記録ヘッド、記録ヘッドの製造方法、インクジェット記録装置、インクジェット記録方法
【課題】複数の吐出口群それぞれから種類の異なるインクを吐出させる記録ヘッドにおいて、高速記録においても主滴と副滴との着弾位置のずれを抑え、高品質な画像の形成を可能にする。
【解決手段】記録ヘッドの吐出エレメント11には、液体を吐出する複数の吐出口4aからなる複数の吐出口群41,42が形成されている。吐出口4aを先端に有するノズル4の軸線L1と直交する基準平面Fに対し、異なる角度θ1,θ2で交差する二以上の平面上に位置する吐出口面F1,F2に複数の吐出口群41,42が形成されている。
【解決手段】記録ヘッドの吐出エレメント11には、液体を吐出する複数の吐出口4aからなる複数の吐出口群41,42が形成されている。吐出口4aを先端に有するノズル4の軸線L1と直交する基準平面Fに対し、異なる角度θ1,θ2で交差する二以上の平面上に位置する吐出口面F1,F2に複数の吐出口群41,42が形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数種の液体を吐出可能な記録ヘッド及びその製造方法、並びに前記記録ヘッドを用いて画像を記録するインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細なインク等の液滴を記録媒体に付着させて記録を行うインクジェット方式の記録装置は、ランニングコストが低く、記録時の静粛性に優れている。さらにこの方式の記録装置は、複数色のインクを用いることによって比較的容易にカラーでの記録を行えるというメリットもある。また、液滴を吐出するための圧力発生素子として気泡発生素子を用いた、いわゆるバブルジェット方式は、素子を高密度に配列するのが比較的容易で、そのため高解像度の印字を行うのに有利な方式である。
【0003】
インクジェット記録装置には、電気熱変換体(ヒータ)やピエゾ素子などを用いて、インクなどの液体を吐出可能な記録ヘッドが用いられている。図11(a)のように、電気熱変換体101を用いた記録ヘッドHの場合には、その電気熱変換体101の発熱により流路102内の液体を発泡させる(図11(b),(c)参照)。このとき生じる気泡Bの発泡エネルギーにより、流路内の液体は、吐出口103から吐出される。この後、気泡Bは図11(d),(e)のように消泡する。また、ここに示す記録ヘッドHには、気泡Bの発泡エネルギーを吐出口103の方向に効果的に作用させるために、流路102内に可動弁104が備えられている。インクジェット記録装置は、このような記録ヘッドHの吐出口103から吐出した液体を記録媒体上に付着させることにより、記録媒体上に画像を記録するものである。こうしたインクジェット記録装置では、画像品質の向上とともに、記録速度の向上が重要な開発課題となっており、現在では高速記録を実現するものが種々提案、実施されている。
【0004】
しかし、近年の記録動作の高速化に伴い、記録ヘッドHには新たな問題が顕在化してきている。すなわち、図11(d)に示すように、吐出口103から押し出された液柱を分断して液滴(主滴)を形成する際、通常は、図11(e)のように、主滴Dmと共に、サテライトと呼ばれる副滴Dsが形成される。そして、この主滴Dmと副滴Dsとが図12(b),(c)に示すように、録媒体上にずれて着弾することにより、画像品質が低下するという問題が生じている。
【0005】
図12(a)の速度ベクトルに示すように、副滴Dsの吐出速度Vsは、主滴Dmの吐出速度Vmよりも低い。このため、記録ヘッドHと記録媒体Wとの相対的な移動速度Vfが高くなるにつれて、主滴Dmと副滴Dsとの着弾位置のずれdは増大する。なお、図12(a),(b),(c)においては、記録ヘッドHに対して記録媒体Wが移動するものとして表されている。図中、D1は、主滴Dmによって記録媒体W上に形成されるドット、D2は、副滴Dsによって記録媒体W上に形成されるドットである。
【0006】
従来は、このような主滴と副滴の着弾位置のずれを小さく抑えるために、記録ヘッドHの吐出口が形成されている面(以下、吐出口面と称す)と記録媒体との間の距離h(図12参照)を短くしたり、あるいは液体の吐出速度を高めたりしていた。
【0007】
一方、特許文献1には、インクの主滴と副滴の吐出方向を一致させるための構成が記載されている。この特許文献1の構成は、吐出口と流路を含むノズルの形成材料が部分的に異なり、各材質間の表面エネルギの差、つまりインクに対する濡れ性の差によって主滴とサテライトとが吐出方向にずれることに着目してなされたものである。すなわち、表面エネルギの大きい材料が位置する側の流路部分よりも、表面エネルギが小さい材料が位置する側の流路部分を短くするように吐出口面を傾斜させることで、主滴とサテライトの吐出方向を一致させる構成となっている。
【0008】
【特許文献1】特開2000−263788号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、主滴と副滴の着弾位置のずれを小さく抑えるべく、記録ヘッドの吐出口面と記録媒体と間の距離hを短くしようとしても、その距離hの短縮化には限界がある。すなわち、距離hが短すぎた場合には、液体(インク)が付与されることによってコックリングが生じた記録媒体が、記録ヘッドの吐出口面に接触する虞がある。また、記録媒体の表面から跳ね返った液体やミスト状の液体が吐出口面に付着して、液体の吐出不良をもたらすおそれもある。従って、距離hには、一定以上の間隔を維持しておく必要がある。
【0010】
このように、記録速度の更なる高速化に対応すべく、記録ヘッドの吐出口面と記録媒体と間の距離hを短くするという方法では、主滴と副滴の着弾位置のずれを十分に抑えることは難しい。
【0011】
一方、特許文献1には、図12(a)に示すように、単に、主滴と副滴の吐出方向を一致させるための構成が記載されている。しかし、このような構成では、図12(b),(c)のような記録速度の更なる高速化に伴う問題、つまり、主滴と副滴の着弾位置のずれの増大化を抑えることはできない。
【0012】
このように従来においては、記録速度の高速化に伴って増大する主滴と副滴の着弾位置のずれを十分に抑えることができない。特に、産業用のインクジェット記録装置において求められている要求、つまり記録速度の高速化と画像の高品質化に応えることは難しい。
