説明

記憶素子及び記憶装置

【課題】 記憶層の耐圧を充分に確保することを可能にすると共に、初期化動作に必要な電圧値を低く抑えることが可能な構成の記憶素子を提供する。
【解決手段】 第1の電極と第2の電極との間に、記憶層4が挟まれて構成され、この記憶層4が、絶縁性或いは半絶縁性であり、記憶層4に接して金属元素を含有する層が設けられ、第1の電極と第2の電極間に電圧を印加することにより、記憶層4の抵抗値が変化する構成であり、記憶層4が厚さ方向において不連続に金属元素41が含有されている記憶素子を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報を記録することができる記憶素子、及び記憶素子を用いた記憶装置に係わる。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ等の情報機器においては、ランダム・アクセス・メモリとして、動作が高速で、高密度のDRAMが広く使用されている。
【0003】
しかしながら、DRAMは、電子機器に用いられる一般的な論理回路LSIや信号処理と比較して製造プロセスが複雑であるため、製造コストが高くなっている。
また、DRAMは、電源を切ると情報が消えてしまう揮発性メモリであり、頻繁にリフレッシュ動作、即ち書き込んだ情報(データ)を読み出し、増幅し直して、再度書き込み直す動作を行う必要がある。
【0004】
そこで、電源を切っても情報が消えない不揮発性のメモリとして、例えばFeRAM(強誘電体メモリ)やMRAM(磁気記憶素子)等が提案されている。
これらのメモリの場合、電源を供給しなくても書き込んだ情報を長時間保持し続けることが可能になる。
また、これらのメモリの場合、不揮発性とすることにより、リフレッシュ動作を不要にして、その分消費電力を低減することができると考えられる。
【0005】
しかしながら、上述の不揮発性のメモリは、各メモリセルを構成するメモリ素子の縮小化に伴い、記憶素子としての特性を確保することが困難になってくる。
このため、デザインルールの限界や製造プロセス上の限界まで素子を縮小化することは難しい。
【0006】
そこで、縮小化に適した構成のメモリとして、新しいタイプの記憶素子が提案されている。
この記憶素子は、2つの電極の間に、ある金属を含むイオン導電体を挟んだ構造である。
そして、2つの電極のいずれか一方にイオン導電体中に含まれる金属を含ませることにより、2つの電極間に電圧を印加した場合に、電極中に含まれる金属がイオン導電体中にイオンとして拡散するため、これによりイオン導電体の抵抗値或いはキャパシタンス等の電気特性が変化する。
この特性を利用して、メモリデバイスを構成することが可能である(例えば特許文献1、非特許文献1参照)。
【0007】
具体的には、イオン導電体はカルコゲナイドと金属との固溶体よりなり、さらに具体的には、AsS,GeS,GeSeにCu,Ag,Znが固溶された材料からなり、2つの電極のいずれか一方の電極には、Cu,Ag,Znを含んでいる(上記特許文献1参照)。
【0008】
さらに、結晶酸化物材料を用いた各種不揮発メモリも提案されており、例えば、CrがドープされたSrZrO結晶材料を、SrRuO或いはPtによる下部電極と、Au或いはPtによる上部電極とにより挟んだ構造のデバイスにおいて、極性の異なる電圧の印加により可逆的に抵抗が変化することによるメモリが報告されている(非特許文献2参照)。ただし、その原理等の詳細は不明である。
【特許文献1】特表2002−536840号公報
【非特許文献1】日経エレクトロニクス 2003年1月20日号(第104頁)
【非特許文献2】A.Beck et al.,Appl.Phys.Lett.,77,(2000年),p.139
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した、上部電極或いは下部電極のいずれかにCu,Ag,Znを含み、それらの電極にGeS或いはGeSeアモルファスカルコゲナイド材料が挟まれた構造の記憶素子や、結晶酸化物材料を用いた記憶素子は、抵抗のオン・オフ比、即ち低抵抗状態の抵抗値(オン抵抗)と高抵抗状態の抵抗値(オフ抵抗)との比が、非常に大きく、例えば4桁以上もある。
【0010】
そして、このように抵抗のオン・オフ比が非常に大きい記憶素子に対して、短い電圧パルスを印加した場合には、それらの抵抗値の中間値をとる場合がある。
記憶素子の抵抗値が中間値をとると、読み出し時にデータ識別のマージンが低下してしまう。
【0011】
この抵抗値が中間値をとる問題は、抵抗が変化する薄膜、例えばGeS,GeSe等の膜厚が比較的厚く(例えば10nm以上)なっているため、電圧を印加した場合の電界強度が比較的弱くなり、そのために、イオンとして移動すべきCu,Ag,Zn等の原子が一定の位置の間を移動するのではなく、その途中でトラップされてしまう結果であると考えられる。また、抵抗が変化する薄膜の膜厚が比較的厚いことから、記憶素子の動作速度が遅くなる。
さらに、記録・消去の動作時の電界強度が弱くなることから、移動後のイオン原子(記録過程又は消去過程の後にはイオン状態から非イオン状態に遷移している)が移動を再開するエネルギーレベルが低くなることが予想され、その結果として、不揮発性メモリとして必要な保持特性を充分に確保することが困難になる。
【0012】
従って、前述した記憶素子において、抵抗が変化することにより情報が記録される記憶層には、薄い膜厚でも充分な絶縁耐圧を有する材料を用いることが望ましい。
さらにまた、記憶層が低抵抗となった状態では、比較的大きな電流密度の電流が流れて、ジュール熱により比較的高温になることから、融点の高い材料を用いることが望ましい。
【0013】
そこで、本発明者等は、先に、抵抗が変化することにより情報が記録される記憶層に、希土類酸化物薄膜を用いることを提案している。
記憶層に希土類酸化物薄膜を用いることにより、膜厚を薄くしても充分な抵抗変化が得られるため、膜厚を薄くして電界強度を強くすることにより、上述した問題を解決することが可能になる。
【0014】
ところで、上述したイオンの移動を利用する構成の記憶素子において、最初の記録時には、通常動作時に必要な電圧(電界)の値よりも、大きな電圧値を要する場合がある。
