発明について適切に使用することができる。
【0035】
機構 200 の外部から第一システム開口部 210 を通ってきた光は、第一ミラー 218 で反射し、さらに第一開口合成ミラー 232 で反射して、ユニット開口部 230 に入る。また、機構 200 の外部から第二システム開口部 220 を通ってきた光は、第二ミラー 228 で反射し、さらに第二開口合成ミラー 234 で反射して、ユニット開口部 230 に入る。
【0036】
集光系・検出器 236 が含む画像制御部(図示せず)は、第一ミラー 218 からの反射光に基づく画像(例えば赤外線画像)と、第二ミラー 228 からの反射光に基づく画像(例えば赤外線画像)とを合成して、駆動体の外部の光景を、表示手段(図示せず)に検知器画像(図示せず)として表示することになる。
【0037】
また、駆動体の運動に伴う動揺、特に低周波の動揺外乱に対しては、視軸安定化の精度に関わる検知器画像のボケよりも、第一ミラー 218 と第二ミラー 228 の動作のずれに因る光束合成の不一致から発生する検知器画像のボケの方が大きな問題となる。このような場合に、第一ミラー 218 と第二ミラー 228 の動作のずれに因る検知器画像のボケを防ぐためには、第一ミラー 218 と第二ミラー 228 を一定の範囲で高精度同期動作させる必要がある。
【0038】
第一センサセット 212 については、高水準の同期精度が要求される範囲 250 と、高水準の同期精度が要求されない範囲 252, 254 が存在する。
同様に、第二センサセット 222 についても、高水準の同期精度が要求される範囲 260 と、高水準の同期精度が要求されない範囲 262, 264 が存在する。
【0039】
このように複数のセンサセット・ミラーの組を設けているのは測定時の死角を減らすためである。前方遮蔽物 240 が存在する場合、範囲 254, 264 の視界が一部塞がれることになる。したがって、センサセットおよびミラーが複数存在することによって、前方遮蔽物 240 などにより塞がれる視野を補完することが可能になる。
【0040】
上述した第一ミラー 218 と第二ミラー 228 の高精度同期動作のために、機構 200 には、制御演算部 270 が備わっている。制御演算部 270 は、図1で説明した(第一)制御系 100 と、制御系 100 と実質的に同様の構成(差異については後述する)を有する第二制御系 102 とが含まれる。
【0041】
第一制御系 100 は、第一センサセット 212 に対応しており、第一広レンジ角度センサ 214 および第一狭レンジ角度センサ 216 から、広レンジ角度センサ信号 215 および狭レンジ角度センサ信号 217 をそれぞれ得る。
【0042】
第二制御系 102 は、第二センサセット 222 に対応しており、第二広レンジ角度センサ 224 および第二狭レンジ角度センサ 226 から、広レンジ角度センサ信号 225 および狭レンジ角度センサ信号 227 をそれぞれ得る。
【0043】
第一制御系 100 と第二制御系 102 とはマスタ-スレーブの関係にあり、第一ミラー 218 に第二ミラー 228 を追従させるように構成されている。
指令角度 110 が第一制御系 100 に入力されて、広レンジ角度センサ信号 215 および狭レンジ角度センサ信号 217 に基づいて処理され、角度応答検出値 190 が出力される。
【0044】
角度応答検出値 190 と指令角度 110 が加え合わされて、第二制御系 102 に第二の指令角度として入力されると、広レンジ角度センサ信号 225 および狭レンジ角度センサ信号 227 に基づいて処理され、角度応答検出値 192 が出力され、フィードバックされて角度応答検出値 190 と指令角度 110 とに加え合わされる。則ち、第二ミラー 228 の制御系 102 に入力される指令角度は、第一ミラー 218 と第二ミラー 228 との角度差を加算した値となっている。
【0045】
上述した処理に基づいて、第一制御系 100 と第二制御系 102 の内部では、操作対象(ここでは、それぞれ、第一開口合成ミラー 232 と第二開口合成ミラー 234 )が操作され、ユニット開口部に入る二つの光束が適切に合成される。
【0046】
このようにして制御された結果に基づいて、姿勢角度制御ユニット 280 は駆動体の姿勢角度を制御することができ、さらに、新たな指令角度 110 を制御演算部 270 に与えることもできる。
【0047】
[重み付け処理と角度センサ出力の合成]
本発明では、広レンジ角度センサの出力 θW と、狭レンジ角度センサの出力 θN とを、屈曲点の無い関数によって重み付け処理してから合成することを特徴とする。このような屈曲点の無い関数は、値域が 0〜1 であって、且つ、定義域(時間)の任意点で微分可能であることが好ましい。このような屈曲点の無い関数の例としては、シグモイド関数が含まれる。
【0048】
図3は、広レンジ角度センサ(例えば、第一広レンジ角度センサ 214 および第二広レンジ角度センサ 224 )に関する、重み付け関数の例を示すグラフであって、以下の式 (3) で表されるシグモイド関数である。
【0049】
【数3】

【0050】
