触媒免疫グロブリン
本発明は、クラスおよびサブクラス選択された、触媒活性を有するプールヒト免疫グロブリンの構成物、その調製方法、およびその治療有用性について述べる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概括的にはプールされたヒト抗体、具体的には、クラスおよびサブクラス選別した触媒活性を有する免疫グロブリン調製品に関係する。
【背景技術】
【0002】
発明の範囲を制限することなく、その背景を触媒抗体と関連付けながら記述する。
【0003】
通常、抗体は軽(L)鎖と重(H)鎖から成る。これらの鎖の可変領域は、パラトープとも称される抗原結合部位を、高い親和性で抗原に結合する形態に定めるのに重要である。ある種の抗体は、基質の結合、その化学変換および一つ以上の生成物の放出によって化学反応を触媒する能力を具えている。触媒抗体は、いくつかの自己免疫疾患において述べられてきた(1-4)。当初、免疫系による触媒抗体の自然形成は稀な事象であり、Bリンパ球の成熟に伴う抗体V領域の多様化の過程における触媒部位の偶発的生成を示すものと思い込まれていた。しかし、免疫化学技術の進歩は、天然に存在する触媒抗体の更なる同定と、それらの作用機序の解明を加速した。セリンプロテアーゼに類似した酵素メカニズムをもつポリクローナルおよびモノクローナル触媒抗体、例えば神経ペプチドVIPを加水分解する抗体(5-7)が見出されている。他にも、DNAを加水分解したり、タンパク質をリン酸化したり、またエステル類を加水分解する天然抗体が知られている(1,8,9)。健常人中に見出されるIgGおよびIgMクラスの免疫グロブリンは、小さいトリペプチドおよびテトラペプチド基質の切断により明白な、非特異的タンパク質加水分解活性を有することが記されている(10,11)。タンパク質分解やその他の触媒活性を持つ抗体は、血中および粘膜分泌物中に特定されてきた(12)。触媒活性は、抗体の生殖細胞型可変領域中に位置する生来性の求核部位に由来する(7,11)。
【0004】
内在性の天然触媒抗体によるモデルペプチド基質の切断能の低下は、自己免疫疾患の発生率(10)および感染性ショック患者の生存率低下と相関していた(13)。従って、免疫グロブリンの触媒機能は、ある種の病態において重要な防御的役割を果たすことが出来る。内在性の天然触媒抗体の速度論上の特徴は、それらが、高濃度に蓄積する抗原(例えば、ある種の自己抗原や感染部位に蓄積した細菌抗原)を効果的に除去できることを示唆する(11)。
【0005】
酵素様の触媒活性を有する抗体には、強力な治療剤を生み出す可能性がある。従って、必要に応じて触媒抗体の合成を引き起こすことに対して大きな関心もある。例えば、触媒しようとする反応の基底状態または遷移状態の安定類縁体で動物を免疫し、対応する基質よりもその類縁体に対して強く結合する抗体を選別することにより、触媒抗体を誘導する試みが為されてきた(14)。親電子抗原による免疫は、抗体に本来備わった求核反応性を、反応部位から離れたエピトープ領域の非共有結合による認識と併せて向上させることにより、特異的触媒抗体の合成を起こす(15)。
【0006】
抗体は、酵素と同様、基質と化学的に反応性で、かつ、遷移状態の三次元および電荷分布構造に対して相補性を示す部位を有する。少数の抗体だけが、関心の反応を触媒する能力を示す。そのような抗体は、個々のポリペプチドの触媒的変換の特異的評価によって、候補抗体検体の中から特定することが出来る。
【0007】
ある種の他の反応(例えば、小ペプチドを、それらの精密構造に対して比較的非依存的に切断する能力)は、より頻繁に抗体によって触媒される(10,11)。
【0008】
触媒作用を持つ形態に抗体を保持することも、また重要である。酵素が、それらの活性中心の三次元配置を撹乱するような緩衝剤や化合物で処理されると、変性して触媒活性を失うのとまさしく同様に、抗体の触媒活性はタンパク質変性によって容易に失われ得る。この点は、種々の触媒抗体製剤の効用において重要である。望みの生物学的効果を得るのに、低活性の触媒抗体製剤では、高触媒活性の抗体製剤に比べて著しく大量に使用しなくてはならない。
【0009】
もう一つ重要な点は、抗原の異なる生物活性がしばしば抗原の異なる領域によって媒介されるのに対し、個々の抗体は標的抗原の定められた領域(エピトープ)に対して特有の特異性を示すことである。従って、ある一つの触媒抗体は、抗原のある特定の生物学的作用を中和するかもしれないが、他の作用は影響を受けないままであり得る。
【0010】
ある特定の抗原に結合する複数のモノクローナル抗体の組み合わせは、個々のモノクローナル抗体を凌駕する抗原中和活性を示すことが見出されており、このことは、抗体の組み合わせによる相乗効果が可能なことを示唆している(16)。ヒト血清から調製されたポリクローナル抗体は、基本的にモノクローナル抗体の混合物である。候補抗体製剤の多様性は、多くの人からのポリクローナル抗体を混合(プール)することによって増大させることが可能である。そのようなプール抗体は一般にIVIG製剤(静注用免疫グロブリン製剤)と称され、数社によって販売されている。大部分のIVIG製剤は、プールしたIgGクラスのヒト抗体から成る。これらのIVIG製剤は、純度は保証するが(例えば、17)、触媒活性の保持に要する条件については考慮されていない化学的手順によって、ヒトの血液から得られる。IVIG製剤の静脈内投与は、細菌性敗血症、多発性硬化症および特発性血小板減少性紫斑病を含む、免疫不全症、感染症、および自己免疫疾患の患者に有益であることがよく知られている。IVIG製剤はHIV感染の治療に対しても考慮されたが、その治療上の有益性は確定的に立証されなかった(18)。感染症において、感染性微生物が発現する抗原に対する高親和性抗体は一般的な知見である。HIV感染者から集めてプールしたIgGの静脈内注入(HIVIG)も、HIV感染に対する治療として提案された(19)。一般的に、治療はIVIG製剤の大量投与を伴う(例えば、体重キログラム当り1グラム)。
【0011】
異なる疾病におけるIVIGの治療効果の機序は正確には定まっていないが、いくつかの仮説が提唱されている:(a)抗体可変領域における抗原結合に起因する立体障害による、抗原の生物活性の可逆的中和;(b)抗原−抗体複合体のFc受容体提示細胞への結合による抗原除去の亢進;(c)細胞表面上の抗原への結合に続いて、抗体Fc領域に補体成分が結合することによって起こる、抗体依存性の補体による細胞溶解;および(d)細胞表面上の抗原と抗体との結合に続いて、ナチュラルキラー細胞が活性化されることによって起こる、抗体依存性の細胞による溶解。IVIG製剤の触媒活性は、文献上記載されていない。異なるクラスの免疫グロブリン(すなわちIgM、IgG、IgAおよびIgE)は、異なった効率で免疫グロブリンのエフェクター機能を媒介する。前述の通り、IVIG製剤は通常IgG抗体から成る。IgMクラスの抗体は、IgGクラスの抗体よりも優れた効率である種の基質の分解を触媒することが記されている(11,20)。
【0012】
IVIG製剤中にタンパク質特異的に結合する抗体が存在することは、治療的な有用性との関連上、特に興味深い。IVIG製剤は、微生物のスーパー抗原(抗体可変領域の適応性成熟を必要とせず、前免疫レパートリー中に見出される抗体によって結合される抗原と定義される(21−23))に結合する抗体を含むものと期待できる。スーパー抗原の例は、HIVコートタンパク質gp120、HIV Tatおよびブドウ球菌 のプロテインAである。さらに、健常人中に見出される内因性微生物叢は微生物抗原に結合する抗体の適応的合成を刺激することが可能であり、そのような抗体はIVIG製剤中に存在するかもしれない。ヒトの血液は、CD4(24)、アミロイドβペプチド(25)、およびVIP(26,27)を含む種々の自己抗原に結合する抗体も含有し、IVIG製剤中にはアミロイドβペプチドに結合する抗体が存在することが報告されている(28)。
【0013】
本発明の更なる背景を提供するため、従来のIVIGのようなプールされた免疫グロブリンの標的としてのHIV gp120の例をここに示し、その他の抗原標的の例については更に本申請中で適宜言及する。HIV-1による宿主細胞への結合において鍵となる要素の一つは、gp120なるエンベロープ糖タンパク質である。具体的には、糖タンパク質gp120のコンフォメーション依存性エピトープが宿主細胞上のCD4受容体に結合することが、HIV-1感染の第一段階である。さらにgp120は、T細胞や神経細胞を含むHIVに感染していない細胞に対して毒性作用を及ぼす(29−37)。従って、gp120糖タンパク質とその前駆体gp160糖タンパク質は、AIDS治療における論理的標的である。gp120のCD4結合部位に結合するモノクローナル抗体は、ウィルスの感染力を抑制することが示されている(例えば、38,39)。gp120エンベロープ糖タンパク質は、他に多くの抗原性エピトープを提示している。HIV感染の後、ヒトはgp120に対し強力な抗体反応をとるが、大部分の抗体は高変異領域に対するもので、感染制御に有効ではない。多様なHIV株に対して広範な保護を可能にするには、抗体がgp120の保存領域を認識することが必要であり、HIVに対し広範な保護作用を有する抗体は、HIV感染後通常産生されない。gp120のスーパー抗原性部位は、宿主細胞のCD4への結合に重要な領域、具体的には残基421−433より成る保存領域を含む(40,41)。gp120のスーパー抗原部位に対する触媒抗体は、従って、gp120を永久的に分解することと、単一の抗体分子を多分子のgp120の切断に繰り返し使用することの両方によって、感染を制御する可能性を有する。
【0014】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
抗原性特性と触媒活性に関する前述の問題は、長年認識されてきた。多数の解決法が提案されたが、それらのいずれも、全ての問題点の解決に十分ではない。
【課題を解決するための手段】
【0016】
ここで使用されるように、「アブザイム(Abzyme)」または「触媒免疫グロブリン(catalytic immunoglobulin)」なる語句は、酵素様活性を有する少なくとも1つ以上の抗体を記述するのに、互換的に用いられる。
【0017】
本発明は、高水準の触媒活性と望ましい生物活性特性を示す抗体の改良組成と作成方法の必要性について述べる。改良組成は、抗原特異性において非選択的であるか、または、個々の抗原を標的とする、プールされたIgA、IgM、およびIgG抗体から成る。抗体は、アクセサリー分子(例えば、J鎖や分泌成分)を含んでも、含まなくともよい。発明の好ましい実施例は、プールされた粘膜抗体の触媒免疫グロブリン製剤としての使用である。開示したのは、粘膜環境が高水準の触媒活性を示すIgAクラス抗体の合成を支持することを示す予想外の知見である。そのような抗体は、例えば、ヒトの唾液中に見出される。異なる人間由来の触媒免疫グロブリンをプールすることは、免疫グロブリン混合物によって標的とされる抗原特異性の多様性を増大する戦略として、本発明中で使用される。さらに開示したのは、ポリクローナル触媒免疫グロブリンは、モノクローナル抗体の一群で観察されるよりも高い触媒活性を示すという予想外の知見であり、抗体混合物が均一な抗体製剤よりも優れた触媒活性を示すことを示している。
【0018】
より具体的には、本発明は、単離・精製された特定のクラスのプール免疫グロブリンで触媒活性を有するものを含む。免疫グロブリンは、サブクラスによって定義されてもよい。一つの実施例中では、プールされた免疫グロブリンは、4、10、20、30、35、50、100またはそれ以上のヒトから分離される。免疫グロブリンは粘膜分泌物、唾液、乳汁、血液、血漿、または血清から分離されてよい。特定のクラスとは、IgA、IgM、IgG、またはそれらの混合物および組み合わせであり得る。免疫グロブリンによって触媒される触媒反応の例は、例えば、アミド結合の切断およびペプチド結合の切断を含む。免疫グロブリンのクラスおよびサブクラスは、具体的な標的抗原に対する種々の免疫グロブリンクラスおよびサブクラスの触媒活性の比較に基づいて選択される。触媒反応の標的はHIV gp120、HIV Tat、ブドウ球菌プロテインA、CD4またはアミロイドベータペプチド中のペプチド結合の開裂を引き起こす。一つの具体例において、免疫グロブリンクラスは、ペプチド-アミノメチルクマリン抗原中のアミド結合の触媒的切断の比較に基づいて選択される。
【0019】
特定クラスの触媒免疫グロブリン製剤として調製された時、これらは、静脈内、膣内、または直腸内投与によってHIV-1感染の防止または治療に使用できる。あるいは、触媒免疫グロブリン製剤は、細菌感染、感染性ショック、自己免疫疾患、アルツハイマー病、またはこれらの併発の処置に、静脈内投与によって用いてもよい。単離精製されたプール触媒免疫グロブリンは治療用に順応させてもよいし、ヒトから得た原料体液をプールしたり、免疫グロブリンを特定のクラスおよびサブクラスに分画したりすることによって単離してもよい。触媒免疫グロブリンは、一つの抗原に対して、一つ以上のクラスおよびサブクラスから、例えば、ヒトIgA、IgMまたはIgGに対する抗体、または、免疫グロブリン結合試薬であるプロテインG、プロテインA、プロテインL、または免疫グロブリンの求核反応性部位に結合することの出来る親電子性化合物、または、これらの混合物および組み合わせによる分画、またはクロマトグラフィー、またはその両方によって単離精製されてよい。本発明の方法において使用する他の分画方法の例には、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、レクチン上でのクロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、電気泳動、または等電点フォーカシングが含まれる。
【0020】
高水準の触媒活性をもったプール免疫グロブリンの調製と特徴付けに有用な数種の方法、例えば、特定のクラス(IgM、IgG、IgA)の免疫グロブリンを選択した免疫グロブリンの調製が開示される。特定の免疫グロブリンサブクラス(例えば、IgA1、IgA2)に属するプールしたアブザイムも、公知技術である適切な生化学的分画方法によって得ることが出来る。プールアブザイムの原料は、ヒトからプールした唾液などの粘膜分泌物、または血液、およびそれらのあらゆる組み合わせであり得る。
【0021】
一つの実施例中では、プールアブザイムは、触媒活性の低下を招く激しい化学処理に代えて、ヒトIgA、IgM、またはIgG、またはこれらの組み合わせに対する固定化抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィーによって調製される。プロテインG、プロテインAやプロテインLの様な免疫グロブリン結合試薬もこの目的に使用できる。アブザイムの求核部位に選択的に結合できる固定化親電子性化合物を用いたアフィニティークロマトグラフィーも開示する。加えて、当業者に知られている一般的分離方法も使用でき、これには、例えば(これらに限定されないが)、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、レクチン上でのクロマトグラフィー、免疫グロブリン結合タンパク質によるクロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、電気泳動、または等電点フォーカシングが含まれる。
【0022】
本発明の重要な一面は、候補プールアブザイム調製品を、分画の種々の段階で触媒活性の発現について分析することである。プールアブザイム調製品の使用意図によって、基質または標的は、例えば、小ペプチド類、gp120、またはアミロイドβぺプチドであり得る。別の例では、本発明は、プールアブザイムを基質特異的な画分(この画分が触媒活性を有する)に分ける方法も提供する。本方法はさらに、具体的な標的、または非選択的触媒活性の指標となるモデル基質に対する、アブザイムの触媒活性の比較をも含む。
【0023】
別の例において、本発明は、HIV gp120、アミロイドβペプチド、HIV Tat、プロテインAまたはCD4の切断を起こすようなタンパク質分解活性を持つアブザイムを開示する。
【0024】
患者の治療法である本発明に従って、プールアブザイム製剤は、例えば、自己免疫疾患、アルツハイマー病、細菌感染、感染性ショック、ウィルス感染、多発性硬化症および特発性血小板減少性紫斑病などの、種々の疾患の治療に用いてよい。本方法は、プールした、クラス選別した、基質特異的または非選択的なアブザイム製剤の患者への投与方法を提供する。その使用企図に基づき、プールアブザイムは、多数の経路から投与することができ、それには、例えば、静脈内、腹腔内、膣内、または直腸内投与が含まれる(しかし、これらに限定されない)。
【0025】
図の説明
本発明の特徴および優越性のより完全な理解のために、以下は発明に伴う図表の詳細な説明である。
【0026】
図1:CIVIGg、CIVIGm、CIVIGaとCIVIGasによるEAR-AMCの加水分解。基質EAR-AMC(0.2mM)は、CIVIG調製品(CIVIGg、75 μg/mL; CIVIGm、36 μg/mL; CIVIGa、11 μg/mL; CIVIGas、11 μg/mL; CIVIGg、CIVIGmおよびCIVIGaは35人のプール血液(ガルフコースト血液銀行)から調製された)と、0.1mMのCHAPSを含む50mMのトリス・塩酸、0.1Mグリシン、pH 8.0中、37℃でインキュベートした。AMCの放出は、蛍光測定法によって定期的にモニターし(λem 470 nm、λex 360 nm; ケアリーエクリプス分光計、バリアン、パロアルト、CA)、11 μg Ig/mL相当に標準化し、方程式 [AMC] = V・tに当てはめた(Vは比活性(μM AMC/h/11 μg Ig/mL)を表す)。CHAPSは、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホン酸の略。
【0027】
図2:CIVIGgおよびIVIGsのIgG分画によるEAR-AMCの加水分解。触媒活性は、図1の場合と同様に測定された(IgG、75 μg/mL)。
【0028】
図3:CIVIGmおよびIVIGsのIgM分画によるEAR-AMCの加水分解。触媒活性は、図1の場合と同様に測定された(IgM、36 μg/mL)。
【0029】
図4:CIVIGa、CIVIGsaおよびIVIGaによるEAR-AMCの加水分解。触媒活性は、図1の場合と同様に測定された(CIVIGaおよびCIVIGas、11 μg/mL; ペンタグロビン由来IgA、80 μg/mL)。活性は、80 μg Ig/mL相当に標準化した。
【0030】
図5:ヒト血液および唾液からのIgG、IgMおよびIgAによるgp120の切断。Bt-gp120(1.6 Bt/タンパク質)は、4セットの標本から調製したヒト血清IgG、IgM、IgA、および唾液IgAとインキュベートした。1人の提供者の血清と唾液から精製された免疫グロブリンによるBt-gp120の切断を示す還元SDS-ゲルのストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ染色ブロットの例を示す。Bt-gp120、0.1 μM; IgG、135 μg/mL; IgM、180 μg/mL; IgA、144 μg/mL; 37℃、17時間。
【0031】
図6:CIVIGaとCIVIGsaによるgp120の優先的切断。調査されたビオチン化タンパク質は、gp120、上皮細胞増殖因子受容体の細胞外領域(exEGFR)、ウシ血清アルブミン(BSA)、ヒト血液凝固第VIII因子のC2領域(C2)、およびHIV Tatである。CIVIGa、CIVIGas(160 μg/mL)または希釈剤と、1 mM CHAPSおよび67 μg/mLのゼラチンを含む50 mMトリス塩酸、0.1 Mグリシン、pH 8.0中で17時間インキュベートされたビオチン化タンパク質(0.1 μM)の、還元SDS-ゲルのストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ染色ブロットを示す。
【0032】
図7: CIVGaとCIVIGasによるプロテインAおよびsCD4の切断。CIVIGa、CIVIGas(160 μg/mL)または希釈剤と、1 mM CHAPSおよび67 μg/mLのゼラチンを含む50 mMトリス塩酸、0.1 Mグリシン、pH 8.0中で17時間インキュベートされたsCD4およびプロテインA(0.1 μM; ビオチン化された)の、還元SDS-ゲルのストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ染色ブロットを示す。プロテインAは、ビオチン化に先立ち、V領域によるスーパー抗原としてのこのタンパク質を無傷に保ったまま、Fc結合部位を不活性化するためヨウ素化された。
【0033】
図8:14-kDバンドの消失により明白なCIVIGmによるHIV Tatの切断と、CIVIGa、CIVIGasおよびCIVIGgによる切断の欠如。希釈剤(レーン1)、CIVIGa(160 μg/mL、レーン2)、CIVIGas(160 μg/mL、レーン3)、CIVIGg(160 μg/mL、レーン4)とCIVIGm(180 μg/mL、レーン5; 810 μg/mL、レーン6)とともに、1 mM CHAPSと67 μg/mLのゼラチンを含む50 mM トリス塩酸、0.1 Mグリシン、pH 8.0中17時間インキュベートされたHIV Tat(0.1 μM、ビオチン化体)の、還元SDS-ゲルのストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ染色ブロットを示す。
【0034】
図9:商用IVIGを凌駕するCIVIG調製品のHIV-1中和活性。A、CIVIG調製品によるHIVの中和。HIV-1(ZA009; R5、クレードC)は、様々の濃度(2.5−250 μg/mL)のCIVIG調製品および商用IVIGsとインキュベートされた後、PBMCに感染させてた。HIV-1中和活性は、希釈剤(リン酸緩衝生理食塩水; PBS)処置群との比較によるp24濃度の%低下として表される。B、弱いまたは無視し得る程度の商用IVIGsによるHIVの中和。中和活性は、パネルAの場合と同様に測定された。
【0035】
図10: CIVIGにより媒介されるHIV中和のgp120ペプチド-CRAによる抑制。CIVIGmおよびCIVGaはgp120ペプチド-CRA(100 μM)または希釈剤と30分間インキュベートされ、残存中和活性は図9の場合と同様にして決定された(CIVIGm、10 μg/mL; CIVGa、2 μg/mL)。
【0036】
図11:ヒト血清および唾液から精製されたIgAによるGlu-Ala-Arg-AMCの加水分解。(A)4人のヒト血清および唾液から精製されたIgAのGlu-Ala-Arg-AMC加水分解活性を示すスキャッタープロット。連結した印は、同一個人からの血清および唾液IgAを意味する。基質(0.2 mM)は、IgA(32 μg/mL)存在下、三組ずつインキュベートされ、蛍光の増加を20時間にわたってモニターした。各々のデータポイントは、FU = V・tに対する最小二乗法による最適化曲線(r2、0.99)より得られた平均速度(ΔFU/時)である。IgA非存在下でインキュベートされた基質の背景加水分解は、無視し得る程度であった(<0.1FU/時)。(B)健常人34人の血清プール由来のIgA、IgGおよびIgMによるGlu-Ala-Arg-AMC加水分解の進捗曲線。基質(0.4 mM)は、IgA(11 μg/mL)、IgG(75 μg/mL)またはIgM(36 μg/mL)存在下インキュベートされた。加水分解されたEAR-AMCは、蛍光定量的にAMCを測定することによって決定された。表示の値は、50 μL反応液中のμg Ab当りの値(平均値±SD; n=3)、および、[AMC] = V・t(r2、0.98)への最小二乗法による最適化曲線である。
【0037】
図12:IgAの純度。(A)ヒト血清(34人分のプール)および唾液(4人分のプール)由来IgA検体の電気泳動的な均質性を示す還元SDS-電気泳動。レーン1−3は、各々、クーマシー青、抗α鎖抗体および抗κ/λ鎖で染色した血清IgAのサブユニットである。レーン4−7は、それぞれ、クーマシー青、抗α鎖抗体、抗κ/λ鎖および抗分泌性構成要素で染色した唾液IgAサブユニットである。(B)6 Mの塩酸グアニジン中での変性ゲル濾過前および後の血清IgAサンプルのGlu-Ala-Arg-AMC加水分解活性が同等であることを示す進捗曲線。170 kDaのIgA画分は、図11と同様に触媒活性を評価された。IgA、8 μg/mL; Glu-Ala-Arg-AMC(0.4 mM)。
【0038】
図13:プールIgAと市販のIVIG製剤のアミド分解活性の比較。反応条件は図11Bと同様。
【0039】
図14:IgA触媒によるGlu-Ala-Arg-AMC加水分解の見かけ上の速度論パラメータ。2つの血清IgA調製品(特定番号2288および2291)のデータを示す。初速度(V)は、ミカエリス−メンテン方程式V = kcat・[Ab]・[S]/(Km + [S])に対する非線形回帰曲線(r2 0.998)に当てはめた。[Ab]、抗体濃度; [S]、基質の初濃度。
【0040】
図15:IgAのセリンプロテアーゼ阻害剤との反応。(A)セリンプロテアーゼ活性部位プローブの構造。ホスホン酸エステル1aおよび1bは、トリプシン様セリンプロテアーゼおよびAbの活性部位求核原子をホスホニル化して、それらのタンパク質分解活性を阻害する。合成物2は、Arg/Lysの等価体である正荷電したアミジノ基を欠く1aの誘導体である。アミジノ基は、タンパク質分解性IgGおよびIgM 抗体に対するホスホン酸エステルの反応性に必要である。(B)セリンプロテアーゼ阻害剤によるIgA触媒によるGlu-Ala-Arg-AMC加水分解の阻害。基質(0.4mM)は、1aまたはDFP(10、30、100、300 μM)の存在下および非存在下に血清IgA(8 μg/mL)とインキュベートされ、AMCによる蛍光は23hに亘ってモニターした。種々の阻害物質濃度におけるAMC放出量は、方程式 [AMC]/[AMC]max = 1 − ek・t([AMC]maxおよびkは、それぞれ、AMCの外挿された最大値と一次速度定数(r2、>0.98)を示す)に当てはめられた。IgAの不可逆的阻害特性から予測される通り、阻害物質存在下の進捗曲線は双曲線であった。阻害物質存在下における残存活性(Vi)は、進捗曲線の23時間点におけるタンジェントとして計算された。阻害パーセントは、100(V - Vi)/V(Vは阻害剤非存在下での速度を表す)として計算された。データは、3組の複製の平均±SDである。IC50値は、方程式 (%inhibition = 100/(1−10logEC50−log[1a])に対する最小二乗曲線(r2 0.92)から抽出した。(C)IgAサブユニットの1a-付加物を示す還元SDS-電気泳動。以下の反応混合物(6時間)のストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ染色ブロットを示した。レーン1、血清IgAと1a; レーン2、血清IgAと2; レーン3、唾液IgAと1a; 唾液IgAと2。HとLは、それぞれ、重鎖および軽鎖の1a付加物を意味する。IgA、160 μg/mL; 1aと2(0.1 mM)。
【0041】
図16:ホスホン酸エステル1bによるモノクローナルIgA反応の化学量論。モノクローナルIgA(ID 2582; 1.6 mg/mL)は、1b(2.5−20 μM)とインキュベートされた。18時間後、残存活性は、1bで処理したIgA(24 μg/mL)をGlu-Ala-Arg-AMC(0.4mM)とともにインキュベートして測定された。示したのは、残存触媒活性対[1b]/[IgA]のプロットである。プロット中に示したx切片は、[1b]/[IgA]比率が1以下のデータポイントに対する最小二乗法による最適化曲線(r2 0.93)から決定された。
【0042】
図17:HIV血清陰性人の血清および唾液IgAによるBt-gp120の切断。A、4人のヒトからプールしたポリクローナル血清IgA(160 μg/mL)および唾液IgA(32 μg/mL)によるBt-gp120(0.1 μM)の時間依存的切断を示す、還元SDS−電気泳動ゲルのストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ染色ブロット。希釈剤レーンは、IgAに代えて希釈剤とともにインキュベートされたgp120を示す。OEは、唾液IgAとともに46時間インキュベートしたBt-gp120を示す露出過度のレーンを示す。55、39、32、25および17kDに生成物のバンドが見える。B、4人のヒト由来の唾液IgA、血清IgAおよび血清IgGのgp120切断活性のスキャッタープロット。Ab濃度: 唾液IgA、32 μg/mL; 血清IgA、血清IgGおよび市販IVIG製剤(イントラテクト、ガンマガード、インビーガム)、144 μg/mL。反応条件: 17時間、37度、0.1 μM Bt-gp120。示したのは、Ab単位重量当りに換算した活性である。実線は、平均値である(唾液IgAおよび血清IgA、それぞれ、6053±1099および391±183 nM/h/mg Ab; IgGとIVIG製剤による切断は、検出限界を下回っていた)。挿入図は、固定化抗IgA抗体によるアフィニティクロマトグラフィーにより精製されたヒト血清IgAおよび唾液IgAの典型的なSDS-電気泳動(4−20%のゲル)で、クーマシー青(各レーン1と4)、抗α鎖抗体(各レーン2と5)、および抗κ/λ鎖抗体(各レーン3と6)で染色したものである。レーン7は、抗分泌性構成要素抗体で染色した唾液IgAを示す。
【0043】
図18:変性ゲル濾過後、再フォールディングされたポリクローナルIgA、および多発性骨髄腫患者由来のモノクローナルIgAによるgp120の切断。A、6M塩酸グアニジン中で行われた、プールされたヒト唾液IgA(実線)および血清IgA(点線)のゲル濾過クロマトグラム。抗IgAアフィニティークロマトグラフィによって精製された唾液 IgA(0.8mg)および血清IgA(1.6mg)をカラムに注入した。唾液IgA由来の433−915kD(太線a)、または血清IgA由来の153kD(太線b)相当の画分を各々プールし、挿入図とパネルBでさらに分析した。挿入図は、唾液IgA画分aおよび血清IgA画分bのシルバー染色したSDS-電気泳動ゲルである。sc、HおよびLは、それぞれ、分泌構成要素、重鎖および軽鎖のバンドを意味する。B、変性ゲル濾過後の唾液および血清IgAによるBt-gp120の切断を示す、ストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ染色した電気泳動ブロット。画分aおよびbは、分析評価の前に、トリス-Gly緩衝液(pH 7.7)に対して透析された。示したのは、希釈剤(レーン1)、唾液IgA(32 μg/mL、レーン2)および血清IgA(32 μg/mL、レーン3)と45時間インキュベートしたBt-gp120(0.1 μM)である。C、モノクローナルIgAのBt-gp120切断活性のスキャッタープロット。Bt-gp120、0.1μM; IgA、75μg/mL;反応時間、21時間。点線は、背景値(IgAの代わりに希釈剤によるインキュベーション)+ 3標準偏差に相当する。
【0044】
図19:A、EP-ハプテン1の構造。非親電子性ホスホン酸ハプテン2は、フェニル基を欠くことを除いてハプテン1と構造的に同一である。B、EP-ハプテン1による触媒活性阻害と不可逆的結合。gp120(0.1μM、非ビオチン化)は、予めEP-ハプテン1とコントロールハプテン2(1mM)の存在下または非存在下8時間インキュベートした唾液IgA(2 μg/mL)または血清IgA(160 μg/mL)とともに、16時間インキュベートされた。残存した完全gp120は、SDS-電気泳動およびブロットのペルオキシダーゼ接合型ポリクローナル抗gp120による染色後、デンシトメトリーによって測定された。%阻害 = 100−[(阻害物質存在下切断されたgp120)/(阻害物質非存在下切断されたgp120)x100]。値は、二組の平均である。挿入図、EP-ハプテン1処理した唾液IgA(レーン1)と血清IgA(レーン3)の還元SDS-ゲルのストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ染色ブロット。ハプテン2処理した唾液IgA(レーン2)と血清IgA(レーン4)も示した。HおよびLは、それぞれ重鎖および軽鎖サブユニットのバンドを意味する。
【0045】
図20: IgAにより触媒されたgp120切断のGlu-Ala-Arg-AMCによる阻害と、IgAの活性部位滴定。挿入図、希釈剤(レーン1)およびモノクローナルIgA(80μg/mL、多発性骨髄腫患者2582由来)と、Glu-Ala-Arg-AMC非存在下(レーン2)または存在下(レーン3; 0.2mM)インキュベートされたBt-gp120(0.1μM)の、ストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ染色したSDS-ゲル(還元条件)ブロット。活性部位滴定のために、モノクローナルIgA(10 μg/mL、推定分子量170kD)を、予めEP-ハプテン3(2.5 −20 μM)の存在下または非存在下で18時間インキュベートした後、Glu-Ala-Arg-AMCを0.4mMの濃度になるよう加え、触媒活性を蛍光測定法で測定した。EP-ハプテン3は、EP-ハプテン1の非ビオチン化型である。示したのは、残存活性対[EP-ハプテン3]/[IgA](最小二乗法、r2 0.84)のプロットである。残存活性(%)対[EP-ハプテン3]/[IgA]プロットのX切片は、2.4であった。
【0046】
図21:IgAとsIgAによるgp120の優先的切断。調査されたビオチン化(Bt)タンパク質は、gp120、可溶性上皮細胞増殖因子受容体(sEGFR)、ウシ血清アルブミン(BSA)、ヒト血液凝固第8因子C2領域(C2)、およびHIV Tatである。血清IgA、唾液IgA(いずれも160 μg/mL)または希釈剤と17時間インキュベートされたタンパク質(0.1 μM)の、還元SDS-ゲルのストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ染色ブロットを示す。
【0047】
図22:EP-421-433とIgAの相互作用。A、EP-421-433とコントロール親電子性ペプチド(EP-VIP)の構造。R1、Gly431カルボキシル基に連結された、gp120残基432-433を模倣するアミジノフォスフォン酸基; R2、Lys側鎖アミンに連結されたアミジノフォスフォン酸基。B、IgA触媒によるgp120切断の、EP-421-433による阻害。唾液IgA(16 μg/mL)または血清IgA(160 μg/mL)はEP-421-433またはEP-VIP(100 μM)と予めインキュベートされ(6時間)、反応混合物はgp120(0.1 μM)の添加後、さらに16時間インキュベートされた。gp120切断の抑制は、図18と同様にして決定された。C、唾液IgAと血清IgAによる不可逆的 EP-421-433結合。示したのは、EP-421-433(レーン1)、EP-VIP(レーン2)またはEP-ハプテン1(レーン3)とインキュベートした唾液IgA(80μg/mL)、およびEP-421-433(レーン4)、EP-VIP(レーン5)またはEP-ハプテン1(レーン6)とインキュベートした血清IgA(80μg/mL)の、還元電気泳動ゲルのストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ染色ブロットである。EP-プローブの濃度、10μM、反応時間、21時間。HおよびLは、重鎖と軽鎖バンドを意味する。D、不可逆的IgA:EP-421-433結合のgp120ペプチド421-435による阻害。唾液IgA(80 μg/mL)をgp120ペプチド421-435(100 μM)または希釈剤で処理した後、EP-421-433(10μM)を添加し、更に21時間インキュベーションした。EP-421-433付加物は、パネルCと同様にして検出され、バンド強度はデンシトメトリーで測定された。プロットした値は、重鎖および軽鎖サブユニットの和を示す。
【0048】
図23:唾液IgAによって切断されたペプチド結合の同定。示したのは、IgA(80 μg/mL、46時間)で消化されたgp120(270 μg/mL)の、典型的なクーマシー青染色したSDS-ゲル電気泳動である。生成したポリペプチド断片のN末端配列は、一文字アミノ酸記号を使用して報告されている。括弧内の値は、個々の配列決定サイクルに回収されたアミノ酸の量(pmol)を表す。gp120消化物の電気泳動の前に、IgAは固定化抗α抗体カラム上でのクロマトグラフィによって除去された。
【0049】
図24:HIV血清陰性人由来のAbによるHIV中和。A、4人のプールされた血清または唾液から精製したIgAおよびIgG Abの中和効力。HIV-1株、97ZA009; 宿主細胞、フィトヘムアグルチニン刺激されたPBMCs。抗体は、ウイルスと24時間インキュベートされた。値は、抗体の代わりに希釈剤を受けた培養と比較したテスト培養中のp24濃度のパーセント低下として表される(4複製の平均±s.d.)。B、IgA中和活性のEP-421-433による阻害。ヒト血清から精製されたIgA(2 μg/mL)は、予めEP-421-433(100 μM)、コントロールEP-VIPまたは希釈剤とインキュベートし(0.5時間)、残存HIV中和活性はパネルA.と同様にして測定した。データは、抗体非存在に観測された値に対する相対p24量として表されている。C、時間依存性HIV中和活性。HIVは、予め唾液または血清IgAと1時間インキュベートし、中和活性はパネルAと同様にして測定された。
【0050】
図25:AIDSへの進行の遅いHIV感染男性中で上昇した、gp120を切断するIgA。A、IgA画分のgp120切断活性。B、血中 CD4+ T細胞数。Bt-gp120の切断は、SDS-電気泳動によって測定され、活性は、55kD断片の強度(AVU)として表された。Bt-gp120、0.1μM; IgA、80μg/mL; 反応時間、48時間。各々の点は、1人の被験者を表す。値は、2つの複製の平均値である。SP、進行の遅い感染者; RP、進行の急速な感染者。採血1、RPの採血2、SPの採血2の検体は、各々、血清転換後6ヵ月、1−5年および5.5年の時点で採取した。*P=0.035対HIV血清陰性グループ; ** P<0.0001対RPグループまたはHIV血清陰性グループ。
【0051】
図26:ヒトIgMおよびIgGによるAβ1−40の切断。6人の非AD被験者(各々、年齢35歳未満(若)または72歳超(老))からプールされたIgG(1.6μM)またはIgM(34nM)と、37度で3日間インキュベートされたAβ1-−40(100μM)。反応は、逆相HPLCによって分析された(TFA中10%−80%のアセトニトリル勾配、45分、検出: A220)。検討された全ての抗体の生成ペプチドプロフィールは、図28に示したそれと同様であり、Lys28-Gly29で主要な切断、Lys16-Leu17で副次的な切断が起こったことを示した。速度は、合成Aβ1−28を用いて構築した標準曲線から内挿したAβ1−28濃度から求めた。*P<0.0044; **P<0.035。両側非対応t検定。
【0052】
図27:異なる被験者由来のAβ1−40を切断するIgGとIgM抗体の多形性。パネルAおよびB内の全ての被験者は72才超であった。パネルCは、ワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症患者から精製されたモノクローナルIgMによる、Aβ1−40の切断を示す。触媒活性を有する2つのモノクローナルIgMが特定された。これらの一つである、IgM Yvoは、4サイクルの寒冷沈降反応(■)と、さらに固定化抗IgM抗体上でアフィニティクロマトグラフィ(x)による精製後、ほぼ同等の触媒活性を示し、このことは、比活性が一定となるまで精製されたことを示唆する。Aβ1−40(100μM)は、IgG(1.5μM)またはIgM(27nM)と37度、3日間インキュベートされた。切断速度は、図26と同様にして測定された。
【0053】
図28:モノクローナルIgM Yvoによって切断されるAβ1−40中のペプチド結合の同定。パネルA、モノクローナルIgMとインキュベートされたAβ1−40(100μM)の逆相HPLCプロフィール(Yvo、600nM; 24時間; TFA中10%−80%のアセトニトリル勾配、45分)。 検出: 220nm。最上段および最下段のHPLC記録は、コントロールとしてIgM Yvo単独およびAβ1−40単独である。パネルB、エレクトロスプレーイオン化−質量分析(ESI−質量分析)による、保持時間21.2分のピークのAβ29−40断片との同定。挿入図、Glu-Ala-Ile-Ile-Gly-Leu-Met-Val-Gly-Gly-Val-Val(Aβ29−40)の一価(M+H)+イオンの正確な理論m/z値に相当する、m/zピーク1085.5周辺のスペクトルの拡大走査。拡大走査中明白に見られる1質量単位のピーク分裂は、Aβ29−40一価イオンの天然同位体分布を反映している。一価ペプチドイオンの更なるMS/MS分析は、予期されたb-およびy-型断片イオン列の検出(図示せず)に基づき、Aβ 29−40としての同定を確認した。
【0054】
図29:ポリクローナルIgM(6人の高齢被験者からプールした)によって切断されるAβ1−40中のペプチド結合の同定。パネルA、IgMとインキュベートされたAβ1−40(100μM)の逆相HPLCプロフィール(IgM、400nM; 74時間; TFA中10%−80%のアセトニトリル勾配、45分)。 検出: 220nm。最上段および最下段のHPLC記録は、コントロールとしてIgM単独およびAβ1−40ペプチド単独である。パネルB、ESI−質量分析による、保持時間10.2分のピークのAβ1−16断片との同定。挿入図、Asp-Ala-Glu-Phe-Arg-His-Asp-Ser-Gly-Tyr-Glu-Val-His-His-Gln-Lys(Aβ1−16)の3価(M+3H)3+および2価イオンの正確な理論m/z値に相当するm/zピーク652.6および978.0周辺のスペクトルの拡大走査。拡大走査中明白に見られる0.3または0.5質量単位のピーク分裂は、Aβ1−16の3価および2価イオンの天然同位体分布を反映している。3価ペプチドイオンの更なるMS/MS分析は、予期されたb-およびy-型断片イオン列の検出(図示せず)に基づき、Aβ1−16としての同定を確認した。
【0055】
図30:触媒IgM Yvoまたは触媒活性を持たないIgM 1816の存在下におけるAβ1−40集合体の形態。パネルA、モノクローナルIgM(0.5μM)を含むPBS中で6日間37度に維持されたAβ1−40(100μM)の原子間力顕微鏡写真。x、y、z範囲:10μM、10μM、10nm。PF、SFとOと標識された矢は、それぞれ、ペプチドプロトフィブリル、ペプチド短フィブリルおよびオリゴマーを意味する。コントロールとして、新たに調製されたペプチドと触媒IgMの反応混合物(0日目)と、触媒活性のないIgMとインキュベートしたペプチドを含めた。IgM Yvo存在下6日目で劇的に減少したペプチド集合体に注目されたい。パネルB、触媒IgM Yvo存在下12日目の、6日目に比較して減少したAβ1−40集合体。反応条件とAFMはパネルAと同様である。矢印の意味はパネルAと同じ。MF、ペプチド成熟フィブリル。
【0056】
図31:IgM Yvoの触媒メカニズムの特徴描写。パネルA、ビオチン化されたセリンプロテアーゼ阻害物質、Bt-Z-2Ph(500μM)のIgM Yvo(0.1μM; レーン1)による不可逆的結合と、共有結合反応性を欠くコントロールプローブ、Bt-Z-2OHの同一条件下におけるIgM反応性の欠如(レーン2)を示す、ストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ染色した還元SDS-電気泳動ゲル。コントロールプローブ中のリン原子の親電子反応性は劣っており、そのため酵素様求核原子と反応しない。パネルB、IgM Yvo触媒によるBoc-Glu(OBzl)-Ala-Arg-AMC加水分解の、セリンプロテアーゼ阻害剤Cbz-Zによる化学量論的阻害。挿入図、基質および阻害物質の構造。示したのは、種々の濃度のCbz-Z(0.05、0.15、0.5、1および2μM)存在下、アミノメチルクマリン(AMC)脱離基の蛍光として測定されたIgMの残存触媒活性である。残存活性は、100Vi/Vとして決定した(Vは阻害物質非存在下における切断速度、Viは阻害物質が全て消費された時点における切断速度の計算値である)。Vi値は、方程式[AMC]= Vi・t + A(1−e−kobs・t)(Aおよびkobsは、各々、阻害物質消費中に放出されたAMCおよび実測一次速度定数を示す)に対する最小二乗法による最適曲線(個々の進捗曲線のr2、>0.96)から得た。方程式は、最初の1次相に引き続く0次相からなる反応にあてはまる。x切片の値(0.94)は、[Cbz-Z]/[IgM活性部位]比率が<2(1モルIgM = 10モルIgM活性部位)のデータポイントに対する最小二乗法による最適曲線から決定した。データは、触媒活性が完全にIgM活性部位に起因していることを示唆する。パネルC、Aβ1−40(30および100μM)存在下および非存在下における、IgM Yvo(10nM)によるBoc-Glu(OBzl)-Ala-Arg-AMC(200μM)切断の進捗曲線。観察された阻害は、Boc-Glu(OBzl)-Ala-Arg-AMCとAβ1−40がIgMの同じ活性部位によって切断されることを示唆する。
【0057】
図32:適応触媒選択。抗原消化とB細胞レセプター(BCR)からの遊離は細胞増殖の停止を誘導するので、ほとんどの抗体応答は触媒回転率の向上と相容れない。しかし、膜貫通BCR信号伝達速度まで、BCR触媒速度が向上することに障壁はない。ある種の状況下(例えば、異なるBCRs(μ、αクラス)またはCD19過剰発現と関係し得る、加速した膜貫通情報伝達速度、または、内在性または外来性の親電子抗原によるB細胞刺激)では、触媒速度の更なる改善が可能である。
【0058】
図33:生来的にタンパク質分解活性を有する抗体によるHIVの不活化。HIVウイルス表面に見られる三量体gp120は、CD4およびケモカイン受容体との結合を経て宿主細胞へ侵入するために不可欠である。gp120のスーパー抗原部位を認識することによりgp120を加水分解するポリクローナルおよびモノクローナル抗体が、非感染者中に確認された。これらの抗体は、抵抗性を与えるか、またはHIV感染の進行を減速することができる生来性防御システムを構成するように見える。
【0059】
発明の詳細な説明
本発明の種々の実施例の制作と使用について以下に詳述するが、本発明は、多種多様な具体的状況において実施され得る多くの発明概念を提供することが理解されるべきである。ここで議論される具体的実施例は、発明を製作および使用するための具体的方法の単なる例証であって、発明の範囲を定めるものではない。
【0060】
本発明の理解を促進するため、用語を以下に定義する。ここに定義された用語は、本発明に関係した領域の通常の技能を備えた人が一般的に理解している意味を持つ。”a”、”an”、および”the”のような用語は単数のみを指すことを意図せず、具体例が例証に用いた事項の概括的な種類を含む。ここでの命名法は本発明の具体的な実施例を述べるために使用され、その使用は、請求事項中に略述したものを除き、発明の範囲を限定しない。
【0061】