【0013】
一方、マルチカラー化やスポットカラー化を実現し得る記録装置を構成するにあたり、装置の大型化を避けるために、単一の記録ヘッドを用いることも提案されている。この単一の記録ヘッドは、その内部に、異なる種類のインクを吐出するための複数の共通液室が分割して形成されると共に、記録媒体との対向面である吐出口面に、複数の共通液室に対応した複数種のノズル口群が形成されている。そして、各ノズル口群からそれぞれ異なるインクを吐出する。この記録ヘッドは、異なるインクを吐出する別体の複数個の記録ヘッドを並設する場合に比べて、小型化することができ、これを用いる記録装置の小型化も可能になる、という利点を有している。
【0014】
しかしながら、液体は種類によって組成が異なることから、粘度や表面張力といった物性も異なり、それに伴って液滴の飛翔速度にも差が生じる。そのため、記録に使用している液体の種類によって、記録媒体上の着弾予定位置に液滴が正確に着弾する場合と、着弾予定位置からずれた位置に液滴が着弾する場合とが生じる。従って、複数種の液体を用いて記録を行うマルチカラーあるいはスポットカラーなどでは、着弾位置にズレが発生していない部分と、発生している部分とが混在してしまうこととなり、これが画像品質の低下を招いている。
【0015】
本発明の目的は、複数の吐出口群それぞれから種類の異なるインクを吐出させる記録ヘッドにおいて、高速記録においても主滴と副滴との着弾位置のずれを抑え、高品質な画像の形成を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明は以下の構成を有する。
【0017】
本発明の第1の形態は、液体を吐出する複数の吐出口からなる吐出口群が複数形成された記録ヘッドにおいて、前記吐出口を先端に有するノズルの軸線と直交する基準平面に対し、異なる角度で交差する二以上の平面上に位置する吐出口面に前記複数の吐出口群が形成されていることを特徴とする記録ヘッド。
【0018】
本発明の第2の形態は、液体を吐出する複数の吐出口からなる吐出口群を複数備えた記録ヘッドの製造方法であって、前記複数の吐出口群を形成してなる吐出口形成部の少なくとも一部に、平面状の研磨部材を吐出口に連通するノズルの軸線と直交しない角度で摺動させることにより、前記吐出口形成部に複数の異なる平面を形成することを特徴とする。
【0019】
本発明の第3の形態は、上記の記録ヘッドと記録媒体とを相対移動させる移動手段と、前記記録ヘッドと前記記録媒体とを相対移動させつつ、前記記録ヘッドから液体を吐出させる制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0020】
本発明の第4の形態は、液体を吐出する複数の吐出口を形成する吐出口形成部を有し、前記吐出口形成部には異なるインクを吐出する複数種の吐出口群が形成された記録ヘッドを用いて画像の記録を行うインクジェット記録方法において、前記記録ヘッドは、前記吐出口を先端に有するノズルの軸線と直交する基準平面に対し、異なる角度で交差する二以上の平面上に位置する吐出口面に前記複数の吐出口群が形成され、前記基準平面上に位置させた記録媒体と前記記録ヘッドとを相対移動させつつ前記複数の吐出口群から異なるインクを吐出させて記録媒体上に記録を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、複数の吐出口群が、ノズルの軸線と直交する基準平面と交差する複数の吐出口面に形成されているため、各吐出口から主滴が吐出される方向と、副滴が吐出される方向とを、積極的に異ならせることができる。このため、記録媒体上における主滴と副滴の着弾位置のずれを小さく抑えることができる。しかも、本発明においては、複数の吐出口面と基準平面とのなす角度が異なるため、種類の異なるインクを異なる吐出口面から吐出させることで、インクの種類によって主滴と副滴との着弾位置のずれをより小さく抑えることが可能となる。これにより、記録速度の高速化を図りつつ、画像の高品質化を実現することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1の実施形態)
図1は本発明が適用されたインクジェット記録ヘッドH(以下、単に記録ヘッドと称す)を示す斜視図である。
図1において、10は記録ヘッドHの底部を構成するセラミックプレートである。このセラミックプレート10上には、インク滴の吐出を行う吐出エレメント11と、この吐出エレメント11の左右両側面部および上面部を覆う流路形成部材12が配置されている。吐出エレメント11には、インクを吐出するノズルが所定の密度で複数個配列されている。なお、本明細書および特許請求の範囲において、ノズルとは、後に説明するインクの吐出口、これに連通する液路、およびインクを吐出させるための吐出エネルギを発生する吐出エネルギ発生素子としての電気熱変換素子を含むものとする。
【0023】
また、記録ヘッドH内には、各ノズルに連通する複数個の共通液室が形成されており、この共通液室内には図外のインクタンクから供給される複数種のインクが、流路形成部材12に設けられたインク供給口3aを通じて供給される。
【0024】
図2は、記録ヘッド10におけるノズル近傍部分の一部切欠斜視図である。
ヒータボード1にはインクを加熱発泡させるためのヒータ(電気熱変換体)2が複数配置されている。ヒータ2としてはチッ化タンタル等の抵抗体が用いられ、例えば、その厚さは0.01〜0.5μm、そのシート抵抗値は単位正方形当たり10〜300Ωである。ヒータ2には、通電のためのアルミニウム等の電極(図示せず)が接続されている。この電極の一方は、ヒータ2に対する通電を制御するためのスイッチングトランジスタ(図示せず)に接続されている。スイッチングトランジスタは、制御用のゲート素子等の回路からなるICによって駆動制御され、記録装置からの信号に応じてヒータ2を制御する。
【0025】
ヒータ2は、複数の流路3のそれぞれに形成されている。それぞれの流路3の一端は対応する吐出口4aに連通し、それぞれの流路3の他端は共通液室5に連通している。流路3は、ヒータボード1、ノズル壁6、厚さ5〜10μm程度のノズル土手7、および厚さ2μm程度の天板ノズル8によって囲まれて管状を成している。本例において、ノズル壁6、ノズル土手7、天板ノズル8は感光性エポキシ樹脂により形成されている。
