説明

解析装置及びこれを備えた機械設備と解析プログラム

【構成】 延伸仮撚加工機での異常張力波形を用いてSOMを学習させ、SOMのユニットに異常原因をラベル付けする。その後に得られた異常データと元の異常データとを併せて、SOMを再学習させ、元の異常データでSOMをラベル付けし、ラベルが付与されなかったユニットのクラスターを検出する。
【効果】 新たな異常モードの出現を検出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、延伸仮撚加工機、紡糸巻取機、紡績機、巻返機などの繊維機械や、その他の機械設備、発電所等のプラント、建築物などの状態の解析に関し、特に新たな種類の異常モードの出現を検出することに関する。
【背景技術】
【0002】
発明者らは、特許文献1において、自己組織化マップ(SOM)などのニューラルネットワークを用いて、センサからの糸の張力波形などのデータを分類し、繊維機械の異常原因を解析することを提案した。ニューラルネットワークには、SOMの他に学習ベクトル量子化(LVQ)などが好ましく、これらはいずれもコードブックベクトルの集合を用い、学習用のデータを用いてコードブックベクトルの値を修正し、コードブックベクトルに解析対象の状態をラベルとして付与するようにして、学習する。実際に異常データを解析する時には、異常データに近接したコードブックベクトルを抽出し、そのコードブックベクトルに付されたラベル、もしくは近接のコードブックベクトルに付されたラベルを、異常データの原因(異常モード)として出力する。
【0003】
ここで、実使用において起こり得る全ての異常データを、初期的な学習データのセットに含めることができると良いが、これは不可能である。そこで実際に問題になるような全ての異常モードに対して、少なくとも代表的な異常データを予め取得して、学習データに含めることができれば良いが、機械を設置して稼動を開始した後でないと得られない異常データがある。例えば機械の経時変化や機械の設置環境、運転状態の違いなどにより生じるデータがこれである。
【0004】
機械設備などの設置後に、新たな異常モードが出現することがある。このことは機械のメンテナンスなどの上で重要である。これは機械の状態や環境、運転条件がそれ以前とは何らかの意味で変わったことを意味し、異常モードの原因を解明する必要がある。なお特許文献1は、解析装置の稼動開始後に得られたデータで再学習することを開示しているが、新たな異常モードの出現を検出することを検討していない。
【特許文献1】特開2004−183139
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明の課題は、解析対象の機械設備などに、新たな異常モードが出現したことを検出できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の解析装置は、異常データを含む初期的な学習データのセットにより、複数のコードブックベクトルの値を修正するように学習し、かつ前記コードブックベクトルに解析対象の状態をラベルとして付すようにした装置において、前記学習データのセットとは異なる第2の学習データのセットにより、前記複数のコードブックベクトルを再学習させると共に、状態が既知のデータに近接したコードブックベクトルに、前記既知の状態をラベルとして付すための手段と、再学習の際にラベルが付されないコードブックベクトルを抽出するための手段、とを設けたことを特徴とする。
【0007】
クラスターの抽出はマニュアルでも可能であるが、好ましくは、再学習の際にラベルが付されなかったコードブックベクトルのクラスターを検出するための手段を設ける。そしてラベル付けされなかったコードブックベクトルが発現すると、特にこのようなコードブックベクトルのクラスターが発現したことを検出すると、新たなカテゴリーの異常モードが発生したものとすることが好ましい。
【0008】
この発明の機械設備は、この発明の解析装置と、異常データを含む機械設備のデータを収集するためのセンサと、収集したデータを前記第2の学習データのセットの候補として記憶するための手段とを備えたものである。
