説明

触媒の製造方法及び触媒

【課題】シェル金属によるコア金属表面の被覆状態が優れたコアシェル型触媒を、簡便なプロセスで効率良く製造可能な製造方法を提供すること、並びに、シェル金属によるコア金属表面の被覆状態が優れたコアシェル型触媒を提供することである。
【解決手段】導電性担体に触媒金属が担持されてなる触媒の製造方法であって、導電性担体に担持された金属微粒子の懸濁液電位を、加熱により低下させる電位低下工程と、液電位が低下した前記懸濁液に対して、触媒金属を含む触媒金属化合物を溶解し、前記金属微粒子表面を前記触媒金属で修飾する修飾工程とを有し、前記金属微粒子が合金微粒子であり、前記修飾工程の前に、前記合金微粒子の表面から、該合金微粒子の添加金属元素を溶出除去する溶出除去工程を有する触媒の製造方法、並びに該製造方法により得られる触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒の製造方法及び触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料と酸化剤を電気的に接続された2つの電極に供給し、電気化学的に燃料の酸化を起こさせることで、化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する。火力発電とは異なり、燃料電池はカルノーサイクルの制約を受けないので、高いエネルギー変換効率を示す。燃料電池は、通常、電解質膜を一対の電極で挟持した膜・電極接合体を基本構造とする単セルを複数積層して構成されている。
【0003】
従来、燃料電池のアノード及びカソードの電極触媒として、白金及び白金合金材料が採用されてきた。しかしながら、白金は希少資源であり、また非常に高価である。したがって、カソードやアノードに含まれる白金量の低減を図るべく、白金の有効利用率や白金の活性の向上を目的として、様々な技術が提案されている(特許文献1〜3等)。
【0004】
例えば、特許文献1には、Pd又はPtから選択される金属Mと該金属M以外の金属Aを少なくとも含む混合物或いは合金と、非常有電子対を有する窒素原子を含有する有機化合物と、炭素粉末とを含む組成物を焼成して得られる高分子型燃料電池用カソード触媒が開示されている。また、特許文献3には、特許文献1の上記組成物を2段階で焼成して得られるカソード触媒が開示されている。
特許文献1には、触媒の具体的な製造方法として、以下の方法が記載されている。すなわち、まず、ミセル内部に金属Mや金属A等の各金属源となる化合物の水溶液を含有する逆ミセル溶液(A)と、ミセル内部に還元剤及び/又はpH調整剤を含有する逆ミセル溶液(B)とを混合し、窒素雰囲気下、懸濁させた後、炭素微粒子を添加し、炭素微粒子表面に合金前駆体を担持させている。次に、得られた炭素微粒子担持合金前駆体を、溶媒中、非共有電子対を有する窒素原子を含有する有機化合物と混合した後、溶媒を除去し、焼成している。
【0005】
特許文献2には、白金塩、カーボン微粒子を含む水溶液に水素ガスを吹き込み、水素ガスによる直接還元反応で白金カチオンから生成した白金ナノ粒子をカーボン微粒子に還元着床させ、白金ナノ粒子が着床したカーボン微粒子を濾別することを特徴とする燃料電池用白金触媒の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−130325号公報
【特許文献2】特開2007−27096号公報
【特許文献3】特開2008−305561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の触媒製造方法は、プロセスが煩雑である、充分な白金使用量低減効果が得られないといった問題があった。
【0008】
一方、白金使用量の低減に有効な技術として、コアシェル型触媒が注目されている。コアシェル型触媒は、核(コア)となる金属微粒子表面が、白金等の触媒金属で被覆(シェル)された構造を有するものであり、コアが白金以外の金属で形成されるため、白金の使用量を低減させることが可能である。
しかしながら、従来のコアシェル型触媒の製造方法では、製造プロセスが煩雑で高コストである、シェル金属によるコア金属微粒子の被覆(修飾)が充分でなく高い触媒活性が得られにくい、といった問題があった。
【0009】
本発明は上記実情を鑑みて成し遂げられたものであり、本発明の目的は、シェル金属によるコア金属表面の被覆状態が優れたコアシェル型触媒を、簡便なプロセスで効率良く製造可能な製造方法を提供することである。また、本発明の他の目的は、シェル金属によるコア金属表面の被覆状態が優れたコアシェル型触媒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の触媒の製造方法は、導電性担体に触媒金属が担持されてなる触媒の製造方法であって、
導電性担体に担持された金属微粒子の懸濁液電位を、加熱により低下させる電位低下工程と、
液電位が低下した前記懸濁液に対して、触媒金属を含む触媒金属化合物を溶解し、前記金属微粒子表面を前記触媒金属で修飾する修飾工程と、
を有し、
前記金属微粒子が合金微粒子であり、前記修飾工程の前に、前記合金微粒子の表面から、該合金微粒子の添加金属元素を溶出除去する溶出除去工程を有することを特徴とする。
【0011】
本発明の触媒の製造方法では、前記溶出除去工程において、コアとなる合金微粒子の表面に凹凸を形成することによって、修飾工程における触媒金属による該合金微粒子の修飾を促進することができる。
【0012】