【0026】
流路3内には可動弁9が備えられている。この可動弁9の自由端9Aは吐出口4a側に位置し、その基端は共通液室5側に位置している。可動弁9の基端側は弁台座10(図3参照)によってヒータボード1に取り付けられている。天板ノズル8は、Si等によって形成される流路形成部材12に貼り付けられている。流路形成部材12には、異方性エッチング等によってインク供給口3a(図1参照)が形成されている。そのインク供給口3aを通じて外部から液状のインクが共通液室5内に供給され、さらに、その共通液室5内に供給されたインクは、それぞれの流路3内に供給される。
【0027】
共通液室5からノズル4に供給された液体は、ノズル4内の所定の位置に配置されたヒータ2で加熱されて発泡する。この発泡に伴ってノズル4内の液体の移動が開始されると共に、可動弁9が変位し、共通液室側への液体の流れを規制する。これにより、発泡エネルギは、吐出口4aに向けた液体の流れに効率的に変換され、吐出口4aから吐出される。また、図2中の流路形成部材12の断面から分かるように、吐出口4aを含む平面である吐出口面Fは、角度θの傾きを持っている。
【0028】
図3ないし図5に示すように、吐出口面Fは流路3の軸線(ノズル4の軸線)L1に対して直交せず、その吐出口面Fの法線L2と軸線L1とが角度θをもって傾斜する。その吐出口面Fは、記録媒体Wの搬送方向Y1と反対の方向(矢印Y2方向)、つまり記録媒体Wを基準としたときの記録ヘッドHの相対移動方向を向くように傾斜する。したがって吐出口面Fは、軸線L1と直交する平面(基準平面)F0を記録ヘッドHの相対移動方向(矢印Y2方向)に向けて角度θだけ傾けた面でもある。角度θの大きさは、後述するように、記録媒体Wと記録ヘッドHの相対移動速度などを考慮して設定する。
【0029】
図3は、吐出口4aからのインクの液滴の吐出過程の説明図である。
図3(a)は、ヒータ2が通電されず、流路3内のインクが加熱される前の状態である。吐出口4a付近のインクは、凹弧面状のメニスカスMを形成している。
図3(b)および図3(c)は、ヒータ2が通電され、その発熱によりインクが加熱されることによって、インクの膜沸騰を伴って発泡Bが生じた状態である。このとき、気泡Bの発生に基づく圧力の伝播方向は、可動弁9が弁台座11側を支点として変位することにより、インクの吐出方向に導かれる。流路3内のインクは、発泡によって生じた圧力によって吐出口4aから押し出され、気泡Bの成長に伴って図3(c)のような液柱を形成する。
【0030】
図3(d)および図3(e)は、ヒータ2によるインクの加熱が終了して、気泡Bが収縮過程にある状態を示している。この状態において、吐出口4a付近のインクは、気泡Bの収縮に伴って流路3内に引き込まれる。液柱の先端部分には吐出方向への慣性力が働いているため、その液柱は、流路3内のインクから切り離される。その切り離された液柱は、インクの表面張力によって主滴Dmと副滴(サテライト)Dsとを形成し、記録媒体に向かって飛翔する。
【0031】
このような主滴Dmと副滴Dsの吐出方向は、吐出口面Fが所定の角度θの傾きをもっているため、次のように異なる方向となる。
すなわち、図3(b)および図3(c)のように、発泡によって生じた圧力の伝播に伴ってメニスカスが吐出方向に前進し始める。すると、吐出口4a付近のインクは、図4(a)のように、吐出口面F上のノズル土手7と天板ノズル8に対して等しい接触角αを保ちながら、吐出口4aから押し出される。このとき、インクが押し出される方向A1と、流路3の軸線L1との成す角度は、図4(b)のように吐出口面Fの傾き角度θとなる。つまり吐出口4a付近のインクは、図3(b),(c)および図4(b)のように、吐出口面Fと直交する法線L2に沿うように、矢印A1方向に押し出されることになる。一方、図3(c)および図3(d)のように、ヒータ2の近傍に位置するインクは、流路3の軸線L1方向に沿って矢印A2方向に押し出される。
【0032】
その後、図3(d)のように気泡Bが収縮過程に入ると、吐出口4付近のインクが流路3内に引き込まれて、図3(e)のように主滴Dmと副滴Dsが形成される。主滴Dmと副滴Dsとは、発泡よって押し出される方向が異なる。このため、図3(e)のように、主滴Dmは、軸線L1と角度θを成す矢印A1方向へ飛翔し、副滴Dsは流路3内に引き込まれる液体の影響により、ノズル軸方向から若干の角度を持つ方向(矢印A2方向)に飛翔する。図3(e)においては、説明のため判別できる角度をで示しているが、実際の吐出においては非常に小さな角度となるため、ほぼノズル軸L1の方向へと飛翔すると考えることができる。
【0033】
吐出口面Fの角度θ、つまり主滴Dmの吐出角度θは、基本的には、記録ヘッド110を搭載する記録装置120の構成や制御条件に応じて設定することが望ましい。以下に、角度θの基本的な設定方法の一例を図5に基づいて説明する。
【0034】
いま、主滴Dmの吐出速度をVm、副滴Dsの吐出速度をVs、記録ヘッドWの移動速度をVf、吐出口4と記録媒体Wとの間の距離をhとする。このとき、図11および図12のように吐出口面が傾いていない従来の記録ヘッドHから吐出された主滴Dmと副滴Dsの着弾位置には、式1に示すようなずれ量dが発生する。
d=(1/Vs−1/Vm)×h×Vf (式1)
【0035】
このように、図11および図12に示す従来の記録ヘッドでは、インクの吐出速度Vm,Vs、距離h、搬送速度Vfに応じて、主滴Dmと副滴Dsの着弾位置にずれが生じることから、画像品質の低下を招くおそれがあった。
【0036】
これに対して、図5に示す本例の記録ヘッドHにおいては、以下の式2の条件を満たすように角度θを設定し、このθに基いて吐出口面Fの角度を設定する。
{(1/Vs)−1/(Vm・cosθ)}×h×Vf=h・tanθ
ここで、上式を整理すると下式となる。
1/Vs−1/(Vm・cosθ)=tanθ/Vf 式2
【0037】
式2を満たすように角度θを設定することにより、記録媒体W上における主滴Dmと副滴Dsの着弾位置を略一致させることが可能となり、高品位な画像を形成することができる。