1.治療用プール免疫グロブリン。プールしたヒト血清から調製されたIgGクラス免疫グロブリンの静脈内注入(一般にIVIG製剤と表示される)は、現在いくつかの疾患の治療に使用される。大多数の市販IVIG製剤は、精製されたIgG抗体から成るが、ヒト血清で見られるのとほぼ同じ割合で配合されたIgG、IgMおよびIgAから成るより完全なIVIG製剤、ペンタグロビン、もある。IVIGは通常、抗体の触媒活性の保持にはかまわず調製され、調製手順においては比較的激しい化学的方法が使用される(1)。特定のより新しいIVIG製剤は、純度を改善するためクロマトグラフィ法を取り入れる。ウイルス感染の伝播を最小にするため、濾過やウィルス不活化手順はIVIG製剤にも取り入れられる。
【0062】
健康な成人の血中に循環する抗体は、種々の自己抗原および外来抗原(例えば、アミロイドβペプチド、CD4、VIP、gp120およびTat)と結合することが記述されている(2−8)。これらの抗体のいくつか、例えば、アミロイドβ ペプチドに結合する抗体(9)は、従来のIVIG製剤中でも記述されている。最近、アルツハイマー病患者に投与された従来のIVIGが、認識機能を改善することが示唆された(10)。自己免疫疾患において、、特定の治療の標的である抗原(例えば、ある種のリンパ腫治療の標的であるCD4抗原に対する抗体(11))を含む、自己抗原に対する高親和性抗体が免疫系によって産生される。
【0063】
本発明は、治療用途をもつプールされたヒト触媒免疫グロブリンの準備をする。接頭辞「CIVIG」は、血清由来のプールされたIgG、IgMおよびIgAに言及するのに用いられる(例えばCIVIGg、CIVIGmおよびCIVIGa)。接頭辞CIVIGasは、唾液由来のIgAを指すのに使用される。ここで使用されるように、「アブザイム」または「触媒免疫グロブリン」なる用語は、酵素活性を有する一つ以上の抗体の少なくとも一部を記述するために、交換可能に用いられる。酵素活性は、例えば、プロテアーゼ、ヌクレアーゼ、キナーゼまたは他の同様な活性を含む。ここで使われるように、「クラス」と「サブクラス」は、重鎖と軽鎖のクラスとサブクラスを指す。重鎖定常領域の違いにより、免疫グロブリンは、IgG、IgA、IgM、IgDおよびIgEの5つのクラスに分類される。各々のクラスの免疫グロブリンは、κまたはλ型の軽鎖を含むことが出来る。ここで使用されるように、「クラス選択」なる用語は、一つ以上の免疫グロブリンクラスの選別を記述するのに用いられる。ヒトIgGおよびIgAクラスの免疫グロブリンは、重鎖のサブクラスによってさらに副分類することができる。例えば、IgA免疫グロブリンは、2種のサブクラス、IgA1およびIgA2に副分類される。ここで使われるように、「サブクラス選択」なる用語は、一つ以上の免疫グロブリンサブクラスの選別を記述するのに用いられ、サブクラスの全て、幾つか、または1つを含むかもしれない。例えば、IgAのIgA1とIgA2サブクラスは、固定化されたジャカリンのようなレクチン類、またはIgA1とIgA2抗体に対する固定化抗体を用いて、既知の方法で容易に分離できる(12,13)。
【0064】
本項と以下の例で記述される発明の重要な面は、以下の通りである:
(a)異なるクラスの免疫グロブリンは、異なる水準の触媒活性を示す。従って、最大活性を具えた免疫グロブリンの選択は、免疫グロブリンの触媒活性に由来する生物学的利益を最大にするのに役立つ。
【0065】
(b)粘膜分泌物は、しばしば、血液由来の免疫グロブリンを上回る触媒活性を持った免疫グロブリンを含む。従って、唾液や乳汁のように粘膜環境で生産された免疫グロブリンを含む分泌物は、CIVIG製剤の優れた原料である。
【0066】
(c)多くの個人由来の触媒免疫グロブリンをプールすることは、異なった特異性と触媒活性を持った触媒の範囲を多様化する。個々の人間によって生産される免疫グロブリンの性質は、彼らに特有の免疫学的歴史(例えば、異なった微生物への暴露)に応じて起こる適応過程に依存し、結果として免疫グロブリンをプールすることが、より多数の抗原に向けられた異なる特異性と触媒活性を具えた免疫グロブリンのレパートリーを増やす。さらにまた、CIVIG製剤のようなポリクローナル抗体混合物は、免疫グロブリン定常領域(14)や免疫グロブリン可変領域(15)に対する抗体を含む、抗体に対する抗体を含有する。触媒活性は免疫グロブリンの他の免疫グロブリンへの結合によって制御を受けるので、異なる人間由来の免疫グロブリンをプールすることは、触媒活性の変化を引き起こすものと期待される。これは、以下に例1および例2で開示される、CIVIG調製品に観測されるタンパク質分解活性が、モノクローナル抗体群との比較において優れていることと一致している。
【0067】
(d)CIVIGの調製方法は、分画方法の種々の段階で触媒活性の測定を伴い、そして、従来のIVIG分画方法とは異なり、CIVIG分画方法は触媒活性の喪失を最小にとどめるよう設計される。CIVIG調製品の使用意図に基づき、触媒作用の分析評価は、非選択的触媒活性を確認するモデル基質(例えば、Glu-Ala-Arg-アミノメチルクマリン、EAR-MCAと省略する)、または特異的な触媒活性を確認するポリペプチド基質を利用する。ここで提供される後者の基質の例は、HIV gp120およびHIV Tatを含む。また、プロテイン Aのようなブドウ球菌の発症因子に対する触媒活性の例も開示される。さらに、例えばアミロイドβペプチドやCD4の様な自己抗原に対する触媒活性も開示される。さらに、触媒種中に位置する求核部位と親電子化合物との反応に基づいて、CIVIG調製品内の触媒種を選択性によって選別する方法も開示される。
【0068】
2.免疫グロブリンの非選択的触媒活性。ここに示すのは、35人からプールした血清および4人からプールした唾液からアフィニティクロマトグラフィ法によって精製されたIgG、IgMおよびIgAを使って観測された説明と結果である(16)。免疫グロブリンの非選択的な触媒活性の方法と生物学的重要性に関するさらなる詳細は、例1内で提示される。
【0069】
血清由来のIgG、IgMおよびIgAは、これまで接頭辞CIVIGで示され、各々、CIVIGg、CIVIGmおよびCIVIGaに対応し、一方、唾液からのIgAはCIVIGasと称される。IgAに対する固定化抗体が、血清および唾液からIgAを精製するのに用いられた。免疫グロブリンは、電気泳動上均一で、ゲルのイムノブロットはIgG、IgMおよびIgAに対する適切な抗体で染色可能であった。
【0070】
モデルペプチド基質Glu-Ala-Arg-アミノメチルクマリン(EAR-AMC)は、アミド結合の切断によるアミノメチルクマリンの遊離を測定する蛍光定量分析によって種々の免疫グロブリン調製品のタンパク質分解活性を決定するのに用いられた。調査された血清免疫グロブリンクラスのうち、タンパク質単位質量当り最大の触媒活性は、CIVIGa画分に見出され、CIVIGg画分が最小活性であった(図1)。CIVIGas(唾液IgA)はCIVIGa(血清IgA)より低い活性を示したが、その活性は血清IgG画分より著しく大きかった。IgA画分の高水準活性の発見は、この免疫グロブリンサブクラスが成熟B細胞産物であるので重要である。IgGに比べて高水準なIgMの触媒活性が報告されている(16)。IgMは、B細胞が適応成熟を経る過程で最初の生産物である。IgGの低水準活性に基づいて、触媒活性の改善がB細胞の生理的成熟の条件下において不都合な出来事であることが示唆される。IgAに関するデータは、成熟したB細胞によるIgAクラスの高活性触媒抗体の産生には規制がないことを示す。
【0071】
次に、CIVIGg、CIVIGm、CIVIGaおよびCIVIGasのEAR-AMC切断活性を、市販のIVIG製剤から精製された対応するIgG、IgMとIgA(IVIGg、IVIGmとIVIGaと称する)と比較した。市販原材料は、ペンタグロビン(バイオテストファルマ社; IgG、IgMおよびIgAの混成)、およびIgG製剤であって他の免疫グロブリンクラスを痕跡量のみ含む、イントラテクト(バイオテストファルマ社)、ガンマガードS/D (バクスターヘルスケア社)、インビーガムEN(バクスターヘルスケア社)とキャリミュンNF(ZLBバイオプラズマ社)であった。同一の免疫親和性手順が、血清または唾液(CIVIG製剤)と市販IVIG製剤から免疫グロブリンを精製するために使用された。各々の免疫グロブリンクラスの場合、CIVIG製剤は、対応するIVIG製剤よりかなり高い触媒活性を示した。比較は、図2(CIVIGg対いろいろなIVIG製剤からのIgG画分(IVIGgと称する))、図3(CIVIGm対IVIGm)と図4(CIVIGaおよびCIVIGas対IVIGa)に示される。
【0072】
免疫親和性による精製をしていない、市販のIVIG製剤も研究された。表1に示すように、CIVIGgは一貫して、IgGを含有するIVIG製剤と比較してより高いEAR-MCA切断活性を示した。同様に、CIVIGa、CIVIGasおよびCIVIGmは、IgG、IgMおよびIgA混成の市販IVIG(ペンタグロビン)より高い活動を示した。
【表1】
【表2】
【0073】
CIVIGaおよびCIVIGasは、切断結合N末端側に塩基性残基を含むペプチド基質を最もよく切断した(表2)。しかし、CIVIGaとCIVIGasの微細特異性の違いは明白であり、後者のほうが隣接残基に対する条件は厳密でない。
【0074】
CIVIG調製品の優れた活性は、免疫グロブリンを血清と唾液から分離する比較的穏やかな方法、すなわち、免疫親和性クロマトグラフィ、に起因していると考えられる。
【0075】
免疫グロブリンの触媒機能が優れた治療的効果をもたらすなら、CIVIG製剤は市販のIVIG製剤よりも臨床使用に適している。
【0076】
3.ポリペプチドを切断できる触媒免疫グロブリン。選択的にHIV-1コートタンパク質gp120の切断を触媒する、非感染者由来IgM抗体の能力は記述されている(17)。上の第(2)項で挙げたCIVIGaおよびCIVIGas調製品は、電気泳動ゲルの完全gp120バンドの減少と、より低分子量の断片の出現によって明白に示される通り、ビオチン化されたgp120の濃度依存的切断を示した。4人の血清IgAと唾液IgAは、いずれもgp120切断活性を示し、この事は、触媒IgAの広範囲な分布を確認している。図5に、希釈剤、プールしたヒト血清およびヒト唾液由来のCIVIGas、CIVIGg、CIVIGmおよびCIVIGaによるgp120切断活性を例示する。ビオチン化gp120は、血清IgG、IgM、IgA、および唾液IgAとインキュベートされ、そして、反応混合物は還元SDS-電気泳動によって視覚化された。用量反応曲線から、唾液IgAの平均活性は、血清IgAの約20倍高かった。表3は、血清IgAと比較して唾液IgAのgp120加水分解活性(mg Ig/mLに補正)を例示する。IgGは、十分触媒的でなかった。市販IVIGから精製されたIgGも、検出可能なgp120切断活性を示さなかった(イントラテクトIVIGg、ペンタグロビンIVIGg;150μg/mL(図5と同様に分析された))。同様に、免疫親和性クロマトグラフィにより分画されていないイントラテクトIVIGとペンタグロビンIVIGは、gp120を切断することができなかった(150μg/mL)。
【表3】
【0077】
CIVIGaおよびCIVIGasの触媒活性は、いくつかの無関係なタンパク質の検知不能な切断から明白なように、gp120選択的であった。これは、図6中で例示される。この図6中で調査されたビオチン化タンパク質は、gp120、上皮細胞増殖因子受容体の細胞外領域(exEGFR)、ウシ血清アルブミン(BSA)、ヒト血液凝固第8因子のC2領域(C2)およびHIV Tatであった。
【0078】
更なる研究で、CIVIGaおよびCIVIGas調製品が特定の他のタンパク質を切断できることも明らかとなった。具体的に、図7は、これらの調製品によるプロテインA、より小さい程度のCD4の切断を示す(図7)。プロテインAは、スーパー抗原として免疫グロブリンに結合することが以前に述べられているブドウ球菌タンパク質である(18)。以前に分析されたあるモノクローナルIgMは、プロテインA切断活性を欠けていた(17)。これらの研究において使用されたプロテインAは、V領域によるスーパー抗原としての認識を保持したまま、Fc結合部位を失活させるため、ビオチン化の前にヨウ素化された。IgA触媒によるプロテインAの加水分解は、B細胞分化の過程における触媒部位の適応的改善に起因するのかもしれない。CD4の切断に関して、自己免疫疾患およびHIV感染者中にCD4結合性抗体の存在することが報告されており(5,19)、また、市販IVIG調製品もCD4結合性抗体を含有する。我々のCIVIGaおよびCIVIGasによるCD4切断は、CD4結合性抗体の一部はこのタンパク質の切断を触媒することができることを示す。
【0079】
HIVタンパク質Tatの更なる研究は、CIVIGmはこのタンパク質を触媒的に加水分解するが、CIVIGa、CIVIGasまたはCIVIGgは分解しないことを示した。これは図8中で、電気泳動ゲル上で14-kDバンドの減少として、例示される。異なるクラスの免疫グロブリンは、種々のポリペプチドを異なった程度に加水分解すると結論することができる。以前、非感染者からのIgM抗体は、Tatに結合すると記述された(20)。従って、非感染者由来CIVIGaおよびCIVIGasがTatを加水分解しないことは、B細胞成熟を推進する内在性抗原の欠如を反映すると解釈してよいであろう。比較として、CIVIGaおよびCIVIGasによるgp120の効率的切断は、非感染者においてIgAクラス抗体の応答を誘発するような、gp120のスーパー抗原領域に配列同一性をもった内在性抗原の存在によって説明できる(21)。
【0080】
図9Aは、CIVIGaおよびCIVIGasが、一次性CCR5-共受容体依存性HIV株(ZA009)による培養末梢血単核細胞(PBMC)の感染を強力に中和したという知見を例示する(図9A)。HIV-1は、種々の濃度のCIVIG調製品と市販IVIGとインキュベートされ、その後、PBMCに感染させ、感染の程度はキャプシドタンパク質p24レベルを測定することによって決定された。HIV-1中和活性は、希釈剤処理群(リン酸緩衝生理食塩水; PBS)と比較したp24濃度のパーセント減少として表される。CIVIGmおよびCIVIGgは、低い中和活性を示した。いくつかの市販IVIG製剤は、検出可能な中和活性を欠いていたが、1つのIVIG製剤(ガンマガード)は、低レベルの活性を示した(図9B)。
【0081】
ポリペプチドの共有結合反応性類縁体(CRA)は、抗体用のプローブとして開発された。CRAは、抗体の結合部位中に存在する求核反応基に不可逆的に結合することができる親電子反応性ホスホン酸エステル類縁体を含む(22,23)。共有結合反応は、特異性を与える非共有結合性抗原−抗体結合と協調して起こり、ペプチド性CRAを不可逆的かつ特異的な抗体結合に使用することを可能にする。報告されているそのようなペプチド性CRAの一例は、C-末端にホスホン酸エステルを含むgp120残基421-−433の類縁体である(gp120ペプチドCRA)。gp120のこの領域は、このタンパク質のスーパー抗原部位の構成要素である(4,24)。CIVIGaおよびCIVIGmによるHIV-1の中和は、gp120ペプチドCRAによって阻害され、このことは、gp120のスーパー抗原部位の認識が中和活性に必要であることを確証した。図10は、これらの知見を例示する。CIVIGmおよびCIVGaは、gp120ペプチドCRAまたは希釈剤と予めインキュベートされた後、残存中和活性は図9と同様にして決定された。無関係なペプチドCRAであるVIP-CRAは、非特異的効果を除外するコントロール試薬として使用された。検討された両CIVIG調製品の中和活性は、gp120ペプチドCRAの存在下で低下した。合わせて考えると、これらの知見は、触媒活性をもつプールポリクローナル免疫グロブリンが、gp120のスーパー抗原部位を認識することによってHIVを中和できることを示す。
【0082】
4. CIVIGの有用性。定常領域の効果器機能が等価であると仮定すると、触媒抗体による抗原の化学変換は、通常の抗体を凌駕する生物学的効果を発揮すると期待することができる。第一に、触媒反応は抗原の化学転換を伴い、それは抗原の生物活性を永久に変化させる。対照的に、可逆的に結合する抗体から抗原が解離すると、未修飾の生物活性をもった抗原が再生される。第二に、触媒は繰り返し利用が可能であり、すなわち、一つの触媒分子は複数の抗原分子を化学変換することができる。比較として、普通の抗体は化学量論的に作用し、例えば、IgG、IgMおよび分泌型IgAは、それぞれ最大2、10、および4分子の抗原と結合する。通常のIVIG製剤は、種々の疾病の治療目的に比較的大量投与される(例えば、1g/kg体重で、一ヶ月間隔で繰り返し処置(25))。CIVIG製剤の示す触媒速度に応じて、比較的少量のCIVIGが有効な治療剤であると予測される。例えば、IVIGとCIVIG製剤の相対的な治療有効性は、以下のような仮想条件下で予測できるだろう:(a)抗原の結合と抗原の触媒的切断が、IVIGとCIVIGそれぞれの治療機序である; そして、(b)IVIGおよびCIVIG製剤の薬物動態は等しい。CIVIG製剤が約2モル抗原/モル免疫グロブリン/分(これは、あるCIVIG調製品で観察された速度定数に近い)の触媒速度定数を示すなら、CIVIG1モルあたり 20,160モルの抗原が7日間で加水分解される。さらに、CIVIG製剤の10%が触媒免疫グロブリンから成り、IVIG製剤の10%が抗原結合性免疫グロブリンから成ると仮定すると、1モルの二価IVIGは最大0.2モルの抗原と結合すると推論できる。これらの仮想条件下で、CIVIG製剤の治療有効性はIVIGのおよそ100,000倍大きく、体重1kg当たり10μgのCIVIGの投与は、体重1kg当たり1gのIVIGに等しい治療効果を7日後にもたらす。これらの仮想条件は例証目的のために明らかに単純化しており、実際には、製剤の相対的な有益性は経験的に決定されなければならない。
【0083】
原則として、触媒抗体による抗原の除去が治療上有用であるあらゆる疾病が、CIVIG製剤を用いた治療対象となる可能性がある。当業者は、本発明によって治療され得る種々の疾病があることを認識するだろう。有用な治療への応用は、非選択的な触媒抗体(例えば例1)にも、抗原特異的な触媒抗体(例えば例2と3)にも予想し得る。IVIGは、いくつかの病気の治療に文献中で使用されており、また、更なる病気への使用が考慮下にあって、技巧を具えた人によって理解される。これらの医学状況全てにおけるCIVIG製剤の治療的な使用は予知できる、例えば、自己免疫血小板減少紫斑病、全身エリテマトーデス、抗リン脂質症候群、脈管炎、炎症性筋炎、リウマチ様若年性慢性関節炎、アルツハイマー病、細菌性感染症、感染性ショック、HIV感染、および器官・細胞移植。
【0084】
従来のIVIGは、通常、非常によく耐えられる(25)。最も一般的な副作用は、風邪のような症状であり、一時的に注入を止めるか、またはヒドロコルチゾンの前投与によって管理することができる。したがって、CIVIG製剤の副作用が耐えられないと予想する理由はない。IgA欠乏者では、アナフィラキシーの可能性のために、CIVIGaおよびCIVIGas製剤の使用は禁忌である。
【0085】
5. 投与経路:IVIGの通常の投与経路は静脈注射による血中投与であり、この経路によるCIVIG投与も治療効果を発揮すると予測される。既知の適切な賦形剤を含む生理食塩水中のCIVIG製剤は、静脈経路による投与にふさわしい。他の経路は特定の状況で有用であることが予期され、当業者に知られている。HIV感染の場合、ジェルまたは他の適切な剤形のCIVIGの膣または直腸内投与は、ウイルスの経膣および経直腸感染から保護すると予測される。意味論的な明快さのためには、このような方法で投与されるCIVIG製剤は、より正確には、触媒膣内免疫グロブリンおよび触媒直腸内免疫グロブリンと称されるだろう。皮膚疾患のためには、CIVIG製剤の局所適用が適切である。これらの適用各々において、適切な賦形剤が製剤に配合されるだろう。、例えば、CIVIGの膣投与に妥当な剤形の一例は、ヒドロキシエチルセルロース中のジェル(例えば2.5%のヒドロキシエチルセルロースジェル、ナトロゾル250HHXファーム、ヘラクレス/アクアロン)である。このジェルは、開発中のいくつかの膣殺菌剤用の不活性担体として使用される。ジェル基剤の濃度は、生殖器官での十分な拡散速度をを得るために適切で、適切なアプリケーターが、性交の数分前(例えば5分)に膣内にジェルを置くために使用されるだろう。
【0086】
6. 原料:好ましいCIVIG製剤は、伝播可能な感染をもつ個人を適切に除外した後、血液銀行において人間によって供与された血清または血漿のランダムな収集に由来する。血清または血漿中のIgA、IgMおよびIgG濃度は、それぞれ、およそ3、1.5および12g/リットルである。特定の疾病を標的とする場合には、より制限的な基準を適用することができる。例えば、アルツハイマー病には、アミロイドペプチド抗体は年齢が進むにつれて増加する傾向があるので、血液採取は高齢者を包含する方向へ偏ることができる。同様に、HIV感染者からの血液は、感染がウイルスに対するタンパク質分解抗体と関係し得るので、CIVIG製剤の好ましい原料と成り得る。乳汁は、IgA濃度が比較的高く(初乳および成熟乳、それぞれ、約12および1g/リットル)、もう一つのCIVIG原料である。提供者からの唾液は、CIVIGasの便利な原料であり、高水準のタンパク質分解HIV抗体を含有する。唾液中のIgA濃度は、およそ0.3g/リットルである。大量の唾液(例えば、約20ml)は、非侵襲性の方法(例えば2−3分間パラフィルムの小片を噛むことによる唾液腺の刺激)で、2、3分以内に容易に集めることが可能である。CIVIG製剤の抗原中和活性は従来のIVIG製剤より優れているので、従来のIVIGに要するよりもより少量の原料(血液、唾液、乳汁)で治療に要する量のCIVIGを得ることが出来る。十分な抗体多様性を確保するために、血液、唾液または乳汁はより多くの人間(例えば100人以上の人間)からプールすることが好ましい。
【0087】
7.調製の方法:上記の様に、従来のIVIGの調製は、有機溶剤による激しい処理を含む。さらに、ほとんどの市販IVIGは、IgGクラスの免疫グロブリンに集中しているが、IgGは、IgAおよびIgMクラスと比較して著しく低い触媒活性を有する。従って、CIVIG製剤は、多くの場合CIVIGmおよびCIVIGa(および、CIVIGas)である。免疫親和性法は、血液や唾液のような粘膜液からCIVIG調製品を一段階で精製するのにふさわしい。CIVIGgには、固定化した抗IgG抗体、または細菌のIgG結合タンパク質(例えばプロテインG)が、精製のために使用できる。CIVIGmおよびCIVIGa(そして、CIVIGas)には、ヒトIgMおよびIgAに対する固定化抗体が適切で、電気泳動的に均一な免疫グロブリンを産する。必要ならば、更なる精製は、触媒部位の健全性を維持するように注意した適切な分画手法(例えばクロマトグラフィ、沈殿)を使用して行うことができる。免疫グロブリンと免疫グロブリン結合性基材の化学量論が最適水準に維持されるならば、免疫親和性法を使用した精製のスケールアップは問題ない。回収された免疫グロブリンは、限外濾過または凍結乾燥法によって望ましい濃度に濃縮される。
【0088】
CIVIG製剤を得る代替方法は、関心の触媒を濃縮するようなクロマトグラフィ基材を使用することである。例えば、固定された形で特定のタンパク質を含んむ基材は、この目的に役立つと推論できる(例えばプロテイン Aおよびプロテイン L)。これらのタンパク質は、抗体のスーパー抗原結合部位に結合し、触媒作用とスーパー抗原結合の間の良好な分子相互関係のため、高活性の触媒免疫グロブリンの回収が期待される。
【0089】
優先して触媒部位に結合する能力をもつリガンドは、CIVIG精製のもう一つの代替法である。例えば、親電子反応基を含む共有結合反応性類縁体(CRA)との反応の程度は、どの抗体が最も高い触媒活性を持つかを予測する(23)。ハプテン性CRAまたはポリペプチド性CRAは、共有結合反応を固相上で進行させた後、濃縮された触媒を抗体求核基とのホスホン酸エステル結合を開裂する試薬(例えば、ピリジニウムアルドキシム試薬(26))を使って溶出させることによって、各々、非選択的CIVIGおよび抗原選択的CIVIGを単離するために使用することができる。
【0090】
精製の間触媒部位を保護する方法もまた予見可能で、これは、比較的激しく、保護しなければ触媒部位を変性させるかもしれない、従来のIVIG精製方法を使用してCIVIG製剤を得るのに役に立つ。例えば、従来のIVIGは、溶剤温度の変化を伴う冷エタノール沈殿処理を使用して調製される。塩酸グアニジンを使用した変性−復元サイクルを含む触媒免疫グロブリン軽鎖の精製において、ポリペプチドVIPの包含は、高触媒活性の回復を可能にする(27)。このように、従来のIVIG調製において過剰量のペプチド基質を添加することにより、高活性CIVIG調製品を得ることができる。同様に、従来のIVIG調製においてCRAを添加すると、一旦親電子物質が免疫グロブリン求核基と共有結合すると触媒部位が活性状態に固定されることから、高活性CIVIG調製品の回収を可能にするかもしれない。免疫グロブリン−CRA複合体は、その後、抗体求核基とCRA中の親電子基の間の共有結合を開裂させることが知られているヒドロキシルアミンまたはピリジニウムアルドキシム試薬(26)で処理される。解離したCRA産物を除去した後(例えば、透析によって)、CIVIGは活性型で回収することができる。
【0091】
【0092】
【実施例】
【0093】
実施例1:アミド分解IgA
使用した略号:Ab、抗体; AMC、7-アミノ-4-メチルクマリン; CHAPS、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホン酸; DFP、ジイソプロピルフルオロホスフェート; FU、蛍光単位; SDS、ドデシル硫酸ナトリウム。
【0094】
分泌された抗体(Ab)レパートリーは、定常領域(μ、δ、γ、α、ε)および可変領域遺伝子(V、D、J遺伝子)の計画的発現から発生する。IgGおよびIgA Abクラスは、微生物感染症に対する適応免疫学的防御を担う成熟Bリンパ球の主要産物である。健常人のAbは、多様な化学反応を触媒する(総説1−4)。多クローン性および単クローンIgM(B細胞分化の過程で生産される最初のAbクラス)は、モデルトリペプチドおよびテトラペプチド基質を例外なく加水分解することができる(5)。活性は、ペプチド配列条件に関して非選択的で、モデル基質中切断されるアミド結合に隣接した正電荷の要求性によってのみ制限され、基質基底状態の低親和性認識によって特徴づけられる。Abによって触媒される反応はセリンペプチダーゼ様の求核メカニズムによって起こり、このことは、当初トリプシン等のセリンプロテアーゼの不可逆的阻害物質として開発された(6)親電子性ホスホン酸ジエステルによる触媒作用の阻害によって示された。
【0095】
Ab触媒作用の発達面についてはほとんどわかっていない。B細胞受容体(BCR、シグナル変換タンパク質と複合体を形成した膜結合型Ig)の抗原による非共有結合的な占有は、B細胞のクローン選択を推進し、最終的に個々のポリペプチド抗原に特異的に結合できる成熟IgG、IgAおよびIgE Abの生産につながることがよく知られている。触媒活性を具えた成熟IgGの例は、特に自己免疫疾患において報告された(7−11)。しかし、通常の状況下では、抗原特異的な触媒IgGの生産はまれな出来事であり、IgGは一般的にIgMより著しく低い水準でモデルペプチド基質を加水分解する(5,12)。これは、IgGタイプのBCRによるペプチド抗原の触媒的加水分解が、免疫学的に不都合な現象であることを示唆する。従って、Abの触媒作用を、微生物感染に対する適応免疫学的防御のメカニズムと考えることはこれまで難しかった。同様に、広範囲なこれまでの試行(例えば、抗原基底状態および遷移状態の類縁体による免疫)にもかかわらず、臨床的に重要な抗原に対する触媒的に効果的な単クローンIgGは開発されていない(総説4)。この困難さは、IgGクラスAbに固有の触媒能力不足によって説明されるかもしれない。
【0096】
IgAは、粘膜表面における微生物感染に対する防御物質として機能すると一般に考えられる。IgG同様、IgAは、分化終期のB細胞によって生産される。最近の研究は、ヒト乳汁および多発性硬化症患者の血清中のIgAは、キナーゼおよびプロテアーゼ活性を示すことを示した(10,13-15)。しかし、IgA、IgGおよびIgM Abの触媒効率の客観的な比較はされていない。ここでは、我々は健常人の血液および唾液から分離されたIgAが、IgGよりも著しく高い効率でモデルペプチド基質の切断を触媒することを報告する。この知見は、天然触媒源として液性免疫応答のIgA画分を強調し、触媒抗体合成を支持する免疫学的メカニズムに関して面白い問題を提起する。
【0097】
材料と方法
抗体調製。多クローン性Abは、感染または免疫学的疾患の所見のない4人(1人の女性と3人の男性; 年齢28−36歳; 我々の研究室識別コード、2288−2291)の末梢静脈血由来の血清または唾液から精製された。唾液は、2分間パラフィルムを噛んだ後採取された(16)。Abは、病気の所見のない34人(17人の女性と17人の男性; 年齢17−65歳; 白人30人、黒人2人、アジア人2人; 識別コード679、681−689および2058−2081; メキシコ湾岸血液銀行)から精製された個々のIgA、IgGおよびIgM画分から調製されたプールとしても分析された。血液および唾液採取に関連したプロトコルはテキサス大学被験者保護委員会によって承認され、提供者から告知に基づく同意を得た。
【0098】
IgA精製には、血清(0.5mL)は、ヤギ抗ヒトIgA−アガロースと0.1mMのCHAPSを含む、50mMトリス塩酸、pH 7.5中でインキュベートされた(1時間、Poly-Prepクロマトグラフィカラム(バイオラド)中1mLの安定化ゲル、回転させながら; シグマ−アルドリッチ; セントルイス、MO)。非結合画分を回収し、ゲルを0.1mMのCHAPS を含む50mMのトリス塩酸(pH 7.5)で洗浄した(4mL x 5)。結合したIgAは、0.1mMCHAPSを含む 0.1Mグリシン(pH 2.7)で(2×2mL)、1Mのトリス塩酸(pH 9.0)を含んでいる収集チューブ(0.11mL/チューブ)中に溶出された。単クローンIgAは、多発性骨髄腫患者の血清(ロバートカイル博士、メイヨークリニック、識別コード、2573-2587)、または市販のヒトIgA調製品(多発性骨髄腫患者から分離; 2つのIgA1調製品、カタログ番号BP086とBP087; 2つのIgA2調製品、カタログ番号BP088とBP089; バインディングサイト社、サンディエゴ、CA)から、同様にして精製した。唾液IgAは、同様にして精製された(7mLの唾液、安定状態で0.5mLの抗IgAゲル)。IgGとIgMは、それぞれ、プロテインG−セファロースと抗IgM−アガロースカラム上で、抗IgAカラムの非結合画分を出発材料として、前述のようにして(5,17)精製した。精製Ab検体のタンパク質濃度は、マイクロBCAキット(ピアス社)を使用して決定された。SDS-電気泳動ゲルは、ペルオキシダーゼ接合型ヤギ抗ヒトα、抗ヒトλ、抗ヒトκおよび抗分泌性構成要素Ab(シグマ−アルドリッチ社)でイムノブロットされた。血清および唾液IgAのゲル濾過(1.6mgおよび0.8mg; 識別コード2288−2291から精製した)は、基本的に我々の以前の研究(5,17)の場合同様、スーパーロース−6FPLCカラム(ファルマシア社)上、6M塩酸グアニジン(pH 6.5)中で行った。溶出液中のA280ピークのタンパク質の名目分子量は、単クローンIgM CL8702量(900kD; セダーレーン社)、チログロブリン(330kD; カルザイムラボラトリー社)、およびヒト骨髄腫IgG3λ(150kD; シグマ−アルドリッチ社)との比較により決定
された。血清IgA由来のモノマー画分(10.8-11.4 mLの保持容量に相当)はプールされ、アミド分解活性の検査前に、0.1mMのCHAPSを含んだ50mMのトリス塩酸-0.1 Mグリシン(pH 8.0)に対して4日間4度で透析された(2L x 5)。
【0099】
アミド分解活性。使用された基質は、以下のペプチドの7-アミノ-4-メチルクマリン(AMC)接合体である:Boc-Glu(O-Bzl)-Ala-Arg(Boc、3級ブトキシカルボニル; Bzl、ベンジル; Glu-Ala-Arg-AMC); Suc-Ala-Glu(Suc、サクシニル; Ala-Glu-AMC); Suc-Ala-Ala-Ala(Ala-Ala-Ala-AMC); Suc-Ile-Ile-Trp(Ile-Ile-Trp-AMC); Suc-Ala-Ala-Pro-Phe(Ala-Ala-Pro-Phe-AMC); Boc-Glu-Lys-Lys(Glu-Lys-Lys-AMC); Boc-Val-Leu-Lys(Val-Leu-Lys-AMC); Boc-Ile-Glu-Gly-Arg(Ile-Glu-Gly-Arg-AMC);Pro-Phe-Arg(Pro-Phe-Arg-AMC); Gly-Pro(Gly-Pro-AMC); Z-Gly-Gly-Arg(Z、ベンジルオキシカルボニル; Gly-Gly-Arg-AMC); Z-Gly-Gly-Leu(Gly-Gly-Leu-AMC)(ペプチドインターナショナル社、ルイビル、KYまたはバッヘム、キングオブペルシャ、PA)。AMCを基質C末端のアミノ酸と連結しているアミド結合の加水分解は、0.1mMのCHAPSを含む50mMのトリス塩酸−0.1 Mグリシン(pH 7.7)中、蛍光測定によって96穴プレート中37度で測定された(λex 360 nm、λem 470nm;バリアン ケアリー エクリプス)。真正AMC(ペプチドインターナショナル社)は、標準曲線の構築に使用された。阻害研究において、Glu-Ala-Arg-AMC(0.4mM)は、ジイソプロピルフルオロホスフェート(DFP; シグマ−アルドリッチ社)またはN-(6-ビオチナミドヘキサノイル)アミノ(4-アミジノフェニル)メタンホスホン酸ジフェニルエステル(1a; 参考文献18記載のとおり調製した)の存在下および非存在下に、IgA(8μg/mL; 識別コード2288から)とインキュベートし、AMCの蛍光は上述のように観測した。阻害の化学量論は、以下のようにして推定された。単クローンIgA(1.6mg/mL; 識別コード2582から)は、N-(ベンジルオキシカルボニル)アミノ(4-アミジノフェニル)メタンホスホン酸ジフェニルエステル1b(2.5−20μM; 参考文献19記載の通り調製)と、0.1mMのCHAPSと0.5%のジメチルスルホキシドを含む50mMのトリス塩酸−0.1 Mグリシン(pH 7.7)中、37度でインキュベートした。18時間後、残存活性は、1b処理したIgA(24μg/mL)をGlu-Ala-Arg-AMC(0.4mM)とインキュベートすることにより測定された。
【0100】
ホスホン酸エステル結合。精製したIgA Ab(160μg/mL; 識別コード2288由来)は、0.1mMのCHAPSを含む10mMリン酸緩衝生理食塩水(pH 7.1)中、ホスホン酸ジエステル1aまたは2(0.1mM; 化合物2は参考文献20記載の通り調製)で37度、6時間処理した。ホスホン酸エステル−Ab付加物の形成は、既述の通り(20,21)、SDS-電気泳動後、ブロットのストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ染色により測定された。
【0101】
結果
IgAのアミド分解活性。4人の健常人の血清および唾液由来のIgAサンプルの触媒活性は、まず最初にGlu-Ala-Arg-AMCの加水分解について選別された。健常人から分離された血清IgGおよびIgMは、以前この基質を加水分解することが示された(5,17)。基質中のArgとクマリン基を連結しているアミド結合の切断は、ペプチド結合加水分解の簡便な代用として機能する(22)。緩衝液中でインキュベートされた基質の背景加水分解は、無視し得る程度であった(0.1ΔFU/時)。検討された全てのIgAサンプルは、この活性が陽性だった。血清IgA画分による加水分解は、同じ提供者からの唾液IgA画分よりいくぶん大きな速度で進行した(1.8−4.5倍;図11A)。
【0102】
次に、我々は34人の健常人血清のプールから精製されたIgA、IgGおよびIgM画分のアミド分解活性を測定した。IgA、IgGおよびIgMは、まず最初に濃度を増やしながら試験して、測定可能な蛍光信号を与える濃度を決定した(図示せず)。観察された速度は、μg Ab質量当りで表示された(図11B)。3つのAbクラスの結合部位/質量比はほぼ等しいので(2部位/150−170kD)、これはそれらのアミド分解活性の比較を可能にする。IgAは、IgGより886倍高い活性を示した(IgAおよびIgG、それぞれ、4.70±0.15と0.0053±0.0003μM基質/時/μg Ig)。我々の以前の報告と一致して(5)、容易に検出可能なIgM触媒活性も明白だった(0.99±0.32μM基質/時/μg Ig)。ここで使用した親和性クロマトグラフィ法によって得られるIgGとIgMの純度は前に報告した(5,17)。親和性クロマトグラフィによって得られた血清IgAの還元SDS-電気泳動は、各々抗αおよび抗λ/κ Abで染色される名目質量60および25kDの2つのタンパク質バンドを示した(図12A)。唾液IgA調製品においては、抗分泌性構成要素Abで染色されるもう一つのバンドが観察された(85kD)。クーマシー青染色によって検出されたバンドの全ては、抗α、抗λ/κまたは抗分泌性構成要素Abによっても染色可能であった。クーマシー青で染色されるバンドのどれも、抗μまたは抗γ Abによって染色されなかった。
【0103】
IgAは、非共有結合性およびSS結合した多量体を形成することができる。我々は、IgGおよびIgM触媒活性を確認するために以前使用された方法(5,17)によって、変性溶媒(6M塩酸グアニジン)中のFPLC−ゲル濾過により血清および唾液IgA調製品を分析した。以前の報告と一致して(23)、血清および唾液IgAのそれぞれ82%および10%が、単量体(170kD)として回収され、18%および68%が、二量体種として回収された(各々330kDおよび409kD; 唾液IgAサンプルの残りのIgAは、高分子領域(>600kD)に回収された)。カラムから回収した全てのIgA画分は、基本的に図12Aと同一の還元SDSゲル電気泳動プロフィールを示した。次に、塩酸グアニジン中のゲル濾過によって得られた血清IgA単量体は、透析によって復元された。復元したIgAと、ゲル濾過カラムに付されたアフィニティ精製IgAは、ほぼ同等のGlu-Ala-ArgAMC活性を示し(図12B)、定常的な比活性を与えるまで精製するというテストを満たしている。2つの調製品が同一の活性レベルを示したことから、アフィニティ精製されたIgA調製品は、変性ゲル濾過を行うことなく、以降の触媒分析評価において使用された。
【0104】
プールしたヒトIgGのいくつかの調製品は、ある種の病気の治療における静脈内点滴用に市販されている(IVIG; 24−26)。我々の研究室で調製されたプールヒトIgGと同様、3つの市販IVIG製剤はプールIgAと比較して非常に低い水準のGlu-Ala-Arg-AMCの切断を示した(図13; バクスター社ガンマガードS/DおよびインビーガムEN、それぞれ、0.0012±0.0002および0.0432±0.0006 μM/時/μg Ig; ZLBバイオプラズマ社キャリミュンNF、0.0016±0.0002μM/時/μg Ig; これらのIgG調製品は、IgMおよびIgAを痕跡量しか含まない)。
【0105】
典型的な酵素速度論が、2つのIgA調製品について、Glu-Ala-Arg-AMC濃度を増やしながらの反応速度の検討で観察された(図14)。速度は過剰な基質濃度で飽和できて、ミカエリス-メンテン-アンリ速度論と整合していた。観察されたKm値は、高μMの範囲にあった。これらの値は、多クローン性ヒトIgGについての既報と同じ範囲にある(17)。
【0106】
アミド分解活性が個々のAbで変化する範囲を検討するために、我々はサブクラス既知の4つのIgA(サブクラスIgA1およびIgA2各々2)を含む、多発性骨髄腫と臨床的に診断された患者(n=19)の血清から精製された19の単クローンIgAを調べた。全19のIgAは、検出可能なGlu-Ala-Arg-AMC切断を示した(表4)。触媒活性は、このIgAパネル内で、19倍の範囲で異なった。活性は、両方のIgAサブクラスで検出された(2つのIgA1調製品、販売店カタログ番号 BP086およびBP087、それぞれ、38.1±8.8および23.8±3.4 FU/23時間; 2つのIgA2調製品、販売店カタログ番号 BP088およびBP089、それぞれ、48.9±1.0および50.5±3.9 FU/23時間)。
【表4】
【0107】
基質選択性。血清および唾液由来の多クローン性IgA調製品の基質選択性は、12のペプチド-AMC接合体群を使って検討された(表5)。血清および唾液IgAサンプルによる最大レベルの加水分解は、Arg-AMC結合で起こり、このことは、Arg側鎖の優先認識を示唆する。特定の基質中のLys-AMC結合は加水分解されたが、Arg-AMCよりも低い速度であった。唾液IgAがGly-Pro-AMCの低レベル切断を示した以外、酸性または中性残基のC末端側の加水分解活性は明白でなかった。切断部位における塩基性残基選択性は、Arg-AMC/Leu-AMC結合を除いて同一である、Gly-Gly-Arg-AMCとGly-Gly-Leu-AMCの切断を比較することによっても明白だった。面白いことに、血清および唾液IgAは、種々の基質を同一の速度で加水分解しなかった。唾液IgAがGlu-Ala-Arg-AMC、Ile-Glu-Gly-Arg-AMC、Pro-Phe-Arg-AMCおよびGly-Gly-Arg-AMCを同等の速度で分解したのに対して、血清IgAはGlu-Ala-Arg-AMCに対するはっきりした選択性を示した。
【表5】
【0108】
セリンプロテアーゼ阻害剤との反応性。活性部位志向性セリンプロテアーゼ阻害剤、DFPおよびN-[6-(ビオチナミド)ヘキサノイル]アミノ(4-アミジノフェニル)メタンホスホン酸ジフェニルエステル(1a;図15A)は、IgA触媒によるGlu-Ala-Arg-AMC切断がセリンプロテアーゼ様のメカニズムによって進むかどうか判断するのに用いられた。これらの化合物は、元々通常のセリンプロテアーゼの共有結合阻害剤として開発され(6)、そしてIgGおよびIgMの活性部位との反応性が報告された(5,18,20,21)。DFPと1aは、濃度依存的に血清IgAの触媒活性を阻害した(図15B)。類似した結果は、唾液から分離されたIgAを使って得られた(IC50値:DFP、50±1μM; 1a、37±1μM)。1a処理後加熱し(100度、5分)変性ゲル電気泳動に付したIgAサンプルの分析は、強い約60 kDの重鎖-1a付加物と、より弱い~25 kDの軽鎖-1a付加物を明らかにした(図15C)。同一条件下での中性ホスホン酸エステル2による処置は、切断結合に隣接した正電荷の必要性を示唆した基質選択性研究から予想される通り、検出可能なIgA付加物を与えることができなかった。
【0109】
反応の化学量論は、単クローン血清IgA調製品を用い、制限量のセリンプロテアーゼ阻害剤、N-(ベンジルオキシカルボニル)アミノ(4-アミジノフェニル)メタンホスホン酸ジフェニルエステル1b([1b]/[IgA]比率、0.25−2.0)で触媒活性を滴定することによって検討された(図16)。残存活性(%)対[1b]/[IgA]プロットのx切片は2.5(r2 0.84)であり、IgA1分子あたり2つの触媒部位の期待される化学量論と近かった。
【0110】
考察
これらの研究は、IgAがIgGクラスのAbよりも優れたアミド分解活性を表すことを示す。以前、我々は、生殖細胞型V領域と同一のV領域配列をもったAb軽鎖サブユニットが、セリンプロテアーゼ様のメカニズムに起因したアミド分解およびタンパク質分解活性を示すことを報告し(27,28)、触媒作用が体液免疫系の生来機能であることを示唆した。触媒活性は、B細胞分化の過程で産生される最初のAbである、IgMによっても普遍的に示される(5)。位置志向的突然変異とFabについての以前の研究は、IgGおよびIgM Abの触媒部位がV領域にあることを示した(5,27)。本研究において、多クローン性血清IgAの触媒活性は、同じ提供者からの血清IgGより約3桁高かった。調査された単クローンIgAは全て触媒活性を示したが、その活性レベルは19倍異なっており、IgAのV領域の違いによる活性レベルの変動の予想と一致した。両方のサブクラス(IgA1およびIgA2)のIgAが活性を示したことは、両方の分子形がアミド分解を支持できることを示している。同一のV領域を異なるIgGアイソタイプとしてクローン化することによる、抗原結合の変化が記述されている(例えば、29)。定常領域の構造が触媒作用において支持的役割を演ずるかどうか決定するためには、同一のV領域をもったIgA対IgGクローンの研究が将来必要であろう。
【0111】
血清IgAの触媒活性は、非共有結合的に結合した汚染物質が除去される変性環境である、6M塩酸グアニジンで行われたゲル濾過カラムから、単量体IgAの正確な質量(170kD)の位置に回収された。血清および唾液IgAの活性は、セリンプロテアーゼの不可逆的阻害剤として開発された化合物である、ホスホン酸ジエステルハプテンによって実質的に完全阻害されたことは、セリンプロテアーゼ様の触媒メカニズムを示唆する。両種のIgAは、そして、不可逆的阻害メカニズムと一致して、ホスホン酸ジエステルと検出可能な共有結合付加物をつくった。ホスホン酸ジエステル阻害剤を使った単クローンIgAの活性滴定は、2触媒部位/IgA単量体分子の理論値に近い値を与えた。活性が痕跡量のプロテアーゼ汚染によるならば、実測化学量論は理論値よりも著しく小さいであろう。これらの観察から、Abの生来的セリンプロテアーゼ様触媒活性は、発現されたAbレパートリーのIgGコンパートメントでなくIgAで高水準に維持されると結論されるかもしれない。
【0112】
IgAによって切断されたモデル基質は、蛍光基アミノメチルクマリンにアミド結合を介して結合された2−4アミノ酸から成る。12のペプチド基質に対する反応速度の分析から、Arg/Lys残基のC末端側の切断に対する強い指向が明白であった。IgAの塩基性残基指向性は、以前の研究で記述された他のクラスのAbのそれと類似している(5,17)。血清および唾液からのIgAは、しかし、種々のペプチド-AMC基質に対して異なるレベルの選択性を示した。例えば、Glu-Ala-Arg-AMCは、血清IgAによってGly-Gly-Arg-AMCより59倍速く切断されたが、唾液IgAは同等の速度でこれらの基質を切断した。触媒反応は、高μMのKm値によって特徴づけられ、既述のIgGと同様(17)、低親和性基質認識をする(Kmは非共有結合性結合の平衡結合定数の逆数に近い)。重要なことに、ペプチド-AMC基質は、IgAによる非共有結合的な抗原認識の適応発達の指標として意図されたものではない。むしろ、これらの基質は、抗原基底状態の高親和性・非共有結合性認識を担う近傍のAb副部位の主要な関与なく、触媒副部位に適合する「微小基質」と見なしてよい(30)。このモデルは、以下の観察によって支持される(総説31)。第一に、神経ペプチドVIPとペプチド-AMC基質に対するタンパク質分解性単鎖Fv(一本鎖として連結されたVLとVH領域)の触媒速度定数kcatは、VIPに対するKmが著しく小さいにも関らず、同等である(kcat、基質過剰濃度で測定された回転数; 30)。第2に、ハプテン性親電子ホスホン酸エステル(ペプチドエピトープを欠いた)のヒト単鎖Fv群に対する共有結合反応性のレベルは、それらの触媒活性の大きさを予測し、このことは、触媒作用を担う求核部位は非共有結合副部位の関与を必要としないことを示唆する(20)。以前、ペプチド-AMC基質は、分化の進行した段階でガン化するB細胞の体細胞型に多様化した生成物である、多発性骨髄腫患者由来の単クローン軽鎖の触媒能を決定するために成功裏に使用された(32,33)。
【0113】
