説明

触媒層前駆体、台紙及びこれらを用いた電解質膜−触媒層接合方法

【課題】電解質の変質・分解を抑制しつつ、触媒層を電解質膜に良好に転写できる、デカール用触媒層前駆体、デカール用台紙、電解質膜−触媒層接合方法及び接合体を提供すること。
【解決手段】電極触媒と接合用電解質を含む触媒層前駆体に、極性溶剤を浸潤させ且つ露出部分を乾燥させたデカール用触媒層前駆体である。
ポリテトラフルオロエチレン、ステンレス、アルミニウム及びポリエチレンテレフタレートなどを含んで成るデカール用台紙である。
上記デカール用触媒層前駆体を上記デカール用台紙に被覆してデカールとし、デカールを2つ用いて電解質膜を挟持し、ホットプレスにより触媒層を電解質膜へ転写する電解質膜−触媒層接合方法である。
上記電解質膜−触媒層接合方法により得られ、電解質膜が炭化水素系電解質である接合体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デカール用触媒層前駆体、デカール用台紙、電解質膜−触媒層接合方法及び接合体に係り、更に詳細には、固体電解質形燃料電池の発電要素の製造に用いられるデカール用触媒層前駆体、デカール用台紙、電解質膜−触媒層接合方法及び接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、固体電解質形燃料電池の電解質膜としては、例えば、ナフィオン(商標:デュポン社)等のフッ素系材料が使用されている。
また、この電解質膜の両面には、デカールを用いて触媒層を被覆できる。具体的には、インク(電解質溶液(接合材として使用)にPt担持カーボンの微粒子を混合したものであり、溶剤を乾燥除去すると電極触媒層となる)をポリテトラフルオロエチレンシート等に塗布・乾燥させて作製したデカールを用いて、電解質膜を両面から挟み込み、続けてホットプレス処理を行うことで電解質膜表面が溶けて、触媒層をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の台紙から電解質膜に転写できる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このように、電解質膜上に電極触媒層を形成する場合において、従来から使用されている電解質膜であるフッ素系材料の代替として、炭化水素系(エンジニアリングプラスチック系)材料を使用することが注目されている(例えば「特許文献1」参照)。
しかし、この場合は、ガラス転移点が200℃以上と高く、ホットプレスで転写を行なおうとするとそれ以上のプレス温度が必要であるが、温度が高すぎるため、材料が変質したり分解するという問題点があった。
【特許文献1】特表平5−507583号公報
【0004】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、電解質の変質・分解を抑制しつつ、触媒層を電解質膜に良好に転写できる、デカール用触媒層前駆体、デカール用台紙、電解質膜−触媒層接合方法及び接合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、所定のデカールを用いてホットプレスを低温で行うことにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、デカール用触媒層前駆体に極性溶剤を浸潤させ且つ露出部分を乾燥させることで、触媒層を電解質膜に良好に転写できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明のデカール用触媒層前駆体及び台紙について詳細に説明する。なお、本明細書において、「%」は特記しない限り質量百分率を示す。また、説明の便宜上、電解質膜などの一方の面を「上面」、他の面を「下面」と記載するが、これらは等価な要素であり、相互に置換した構成も本発明の範囲に含まれるのは言うまでもない。
【0008】
本発明のデカール用触媒層前駆体は、触媒層を形成する電極触媒と、バインダー成分である接合用電解質とを含んで成る。また、このデカール用触媒層前駆体は、極性溶剤をしみ込ませて濡れている状態とした後に、露出部分を乾燥させて得られる。
【0009】
ここで、上記電極触媒としては、例えば、Pt担持カーボンなどが挙げられる。
また、上記接合用電解質としては、炭化水素系固体電解質を使用できる。例えば、電解質膜に使用される材料と基本的に同じもの、具体的には、ポリイミド、PES(ポリエーテルスルホン)、PBI(ポリベンズイミダゾール)、PBO(ポリベンズオキサゾール)、PPBP(ポリフェノキシベンゾイルフェニレン)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)等のスルホン酸基付加体が使用できる。
【0010】
更に、上記極性溶剤としては、例えば、水、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、i−ブタノール又はtert−ブタノール、及びこれらを任意に組合わせた混合液などを使用できる。このときは、溶剤が電解質膜を溶かし過ぎて膜に穴をあけることが少なく、良好な接合面を形成できる。
