説明

触媒、触媒の製造方法及び製造装置

【課題】 基板と触媒膜との密着性に優れ、ガスタービンの触媒燃焼器のような高圧・高流速の厳しい使用環境においても、安定した触媒活性を有する触媒、製造方法及び製造装置を提供する。
【解決手段】 微粉末をキャリアガスと共に微小孔ノズル4の先端から、金属製の基板2上に吹き付け、該基板2上に該基板2の構成成分に対し親和力を有する構成成分によって構成した下部アンダーコート層と、上部アンダーコート層とから形成されるアンダーコート層を成膜し、該アンダーコート層上に、ウォッシュコート法で触媒活性成分を含む触媒膜を成膜し、しかる後、焼成処理を施こすこととした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービンの触媒燃焼器又は固体高分子燃料電池(PEFC)の水蒸気改質器などに用いられる触媒、触媒の製造方法及び製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
触媒活性成分を担持した触媒膜を基板上に形成する方法として、例えば、特許文献には、特定の水溶性混合液を含む不均質水溶性触媒のスラリーを調整し、該スラリーをセラミックモノリシック支持体に塗布し、乾燥させる方法、いわゆるウォッシュコート法が記載されている。
従来技術であるウォッシュコート法で基板上に触媒膜を形成した場合、触媒膜と基板との密着性に乏しい。このため、ガスタービンの触媒燃焼器のように、高圧・高流速の厳しい使用環境において触媒膜を使用すると、触媒膜が基板から剥離、脱落するという問題がある。このため、使用時間の経過とともに触媒成分が失われ、触媒活性が徐々に低下するという問題があった。
【特許文献1】特開平6−205992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、基板との密着力が大きく、かつ、厳しい使用環境においても剥離せず、優れた触媒活性を維持する触媒、触媒の製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために、本発明に係る触媒は、微粉末をキャリアガスと共に微小孔ノズルの先端から、金属製の基板上に吹き付け、該基板上に該基板の構成成分に対し親和力を有する構成成分によって構成した下部アンダーコート層と、上部アンダーコート層とから形成されるアンダーコート層を成膜し、該アンダーコート層上に、ウォッシュコート法で触媒活性成分を含む触媒膜を成膜し、しかる後、焼成処理を施して成ることを特徴とする。
【0005】
本発明は、別の側面で触媒の製造方法であり、微粉末をキャリアガスと共に微小孔ノズルの先端から、金属製の基板上に吹き付け、該基板上に該基板の構成成分に対し親和力を有する構成成分によって構成した下部アンダーコート層と、上部アンダーコート層とから形成されるアンダーコート層を成膜し、該アンダーコート層上に、ウォッシュコート法で触媒活性成分を含む触媒膜を成膜し、しかる後、焼成処理を施すようにしたことを特徴とする。
【0006】
上記下部アンダーコート層を構成する成分は、上記上部アンダーコート層を構成する成分と親和力を有することが好適である。また、上記上部アンダーコート層は、Al23及び/又はZrO2から構成されることが好適である。またさらに、上記下部アンダーコート層は、酸化鉄Fe23及び/又はFe34から成ることが好適である。
【0007】
また、本発明に係る触媒又は製造方法は、その好適な実施の形態で、上記下部アンダーコート層が酸化鉄Fe23及び/又はFe34とAl23及び/又はZrO2との混合物から成る。また、別の好適な実施の形態で、上記下部アンダーコート層が酸化鉄Fe23及び/又はFe34とAl23及び/又はZrO2の混合物から成り、かつその組成が上記金属製の基板から上部アンダーコート層へ向かうにつれてAl23及び/又はZrO2が増加する組成分布を有する。
上記微小孔ノズルの先端からキャリアガスと共に噴射される粒子の粒子速度は、700m/s以上であることが好適である。
【0008】
さらに、上記触媒活性成分を担持するための触媒担体は、Al23及び/又はZrO2を主成分とすることが好適である。上記触媒活性成分は、Pd、Ru、Ptから選ばれた少なくとも一の触媒活性成分であることが好適である。
【0009】