本発明の製造方法の具体的形態として、前記電位低下工程において、前記懸濁液は、該電位低下工程における加熱により電子を解離可能な成分を含む。この場合、該成分から解離した電子が、前記金属微粒子(合金微粒子)表面に吸着されることによって、該懸濁液の液電位が低下する。そして、合金微粒子表面に電子が吸着した状態で、該懸濁液に触媒金属化合物を溶解させることで、合金微粒子表面を触媒金属で修飾することができる。
前記加熱により電子を解離可能な成分としては、例えば、水が挙げられ、典型的には、前記懸濁液の溶媒として水を使用することができる。
【0013】
前記合金微粒子の具体例としては、例えば、Pd,Ir,Rh,Au,Re,Os,Ru及びAgから選ばれる少なくとも1種を主成分金属元素とし、Co,Ni,Fe,Cu,Cr,Mn及びMoから選ばれる少なくとも1種の添加金属元素を含むものが挙げられる。さらに具体的には、前記溶出除去工程前において、前記合金微粒子における前記主成分金属元素と前記添加金属元素との比率が、原子比(atom%)で95:5〜50:50であるものが挙げられる。
【0014】
本発明において、前記合金微粒子の調製方法は特に限定されず、本発明の製造方法は、例えば、導電性担体に担持された主成分金属元素微粒子の懸濁溶液に、前記添加金属元素を含む添加金属元素化合物を溶解した後、溶媒を除去し、不活性雰囲気下、500℃〜1000℃で焼成し、前記導電性担体に担持された前記合金微粒子を調製する合金金属微粒子調整工程を備えていてもよい。
【0015】
前記溶出除去工程において、前記合金微粒子の表面から該合金微粒子の添加金属元素を溶出除去する方法としては、例えば、前記合金微粒子を酸で洗浄して前記添加金属元素を溶出除去する方法が挙げられる。
【0016】
前記触媒金属としては、例えば、Pt,Pd,Ir,Rh,Au,Re,Os,Ru,Ag,Fe,Co,Ni,Cr,Mn,Mo及びCuから選ばれる少なくとも1種を含むものが挙げられる。
【0017】
前記電位低下工程及び/又は前記修飾工程において、前記懸濁液を不活性ガスでバブリングすることが好ましい。合金微粒子表面の触媒金属による修飾をさらに促進し、より活性の高い触媒を得ることができるからである。
【0018】
本発明の触媒は、上記本発明の製造方法によって製造されたことを特徴とするものである。本発明の触媒は、コア金属表面における、触媒金属(シェル金属)の被覆状態が良好であるため、触媒金属使用量を低減しつつ、高い触媒活性を発現しうる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、シェル金属によるコア金属表面の被覆状態に優れたコアシェル型触媒を、簡便な方法で効率良く製造することが可能である。また、本発明により提供される触媒は、コア金属が、触媒金属であるシェル金属によって充分に被覆されているため、触媒金属の使用量低減が可能であると共に、触媒活性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】比較例1の触媒製造プロセスにおける懸濁液の温度、pH、及び液電位(酸化還元電位)の経時変化を示すものである。
【図2】比較例2の触媒製造プロセスにおける懸濁液の温度、pH、及び液電位(酸化還元電位)の経時変化を示すものである。
【図3】実施例及び比較例の触媒を用いた酸化還元電位測定の結果である。
【図4】比較例1の触媒のTEM−EDX写真(a)、及び、写真(a)中のポイント1,2,3における元素量の比を示す図(b)である。
【図5】比較例1の触媒のTEM−EDX写真(a)、及び、写真(a)中のポイント1,2及びエリア1における元素量の比を示す図(b)である。
【図6】比較例2の触媒のTEM−EDX写真及びスポット1,2における元素量の比を示すもの(a)、並びに、(a)中のライン1におけるPt強度及びPd強度を示す図(b)である。
【図7】実施例及び比較例の触媒の酸化物還元ピーク電位のシフト値と酸素還元活性との関係を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の触媒の製造方法は、導電性担体に触媒金属が担持されてなる触媒の製造方法であって、
導電性担体に担持された金属微粒子の懸濁液電位を、加熱により低下させる電位低下工程と、
液電位が低下した前記懸濁液に対して、触媒金属を含む触媒金属化合物を溶解し、前記金属微粒子表面を前記触媒金属で修飾する修飾工程と、
を有し、
前記金属微粒子が合金微粒子であり、前記修飾工程の前に、前記合金微粒子の表面から、該合金微粒子の添加金属元素を溶出除去する溶出除去工程を有することを特徴とする。
【0022】
本発明の触媒製造方法では、コアとなる金属微粒子を予め導電性担体表面に担持させておき、これを純水等の溶媒に混合して調製した懸濁液に、該懸濁液を加熱することによりその液電位を所定値まで低下させた状態で、シェルとなる触媒金属を含む触媒金属化合物を添加、溶解することによって、前記金属微粒子表面を触媒金属で修飾する。本発明者の検討の結果、触媒金属でその表面を修飾する上記金属微粒子として合金微粒子を用い、且つ、該合金微粒子表面を触媒金属で修飾する前に、該合金微粒子の表面から添加金属元素を溶出除去することによって、触媒金属による該合金微粒子表面の修飾が促進されることが見出された。合金微粒子の表面から添加金属元素を溶出除去することによって、該合金微粒子の表面に微細な凹凸が形成され、表面エネルギーが上昇し、触媒金属による修飾が促進されるためと考えられる。
従って、本発明によれば、コアとなる金属微粒子の表面において触媒金属による被覆状態を向上させることが可能であり、発達したコアシェル型構造を有し、触媒金属の使用量を低減しつつ触媒特性に優れた触媒を製造することができる。ここで、金属微粒子表面の触媒金属による被覆状態とは、金属微粒子表面の触媒金属による被覆率、被覆層の厚みの均一性等が含まれる。