【0038】
但し、本実施形態のように、単体の記録ヘッドから複数色のインクを吐出可能とする構成においては、インクの持つ物理的特性(粘度や表面張力)がそれぞれ異なることがある。この場合、液滴の飛翔速度Vmには差が生じ、その飛翔速度の差によって、主滴Dmと副的Dsとの着弾位置のずれ量dには、図6(a)に示すように、差が生じる。つまり、飛翔速度の比較的遅いインクの主滴Dmと副滴Dsとの着弾位置(図6(a)の黒塗で示す位置)のずれ量dは、飛翔速度の比較的遅いインクの主滴Dmと副滴Dsとの着弾位置(図6(a)の斜線で示す位置)のずれ量dよりも大きくなる。
【0039】
このように、主滴Dmと副滴Dsとの着弾位置を一致させるのに適した吐出口面の角度θは、インクの粘度などの物理的特性に起因する吐出速度によって異なる。そのため、1種類のインクのみを想定して記録ヘッドの吐出口面の角度θを一様に設定した場合には、図6(b)に示すように、記録媒体上で着弾位置のズレが発生しない部分と、発生している部分とが混在し、画像品質の低下を招く虞がある。
【0040】
そこで、本実施形態では、図7(a)に示すように、異なる種類のインクを吐出する吐出口群を含む吐出口面ごとに、そのインクの吐出速度Vmに応じた角度を設定している。図7(a)では、インク滴の吐出速度Vmが2種類である場合を示している。吐出口面F1は、比較的吐出速度が速いインクを吐出させる吐出口からなる吐出口群を含む吐出口面である。この吐出口面F1は、図7(b)に示すように、記録媒体Wと平行する面に対し、比較的小さい角度θ1をなすように形成されている。また、吐出口面F2は、比較的吐出速度が遅い吐出口からなる吐出口群を含む吐出口面であり、この吐出口面F2は、図6(c)に示すように、記録媒体Wと平行する面(基準平面)F0に対し、比較的大きい角度θ2をなすように形成されている。この各吐出口面F1およびF2の角度θ1およびθ2は、上記式2に、各吐出口群から吐出されるインクの吐出速度を適用して定められた角度である。
【0041】
このように、各吐出口群を形成する吐出口面F1,F2の角度を、各吐出口群から吐出されるインクの吐出速度に応じて設定する。これにより、いずれのインクにおいても、図6(c)に示すように、主滴Dmと副滴Dsの着弾位置を一致させることが可能になり、高品質な画像を形成することができる。
【0042】
次に図8を参照しつつ、単体の記録ヘッドHに上記のような異なる角度(例えば、図6のθ1,θ2)の吐出口面F1,F2を形成する加工方法の概略を説明する。
吐出エレメント11の製造過程においては、吐出口面Fの微小欠けや微小傷の除去、および平面度の向上を目的として、研磨を行う工程がある。これは吐出口面Fに対して、砥粒を固定した研磨シート(研磨部材)Sを接触、摺動させるものである。なお、この研磨シートSは、ローラR1,R2の回転によって平坦な面に沿って矢印方向に往復移動するよう構成されている。この研磨工程において、研磨シートSの平坦な面部分Pを所望の角度で吐出口面に摺接させて研磨することにより、吐出口面50を所望の傾斜角度に形成することができる。また、研磨シートSの幅を各色のインクを吐出する吐出口群の幅に合わせ、各吐出口群ごとに研磨シートSと吐出口面との接触角度を異ならせる。これにより、異なる傾斜角度で各吐出口群の吐出口面を形成することができる。
【0043】
なお、前述した第1の実施形態における記録ヘッド110は、いわゆるエッジシュータタイプであり、インクの吐出方向と、ノズル内へのインクの供給方向と、がほぼ一致する。しかし本発明は、いわゆるサイドシュータタイプの記録ヘッドに対しても適用することができる。そのサイドシュータタイプの記録ヘッドにおいては、インクの吐出方向と、ノズル内へのインクの供給方向と、が異なる。
【0044】
したがって、前述した実施形態と同様に、記録媒体W上における主滴Dmと副滴Dsの着弾位置を一致させて、高品位の画像を記録することができる。
【0045】
(他の実施形態)
本発明は、インクを吐出する記録ヘッドの他、画像の記録に直接または間接的に利用される種々の液体を吐出可能な記録ヘッド(液体吐出ヘッド)に対しても適用することができる。また、その記録ヘッドにおける液体の吐出方式は、電気熱変換体(ヒータ)を用いた方式の他、ピエゾ素子などを用いた方式であってもよい。また、前述した第1の実施形態のようなエッジシュータタイプの記録ヘッドにおいて、可動弁10は必ずしも備える必要はない。
【0046】
また、前述した実施形態においては、吐出口の周面を形成するノズル壁6、ノズル土手7、天板ノズル8を同一材料として、それらの物理的特性を同一とした。しかし、それらの周面の内、少なくとも、矢印Y1方向側の天板ノズル8と、矢印Y2方向側のノズル土手7と、を同一材料によって形成してもよい。それらの物理的特性としては、少なくとも液体に対する濡れ性、または表面粗さの一方を含むことができ、また、それらの物理的特性が等しければ、吐出口の周縁部分の形成材料を異ならせてもよい。また、液体流路の開口部に、吐出口が形成されたオリフィスプレートを取り付けてもよい。さらに、吐出口の周縁部の形成材料は、物理的特性(液体に対する濡れ性を含む)が異なるものであってもよく、その場合には、それらの物理的特性に起因する主滴と液滴の吐出方向の差をも考慮して、吐出口の傾斜角度を最適に設定することもできる。
【0047】
(インクジェット記録装置の実施形態)
次に、上記実施形態に記載のインクジェット記録ヘッドを用いた記録装置の一実施形態を図9および図10に基づき説明する。
図9は本実施形態における記録装置20の外観構成を概略的に示す斜視図である。ここに示す記録装置20は、記録媒体Pを一定方向(Y方向)に搬送すると共に、記録ヘッドHを記録媒体Pの搬送方向と交差する方向(X方向)に沿って往復移動させつつ記録を行う、いわゆるシリアルスキャン方式の記録装置を構成している。図中、21は上記実施形態に示す記録ヘッドHおよびこれに供給するインクを貯留するインクタンク22が搭載されるキャリッジであり、このキャリッジ21は、記録媒体Pの搬送方向Yと直交する方向(X方向)に沿って往復移動する。また、記録媒体を搬送する搬送機構としては、種々のものが適用可能であるが、ここではモータなどの駆動力によって回転する搬送ローラとこれに対向して設けられたピンチローラ(いずれも図示を省略)などによって構成されている。