ここで研究された健常人由来の多クローン性IgAの特性は、多数の免疫原による免疫学的選択圧を反映すると仮定することができ、選択圧に応答した個々の抗原に特異的なIgA触媒活性の適応発達は未検討のままである。Nevinskyと共同研究者は、多発性硬化症患者の血清から精製されたIgAとIgGによるミエリン塩基性タンパク質の切断に対するIgA/IgG触媒効力比率が、およそ0.5−20の範囲で変動することを観測した(参考文献10の図3から概算)。この研究においては、IgAの精製に独特の方法、すなわち固定化プロテインAへの結合、が使用された。タンパク質Aは、VH3遺伝子ファミリに属する特定のIgAに結合するが、IgAのFc領域には結合しないことが知られており、この性質がどのように触媒活性に関係するか、あるいは、観察された活性レベルがIgAの触媒能の公平な表現であるかどうかは不明である。また、触媒作用の分析評価が基質制限濃度下で実行されたので、非共有結合性ミエリン塩基性タンパク質結合と触媒回転率の相対的な貢献は不明である。比較として、ここで報告されたIgA/IgG活性比較は、ペプチド-AMC基質濃度過剰で得られ、そして、観察された速度は、最初の非共有結合的基質認識の貢献が最小の触媒回転率である(基質過剰条件下では、反応はKmに依存しない最大速度で進行する)。
【0114】
我々のスクリーニング実験は、2、3のIgAに制限されており、触媒速度の上限を定義するには、さらなる研究が必要である。IgAは粘膜表面の感染に対する免疫防御の最前線であり、IgA触媒活性の抗菌的役割を仮定することができる。我々のグループからの未公表研究は、血清および粘膜分泌物中に存在するIgAが、スーパー抗原部位の認識を介してHIV gp120の切断を触媒することを示唆する(プランク他、HIV gp120に対する生来性スーパー抗体。第3回HIV病原性と治療に関する国際エイズ学会会議。2005年7月24−27日、リオデジャネイロ、ブラジル)。非選択的な触媒活性さえ、不必要な抗原の除去を助けるかもしれない。最近の報告は、血清IgGによるペプチド-AMC切断活性の低下は、感染性ショック患者の死亡と相関していることを述べている(34)。健常な提供者からプールされたIgGの静脈内点滴(IVIG)は、ある種の免疫不全、自己免疫不全および感染性ショックのための治療として使用される(24-26)。市販IVIG製剤は本研究においてIgAと比較して非常に低い触媒活性を示しことから、IVIG製剤にIgAを含有させることにより有効性が改善するかもしれないという面白い可能性が生ずる。ヒト血液中のIgA濃度(3.3mg/ml; IgAが単量体であると仮定すると約20μM)は、通常の酵素よりも約4−5桁高く(例えば、トロンビンは、アンチトロンビンIIIとの複合体として血清中ng−μg/ml; 参考文献35)、IgAのkcat値は、通常のセリンプロテアーゼより約2−3桁小さい。触媒作用が本研究において観察された速度で進行するならば、20μMのIgAは、過剰に存在する抗原の約50mMを 6日間(IgAのおよその血中半減期と一致)で切断するであろう。重度感染の局所における細菌やウィルス抗原のように高濃度に抗原が存在する場合、最大速度条件に近づくことが可能である。
【0115】
クローン選択説によれば、B細胞受容体(BCR; 信号変換タンパク質と複合した膜結合型Ig)と抗原の結合は、細胞分裂とクローン選択を推進する。BCRに触媒された抗原切断は、抗原断片の遊離を引き起こし、細胞から増殖的信号を奪うと予想できる。もし抗原-BCR結合が唯一の選択力であるなら、BCR触媒活性の保持と改善は、生成物の放出速度が細胞分裂刺激を引き起こす膜間情報伝達よりも遅い限りにおいて、可能である。この場合、ここで報告された結果のありうる説明は、α-クラスBCRによる情報伝達がγ-クラスのBCRより速く起こるということである。もう一つのありうる説明は、BCRの触媒作用が、それ自身選択的活性であるかもしれないということである。触媒による共有結合の切断は、非共有結合的なBCR-抗原結合に伴って放出されるはるかに小さいエネルギーと比較して、大量のエネルギーを放出する。このエネルギーの一部が、クローン増殖の誘導に必要なα-クラスBCRの生産的な形態変化を誘発するために利用できると仮定されるかもしれない。
【0116】
【0117】
【0118】
実施例2:HIVに対するタンパク質分解抗体防御
使用した略号;Ab、抗体; AIDS、後天性免疫不全症候群; AMC、7-アミノ-4-メチルクマリン; BCR、B細胞受容体; BSA、牛血清アルブミン; CDR、相補性決定領域; CHAPS、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホン酸; sEGFR, 可溶型上皮細胞増殖因子受容体; FR、枠組み領域; IVIG、静注用免疫グロブリン; HIV、ヒト免疫不全ウィルス; PBMC、末梢血単核細胞; Rt、保持時間; RP、早期進行者; SAg、スーパー抗原; SDS、ドデシル硫酸ナトリウム; SFMH study、サンフランシスコ男性健康調査; SP、遅延進行者; V領域、可変領域。
【0119】
HIV-1感染症の臨床経過は、様々な速度でエイズ症状へ進行する感染者があり、遅いこともある。一部の人間は、HIVへの度重なる暴露にもかかわらず、感染しないままである。最初の感染に対する感受性と感染症の進行に影響する特定のウィルスおよび宿主要因は特定された。これらは、感染ウィルスと感染後発生する変異ウィルス亜種の感染力と複製能の違いを含む(1,2)。よく知られた宿主耐性因子は、ケモカイン受容体R5遺伝子の32塩基対の欠損であり、これは宿主細胞へのビリオン侵入に障害をもたらす(3)。細胞障害性T細胞の発達は、感染を遅らせることはできるが、結局は耐性ウィルスが出現する(4)。同様に、適応液性免疫は、感染初期には保護するかもしれないが、適応応答は主にエンベロープタンパク質gp120の非常に変異しやすいV3領域に対して起こり、Ab耐性ウィルス亜種が早晩現れる(総説5)。
【0120】
gp120は、HIV非感染者の前免疫レパートリーに存在するAbによって認識される抗原性部位を含む(6)。これは、gp120をB細胞SAg(Ab V領域が適応配列多様化していないAbによって結合される抗原と定義される)として指定する条件を充たす。合成ペプチド研究は、gp120のSAg部位は、ペプチド決定基231−260、331−360および421−440(MN株の配列によるアミノ酸番号付け)から成るコンフォメーション依存エピトープであることを示唆する(7,8)。残基421−433から成る領域は、多様なHIV株で高度に保存されていることと、宿主細胞CD4受容体に対するHIV結合における役割ゆえに注目に値する。gp120のこの領域の突然変異(9)および432-433ペプチド結合の切断(10)は、CD4結合能の損失を誘導し、421−433領域とCD4との接触はgp120と可溶型CD4との複合体のX線結晶解析によって見える(11)。抗原との遭遇は、一般にB細胞分化を促進する。他方、B細胞受容体(Igα、Igβおよび信号変換タンパク質と複合した表面Ig)とsAgの結合は、細胞アポトーシスを誘発すると考えられている(12,13)。我々の知る限りでは、HIV感染者において、gp120の免疫優性V3エピトープに対する強力な適応応答は形成されるもが、gp120 SAg部位に結合する適応成熟したAbの報告はない。gp120 SAg部位に結合するAbの防御的役割の可能性は、以下の観察によって示唆される:(a)HIV感染の危険があるHIV血清陰性者由来の血清IgGによるgp120 SAg部位への結合は、以降のHIV感染の発生率と負に相関している(14)、そして、(b)感染してない猿からプールされたIgGの静脈内注入は被験猿を、HIV-1感染の頻繁に使われるモデルであるサル免疫不全ウイルスの攻撃から保護する(15)。粘膜表面は、人体へのHIVの侵入の慣習的な経路である。HIVに繰り返し暴露しているにも関らず血清陰性のままである売春労働者の唾液および頸膣部洗浄液からのIgAは、HIVを中和することが報告されている(16,17)。IgAがgp120のSAg部位を認識するか否かは検討されなかった。
【0121】
数人の研究者は、天然Abとそのサブユニットの、ポリペプチド抗原、例えばVIP(18)、Arg-バソプレシン (19)、チログロブリン(20)、血液凝固第8因子(21)、プロトロンビン(22)、gp120(23)、gp41(24)、H.ピロリ菌ウレアーゼ(25)、カゼイン(26)およびミエリン塩基性タンパク質(27)の切断を触媒する能力を文書化した。Abによって利用されるタンパク分解経路は、通常のセリンプロテアーゼを想起させる。タンパク質分解性Abの部位特異的突然変異(28)とX線結晶学(29)は、酵素の触媒部位に存在するのと類似の活性化求核性アミノ酸を特定した。さらに、Abは、元々酵素求核性残基において共有結合的に反応するよう開発された親電子ホスホン酸エステルと不可逆的に反応する(30,31)。非選択的なペプチド結合加水分解は、生殖細胞系V領域遺伝子によってコードされるAb生来の普遍的な特徴であるように見える(32)。我々は、B細胞によって産生される最初のAbクラスであるIgMがgp120を加水分解することを報告した(33)。しかし、分化終期のB細胞によって合成される適応成熟したタンパク質分解IgGはまれで、自己免疫またはリンパ組織増殖性疾患の患者で主に見られる(総説34)。クローン選択説によると、BCR-抗原結合は細胞増殖と選択を推進する。BCR触媒による迅速な抗原加水分解と抗原断片の遊離は、クローン選択プロセスを打ち切ると予想されるかもしれない。従って、他の免疫学的要因がこのプロセスでポジティブな役割を演ずることができない限り、B細胞の適応的発達の過程において高効率触媒Abの発達は理論的に好ましくない。
【0122】
ここで、我々は、HIV非感染者の唾液および血清由来のIgAが、IgGと比較して能率的にgp120の切断を触媒する能力を報告する。IgAは、組織培養系においてHIV中和活性を示し、421−433ペプチドの親電子性類縁体は中和を阻害した。血清IgAの活性は、エイズへの進行の遅い血清反応陽性者で上昇しているが、急速に進行する感染者では上昇していなかった。IgAによる触媒活性の選択的発現は、gp120 SAg部位の認識によって媒介されるように見え、HIV感染における宿主耐性因子としての触媒免疫を示唆する。
【0123】
方法
抗体。多クローン性Abは、感染または免疫学的疾患の所見のない4人(1人の女性と3人の男性; 年齢28−36歳; 我々の研究室識別コード、2288−2291)の末梢静脈血由来の血清または唾液から精製された。唾液は、パラフィルムを噛んだ後採取された(35)。Abは、HIV感染していない34人(17人の女性と17人の男性; 年齢17−65歳; 白人30人、黒人2人、アジア人2人; 識別コード679、681−689および2058−2081)から精製されたIgAおよびIgG画分から調製されたプールとしても分析された。単クローンIgAは、多発性骨髄腫患者の血清(コード2573−2587)から精製された。SFMH研究(36)に登録された19人のHIV血清陽性男性からのAbは、各人2つの血液サンプルから精製された(採血1および2と呼ぶ; 1984年6月−1990年1月の間に採取)。患者は、抗レトロウイルス薬を受けなかった。採血1は、血清転換6ヵ月中に得た。この時点での血中CD4+T細胞数は、すべての人で>325/μlであった。SP群に分類される10人の血清反応陽性者は、CD4+ T細胞の純減が最少10%に属し、78ヵ月間の追跡中エイズへ進行しなかった(採血1時点25−43歳; 被験者コード2089−2098)。採血2は、血清転換66ヵ月後にSP群から得た。第2群は、早期進行(RP)群と称され、CD4+ T細胞数が<184/μlに低下し採血2を得た時点でエイズの臨床症状現れていた9人の男性から成る(血清転換から1.5−5年; 採血1時点で28−43歳; 被験者コード、1930−1938)。HIV血清転換は、ELISAによる測定とウエスタンブロットによる確認によるHIV-1タンパク質に対する抗体の存在に基づいて決定された。HIV感染のない10人からのAbは、コントロールとして使用するために精製された(年齢27−45歳; 被験者コード、1939−1945、1953、1956、1968)。告知に基づく同意をともなう血液と唾液の収集は、テキサス大学被験者保護委員会によって承認された。
【0124】
IgAは、0.1mMのCHAPSを含む50mMトリス塩酸(pH 7.7)中、血清(0.5ml)をヤギ抗ヒトIgAアガロース(1時間、1mlのゲル、シグマ−アルドリッチ社)と、使い捨てクロマトグラフィカラム中で回転させながらインキュベートし、ゲルを緩衝液で洗浄し(4ml x 5)、0.1mMのCHAPSを含む0.1Mグリシン(pH 2.7)(4ml)で1Mトリス塩酸(pH 9.0)(0.11ml)を含むチューブ中に溶出させることによって精製した。唾液IgAは、同様に精製された(7mlの唾液、安定時0.5mlの抗IgAゲル)。IgGおよびIgM画分は、各々、プロテインG−セファロースおよび抗IgM−アガロースカラム上で、抗IgAカラムの非結合画分を出発原料として精製した(33,37)。タンパク質濃度は、マイクロBCAキット(ピアス社)を使用して決定された。SDS電気泳動ゲルのイムノブロッティングは、ペルオキシダーゼ接合型ヤギ抗ヒトα、抗ヒトλ、抗ヒトκおよび抗分泌性構成要素Ab(シグマ−アルドリッチ社)で行った(33)。抗IgAクロマトグラフィ(従属するコード2288 2291から共同出資される)によって予め精製された血清および唾液IgAのゲル濾過は、6Mの塩酸グアニジン(pH 6.5)中、スーパーロース6 FPLCカラム(0.2ml/分)上で、既述の方法で行った(37)。溶出されたタンパク質画分の名目質量は、Rt値をIgM(900kD)、チログロブリン単量体(330kD)、IgA(170kD)およびBSA(67kD)と比較することによって決定された。IgAの復元は、0.1mMのCHAPSを含む50mMトリス塩酸、0.1Mグリシン、pH 7.7に対して4度で透析することによって行った(トリス−Gly緩衝液; 2リットル×5、4日)。
【0125】
タンパク質分解活性評価。ビオチンは、タンパク質1モル当り1−2モルの化学量論で、gp120(MN株、プロテインサイエンス社)、sEGFR、BSA、HIV Tat(アメリカ国立衛生研究所エイズ研究および参照試薬プログラム)および血液凝固第8因子C2断片(K.プラット博士から)のLys残基上に組み込まれた(38,39)。タンパク質加水分解は、還元SDS-電気泳動によって決定された(39)。67μg/mlゼラチンを含む20μlトリス-Gly緩衝液中でAbとインキュベーションの後、反応混合物をSDS(2%)と2-メルカプトエタノール(3.3%)中で煮沸し、電気泳動とブロッティングに付し、ストレプトアビジン−ペルオキシダーゼでした。gp120の切断は、完全なビオチン化gp120バンドの密度分析により、[gp120]0−([gp120]0 x (gp120Ab/gp120DIL))([gp120]0、gp120Ab、gp120DILは、それぞれ、初期濃度、Ab含有反応のバンド強度(任意ボリューム単位、AVU; ピクセル強度xバンド面積)、希釈剤含有反応混合物のバンド強度を意味する)として決定した。いくつかの研究において、ブロットは、ストレプトアビジン−ペルオキシダーゼの代わりに、多クローン性抗gp120 Ab調製品で染色された(39)。いくつかの実験では、切断率は55kD生成物バンドの強度(AVU単位、Abの代わりに希釈剤とインキュベートしたgp120の反応混合物で観察される背景強度によって補正した)として表現した。切断部位の決定には、gp120はIgA(被験者コード2288−2291からプール)とインキュベートし、IgAは上述の通り抗ヒトIgAカラムに結合させて除去し、そして非結合画分は凍結乾燥後2-メルカプトエタノールを含むSDS-電気泳動緩衝液で再溶解した。SDS-ゲルのPVDFブロット上のgp120断片はクーマシー青で染色された後、既述の方法により(33)N末端配列決定に付された。触媒作用研究において使用された阻害物質は以下の通り:N-(6-ビオチナミドヘキサノイル)アミノ(4-アミジノフェニル)メタンホスホン酸ジフェニルエステル(EP-ハプテン1)、N-(6-ビオチナミドヘキサノイル)アミノ(4-アミジノフェニル)メタンホスホン酸(非親電子性ハプテン2)、N-(ベンジルオキシカルボニル)アミノ(4-アミジノフェニル)メタンホスホン酸ジフェニルエステル(EP-ハプテン3、ビオチンのないEP-ハプテン1に相当)、gp120残基421−431(Lys-Gln-Ile-Ile-Asn-Met-Trp-Gln-Glu-Val-Gly)のC末端に432-433(Lys-Ala)残基を模倣するアミジノホスホン酸エステルをもつEP-421-433、およびLys20側鎖にアミジノホスホン酸エステルを含むVIP(EP-VIP)。阻害剤の合成と純度は既述の通りである(40-42)。
【0126】
活性部位滴定研究において、単クローンIgA(被験者コード2582から)を0.5%のジメチルスルホキシドを含むトリス-Gly緩衝液中EP-ハプテン3と37度で96穴プレート中18時間インキュベートした後、基質Glu-Ala-Arg-AMCを加え、残存触媒活性は、標準AMCを使用して構築した標準的曲線を用いた蛍光測定(λex 360 nm、λem 470nm)で測定した(38)。
【0127】
ホスホン酸エステル結合。精製IgA(被験者2288−2291からプール)は、EPハプテン1、コントロールハプテン2、EP-421-433またはEP-VIPで処理され、不可逆的付加物の形成は還元SDS電気泳動、電気ブロッティング、ストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ接合体による染色、およびデンシトメトリーにより測定された(38)。
【0128】
HIVの中和。研究には、HIV一次分離株(97ZA009; Cクレード、R5依存)、フィトヘムアグルチニン刺激末梢血単核細胞およびp24定量を使用した(43)。IgAまたはIgG(被験者2288−2291をプール; 10mMリン酸ナトリウム、137mM塩化ナトリウム、2.7mM塩化カリウム、pH 7.4)は、等体積のHIVと混合した[100TCID50; 最終ボリューム0.2 ml、25%のPBS、0.25%のFBS、および3%の天然ヒトT細胞成長因子(ゼプトメトリクス社)を含んでいるRPMI 1640]。1時間または24時間インキュベーションの後、FBS中のPBMCsを(0.05ml、終濃度20%)Ab−ウイルス反応混合物に加えた(44)。いくつかの分析評価は、EP-421−433またはEP-VIP(100μM)によるIgA処理後、残存HIV中和活性の測定により行われた。
【0129】
結果
IgA触媒活性。HIV感染していない4人の血清および唾液から精製されたIgA調製品は全て、電気泳動ゲル上で親gp120バンドの減少と低分子量断片の生成による評価により、ビオチン化gp120(Bt-gp120)を切断した(17A図)(組み換え型タンパク質は、おそらくバキュロウイルス発現系の不完全なグリコシル化のため、名目質量約95 kDに移動する。Bt-gp120は最小量のビオチン(約1 mol/mol gp120)を含み、生成物はビオチンを必ずしも含まないので、ビオチン検出は切断速度を測定できるが、生成物の相対濃度に関する情報は与えない)。
【0130】
唾液および血清IgAを触媒として使用して観測されたBt-gp120生成物プロフィールは基本的に同一であった(名目質量80、55、39、32、25および17kD)。反応の初期に発生する80kDバンドは、バンド強度がより後の分析時に減少したので、更なる消化に影響されやすく見えた。唾液IgAの平均タンパク質分解活性は、血清IgAより15.4倍大きかった。血清IgG画分は、試験された濃度で検出可能な活性を欠いていた(図17B)。図17Bのデータは、等質量あたりの唾液IgA、血清IgAおよび血清IgGで表されている。Ab単位重量あたりの抗原結合部位の数はほとんど等しいので(約75−106kDにつき1価)、種々のAbクラスで異なる活性は結合価効果によるものではありえない。基本的に同一の結果が、34人のHIV血清陰性者のプール血清から精製された血清IgAとIgGを使って得られた(941nM gp120/時/mg IgA; 等濃度のIgGではgp120の切断は検知されなかった; 反応条件は図17Aと同じ)。プールされたヒトIgGのいくつかの製剤(IVIG)が、免疫不全症の治療のために静脈内点滴用に市販されており、HIV感染治療にも考慮された(例えば45)。我々の研究室で調製したプールヒトIgGと同様に、市販IVIG製剤は検出可能な程度にgp120を切断しなかった(ガンマガードS/DおよびインビーガムEN(バクスター社); イントラテクト(バイオテクファルマ社))。
【0131】
ここで述べた通り精製されたIgGの電気泳動上の純度は前に報告した(46)。親和性クロマトグラフィによって得られた血清IgAの還元SDS-電気泳動は、重鎖および軽鎖サブユニットに相当する、質量60および25kDの2つのタンパク質バンドを示した(図17B)。唾液IgAは、これらのバンドに加えて抗分泌性構成要素Abで染色されるもう一つのバンドを含んでいた(85kD)。検出されたタンパク質バンドは全て、α鎖、λ/κ鎖または分泌性構成要素に対するAbによっても染色可能であった。観測されたIgAサブユニットのバンドはどれも、抗μまたは抗γ Abによって染色されず、検出可能なIgGまたはIgMを含まないことを示す。
【0132】
IgAのタンパク質分解活性を確認するため、予め抗IgAカラムを用いたアフィニティクロマトグラフィで精製された唾液および血清IgA調製品は、以前タンパク質分解IgGおよびIgMに以前述べた通りに(37,46)、更に変性溶媒(6M塩酸グアニジン)中のFPLC−ゲル濾過に付された(図18A)。血清IgAは、保持時間55.2分の主要ピークと、34.0、44.6、62.5分の肩を伴って、溶出した。保持時間55.2分の主要血清IgAピークの名目分子量は153kDであり、分泌性構成要素を持たない単量体IgAの予想値に近かった(170kD; Rfをマーカータンパク質と比較して決定)。大部分の唾液IgAはRf33.7分と42.7分の2つの主要ピークに溶出し、55.5、62.7および69.3分に微細なピークを伴っていた。Rf33.7分と42.7分の唾液IgAピークの名目分子量は、それぞれ915kDおよび433kDであった。これらの結果は、既報の血中および粘膜分泌物中のIgAの分子量不均一性と、前者における単量体の対多量体、および後者における二量体の優勢と一致している(47)。血清および唾液IgA由来の30−57分にまたがる各画分の、還元SDS電気泳動特性は、カラムに付したアフィニティ精製品と同一のサブユニットプロフィールを示した(図17B)。抗体調製品は通常少量の遊離抗体サブユニットや種々のオリゴマー構造を含み、これは、ゲル濾過カラムで見られた小ピークを説明する。塩酸グアニジンを除いて復元した後、カラムから回収した単量体血清IgA種は、カラムに付されたアフィニティ精製品と同等のgp120分解活性を示した(図18B)(各々、630および823 nM gp120/時/mg IgA)。復元した二量体および多量体唾液IgA凝集体もgp120切断活性を示し(図18B)、分泌IgAの主要形態が触媒活性を有することが確認された。唾液中に、観測された触媒種に相当する分子量を持ったIgA以外のプロテアーゼは我々の知る限り既述がない。ゲル濾過で使用された強力な変性剤は、カラムに付したアフィニティ精製IgAに非共有結合している可能性のあるどのような低分子量汚染物も解離させ除去するものと予想される。従って、変性クロマトグラフィに付したIgAのタンパク質分解活性は、非IgAプロテアーゼの存在と整合性がない。復元した唾液IgA凝集体は、変性を経ていない唾液IgAの4.5倍低かった。同様の変性剤に誘発される不完全な復元に起因する活性低下は、他のタンパク質分解抗体でも述べられている(49)。
【0133】
更なる確認研究は、多発性骨髄腫患者の血清から同一の方法で精製された15の単クローンIgAを使って実施された。13の単クローンIgAはgp120切断活性を示し、2つのIgAは検出可能な活性をもたなかった(図18C)。単クローンIgAを触媒として使用して得られたgp120反応生成物の電気泳動上の特徴は、多クローン性IgAを使用した場合のそれと基本的に同一であった。単クローンIgAが異なる活性レベルを示すという観察は、Ab可変領域がgp120(31)および他のポリペプチド抗原(27,28)の切断を担っているという以前の報告と一致している。
【0134】
求電子ホスホン酸エステルハプテンとの相互作用。EP-ハプテン1(図19A)は、当初トリプシンのようなセリンプロテアーゼの酵素活性部位に見られる求核基と不可逆的に結合する部位特異的阻害剤として開発され、そしてこの合成物の触媒Ab断片および完全長Abとの不可逆的反応性も報告された(31,37)。1mM濃度のEP-ハプテン1は、唾液および血清IgAの触媒活性を著しく阻害した(図19B)。予測された共有結合阻害メカニズムと一致して、唾液および血清IgA調製品は過熱(100度、5分)およびSDSによる変性に安定な、図19B(挿入)に示されるより強い約60 kDの重鎖付加物バンドとより弱い約25 kDの軽鎖付加物バンドに相当する、EP-ハプテン1付加物を形成した。EPハプテン1濃度を増やすにつれ、gp120の切断阻害とIgA付加物の形成との増加が明白であった(図示せず)。コントロールハプテン2は、リン原子上のフェニル基がないことを除いてEP-ハプテン1と構造的に同一であり、この違いにより酵素求核基との親電子反応性に障害を来たす(37)。ハプテン2は、IgA触媒によるgp120切断を阻害せず、IgA付加物も形成しなかった。
【0135】
我々は、単クローンIgAとセリンプロテアーゼ阻害剤EP-ハプテン3および基質Glu-Ala-Arg-AMCを使って活性部位滴定を実施した(図20)。この基質中のArg-AMCアミド結合の加水分解の蛍光定量測定は、反応化学量論の正確な決定の簡便な方法である。加水分解反応は、抗原性エピトープの認識に伴う典型的な非共有結合性相互作用の関与なく進行し、類似したペプチド-AMC基質は以前他の触媒Abのための代替基質として使用された(20,39)。gp120とIgAとの反応混合物に過剰なGlu-Ala-Arg-AMCを添加すると、gp120加水分解は完全に抑制され(図20、挿入)、このことは、2つの基質が同じ触媒部位によって切断されることを示す。EP-ハプテン3による触媒活性の化学量論的阻害が観察され、結果は2.4モルのEP-ハプテン3によって1モルのIgAが完全に阻害されることを示す。この値は、2分子のEP-ハプテン3が1分子のIgAを不活性化するという予想(2つの触媒部位/IgA単量体と仮定して)と一致している。もし痕跡汚染物質が観察された触媒活性の原因でなるなら、極少量のEP-ハプテン3が活性を阻害するのに十分でなければならない。従って、滴定結果は、汚染物質を触媒活性の説明から除外する。
【0136】
抗原選択性と切断部位。ヒト唾液IgAまたは血清IgAによる、Bt-BSA、Bt-FVIII C2領域、Bt-TatまたはBt-sEGFRの処理は、これらのタンパク質の全長形に相当する電気泳動バンドの目立った減少を起こさなかった(図21)。これらの条件下で、容易に検出可能なBt-gp120の切断が観察された。gp120 SAg部位へのAbの非共有結合は、gp120残基421-−433を含む合成ペプチドによって競合阻害を受ける(7,8)。我々は、前に、ホスホン酸ジエステルとビオチン基を含むgp120残基421−433の親電子性類縁体による触媒IgMの付加逆的結合を報告した(EP-421-433; 図22A中の一番上の構造)(33)。本研究において、反応混合物中のEP-421-433濃度を増やすにつれて(10−100μM)、唾液IgA(21−85%)および血清IgA(41−91%)によるBt-gp120切断の阻害は用量依存的に上昇した。コントロールプローブは、EP-VIP(求核性残基と共有結合反応することによって触媒作用を阻害することができるが、非共有結合的にAbと結合することが期待できない無関係なペプチドである、VIPのホスホン酸エステル含有誘導体)であった。IgA触媒によるgp120切断のEP-421-433による阻害は、EP-VIPよりも高い効力によって一貫して特徴づけられた(P=0.01以下、スチューデントt検定; n=4繰り返し実験; 図22B)。EP-421-433はまた、IgAに対して、コントロールEP-VIPまたはEP-ハプテン1よりも優れた付加逆結合性を示した(タンパク質付加物バンドのビオチン含有量を推定することで決定された(図22C))。反応液中にホスホン酸エステル基を欠くgp120ペプチド421-436を加えると、IgA:EP-421-433付加物の形成を阻害した(図22D)。これらの結果は、SAgペプチド領域の非共有結合的な認識がgp120選択性に貢献している、IgA触媒作用の求核メカニズムを示唆する。
【0137】
切断部位を特定するため、多クローン性唾液IgAによる非ビオチン化gp120の消化は、ほぼ完全消化するまで進行させた。固定された抗IgA Ab上のクロマトグラフィによって反応混合物中のIgAを除去した後、gp120断片は、SDS-電気泳動とN末端アミノ酸配列決定(5サイクル)に付された。55、39および17kDの容易に検出可能な生成物バンドと、32kDの幽かなバンドが認められた(図23)。55kDバンドは、gp120N末端に対応する配列を与えた。残りのバンドは、gp120残基84−88、322−326および433−437に相当するN末端配列をもつ断片を与え、以下の結合の切断が起こったことを示している:Val83-Glu84(gp120 C1領域)、Tyr321-Thr322(V3領域)およびLys432-433(C4領域)。
【0138】
中和活性。抗HIV有効性の評価における第一段階として、我々はHIV-1 97ZA009株(Cクレード、ケモカイン受容体R5依存性)によるヒトPBMCs感染におけるAbの効果を検討した。このウイルスと触媒作用研究において使用した組み換え型gp120の残基421-433の配列は、保存的Arg/Lys置換を除いて同一である(KQIINMWQEVGR/KA:ロスアラモスHIV配列データベース)。非感染者からのプール唾液IgAおよび血清IgAは、用量依存的な中和活性を示した。中和活性は、血清IgG画分では検出されなかった。プールIgGを含有する市販IVIG調製品も、検出可能な中和活性(250μg/mlのIVIG濃度において25%以下の中和)を欠いていた。IgA−ウイルス混合物にEP-421-433を含有させると中和作用を阻害したことは、421-433領域の認識が中和メカニズムにおいて重要なことを示唆する(図24B)。本研究において使用された状況下において、IgAの中和活性は、無関係なプローブであるEP-VIPの存在下、ほとんど影響されなかった。唾液IgAによるウィルスの中和は、HIVとの比較的短い(1時間)インキュベーションの後再現性よく観察されたが、血清IgAによる中和は、長時間のIgA−ウイルスインキュベーションにおいてのみ明白であった(24時間; 図24C)。
【0139】
HIV感染者の触媒Ab。我々は、AIDSの臨床症状に早期に進行した(RP)9人のHIV血清陽性男性、AIDSへの進行の遅い(SP)10人のHIV血清陽性男性、および10人の非感染者由来の血清IgAによるBt-gp120の切断を検討した(これは、前HAART時代に収集された血清を使った遡及研究である。これらの患者由来の唾液は入手不能である。分泌型IgAは粘膜表面を越える最初の感染を阻止すると考えられるかもしれない。一旦HIV侵入すると、全身性抗体の活性が感染進行に影響するより重要な因子であるかもしれない。)。
血清転換後、血清は6ヵ月(図25A中、採血1と称する)、5.5年(SP群採血2)、または1−5年(RP群採血2)以内に得られた。採血2の時点において、RP群のCD4+ T細胞数は、正常域と比較して顕著に低下していたが、SP群はそうでなかった(図25B)。RP群およびSP群由来のIgAによる消化の後観察されたgp120生成物の電気泳動プロフィールは、非感染者由来のIgAによって作られるプロフィールと基本的に同一だった(図17A)。SP群由来IgAの触媒活性は、RP群または血清陰性群よりも採血2の時点において有為に高かった(P<0.0001、対応のないマン-ホイットニーU-検定およびスチューデントt検定)。血清陰性群と比較して、RP群の触媒活性のわずかな減少が、採血2の時点で見られた(P=0.035、マン-ホイットニーU-検定; P=0.065、スチューデントt検定)。我々は以前、HIV血清陰性者由来のIgMによるgp120の切断を報告した(33)。SP群の血清IgMのgp120切断活性は、RP群および非感染者群と同程度であった(P>0.05; U-テストおよびt検定; 図示せず)。2人のSP群被験者(被験者コード2097および2098、採血2)からのIgAによるgp120の切断は、EP-421-433によって実質的に完全に阻害された(10μM; それぞれの%阻害、89±6および94±12; 反応条件は、図22Bと同じ)。等濃度のコントロールEP-VIPは、触媒反応をほとんど阻害しなかった(<15%)。
【0140】
考察
IgG同様、IgAは分化したB細胞によって産生され、通常、様々な程度に適応的に多様化した配列を持つV領域を含む。IgGとは異なり、HIV非感染者のIgAは、強力かつ選択的にgp120の切断を触媒した。SAg部位のペプチド結合の切断(32)と非共有結合的認識(6)は、生来性の、生殖細胞系V遺伝子にコードされた機能と考えられる。当初共有結合性セリンプロテアーゼ阻害剤として開発された親電子性ホスホン酸エステルは、IgA触媒によるgp120切断を阻害し、不可逆的にIgAに結合したことは、セリンプロテアーゼ様の触媒メカニズムを示唆する。gp120のSAg部位の構成要素に一致する、残基421-433の親電子性類縁体は、IgAによって選択的に認識された。切断されたペプチド結合の1つは、このgp120領域の中に位置する(残基432-433)。これらの特性は、前述のタンパク質分解性IgMのそれらと類似している(33)。従って、B細胞成熟過程でIgAに新規にgp120切断活性を生成する必要はなく、また、活性データは、タンパク質分解機能はV領域配列多様化とIgAクラス変換の間保持され、向上することを示唆する(IgGクラス変換ではされないが)。唾液IgAは、血清IgAと比較して、一貫して優位な触媒活性を示した。粘膜分泌物中のIgAは、二量体およびそれ以上の高次凝集体の状態で主に存在し、そして、我々は定常領域構造が触媒部位の完全性を維持するのを助けるという可能性を無視しない。
【0141】
触媒レベルに影響するかもしれない化学要因は、非共有結合によるgp120認識の強度、IgA抗原結合部位の求核反応性、触媒サイクル中の求核反応段階の完了以降イベント、即ち、アシル−Ab共有結合中間体に対する水の攻撃、および生成物の放出、を促進する能力である。gp120触媒作用の構造的要因の分析は、V領域抗原結合部位構造既知の単クローンIgAを使ったさらなる研究を必要とする。gp120を切断するIgMの結晶構造が最近解かれ、Ser-Arg-Gluなる3残基対が、観察された求核および触媒活性を担っていることを示唆する(29)。
【0142】
gp120と無関係なポリペプチドはIgAによって切断されなかった。EP-421-433はgp120の切断を阻害し、無関係なEP-VIPプローブよりも優れたIgAに対する不可逆的結合性を示した。IgAによる選択的なgp120切断は、従って、少なくとも一部は、421-433領域における非共有結合的な認識と協調したタンパク質上の求核攻撃に起因する。gp120中の3つのペプチド結合が、多クローン性IgAによって切断され、それらの一つはgp120の421-433領域(残基432-433)中に位置していた。その他の2つの切断部位を含む領域は、これまでgp120のSAg特性と関連づけられたことはない。単クローンおよび多クローン性IgA触媒によるgp120生成物プロフィールは同一であり、421-433領域反応性の一つのAbがこの領域外に位置する結合を切断しているかもしれないことを示唆した。単クローンAbによる他のポリペプチド抗原の切断研究もまた、一つのAbが複数のペプチド結合を切断できることを示した(24,49)。反応プロフィールは、以前提案された分割部位モデルから理解されるかもしれない(50)、このモデルでは、異なるAb副部位が非共有結合と触媒作用を担い、加水分解反応は、最初の非共有結合性抗原-抗体結合を担うエピトープの外にある離れた結合で起こることができる。このモデルは、異なるペプチド結合が触媒部位に重なるように位置する代替基底状態複合体の形成を提案する。Abがコンフォメーション依存的エピトープを認識するとき、代替切断部位は直線配列上離れていてもよいが、空間的には隣接しているにちがいない。もう一つの要因は、最初の切断産物の更なる消化のための基質としてのありそうな利用である。最初の切断産物は、完全長gp120の対応する領域とは別のコンフォメーションを採るかもしれない。そのようなコンフォメーション変化は、次に、天然抗原中では接近できないペプチド結合におけるAbによる攻撃を可能にするかもしれない。IgA触媒による最初のgp120切断反応の視覚化は、SDS-電気泳動の段階で還元剤(2-メルカプトエタノール)の包含を必要とし、このことは、gp120断片が、一分子内でS−S結合橋を介してつながれたままであることを示唆する。切断反応は、完全タンパク質の骨格によって課されるエネルギー的な制限から、分子を開放するので、S−S結合でつながれたgp120はコンフォメーション変化を受けることができる。
【0143】
異なるV領域部位が、SAg部位と通常の抗原エピトープのAbによる認識を媒介すると考えられる。2つのタイプの相互作用は、それぞれ、寄与の重点が、比較的保存されたFRまたはより多様なCDRのいずれにあるかによって特徴付けられる(51)。gp120 SAg部位の認識は、特定のCDR1残基とともに、FR1およびFR3に位置するVH領域残基に起因していた(52)、ところが、従来の抗原性エピトープのAbによる認識は、CDRにおける接触に支配される。HIV非感染者中にタンパク質分解IgAが存在することの1つの説明は、FRに支配された部位のSAg部位認識能力が、CDRが他の無関係な抗原エピトープを認識するように配列多様化を経る間、偶然保持されるということである。FRsは限られた配列多様化感受性であり(CDRsより低いレベルではあるが)、特定のCDR残基もまた限られた貢献をSAg結合に提供する。第2の可能性は、従って、SAg部位認識は、おそらくgp120 SAg部位との構造類似性を持った抗原エピトープによって推進され、適応的に向上できるということである。我々は、配列データベースの点検によって、gp120残基421-433と既知のヒトタンパク質の間での注目すべき配列同一性を確認することはできなかった。しかし、これらのgp120残基をコードしている39のヌクレオチドのうち27は、ひとつのヒト内在性レトロウィルスの配列と同一である(HERV; にあるHERVデータベース; 参考文献、Paces, J., A. Pavlicek, and V. Paces. 2002. HERVd: database of human endogenous retroviruses. Nucleic Acids Res. 30:205-206; Bクレード gp120残基421-433のコンセンサスヌクレオチド配列は、CCGTATGTAACG AAAAGGATGAAAGACGGTGTACAAATAである。HERV rv_012650の配列(HERVL47ファミリー、X染色体)は、TTAGATCTGATGAAAAGGATGAAAGAAATTTTTCAAA AAである; 同一性を下線で示した)。HERVsとgp120に対する触媒Abを結びつける他のいかなる証拠も現在のところ無いが、この点は将来の研究にとっての相当な興味である。最初に、AbによるSAg認識が微生物感染に対する生来免疫機能として進化したとするなら、この活性とHERVsの関係は、古代のHIV関連のウイルスの存在を意味すると解釈することができるかもしれない。第2に、HERV発現の上昇は、全身性エリテマトーデスや他の自己免疫疾患において頻繁に見られることであり(総説53)、この現象は、狼瘡患者におけるgp120ペプチド421-436に対するAbの上昇(54)という、未だ説明されていない観察の一要因であるかもしれない。いくつかの臨床事例研究は、狼瘡とHIV感染の稀な共存についてコメントしており(例えば、55、56)、狼瘡Fvライブラリ-ーから分離された単鎖Fv(短いペプチドによって連結されたAbのVLおよびVH領域)は、gp120 421-436領域に結合し組織培養においてHIV一次分離株の感染力を中和する能力を示した(43)。
【0144】
HIV感染がgp120 SAg部位に対するAbを誘発することは知られてもいないし、期待されてもいない。いくつかの報告は、VH3+ファミリーのVH領域を含むAbが優先してB細胞SAgsと結合することができることを示す(7、57、58)。VH3+ B細胞レベルおよびVH3+免疫グロブリン濃度の減少は、HIV感染者において報告されている(57,58)。他のB細胞SAgs、すなわちブドウ球菌プロテインAおよびブドウ球菌プロテインLは、B細胞アポトーシスを誘発することが報告される(12,13)。我々の研究において、IgA触媒活性の統計学的に有意な増加は、HIV血清反応陽性者の遅延進行サブグループで明らかだったが、AIDS進行者では、不変かわずかに減少した。遅延進行患者は比較的稀で、未処置のまま放置した場合、ほとんどの血清反応陽性者はAIDSに特徴的なCD4+ T細胞数減少と日和見感染を示す(例えば、59)。血清陰性者と遅延進行者からのIgAを使って見られるgp120切断パターンの間に明白な違いはなく、両者のIgAはEP-431-433プローブと優先的に反応した。これは、遅延進行群の触媒活性の亢進が、(免疫優性なV3領域に対する通常のAb反応ではなく)gp120 SAg部位に対する拡大応答を意味することを示唆する。合わせて考えると、これらの研究は、AIDS遅延進行者はgp120 SAg部位に対する有益な触媒免疫応答を装備することが出来るという仮説を示唆する。これは、SAg部位は通常特異的Ab応答を誘発することができないという予想と対照的である。抗SAg部位触媒IgAにおける制限がどのようにして克服できるのかを理解することは、新規HIVワクチン候補の開発のために興味深い。抗SAg Abの生産におけるT細胞の役割に関しては情報がない。421-433のSAg領域にわたっているペプチドは、効果的T細胞エピトープと認識されてきた(60)。我々は、遅延進行者においてTヘルパー細胞の発達亢進が抗SAg触媒IgAの産生を促進するという可能性を無視することはできない。B細胞レベルで、BCR触媒によるSAg部位におけるタンパク質切断に続くgp120断片の放出は、gp120-BCR結合によって誘起されるアポトーシスの情報伝達経路を無効にし、触媒BCRs発現細胞の生き残りに有利に作用していると予測してもよいだろう。さらに、タンパク質分解と非共有結合的なBCR占有の機能上の帰結が同一であるという保証はない。ペプチド結合の加水分解は、非共有結合的なBCR結合と比較して、著しく大量のエネルギー(約Δ70 kcal/モル)を放出する。このエネルギーが、(アポトーシスの信号変換経路の代わりに)生産的に細胞増殖を誘発するBCRコンフォメーション変化を誘導するのに用いられるなら、触媒産生細胞のクローン選択は起こるはずである。これらの考慮は、SAg反応性触媒IgAの合成は免疫学的に可能であることを示唆するが、遅延進行者群でその産生を許している正確な状況は解明されていない。
【0145】
HIVの細胞内進入の第一段階である、gp120-CD4結合メカニズムの詳細は、突然変異生成とX線結晶学研究から得られた(9,11)。gp120のCD4結合部位は、第2、第3および第4保存領域内に位置するアミノ酸、すなわち残基256、257、368-370、421-427および457から成る不連続な決定基であるように見える。本研究において、十分量の非感染者の唾液IgAおよび血清IgAが培養内に存在する場合、HIV一次株によるPBMC感染の強力な中和は明白であった。中和活性は、CD4結合に関係する421-433領域を認識するIgAの能力と整合している。gp120残基421-433の親電子性類縁体は中和を阻害したが、無関係な親電子性ペプチドはしなかったことは、421-433領域における相互作用がIgAによるウィルス中和における必要不可欠なステップであることを示唆する。EP-421-433プローブ存在下における中和活性の選択的消失もまた、中和が宿主細胞タンパク質(例えば、CD4またはケモカイン受容体)の認識に起因するという他の可能性と矛盾する。gp120の421-433領域の配列は、免疫優性V3領域と比較して、多様なHIV株でよく保存されている[ロスアラモスデータベース収載の種々のクレードに属する550HIV株のgp120残基421-433の保存率は以下の通りである:A(54) 93%; B(155) 95%; C(111) 97%; D(20) 96%; F(10) 93%; G(11) 90%; CRF(189) 94%(アルファベット文字はクレード呼称、括弧内の数値は株数)。株ごとに、421-433エピトープのコンセンサス残基(K-Q-I-I/V-N-M-W-Q-E/R/G-V-G-K/Q/R-A)と同一の残基を数えた。%保存率は、100 x (同一残基数)/ペプチドエピトープの総残基数)として計算された。]。
【0146】
非触媒Abに関する研究は、中和速度論の変化が抗HIV効力に影響することも予期できることを強調した(44)。触媒一分子は、繰り返し反応サイクルで再利用され、複数のgp120分子を切断する(それに対して、触媒活性を持たないAbは、最大でも平衡成立時化学量論的にgp120を不活性化することができる(例えば、二価IgG抗体1分子あたり2分子のgp120)。本研究において血清IgAによるHIV中和は、ウイルスとの長時間インキュベーションの後のみ明白で、それに対して唾液IgAは比較的短いAb−ウイルスインキュベーション時間にも関らず再現性よくウイルスを中和した。唾液IgAのより迅速な作用は、唾液IgAの血清IgAより高い触媒活性(約15倍)と一致している。我々の研究室で精製したヒトIgG調製品および市販IVIGから精製したものは、明瞭なgp120切断活性を示さず、IgGおよびIVIG調製品は試験された濃度で中和活性を欠いてもいた。市販IVIGは、以前HIV感染の治療のために考慮された(45)。触媒機能が抗ウイルス効力を強化する範囲において、ヒト分泌IgAプールは強い抗HIV効果を及ぼすことが期待できる。以前我々は、触媒Ab断片が、触媒不能なHis93:Arg変異体よりも優れたVIP中和活性を示すことを報告した(28,61)。野生株と変異体AbはVIPと同等の親和性で結合するので、前者の優れた効力は触媒機能によるものと考えられた。
【0147】
要約すると、我々の研究は、非感染者のIgAがHIV gp120の切断を触媒すること、触媒活性はAIDS遅延進行者で上昇していること、そして、IgAは組織培養においてHIV一次分離株の感染性を中和することを示した。これらの結果は、ウイルスに対する自然防御媒介物質としての触媒IgAを示唆する。
【0148】
【0149】
【0150】
【0151】
実施例3:アミロイドβペプチド指向性IgM防御酵素
酵素活性を備えた抗体(アブザイム)は、有毒なポリペプチドに対する潜在的に強力な防御機構を象徴する。アブザイム分子のタンパク質分解機能は、目標抗原を永久に不活性化することができ、通常の酵素同様、アブザイム一分子が何千もの抗原分子を切断することができる。我々は以前、抗体のタンパク質分解活性が生殖細胞系V遺伝子によってコードされる継承した機能であることを示した(1)。触媒機能の適応発達がB細胞分化プロセスによって禁止されていないなら、液性免疫系は個々のペプチド抗原特異的な多様なアブザイムを産生することができるはずである。
【0152】