これはイオンの移動する経路が確定していないためであり、大きな電圧をかけることにより、絶縁性である希土類酸化物薄膜中にイオンを拡散させることができる。
即ち、この過程は、経路の初期化に該当する。
【0015】
この初期化に必要な電圧は、同一の記憶層の材料とした構成で比較すると、記憶層の厚さに依存するものであり、記憶層が薄くなれば初期化に必要な電圧は低くなる。
初期化のために電圧を加えると、イオンが拡散されることにより、電流経路が形成される。
そして、この初期化の際の電圧が高い場合には、大きな電流が流れ、拡散されるイオンの量も多くなるため、その後の消去動作にも高いエネルギーが必要となる。
このように、高いエネルギーで動作させ続けることは、記憶素子の特性を劣化させる原因ともなり、記憶素子の信頼性に影響を与えることとなる。
また、初期化に高い電圧が必要となる場合には、メモリデバイスにおいては駆動用のトランジスタとして大きなものが必要となることから、消費電力やチップ面積等にも影響を及ぼす。
【0016】
従って、初期化に必要な電圧は、なるべく低く、通常の記録や消去に必要な電圧に近い値であることが望ましい。
【0017】
しかしながら、初期化の電圧を低く抑えるために記憶層を薄くすると、希土類酸化物薄膜を用いた場合でも、充分な耐圧が取れなくなることがある。
【0018】
上述した問題の解決のために、本発明においては、記憶層の耐圧を充分に確保することを可能にすると共に、初期化動作に必要な電圧値を低く抑えることが可能な構成の記憶素子及びこれを用いた記憶装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の記憶素子は、第1の電極と第2の電極との間に、記憶層が挟まれて構成され、この記憶層が、絶縁性或いは半絶縁性であり、記憶層に接して金属元素を含有する層が設けられ、第1の電極と第2の電極間に電圧を印加することにより、記憶層の抵抗値が変化するものであって、記憶層は、厚さ方向において不連続に、金属元素が含有されているものである。
【0020】
本発明の記憶装置は、上記本発明の記憶素子と、第1の電極側に接続された配線と、第2の電極側に接続された配線とを有し、記憶素子が多数配置されて成るものである。
【0021】
上述の本発明の記憶素子の構成によれば、第1の電極と第2の電極との間に、記憶層が挟まれて構成され、第1の電極と第2の電極間に電圧を印加することにより、記憶層の抵抗値が変化する構成であるので、記憶層の抵抗値が変化することを利用して、情報を記録することが可能になる。
【0022】
また、記憶層が絶縁性或いは半絶縁性であるため、記憶素子に電圧を印加していない状態では、記憶層の抵抗値が高くなっている。
そして、この記憶層に接して金属元素を含有する層が設けられているため、この層自身、或いはこの層側の一方の電極が正電位となるように記憶素子に電圧をかけると、金属元素がイオン化して記憶層内に拡散し、他方の電極側の部分で電子と結合して析出することにより、或いは、記憶層中に留まり不純物準位を形成することによって、記憶層の抵抗値が低くなり、これにより情報の記録を行うことが可能になる。
また、この状態から、金属元素を含有する層或いはこの層側の電極が負電位となるように記憶素子に電圧をかけると、他方の電極側に析出していた、或いは不純物準位を形成していた、金属原子が再びイオン化して、一方の電極側に戻ることによって、記憶層の抵抗値が元の高い状態に戻り、これにより記録した情報の消去を行うことが可能になる。
【0023】
さらに、記憶層が、厚さ方向において不連続に金属元素が含有されていることにより、絶縁性或いは半絶縁性である記憶層の一部の領域に、予め金属元素による欠陥が形成された状態になっており、低い電圧の印加により、容易に金属元素のイオンが移動して他方の電極側に移動する。
また、イオンが移動した後の空いたサイトには、記憶層に接する金属元素を含有する層から、新たなイオンが移動して入るため、このような動作が連続的に生じて、すみやかに導電経路を形成することが可能になる。
即ち、初期化に必要なエネルギー(電圧)を低減することができる。
【0024】
そして、金属元素が記憶層の厚さ方向に不連続に含有されており、記憶層全体が金属元素化合物となっている場合や、金属元素が記憶層の厚さ方向に連続している構成となっている場合と比較して、金属元素が含有されていない(絶縁性又は半絶縁性の材料のみである)部分がある程度の厚さ連続している。これにより、記憶層が絶縁性又は半絶縁性を有すると共に、ある程度の耐圧を確保することが可能になる。
【0025】
上述の本発明の記憶装置の構成によれば、上記本発明の記憶素子と、第1の電極側に接続された配線と、第2の電極側に接続された配線とを有し、記憶素子が多数配置されて成ることにより、記憶素子に配線から電流を流して情報の記録・消去や記録された情報の読み出しを行うことができる。
【発明の効果】
【0026】
上述の本発明によれば、初期化に必要なエネルギー(電圧)を低減することができるため、初期化の際に記憶層の特性を劣化させるような大きい電圧を印加する必要がない。これにより、記憶素子、特に記憶層の信頼性を維持することができる。
また、記憶装置において、駆動用のトランジスタを大きくする必要がなくなることから、消費電力やチップの面積を抑えることができる。
そして、記憶層を薄くしなくても、初期化電圧を低減することができることから、記憶層を充分に耐圧を維持する厚さとすることができる。
【0027】
さらに、記憶素子の抵抗値の変化、特に記憶層の抵抗値の変化を利用して情報の記録を行っているため、記憶素子を微細化していった場合にも、情報の記録や記録した情報の保持が容易になる利点を有している。
【0028】
従って、本発明により、消費電力が少なく、高い信頼性を有する記憶装置を構成することができる。
また、記憶装置の高集積化(高密度化)や小型化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の一実施の形態として、記憶素子の概略構成図(断面図)を図1に示す。
