説明

計数盤

【課題】 細胞や血球の数を算出するための計数盤において、計数部が形成された本体と、カバーとの平行度を維持しながら、位置決めと固定を簡単にできる機構と、視認性が従来のものより向上した計数部の目盛りを提供し、計数盤の製造コストを低減し、使用上の利便性を向上する。
【解決手段】 本体に、計数部とカバーとの間に一定の距離を付与するために段差を設け、本体表面に設けられた熱可塑性を有する突起からなる係止部材の先端を、カバーの一部を覆うように熱変形させる、熱カシメにより、本体とカバーを固定する。また、目盛りは、機械加工により金型表面に形成された突起の転写で形成するので、エッジが明瞭になり、視認性が向上する。さらに、カバーのエッジにバリが存在しても、支障のないように本体のカバーのエッジが当接する部分に逃げとなる溝を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡を用いて、細胞や血球などの微細な対象物を計数する際に用いる計数盤に関し、特にプラスチック製の使い捨ての計数盤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体を研究の対象とする分野、即ち、医学、薬学、病理学、血液学、生化学、分子生物学、微生物学、植物学などの分野においては、顕微鏡を用いて、細胞、微生物、血球などの形態を観察したり、その数を計測したりすることが実験の手段として重要である。
【0003】
顕微鏡を用いて、試料を観察する際には、プレパラートと称される2枚の薄いガラス板の間に、試料を挟み、透過または反射の照明光を用いるのが一般的である。しかし、前記のような研究分野で、微細な対象物の数量を測定するには、一定の面積に区分した領域毎に計数を行い、全体の数量を算出するという方法をとる必要がある。
【0004】
このような観察を可能とするために、透明な板材の試料を載せる領域に、格子状に目盛りを設けて計数部を構成し、計数部の周囲に突出した段差を設けた状態で、透明な板材からなるカバーを配置し、計数部とカバーとの間に一定容量の試料を充填することが可能な計数盤が種々開発されている。また、前記の分野では、細菌などによる感染症や汚染を考慮し、プラスチックなどで計数盤を構成し、使い捨てとするのが一般的である。
【0005】
そして、このような計数盤においては、目盛りの形成方法、計数部が形成された本体とカバーとを位置決めして固定する機構、計数部とカバーとの間の空隙の保持機構など適切に設計することが、製造コストの低減や、使用上の利便性や計数の精度を向上するのに重要である。
【0006】
この例として特許文献1には、本体とカバーと接合に、スペーサーとなる一定粒径の球状粒子を混合した接着剤を用い、本体とカバーとの間の空隙形成と接合を同時に行う技術が開示されている。しかし、この場合の問題点としては、球状粒子をスペーサーに用いるために、接着剤の使用量が多くなったり、別途に位置決め工程を設けることが必要になったりすることで、組み立て工程が煩雑になることが挙げられる。また、接着剤を用いるので、材質が制限されるという課題もある。
【0007】
一方、特許文献2には、本体側にフックを有する突起を設け、カバーの位置決めと固定を行う技術が開示されている。しかし、この場合もカバーを押し込み、フックで係止する構造であるため、本体をカバーとの間に僅かながら緩みが生じることが避けられず、観察対象物の数の算出に誤差が生じることがあるという課題がある。
【0008】
また、プラスチック製の本体やカバーは、射出成形などの、溶融した材料を金型で所要の形状とする方法で得るのが一般的であるが、計数部の目盛りの形成は、金型表面にレーザー加工やエッチング加工を施すことで行われるので、微細なエッジ形成が困難で、目盛りの視認性に改善の余地がある。また、成形の際に、金型の形状転写の精度により、目盛りの視認性を低下させることも無視できない課題である。
【0009】
さらに、カバーの製造方法として考えられる、板材の切断、射出成形などにおいては、エッジの部分に、いわゆるバリや膨れが生じることがあり、たとえ微細であってもバリや膨れが本体に当接した状態では、カバーと本体とが平行からずれ、計数値の誤差増加に繋がる虞がある。
【0010】
【特許文献1】 特開平11−160310号公報
【特許文献2】 特開2007−303958号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の課題は、計数部が形成された本体とカバーとの平行度を維持しながら、位置決めと固定を簡単にできる機構と、視認性が従来のものより向上した計数部の目盛りを提供し、計数盤の製造コストを低減し、使用上の利便性を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、前記課題の解決のため、本体とカバーの接合方法と、金型の目盛りを成形する部分の加工方法を再検討した結果、なされたものである。
【0013】
即ち本発明は、高分子材料からなり、平坦な表面に格子状に設けられた目盛りにより、観察対象物の数を算出するための計数部を有する本体と、前記計数部を覆う透明な高分子材料からなる平板状のカバーを有する計数盤において、前記目盛りは、機械加工によって調製されてなる金型により成形して得られ、断面がV字型または台形の少なくともいずれかの形状の溝であり、前記本体は、前記計数部と前記カバーとの間に一定の距離を付与するための段差部と、前記カバーを前記本体上に位置決め及び固定するための係止部材を有することを特徴とする計数盤である。