メタノールやエタノールなどのアルコール系溶剤では、それ単独ではほとんど炭化水素系電解質を溶解することはできないが、ほとんどのスルホン酸基付加炭化水素系高分子は、水−アルコール混合物に5%程度まで溶解することができる。このときの水/アルコールの混合比は、好ましくは1/9〜6/4、より好ましくは4/6〜5/5であることが良い。水が多すぎると高分子の溶解能力が小さくなりすぎ、少なすぎると溶剤の蒸発速度が速すぎて触媒層のひび割れの原因となることがある。なお、DMSO(ジメチルスルホキシド)、DMAc(ジメチルアセトアミド)及びNMP(N−メチルピロリドン)等の極性溶剤も使用できるが、これらは、沸点が高く触媒層から完全には除去しにくいこと、触媒被毒性があること、から十分な発電性能を得られない場合が多い。
【0011】
本発明のデカール用台紙は、ポリテトラフルオロエチレンのシート、SUS、アルミニウム等の金属薄板、ポリエチレンテレフタレート(PET)のシートなどを含んで成る。これら台紙と上記触媒層前駆体とを組合わせることで、触媒層を電解質膜に良好に転写できるデカールが作製できる。
【0012】
次に、本発明の電解質膜−触媒層接合方法について詳細に説明する。
本発明は、電解質膜−触媒層を接合するに当たり、上記デカール用触媒層前駆体と、上記デカール用台紙とを用いる。
即ち、まず該デカール用触媒層前駆体を該デカール用台紙に被覆してデカールとする。次いで、このデカールを2つ用いて、電解質膜の上下面と該デカール上の触媒層前駆体とが対向するように 電解質膜を挟持させる。その後、ホットプレスにより触媒層を電解質膜へ転写することで、電解質膜−触媒層の接合体を得る。
このように所定の触媒層前駆体を備えるデカールを用いることで、ホットプレス温度を低く抑えることができ、電解質の変質・分解を招くことなく、触媒層が電解質膜に良好に転写される。具体的には、ホットプレスを200℃以下で行うことができる。より好ましくは120〜200℃、更に好ましくは60〜140℃でホットプレスを行うことが良い。なお、温度が低すぎると電解質が溶けず触媒層を転写できないことがある。
【0013】
また、上記デカール作製工程においては、デカール用台紙に被覆したデカール用触媒層前駆体に、水と、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、i−ブタノール又はtert−ブタノール、及びこれらの任意の組合わせに係るものの混合液を浸潤させ、露出部分を乾燥させることが好ましい。これより、触媒の被毒が最小限に抑えられるので、発電能力を向上できる。即ち、これら溶剤は、電解質膜に対して弱い溶解作用を有するので、触媒層内部のみを該溶剤で湿潤させておくことにより、ホットプレス時に電解質膜−触媒層界面が柔軟になり、電解質膜の変質・分解を抑制しつつ触媒層を転写できる。なお、触媒層表面が溶剤で濡れたままだと、積層した際に電解質膜が溶剤を吸収し膜が変形し易い。
【0014】
更に、デカール作製工程においては、デカール用触媒層前駆体中の電極触媒及び接合用電解質は、溶剤に溶かして台紙上に塗布し易い粘度のインクとすることができる。このため、これら固形分の含有率は7〜14%とすることが好ましい。より好ましくは10〜12%とすることが良い。これより、台紙上に良好な触媒層を形成できるため、発電能力を向上できる。固形分濃度が低すぎるとインクの粘度が低下して液体の表面張力が大きくなる結果、台紙(PTFEシートなど)上に塗布した際にインクが凝集して均一な触媒層が形成できなくなる。一方、濃度が高すぎるとインク粘度が上昇してゼリー状になり、台紙上に塗布できなくなる。
インクの溶剤としてアルコール系を用いた場合は、インクの台紙上への塗布後、生乾きの状態でホットプレスを行なっても同様の効果が得られる場合があるが、特に膜に使用する電解質と接合剤として使う電解質が同一のものである場合、残留溶剤によって電解質膜に穴をあけることがあるので、残留溶剤を一旦除去する必要がある。また、溶剤としてDMSO等を用いた場合は、一度溶剤を触媒層から除去しないと、溶剤の強い溶解作用のため電解質膜を溶かして穴があくことがある。
【0015】
ここで、本発明の電解質膜−触媒層接合方法の一実施形態を以下に示す。
(1)電解質溶液の準備
接合用電解質を溶剤に溶かして5〜10%程度の電解質溶液を作製する。
(2)インク調製
先に作成した電解質溶液に、電極触媒としてPt担持カーボンの微粒子を混合しインクを作製する。
(3)デカール作成
調整したインクをスクリーンプリンタやスプレー塗布装置を使用して台紙として使用するPTFEシート上に塗布する。
このとき、インクの溶剤としてアルコール系を使用した場合は、塗布したものを自然乾燥させて溶剤を飛ばし、触媒層をPTFEシート上に定着させる。一方、溶剤としてDMSO(ジメチルスルホキシド)、DMAc(ジメチルアセトアミド)又はNMP(N−メチルピロリドン)等を使用した場合は、触媒被毒を最小限に抑えるため、真空乾燥機による乾燥や水洗い等を十分に行い、触媒層に溶剤を極力残さないようにする必要がある。
(4)触媒層の転写
図1に示すように、電解質膜1を先に作製したデカール2で挟み込み、更にその外側から金属板5(緩衝材として使用)で挟み込んで、この積層体のホットプレスを行なう。
積層を行なう際には、台紙4上の触媒層3に上述した溶剤を散布又は滴下し、触媒層表面が生乾きの段階で積層体を組むことができる。
【0016】
以上説明した接合方法は、接合材として炭化水素系材料を使用することを想定しているが、接合材がフッ素系電解質であっても電解質膜が炭化水素系の場合には、本発明を適用できる。なお、この場合、従来方法では触媒層の良好な転写は困難である。
【0017】