また、本発明の製造方法は、コア金属とシェル金属を析出させるために還元剤を用いる従来のコアシェル型触媒の製造方法と比較して、プロセスが比較的簡便であり、効率良くコアシェル型触媒を製造することが可能である。
【0023】
尚、本発明において、金属微粒子(合金微粒子)表面を触媒金属で修飾するとは、金属微粒子(合金微粒子)の表面に、触媒金属を物理的及び/又は化学的に付着させることを意味し、典型的には、金属微粒子(合金微粒子)表面に触媒金属を析出させる、金属微粒子(合金微粒子)表面に触媒金属を物理吸着又は化学吸着させること等が挙げられる。
【0024】
以下、本発明の触媒製造方法の各工程について詳しく説明する。
【0025】
[溶出除去工程]
溶出除去工程は、合金微粒子の表面から、該合金微粒子の添加金属元素を溶出除去する工程である。
溶出除去工程は、合金微粒子表面を触媒金属で修飾する修飾工程の前であれば、いつ実施してもよく、例えば、電位低下工程と同時であってもよいが、通常は、電位低下工程の前に実施される。
また、溶出除去工程において、合金微粒子は、導電性担体に担持された状態であっても、担持されていない状態であってもよいが、合金微粒子の凝集抑制の観点から、導電性担体に担持されていることが好ましい。ここでは、導電性担体に担持された合金微粒子を用いる場合を例に溶出除去工程について説明する。
【0026】
まず、導電性担体に担持された合金微粒子を準備する。
導電性担体としては、電子伝導性を有し且つ合金微粒子を担持可能であれば、特に限定されない。導電性担体の具体的材料としては、例えば、カーボンブラック、グラファイトカーボン、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)、高結晶カーボン、アセチレンブラック等のカーボン材料、Al、ZrO、TiO、CeO等のセラミックス材料が挙げられる。導電性担体のサイズは、特に限定されない。
【0027】
合金微粒子は、特に限定されず、触媒活性を有する合金からなるものであっても、触媒活性を有さない合金からなるものであってもよい。また、合金を構成する金属元素は2種以上であれば特に限定されず、また、例えば二元合金でも、三元合金でもよい。
【0028】
合金微粒子の具体的な構成としては、例えば、Pd,Ir,Rh,Au,Re,Os,Ru及びAgから選ばれる少なくとも1種を主成分金属元素とし、Co,Ni,Fe,Cu,Cr,Mn及びMoから選ばれる少なくとも1種の添加金属元素を含む合金が挙げられる。ここで、主成分金属元素とは、合金の50atom%以上を占める金属元素を意味し、添加金属元素とは、合金の50atom%以下を占める金属元素を意味する。
添加金属元素の溶出除去前において、合金微粒子における前記主成分金属元素と前記添加金属元素の比率(原子比、atom%)は、特に限定されないが、主成分金属元素:添加金属元素=95:5〜50:50であることが好ましい。
【0029】
合金微粒子のサイズや形状は特に限定されないが、平均粒径が2〜10nmであることが好ましく、特に、4〜7nmであることが好ましい。
また、導電性担体に対する上記主成分金属元素の担持量は、特に限定されないが、触媒層厚さや合金微粒子高分散化の観点から、後述する溶出除去工程後において、5〜60wt%となる量であることが好ましく、特に15〜50wt%となる量であることが好ましい。
【0030】
導電性担体に担持された合金微粒子は、例えば、次のような合金微粒子調製工程により製造することができる。尚、導電性担体に担持された合金微粒子の製造方法は以下説明する合金微粒子調製工程の方法に限定されず、また、市販品を用いることもできる。
【0031】
(合金微粒子調製工程)
合金微粒子調製工程では、導電性担体に担持された主成分金属微粒子の懸濁溶液に、添加金属元素を含む添加金属化合物を溶解した後、溶媒を除去し、焼成することで、上記導電性担体に担持された合金微粒子を調製することができる。
導電性担体の材料等については、上記にて記載したものと同様であるためここでの説明は省略する。
【0032】
主成分金属微粒子は、上記主成分金属からなる微粒子であり、そのサイズや形状は特に限定されない。
導電性担体に担持された主成分金属微粒子としては、市販品を用いることもできるし、また、公知の方法で製造することもできる。導電性担体に担持された主成分金属微粒子の製造方法は特に限定されず、例えば、導電性担体の懸濁溶液に、主成分金属を含む化合物(例えば、主成分金属塩など)を溶解し、主成分金属イオンの還元剤を添加する方法が挙げられる。
【0033】
導電性担体に担持された主成分金属微粒子の懸濁溶液において、溶媒は特に限定されず、添加金属化合物の溶解性等を考慮して適宜選択することができる。具体的な溶媒としては、例えば、水等が挙げられる。
導電性担体に担持された主成分金属微粒子の懸濁溶液は、溶媒に、導電性担体に担持された主成分金属微粒子を添加し、一般的な攪拌方法により攪拌することで調製することができる。
【0034】
添加金属化合物は、添加金属元素を含み、上記懸濁溶液の溶媒に溶解し、添加金属イオンを解離可能なものであれば特に限定されず、例えば、添加金属の塩、添加金属の錯体等が挙げられる。具体的には、硝酸塩、硫酸塩、塩素塩、水酸化物塩等が挙げられる。
添加金属化合物の添加量は、調製する合金金属微粒子における主成分金属元素と添加金属元素の比率に応じて、適宜決定すればよい。
【0035】
上記懸濁溶液に、添加金属元素を含む添加金属化合物を溶解した後、溶媒を除去する方法は特に限定されず、一般的な溶媒除去方法を採用すればよい。