β-アミロイドペプチド(Aβペプチド)の凝集体は加齢とともに脳に蓄積し、アルツハイマー病(AD)の病因に関与すると考えられている。大きなAβ原繊維状凝集体の提案された悪影響に加えて、ペプチドの拡散性オリゴマーは神経変性の媒介物質であると考えられる。自然に生じるAβペプチド結合性抗体は、コントロールのヒトおよびAD患者の血清中に確認された(2,3)。これらの抗体の予測される有益な機能は、脳内でFc受容体発現細胞(マクロファージおよびマイクログリア)による免疫複合体の取り込み、または血流中のAβペプチドの減少によるAβペプチド除去の増進である。
【0153】
脳内におけるこれらの抗体の作用は、しかし、炎症媒介物質の発散または脳溢血に起因する厄介な結果を引き起こすかもしれない。
【0154】
ここでは、我々は、ヒトが、Aβペプチド凝集体の形成を妨害しペプチド凝集体を可溶化することができるAβペプチド反応性タンパク質分解抗体を合成するという証拠を解説する。これらの観察は、Aβペプチドを標的とするアブザイムがADに対する自然防衛機構の一つであるかもしれないこと、および、これらのアブザイムがADに対する免疫治療の手段を提供するかもしれないことを示す。
【0155】
方法
電気泳動的に均一なIgMおよびIgG抗体は、アフィニティクロマトグラフィ(抗IgMおよびプロテイン Gカラム)によって精製された(4)。ビオチンタグを具えた共有結合反応性ホスホン酸ジエステル(Bt-Z、N-[6-(ビオチナミド)ヘキサノイル]アミン(4-アミジノフェニル)メタンホスホン酸ジフェニルエステル)と抗体の反応混合物は、SDS-電気泳動の後、付加体形成を測定するためのビオチン検出に付した (4)。
【0156】
触媒活性は、抗体と合成Aβ1-40から成る反応混合物の逆相HPLCカラム上の新しいA220ピークの出現として明白だった。生成物はピーク面積から定量した。生成物は、個々のペプチドイオンのオンラインエレクトロスプレーイオン化質量分析(MS)およびMS/MS分析によって同定された。
【0157】
合成Boc-Glu(OBzl)-Ala-Arg-アミノメチルクマリン(AMC)の切断は、遊離したAMCの蛍光定量によって測定された(4)。ペプチド凝集体は、高さ解像度10nmのマイクロカンチレバープローブを使用する原子間力顕微鏡(AFM)によって視覚化された(5)。
【0158】
結果と考察
IgMアブザイムは、IgG抗体を上回る速度でAβ1-40を切断した(図26)。Aβ1-40と同様、Aβ1-42も、HPLC分析で測定された通り、IgMアブザイムによって切断された。これは、タンパク質分解が液性免疫応答の発生初期に発現される生来性の免疫機能であるが、応答が刺激免疫原により特殊化されると劣化するという我々の確信と一致している。高齢者のIgMおよびIgGアブザイムは、若年者の対応する抗体よりも速くAβ1-40を切断し、このことは、アブザイム応答が年齢と相関して適応成熟を経ることを示唆する。これは、年齢と共に上昇するAβペプチド凝集体の産生が、Aβペプチド単量体で見られない新規なコンフォメーションエピトープの発現を起こすことを示唆する。あるいは、ペプチドへの免疫系の持続的露顕は、年齢が進むにつれて免疫寛容の破綻を起こすかもしれない。
【0159】
同一の方法で精製された多クローン性および単クローン抗体調製品による異なったレベルのAβ1-40切断が観察され、このことは、アブザイム活性が抗体の可変領域と関連した多形機能であることを示唆する(図27)。多クローン性IgMおよびモデル単クローンIgMの両方は、Lys16-Leu17およびLys28-Gly29の2つの結合でAβ1-40を切断した(図28、図29)。図28aは、Aβ1-40の単クローンIgM Yvoとのインキュベーションの後得られた逆相HPLCプロフィールを例示する。図28bは、保持時間21.2分のピークをAβ29-40断片として同定するための、エレクトロスプレーイオン化-質量分析(ESI-質量分析)の使用を例示する。スペクトル中の観測されたm/z値は、これらの断片のイオンの理論的なm/zと正確に一致し、さらに、一価の荷電種のMS/MS分析は、その同定を確認した。図29は、多クローン性IgM(6人の高齢者からプール)により切断された、Aβ1-40中のペプチド結合の同定を示す。図29aは、反応混合物の逆相HPLCプロフィールを例示し、図29bは、保持時間10.2分のピークのESI-質量分析によるAβ1-16断片との同定を例示する。
【0160】
アブザイムがAβペプチドの負の影響を改善する可能性は、単クローンIgM Yvoの速度論パラメータから明白である。このアブザイムによる、相当する非タンパク質分解性抗体によって平衡時結合されるAβペプチドの最大限の量と比較して、25倍量のAβペプチドの切断が、血中抗Aβペプチド抗体の一半減期(3日)内で表6で記述される条件下で予測される。
【表6】
【0161】
Aβ1-40の原繊維およびオリゴマー凝集体への集積は、モデル単クローンアブザイムによって停止された(図30)。この現象は、アブザイムに対してAβペプチドが大モル過剰(200倍)であったにもかかわらず明白で、触媒メカニズムと一致する。図30、パネルAは、単クローンIgMで6日間処理したAβ1-40の原子間力顕微鏡写真である。この方法によって、ペプチド前原繊維、短い原繊維およびオリゴマーが観測できた。コントロールは、ペプチドと触媒IgMの調製されてすぐの反応混合物と、触媒能のないIgMとインキュベートされたペプチドを含んだ。図30、パネルBは、触媒IgM Yvo存在下12日目の、6日目と比べて減少したAβ1-40集合体を示す。表7と8は、触媒IgM Yvoと非触媒IgM 1816存在下6日目と12日目に形成された種々のAβ1-40集合体の定量値を提供する。軽時変化研究は、6日目に観測された少量の原繊維およびオリゴマー凝集体が、混合物の更なるインキュベーションによって消滅することから明白に見出される通り、アブザイムが凝集体を切断することもできることを示す。
【0162】
オリゴマー、前原繊維、短原繊維および成熟原繊維の定義は、当業者には知られているか、ラドゥらの報文(5)の参照によって得られるかもしれない。
【表7】
【表8】
【0163】
モデル単クローンIgMの活性は、セリンプリテアーゼの不可逆的ホスホスホン酸エステル阻害剤によって化学両論的に阻害され、この化合物と抗体の共有結合付加物の形成は明白だった。図31、パネルAは、IgM Yvoがビオチン化セリンプロテアーゼ阻害剤、Bt-Z-2Phと不可逆的に反応するが(レーン1)、同一条件下コントロールプローブBt-Z-2OHとはほとんど反応しない(レーン2)ことを示す。コントロールプローブのリン原子の親電子反応性は乏しく、そのため酵素求核反応基と反応しない。このパネルに示した電気泳動の手順は、変性剤SDSの存在下、および反応混合物の加熱(100度)の後に実行され、従って観察されたバンドは、非共有結合性複合体ではなく、共有結合付加物を示すことを示唆する。図31、パネルBは、IgM Yvoによって触媒されたBoc-Glu(OBzl)-Ala-Arg-AMC加水分解の、セリンプロテアーゼ阻害剤Cbz-Zによる化学量論阻害を例示する。挿入図は、基質と阻害剤の構造を示す。示したのは、種々の濃度のCbz-Z存在下、アミノメチルクマリン(AMC)脱離基の蛍光として測定された、IgMの残存触媒活性のプロットである。x切片の値(およそ0.94)は、[Cbz-Z]/[IgM活性部位]比率<2のデータポイント(1モルのIgM = 10モルのIgM活性部位)を最小二乗法で最適化した直線から決定した。データは、触媒活性がIgM活性部位に起因していることを示唆する。パネルCは、Aβ1-40の非存在および存在下(約30と約100μM)における、IgM YvoによるBoc-Glu(OBzl)-Ala-Arg-AMCの切断の進捗曲線を例示する。観察された阻害は、Boc-Glu(OBzl)-Ala-Arg-AMCとAβ1-40がIgMの同じ活性部位によって切断されることを示唆する。これらのデータは、プロテアーゼ汚染の欠如を確立し、既述のタンパク質分解IgMおよびIgGアブザイムに類似した求核触媒作用を示唆する。
【0164】
合わせて考えると、これらの観察は、IgMアブザイムは高齢者でAβペプチドに対して保護効果を及ぼすことができることを示す。アブザイムは、炎症や出血反応を刺激することなくペプチドを潜在的に除去することができる。従って、触媒機能による優れた効力の見込みに加えて、アブザイムは、化学量論的に結合する抗体の有毒な併発症なしに、望ましい有益な効果を及ぼすかもしれない。
【0165】
【0166】
実施例4:触媒抗体発生の理論
以下の実施例は、本発明の説明を助け、当業者に対して重要性を明確にする理論を提唱する。
【0167】
触媒抗体は、タンパク質進化についての洞察と要求に応じた新規触媒へのルート(すなわち、どんな抗原基質に対しても特異的触媒を適応誘導することによって)を与える可能性により、いくつかの世代の科学者を魅了した。豊かな経験的情報が集められ、そして、アシル転移、リン酸ジエステル加水分解、リン酸化、多糖類加水分解および水酸化を含む、一見多様な化学反応を引き起こすことができる抗体が文書化されている[総説1-3]。触媒抗体の既知の基質は、大きな抗原(例えば、ポリペプチド、DNA)[例えば4-6]および小さなハプテン(例えば、トリペプチド、脂質、アルドール)[7-10]を含む。抗体による触媒作用は個々の基質構造の特異的認識によってのみ起こるという当初の仮定に反して、抗体は、非選択的なもの(例えば、配列に依存しないペプチド認識や反応中心に隣接する様々な置換基をもったアルドールの認識)から、高選択的なもの(例えば、抗原性エピトープの非共有結合的な認識によって可能にされる個々のポリペプチドの切断)にわたる触媒活性を示すことができる。
【0168】
自然免疫メカニズムによって形成された触媒が、いくつかのグループによって確認された[7,11,12]。抗体の触媒活性の存在は、活性の生物学的目的に関する同意がまだ発達していないために、知的に不快なままである。もう一つの驚愕の源は、天然と設計された抗体触媒の関係に関する。設計抗体の支持者は、自然抗体は通常抗原基底状態による免疫学的刺激に応じて発達するので、それらは遷移状態を安定化(触媒作用に対する広く認められた必要条件)させることができないと主張した。混乱の原因の少なくとも一部は、触媒抗体の自然発生についての統一理論または自然触媒抗体と設計触媒抗体を関連付ける理論的枠組みがないことである。
【0169】
触媒同定への多様な実験的なアプローチは、以下の通り文献中に記載されている:(a)健常生物および免疫学的疾患生物によって自然発生的に産生される抗体の、触媒活性に基づく篩い分け[13-18]。(b)普通の抗原による定型的免疫[19-21]。(c)酵素の活性部位に対して惹起された抗体を免疫することによる抗イディオタイプ抗体の作成[22-26]。(d)不安定反応中間体の安定類似体による免疫[総説27-30]。
【0170】
各々のアプローチは触媒活性をもつ抗体を与えたが、理論的基盤の不在は、この分野の難問を乗り越える創造的な方法を妨げてきた。触媒抗体のおなじみの批判は、それらの回転効率(kcat、一次触媒速度定数)が従来の酵素よりも低いということである。触媒効率の正当な比較のためには、不安定な基質は両方のクラスの触媒によってより変換されるので、同じ分子が抗体と酵素の基質として使用されなければならない。エネルギー要求が少い反応には、速度上昇率(kcat/kuncat)が、触媒による活性化エネルギー低下の程度を評価するために、慣習的に計算される。ペプチド結合切断のようなエネルギー要求の大きい反応の背景反応(kuncat)は非常に遅く[およそ7.9×10−9分−1]、約2.0分−1のkcatをもつタンパク質分解抗体で、速度上昇率およそ>108に相当する。
【0171】
基底状態(GS)以上に抗原遷移状態(TS)を安定化させる抗体だけが触媒作用を示すことが出来、回転率はTSおよびGS結合によって得られる自由エネルギーの差(ΔGTS−ΔGGS)と比例している。強力な抗原GS結合は、抗体の歴史的な際立った特徴である。比較して、通常の酵素は一般に弱いか中程度の基質GS結合を示す。強い抗原GS結合の本質的な反触媒効果が示唆されたが、これは抗体による効率的触媒作用に対する理論的障壁よりも、むしろ低回転率触媒抗体の経験的な知見による欲求不満に由来するように見える。抗体−抗原結合は、大きな表面積にわたって起こることができる。反応活性化エネルギーの低下を成し遂げるには、結合開裂をよび形成に関与する反応基においてTS特異的な相互作用の発達を要するが、基底状態において確立した(反応点から)離れた相互作用がTSの形成に伴って失われるべき理由は全くない。GS結合における相互作用が抗体−抗原複合体のTSにおいて保持されるなら、反触媒効果は期待されない。
【0172】
抗原GS結合は、抗原濃度がKd(解離平衡定数)以下の時、触媒効率(kcat/Kdと定義される)に貢献する。この状況は、多くのタンパク質抗原標的(例えば、HIV感染者に見られる痕跡濃度のgp120)にあてはまる。そのような例においては、低kcatタンパク質分解抗体でさえ、強い抗原GS結合ゆえに、生物学上意義ある濃度において抗原を速く分解することができる。
【0173】
強い抗原GS結合のもう一つの機能上の相関は、特異的触媒作用である。正に、それらの優れた特異性は触媒としての抗体に対する関心の主要な理由である。この特徴の重要性は、抗体のタンパク質分解活性を例として示すことができる。構造的に同一のジペプチド単位は異なるタンパク質抗原内に(そして、同一抗原内に)しばしば存在するので、個々のタンパク質抗原に対するプロテアーゼの特異性は、切断されるペプチド結合そのものの認識に由来することはできない。結合開裂/形成ステップから離れたGSで形成される接触が、特異的触媒作用が機能するには不可欠である。
【0174】
触媒機能が抗体において発達する方法についての一見対立する仮説と一致して、自然淘汰を支配する力と設計触媒への最適手段の理解は大部分推測的なままであった。
【0175】
理論の重要な要素は(しかし、いかなる手段によっても本発明の制限ではない)は、以下のものを含む:(a)抗体の生来型V領域は、種々の大小分子中に含まれた親電子基と共有結合的に相互作用できる求核反応部位を含む。(b)求核反応部位は抗体中に遍く発現されており、未成熟な免疫系によって産生される抗体の非選択的な触媒活性を担っている。(c)求核反応性はB細胞成熟の過程で非共有結合による抗原結合活性の適応発達と統合されたままである。その結果、一部の適応成熟した抗体は、抗原特異的な触媒活性と、低下したKdゆえに改善した触媒効率を表すことができる。(d)触媒B細胞受容体(BCR)からの抗原断片の迅速な遊離はクローン選択を中止するので、触媒回転率の適応的改善はB細胞受容体の情報伝達速度によって制限される。(e)異なる抗体クラス(μ, δ, α, λおよびε重鎖クラス)に属すBCRによって増殖信号が異る速度で伝達されるなら、触媒回転率はこれらの抗体クラスにおいて異なる程度に適応的に発達することができる。(f)触媒の産生は、自己免疫疾患で速いB細胞情報伝達の条件下で、増加したレベルで起こることができる。そして、(g)内在性親電子性抗原とペプチド結合反応中間体の親電子性類似体による攻撃は、抗体求核反応性の適応的強化を誘導し、触媒装置の他の構造要素が存在するなら、それはより急速な触媒作用を可能にできる。
【0176】
タンパク質求核反応性部位:共有結合反応中間体の形成を含む求核触媒作用は、プロテアーゼ、エステラーゼ、リパーゼ、ヌクレアーゼ、グリコシダーゼおよびある種のシンターゼを含む化学反応を促進する酵素によって利用される主要なメカニズムの一つである。タンパク質の求核性は、特定のアミノ酸の正確な空間配置と分子内活性化に由来する(例えば、セリンアシラーゼの触媒三つ組においては、Ser酸素原子は、HisおよびAsp残基との水素結合ネットワークの存在によって、わずかに親電子性を持つカルボニル結合の炭素原子を求核攻撃することが出来る)。最近まで、求核反応基は、何百万年ものタンパク質進化の稀な最終産物であると考えられてきた。ジフルオロイソプロピルフォスフェートやホスホン酸ジエステルのような有機リン化合物は、強親電子性リン原子を含み、酵素の求核反応基のための共有結合反応性探索子として広く使用されてきた[31]。我々は、基本的に全ての抗体のV領域が、リン原子の直近に正電荷を含むホスホン酸ジエステルと共有結合付加物を形成する、酵素様求核反応基を含むことを報告した[32]。多様な非酵素、非抗体タンパク質も親電子性リン原子と共有結合反応し[33]、他のグループは、例えばグルカゴンやVIP等、通常酵素として分類されないペプチドやタンパク質中のセリンプロテアーゼ様求核反応基を推定した[34,35]。
【0177】
面白いことに、不可逆的熱変性を受けた特定のタンパク質は、上昇した求核反応性を示した[33]。求核部位は、疑う余地なく、それなくしては十分な反応性を持たないアミノ酸の空間的接近と相互作用によって形成されるが、そのような相互作用は、タンパク質の非天然型に折りたたまれた状態によって許可される。従って、求核基-親電子基組合せ反応は、例えば、種々の程度に水素結合や静電的相互作用を従事させるタンパク質の能力に類似した、タンパク質に本来備わっている性質であるように見える。
【0178】
重要なことに、求核反応性は、共有結合触媒作用の必要であるが、十分ではない条件である。例えば、キモトリプシンによるペプチド結合の触媒切断も、共有結合アシル−酵素中間体の形成後おこる出来事、すなわち中間体の加水分解(脱アシル化)と生成物ペプチド断片の活性部位からの放出、の促進を必要とする。抗体は、求核反応性の必要条件を満たしているが、必ずしも効率的にタンパク質分解反応を触媒するというわけではない。
【0179】
生来性、非選択的タンパク質分解抗体:およそ100のVLおよびVH遺伝子は、より少ない数のDおよびJ遺伝子とともに、ヒト抗体の遺伝レパートリーを構成する。免疫応答の適応成熟過程でBリンパ球によって産生される最初の抗体は、IgMである。後に、V領域が体細胞突然変異プロセスによって多様化するにつれ、イソタイプ変換が起こり、特異的抗原認識能力を具えたIgG、IgAおよびIgEの産生に達する。免疫学的に未刺激のマウスおよび健康なヒトの多クローン性IgM、およびより低い程度でIgGは、それぞれ、ハプテン性ホスホン酸ジエステルと小ペプチド基質を使用して測定される、これらの分子の親電子基に隣接した正電荷の必要条件のみによって制限される非選択的な求核反応性とタンパク質分解活性を示す[12,32]。さらに、μ鎖を含むB細胞受容体(BCR)は、脾臓B細胞表面に発現される主要な求核タンパク質である。タンパク質分解活性の生来起源説の正式証明は、タンパク質分解抗体軽鎖サブユニットの研究から得られた。部位特異的突然変異導入によって特定された触媒残基(Ser27a-His93-Asp1)は、対応する生殖細胞系VLにも存在する[36]。4つの置換突然変異が適応成熟軽鎖(生殖細胞系タンパク質と比較して)で確認された。成熟軽鎖は、触媒活性を失うことなく突然変異生成によって生殖細胞系構成に戻され[37]、このことは、活性の生殖細胞系起源を確認している。
【0180】
抗原特異的な抗体プロテアーゼ(下記参照)とは異なり、非選択的なペプチダーゼは免疫レパートリーの固有の構成要素であるように見える。ジオルジ ネビンスキのグループによるヒトの乳汁がプロテインキナーゼ活性をもったIgAを含むという観察[38]、そして、リチャード ラーナーのグループによるランダムに選ばれた単クローン抗体の全てが過酸化水素合成を触媒するという観察[39]から明白であるように、健常人由来の抗体の化学反応性はおそらくペプチド結合の加水分解活性を越えて広がるだろう。これらの観察は、触媒活性が完全に自然なプロセスによって抗体に起こることができることを示す。
【0181】
抗原選択的タンパク質分解抗体。個々の抗原の選択的な、高親和性認識は、成熟した抗体の際立った特徴である。しかし、いくつかの抗原、例えば、グレッグ シルヴァーマンのグループによって特定された細菌タンパク質プロテインAとプロテイン L[40,41]、およびブラウンのグループ[42]とズアリのグループ[43]によって確認されたHIVコートタンパク質gp120、は生殖細胞系抗体V遺伝子によってコードされる抗体によって選択的に認識される。これらの抗原は、B細胞スーパー抗原と称される。免疫前抗体によるスーパー抗原の選択的な認識は、重要な生き残り上の優位性、すなわち病原微生物に対する防御をもたらすので、V遺伝子進化の間この相互作用の選択を仮定することによって合理化されるかもしれない。スーパー抗原結合活性は、通常、相補性決定領域(CDR)における2、3の接触とともに、フレームワーク領域内にあるV領域の保存領域における接触によって媒介される。分析されたいくつかのポリペプチド基質のなかで、HIV gp120は、非感染者のIgMによって選択的に切断されることが観測された[44]。gp120のスーパー抗原的性格は、残基421-433から成る部分を含む、タンパク質中の不連続なペプチド部分の認識に由来すると考えられる[43,45]。2系統の証拠が、タンパク質分解IgMがgp120のこの領域を認識することを示唆した。第一に、IgMによって切断されるペプチド結合のうちの1つは、スーパー抗原決定基中に位置した(Lys432-Ala433)。第2に、残基421-433に相当する合成gp120ペプチドのCRA誘導体は、無関係なペプチドCRAやハプテンCRAを上回るレベルで、タンパク質分解抗体と共有結合付加物を形成し、このことは、gp120ペプチド領域の選択的な非共有結合的な認識を示唆している。
【0182】
触媒IgMのgp120選択性は、切断された結合と同じジペプチド単位が他のほぼ切断されなかったタンパク質に存在するので、ジペプチド単位における局所化学的相互作用に起因することはあり得ない。稀に、実験的な免疫によって得られる適応成熟したIgGが、個々のエピトープの非共有結合的な認識に起因する抗原選択的タンパク質分解活性を表すことができる(下記参照)。IgM触媒によるgp120反応における非共有結合的なgp120認識の役割は、反応の比較的小さなKm(非選択的IgMタンパク質分解のKmより約2桁低い)によtって支持される。gp120のスーパー抗原決定基の非共有結合的な認識は、従って、抗体による感受性親電子グループ上での求核攻撃を容易にするように見える。
【0183】
ポリペプチドの基底状態による免疫:通常のポリペプチド免疫によるIgGによる急速で特異的なタンパク質分解はまれな現象である[19-21]。ニューロペプチドVIPによる免疫は、低ナノモル領域のKmと高IgG濃度でVIP加水分解の抑制を示す非定型速度論をもったIgGを産した。この抗体の単離した軽鎖サブユニットは、KmがIgGよりかなり大きいものの[46]、慣習的なミカエリス−メンテン速度論に従ってVIPを切断し、重鎖サブユニットは活性がなかった。HIV gp41およびCCR5の部分配列に相当するペプチドによる免疫によって得た単クローン抗体の軽鎖サブユニットは、対応する免疫原を加水分解するが、完全IgGは活性を示さなかった[20,21]。
【0184】
完全抗体の軽鎖サブユニットに相当する、多発性骨髄腫患者由来のベンス−ジョーンズタンパク質のケースは、これらのタンパク質が特定の外来または自己抗原ポリペプチドに向けられた抗体に属しているであろうから(抗原は未特定であるが)関係している。多発性骨髄腫患者から分離された軽鎖群による、モデルプロテアーゼ基質を切断する能力から確定された、頻繁なタンパク質分解が記述された[13,47、48]。これらの患者のB細胞は分化終期段階でガン化すると考えられ、それらの抗体産物のV領域は通常高度に変異している。しかし、観察されたタンパク質分解活性は非選択的で、生殖細胞系にコードされた抗体のそれと機能的に同類である。低水準の非選択的活性は、前段落であげた抗原特異的IgGにも見られ、このことは、ペプチド抗原エピトープの高親和性認識に典型的な非共有結合的な接触をすることなく、小ペプチド基質に応対する触媒部位の能力を反映する。
【0185】
IgGによる抗原特異的なタンパク質分解のもう一つの面白い例が記述された[15]。
【0186】
不十分な内因性血液凝固第8因子の代替として第8因子療法を受けている血友病A型患者の一部は、IgGクラスの抗第8因子抗体が現れ、一部のIgGはこの血液凝固促進タンパク質を加水分解する。しかし、重要なことに、通常第8因子遺伝子の異常が内在性タンパク質の欠乏の基礎をなしており、第8因子に対する免疫寛容の障害が非定型な触媒IgG応答において役割を果たす考えられることから、タンパク質分解活性は、注入された第8因子に対する定型的な応答を構成しないかもしれない。
【0187】
抗原特異的なタンパク質分解抗体の生成は、B細胞成熟を支配するプロセスによって制限される。BCRが抗原によって占有されるとき、B細胞はクローン選択経路へ誘導される。図32は、抗原消化とB細胞受容体(BCR)からの遊離が細胞増殖の停止を誘導するので、多くの抗体応答は触媒回転率の改善を好まない傾向があるという原則を示す。しかし、膜内外BCR情報伝達の速度まで、BCR触媒速度を増加することに障害はない。特定の状況では、例えば、異なるBCR(例えば、μ、α)またはCD19過剰発現と関係した増加した膜内外シグナリング速度、または、内在性または外来性の親電子性抗原によるB細胞の刺激によって、速度の更なる改善は可能である。適応成熟したIgM、IgGおよびIgAによって提供される、抗原特異的タンパク質分解活性の相対的な大きさは、異なることが予想される。これは、μ、γおよびαクラスに属しているBCRが、BCR複合体中の信号変換タンパク質(例えば、CD19、CD22およびLyn)との相互作用の強さよって、異なる速度で膜内外シグナリングを誘発するかもしれないので可能である。
【0188】
特異的タンパク質分解自己抗体:抗体の抗原特異的タンパク質分解活性は、自己抗体調製品で発見された[4]。いくつかの自己免疫疾患患者は、触媒自己抗体陽性であることが記述されており[11]、このことは、抗原特異的触媒作用の合成に対する規制が、健康な免疫系に比べて自己免疫疾患ではより容易に打破されるかもしれないことを示唆する。例えば、VIP特異的な触媒自己抗体は罹患被験者でだけ観察された[49](健常人もVIP結合性抗体を生じるけれども[50])。VIPに対する高親和性と高度に変異した相補性決定領域(抗原特異的抗体に特徴的である)から判断して、タンパク質分解自己抗体のV領域は適応成熟している[51]。
【0189】
加速したBCR膜内外シグナリングは、BCR触媒作用が上昇しても、B細胞がクローン選択経路に進むことができるに違いない。いくつかの報告は、自己免疫を、BCR複合体中のタンパク質CD19、CD22およびLynのレベル変化による機能不全のB細胞シグナリングに関連付けた。CD19は、B細胞の抗原性刺激の閾値を減らし[52]、CD22は閾値を増やす[53]。Srcタンパク質チロシンキナーゼの一つLynは、抗原刺激されたBCRのシグナル変換に関係しているとされる[54]。これらのタンパク質の機能障害は、自己抗体生産の上昇と関係している。
【0190】
あるいは、内在性合成物による共有結合BCR結合が、タンパク質分解BCRを発現しているB細胞の増殖を誘発するかもしれない。これは、モデルポリペプチドCRAによる免疫が、タンパク質分解抗体の合成を刺激するという観察によって支持される[55]。天然セリンプロテアーゼ阻害物質や求核基に共有結合できる反応性カルボニル化合物[56,57]は、潜在的内因性CRAを代表する。例えば、正荷電したピルビン酸誘導体は、トリプシンおよびトロンビンのSer求核基と共有結合的に反応する[58; 正電荷はP1副部位にあって、共有結合反応には参加しない]。更なる候補CRAは、自己免疫疾患で亢進しているプロセスである[59,60]、脂質過酸化およびタンパク質グリケーション反応(メイラード反応)によって生産される親電子物質である。例は、脂質過酸化およびグリオキサールによって発生する4-ヒドロキシ-2-ノネナールとマロンジアルデヒド、そして、糖代謝反応で発生するメチルグリオキサルとペントシジンである。
【0191】
タンパク質分解抗体工学:カルボニル基の求核攻撃は、酵素的ペプチドおよびエステル結合切断反応に類似したメカニズムで起こる。エステル基底状態類似物とホスホン酸モノエステル遷移状態類似物(TSA)で免疫したマウスからの抗体による小分子エステル加水分解が報告された[61,27]。エステラーゼ活性は、抗体のタンパク質分解活性と同じ原則から理解されることができる。活性は、基底状態よりも遷移状態をより安定させ、それによって反応を加速する抗体の能力に起因していた。TSA免疫は、非共有結合的な静電相互作用によって遷移状態で生じるオキシアニオンを安定化する、抗体中のオキシアニオンホールの適応的な新規形成を誘導することが示唆された。
【0192】
人工触媒の産生における自然免疫メカニズムの重要性は、通常マウスに比較して自己免疫マウスでTSA免疫に応答してエステラーゼ抗体の増加した合成を記載している報告によって例証される[62,63]。天然および設計触媒抗体の分野間のもう一つの接点は、当初非共有結合性TSAとして機能すると提案された試薬の研究において明かされた。ホスホン酸モノエステルTSAは、親電子性ホスホン酸ジエステルプローブに類似した方法で、タンパク質求核基と共有結合を作った[64,65]。この知見は、抗TSAエステラーゼ抗体がしばしば共有結合触媒メカニズムを使うという観察[例えば66,67]を説明する。従って、当初設計エステラーゼの例とみられた特定の抗体は、その触媒力を生来性の抗体求核性に負っているように見える。天然の求核活性を改善する有望なアプローチは、ポリペプチドCRAによる免疫である。特異的gp120切断活性を有する単クローンIgGクローンは、gp120のCRA誘導体で免疫したマウスから分離され[55]、また、アルドラーゼ抗体は類似した手段で得られた[68]。
【0193】
酵素活性部位に対する抗体による免疫は、抗体の結合部位内に酵素活性部位を複製するために適用された[22,23]。元の酵素部位が特定の基質に選択的であるなら、抗酵素イディオタイプ抗体は類似した選択性を示すと予測することができる。フィールドが発達して、触媒活性と抗原性エピトープの非共有結合的な認識を組み合わせた抗体を捕捉することの出来るより洗練されたプローブが開発されるにつれ、タンパク質分解抗体の誘導は考えられることができる。突然変異生成による抗体V領域への求核部位の構造に導かれた導入は、タンパク質分解活性を抗体に与えることが報告され[69]、CDR突然変異生成に続くファージ提示抗体断片のホスホン酸モノエステル結合は、エステラーゼ抗体を単離するために使用された[70]。共有結合ファージ選択アプローチは、タンパク質分解抗体断片を狼瘡ファージ提示ライブラリーから分離するために使用された[64]。
【0194】
恒常性維持機能:ヒトは各々およそ50のVLおよびVH遺伝子断片を受け継ぎ、いくつかの生殖細胞系DおよびJ遺伝子部分は生来型抗体レパートリーの多様性への付加的貢献を提供する。タンパク質分解が継承可能な抗体V領域によってコードされた生来機能であるなら、触媒活性はいくつかの重要な目的にかなうために何百万年の進化の過程で生じたと予測されるかもしれない。哺乳類の抗体応答に特有の高親和性抗原結合は、通常、V遺伝子に作用する体細胞系超突然変異プロセスによって発生する。抗体親和性の成熟は、最初の認識可能な免疫系をもつ下等生物では、限られたレベルで起こるかもしれない[71]。触媒免疫は、これらの生物においては外来抗原に対する主要な防御機構であると予測されるかもしれない。
【0195】
マウスおよびヒトの免疫前レパートリーで見られる抗体による非選択的ペプチド切断の速度論効率の考慮は、この活性は(ほとんどまたは全く結果をもたない痕跡機能ではなく)より発展した免疫系でも重要であると予測する。我々のIgM調製品の見た目の回転数(kcat)は、2.8分−1と高かった[12]。血清IgM濃度(1.5−2.0mg/ml;約2μM)は、通常の酵素濃度より3−4桁大きい(例えば、トロンビンは、アンチトロンビンIIIとの複合体として、血清中ng−μg/ml見られる; 参照72)、そして、IgMのkcat値は、通常のセリンプロテアーゼより約2桁少ない。触媒作用が試験管内で観察される速度で進行するならば、回転率2.8/minをもつヒトIgM 2μMは、3日(IgMのおよその血中半減期に相当)にわたって過剰濃度(>>Km)存在するペプチド基質約24,000μMを切断する。抗原が高濃度存在する時、最大速度条件に近づく、例えば、血中のアルブミンおよびIgG; 甲状腺小胞内腔のチログロブリンのように、合成部位近傍で蓄積しているポリペプチド; 重篤感染局所の細菌およびウィルス抗原。
【0196】
最近の研究は、感染性ショックを生き残った患者のIgGの非選択的触媒活性は、屈服した患者より大きいことを示し[73]、また、我々はコントロールの非自己免疫疾患被験者と比較して、自己免疫疾患患者の低下した非選択的タンパク質分解活性を報告した[7]。
【0197】
脳内におけるアミロイドβペプチド(Aβ)凝集体の蓄積は、アルツハイマー病の病因因子として提唱された。Aβ結合活性をもつ単クローン抗体はペプチド凝集体を排除し、アルツハイマー病マウスモデルで認識を改善することが報告されている[74]。神経変性または自己免疫疾患の所見のない若年者(<35歳)および高齢者(70年)からの多クローン性IgMおよびIgGによるAβ1−40切断を検討した[75]。高齢者からのIgMとIgG調製品はAβ1-40を切断し、IgMはIgGより183倍高い活性を示した。若年者からのIgMはより低レベルでAβ1-40を切断し、若年者のIgGでは活性はまったく検出できなかった。μM 濃度のAβ1-40とnM濃度の単クローンIgMのインキュベーションは、ペプチド原繊維の形成を阻害した。これらは、Aβ1-40を切断する自己抗体は年齢と相関して適応的に向上し、保護機能を成し遂げることができることを示唆する。
【0198】
非共有結合的にgp120のスーパー抗原部位に結合するIgG抗体は、以前感染への耐性因子として提案された[76]。HIV表面に発現される三量体gp120は、感染サイクルの第一段階として宿主細胞CD4受容体と結合する役割を果たす。IgAとIgMによるgp120の切断は、宿主細胞CD4結合に重要であると考えられる領域中で起こる; 反応速度は、タンパク質分解抗体が、タンパク質分解活性を欠けている可逆的に結合する抗体と比較して速くHIV-1を中和することができることを示唆する[44]; そして、抗体は培養された末梢血単核細胞のHIV-1感染を中和する[77]。非感染者からのIgMによるHIV-1 gp120切断の特徴は、タンパク質分解抗体が感染に対して抵抗を与えるか、進行を減速することができるHIV感染に対する生来防御システムを構成することを示す(図33)。
【0199】
病原性抗体のCRAによる不活化。自己免疫疾患は、上昇したタンパク質分解性自己抗体合成と関係している[49]。触媒抗体によるVIP[78]と血液凝固第8因子[15]の減少は、それぞれ、自己免疫疾患と血友病A型の寄与因子として提案された。CRAはタンパク質分解抗体を不可逆的に不活性化し、そして、CRA構造内の適切な抗原性エピトープの含有は、共有結合反応を好ましくない抗体集団に特異的にすると予測される[79]。これまで研究された全ての抗体が抗原結合部位内に、CRAの親電子性リン原子に共有結合する求核反応基を含むことから、この戦略は、タンパク質分解活性に関らずどんな病原性抗体集団の永久的不活性化にでも適用できる。さらに、BCR求核基は抗体応答の発生初期に発現されるので、CRAによるB細胞の特異的ターゲティングが考えられる。不可逆的反応性のため、CRAは通常の抗原と比較して、よりすぐにBCRを飽和させると予測される。BCR飽和はB細胞寛容を起こすと考えられており[80,81]、CRAは抗原特異的な寛容誘導の潜在的ルートを提供する。
【0200】
臨床的に有用な抗体の可能性。単クローン抗体は市場に出たバイオテクノロジー製品の有意な割合を占め、多クローン性IVIG製剤はいくつかの病気の有用な治療薬である。HIVコートタンパク質とAβペプチドに対するタンパク質分解抗体はすでに手中にあり、HIV感染とアルツハイマー病はそのような抗体の明らかな標的である。
【0201】
この仕様書で論じられるどんな具体化も、発明のどんな方法、キット、試薬または組成に関して、実行されることができると考えられ、その逆も同じである。さらにまた、発明の構成物は、発明の方法を提供するのに用いられることができる。
【0202】
ここに記述した特定の実施例は、例証として示したのであって、発明の制限としてではないことが理解されよう。この発明の主要な特徴は、発明の範囲から逸脱することなく、いろいろな具体化において採用することができる。当該技術の熟練者は認識するか、あるいは、定型的な実験、ここに述べられている具体的な手順の多数の等価法以上によらず確認することが出来る。そのような等価法は、この発明の範囲内であると考えられて、請求によってカバーされる。
【0203】
本明細書中で述べられる全ての出版物および特許申請は、この発明に関係する当業者の技術水準を示す。全ての出版物および特許申請は、個々の出版物または特許申請が具体的かつ個別的に参照によって含まれるべきと指定されている場合、ここに参照によって含めた。
【0204】
”a”または”an”なる語の使用は、請求項中または明細書またはその両方において、”〜からなる”なる語句とともに使用された場合は、”一”を意味してよいが、”一以上”、”最低一”、および”一以上”の意味とも両立する。請求項中”または”なる語の使用は、選択肢のみを指すと明確に示されるか、または、選択肢が相互に排他的であるかでない限り、”および・または”を意味するために使用される(開示は、選択肢のみ、および”および・または”をさすとの定義を支持するけれども)。本申請を通して、語句”約”は、その値の決定に用いた方法である装置固有の誤差、または、検体間に存在する変動を含む値を示すために使用される。
【0205】
本明細書および請求項において使用されるように、語”〜からなる”(およびその変形)、”〜を持っている” (およびその変形)、”〜を含んでいる”(およびその変形)、または”〜を含んでいる”(およびその変形)は包括的または無制限で、付加、列挙されていない要素、または順序階級を排除しない。
【0206】
ここで使われる語句”またはその組み合わせ”は、その前に列挙した項目のすべての順列および組み合わせを指す。例えば、”A、B、C、およびその組み合わせ”は、以下のうち少なくとも一つを指すことを意図している:A、B、C、AB、AC、BC、またはABC、そして順序がある特定の文脈において重要である場合はさらに、BA、CA、CB、CBA、ACB、BAC、またはCAB。この例で続けると、特に含めたのは、BB、AAA、MB、BBC、AAABCCCC、CBBAAA、CABABBなどの、ひとつ以上の項目または条件の繰り返しを含む組み合わせである。当業者は、文脈からそうでないことが明らかでない限り、どのような組み合わせにおいても、項目または条件の数に上限がないことを理解するであろう。
【0207】
ここで開示および請求される構成物または方法またはその両方の全ては、本開示を考慮して不適当な実験なしに作成および実行できる。本発明の構成物および方法は望ましい実施例について述べられたが、構成物および・またはここで述べられた方法および方法の段階または一連の段階にコンセプト、精神、および発明の範囲から逸脱することなく、変形を適用してもよいことは、当業者明らかであろう。そのような同様の当業者に明白な置換および修飾は、付加した請求によって定義されるような本発明の精神、範囲、およびコンセプトの範囲内であると考えられる。
【0208】
【0209】
【0210】
【0211】
【0212】
【図面の簡単な説明】
【0213】
【図1】図1:CIVIGg、CIVIGm、CIVIGaとCIVIGasによるEAR-AMCの加水分解。
【図2】図2:CIVIGgおよびIVIGsのIgG分画によるEAR-AMCの加水分解。
【図3】図3:CIVIGmおよびIVIGsのIgM分画によるEAR-AMCの加水分解。
【図4】図4:CIVIGa、CIVIGsaおよびIVIGaによるEAR-AMCの加水分解。
【図5】図5:ヒト血液および唾液からのIgG、IgMおよびIgAによるgp120の切断。
【図6】図6:CIVIGaとCIVIGsaによるgp120の優先的切断。
【図7】図7: CIVGaとCIVIGasによるプロテインAおよびsCD4の切断。
【図8】図8:14-kDバンドの消失により明白なCIVIGmによるHIV Tatの切断と、CIVIGa、CIVIGasおよびCIVIGgによる切断の欠如。
【図9】図9:商用IVIGを凌駕するCIVIG調製品のHIV-1中和活性。
【図10】図10: CIVIGにより媒介されるHIV中和のgp120ペプチド-CRAによる抑制。
【図11】図11:ヒト血清および唾液から精製されたIgAによるGlu-Ala-Arg-AMCの加水分解。
【図12】図12:IgAの純度。
【図13】図13:プールIgAと市販のIVIG製剤のアミド分解活性の比較。
【図14】図14:IgA触媒によるGlu-Ala-Arg-AMC加水分解の見かけ上の速度論パラメータ。2つの血清IgA調製品(特定番号2288および2291)のデータを示す。
【図15】図15:IgAのセリンプロテアーゼ阻害剤との反応。
【図16】図16:ホスホン酸エステル1bによるモノクローナルIgA反応の化学量論。
【図17】図17:HIV血清陰性人の血清および唾液IgAによるBt-gp120の切断。
【図18】図18:変性ゲル濾過後、再フォールディングされたポリクローナルIgA、および多発性骨髄腫患者由来のモノクローナルIgAによるgp120の切断。
【図19】図19:A、EP-ハプテン1の構造。
【図20】図20: IgAにより触媒されたgp120切断のGlu-Ala-Arg-AMCによる阻害と、IgAの活性部位滴定。
【図21】図21:IgAとsIgAによるgp120の優先的切断。
【図22】図22:EP-421-433とIgAの相互作用。
【図23】図23:唾液IgAによって切断されたペプチド結合の同定。
【図24】図24:HIV血清陰性人由来のAbによるHIV中和。
【図25】図25:AIDSへの進行の遅いHIV感染男性中で上昇した、gp120を切断するIgA。
【図26】図26:ヒトIgMおよびIgGによるAβ1−40の切断。
【図27】図27:異なる被験者由来のAβ1−40を切断するIgGとIgM抗体の多形性。
【図28】図28:モノクローナルIgM Yvoによって切断されるAβ1−40中のペプチド結合の同定。
【図29】図29:ポリクローナルIgM(6人の高齢被験者からプールした)によって切断されるAβ1−40中のペプチド結合の同定。
【図30】図30:触媒IgM Yvoまたは触媒活性を持たないIgM 1816の存在下におけるAβ1−40集合体の形態。
【図31】図31:IgM Yvoの触媒メカニズムの特徴描写。
【図32】図32:適応触媒選択。
【図33】図33:生来的にタンパク質分解活性を有する抗体によるHIVの不活化。
【技術分野】
【0001】
本発明は、概括的にはプールされたヒト抗体、具体的には、クラスおよびサブクラス選別した触媒活性を有する免疫グロブリン調製品に関係する。
【背景技術】
【0002】
発明の範囲を制限することなく、その背景を触媒抗体と関連付けながら記述する。
【0003】
通常、抗体は軽(L)鎖と重(H)鎖から成る。これらの鎖の可変領域は、パラトープとも称される抗原結合部位を、高い親和性で抗原に結合する形態に定めるのに重要である。ある種の抗体は、基質の結合、その化学変換および一つ以上の生成物の放出によって化学反応を触媒する能力を具えている。触媒抗体は、いくつかの自己免疫疾患において述べられてきた(1-4)。当初、免疫系による触媒抗体の自然形成は稀な事象であり、Bリンパ球の成熟に伴う抗体V領域の多様化の過程における触媒部位の偶発的生成を示すものと思い込まれていた。しかし、免疫化学技術の進歩は、天然に存在する触媒抗体の更なる同定と、それらの作用機序の解明を加速した。セリンプロテアーゼに類似した酵素メカニズムをもつポリクローナルおよびモノクローナル触媒抗体、例えば神経ペプチドVIPを加水分解する抗体(5-7)が見出されている。他にも、DNAを加水分解したり、タンパク質をリン酸化したり、またエステル類を加水分解する天然抗体が知られている(1,8,9)。健常人中に見出されるIgGおよびIgMクラスの免疫グロブリンは、小さいトリペプチドおよびテトラペプチド基質の切断により明白な、非特異的タンパク質加水分解活性を有することが記されている(10,11)。タンパク質分解やその他の触媒活性を持つ抗体は、血中および粘膜分泌物中に特定されてきた(12)。触媒活性は、抗体の生殖細胞型可変領域中に位置する生来性の求核部位に由来する(7,11)。
【0004】
内在性の天然触媒抗体によるモデルペプチド基質の切断能の低下は、自己免疫疾患の発生率(10)および感染性ショック患者の生存率低下と相関していた(13)。従って、免疫グロブリンの触媒機能は、ある種の病態において重要な防御的役割を果たすことが出来る。内在性の天然触媒抗体の速度論上の特徴は、それらが、高濃度に蓄積する抗原(例えば、ある種の自己抗原や感染部位に蓄積した細菌抗原)を効果的に除去できることを示唆する(11)。
【0005】
酵素様の触媒活性を有する抗体には、強力な治療剤を生み出す可能性がある。従って、必要に応じて触媒抗体の合成を引き起こすことに対して大きな関心もある。例えば、触媒しようとする反応の基底状態または遷移状態の安定類縁体で動物を免疫し、対応する基質よりもその類縁体に対して強く結合する抗体を選別することにより、触媒抗体を誘導する試みが為されてきた(14)。親電子抗原による免疫は、抗体に本来備わった求核反応性を、反応部位から離れたエピトープ領域の非共有結合による認識と併せて向上させることにより、特異的触媒抗体の合成を起こす(15)。
【0006】
抗体は、酵素と同様、基質と化学的に反応性で、かつ、遷移状態の三次元および電荷分布構造に対して相補性を示す部位を有する。少数の抗体だけが、関心の反応を触媒する能力を示す。そのような抗体は、個々のポリペプチドの触媒的変換の特異的評価によって、候補抗体検体の中から特定することが出来る。
【0007】
ある種の他の反応(例えば、小ペプチドを、それらの精密構造に対して比較的非依存的に切断する能力)は、より頻繁に抗体によって触媒される(10,11)。
【0008】
触媒作用を持つ形態に抗体を保持することも、また重要である。酵素が、それらの活性中心の三次元配置を撹乱するような緩衝剤や化合物で処理されると、変性して触媒活性を失うのとまさしく同様に、抗体の触媒活性はタンパク質変性によって容易に失われ得る。この点は、種々の触媒抗体製剤の効用において重要である。望みの生物学的効果を得るのに、低活性の触媒抗体製剤では、高触媒活性の抗体製剤に比べて著しく大量に使用しなくてはならない。
【0009】
もう一つ重要な点は、抗原の異なる生物活性がしばしば抗原の異なる領域によって媒介されるのに対し、個々の抗体は標的抗原の定められた領域(エピトープ)に対して特有の特異性を示すことである。従って、ある一つの触媒抗体は、抗原のある特定の生物学的作用を中和するかもしれないが、他の作用は影響を受けないままであり得る。
【0010】
ある特定の抗原に結合する複数のモノクローナル抗体の組み合わせは、個々のモノクローナル抗体を凌駕する抗原中和活性を示すことが見出されており、このことは、抗体の組み合わせによる相乗効果が可能なことを示唆している(16)。ヒト血清から調製されたポリクローナル抗体は、基本的にモノクローナル抗体の混合物である。候補抗体製剤の多様性は、多くの人からのポリクローナル抗体を混合(プール)することによって増大させることが可能である。そのようなプール抗体は一般にIVIG製剤(静注用免疫グロブリン製剤)と称され、数社によって販売されている。大部分のIVIG製剤は、プールしたIgGクラスのヒト抗体から成る。これらのIVIG製剤は、純度は保証するが(例えば、17)、触媒活性の保持に要する条件については考慮されていない化学的手順によって、ヒトの血液から得られる。IVIG製剤の静脈内投与は、細菌性敗血症、多発性硬化症および特発性血小板減少性紫斑病を含む、免疫不全症、感染症、および自己免疫疾患の患者に有益であることがよく知られている。IVIG製剤はHIV感染の治療に対しても考慮されたが、その治療上の有益性は確定的に立証されなかった(18)。感染症において、感染性微生物が発現する抗原に対する高親和性抗体は一般的な知見である。HIV感染者から集めてプールしたIgGの静脈内注入(HIVIG)も、HIV感染に対する治療として提案された(19)。一般的に、治療はIVIG製剤の大量投与を伴う(例えば、体重キログラム当り1グラム)。