さらに加えて、本発明は、さらに別の側面で、上記触媒の下部アンダーコート層を製造するための製造装置であり、微粉末をキャリアガスと共に微小孔ノズルの先端から、金属製の基板上に吹き付け、該基板上に該基板の構成成分に対し親和力を有する構成成分によって構成した下部アンダーコート層を形成するための製造装置であって、上記キャリアガスを、2系統に分岐して、2系統の微小孔ノズルを設け、一方の微小孔ノズルの先端から、酸化鉄Fe23及び/又はFe34を上記金属製の基板上に吹き付け、他方の微小孔ノズルの先端から、Al23及び/又はZrO2を上記金属製の基板上に吹き付け、該金属製の基板から上部アンダーコート層へ向かうにつれてAl23及び/又はZrO2が増加する組成分布を上記下部アンダーコート層に形成するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、基板と触媒膜との密着性に優れ、ガスタービンの触媒燃焼器のような高圧・高流速の厳しい使用環境においても、安定した触媒活性を有する触媒、触媒の製造方法及び製造装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明に係る触媒、製造方法及び製造装置について、その実施の形態を参照しながらさらに詳細に説明する。
【0012】
まず、本発明に係る触媒を製造するために、金属製の基板上へアンダーコート層を形成する方法について説明する。本発明では、金属製の基板上に、下部アンダーコート層と、上部アンダーコート層とから形成されるアンダーコート層を形成する。下部アンダーコート層と、上部アンダーコート層とは、いずれも微粉末をキャリアガスと共に微小孔ノズルの先端から、金属製の基板上に吹き付けることによって形成される。
【0013】
ここでは、Al23からなる上部アンダーコート層を成膜する手順を主体として、図1に示す装置の概要を参照して説明する。なお、図2は、製造されるべき本発明に係る触媒の構成を示す。同図に示すように、該触媒は、金属製の基板2、下部アンダーコート層14、上部アンダーコート層15、ウォッシュコート法による触媒層16から成る。
【0014】
図1において示されるように、ステンレスからなるチャンバー1内には、金属製の基板2を支持する基板ホルダー3が設置されている。さらに、該チャンバー1内には、キャリアガスによって搬送された原料粉末をキャリアガスとともに噴射するためのノズル4が設置されている。なお、基板2の温度は、室温で足り、基板2を特段加熱する必要はない。しかし、加熱することも勿論できる。
【0015】
基板ホルダー3は、図示しない駆動機構によって、ノズル4に対してXY(平面)方向に所定の速度で駆動できるように構成されている。また、ノズル4と基板ホルダー3との間隔は、図示しない機構によって、任意の距離に固定できるようになっている。
【0016】
さらに、図1の装置は、パウダーフィーダー5を備える。該パウダーフィーダー5は、予め所定の方法で調整された原料粉末を一定速度で供給できる機能を有する。
本実施の形態では、パウダーフィーダー5として回転掻き取り方式のフィーダーを用いている。このタイプのパウダーフィーダー5は、ホッパーから回転テーブルに供給される原料粉末を金属製のフィンで掻き取ることにより一定時間に一定量の粉末を供給することができるような機能を有している。回転テーブルの回転数を制御することにより、粉末供給速度を変化させることができる。なお、一定時間に一定量の粉末を供給できる機能を備えていれば、このパウダーフィーダー5は、回転掻き取り方式に限定されるものではない。
【0017】
パウダーフィーダー5には、圧力調整器7及びマスフローコントローラ8を介してキャリアガスボンベ6が接続されている。チャンバー1内の雰囲気は、粉塵補集用のフィルター9を介して、ロータリーポンプ10及びメカニカルブースターポンプ11によって排気されている。
【0018】
なお、図中、12で示した要素は、自動バルブ又は手動バルブである。また、図中13で示した構成要素は、圧力計である。バルブ12は、各々本図1の実施の形態で、各ラインを流れる流体の流量を、装置全体の稼動状況に応じて調整し、圧力計13は、圧力をパラメータとして装置の稼動状況をモニターする手段である。これらの操作は、当業者にとって公知の手法を採用することができる。
【0019】
次に、図1の装置を用い、本発明によりAl23からなる上部アンダーコート層15(図2)を成膜する手順を説明する。なお、下部アンダーコート層14(図2)も同様の手順で成膜することができる。
【0020】
