説明

計時機器、計時システムおよびタイム計測方法

【課題】電磁場の誤検出等を防ぎつつ、競技者のタイムを適切に計時することのできる計時機器等を提供する。
【解決手段】無線タグ50は、(a)に示すように、1mの磁界の幅を移動する間に、複数回のデータ受信(データIDの取得)が行えるようになっている。そのため、無線タグ50は、(b)に示すように、複数回目のゲートIDを取得するとデータ確定し、その後、30mS以上のL期間を待機する。そして、無線タグ50は、(c)に示すように、データ確定後の2回目の立ち下がりタイミングの時刻T3と、その次の立ち上がりタイミングの時刻T4を取得する。この間(T4−T3)が、30mS以上であるため、無線タグ50は、時刻T3と時刻T4の中間の時刻を(T3+T4)/2により求め、その時刻を競技タイムとして特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電磁場の誤検出等を防ぎつつ、移動体の通過タイム、例えば、競技者のタイムを適切に計時することのできる計時機器、計時システムおよびタイム計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マラソン競技において、競技者個々のゴールタイムを計測(計時)する試みがなされている。例えば、競技者のゼッケン等にバーコードを印刷しておき、ゴールした競技者のバーコードをリーダにて読み取った時刻に基づいて、競技者個々のゴールタイムを計測する計測システムも実用化されている。
最近では、途中の計時地点における通過タイムも含めた競技タイムを計測可能とするために、非接触にて競技者個々の競技タイムを計測する試みがなされている。例えば、競技者にタグ送信機(無線タグ等)を保持させ、このタグ送信機により競技タイムを計測する計測システムが開発され、実用化に向けた運用試験等が試みられている。
【0003】
一例として、計時部を有する無線タグを競技者に保持させ、この無線タグが所定の電磁場を検出することで計測タイム(競技タイム)を特定する技術も開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−47263号公報(第11−25頁、第1図)
【0004】
この特許文献1の技術では、具体的に図9(a)に示すように、競技者が走行する走路上(計時地点)に略8の字形状のループコイルを設置して電磁場を発生させる。つまり、ループコイル上に、図9(b)に示すような電磁場を発生させる。この電磁場には、計測に用いられるメインローブMLの他に、副次的なサイドローブSLも含まれる。
そして、競技者が計時地点(ループコイル)に到達し、このような電磁場上を移動すると、無線タグは、図9(b)に示すb点(トリガ点)を電磁場の変動により検知し、競技タイムを計測する。なお、計測された競技タイム等の情報は、無線タグから受信装置に向けて送信されるようになっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1の技術では、図9(b)に示すような電磁場において、トリガ点を検知するための条件を、電磁場の変動(より詳細には、電磁界強度の変極点の検出)としている。
それでも、電磁場の検出が開始されるa点近傍では、電磁場の信号レベルが不安定となるため、無線タグがここでの変動を捉えてしまい、トリガ点を誤検知する事態も生じ得る。そこで、実際には、電磁場の最初の検出から所定時間が経過した後に、トリガ点の検知動作を開始するようにしていた。つまり、無線タグには非検知時間が設定されており、a点近傍で最初に電磁場を検出してから非検知時間が経過した後に、トリガ点の検知動作を開始することで、b点をトリガ点として検知していた。
【0006】
しかしながら、国際的な大会と市民大会や、男子競技と女子競技など、競技者の力量(ループコイル上の移動速度)が異なる都度、この非検知時間を競技者の力量に合わせて適宜設定する必要があった。そのため、極めて煩雑であるだけでなく、非検知時間の誤った設定や、設定漏れが生じてしまうおそれもある。
また、ループコイル上に生成させる電磁場が適切でなかったり(大きすぎたり)、無線タグのトリガレベルが適切でないと(低すぎたりすると)、サイドローブSLを検出してしまうことも起こり得る。この場合、適切な非検知時間が設定されていたとしても、検知動作の開始が早すぎるため、無線タグは、b点以外で電磁場の変動を捉えてしまい、トリガ点を誤検知してしまうことがあった。
【0007】
