説明

触媒コンバータ及びその製造方法

【課題】金属製ケースを構成する略円筒状ケース本体と漏斗状導管部とを溶接不良を生じることなく溶接にて結合することができると共に、当該溶接箇所の耐久性を高めた触媒コンバータと、その製造方法とを提供する。
【解決手段】金属製ケースは、略円筒状ケース本体3、漏斗状導管部4及び環状インサート5から構成される。インサート5は、リング状本体51の外周面上に環状突条52を有する断面凸型の環状体として形成され、リング状本体外周面と環状突条の一側面52aとにより構築される第1係合部53及びリング状本体外周面と環状突条の他側面52bとにより構築される第2係合部54を有する。前記第1係合部53にケース本体3の一端部を係合させると共に、第2係合部54に導管部4の大径側端部42を係合させた状態で、インサート5の環状突条52及びその隣接領域に対し溶接が施されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒コンバータ及びその製造方法に関する。特に、金属製コンバータケースの溶接技術の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンの排気ガス浄化装置の一構成要素である触媒コンバータは、触媒担体と、それを収容する金属製のコンバータケースとを備えている。一般にコンバータケースは、円柱状の触媒担体を装入するための相対的に大径な円筒状のケース本体と、その円筒状ケース本体の端部に対し相対的に小径な排気管路を接続可能とするための漏斗状の導管部とから構成されている。従来、円筒状ケース本体の端部を内周側に配置すると共に漏斗状導管部の大径側端部を外周側に配置しつつ両者を所定の重ね代でもって重ね合せ、その重ね合せ部に対して外側からミグアーク溶接を施すことにより、ケース本体と導管部とを一体結合している。
【0003】
しかしながら、一般に円筒状ケース本体の壁厚は薄いために、溶接時の熱で前記重ね合せ部の内周面側において裏ビードの余盛過大や穴あき等の溶接不良が生じやすかった。コンバータケース内側における溶接不良(特に裏ビードの余盛過大)は、ケース内に収容されている触媒担体を破損する危険をはらむ。このため、裏ビードの余盛過大等の溶接不良を持たないコンバータケース及びその製造方法が求められている。
【0004】
特許文献1は、メタルケース(円筒状ケース本体)とレジューサ(漏斗状導管部)とを突合せ溶接で接合する際の溶接方法として、摩擦圧接、抵抗溶接、フラッシュバット溶接、レーザ溶接といった比較的少入熱な溶接方法を用いることを特徴とする触媒コンバータの製造方法を開示する。
【0005】
特許文献1のような比較的少入熱な溶接方法によれば、裏ビードの余盛抑制が可能であると考える向きがあるかもしれないが、実際には、単純な直接突合わ溶接である限り、裏ビードの余盛を制御することは困難であると同時に、裏ビードの余盛過大を完全防止することは不可能である。また、特許文献1の方法で製造される触媒コンバータにあっては、メタルケースとレジューサとが同じ材質である場合はともかくとしても、両者の材質が異なるために両者の熱膨張係数が異なっている場合には、溶接作業時又は実車でのエンジン稼動時にコンバータケースの加熱・冷却が繰り返されると、メタルケースとレジューサとの間の熱膨張係数の差に起因して、突合せ溶接箇所に熱応力が集中する。その結果、突合せ溶接箇所に亀裂や割れ等の不具合を生じるおそれがある。
【0006】
【特許文献1】特開平9−324623号公報(要約)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、金属製ケースを構成する略円筒状ケース本体と漏斗状導管部とを、溶接不良を生じることなく溶接にて結合することができると共に、当該溶接箇所の耐久性を高めた触媒コンバータを提供することにある。また、そのような触媒コンバータを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、触媒担体及びそれを収容する金属製ケースを備えた触媒コンバータであって、前記金属製ケースは、略円筒状のケース本体と、漏斗状の導管部と、前記ケース本体と導管部との間に介装されるインサートとから構成され、前記インサートは、リング状本体の外周面上に環状突条を有する断面凸型の環状体として形成されると共に、リング状本体の外周面と環状突条の一方の側面とによって構築される第1の係合部及びリング状本体の外周面と環状突条の他方の側面とによって構築される第2の係合部を有しており、前記インサートの第1の係合部に前記ケース本体の一端部を係合させると共に、第2の係合部に前記導管部の大径側端部を係合させた状態で、当該インサートの環状突条及びその隣接領域に対し溶接を施すことにより、ケース本体、インサート及び導管部を一体結合したことを特徴とする触媒コンバータである。