【0009】
この発明の解析プログラムは、異常データを含む初期的な学習データのセットにより、複数のコードブックベクトルの値を修正しながら学習させるための命令と、前記コードブックベクトルに解析対象の状態をラベルとして付すための命令とを備えたプログラムにおいて、前記学習データのセットとは異なる第2の学習データのセットにより、前記複数のコードブックベクトルを再学習させると共に、状態が既知のデータに近接したコードブックベクトルに、前記既知の状態をラベルとして付すための命令と、再学習の際にラベルが付されないコードブックベクトルを抽出するための命令、とを設けたことを特徴とする。
そしてラベル付けされなかったコードブックベクトルが発現すると、特にこのようなコードブックベクトルのクラスターが発現したことを検出すると、新たなカテゴリーの異常モードが発生したものとすることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
この発明では、コードブックベクトルのセットを第2の学習データのセットにより再学習させ、ラベルが付されなかったコードブックベクトルを抽出する。新たな異常モードが生じると、このモードに対応するコードブックベクトルにはラベルが付されない。従ってラベルの付されなかったコードブックベクトルを抽出すると、新たな異常モードの出現を検出できる。
【0011】
ラベルが付されなかったコードブックベクトルがクラスターを形成している場合、新たな異常モードが発生している確率が高い。そしてクラスターを検出する手段を設けると、異常モードの出現を自動的に確実に検出できる。
【0012】
この発明の解析装置を、データ収集用のセンサや収集したデータの記憶手段と共に、繊維機械などの機械設備に組み込むと、ラベルの付かないコードブックベクトルのクラスターを検出することにより、機械設備の状態が変化したことを検出して、機械設備の運転条件の最適化や保守、メンテナンスなどが容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示す。
【実施例】
【0014】
延伸仮撚加工機の解撚側での糸の異常張力波形の解析を例に、実施例の解析装置とそのプログラムを説明する。図1の延伸仮撚加工機1において、2は仮撚する糸を給糸するための給糸パッケージで、給糸パッケージ2からの糸12は、第1フィードローラFR1を介して第1ヒータH1を通過し、クーリングプレートC1で冷却される。なお給糸パッケージをPOYと呼ぶことがある。4はツィスターで、図2に示すように、糸12は一対のベルト14,16間を例えば図の上から下向きに通過して、ベルト14,16により撚りを与えられる。また糸12は、第1フィードローラFR1と第2フィードローラFR2との間で延伸される。ツィスター4で与えられた撚りは第1フィードローラFR1まで伝搬し、前記のヒータH1とクーリングプレートC1とを介して固定される。
【0015】
ツィスター4の下流側(解撚側)には、糸の解撚張力が加工後の糸の品質や性状に大きく関係するため、張力センサ6を設け、糸の張力信号(この場合は、糸の解撚張力信号)Tを制御部8へ入力する。制御部8では、糸の張力波形に基づいて、ツィスター4等にフィードバック制御を加え、ツィスター4の出口側での糸張力を一定にするように制御する。そして張力センサ6の下流側には、第2フィードローラFR2を設けて第2フィードローラFR2までに撚りを解き、次いで第2ヒータH2及び第3フィードローラFR3を設け、糸に弛緩熱処理を与える。このように延伸同時仮撚作用により、表面が平滑なフィラメント糸に嵩高さと伸縮性とを与える。なおこの明細書で、上流/下流は糸の進行方向に沿って定め、給糸パッケージ2に近い側を上流側とし、最終の延伸仮撚加工糸パッケージ10に近い側を下流側とする。延伸仮撚加工された糸は、巻取パッケージ10として巻き取られる。WDは巻取りドラムで、巻き取りパッケージ10に接触して回転させる。
【0016】