更に、駅伝等のリレー競技では、たすきやバトンの受け渡しの際に、到着者(前区間を走行した競技者)と出発者(現区間をこれから走行する競技者)とが、同じループコイル上を走行することがある。このとき、両者の無線タグから、それぞれ競技タイムの送信が行われてしまう。
この際、有効となるのは、到着者の競技タイムだけであるため、出発者の無線タグから送信された競技タイムは、受信側で破棄する必要がある。そのため、受信側の処理装置に、各計時に対応して、到着者の無線タグを識別するための識別情報等を予め登録しておく必要があった。
また、そもそも、出発者の無線タグから不要な送信が行われてしまうため、コリジョンの発生等により、到着者の無線タグから競技タイムを送信する際に、悪影響を与えてしまうことも懸念される。
【0008】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、電磁場の誤検出等を防ぎつつ、競技者のタイムを適切に計時することのできる計時機器、計時システムおよびタイム計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る計時機器は、
移動体に保持される計時機器であって、
基準時刻を計時する計時手段と、
前記移動体が通過する経路上に配置された所定形状のアンテナが生成する2つの電磁場より、変調波を受信する受信手段と、
前記受信手段が受信した変調波を復調し、固有の識別情報を取得する情報取得手段と、
前記情報取得手段が識別情報を取得した後に、前記2つの電磁場の間に生じる電磁場の不検知期間を判別する判別手段と、
前記判別手段が判別した前記不検知期間の中間に、前記計時手段により計時された時刻を前記移動体が前記アンテナの配置された地点を通過した通過タイムとして特定するタイム特定手段と、
を備えることを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、計時機器は、移動体、例えば、競技者に保持され、その計時手段は、競技における基準時刻(例えば、ランニングタイム等)を計時する。また、受信手段は、経路上に配置された例えば、略8の字形状のアンテナが生成する2つの電磁場より、変調波(一例として、変調されたLF信号等)を受信する。情報取得手段は、受信手段が受信した変調波を復調し、固有の識別情報(例えば、ゲートID等)を取得する。判別手段は、情報取得手段が識別情報を取得した後に、2つの電磁場の間に生じる電磁場の不検知期間を判別する。そして、タイム特定手段は、判別手段が判別した不検知期間の中間に、計時手段により計時された時刻を移動体、例えば、競技者がアンテナの配置された地点を通過した通過タイム、換言すれば、競技タイムとして特定する。
つまり、識別情報を受信できるようになった後に、不検知期間の判別(より詳細にはトリガ点の検出)を開始することで、誤検知を防ぐことが可能となる。
この結果、電磁場の誤検出等を防ぎつつ、競技者のタイムを適切に計時することができる。
【0011】
前記判別手段は、予め想定された最速の前記移動体、例えば、競技者が、前記2つの電磁場間の幅を移動するのに要する時間よりも長時間に渡って、磁場の不検知が持続した場合に、前記不検知期間を判別してもよい。
【0012】
前記判別手段は、前記情報取得手段が識別情報を複数回取得した後に、前記不検知期間を判別してもよい。
【0013】
上記計時機器は、前記移動体としての競技者に保持され、
前記計時手段は、競技における基準時刻を計時し、
前記受信手段は、前記競技の走路上に配置された前記アンテナが生成する2つの電磁場より、前記変調波を受信し、
前記タイム特定手段は、前記通過タイムを前記競技の競技タイムとして特定してもよい。
【0014】
上記計時機器は、リレー競技用に、識別情報を記憶する記憶部を更に備え、
前記情報取得手段は、1種類目の識別情報を取得した際に、前記記憶部に識別情報を格納し、
前記判別手段は、前記情報取得手段が2種類目の識別情報を取得した後に、前記不検知期間を判別してもよい。
【0015】
上記目的を達成するため、本発明の第2の観点に係る計時システムは、
上述の第1の観点の発明に係る計時機器と、
前記識別情報を乗せた変調波を、前記移動体が通過する前記経路上に配置された前記所定形状の前記アンテナから送信する送信機と、
前記計時機器から送信される前記通過タイムと前記計時機器の識別情報とを受信する受信機と、
前記受信機の受信した前記通過タイムと前記計時機器の識別情報とに基づき前記移動体の通過タイムを処理する処理装置と、
を備えることを特徴とする。
【0016】
上記目的を達成するため、本発明の第3の観点に係るタイム計測方法は、
競技者に保持される計時機器におけるタイム計測方法であって、
競技における基準時刻を計時する計時ステップと、