【0009】
請求項1によれば、インサートのリング状本体が、第1係合部に係合する略円筒状ケース本体の一端部及び第2係合部に係合する導管部の大径側端部(又はその一部)の内周側に位置すると共に、インサートの環状突条が略円筒状ケース本体の一端部と漏斗状導管部の大径側端部との間に挟まれる。この状態で、環状突条及びその隣接領域に対し溶接を施すことにより、その環状突条自体が溶接材又は溶接充填材となって、ケース本体と導管部との間にインサートを介在した状態でこれら三者が一体結合され、単一の金属製ケースが構成される。溶接時、内周側に位置するインサートのリング状本体は、ケース本体や導管部の各端部に重なってこれらを内側から支えると共にケース本体等の壁厚をあたかも増肉させる。このため、環状突条及びその隣接領域に対し溶接を施したときも、インサートのリング状本体があるために裏ビードが発生せず、又、上記増肉により熱が適度に分散するためケース本体等において溶け落ちや穴あきが生じない。従って、金属製ケースの内周側に裏ビードの余盛過大等の溶接不良がない触媒コンバータを構築することができ、金属製ケースに収容される触媒担体が溶接不良によって破損する事態を未然に回避できる。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載の触媒コンバータにおいて、前記ケース本体と導管部とは異種金属で構成されており、前記インサートは、前記ケース本体を構成する金属の熱膨張係数と前記導管部を構成する金属の熱膨張係数との間の熱膨張係数を持つ金属で構成されることを特徴とする。
【0011】
請求項2によれば、ケース本体と導管部との間に介装されるインサートの熱膨張係数がケース本体の熱膨張係数と導管部の熱膨張係数との間にあることで、ケース本体と導管部との熱膨張係数の較差が緩和され、金属製ケース全体としての熱膨張係数の変化傾向が緩やかになっている。それ故、溶接作業時又は実車でのエンジン稼動時において金属製ケースの加熱・冷却が繰り返された場合でも、中間の熱膨張係数を持つインサートの存在によって溶接部に対する熱応力の過度な集中が回避され、加熱・冷却の繰り返しという熱履歴に対する耐久性が従来よりも向上する。このように本構成によれば、ケース本体と導管部とが異種金属(異材)で構成される場合でも、インサートを併用することによって高品質の異材溶接が可能になる。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の触媒コンバータにおいて、前記ケース本体はステンレス鋼で構成され、前記導管部は鋳鋼又は鋳鉄で構成され、前記インサートはニッケル合金又はニッケルクロム合金で構成されていることを特徴とする。
【0013】
一般に、ステンレス鋼からなるケース本体と鋳鋼又は鋳鉄からなる導管部とを直接突き合せて溶接すると、溶接時に、カーボン含有量が高い鋳鋼又は鋳鉄側からステンレス鋼側にカーボンが拡散し両者の接合界面付近に浸炭相が生じやすい。この浸炭相によってケース本体と導管部との接合界面が脆くなる傾向にある。これに対し、本発明(請求項3)では、ステンレス鋼からなるケース本体と鋳鋼又は鋳鉄からなる導管部との間に、ニッケル合金又はニッケルクロム合金からなるインサートを介在させて溶接を行うため、ニッケル合金又はニッケルクロム合金により、導管部側に含まれるカーボンのケース本体側への拡散が防止される。それ故、上記浸炭相の発生はほとんどなく、溶接部が脆くならないため、直接突合せ溶接に比べて溶接部の強度が向上する。
【0014】
請求項4の発明は、請求項1,2又は3に記載の触媒コンバータにおいて、前記漏斗状の導管部は、その大径側端部に前記インサートのリング状本体の一端部を挿入可能な環状溝を有することを特徴とする。
【0015】
請求項4によれば、漏斗状導管部の大径側端部に環状溝が形成されているため、その環状溝にインサートのリング状本体の一端部を挿入することで、インサートの第2係合部に対する導管部の大径側端部の係合及びインサートと導管部との相対位置決めが容易になり、ひいては、インサートと導管部との間の溶接品質の向上につながる。また、導管部に環状溝を設定することにより、壁厚が相対的に薄い略円筒状ケース本体に対し、インサートを介在させつつ、相対的に厚肉な導管部を組み合わせることが可能になる。
【0016】
