説明

触媒、及び該触媒を用いた直接メタノール燃料電池用電極

【課題】 アニオン交換膜型直接メタノール燃料電池用の電極触媒に関するものであって、アルカリ性雰囲気下において、低い電圧値であっても高いメタノール酸化電流が得られる触媒を提供する。
【解決手段】アニオン交換膜型直接アルコール燃料電池用の電極に使用する触媒であって、 アルコール燃料がメタノールである燃料電池用の電極に使用し、かつ、白金1モルに対して、ロジウムを0.1モル以上2.0モル以下含むことを特徴とする白金−ロジウム含有触媒である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ性雰囲気でメタノールの酸化反応に対して高い酸化活性を有する燃料電池用電極触媒、及びこの電極触媒を有する燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料の化学エネルギーを電力として取り出す発電システムであり、アルカリ型、リン酸型、溶融炭酸塩型、固体電解質型、固体高分子型など、幾つかの形式の燃料電池が提案、検討されている。これらの中でも、固体高分子型燃料電池は、特に作動温度が低いため、定置型電源や車載用途などの中小型の低温作動型燃料電池として期待されている。
【0003】
この固体高分子型燃料電池は、イオン交換樹脂等の固体高分子を電解質として用いた燃料電池である。該固体高分子型燃料電池は、図1に示されるように、それぞれ外部と連通する燃料流通孔2および酸化剤ガス流通孔3を有する電池隔壁1内の空間を、固体高分子電解質膜6の両面にそれぞれ燃料室側触媒電極層4および酸化剤室側触媒電極層5が接合した接合体で仕切って、燃料流通孔2を通して外部と連通する燃料室7、および酸化剤ガス流通孔3を通して外部と連通する酸化剤室8が形成された基本構造を有している。そして、このような基本構造の固体高分子型燃料電池では、前記燃料室7に燃料流通孔2を通して水素ガスあるいはアルコール等の液体からなる燃料を供給すると共に酸化剤室8に酸化剤ガス流通孔3を通して酸化剤となる純酸素や空気等の酸素含有ガスを供給し、更に燃料室側触媒電極層と酸化剤室側触媒電極層間に外部負荷回路を接続することにより、次のような機構により電気エネルギーを発生させている。
【0004】
固体高分子電解質膜6としては、反応場がアルカリ性となり貴金属以外の金属が使用できるという点で、アニオン交換膜を用いることが検討されている(特許文献1〜6)。この場合、燃料室に水素あるいはアルコール等を供給し、酸化剤室に酸素および水を供給することにより、酸化剤室側触媒電極層5において該電極内に含まれる触媒と該酸素および水とが接触して水酸化物イオンが生成する。この水酸化物イオンは、上記アニオン交換膜からなる固体高分子電解質膜6内を伝導して燃料室7に移動し、燃料室側触媒電極層4で燃料と反応して水を生成することになるが、これに伴って該燃料室側触媒電極層4で生成した電子を、外部負荷回路を通じて酸化剤室側触媒電極層5へと移動させて、この反応のエネルギーを電気エネルギーとして利用する。
【0005】
燃料電池用の燃料としては、上記の通り、水素またはアルコールを使用している。中でも、実用化に向けた燃料の貯蔵、およびエネルギー密度の観点から、メタノールやエタノール等のアルコールを使用する検討が数多くなされている。
【0006】
しかしながら、アニオン交換膜を使用し、燃料にアルコールを使用した燃料電池(アニオン交換膜型直接アルコール燃料電池)では、以下の点で改善の余地があった。すなわち、アニオン交換膜を使用することにより、貴金属以外の金属を燃料室側電極触媒として使用することが可能となるが、アルコール燃料に対する反応活性の問題から、該触媒としては、主に白金を用いなければならない点である。
【0007】
白金は、高価な貴金属である上、埋蔵量が少ないことから、なるべく少ない使用量でその触媒が十分な性能を発揮することが望ましい。つまり、該触媒は、白金の使用量を低減しつつ、低い過電圧で高い電流値を示すことが必要となる。
【0008】
そのため、アニオン交換膜を用いた燃料電池において、燃料室側電極触媒として、白金と他の金属とを含む触媒の検討が進められている。例えば、非特許文献1では、白金−ロジウム合金触媒を用いた電極が検討されており、燃料としてエタノールを使用した場合に、白金のみの触媒よりも、低い電圧値において高い電流値を取り出すことが示されている。
【0009】
この系が優れた効果を発揮するのは、図2、図3(非特許文献1参照)で示すように、エタノールが白金とロジウムとにそれぞれ異なる形態で吸着することに起因すると考えられる。つまり、図2、図3のような吸着形態を考えると、白金とロジウムとの合金触媒では、エタノールのような分子構造の燃料を使用しなければ高い効果が得られないと考えられた。