次に、溶媒を除去して得られた粉末を焼成することで、導電性担体に担持された合金微粒子を得ることができる。焼成は、通常、アルゴンガス雰囲気、窒素ガス雰囲気、ヘリウムガス雰囲気等の不活性雰囲気下で行うことが好ましい。焼成温度は特に限定されないが、例えば、500〜1000℃が好ましい。
【0036】
溶出除去工程において、導電性担体に担持された合金微粒子の表面から該合金微粒子の添加金属元素を溶出除去する方法は特に限定されない。例えば、導電性担体に担持された合金微粒子を酸で洗浄する方法、導電性担体に担持された合金微粒子を電気化学処理する方法等が挙げられる。
【0037】
酸で洗浄する方法としては、例えば、導電性担体に担持された合金微粒子を酸溶液に浸漬させる方法等が挙げられる。使用する酸溶液は、合金微粒子に含まれる添加金属元素を選択的に溶出させることができるものであればよく、適宜選択すればよい。尚、合金微粒子に含まれる添加金属元素を選択的に溶出させる酸溶液とは、添加金属元素の溶解性が主成分金属元素の溶解性よりも高い酸溶液を意味し、主成分金属元素溶解性を有する酸溶液を排除するものではない。
【0038】
具体的な酸溶液としては、硝酸、硫酸、塩酸等が挙げられる。酸の濃度は特に限定されず、適宜設定すればよい。
酸溶液の温度は、適宜設定すればよいが、例えば、60〜80℃とすることができる。また、酸溶液での処理時間は、酸濃度や酸溶液温度等によって適宜設定することができる。
酸洗浄した導電性担体に担持された合金微粒子は、適宜、水等で洗浄し、酸を除去することが好ましい。
【0039】
電気化学処理する方法としては、例えば、導電性担体に担持された合金微粒子を、グラッシーカーボン等の導電性基材上に付着させ、適切な電解液中に浸漬し、該導電性基材に、主成分金属元素は溶出しないが添加金属元素は溶出するような、電位サイクルをかける方法が挙げられる。電位範囲、電位の掃引速度、サイクル回数、電解液温度等を適宜調整することによって、添加金属元素の溶出を制御することができる。
【0040】
[電位低下工程]
電位低下工程は、導電性担体に担持された合金微粒子(金属微粒子)の懸濁液の電位を、加熱により低下させる工程である。
上記したように、溶出除去工程は、修飾工程の前であればいつ実施してもよいが、典型的には、電位低下工程の前に実施することが好ましい。ここでは、溶出除去工程の後に電位低下工程を実施する場合について、説明する。
【0041】
本発明者は、導電性担体に担持された金属微粒子の懸濁液において、該懸濁液に、加熱により電子を解離可能な成分(電子解離成分)が含まれている場合、懸濁液の温度上昇に伴ってその液電位が低下することを見出した。これは、加熱により電子解離成分が分解されて懸濁液中に電子が放出され、金属微粒子の表面に吸着されるためである。
具体的には、上記懸濁液において、溶媒として水を用いた場合、該懸濁液を加熱することによって、以下に示す水の酸化分解反応が起こる。
O→2H+1/2O+2e
このとき、生じた電子(e)が金属微粒子表面に吸着され、懸濁液の液電位の低下が生じる。懸濁液の温度を、水の沸点以下である100℃未満の温度まで加熱した場合、温度上昇に伴って懸濁液の液電位が漸減していくことが、本発明者によって確認されている(図1及び図2参照)。具体的には、カーボン粒子に担持されたパラジウム微粒子を純水に懸濁させた懸濁液においては、懸濁液温度約95℃において約500mV程度だった液電位が、さらに加熱を続けることで450mV程度まで低下することが確認されている(図1参照)。
【0042】
電位低下工程では、加熱により上記懸濁液の液電位が低下すれば、液電位の低下メカニズムは、上記したような金属微粒子表面への電子吸着に限定されないが、典型的には、上記懸濁液中に加熱により電子を解離可能な成分を含み、加熱によって該成分から電子が放出されることによって液電位が低下する。
電子解離成分としては、特に限定されないが、プロセスの簡便性、低コスト等の工業的観点から、水が好適であり、懸濁液の溶媒として水を用いることが好ましい。
【0043】
電位低下工程において、懸濁液の加熱温度は、電子解離成分の種類等に応じて適宜設定すればよいが、水を電子解離成分として用いる場合には、沸点以下である、80℃以上100℃未満の温度範囲まで加熱することが好ましい。
【0044】
電位低下工程において、懸濁液を不活性ガスでバブリングすることが好ましい。懸濁液を不活性ガスでバブリングしながら加熱することによって、該懸濁液の液電位の低下が顕著となり、その結果、後続の修飾工程において形成されるシェル金属層の形状や厚みの均一性が向上し、より高品質なコアシェル構造を有する触媒が得られやすくなるからである。懸濁液が不活性ガスで飽和されることによって、合金微粒子の表面のメタル化が進む結果、合金微粒子表面において懸濁液中に含まれる水の酸化分解反応が促進され、懸濁液中の電子の量、特に合金微粒子表面に吸着する電子の量が増加し、液電位の低下が顕著になると考えられる。
具体的には、カーボン粒子に担持されたパラジウム微粒子を純水に懸濁させた懸濁液においては、窒素ガスバブリングを行わない場合、懸濁液温度約95℃において約500mV程度だった液電位がさらに加熱を続けることで450mV程度まで低下するのに対し、窒素ガスバブリングを行った場合、懸濁液温度約95℃において液電位が約400mV程度まで低下し、さらに加熱を続けると300mVを下回ることが、発明者によって確認されている(図1及び図2参照)。
【0045】
バブリングする不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等が挙げられる。不可性ガスの流量は特に限定されないが、例えば、10〜1000mL/minとすることができる。
電位低下工程における不活性ガスバブリングのタイミングは特に限定されず、全段階にわたって行ってもよいし、目標加熱温度に達するまで行ってもよいし、目標温度に達した後行ってもよい。