【0048】
図10は、上記記録装置の駆動を制御する制御装置200の概略構成を示すブロック図である。この制御装置200は、ホストコンピュータ300から送られる印字データを処理するイメージコントローラ201を備える。さらに、制御装置200は、記録媒体の搬送やキャリッジ21の移動を制御するエンジンコントローラ202と、インク滴の吐出を制御する記録ヘッドコントローラ203などを有する。
【0049】
エンジンコントローラ202は、データラスタライズ部205と、吐出パルスジェネレータ206と、搬送制御部207と、モータ制御部208などが設けられている。このうち、データラスタライズ部205は、イメージコントローラ101から送られるシリアルの印字データを、各ノズルに割り当てるためのラスタライズ処理を行う。また、吐出パルスジェネレータ206は、記録ヘッドの駆動タイミングを表す吐出パルスを記録ヘッドコントローラ203に送出する。記録ヘッドコントローラ203は、吐出パルスジェネレータ205からのパルスとデータラスタライズ部205から送出されたイメージデータとに基づき記録ヘッドの各ノズル(ヒータ)を駆動する。
【0050】
また、搬送制御部207は、搬送モータの駆動を制御し、搬送モータの駆動力によって回転する搬送ローラの回転を制御する。キャリッジモータ制御部107は、キャリッジスケールエンコーダ204からの信号に基づき、キャリッジ22の移動位置を検出してキャリッジモータ210を制御し、キャリッジの駆動、停止および加速、定速移動、減速などの制御を行う。
【0051】
以上のように構成された記録装置において、記録媒体Pは、搬送モータ105によって回転する搬送ローラと、これに対向して設けられたピンチローラとに挟持されつつ間欠的にY方向へと搬送される。また、記録ヘッドHを搭載したキャリッジ21は、記録媒体Pの停止期間中に移動し、その移動中に記録ヘッドHからインクを吐出することによってノズルの配列範囲内に記録を行う。この記録動作と記録媒体Pの間欠的な搬送動作とを繰り返すことにより、記録媒体Pには所定の画像が形成される。
【0052】
また本発明は、図9のようなシリアルスキャンタイプのインクジェット記録装置の他、フルラインタイプのインクジェット記録装置に対しても適用することができる。この場合、単一の記録ヘッド内には、使用する記録媒体の最大幅以上の幅に亘って吐出口を配列した吐出口列(吐出口群)を複数列並設し、各吐出口列からそれぞれ異なるインクを吐出させるようにする。さらに、各吐出口群毎に、その吐出口群から吐出されるインクの物理的特性に応じて、各吐出口の軸線と直交する基準平面と、各吐出口群の形成される吐出口面とのなす角度θ(θ=0°を除く)を定める。これは、記録ヘッドと記録媒体との相対移動方向、および各インクの吐出速度に基き、前述の式2を用いて定めれば良い。つまり、いずれのインクにおいても、各ノズルの軸線(L1)と、吐出口が位置する吐出口面(オリフィス面F)の法線(L2)とを一致させないようにすることで、主滴と、副的との着弾位置を一致させることが可能となる。
以上説明したように、本発明に係る液体吐出ヘッドにおいては、吐出するインクに応じて、吐出エレメント内で異なる吐出口面角度を有する領域をもつ構成をとる。これにより、複数の条件の異なる液体を、吐出可能な記録ヘッドにおいても、記録媒体上における主滴とサテライトの着弾位置ズレが発生するのを防ぐことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明が適用された記録ヘッドを示す斜視図である。
【図2】図1に示す記録ヘッドのノズル近傍部分の一部切欠斜視図である。
【図3】図1に示す記録ヘッドの吐出口における液滴の吐出過程を示す説明図である。
【図4】図1に示す記録ヘッドにおける液体の吐出方向の説明図である。
【図5】図1に示す記録ヘッドから吐出される液滴の着弾位置を示す説明図である。
【図6】記録ヘッドから吐出された主滴および副滴の着弾位置を示す説明図である。
【図7】図1に示す記録ヘッドにおける吐出エレメントを示す図であり、(a)は斜視図、(b)は同図(a)のB−B線断面図、(c)は同図(a)のC−C線断面図である。
【図8】図6に示す吐出エレメントの各吐出口面の製造装置を概念的に示す斜視図である。
【図9】本発明の実施形態におけるシリアルスキャンタイプのインクジェット記録装置を示す斜視図である。
【図10】本発明の実施形態におけるインクジェット記録装置の制御系の概略構成を示すブロック図である。
【図11】従来の記録ヘッドの吐出口における液滴の吐出過程を示す説明図である。
【図12】従来の記録ヘッドにおける液滴の着弾位置を示す説明図である。
【符号の説明】
【0054】
1 ヒータボード
2 ヒータ
3 流路
4 吐出口
11 吐出エレメント
F1,F2 吐出口面
θ 角度
L1 軸線
L2 法線
F0 基準平面
Dm 主滴
Ds 副滴
B 気泡
Y1 記録媒体の搬送方向
Y2 記録ヘッドの相対移動方向
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数種の液体を吐出可能な記録ヘッド及びその製造方法、並びに前記記録ヘッドを用いて画像を記録するインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細なインク等の液滴を記録媒体に付着させて記録を行うインクジェット方式の記録装置は、ランニングコストが低く、記録時の静粛性に優れている。さらにこの方式の記録装置は、複数色のインクを用いることによって比較的容易にカラーでの記録を行えるというメリットもある。また、液滴を吐出するための圧力発生素子として気泡発生素子を用いた、いわゆるバブルジェット方式は、素子を高密度に配列するのが比較的容易で、そのため高解像度の印字を行うのに有利な方式である。
【0003】