【0011】
異なる疾病におけるIVIGの治療効果の機序は正確には定まっていないが、いくつかの仮説が提唱されている:(a)抗体可変領域における抗原結合に起因する立体障害による、抗原の生物活性の可逆的中和;(b)抗原−抗体複合体のFc受容体提示細胞への結合による抗原除去の亢進;(c)細胞表面上の抗原への結合に続いて、抗体Fc領域に補体成分が結合することによって起こる、抗体依存性の補体による細胞溶解;および(d)細胞表面上の抗原と抗体との結合に続いて、ナチュラルキラー細胞が活性化されることによって起こる、抗体依存性の細胞による溶解。IVIG製剤の触媒活性は、文献上記載されていない。異なるクラスの免疫グロブリン(すなわちIgM、IgG、IgAおよびIgE)は、異なった効率で免疫グロブリンのエフェクター機能を媒介する。前述の通り、IVIG製剤は通常IgG抗体から成る。IgMクラスの抗体は、IgGクラスの抗体よりも優れた効率である種の基質の分解を触媒することが記されている(11,20)。
【0012】
IVIG製剤中にタンパク質特異的に結合する抗体が存在することは、治療的な有用性との関連上、特に興味深い。IVIG製剤は、微生物のスーパー抗原(抗体可変領域の適応性成熟を必要とせず、前免疫レパートリー中に見出される抗体によって結合される抗原と定義される(21−23))に結合する抗体を含むものと期待できる。スーパー抗原の例は、HIVコートタンパク質gp120、HIV Tatおよびブドウ球菌 のプロテインAである。さらに、健常人中に見出される内因性微生物叢は微生物抗原に結合する抗体の適応的合成を刺激することが可能であり、そのような抗体はIVIG製剤中に存在するかもしれない。ヒトの血液は、CD4(24)、アミロイドβペプチド(25)、およびVIP(26,27)を含む種々の自己抗原に結合する抗体も含有し、IVIG製剤中にはアミロイドβペプチドに結合する抗体が存在することが報告されている(28)。
【0013】
本発明の更なる背景を提供するため、従来のIVIGのようなプールされた免疫グロブリンの標的としてのHIV gp120の例をここに示し、その他の抗原標的の例については更に本申請中で適宜言及する。HIV-1による宿主細胞への結合において鍵となる要素の一つは、gp120なるエンベロープ糖タンパク質である。具体的には、糖タンパク質gp120のコンフォメーション依存性エピトープが宿主細胞上のCD4受容体に結合することが、HIV-1感染の第一段階である。さらにgp120は、T細胞や神経細胞を含むHIVに感染していない細胞に対して毒性作用を及ぼす(29−37)。従って、gp120糖タンパク質とその前駆体gp160糖タンパク質は、AIDS治療における論理的標的である。gp120のCD4結合部位に結合するモノクローナル抗体は、ウィルスの感染力を抑制することが示されている(例えば、38,39)。gp120エンベロープ糖タンパク質は、他に多くの抗原性エピトープを提示している。HIV感染の後、ヒトはgp120に対し強力な抗体反応をとるが、大部分の抗体は高変異領域に対するもので、感染制御に有効ではない。多様なHIV株に対して広範な保護を可能にするには、抗体がgp120の保存領域を認識することが必要であり、HIVに対し広範な保護作用を有する抗体は、HIV感染後通常産生されない。gp120のスーパー抗原性部位は、宿主細胞のCD4への結合に重要な領域、具体的には残基421−433より成る保存領域を含む(40,41)。gp120のスーパー抗原部位に対する触媒抗体は、従って、gp120を永久的に分解することと、単一の抗体分子を多分子のgp120の切断に繰り返し使用することの両方によって、感染を制御する可能性を有する。
【0014】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
抗原性特性と触媒活性に関する前述の問題は、長年認識されてきた。多数の解決法が提案されたが、それらのいずれも、全ての問題点の解決に十分ではない。
【課題を解決するための手段】
【0016】
ここで使用されるように、「アブザイム(Abzyme)」または「触媒免疫グロブリン(catalytic immunoglobulin)」なる語句は、酵素様活性を有する少なくとも1つ以上の抗体を記述するのに、互換的に用いられる。
【0017】
本発明は、高水準の触媒活性と望ましい生物活性特性を示す抗体の改良組成と作成方法の必要性について述べる。改良組成は、抗原特異性において非選択的であるか、または、個々の抗原を標的とする、プールされたIgA、IgM、およびIgG抗体から成る。抗体は、アクセサリー分子(例えば、J鎖や分泌成分)を含んでも、含まなくともよい。発明の好ましい実施例は、プールされた粘膜抗体の触媒免疫グロブリン製剤としての使用である。開示したのは、粘膜環境が高水準の触媒活性を示すIgAクラス抗体の合成を支持することを示す予想外の知見である。そのような抗体は、例えば、ヒトの唾液中に見出される。異なる人間由来の触媒免疫グロブリンをプールすることは、免疫グロブリン混合物によって標的とされる抗原特異性の多様性を増大する戦略として、本発明中で使用される。さらに開示したのは、ポリクローナル触媒免疫グロブリンは、モノクローナル抗体の一群で観察されるよりも高い触媒活性を示すという予想外の知見であり、抗体混合物が均一な抗体製剤よりも優れた触媒活性を示すことを示している。
【0018】
より具体的には、本発明は、単離・精製された特定のクラスのプール免疫グロブリンで触媒活性を有するものを含む。免疫グロブリンは、サブクラスによって定義されてもよい。一つの実施例中では、プールされた免疫グロブリンは、4、10、20、30、35、50、100またはそれ以上のヒトから分離される。免疫グロブリンは粘膜分泌物、唾液、乳汁、血液、血漿、または血清から分離されてよい。特定のクラスとは、IgA、IgM、IgG、またはそれらの混合物および組み合わせであり得る。免疫グロブリンによって触媒される触媒反応の例は、例えば、アミド結合の切断およびペプチド結合の切断を含む。免疫グロブリンのクラスおよびサブクラスは、具体的な標的抗原に対する種々の免疫グロブリンクラスおよびサブクラスの触媒活性の比較に基づいて選択される。触媒反応の標的はHIV gp120、HIV Tat、ブドウ球菌プロテインA、CD4またはアミロイドベータペプチド中のペプチド結合の開裂を引き起こす。一つの具体例において、免疫グロブリンクラスは、ペプチド-アミノメチルクマリン抗原中のアミド結合の触媒的切断の比較に基づいて選択される。
【0019】
特定クラスの触媒免疫グロブリン製剤として調製された時、これらは、静脈内、膣内、または直腸内投与によってHIV-1感染の防止または治療に使用できる。あるいは、触媒免疫グロブリン製剤は、細菌感染、感染性ショック、自己免疫疾患、アルツハイマー病、またはこれらの併発の処置に、静脈内投与によって用いてもよい。単離精製されたプール触媒免疫グロブリンは治療用に順応させてもよいし、ヒトから得た原料体液をプールしたり、免疫グロブリンを特定のクラスおよびサブクラスに分画したりすることによって単離してもよい。触媒免疫グロブリンは、一つの抗原に対して、一つ以上のクラスおよびサブクラスから、例えば、ヒトIgA、IgMまたはIgGに対する抗体、または、免疫グロブリン結合試薬であるプロテインG、プロテインA、プロテインL、または免疫グロブリンの求核反応性部位に結合することの出来る親電子性化合物、または、これらの混合物および組み合わせによる分画、またはクロマトグラフィー、またはその両方によって単離精製されてよい。本発明の方法において使用する他の分画方法の例には、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、レクチン上でのクロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、電気泳動、または等電点フォーカシングが含まれる。
【0020】
高水準の触媒活性をもったプール免疫グロブリンの調製と特徴付けに有用な数種の方法、例えば、特定のクラス(IgM、IgG、IgA)の免疫グロブリンを選択した免疫グロブリンの調製が開示される。特定の免疫グロブリンサブクラス(例えば、IgA1、IgA2)に属するプールしたアブザイムも、公知技術である適切な生化学的分画方法によって得ることが出来る。プールアブザイムの原料は、ヒトからプールした唾液などの粘膜分泌物、または血液、およびそれらのあらゆる組み合わせであり得る。
【0021】
一つの実施例中では、プールアブザイムは、触媒活性の低下を招く激しい化学処理に代えて、ヒトIgA、IgM、またはIgG、またはこれらの組み合わせに対する固定化抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィーによって調製される。プロテインG、プロテインAやプロテインLの様な免疫グロブリン結合試薬もこの目的に使用できる。アブザイムの求核部位に選択的に結合できる固定化親電子性化合物を用いたアフィニティークロマトグラフィーも開示する。加えて、当業者に知られている一般的分離方法も使用でき、これには、例えば(これらに限定されないが)、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、レクチン上でのクロマトグラフィー、免疫グロブリン結合タンパク質によるクロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、電気泳動、または等電点フォーカシングが含まれる。
【0022】
本発明の重要な一面は、候補プールアブザイム調製品を、分画の種々の段階で触媒活性の発現について分析することである。プールアブザイム調製品の使用意図によって、基質または標的は、例えば、小ペプチド類、gp120、またはアミロイドβぺプチドであり得る。別の例では、本発明は、プールアブザイムを基質特異的な画分(この画分が触媒活性を有する)に分ける方法も提供する。本方法はさらに、具体的な標的、または非選択的触媒活性の指標となるモデル基質に対する、アブザイムの触媒活性の比較をも含む。
【0023】
別の例において、本発明は、HIV gp120、アミロイドβペプチド、HIV Tat、プロテインAまたはCD4の切断を起こすようなタンパク質分解活性を持つアブザイムを開示する。
【0024】
患者の治療法である本発明に従って、プールアブザイム製剤は、例えば、自己免疫疾患、アルツハイマー病、細菌感染、感染性ショック、ウィルス感染、多発性硬化症および特発性血小板減少性紫斑病などの、種々の疾患の治療に用いてよい。本方法は、プールした、クラス選別した、基質特異的または非選択的なアブザイム製剤の患者への投与方法を提供する。その使用企図に基づき、プールアブザイムは、多数の経路から投与することができ、それには、例えば、静脈内、腹腔内、膣内、または直腸内投与が含まれる(しかし、これらに限定されない)。
【0025】
図の説明
本発明の特徴および優越性のより完全な理解のために、以下は発明に伴う図表の詳細な説明である。
【0026】
図1:CIVIGg、CIVIGm、CIVIGaとCIVIGasによるEAR-AMCの加水分解。基質EAR-AMC(0.2mM)は、CIVIG調製品(CIVIGg、75 μg/mL; CIVIGm、36 μg/mL; CIVIGa、11 μg/mL; CIVIGas、11 μg/mL; CIVIGg、CIVIGmおよびCIVIGaは35人のプール血液(ガルフコースト血液銀行)から調製された)と、0.1mMのCHAPSを含む50mMのトリス・塩酸、0.1Mグリシン、pH 8.0中、37℃でインキュベートした。AMCの放出は、蛍光測定法によって定期的にモニターし(λem 470 nm、λex 360 nm; ケアリーエクリプス分光計、バリアン、パロアルト、CA)、11 μg Ig/mL相当に標準化し、方程式 [AMC] = V・tに当てはめた(Vは比活性(μM AMC/h/11 μg Ig/mL)を表す)。CHAPSは、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホン酸の略。
【0027】
図2:CIVIGgおよびIVIGsのIgG分画によるEAR-AMCの加水分解。触媒活性は、図1の場合と同様に測定された(IgG、75 μg/mL)。
【0028】
図3:CIVIGmおよびIVIGsのIgM分画によるEAR-AMCの加水分解。触媒活性は、図1の場合と同様に測定された(IgM、36 μg/mL)。
【0029】
図4:CIVIGa、CIVIGsaおよびIVIGaによるEAR-AMCの加水分解。触媒活性は、図1の場合と同様に測定された(CIVIGaおよびCIVIGas、11 μg/mL; ペンタグロビン由来IgA、80 μg/mL)。活性は、80 μg Ig/mL相当に標準化した。
【0030】
図5:ヒト血液および唾液からのIgG、IgMおよびIgAによるgp120の切断。Bt-gp120(1.6 Bt/タンパク質)は、4セットの標本から調製したヒト血清IgG、IgM、IgA、および唾液IgAとインキュベートした。1人の提供者の血清と唾液から精製された免疫グロブリンによるBt-gp120の切断を示す還元SDS-ゲルのストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ染色ブロットの例を示す。Bt-gp120、0.1 μM; IgG、135 μg/mL; IgM、180 μg/mL; IgA、144 μg/mL; 37℃、17時間。
【0031】
図6:CIVIGaとCIVIGsaによるgp120の優先的切断。調査されたビオチン化タンパク質は、gp120、上皮細胞増殖因子受容体の細胞外領域(exEGFR)、ウシ血清アルブミン(BSA)、ヒト血液凝固第VIII因子のC2領域(C2)、およびHIV Tatである。CIVIGa、CIVIGas(160 μg/mL)または希釈剤と、1 mM CHAPSおよび67 μg/mLのゼラチンを含む50 mMトリス塩酸、0.1 Mグリシン、pH 8.0中で17時間インキュベートされたビオチン化タンパク質(0.1 μM)の、還元SDS-ゲルのストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ染色ブロットを示す。
【0032】
図7: CIVGaとCIVIGasによるプロテインAおよびsCD4の切断。CIVIGa、CIVIGas(160 μg/mL)または希釈剤と、1 mM CHAPSおよび67 μg/mLのゼラチンを含む50 mMトリス塩酸、0.1 Mグリシン、pH 8.0中で17時間インキュベートされたsCD4およびプロテインA(0.1 μM; ビオチン化された)の、還元SDS-ゲルのストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ染色ブロットを示す。プロテインAは、ビオチン化に先立ち、V領域によるスーパー抗原としてのこのタンパク質を無傷に保ったまま、Fc結合部位を不活性化するためヨウ素化された。
【0033】
図8:14-kDバンドの消失により明白なCIVIGmによるHIV Tatの切断と、CIVIGa、CIVIGasおよびCIVIGgによる切断の欠如。希釈剤(レーン1)、CIVIGa(160 μg/mL、レーン2)、CIVIGas(160 μg/mL、レーン3)、CIVIGg(160 μg/mL、レーン4)とCIVIGm(180 μg/mL、レーン5; 810 μg/mL、レーン6)とともに、1 mM CHAPSと67 μg/mLのゼラチンを含む50 mM トリス塩酸、0.1 Mグリシン、pH 8.0中17時間インキュベートされたHIV Tat(0.1 μM、ビオチン化体)の、還元SDS-ゲルのストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ染色ブロットを示す。
【0034】
図9:商用IVIGを凌駕するCIVIG調製品のHIV-1中和活性。A、CIVIG調製品によるHIVの中和。HIV-1(ZA009; R5、クレードC)は、様々の濃度(2.5−250 μg/mL)のCIVIG調製品および商用IVIGsとインキュベートされた後、PBMCに感染させてた。HIV-1中和活性は、希釈剤(リン酸緩衝生理食塩水; PBS)処置群との比較によるp24濃度の%低下として表される。B、弱いまたは無視し得る程度の商用IVIGsによるHIVの中和。中和活性は、パネルAの場合と同様に測定された。
【0035】
図10: CIVIGにより媒介されるHIV中和のgp120ペプチド-CRAによる抑制。CIVIGmおよびCIVGaはgp120ペプチド-CRA(100 μM)または希釈剤と30分間インキュベートされ、残存中和活性は図9の場合と同様にして決定された(CIVIGm、10 μg/mL; CIVGa、2 μg/mL)。
【0036】
図11:ヒト血清および唾液から精製されたIgAによるGlu-Ala-Arg-AMCの加水分解。(A)4人のヒト血清および唾液から精製されたIgAのGlu-Ala-Arg-AMC加水分解活性を示すスキャッタープロット。連結した印は、同一個人からの血清および唾液IgAを意味する。基質(0.2 mM)は、IgA(32 μg/mL)存在下、三組ずつインキュベートされ、蛍光の増加を20時間にわたってモニターした。各々のデータポイントは、FU = V・tに対する最小二乗法による最適化曲線(r2、0.99)より得られた平均速度(ΔFU/時)である。IgA非存在下でインキュベートされた基質の背景加水分解は、無視し得る程度であった(<0.1FU/時)。(B)健常人34人の血清プール由来のIgA、IgGおよびIgMによるGlu-Ala-Arg-AMC加水分解の進捗曲線。基質(0.4 mM)は、IgA(11 μg/mL)、IgG(75 μg/mL)またはIgM(36 μg/mL)存在下インキュベートされた。加水分解されたEAR-AMCは、蛍光定量的にAMCを測定することによって決定された。表示の値は、50 μL反応液中のμg Ab当りの値(平均値±SD; n=3)、および、[AMC] = V・t(r2、0.98)への最小二乗法による最適化曲線である。
【0037】
図12:IgAの純度。(A)ヒト血清(34人分のプール)および唾液(4人分のプール)由来IgA検体の電気泳動的な均質性を示す還元SDS-電気泳動。レーン1−3は、各々、クーマシー青、抗α鎖抗体および抗κ/λ鎖で染色した血清IgAのサブユニットである。レーン4−7は、それぞれ、クーマシー青、抗α鎖抗体、抗κ/λ鎖および抗分泌性構成要素で染色した唾液IgAサブユニットである。(B)6 Mの塩酸グアニジン中での変性ゲル濾過前および後の血清IgAサンプルのGlu-Ala-Arg-AMC加水分解活性が同等であることを示す進捗曲線。170 kDaのIgA画分は、図11と同様に触媒活性を評価された。IgA、8 μg/mL; Glu-Ala-Arg-AMC(0.4 mM)。
【0038】
図13:プールIgAと市販のIVIG製剤のアミド分解活性の比較。反応条件は図11Bと同様。
【0039】
図14:IgA触媒によるGlu-Ala-Arg-AMC加水分解の見かけ上の速度論パラメータ。2つの血清IgA調製品(特定番号2288および2291)のデータを示す。初速度(V)は、ミカエリス−メンテン方程式V = kcat・[Ab]・[S]/(Km + [S])に対する非線形回帰曲線(r2 0.998)に当てはめた。[Ab]、抗体濃度; [S]、基質の初濃度。
【0040】
図15:IgAのセリンプロテアーゼ阻害剤との反応。(A)セリンプロテアーゼ活性部位プローブの構造。ホスホン酸エステル1aおよび1bは、トリプシン様セリンプロテアーゼおよびAbの活性部位求核原子をホスホニル化して、それらのタンパク質分解活性を阻害する。合成物2は、Arg/Lysの等価体である正荷電したアミジノ基を欠く1aの誘導体である。アミジノ基は、タンパク質分解性IgGおよびIgM 抗体に対するホスホン酸エステルの反応性に必要である。(B)セリンプロテアーゼ阻害剤によるIgA触媒によるGlu-Ala-Arg-AMC加水分解の阻害。基質(0.4mM)は、1aまたはDFP(10、30、100、300 μM)の存在下および非存在下に血清IgA(8 μg/mL)とインキュベートされ、AMCによる蛍光は23hに亘ってモニターした。種々の阻害物質濃度におけるAMC放出量は、方程式 [AMC]/[AMC]max = 1 − ek・t([AMC]maxおよびkは、それぞれ、AMCの外挿された最大値と一次速度定数(r2、>0.98)を示す)に当てはめられた。IgAの不可逆的阻害特性から予測される通り、阻害物質存在下の進捗曲線は双曲線であった。阻害物質存在下における残存活性(Vi)は、進捗曲線の23時間点におけるタンジェントとして計算された。阻害パーセントは、100(V - Vi)/V(Vは阻害剤非存在下での速度を表す)として計算された。データは、3組の複製の平均±SDである。IC50値は、方程式 (%inhibition = 100/(1−10logEC50−log[1a])に対する最小二乗曲線(r2 0.92)から抽出した。(C)IgAサブユニットの1a-付加物を示す還元SDS-電気泳動。以下の反応混合物(6時間)のストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ染色ブロットを示した。レーン1、血清IgAと1a; レーン2、血清IgAと2; レーン3、唾液IgAと1a; 唾液IgAと2。HとLは、それぞれ、重鎖および軽鎖の1a付加物を意味する。IgA、160 μg/mL; 1aと2(0.1 mM)。
【0041】
図16:ホスホン酸エステル1bによるモノクローナルIgA反応の化学量論。モノクローナルIgA(ID 2582; 1.6 mg/mL)は、1b(2.5−20 μM)とインキュベートされた。18時間後、残存活性は、1bで処理したIgA(24 μg/mL)をGlu-Ala-Arg-AMC(0.4mM)とともにインキュベートして測定された。示したのは、残存触媒活性対[1b]/[IgA]のプロットである。プロット中に示したx切片は、[1b]/[IgA]比率が1以下のデータポイントに対する最小二乗法による最適化曲線(r2 0.93)から決定された。
【0042】
図17:HIV血清陰性人の血清および唾液IgAによるBt-gp120の切断。A、4人のヒトからプールしたポリクローナル血清IgA(160 μg/mL)および唾液IgA(32 μg/mL)によるBt-gp120(0.1 μM)の時間依存的切断を示す、還元SDS−電気泳動ゲルのストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ染色ブロット。希釈剤レーンは、IgAに代えて希釈剤とともにインキュベートされたgp120を示す。OEは、唾液IgAとともに46時間インキュベートしたBt-gp120を示す露出過度のレーンを示す。55、39、32、25および17kDに生成物のバンドが見える。B、4人のヒト由来の唾液IgA、血清IgAおよび血清IgGのgp120切断活性のスキャッタープロット。Ab濃度: 唾液IgA、32 μg/mL; 血清IgA、血清IgGおよび市販IVIG製剤(イントラテクト、ガンマガード、インビーガム)、144 μg/mL。反応条件: 17時間、37度、0.1 μM Bt-gp120。示したのは、Ab単位重量当りに換算した活性である。実線は、平均値である(唾液IgAおよび血清IgA、それぞれ、6053±1099および391±183 nM/h/mg Ab; IgGとIVIG製剤による切断は、検出限界を下回っていた)。挿入図は、固定化抗IgA抗体によるアフィニティクロマトグラフィーにより精製されたヒト血清IgAおよび唾液IgAの典型的なSDS-電気泳動(4−20%のゲル)で、クーマシー青(各レーン1と4)、抗α鎖抗体(各レーン2と5)、および抗κ/λ鎖抗体(各レーン3と6)で染色したものである。レーン7は、抗分泌性構成要素抗体で染色した唾液IgAを示す。
【0043】
図18:変性ゲル濾過後、再フォールディングされたポリクローナルIgA、および多発性骨髄腫患者由来のモノクローナルIgAによるgp120の切断。A、6M塩酸グアニジン中で行われた、プールされたヒト唾液IgA(実線)および血清IgA(点線)のゲル濾過クロマトグラム。抗IgAアフィニティークロマトグラフィによって精製された唾液 IgA(0.8mg)および血清IgA(1.6mg)をカラムに注入した。唾液IgA由来の433−915kD(太線a)、または血清IgA由来の153kD(太線b)相当の画分を各々プールし、挿入図とパネルBでさらに分析した。挿入図は、唾液IgA画分aおよび血清IgA画分bのシルバー染色したSDS-電気泳動ゲルである。sc、HおよびLは、それぞれ、分泌構成要素、重鎖および軽鎖のバンドを意味する。B、変性ゲル濾過後の唾液および血清IgAによるBt-gp120の切断を示す、ストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ染色した電気泳動ブロット。画分aおよびbは、分析評価の前に、トリス-Gly緩衝液(pH 7.7)に対して透析された。示したのは、希釈剤(レーン1)、唾液IgA(32 μg/mL、レーン2)および血清IgA(32 μg/mL、レーン3)と45時間インキュベートしたBt-gp120(0.1 μM)である。C、モノクローナルIgAのBt-gp120切断活性のスキャッタープロット。Bt-gp120、0.1μM; IgA、75μg/mL;反応時間、21時間。点線は、背景値(IgAの代わりに希釈剤によるインキュベーション)+ 3標準偏差に相当する。
【0044】
図19:A、EP-ハプテン1の構造。非親電子性ホスホン酸ハプテン2は、フェニル基を欠くことを除いてハプテン1と構造的に同一である。B、EP-ハプテン1による触媒活性阻害と不可逆的結合。gp120(0.1μM、非ビオチン化)は、予めEP-ハプテン1とコントロールハプテン2(1mM)の存在下または非存在下8時間インキュベートした唾液IgA(2 μg/mL)または血清IgA(160 μg/mL)とともに、16時間インキュベートされた。残存した完全gp120は、SDS-電気泳動およびブロットのペルオキシダーゼ接合型ポリクローナル抗gp120による染色後、デンシトメトリーによって測定された。%阻害 = 100−[(阻害物質存在下切断されたgp120)/(阻害物質非存在下切断されたgp120)x100]。値は、二組の平均である。挿入図、EP-ハプテン1処理した唾液IgA(レーン1)と血清IgA(レーン3)の還元SDS-ゲルのストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ染色ブロット。ハプテン2処理した唾液IgA(レーン2)と血清IgA(レーン4)も示した。HおよびLは、それぞれ重鎖および軽鎖サブユニットのバンドを意味する。
【0045】
図20: IgAにより触媒されたgp120切断のGlu-Ala-Arg-AMCによる阻害と、IgAの活性部位滴定。挿入図、希釈剤(レーン1)およびモノクローナルIgA(80μg/mL、多発性骨髄腫患者2582由来)と、Glu-Ala-Arg-AMC非存在下(レーン2)または存在下(レーン3; 0.2mM)インキュベートされたBt-gp120(0.1μM)の、ストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ染色したSDS-ゲル(還元条件)ブロット。活性部位滴定のために、モノクローナルIgA(10 μg/mL、推定分子量170kD)を、予めEP-ハプテン3(2.5 −20 μM)の存在下または非存在下で18時間インキュベートした後、Glu-Ala-Arg-AMCを0.4mMの濃度になるよう加え、触媒活性を蛍光測定法で測定した。EP-ハプテン3は、EP-ハプテン1の非ビオチン化型である。示したのは、残存活性対[EP-ハプテン3]/[IgA](最小二乗法、r2 0.84)のプロットである。残存活性(%)対[EP-ハプテン3]/[IgA]プロットのX切片は、2.4であった。
【0046】
図21:IgAとsIgAによるgp120の優先的切断。調査されたビオチン化(Bt)タンパク質は、gp120、可溶性上皮細胞増殖因子受容体(sEGFR)、ウシ血清アルブミン(BSA)、ヒト血液凝固第8因子C2領域(C2)、およびHIV Tatである。血清IgA、唾液IgA(いずれも160 μg/mL)または希釈剤と17時間インキュベートされたタンパク質(0.1 μM)の、還元SDS-ゲルのストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ染色ブロットを示す。
【0047】
図22:EP-421-433とIgAの相互作用。A、EP-421-433とコントロール親電子性ペプチド(EP-VIP)の構造。R1、Gly431カルボキシル基に連結された、gp120残基432-433を模倣するアミジノフォスフォン酸基; R2、Lys側鎖アミンに連結されたアミジノフォスフォン酸基。B、IgA触媒によるgp120切断の、EP-421-433による阻害。唾液IgA(16 μg/mL)または血清IgA(160 μg/mL)はEP-421-433またはEP-VIP(100 μM)と予めインキュベートされ(6時間)、反応混合物はgp120(0.1 μM)の添加後、さらに16時間インキュベートされた。gp120切断の抑制は、図18と同様にして決定された。C、唾液IgAと血清IgAによる不可逆的 EP-421-433結合。示したのは、EP-421-433(レーン1)、EP-VIP(レーン2)またはEP-ハプテン1(レーン3)とインキュベートした唾液IgA(80μg/mL)、およびEP-421-433(レーン4)、EP-VIP(レーン5)またはEP-ハプテン1(レーン6)とインキュベートした血清IgA(80μg/mL)の、還元電気泳動ゲルのストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ染色ブロットである。EP-プローブの濃度、10μM、反応時間、21時間。HおよびLは、重鎖と軽鎖バンドを意味する。D、不可逆的IgA:EP-421-433結合のgp120ペプチド421-435による阻害。唾液IgA(80 μg/mL)をgp120ペプチド421-435(100 μM)または希釈剤で処理した後、EP-421-433(10μM)を添加し、更に21時間インキュベーションした。EP-421-433付加物は、パネルCと同様にして検出され、バンド強度はデンシトメトリーで測定された。プロットした値は、重鎖および軽鎖サブユニットの和を示す。
【0048】
図23:唾液IgAによって切断されたペプチド結合の同定。示したのは、IgA(80 μg/mL、46時間)で消化されたgp120(270 μg/mL)の、典型的なクーマシー青染色したSDS-ゲル電気泳動である。生成したポリペプチド断片のN末端配列は、一文字アミノ酸記号を使用して報告されている。括弧内の値は、個々の配列決定サイクルに回収されたアミノ酸の量(pmol)を表す。gp120消化物の電気泳動の前に、IgAは固定化抗α抗体カラム上でのクロマトグラフィによって除去された。
【0049】
図24:HIV血清陰性人由来のAbによるHIV中和。A、4人のプールされた血清または唾液から精製したIgAおよびIgG Abの中和効力。HIV-1株、97ZA009; 宿主細胞、フィトヘムアグルチニン刺激されたPBMCs。抗体は、ウイルスと24時間インキュベートされた。値は、抗体の代わりに希釈剤を受けた培養と比較したテスト培養中のp24濃度のパーセント低下として表される(4複製の平均±s.d.)。B、IgA中和活性のEP-421-433による阻害。ヒト血清から精製されたIgA(2 μg/mL)は、予めEP-421-433(100 μM)、コントロールEP-VIPまたは希釈剤とインキュベートし(0.5時間)、残存HIV中和活性はパネルA.と同様にして測定した。データは、抗体非存在に観測された値に対する相対p24量として表されている。C、時間依存性HIV中和活性。HIVは、予め唾液または血清IgAと1時間インキュベートし、中和活性はパネルAと同様にして測定された。
【0050】
図25:AIDSへの進行の遅いHIV感染男性中で上昇した、gp120を切断するIgA。A、IgA画分のgp120切断活性。B、血中 CD4+ T細胞数。Bt-gp120の切断は、SDS-電気泳動によって測定され、活性は、55kD断片の強度(AVU)として表された。Bt-gp120、0.1μM; IgA、80μg/mL; 反応時間、48時間。各々の点は、1人の被験者を表す。値は、2つの複製の平均値である。SP、進行の遅い感染者; RP、進行の急速な感染者。採血1、RPの採血2、SPの採血2の検体は、各々、血清転換後6ヵ月、1−5年および5.5年の時点で採取した。*P=0.035対HIV血清陰性グループ; ** P<0.0001対RPグループまたはHIV血清陰性グループ。
【0051】
図26:ヒトIgMおよびIgGによるAβ1−40の切断。6人の非AD被験者(各々、年齢35歳未満(若)または72歳超(老))からプールされたIgG(1.6μM)またはIgM(34nM)と、37度で3日間インキュベートされたAβ1-−40(100μM)。反応は、逆相HPLCによって分析された(TFA中10%−80%のアセトニトリル勾配、45分、検出: A220)。検討された全ての抗体の生成ペプチドプロフィールは、図28に示したそれと同様であり、Lys28-Gly29で主要な切断、Lys16-Leu17で副次的な切断が起こったことを示した。速度は、合成Aβ1−28を用いて構築した標準曲線から内挿したAβ1−28濃度から求めた。*P<0.0044; **P<0.035。両側非対応t検定。
【0052】
図27:異なる被験者由来のAβ1−40を切断するIgGとIgM抗体の多形性。パネルAおよびB内の全ての被験者は72才超であった。パネルCは、ワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症患者から精製されたモノクローナルIgMによる、Aβ1−40の切断を示す。触媒活性を有する2つのモノクローナルIgMが特定された。これらの一つである、IgM Yvoは、4サイクルの寒冷沈降反応(■)と、さらに固定化抗IgM抗体上でアフィニティクロマトグラフィ(x)による精製後、ほぼ同等の触媒活性を示し、このことは、比活性が一定となるまで精製されたことを示唆する。Aβ1−40(100μM)は、IgG(1.5μM)またはIgM(27nM)と37度、3日間インキュベートされた。切断速度は、図26と同様にして測定された。
【0053】
図28:モノクローナルIgM Yvoによって切断されるAβ1−40中のペプチド結合の同定。パネルA、モノクローナルIgMとインキュベートされたAβ1−40(100μM)の逆相HPLCプロフィール(Yvo、600nM; 24時間; TFA中10%−80%のアセトニトリル勾配、45分)。 検出: 220nm。最上段および最下段のHPLC記録は、コントロールとしてIgM Yvo単独およびAβ1−40単独である。パネルB、エレクトロスプレーイオン化−質量分析(ESI−質量分析)による、保持時間21.2分のピークのAβ29−40断片との同定。挿入図、Glu-Ala-Ile-Ile-Gly-Leu-Met-Val-Gly-Gly-Val-Val(Aβ29−40)の一価(M+H)+イオンの正確な理論m/z値に相当する、m/zピーク1085.5周辺のスペクトルの拡大走査。拡大走査中明白に見られる1質量単位のピーク分裂は、Aβ29−40一価イオンの天然同位体分布を反映している。一価ペプチドイオンの更なるMS/MS分析は、予期されたb-およびy-型断片イオン列の検出(図示せず)に基づき、Aβ 29−40としての同定を確認した。
【0054】
図29:ポリクローナルIgM(6人の高齢被験者からプールした)によって切断されるAβ1−40中のペプチド結合の同定。パネルA、IgMとインキュベートされたAβ1−40(100μM)の逆相HPLCプロフィール(IgM、400nM; 74時間; TFA中10%−80%のアセトニトリル勾配、45分)。 検出: 220nm。最上段および最下段のHPLC記録は、コントロールとしてIgM単独およびAβ1−40ペプチド単独である。パネルB、ESI−質量分析による、保持時間10.2分のピークのAβ1−16断片との同定。挿入図、Asp-Ala-Glu-Phe-Arg-His-Asp-Ser-Gly-Tyr-Glu-Val-His-His-Gln-Lys(Aβ1−16)の3価(M+3H)3+および2価イオンの正確な理論m/z値に相当するm/zピーク652.6および978.0周辺のスペクトルの拡大走査。拡大走査中明白に見られる0.3または0.5質量単位のピーク分裂は、Aβ1−16の3価および2価イオンの天然同位体分布を反映している。3価ペプチドイオンの更なるMS/MS分析は、予期されたb-およびy-型断片イオン列の検出(図示せず)に基づき、Aβ1−16としての同定を確認した。
【0055】
図30:触媒IgM Yvoまたは触媒活性を持たないIgM 1816の存在下におけるAβ1−40集合体の形態。パネルA、モノクローナルIgM(0.5μM)を含むPBS中で6日間37度に維持されたAβ1−40(100μM)の原子間力顕微鏡写真。x、y、z範囲:10μM、10μM、10nm。PF、SFとOと標識された矢は、それぞれ、ペプチドプロトフィブリル、ペプチド短フィブリルおよびオリゴマーを意味する。コントロールとして、新たに調製されたペプチドと触媒IgMの反応混合物(0日目)と、触媒活性のないIgMとインキュベートしたペプチドを含めた。IgM Yvo存在下6日目で劇的に減少したペプチド集合体に注目されたい。パネルB、触媒IgM Yvo存在下12日目の、6日目に比較して減少したAβ1−40集合体。反応条件とAFMはパネルAと同様である。矢印の意味はパネルAと同じ。MF、ペプチド成熟フィブリル。
【0056】
図31:IgM Yvoの触媒メカニズムの特徴描写。パネルA、ビオチン化されたセリンプロテアーゼ阻害物質、Bt-Z-2Ph(500μM)のIgM Yvo(0.1μM; レーン1)による不可逆的結合と、共有結合反応性を欠くコントロールプローブ、Bt-Z-2OHの同一条件下におけるIgM反応性の欠如(レーン2)を示す、ストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ染色した還元SDS-電気泳動ゲル。コントロールプローブ中のリン原子の親電子反応性は劣っており、そのため酵素様求核原子と反応しない。パネルB、IgM Yvo触媒によるBoc-Glu(OBzl)-Ala-Arg-AMC加水分解の、セリンプロテアーゼ阻害剤Cbz-Zによる化学量論的阻害。挿入図、基質および阻害物質の構造。示したのは、種々の濃度のCbz-Z(0.05、0.15、0.5、1および2μM)存在下、アミノメチルクマリン(AMC)脱離基の蛍光として測定されたIgMの残存触媒活性である。残存活性は、100Vi/Vとして決定した(Vは阻害物質非存在下における切断速度、Viは阻害物質が全て消費された時点における切断速度の計算値である)。Vi値は、方程式[AMC]= Vi・t + A(1−e−kobs・t)(Aおよびkobsは、各々、阻害物質消費中に放出されたAMCおよび実測一次速度定数を示す)に対する最小二乗法による最適曲線(個々の進捗曲線のr2、>0.96)から得た。方程式は、最初の1次相に引き続く0次相からなる反応にあてはまる。x切片の値(0.94)は、[Cbz-Z]/[IgM活性部位]比率が<2(1モルIgM = 10モルIgM活性部位)のデータポイントに対する最小二乗法による最適曲線から決定した。データは、触媒活性が完全にIgM活性部位に起因していることを示唆する。パネルC、Aβ1−40(30および100μM)存在下および非存在下における、IgM Yvo(10nM)によるBoc-Glu(OBzl)-Ala-Arg-AMC(200μM)切断の進捗曲線。観察された阻害は、Boc-Glu(OBzl)-Ala-Arg-AMCとAβ1−40がIgMの同じ活性部位によって切断されることを示唆する。
【0057】
図32:適応触媒選択。抗原消化とB細胞レセプター(BCR)からの遊離は細胞増殖の停止を誘導するので、ほとんどの抗体応答は触媒回転率の向上と相容れない。しかし、膜貫通BCR信号伝達速度まで、BCR触媒速度が向上することに障壁はない。ある種の状況下(例えば、異なるBCRs(μ、αクラス)またはCD19過剰発現と関係し得る、加速した膜貫通情報伝達速度、または、内在性または外来性の親電子抗原によるB細胞刺激)では、触媒速度の更なる改善が可能である。
【0058】
図33:生来的にタンパク質分解活性を有する抗体によるHIVの不活化。HIVウイルス表面に見られる三量体gp120は、CD4およびケモカイン受容体との結合を経て宿主細胞へ侵入するために不可欠である。gp120のスーパー抗原部位を認識することによりgp120を加水分解するポリクローナルおよびモノクローナル抗体が、非感染者中に確認された。これらの抗体は、抵抗性を与えるか、またはHIV感染の進行を減速することができる生来性防御システムを構成するように見える。
【0059】
発明の詳細な説明
本発明の種々の実施例の制作と使用について以下に詳述するが、本発明は、多種多様な具体的状況において実施され得る多くの発明概念を提供することが理解されるべきである。ここで議論される具体的実施例は、発明を製作および使用するための具体的方法の単なる例証であって、発明の範囲を定めるものではない。
【0060】
本発明の理解を促進するため、用語を以下に定義する。ここに定義された用語は、本発明に関係した領域の通常の技能を備えた人が一般的に理解している意味を持つ。”a”、”an”、および”the”のような用語は単数のみを指すことを意図せず、具体例が例証に用いた事項の概括的な種類を含む。ここでの命名法は本発明の具体的な実施例を述べるために使用され、その使用は、請求事項中に略述したものを除き、発明の範囲を限定しない。
【0061】
1.治療用プール免疫グロブリン。プールしたヒト血清から調製されたIgGクラス免疫グロブリンの静脈内注入(一般にIVIG製剤と表示される)は、現在いくつかの疾患の治療に使用される。大多数の市販IVIG製剤は、精製されたIgG抗体から成るが、ヒト血清で見られるのとほぼ同じ割合で配合されたIgG、IgMおよびIgAから成るより完全なIVIG製剤、ペンタグロビン、もある。IVIGは通常、抗体の触媒活性の保持にはかまわず調製され、調製手順においては比較的激しい化学的方法が使用される(1)。特定のより新しいIVIG製剤は、純度を改善するためクロマトグラフィ法を取り入れる。ウイルス感染の伝播を最小にするため、濾過やウィルス不活化手順はIVIG製剤にも取り入れられる。
【0062】
健康な成人の血中に循環する抗体は、種々の自己抗原および外来抗原(例えば、アミロイドβペプチド、CD4、VIP、gp120およびTat)と結合することが記述されている(2−8)。これらの抗体のいくつか、例えば、アミロイドβ ペプチドに結合する抗体(9)は、従来のIVIG製剤中でも記述されている。最近、アルツハイマー病患者に投与された従来のIVIGが、認識機能を改善することが示唆された(10)。自己免疫疾患において、、特定の治療の標的である抗原(例えば、ある種のリンパ腫治療の標的であるCD4抗原に対する抗体(11))を含む、自己抗原に対する高親和性抗体が免疫系によって産生される。
【0063】
本発明は、治療用途をもつプールされたヒト触媒免疫グロブリンの準備をする。接頭辞「CIVIG」は、血清由来のプールされたIgG、IgMおよびIgAに言及するのに用いられる(例えばCIVIGg、CIVIGmおよびCIVIGa)。接頭辞CIVIGasは、唾液由来のIgAを指すのに使用される。ここで使用されるように、「アブザイム」または「触媒免疫グロブリン」なる用語は、酵素活性を有する一つ以上の抗体の少なくとも一部を記述するために、交換可能に用いられる。酵素活性は、例えば、プロテアーゼ、ヌクレアーゼ、キナーゼまたは他の同様な活性を含む。ここで使われるように、「クラス」と「サブクラス」は、重鎖と軽鎖のクラスとサブクラスを指す。重鎖定常領域の違いにより、免疫グロブリンは、IgG、IgA、IgM、IgDおよびIgEの5つのクラスに分類される。各々のクラスの免疫グロブリンは、κまたはλ型の軽鎖を含むことが出来る。ここで使用されるように、「クラス選択」なる用語は、一つ以上の免疫グロブリンクラスの選別を記述するのに用いられる。ヒトIgGおよびIgAクラスの免疫グロブリンは、重鎖のサブクラスによってさらに副分類することができる。例えば、IgA免疫グロブリンは、2種のサブクラス、IgA1およびIgA2に副分類される。ここで使われるように、「サブクラス選択」なる用語は、一つ以上の免疫グロブリンサブクラスの選別を記述するのに用いられ、サブクラスの全て、幾つか、または1つを含むかもしれない。例えば、IgAのIgA1とIgA2サブクラスは、固定化されたジャカリンのようなレクチン類、またはIgA1とIgA2抗体に対する固定化抗体を用いて、既知の方法で容易に分離できる(12,13)。
【0064】
本項と以下の例で記述される発明の重要な面は、以下の通りである:
(a)異なるクラスの免疫グロブリンは、異なる水準の触媒活性を示す。従って、最大活性を具えた免疫グロブリンの選択は、免疫グロブリンの触媒活性に由来する生物学的利益を最大にするのに役立つ。
【0065】
(b)粘膜分泌物は、しばしば、血液由来の免疫グロブリンを上回る触媒活性を持った免疫グロブリンを含む。従って、唾液や乳汁のように粘膜環境で生産された免疫グロブリンを含む分泌物は、CIVIG製剤の優れた原料である。
【0066】
(c)多くの個人由来の触媒免疫グロブリンをプールすることは、異なった特異性と触媒活性を持った触媒の範囲を多様化する。個々の人間によって生産される免疫グロブリンの性質は、彼らに特有の免疫学的歴史(例えば、異なった微生物への暴露)に応じて起こる適応過程に依存し、結果として免疫グロブリンをプールすることが、より多数の抗原に向けられた異なる特異性と触媒活性を具えた免疫グロブリンのレパートリーを増やす。さらにまた、CIVIG製剤のようなポリクローナル抗体混合物は、免疫グロブリン定常領域(14)や免疫グロブリン可変領域(15)に対する抗体を含む、抗体に対する抗体を含有する。触媒活性は免疫グロブリンの他の免疫グロブリンへの結合によって制御を受けるので、異なる人間由来の免疫グロブリンをプールすることは、触媒活性の変化を引き起こすものと期待される。これは、以下に例1および例2で開示される、CIVIG調製品に観測されるタンパク質分解活性が、モノクローナル抗体群との比較において優れていることと一致している。
【0067】
(d)CIVIGの調製方法は、分画方法の種々の段階で触媒活性の測定を伴い、そして、従来のIVIG分画方法とは異なり、CIVIG分画方法は触媒活性の喪失を最小にとどめるよう設計される。CIVIG調製品の使用意図に基づき、触媒作用の分析評価は、非選択的触媒活性を確認するモデル基質(例えば、Glu-Ala-Arg-アミノメチルクマリン、EAR-MCAと省略する)、または特異的な触媒活性を確認するポリペプチド基質を利用する。ここで提供される後者の基質の例は、HIV gp120およびHIV Tatを含む。また、プロテイン Aのようなブドウ球菌の発症因子に対する触媒活性の例も開示される。さらに、例えばアミロイドβペプチドやCD4の様な自己抗原に対する触媒活性も開示される。さらに、触媒種中に位置する求核部位と親電子化合物との反応に基づいて、CIVIG調製品内の触媒種を選択性によって選別する方法も開示される。
【0068】
2.免疫グロブリンの非選択的触媒活性。ここに示すのは、35人からプールした血清および4人からプールした唾液からアフィニティクロマトグラフィ法によって精製されたIgG、IgMおよびIgAを使って観測された説明と結果である(16)。免疫グロブリンの非選択的な触媒活性の方法と生物学的重要性に関するさらなる詳細は、例1内で提示される。