【0046】
[修飾工程]
修飾工程は、上記電位低下工程において液電位を低下させた懸濁液に対して、触媒金属を含む触媒金属化合物を溶解し、合金微粒子(金属微粒子)表面を触媒金属で修飾する工程である。
本発明者は、液電位が所定値まで低下した懸濁液に対して、シェル金属となる触媒金属を含む触媒金属化合物を溶解させることによって、触媒金属が懸濁液中の合金微粒子表面に付着し、該合金微粒子表面が修飾されることを見出した。典型的には、液電位が低下した懸濁液において、合金微粒子の表面には、上記したように電子が吸着している。このような懸濁液中に触媒金属化合物を溶解することによって、触媒金属イオンを該合金微粒子表面で還元し、析出させることができる。
具体的には、合金微粒子を純水に懸濁させた懸濁液においては、懸濁液温度が95℃程度に達し、液電位が500mVを下回った際に、触媒金属化合物を懸濁液に投入し、溶解させることにより、合金微粒子表面に触媒金属を析出させてシェル金属層を形成することができる。以上のように、本発明によれば、電位低下工程において懸濁液を加熱処理するという非常に簡便なプロセスによって、コアシェル型触媒を製造することができる。
【0047】
シェル金属となる触媒金属は、触媒の用途に応じて適宜選択することができる。燃料電池用の電極触媒として用いる場合には、例えば、Pt,Pd,Ir,Rh,Au,Re,Os,Ru,Ag,Fe,Co,Ni,Cr,Mn,Mo及びCuから選ばれる少なくとも1種が挙げられ、中でも、Ptが好適である。
触媒金属を含む触媒金属化合物は、触媒金属元素を含み、上記懸濁液の溶媒に溶解し、触媒金属イオンを解離可能なものであれば特に限定されず、例えば、触媒金属の塩、触媒金属の錯体等が挙げられる。具体的には、硝酸塩等が挙げられる。中でも、1〜4価の触媒金属塩が好ましく、さらに、1〜2価の触媒金属塩が好ましい。
【0048】
触媒金属化合物の添加量は、特に限定されないが、触媒金属使用量低減及び触媒金属による合金微粒子の被覆率の観点から、0.5〜2.5原子層分の触媒金属を含む量とすることが好ましい。0.5〜2.5原子層分の触媒金属を含むとは、懸濁液に含まれる全ての合金金属粒子表面に、該懸濁液中に含まれる全ての触媒金属が析出すると仮定した場合に、合金金属微粒子表面の触媒金属シェル層が触媒金属原子0.5〜2.5原子層分であることを意味する。0.5〜2.5原子層分の触媒金属を含む量は、例えば、溶出除去工程後であって、電位低下工程前に、合金微粒子の表面積を測定しておくことによって、算出することができる。
【0049】
触媒金属化合物を懸濁液に添加する方法は特に限定されないが、通常、該触媒金属化合物を適切な溶媒に溶解させた触媒金属化合物溶液の添加により行うことが好ましい。懸濁液中に触媒金属イオンをより均一に混合させることができるからである。
【0050】
修飾工程においても、電位低下工程同様、懸濁液を不活性ガスでバブリングすることが好ましい。懸濁液が不活性ガスで飽和されることによって、合金微粒子の表面において懸濁液中に含まれる水の酸化分解反応が促進され、懸濁液中の電子の量、特に合金微粒子表面に吸着する電子の量が増加し、該合金微粒子表面における触媒金属の還元析出が促進されるからである。
修飾工程において、懸濁液の他、上記触媒金属化合物溶液も不活性ガスでバブリングすることが好ましい。
【0051】
修飾工程において、合金微粒子の表面若しくは表面近傍が水素化されている場合、該合金微粒子表面の触媒金属による修飾をより促進することができる。すなわち、合金微粒子(コア)の触媒金属(シェル)による被覆状態をさらに向上させ、より触媒活性の高い触媒が得られやすくなる。ここで、合金微粒子の表面若しくは表面近傍が水素化されているとは、水素イオンが合金微粒子の表面に吸着された状態若しくは水素イオンが合金微粒子の表面に浮遊している状態を意味する。
【0052】
合金微粒子の表面若しくは表面近傍を水素化する方法としては、例えば、溶出除去工程後、合金微粒子を含む懸濁液を水素ガスバブリングする方法や、溶出除去工程後、合金微粒子を含む懸濁液に水素化ホウ素ナトリウムを添加する方法等の水素処理が挙げられる。水素化を実施する具体的なタイミングは溶出除去工程の後であって、修飾工程の前であれば特に限定されないが、例えば、溶出除去工程後であって電位低下工程前の段階、電位低下工程中のいずれかの段階等が挙げられる。
【0053】
尚、合金微粒子の表面若しくは表面近傍の水素化の際、懸濁液中に放出された過剰な水素(残留水素)は、修飾工程における合金微粒子表面の触媒金属による修飾を阻害する。そのため、触媒金属化合物の懸濁液への溶解時には、該懸濁液中に残留水素がないようにすることが好ましい。例えば、水素ガスをバブリングする方法においては、水素ガスのバブリング後、上記不活性ガスのバブリングを行うことによって、残留水素を減らすことができる。尚、水素化ホウ素ナトリウムを懸濁液に添加する方法においては、水素化ホウ素ナトリウムに由来する水素の一部が合金微粒子表面に吸着されるが、懸濁液中で水素化ホウ素ナトリウムが分解されるため、懸濁液中に余分な水素が放出されない。
【0054】
水素化を行った合金微粒子を含む懸濁液に、不活性ガスをバブリングする場合、該合金微粒子の表面には水素イオンが吸着し、その表面近傍には窒素ガスが浮遊している状態が形成される。
【0055】
本発明の製造方法によって製造された触媒は、上記したように、コア金属の表面におけるシェル金属による被覆状態が向上されており、高品質のコアシェル型触媒である。従って、シェル金属である触媒金属の使用量を低減しつつ、優れた触媒活性を発現しうる。