インクジェット記録装置には、電気熱変換体(ヒータ)やピエゾ素子などを用いて、インクなどの液体を吐出可能な記録ヘッドが用いられている。図11(a)のように、電気熱変換体101を用いた記録ヘッドHの場合には、その電気熱変換体101の発熱により流路102内の液体を発泡させる(図11(b),(c)参照)。このとき生じる気泡Bの発泡エネルギーにより、流路内の液体は、吐出口103から吐出される。この後、気泡Bは図11(d),(e)のように消泡する。また、ここに示す記録ヘッドHには、気泡Bの発泡エネルギーを吐出口103の方向に効果的に作用させるために、流路102内に可動弁104が備えられている。インクジェット記録装置は、このような記録ヘッドHの吐出口103から吐出した液体を記録媒体上に付着させることにより、記録媒体上に画像を記録するものである。こうしたインクジェット記録装置では、画像品質の向上とともに、記録速度の向上が重要な開発課題となっており、現在では高速記録を実現するものが種々提案、実施されている。
【0004】
しかし、近年の記録動作の高速化に伴い、記録ヘッドHには新たな問題が顕在化してきている。すなわち、図11(d)に示すように、吐出口103から押し出された液柱を分断して液滴(主滴)を形成する際、通常は、図11(e)のように、主滴Dmと共に、サテライトと呼ばれる副滴Dsが形成される。そして、この主滴Dmと副滴Dsとが図12(b),(c)に示すように、録媒体上にずれて着弾することにより、画像品質が低下するという問題が生じている。
【0005】
図12(a)の速度ベクトルに示すように、副滴Dsの吐出速度Vsは、主滴Dmの吐出速度Vmよりも低い。このため、記録ヘッドHと記録媒体Wとの相対的な移動速度Vfが高くなるにつれて、主滴Dmと副滴Dsとの着弾位置のずれdは増大する。なお、図12(a),(b),(c)においては、記録ヘッドHに対して記録媒体Wが移動するものとして表されている。図中、D1は、主滴Dmによって記録媒体W上に形成されるドット、D2は、副滴Dsによって記録媒体W上に形成されるドットである。
【0006】
従来は、このような主滴と副滴の着弾位置のずれを小さく抑えるために、記録ヘッドHの吐出口が形成されている面(以下、吐出口面と称す)と記録媒体との間の距離h(図12参照)を短くしたり、あるいは液体の吐出速度を高めたりしていた。
【0007】
一方、特許文献1には、インクの主滴と副滴の吐出方向を一致させるための構成が記載されている。この特許文献1の構成は、吐出口と流路を含むノズルの形成材料が部分的に異なり、各材質間の表面エネルギの差、つまりインクに対する濡れ性の差によって主滴とサテライトとが吐出方向にずれることに着目してなされたものである。すなわち、表面エネルギの大きい材料が位置する側の流路部分よりも、表面エネルギが小さい材料が位置する側の流路部分を短くするように吐出口面を傾斜させることで、主滴とサテライトの吐出方向を一致させる構成となっている。
【0008】
【特許文献1】特開2000−263788号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、主滴と副滴の着弾位置のずれを小さく抑えるべく、記録ヘッドの吐出口面と記録媒体と間の距離hを短くしようとしても、その距離hの短縮化には限界がある。すなわち、距離hが短すぎた場合には、液体(インク)が付与されることによってコックリングが生じた記録媒体が、記録ヘッドの吐出口面に接触する虞がある。また、記録媒体の表面から跳ね返った液体やミスト状の液体が吐出口面に付着して、液体の吐出不良をもたらすおそれもある。従って、距離hには、一定以上の間隔を維持しておく必要がある。
【0010】
このように、記録速度の更なる高速化に対応すべく、記録ヘッドの吐出口面と記録媒体と間の距離hを短くするという方法では、主滴と副滴の着弾位置のずれを十分に抑えることは難しい。
【0011】
一方、特許文献1には、図12(a)に示すように、単に、主滴と副滴の吐出方向を一致させるための構成が記載されている。しかし、このような構成では、図12(b),(c)のような記録速度の更なる高速化に伴う問題、つまり、主滴と副滴の着弾位置のずれの増大化を抑えることはできない。
【0012】
このように従来においては、記録速度の高速化に伴って増大する主滴と副滴の着弾位置のずれを十分に抑えることができない。特に、産業用のインクジェット記録装置において求められている要求、つまり記録速度の高速化と画像の高品質化に応えることは難しい。
【0013】
一方、マルチカラー化やスポットカラー化を実現し得る記録装置を構成するにあたり、装置の大型化を避けるために、単一の記録ヘッドを用いることも提案されている。この単一の記録ヘッドは、その内部に、異なる種類のインクを吐出するための複数の共通液室が分割して形成されると共に、記録媒体との対向面である吐出口面に、複数の共通液室に対応した複数種のノズル口群が形成されている。そして、各ノズル口群からそれぞれ異なるインクを吐出する。この記録ヘッドは、異なるインクを吐出する別体の複数個の記録ヘッドを並設する場合に比べて、小型化することができ、これを用いる記録装置の小型化も可能になる、という利点を有している。
【0014】
しかしながら、液体は種類によって組成が異なることから、粘度や表面張力といった物性も異なり、それに伴って液滴の飛翔速度にも差が生じる。そのため、記録に使用している液体の種類によって、記録媒体上の着弾予定位置に液滴が正確に着弾する場合と、着弾予定位置からずれた位置に液滴が着弾する場合とが生じる。従って、複数種の液体を用いて記録を行うマルチカラーあるいはスポットカラーなどでは、着弾位置にズレが発生していない部分と、発生している部分とが混在してしまうこととなり、これが画像品質の低下を招いている。
【0015】
本発明の目的は、複数の吐出口群それぞれから種類の異なるインクを吐出させる記録ヘッドにおいて、高速記録においても主滴と副滴との着弾位置のずれを抑え、高品質な画像の形成を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明は以下の構成を有する。
【0017】
本発明の第1の形態は、液体を吐出する複数の吐出口からなる吐出口群が複数形成された記録ヘッドにおいて、前記吐出口を先端に有するノズルの軸線と直交する基準平面に対し、異なる角度で交差する二以上の平面上に位置する吐出口面に前記複数の吐出口群が形成されていることを特徴とする記録ヘッド。
【0018】