図3に、張力センサの構成を示すと、18は回転体で、支点20を中心にして回転し、21〜23はローラで、24は回転体18を例えば時計回り方向に引っ張るバネである。糸の張力がローラ22に加わると、回転体18には例えば反時計回りのモーメントWが加わり、このモーメントWがバネ24からの力Fとつり合う位置へ回転体18は回転する。そこで回転体18の回転角やその微分値などを監視すると、糸12の張力を監視できる。なお糸の張力センサの種類は任意である。
【0017】
図4に、解析装置を示す。張力センサ6の張力信号Tから、制御部8で異常データが抽出され、ウェーブレット変換部30に入力され、特徴ベクトルに変換される。特徴ベクトルはSOM32に入力され、入力された特徴ベクトルと最も近接した参照ベクトルを持つユニット(SOMのノード)が抽出され、モニタ40やプリンタ41に表示される。この表示では、最も近接した参照ベクトルを持つユニットがマークされ、SOMでは全てのあるいは少なくとも一部のユニットがラベル付けされているので、マークされたユニットやその周囲のユニットのラベルから、異常原因を推定できる。またSOMでは各ユニットの参照ベクトル間の距離が色分けや明暗などで表示されるので、マークされたユニットにラベルが付されていない場合、周囲のどのユニットのラベルが最も距離の近いラベルかを判断できる。
【0018】
SOMの初期学習は、例えば解析装置を設置する前や設置する際に行い、これに用いた学習データを初期学習データのセットということがある。初期学習データのセットによる学習で、解析装置の設置後に経験する全ての異常データを正確に解析することは困難である。例えば設置後に出現した異常モードや、延伸仮撚加工機1の経時変化や設置環境、運転状態などによる、初期学習データからの異常データの変化に対しては、対応が難しい。そこで異常データの波形とウェーブレット変換で求めた特徴ベクトルとをセットにして、記憶部34に記憶し、事後的な学習データとして蓄積する。
【0019】
再学習では、事後的な学習データの集合に、初期学習に用いたデータなどの、ラベルが既知でかつ過去の学習で使用した異常データの集合を加えて、再学習用の異常データのセットを得る。初期学習に用いていないデータのみで再学習すると、SOM32が最近の異常データの分類には適しているが、初期学習に用いたデータの分類には適さないものになりやすい。例えば異常データの種類が長期的に繰り返すようなトレンドをもって変動している場合などに、最近のデータのみに対応するようにSOM32を学習させるのは好ましくなく、長期的なデータ、即ち以前の学習で用いた異常データと、短期的なデータ、即ち以前の学習では用いていないデータの双方を用いて、再学習することが好ましい。
【0020】
ラベル付け部36で、再学習したSOM32の各ユニットにラベル付けする。例えば、初期学習時などに一度ラベル付けされた参照ベクトルを、再学習後のSOMに入力する。入力ベクトルに最も近接した参照ベクトルを持つユニットに、入力ベクトルのラベルを転記する。あるいは入力ベクトルを元の参照ベクトルの範囲に制限せずに、ラベルが既知のベクトルであればよいものとし、最も近接したユニットにラベルを転記する。このようにラベル付けでは、何らかの意味でラベルが既知の入力ベクトルをSOM32に入力し、参照ベクトルが最も近接したユニットにラベルを転記する。1つのユニットに複数の入力ベクトルが近接している場合、これらのラベルを併記しても、あるいはこれらの内で、ユニットの参照ベクトルと入力ベクトルとの距離が最も短いもののラベルを転記しても良い。
【0021】
再学習後にラベル付けを行うと、ラベルの付与されないユニットが生じることがある。ラベルの付与されていないユニットのクラスター(ユニットの集団)を検出すると共に、クラスターが形成されている場合、その個数や各クラスターに属するユニットの数などを、クラスター検出部38で検出する。クラスターを検出すると、図14等のSOMの表示と共に、クラスターに属するユニットの参照ベクトルの値や、この参照ベクトルに最も近接した特徴ベクトルに対する張力波形などと共に、モニタ40やプリンタ42に出力する。ここでの張力波形は、例えば記憶部32に記憶しているものから抽出すると良い。
【0022】