走路上に配置された所定形状のアンテナが生成する2つの電磁場より、変調波を受信する受信ステップと、
前記受信ステップにて受信した変調波を復調し、固有の識別情報を取得する情報取得ステップと、
前記情報取得ステップにて識別情報を取得した後に、前記2つの電磁場の間に生じる電磁場の不検知期間を判別する判別ステップと、
前記判別ステップにて判別した前記不検知期間の中間に、前記計時ステップにて計時された時刻を競技タイムとして特定するタイム特定ステップと、
を備えることを特徴とする。
【0017】
この発明によれば、計時ステップでは、競技における基準時刻(例えば、ランニングタイム等)を計時する。また、受信ステップでは、走路上に配置された例えば、略8の字形状のアンテナが生成する2つの電磁場より、変調波(一例として、変調されたLF信号等)を受信する。情報取得ステップでは、受信ステップにて受信した変調波を復調し、固有の識別情報(例えば、ゲートID等)を取得する。判別ステップでは、情報取得ステップにて識別情報を取得した後に、2つの電磁場の間に生じる電磁場の不検知期間を判別する。そして、タイム特定ステップでは、判別ステップにて判別した不検知期間の中間に、計時ステップにて計時された時刻を競技タイムとして特定する。
つまり、識別情報を受信できるようになった後に、不検知期間の判別を開始することで、誤検知を防ぐことが可能となる。
この結果、電磁場の誤検出等を防ぎつつ、競技者のタイムを適切に計時することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、電磁場の誤検出等を防ぎつつ、移動体の通過タイム、例えば、競技者のタイムを適切に計時することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施の形態にかかる競技用計時システムについて、以下、図面を参照して説明する。なお、一例として、競技用計時システムがマラソン競技に適用された場合について説明する。
【0020】
(実施形態1)
図1は、この発明の実施の形態に適用される競技用計時システムの構成の一例を示す模式図である。
図示するように、この競技用計時システムは、競技が行われる走路やその周辺に配置されるLF信号送信機10、LFアンテナ20、受信機30、処理装置40、及び、競技者RNに保持される無線タグ50とを含んで構成される。
なお、LF信号送信機10、LFアンテナ20、及び、受信機30は、競技タイムを計時するための計時地点毎にそれぞれ配置される。
【0021】
LF(Low Frequency)信号送信機10は、計時地点の走路の沿道等に配置され、LF信号をLFアンテナ20に供給して電磁場を発生させ、LFアンテナ20上に到達した競技者RNの無線タグ50に向けてデータを送信する。
具体的にLF信号送信機10は、発振回路11と、処理部12と、変調回路13と、電力増幅回路14とを含んで構成される。
【0022】
発振回路11は、例えば、125kHzのLF信号を生成し、変調回路13に供給する。つまり、キャリア信号としてのLF信号を変調回路13に供給する。
【0023】
処理部12は、CPU(Central Processing Unit)等からなり、ゲートID等の情報を管理すると共に、変調回路13を制御して、ゲートIDを含む送信データを変調させる。
なお、このゲートIDは、各LF信号送信機10(各計時地点)に固有の識別情報であり、このゲートIDを無線タグ50に取得させる(受信させる)ことにより、競技者RNが通過した計時地点等を特定できるようになっている。
【0024】
変調回路13は、処理部12に制御され、送信データをOOK(On/Off Keying)変調方式によりキャリア信号に重畳する。その際、変調回路13は、マンチェスタ符号化により、送信データ中に0または1が連続する場合でも、常に変移可能な変調信号を生成する。
具体的に変調回路13は、図2(a)〜(d)に示すように、送信データをマンチェスタ符号化する。なお、送信データの信号速度を2kbpsとすると、変調信号の最大周期は、図2(a)に示すように、500μS(Lの期間は250μS)となる。また、変調信号の最小周期は、図2(c)に示すように250μS(Lの期間は125μS)となる。
【0025】
図1に戻って、電力増幅回路14は、変調回路13により送信データが重畳されたキャリア信号(LF信号)を適宜増幅してLFアンテナ20に供給する。つまり、LF信号をLFアンテナ20から必要な強度で空中に放出できる信号レベルまで増幅する。
【0026】