本発明の第2の形態は、液体を吐出する複数の吐出口からなる吐出口群を複数備えた記録ヘッドの製造方法であって、前記複数の吐出口群を形成してなる吐出口形成部の少なくとも一部に、平面状の研磨部材を吐出口に連通するノズルの軸線と直交しない角度で摺動させることにより、前記吐出口形成部に複数の異なる平面を形成することを特徴とする。
【0019】
本発明の第3の形態は、上記の記録ヘッドと記録媒体とを相対移動させる移動手段と、前記記録ヘッドと前記記録媒体とを相対移動させつつ、前記記録ヘッドから液体を吐出させる制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0020】
本発明の第4の形態は、液体を吐出する複数の吐出口を形成する吐出口形成部を有し、前記吐出口形成部には異なるインクを吐出する複数種の吐出口群が形成された記録ヘッドを用いて画像の記録を行うインクジェット記録方法において、前記記録ヘッドは、前記吐出口を先端に有するノズルの軸線と直交する基準平面に対し、異なる角度で交差する二以上の平面上に位置する吐出口面に前記複数の吐出口群が形成され、前記基準平面上に位置させた記録媒体と前記記録ヘッドとを相対移動させつつ前記複数の吐出口群から異なるインクを吐出させて記録媒体上に記録を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、複数の吐出口群が、ノズルの軸線と直交する基準平面と交差する複数の吐出口面に形成されているため、各吐出口から主滴が吐出される方向と、副滴が吐出される方向とを、積極的に異ならせることができる。このため、記録媒体上における主滴と副滴の着弾位置のずれを小さく抑えることができる。しかも、本発明においては、複数の吐出口面と基準平面とのなす角度が異なるため、種類の異なるインクを異なる吐出口面から吐出させることで、インクの種類によって主滴と副滴との着弾位置のずれをより小さく抑えることが可能となる。これにより、記録速度の高速化を図りつつ、画像の高品質化を実現することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1の実施形態)
図1は本発明が適用されたインクジェット記録ヘッドH(以下、単に記録ヘッドと称す)を示す斜視図である。
図1において、10は記録ヘッドHの底部を構成するセラミックプレートである。このセラミックプレート10上には、インク滴の吐出を行う吐出エレメント11と、この吐出エレメント11の左右両側面部および上面部を覆う流路形成部材12が配置されている。吐出エレメント11には、インクを吐出するノズルが所定の密度で複数個配列されている。なお、本明細書および特許請求の範囲において、ノズルとは、後に説明するインクの吐出口、これに連通する液路、およびインクを吐出させるための吐出エネルギを発生する吐出エネルギ発生素子としての電気熱変換素子を含むものとする。
【0023】
また、記録ヘッドH内には、各ノズルに連通する複数個の共通液室が形成されており、この共通液室内には図外のインクタンクから供給される複数種のインクが、流路形成部材12に設けられたインク供給口3aを通じて供給される。
【0024】
図2は、記録ヘッド10におけるノズル近傍部分の一部切欠斜視図である。
ヒータボード1にはインクを加熱発泡させるためのヒータ(電気熱変換体)2が複数配置されている。ヒータ2としてはチッ化タンタル等の抵抗体が用いられ、例えば、その厚さは0.01〜0.5μm、そのシート抵抗値は単位正方形当たり10〜300Ωである。ヒータ2には、通電のためのアルミニウム等の電極(図示せず)が接続されている。この電極の一方は、ヒータ2に対する通電を制御するためのスイッチングトランジスタ(図示せず)に接続されている。スイッチングトランジスタは、制御用のゲート素子等の回路からなるICによって駆動制御され、記録装置からの信号に応じてヒータ2を制御する。
【0025】
ヒータ2は、複数の流路3のそれぞれに形成されている。それぞれの流路3の一端は対応する吐出口4aに連通し、それぞれの流路3の他端は共通液室5に連通している。流路3は、ヒータボード1、ノズル壁6、厚さ5〜10μm程度のノズル土手7、および厚さ2μm程度の天板ノズル8によって囲まれて管状を成している。本例において、ノズル壁6、ノズル土手7、天板ノズル8は感光性エポキシ樹脂により形成されている。
【0026】
流路3内には可動弁9が備えられている。この可動弁9の自由端9Aは吐出口4a側に位置し、その基端は共通液室5側に位置している。可動弁9の基端側は弁台座10(図3参照)によってヒータボード1に取り付けられている。天板ノズル8は、Si等によって形成される流路形成部材12に貼り付けられている。流路形成部材12には、異方性エッチング等によってインク供給口3a(図1参照)が形成されている。そのインク供給口3aを通じて外部から液状のインクが共通液室5内に供給され、さらに、その共通液室5内に供給されたインクは、それぞれの流路3内に供給される。
【0027】
共通液室5からノズル4に供給された液体は、ノズル4内の所定の位置に配置されたヒータ2で加熱されて発泡する。この発泡に伴ってノズル4内の液体の移動が開始されると共に、可動弁9が変位し、共通液室側への液体の流れを規制する。これにより、発泡エネルギは、吐出口4aに向けた液体の流れに効率的に変換され、吐出口4aから吐出される。また、図2中の流路形成部材12の断面から分かるように、吐出口4aを含む平面である吐出口面Fは、角度θの傾きを持っている。
【0028】
図3ないし図5に示すように、吐出口面Fは流路3の軸線(ノズル4の軸線)L1に対して直交せず、その吐出口面Fの法線L2と軸線L1とが角度θをもって傾斜する。その吐出口面Fは、記録媒体Wの搬送方向Y1と反対の方向(矢印Y2方向)、つまり記録媒体Wを基準としたときの記録ヘッドHの相対移動方向を向くように傾斜する。したがって吐出口面Fは、軸線L1と直交する平面(基準平面)F0を記録ヘッドHの相対移動方向(矢印Y2方向)に向けて角度θだけ傾けた面でもある。角度θの大きさは、後述するように、記録媒体Wと記録ヘッドHの相対移動速度などを考慮して設定する。
【0029】
図3は、吐出口4aからのインクの液滴の吐出過程の説明図である。