新たなクラスターの発生は、新しい種類の異常モードの出現を意味することが多い。新たなクラスターに含まれるユニットに対応する張力波形などを、熟練したオペレータがチェックするなどの手法で、異常原因を推定し、異常原因を推定できたものには新たなラベルを付与する。次に推定した異常原因に対応して、延伸仮撚加工機の運転条件を変更したり、推定した異常原因などを参考にして、部品交換や修理、点検などのメンテナンスを行ったりして、機械設備の状態の変化に対応する。SOM32の再学習は、記憶部34に事後的な学習データが蓄積される毎に繰り返すことが好ましい。
【0023】
図5に、ウェーブレット変換による特徴ベクトルの抽出アルゴリズムを示す。アナライジングウェーブレットとして、例えば、
Ψ(t)=t・(2π)-1/2exp(-t2/2) (1)
を用いる。アナライジングウェーブレットは逆変換が可能なウェーブレットで、Ψ(t)はガウス関数の1階導関数の正負を反転したものに相当する。(1)式のアナライジングウェーブレットΨ(t)を用い、入力張力波形x(t)を(2)式に従い、離散ウェーブレット変換する。
Xj(b)=2-3j/2∫Ψ((t-b)・2-j)x(t)dt (2)
なお(2)式においてjは整数で、積分範囲は−∞から∞である。bは時間パラメータで、異常波形信号の開始時刻を例えば時刻0とすると、時刻bの付近の信号をガウシアンの1階導関数を窓関数としてウェーブレット変換することになる。
【0024】
次に j=2,4 について、2次から4次のキュムラント、及び2次の相関(自己相関関数)と3次の相関を求める。2次のキュムラントは分散で、3次のキュムラントは分布の歪を表し、4次のキュムラントは分布の鋭さを表す。3次の相関G(τ、σ)は、信号を f(t)とした際に、<f(t)・f(t+τ)・f(t+σ)>で表され、<>はtに関して平均を求める操作を示し、τやσは時間差である。これらのデータを特徴ベクトルとした。なお特徴ベクトルの種類は任意で、上記の特徴ベクトルはウェーブレット変換で得られたデータを統計的に処理して、短いベクトルに変換したものである。また特徴ベクトルには、ウェーブレット変換を経由せずに、張力波形やその微分値などの各次数のキュムラントなどを用いても良い。さらに特徴ベクトルでは、各データを2次のキュムラントで規格化するなどの処理を施しても良い。
【0025】
図6に、自己組織化マップSOMの学習アルゴリズムを示す。最初にSOMの各ユニットの参照ベクトル(ユニットに割り当てられた特徴ベクトル)を適当な値に初期化し、学習用の入力ベクトル(特徴ベクトル)に最も類似した参照ベクトルのユニットを求める。なおベクトル間の距離やユニット間の距離は、例えばユークリッド距離(ベクトルの各成分の差の2乗和のルート)やマハラノビス距離(SOM内の参照ベクトルの集合に対する共分散行列をR、その逆行列をR−1、参照ベクトルと特徴ベクトルの差をy、その転置ベクトルをyとした際に、(y−1y)1/2)で定義する。求めたユニットとその近傍のユニットとの参照ベクトルを、入力ベクトルに近づけるように修正する。以上の処理を全ての入力ベクトルに対して繰り返し行い、1回の学習での参照ベクトルの修正量を徐々に減少させて、参照ベクトルを収束させる。これによって学習は完了し、以降は各ユニットの参照ベクトルを固定する。続いてラベルが判明している特徴ベクトルをSOMに入力し、例えば学習に用いた特徴ベクトルを入力し、それに最も近接した参照ベクトルを持つユニットに、特徴ベクトルのラベル(異常データの原因あるいはこれを示す記号)を転記する。
【0026】
図7にSOMの再学習アルゴリズムを示す。初期学習後に得られた特徴ベクトル(ラベルは既知でも未知でも良い)と、例えば前回の学習で用いた特徴ベクトルとを併せて、SOMを再学習させる。次いでラベルが既知の特徴ベクトルを入力し、最近接した参照ベクトルのユニットにラベルを転記する。ラベルのないユニットが再学習で生じると、クラスターを形成しているかどうかを判別し、クラスターを形成している場合、その個数nやサイズNを求めてモニタやプリンタなどで表示すると共に、クラスターの個数やサイズが多い場合、例えば(nN)1/2が所定値以上で、新たな異常モードが発生したものとして、モニタやプリンタなどでアラームする。