【0069】
血清由来のIgG、IgMおよびIgAは、これまで接頭辞CIVIGで示され、各々、CIVIGg、CIVIGmおよびCIVIGaに対応し、一方、唾液からのIgAはCIVIGasと称される。IgAに対する固定化抗体が、血清および唾液からIgAを精製するのに用いられた。免疫グロブリンは、電気泳動上均一で、ゲルのイムノブロットはIgG、IgMおよびIgAに対する適切な抗体で染色可能であった。
【0070】
モデルペプチド基質Glu-Ala-Arg-アミノメチルクマリン(EAR-AMC)は、アミド結合の切断によるアミノメチルクマリンの遊離を測定する蛍光定量分析によって種々の免疫グロブリン調製品のタンパク質分解活性を決定するのに用いられた。調査された血清免疫グロブリンクラスのうち、タンパク質単位質量当り最大の触媒活性は、CIVIGa画分に見出され、CIVIGg画分が最小活性であった(図1)。CIVIGas(唾液IgA)はCIVIGa(血清IgA)より低い活性を示したが、その活性は血清IgG画分より著しく大きかった。IgA画分の高水準活性の発見は、この免疫グロブリンサブクラスが成熟B細胞産物であるので重要である。IgGに比べて高水準なIgMの触媒活性が報告されている(16)。IgMは、B細胞が適応成熟を経る過程で最初の生産物である。IgGの低水準活性に基づいて、触媒活性の改善がB細胞の生理的成熟の条件下において不都合な出来事であることが示唆される。IgAに関するデータは、成熟したB細胞によるIgAクラスの高活性触媒抗体の産生には規制がないことを示す。
【0071】
次に、CIVIGg、CIVIGm、CIVIGaおよびCIVIGasのEAR-AMC切断活性を、市販のIVIG製剤から精製された対応するIgG、IgMとIgA(IVIGg、IVIGmとIVIGaと称する)と比較した。市販原材料は、ペンタグロビン(バイオテストファルマ社; IgG、IgMおよびIgAの混成)、およびIgG製剤であって他の免疫グロブリンクラスを痕跡量のみ含む、イントラテクト(バイオテストファルマ社)、ガンマガードS/D (バクスターヘルスケア社)、インビーガムEN(バクスターヘルスケア社)とキャリミュンNF(ZLBバイオプラズマ社)であった。同一の免疫親和性手順が、血清または唾液(CIVIG製剤)と市販IVIG製剤から免疫グロブリンを精製するために使用された。各々の免疫グロブリンクラスの場合、CIVIG製剤は、対応するIVIG製剤よりかなり高い触媒活性を示した。比較は、図2(CIVIGg対いろいろなIVIG製剤からのIgG画分(IVIGgと称する))、図3(CIVIGm対IVIGm)と図4(CIVIGaおよびCIVIGas対IVIGa)に示される。
【0072】
免疫親和性による精製をしていない、市販のIVIG製剤も研究された。表1に示すように、CIVIGgは一貫して、IgGを含有するIVIG製剤と比較してより高いEAR-MCA切断活性を示した。同様に、CIVIGa、CIVIGasおよびCIVIGmは、IgG、IgMおよびIgA混成の市販IVIG(ペンタグロビン)より高い活動を示した。
【表1】
【表2】
【0073】
CIVIGaおよびCIVIGasは、切断結合N末端側に塩基性残基を含むペプチド基質を最もよく切断した(表2)。しかし、CIVIGaとCIVIGasの微細特異性の違いは明白であり、後者のほうが隣接残基に対する条件は厳密でない。
【0074】
CIVIG調製品の優れた活性は、免疫グロブリンを血清と唾液から分離する比較的穏やかな方法、すなわち、免疫親和性クロマトグラフィ、に起因していると考えられる。
【0075】
免疫グロブリンの触媒機能が優れた治療的効果をもたらすなら、CIVIG製剤は市販のIVIG製剤よりも臨床使用に適している。
【0076】
3.ポリペプチドを切断できる触媒免疫グロブリン。選択的にHIV-1コートタンパク質gp120の切断を触媒する、非感染者由来IgM抗体の能力は記述されている(17)。上の第(2)項で挙げたCIVIGaおよびCIVIGas調製品は、電気泳動ゲルの完全gp120バンドの減少と、より低分子量の断片の出現によって明白に示される通り、ビオチン化されたgp120の濃度依存的切断を示した。4人の血清IgAと唾液IgAは、いずれもgp120切断活性を示し、この事は、触媒IgAの広範囲な分布を確認している。図5に、希釈剤、プールしたヒト血清およびヒト唾液由来のCIVIGas、CIVIGg、CIVIGmおよびCIVIGaによるgp120切断活性を例示する。ビオチン化gp120は、血清IgG、IgM、IgA、および唾液IgAとインキュベートされ、そして、反応混合物は還元SDS-電気泳動によって視覚化された。用量反応曲線から、唾液IgAの平均活性は、血清IgAの約20倍高かった。表3は、血清IgAと比較して唾液IgAのgp120加水分解活性(mg Ig/mLに補正)を例示する。IgGは、十分触媒的でなかった。市販IVIGから精製されたIgGも、検出可能なgp120切断活性を示さなかった(イントラテクトIVIGg、ペンタグロビンIVIGg;150μg/mL(図5と同様に分析された))。同様に、免疫親和性クロマトグラフィにより分画されていないイントラテクトIVIGとペンタグロビンIVIGは、gp120を切断することができなかった(150μg/mL)。
【表3】
【0077】
CIVIGaおよびCIVIGasの触媒活性は、いくつかの無関係なタンパク質の検知不能な切断から明白なように、gp120選択的であった。これは、図6中で例示される。この図6中で調査されたビオチン化タンパク質は、gp120、上皮細胞増殖因子受容体の細胞外領域(exEGFR)、ウシ血清アルブミン(BSA)、ヒト血液凝固第8因子のC2領域(C2)およびHIV Tatであった。
【0078】
更なる研究で、CIVIGaおよびCIVIGas調製品が特定の他のタンパク質を切断できることも明らかとなった。具体的に、図7は、これらの調製品によるプロテインA、より小さい程度のCD4の切断を示す(図7)。プロテインAは、スーパー抗原として免疫グロブリンに結合することが以前に述べられているブドウ球菌タンパク質である(18)。以前に分析されたあるモノクローナルIgMは、プロテインA切断活性を欠けていた(17)。これらの研究において使用されたプロテインAは、V領域によるスーパー抗原としての認識を保持したまま、Fc結合部位を失活させるため、ビオチン化の前にヨウ素化された。IgA触媒によるプロテインAの加水分解は、B細胞分化の過程における触媒部位の適応的改善に起因するのかもしれない。CD4の切断に関して、自己免疫疾患およびHIV感染者中にCD4結合性抗体の存在することが報告されており(5,19)、また、市販IVIG調製品もCD4結合性抗体を含有する。我々のCIVIGaおよびCIVIGasによるCD4切断は、CD4結合性抗体の一部はこのタンパク質の切断を触媒することができることを示す。
【0079】
HIVタンパク質Tatの更なる研究は、CIVIGmはこのタンパク質を触媒的に加水分解するが、CIVIGa、CIVIGasまたはCIVIGgは分解しないことを示した。これは図8中で、電気泳動ゲル上で14-kDバンドの減少として、例示される。異なるクラスの免疫グロブリンは、種々のポリペプチドを異なった程度に加水分解すると結論することができる。以前、非感染者からのIgM抗体は、Tatに結合すると記述された(20)。従って、非感染者由来CIVIGaおよびCIVIGasがTatを加水分解しないことは、B細胞成熟を推進する内在性抗原の欠如を反映すると解釈してよいであろう。比較として、CIVIGaおよびCIVIGasによるgp120の効率的切断は、非感染者においてIgAクラス抗体の応答を誘発するような、gp120のスーパー抗原領域に配列同一性をもった内在性抗原の存在によって説明できる(21)。
【0080】
図9Aは、CIVIGaおよびCIVIGasが、一次性CCR5-共受容体依存性HIV株(ZA009)による培養末梢血単核細胞(PBMC)の感染を強力に中和したという知見を例示する(図9A)。HIV-1は、種々の濃度のCIVIG調製品と市販IVIGとインキュベートされ、その後、PBMCに感染させ、感染の程度はキャプシドタンパク質p24レベルを測定することによって決定された。HIV-1中和活性は、希釈剤処理群(リン酸緩衝生理食塩水; PBS)と比較したp24濃度のパーセント減少として表される。CIVIGmおよびCIVIGgは、低い中和活性を示した。いくつかの市販IVIG製剤は、検出可能な中和活性を欠いていたが、1つのIVIG製剤(ガンマガード)は、低レベルの活性を示した(図9B)。
【0081】
ポリペプチドの共有結合反応性類縁体(CRA)は、抗体用のプローブとして開発された。CRAは、抗体の結合部位中に存在する求核反応基に不可逆的に結合することができる親電子反応性ホスホン酸エステル類縁体を含む(22,23)。共有結合反応は、特異性を与える非共有結合性抗原−抗体結合と協調して起こり、ペプチド性CRAを不可逆的かつ特異的な抗体結合に使用することを可能にする。報告されているそのようなペプチド性CRAの一例は、C-末端にホスホン酸エステルを含むgp120残基421-−433の類縁体である(gp120ペプチドCRA)。gp120のこの領域は、このタンパク質のスーパー抗原部位の構成要素である(4,24)。CIVIGaおよびCIVIGmによるHIV-1の中和は、gp120ペプチドCRAによって阻害され、このことは、gp120のスーパー抗原部位の認識が中和活性に必要であることを確証した。図10は、これらの知見を例示する。CIVIGmおよびCIVGaは、gp120ペプチドCRAまたは希釈剤と予めインキュベートされた後、残存中和活性は図9と同様にして決定された。無関係なペプチドCRAであるVIP-CRAは、非特異的効果を除外するコントロール試薬として使用された。検討された両CIVIG調製品の中和活性は、gp120ペプチドCRAの存在下で低下した。合わせて考えると、これらの知見は、触媒活性をもつプールポリクローナル免疫グロブリンが、gp120のスーパー抗原部位を認識することによってHIVを中和できることを示す。
【0082】
4. CIVIGの有用性。定常領域の効果器機能が等価であると仮定すると、触媒抗体による抗原の化学変換は、通常の抗体を凌駕する生物学的効果を発揮すると期待することができる。第一に、触媒反応は抗原の化学転換を伴い、それは抗原の生物活性を永久に変化させる。対照的に、可逆的に結合する抗体から抗原が解離すると、未修飾の生物活性をもった抗原が再生される。第二に、触媒は繰り返し利用が可能であり、すなわち、一つの触媒分子は複数の抗原分子を化学変換することができる。比較として、普通の抗体は化学量論的に作用し、例えば、IgG、IgMおよび分泌型IgAは、それぞれ最大2、10、および4分子の抗原と結合する。通常のIVIG製剤は、種々の疾病の治療目的に比較的大量投与される(例えば、1g/kg体重で、一ヶ月間隔で繰り返し処置(25))。CIVIG製剤の示す触媒速度に応じて、比較的少量のCIVIGが有効な治療剤であると予測される。例えば、IVIGとCIVIG製剤の相対的な治療有効性は、以下のような仮想条件下で予測できるだろう:(a)抗原の結合と抗原の触媒的切断が、IVIGとCIVIGそれぞれの治療機序である; そして、(b)IVIGおよびCIVIG製剤の薬物動態は等しい。CIVIG製剤が約2モル抗原/モル免疫グロブリン/分(これは、あるCIVIG調製品で観察された速度定数に近い)の触媒速度定数を示すなら、CIVIG1モルあたり 20,160モルの抗原が7日間で加水分解される。さらに、CIVIG製剤の10%が触媒免疫グロブリンから成り、IVIG製剤の10%が抗原結合性免疫グロブリンから成ると仮定すると、1モルの二価IVIGは最大0.2モルの抗原と結合すると推論できる。これらの仮想条件下で、CIVIG製剤の治療有効性はIVIGのおよそ100,000倍大きく、体重1kg当たり10μgのCIVIGの投与は、体重1kg当たり1gのIVIGに等しい治療効果を7日後にもたらす。これらの仮想条件は例証目的のために明らかに単純化しており、実際には、製剤の相対的な有益性は経験的に決定されなければならない。
【0083】
原則として、触媒抗体による抗原の除去が治療上有用であるあらゆる疾病が、CIVIG製剤を用いた治療対象となる可能性がある。当業者は、本発明によって治療され得る種々の疾病があることを認識するだろう。有用な治療への応用は、非選択的な触媒抗体(例えば例1)にも、抗原特異的な触媒抗体(例えば例2と3)にも予想し得る。IVIGは、いくつかの病気の治療に文献中で使用されており、また、更なる病気への使用が考慮下にあって、技巧を具えた人によって理解される。これらの医学状況全てにおけるCIVIG製剤の治療的な使用は予知できる、例えば、自己免疫血小板減少紫斑病、全身エリテマトーデス、抗リン脂質症候群、脈管炎、炎症性筋炎、リウマチ様若年性慢性関節炎、アルツハイマー病、細菌性感染症、感染性ショック、HIV感染、および器官・細胞移植。
【0084】
従来のIVIGは、通常、非常によく耐えられる(25)。最も一般的な副作用は、風邪のような症状であり、一時的に注入を止めるか、またはヒドロコルチゾンの前投与によって管理することができる。したがって、CIVIG製剤の副作用が耐えられないと予想する理由はない。IgA欠乏者では、アナフィラキシーの可能性のために、CIVIGaおよびCIVIGas製剤の使用は禁忌である。
【0085】
5. 投与経路:IVIGの通常の投与経路は静脈注射による血中投与であり、この経路によるCIVIG投与も治療効果を発揮すると予測される。既知の適切な賦形剤を含む生理食塩水中のCIVIG製剤は、静脈経路による投与にふさわしい。他の経路は特定の状況で有用であることが予期され、当業者に知られている。HIV感染の場合、ジェルまたは他の適切な剤形のCIVIGの膣または直腸内投与は、ウイルスの経膣および経直腸感染から保護すると予測される。意味論的な明快さのためには、このような方法で投与されるCIVIG製剤は、より正確には、触媒膣内免疫グロブリンおよび触媒直腸内免疫グロブリンと称されるだろう。皮膚疾患のためには、CIVIG製剤の局所適用が適切である。これらの適用各々において、適切な賦形剤が製剤に配合されるだろう。、例えば、CIVIGの膣投与に妥当な剤形の一例は、ヒドロキシエチルセルロース中のジェル(例えば2.5%のヒドロキシエチルセルロースジェル、ナトロゾル250HHXファーム、ヘラクレス/アクアロン)である。このジェルは、開発中のいくつかの膣殺菌剤用の不活性担体として使用される。ジェル基剤の濃度は、生殖器官での十分な拡散速度をを得るために適切で、適切なアプリケーターが、性交の数分前(例えば5分)に膣内にジェルを置くために使用されるだろう。
【0086】
6. 原料:好ましいCIVIG製剤は、伝播可能な感染をもつ個人を適切に除外した後、血液銀行において人間によって供与された血清または血漿のランダムな収集に由来する。血清または血漿中のIgA、IgMおよびIgG濃度は、それぞれ、およそ3、1.5および12g/リットルである。特定の疾病を標的とする場合には、より制限的な基準を適用することができる。例えば、アルツハイマー病には、アミロイドペプチド抗体は年齢が進むにつれて増加する傾向があるので、血液採取は高齢者を包含する方向へ偏ることができる。同様に、HIV感染者からの血液は、感染がウイルスに対するタンパク質分解抗体と関係し得るので、CIVIG製剤の好ましい原料と成り得る。乳汁は、IgA濃度が比較的高く(初乳および成熟乳、それぞれ、約12および1g/リットル)、もう一つのCIVIG原料である。提供者からの唾液は、CIVIGasの便利な原料であり、高水準のタンパク質分解HIV抗体を含有する。唾液中のIgA濃度は、およそ0.3g/リットルである。大量の唾液(例えば、約20ml)は、非侵襲性の方法(例えば2−3分間パラフィルムの小片を噛むことによる唾液腺の刺激)で、2、3分以内に容易に集めることが可能である。CIVIG製剤の抗原中和活性は従来のIVIG製剤より優れているので、従来のIVIGに要するよりもより少量の原料(血液、唾液、乳汁)で治療に要する量のCIVIGを得ることが出来る。十分な抗体多様性を確保するために、血液、唾液または乳汁はより多くの人間(例えば100人以上の人間)からプールすることが好ましい。
【0087】
7.調製の方法:上記の様に、従来のIVIGの調製は、有機溶剤による激しい処理を含む。さらに、ほとんどの市販IVIGは、IgGクラスの免疫グロブリンに集中しているが、IgGは、IgAおよびIgMクラスと比較して著しく低い触媒活性を有する。従って、CIVIG製剤は、多くの場合CIVIGmおよびCIVIGa(および、CIVIGas)である。免疫親和性法は、血液や唾液のような粘膜液からCIVIG調製品を一段階で精製するのにふさわしい。CIVIGgには、固定化した抗IgG抗体、または細菌のIgG結合タンパク質(例えばプロテインG)が、精製のために使用できる。CIVIGmおよびCIVIGa(そして、CIVIGas)には、ヒトIgMおよびIgAに対する固定化抗体が適切で、電気泳動的に均一な免疫グロブリンを産する。必要ならば、更なる精製は、触媒部位の健全性を維持するように注意した適切な分画手法(例えばクロマトグラフィ、沈殿)を使用して行うことができる。免疫グロブリンと免疫グロブリン結合性基材の化学量論が最適水準に維持されるならば、免疫親和性法を使用した精製のスケールアップは問題ない。回収された免疫グロブリンは、限外濾過または凍結乾燥法によって望ましい濃度に濃縮される。
【0088】
CIVIG製剤を得る代替方法は、関心の触媒を濃縮するようなクロマトグラフィ基材を使用することである。例えば、固定された形で特定のタンパク質を含んむ基材は、この目的に役立つと推論できる(例えばプロテイン Aおよびプロテイン L)。これらのタンパク質は、抗体のスーパー抗原結合部位に結合し、触媒作用とスーパー抗原結合の間の良好な分子相互関係のため、高活性の触媒免疫グロブリンの回収が期待される。
【0089】
優先して触媒部位に結合する能力をもつリガンドは、CIVIG精製のもう一つの代替法である。例えば、親電子反応基を含む共有結合反応性類縁体(CRA)との反応の程度は、どの抗体が最も高い触媒活性を持つかを予測する(23)。ハプテン性CRAまたはポリペプチド性CRAは、共有結合反応を固相上で進行させた後、濃縮された触媒を抗体求核基とのホスホン酸エステル結合を開裂する試薬(例えば、ピリジニウムアルドキシム試薬(26))を使って溶出させることによって、各々、非選択的CIVIGおよび抗原選択的CIVIGを単離するために使用することができる。
【0090】
精製の間触媒部位を保護する方法もまた予見可能で、これは、比較的激しく、保護しなければ触媒部位を変性させるかもしれない、従来のIVIG精製方法を使用してCIVIG製剤を得るのに役に立つ。例えば、従来のIVIGは、溶剤温度の変化を伴う冷エタノール沈殿処理を使用して調製される。塩酸グアニジンを使用した変性−復元サイクルを含む触媒免疫グロブリン軽鎖の精製において、ポリペプチドVIPの包含は、高触媒活性の回復を可能にする(27)。このように、従来のIVIG調製において過剰量のペプチド基質を添加することにより、高活性CIVIG調製品を得ることができる。同様に、従来のIVIG調製においてCRAを添加すると、一旦親電子物質が免疫グロブリン求核基と共有結合すると触媒部位が活性状態に固定されることから、高活性CIVIG調製品の回収を可能にするかもしれない。免疫グロブリン−CRA複合体は、その後、抗体求核基とCRA中の親電子基の間の共有結合を開裂させることが知られているヒドロキシルアミンまたはピリジニウムアルドキシム試薬(26)で処理される。解離したCRA産物を除去した後(例えば、透析によって)、CIVIGは活性型で回収することができる。
【0091】
【0092】
【実施例】
【0093】
実施例1:アミド分解IgA
使用した略号:Ab、抗体; AMC、7-アミノ-4-メチルクマリン; CHAPS、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホン酸; DFP、ジイソプロピルフルオロホスフェート; FU、蛍光単位; SDS、ドデシル硫酸ナトリウム。
【0094】
分泌された抗体(Ab)レパートリーは、定常領域(μ、δ、γ、α、ε)および可変領域遺伝子(V、D、J遺伝子)の計画的発現から発生する。IgGおよびIgA Abクラスは、微生物感染症に対する適応免疫学的防御を担う成熟Bリンパ球の主要産物である。健常人のAbは、多様な化学反応を触媒する(総説1−4)。多クローン性および単クローンIgM(B細胞分化の過程で生産される最初のAbクラス)は、モデルトリペプチドおよびテトラペプチド基質を例外なく加水分解することができる(5)。活性は、ペプチド配列条件に関して非選択的で、モデル基質中切断されるアミド結合に隣接した正電荷の要求性によってのみ制限され、基質基底状態の低親和性認識によって特徴づけられる。Abによって触媒される反応はセリンペプチダーゼ様の求核メカニズムによって起こり、このことは、当初トリプシン等のセリンプロテアーゼの不可逆的阻害物質として開発された(6)親電子性ホスホン酸ジエステルによる触媒作用の阻害によって示された。
【0095】
Ab触媒作用の発達面についてはほとんどわかっていない。B細胞受容体(BCR、シグナル変換タンパク質と複合体を形成した膜結合型Ig)の抗原による非共有結合的な占有は、B細胞のクローン選択を推進し、最終的に個々のポリペプチド抗原に特異的に結合できる成熟IgG、IgAおよびIgE Abの生産につながることがよく知られている。触媒活性を具えた成熟IgGの例は、特に自己免疫疾患において報告された(7−11)。しかし、通常の状況下では、抗原特異的な触媒IgGの生産はまれな出来事であり、IgGは一般的にIgMより著しく低い水準でモデルペプチド基質を加水分解する(5,12)。これは、IgGタイプのBCRによるペプチド抗原の触媒的加水分解が、免疫学的に不都合な現象であることを示唆する。従って、Abの触媒作用を、微生物感染に対する適応免疫学的防御のメカニズムと考えることはこれまで難しかった。同様に、広範囲なこれまでの試行(例えば、抗原基底状態および遷移状態の類縁体による免疫)にもかかわらず、臨床的に重要な抗原に対する触媒的に効果的な単クローンIgGは開発されていない(総説4)。この困難さは、IgGクラスAbに固有の触媒能力不足によって説明されるかもしれない。
【0096】
IgAは、粘膜表面における微生物感染に対する防御物質として機能すると一般に考えられる。IgG同様、IgAは、分化終期のB細胞によって生産される。最近の研究は、ヒト乳汁および多発性硬化症患者の血清中のIgAは、キナーゼおよびプロテアーゼ活性を示すことを示した(10,13-15)。しかし、IgA、IgGおよびIgM Abの触媒効率の客観的な比較はされていない。ここでは、我々は健常人の血液および唾液から分離されたIgAが、IgGよりも著しく高い効率でモデルペプチド基質の切断を触媒することを報告する。この知見は、天然触媒源として液性免疫応答のIgA画分を強調し、触媒抗体合成を支持する免疫学的メカニズムに関して面白い問題を提起する。
【0097】
材料と方法
抗体調製。多クローン性Abは、感染または免疫学的疾患の所見のない4人(1人の女性と3人の男性; 年齢28−36歳; 我々の研究室識別コード、2288−2291)の末梢静脈血由来の血清または唾液から精製された。唾液は、2分間パラフィルムを噛んだ後採取された(16)。Abは、病気の所見のない34人(17人の女性と17人の男性; 年齢17−65歳; 白人30人、黒人2人、アジア人2人; 識別コード679、681−689および2058−2081; メキシコ湾岸血液銀行)から精製された個々のIgA、IgGおよびIgM画分から調製されたプールとしても分析された。血液および唾液採取に関連したプロトコルはテキサス大学被験者保護委員会によって承認され、提供者から告知に基づく同意を得た。
【0098】
IgA精製には、血清(0.5mL)は、ヤギ抗ヒトIgA−アガロースと0.1mMのCHAPSを含む、50mMトリス塩酸、pH 7.5中でインキュベートされた(1時間、Poly-Prepクロマトグラフィカラム(バイオラド)中1mLの安定化ゲル、回転させながら; シグマ−アルドリッチ; セントルイス、MO)。非結合画分を回収し、ゲルを0.1mMのCHAPS を含む50mMのトリス塩酸(pH 7.5)で洗浄した(4mL x 5)。結合したIgAは、0.1mMCHAPSを含む 0.1Mグリシン(pH 2.7)で(2×2mL)、1Mのトリス塩酸(pH 9.0)を含んでいる収集チューブ(0.11mL/チューブ)中に溶出された。単クローンIgAは、多発性骨髄腫患者の血清(ロバートカイル博士、メイヨークリニック、識別コード、2573-2587)、または市販のヒトIgA調製品(多発性骨髄腫患者から分離; 2つのIgA1調製品、カタログ番号BP086とBP087; 2つのIgA2調製品、カタログ番号BP088とBP089; バインディングサイト社、サンディエゴ、CA)から、同様にして精製した。唾液IgAは、同様にして精製された(7mLの唾液、安定状態で0.5mLの抗IgAゲル)。IgGとIgMは、それぞれ、プロテインG−セファロースと抗IgM−アガロースカラム上で、抗IgAカラムの非結合画分を出発材料として、前述のようにして(5,17)精製した。精製Ab検体のタンパク質濃度は、マイクロBCAキット(ピアス社)を使用して決定された。SDS-電気泳動ゲルは、ペルオキシダーゼ接合型ヤギ抗ヒトα、抗ヒトλ、抗ヒトκおよび抗分泌性構成要素Ab(シグマ−アルドリッチ社)でイムノブロットされた。血清および唾液IgAのゲル濾過(1.6mgおよび0.8mg; 識別コード2288−2291から精製した)は、基本的に我々の以前の研究(5,17)の場合同様、スーパーロース−6FPLCカラム(ファルマシア社)上、6M塩酸グアニジン(pH 6.5)中で行った。溶出液中のA280ピークのタンパク質の名目分子量は、単クローンIgM CL8702量(900kD; セダーレーン社)、チログロブリン(330kD; カルザイムラボラトリー社)、およびヒト骨髄腫IgG3λ(150kD; シグマ−アルドリッチ社)との比較により決定
された。血清IgA由来のモノマー画分(10.8-11.4 mLの保持容量に相当)はプールされ、アミド分解活性の検査前に、0.1mMのCHAPSを含んだ50mMのトリス塩酸-0.1 Mグリシン(pH 8.0)に対して4日間4度で透析された(2L x 5)。
【0099】
アミド分解活性。使用された基質は、以下のペプチドの7-アミノ-4-メチルクマリン(AMC)接合体である:Boc-Glu(O-Bzl)-Ala-Arg(Boc、3級ブトキシカルボニル; Bzl、ベンジル; Glu-Ala-Arg-AMC); Suc-Ala-Glu(Suc、サクシニル; Ala-Glu-AMC); Suc-Ala-Ala-Ala(Ala-Ala-Ala-AMC); Suc-Ile-Ile-Trp(Ile-Ile-Trp-AMC); Suc-Ala-Ala-Pro-Phe(Ala-Ala-Pro-Phe-AMC); Boc-Glu-Lys-Lys(Glu-Lys-Lys-AMC); Boc-Val-Leu-Lys(Val-Leu-Lys-AMC); Boc-Ile-Glu-Gly-Arg(Ile-Glu-Gly-Arg-AMC);Pro-Phe-Arg(Pro-Phe-Arg-AMC); Gly-Pro(Gly-Pro-AMC); Z-Gly-Gly-Arg(Z、ベンジルオキシカルボニル; Gly-Gly-Arg-AMC); Z-Gly-Gly-Leu(Gly-Gly-Leu-AMC)(ペプチドインターナショナル社、ルイビル、KYまたはバッヘム、キングオブペルシャ、PA)。AMCを基質C末端のアミノ酸と連結しているアミド結合の加水分解は、0.1mMのCHAPSを含む50mMのトリス塩酸−0.1 Mグリシン(pH 7.7)中、蛍光測定によって96穴プレート中37度で測定された(λex 360 nm、λem 470nm;バリアン ケアリー エクリプス)。真正AMC(ペプチドインターナショナル社)は、標準曲線の構築に使用された。阻害研究において、Glu-Ala-Arg-AMC(0.4mM)は、ジイソプロピルフルオロホスフェート(DFP; シグマ−アルドリッチ社)またはN-(6-ビオチナミドヘキサノイル)アミノ(4-アミジノフェニル)メタンホスホン酸ジフェニルエステル(1a; 参考文献18記載のとおり調製した)の存在下および非存在下に、IgA(8μg/mL; 識別コード2288から)とインキュベートし、AMCの蛍光は上述のように観測した。阻害の化学量論は、以下のようにして推定された。単クローンIgA(1.6mg/mL; 識別コード2582から)は、N-(ベンジルオキシカルボニル)アミノ(4-アミジノフェニル)メタンホスホン酸ジフェニルエステル1b(2.5−20μM; 参考文献19記載の通り調製)と、0.1mMのCHAPSと0.5%のジメチルスルホキシドを含む50mMのトリス塩酸−0.1 Mグリシン(pH 7.7)中、37度でインキュベートした。18時間後、残存活性は、1b処理したIgA(24μg/mL)をGlu-Ala-Arg-AMC(0.4mM)とインキュベートすることにより測定された。
【0100】
ホスホン酸エステル結合。精製したIgA Ab(160μg/mL; 識別コード2288由来)は、0.1mMのCHAPSを含む10mMリン酸緩衝生理食塩水(pH 7.1)中、ホスホン酸ジエステル1aまたは2(0.1mM; 化合物2は参考文献20記載の通り調製)で37度、6時間処理した。ホスホン酸エステル−Ab付加物の形成は、既述の通り(20,21)、SDS-電気泳動後、ブロットのストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ染色により測定された。
【0101】
結果
IgAのアミド分解活性。4人の健常人の血清および唾液由来のIgAサンプルの触媒活性は、まず最初にGlu-Ala-Arg-AMCの加水分解について選別された。健常人から分離された血清IgGおよびIgMは、以前この基質を加水分解することが示された(5,17)。基質中のArgとクマリン基を連結しているアミド結合の切断は、ペプチド結合加水分解の簡便な代用として機能する(22)。緩衝液中でインキュベートされた基質の背景加水分解は、無視し得る程度であった(0.1ΔFU/時)。検討された全てのIgAサンプルは、この活性が陽性だった。血清IgA画分による加水分解は、同じ提供者からの唾液IgA画分よりいくぶん大きな速度で進行した(1.8−4.5倍;図11A)。
【0102】
次に、我々は34人の健常人血清のプールから精製されたIgA、IgGおよびIgM画分のアミド分解活性を測定した。IgA、IgGおよびIgMは、まず最初に濃度を増やしながら試験して、測定可能な蛍光信号を与える濃度を決定した(図示せず)。観察された速度は、μg Ab質量当りで表示された(図11B)。3つのAbクラスの結合部位/質量比はほぼ等しいので(2部位/150−170kD)、これはそれらのアミド分解活性の比較を可能にする。IgAは、IgGより886倍高い活性を示した(IgAおよびIgG、それぞれ、4.70±0.15と0.0053±0.0003μM基質/時/μg Ig)。我々の以前の報告と一致して(5)、容易に検出可能なIgM触媒活性も明白だった(0.99±0.32μM基質/時/μg Ig)。ここで使用した親和性クロマトグラフィ法によって得られるIgGとIgMの純度は前に報告した(5,17)。親和性クロマトグラフィによって得られた血清IgAの還元SDS-電気泳動は、各々抗αおよび抗λ/κ Abで染色される名目質量60および25kDの2つのタンパク質バンドを示した(図12A)。唾液IgA調製品においては、抗分泌性構成要素Abで染色されるもう一つのバンドが観察された(85kD)。クーマシー青染色によって検出されたバンドの全ては、抗α、抗λ/κまたは抗分泌性構成要素Abによっても染色可能であった。クーマシー青で染色されるバンドのどれも、抗μまたは抗γ Abによって染色されなかった。
【0103】
IgAは、非共有結合性およびSS結合した多量体を形成することができる。我々は、IgGおよびIgM触媒活性を確認するために以前使用された方法(5,17)によって、変性溶媒(6M塩酸グアニジン)中のFPLC−ゲル濾過により血清および唾液IgA調製品を分析した。以前の報告と一致して(23)、血清および唾液IgAのそれぞれ82%および10%が、単量体(170kD)として回収され、18%および68%が、二量体種として回収された(各々330kDおよび409kD; 唾液IgAサンプルの残りのIgAは、高分子領域(>600kD)に回収された)。カラムから回収した全てのIgA画分は、基本的に図12Aと同一の還元SDSゲル電気泳動プロフィールを示した。次に、塩酸グアニジン中のゲル濾過によって得られた血清IgA単量体は、透析によって復元された。復元したIgAと、ゲル濾過カラムに付されたアフィニティ精製IgAは、ほぼ同等のGlu-Ala-ArgAMC活性を示し(図12B)、定常的な比活性を与えるまで精製するというテストを満たしている。2つの調製品が同一の活性レベルを示したことから、アフィニティ精製されたIgA調製品は、変性ゲル濾過を行うことなく、以降の触媒分析評価において使用された。
【0104】
プールしたヒトIgGのいくつかの調製品は、ある種の病気の治療における静脈内点滴用に市販されている(IVIG; 24−26)。我々の研究室で調製されたプールヒトIgGと同様、3つの市販IVIG製剤はプールIgAと比較して非常に低い水準のGlu-Ala-Arg-AMCの切断を示した(図13; バクスター社ガンマガードS/DおよびインビーガムEN、それぞれ、0.0012±0.0002および0.0432±0.0006 μM/時/μg Ig; ZLBバイオプラズマ社キャリミュンNF、0.0016±0.0002μM/時/μg Ig; これらのIgG調製品は、IgMおよびIgAを痕跡量しか含まない)。
【0105】
典型的な酵素速度論が、2つのIgA調製品について、Glu-Ala-Arg-AMC濃度を増やしながらの反応速度の検討で観察された(図14)。速度は過剰な基質濃度で飽和できて、ミカエリス-メンテン-アンリ速度論と整合していた。観察されたKm値は、高μMの範囲にあった。これらの値は、多クローン性ヒトIgGについての既報と同じ範囲にある(17)。
【0106】
アミド分解活性が個々のAbで変化する範囲を検討するために、我々はサブクラス既知の4つのIgA(サブクラスIgA1およびIgA2各々2)を含む、多発性骨髄腫と臨床的に診断された患者(n=19)の血清から精製された19の単クローンIgAを調べた。全19のIgAは、検出可能なGlu-Ala-Arg-AMC切断を示した(表4)。触媒活性は、このIgAパネル内で、19倍の範囲で異なった。活性は、両方のIgAサブクラスで検出された(2つのIgA1調製品、販売店カタログ番号 BP086およびBP087、それぞれ、38.1±8.8および23.8±3.4 FU/23時間; 2つのIgA2調製品、販売店カタログ番号 BP088およびBP089、それぞれ、48.9±1.0および50.5±3.9 FU/23時間)。
【表4】
【0107】
基質選択性。血清および唾液由来の多クローン性IgA調製品の基質選択性は、12のペプチド-AMC接合体群を使って検討された(表5)。血清および唾液IgAサンプルによる最大レベルの加水分解は、Arg-AMC結合で起こり、このことは、Arg側鎖の優先認識を示唆する。特定の基質中のLys-AMC結合は加水分解されたが、Arg-AMCよりも低い速度であった。唾液IgAがGly-Pro-AMCの低レベル切断を示した以外、酸性または中性残基のC末端側の加水分解活性は明白でなかった。切断部位における塩基性残基選択性は、Arg-AMC/Leu-AMC結合を除いて同一である、Gly-Gly-Arg-AMCとGly-Gly-Leu-AMCの切断を比較することによっても明白だった。面白いことに、血清および唾液IgAは、種々の基質を同一の速度で加水分解しなかった。唾液IgAがGlu-Ala-Arg-AMC、Ile-Glu-Gly-Arg-AMC、Pro-Phe-Arg-AMCおよびGly-Gly-Arg-AMCを同等の速度で分解したのに対して、血清IgAはGlu-Ala-Arg-AMCに対するはっきりした選択性を示した。
【表5】
【0108】
セリンプロテアーゼ阻害剤との反応性。活性部位志向性セリンプロテアーゼ阻害剤、DFPおよびN-[6-(ビオチナミド)ヘキサノイル]アミノ(4-アミジノフェニル)メタンホスホン酸ジフェニルエステル(1a;図15A)は、IgA触媒によるGlu-Ala-Arg-AMC切断がセリンプロテアーゼ様のメカニズムによって進むかどうか判断するのに用いられた。これらの化合物は、元々通常のセリンプロテアーゼの共有結合阻害剤として開発され(6)、そしてIgGおよびIgMの活性部位との反応性が報告された(5,18,20,21)。DFPと1aは、濃度依存的に血清IgAの触媒活性を阻害した(図15B)。類似した結果は、唾液から分離されたIgAを使って得られた(IC50値:DFP、50±1μM; 1a、37±1μM)。1a処理後加熱し(100度、5分)変性ゲル電気泳動に付したIgAサンプルの分析は、強い約60 kDの重鎖-1a付加物と、より弱い~25 kDの軽鎖-1a付加物を明らかにした(図15C)。同一条件下での中性ホスホン酸エステル2による処置は、切断結合に隣接した正電荷の必要性を示唆した基質選択性研究から予想される通り、検出可能なIgA付加物を与えることができなかった。
【0109】
反応の化学量論は、単クローン血清IgA調製品を用い、制限量のセリンプロテアーゼ阻害剤、N-(ベンジルオキシカルボニル)アミノ(4-アミジノフェニル)メタンホスホン酸ジフェニルエステル1b([1b]/[IgA]比率、0.25−2.0)で触媒活性を滴定することによって検討された(図16)。残存活性(%)対[1b]/[IgA]プロットのx切片は2.5(r2 0.84)であり、IgA1分子あたり2つの触媒部位の期待される化学量論と近かった。
【0110】
考察
これらの研究は、IgAがIgGクラスのAbよりも優れたアミド分解活性を表すことを示す。以前、我々は、生殖細胞型V領域と同一のV領域配列をもったAb軽鎖サブユニットが、セリンプロテアーゼ様のメカニズムに起因したアミド分解およびタンパク質分解活性を示すことを報告し(27,28)、触媒作用が体液免疫系の生来機能であることを示唆した。触媒活性は、B細胞分化の過程で産生される最初のAbである、IgMによっても普遍的に示される(5)。位置志向的突然変異とFabについての以前の研究は、IgGおよびIgM Abの触媒部位がV領域にあることを示した(5,27)。本研究において、多クローン性血清IgAの触媒活性は、同じ提供者からの血清IgGより約3桁高かった。調査された単クローンIgAは全て触媒活性を示したが、その活性レベルは19倍異なっており、IgAのV領域の違いによる活性レベルの変動の予想と一致した。両方のサブクラス(IgA1およびIgA2)のIgAが活性を示したことは、両方の分子形がアミド分解を支持できることを示している。同一のV領域を異なるIgGアイソタイプとしてクローン化することによる、抗原結合の変化が記述されている(例えば、29)。定常領域の構造が触媒作用において支持的役割を演ずるかどうか決定するためには、同一のV領域をもったIgA対IgGクローンの研究が将来必要であろう。
【0111】
血清IgAの触媒活性は、非共有結合的に結合した汚染物質が除去される変性環境である、6M塩酸グアニジンで行われたゲル濾過カラムから、単量体IgAの正確な質量(170kD)の位置に回収された。血清および唾液IgAの活性は、セリンプロテアーゼの不可逆的阻害剤として開発された化合物である、ホスホン酸ジエステルハプテンによって実質的に完全阻害されたことは、セリンプロテアーゼ様の触媒メカニズムを示唆する。両種のIgAは、そして、不可逆的阻害メカニズムと一致して、ホスホン酸ジエステルと検出可能な共有結合付加物をつくった。ホスホン酸ジエステル阻害剤を使った単クローンIgAの活性滴定は、2触媒部位/IgA単量体分子の理論値に近い値を与えた。活性が痕跡量のプロテアーゼ汚染によるならば、実測化学量論は理論値よりも著しく小さいであろう。これらの観察から、Abの生来的セリンプロテアーゼ様触媒活性は、発現されたAbレパートリーのIgGコンパートメントでなくIgAで高水準に維持されると結論されるかもしれない。
【0112】
IgAによって切断されたモデル基質は、蛍光基アミノメチルクマリンにアミド結合を介して結合された2−4アミノ酸から成る。12のペプチド基質に対する反応速度の分析から、Arg/Lys残基のC末端側の切断に対する強い指向が明白であった。IgAの塩基性残基指向性は、以前の研究で記述された他のクラスのAbのそれと類似している(5,17)。血清および唾液からのIgAは、しかし、種々のペプチド-AMC基質に対して異なるレベルの選択性を示した。例えば、Glu-Ala-Arg-AMCは、血清IgAによってGly-Gly-Arg-AMCより59倍速く切断されたが、唾液IgAは同等の速度でこれらの基質を切断した。触媒反応は、高μMのKm値によって特徴づけられ、既述のIgGと同様(17)、低親和性基質認識をする(Kmは非共有結合性結合の平衡結合定数の逆数に近い)。重要なことに、ペプチド-AMC基質は、IgAによる非共有結合的な抗原認識の適応発達の指標として意図されたものではない。むしろ、これらの基質は、抗原基底状態の高親和性・非共有結合性認識を担う近傍のAb副部位の主要な関与なく、触媒副部位に適合する「微小基質」と見なしてよい(30)。このモデルは、以下の観察によって支持される(総説31)。第一に、神経ペプチドVIPとペプチド-AMC基質に対するタンパク質分解性単鎖Fv(一本鎖として連結されたVLとVH領域)の触媒速度定数kcatは、VIPに対するKmが著しく小さいにも関らず、同等である(kcat、基質過剰濃度で測定された回転数; 30)。第2に、ハプテン性親電子ホスホン酸エステル(ペプチドエピトープを欠いた)のヒト単鎖Fv群に対する共有結合反応性のレベルは、それらの触媒活性の大きさを予測し、このことは、触媒作用を担う求核部位は非共有結合副部位の関与を必要としないことを示唆する(20)。以前、ペプチド-AMC基質は、分化の進行した段階でガン化するB細胞の体細胞型に多様化した生成物である、多発性骨髄腫患者由来の単クローン軽鎖の触媒能を決定するために成功裏に使用された(32,33)。
【0113】
ここで研究された健常人由来の多クローン性IgAの特性は、多数の免疫原による免疫学的選択圧を反映すると仮定することができ、選択圧に応答した個々の抗原に特異的なIgA触媒活性の適応発達は未検討のままである。Nevinskyと共同研究者は、多発性硬化症患者の血清から精製されたIgAとIgGによるミエリン塩基性タンパク質の切断に対するIgA/IgG触媒効力比率が、およそ0.5−20の範囲で変動することを観測した(参考文献10の図3から概算)。この研究においては、IgAの精製に独特の方法、すなわち固定化プロテインAへの結合、が使用された。タンパク質Aは、VH3遺伝子ファミリに属する特定のIgAに結合するが、IgAのFc領域には結合しないことが知られており、この性質がどのように触媒活性に関係するか、あるいは、観察された活性レベルがIgAの触媒能の公平な表現であるかどうかは不明である。また、触媒作用の分析評価が基質制限濃度下で実行されたので、非共有結合性ミエリン塩基性タンパク質結合と触媒回転率の相対的な貢献は不明である。比較として、ここで報告されたIgA/IgG活性比較は、ペプチド-AMC基質濃度過剰で得られ、そして、観察された速度は、最初の非共有結合的基質認識の貢献が最小の触媒回転率である(基質過剰条件下では、反応はKmに依存しない最大速度で進行する)。
【0114】
我々のスクリーニング実験は、2、3のIgAに制限されており、触媒速度の上限を定義するには、さらなる研究が必要である。IgAは粘膜表面の感染に対する免疫防御の最前線であり、IgA触媒活性の抗菌的役割を仮定することができる。我々のグループからの未公表研究は、血清および粘膜分泌物中に存在するIgAが、スーパー抗原部位の認識を介してHIV gp120の切断を触媒することを示唆する(プランク他、HIV gp120に対する生来性スーパー抗体。第3回HIV病原性と治療に関する国際エイズ学会会議。2005年7月24−27日、リオデジャネイロ、ブラジル)。非選択的な触媒活性さえ、不必要な抗原の除去を助けるかもしれない。最近の報告は、血清IgGによるペプチド-AMC切断活性の低下は、感染性ショック患者の死亡と相関していることを述べている(34)。健常な提供者からプールされたIgGの静脈内点滴(IVIG)は、ある種の免疫不全、自己免疫不全および感染性ショックのための治療として使用される(24-26)。市販IVIG製剤は本研究においてIgAと比較して非常に低い触媒活性を示しことから、IVIG製剤にIgAを含有させることにより有効性が改善するかもしれないという面白い可能性が生ずる。ヒト血液中のIgA濃度(3.3mg/ml; IgAが単量体であると仮定すると約20μM)は、通常の酵素よりも約4−5桁高く(例えば、トロンビンは、アンチトロンビンIIIとの複合体として血清中ng−μg/ml; 参考文献35)、IgAのkcat値は、通常のセリンプロテアーゼより約2−3桁小さい。触媒作用が本研究において観察された速度で進行するならば、20μMのIgAは、過剰に存在する抗原の約50mMを 6日間(IgAのおよその血中半減期と一致)で切断するであろう。重度感染の局所における細菌やウィルス抗原のように高濃度に抗原が存在する場合、最大速度条件に近づくことが可能である。
【0115】
クローン選択説によれば、B細胞受容体(BCR; 信号変換タンパク質と複合した膜結合型Ig)と抗原の結合は、細胞分裂とクローン選択を推進する。BCRに触媒された抗原切断は、抗原断片の遊離を引き起こし、細胞から増殖的信号を奪うと予想できる。もし抗原-BCR結合が唯一の選択力であるなら、BCR触媒活性の保持と改善は、生成物の放出速度が細胞分裂刺激を引き起こす膜間情報伝達よりも遅い限りにおいて、可能である。この場合、ここで報告された結果のありうる説明は、α-クラスBCRによる情報伝達がγ-クラスのBCRより速く起こるということである。もう一つのありうる説明は、BCRの触媒作用が、それ自身選択的活性であるかもしれないということである。触媒による共有結合の切断は、非共有結合的なBCR-抗原結合に伴って放出されるはるかに小さいエネルギーと比較して、大量のエネルギーを放出する。このエネルギーの一部が、クローン増殖の誘導に必要なα-クラスBCRの生産的な形態変化を誘発するために利用できると仮定されるかもしれない。
【0116】
【0117】
【0118】
実施例2:HIVに対するタンパク質分解抗体防御
使用した略号;Ab、抗体; AIDS、後天性免疫不全症候群; AMC、7-アミノ-4-メチルクマリン; BCR、B細胞受容体; BSA、牛血清アルブミン; CDR、相補性決定領域; CHAPS、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホン酸; sEGFR, 可溶型上皮細胞増殖因子受容体; FR、枠組み領域; IVIG、静注用免疫グロブリン; HIV、ヒト免疫不全ウィルス; PBMC、末梢血単核細胞; Rt、保持時間; RP、早期進行者; SAg、スーパー抗原; SDS、ドデシル硫酸ナトリウム; SFMH study、サンフランシスコ男性健康調査; SP、遅延進行者; V領域、可変領域。
【0119】
HIV-1感染症の臨床経過は、様々な速度でエイズ症状へ進行する感染者があり、遅いこともある。一部の人間は、HIVへの度重なる暴露にもかかわらず、感染しないままである。最初の感染に対する感受性と感染症の進行に影響する特定のウィルスおよび宿主要因は特定された。これらは、感染ウィルスと感染後発生する変異ウィルス亜種の感染力と複製能の違いを含む(1,2)。よく知られた宿主耐性因子は、ケモカイン受容体R5遺伝子の32塩基対の欠損であり、これは宿主細胞へのビリオン侵入に障害をもたらす(3)。細胞障害性T細胞の発達は、感染を遅らせることはできるが、結局は耐性ウィルスが出現する(4)。同様に、適応液性免疫は、感染初期には保護するかもしれないが、適応応答は主にエンベロープタンパク質gp120の非常に変異しやすいV3領域に対して起こり、Ab耐性ウィルス亜種が早晩現れる(総説5)。