この記憶素子10は、高電気伝導度の基板1、例えばP型の高濃度の不純物がドープされた(P++の)シリコン基板1上に下部電極2が形成され、この下部電極2上にイオン源となる金属元素が含有された、イオン源層3が形成され、その上に比較的高い抵抗値を有する記憶層4が形成され、この記憶層4上の絶縁層5に形成された開口を通じて記憶層4に接続するように上部電極6が形成されて構成されている。
【0030】
下部電極2には、半導体プロセスに用いられる配線材料、例えばTiW,Ti,W,Cu,Al,Mo,Ta,WN,TaN,シリサイド等を用いることができる。
この下部電極2に、例えばTiW膜を用いた場合には、膜厚を例えば10nm〜100nmの範囲にすればよい。
【0031】
また、イオン源層3には、陽イオンとなる金属元素、例えば、1価の陽イオンになりうるCu,Ag,Na,Li,K,Rb,Cs,Tlと、2価の陽イオンになりうるZnとから選ばれる1種以上の元素を含有させる。
イオン源層3の材料としては、例えば、Cu,Ag,Znの少なくともいずれか、さらに、Te,Se,Sのカルコゲナイド元素の少なくともいずれかを含有する、CuTe、GeSbTe,CuGeTe,AgGeTe、AgTe、ZnTe、ZnGeTe,CuS、CuGeS、CuSe,CuGeSe等を用いることができる。これらの材料に、さらに、ボロン、或いは希土類元素及びシリコンを含有させてもよい。
【0032】
特に、抵抗値が変化する部分を、比較的高い抵抗値を有する記憶層4に限定し、この高抵抗の記憶層4に比して、充分抵抗が低い材料(例えば、記憶層4のオン時の抵抗値よりも低い)という観点から、イオン源層3のカルコゲナイド元素としてはTeを用いることが望ましく、それらに、陽イオンとして容易に移動しやすい、Cu,Ag,Znを含んだ、CuTe,AgTe,ZnTeを主成分とする材料によりイオン源層3を形成することが望ましい。
さらに、イオン源層3の陽イオンとなる元素としてCuを用いて、CuTeを含む構成とすると、イオン源層3の抵抗を低くしてイオン源層3の抵抗変化を記憶層4の抵抗変化と比較して充分に小さくすることができるため、メモリ動作の安定性を向上することができるため、より好ましい。
このイオン源層3に、例えば、CuGeTe膜を用いた場合には、膜厚を例えば5nm〜50nmにすればよい。
【0033】
絶縁層5には、例えばハードキュア処理されたフォトレジスト、半導体装置に一般的に用いられるSiOやSi、その他の材料、例えばSiON,SiOF,Al,Ta,HfO,ZrO等の無機材料、フッ素系有機材料、芳香族系有機材料等を用いることができる。
上部電極6には、下部電極2と同様、通常の半導体配線材料が用いられる。
【0034】
また、記憶層4は、絶縁性或いは半絶縁性として、比較的高い抵抗値を有するように構成する。
即ち、例えば、酸化物や窒化物等の絶縁性の材料や半絶縁性の材料を用いて、記憶層4を構成すればよい。このような酸化物としては、例えば、酸化ガドリニウム等の希土類元素の酸化物が挙げられる。
【0035】
本実施の形態の記憶素子10においては、特に、絶縁性或いは半絶縁性を有する記憶層4に、イオン源層3に含有されている陽イオンとなる金属元素を含有させた構成とする。
さらに、記憶層4に含有される金属元素が、記憶層4全体に一様に含有されているのではなく、また記憶層4中に層をなすことなく、かつ、金属元素から成る粒子が記憶層4の厚さ方向に離散的に配置されている構成とする。
【0036】
即ち、記憶層4の断面図を図2に示すように、陽イオンとなる金属元素から成る粒子41を、絶縁性又は半絶縁性の材料から成る層42中に、厚さ方向に離散的に配置させる。
図2では、金属元素から成る粒子41が、記憶層4の厚さ方向の2箇所に集中して配置されている。
【0037】
図2に示したように、イオン源となる金属元素(粒子41)を、面内方向には層をなさない疎な配置とすることにより、その上下の絶縁性又は半絶縁性の材料から成る層42が粒子41の間も埋めて厚さ方向に連続形成されることになり、金属元素を含む粒子を密な配置として絶縁性又は半絶縁性の材料を完全に分離してしまう場合に比較して、良好なものに保つことができる。
また、粒子41を、厚さ方向において均一な分布をなさずに2箇所の集中した配置としていることにより、その上下の絶縁性又は半絶縁性の材料から成る層42がある程度の厚さ(図2のt1,t2,t3)を有するので、充分な耐圧を維持することができる。
【0038】
これにより、イオン源元素41を配置しないで絶縁性又は半絶縁性の材料から成る層42のみで同じ厚さの記憶層4を構成した場合よりも、薄い記憶層4を用いた場合の特性に近いものとなり、初期化動作の際に必要な電圧を低く抑えることができる。
また、単独で薄い記憶層(例えば図2中のt1と同じ厚さ)を用いたときよりも、記憶層4の膜質は良好なものとなるため、充分な耐圧を維持することができる。
【0039】
そして、例えば、イオン源層3にCuGeTe膜を用いた場合には、記憶層4に含有させる金属元素をCuとして、絶縁性又は半絶縁性の材料から成る層42中に、Cuの粒子41を配置する。
【0040】
本実施の形態の記憶素子10は、次のように動作させて、情報の記憶を行うことができる。
【0041】
まず、陽イオンとなる金属元素が含まれたイオン源層3に、例えば正電位(+電位)を印加して、上部電極6側が負になるように、記憶素子10に対して正電圧を印加する。これにより、イオン源層3から陽イオンとなる金属元素がイオン化して、記憶層4内を拡散していき、上部電極6側で電子と結合して析出する、或いは、記憶層4内部に拡散した状態で留まる。
すると、記憶層4内部に金属元素を多量に含む電流パスが形成される、もしくは、記憶層4内部に金属元素による欠陥が多数形成されることによって、記憶層4の抵抗値が低くなる。記憶層4以外の各層は、記憶層4の記録前の抵抗値に比べて、元々抵抗値が低いので、記憶層4の抵抗値を低くすることにより、記憶素子10全体の抵抗値も低くすることができる。
【0042】
その後、正電圧を除去して、記憶素子10にかかる電圧をなくすと、抵抗値が低くなった状態で保持される。これにより、情報を記録することが可能になる。一度だけ記録が可能な記憶装置、いわゆる、PROMに用いる場合には、前記の記録過程のみで記録は完結する。
【0043】