まず、所定の形状の、金属製の基板2を基板ホルダー3にセットする。基板2としては、例えば、Crを19〜21重量%、Alを5〜6重量%含む、耐熱性に優れたNAS442A5系の鋼を用いることができる。なお、本発明で用いることができる基板の素材は、これに限定されるものではなく、例えば他にもNAS444鋼、SUS409、SUS430、SUS304等を挙げることができる。
【0021】
パウダーフィーダー5には、予め粒度を調節したα−Al23粉末を充填しておく。原料微粉末として用いるα−Al23粉末としては、粒径0.2〜0.3μm(中心粒径)からなる一次粒子が凝集して数μm(中心粒径)の二次粒子を形成した粉末が望ましい。このような性状を有する粉末としては、住友化学製のAKP−30が挙げられる。
【0022】
なお、本発明で、上部アンダーコート層15を構成する化合物として、好適なものとしてAl23の他に、ZrO2、HfO2、Y23、Gd23等及びこれらのうち少なくとも二以上の混合物を挙げることができる。
【0023】
これらのうちでも、Al23、ZrO2 が好適であり、その混合物でも良い。
Al23、ZrO2 が好適である理由は、Al23、ZrO2は、上部アンダーコート層15の上にウォッシュコート法で成膜される触媒層16の触媒担体の主要構成成分であり親和性を有するとともに、これらの材料が熱的及び化学的に安定であり、この上に成膜される触媒層に悪影響を及ぼさないからである。混合物を用いる場合には、各々を予め混合物とする他、マルチプルノズルを用いて同時に吹き付けるようにしてもよい。
【0024】
下部アンダーコート層の構成成分は、基板の構成成分に対し親和力を有する構成成分とすることが好適である。またさらに、上記上部アンダーコート層の構成成分と親和力を有することが好ましい。このことから、下部アンダーコート層は、酸化鉄Fe23及び/又はFe34から成ることが好ましい。この理由は、基板2の主要構成元素がFeである点と上部アンダーコート層15がAl23及び/又はZrO2の酸化物から構成されるため、熱膨張係数が近い鉄Fe23及び/又はFe34が好適である。
だからである。なお、このような特性を備えるものであれば、酸化鉄Fe23及び/又はFe34以外のものを採用してもよい。
下部アンダーコート層も、原料を微粉末として調整して、吹き付けることによって形成される。混合物を用いる場合には、各々を予め混合物とする他、マルチプルノズルを用いて同時に吹き付けるようにしてもよい。
【0025】
そして、下部アンダーコート層を酸化鉄Fe23及び/又はFe34とAl23及び/又はZrO2の混合物から構成し、かつその組成が金属製の基板から上部アンダーコート層へ向かうにつれてAl23及び/又はZrO2が増加する組成分布を有するように構成することが、より好適である。増加させる態様としては、最も一般的には、増加する成分がリニア又はほぼリニアに増加するものが好適である。
【0026】
上記したアンダーコート層を形成する原料微粉末の粒径は、例えば、レーザー計測法で計測される一次粒子の中心粒径で0.1〜2.0μmの範囲が好適である。この理由は、後述する方法によりノズルから高速でエアロゾルを噴射し、粒子を基板2に衝突させるプロセスにおいて、粒子が基板2に衝突する際に、一次粒子が破砕して活性な新生面が露出するのに十分な運動エネルギーを与えることができるからである。特に、0.2〜1.0μmの範囲が好適である。
【0027】
上記原料微粉末を吹き付けるに先立って、ロータリーポンプ10及びメカニカルブースターポンプ11によりチャンバー1内を、フィルター9を介して、真空排気する。チャンバー1内が10Pa以下の到達真空度に達したら、キャリアガスボンベ6から、圧力調整器7及びマスフローコントローラ8を介することにより、圧力及び流量を所定の値に設定したキャリアガスをパウダーフィーダー5に送り込む。
【0028】
ここで、キャリアガスには、ヘリウムHe、アルゴンAr、窒素N2などの不活性ガスを用いることができる。粒子速度を増大させる目的からは、ヘリウムHeが好適である。
【0029】
キャリアガス流量が定常値に達し、チャンバー1内の圧力が安定したら、パウダーフィーダー5の微粉末供給機構を作動させ、キャリアガスに原料粉末を均一に分散させたエアロゾルを形成する。このようにして生成したエアロゾルをノズル4のエアロゾル導入部に導入する。導入されたエアロゾルは、ノズル4の絞り部及び粒子加速部を順次通る際に加速され、ノズル4の先端から基板2に向かって高速で噴射される。
【0030】