【0027】
図8に、実施例の解析プログラムを示す。SOMの初期学習命令51ではSOMを初期学習し、SOMへのラベル付け命令52では初期学習時にSOMのユニットにラベルを付与する。異常データの蓄積命令53では解析装置の稼動開始後の異常データを張力波形データと共に記憶し、SOMの再学習命令54でSOMを再学習し、クラスター抽出命令55で再学習後にラベルの無いユニットからなるクラスターを抽出し、そのサイズや個数などに従って新たな異常モードの発生を警告する。
【0028】
図9に初期学習後のSOMの表示を示す。図の黒の小丸はユニット位置を表し、ユニット位置の明暗は周囲の6ユニットとの間の平均距離を示す。なお距離は、ユニットの参照ベクトル間の距離である。2つの黒丸の間の6角形の明暗は、これらのユニットの間の距離を示す。明暗が暗い程、距離が大きく、暗い6角形の連なりはクラスター間の境界を示し、1から8の同じラベルが付されてかつ明るい領域が同種の異常原因に対応するクラスターである。図9でもラベルの無いユニットが存在する。
【0029】
実施例で用いた0〜8の9種類の異常原因(異常モード)の内容を表1に示す。実施例では各異常原因に対して、運転条件が異なる張力波形を採取し、合計400個の波形を用意した。この内、図9の初期学習では、異常原因0を除くようにして200個の張力波形を用いた。以降の再学習では、毎回、直前の学習で用いた200個の張力波形からランダムに100個を選び、残る200個の張力波形から100個を抽出して、合計200個の再学習用のデータとした。ここで異常原因0の出現確率を徐々に大きくした。図10〜図14のSOMの学習に用いたデータの内訳を表2に示す。また図10〜図14のラベルは、再学習後のSOMに、図9のSOMの参照ベクトルを入力して、距離が最も短いユニットにラベルを転記したものである。
【0030】
表1
ラベル(番号) 異常原因
0 シフターガイド外れ
1 ベアリングガイド不良
2 クリールセンターずれ
3 エプロンベルトの傷
4 原糸解ジョ不良
5 サージングになりかけ
6 仮撚前張力不良
7 仮撚後張力不良
8 原糸の終端
【0031】
表2
異常原因
図 0 1 2 3 4 5 6 7 8
図10 0 23 26 26 23 27 27 23 25
図11 5 20 36 30 22 22 24 20 21
図12 16 16 31 24 21 26 29 21 16
図13 28 15 24 21 19 28 23 22 20
図14 39 23 22 21 16 22 18 20 19
【0032】
図13,図14では左上にラベルのないクラスターが成長し、このことは図9には無かった新たな異常原因(シフターガイド外れ)の出現を示している。
【0033】
図15,図16にクラスターの検出の例を示すと、図15では、ラベルのない◎や△のマークを付したユニットからスタートして、SOM上のユニットの位置での距離や、参照ベクトル間の距離を基準にして、所定の距離内にラベルの無いユニットが存在すると、連結する。このようにして連結したユニットに対して、サイズが大きい、参照ベクトル間の平均距離が小さい、周囲のラベル付きのユニットとの平均距離が大きい、などの基準を満たすものを抽出してクラスターとする。
【0034】
図16では、ラベルの無いユニット(図の◎印)からスタートして、SOM上のユニットの位置での距離や参照ベクトル間の距離で所定の距離内の、ラベルの無いユニットの密度を求める。この密度が所定値以上のユニットの集まりをクラスターの候補として、クラスターの候補がラベルの無いユニットを共有すると併合して、クラスターを検出する。
【0035】
実施例では糸張力を解析対象とするが、糸の太さや、ヒータH1,H2、クーリングプレートC1などでの、糸の温度も解析対象に適している。例えば糸の温度は赤外線温度計などにより、周囲との温度差を差分形の信号として検出すればよく、糸の太さは光学的に検出できる。これらのデータは、糸の品質管理上重要なデータである。コードブックベクトルによる異常データの分類はSOMにより行ったが、学習ベクトル量子化などでも良い。実施例では全数異常データを用いて学習を行ったが、正常データを初期学習や再学習に加えても良い。
