説明

触媒担持シート及びその製造方法

【課題】触媒層厚さの均一性や触媒活性成分の分布の制御を容易にし、反応に寄与できる触媒の比率を向上させることができ、さらに、取扱性に優れる触媒担持シートを提供する。
【解決手段】触媒活性を有する粒子を担持する極性有機溶媒に可溶なフッ素樹脂と、前記フッ素樹脂を支持する繊維基材と、を具えるようにして、触媒担持シートを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液中における化学反応に用いられる触媒活性有する粒子を担持した触媒担持シート及びその製造方法に関するものであり、特に、極性有機溶媒に可溶性のフッ素樹脂を用いて形成した樹脂シートからなる触媒担持シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、化学工業において、化学商品の合成・分解、廃棄物や廃ガスの分解・除去等、化学反応を利用したほとんどの場合に触媒が用いられており、めざましい成果をあげている。
【0003】
これらの触媒は、長時間の使用においても活性を失うことがなく、損失が少ないこと、使用後に原料や反応生成物と分離しやすいこと、回収後に再生が容易であることが求められており、そのような触媒を使用することによる経済効果は莫大なものがある。
【0004】
一般に、上記用途に使用される触媒は触媒活性を有する金属成分を主成分とし、この金属成分としては貴金属が用いられている。通常、このような金属触媒成分は担体の表面に担持されて用いられている。触媒成分を担体の表面に担持させることで、触媒効率を向上させることができ、また触媒成分の有効利用により担持量を低減させることができるため、特に触媒成分が高価な貴金属である場合に適用される。また、触媒は適当な希釈剤中の溶液又は微細分散液の形態で反応液に導入され、反応終了後には反応生成物等から分離、回収されるが、担体の表面に触媒成分を担持させることで、触媒成分が粒子状である場合にも、その分離、回収が容易となる。
【0005】
担体材料としては、例えば、微粉状の活性炭が用いられている。活性炭に触媒成分を担持させた代表例である活性炭にパラジウムを担持させたパラジウム−活性炭触媒は、活性炭を予め酸又は塩基類で処理し、その後に塩化パラジウム、硝酸パラジウム等の水溶性パラジウム塩の水溶液に浸漬し、蒸発乾固、還元処理することにより調製されている。還元処理としては、通常の水素還元の他、ヒドラジンや水素化ホウ素ナトリウム等の液相還元剤による還元が行われている。活性金属として白金やルテニウムを用いたものも同様な方法で調製されている。
【0006】
また、担体材料として、例えばアルミナやシリカ等も用いられている。アルミナ担体については、金属イオンとの吸着を利用するものが知られており、酸又は塩基等の共存イオンにより担持量がコントロールされている。一方、シリカ担体については、金属イオン、特に錯イオンを吸着する能力がないことから金属イオンの所在制御が困難であり、また通常の含浸法では担体内部まで金属が侵入してしまい、しかも均一性に欠けるものしか得ることができない。
【0007】
このため、金属塩溶液を添加した溶剤を瞬時に蒸発させて金属塩をシリカ担体の表面に強制的に付着させる方法や、金属塩が含浸されたシリカ担体をアルカリ溶液で処理することにより非水溶性貴金属化合物を沈殿させ、シリカ担体の表面に担持させる方法が検討されている。さらに、これらの方法では必ずしも分散性や均一性を満足しないため、シリカ担体をアミノ基含有シラン化合物と反応させて改質した後、貴金属塩の水溶液と接触させることにより貴金属イオンをシリカ表面に固定し、還元処理を行う方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
また、担体として合成樹脂製の多孔質フィルムを使用するものも提案されている。フィルムとしては、ポリエチレンフィルムやテトラフルオロエチレンフィルム、塩化ビニルフィルム等を多孔質化したものが用いられている。触媒の固定化は、合成樹脂中に触媒を混合、含有させ、これをフィルム化するか、又はシリカゲル、ゼオライト、活性炭等の担体表面に触媒を導入し、これを樹脂に混合、含有させフィルム化するか、合成樹脂フィルムの表面に触媒を加圧、加熱圧着して担持する方法等も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