【0120】
gp120は、HIV非感染者の前免疫レパートリーに存在するAbによって認識される抗原性部位を含む(6)。これは、gp120をB細胞SAg(Ab V領域が適応配列多様化していないAbによって結合される抗原と定義される)として指定する条件を充たす。合成ペプチド研究は、gp120のSAg部位は、ペプチド決定基231−260、331−360および421−440(MN株の配列によるアミノ酸番号付け)から成るコンフォメーション依存エピトープであることを示唆する(7,8)。残基421−433から成る領域は、多様なHIV株で高度に保存されていることと、宿主細胞CD4受容体に対するHIV結合における役割ゆえに注目に値する。gp120のこの領域の突然変異(9)および432-433ペプチド結合の切断(10)は、CD4結合能の損失を誘導し、421−433領域とCD4との接触はgp120と可溶型CD4との複合体のX線結晶解析によって見える(11)。抗原との遭遇は、一般にB細胞分化を促進する。他方、B細胞受容体(Igα、Igβおよび信号変換タンパク質と複合した表面Ig)とsAgの結合は、細胞アポトーシスを誘発すると考えられている(12,13)。我々の知る限りでは、HIV感染者において、gp120の免疫優性V3エピトープに対する強力な適応応答は形成されるもが、gp120 SAg部位に結合する適応成熟したAbの報告はない。gp120 SAg部位に結合するAbの防御的役割の可能性は、以下の観察によって示唆される:(a)HIV感染の危険があるHIV血清陰性者由来の血清IgGによるgp120 SAg部位への結合は、以降のHIV感染の発生率と負に相関している(14)、そして、(b)感染してない猿からプールされたIgGの静脈内注入は被験猿を、HIV-1感染の頻繁に使われるモデルであるサル免疫不全ウイルスの攻撃から保護する(15)。粘膜表面は、人体へのHIVの侵入の慣習的な経路である。HIVに繰り返し暴露しているにも関らず血清陰性のままである売春労働者の唾液および頸膣部洗浄液からのIgAは、HIVを中和することが報告されている(16,17)。IgAがgp120のSAg部位を認識するか否かは検討されなかった。
【0121】
数人の研究者は、天然Abとそのサブユニットの、ポリペプチド抗原、例えばVIP(18)、Arg-バソプレシン (19)、チログロブリン(20)、血液凝固第8因子(21)、プロトロンビン(22)、gp120(23)、gp41(24)、H.ピロリ菌ウレアーゼ(25)、カゼイン(26)およびミエリン塩基性タンパク質(27)の切断を触媒する能力を文書化した。Abによって利用されるタンパク分解経路は、通常のセリンプロテアーゼを想起させる。タンパク質分解性Abの部位特異的突然変異(28)とX線結晶学(29)は、酵素の触媒部位に存在するのと類似の活性化求核性アミノ酸を特定した。さらに、Abは、元々酵素求核性残基において共有結合的に反応するよう開発された親電子ホスホン酸エステルと不可逆的に反応する(30,31)。非選択的なペプチド結合加水分解は、生殖細胞系V領域遺伝子によってコードされるAb生来の普遍的な特徴であるように見える(32)。我々は、B細胞によって産生される最初のAbクラスであるIgMがgp120を加水分解することを報告した(33)。しかし、分化終期のB細胞によって合成される適応成熟したタンパク質分解IgGはまれで、自己免疫またはリンパ組織増殖性疾患の患者で主に見られる(総説34)。クローン選択説によると、BCR-抗原結合は細胞増殖と選択を推進する。BCR触媒による迅速な抗原加水分解と抗原断片の遊離は、クローン選択プロセスを打ち切ると予想されるかもしれない。従って、他の免疫学的要因がこのプロセスでポジティブな役割を演ずることができない限り、B細胞の適応的発達の過程において高効率触媒Abの発達は理論的に好ましくない。
【0122】
ここで、我々は、HIV非感染者の唾液および血清由来のIgAが、IgGと比較して能率的にgp120の切断を触媒する能力を報告する。IgAは、組織培養系においてHIV中和活性を示し、421−433ペプチドの親電子性類縁体は中和を阻害した。血清IgAの活性は、エイズへの進行の遅い血清反応陽性者で上昇しているが、急速に進行する感染者では上昇していなかった。IgAによる触媒活性の選択的発現は、gp120 SAg部位の認識によって媒介されるように見え、HIV感染における宿主耐性因子としての触媒免疫を示唆する。
【0123】
方法
抗体。多クローン性Abは、感染または免疫学的疾患の所見のない4人(1人の女性と3人の男性; 年齢28−36歳; 我々の研究室識別コード、2288−2291)の末梢静脈血由来の血清または唾液から精製された。唾液は、パラフィルムを噛んだ後採取された(35)。Abは、HIV感染していない34人(17人の女性と17人の男性; 年齢17−65歳; 白人30人、黒人2人、アジア人2人; 識別コード679、681−689および2058−2081)から精製されたIgAおよびIgG画分から調製されたプールとしても分析された。単クローンIgAは、多発性骨髄腫患者の血清(コード2573−2587)から精製された。SFMH研究(36)に登録された19人のHIV血清陽性男性からのAbは、各人2つの血液サンプルから精製された(採血1および2と呼ぶ; 1984年6月−1990年1月の間に採取)。患者は、抗レトロウイルス薬を受けなかった。採血1は、血清転換6ヵ月中に得た。この時点での血中CD4+T細胞数は、すべての人で>325/μlであった。SP群に分類される10人の血清反応陽性者は、CD4+ T細胞の純減が最少10%に属し、78ヵ月間の追跡中エイズへ進行しなかった(採血1時点25−43歳; 被験者コード2089−2098)。採血2は、血清転換66ヵ月後にSP群から得た。第2群は、早期進行(RP)群と称され、CD4+ T細胞数が<184/μlに低下し採血2を得た時点でエイズの臨床症状現れていた9人の男性から成る(血清転換から1.5−5年; 採血1時点で28−43歳; 被験者コード、1930−1938)。HIV血清転換は、ELISAによる測定とウエスタンブロットによる確認によるHIV-1タンパク質に対する抗体の存在に基づいて決定された。HIV感染のない10人からのAbは、コントロールとして使用するために精製された(年齢27−45歳; 被験者コード、1939−1945、1953、1956、1968)。告知に基づく同意をともなう血液と唾液の収集は、テキサス大学被験者保護委員会によって承認された。
【0124】
IgAは、0.1mMのCHAPSを含む50mMトリス塩酸(pH 7.7)中、血清(0.5ml)をヤギ抗ヒトIgAアガロース(1時間、1mlのゲル、シグマ−アルドリッチ社)と、使い捨てクロマトグラフィカラム中で回転させながらインキュベートし、ゲルを緩衝液で洗浄し(4ml x 5)、0.1mMのCHAPSを含む0.1Mグリシン(pH 2.7)(4ml)で1Mトリス塩酸(pH 9.0)(0.11ml)を含むチューブ中に溶出させることによって精製した。唾液IgAは、同様に精製された(7mlの唾液、安定時0.5mlの抗IgAゲル)。IgGおよびIgM画分は、各々、プロテインG−セファロースおよび抗IgM−アガロースカラム上で、抗IgAカラムの非結合画分を出発原料として精製した(33,37)。タンパク質濃度は、マイクロBCAキット(ピアス社)を使用して決定された。SDS電気泳動ゲルのイムノブロッティングは、ペルオキシダーゼ接合型ヤギ抗ヒトα、抗ヒトλ、抗ヒトκおよび抗分泌性構成要素Ab(シグマ−アルドリッチ社)で行った(33)。抗IgAクロマトグラフィ(従属するコード2288 2291から共同出資される)によって予め精製された血清および唾液IgAのゲル濾過は、6Mの塩酸グアニジン(pH 6.5)中、スーパーロース6 FPLCカラム(0.2ml/分)上で、既述の方法で行った(37)。溶出されたタンパク質画分の名目質量は、Rt値をIgM(900kD)、チログロブリン単量体(330kD)、IgA(170kD)およびBSA(67kD)と比較することによって決定された。IgAの復元は、0.1mMのCHAPSを含む50mMトリス塩酸、0.1Mグリシン、pH 7.7に対して4度で透析することによって行った(トリス−Gly緩衝液; 2リットル×5、4日)。
【0125】
タンパク質分解活性評価。ビオチンは、タンパク質1モル当り1−2モルの化学量論で、gp120(MN株、プロテインサイエンス社)、sEGFR、BSA、HIV Tat(アメリカ国立衛生研究所エイズ研究および参照試薬プログラム)および血液凝固第8因子C2断片(K.プラット博士から)のLys残基上に組み込まれた(38,39)。タンパク質加水分解は、還元SDS-電気泳動によって決定された(39)。67μg/mlゼラチンを含む20μlトリス-Gly緩衝液中でAbとインキュベーションの後、反応混合物をSDS(2%)と2-メルカプトエタノール(3.3%)中で煮沸し、電気泳動とブロッティングに付し、ストレプトアビジン−ペルオキシダーゼでした。gp120の切断は、完全なビオチン化gp120バンドの密度分析により、[gp120]0−([gp120]0 x (gp120Ab/gp120DIL))([gp120]0、gp120Ab、gp120DILは、それぞれ、初期濃度、Ab含有反応のバンド強度(任意ボリューム単位、AVU; ピクセル強度xバンド面積)、希釈剤含有反応混合物のバンド強度を意味する)として決定した。いくつかの研究において、ブロットは、ストレプトアビジン−ペルオキシダーゼの代わりに、多クローン性抗gp120 Ab調製品で染色された(39)。いくつかの実験では、切断率は55kD生成物バンドの強度(AVU単位、Abの代わりに希釈剤とインキュベートしたgp120の反応混合物で観察される背景強度によって補正した)として表現した。切断部位の決定には、gp120はIgA(被験者コード2288−2291からプール)とインキュベートし、IgAは上述の通り抗ヒトIgAカラムに結合させて除去し、そして非結合画分は凍結乾燥後2-メルカプトエタノールを含むSDS-電気泳動緩衝液で再溶解した。SDS-ゲルのPVDFブロット上のgp120断片はクーマシー青で染色された後、既述の方法により(33)N末端配列決定に付された。触媒作用研究において使用された阻害物質は以下の通り:N-(6-ビオチナミドヘキサノイル)アミノ(4-アミジノフェニル)メタンホスホン酸ジフェニルエステル(EP-ハプテン1)、N-(6-ビオチナミドヘキサノイル)アミノ(4-アミジノフェニル)メタンホスホン酸(非親電子性ハプテン2)、N-(ベンジルオキシカルボニル)アミノ(4-アミジノフェニル)メタンホスホン酸ジフェニルエステル(EP-ハプテン3、ビオチンのないEP-ハプテン1に相当)、gp120残基421−431(Lys-Gln-Ile-Ile-Asn-Met-Trp-Gln-Glu-Val-Gly)のC末端に432-433(Lys-Ala)残基を模倣するアミジノホスホン酸エステルをもつEP-421-433、およびLys20側鎖にアミジノホスホン酸エステルを含むVIP(EP-VIP)。阻害剤の合成と純度は既述の通りである(40-42)。
【0126】
活性部位滴定研究において、単クローンIgA(被験者コード2582から)を0.5%のジメチルスルホキシドを含むトリス-Gly緩衝液中EP-ハプテン3と37度で96穴プレート中18時間インキュベートした後、基質Glu-Ala-Arg-AMCを加え、残存触媒活性は、標準AMCを使用して構築した標準的曲線を用いた蛍光測定(λex 360 nm、λem 470nm)で測定した(38)。
【0127】
ホスホン酸エステル結合。精製IgA(被験者2288−2291からプール)は、EPハプテン1、コントロールハプテン2、EP-421-433またはEP-VIPで処理され、不可逆的付加物の形成は還元SDS電気泳動、電気ブロッティング、ストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ接合体による染色、およびデンシトメトリーにより測定された(38)。
【0128】
HIVの中和。研究には、HIV一次分離株(97ZA009; Cクレード、R5依存)、フィトヘムアグルチニン刺激末梢血単核細胞およびp24定量を使用した(43)。IgAまたはIgG(被験者2288−2291をプール; 10mMリン酸ナトリウム、137mM塩化ナトリウム、2.7mM塩化カリウム、pH 7.4)は、等体積のHIVと混合した[100TCID50; 最終ボリューム0.2 ml、25%のPBS、0.25%のFBS、および3%の天然ヒトT細胞成長因子(ゼプトメトリクス社)を含んでいるRPMI 1640]。1時間または24時間インキュベーションの後、FBS中のPBMCsを(0.05ml、終濃度20%)Ab−ウイルス反応混合物に加えた(44)。いくつかの分析評価は、EP-421−433またはEP-VIP(100μM)によるIgA処理後、残存HIV中和活性の測定により行われた。
【0129】
結果
IgA触媒活性。HIV感染していない4人の血清および唾液から精製されたIgA調製品は全て、電気泳動ゲル上で親gp120バンドの減少と低分子量断片の生成による評価により、ビオチン化gp120(Bt-gp120)を切断した(17A図)(組み換え型タンパク質は、おそらくバキュロウイルス発現系の不完全なグリコシル化のため、名目質量約95 kDに移動する。Bt-gp120は最小量のビオチン(約1 mol/mol gp120)を含み、生成物はビオチンを必ずしも含まないので、ビオチン検出は切断速度を測定できるが、生成物の相対濃度に関する情報は与えない)。
【0130】
唾液および血清IgAを触媒として使用して観測されたBt-gp120生成物プロフィールは基本的に同一であった(名目質量80、55、39、32、25および17kD)。反応の初期に発生する80kDバンドは、バンド強度がより後の分析時に減少したので、更なる消化に影響されやすく見えた。唾液IgAの平均タンパク質分解活性は、血清IgAより15.4倍大きかった。血清IgG画分は、試験された濃度で検出可能な活性を欠いていた(図17B)。図17Bのデータは、等質量あたりの唾液IgA、血清IgAおよび血清IgGで表されている。Ab単位重量あたりの抗原結合部位の数はほとんど等しいので(約75−106kDにつき1価)、種々のAbクラスで異なる活性は結合価効果によるものではありえない。基本的に同一の結果が、34人のHIV血清陰性者のプール血清から精製された血清IgAとIgGを使って得られた(941nM gp120/時/mg IgA; 等濃度のIgGではgp120の切断は検知されなかった; 反応条件は図17Aと同じ)。プールされたヒトIgGのいくつかの製剤(IVIG)が、免疫不全症の治療のために静脈内点滴用に市販されており、HIV感染治療にも考慮された(例えば45)。我々の研究室で調製したプールヒトIgGと同様に、市販IVIG製剤は検出可能な程度にgp120を切断しなかった(ガンマガードS/DおよびインビーガムEN(バクスター社); イントラテクト(バイオテクファルマ社))。
【0131】
ここで述べた通り精製されたIgGの電気泳動上の純度は前に報告した(46)。親和性クロマトグラフィによって得られた血清IgAの還元SDS-電気泳動は、重鎖および軽鎖サブユニットに相当する、質量60および25kDの2つのタンパク質バンドを示した(図17B)。唾液IgAは、これらのバンドに加えて抗分泌性構成要素Abで染色されるもう一つのバンドを含んでいた(85kD)。検出されたタンパク質バンドは全て、α鎖、λ/κ鎖または分泌性構成要素に対するAbによっても染色可能であった。観測されたIgAサブユニットのバンドはどれも、抗μまたは抗γ Abによって染色されず、検出可能なIgGまたはIgMを含まないことを示す。
【0132】
IgAのタンパク質分解活性を確認するため、予め抗IgAカラムを用いたアフィニティクロマトグラフィで精製された唾液および血清IgA調製品は、以前タンパク質分解IgGおよびIgMに以前述べた通りに(37,46)、更に変性溶媒(6M塩酸グアニジン)中のFPLC−ゲル濾過に付された(図18A)。血清IgAは、保持時間55.2分の主要ピークと、34.0、44.6、62.5分の肩を伴って、溶出した。保持時間55.2分の主要血清IgAピークの名目分子量は153kDであり、分泌性構成要素を持たない単量体IgAの予想値に近かった(170kD; Rfをマーカータンパク質と比較して決定)。大部分の唾液IgAはRf33.7分と42.7分の2つの主要ピークに溶出し、55.5、62.7および69.3分に微細なピークを伴っていた。Rf33.7分と42.7分の唾液IgAピークの名目分子量は、それぞれ915kDおよび433kDであった。これらの結果は、既報の血中および粘膜分泌物中のIgAの分子量不均一性と、前者における単量体の対多量体、および後者における二量体の優勢と一致している(47)。血清および唾液IgA由来の30−57分にまたがる各画分の、還元SDS電気泳動特性は、カラムに付したアフィニティ精製品と同一のサブユニットプロフィールを示した(図17B)。抗体調製品は通常少量の遊離抗体サブユニットや種々のオリゴマー構造を含み、これは、ゲル濾過カラムで見られた小ピークを説明する。塩酸グアニジンを除いて復元した後、カラムから回収した単量体血清IgA種は、カラムに付されたアフィニティ精製品と同等のgp120分解活性を示した(図18B)(各々、630および823 nM gp120/時/mg IgA)。復元した二量体および多量体唾液IgA凝集体もgp120切断活性を示し(図18B)、分泌IgAの主要形態が触媒活性を有することが確認された。唾液中に、観測された触媒種に相当する分子量を持ったIgA以外のプロテアーゼは我々の知る限り既述がない。ゲル濾過で使用された強力な変性剤は、カラムに付したアフィニティ精製IgAに非共有結合している可能性のあるどのような低分子量汚染物も解離させ除去するものと予想される。従って、変性クロマトグラフィに付したIgAのタンパク質分解活性は、非IgAプロテアーゼの存在と整合性がない。復元した唾液IgA凝集体は、変性を経ていない唾液IgAの4.5倍低かった。同様の変性剤に誘発される不完全な復元に起因する活性低下は、他のタンパク質分解抗体でも述べられている(49)。
【0133】
更なる確認研究は、多発性骨髄腫患者の血清から同一の方法で精製された15の単クローンIgAを使って実施された。13の単クローンIgAはgp120切断活性を示し、2つのIgAは検出可能な活性をもたなかった(図18C)。単クローンIgAを触媒として使用して得られたgp120反応生成物の電気泳動上の特徴は、多クローン性IgAを使用した場合のそれと基本的に同一であった。単クローンIgAが異なる活性レベルを示すという観察は、Ab可変領域がgp120(31)および他のポリペプチド抗原(27,28)の切断を担っているという以前の報告と一致している。
【0134】
求電子ホスホン酸エステルハプテンとの相互作用。EP-ハプテン1(図19A)は、当初トリプシンのようなセリンプロテアーゼの酵素活性部位に見られる求核基と不可逆的に結合する部位特異的阻害剤として開発され、そしてこの合成物の触媒Ab断片および完全長Abとの不可逆的反応性も報告された(31,37)。1mM濃度のEP-ハプテン1は、唾液および血清IgAの触媒活性を著しく阻害した(図19B)。予測された共有結合阻害メカニズムと一致して、唾液および血清IgA調製品は過熱(100度、5分)およびSDSによる変性に安定な、図19B(挿入)に示されるより強い約60 kDの重鎖付加物バンドとより弱い約25 kDの軽鎖付加物バンドに相当する、EP-ハプテン1付加物を形成した。EPハプテン1濃度を増やすにつれ、gp120の切断阻害とIgA付加物の形成との増加が明白であった(図示せず)。コントロールハプテン2は、リン原子上のフェニル基がないことを除いてEP-ハプテン1と構造的に同一であり、この違いにより酵素求核基との親電子反応性に障害を来たす(37)。ハプテン2は、IgA触媒によるgp120切断を阻害せず、IgA付加物も形成しなかった。
【0135】
我々は、単クローンIgAとセリンプロテアーゼ阻害剤EP-ハプテン3および基質Glu-Ala-Arg-AMCを使って活性部位滴定を実施した(図20)。この基質中のArg-AMCアミド結合の加水分解の蛍光定量測定は、反応化学量論の正確な決定の簡便な方法である。加水分解反応は、抗原性エピトープの認識に伴う典型的な非共有結合性相互作用の関与なく進行し、類似したペプチド-AMC基質は以前他の触媒Abのための代替基質として使用された(20,39)。gp120とIgAとの反応混合物に過剰なGlu-Ala-Arg-AMCを添加すると、gp120加水分解は完全に抑制され(図20、挿入)、このことは、2つの基質が同じ触媒部位によって切断されることを示す。EP-ハプテン3による触媒活性の化学量論的阻害が観察され、結果は2.4モルのEP-ハプテン3によって1モルのIgAが完全に阻害されることを示す。この値は、2分子のEP-ハプテン3が1分子のIgAを不活性化するという予想(2つの触媒部位/IgA単量体と仮定して)と一致している。もし痕跡汚染物質が観察された触媒活性の原因でなるなら、極少量のEP-ハプテン3が活性を阻害するのに十分でなければならない。従って、滴定結果は、汚染物質を触媒活性の説明から除外する。
【0136】
抗原選択性と切断部位。ヒト唾液IgAまたは血清IgAによる、Bt-BSA、Bt-FVIII C2領域、Bt-TatまたはBt-sEGFRの処理は、これらのタンパク質の全長形に相当する電気泳動バンドの目立った減少を起こさなかった(図21)。これらの条件下で、容易に検出可能なBt-gp120の切断が観察された。gp120 SAg部位へのAbの非共有結合は、gp120残基421-−433を含む合成ペプチドによって競合阻害を受ける(7,8)。我々は、前に、ホスホン酸ジエステルとビオチン基を含むgp120残基421−433の親電子性類縁体による触媒IgMの付加逆的結合を報告した(EP-421-433; 図22A中の一番上の構造)(33)。本研究において、反応混合物中のEP-421-433濃度を増やすにつれて(10−100μM)、唾液IgA(21−85%)および血清IgA(41−91%)によるBt-gp120切断の阻害は用量依存的に上昇した。コントロールプローブは、EP-VIP(求核性残基と共有結合反応することによって触媒作用を阻害することができるが、非共有結合的にAbと結合することが期待できない無関係なペプチドである、VIPのホスホン酸エステル含有誘導体)であった。IgA触媒によるgp120切断のEP-421-433による阻害は、EP-VIPよりも高い効力によって一貫して特徴づけられた(P=0.01以下、スチューデントt検定; n=4繰り返し実験; 図22B)。EP-421-433はまた、IgAに対して、コントロールEP-VIPまたはEP-ハプテン1よりも優れた付加逆結合性を示した(タンパク質付加物バンドのビオチン含有量を推定することで決定された(図22C))。反応液中にホスホン酸エステル基を欠くgp120ペプチド421-436を加えると、IgA:EP-421-433付加物の形成を阻害した(図22D)。これらの結果は、SAgペプチド領域の非共有結合的な認識がgp120選択性に貢献している、IgA触媒作用の求核メカニズムを示唆する。
【0137】
切断部位を特定するため、多クローン性唾液IgAによる非ビオチン化gp120の消化は、ほぼ完全消化するまで進行させた。固定された抗IgA Ab上のクロマトグラフィによって反応混合物中のIgAを除去した後、gp120断片は、SDS-電気泳動とN末端アミノ酸配列決定(5サイクル)に付された。55、39および17kDの容易に検出可能な生成物バンドと、32kDの幽かなバンドが認められた(図23)。55kDバンドは、gp120N末端に対応する配列を与えた。残りのバンドは、gp120残基84−88、322−326および433−437に相当するN末端配列をもつ断片を与え、以下の結合の切断が起こったことを示している:Val83-Glu84(gp120 C1領域)、Tyr321-Thr322(V3領域)およびLys432-433(C4領域)。
【0138】
中和活性。抗HIV有効性の評価における第一段階として、我々はHIV-1 97ZA009株(Cクレード、ケモカイン受容体R5依存性)によるヒトPBMCs感染におけるAbの効果を検討した。このウイルスと触媒作用研究において使用した組み換え型gp120の残基421-433の配列は、保存的Arg/Lys置換を除いて同一である(KQIINMWQEVGR/KA:ロスアラモスHIV配列データベース)。非感染者からのプール唾液IgAおよび血清IgAは、用量依存的な中和活性を示した。中和活性は、血清IgG画分では検出されなかった。プールIgGを含有する市販IVIG調製品も、検出可能な中和活性(250μg/mlのIVIG濃度において25%以下の中和)を欠いていた。IgA−ウイルス混合物にEP-421-433を含有させると中和作用を阻害したことは、421-433領域の認識が中和メカニズムにおいて重要なことを示唆する(図24B)。本研究において使用された状況下において、IgAの中和活性は、無関係なプローブであるEP-VIPの存在下、ほとんど影響されなかった。唾液IgAによるウィルスの中和は、HIVとの比較的短い(1時間)インキュベーションの後再現性よく観察されたが、血清IgAによる中和は、長時間のIgA−ウイルスインキュベーションにおいてのみ明白であった(24時間; 図24C)。
【0139】
HIV感染者の触媒Ab。我々は、AIDSの臨床症状に早期に進行した(RP)9人のHIV血清陽性男性、AIDSへの進行の遅い(SP)10人のHIV血清陽性男性、および10人の非感染者由来の血清IgAによるBt-gp120の切断を検討した(これは、前HAART時代に収集された血清を使った遡及研究である。これらの患者由来の唾液は入手不能である。分泌型IgAは粘膜表面を越える最初の感染を阻止すると考えられるかもしれない。一旦HIV侵入すると、全身性抗体の活性が感染進行に影響するより重要な因子であるかもしれない。)。
血清転換後、血清は6ヵ月(図25A中、採血1と称する)、5.5年(SP群採血2)、または1−5年(RP群採血2)以内に得られた。採血2の時点において、RP群のCD4+ T細胞数は、正常域と比較して顕著に低下していたが、SP群はそうでなかった(図25B)。RP群およびSP群由来のIgAによる消化の後観察されたgp120生成物の電気泳動プロフィールは、非感染者由来のIgAによって作られるプロフィールと基本的に同一だった(図17A)。SP群由来IgAの触媒活性は、RP群または血清陰性群よりも採血2の時点において有為に高かった(P<0.0001、対応のないマン-ホイットニーU-検定およびスチューデントt検定)。血清陰性群と比較して、RP群の触媒活性のわずかな減少が、採血2の時点で見られた(P=0.035、マン-ホイットニーU-検定; P=0.065、スチューデントt検定)。我々は以前、HIV血清陰性者由来のIgMによるgp120の切断を報告した(33)。SP群の血清IgMのgp120切断活性は、RP群および非感染者群と同程度であった(P>0.05; U-テストおよびt検定; 図示せず)。2人のSP群被験者(被験者コード2097および2098、採血2)からのIgAによるgp120の切断は、EP-421-433によって実質的に完全に阻害された(10μM; それぞれの%阻害、89±6および94±12; 反応条件は、図22Bと同じ)。等濃度のコントロールEP-VIPは、触媒反応をほとんど阻害しなかった(<15%)。
【0140】
考察
IgG同様、IgAは分化したB細胞によって産生され、通常、様々な程度に適応的に多様化した配列を持つV領域を含む。IgGとは異なり、HIV非感染者のIgAは、強力かつ選択的にgp120の切断を触媒した。SAg部位のペプチド結合の切断(32)と非共有結合的認識(6)は、生来性の、生殖細胞系V遺伝子にコードされた機能と考えられる。当初共有結合性セリンプロテアーゼ阻害剤として開発された親電子性ホスホン酸エステルは、IgA触媒によるgp120切断を阻害し、不可逆的にIgAに結合したことは、セリンプロテアーゼ様の触媒メカニズムを示唆する。gp120のSAg部位の構成要素に一致する、残基421-433の親電子性類縁体は、IgAによって選択的に認識された。切断されたペプチド結合の1つは、このgp120領域の中に位置する(残基432-433)。これらの特性は、前述のタンパク質分解性IgMのそれらと類似している(33)。従って、B細胞成熟過程でIgAに新規にgp120切断活性を生成する必要はなく、また、活性データは、タンパク質分解機能はV領域配列多様化とIgAクラス変換の間保持され、向上することを示唆する(IgGクラス変換ではされないが)。唾液IgAは、血清IgAと比較して、一貫して優位な触媒活性を示した。粘膜分泌物中のIgAは、二量体およびそれ以上の高次凝集体の状態で主に存在し、そして、我々は定常領域構造が触媒部位の完全性を維持するのを助けるという可能性を無視しない。
【0141】
触媒レベルに影響するかもしれない化学要因は、非共有結合によるgp120認識の強度、IgA抗原結合部位の求核反応性、触媒サイクル中の求核反応段階の完了以降イベント、即ち、アシル−Ab共有結合中間体に対する水の攻撃、および生成物の放出、を促進する能力である。gp120触媒作用の構造的要因の分析は、V領域抗原結合部位構造既知の単クローンIgAを使ったさらなる研究を必要とする。gp120を切断するIgMの結晶構造が最近解かれ、Ser-Arg-Gluなる3残基対が、観察された求核および触媒活性を担っていることを示唆する(29)。
【0142】
gp120と無関係なポリペプチドはIgAによって切断されなかった。EP-421-433はgp120の切断を阻害し、無関係なEP-VIPプローブよりも優れたIgAに対する不可逆的結合性を示した。IgAによる選択的なgp120切断は、従って、少なくとも一部は、421-433領域における非共有結合的な認識と協調したタンパク質上の求核攻撃に起因する。gp120中の3つのペプチド結合が、多クローン性IgAによって切断され、それらの一つはgp120の421-433領域(残基432-433)中に位置していた。その他の2つの切断部位を含む領域は、これまでgp120のSAg特性と関連づけられたことはない。単クローンおよび多クローン性IgA触媒によるgp120生成物プロフィールは同一であり、421-433領域反応性の一つのAbがこの領域外に位置する結合を切断しているかもしれないことを示唆した。単クローンAbによる他のポリペプチド抗原の切断研究もまた、一つのAbが複数のペプチド結合を切断できることを示した(24,49)。反応プロフィールは、以前提案された分割部位モデルから理解されるかもしれない(50)、このモデルでは、異なるAb副部位が非共有結合と触媒作用を担い、加水分解反応は、最初の非共有結合性抗原-抗体結合を担うエピトープの外にある離れた結合で起こることができる。このモデルは、異なるペプチド結合が触媒部位に重なるように位置する代替基底状態複合体の形成を提案する。Abがコンフォメーション依存的エピトープを認識するとき、代替切断部位は直線配列上離れていてもよいが、空間的には隣接しているにちがいない。もう一つの要因は、最初の切断産物の更なる消化のための基質としてのありそうな利用である。最初の切断産物は、完全長gp120の対応する領域とは別のコンフォメーションを採るかもしれない。そのようなコンフォメーション変化は、次に、天然抗原中では接近できないペプチド結合におけるAbによる攻撃を可能にするかもしれない。IgA触媒による最初のgp120切断反応の視覚化は、SDS-電気泳動の段階で還元剤(2-メルカプトエタノール)の包含を必要とし、このことは、gp120断片が、一分子内でS−S結合橋を介してつながれたままであることを示唆する。切断反応は、完全タンパク質の骨格によって課されるエネルギー的な制限から、分子を開放するので、S−S結合でつながれたgp120はコンフォメーション変化を受けることができる。
【0143】
異なるV領域部位が、SAg部位と通常の抗原エピトープのAbによる認識を媒介すると考えられる。2つのタイプの相互作用は、それぞれ、寄与の重点が、比較的保存されたFRまたはより多様なCDRのいずれにあるかによって特徴付けられる(51)。gp120 SAg部位の認識は、特定のCDR1残基とともに、FR1およびFR3に位置するVH領域残基に起因していた(52)、ところが、従来の抗原性エピトープのAbによる認識は、CDRにおける接触に支配される。HIV非感染者中にタンパク質分解IgAが存在することの1つの説明は、FRに支配された部位のSAg部位認識能力が、CDRが他の無関係な抗原エピトープを認識するように配列多様化を経る間、偶然保持されるということである。FRsは限られた配列多様化感受性であり(CDRsより低いレベルではあるが)、特定のCDR残基もまた限られた貢献をSAg結合に提供する。第2の可能性は、従って、SAg部位認識は、おそらくgp120 SAg部位との構造類似性を持った抗原エピトープによって推進され、適応的に向上できるということである。我々は、配列データベースの点検によって、gp120残基421-433と既知のヒトタンパク質の間での注目すべき配列同一性を確認することはできなかった。しかし、これらのgp120残基をコードしている39のヌクレオチドのうち27は、ひとつのヒト内在性レトロウィルスの配列と同一である(HERV; にあるHERVデータベース; 参考文献、Paces, J., A. Pavlicek, and V. Paces. 2002. HERVd: database of human endogenous retroviruses. Nucleic Acids Res. 30:205-206; Bクレード gp120残基421-433のコンセンサスヌクレオチド配列は、CCGTATGTAACG AAAAGGATGAAAGACGGTGTACAAATAである。HERV rv_012650の配列(HERVL47ファミリー、X染色体)は、TTAGATCTGATGAAAAGGATGAAAGAAATTTTTCAAA AAである; 同一性を下線で示した)。HERVsとgp120に対する触媒Abを結びつける他のいかなる証拠も現在のところ無いが、この点は将来の研究にとっての相当な興味である。最初に、AbによるSAg認識が微生物感染に対する生来免疫機能として進化したとするなら、この活性とHERVsの関係は、古代のHIV関連のウイルスの存在を意味すると解釈することができるかもしれない。第2に、HERV発現の上昇は、全身性エリテマトーデスや他の自己免疫疾患において頻繁に見られることであり(総説53)、この現象は、狼瘡患者におけるgp120ペプチド421-436に対するAbの上昇(54)という、未だ説明されていない観察の一要因であるかもしれない。いくつかの臨床事例研究は、狼瘡とHIV感染の稀な共存についてコメントしており(例えば、55、56)、狼瘡Fvライブラリ-ーから分離された単鎖Fv(短いペプチドによって連結されたAbのVLおよびVH領域)は、gp120 421-436領域に結合し組織培養においてHIV一次分離株の感染力を中和する能力を示した(43)。
【0144】
HIV感染がgp120 SAg部位に対するAbを誘発することは知られてもいないし、期待されてもいない。いくつかの報告は、VH3+ファミリーのVH領域を含むAbが優先してB細胞SAgsと結合することができることを示す(7、57、58)。VH3+ B細胞レベルおよびVH3+免疫グロブリン濃度の減少は、HIV感染者において報告されている(57,58)。他のB細胞SAgs、すなわちブドウ球菌プロテインAおよびブドウ球菌プロテインLは、B細胞アポトーシスを誘発することが報告される(12,13)。我々の研究において、IgA触媒活性の統計学的に有意な増加は、HIV血清反応陽性者の遅延進行サブグループで明らかだったが、AIDS進行者では、不変かわずかに減少した。遅延進行患者は比較的稀で、未処置のまま放置した場合、ほとんどの血清反応陽性者はAIDSに特徴的なCD4+ T細胞数減少と日和見感染を示す(例えば、59)。血清陰性者と遅延進行者からのIgAを使って見られるgp120切断パターンの間に明白な違いはなく、両者のIgAはEP-431-433プローブと優先的に反応した。これは、遅延進行群の触媒活性の亢進が、(免疫優性なV3領域に対する通常のAb反応ではなく)gp120 SAg部位に対する拡大応答を意味することを示唆する。合わせて考えると、これらの研究は、AIDS遅延進行者はgp120 SAg部位に対する有益な触媒免疫応答を装備することが出来るという仮説を示唆する。これは、SAg部位は通常特異的Ab応答を誘発することができないという予想と対照的である。抗SAg部位触媒IgAにおける制限がどのようにして克服できるのかを理解することは、新規HIVワクチン候補の開発のために興味深い。抗SAg Abの生産におけるT細胞の役割に関しては情報がない。421-433のSAg領域にわたっているペプチドは、効果的T細胞エピトープと認識されてきた(60)。我々は、遅延進行者においてTヘルパー細胞の発達亢進が抗SAg触媒IgAの産生を促進するという可能性を無視することはできない。B細胞レベルで、BCR触媒によるSAg部位におけるタンパク質切断に続くgp120断片の放出は、gp120-BCR結合によって誘起されるアポトーシスの情報伝達経路を無効にし、触媒BCRs発現細胞の生き残りに有利に作用していると予測してもよいだろう。さらに、タンパク質分解と非共有結合的なBCR占有の機能上の帰結が同一であるという保証はない。ペプチド結合の加水分解は、非共有結合的なBCR結合と比較して、著しく大量のエネルギー(約Δ70 kcal/モル)を放出する。このエネルギーが、(アポトーシスの信号変換経路の代わりに)生産的に細胞増殖を誘発するBCRコンフォメーション変化を誘導するのに用いられるなら、触媒産生細胞のクローン選択は起こるはずである。これらの考慮は、SAg反応性触媒IgAの合成は免疫学的に可能であることを示唆するが、遅延進行者群でその産生を許している正確な状況は解明されていない。
【0145】
HIVの細胞内進入の第一段階である、gp120-CD4結合メカニズムの詳細は、突然変異生成とX線結晶学研究から得られた(9,11)。gp120のCD4結合部位は、第2、第3および第4保存領域内に位置するアミノ酸、すなわち残基256、257、368-370、421-427および457から成る不連続な決定基であるように見える。本研究において、十分量の非感染者の唾液IgAおよび血清IgAが培養内に存在する場合、HIV一次株によるPBMC感染の強力な中和は明白であった。中和活性は、CD4結合に関係する421-433領域を認識するIgAの能力と整合している。gp120残基421-433の親電子性類縁体は中和を阻害したが、無関係な親電子性ペプチドはしなかったことは、421-433領域における相互作用がIgAによるウィルス中和における必要不可欠なステップであることを示唆する。EP-421-433プローブ存在下における中和活性の選択的消失もまた、中和が宿主細胞タンパク質(例えば、CD4またはケモカイン受容体)の認識に起因するという他の可能性と矛盾する。gp120の421-433領域の配列は、免疫優性V3領域と比較して、多様なHIV株でよく保存されている[ロスアラモスデータベース収載の種々のクレードに属する550HIV株のgp120残基421-433の保存率は以下の通りである:A(54) 93%; B(155) 95%; C(111) 97%; D(20) 96%; F(10) 93%; G(11) 90%; CRF(189) 94%(アルファベット文字はクレード呼称、括弧内の数値は株数)。株ごとに、421-433エピトープのコンセンサス残基(K-Q-I-I/V-N-M-W-Q-E/R/G-V-G-K/Q/R-A)と同一の残基を数えた。%保存率は、100 x (同一残基数)/ペプチドエピトープの総残基数)として計算された。]。
【0146】
非触媒Abに関する研究は、中和速度論の変化が抗HIV効力に影響することも予期できることを強調した(44)。触媒一分子は、繰り返し反応サイクルで再利用され、複数のgp120分子を切断する(それに対して、触媒活性を持たないAbは、最大でも平衡成立時化学量論的にgp120を不活性化することができる(例えば、二価IgG抗体1分子あたり2分子のgp120)。本研究において血清IgAによるHIV中和は、ウイルスとの長時間インキュベーションの後のみ明白で、それに対して唾液IgAは比較的短いAb−ウイルスインキュベーション時間にも関らず再現性よくウイルスを中和した。唾液IgAのより迅速な作用は、唾液IgAの血清IgAより高い触媒活性(約15倍)と一致している。我々の研究室で精製したヒトIgG調製品および市販IVIGから精製したものは、明瞭なgp120切断活性を示さず、IgGおよびIVIG調製品は試験された濃度で中和活性を欠いてもいた。市販IVIGは、以前HIV感染の治療のために考慮された(45)。触媒機能が抗ウイルス効力を強化する範囲において、ヒト分泌IgAプールは強い抗HIV効果を及ぼすことが期待できる。以前我々は、触媒Ab断片が、触媒不能なHis93:Arg変異体よりも優れたVIP中和活性を示すことを報告した(28,61)。野生株と変異体AbはVIPと同等の親和性で結合するので、前者の優れた効力は触媒機能によるものと考えられた。
【0147】
要約すると、我々の研究は、非感染者のIgAがHIV gp120の切断を触媒すること、触媒活性はAIDS遅延進行者で上昇していること、そして、IgAは組織培養においてHIV一次分離株の感染性を中和することを示した。これらの結果は、ウイルスに対する自然防御媒介物質としての触媒IgAを示唆する。
【0148】
【0149】
【0150】
【0151】
実施例3:アミロイドβペプチド指向性IgM防御酵素
酵素活性を備えた抗体(アブザイム)は、有毒なポリペプチドに対する潜在的に強力な防御機構を象徴する。アブザイム分子のタンパク質分解機能は、目標抗原を永久に不活性化することができ、通常の酵素同様、アブザイム一分子が何千もの抗原分子を切断することができる。我々は以前、抗体のタンパク質分解活性が生殖細胞系V遺伝子によってコードされる継承した機能であることを示した(1)。触媒機能の適応発達がB細胞分化プロセスによって禁止されていないなら、液性免疫系は個々のペプチド抗原特異的な多様なアブザイムを産生することができるはずである。
【0152】
β-アミロイドペプチド(Aβペプチド)の凝集体は加齢とともに脳に蓄積し、アルツハイマー病(AD)の病因に関与すると考えられている。大きなAβ原繊維状凝集体の提案された悪影響に加えて、ペプチドの拡散性オリゴマーは神経変性の媒介物質であると考えられる。自然に生じるAβペプチド結合性抗体は、コントロールのヒトおよびAD患者の血清中に確認された(2,3)。これらの抗体の予測される有益な機能は、脳内でFc受容体発現細胞(マクロファージおよびマイクログリア)による免疫複合体の取り込み、または血流中のAβペプチドの減少によるAβペプチド除去の増進である。
【0153】
脳内におけるこれらの抗体の作用は、しかし、炎症媒介物質の発散または脳溢血に起因する厄介な結果を引き起こすかもしれない。
【0154】
ここでは、我々は、ヒトが、Aβペプチド凝集体の形成を妨害しペプチド凝集体を可溶化することができるAβペプチド反応性タンパク質分解抗体を合成するという証拠を解説する。これらの観察は、Aβペプチドを標的とするアブザイムがADに対する自然防衛機構の一つであるかもしれないこと、および、これらのアブザイムがADに対する免疫治療の手段を提供するかもしれないことを示す。
【0155】
方法
電気泳動的に均一なIgMおよびIgG抗体は、アフィニティクロマトグラフィ(抗IgMおよびプロテイン Gカラム)によって精製された(4)。ビオチンタグを具えた共有結合反応性ホスホン酸ジエステル(Bt-Z、N-[6-(ビオチナミド)ヘキサノイル]アミン(4-アミジノフェニル)メタンホスホン酸ジフェニルエステル)と抗体の反応混合物は、SDS-電気泳動の後、付加体形成を測定するためのビオチン検出に付した (4)。
【0156】
触媒活性は、抗体と合成Aβ1-40から成る反応混合物の逆相HPLCカラム上の新しいA220ピークの出現として明白だった。生成物はピーク面積から定量した。生成物は、個々のペプチドイオンのオンラインエレクトロスプレーイオン化質量分析(MS)およびMS/MS分析によって同定された。
【0157】
合成Boc-Glu(OBzl)-Ala-Arg-アミノメチルクマリン(AMC)の切断は、遊離したAMCの蛍光定量によって測定された(4)。ペプチド凝集体は、高さ解像度10nmのマイクロカンチレバープローブを使用する原子間力顕微鏡(AFM)によって視覚化された(5)。
【0158】
結果と考察
IgMアブザイムは、IgG抗体を上回る速度でAβ1-40を切断した(図26)。Aβ1-40と同様、Aβ1-42も、HPLC分析で測定された通り、IgMアブザイムによって切断された。これは、タンパク質分解が液性免疫応答の発生初期に発現される生来性の免疫機能であるが、応答が刺激免疫原により特殊化されると劣化するという我々の確信と一致している。高齢者のIgMおよびIgGアブザイムは、若年者の対応する抗体よりも速くAβ1-40を切断し、このことは、アブザイム応答が年齢と相関して適応成熟を経ることを示唆する。これは、年齢と共に上昇するAβペプチド凝集体の産生が、Aβペプチド単量体で見られない新規なコンフォメーションエピトープの発現を起こすことを示唆する。あるいは、ペプチドへの免疫系の持続的露顕は、年齢が進むにつれて免疫寛容の破綻を起こすかもしれない。
【0159】
同一の方法で精製された多クローン性および単クローン抗体調製品による異なったレベルのAβ1-40切断が観察され、このことは、アブザイム活性が抗体の可変領域と関連した多形機能であることを示唆する(図27)。多クローン性IgMおよびモデル単クローンIgMの両方は、Lys16-Leu17およびLys28-Gly29の2つの結合でAβ1-40を切断した(図28、図29)。図28aは、Aβ1-40の単クローンIgM Yvoとのインキュベーションの後得られた逆相HPLCプロフィールを例示する。図28bは、保持時間21.2分のピークをAβ29-40断片として同定するための、エレクトロスプレーイオン化-質量分析(ESI-質量分析)の使用を例示する。スペクトル中の観測されたm/z値は、これらの断片のイオンの理論的なm/zと正確に一致し、さらに、一価の荷電種のMS/MS分析は、その同定を確認した。図29は、多クローン性IgM(6人の高齢者からプール)により切断された、Aβ1-40中のペプチド結合の同定を示す。図29aは、反応混合物の逆相HPLCプロフィールを例示し、図29bは、保持時間10.2分のピークのESI-質量分析によるAβ1-16断片との同定を例示する。
【0160】
アブザイムがAβペプチドの負の影響を改善する可能性は、単クローンIgM Yvoの速度論パラメータから明白である。このアブザイムによる、相当する非タンパク質分解性抗体によって平衡時結合されるAβペプチドの最大限の量と比較して、25倍量のAβペプチドの切断が、血中抗Aβペプチド抗体の一半減期(3日)内で表6で記述される条件下で予測される。
【表6】
【0161】
Aβ1-40の原繊維およびオリゴマー凝集体への集積は、モデル単クローンアブザイムによって停止された(図30)。この現象は、アブザイムに対してAβペプチドが大モル過剰(200倍)であったにもかかわらず明白で、触媒メカニズムと一致する。図30、パネルAは、単クローンIgMで6日間処理したAβ1-40の原子間力顕微鏡写真である。この方法によって、ペプチド前原繊維、短い原繊維およびオリゴマーが観測できた。コントロールは、ペプチドと触媒IgMの調製されてすぐの反応混合物と、触媒能のないIgMとインキュベートされたペプチドを含んだ。図30、パネルBは、触媒IgM Yvo存在下12日目の、6日目と比べて減少したAβ1-40集合体を示す。表7と8は、触媒IgM Yvoと非触媒IgM 1816存在下6日目と12日目に形成された種々のAβ1-40集合体の定量値を提供する。軽時変化研究は、6日目に観測された少量の原繊維およびオリゴマー凝集体が、混合物の更なるインキュベーションによって消滅することから明白に見出される通り、アブザイムが凝集体を切断することもできることを示す。