本発明により提供される触媒の用途は特に限定されず、広い分野において使用可能である。具体的な例としては、例えば、燃料電池のカソード電極及び/又はアノード電極における触媒が挙げられる。
【0056】
燃料電池のカソード電極やアノード電極の触媒としての具体的な使用形態としては、例えば、まず、本発明の触媒を、必要に応じて、電解質(例えば、高分子電解質)等と、適した溶媒に分散させて触媒インクを調製する。次に、得られた触媒インクを基材(例えば、高分子電解質、ガス拡散層、支持基材等)に塗布、乾燥することでアノード反応又はカソード反応の反応場となる触媒層を形成することができる。
得られた触媒層は、通常、ガス拡散層と電解質膜との間に配置されるように、これら各層と積層され、燃料電池の発電要素である膜・電極接合体が作製される。
【0057】
触媒層及び/又は電解質膜を構成する電解質としては、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等のスルホン化高分子電解質、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルケトン、スルホアルキル化ポリエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリスルホン、スルホアルキル化ポリスルフィド、スルホアルキル化ポリフェニレン等のスルホアルキル化高分子電解質等が挙げられる。
【0058】
ガス拡散層としては、例えば、ポリアクリロニトリルの焼成体、ピッチの焼成体、黒鉛、膨張黒鉛、カーボンナノチューブ、及びカーボンナノファイバー等の炭素材料からなる導電性多孔質体の他、ステンレススチール、モリブデン、チタン等の金属からなる導電性多孔質体等が挙げられる。
【0059】
支持基材としては、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリテトラフルオロエチレンフィルム、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体フィルム、及びこれらフィルムの2種以上の積層体等が挙げられる。支持基材は、剥離され、膜・電極接合体から除去される。
【0060】
触媒インクの溶媒としては、水の他、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、プロピレンカーボネート、酢酸エチル、酢酸ブチル等の種々の溶媒を用いることができる。
また、触媒インクの塗布方法、乾燥方法等は公知の方法を採用することができる。
【実施例】
【0061】
[触媒の作製]
【0062】
(実施例1)
Pd粒子を表面に担持したカーボン(以下、Pd/Cと記載することがある)[BASF社製、商品名:C9−20、Pd担持率20wt%(Pd:C=20wt%:80wt%]0.05gを純水100mlに懸濁させた懸濁液に、硝酸コバルト六水和物(ナカライテスク社製)0.0092gを添加、溶解させた後、蒸発乾固させた。得られた粉末を、アルゴン雰囲気中、700℃で5時間焼成し、Pd−Co合金微粒子(PdとCoのモル比 Pd:Co=3:1、すなわち、Pd:Co(atom%)=75:25)を表面に担持したカーボン(以下、Pd3Co1/Cと記載することがある)を得た。
次に、得られたPd3Co1/Cを、0.1N規定の硝酸(すなわち0.1mol/Lの硝酸)中、60℃で2時間攪拌し、Pd−Co合金微粒子の表面からCoを溶出させた。
続いて、Coを表面から溶出させたPdCo合金微粒子を担持したカーボン(以下、PdCo/Cと記載することがある)を水洗した後、純水500mLに懸濁した。該懸濁液を、窒素ガスバブリング及び攪拌しながら、95℃で還流させた(この段階における懸濁液の電位は500mLを下回っている)。
次に、塩化白金酸カリウム(KPtCl)0.0122g(Pt1原子層分相当)を純水20mLに溶解させた溶液を、窒素ガスバブリングし、上記懸濁液に1時間かけて滴下した。その後、窒素ガスバブリングをしながら、4時間攪拌を続けた。
その後、上記懸濁液中の固体粉末を水洗いし、さらにろ過後、80℃で送風乾燥させた。
得られた触媒をICP(誘導結合プラズマ)発光分析したところ、触媒を構成するPt、Pd、Co及びCの重量比(wt%)は、Pt9/Pd22Co2/C67だった。
【0063】
(比較例1)
Pd/C[BASF社製、商品名:C9−20、Pd担持率20wt%(Pd:C=20wt%:80wt%]0.5gを純水500mlに懸濁させた懸濁液を攪拌しながら、95℃で還流させた(この段階における懸濁液の電位は500mLを下回っている)。
次に、塩化白金酸カリウム(KPtCl)0.122g(Pt1原子層分相当)を純水200mLに溶解させた溶液を、上記懸濁液に1時間かけて滴下した。続いて、4時間攪拌を続けた。
その後、上記懸濁液中の固体粉末を水洗いし、さらにろ過後、80℃で送風乾燥させた。
得られた触媒をICP発光分析したところ、触媒を構成するPt、Pd及びCの重量比(wt%)は、Pt10/Pd25/C65だった。
【0064】
図1に、比較例1の触媒の上記作製プロセスにおける温度、pH、及び液電位(酸化還元電位)の経時変化を示す。
懸濁液の液電位は、液温度が約95℃に達した際には、約500mVに低下しており、さらに加熱を続けることで約450mVまで低下した。液電位が約450mVとなった際に、塩化白金酸カリウムを添加すると、液電位は上昇に転じ、約600mVまで上昇した。
懸濁液のpHは、液温度の上昇に伴って低下し、pHが4を下回った酸性雰囲気でほぼ一定となった。
【0065】
(比較例2)