さらに、触媒は重量当たりの反応活性が高いほど好ましい、このためフィルム状触媒においては空孔率を上げると共に、より薄くして形成することが望ましい。ところが、フィルム状触媒の空孔率を上げたり、その厚さを薄くすると、機械的強度の低下を引き起こし、破損のおそれや取り扱い性などに問題が出てくる。
【0010】
このため、触媒分散溶液を金属などの支持体上に塗布、乾燥して触媒層を形成したり、さらに形状加工して、固定床方式に最適なハニカム構造体に加工したりする触媒の製造方法も提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭64−85141号公報
【特許文献2】特開平1−110541号公報
【特許文献3】特開2008−110341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、アルミナやシリカに吸着、改質等により触媒成分を担持させた触媒については、担持させることのできる触媒成分の種類が制限される。したがって、触媒成分の種類によって触媒活性も自ずから制限されてしまう。
【0013】
また、多孔質合成フィルム上に担持をさせた触媒では、充分なフィルム厚さがあれば取扱性には優れているものの、厚くすることによって、反応に寄与できない触媒の比率が高くなり、触媒の活性も充分なものではなかった。一方、フィルム厚さを小さくすると、反応に寄与できる触媒の比率を向上させることができるものの、取扱性が悪くなるという問題があった。
【0014】
さらに、活性炭やハニカム構造体などの支持体上に触媒分散溶液を塗布、乾燥して触媒層を形成する方法では、厚さの均一性や活性成分の分布の制御が困難となることがある。
【0015】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであって、触媒層厚さの均一性や触媒活性成分の分布の制御を容易にし、反応に寄与できる触媒の比率を向上させることができ、さらに、取扱性に優れる触媒担持シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成すべく、本発明は、
触媒活性を有する粒子を担持する極性有機溶媒に可溶なフッ素樹脂と、前記フッ素樹脂を支持する繊維基材と、を具えることを特徴とする、触媒担持シートに関する。
【0017】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、極性有機溶媒に可溶なフッ素樹脂からなる触媒担体と、触媒活性を有する粒子とを繊維基材で補強することによって、触媒活性層を薄く形成しても取扱性に支障をきたすことなく、また触媒特性層の厚さや活性成分の分布が均一な触媒担持フィルムが得られることができることを見出したものである。
【0018】
なお、本発明の一態様においては、前記フッ素樹脂は、前記繊維基材中に含浸させることができる(第1の触媒担持シート)。
【0019】
また、本発明の一態様においては、前記フッ素樹脂はフィルム状を成し、前記繊維基材の少なくとも一方の主面に被着させることができる(第2の触媒担持シート)。
【0020】
さらに、本発明の一態様においては、触媒担持シートは、渦巻き状に巻回することができる(第3の触媒担持シート)。
【発明の効果】
【0021】
したがって、本発明によれば、触媒層厚さの均一性や触媒活性成分の分布の制御を容易にし、反応に寄与できる触媒の比率を向上させることができ、さらに、取扱性に優れる触媒担持シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第3の触媒担持シートの巻回前の状態を示す図である。
【図2】第3の触媒担持シートの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の詳細、並びにその他の特徴及び利点について、発明を実施するための形態に基づいて説明する。
【0024】
(触媒担持シート)
本発明の触媒担持シートは、触媒活性を有する粒子を担持する極性有機溶媒に可溶なフッ素樹脂と、前記フッ素樹脂を支持する繊維基材とを有する。
【0025】
触媒活性を有する粒子としては、公知の触媒活性を有する粒子であれば特に限定されずに用いることができる。具体的には、樹脂に固定できる金属触媒、金属化合物触媒等の固体触媒が挙げられるが、金属化合物触媒であることが好ましく、その反応変換率が高いことからペロブスカイト型金属酸化物であることが特に好ましい。
【0026】
