説明

触媒の活性測定方法

【課題】ニッケル金属を活性成分とする固体触媒の活性を客観的に評価することができる技術を提供する。
【解決手段】ニッケル金属を活性成分とする固体触媒に水素ガスを供給する前処理工程を行った後、その固体触媒の水素ガス吸着量を測定する固体触媒の活性測定方法であって、前処理温度を100℃以上130℃以下の加熱状態で前処理工程を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル金属を活性成分とする固体触媒に水素ガスを供給する前処理工程を行った後、その固体触媒の水素ガス吸着量を測定する、触媒の活性測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル金属を活性成分とする固体触媒は、水熱ガス化反応による排水処理プロセス、水素添加等の反応による種々化合物の合成プロセスや、ガス改質プロセス等に汎用されている。このような反応を行う場合には、上記触媒反応の反応効率の高い(活性の高い)触媒を用いることが好ましいことはいうまでもない。
【0003】
このような触媒の上記水熱ガス化や、水素添加等の活性(以下単に触媒の活性と称する)は、一般に実際に適用されるべき反応を行うことによって、その反応効率によって評価するのが最も正確である。しかし、大規模、または、反応系が複雑な装置によってその活性を評価しなければならない場合には、簡易的に、ニッケルになじみの良い水素や一酸化炭素といったガスの吸着量からニッケル金属の活性表面積をもとめ、大凡の触媒活性の評価値とされている。
【0004】
このような活性表面積の測定方法としては、JIS H 7201(高圧水装置吸着等温線測定方法)における前処理工程に準じた前処理工程を行った後、水素ガスの吸着量を求める方法が、慣用されている(例えば特許文献1参照)。特に、金属を活性成分とする触媒の場合、空気中の酸素により保管中に金属表面に薄い酸化被膜が形成されていると考えられており、真の活性表面積を求めるには、その酸化被膜を一旦還元除去する前処理工程を行った後、ガスの吸着量を測定する必要があると考えられている。具体的には、このような前処理条件としては、水素雰囲気で400℃〜450℃にて30分〜2時間加熱保持する方法が一般的に採用されている。しかし、前処理工程を行うにあたって、その処理条件をいかに制御すべきかについては、特にニッケル触媒においては規格化されているわけではない。即ち、実際には個々の測定者によって独自の前処理温度が適用されており、異なる流通経路より得た触媒の活性を、客観的に比較評価するためには、あらためて比較評価するための判断基準が必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−98235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、その判断基準を求める過程において、本発明者らが、従来一般的に用いられている前処理条件を用い、触媒の活性表面積と実際の触媒活性との関係を調べると、触媒の活性表面積と実際の触媒活性との間には、あまり相関性のないことが明らかになった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、上記実情に鑑み、ニッケル金属を活性成分とする固体触媒の活性を客観的に評価することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
〔構成〕
本発明者らは鋭意研究の結果、触媒の活性表面積と実際の触媒活性との関係は、前記前処理の条件により大幅に変化することを新たに見出し、その前処理条件を規定することにより、触媒の活性表面積と実際の触媒活性との関係の相関性が高くなる触媒の活性表面積の値が測定できることを見出した。本発明はこの新知見に基づくものである。
【0009】
すなわち、上述の技術課題を解決するための本発明の固体触媒の活性測定方法の特徴構成は、ニッケル金属を活性成分とする固体触媒に水素ガスを供給する前処理工程を行った後、その固体触媒の水素ガス吸着量を測定する場合に、前処理温度を100℃以上130℃以下の加熱状態で前記前処理工程を行う点にある。
また、さらに好ましくは、前記前処理工程における前記前処理温度を105℃以上115℃以下の加熱状態で行う点にある。
【0010】
〔作用効果〕
ニッケル金属を活性成分とする固体触媒に水素ガスを供給する前処理工程を行った後、その固体触媒の水素ガス吸着量を測定する場合に、前記固体触媒に含まれるニッケル金属の表面では、そのニッケル金属の表面に薄く形成された酸化被膜が還元除去されているものと考えられる。この薄い酸化被膜は、通常、触媒反応を行っているときに、原料や反応剤により除去され、ニッケル金属の触媒機能を阻害するものではないため、前記前処理により除去しておく必要があると考えられ、上述のように水素ガスを用いた前処理が有効であると考えられる根拠にもなっている。