このような構成のLF信号送信機10は、具体的に、図3(a)に示すように、プリアンブル、スタートギャップ、及び、データからなる送信データを、変調等によって送信波形(LF信号)にして、LFアンテナ20から送信させる。
このプリアンブルは、受信した無線タグ50が、LF信号のスライスレベルを決めるために使用する基準信号(10mS)である。また、スタートギャップは、無線タグ50が、データの開始地点を認識するために使用する空時間(2mS)である。そして、データには、上述したゲートIDが含まれている(16mS)。
なお、スタートギャップ、及び、データは、図3(b)に示すように、繰り返し送信される。その際、1つ前のデータの信号がプリアンブルを兼ねることになる。
また、送信データの信号速度が2kbpsの場合、送信波形の最大変調速度は4kbpsとなる(最小変調速度:2kbps)。
【0027】
図1に戻って、LFアンテナ20は、所定形状に形成されたアンテナ(コイル)であり、競技者RNが走行する走路(具体的には、計時ラインLにより規定される計時ポイント)に適宜配置される。
LFアンテナ20は、一例として、図4(a)に示すような略「8の字」形状に形成されている。このLFアンテナ20は、8の字順方向巻きとなっており、8の字の中心(中点)、すなわち交差部に給電点s1を有するように形成され、この給電点s1を通って直線bを中心線として、直線a,cに沿って、8の字の上下部が形成されている。なお、直線bが、計時を行うための計時ラインLと重なるように、LFアンテナ20が配置される。
【0028】
このLFアンテナ20は、LF信号送信機10からLF信号が供給されると、LFアンテナ20上に電磁場を生成する。具体的には、図4(b)に示すように、一方のコイル部上に第1の電磁場20aを生成するとともに、他方のコイル部上に第1の電磁場20aに対して競技者RNの走行方向(矢印A方向)に隣接し且つ第1の電磁場20aと磁力を打ち消しあう第2の電磁場20bを生成する。
なお、無線タグ50がトリガ点(つまり、直線bに重なる計時ラインL)を検知できるように、例えば、競技者RNの無線タグ50の保持位置に応じて決められた計時ラインL上の所定の高さにおいて30cmの検知幅で、電磁場を検出しないようにLFアンテナ20上の電磁場が調整されている。
【0029】
図1に戻って、受信機30は、上述したLFアンテナ20の近傍に配置され、LFアンテナ20を通過した競技者RNの無線タグ50から送られるRF(Radio Frequency)信号を受信する。このRF信号には、無線タグ50を識別するためのタグID及び、検知されたトリガ点で計測(特定)された競技タイム等が含まれている。
そして、受信機30は、受信した競技タイム等を処理装置40に供給する。
【0030】
処理装置40は、パーソナルコンピュータ等からなり、無線タグ50により計測された競技タイムを集計する。
つまり、処理装置40は、LFアンテナ20上を通過した無線タグ50から送信されるRF信号を受信機30を介して受信すると、RF信号に含まれる競技タイム等を所定の記憶部に記憶する。
【0031】
一方、競技者RNに保持される無線タグ50は、例えば、胸ゼッケンに取り付けられ、競技者RNと共に走路上を移動する。無線タグ50は、LFアンテナ20上に生成される電磁場からゲートIDを取得した後に、一定時間以上のL(Low)期間が継続することにより、トリガ点を検知し、そのトリガ点における競技タイムを特定する。
【0032】
一例として、無線タグ50は、受信アンテナ51と、増幅回路52と、検波回路53と、電圧比較器54と、制御部55と、計時部56と、記憶部57と、通信回路58と、送信アンテナ59とを含んで構成される。
【0033】
受信アンテナ51は、例えば、フェライトアンテナ等のコイル状のアンテナからなり、電磁信号を効率的に電圧信号に変換する。具体的には、電磁場の検出方向が競技走路と垂直(つまり、検出面が走路に対して平行方向)となるように設定されており、上述したLFアンテナ20上に生成される電磁場を検出し、変調されたLF信号を受信する。
そして、受信アンテナ51は、受信したLF信号(電圧信号)を増幅回路52に供給する。
【0034】
増幅回路52は、受信アンテナ51から供給されるLF信号を適宜増幅する。例えば、LF信号のプリアンブルを基準として増幅率を自動的に調節し、増幅後のLF信号を検波回路53に供給する。
【0035】
検波回路53は、変調されたLF信号を復調する。例えば、図5(a)に示すような送信波形の信号を復調して、図5(b)に示すような復調波形(復調信号)を得る。
また、検波回路53は、LF信号(電磁界強度)に基づいて、電磁場の検出の有無を示す信号を生成し、制御部55に供給する。