また、本発明の接合体は、上述の電解質膜−触媒層接合方法により得られ、電解質膜として炭化水素系電解質を採用して得られる。このため、製造時に熱処理等による電解質の変質・分解がなく、触媒層の被毒が最小限に抑制されるので、良好な接合面を有する。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0019】
(実施例1)
以下のような仕様により本発明の一実施形態である接合体を得た。図2に写真を示す。
・電極触媒 :Pt担持カーボン
・接合用電解質 :Nafion(商標:デュポン社)
・極性溶剤 :エタノール
・電解質膜 :スルホン化PES
・台紙 :PEFEシート
・ホットプレス :130℃、10分、8MPa
【0020】
(比較例1)
溶剤を噴霧せずにホットプレスを行い、膜−触媒層接合体を得た。図2に写真を示す。
【0021】
(比較例2)
カーボンペーパーにインクを塗布、乾燥して得た2枚の触媒層つきカーボンペーパーで電解質を挟み込み、ホットプレスして接合体を得た。
【0022】
(評価試験)
得られた接合体を用いた発電要素について、以下の条件で発電試験を行った。電流密度に対する電圧及び抵抗を図3及び図4に示す。比較例1については、充分な量の触媒が電解質膜に転写されなかったため、発電することができなかった。
<発電条件>
正極材料 :Pt担持カーボン(0.4mgPt/cm
負極材料 :Pt担持カーボン(0.4mgPt/cm
セル温度 :70℃
相対湿度 :60%(アノード)/50%(カソード)
燃料(空気)利用率 :67%(アノード)/40%(カソード)
アノードガス :水素(大気圧)
カソードガス :空気(大気圧)
【0023】
図3及び図4より、実施例1で得られた接合体は、電導性が良好であり優れた発電容量であることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の固体酸化物形燃料電池の一例を示す断面図である。
【図2】実施例1で得られた接合体(右側)と比較例1で得られた接合体(左側)を示す写真である。
【図3】発電試験において電流密度と電圧の関係を示すグラフである。
【図4】発電試験において電流密度と抵抗の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0025】
1 電解質膜
2 デカール
3 触媒層
4 PTFEシート
5 金属板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極触媒と接合用電解質を含む触媒層前駆体に、溶剤を浸潤させ且つ露出部分を乾燥させたことを特徴とするデカール用触媒層前駆体。
【請求項2】
上記溶剤が、水、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、i−ブタノール及びtert−ブタノールから成る群より選ばれた少なくとも1種のものを含んで成ることを特徴とする請求項1に記載のデカール用触媒層前駆体。
【請求項3】
上記接合用電解質が炭化水素系であることを特徴とする請求項1又は2に記載のデカール用触媒層前駆体。
【請求項4】
ポリテトラフルオロエチレン、ステンレス、アルミニウム及びポリエチレンテレフタレートから成る群より選ばれた少なくとも1種のものを含んで成ることを特徴とするデカール用台紙。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1つの項に記載のデカール用触媒層前駆体と、請求項4に記載のデカール用台紙とを用いて電解質膜−触媒層を接合するに当たり、
該デカール用触媒層前駆体を該デカール用台紙に被覆してデカールとし、
このデカールを2つ用いて、電解質膜の上下面と該デカール上の触媒層前駆体とが対向するように、電解質膜を挟持し、
ホットプレスにより触媒層を電解質膜へ転写することを特徴とする電解質膜−触媒層接合方法。
【請求項6】
デカール作製工程において、デカール用台紙に被覆したデカール用触媒層前駆体に、水と、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、i−ブタノール及びtert−ブタノールから成る群より選ばれた少なくとも1種のものとの混合液を浸潤させ、露出部分を乾燥させることを特徴とする請求項5に記載の電解質膜−触媒層接合方法。
【請求項7】
デカール作製工程において、デカール用触媒層前駆体中の電極触媒と接合用電解質の含有率を7〜14%とすることを特徴とする請求項5又は6に記載の電解質膜−触媒層接合方法。
【請求項8】
ホットプレスを200℃以下で行うことを特徴とする請求項5〜7のいずれか1つの項に記載の電解質膜−触媒層接合方法。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれか1つの項に記載の電解質膜−触媒層接合方法により得られた接合体であって、
電解質膜が炭化水素系電解質であることを特徴とする接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−100092(P2006−100092A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−284165(P2004−284165)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】