【0036】
実施例ではSOMにより繊維機械の異常を解析したが、解析対象の繊維機械に新たな異常モードが発現したことのみをSOMで検出しても良い。例えば通常の異常データは他の解析装置により解析し、繊維機械の使用開始から期間が経過して異常データが蓄積された際に、新たなカテゴリーの異常モードの有無を実施例のSOMで解析しても良い。この場合、日常の異常データをSVM(サポート・ベクトル・マシン)やパーセプトロン、あるいは一般のANN(アーティフィシャル・ニューラル・ネットワーク)、もしくは判別分析装置などで分析して、異常原因を解明する。そして新たな異常モードの発現を検出すると、このモードを検出するために、SVMを追加する、パーセプトロンやANNを再学習する、判別分析での判別条件を変更するなどにより、新たなモードを検出できるようにする。
【0037】
SVMはベクトルデータを分類するためのプログラムあるいは装置などのエンティティであり、各異常モードに対して1つのSVMを設ける。SVMでは、検出対象の異常データとそれ以外のデータとを分離できるように判別し、検出対象かどうかはラベルにより既知である。例えば各データを表すベクトルをX、検出対象とそれ以外のデータとの境界を示すベクトルをB、境界から検出対象を向いたベクトルをWとして、検出対象のデータとそれ以外のデータとで、W・(X−B)の値を充分に分離できるように、WやBの値を決定する。
【0038】
また延伸仮撚加工機に限らず、紡糸巻取機、紡績機、巻返機などの他の繊維機械でも、あるいは繊維機械以外のクレーン、ロボット、車両、工作機械などの機械や、プラント、構築物などを対象としても良い。その場合の解析データとしては、張力波形や応力波形、振動波形、加速度波形、温度波形、圧力波形などを用いたり、あるいは複数のセンサからの信号を組み合わせたデータなどを用いれば良い。好ましくは、機械が1台あるいは複数台からなる機械設備に、異常データの採取用のセンサや異常データの蓄積用の記憶部と共に、解析装置を組み合わせ、機械設備の状態を診断し、特に異常モードを推定し、また新たな異常モードの出現を検出すると良い。
【0039】
実施例では以下の効果が得られる。
(1) 新たな異常モードの出現を検出できる。
(2) これによって機械の状態の変化を検出でき、新たな異常モードの原因を解明する、経時変化の程度を判断する、異常の生じやすい個所などを特定し、運転条件を変える、部品交換などのメンテナンスを行うなどの処理を行う契機にできる。
(3) 異常データをSOMで解析して、異常原因を推定できる。
(4) 再学習により、SOMを新たな種類の異常データの解析に適したように修正できる。

【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例で糸張力の解析対象とした延伸仮撚加工機のブロック図
【図2】図1の延伸仮撚加工機で用いたツィスターの模式図
【図3】図1の延伸仮撚加工機で用いた張力センサの模式図
【図4】実施例の解析装置のブロック図
【図5】実施例でのウェーブレット変換を用いた特徴ベクトルの抽出アルゴリズムを示すフローチャート
【図6】実施例での自己組織化マップ(SOM)の学習アルゴリズムを示すフローチャート
【図7】実施例でのSOMの再学習アルゴリズムを示すフローチャート
【図8】実施例の解析プログラムのブロック図
【図9】実施例で用いた長期記憶SOMの例を示す図
【図10】図9の長期記憶SOMの学習に用いた100個の特徴ベクトルと、新たな100個の特徴ベクトルを用いてSOMを再学習した短期記憶SOMの例を示す図
【図11】図10のSOMの学習に用いた100個の特徴ベクトルと、新たな100個の特徴ベクトルを用いてSOMを再学習した短期記憶SOMの例を示す図
【図12】図11のSOMの学習に用いた100個の特徴ベクトルと、新たな100個の特徴ベクトルを用いてSOMを再学習した短期記憶SOMの例を示す図
【図13】図12のSOMの学習に用いた100個の特徴ベクトルと、新たな100個の特徴ベクトルを用いてSOMを再学習した短期記憶SOMの例を示す図