【0036】
電圧比較器54は、ADコンバータ等からなり、検波回路53が復調した信号を、制御部55が扱えるデジタルデータに変換する。つまり、上述した図5(b)に示すような復調波形(復調信号)をデジタル化して、制御部55に供給する。
【0037】
制御部55は、CPU等からなり、無線タグ50全体を制御する。
具体的に制御部55は、電圧比較器54から供給された復調信号(デジタルデータ)を処理して、LF信号送信機10から送信されたゲートIDを含むデータを復元する。その際、データがマンチェスタ符号化されているため、その復号化も併せて行う。
なお、制御部55は、順次送られる複数のデータをそれぞれ復元し、ゲートIDを得ることになる。つまり、LF信号送信機10が上述したように、スタートギャップ及びデータを繰り返し送信するため、LFアンテナ20上の無線タグ50が電磁場を検出している間、ゲートIDを順次取得する。
【0038】
具体的に、LF信号送信機10からの1データの送信時間を、スタートギャップ(2mS)+データ(16mS)=18mSとし、競技者RNの移動速度が最大10m/S(100m走の世界記録に相当)とした場合では、図6(a)に示すように、第1の電磁場20aの磁界の幅が1mに設定されていると、制御部55は、競技者RNがその1mを移動する間に、5.5回(0.1S/18mS)のデータ受信(ゲートIDを取得)することになる。なお、実際には、競技者RNの移動速度が10m/Sよりも遅いため、この5.5回よりも多くデータ受信することになる。
そのため、制御部55は、図6(b)に示すように、複数回目のゲートIDを取得するとデータ確定し、その後、30mS以上のL(Low)期間(不検知期間)を待機する。この30mSは、上記と同様に移動速度10m/Sの競技者RNが、図6(a)に示す30cm(トリガ点の検知幅)を移動する際に要する時間である。そして、実際には、競技者RNの移動速度が10m/Sよりも遅いため、30mS以上の不検知期間を判別することで、競技者RNが計時ラインLを通過したことを判別できる。
この不検知期間の30mSは、スタートギャップ(2mS)と比べ、著しく大きい値であるため、混同等のおそれが極めて低く、識別が容易となる。
【0039】
制御部55は、このような不検知期間を識別すると、その中間の時刻を競技タイムとして特定する。
すなわち、制御部55は、データ確定後に、電圧比較器54から供給される信号の立ち下がり(HighからLow)及び、立ち上がり(LowからHigh)タイミングにて、計時部56により計時される時刻を取得し、その間(Lのまま維持された期間)が30mS以上であった場合に、不検知期間と識別する。
具体的に制御部55は、図6(c)に示すように、データ確定後の最初の立ち下がりタイミングで、時刻T1を取得する。そして、次の立ち上がりタイミングで、時刻T2を取得する。この間(T2−T1)は、2mS(スタートギャップ)であるため、制御部55は、不検知期間ではないと判別する。
続いて、制御部55は、次の立ち下がりタイミングで、時刻T3を取得する。そして、次の立ち上がりタイミングで、時刻T4を取得する。この間(T4−T3)が、30mS以上であるため、制御部55は、不検知期間であると判別する。
そして、制御部55は、時刻T3と時刻T4の中間の時刻を(T3+T4)/2により求め、その時刻を競技タイムとして特定する。
【0040】
制御部55は、このようにして特定した競技タイムを、ゲートIDと対応付けて記憶部57に記憶する。
【0041】
計時部56は、制御部55により適宜補正(設定)され、競技において基準となる基準時刻を計時する。
なお、計時部56は、高安定水晶発振器を備えており、基準時刻の計時を安定して維持することが可能となっている。
【0042】
記憶部57は、例えば、不揮発性メモリからなり、制御部55により特定された競技タイム及びゲートID等を記憶する。
この記憶部57には、例えば、各計時地点の数に相当する分の記憶エリアがそれぞれ設けられており、各計時地点(各LFアンテナ20上)にて特定した競技タイム及びゲートIDをそれぞれ別の記憶エリアに格納可能となっている。
なお、記憶部57は、更に別のエリアに、無線タグ50(競技者RN)に固有となる識別情報(タグID)等を予め記憶している。
【0043】
通信回路58は、制御部55が競技タイムを特定した後に、競技タイム、ゲートID、及び、タグIDを含むタイム情報を、上述した受信機30に向けて送信する。
例えば、通信回路58は、タイム情報を400MHzのRF信号に重畳して、送信アンテナ59を介して送信する。