基板2の表面に高速で衝突したエアロゾル中の原料粉末は破砕し、活性な新生面が露出して基板2上に高い密着力を有する緻密なAl23膜が形成される。本発明における上部アンダーコート層15を形成するためには、前述のように基板2の表面に高速で衝突したエアロゾル中の原料粉末が破砕し、活性な新生面が露出する必要がある。このため、基板に入射する粒子は、一定以上の運動エネルギーを有する必要がある。Al23又はZrO2の場合、この条件は、前述した一次粒子径を有する微粉末を用いた場合、粒子速度少なくとも700m/s以上で満足される。入射粒子の速度は、原料粒子の粒子径、ノズル4の形状及びキャリアガス流量によって制御できる。
【0031】
そして、基板ホルダー3を図示しない駆動機構によって、XY(基板2の平面)方向に移動させることにより、基板2上の一定面積にAl23からなる上部アンダーコート層15を形成することができる。
同様の要領により酸化鉄Fe23及び/又はFe34からなる下部アンダーコート層14等の下部アンダーコート層を形成することができる。
【0032】
次に、Al23からなる上部アンダーコート層15上へのウォッシュコート法による触媒担体及び触媒膜の成膜方法(触媒活性成分を含む触媒膜を成膜する方法)について説明する。本発明で用いる触媒担体は、その熱的安定性及び化学的安定性の観点から、その主成分がAl23又はZrO2のいずれかもしくは両方の混合物から構成されることが好適である。もっとも、本発明の目的に反しない限り、他にもHfO2、Y23等を用いることができる。
【0033】
ここでは、共沈法によるZrO2・Al23触媒担体の調整方法について説明する。なお、ウォッシュコート法に供することができる触媒担体を調整できる方法であれば、共沈法に限定する必要はない。
【0034】
Al23の出発原料として比表面積の大きなγ−Al23が好適である。例えば、住友化学製のA−11を用いることができる。
ZrO2の出発原料としては、例えば、オキシ塩化ジルコニウムZrOCl2・8H2O(三津和化学製)を用いることができる。
【0035】
上記原料を用いる場合を一例として説明すると、まず、所定量に秤量したZrOCl2・8H2Oをポリタンクに入れ、所定量の蒸留水を投入し、撹拌しながらZrOCl2・8H2Oを溶解させる。次に、撹拌しながら所定量に秤量したγ−Al23を徐々に添加する。この状態で数10分間から1時間程度撹拌した後、pHが9.2〜9.3になるまで、撹拌しながらNH4OH水を徐々に滴下し、沈殿を形成する。pHが9.2〜9.3になるまでNH4OH水を滴下したら、撹拌した状態で1時間程度熟成させる。次に、アスピレータを用いて沈殿物を濾過した後、沈殿物を大気中100〜120℃で10〜12時間加熱し、水分を蒸発させる。次に、大気中で500〜600℃、5〜10時間、引続き1100〜1150℃で5〜10時間焼成し、触媒担体粉末とする。
【0036】
次に、触媒活性成分としてパラジウムPdを上記のような触媒担体に担持する手順を説明する。なお、Rh及びPtについても、同様の要領で担持することができる。
【0037】
前述の要領で調整した触媒担体粉末を所定量、蒸発皿に入れる。次に、触媒担体粉末全体が湿るように蒸留水を注ぐ。これに、所定量に秤量した硝酸パラジウムPd(NO32を加える。蒸発皿をホットプレートで徐々に加熱し、撹拌しながら、水分を蒸発させ、蒸発乾固させる。蒸発乾固した粉末を大気中で500〜600℃、5〜10時間、引続き1100〜1150℃で5〜10時間焼成し、触媒を担持した触媒担体粉末を調整する。
【0038】
次に、本発明でウォッシュコート法による触媒活性成分を担持した触媒担体膜を成膜する手順について説明する。前述のようにして調整した触媒を担持した触媒担体粉末と所定量の蒸留水、及び所定量のバインダーをボールミル法により均一に混合し、スラリーを作製する。
【0039】
次に予め重量を計測した下部アンダーコート層14(図2)及び上部アンダーコート層15(図2)を成膜した金属製の基板2を前述の要領で調整したスラリーに浸した後、引上げ、エアーガンでブローして余分のスラリーを吹き飛ばす。スラリーを成膜した基板2を乾燥させた後、重量を秤量し、コート量を求める。所定のコート量に達するまで上記の操作を繰り返す。所定量の触媒層をコートした基板2は、大気中900〜1000℃で15〜20時間、焼成する。このようにして、アンダーコート層上にPdを触媒活性成分とする触媒担体膜を成膜することができる。このようにして本発明に係る触媒を得ることができる。