請求項5の発明は、触媒担体及びそれを収容する金属製ケースを備え、その金属製ケースが、略円筒状のケース本体と、漏斗状の導管部と、前記ケース本体と導管部との間に介装されるインサートとから構成される触媒コンバータの製造方法であって、前記インサートとして、リング状本体の外周面上に環状突条を有する断面凸型の環状体として形成されると共に、リング状本体の外周面と環状突条の一方の側面とによって構築される第1の係合部及びリング状本体の外周面と環状突条の他方の側面とによって構築される第2の係合部を有するインサートを準備し、前記インサートの第1の係合部に前記ケース本体の一端部を係合させると共に、第2の係合部に前記導管部の大径側端部を係合させることにより、前記インサートを間に挟んでケース本体と導管部とを仮連結し、前記仮連結状態で、インサートの環状突条及びその隣接領域に対して外側から、レーザー溶接、プラズマ溶接又はティグアーク溶接を施すことにより、ケース本体、インサート及び導管部を一体結合することを特徴とする触媒コンバータの製造方法である。
【0017】
請求項5の製造方法によれば、請求項1〜4に記載の触媒コンバータを効率的に製造することができる。特にこの方法では、断面凸型環状体たるインサートの環状突条自体がケース本体と導管部との溶接時における溶接材又は溶接充填材ともなるため、一般に溶接棒による溶接材又は溶接充填材の外部からの供給を必要としない溶接手法であるレーザー溶接、プラズマ溶接又はティグアーク溶接を採用することが可能となる。中でもレーザー溶接は、所定の面積を有する長方形状領域にレーザー光線を同時照射できるため、インサートの環状突条及びその隣接領域に対し同時入熱する溶接手法として極めて適している。また、レーザー溶接によれば、単位面積あたりのエネルギー密度が高く、溶接時間の短縮、ひいては生産性の向上を図ることができる。
【0018】
(付記)本発明の更に好ましい態様や追加的構成要件を以下に列挙する。
イ.請求項5に対し、請求項2,3又は4の内容を追加すること。
ロ.請求項1〜5において、前記漏斗状の導管部は鋳物であること。
【発明の効果】
【0019】
本発明の触媒コンバータによれば、金属製ケースを構成する略円筒状ケース本体と漏斗状導管部とを、溶接不良を生じることなく溶接にて結合することができると共に、当該溶接箇所の耐久性を高めることができる。また、本発明の触媒コンバータの製造方法によれば、上述のような触媒コンバータを効率的に製造可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、エンジンの排気ガス浄化装置用の触媒コンバータの一実施形態を図1〜図4を参照しつつ説明する。
【0021】
図1に示すように、触媒コンバータは、略円柱状の触媒担体1と、その触媒担体1を収容及び保持する金属製のコンバータケース2とを備えている。金属製コンバータケース2は、円筒状のケース本体3と、そのケース本体3の両端部(図1では左端部及び右端部)にそれぞれ配設される二つの漏斗状の導管部4と、ケース本体3と各漏斗状導管部4との間にそれぞれ介装される二つの環状インサート5とから構成されている。
【0022】
円筒状ケース本体3は、前記触媒担体1を内部に収容し得る大きさを有しており、ケース本体3の内周面と触媒担体1の外周面との間に当該触媒担体1の全周を包む保持用マット6を介在させた状態で触媒担体1を保持している。ケース本体3は、耐熱ステンレス鋼板を円筒形状に加工して得たものであり、ケース本体3の周壁部分の壁厚は約2mmである。なお、ケース本体3に使用可能なステンレス鋼としては、例えばSUS430があげられる。SUS430はクロム(Cr)を16〜18%程度含有するフェライト系のステンレス鋼であり、その熱膨張係数は10.1×10-6/K(200℃まで)〜13.0×10-6/K(1000℃まで)の範囲にある。
【0023】
二つの漏斗状導管部4は、ケース本体3への排気ガス流入又はケース本体3からの排気ガス流出を誘導するためのガス誘導管である。二つの漏斗状導管部4は、その構造及び機能においてほぼ等価であるので、便宜上、図1の右側の漏斗状導管部4に着目して以下説明するが、以下の同じ説明が図1の左側の漏斗状導管部4にもほぼ当てはまることは言うまでもない。
【0024】