なお、通信回路58は、受信機30によるポーリング受信に対応可能としてもよい。例えば、受信機30からポーリングによる送信要求情報を受信すると、通信回路58は、これに応答してタイム情報を受信機30に返信する。
【0044】
送信アンテナ59は、RFアンテナ等からなり、通信回路58によってタイム情報が重畳されたRF信号を所定の出力で空中に放出する。
【0045】
以下、上述した構成の競技用計時システムの動作について、図7を参照して説明する。図7は、無線タグ50の制御部55が実行するタイム計測処理を説明するためのフローチャートである。このタイム計測処理は、競技者RNが計時地点に到達する度に実行される。
【0046】
まず、制御部55は、電磁場を検出するまで待機する(ステップS11)。つまり、競技者RNがLFアンテナ20上に到達し、受信アンテナ51や検波回路53により電磁場を検出するまで、後続処理の実行を待機する。
【0047】
電磁場を検出すると、制御部55は、受信アンテナ51を介してLF信号を受信し、検波回路53により復調されたデータからゲートIDを取得する(ステップS12)。つまり、変調されたLF信号がLFアンテナ20から順次送信されるため、検波回路53により復調される度に、復調されたデータからゲートIDを取得する。
なお、電磁場の検出を開始する際(競技者RNがLFアンテナ20上に差し掛かった際)には、信号レベルが不安定であるため、ゲートIDを正常に取得できないこともあるが、競技者RNがLFアンテナ20上を移動するにつれて安定し、ゲートIDを正常に取得できるようになる。
【0048】
制御部55は、ゲートIDを複数回取得できたか否かを判別する(ステップS13)。つまり、複数回に渡り、ゲートIDを正常に取得できるほど、電磁場の安定したLFアンテナ20上の位置まで競技者RNが移動したかどうかを判別する。
なお、上述したように、競技者RNが図6(a)に示す第1の電磁場20a(1m)を移動する間に、LFアンテナ20からは、十分な回数(少なくとも5.5回分)のデータが順次送信されるようになっている。
【0049】
制御部55は、ゲートIDを複数回取得できていないと判別すると、上述のステップS12に処理を戻す。つまり、正常なゲートIDを再度取得することになる。
一方、ゲートIDを複数回取得できたと判別した場合に、制御部55は、復調信号の次の立ち下がりを監視し、立ち下がり時に計時部56にて計時される時刻を取得する(ステップS14)。
【0050】
続いて、制御部55は、復調信号の次の立ち上がりを監視し、立ち上がり時に計時部56にて計時される時刻を取得する(ステップS15)。
なお、このステップS15にて取得した立ち上がり時の時刻と、先のステップS14にて取得した立ち下がり時の時刻との差が、復調信号がLのまま維持された時間(L期間)となる。
【0051】
制御部55は、L期間が30mS以上であったか否かを判別する(ステップS16)。つまり、このL期間が不検知期間であったかどうかを判別する。なお、上述したように、30mS以上の不検知期間を判別することで、競技者RNが計時ラインLを通過したことを判別できる。
【0052】
制御部55は、L期間が30mS以上でない(30mS未満である)と判別すると、ステップS14に処理を戻し、上述したステップS14〜S16の処理を繰り返し実行する。つまり、不検知期間を判別するまで繰り返す。
一方、L期間が30mS以上であると判別した場合に、制御部55は、競技タイムを特定する(ステップS17)。つまり、不検知期間の中間の時刻を求め、その時刻を競技タイムとして特定する。
具体的には、上述の図6(c)に示すように、立ち上がり時刻T4と立ち下がり時刻T3との差(T4−T3)が、30mS以上である場合に、制御部55は、その期間の中間の時刻を(T3+T4)/2により求め、その時刻を競技タイムとして特定する。
【0053】
そして、制御部55は、競技タイム等を、受信機30に向けて送信する(ステップS18)。つまり、特定した競技タイム、ゲートID、及び、タグIDを含むタイム情報を、通信回路58にてRF信号に重畳し、送信アンテナ59を介して受信機30に送信する。
なお、処理装置40は、このようにして無線タグ50から送信されるRF信号を受信機30を介して受信すると、RF信号に含まれる競技タイム等を所定の記憶部に記憶する。
【0054】
このように、上述したタイム計測処理では、変調されたLF信号(変調波)を用いてトリガ点を検出する方式を採用している。つまり、LF信号送信機10からの変調波がLFアンテナ20の端(検出開始点の近傍)では信号レベルが不安定となるため、LF信号に載せられてきたゲートIDを正常に受信できないが、やがて、競技者RNがLFアンテナ20上を進むにつれて後信号が安定し、ゲートIDを正常に受信できるようになる。