なお、以上の成膜に関する手順は、あくまで一例であって、本発明は、上記記載に限定されるものではない。
触媒活性成分としては、以上の説明で、Pdとしたが、他にもRu、Pt、Rh,Ir,Co,Mn,Fe,Ni,Cr等を用いることができる。
【実施例1】
【0040】
以下、本発明を実施例によりさらに説明する。なお、参照番号は、図1、図2、又は図4に付した参照番号であり、その指称する構成要素は先行する説明に従う。
実施例1、比較例1
基板2として厚さ0.1mm、幅50mm、長さ200mmの波板状のNAS442A5を用いた。次に、下部アンダーコート層14用の原料粉末として、パウダーフィーダー5にFe23粉末(JFEケミカル製 中心粒径0.5μm)を充填した。
【0041】
下部アンダーコート層14の成膜条件は、ノズル4−基板2間距離50mm、原料粉末供給速度1.5g/min、基板2移動速度0.5mm/sec、ヘリウム流量20リットル/minに設定した。この条件で基板2上に下部アンダーコート層14として、膜厚2.1μmの酸化鉄Fe23を成膜した。
【0042】
次に、パウダーフィーダー5に上部アンダーコート層15用原料粉末として、α−Al23粉末(住友化学製AKP−30 中心粒径0.3μm)を充填した。キャリアガスボンベ6からヘリウムHeを毎分20リットルの流量でパウダーフィーダー5にキャリアガスとして供給した。次にパウダーフィーダー5の粉末供給機構を作動させ、1.3g/minのα−Al23原料粉末をキャリアガスとともにノズル4に供給して基板2にAl23からなる上部アンダーコート層15を形成した。
【0043】
基板2は、ノズル4に対して0.2mm/secの速度で移動させた。Al23からなる上部アンダーコート層15の膜厚は、約10μmであった。
このようにして、NAS442A5基板2上の両面にFe23からなる下部アンダーコート層14及びAl23からなる上部アンダーコート層15を形成した。
【0044】
アンダーコート層を形成したNAS442A5基板2をコア径約25mmになるように巻き込み、NAS442A5からなる外筒材で固定し、コア径25mm、長さ50mmのメタルハニカムを作製した。また、比較例1として、下部アンダーコート層14及び上部アンダーコート層15を形成しないNAS442A5基板を実施例1と同様に巻き込み、NAS442A5からなる外筒材で固定し、コア径25mm、長さ50mmのメタルハニカムを作製した。
【0045】
このようにして作製した2種類のメタルハニカム(実施例1及び比較例1)を、前述の要領で調整した触媒担体スラリーに8回浸漬し、所定量の触媒層を形成した後、大気中、950℃で20時間焼成した。
【0046】
次に、触媒層を形成した2種類のメタルハニカム(実施例1及び比較例1)に大気圧で150Nリットル/分の空気を流通させ、触媒層の重量減少量を計測した。
図3に、空気流通時間に対する触媒層の重量減少量の変化を示す。Fe23からなる2.1μmの下部アンダーコート層及びAl23からなる10μmの上部アンダーコート層15を形成した実施例1では、空気流通時間68時間後の重量減少量は0.052gに留まったが、アンダーコート層を形成していない比較例1では、空気流通時間とともに重量減少量が増大し、空気流通時間68時間後の重量減少量は、0.110gに達した。これは、アンダーコート層を形成した実施例1では、アンダーコート層を介して基板2と触媒層との密着力が強く、大流量の空気を流通させても、触媒層の重量減少は小さいのに対し、アンダーコート層を形成していない比較例1では、基板2と触媒層との密着力が弱いため、空気流通時間の経過とともに触媒層が剥離して失われたためであると考えられる。
【実施例2】
【0047】
実施例2、比較例2
基板2として厚さ0.1mm、幅50mm、長さ200mmの波板状のNAS442A5を用いた。次に、下部アンダーコート層14用の原料粉末として、パウダーフィーダー5にFe23粉末(JFEケミカル製 中心粒径0.5μm)を充填した。下部アンダーコート層14の成膜条件は、ノズル4−基板2間距離50mm、原料粉末供給速度1.5g/min、基板2移動速度0.5mm/sec、ヘリウム流量20リットル/minに設定した。この条件で基板2上に下部アンダーコート層として、膜厚2.1μmの酸化鉄Fe23を成膜した。
【0048】