金属化合物触媒としては、例えば、チタン、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、レニウム、オスミニウム、イリジウム、銀、金、白金、スズ等の金属から選ばれる複数種の金属を含む複合金属酸化物が挙げられ、酢酸パラジウム、塩化パラジウム等のようにパラジウムを含むものが好ましい。
【0027】
ペロブスカイト型金属酸化物としては、一般式LaFe(1−r)Pdr3(0<r<0.2)を挙げることができ、具体的には、LaFe0.95Pd0.05等を例示することができる。
【0028】
触媒粒子は平均粒径が1μm以下であることが好ましく、例えば、その平均一次粒径は1nm以上100nm以下といったナノサイズの複合酸化物粒子等を用いることが好ましく、その平均二次粒子径は0.1〜10μmであることが好ましい。
【0029】
担体と触媒粒子の質量比は、それぞれ使用するものの組み合わせにより適宜決定することができるが、例えば、フィルム担体:触媒粒子=1000:1〜1:10程度の範囲で用いることができ、10:1〜1:2の範囲であることが好ましい。
【0030】
上記で好ましいとしたペロブスカイト型金属酸化物である触媒粒子としては、例えば、パラジウムを含むペロブスカイト型化合物としてLaFe(1−r)Pdr3(0<r<0.2)が挙げられ、このようなペロブスカイト構造を有する触媒粒子をフッ素樹脂と溶解、混合することによって触媒活性を有する触媒担持体を得ることができる。
【0031】
また、触媒担持シートを構成するフッ素樹脂としては、極性有機溶媒に可溶なフッ素樹脂であれば特に限定されるものではなく、例えば、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロアルキレンビニルエーテル、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル等の化合物が重合したフッ素化モノポリマー、フッ素化コポリマー、又はそれらの混合物によるポリマー等が好適である。
【0032】
この中でも、特にポリフッ化ビニリデンが担持体としては好ましく、その主鎖中の構成単位の結合形態としてはHead to Tail結合を主鎖中に数多く含むものが好ましい。
【0033】
本発明でフッ素樹脂を用いるのは、フッ素樹脂の、耐熱性、耐薬品性が良好であるため、使用環境を選ばず、製品寿命を長くすることもでき、さらに、フィルムを形成した時に多孔質性のフィルムを形成し易いため、担持された触媒による触媒反応を効率的に行うことができるためである。
【0034】
フッ素樹脂の中でも特にポリフッ化ビニリデン樹脂が好ましい。フッ素樹脂は、耐熱性及び耐薬品性に優れる一方、加工がし難いという欠点がある。これに反して、ポリフッ化ビニリデン樹脂は加工性に優れ、さらに上述したフッ素樹脂特有の効果においても優れるという利点があるためである。
【0035】
ポリフッ化ビニリデン樹脂としては、市販のものを使用することができ、例えば、クレハKFポリマー(株式会社クレハ製、商品名)、カイナー720(ペンウォルト社製、商品名)等がある。
【0036】
なお、フッ素樹脂から多孔質性のフィルムを形成するには、以下に説明するように、フッ素樹脂を極性有機溶媒中に溶融(膨潤)した後、離型フィルム上に塗布し、溶媒乾燥を行うことに得ることができる。
【0037】
また、その多孔率を調整するに際しては、一般に知られているように、上記極性有機溶媒中に含有させる貧溶媒の量を制御することによって行う。
【0038】
フッ素樹脂には、必要に応じて、かつ本発明の趣旨に反しない限りにおいて、無機粒子等を含有してもよい。無機粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ケイ砂、クレー、雲母、ケイ灰石、ケイソウ土、酸化クロム、酸化セリウム、ベンガラ、三酸化アンチモン、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素等が挙げられる。これらの無機粒子は所望とする担体の平均粒径よりも十分に小さいものであれば特にその平均粒径は限定されるものではない。
【0039】
フッ素樹脂以外の触媒担体用樹脂、例えば、ポリスチレン系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリスルフォン系樹脂等から得られるフィルムは多孔化処理を行わなければならず、また、これらのフィルムに担持された触媒は充分な触媒活性を得ることはできない(以上は特許文献3に記載の公知のフィルム)。