【0014】
また、本発明は、前記係止部材が、前記本体上の前記計数部側に、前記カバーと接する位置に設けられ、前記カバーの端部の少なくとも一部を覆う形状に、先端が加熱により変形された熱可塑性材料からなる突起を含むことを特徴とする、前記の計数盤である。
【0015】
また、本発明は、前記係止部材が、前記本体上の前記計数部側に設けられ、前記カバーに設けられた貫通孔に挿通され、前記カバーの少なくとも一部を覆う形状に、先端部が加熱により変形された熱可塑性材料からなる突起を含むことを特徴とする、前記の計数盤である。
【0016】
また、本発明は、前記係止部材が、前記本体上の前記計数部側に、前記カバーと接する位置に設けられ、前記カバーにおける前記本体と接しない側の稜と接する傾斜部を有する突起を含むことを特徴とする、前記の計数盤である。
【0017】
また、本発明は、前記本体における、前記カバーのエッジが当設する部分に、逃げ部を構成するための溝が設けられてなることを特徴とする、前記の計数盤である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の計数盤における目盛りは、成形に用いる金型における目盛りを形成する部分を、微細加工機を用いた機械加工により、断面がV字型や台形の突起という形式で調製するので、従来の金型成形による場合のような、金型製作の精度や成形の際の転写精度に起因する、視認性の低下を抑制することができる。
【0019】
また、本体とカバーとの位置決め及び固定の第一の方法は、本体側に設けられた熱可塑性材料からなる突起を、加熱により溶融変形させてカバー側に密着させることで行われる。このため、カバーと本体の間に、緩みや‘ガタ’が生じないので、対象物の数の算出精度の低下が、極めて少ない。
【0020】
また、本体とカバーとの位置決め及び固定の第二の方法は、傾斜部を有する突起を用いることで行われる。このため、単なるフックとは異なり、傾斜部と突起の弾性でカバーを本体側に押し付けるという付勢機構を利用できるので、やはり、カバーと本体の間の緩みや‘ガタ’を極めて少なくすることができる。
【0021】
さらに、カバーにおける、本体に当接する側のエッジにバリや膨れがあった場合でも、本体側のカバーのエッジが当接する部分に逃げ部を構成する溝が設けられているので、バリや膨れのためにカバーと本体の平行度が低下することがなく、対象物の数の算出精度を維持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に図を参照しながら、本発明の計数盤の実施の形態について説明する。
【0023】
図1は、本発明の計数盤の一例の概略を示す斜視図である。図1において、1は本体、2はカバー、3は段差部、4は計数部、5は係止用突起である。この例では、段差部3が計数部4に設けられていて、段差部3で試料の体積を一定に維持可能である。
【0024】
また、各部材を構成する材質としては、透明性と機械的強度に優れた熱可塑性の高分子材料が望ましく、代表的なものとして、スチロール樹脂もしくはアクリル樹脂が挙げられ、その他に、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、酢酸セルロース、メラミン樹脂、ジアリルテレフタレート樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルホルマール、スチレン−アクリロニトリル共重合体、脂環式ポリオレフィン樹脂などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
図2は、本発明の計数部の目盛りの形状を示す図で、図2(a)は目盛りの概略、図2(b)はA部の詳細を示す平面図、図2(c)はBB断面である。図2において、6aは第一の目盛り、6bは第二の目盛りである。図2に示したように、ここでは、V字型の突起を形成した金型で形成しているので、成形工程における転写精度が多少低下しても、目盛りの視認性には問題がなく、しかも深さ及び幅の異なる2種類の目盛りを調製しているので、視認性と計数作業の利便性が向上している。
【0026】
なお、第一の目盛り6aの間隔は0.20mmであり、第二の目盛り6bの間隔は1.0mmである。目盛りの深さは、1.5μm、幅は3μmで、金型への突起形成加工は微細加工機により施した。
【0027】
図3は係止用突起を加熱により変形させて、即ち熱カシメにより、本体とカバーを位置決め固定した状態の第一の例を示す断面図で、図3(a)はカバーを配置した状態、図3(b)はカバーを固定した状態である。図3において、1aは本体、2aはカバー、5aは係止用突起、7aは逃げ部、8aは熱変形後の係止用突起である。
【0028】
この例では、係止用突起5aの間隔を、カバー2aの寸法とほぼ同じに設定していて、係止用突起5aの先端を加熱及び加圧することにより、カバー2aの端部の一部を熱変形後の係止用突起8aで覆うことで固定している。なお、加熱法としては、電熱や超音波加熱を用いることができる。
【0029】