【0011】
しかし、後述の実験例によると、この前処理工程の処理条件が必要以上に激しい還元反応が起きる条件となっている場合には、前記水素ガスによる反応によって、ニッケル金属における他の触媒活性に関わる部分を賦活してしまう異なる反応が生起していると予想され、その固体触媒の本来の活性を過大に評価する傾向にあることが明らかになった。
【0012】
そこで、このような傾向の現れる処理条件について検討したところ前記前処理温度を100℃以上130℃以下の加熱状態で前記前処理工程を行うことにより、ニッケル金属の薄い酸化被膜のみを、特異的にかつ効率的に除去することができる。即ち、本発明者等の検討によると、前記前処理工程の処理温度が、約130℃未満である場合と約130℃より高温の場合とにおいて、得られる固体触媒の物性に異なる傾向が見られることが分かり、100℃以上130℃以下の加熱状態で前記前処理工程を行うと、ほぼ前記異なる反応の影響を排除した触媒活性の評価を行うことができるのである。
また、さらに厳密に、前記異なる反応の影響を排除するためには、前記前処理工程における前記前処理温度を105℃以上115℃以下の加熱状態で行うとよいことが分かった。
【発明の効果】
【0013】
したがって、ニッケル金属を活性成分とする固体触媒の活性を正しく評価することができるようになり、安定した物性の固体触媒を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】固体触媒の真の活性測定装置を示す図である。
【図2】固体触媒の活性を測定する際の前処理温度と得られた固体触媒の水素吸着量との関係を示すグラフである。
【図3】測定された水素吸着量と触媒活性との相関性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の固体触媒の活性測定方法を説明する。まず、通常の固体触媒の活性測定方法に用いられる固体触媒の活性測定装置を説明し、その固体触媒の活性測定装置による活性測定結果に対応する固体触媒の活性評価について説明する。
【0016】
〔固体触媒の真の活性測定装置〕
図1に示すように、本発明の固体触媒の活性測定方法に用いられる固体触媒の活性測定装置は、原液を貯留する原液タンク1を備え、ニッケル金属を活性成分とする固体触媒aを充填するとともに、前記原液タンク1から昇圧ポンプ2により原液の供給を受けて、前記原液中の有機物を分解する触媒充填塔3を備え、前記触媒充填塔3から有機物の分解反応により生成したガスを気液分離するとともに、処理済液中のTOCを測定する気液分離器4を備える。
【0017】
前記触媒充填塔3は、内部に固体触媒aを充填される反応容器31を備えるとともに、前記反応容器31の下部に、前記原液タンク1から昇圧ポンプ2を介して供給される原液を受ける流入部32を備え、前記反応容器31の上部に処理済の液を排出する排出部33を備える。また、前記反応容器31は流動砂浴を有する加熱部34を備え、前記反応容器31の上下には、前記反応容器31に流通される原液の温度を測定する温度センサTが設けられ、反応容器31の内部の温度を、均一かつ一定に保持することができるように前記加熱部34の加熱温度が制御される。
【0018】
前記触媒充填塔3から排出された処理済液(処理水)は、冷却器5により冷却され、保圧弁6を経由して大気開放されたのち、気液分離器4において生成したガスを分離回収されるとともに、外部に放出される。
【0019】
〔固体触媒〕
固体触媒aとしては、例えば、高分子有機物担体としてのイオン交換樹脂に、塩化ニッケル、硝酸ニッケル等のニッケル塩を担持させてなるニッケル担持高分子有機物を窒素気流下で炭化処理工程を行って得られる固体触媒aを用いることができる。尚、下記の活性測定例においては、この固体触媒aを用いた。
【0020】
〔固体触媒の活性測定〕
(1.TOC分解率)
上記固体触媒aの活性測定装置により固体触媒aのTOC分解率を測定する場合には、まず、前記固体触媒aを前記触媒充填塔3に所定量充填するとともに、前記触媒充填塔3を所定温度に保持すべく加熱部34により加熱する。この触媒充填塔3に原液タンク1から昇圧ポンプ2により所定条件にて原液として活性評価用の有機物含有水を流通させる。活性評価用の有機物含有水を触媒充填塔3に流通される所定条件としては、例えば下記の条件が好適に用いられる。
【0021】
有機物含有水:
TOC 15000mg/L(炭素量換算)
フェノール 12090mg/L
イソプロピルアルコール 5570mg/L
メチルエチルケトン 3890mg/L
水酸化ナトリウム 20830mg/L
流量: 130g/h
SV: 上昇流10h-1
触媒充填塔:
温度 270℃(平均)
出口圧 8.8MPa(ゲージ圧)
触媒量 13mL
【0022】
前記触媒充填塔3から流出する処理済液は、気液分離器4にて回収され、処理済液中のTOCを測定されるとともに、原液中のTOCに対する分解処理されたTOCの割合としてのTOC分解率をもとめ、前記固体触媒aの真の活性が評価される。
【0023】
(2.水素ガス吸着量)
TOC分解率に代わる固体触媒aの活性を示す値として、JIS H 7201に準じてもとめられる水素ガス吸着量を用いることができる。具体的には以下のようにして行う。
【0024】
前記水素ガス吸着量は、前記固体触媒aを試料管に充填し、水素ガスを流通させながら、前記試料管を加熱する。十分に反応が完了したら、加熱状態を保持したまま水素ガスの流通を止めアルゴンガスに切り換え、脱気、パージして降温する(前処理工程)。所定温度にて水素含有ガス(水素/アルゴン)を複数回に分けて流通して充分量の水素ガスを吸着させる(吸着工程)。水素ガス吸着量は、TCDにより測定する。前処理工程および吸着工程の条件としては、例えば下記の条件が好適に用いられるが、前記前処理工程における加熱温度を種々に変更して水素吸着量を測定した。
【0025】
前処理工程:
水素ガス流通量 50mL/min
昇温速度 450℃/30min
加熱保持温度 450℃(試料管内温度)
アルゴンガス流通量 50mL/min
脱気時間 300min
パージ終了温度 50℃
吸着工程:
水素含有ガス 水素/アルゴン=30/70
吸着温度 50℃
【0026】
その結果、前処理温度と水素ガス吸着量との関係は図2のようになった。
図2より、前処理温度を上げるに従い、固体触媒aの水素ガス吸着量は増加し、前記固体触媒aの表面の薄い酸化皮膜は、高温になるほど除去されやすいことが分かる。しかし、前処理温度を130℃より高温にした場合、130℃以下の場合と明らかに異なる傾向がみられることが分かり、酸化被膜の除去とは異なる反応が進んでいることが分かる。したがって、前記前処理条件を130℃以下で130℃近傍の温度として、水素ガス吸着量を測定すれば、その固体触媒aの活性を反映した水素ガス吸着量が測定できるものと考えられる。ここで、前処理条件としては、130℃以下であれば異なる反応を生起することなく酸化被膜の除去ができているものと考えられるが、効率面からは130℃に近い温度ほどよく、例えば100℃以上130℃以下とすることが好ましいことが分かる。また、前記異なる反応の影響を極力排除するためには、105℃以上115℃以下とすることが好ましいことも分かった。
【0027】
図2の結果を受けて、種々の固体触媒aについて、前処理温度110℃の場合(図中○で示す)と前処理温度450℃の場合(図中×で示す)とで、上述の水素ガス吸着量と上述のTOC分解率との関係を測定したところ、図3のようになった。図3より、前処理温度が110℃の場合には、水素ガス吸着量とTOC分解率との間に強い相関が観測されたが、450℃の場合には相関性が認められなかった。すなわち、前処理温度が110℃の場合には、水素ガス吸着量によってTOC分解率を評価すると正しく評価することができるが、450℃の場合には、水素ガス吸着量が多くてもTOC分解率は広範囲に分散しており、正しく評価できないことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
したがって、ニッケル金属を活性成分とする固体触媒の活性を正しく評価することができるようになり、安定した物性の固体触媒を提供することができるようになった。
【符号の説明】
【0029】
1 :原液タンク
2 :昇圧ポンプ
3 :触媒充填塔
31 :反応容器
32 :流入部
33 :排出部
34 :加熱部
4 :気液分離器
5 :冷却器
6 :保圧弁
T :温度センサ
a :固体触媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル金属を活性成分とする固体触媒に水素ガスを供給する前処理工程を行った後、その固体触媒の水素ガス吸着量を測定する固体触媒の活性測定方法であって、前処理温度を100℃以上130℃以下の加熱状態で前記前処理工程を行う固体触媒の活性測定方法。
【請求項2】
前記前処理工程における前記前処理温度を105℃以上115℃以下の加熱状態で行う請求項1に記載の固体触媒の活性測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−213725(P2012−213725A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80988(P2011−80988)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】