【0040】
また、フッ素樹脂を溶解する極性有機溶媒としては、アセトン、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、メチレンジクロライド、テトラヒドロフラン(THF)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)、トリフルオロ酢酸等の極性溶媒が使用できるが、NMP溶媒で溶解(膨潤)すると、均一な細孔を有する触媒担体を得ることができ好ましい。なお、多孔率の調整には適宜貧溶媒を加えることは上述したとおりである。
【0041】
本発明の触媒担持シートを構成する繊維基材としては、有機繊維または無機繊維からなるものが用いられる。有機繊維としては、ポリアミド系のナイロン6、ナイロン66やアラミッド繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリエステル系のポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリアリレート繊維、ポリ塩化ビニリデン系、ポリ塩化ビニル系、ポリアクリロニトリル系、ポリオレフィン系のポリエチレンやポリプロピレン繊維、フッ素系繊維のポリ四フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン、エチレン/三フッ化塩化エチレン共重合体等を挙げることができる。また有機繊維には、有機再生繊維が含まれ、セルロース系のレーヨン、アセテート等を挙げることができる。無機繊維としては、ガラス繊維や炭素繊維、活性炭素繊椎、セラミック繊維等を用いることができる。
【0042】
これらの繊維基材は、例えば、平織り、綾織、朱子織り等による織布の何れも使用することができ、また短繊維を集束して不織布状にした繊維布を使用してもよい。
【0043】
これら繊維基材の厚さについては、25μm以上、500μm未満が好ましい。繊維基材の厚さが25μm未満、または500μm以上では何れも取り扱い性に問題があるため、好ましくない。
【0044】
前記フッ素樹脂は、前記繊維基材中に含浸させることができる(第1の触媒担持シート)。
【0045】
また、本発明の一態様においては、前記フッ素樹脂はフィルム状を成し、前記繊維基材の少なくとも一方の主面に被着させることができる(第2の触媒担持シート)。この場合、フィルム状のフッ素樹脂の厚さは、1μm以上50μm以下であることが好ましく、5μm以上25μm以下であることがより好ましい。フィルム厚が、1μm未満の場合、フィルム強度が低下し、その表面に触媒粒子を担持させることが困難となるおそれがある。一方、担体のフィルム厚が50μmを超えるものは、担体内部に存在して反応に関与しない触媒が多くなり、触媒効率が低くなるため好ましくない。
【0046】
本態様の場合、上記フィルムを繊維基材の両面に形成することもできるが、片面にのみ形成したほうがより効率的である。また繊維基材は織布でも不織布でも適用可能であり、厚さやフィラメント性状、繊維密度を調整することによって反応溶液の拡散状態や触媒担持シートの配置を設定することができ、多様な化学反応への対応が可能となる。
【0047】
さらに、本発明の一態様においては、触媒担持シートは、渦巻き状に巻回することができる(第3の触媒担持シート)。図1は、本態様の触媒担持シートの一例を示す概略構成図である。図2に示すように、触媒担持シート10を渦巻き状に巻回して形成すると、シート10を構成する触媒活性を有する粒子を担持するフッ素樹脂フィルム11と繊維基材13とが同心円状に巻回されるようにして触媒担持シート10を構成するようになる。なお、巻回する以前の触媒担持シート10は、例えば図2に示すような構成を採る。なお、図2に示す構成は、第2の触媒担持シートの一例に相当するものである。
【0048】
また、本態様では、以下に説明する製造方法に従って、フッ素樹脂フィルム11及び繊維基材13との間に離型フィルム12が設けられている。
【0049】
第3の触媒担持シートは、例えば反応装置に組み込み、ホルダーやケースに収容・充填し構造体としてのユニットを形成させることができる。この場合、ハニカム構造の触媒体に比較して、反応器に設ける触媒体の触媒層表面積を大きくすることができるため、反応を効率よく進行させる上で望ましい。
【0050】
(触媒担持シートの製造方法)