そして、このようにゲートIDを正常に受信できるようになった後(複数回取得後)に、トリガ点の検出を開始することで、誤検知を防ぐことが可能となる。
この結果、電磁場の誤検出等を防ぎつつ、競技者のタイムを適切に計時することができる。
【0055】
(他の実施形態)
上記の実施の形態では、マラソン競技に適用される場合を一例として説明したが、他の競技、例えば、駅伝等のリレー競技にも適宜適用可能である。
なお、駅伝等のリレー競技では、たすきやバトンの受け渡しの際に、到着者(前区間を走行した競技者RN)と出発者(現区間をこれから走行する競技者RN)とが、同じLFアンテナ20上を走行することになる。
この場合、有効となるのは、到着者の競技タイムだけであるため、出発者の無線タグ50から送信等が行われない方が望ましい。
そこで、駅伝等のリレー競技の場合に、無線タグ50は、2種類目のゲートIDを取得した際に、競技タイムの特定及び、競技タイム等の送信を行うようにしてもよい。
【0056】
具体的に、無線タグ50(制御部55)は、図8に示すリレー競技用のタイム計測処理を実行する。なお、このタイム計測処理は、図7に示すタイム計測処理にステップS21及びS22の処理を追加したものである。
以下、図8のタイム計測処理について、簡単に説明する。
【0057】
まず、制御部55は、電磁場を検出するまで待機し(ステップS11)、電磁場を検出すると、受信アンテナ51を介してLF信号を受信し、検波回路53により復調されたデータからゲートIDを取得する(ステップS12)。
【0058】
制御部55は、ゲートIDを複数回取得できたか否かを判別し(ステップS13)、複数回取得できたと判別すると、異なるゲートIDを記憶済であるか否かを判別する(ステップS21)。つまり、競技者RNが既に別のLFアンテナ20上を通過(出発時のLFアンテナ20上を通過)しているかどうかを判別する。
なお、異なるゲートIDを記憶済であれば、その競技者RNは到着者となり、異なるゲートIDを記憶していなければ、その競技者RNは出発者となる。
【0059】
制御部55は、異なるゲートIDを記憶済でないと判別すると、取得したゲートIDを記憶部57に記憶する(ステップS22)。つまり、出発者がLFアンテナ20上を通過したため、このLFアンテナ20から取得したゲートIDを記憶しておく。
そして、制御部55は、上述したステップS11に処理を戻す。つまり、次の計時地点のLFアンテナ20に到達するまで、ステップS14以降の処理は行われない。
【0060】
一方、ステップS21にて、異なるゲートIDを記憶済であると判別した場合に、制御部55は、ステップS14以降の処理に進むことになる。
すなわち、制御部55は、立ち下がり時に計時部56にて計時される時刻を取得し(ステップS14)、続いて、立ち上がり時に計時部56にて計時される時刻を取得し(ステップS15)、L期間が30mS以上であったか否かを判別する(ステップS16)。
そして、L期間が30mS以上であると判別した場合に、制御部55は、競技タイムを特定し(ステップS17)、競技タイム等を、受信機30に向けて送信する(ステップS18)。
【0061】
このように、上述したリレー競技用のタイム計測処理では、2種類目のゲートIDを取得した到着者の無線タグ50だけが、競技タイムを特定し、そして、その競技タイム等の送信を行う。
このため、不要なRF信号の送出を抑えることで、電波の輻輳を回避することが可能となる。
【0062】
以上説明したように、本発明によれば、電磁場の誤検出等を防ぎつつ、競技者のタイムを適切に計時することができる。
【0063】
上述の各実施形態では、マラソン競技の競技者に保持される無線タグ50を用いた競技用計時システムを例にして本発明を説明したが、本発明は、これに限らず移動体に計時機器を保持させて移動体の通過タイムを計時する様々な計時システムに応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施の形態に係る競技用計時システムの構成の一例を示す模式図である。
【図2】(a)〜(d)共に、マンチェスタ符号化を説明するための模式図である。
【図3】(a)が送信データと変調された送信波形を説明するための模式図であり、(b)が送信波形の詳細を説明するための模式図である。
【図4】(a)が走路上に配置されたLFアンテナの一例を示す模式図であり、(b)が生成される電磁場の一例を示す模式図である。