【図14】図13のSOMの学習に用いた100個の特徴ベクトルと、新たな100個の特徴ベクトルを用いてSOMを再学習した短期記憶SOMの例を示す図
【図15】ラベルのないユニットのクラスターの探索アルゴリズムを模式的に示す図
【図16】ラベルのないユニットのクラスターの他の探索アルゴリズムを模式的に示す図
【符号の説明】
【0041】
1 延伸仮撚加工機
2 給糸パッケージ(POY)
4 ツィスター
6 張力センサ
8 制御部
10 延伸仮撚加工糸パッケージ
12 フィラメント糸
14,16 ベルト
18 回転体
20 支点
21〜23 ローラ
24 バネ
30 ウェーブレット変換部
32 自己組織化マップ(SOM)
34 記憶部
36 ラベル付け部
38 クラスター検出部
40 モニター
42 プリンター
51 SOMの初期学習命令
52 SOMへのラベル付け命令
53 異常データの蓄積命令
54 SOMの再学習命令
55 クラスター抽出命令
H1,H2 ヒータ
C1 クーリングプレート
FR1〜FR3 フィードローラ
WD 巻き取りドラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異常データを含む初期的な学習データのセットにより、複数のコードブックベクトルの値を修正するように学習し、かつ前記コードブックベクトルに解析対象の状態をラベルとして付すようにした、解析装置において、
前記学習データのセットとは異なる第2の学習データのセットにより、前記複数のコードブックベクトルを再学習させると共に、状態が既知のデータに近接したコードブックベクトルに、前記既知の状態をラベルとして付すための手段と、
再学習の際にラベルが付されないコードブックベクトルを抽出するための手段、とを設けたことを特徴とする、解析装置。
【請求項2】
再学習の際にラベルが付されなかったコードブックベクトルの、クラスターを検出するための手段を設けたことを特徴とする、請求項1の解析装置。
【請求項3】
再学習の際にラベルが付されなかったコードブックベクトルの発現により、解析対象に新たな異常モードが発生したことを検出するようにしたことを特徴とする、請求項1または2の解析装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの解析装置と、異常データを含む機械設備のデータを収集するためのセンサと、収集したデータを前記第2の学習データのセットの候補として記憶するための手段とを備えた、機械設備。
【請求項5】
異常データを含む初期的な学習データのセットにより、複数のコードブックベクトルの値を修正しながら学習させるための命令と、前記コードブックベクトルに解析対象の状態をラベルとして付すための命令とを備えた、解析プログラムにおいて、
前記学習データのセットとは異なる第2の学習データのセットにより、前記複数のコードブックベクトルを再学習させると共に、状態が既知のデータに近接したコードブックベクトルに、前記既知の状態をラベルとして付すための命令と、
再学習の際にラベルが付されないコードブックベクトルを抽出するための命令、とを設けたことを特徴とする、解析プログラム。
【請求項6】
再学習の際にラベルが付されなかったコードブックベクトルの発現により、解析対象に新たな異常モードが発生したことを検出するようにしたことを特徴とする、請求項5の解析プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図15】
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【図16】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−169661(P2006−169661A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−362414(P2004−362414)
【出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【Fターム(参考)】