一方、消去が可能な記憶装置、いわゆる、RAM或いはEEPROM等への応用には、消去過程が必要であるが、消去過程においては、金属元素が含まれたイオン源層3に、例えば負電位(−電位)を印加して、上部電極6側が正になるように、記憶素子10に対して負電圧を印加する。これにより、記憶層4内に形成されていた電流パス或いは不純物準位を構成する金属元素がイオン化して、記憶層4内を移動してイオン源層3側に戻る。
すると、記憶層4内から金属元素による電流パス、もしくは、欠陥が消滅して、記憶層4の抵抗値が高くなる。記憶層4以外の各層は元々抵抗値が低いので、記憶層4の抵抗値を高くすることにより、記憶素子10全体の抵抗値も高くすることができる。
その後、負電圧を除去して、記憶素子10にかかる電圧をなくすと、抵抗値が高くなった状態で保持される。これにより、記録された情報を消去することが可能になる。
【0044】
このような過程を繰返し行うことにより、記憶素子10に情報の記録(書き込み)と記録された情報の消去を繰返し行うことができる。
【0045】
また、特に、イオン源層3が、上述の陽イオンとなる金属元素に加えて、Te,S,Seから選ばれる元素即ちカルコゲン元素を含むことにより、イオン源層3内の金属元素とカルコゲン元素(Te,S,Se)とが結合し、金属カルコゲナイド層を形成する。この金属カルコゲナイド層は、主に非晶質構造を有しており、例えば、金属カルコゲナイド層から成るイオン源層3に接する下部電極2側に正電位を印加すると、金属カルコゲナイド層に含まれる金属元素がイオン化して、高抵抗を呈する記憶層4中に拡散し、上部電極6側の一部で電子と結合して析出することにより、或いは、記憶層4中に留まり絶縁膜の不純物準位を形成することによって、記憶層4の抵抗が低くなり、これにより情報の記録を行うことが可能になる。
この状態から、金属カルコゲナイド層から成るイオン源層3に接する下部電極2側に負電位を印加すると、上部電極6側に析出していた金属元素が再びイオン化して、金属カルコゲナイド層に戻ることによることによって、記憶層4の抵抗が元の高い状態に戻り、記憶素子10の抵抗も高くなるので、これにより記録した情報の消去を行うことが可能になる。
【0046】
そして、例えば、抵抗値の高い状態を「0」の情報に、抵抗値の低い状態を「1」の情報に、それぞれ対応させると、正電圧の印加による情報の記録過程で「0」から「1」に変え、負電圧の印加による情報の消去過程で「1」から「0」に変えることができる。
【0047】
なお、記憶層4は、記録前の初期状態は高抵抗であるのが一般的であるが、プロセス工程でのプラズマ処理、アニール処理等によって、初期に記録状態である低抵抗を呈していても構わない。
記録後の抵抗値は、記憶素子10のセルサイズ及び記憶層4の材料組成よりも、記録時に印加される電圧パルス或いは電流パルスの幅や電流量等の記録条件に依存し、初期抵抗値が100kΩ以上の場合には、およそ50Ω〜50kΩの範囲となる。
記録データを復調するためには、初期の抵抗値と記録後の抵抗値との比が、およそ2倍以上であれば充分であるので、記録前の抵抗値が100Ωで、記録後の抵抗値が50Ω、或いは、記録前の抵抗値が100kΩ、記録後の抵抗値が50kΩといった状況であれば充分であり、記憶層4の初期の抵抗値はそのような条件を満たすように設定される。記憶層4の抵抗値は、例えば、酸素濃度、膜厚、面積、さらには、陽イオンとなる金属元素以外の不純物材料を添加することによって調整することが可能である。
【0048】
上述の実施の形態の記憶素子10の構成によれば、下部電極2と上部電極6との間に、陽イオンとなる金属元素を含むイオン源層3と、記憶層4とが挟まれた構成とすることにより、例えば、イオン源層3側に正電圧(+電位)を印加して、上部電極6側が負になるようにした場合に、記憶層4内に、金属元素を多量に含む電流パスが形成されて、或いは記憶層4内に、金属元素による欠陥が多数形成されることによって、記憶層4の抵抗値が低くなり、記憶素子10全体の抵抗値が低くなる。そして、正電圧の印加を停止して、記憶素子10に電圧が印加されないようにすることで、抵抗値が低くなった状態が保持され、情報を記録することが可能になる。このような構成は、例えばPROM等の一度だけ記録が可能な記憶装置に用いることができる。
【0049】
そして、記憶素子10の抵抗値の変化、特に記憶層4の抵抗値の変化を利用して情報の記憶を行っているため、記憶素子10を微細化していった場合にも、情報の記録や記録した情報の保存が容易になる。
【0050】
また、例えば、RAMやEEPROM等の記録に加えて消去が可能な記憶装置に用いるような場合は、上述した記録後の状態の記憶素子10に対して、例えば、イオン源層3に負電圧(−電位)を印加して、上部電極6側が正になるようにする。これにより、記憶層4内に形成されていた、金属元素による電流パス、或いは欠陥が消滅して、記憶層4の抵抗値が高くなり、記憶素子10全体の抵抗値が高くなる。そして、負電圧の印加を停止して、記憶素子10に電圧が印加されないようにすることで、抵抗値が高くなった状態が保持され、記録されていた情報を消去することが可能になる。
【0051】
そして、本実施の形態の記憶素子10の構成によれば、特に、絶縁性或いは半絶縁性を有する記憶層4に、イオン源層3に含有されている陽イオンとなる金属元素を含有させていることにより、記憶素子10に電圧を印加していない状態でも、記憶層4中に金属元素による欠陥が形成されており、低い電圧で容易に金属元素のイオンが移動を開始する。イオンが移動した後の空いたサイトには、記憶層4に接するイオン源層3から新たなイオンが移動して入るため、このような動作が連続的に生じて、すみやかに導電経路を形成することが可能になる。これにより、初期化動作を低いエネルギー(電圧)で行うことが可能になる。
このように初期化動作を低い電圧で行うことができるため、初期化の際に記憶層4の特性を劣化させるような大きい電圧を印加する必要がなくなり、記憶素子4の信頼性を維持することができる。
【0052】
さらに、この金属元素が記憶層4全体に一様に含有されているのではなく、また記憶層4中に層をなすことなく、かつ、金属元素から成る粒子41が記憶層4の厚さ方向に離散的に配置されていることにより、絶縁性或いは半絶縁性の材料42がある程度の厚さで連続して形成されており、これにより充分な耐圧を確保することが可能になる。