【図5】(a)が送信波形を示す模式図であり、(b)が復調された復調波形を示す模式図である。
【図6】(a)が電磁場の幅を説明するための模式図であり、(b)、(c)が、トリガ検出の様子を説明するための模式図である。
【図7】本発明の実施の形態に係るタイム計測処理を説明するためのフローチャートである。
【図8】本発明の他の実施形態に係るリレー競技用のタイム計測処理を説明するためのフローチャートである。
【図9】(a),(b)共に、従来技術を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0065】
10 LF信号送信機
20 LFアンテナ
30 受信機
40 処理装置
50 無線タグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に保持される計時機器であって、
基準時刻を計時する計時手段と、
前記移動体が通過する経路上に配置された所定形状のアンテナが生成する2つの電磁場より、変調波を受信する受信手段と、
前記受信手段が受信した変調波を復調し、固有の識別情報を取得する情報取得手段と、
前記情報取得手段が識別情報を取得した後に、前記2つの電磁場の間に生じる電磁場の不検知期間を判別する判別手段と、
前記判別手段が判別した前記不検知期間の中間に、前記計時手段により計時された時刻を前記移動体が前記アンテナの配置された地点を通過した通過タイムとして特定するタイム特定手段と、
を備えることを特徴とする計時機器。
【請求項2】
前記判別手段は、予め想定された最速の前記移動体が、前記2つの電磁場間の幅を移動するのに要する時間よりも長時間に渡って、磁場の不検知が持続した場合に、前記不検知期間を判別する、
ことを特徴とする請求項1に記載の計時機器。
【請求項3】
前記判別手段は、前記情報取得手段が識別情報を複数回取得した後に、前記不検知期間を判別する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の計時機器。
【請求項4】
前記移動体としての競技者に保持され、
前記計時手段は、競技における基準時刻を計時し、
前記受信手段は、前記競技の走路上に配置された前記アンテナが生成する2つの電磁場より、前記変調波を受信し、
前記タイム特定手段は、前記通過タイムを前記競技の競技タイムとする、
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の計時機器。
【請求項5】
リレー競技用に、識別情報を記憶する記憶部を更に備え、
前記情報取得手段は、1種類目の識別情報を取得した際に、前記記憶部に識別情報を格納し、
前記判別手段は、前記情報取得手段が2種類目の識別情報を取得した後に、前記不検知期間を判別する、
ことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の計時機器。
【請求項6】
前記識別情報は、マンチェスタ符号化されて前記変調波に乗せられていることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の計時機器。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項に記載の計時機器と、
前記識別情報を乗せた変調波を、前記移動体が通過する前記経路上に配置された前記所定形状の前記アンテナから送信する送信機と、
前記計時機器から送信される前記通過タイムと前記計時機器の識別情報とを受信する受信機と、
前記受信機の受信した前記通過タイムと前記計時機器の識別情報とに基づき前記移動体の通過タイムを処理する処理装置と、
を備えることを特徴とする計時システム。
【請求項8】
競技者に保持される計時機器におけるタイム計測方法であって、
競技における基準時刻を計時する計時ステップと、
走路上に配置された所定形状のアンテナが生成する2つの電磁場より、変調波を受信する受信ステップと、
前記受信ステップにて受信した変調波を復調し、固有の識別情報を取得する情報取得ステップと、
前記情報取得ステップにて識別情報を取得した後に、前記2つの電磁場の間に生じる電磁場の不検知期間を判別する判別ステップと、
前記判別ステップにて判別した前記不検知期間の中間に、前記計時ステップにて計時された時刻を競技タイムとして特定するタイム特定ステップと、
を備えることを特徴とするタイム計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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