漏斗状導管部4は、一方の端部41が最も細く、他方の端部42が最も太いというようなテーパな管形状をなしている(このような形状を本明細書では「漏斗状」と称する)。導管部4がこのような漏斗形状をしているのは、相対的に大径な円筒状ケース本体3の端部と、相対的に小径な排気管路(図示略)との間を連続的な断面積変化でもって接続し、排気ガスの流れを円滑にするためである。導管部4にあっては、ケース本体3の端部に対向する側が大径側端部42であり、その反対側が小径側端部41となる。本実施形態において、大径側端部42を構成する部分の肉厚は約6mmである。なお、図3及び図4に示すように、漏斗状導管部の大径側端部42の端面には、後記インサートのリング状本体51の端部形状に対応する円環状をした環状溝43が形成されている。環状溝43の幅は、リング状本体51の厚みにほぼ対応する。
【0025】
漏斗状導管部4は、鋳鋼又は鋳鉄を材料として鋳造された鋳物である。使用可能な鋳鋼としては、例えばJIS規格に従う鋳鋼SCH12(熱膨張係数:18.2×10-6/K(20〜650℃))があげられる。また、使用可能な鋳鉄としては、例えばJIS規格に従う球状黒鉛鋳鉄FCDA2(熱膨張係数:18.4×10-6/K(40〜800℃))があげられる。
【0026】
図2及び図3に示すように、二つの環状インサート5の各々は、短円筒形のリング状本体51と、その外周面上において周方向に全周にわたって延びる環状突条52とを有し、径方向断面凸型の環状体として形成されている。インサート5の直径は、前記ケース本体3の直径等に応じて適宜設定されるものであるが、本実施形態では約40mmである。また、本実施形態では、リング状本体51の幅wは約6mm、厚みは約2mmである。溶接前の環状突条52の幅は約2mm、高さ(リング状本体外周面からの突出量h)は約4mmである。
【0027】
リング状本体51の外周面は、環状突条52を間に挟んで左側と右側とに分けられる。リング状本体の左側外周面51aと環状突条の左側面52aとによって第1の環状係合部53が構築される。また、リング状本体の右側外周面51bと環状突条の右側面52bとによって第2の環状係合部54が構築される。但し、本実施形態の環状インサート5は左右対称な部材であるから、それ自体単独で存在する限りにおいて、第1環状係合部53と第2環状係合部54との間に構造上の区別はなく、両者は等価である。なお、リング状本体外周面上における環状突条52の位置をずらす等して、第1環状係合部53と第2環状係合部54とを非等価な構造とすることも可能である。
【0028】
環状インサート5はニッケルクロム合金(Ni−Cr合金)で構成されている。これに使用可能なニッケルクロム合金としては、例えばNi−Cr合金610やNi−Cr合金705があげられる。Ni−Cr合金610の化学組成は質量比で、71%Ni,15.5%Cr,9.0%Fe,2.0%Si,0.9%Mn,0.2%Cであり、その熱膨張係数は16.3×10-6/K(20〜760℃)である。他方、Ni−Cr合金705の化学組成は質量比で、69.5%Ni,15.5%Cr,8.0%Fe,5.5%Si,0.9%Mn,0.3%Cであり、その熱膨張係数は16.8×10-6/K(20〜590℃)である。なお、インサート5をNi−Cr合金で構成したことで、インサート5の熱膨張係数は、ケース本体3の構成金属の熱膨張係数と導管部4の構成金属の熱膨張係数との中間に位置する結果となっている。
【0029】
本実施形態の触媒コンバータは、次の手順で組み立てられる。
先ず、円筒状ケース本体3内に触媒担体1及び保持用マット6を収容した後、ケース本体3の各端部に環状インサート5を取り付ける。すると、図3に示すように、ケース本体3の端部がリング状本体51の左側外周面51aに外嵌すると共に、環状突条52の左側面52aに当接する。その結果、ケース本体3の端部が第1の環状係合部53に係合することにより、ケース本体3の当該端部に対して環状インサート5が仮保持される。
【0030】
続いて、ケース本体3の一端部に仮保持された環状インサート5のリング状本体51の残る端部に対し、漏斗状導管部4を取り付ける。すると、図3に示すように、リング状本体51の端部(外側端部)が漏斗状導管部4の環状溝43に挿入(嵌合)され、漏斗状導管部4の大径側端部42のうちの環状溝43の外側区画壁を構成する部分が、リング状本体51の右側外周面51bに外嵌すると共に環状突条52の右側面52bに当接する。その結果、漏斗状導管部4の大径側端部42の一部(環状溝43の外側区画壁を構成する部分)が第2の環状係合部54に係合することにより、ケース本体3の一端部に対し、環状インサート5を介して漏斗状導管部4が仮連結される。図3に示す仮連結状態では、インサート5の環状突条52を間に挟んで、円筒状ケース本体3の端部と漏斗状導管部4の大径側端部42とが対峙する。
【0031】