【0010】
一方、燃料としては、メタノールを使用することの検討も進められている。メタノールを燃料とすることにより、エタノールよりも酸化反応が進行しやすいことから、効率的に発電できるという利点がある。
【0011】
このメタノールを燃料として使用した場合、非特許文献1(図2、図3)で提案されている燃料(エタノール)と触媒との吸着形態からすると、白金とロジウムとの合金触媒において、メタノールは、白金には吸着するが、ロジウムには吸着されないと考えられた。
【0012】
つまり、白金とエタノールとは、エタノールの水酸基と、水酸基に隣接するメチレン基とが白金と吸着すると提案されている(図3参照)。そのため、エタノールがメタノールに代わっても、メタノールの水酸基と水酸基に隣接するメチル基とが白金と吸着するものと考えられた。
【0013】
これに対し、ロジウムとエタノールとは、エタノールの水酸基と、メチレン基に隣接するメチル基とがロジウムと吸着すると提案されている(図2参照)。そのため、エタノールがメタノールに代わると、メチレン基を有さないメタノールは、ロジウムに吸着され難いと考えられた。下記の比較例で示すが、実際に、本発明者等の検討によれば、メタノールを燃料とし、ロジウムのみを触媒として用いた場合には、高い電流値を取り出すことが出来なかった。
【0014】
以上のことから明らかな通り、アニオン交換膜を使用し、酸化反応が進行し易いメタノールを燃料とした燃料電池において、白金の使用量を低減しながら、低い電圧値において高い電流値を取り出すことができる燃料室側電極触媒は、開発されていないのが実情であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平11−135137号公報
【特許文献2】特開平11−273695号公報
【特許文献3】特開2000−331693号公報
【特許文献4】特開2002−367626号公報
【特許文献5】特開2007−188788号公報
【特許文献6】特開2007−042617号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】International Journal of Hydrogen Energy, 35 (2010) 12911-12917.(インターナショナル ジャーナル オブ ハイドロジェン エナジー)S.Y. Shen, T.S. Zhao, J.B. Xu, “Carbon supported PtRh catalysts for ethanol oxidation in alkaline direct ethanol fuel cell”,
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、アニオン交換膜を用いた燃料電池において、燃料にメタノールを使用した際に、低電圧でも高い電流値を取り出すことができる電極触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者等は、上記課題を解決するため、鋭意検討を行った。その結果、白金とロジウムとを含む触媒であって、特定の組成範囲にすることにより、アニオン交換膜型直接メタノール燃料電池用電極触媒として優れた活性が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
即ち、本発明は、アニオン交換膜型直接アルコール燃料電池用の電極に使用する触媒であって、アルコール燃料がメタノールである燃料電池用の電極に使用し、かつ、白金1モルに対して、ロジウムを0.10〜2.00モル含むことを特徴とする白金−ロジウム含有触媒である。
【発明の効果】
【0020】
ロジウム触媒はメタノール酸化反応に対する活性が低いが、白金とロジウムとを特定の割合で含む本発明の触媒は、白金触媒よりも低い電圧でメタノールを酸化でき、ロジウム触媒よりも高い電流値を得ることができる。したがって、本発明の触媒を用いることで、アニオン交換膜型直接メタノール燃料電池の白金使用量を低減させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】固体高分子型燃料電池の基本構造を示す概念図(固体高分子型電解質膜から電池隔壁を離した状態図)
【図2】ロジウム表面上へエタノール分子が吸着する際の模式図(非特許文献1からの引用図)
【図3】白金表面上へエタノール分子が吸着する際の模式図(非特許文献1からの引用図)
【図4】実施例、比較例のLiner Sweep Voltammetry測定結果