ここで、 x は角度を表す。
図4は、狭レンジ角度センサ(例えば、第一狭レンジ角度センサ 216 および第二狭レンジ角度センサ 226 )に関する、重み付け関数の例を示すグラフであって、以下の式 (4) で表されるシグモイド関数である。
【0051】
【数4】

【0052】
これらの関数 W1 、 W2 を用いて、上述した数式 (2) によって、広レンジ角度センサの出力と、狭レンジ角度センサの出力とを合成して、角度応答検出値 θ を算出する。
[本発明の実施形態において得られる角度信号出力]
図5は、本発明の実施形態に係る機構 200 から得られる角度信号出力を示すグラフである。ここでは、簡単のために一組のセンサセットの出力とその合成結果についてのみ示している。
【0053】
図5(a)は、広レンジ角度センサ(例えば、第一広レンジ角度センサ 214 もしくは第二広レンジ角度センサ 224 )の出力を示したグラフである。横軸の角度は、制御系によって制御される設定角度であり、また、縦軸の角度は、実際に得られる出力としての角度(例えば、広レンジ角度センサ信号 215 もしくは 225 )である。現実の角度センサにおいては、線形性、スケールファクタ、零点ずれなどの精度特性により、設定角度と実際の出力角度との間には若干のずれがあるのが普通である。ここでは、広レンジ角度センサの精度は、後述する狭レンジ角度センサに較べて低いものとする。
【0054】
図5(b)は、狭レンジ角度センサ(例えば、第一狭レンジ角度センサ 216 もしくは第二狭レンジ角度センサ 226 )の出力を示したグラフである。横軸の角度は、制御系によって制御される設定角度であり、また、縦軸の角度は、実際に得られる出力としての角度(例えば、狭レンジ角度センサ信号 217 もしくは 227 )である。狭レンジ角度センサの有効検出角度範囲は狭いため、この図でも設定角度は約 -0.15rad 〜 +0.15rad の範囲のみにとどまっているのがわかる。ここでは、狭レンジ角度センサの精度は、上述した広レンジ角度センサに較べて高いものとする。
【0055】
図5(c)は、図5(a)で示した出力と図5(b)で示した出力とを、上述した数式(2) にしたがって合成した結果を示すグラフである。本発明の実施形態に係る出力結果は、上記の図12(c)で示した従来技術に係る出力結果とは異なり、不連続点が無いことがわかる。
【0056】
図6は、本発明の実施形態に係る制御系 100 から得られる、実際の角度応答検出値と角速度信号の例を示すグラフである。
図6(a)は、横軸に計測時間、縦軸に角度応答検出値を示すグラフである。ここで計測時間とは、ユーザーが適切に設定する時刻のこととする。複数の角度センサを切替える際に生じうる応答の歪みに因る不連続点が無いため、制御演算の定義域において時間で微分可能な滑らかな曲線が得られており、図11(a)で示した理想的な角度応答検出値と類似した好ましい結果が得られている。
【0057】
図6(b)は、横軸に計測時間、縦軸に角速度応答検出値を示すグラフである。複数の角度センサを切替える際に生じうる信号の乱れに因る不連続点が無いため、制御演算の定義域において時間で微分可能な滑らかな曲線が得られており、図11(b)で示した理想的な角速度信号と類似した好ましい結果が得られている。
【0058】
[まとめ]
ここに開示したような本発明の実施形態に係る角度応答検出信号合成装置および方法を用いることにより、特に、角度応答検出時のフレームレートよりも充分に低い周波数の動揺外乱時(例えば、フレームレート 120Hz に対して、動揺外乱 10Hz )に発生しうる、複数のミラーの動作のずれに因る光束合成の不一致を原因とする検知器画像のボケ(MTF(変調伝達関数)低下もしくはPSF(点像分布関数)拡大)を抑制・防止することが可能になる。
【0059】
光束合成の不一致は外乱周波数には依存しないため、このような複数ミラーの高精度な制御は有用である。
また、上述したような角度応答検出信号合成装置および方法に基づく出力に応じて、光束合成視軸機構を内蔵する駆動体の姿勢角度を制御する、姿勢角度制御ユニットを用いることにより、駆動体の姿勢をスムースに制御することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施形態に係る角度センサ制御系の構成のブロック線図である。
【図2】本発明の実施形態に係る二開口光束合成視軸機構を示す概要図である。
【図3】本発明の実施形態に係る広レンジ角度センサに関する重み付け関数の例である。
【図4】本発明の実施形態に係る狭レンジ角度センサに関する重み付け関数の例である。
【図5】本発明の実施形態に係る角度信号出力を示す。
【図6】本発明の実施形態に係る角度応答検出値/角速度信号を示すグラフである。
【図7】従来技術に係る角度センサ制御系構成の一般例のブロック線図を示す。
【図8】従来技術に係る角度センサの一般的な切り替え方式による制御系構成の例のブロック線図を示す。
【図9】従来技術に係る二開口光束合成視軸機構の構造を示す概要図である。
【図10】従来技術に係るセンサセットの構造と簡単な原理を説明する図である。
【図11】理想的な角度応答検出値/角速度信号を示すグラフである。