【0162】
オリゴマー、前原繊維、短原繊維および成熟原繊維の定義は、当業者には知られているか、ラドゥらの報文(5)の参照によって得られるかもしれない。
【表7】
【表8】
【0163】
モデル単クローンIgMの活性は、セリンプリテアーゼの不可逆的ホスホスホン酸エステル阻害剤によって化学両論的に阻害され、この化合物と抗体の共有結合付加物の形成は明白だった。図31、パネルAは、IgM Yvoがビオチン化セリンプロテアーゼ阻害剤、Bt-Z-2Phと不可逆的に反応するが(レーン1)、同一条件下コントロールプローブBt-Z-2OHとはほとんど反応しない(レーン2)ことを示す。コントロールプローブのリン原子の親電子反応性は乏しく、そのため酵素求核反応基と反応しない。このパネルに示した電気泳動の手順は、変性剤SDSの存在下、および反応混合物の加熱(100度)の後に実行され、従って観察されたバンドは、非共有結合性複合体ではなく、共有結合付加物を示すことを示唆する。図31、パネルBは、IgM Yvoによって触媒されたBoc-Glu(OBzl)-Ala-Arg-AMC加水分解の、セリンプロテアーゼ阻害剤Cbz-Zによる化学量論阻害を例示する。挿入図は、基質と阻害剤の構造を示す。示したのは、種々の濃度のCbz-Z存在下、アミノメチルクマリン(AMC)脱離基の蛍光として測定された、IgMの残存触媒活性のプロットである。x切片の値(およそ0.94)は、[Cbz-Z]/[IgM活性部位]比率<2のデータポイント(1モルのIgM = 10モルのIgM活性部位)を最小二乗法で最適化した直線から決定した。データは、触媒活性がIgM活性部位に起因していることを示唆する。パネルCは、Aβ1-40の非存在および存在下(約30と約100μM)における、IgM YvoによるBoc-Glu(OBzl)-Ala-Arg-AMCの切断の進捗曲線を例示する。観察された阻害は、Boc-Glu(OBzl)-Ala-Arg-AMCとAβ1-40がIgMの同じ活性部位によって切断されることを示唆する。これらのデータは、プロテアーゼ汚染の欠如を確立し、既述のタンパク質分解IgMおよびIgGアブザイムに類似した求核触媒作用を示唆する。
【0164】
合わせて考えると、これらの観察は、IgMアブザイムは高齢者でAβペプチドに対して保護効果を及ぼすことができることを示す。アブザイムは、炎症や出血反応を刺激することなくペプチドを潜在的に除去することができる。従って、触媒機能による優れた効力の見込みに加えて、アブザイムは、化学量論的に結合する抗体の有毒な併発症なしに、望ましい有益な効果を及ぼすかもしれない。
【0165】
【0166】
実施例4:触媒抗体発生の理論
以下の実施例は、本発明の説明を助け、当業者に対して重要性を明確にする理論を提唱する。
【0167】
触媒抗体は、タンパク質進化についての洞察と要求に応じた新規触媒へのルート(すなわち、どんな抗原基質に対しても特異的触媒を適応誘導することによって)を与える可能性により、いくつかの世代の科学者を魅了した。豊かな経験的情報が集められ、そして、アシル転移、リン酸ジエステル加水分解、リン酸化、多糖類加水分解および水酸化を含む、一見多様な化学反応を引き起こすことができる抗体が文書化されている[総説1-3]。触媒抗体の既知の基質は、大きな抗原(例えば、ポリペプチド、DNA)[例えば4-6]および小さなハプテン(例えば、トリペプチド、脂質、アルドール)[7-10]を含む。抗体による触媒作用は個々の基質構造の特異的認識によってのみ起こるという当初の仮定に反して、抗体は、非選択的なもの(例えば、配列に依存しないペプチド認識や反応中心に隣接する様々な置換基をもったアルドールの認識)から、高選択的なもの(例えば、抗原性エピトープの非共有結合的な認識によって可能にされる個々のポリペプチドの切断)にわたる触媒活性を示すことができる。
【0168】
自然免疫メカニズムによって形成された触媒が、いくつかのグループによって確認された[7,11,12]。抗体の触媒活性の存在は、活性の生物学的目的に関する同意がまだ発達していないために、知的に不快なままである。もう一つの驚愕の源は、天然と設計された抗体触媒の関係に関する。設計抗体の支持者は、自然抗体は通常抗原基底状態による免疫学的刺激に応じて発達するので、それらは遷移状態を安定化(触媒作用に対する広く認められた必要条件)させることができないと主張した。混乱の原因の少なくとも一部は、触媒抗体の自然発生についての統一理論または自然触媒抗体と設計触媒抗体を関連付ける理論的枠組みがないことである。
【0169】
触媒同定への多様な実験的なアプローチは、以下の通り文献中に記載されている:(a)健常生物および免疫学的疾患生物によって自然発生的に産生される抗体の、触媒活性に基づく篩い分け[13-18]。(b)普通の抗原による定型的免疫[19-21]。(c)酵素の活性部位に対して惹起された抗体を免疫することによる抗イディオタイプ抗体の作成[22-26]。(d)不安定反応中間体の安定類似体による免疫[総説27-30]。
【0170】
各々のアプローチは触媒活性をもつ抗体を与えたが、理論的基盤の不在は、この分野の難問を乗り越える創造的な方法を妨げてきた。触媒抗体のおなじみの批判は、それらの回転効率(kcat、一次触媒速度定数)が従来の酵素よりも低いということである。触媒効率の正当な比較のためには、不安定な基質は両方のクラスの触媒によってより変換されるので、同じ分子が抗体と酵素の基質として使用されなければならない。エネルギー要求が少い反応には、速度上昇率(kcat/kuncat)が、触媒による活性化エネルギー低下の程度を評価するために、慣習的に計算される。ペプチド結合切断のようなエネルギー要求の大きい反応の背景反応(kuncat)は非常に遅く[およそ7.9×10−9分−1]、約2.0分−1のkcatをもつタンパク質分解抗体で、速度上昇率およそ>108に相当する。
【0171】
基底状態(GS)以上に抗原遷移状態(TS)を安定化させる抗体だけが触媒作用を示すことが出来、回転率はTSおよびGS結合によって得られる自由エネルギーの差(ΔGTS−ΔGGS)と比例している。強力な抗原GS結合は、抗体の歴史的な際立った特徴である。比較して、通常の酵素は一般に弱いか中程度の基質GS結合を示す。強い抗原GS結合の本質的な反触媒効果が示唆されたが、これは抗体による効率的触媒作用に対する理論的障壁よりも、むしろ低回転率触媒抗体の経験的な知見による欲求不満に由来するように見える。抗体−抗原結合は、大きな表面積にわたって起こることができる。反応活性化エネルギーの低下を成し遂げるには、結合開裂をよび形成に関与する反応基においてTS特異的な相互作用の発達を要するが、基底状態において確立した(反応点から)離れた相互作用がTSの形成に伴って失われるべき理由は全くない。GS結合における相互作用が抗体−抗原複合体のTSにおいて保持されるなら、反触媒効果は期待されない。
【0172】
抗原GS結合は、抗原濃度がKd(解離平衡定数)以下の時、触媒効率(kcat/Kdと定義される)に貢献する。この状況は、多くのタンパク質抗原標的(例えば、HIV感染者に見られる痕跡濃度のgp120)にあてはまる。そのような例においては、低kcatタンパク質分解抗体でさえ、強い抗原GS結合ゆえに、生物学上意義ある濃度において抗原を速く分解することができる。
【0173】
強い抗原GS結合のもう一つの機能上の相関は、特異的触媒作用である。正に、それらの優れた特異性は触媒としての抗体に対する関心の主要な理由である。この特徴の重要性は、抗体のタンパク質分解活性を例として示すことができる。構造的に同一のジペプチド単位は異なるタンパク質抗原内に(そして、同一抗原内に)しばしば存在するので、個々のタンパク質抗原に対するプロテアーゼの特異性は、切断されるペプチド結合そのものの認識に由来することはできない。結合開裂/形成ステップから離れたGSで形成される接触が、特異的触媒作用が機能するには不可欠である。
【0174】
触媒機能が抗体において発達する方法についての一見対立する仮説と一致して、自然淘汰を支配する力と設計触媒への最適手段の理解は大部分推測的なままであった。
【0175】
理論の重要な要素は(しかし、いかなる手段によっても本発明の制限ではない)は、以下のものを含む:(a)抗体の生来型V領域は、種々の大小分子中に含まれた親電子基と共有結合的に相互作用できる求核反応部位を含む。(b)求核反応部位は抗体中に遍く発現されており、未成熟な免疫系によって産生される抗体の非選択的な触媒活性を担っている。(c)求核反応性はB細胞成熟の過程で非共有結合による抗原結合活性の適応発達と統合されたままである。その結果、一部の適応成熟した抗体は、抗原特異的な触媒活性と、低下したKdゆえに改善した触媒効率を表すことができる。(d)触媒B細胞受容体(BCR)からの抗原断片の迅速な遊離はクローン選択を中止するので、触媒回転率の適応的改善はB細胞受容体の情報伝達速度によって制限される。(e)異なる抗体クラス(μ, δ, α, λおよびε重鎖クラス)に属すBCRによって増殖信号が異る速度で伝達されるなら、触媒回転率はこれらの抗体クラスにおいて異なる程度に適応的に発達することができる。(f)触媒の産生は、自己免疫疾患で速いB細胞情報伝達の条件下で、増加したレベルで起こることができる。そして、(g)内在性親電子性抗原とペプチド結合反応中間体の親電子性類似体による攻撃は、抗体求核反応性の適応的強化を誘導し、触媒装置の他の構造要素が存在するなら、それはより急速な触媒作用を可能にできる。
【0176】
タンパク質求核反応性部位:共有結合反応中間体の形成を含む求核触媒作用は、プロテアーゼ、エステラーゼ、リパーゼ、ヌクレアーゼ、グリコシダーゼおよびある種のシンターゼを含む化学反応を促進する酵素によって利用される主要なメカニズムの一つである。タンパク質の求核性は、特定のアミノ酸の正確な空間配置と分子内活性化に由来する(例えば、セリンアシラーゼの触媒三つ組においては、Ser酸素原子は、HisおよびAsp残基との水素結合ネットワークの存在によって、わずかに親電子性を持つカルボニル結合の炭素原子を求核攻撃することが出来る)。最近まで、求核反応基は、何百万年ものタンパク質進化の稀な最終産物であると考えられてきた。ジフルオロイソプロピルフォスフェートやホスホン酸ジエステルのような有機リン化合物は、強親電子性リン原子を含み、酵素の求核反応基のための共有結合反応性探索子として広く使用されてきた[31]。我々は、基本的に全ての抗体のV領域が、リン原子の直近に正電荷を含むホスホン酸ジエステルと共有結合付加物を形成する、酵素様求核反応基を含むことを報告した[32]。多様な非酵素、非抗体タンパク質も親電子性リン原子と共有結合反応し[33]、他のグループは、例えばグルカゴンやVIP等、通常酵素として分類されないペプチドやタンパク質中のセリンプロテアーゼ様求核反応基を推定した[34,35]。
【0177】
面白いことに、不可逆的熱変性を受けた特定のタンパク質は、上昇した求核反応性を示した[33]。求核部位は、疑う余地なく、それなくしては十分な反応性を持たないアミノ酸の空間的接近と相互作用によって形成されるが、そのような相互作用は、タンパク質の非天然型に折りたたまれた状態によって許可される。従って、求核基-親電子基組合せ反応は、例えば、種々の程度に水素結合や静電的相互作用を従事させるタンパク質の能力に類似した、タンパク質に本来備わっている性質であるように見える。
【0178】
重要なことに、求核反応性は、共有結合触媒作用の必要であるが、十分ではない条件である。例えば、キモトリプシンによるペプチド結合の触媒切断も、共有結合アシル−酵素中間体の形成後おこる出来事、すなわち中間体の加水分解(脱アシル化)と生成物ペプチド断片の活性部位からの放出、の促進を必要とする。抗体は、求核反応性の必要条件を満たしているが、必ずしも効率的にタンパク質分解反応を触媒するというわけではない。
【0179】
生来性、非選択的タンパク質分解抗体:およそ100のVLおよびVH遺伝子は、より少ない数のDおよびJ遺伝子とともに、ヒト抗体の遺伝レパートリーを構成する。免疫応答の適応成熟過程でBリンパ球によって産生される最初の抗体は、IgMである。後に、V領域が体細胞突然変異プロセスによって多様化するにつれ、イソタイプ変換が起こり、特異的抗原認識能力を具えたIgG、IgAおよびIgEの産生に達する。免疫学的に未刺激のマウスおよび健康なヒトの多クローン性IgM、およびより低い程度でIgGは、それぞれ、ハプテン性ホスホン酸ジエステルと小ペプチド基質を使用して測定される、これらの分子の親電子基に隣接した正電荷の必要条件のみによって制限される非選択的な求核反応性とタンパク質分解活性を示す[12,32]。さらに、μ鎖を含むB細胞受容体(BCR)は、脾臓B細胞表面に発現される主要な求核タンパク質である。タンパク質分解活性の生来起源説の正式証明は、タンパク質分解抗体軽鎖サブユニットの研究から得られた。部位特異的突然変異導入によって特定された触媒残基(Ser27a-His93-Asp1)は、対応する生殖細胞系VLにも存在する[36]。4つの置換突然変異が適応成熟軽鎖(生殖細胞系タンパク質と比較して)で確認された。成熟軽鎖は、触媒活性を失うことなく突然変異生成によって生殖細胞系構成に戻され[37]、このことは、活性の生殖細胞系起源を確認している。
【0180】
抗原特異的な抗体プロテアーゼ(下記参照)とは異なり、非選択的なペプチダーゼは免疫レパートリーの固有の構成要素であるように見える。ジオルジ ネビンスキのグループによるヒトの乳汁がプロテインキナーゼ活性をもったIgAを含むという観察[38]、そして、リチャード ラーナーのグループによるランダムに選ばれた単クローン抗体の全てが過酸化水素合成を触媒するという観察[39]から明白であるように、健常人由来の抗体の化学反応性はおそらくペプチド結合の加水分解活性を越えて広がるだろう。これらの観察は、触媒活性が完全に自然なプロセスによって抗体に起こることができることを示す。
【0181】
抗原選択的タンパク質分解抗体。個々の抗原の選択的な、高親和性認識は、成熟した抗体の際立った特徴である。しかし、いくつかの抗原、例えば、グレッグ シルヴァーマンのグループによって特定された細菌タンパク質プロテインAとプロテイン L[40,41]、およびブラウンのグループ[42]とズアリのグループ[43]によって確認されたHIVコートタンパク質gp120、は生殖細胞系抗体V遺伝子によってコードされる抗体によって選択的に認識される。これらの抗原は、B細胞スーパー抗原と称される。免疫前抗体によるスーパー抗原の選択的な認識は、重要な生き残り上の優位性、すなわち病原微生物に対する防御をもたらすので、V遺伝子進化の間この相互作用の選択を仮定することによって合理化されるかもしれない。スーパー抗原結合活性は、通常、相補性決定領域(CDR)における2、3の接触とともに、フレームワーク領域内にあるV領域の保存領域における接触によって媒介される。分析されたいくつかのポリペプチド基質のなかで、HIV gp120は、非感染者のIgMによって選択的に切断されることが観測された[44]。gp120のスーパー抗原的性格は、残基421-433から成る部分を含む、タンパク質中の不連続なペプチド部分の認識に由来すると考えられる[43,45]。2系統の証拠が、タンパク質分解IgMがgp120のこの領域を認識することを示唆した。第一に、IgMによって切断されるペプチド結合のうちの1つは、スーパー抗原決定基中に位置した(Lys432-Ala433)。第2に、残基421-433に相当する合成gp120ペプチドのCRA誘導体は、無関係なペプチドCRAやハプテンCRAを上回るレベルで、タンパク質分解抗体と共有結合付加物を形成し、このことは、gp120ペプチド領域の選択的な非共有結合的な認識を示唆している。
【0182】
触媒IgMのgp120選択性は、切断された結合と同じジペプチド単位が他のほぼ切断されなかったタンパク質に存在するので、ジペプチド単位における局所化学的相互作用に起因することはあり得ない。稀に、実験的な免疫によって得られる適応成熟したIgGが、個々のエピトープの非共有結合的な認識に起因する抗原選択的タンパク質分解活性を表すことができる(下記参照)。IgM触媒によるgp120反応における非共有結合的なgp120認識の役割は、反応の比較的小さなKm(非選択的IgMタンパク質分解のKmより約2桁低い)によtって支持される。gp120のスーパー抗原決定基の非共有結合的な認識は、従って、抗体による感受性親電子グループ上での求核攻撃を容易にするように見える。
【0183】
ポリペプチドの基底状態による免疫:通常のポリペプチド免疫によるIgGによる急速で特異的なタンパク質分解はまれな現象である[19-21]。ニューロペプチドVIPによる免疫は、低ナノモル領域のKmと高IgG濃度でVIP加水分解の抑制を示す非定型速度論をもったIgGを産した。この抗体の単離した軽鎖サブユニットは、KmがIgGよりかなり大きいものの[46]、慣習的なミカエリス−メンテン速度論に従ってVIPを切断し、重鎖サブユニットは活性がなかった。HIV gp41およびCCR5の部分配列に相当するペプチドによる免疫によって得た単クローン抗体の軽鎖サブユニットは、対応する免疫原を加水分解するが、完全IgGは活性を示さなかった[20,21]。
【0184】
完全抗体の軽鎖サブユニットに相当する、多発性骨髄腫患者由来のベンス−ジョーンズタンパク質のケースは、これらのタンパク質が特定の外来または自己抗原ポリペプチドに向けられた抗体に属しているであろうから(抗原は未特定であるが)関係している。多発性骨髄腫患者から分離された軽鎖群による、モデルプロテアーゼ基質を切断する能力から確定された、頻繁なタンパク質分解が記述された[13,47、48]。これらの患者のB細胞は分化終期段階でガン化すると考えられ、それらの抗体産物のV領域は通常高度に変異している。しかし、観察されたタンパク質分解活性は非選択的で、生殖細胞系にコードされた抗体のそれと機能的に同類である。低水準の非選択的活性は、前段落であげた抗原特異的IgGにも見られ、このことは、ペプチド抗原エピトープの高親和性認識に典型的な非共有結合的な接触をすることなく、小ペプチド基質に応対する触媒部位の能力を反映する。
【0185】
IgGによる抗原特異的なタンパク質分解のもう一つの面白い例が記述された[15]。
【0186】
不十分な内因性血液凝固第8因子の代替として第8因子療法を受けている血友病A型患者の一部は、IgGクラスの抗第8因子抗体が現れ、一部のIgGはこの血液凝固促進タンパク質を加水分解する。しかし、重要なことに、通常第8因子遺伝子の異常が内在性タンパク質の欠乏の基礎をなしており、第8因子に対する免疫寛容の障害が非定型な触媒IgG応答において役割を果たす考えられることから、タンパク質分解活性は、注入された第8因子に対する定型的な応答を構成しないかもしれない。
【0187】
抗原特異的なタンパク質分解抗体の生成は、B細胞成熟を支配するプロセスによって制限される。BCRが抗原によって占有されるとき、B細胞はクローン選択経路へ誘導される。図32は、抗原消化とB細胞受容体(BCR)からの遊離が細胞増殖の停止を誘導するので、多くの抗体応答は触媒回転率の改善を好まない傾向があるという原則を示す。しかし、膜内外BCR情報伝達の速度まで、BCR触媒速度を増加することに障害はない。特定の状況では、例えば、異なるBCR(例えば、μ、α)またはCD19過剰発現と関係した増加した膜内外シグナリング速度、または、内在性または外来性の親電子性抗原によるB細胞の刺激によって、速度の更なる改善は可能である。適応成熟したIgM、IgGおよびIgAによって提供される、抗原特異的タンパク質分解活性の相対的な大きさは、異なることが予想される。これは、μ、γおよびαクラスに属しているBCRが、BCR複合体中の信号変換タンパク質(例えば、CD19、CD22およびLyn)との相互作用の強さよって、異なる速度で膜内外シグナリングを誘発するかもしれないので可能である。
【0188】
特異的タンパク質分解自己抗体:抗体の抗原特異的タンパク質分解活性は、自己抗体調製品で発見された[4]。いくつかの自己免疫疾患患者は、触媒自己抗体陽性であることが記述されており[11]、このことは、抗原特異的触媒作用の合成に対する規制が、健康な免疫系に比べて自己免疫疾患ではより容易に打破されるかもしれないことを示唆する。例えば、VIP特異的な触媒自己抗体は罹患被験者でだけ観察された[49](健常人もVIP結合性抗体を生じるけれども[50])。VIPに対する高親和性と高度に変異した相補性決定領域(抗原特異的抗体に特徴的である)から判断して、タンパク質分解自己抗体のV領域は適応成熟している[51]。
【0189】
加速したBCR膜内外シグナリングは、BCR触媒作用が上昇しても、B細胞がクローン選択経路に進むことができるに違いない。いくつかの報告は、自己免疫を、BCR複合体中のタンパク質CD19、CD22およびLynのレベル変化による機能不全のB細胞シグナリングに関連付けた。CD19は、B細胞の抗原性刺激の閾値を減らし[52]、CD22は閾値を増やす[53]。Srcタンパク質チロシンキナーゼの一つLynは、抗原刺激されたBCRのシグナル変換に関係しているとされる[54]。これらのタンパク質の機能障害は、自己抗体生産の上昇と関係している。
【0190】
あるいは、内在性合成物による共有結合BCR結合が、タンパク質分解BCRを発現しているB細胞の増殖を誘発するかもしれない。これは、モデルポリペプチドCRAによる免疫が、タンパク質分解抗体の合成を刺激するという観察によって支持される[55]。天然セリンプロテアーゼ阻害物質や求核基に共有結合できる反応性カルボニル化合物[56,57]は、潜在的内因性CRAを代表する。例えば、正荷電したピルビン酸誘導体は、トリプシンおよびトロンビンのSer求核基と共有結合的に反応する[58; 正電荷はP1副部位にあって、共有結合反応には参加しない]。更なる候補CRAは、自己免疫疾患で亢進しているプロセスである[59,60]、脂質過酸化およびタンパク質グリケーション反応(メイラード反応)によって生産される親電子物質である。例は、脂質過酸化およびグリオキサールによって発生する4-ヒドロキシ-2-ノネナールとマロンジアルデヒド、そして、糖代謝反応で発生するメチルグリオキサルとペントシジンである。
【0191】
タンパク質分解抗体工学:カルボニル基の求核攻撃は、酵素的ペプチドおよびエステル結合切断反応に類似したメカニズムで起こる。エステル基底状態類似物とホスホン酸モノエステル遷移状態類似物(TSA)で免疫したマウスからの抗体による小分子エステル加水分解が報告された[61,27]。エステラーゼ活性は、抗体のタンパク質分解活性と同じ原則から理解されることができる。活性は、基底状態よりも遷移状態をより安定させ、それによって反応を加速する抗体の能力に起因していた。TSA免疫は、非共有結合的な静電相互作用によって遷移状態で生じるオキシアニオンを安定化する、抗体中のオキシアニオンホールの適応的な新規形成を誘導することが示唆された。
【0192】
人工触媒の産生における自然免疫メカニズムの重要性は、通常マウスに比較して自己免疫マウスでTSA免疫に応答してエステラーゼ抗体の増加した合成を記載している報告によって例証される[62,63]。天然および設計触媒抗体の分野間のもう一つの接点は、当初非共有結合性TSAとして機能すると提案された試薬の研究において明かされた。ホスホン酸モノエステルTSAは、親電子性ホスホン酸ジエステルプローブに類似した方法で、タンパク質求核基と共有結合を作った[64,65]。この知見は、抗TSAエステラーゼ抗体がしばしば共有結合触媒メカニズムを使うという観察[例えば66,67]を説明する。従って、当初設計エステラーゼの例とみられた特定の抗体は、その触媒力を生来性の抗体求核性に負っているように見える。天然の求核活性を改善する有望なアプローチは、ポリペプチドCRAによる免疫である。特異的gp120切断活性を有する単クローンIgGクローンは、gp120のCRA誘導体で免疫したマウスから分離され[55]、また、アルドラーゼ抗体は類似した手段で得られた[68]。
【0193】
酵素活性部位に対する抗体による免疫は、抗体の結合部位内に酵素活性部位を複製するために適用された[22,23]。元の酵素部位が特定の基質に選択的であるなら、抗酵素イディオタイプ抗体は類似した選択性を示すと予測することができる。フィールドが発達して、触媒活性と抗原性エピトープの非共有結合的な認識を組み合わせた抗体を捕捉することの出来るより洗練されたプローブが開発されるにつれ、タンパク質分解抗体の誘導は考えられることができる。突然変異生成による抗体V領域への求核部位の構造に導かれた導入は、タンパク質分解活性を抗体に与えることが報告され[69]、CDR突然変異生成に続くファージ提示抗体断片のホスホン酸モノエステル結合は、エステラーゼ抗体を単離するために使用された[70]。共有結合ファージ選択アプローチは、タンパク質分解抗体断片を狼瘡ファージ提示ライブラリーから分離するために使用された[64]。
【0194】
恒常性維持機能:ヒトは各々およそ50のVLおよびVH遺伝子断片を受け継ぎ、いくつかの生殖細胞系DおよびJ遺伝子部分は生来型抗体レパートリーの多様性への付加的貢献を提供する。タンパク質分解が継承可能な抗体V領域によってコードされた生来機能であるなら、触媒活性はいくつかの重要な目的にかなうために何百万年の進化の過程で生じたと予測されるかもしれない。哺乳類の抗体応答に特有の高親和性抗原結合は、通常、V遺伝子に作用する体細胞系超突然変異プロセスによって発生する。抗体親和性の成熟は、最初の認識可能な免疫系をもつ下等生物では、限られたレベルで起こるかもしれない[71]。触媒免疫は、これらの生物においては外来抗原に対する主要な防御機構であると予測されるかもしれない。
【0195】
マウスおよびヒトの免疫前レパートリーで見られる抗体による非選択的ペプチド切断の速度論効率の考慮は、この活性は(ほとんどまたは全く結果をもたない痕跡機能ではなく)より発展した免疫系でも重要であると予測する。我々のIgM調製品の見た目の回転数(kcat)は、2.8分−1と高かった[12]。血清IgM濃度(1.5−2.0mg/ml;約2μM)は、通常の酵素濃度より3−4桁大きい(例えば、トロンビンは、アンチトロンビンIIIとの複合体として、血清中ng−μg/ml見られる; 参照72)、そして、IgMのkcat値は、通常のセリンプロテアーゼより約2桁少ない。触媒作用が試験管内で観察される速度で進行するならば、回転率2.8/minをもつヒトIgM 2μMは、3日(IgMのおよその血中半減期に相当)にわたって過剰濃度(>>Km)存在するペプチド基質約24,000μMを切断する。抗原が高濃度存在する時、最大速度条件に近づく、例えば、血中のアルブミンおよびIgG; 甲状腺小胞内腔のチログロブリンのように、合成部位近傍で蓄積しているポリペプチド; 重篤感染局所の細菌およびウィルス抗原。
【0196】
最近の研究は、感染性ショックを生き残った患者のIgGの非選択的触媒活性は、屈服した患者より大きいことを示し[73]、また、我々はコントロールの非自己免疫疾患被験者と比較して、自己免疫疾患患者の低下した非選択的タンパク質分解活性を報告した[7]。
【0197】
脳内におけるアミロイドβペプチド(Aβ)凝集体の蓄積は、アルツハイマー病の病因因子として提唱された。Aβ結合活性をもつ単クローン抗体はペプチド凝集体を排除し、アルツハイマー病マウスモデルで認識を改善することが報告されている[74]。神経変性または自己免疫疾患の所見のない若年者(<35歳)および高齢者(70年)からの多クローン性IgMおよびIgGによるAβ1−40切断を検討した[75]。高齢者からのIgMとIgG調製品はAβ1-40を切断し、IgMはIgGより183倍高い活性を示した。若年者からのIgMはより低レベルでAβ1-40を切断し、若年者のIgGでは活性はまったく検出できなかった。μM 濃度のAβ1-40とnM濃度の単クローンIgMのインキュベーションは、ペプチド原繊維の形成を阻害した。これらは、Aβ1-40を切断する自己抗体は年齢と相関して適応的に向上し、保護機能を成し遂げることができることを示唆する。
【0198】
非共有結合的にgp120のスーパー抗原部位に結合するIgG抗体は、以前感染への耐性因子として提案された[76]。HIV表面に発現される三量体gp120は、感染サイクルの第一段階として宿主細胞CD4受容体と結合する役割を果たす。IgAとIgMによるgp120の切断は、宿主細胞CD4結合に重要であると考えられる領域中で起こる; 反応速度は、タンパク質分解抗体が、タンパク質分解活性を欠けている可逆的に結合する抗体と比較して速くHIV-1を中和することができることを示唆する[44]; そして、抗体は培養された末梢血単核細胞のHIV-1感染を中和する[77]。非感染者からのIgMによるHIV-1 gp120切断の特徴は、タンパク質分解抗体が感染に対して抵抗を与えるか、進行を減速することができるHIV感染に対する生来防御システムを構成することを示す(図33)。
【0199】
病原性抗体のCRAによる不活化。自己免疫疾患は、上昇したタンパク質分解性自己抗体合成と関係している[49]。触媒抗体によるVIP[78]と血液凝固第8因子[15]の減少は、それぞれ、自己免疫疾患と血友病A型の寄与因子として提案された。CRAはタンパク質分解抗体を不可逆的に不活性化し、そして、CRA構造内の適切な抗原性エピトープの含有は、共有結合反応を好ましくない抗体集団に特異的にすると予測される[79]。これまで研究された全ての抗体が抗原結合部位内に、CRAの親電子性リン原子に共有結合する求核反応基を含むことから、この戦略は、タンパク質分解活性に関らずどんな病原性抗体集団の永久的不活性化にでも適用できる。さらに、BCR求核基は抗体応答の発生初期に発現されるので、CRAによるB細胞の特異的ターゲティングが考えられる。不可逆的反応性のため、CRAは通常の抗原と比較して、よりすぐにBCRを飽和させると予測される。BCR飽和はB細胞寛容を起こすと考えられており[80,81]、CRAは抗原特異的な寛容誘導の潜在的ルートを提供する。
【0200】
臨床的に有用な抗体の可能性。単クローン抗体は市場に出たバイオテクノロジー製品の有意な割合を占め、多クローン性IVIG製剤はいくつかの病気の有用な治療薬である。HIVコートタンパク質とAβペプチドに対するタンパク質分解抗体はすでに手中にあり、HIV感染とアルツハイマー病はそのような抗体の明らかな標的である。
【0201】
この仕様書で論じられるどんな具体化も、発明のどんな方法、キット、試薬または組成に関して、実行されることができると考えられ、その逆も同じである。さらにまた、発明の構成物は、発明の方法を提供するのに用いられることができる。
【0202】
ここに記述した特定の実施例は、例証として示したのであって、発明の制限としてではないことが理解されよう。この発明の主要な特徴は、発明の範囲から逸脱することなく、いろいろな具体化において採用することができる。当該技術の熟練者は認識するか、あるいは、定型的な実験、ここに述べられている具体的な手順の多数の等価法以上によらず確認することが出来る。そのような等価法は、この発明の範囲内であると考えられて、請求によってカバーされる。
【0203】
本明細書中で述べられる全ての出版物および特許申請は、この発明に関係する当業者の技術水準を示す。全ての出版物および特許申請は、個々の出版物または特許申請が具体的かつ個別的に参照によって含まれるべきと指定されている場合、ここに参照によって含めた。
【0204】
”a”または”an”なる語の使用は、請求項中または明細書またはその両方において、”〜からなる”なる語句とともに使用された場合は、”一”を意味してよいが、”一以上”、”最低一”、および”一以上”の意味とも両立する。請求項中”または”なる語の使用は、選択肢のみを指すと明確に示されるか、または、選択肢が相互に排他的であるかでない限り、”および・または”を意味するために使用される(開示は、選択肢のみ、および”および・または”をさすとの定義を支持するけれども)。本申請を通して、語句”約”は、その値の決定に用いた方法である装置固有の誤差、または、検体間に存在する変動を含む値を示すために使用される。
【0205】
本明細書および請求項において使用されるように、語”〜からなる”(およびその変形)、”〜を持っている” (およびその変形)、”〜を含んでいる”(およびその変形)、または”〜を含んでいる”(およびその変形)は包括的または無制限で、付加、列挙されていない要素、または順序階級を排除しない。
【0206】
ここで使われる語句”またはその組み合わせ”は、その前に列挙した項目のすべての順列および組み合わせを指す。例えば、”A、B、C、およびその組み合わせ”は、以下のうち少なくとも一つを指すことを意図している:A、B、C、AB、AC、BC、またはABC、そして順序がある特定の文脈において重要である場合はさらに、BA、CA、CB、CBA、ACB、BAC、またはCAB。この例で続けると、特に含めたのは、BB、AAA、MB、BBC、AAABCCCC、CBBAAA、CABABBなどの、ひとつ以上の項目または条件の繰り返しを含む組み合わせである。当業者は、文脈からそうでないことが明らかでない限り、どのような組み合わせにおいても、項目または条件の数に上限がないことを理解するであろう。
【0207】
ここで開示および請求される構成物または方法またはその両方の全ては、本開示を考慮して不適当な実験なしに作成および実行できる。本発明の構成物および方法は望ましい実施例について述べられたが、構成物および・またはここで述べられた方法および方法の段階または一連の段階にコンセプト、精神、および発明の範囲から逸脱することなく、変形を適用してもよいことは、当業者明らかであろう。そのような同様の当業者に明白な置換および修飾は、付加した請求によって定義されるような本発明の精神、範囲、およびコンセプトの範囲内であると考えられる。
【0208】
【0209】
【0210】
【0211】
【0212】
【図面の簡単な説明】
【0213】
【図1】図1:CIVIGg、CIVIGm、CIVIGaとCIVIGasによるEAR-AMCの加水分解。
【図2】図2:CIVIGgおよびIVIGsのIgG分画によるEAR-AMCの加水分解。
【図3】図3:CIVIGmおよびIVIGsのIgM分画によるEAR-AMCの加水分解。
【図4】図4:CIVIGa、CIVIGsaおよびIVIGaによるEAR-AMCの加水分解。
【図5】図5:ヒト血液および唾液からのIgG、IgMおよびIgAによるgp120の切断。
【図6】図6:CIVIGaとCIVIGsaによるgp120の優先的切断。
【図7】図7: CIVGaとCIVIGasによるプロテインAおよびsCD4の切断。
【図8】図8:14-kDバンドの消失により明白なCIVIGmによるHIV Tatの切断と、CIVIGa、CIVIGasおよびCIVIGgによる切断の欠如。
【図9】図9:商用IVIGを凌駕するCIVIG調製品のHIV-1中和活性。
【図10】図10: CIVIGにより媒介されるHIV中和のgp120ペプチド-CRAによる抑制。
【図11】図11:ヒト血清および唾液から精製されたIgAによるGlu-Ala-Arg-AMCの加水分解。
【図12】図12:IgAの純度。
【図13】図13:プールIgAと市販のIVIG製剤のアミド分解活性の比較。
【図14】図14:IgA触媒によるGlu-Ala-Arg-AMC加水分解の見かけ上の速度論パラメータ。2つの血清IgA調製品(特定番号2288および2291)のデータを示す。
【図15】図15:IgAのセリンプロテアーゼ阻害剤との反応。
【図16】図16:ホスホン酸エステル1bによるモノクローナルIgA反応の化学量論。
【図17】図17:HIV血清陰性人の血清および唾液IgAによるBt-gp120の切断。
【図18】図18:変性ゲル濾過後、再フォールディングされたポリクローナルIgA、および多発性骨髄腫患者由来のモノクローナルIgAによるgp120の切断。
【図19】図19:A、EP-ハプテン1の構造。
【図20】図20: IgAにより触媒されたgp120切断のGlu-Ala-Arg-AMCによる阻害と、IgAの活性部位滴定。
【図21】図21:IgAとsIgAによるgp120の優先的切断。
【図22】図22:EP-421-433とIgAの相互作用。
【図23】図23:唾液IgAによって切断されたペプチド結合の同定。
【図24】図24:HIV血清陰性人由来のAbによるHIV中和。
【図25】図25:AIDSへの進行の遅いHIV感染男性中で上昇した、gp120を切断するIgA。
【図26】図26:ヒトIgMおよびIgGによるAβ1−40の切断。
【図27】図27:異なる被験者由来のAβ1−40を切断するIgGとIgM抗体の多形性。
【図28】図28:モノクローナルIgM Yvoによって切断されるAβ1−40中のペプチド結合の同定。
【図29】図29:ポリクローナルIgM(6人の高齢被験者からプールした)によって切断されるAβ1−40中のペプチド結合の同定。
【図30】図30:触媒IgM Yvoまたは触媒活性を持たないIgM 1816の存在下におけるAβ1−40集合体の形態。
【図31】図31:IgM Yvoの触媒メカニズムの特徴描写。
【図32】図32:適応触媒選択。
【図33】図33:生来的にタンパク質分解活性を有する抗体によるHIVの不活化。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒活性を持つ、プールされた特定のクラスの免疫グロブリンからなる、分離および精製された、プールされた免疫グロブリン調製品。
【請求項2】
前記免疫グロブリンがサブクラスによっても定義されていることを特徴とする請求項1のプールされた触媒免疫グロブリン。
【請求項3】
前記免疫グロブリンが4人、10人、20人、30人、35人、50人、100人、またはそれ以上のヒトから分離されたものであることを特徴とする請求項1のプールされた触媒免疫グロブリン。
【請求項4】
前記免疫グロブリンが唾液および乳汁を含むがそれらに限定されない粘膜分泌物から分離されたものであることを特徴とする請求項1のプールされた触媒免疫グロブリン。
【請求項5】
前記免疫グロブリンが血液から分離されたものであることを特徴とする請求項1のプールされた触媒免疫グロブリン。
【請求項6】
前記免疫グロブリンのクラスが、IgA、IgM、IgG、またはこれらの混合物または組み合わせであることを特徴とする請求項1のプールされた触媒免疫グロブリン。
【請求項7】
触媒反応がアミド結合の切断を引き起こすことを特徴とする請求項1のプールされた触媒免疫グロブリン。
【請求項8】
触媒反応がペプチド結合の切断を引き起こすことを特徴とする請求項1のプールされた触媒免疫グロブリン。
【請求項9】
免疫グロブリンクラスおよびサブクラスが、具体的な基質に対して種々の免疫グロブリンのクラスおよびサブクラスの触媒活性の比較によって選択されることを特徴とする請求項1のプールされた触媒免疫グロブリン。
【請求項10】
触媒反応がHIV gp120、HIV Tat、ブドウ球菌プロテインA、CD4、またはアミロイドベータペプチド中のペプチド結合の切断を引き起こすことを特徴とする請求項1のプールされた触媒免疫グロブリン。
【請求項11】
免疫グロブリンのクラスが、ペプチド−アミノメチルクマリン抗原中のアミド結合の触媒的切断の比較に基づいて選択されることを特徴とする請求項1のプールされた触媒免疫グロブリン。
【請求項12】
静脈内、膣内、または直腸内投与によってHIV-1感染の防止または治療のために選択される製剤としての、請求項1のプールされた触媒免疫グロブリン。
【請求項13】
静脈内投与によって細菌感染、感染性ショック、自己免疫疾患、アルツハイマー病またはこれらの組み合わせの治療のために選択される製剤としての、請求項1のプールされた触媒免疫グロブリン。
【請求項14】
請求項1のプールされた触媒免疫グロブリンを治療用途のために分離および精製する方法であって、ヒトから得た原料体液をプールするステップ、および、免疫グロブリンを定義されたクラスおよびサブクラス画分に分画するステップを有してなり、前記画分が触媒活性を示すことを特徴とする方法。
【請求項15】
さらに、基質を含むがそれに限らない、触媒部位に結合して分画操作の間触媒部位を保護する化合物を添加するステップを含むことを特徴とする請求項14の方法。
【請求項16】
さらに、抗体クラスおよびサブクラスの、抗原に対する触媒活性を比較するステップを含むことを特徴とする請求項14の方法。
【請求項17】
前記分画ステップが、ヒトIgA、IgM、またはIgGに対する抗体; または、免疫グロブリン結合試薬、プロテインG、プロテインA、プロテインL; または免疫グロブリンの求核反応部位に結合することが出来る親電子性化合物; または、それらの混合物または組み合わせを使ったクロマトグラフィを含むことを特徴とする請求項14の方法。
【請求項18】
前記分画操作が、イオン交換クロマトグラフィ、ゲル濾過、レクチンクロマトグラフィ、クロマトフォーカシング、電気泳動または等電点フォーカシングを随意的に含むことを特徴とする請求項14の方法。
【請求項19】
プールされた触媒免疫グロブリンの有効量を、それを必用とする患者に供与することによって、患者を治療する方法。
【請求項20】
前記患者がウィルス感染、細菌感染、感染性ショック、免疫不全、自己免疫疾患、自己炎症性疾患、アルツハイマー病、またはそれらの組み合わせに対する治療を要していることを特徴とする請求項19の方法。
【請求項21】
前記プールされた免疫グロブリン調製品が、静脈内点滴、腹腔内注射、または局所投与によって投与されることを特徴とする請求項19の方法。
【請求項1】
触媒活性を持つ、プールされた特定のクラスの免疫グロブリンからなる、分離および精製された、プールされた免疫グロブリン調製品。
【請求項2】
前記免疫グロブリンがサブクラスによっても定義されていることを特徴とする請求項1のプールされた触媒免疫グロブリン。
【請求項3】
前記免疫グロブリンが4人、10人、20人、30人、35人、50人、100人、またはそれ以上のヒトから分離されたものであることを特徴とする請求項1のプールされた触媒免疫グロブリン。
【請求項4】
前記免疫グロブリンが唾液および乳汁を含むがそれらに限定されない粘膜分泌物から分離されたものであることを特徴とする請求項1のプールされた触媒免疫グロブリン。
【請求項5】
前記免疫グロブリンが血液から分離されたものであることを特徴とする請求項1のプールされた触媒免疫グロブリン。
【請求項6】
前記免疫グロブリンのクラスが、IgA、IgM、IgG、またはこれらの混合物または組み合わせであることを特徴とする請求項1のプールされた触媒免疫グロブリン。
【請求項7】
触媒反応がアミド結合の切断を引き起こすことを特徴とする請求項1のプールされた触媒免疫グロブリン。
【請求項8】
触媒反応がペプチド結合の切断を引き起こすことを特徴とする請求項1のプールされた触媒免疫グロブリン。
【請求項9】
免疫グロブリンクラスおよびサブクラスが、具体的な基質に対して種々の免疫グロブリンのクラスおよびサブクラスの触媒活性の比較によって選択されることを特徴とする請求項1のプールされた触媒免疫グロブリン。
【請求項10】
触媒反応がHIV gp120、HIV Tat、ブドウ球菌プロテインA、CD4、またはアミロイドベータペプチド中のペプチド結合の切断を引き起こすことを特徴とする請求項1のプールされた触媒免疫グロブリン。
【請求項11】
免疫グロブリンのクラスが、ペプチド−アミノメチルクマリン抗原中のアミド結合の触媒的切断の比較に基づいて選択されることを特徴とする請求項1のプールされた触媒免疫グロブリン。
【請求項12】
静脈内、膣内、または直腸内投与によってHIV-1感染の防止または治療のために選択される製剤としての、請求項1のプールされた触媒免疫グロブリン。
【請求項13】
静脈内投与によって細菌感染、感染性ショック、自己免疫疾患、アルツハイマー病またはこれらの組み合わせの治療のために選択される製剤としての、請求項1のプールされた触媒免疫グロブリン。
【請求項14】
請求項1のプールされた触媒免疫グロブリンを治療用途のために分離および精製する方法であって、ヒトから得た原料体液をプールするステップ、および、免疫グロブリンを定義されたクラスおよびサブクラス画分に分画するステップを有してなり、前記画分が触媒活性を示すことを特徴とする方法。
【請求項15】
さらに、基質を含むがそれに限らない、触媒部位に結合して分画操作の間触媒部位を保護する化合物を添加するステップを含むことを特徴とする請求項14の方法。
【請求項16】
さらに、抗体クラスおよびサブクラスの、抗原に対する触媒活性を比較するステップを含むことを特徴とする請求項14の方法。
【請求項17】
前記分画ステップが、ヒトIgA、IgM、またはIgGに対する抗体; または、免疫グロブリン結合試薬、プロテインG、プロテインA、プロテインL; または免疫グロブリンの求核反応部位に結合することが出来る親電子性化合物; または、それらの混合物または組み合わせを使ったクロマトグラフィを含むことを特徴とする請求項14の方法。
【請求項18】
前記分画操作が、イオン交換クロマトグラフィ、ゲル濾過、レクチンクロマトグラフィ、クロマトフォーカシング、電気泳動または等電点フォーカシングを随意的に含むことを特徴とする請求項14の方法。
【請求項19】
プールされた触媒免疫グロブリンの有効量を、それを必用とする患者に供与することによって、患者を治療する方法。
【請求項20】
前記患者がウィルス感染、細菌感染、感染性ショック、免疫不全、自己免疫疾患、自己炎症性疾患、アルツハイマー病、またはそれらの組み合わせに対する治療を要していることを特徴とする請求項19の方法。
【請求項21】
前記プールされた免疫グロブリン調製品が、静脈内点滴、腹腔内注射、または局所投与によって投与されることを特徴とする請求項19の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【公表番号】特表2009−501713(P2009−501713A)
【公表日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−521603(P2008−521603)
【出願日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際出願番号】PCT/US2006/027185
【国際公開番号】WO2007/011639
【国際公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(508013755)コイミュン インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】COIMMUNE INC.
【復代理人】
【識別番号】100116540
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 香
【復代理人】
【識別番号】100139723
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 洋
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際出願番号】PCT/US2006/027185
【国際公開番号】WO2007/011639
【国際公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(508013755)コイミュン インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】COIMMUNE INC.
【復代理人】
【識別番号】100116540
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 香
【復代理人】
【識別番号】100139723
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 洋
【Fターム(参考)】
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