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の触媒は、アニオン交換膜型直接メタノール燃料電池の電極触媒として適用でき、白金とロジウムとを含むものである。本発明において、アニオン交換膜型直接メタノール燃料電池とは、電解質膜としてアニオン交換膜を用いており、燃料としてメタノールを直接燃料室に供給する燃料電池である。直接メタノール燃料電池とは、燃料であるメタノールを、改質器等で改質することなく、直接燃料室に供給して発電する燃料電池である。
【0023】
(使用燃料:メタノール)
本発明の1つの特徴は、メタノールを燃料に使用する点にある。アルコール燃料は、水素燃料に比べて貯蔵や運搬が容易であるので、今後の燃料電池用の燃料として注目されている。アルコールの中でも、メタノールは完全に酸化反応(二酸化炭素までの酸化)が進行するため、燃料利用効率が良い。しかしながら、アニオン交換膜を使用した燃料電池において、メタノールを燃料として用いた場合、白金の使用量を低減しながら、低い電圧で高い電流値を取り出すことができる触媒は見出されていなかった。
【0024】
その反応活性の低さから、メタノールを燃料として用いた燃料電池用の電極触媒として、ロジウムを用いることは、当業者としては考えにくいものであった。実際に、メタノールの酸化反応に対する活性を本発明者等が調べたところ、比較例に示すように、白金と比べて電流値は3分の1程度と非常に低かった。
【0025】
ところが、本発明者等は、白金とロジウムとを特定の割合で含む触媒は、実施例に示すように、白金触媒よりも低い電圧で高い電流値を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。この白金とロジウムとを含む触媒について説明する。
【0026】
(白金(Pt)−ロジウム(Rh)含有触媒)
本発明の触媒は、アニオン交換膜型直接メタノール燃料電池用の電極に使用する白金とロジウムとを含む触媒であって、これら白金:ロジウムの組成比が1:(0.10〜2.00)(mol比)であることを特徴とする。ロジウムの配合量が白金1モルに対して0.10モル未満であるか、2.00モルを超えると、ロジウムの添加効果(低電位における電流値増加の効果)が得られない。このような理由から、該触媒における白金:ロジウムのmol比は、1:(0.30〜1.50)が好ましく、1:(0.40〜0.60)がより好ましい。
【0027】
本発明において、白金1モルに対してロジウムが0.10〜2.00モルである白金−ロジウム触媒が、メタノールを燃料として使用した場合に優れた効果を発揮する理由は明らかではないが、非特許文献1(図2、図3)に示された以外の形態で触媒にメタノールが吸着することに起因していると考えている。
【0028】
本発明の触媒は、特に制限されるものではないが、以下の方法によって製造することができる。例えば、白金とロジウムを含む原料化合物とを混合し、熱処理(温度:300〜900℃)することにより製造できる。白金とロジウムを含む原料化合物としては、特に限定されるものではなく、これら白金及びロジウムの酸化物、硫化物、硝酸塩、塩化物、エトキシド、有機酸塩など幅広く使用できる。
【0029】
具体的な製造方法としては、白金及びロジウムを含む原料化合物を還元して得た白金金属成分とロジウム金属成分を、不活性もしくは還元ガス雰囲気下において300〜900℃の温度で熱処理を行う方法が挙げられる。また、白金及びロジウムを含む原料化合物を混合した後、還元剤を用いて還元処理を行う方法、または、原料化合物を混合した後に不活性ガス、および還元ガス雰囲気下において熱処理(300〜900℃)を行う方法を採用することもできる。中でも、白金及びロジウムを含む原料化合物を混合した後に、不活性ガスである窒素ガス、および還元ガスである水素ガスの雰囲気下において、400〜600℃の温度で熱処理する方法を採用することが好ましい。この時、水素ガスと窒素ガスとの比は、標準状態(25℃、1気圧)において、水素ガス:窒素ガス=1〜10体積%:99〜90体積%(ただし、水素ガスと窒素ガスの体積の合計を100体積%とする)とすることが好ましい。
【0030】
このような方法で得られる白金−ロジウム含有触媒は、白金とロジウムとの合金触媒となっていると考えられる。なお、合金化については、X線回折測定を行い、格子定数を調べることで確認できる。実施例の表1に示すように、白金とロジウムからなる合金は、その格子定数が白金ともロジウムとも異なる。本発明で使用する触媒においては、格子状数が、3.850〜3.915(Å)となる白金−ロジウム合金触媒が好ましい。