【図12】従来技術に係る角度センサの一般的な切り替え方式による角度信号出力を示す。
【図13】従来技術に係る系から得られる実際の角度応答検出値と角速度信号の例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0061】
100 本発明の実施形態に係る角度センサ制御系
102 第二の角度センサ制御系
110 指令角度
120 PI補償器
130 P補償器
160 角度応答
182 角速度信号
190 角度応答検出値
192 角度応答検出値
200 本発明の実施形態に係る二開口光束合成視軸機構
210 第一システム開口部
212 第一センサセット
214 第一広レンジ角度センサ
215 広レンジ角度センサ信号
216 第一狭レンジ角度センサ
217 狭レンジ角度センサ信号
218 第一ミラー
220 第二システム開口部
222 第二センサセット
224 第二広レンジ角度センサ
225 広レンジ角度センサ信号
226 第二狭レンジ角度センサ
227 狭レンジ角度センサ信号
228 第二ミラー
230 ユニット開口部
232 第一開口合成ミラー
234 第二開口合成ミラー
236 集光系・検知器
240 前方遮蔽物
270 制御演算部
280 姿勢角度制御ユニット
700 角度センサ制御系
710 指令角度
720 PI補償器
730 P補償器
760 角度応答
780 角速度信号
800 切替式角度センサ制御系
810 指令角度
820 PI補償器
830 P補償器
860 角度応答
880 角速度信号
890 角度応答検出値
900 従来技術に係る二開口光束合成視軸機構
910 第一システム開口部
912 第一センサセット
914 第一広レンジ角度センサ
915 広レンジ角度センサ信号
916 第一狭レンジ角度センサ
917 狭レンジ角度センサ信号
918 第一ミラー
920 第二システム開口部
922 第二センサセット
924 第二広レンジ角度センサ
925 広レンジ角度センサ信号
926 第二狭レンジ角度センサ
927 狭レンジ角度センサ信号
928 第二ミラー
930 ユニット開口部
932 第一開口合成ミラー
934 第二開口合成ミラー
936 集光系・検知器
940 前方遮蔽物
1000 従来技術に係るセンサセット
1010 広レンジ角度センサ
1020 狭レンジ角度センサ
1022 レーザ光源
1024 一次元位置検出素子(PSD)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象角度を測定する、第一の角度センサと、
前記第一の角度センサに較べて狭レンジであって、前記対象角度を前記第一の角度センサよりも高精度に測定する、第二の角度センサと、
第一の角度センサから得られた第一の角度応答検出信号と、第二の角度センサから得られた第二の角度応答検出信号とを、前記第一の角度応答検出信号と前記第二の角度応答検出信号とのそれぞれに対して屈曲点の無い関数を用いて重み付けを行ってから合成することによって、制御演算の定義域において時間で微分可能な合成角度信号を生成する、合成角度信号生成ユニットと
を含むことを特徴とする、角度応答検出信号合成装置。
【請求項2】
前記屈曲点の無い関数が、シグモイド関数であることを特徴とする、請求項1記載の角度応答検出信号合成装置。
【請求項3】
制御演算の定義域において時間で微分可能な前記合成角度信号から、制御演算の定義域において時間で微分可能な合成角速度信号を算出する、合成角速度信号生成ユニット
をさらに含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の角度応答検出信号合成装置。
【請求項4】
駆動体を所定の姿勢角度だけ駆動させるための姿勢角度制御装置において、
対象角度を測定する、第一の角度センサと、
前記第一の角度センサに較べて狭レンジであって、前記対象角度を前記第一の角度センサよりも高精度に測定する、第二の角度センサと、
第一の角度センサから得られた第一の角度応答検出信号と、第二の角度センサから得られた第二の角度応答検出信号とのそれぞれに対して、屈曲点の無い関数を用いて重み付けを行ってから合成することによって、制御演算の定義域において時間で微分可能な合成角度信号を生成する、合成角度信号生成ユニットと、
前記合成角度信号生成ユニットの出力に基づいて、前記駆動体の姿勢角度を制御する、姿勢角度制御ユニットと
を含むことを特徴とする、姿勢角度制御装置。
【請求項5】
第一の角度センサから得られた第一の角度応答検出信号に対して、屈曲点の無い関数を用いて重み付けをするステップと、
第二の角度センサから得られた第二の角度応答検出信号に対して、前記屈曲点の無い関数を用いて重み付けをするステップと、
重み付けされた前記第一の角度応答検出信号と、重み付けされた前記第二の角度応答検出信号とを、合成して、制御演算の定義域において時間で微分可能な合成角度信号を生成するステップと
を含むことを特徴とする、角度応答検出信号合成方法。

【図1】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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