次に、パウダーフィーダー5に上部アンダーコート層15用原料粉末として、ジルコニアZrO2粉末(東ソー製TZ−PX−136 中心粒径0.7μm)を充填した。キャリアガスボンベ6からヘリウムHeを毎分20リットルの流量でパウダーフィーダー5にキャリアガスとして供給した。次にパウダーフィーダー5の粉末供給機構を作動させ、1.9g/minの、ジルコニアZrO2粉末をキャリアガスとともにノズル4に供給して基板2にZrO2上部アンダーコート層15を形成した。基板2は、ノズル4に対して0.3mm/secの速度で移動させた。
ZrO2からなる上部アンダーコート層15の膜厚は、約7μmであった。
【0049】
このようにして、NAS442A5基板2上の両面にFe2O3からなる下部アンダーコート層14及びZrO2からなる上部アンダーコート層15を形成した。
アンダーコート層を形成したNAS442A5基板2をコア径約25mmになるように巻き込み、NAS442A5からなる外筒材で固定し、コア径25mm、長さ50mmのメタルハニカムを作製した。また、比較例2として、下部アンダーコート層14及び上部アンダーコート層15を形成しないNAS442A5基板を実施例2と同様に巻き込み、NAS442A5からなる外筒材で固定し、コア径25mm、長さ50mmのメタルハニカムを作製した。
【0050】
このようにして作製した2種類のメタルハニカム(実施例2及び比較例2)を、前述の要領で調整した触媒担体スラリーに8回浸漬し、所定量の触媒層を形成した後、大気中、950℃で20時間焼成した。
【0051】
次に、触媒層を形成した2種類のメタルハニカム(実施例2及び比較例2)に大気圧で150Nリットル/分の空気を流通させ、触媒層の重量減少量を計測した。
Fe23からなる2.1μmの下部アンダーコート層及びZrO2からなる7μmの上部アンダーコート層15を形成した実施例2では、空気流通時間75時間後の重量減少量は0.055gに留まったが、アンダーコート層を形成していない比較例1では、空気流通時間とともに重量減少量が増大し、空気流通時間68時間後の重量減少量は、0.115gに達した。これは、アンダーコート層を形成した実施例2では、アンダーコート層を介して基板2と触媒層との密着力が強く、大流量の空気を流通させても、触媒層の重量減少は小さいのに対し、アンダーコート層を形成していない比較例2では、基板2と触媒層との密着力が弱いため、空気流通時間の経過とともに触媒層が剥離して失われたためであると考えられる。
【実施例3】
【0052】
実施例3、比較例3
図4に下部アンダーコート層14を成膜した装置の概略図を示す。基本的な装置構成は図1と同様であるが、キャリアガスの圧力計12以降を2系統に分岐し、マスフローコントローラ8、パウダーフィーダー5及びノズル4を各々2系統設けた点が異なる。これは、下部アンダーコート層14を酸化鉄Fe23とAl23の混合物から構成し、かつその組成が金属製の基板から上部アンダーコート層へ向かうにつれてAl23が増加する組成分布を有するようにするためであった。
【0053】
基板2として厚さ0.1mm、幅50mm、長さ200mmの波板状のNAS442A5を用いた。次に、下部アンダーコート層14用の原料粉末として、Fe23粉末(JFEケミカル製 中心粒径0.5μm)及びα−Al23粉末(住友化学製AKP−30 中心粒径0.3μm)を各々別のパウダーフィーダー5に充填した。
【0054】
下部アンダーコート層14の成膜条件は、ノズル4−基板2間距離50mm、基板2移動速度0.4mm/sec、ヘリウム流量20リットル/minに設定した。また、原料粉末供給速度は、Fe23粉末を1.5g/minから0.5g/minまで連続的に減少させ、一方、α−Al23粉末は、0.3g/minから1.8g/minまで連続的に増加させた。
【0055】
この条件で基板2上にとして、膜厚2.0μmのFe23及びAl23との混合物からなる下部アンダーコート層14を成膜した。成膜した下部アンダーコート層14の組成を電子線マイクロアナライザで分析した結果を図5に示す。基板2側から上部アンダーコート層15に向かうにつれて、Al23成分が多くなる組成分布を有していた。
【0056】
次に、パウダーフィーダー5に上部アンダーコート層15用原料粉末として、α−Al23粉末(住友化学製AKP−30 中心粒径0.3μm)を充填した。
キャリアガスボンベ6からヘリウムHeを毎分20リットルの流量でパウダーフィーダー5にキャリアガスとして供給した。次にパウダーフィーダー5の粉末供給機構を作動させ、1.3g/minのα−Al23原料粉末をキャリアガスとともにノズル4に供給して基板2にAl23からなる上部アンダーコート層を形成した。