【0031】
本発明の白金とロジウムとを含む触媒(合金触媒)の粒子径は、高い活性を有するためには小さいことが望ましい。一般に2nm未満の粒子を作製するのは、作製工程中に合金粒子が容易に凝集してしまうために、困難である。そのため、2〜20nmの粒子径を用いるのが好ましい。なお、合金触媒の粒子径は、合金触媒の製造条件によって調整することができる。
【0032】
なお、本発明の触媒は、白金−ロジウム含有触媒そのままで使用することもできるが、電極触媒として使用する場合には、不活性な担体に担持させて使用することが好ましい。使用する担体は、特に制限されるものではなく、公知のものを使用することができる。中でも、比表面積が大きい担体は、多くの触媒を担持することができるので好適である。具体的には、比表面積が800〜1300m/gのケッチェンブラック等のカーボンを使用することが好ましい。
【0033】
本発明の触媒を担体に担持して使用する場合には、電極として使用する用途に応じて、担持量を適宜調整すればよい。通常、白金−ロジウムの合金触媒の担持量は、担体50〜90質量%、合金触媒10〜50質量%である。また、該合金触媒を担体に担持させる方法は、特に制限されるものではないが、白金とロジウムとを合金化させる際に、同時に担体を存在させておけばよい。具体的には、白金およびロジウム原料化合物とを混合する際に、担体をその混合系内に存在させておき、還元雰囲気下、300〜900℃の熱処理を行うことにより、白金−ロジウムの合金触媒を担体に担持させた触媒を製造することができる。
【0034】
以上のような方法で得られた白金−ロジウム含有触媒は、アニオン交換膜型直接アルコール燃料電池用の電極に好適に使用できる。この触媒を電極として使用し、該電極とアニオン交換膜とが接合した膜接合体、該膜接合体を備えてなるアニオン交換膜型直接アルコール燃料電池について説明する。
【0035】
(白金−ロジウム含有触媒を含む電極)
白金−ロジウム含有触媒を含む電極は、白金−ロジウム含有触媒そのものからなってもいし、担体に担持させた白金−ロジウム含有触媒(以下、担持触媒とする場合もある)からなってもよい。また、白金−ロジウム含有触媒、または担持触媒とアニオン伝導性を有するバインダー樹脂とを混合し、この混合組成物を電極(電極層)として使用することもできる。
【0036】
アニオン伝導性を有するバインダー樹脂のベースとなる樹脂は、特に制限されるものではなく、公知の樹脂を使用することができる。具体的には、炭化水素系樹脂が好適に採用できる。炭化水素系樹脂としては、具体的には、ポリスチレン、ポリ−α−メチルスチレンなどのスチレン系樹脂;ポリ2−ビニルピリジンやポリ4−ビニルピリジンなどのポリビニルピリジン系樹脂;ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリベンズイミダゾール、ポリオキサゾール、ポリフェニレンオキサイド、ポリスルフィドなどのエンジニアリングプラスチック;スチレン系エラストマーなどが例示される。上記の中でも、第4級窒素原子を含むアニオン交換基を導入し得る官能基を導入し易く、アニオン伝導性バインダー樹脂として良好な性能を示すことなどから、スチレン系樹脂やスチレン系エラストマー、ポリビニルピリジン系樹脂が好適に採用できる。このアニオン伝導性バインダー樹脂は、特許文献2(特開平11−273695号公報)等に記載されている。
【0037】
アニオン伝導性バインダー樹脂の役割は、燃料電池の両極の反応に関与するアニオン(通常、水酸化物イオン)を効率良く触媒表面に運搬することと、触媒電極層の形状を維持することである。そのため、これらの役割を果たすものであれば、該バインダー樹脂の分子量、イオン交換容量等は、適宜決定すればよい。また、該バインダー樹脂と白金−ロジウム含有触媒との配合割合も、目的とする燃料電池の用途に応じて適宜決定すればよい。
【0038】
(膜接合体)
この膜接合体は、本発明の白金−ロジウム含有触媒を含む電極とアニオン交換膜とを接合したものである。
【0039】
(アニオン交換膜)
この膜接合体に使用するアニオン交換膜は、正の荷電を帯びた官能基(通常は4級アンモニウム)が固定された固体高分子膜であり、公知のものを使用することができる。なお、主たる伝導イオンは、水酸化物イオン(OH−)であることが望ましい。
【0040】