また、記憶層4を薄くしなくても、初期化電圧を低減することができるため、記憶層4を充分に耐圧を維持する厚さとすることができる。
【0053】
従って、本実施の形態によれば、初期化動作を低い電圧で行うことができ、かつ充分な耐圧を確保することができるため、記憶素子10の信頼性、特に記憶層4の信頼性を維持して、情報の記録・消去を繰り返し安定して行うことができる。
これにより、回路的負担を抑制することができ、記憶装置の高集積化(高密度化)や励消費電力化、小型化を図ることができる。
【0054】
また、本実施の形態の記憶素子10によれば、下部電極2、イオン源層3、記憶層4、上部電極6を、いずれもスパッタリングが可能な材料で構成することが可能である。例えば、各層の材料に適応した組成からなるターゲットを用いて、スパッタリングを行えばよい。
また、同一のスパッタリング装置内で、ターゲットを交換することにより、連続して成膜することも可能である。
【0055】
なお、上述した実施の形態の記憶素子10において、記憶層4の酸化物薄膜は、酸化物のスパッタリングターゲットを用いる方法や、金属ターゲットを用いて、スパッタリング中に導入ガスとしてアルゴン等の不活性ガスと共に酸素を導入する方法、いわゆる反応性スパッタリング等の方法を用いることにより形成することが可能である。
さらに、スパッタリングの他、CVD法、或いは蒸着法等の方法によっても酸化物薄膜を形成することが可能である他、成膜時には金属状態であって、その後に、熱酸化或いは薬品処理等の手法によって酸化物薄膜を形成することも可能である。
【0056】
図1の記憶素子10は、例えば次のようにして製造することができる。
まず、電気伝導度の高い基板1、例えば高濃度のP型の不純物がドープされたシリコン基板上に、下部電極2、例えばTa膜を堆積する。
【0057】
次に、下部電極2の上に、イオン源層3、例えばCuTeGe膜を形成する。
さらに、イオン源層3の上に、記憶層4を形成する。
【0058】
図2に示す断面構造の記憶層4は、例えば、以下の手順で形成することができる。
まず、イオン源層3の上に、絶縁性の材料から成る層42として、例えば酸化ガドリニウム層を、厚さt1で形成する。
次に、金属元素の粒子41として、例えばCuを、その堆積速度をもとにして、層を成すに不充分な短い時間内で堆積させる。即ち、堆積速度×時間<粒子径となるように時間を選定する。これにより、Cu粒子41が、記憶層4の面内において、一様ではなく散在して堆積する。
その上に、絶縁性の材料から成る層42として、例えば酸化ガドリニウム層を、厚さt2で形成する。これにより、散在しているCu粒子41の間も酸化ガドリニウム層42で埋められる。
次に、Cu粒子41を、層を成すに不充分な短い時間内で堆積させる。
さらに、酸化ガドリニウム層42を、厚さt3で形成する。
このようにして、図2に示した断面構造の記憶層4を形成することができる。
【0059】
その後に、記憶層4を覆うように絶縁層5を形成するが、フォトリソグラフィによって、絶縁層5の一部を除去し、記憶層4へのコンタクト部を形成する。
【0060】
続いて、例えばマグネトロンスパッタリング装置によって、上部電極6として、例えばW膜を成膜する。
その後、W膜を、例えばプラズマエッチング等によりパターニングする。プラズマエッチングの他には、イオンミリング、RIE(反応性イオンエッチング)等のエッチング方法を用いてパターニングを行うことができる。
このようにして、図1に示した記憶素子10を製造することができる。
【0061】
上述した実施の形態の記憶素子10を用いて、記憶素子10を多数、例えば列状やマトリクス状に配置することにより、記憶装置(メモリ)を構成することができる。
各記憶素子10に対して、その下部電極2側に接続された配線と、その上部電極6側に接続された配線とを設け、例えばこれらの配線の交差点付近に各記憶素子10が配置されるようにすればよい。
【0062】
具体的には、例えば下部電極2を行方向のメモリセルに共通して形成し、上部電極6に接続された配線を列方向のメモリセルに共通して形成し、電位を印加して電流を流す下部電極2と配線とを選択することにより、記録を行うべきメモリセルを選択して、このメモリセルの記憶素子10に電流を流して、情報の記録や記録した情報の消去を行うことができる。
【0063】
そして、上述した実施の形態の記憶素子10は、初期化動作を低い電圧で行うことができるため、記憶素子10、特に記憶層4の信頼性を維持して、情報の記録・消去を繰り返し安定して行うことができる。これにより、回路的負担を抑制することができ、記憶装置の消費電力を低減することが可能になる。
また、上述した実施の形態の記憶素子10は、微細化していった場合においても、情報の記録や記録した情報の保持が容易になる。
従って、上述した実施の形態の記憶素子10を用いて記憶装置を構成することにより、記憶装置の集積化(高密度化)や小型化を図ることができる。
【0064】
なお、上述した実施の形態の記憶素子10では、金属元素を含有する粒子41が、記憶層4中に、層をなすことなく離散的に配置されている構成であったが、本発明ではその他の構成とすることも可能である。
例えば、金属元素がごく薄い層となっていて、各層が記憶層の厚さ方向にそれぞれ離間して形成されている構成が考えられる。
また、記憶層中にスポット的に金属元素が含有されている構成も考えられる。
本発明では、記憶層の厚さ方向において、不連続に金属元素が含有されている構成であればよい。
【0065】
(実施例)
次に、上述した実施の形態の記憶素子10を実際に作製して、特性を調べた。
【0066】
<実験1>
シリコンウエハ(シリコン基板1)上に、下部電極2としてW膜を20nmの膜厚で堆積し、その上にイオン源層3としてCu50Te35Ge15膜を20nmの膜厚で形成し、記憶層4として酸化ガドリニウム層42中にCu粒子41を配置した構成のものを形成し、表面を覆ってフォトレジストを成膜し、その後、フォトリソグラフィ技術により露光と現像を行って、記憶層4上のフォトレジストに開口(スルーホール)を形成した。
【0067】
このうち、Cu粒子41が配置された酸化ガドリニウム層42は、以下の手順で形成を行った。