Pd/C[BASF社製、商品名:C9−20、Pd担持率20wt%(Pd:C=20wt%:80wt%]0.5gを純水500mlに懸濁させた懸濁液を、窒素ガスバブリング及び攪拌しながら、95℃で還流させた(この段階における懸濁液の電位は500mLを下回っている)。
次に、塩化白金酸カリウム(KPtCl)0.122g(Pt1原子層分相当)を純水200mLに溶解させた溶液を、窒素ガスバブリングし、上記懸濁液に1時間かけて滴下した。続いて、窒素ガスバブリングをしながら、4時間攪拌を続けた。
その後、上記懸濁液中の固体粉末を水洗いし、さらにろ過後、80℃で送風乾燥させた。
得られた触媒をICP発光分析したところ、触媒を構成するPt、Pd及びCの重量比(wt%)は、Pt10/Pd25/C65だった。
【0066】
図2に、比較例2の触媒の上記作製プロセスにおける温度、pH、及び酸化還元電位の経時変化を示す。
比較例2では、電位低下工程において、懸濁液の加熱と窒素ガスバブリングとを同時に開始し、窒素ガスバブリングはPt塩添加後も継続して行った。
窒素ガスバブリングを行っていない比較例1の結果(図1)と比較すると、比較例2では、懸濁液の液電位の低下の度合いが大きく、液温度が約95℃に達した際には、約400mVまで低下した。また、液電位の下限ピーク値は、比較例1が約450mVであるのに対し、比較例2は300mVを下回った。比較例2においては、液電位が約260mVとなった際に、塩化白金酸カリウムを添加すると、液電位は上昇に転じ、700mV近くまで急激に上昇した後、上限ピークを経て急降下した。
また、懸濁液のpHも、比較例1と比較して、比較例2はより酸性雰囲気となった。
【0067】
(比較例3)
比較例1において、懸濁液の液電位が600mVの段階でPt塩(塩化白金酸カリウム)を添加したこと以外は、同様にして触媒を作製した。
【0068】
(比較例4)
以下のようにして、無電解メッキ法により、カーボンに担持されたPd微粒子をPtで被覆した。
まず、純水200mLに塩化白金酸カリウム0.122gを溶解し、さらに、クエン酸ナトリウムを添加した。さらに、水酸化ナトリウムを添加して、pHを11に調整した。得られた混合液は80℃まで加熱した。
一方、Pd/C[BASF社製、商品名:C9−20、Pd担持率20wt%(Pd:C=20wt%:80wt%]0.5gを純水500mlに懸濁させた懸濁液に、ジメチルアミンボランを添加し、80℃まで加熱した。
上記2つの混合液を混合し、80℃で、60分間攪拌した。その間、pH11となるように、NaOHを適宜添加した。
得られた固体粉末を水で洗浄し、乾燥させた。
【0069】
(比較例5)
市販のPd/C[BASF社製、商品名:C9−20、Pd担持率28wt%(Pd:C=28wt%:72wt%]を触媒として準備した。
【0070】
(比較例6)
Pt粒子を表面に担持したカーボン(以下、Pt/Cと記載することがある)[田中貴金属社製、商品名:TEC10E30E、Pt担持率30wt%(Pt:C=30wt%:70wt%]を触媒として準備した。
【0071】
[触媒の評価]
<酸素還元活性の評価>
実施例及び比較例の触媒について、酸素還元活性を評価した。酸素還元活性の評価は、一般的な回転電極法により行った。すなわち、各触媒の分散液を、グラッシーカーボン上に塗布、乾燥して回転電極を作製し、得られた各回転電極を、O飽和させた0.1MのHClO溶液に浸漬し、27℃、掃引速度10mV/sec、1600rpmで、酸素還元活性を測定した。
【0072】
表1に、Pt及びPdの単位質量当たりの酸素還元活性(A/mg−Pt+Pd)、Pt単位質量当たりの酸素還元活性(A/mg−Pt+Pd)、及びコスト換算した単位質量当たりの酸素還元活性(A/mg−コスト換算)を示す。
尚、表1において、Pt+Pdの単位質量当たりの酸素還元活性(A/mg−Pt+Pd)は、発電量を、触媒の白金量とパラジウム量の総量(白金のみを含む場合は白金量、パラジウムのみを含む場合はパラジウム量)で除した値である。また、Pt単位質量当たりの酸素還元活性(A/mg−Pt+Pd)は、発電量を、触媒の白金量のみで除した値である。また、コスト換算した単位質量当たりの酸素還元活性(A/mg−コスト換算)は、パラジウムの材料コストを白金の1/4と仮定して、触媒のパラジウム量を実際のパラジウム量の1/4に換算し、該換算はラジウム量と白金量の総量で、発電量を除した値である。
【0073】
【表1】

【0074】
表1より、実施例1の触媒は、Pt単位質量当たりの酸素還元活性、Pt+Pd単位質量当たりの酸素還元活性、及びコスト換算の単位質量当たりの酸素還元活性のいずれにおいても、比較例1〜6の触媒と比較して優れるものだった。本発明によれば、触媒の活性向上とコスト低減の両立が可能であることが示された。
【0075】
<酸化物の酸化還元電位の測定>
実施例1、比較例1,2,5及び6の触媒を用いて、酸化物の酸化還元電位を測定した。酸化物の酸化還元電位の測定は一般的なCV法により行った。すなわち、各触媒の分散液を、グラッシーカーボン上に塗布、乾燥して電極を作製し、得られた各電極を、0.1MのHClO溶液(27℃、N飽和)に浸漬し、電極電位を掃引速度100mV/secで掃引した。結果を図3に示す。
【0076】
図3より、上記電位低下工程と上記析出工程とを有する触媒製造方法により調製した実施例1、比較例1及び比較例2の触媒は、Pt/Cと類似の電気化学特性を有していることが確認できる。
また、Ptを含有していない比較例5の触媒と比較して、Ptを含有する実施例1、比較例1、比較例2及び比較例6の触媒は、酸化物の還元ピークが高電位側にシフトすることが観察された。
【0077】
<TEM−EDX観察>