アニオン交換膜は、一般にアニオン交換樹脂を膜状に成型したものである。アニオン交換樹脂としては4級アンモニウム塩をイオン交換基として有する高分子化合物を用いるのが一般的である。その機械的強度を増すために不織布や多孔性フィルムを基材として含有させることもある。アニオン交換膜の膜厚としては、電気抵抗を低く抑える観点及び支持膜として必要な機械的強度を付与する観点から、通常5〜200μmの厚みを有するものが好ましく、より好ましくは20〜150μmの厚みを有するものが好ましい。メタノール透過性に関しては低いほどよく、水酸化物イオン導電性は高いものが望ましい。
【0041】
ただし、本発明を実施するために特別限定されるものではなく、燃料電池の使用用途に応じて、アニオン交換膜の物性は適宜調整すればよい。例えば、特開2010−13625号公報、特開2004−171994号公報に記載のアニオン交換膜を使用することができる。
【0042】
(膜接合体の製造方法)
このアニオン交換膜と白金−ロジウム含有触媒を含む電極との接合方法は、公知の方法が採用できる。例えば、白金−ロジウム含有触媒そのもの、前記担持触媒そのものを前記アニオン交換膜に圧着させて膜接合体とすることができる。
【0043】
ただし、アニオン交換膜と電極との接合を考慮すると、該含有触媒、または担持触媒とアニオン伝導性を有するバインダー樹脂とを混合した混合組成物を電極(電極層)として使用することが好ましい。この混合組成物は、白金−ロジウム含有触媒を含む電極で説明したものである。
【0044】
この混合組成物を使用して膜接合体を製造する方法は、特に制限されるものではなく、公知の方法を採用することができる。例えば、アニオン交換膜上に混合組成物を延展し、熱圧着により混合組成物よりなる電極層とアニオン交換膜とを接合し、膜接合体を製造することができる。また、混合組成物にさらにバインダー樹脂を溶解する溶媒を加え、アニオン交換膜上に塗布し、溶媒を乾燥することにより、アニオン交換膜上に混合組成物よりなる電極層が積層された膜接合体を製造することもできる。この電極層の厚みは、燃料電池の目的とする用途に応じて適宜決定すればよい。
【0045】
(アニオン交換膜型直接メタノール燃料電池)
本発明は、上記膜接合体を備えてなる、アニオン交換型直接メタノール燃料電池である。この膜接合体は、図1で示したような燃料電池に適用できる。この膜接合体は、図1において、アニオン交換膜が固体高分子電解質膜6に対応し、燃料質側触媒電極層4が本発明の白金−ロジウム含有触媒を含む電極(層)に対応する。その他の構成部は、図1に示した通りであり、公知のものを採用することができる。また、燃料電池として作用する機構も、背景技術で説明した通りである。
【0046】
以上の通り、本発明の白金−ロジウム含有触媒は、アニオン交換膜を有し、メタノールを燃料とする、アニオン交換膜型直接アルコール燃料電池用の電極として好適に採用できる。
【実施例】
【0047】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0048】
実施例1
比表面積800m/gのカーボン179.0mgを超純水90mlに加え、分散させた。このカーボン分散液に白金20.0mgを含むジニトロジアンミン白金硝酸溶液、ロジウム1.06mgを含む硝酸ロジウム溶液の順に滴下した。これを、90℃のホットプレート上で1時間、大気中で保持することで乾燥させた。得られた粉末を3体積%水素/窒素雰囲気化において500℃で1時間、還元焼成することで、カーボン表面上に担持された白金とロジウムとからなる合金触媒を調製した。このときの合金の組成比(モル比)は白金:ロジウム=1:0.10であった。X線回折測定により求めた格子定数を表1に示した。
【0049】
触媒活性の評価
n−ヘキサノールに、前記方法で調製した合金触媒を加え、超音波バスで分散させた。これを市販のグラッシーカーボン電極(直径6mm、電極面積0.283cm)表面上に、触媒量が2.5μgとなるように滴下し、乾燥して溶媒を取り除いた。さらに、触媒の脱落を防止するため、1質量%のアニオン交換樹脂/1−プロパノール溶液を7μL滴下し、乾燥した。触媒電極層の厚みは、およそ1.5μmとなった。
【0050】
ここで用いたアニオン交換樹脂は、以下の方法で作製した。熱可塑性エラストマーであるSEBS{ポリスチレン−ポリ(エチレン−ブチレン)−ポリスチレントリブロック共重合体(質量平均分子量54,000)}20gを1000mlのクロロホルムに溶解し、クロルメチルエチルエーテル100g、無水塩化スズ100gを氷冷下で添加した後、100℃で3時間反応させた。次に、メタノールを40リットル用いて反応物を沈殿させた後に分離し、真空乾燥によりクロルメチル化された熱可塑性エラストマー(クロロメチル化体)23gを得た。得られたクロルメチル化体を30質量%トリメチルアミン水溶液10質量部、水5質量部、アセトン5質量部よりなる室温のアミノ化浴において4級化した。この4級化したものをアニオン交換樹脂として使用した。