次に、本発明の触媒担持シートの製造方法について説明する。なお、ここでは、上述した第1の触媒担持シート及び第2の触媒担持シートの製造方法を中心として説明する。
【0051】
最初に、極性有機溶媒にフッ素樹脂を溶融(膨潤)させた後、触媒粒子を混合・分散させて触媒含有樹脂溶液を調整する。なお、極性有機溶媒中に触媒粒子を混合・分散させた後、フッ素樹脂を溶融(膨潤)させて触媒含有樹脂溶液を調整してもよい。フッ素樹脂と触媒粒子との混合・分散は、公知の攪拌装置等による一般的な混合・分散方法で容易に行うことができる。この攪拌は、通常は常温で行うことができ、また攪拌速度も担体の混合液と触媒粒子の分散液とを均一に混合できる程度のものであれば特に制限されるものではない。
【0052】
なお、分散を十分に行ったり、粒子が凝集し易い場合にはこれを解砕して分散させたりするために、ボールミル等によるメディア分散装置、高圧ホモジナイザー等による高速高剪断ミキサー等を用いて、フッ素樹脂中に触媒粒子が均一に分散する操作を行ってもよい。
【0053】
次いで、第1の触媒担持シートを製造する場合は、上述のようにして得た触媒含有樹脂溶液を繊維基材中に含浸させる。触媒含有樹脂溶液を繊維基材に含浸する方法としては特に限定するものではないが、たて型塗工機を用いることが好ましく、さらに、速度、温度、樹脂含浸量を調整するためのロールのギャップを制御する装置がついていることが特に望ましい。
【0054】
次いで、触媒含有樹脂溶液を繊維基材に含浸した後、前記溶液中の溶媒を乾燥させて蒸発させる。乾燥条件は塗布厚さや、使用する有機溶剤によって異なるが、一般に130℃〜200℃で、10分〜60分行うことが望ましい。130℃未満、または10分未満では溶剤分の除去が不十分であり、200℃以上、または60分以上では製造コスト上昇のため好ましくない。
【0055】
含浸を良好に行うためには、繊維基材上に触媒含有樹脂溶液を塗布する際に、その塗布量が、樹脂換算で通常は10〜80体積%、さらには20〜70体積%であることが好ましい。10体積%未満であると均一に被覆できず、繊維基材中に樹脂を十分に含浸できないおそれがあり、一方、80体積%を超えると塗布、含浸操作が困難となるため好ましくない。
【0056】
第2の触媒担持シートを製造する場合は、例えば離型フィルム上に、上述のようにして得た触媒含有樹脂溶液を塗布した後、乾燥して溶媒を除去し、フィルム化することによって行われる。塗布方法は既存の方法がいずれも適用可能であるが、具体的にはグラビアコーター、リバースロールコーター、キスコーター、ロールナイフコーター、ロッドコーター等のコーターによって塗膜形成する方法、アプリケーターにより手塗りで塗膜形成する方法、バーコート法、スクリーン印刷法等があげられ、商品形態によって選択する。
【0057】
上述のように、塗布厚(すなわち、形成すべきフィルム厚)は、1μm以上50μm以下であることが好ましく、5μm以上25μm以下であることがより好ましい。塗布厚が、1μm未満の場合、フィルム強度が低下し、その表面に触媒粒子を担持させることが困難となるおそれがある。一方、塗布厚が50μmを超えるものは、担体内部に存在して反応に関与しない触媒が多くなり、触媒効率が低くなるため好ましくない。
【0058】
次いで、上述のようにして得た触媒含有樹脂フィルムを、繊維基材の少なくとも一方の主面上に被着する。被着する方法としては特に限定されるものではないが、例えば、熱圧着法を用いることができる。この場合、触媒含有樹脂フィルムが軟化するので、繊維基材の主面上に簡易に被着させることができる。
【0059】
熱圧着法としては汎用の方法を用いることができるが、熱ラミネート、熱プレス等が好ましく挙げられる。例えば、熱ラミネート法を採用する場合は、ロール温度100から200℃の熱ロールで圧力1から10MPaの条件で好適に作製でき、熱プレスを採用する場合は、温度100から200℃の熱盤間に圧力1から10MPaの条件熱プレスすることによって好適に作製できる。
【0060】
温度が100℃、または圧力1MPaより低いと接着力が弱く層間で剥離してしまうおそれがあるため好ましくない。温度が200℃、または圧力10MPaより高くしても特に問題は無いが、適用設備の負荷が大きくなるため適当ではない。
【0061】
以上のように製造された触媒担持シートは、必要な寸法に切断して使用することができ、また反応後に容易に分離、回収することができる。このようにして分離、回収された担持触媒は、通常の触媒と同様にして繰り返し触媒反応に用いることができる。