まず、金属状態のガドリニウム膜をスパッタリングにより膜厚0.9nmで成膜する。
その後、Cu粒子41を、層を成さないように堆積させる。具体的には、Cuの原子の直径0.256nmであるから、それよりも低い値となるような堆積速度と堆積時間を設定することによりCuの配置を行う。ここでは、計算上で厚さ0.1nmとなる条件設定で堆積を行った。
さらに、膜厚0.9nmのガドリニウム膜の成膜、厚さ0.1nm相当のCu粒子41の堆積、膜厚0.9nmのガドリニウム膜の成膜を行った。
その後、酸素含有プラズマ雰囲気中で酸化処理を施すことにより、ガドリニウム膜を酸化して、Cu粒子41が配置された酸化ガドリニウム層42を形成した。
なお、記憶層4は、この酸化処理により、元の金属状態(酸化前)よりも若干厚くなっているものと推測される。
【0068】
その後、真空中においてアニール処理を行い、フォトレジストを変質させて、温度やエッチング等に対して安定なハードキュアレジストとして絶縁層5を形成した。なお、絶縁層5にハードキュアレジストを用いたのは、実験上簡便に形成できるためであり、製品を製造する場合においては、他の材料(例えばシリコン酸化膜等)を絶縁層5に用いた方がよい。
次いで、上部電極6としてW膜を100nmの膜厚で成膜した。その後、フォトリソグラフィ技術により、プラズマエッチング装置を用いて、ハードキュアレジストから成る絶縁層5上に堆積した上部電極6をパターニングした。
このような構造の記憶素子10を作製して、サンプル1の試料とした。
【0069】
また、記憶層4となる酸化前の積層構造を、下層から膜厚1.4nmのガドリニウム膜/厚さ0.1nm相当のCu粒子41/膜厚1.4nmのガドリニウム膜とした以外は、サンプル1と同様にして記憶素子10を作製して、サンプル2の試料とした。
また、記憶層4となる酸化前の積層構造を、下層から膜厚1.4nmのガドリニウム膜/厚さ0.2nm相当のCu粒子41/膜厚1.4nmのガドリニウム膜とした以外は、サンプル1と同様にして記憶素子10を作製して、サンプル3の試料とした。
また、記憶層4となる酸化前の積層構造を、下層から膜厚1.4nmのガドリニウム膜/厚さ0.3nm相当のCu粒子41/膜厚1.4nmのガドリニウム膜とした以外は、サンプル1と同様にして記憶素子10を作製して、サンプル4の試料とした。
【0070】
これらサンプル1〜サンプル4の試料に対して、それぞれ、I−V特性を測定した。
I−V測定は以下のように行った。
各サンプルの記憶素子に対して、下部電極2と導通しているシリコンウエハ(シリコン基板1)の裏面を接地電位(グランド電位)に接続して、上部電極6に負電位(−電位)を印加した。
そして、上部電極6に印加する負電位を0Vから絶対値を増大させて、電流の変化を測定した。ただし、電流が1mAに達した所で電流リミッタが動作するように設定しておいて、それ以上は上部電極6に印加する負電位、即ち記憶素子に加わる電圧の絶対値が増加しないように設定した。
また、電流が1mAに達して電流リミッタが動作した状態から、上部電極6に印加する負電位を0Vまで絶対値を減少させていき、電流の変化を測定した。引き続き、今度は、逆に上部電極6に正電位を印加し、電流が減少し、電流が流れなくなるような電圧まで正電圧の印加を増加させた後に、再び0電位に戻す操作を行った。
この過程を数回繰り返して行った。
【0071】
このようにして得られた、サンプル1の記憶素子10のI−V特性の測定結果を、図3に示す。
図3に示すように、最初のループでは、比較的高い負電圧で、高抵抗状態から低抵抗状態に遷移する。このときの電圧を初期化電圧Voとする。そして、正電位を増大させていくと、消去電圧Veにおいて、低抵抗状態から高抵抗状態に遷移する。さらに、2回目以降のループでは、初期化電圧Voよりも絶対値の小さい記録電圧Vrで、高抵抗状態から低抵抗状態に遷移する。
【0072】
また、サンプル1と同様にして、サンプル2〜サンプル4のI−V特性から、初期化電圧Voにおいて得られた初期化電圧Voを求めた。
そして、各サンプルについて、同一ウエハ上の4個の記憶素子において初期化電圧Voを測定して、その平均値を求めた。得られた初期化電圧(平均値)を、表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
表1から、サンプル1は、他のサンプルと比較して、0.78Vと初期化電圧が大きく低減されていることがわかる。これは、Cuの間の絶縁層(酸化ガドリニウム層)42の厚さが他のサンプルよりも薄くなっているために、絶縁層42を通じたリークを生じやすくなっているためと推測される。
なお、サンプル1では、絶縁層42が3層あることにより、膜厚0.9nmのガドリニウム膜単層を酸化して記憶層となる絶縁層を形成した構成と比較して、リークを低減し、充分な耐圧を確保することができる。
また、サンプル3においては、記憶層4に含まれるCu粒子の割合は、サンプル1とほぼ同一になっているが、サンプル1ほどは初期化電圧が低下していない。このことから、記憶層4に含まれるCuの配置が重要であることがわかる。
また、サンプル4では、若干初期化電圧が低下している。サンプル4では、厚さ0.3nm相当でCu粒子41を堆積させており、Cu粒子の割合がサンプル2やサンプル3よりも多くなっているためと推測される。
【0075】
ところで、記憶層4中のCuの量を増やし過ぎると、記憶層4が絶縁性又は半絶縁性から導電性になってしまうため、記憶層4の抵抗値の変化が小さくなり、記憶層4に記録された情報の読み出しが難しくなるので、好ましくない。Cuの量は、記憶層4が絶縁性又は半絶縁性を維持する程度にする。
【0076】
<実験2>
図1に示した記憶素子10の代わりに、本発明の他の実施の形態として、図4に示す記憶素子20を作製して、特性を調べた。
図4に示す記憶素子20は、図1に示した先の実施の形態の記憶素子10とは逆に、イオン源層3よりも記憶層4が下層になっている。また、イオン源層3と上部電極6とが同じパターンで、かつ絶縁層5に形成された開口内に埋め込まれて形成されている。
【0077】