【0051】
上述のようにして触媒電極層を形成した電極を、25℃に保持した1mol/Lメタノール−1mol/L水酸化カリウム溶液に浸し、可逆水素電極(Reversible Hydrogen Electrode、RHE)に対して、0.05Vから1Vまで電位を掃印することで、Liner Sweep Voltammetry(LSV)測定を行った。このときの電流値を読み取り、触媒活性の比較を行った。図4にその測定結果を示し、表1に0.6Vにおける電流値を記載した。
【0052】
同じ電圧における電流値を比較した場合に、電流値が大きいほど、燃料電池用触媒として用いたときに取り出せる電力が大きく好ましい。そのため、この測定を行うことにより、アルカリ性雰囲気下におけるメタノール酸化反応に対する触媒活性が比較でき、アニオン交換膜型直接メタノール燃料電池用の触媒として使用できることが分かる。
【0053】
実施例2
仕込み量をカーボン176.5mg、白金20.0mg、ロジウム3.49mgとした。調製手順は実施例1と同様の操作を行い、また同様の評価を行った。図4、表1にその結果を示した。この場合、白金とロジウムとの組成比(モル比)は1:0.33であった。
【0054】
実施例3
仕込み量をカーボン174.7mg、白金20.0mg、ロジウム5.28mgとした。
調製手順は実施例1と同様の操作を行い、また同様の評価を行った。図4、表1にその結果を示した。この場合、白金とロジウムとの組成比は1:0.50であった。
【0055】
実施例4
仕込み量をカーボンと169.4mg、白金20.0mg、ロジウム10.6mgした。
調製手順は実施例1と同様の操作を行い、また同様の評価を行った。図4、表1にその結果を示した。この場合、白金とロジウムとの組成比は1:1.00であった。
【0056】
実施例5
仕込み量をカーボン158.9mg、白金20.0mg、ロジウム21.1mgとした。
調製手順は実施例1と同様の操作を行い、また同様の評価を行った。図4、表1にその結果を示した。この場合、白金とロジウムとの組成比は1:2.00であった。
【0057】
比較例1
仕込み量をカーボン180.0mg、白金20.0mg、ロジウム0mgとした。調製手順は実施例1と同様の操作を行い、また同様の評価を行った。図4、表1にその結果を示した。
【0058】
比較例2
仕込み量をカーボン180.0mg、白金0mg、ロジウム20.0mgとした。調製手順は実施例1と同様の操作を行い、また同様の評価を行った。図4、表1にその結果を示した。
【0059】
【表1】

【0060】
表1の格子定数を見て分かるように、白金とロジウムとは合金化していることが確認できる。また、表1の結果及び図4より、白金とロジウムとを合金化させたことで、0.6V(RHE基準)におけるメタノール酸化反応に伴う電流値が大幅に向上していることがわかる。すなわち、白金とロジウムが合金化した実施例1〜5では比較例1、2に較べ、メタノールの酸化活性が高いことが示された。
【0061】
本発明である白金とロジウムとからなる合金触媒を、アニオン交換膜型直接メタノール燃料電池用電極触媒として用いれば、出力値が大幅に向上し、白金の使用量も低減できるため、燃料電池の実用化、普及に貢献できる。
【符号の説明】
【0062】
1;電池隔壁
2;燃料流通孔
3;酸化剤ガス流通孔
4;燃料室側触媒電極層
5;酸化剤室側触媒電極層
6;固体高分子電解質膜
7;燃料室
8;酸化剤室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン交換膜型直接アルコール燃料電池用の電極に使用する触媒であって、
アルコール燃料がメタノールである燃料電池用の電極に使用し、かつ、
白金1モルに対して、ロジウムを0.10モル以上2.00モル以下含むことを特徴とする白金−ロジウム含有触媒。
【請求項2】
請求項1に記載の白金−ロジウム含有触媒を含むアニオン交換膜型直接メタノール燃料電池用電極。
【請求項3】
請求項2に記載の電極とアニオン交換膜とが接合した膜接合体。
【請求項4】
請求項3に記載の膜接合体を備えてなる、アニオン交換膜型直接メタノール燃料電池。

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−37891(P2013−37891A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173030(P2011−173030)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】