基板2は、ノズル4に対して0.2mm/secの速度で移動させた。Al23からなる上部アンダーコート層15の膜厚は、約10μmであった。
【0057】
このようにして、NAS442A5基板2上の両面にFe23及びAl23との混合物からなる下部アンダーコート層14及びAl23からなる上部アンダーコート層15を形成した。
アンダーコート層を形成したNAS442A5基板2をコア径約25mmになるように巻き込み、NAS442A5からなる外筒材で固定し、コア径25mm、長さ50mmのメタルハニカムを作製した。また、比較例3として、下部アンダーコート層14及び上部アンダーコート層15を形成しないNAS442A5基板を実施例3と同様に巻き込み、NAS442A5からなる外筒材で固定し、コア径25mm、長さ50mmのメタルハニカムを作製した。
【0058】
このようにして作製した2種類のメタルハニカム(実施例3及び比較例3)を、前述の要領で調整した触媒担体スラリーに8回浸漬し、所定量の触媒層を形成した後、大気中、950℃で20時間焼成した。
次に、触媒層を形成した2種類のメタルハニカム(実施例3及び比較例3)に大気圧で150Nリットル/分の空気を流通させ、触媒層の重量減少量を計測した。
【0059】
Fe23及びAl23との混合物からなる2.0μmの下部アンダーコート層及びAl23からなる10μmの上部アンダーコート層15を形成した実施例3では、空気流通時間70時間後の重量減少量は0.048gに留まったが、アンダーコート層を形成していない比較例3では、空気流通時間とともに重量減少量が増大し、空気流通時間70時間後の重量減少量は、0.111gに達した。これは、アンダーコート層を形成した実施例3では、アンダーコート層を介して基板2と触媒層との密着力が強く、大流量の空気を流通させても、触媒層の重量減少は小さいのに対し、アンダーコート層を形成していない比較例3では、基板2と触媒層との密着力が弱いため、空気流通時間の経過とともに触媒層が剥離して失われたためであると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に係る下部アンダーコート層及び上部を成膜するための装置について、一実施の形態を説明する概略図である。
【図2】本発明に係る触媒の構成を示す概念図である。
【図3】実施例1及び比較例1に係る空気流通時間と触媒膜の重量減少量の関係を示すグラフである。
【図4】実施例3に係る下部アンダーコート層を成膜するための装置について、一実施の形態を説明する概略図である。
【図5】実施例3に係る下部アンダーコート層の組成分布を示すグラフである。
【符号の説明】
【0061】
1 チャンバー
2 基板
3 基板ホルダー
4 ノズル
5 パウダーフィーダー
6 キャリアガスボンベ
7 圧力調整器
8 マスフローコントローラ
9 フィルター
10 ロータリーポンプ
11 メカニカルブースターポンプ
12 バルブ
13 圧力計
14 下部アンダーコート層
15 上部アンダーコート層
16 ウォッシュコート法による触媒層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粉末をキャリアガスと共に微小孔ノズルの先端から、金属製の基板上に吹き付け、該基板上に該基板の構成成分に対し親和力を有する構成成分によって構成した下部アンダーコート層と、上部アンダーコート層とから形成されるアンダーコート層を成膜し、該アンダーコート層上に、ウォッシュコート法で触媒活性成分を含む触媒膜を成膜し、しかる後、焼成処理を施して成ることを特徴とする触媒。
【請求項2】
上記下部アンダーコート層の構成成分が、上記上部アンダーコート層の構成成分と親和力を有することを特徴とする請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
上記上部アンダーコート層がAl23及び/又はZrO2から構成されることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の触媒。
【請求項4】
上記下部アンダーコート層が酸化鉄Fe23及び/又はFe34から成ることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の触媒。
【請求項5】
上記下部アンダーコート層が酸化鉄Fe23及び/又はFe34とAl23及び/又はZrO2との混合物から成ることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の触媒。