図4に示す記憶素子20においても、先の実施の形態の記憶素子10と同様に、記憶層4を前述した構成とすることにより、初期化動作を低い電圧で行うことができるため、記憶素子、とくに記憶層の信頼性を維持し、情報の記録・消去を、繰り返し安定して行うことができる。
さらにこれにより回路的負担を抑えることができ、記憶装置の高集積化(高密度化)や励消費電力化、小型化を図ることができる。
【0078】
このような構成の記憶素子20は、前述の記憶素子10の手順を一部変更することにより製造することができる。
【0079】
図4に示す記憶素子20の構造と図1に示した記憶素子10の構造とでは、イオン源層3と記憶層4との上下の位置関係が逆であり、成膜順序が異なっているため、特に膜厚が薄い記憶層4において、その下地膜の状態の違いによりメモリ特性も異なることになる。図1に示した記憶素子10では、記憶層4の直下の下地膜はイオン源層3であり、一方図4に示す記憶素子20では、記憶層4の直下の下地膜は下部電極2である。
【0080】
そして、上述した製造方法と同様にして、シリコンウエハ(シリコン基板1)上に、下部電極2としてW膜を200nmの膜厚で堆積し、その上に記憶層4として酸化ガドリニウム層42中にCu粒子41を配置した構成のものを形成し、表面を覆ってフォトレジストを成膜し、その後、フォトリソグラフィ技術により露光と現像を行って記憶層4上のフォトレジストに開口(スルーホール)を形成した。そしてその後に、酸素含有プラズマ雰囲気中で酸化処理を施すことにより、Cu粒子41が配置された酸化ガドリニウム層42を形成した。記憶層4は、この酸化処理により、もとの金属状態(酸化前)での記憶層よりも若干厚くなっているものと推測される。
その後、真空中においてアニール処理を行い、フォトレジストを変質させて、温度やエッチング等に対して安定なハードキュアレジストとして絶縁層5を形成した。なお、絶縁層5にハードキュアレジストを用いたのは、実験上簡便に形成できるためであり、製品を製造する場合においては、他の材料(例えばシリコン酸化膜等)を絶縁層5に用いた方がよい。
次いで、イオン源層3としてCu50Te35Ge15膜を20nmの膜厚で形成し、上部電極6としてW膜を200nmの膜厚で形成した。その後、フォトリソグラフィ技術により、プラズマエッチング装置を用いて、ハードキュアレジストから成る絶縁層5上に堆積した上部電極6をパターニングした。
【0081】
そして、記憶層4となる酸化前の構造を、膜厚2.8nmのガドリニウム膜のみとして、記憶素子20を作製して、サンプル5の試料とした。
また、記憶層4となる酸化前の積層構造を、下層から膜厚0.9nmのガドリニウム膜/厚さ0.1nm相当のCu粒子/膜厚0.9nmのガドリニウム膜/厚さ0.1nm相当のCu粒子/膜厚0.9nmのガドリニウム膜として、記憶素子20を作製して、サンプル6の試料とした。
また、記憶層4となる酸化前の構造を、下層から膜厚0.9nmのガドリニウム膜/厚さ0.1nm相当のCu粒子/膜厚0.9nmのガドリニウム膜/厚さ0.1nm相当のCu粒子/膜厚0.9nmのガドリニウム膜/厚さ0.1nm相当のCu粒子として、記憶素子20を作製して、サンプル7の試料とした。
【0082】
これらサンプル5〜サンプル7の試料について、同一ウエハ上の3個の記憶素子20のI−V特性を測定した。そして、I−V特性から初期化電圧を求め、3個の記憶素子20の平均値を算出した。得られた初期化電圧(平均値)を、表2に示す。
【0083】
【表2】

【0084】
表2から、図4に示す構成の記憶素子20においても、Cu粒子41を記憶層4内に配置することにより初期化電圧の低下が観察された。
さらに、サンプル6とサンプル7の間でも初期化電圧の差が観察されており、イオン源層3との界面にもCu粒子41を配置したことによりさらに初期化電圧が低下している。これは、記憶層4内の酸素がイオン源層3との界面付近で酸化層を形成し、最表層のCuはその中に含まれる結果となり、初期化電圧の差が観察されたものと考えられる。
【0085】
さらに記憶素子20の形態で、記憶層4におけるCuの配置状態を変えて、初期化電圧の違いを調べた。
記憶層4となる酸化前の積層構造を、(膜厚0.93nmのガドリニウム膜/厚さ0.1nm相当のCu粒子)を3層積層した構造として、記憶素子20の試料を作製して、サンプル8とした。
また、記憶層4となる酸化前の積層構造を、(膜厚0.7nmのガドリニウム膜/厚さ0.1nm相当のCu粒子)を4層積層した構造として、記憶素子20の試料を作製して、サンプル9とした。
また、記憶層4となる酸化前の積層構造を、(膜厚0.56nmのガドリニウム膜/厚さ0.1nm相当のCu粒子)を5層積層した構造として、記憶素子20の試料を作製して、サンプル10とした。
即ち、これらのサンプルは、酸化前の積層構造中の、ガドリニウム膜の総膜厚が2.8nmと等しくなっている。従って、記憶層4中の酸化ガドリニウム層42の総膜厚も等しくなっていると推測される。
【0086】
これらサンプル8〜サンプル10の試料について、同一ウエハ上の3個の記憶素子20のI−V特性を測定して、3個の記憶素子20の初期化電圧の平均値を算出した。
得られた結果として、積層構造中の1層当たりのGd(ガドリニウム)膜の膜厚と初期化電圧(平均値)との関係を、図5に示す。
【0087】
図5より、1層当たりのGd膜厚が薄いほど、初期化電圧が小さくなることがわかる。
即ち、記憶層4中の酸化ガドリニウム層42の厚さが同程度であっても、どのようにCuを配置するかにより、初期化電圧は変化することがわかる。
なお、Gdの原子半径は0.178nmであり、これ以上Gd層の1層当たりの層厚が薄くなって上の下Cu粒子が接触するようになると、耐圧が充分でなくなり、電流リークが発生するようになると考えられる。
【0088】
<実験3>
次に、図4に示した記憶素子20の代わりに、本発明のさらに他の実施の形態として、図6に示す記憶素子30を作製して、特性を調べた。
図6に示す記憶素子30は、図4に示した先の実施の形態の記憶素子20と同様で、記憶素子10とは逆に、イオン源層3よりも記憶層4が下層になっている。また、上部電極6は、記憶層4及びイオン源層3と同じパターンで形成されている。下部電極2は、さらに小さいパターンで形成され、絶縁膜5に形成された開口内に埋め込まれている。
【0089】