図4は係止用突起を加熱により変形させて、本体とカバーを位置決め固定した状態の第二の例を示す断面図で、図4(a)はカバーを配置した状態、図4(b)はカバーを固定した状態である。図4において、1bは本体、2bはカバー、5bは係止用突起、8bは熱変形後の係止用突起、9はカバー2bに設けられた貫通孔である。
【0030】
この例では、係止用突起5bと貫通孔9の配置を同一として、貫通孔9に係止用突起5bを挿通した後、係止用突起5aの先端を、加熱および加圧することにより、カバー2bの一部を覆うことで固定している。
【0031】
図5は、傾斜部を有する係止用突起でカバーを固定した例を示す断面図で、図5(a)はカバーを押し込む前の状態、図5(b)はカバーを固定した状態である。図5において、1cは本体、2cはカバー、5cは係止用突起である。この例では、図におけるカバー2cの上側の稜が、係止用突起5cの傾斜部で接し、係止用突起5cの弾性で、本体1c側に押し付けられるので、位置決めと固定が可能となる。
【0032】
図6は、カバーのエッジのバリを、逃げ部を構成する溝によって、直接本体に当接しないようにした状態を示す断面図で、図6(a)は逃げ部を設けた状態、図6(b)は逃げ部を設けていない状態を示す。図6において10はバリである。ここに示したように、逃げ7bを設けることにより、バリ10が本体1bの表面に当接することがないので、カバー2bが傾くことがなく、本体1bとカバー2bの平行度を保つことができる。
【0033】
以上に説明したように本発明によれば、本体とカバーとの、位置決めと固定を簡単にできる機構と、視認性が従来のものより向上した計数部の目盛りを具備した計数盤を得ることができる。これによって、計数盤の製造コスト低減や、細胞や血球などの、生体に関わる微細な観察対象の数量の計測効率の向上に寄与することができる。
【0034】
なお、本発明は、前記具体例に限定されるものではなく、例えば、目盛りをカバー側に設けるなどの、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても、本発明に含まれる。即ち、本技術分野における通常の知識を有する者であれば想到し得る、各種変形、修正を含むことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】 本発明の計数盤の一例の概略を示す斜視図
【図2】 本発明の計数部の目盛りの形状を示す図、図2(a)は目盛りの概略、図2(b)はA部の詳細を示す平面図、図2(c)はBB断面
【図3】 本体とカバーを位置決め固定した状態の第一の例を示す断面図、図3(a)はカバーを配置した状態、図3(b)はカバーを固定した状態
【図4】 本体とカバーを位置決め固定した状態の第二の例を示す断面図、図4(a)はカバーを配置した状態、図4(b)はカバーを固定した状態
【図5】 傾斜部を有する係止用突起でカバーを固定した例を示す断面図で、図5(a)はカバーを押し込む前の状態、図5(b)はカバーを固定した状態
【図6】 カバーのエッジのバリを、逃げ部を構成する溝によって、直接本体に当接しないようにした状態を示す断面図、図6(a)は逃げ部を設けた状態、図6(b)は逃げ部を設けていない状態
【符号の説明】
【0036】
1,1a,1b,1c 本体
2,2a,2b,2c カバー
3 段差部
4 計数部
5,5a,5b,5c 係止用突起
6a 第一の目盛り
6b 第二の目盛り
7a,7b 逃げ部
8a,8b 熱変形後の係止用突起
9 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料からなり、平坦な表面に格子状に設けられた目盛りにより、観察対象物の数を算出するための計数部を有する本体と、前記計数部を覆う透明な高分子材料からなる平板状のカバーを有する計数盤において、前記目盛りは、機械加工によって調製されてなる金型により成形して得られ、断面がV字型または台形の少なくともいずれかの形状の溝であり、前記本体は、前記計数部と前記カバーとの間に一定の距離を付与するための段差部と、前記カバーを前記本体上に位置決め及び固定するための係止部材を有することを特徴とする計数盤。
【請求項2】
前記係止部材は、前記本体上の前記計数部側に、前記カバーと接する位置に設けられ、前記カバーの端部の少なくとも一部を覆う形状に、先端が加熱により変形された熱可塑性材料からなる突起を含むことを特徴とする、請求項1に記載の計数盤。
【請求項3】
前記係止部材は、前記本体上の前記計数部側に設けられ、前記カバーに設けられた貫通孔に挿通され、前記カバーの少なくとも一部を覆う形状に、先端部が加熱により変形された熱可塑性材料からなる突起を含むことを特徴とする、請求項1に記載の計数盤。
【請求項4】
前記係止部材は、前記本体上の前記計数部側に、前記カバーと接する位置に設けられ、前記カバーにおける前記本体と接しない側の稜と接する傾斜部を有する突起を含むことを特徴とする、請求項1に記載の計数盤。
【請求項5】
前記本体における、前記カバーのエッジが当設する部分に、逃げ部を構成するための溝が設けられてなることを特徴とする、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の計数盤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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