【請求項6】
上記下部アンダーコート層が酸化鉄Fe23及び/又はFe34とAl23及び/又はZrO2の混合物から成り、かつその組成が上記金属製の基板から上部アンダーコート層へ向かうにつれてAl23及び/又はZrO2が増加する組成分布を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の触媒。
【請求項7】
上記微小孔ノズルの先端からキャリアガスと共に噴射される粒子の粒子速度が700m/s以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の触媒。
【請求項8】
上記触媒活性成分を担持するための触媒担体が、Al23及び/又はZrO2を主成分とすることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の触媒。
【請求項9】
上記触媒活性成分がPd、Ru、Ptから選ばれた少なくとも一の触媒活性成分であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の触媒。
【請求項10】
微粉末をキャリアガスと共に微小孔ノズルの先端から、金属製の基板上に吹き付け、該基板上に該基板の構成成分に対し親和力を有する構成成分によって構成した下部アンダーコート層と、上部アンダーコート層とから形成されるアンダーコート層を成膜し、該アンダーコート層上に、ウォッシュコート法で触媒活性成分を含む触媒膜を成膜し、しかる後、焼成処理を施すようにしたことを特徴とする触媒の製造方法。
【請求項11】
上記下部アンダーコート層の構成成分が、上記上部アンダーコート層の構成成分と親和力を有することを特徴とする請求項10に記載の触媒の製造方法。
【請求項12】
上記上部アンダーコート層がAl23及び/又はZrO2から構成されることを特徴とする請求項10又は11のいずれかに記載の触媒の製造方法。
【請求項13】
上記下部アンダーコート層が酸化鉄Fe23及び/又はFe34から成ることを特徴とする請求項10〜12のいずれかに記載の触媒の製造方法。
【請求項14】
上記下部アンダーコート層が酸化鉄Fe23及び/又はFe34とAl23及び/又はZrO2との混合物から成ることを特徴とする請求項10〜12のいずれかに記載の触媒の製造方法。
【請求項15】
上記下部アンダーコート層が酸化鉄Fe23及び/又はFe34とAl23及び/又はZrO2の混合物から成り、かつその組成が上記金属製の基板から上部アンダーコート層へ向かうにつれてAl23及び/又はZrO2が増加する組成分布を有することを特徴とする請求項10〜12のいずれかに記載の触媒の製造方法。
【請求項16】
上記微小孔ノズルの先端からキャリアガスと共に噴射される粒子の粒子速度が700m/s以上であることを特徴とする請求項10〜15のいずれかに記載の触媒の製造方法。
【請求項17】
上記触媒活性成分を担持するための触媒担体が、Al23及び/又はZrO2を主成分とすることを特徴とする請求項10〜16のいずれかに記載の触媒の製造方法。
【請求項18】
上記触媒活性成分がPd、Ru、Ptから選ばれた少なくとも一の触媒活性成分であることを特徴とする請求項10〜17のいずれかに記載の触媒の製造方法。
【請求項19】
微粉末をキャリアガスと共に微小孔ノズルの先端から、金属製の基板上に吹き付け、該基板上に該基板の構成成分に対し親和力を有する構成成分によって構成した下部アンダーコート層を形成するための製造装置であって、上記キャリアガスを、2系統に分岐して、2系統の微小孔ノズルを設け、一方の微小孔ノズルの先端から、酸化鉄Fe23及び/又はFe34を上記金属製の基板上に吹き付け、他方の微小孔ノズルの先端から、Al23及び/又はZrO2を上記金属製の基板上に吹き付け、該金属製の基板から上部アンダーコート層へ向かうにつれてAl23及び/又はZrO2が増加する組成分布を上記下部アンダーコート層に形成するようにしたことを特徴とする製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−175380(P2006−175380A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−372404(P2004−372404)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】