図6に示す記憶素子30においても、先の各実施の形態の記憶素子10,20と同様の効果が得られる。
【0090】
このような構成の記憶素子30は、以下のようにして製造することができる。
抵抗率の低いシリコン基板1上に、絶縁膜(例えば、Al,Ta等)5を一様にスパッタリングにより堆積し、その後にフォトリソグラフィにより下部電極形成用パターン(パターン部はレジストなし)をフォトレジストにより形成し、その後に、RIE(Reactive Ion Etching)により、絶縁膜5を部分的に除去する。
次に、下部電極2を形成する材料(例えば、W等)をスパッタリングにより一様に堆積させる。その後、CMP(化学的機械的研磨)法により表面を処理することにより、表面を平坦化して、下部電極材料が下部電極形成用パターン内にのみ残留するようにする。これにより下部電極2が所定のパターンで形成される。
次に、スパッタリングにより、記憶層4、イオン源層3、上部電極6の各層を連続的に形成する。
その後、フォトリソグラフィ及びエッチング処理により、これらの膜4,3,6をパターニングして、図6の構造の記憶素子30を作製することができる。
【0091】
そして、上述した製造方法により、シリコンウエハ(シリコン基板1)上に、下部電極2としてW膜を200nmの膜厚で堆積し、その上に記憶層4として酸化ガドリニウム層42中にCu粒子41を配置した構成のものを形成し、イオン源層3としてCu50Te35Ge15膜を20nmの膜厚で形成し、上部電極5としてW膜を200nmの膜厚で形成して、図6に示した記憶素子30を作製した。なお、絶縁膜5は酸化珪素膜を形成し、下部電極形成用パターンのサイズは、およそ1μmφとした。
記憶層4となる酸化前の構造を、膜厚2.8nmのガドリニウム膜として、記憶素子30の試料を作製して、サンプル11とした。
記憶層4となる酸化前の積層構造を、(膜厚0.93nmのガドリニウム膜/厚さ0.1nm相当のCu粒子)を3層積層した構造として、記憶素子30の試料を作製して、サンプル12とした。
記憶層4となる酸化前の積層構造を、(膜厚0.93nmのガドリニウム膜/厚さ0.1nm相当のシリコンSi粒子)を3層積層した構造として、記憶素子30の試料を作製して、サンプル13とした。
記憶層4となる酸化前の積層構造を、(膜厚0.93nmのガドリニウム膜/厚さ0.1nm相当のタングステンW粒子)を3層積層した構造として、記憶素子30の試料を作製して、サンプル14とした。
【0092】
これらサンプル11〜サンプル14の試料について、同一ウエハ上の3個の記憶素子20のI−V特性を測定して、3個の記憶素子20の初期化電圧の平均値を算出した。
得られた結果として、積層構造中の元素による初期化電圧の違いを表3に示す。
【0093】
【表3】

【0094】
表3より、明確に初期化電圧の低下が観察されるのは、Cuを含有させたサンプル12のみであった。
シリコンSiは、ガドリニウムを酸化する際に同時に酸化されてしまうため、電流経路となり得ない。
タングステンWは、酸化されても、なお導電性を維持すると考えられるが、初期化電圧の明確な低下観測できないことから、単純に導電性不純物を配置するだけでは、この効果を得られず、配置された元素自体が電圧(電界)によってイオン化しやすいものである必要があると考えられる。
【0095】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲でその他様々な構成が取り得る。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の一実施の形態の記憶素子の概略構成図(断面図)である。
【図2】図1の記憶層の断面図である。
【図3】サンプル1の記憶素子のI−V特性の測定結果である。
【図4】本発明の他の実施の形態の記憶素子の概略構成図(断面図)である。
【図5】記憶層中の1層当たりのGd膜厚と初期化電圧との関係を示した図である。
【図6】本発明のさらに他の実施の形態の記憶素子の概略構成図(断面図)である。
【符号の説明】
【0097】
1 基板、2 下部電極、3 イオン源層、4 記憶層、5 絶縁層(絶縁膜)、6 上部電極、10,20,30 記憶素子 41 金属元素を含有する粒子、42 絶縁性或いは半絶縁性材料から成る層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極と第2の電極との間に、記憶層が挟まれて構成され、
前記記憶層が、絶縁性或いは半絶縁性であり、
前記記憶層と、金属元素を含有する層とが、積層され、
前記第1の電極と前記第2の電極間に電圧を印加することにより、前記記憶層の抵抗値が変化する記憶素子であって、
前記記憶層は、厚さ方向において不連続に、前記金属元素が含有されている
ことを特徴とする記憶素子。
【請求項2】
前記記憶層が、酸化物又は窒化物から成ることを特徴とする請求項1に記載の記憶素子。
【請求項3】
前記金属元素が、1価の陽イオンになりうるCu,Ag,Na,Li,K,Rb,Cs,Tlと、2価の陽イオンになりうるZnとから選ばれる1種以上の元素であり、かつ、前記記憶層が希土類金属元素及び遷移金属元素の酸化物から成ることを特徴とする請求項2に記載の記憶素子。
【請求項4】
前記金属元素を含有する層が、CuTeを含んで成ることを特徴とする請求項1に記載の記憶素子。
【請求項5】
前記記憶層中に、前記金属元素を含有する粒子が、層をなすことなく離散的に配置されている構成であることを特徴とする請求項1に記載の記憶素子。
【請求項6】
第1の電極と第2の電極との間に、記憶層が挟まれて構成され、前記記憶層が、絶縁性或いは半絶縁性であり、前記第1の電極と前記第2の電極間に電圧を印加することにより、前記記憶層の抵抗値が変化し、前記記憶層は、厚さ方向において不連続に、前記金属元素が含有されている記憶素子と、
前記第1の電極側に接続された配線と、
前記第2の電極側に接続された配線とを有し、
前記記憶素子が多数配置されて成る
ことを特徴とする記憶装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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