【0062】
なお、上記においては、第1の触媒担持シート及び第2の触媒担持シートの製造方法を中心に説明したが、触媒担持シートの構成に応じて製造方法は適宜変更することができる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
N−メチル−2−ピロリドンを溶媒としたポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製;質量平均分子量 28万)の12質量%溶液を25質量部、酢酸パラジウム(関東化学株式会社製)を0.07質量部計量し、それらを混合し、触媒粒子分散液を得た。前記触媒粒子分散液100部に対して、DMF100部を加え、触媒含有樹脂溶液1を調整した。
【0065】
次いで、ポリアリレート長繊維「ベクトランHTタイプ」(クラレ社製)を40本束ねて1本の糸としたものを、経糸密度が1インチ当たり35本、緯糸密度が1インチ当たり35本で平織りし、62g/m、厚さ0.1mmのポリアリレート長繊維からなる織布1を得た。次いで、前記ポリアリレート長繊維からなる織布1に触媒含有樹脂溶液1を浸漬して含浸させた後、150℃で30分間乾燥して、樹脂分40質量%の触媒担持シートを得た。
【0066】
(実施例2)
実施例1で得られた触媒含有樹脂溶液1をポリエステルフィルム(東レ株式会社製、商品名:ルミラー)に、アプリケーターで塗布し、70℃で30分乾燥して、膜厚10μmの触媒担持フィルムを製造した。次に、前記織布1に重ね合わせ、鏡面板で挟み、170℃の熱盤間に狭持し、圧力3.0MPaで60分間、加熱・加圧成形を行い、触媒担持シートを得た。
【0067】
(実施例3)
酢酸パラジウム(関東化学株式会社製)に代えて、ペロブスカイト型金属酸化物であるLaFe0.95Pd0.05(北興化学工業株式会社製)6質量部に変えた以外は、実施例2と同様の操作により触媒担持フィルムを製造した。
【0068】
(実施例4)
ポリテトラフルオロエチレン(ダイキン工業株式会社製、商品名:ポリフロンM−392;[PTFE])15.0質量部と、LaFe0.95PD0.0503(北興化学工業株式会社製)とを、3.0質量部を計量しボールミル(直径2mmジルコニアボール、充填率60%)で20時間混合し、溶媒を用いずに260℃で混練して圧延した後、フィルム化して膜厚10μmの触媒担持フィルムを製造した。
【0069】
(比較例1)
実施例1で得られた触媒含有樹脂溶液1をポリエステルフィルム(東レ株式会社製、商品名:ルミラー)に、アプリケ一ターで塗布し、70℃で30分乾燥して、膜厚35μmの触媒担持フィルムを製造した。
【0070】
(比較例2)
ポリエチレン樹脂(平均分子量15万)15.0質量部とLaFe0.95Pd0.05(北興化学工業株式会社製)を3.6質量部計量し混合し、溶媒を用いずに混練して圧延した後、フィルム化して膜厚35μmの触媒担持フィルムを製造した。
【0071】
(比較例3)
ポリテトラフルオロエチレン(ダイキン工業株式会社製、商品名:ポリフロンM−392;〔PTFE〕)15.0質量部とLaFe0.95Pd0.0503(北興化学工業株式会社製)を3.0質量部計量し混合し、溶媒を用いずに260℃で混練して圧延した後、フィルム化して膜厚35μmの触媒担持フィルムを製造した。
【0072】
(試験例)
次に、実施例及び比較例で製造した触媒担持フィルムについて、反応変換率、触媒粒子の脱離、触媒フィルムの回収性及び回収後のフィルム形状について評価し、その結果を表1にまとめて示した。なお、触媒担持フィルムは、離型フィルムであるポリエステルフィルムから剥がして使用した。また、各評価は以下に示すような条件で実施した。
【0073】
[反応変換率]
4−ブロモアニソールの2.24g(0.012モル)、フェニルボロン酸の2.19g(0.018モル)、炭酸カリウムの4.98g(0.036モル)を、100mL容量の丸底フラスコに加え、溶剤として純水及び1−メトキシ−2−プロパノールを各18mL加え、攪拌溶解した。この溶液に、実施例及び比較例で得られた触媒担持フィルムを接触させ(このとき、4−ブロモアニソールに対し、触媒成分が0.005モル%に相当する量を含む触媒担持フィルムを使用)、室温で24時間反応させた。
【0074】
反応終了後、反応液にトルエン及び純水を20mLずつ加えて、生成物を溶解した後、吸引ろ過により不溶解物を除去した後、分液ロートに移し、下層の水層を分液し、上層のトルエン層を、ガスクロマトグラフィーにより分析し、反応変換率を求めた。