図3のように仮連結が完了したら、インサート5の環状突条52並びにその左右両側の隣接領域にあるケース本体3の端部及び導管部4の大径側端部42に対し、外側からレーザー溶接を環状突条52の全周にわたって施す。すると、図4に示すように、環状突条52、その左右隣接領域にあるケース本体3及び導管部4の一部、並びにリング状本体51の一部が溶融して互いに溶け合い、異種金属が合金化した溶接部(ビード)Mがインサート5の全周にわたって形成される。こうして、ケース本体3、インサート5及び導管部4が一体結合されてなる金属製コンバータケース2を備えた触媒コンバータが完成する。
【0032】
上記レーザー溶接に使用可能なレーザーとしては、半導体レーザーやスキャナーレーザーを例示することができる。特に半導体レーザーを用いた半導体レーザー溶接によれば、所定の面積を有する長方形状の領域にレーザー光線を同時照射できるため、又、エネルギー密度が高く溶接時間短縮が容易なため、本発明で用いるレーザー溶接法として極めて適している。なお、本実施形態では、約2〜6mm幅の照射領域を持つ半導体レーザーを使用して環状突条52及びその左右両側隣接域に対して同時にレーザー入熱を行うことにより、全周溶接を施した。
【0033】
なお、仮連結状態のインサート5等に対する溶接手法としては、レーザー溶接の他に、プラズマ溶接やティグアーク溶接を使用することもできる。レーザー溶接、プラズマ溶接及びティグアーク溶接はいずれも、一般に溶接棒による溶接材又は溶接充填材の外部からの供給を必要としない溶接手法である。
【0034】
(効果)本実施形態によれば以下のような効果を得ることができる。
溶接時に円筒状ケース本体3の内側に位置するインサートのリング状本体51は、ケース本体3や導管部4の各端部に重なってこれらを内側から支えると共に、ケース本体3等の壁厚をあたかも増肉させる。このため、環状突条52及びその左右隣接領域に対し外側から溶接を施したときも、インサートのリング状本体51があるために裏ビードが発生せず、又、上記増肉により熱が適度に分散するためケース本体3等において溶け落ちや穴あきが生じない。従って、金属製コンバータケース2の内側に裏ビードの余盛過大等の溶接不良がない触媒コンバータを構築でき、裏ビードの余盛過大等の溶接不良による触媒担体1の破損を未然に回避できる。
【0035】
本実施形態では、ステンレス鋼製の円筒状ケース本体3と鋳鋼又は鋳鉄製の漏斗状導管部4との間に、Ni−Cr合金製の環状インサート5を介在させて溶接を行うため、このNi−Cr合金によって、導管部4側に含まれるカーボン成分のケース本体3側への拡散が防止される。このため、従来の直接突合せ溶接とは異なり、ケース本体3と導管部4との境界域に浸炭相が生じることがなく、溶接部Mの溶接強度が向上する。つまり本実施形態によれば、ステンレス鋼製の円筒状ケース本体3と、鋳鋼又は鋳鉄製の漏斗状導管部4という異材間の溶接を高い品質で実現できる。
【0036】
環状インサート5の熱膨張係数が、ケース本体3の熱膨張係数と導管部4の熱膨張係数との中間にあることで、ケース本体3と導管部4との熱膨張係数の較差が緩和され、金属製コンバータケース2全体としての熱膨張係数の変化傾向が緩やかになっている。このため、溶接作業時又は実車でのエンジン稼動時において金属製コンバータケース2の加熱・冷却が繰り返された場合でも、中間の熱膨張係数を持つインサート5の存在によって溶接部Mに対する熱応力の過度な集中が回避され、従来よりも耐久性が向上する。
【0037】
漏斗状導管部4の大径側端部42には環状溝43が形成されている。このため、環状溝43にインサート5のリング状本体51の一端部を挿入するだけで、インサート5と導管部4との相対位置決めが容易になり、ひいては、インサート5と導管部4との溶接品質が向上する。また、漏斗状導管部4に環状溝43を設けたことで、壁厚が薄い円筒状ケース本体3に対し、インサート5を介して相対的に厚肉な漏斗状導管部4を組み合わせることが可能になり、金属製コンバータケース2の材料選択及び設計の自由度が高まった。
【0038】
円筒状ケース本体3の各端部に装着される環状インサート5は溶接において重要な役割を果たすのみならず、そのリング状本体51は、触媒担体1のケース本体3内での位置決め及びケース本体3からの飛び出し防止に貢献する。
【0039】
(変更例)上記実施形態ではケース本体3をストレートな円筒形状としたが、ケース本体3の端部を図5(A)又は(B)に示すように構成してもよい。即ち、図5(A)に示すように、ケース本体3の端部を内側にすぼまった段付き形状としてもよい。あるいは図5(B)に示すように、ケース本体3の端部を外側に広がった段付き形状としてもよい。特に図5(A)の構成によれば、内側に傾斜した段部31により、触媒担体1のケース本体3内での位置決め及びケース本体3からの飛び出し防止を図ることができる。