比較例1及び比較例2の触媒のTEM−EDX(透過電子顕微鏡−エネルギー分散X線分光分析)写真及び含有原子の質量比を図4〜図5(比較例1)及び図6(比較例2)に示す。図4においては、図4bで示す各質量比分析グラフの上段、中段、下段がそれぞれ、図4aのポイント1〜3の結果を示すものである。また、図5においては、図5bで示す各質量分析のグラフの上段、中段、下段がそれぞれ、図5aのポイント1,2とエリア1の結果を示すものである。また、図6においては、図6aのスポット1及びスポット2における質量比分析と、ライン1におけるPt強度及びPd強度を図6bに示した。
図4より、比較例1の触媒は、カーボン上に担持された金属微粒子のポイント1〜3におけるPdとPtの質量比がほぼ同等であった。また、図5より、比較例1の触媒は、カーボン上にPtやPdの単独粒子が存在しなかったことから、Pd上に選択的にPtが修飾したことがわかった。これらの結果から、比較例1の触媒は、PdとPtが複合化されており、良好なコアシェル型構造を有していないことがわかる。
一方、図6より、比較例2の触媒は、カーボン表面ではPdやPtが分析されず、また、カーボン上の微粒子(スポット1,2)はPd及びPtで構成されていることが確認された。しかも該微粒子は、図6bに示すように、ライン分析から、微粒子の表面付近でPt強度が高く且つPd強度が低く、粒子内部でPt強度が低く且つPd強度が高かった。このことから、比較例2の触媒において、カーボン上に担持された微粒子は、Pdをコア金属とし、Ptをシェル金属とするコアシェル型構造を有していることが確認された。しかしながら、Ptシェルの厚さが不均一な部分があることから、比較例2の触媒は、PtによるコアPd粒子の被覆状態が充分とはいえない。
【0078】
<酸化物還元ピークシフトと酸素還元活性の関係>
上記酸化物の酸素還元電位測定(図3)において、比較例5の触媒(Pd/C)の還元ピークを基準とする、実施例1、比較例1,2及び6の触媒の還元ピークのシフト値を算出し、該シフト値と上記にて求めたPt単位質量当たりの酸素還元活性(Mass Activity(A/mg−Pt)、表1)との関係を図7に示す。
図7の実施例1、比較例1,2及び6の結果から、酸化物の還元ピーク電位のシフト値が大きい程、酸素還元活性が高いことがわかる。
さらに、上記比較例1,2のTEM-EDX観察結果を合わせて検討すると、酸化物還元ピーク電位のシフト値が大きい(すなわち酸素還元活性が高い)触媒は、コアシェル型構造もより発達していると推測することができる。
以上の結果から、比較例2よりも酸素還元活性が高く且つ酸化物還元ピーク電位のシフト値が大きい実施例1の触媒は、そのコアシェル構造の発達度合いも高いと推測することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性担体に触媒金属が担持されてなる触媒の製造方法であって、
導電性担体に担持された金属微粒子の懸濁液電位を、加熱により低下させる電位低下工程と、
液電位が低下した前記懸濁液に対して、触媒金属を含む触媒金属化合物を溶解し、前記金属微粒子表面を前記触媒金属で修飾する修飾工程と、
を有し、
前記金属微粒子が合金微粒子であり、前記修飾工程の前に、前記合金微粒子の表面から、該合金微粒子の添加金属元素を溶出除去する溶出除去工程を有する、
触媒の製造方法。
【請求項2】
前記電位低下工程において、前記懸濁液は、該電位低下工程における加熱により電子を解離可能な成分を含む、請求項1に記載の触媒の製造方法。
【請求項3】
前記加熱により電子を解離可能な成分が水である、請求項2に記載の触媒の製造方法。
【請求項4】
前記合金微粒子は、Pd,Ir,Rh,Au,Re,Os,Ru及びAgから選ばれる少なくとも1種を主成分金属元素とし、Co,Ni,Fe,Cu,Cr,Mn及びMoから選ばれる少なくとも1種の添加金属元素を含む、請求項1乃至3のいずれかに記載の触媒の製造方法。
【請求項5】
前記溶出除去工程前において、前記合金微粒子における前記主成分金属元素と前記添加金属元素との比率が、原子比(atom%)で95:5〜50:50である、請求項4に記載の触媒の製造方法。
【請求項6】
導電性担体に担持された主成分金属元素微粒子の懸濁溶液に、前記添加金属元素を含む添加金属元素化合物を溶解した後、溶媒を除去し、不活性雰囲気下、500℃〜1000℃で焼成し、前記導電性担体に担持された前記合金微粒子を調製する合金金属微粒子調整工程を備える、請求項1乃至5のいずれかに記載の触媒の製造方法。
【請求項7】
前記溶出除去工程において、前記合金微粒子を酸で洗浄して前記添加金属元素を溶出除去する、請求項1乃至6に記載の触媒の製造方法。
【請求項8】
前記触媒金属が、Pt,Pd,Ir,Rh,Au,Re,Os,Ru,Ag,Fe,Co,Ni,Cr,Mn,Mo及びCuから選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1乃至7に記載の触媒の製造方法。
【請求項9】
前記電位低下工程及び/又は前記修飾工程において、前記懸濁液を不活性ガスでバブリングする、請求項1乃至8のいずれか記載の触媒の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載の製造方法によって製造されたことを特徴とする触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−35178(P2012−35178A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176404(P2010−176404)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】