反応変換率(%)=4−メトキシビフェニル(反応生成物)/4−ブロモアニソール+4−メトキシビフェニル(反応生成物)(予め4−メトキシビフェニルと4−ブロモアニソールのトルエン溶液を個別に測定して相対感度を求め補正した。)
【0075】
[触媒粒子の脱離]
反応変換率評価後の触媒担持フィルム表面を電子顕微鏡により観察し、触媒粒子の脱落の有無により評価した。
○:変化なし、△:若干の変化が見られる、×:明らかな触媒活性を有する成分の脱落がみられる。
【0076】
[触媒の回収性]
反応変換率評価後のサンプルをろ過にて回収し、触媒担体の質量を算出して評価した。
○:95%超、△:95%〜85%、×:85%未満
【0077】
[フィルム形状]
触媒回収性評価において、回収したサンプルのフィルム形状を目視にて評価した。試験前後において変化のないものはフラットとし、その他異常のあったものは、その内容を記載(割れ発生又は溶解変形)した。
【0078】
[取扱性]
反応器への投入、反応器中での動作状態、反応後の分離、回収、洗浄について評価した。
○:問題なし、×:ねじれ、などの発生よる取扱性悪い
【0079】
[引き裂き強度]
JIS K 7128・1に準じて、トラウザー引き裂き法による引き裂き強度(N)を測定した。
【0080】
【表1】

【0081】
以上、表1に示す結果から明らかなように、本発明の繊維基材を支持体とした触媒担持シートは取扱性に優れ、反応変換率が高く反応に寄与できる触媒の比率が高いことが分かる。すなわち、触媒層厚さの均一性や触媒活性成分の分布の均一性が優れることが分かる。また、触媒の離脱も少なく、触媒の回収性も優れ、さらにシートの強度も優れることが分かる。
【0082】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒活性を有する粒子を担持する極性有機溶媒に可溶なフッ素樹脂と、
前記フッ素樹脂を支持する繊維基材と、
を具えることを特徴とする、触媒担持シート。
【請求項2】
前記フッ素樹脂は、ポリフッ化ビニリデンであることを特徴とする、請求項1に記載の触媒担持シート。
【請求項3】
前記フッ素樹脂は、前記繊維基材中に含浸させてなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の触媒担持シート。
【請求項4】
前記フッ素樹脂はフィルム状を成し、前記繊維基材の少なくとも一方の主面に被着させてなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の触媒担持シート。
【請求項5】
前記触媒担持シートは、渦巻き状に巻回してなることを特徴とする、請求項3又は4に記載の触媒担持シート。
【請求項6】
極性有機溶媒中にフッ素樹脂を溶融させるとともに、触媒活性を有する粒子を混合分散させて、触媒含有樹脂溶液を調整する工程と、
前記触媒含有樹脂溶液を繊維基材上に塗布して含浸、乾燥させる工程と、
を具えることを特徴とする、触媒担持シートの製造方法。
【請求項7】
極性有機溶媒中にフッ素樹脂を溶融させるとともに、触媒活性を有する粒子を混合分散させて、触媒含有樹脂溶液を調整する工程と、
前記触媒含有樹脂溶液をフィルム状とし、触媒含有樹脂フィルムを形成する工程と、
前記触媒含有樹脂フィルムを繊維基材の少なくとも一方の主面上に被着させる工程と、
を具えることを特徴とする、触媒担持シートの製造方法。
【請求項8】
前記触媒含有樹脂溶液を離型フィルム上に塗布した後、乾燥させて溶媒を除去し、前記離型フィルム上に前記触媒含有樹脂フィルムを形成することを特徴とする、請求項7に記載の触媒担持シートの製造方法。
【請求項9】
前記触媒含有樹脂フィルムの前記繊維基材への被着は、熱圧着によって実施することを特徴とする、請求項7又は8に記載の触媒担持シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−554(P2011−554A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−146784(P2009−146784)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【出願人】(390022415)京セラケミカル株式会社 (424)
【Fターム(参考)】