【0040】
(変更例)上記実施形態における環状インサート5は、Ni−Cr合金に代えてニッケル合金(Ni合金)で構成されてもよい。その場合でも同様の作用効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】一実施形態に従う触媒コンバータの概略断面図。
【図2】環状インサートの斜視図。
【図3】図1の要部の拡大断面図(溶接前)。
【図4】図1の要部の拡大断面図(溶接後)。
【図5】(A)及び(B)は変更例の要部の拡大断面図(溶接前)。
【符号の説明】
【0042】
1…触媒担体,2…金属製コンバータケース,3…円筒状ケース本体,4…漏斗状導管部,5…環状インサート,42…漏斗状導管部の大径側端部,43…漏斗状導管部の環状溝,51…環状インサートのリング状本体,52…環状インサートの環状突条,52a…環状突条の左側面,52b…環状突条の右側面,53…第1の環状係合部,54…第2の環状係合部,M…溶接部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒担体及びそれを収容する金属製ケースを備えた触媒コンバータであって、
前記金属製ケースは、略円筒状のケース本体と、漏斗状の導管部と、前記ケース本体と導管部との間に介装されるインサートとから構成され、
前記インサートは、リング状本体の外周面上に環状突条を有する断面凸型の環状体として形成されると共に、リング状本体の外周面と環状突条の一方の側面とによって構築される第1の係合部及びリング状本体の外周面と環状突条の他方の側面とによって構築される第2の係合部を有しており、
前記インサートの第1の係合部に前記ケース本体の一端部を係合させると共に、第2の係合部に前記導管部の大径側端部を係合させた状態で、当該インサートの環状突条及びその隣接領域に対し溶接を施すことにより、ケース本体、インサート及び導管部を一体結合したことを特徴とする触媒コンバータ。
【請求項2】
前記ケース本体と導管部とは異種金属で構成されており、前記インサートは、前記ケース本体を構成する金属の熱膨張係数と前記導管部を構成する金属の熱膨張係数との間の熱膨張係数を持つ金属で構成されることを特徴とする請求項1に記載の触媒コンバータ。
【請求項3】
前記ケース本体はステンレス鋼で構成され、前記導管部は鋳鋼又は鋳鉄で構成され、前記インサートはニッケル合金又はニッケルクロム合金で構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の触媒コンバータ。
【請求項4】
前記漏斗状の導管部は、その大径側端部に前記インサートのリング状本体の一端部を挿入可能な環状溝を有することを特徴とする請求項1,2又は3記載の触媒コンバータ。
【請求項5】
触媒担体及びそれを収容する金属製ケースを備え、その金属製ケースが、略円筒状のケース本体と、漏斗状の導管部と、前記ケース本体と導管部との間に介装されるインサートとから構成される触媒コンバータの製造方法であって、
前記インサートとして、リング状本体の外周面上に環状突条を有する断面凸型の環状体として形成されると共に、リング状本体の外周面と環状突条の一方の側面とによって構築される第1の係合部及びリング状本体の外周面と環状突条の他方の側面とによって構築される第2の係合部を有するインサートを準備し、
前記インサートの第1の係合部に前記ケース本体の一端部を係合させると共に、第2の係合部に前記導管部の大径側端部を係合させることにより、前記インサートを間に挟んでケース本体と導管部とを仮連結し、
前記仮連結状態で、インサートの環状突条及びその隣接領域に対して外側から、レーザー溶接、プラズマ溶接又はティグアーク溶接を施すことにより、ケース本体、インサート及び導管部を一体結合することを特徴とする触媒コンバータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−167668(P2006−167668A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−366933(P2004−366933)
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【出願人】(000100805)アイシン高丘株式会社 (202)
【Fターム(参考)】