図3(a)は、ヒータ2が通電されず、流路3内のインクが加熱される前の状態である。吐出口4a付近のインクは、凹弧面状のメニスカスMを形成している。
図3(b)および図3(c)は、ヒータ2が通電され、その発熱によりインクが加熱されることによって、インクの膜沸騰を伴って発泡Bが生じた状態である。このとき、気泡Bの発生に基づく圧力の伝播方向は、可動弁9が弁台座11側を支点として変位することにより、インクの吐出方向に導かれる。流路3内のインクは、発泡によって生じた圧力によって吐出口4aから押し出され、気泡Bの成長に伴って図3(c)のような液柱を形成する。
【0030】
図3(d)および図3(e)は、ヒータ2によるインクの加熱が終了して、気泡Bが収縮過程にある状態を示している。この状態において、吐出口4a付近のインクは、気泡Bの収縮に伴って流路3内に引き込まれる。液柱の先端部分には吐出方向への慣性力が働いているため、その液柱は、流路3内のインクから切り離される。その切り離された液柱は、インクの表面張力によって主滴Dmと副滴(サテライト)Dsとを形成し、記録媒体に向かって飛翔する。
【0031】
このような主滴Dmと副滴Dsの吐出方向は、吐出口面Fが所定の角度θの傾きをもっているため、次のように異なる方向となる。
すなわち、図3(b)および図3(c)のように、発泡によって生じた圧力の伝播に伴ってメニスカスが吐出方向に前進し始める。すると、吐出口4a付近のインクは、図4(a)のように、吐出口面F上のノズル土手7と天板ノズル8に対して等しい接触角αを保ちながら、吐出口4aから押し出される。このとき、インクが押し出される方向A1と、流路3の軸線L1との成す角度は、図4(b)のように吐出口面Fの傾き角度θとなる。つまり吐出口4a付近のインクは、図3(b),(c)および図4(b)のように、吐出口面Fと直交する法線L2に沿うように、矢印A1方向に押し出されることになる。一方、図3(c)および図3(d)のように、ヒータ2の近傍に位置するインクは、流路3の軸線L1方向に沿って矢印A2方向に押し出される。
【0032】
その後、図3(d)のように気泡Bが収縮過程に入ると、吐出口4付近のインクが流路3内に引き込まれて、図3(e)のように主滴Dmと副滴Dsが形成される。主滴Dmと副滴Dsとは、発泡よって押し出される方向が異なる。このため、図3(e)のように、主滴Dmは、軸線L1と角度θを成す矢印A1方向へ飛翔し、副滴Dsは流路3内に引き込まれる液体の影響により、ノズル軸方向から若干の角度を持つ方向(矢印A2方向)に飛翔する。図3(e)においては、説明のため判別できる角度をで示しているが、実際の吐出においては非常に小さな角度となるため、ほぼノズル軸L1の方向へと飛翔すると考えることができる。
【0033】
吐出口面Fの角度θ、つまり主滴Dmの吐出角度θは、基本的には、記録ヘッド110を搭載する記録装置120の構成や制御条件に応じて設定することが望ましい。以下に、角度θの基本的な設定方法の一例を図5に基づいて説明する。
【0034】
いま、主滴Dmの吐出速度をVm、副滴Dsの吐出速度をVs、記録ヘッドWの移動速度をVf、吐出口4と記録媒体Wとの間の距離をhとする。このとき、図11および図12のように吐出口面が傾いていない従来の記録ヘッドHから吐出された主滴Dmと副滴Dsの着弾位置には、式1に示すようなずれ量dが発生する。
d=(1/Vs−1/Vm)×h×Vf (式1)
【0035】
このように、図11および図12に示す従来の記録ヘッドでは、インクの吐出速度Vm,Vs、距離h、搬送速度Vfに応じて、主滴Dmと副滴Dsの着弾位置にずれが生じることから、画像品質の低下を招くおそれがあった。
【0036】
これに対して、図5に示す本例の記録ヘッドHにおいては、以下の式2の条件を満たすように角度θを設定し、このθに基いて吐出口面Fの角度を設定する。
{(1/Vs)−1/(Vm・cosθ)}×h×Vf=h・tanθ
ここで、上式を整理すると下式となる。
1/Vs−1/(Vm・cosθ)=tanθ/Vf 式2
【0037】
式2を満たすように角度θを設定することにより、記録媒体W上における主滴Dmと副滴Dsの着弾位置を略一致させることが可能となり、高品位な画像を形成することができる。
【0038】
但し、本実施形態のように、単体の記録ヘッドから複数色のインクを吐出可能とする構成においては、インクの持つ物理的特性(粘度や表面張力)がそれぞれ異なることがある。この場合、液滴の飛翔速度Vmには差が生じ、その飛翔速度の差によって、主滴Dmと副的Dsとの着弾位置のずれ量dには、図6(a)に示すように、差が生じる。つまり、飛翔速度の比較的遅いインクの主滴Dmと副滴Dsとの着弾位置(図6(a)の黒塗で示す位置)のずれ量dは、飛翔速度の比較的遅いインクの主滴Dmと副滴Dsとの着弾位置(図6(a)の斜線で示す位置)のずれ量dよりも大きくなる。
【0039】
このように、主滴Dmと副滴Dsとの着弾位置を一致させるのに適した吐出口面の角度θは、インクの粘度などの物理的特性に起因する吐出速度によって異なる。そのため、1種類のインクのみを想定して記録ヘッドの吐出口面の角度θを一様に設定した場合には、図6(b)に示すように、記録媒体上で着弾位置のズレが発生しない部分と、発生している部分とが混在し、画像品質の低下を招く虞がある。
【0040】
そこで、本実施形態では、図7(a)に示すように、異なる種類のインクを吐出する吐出口群を含む吐出口面ごとに、そのインクの吐出速度Vmに応じた角度を設定している。図7(a)では、インク滴の吐出速度Vmが2種類である場合を示している。吐出口面F1は、比較的吐出速度が速いインクを吐出させる吐出口からなる吐出口群を含む吐出口面である。この吐出口面F1は、図7(b)に示すように、記録媒体Wと平行する面に対し、比較的小さい角度θ1をなすように形成されている。また、吐出口面F2は、比較的吐出速度が遅い吐出口からなる吐出口群を含む吐出口面であり、この吐出口面F2は、図6(c)に示すように、記録媒体Wと平行する面(基準平面)F0に対し、比較的大きい角度θ2をなすように形成されている。この各吐出口面F1およびF2の角度θ1およびθ2は、上記式2に、各吐出口群から吐出されるインクの吐出速度を適用して定められた角度である。
【0041】
このように、各吐出口群を形成する吐出口面F1,F2の角度を、各吐出口群から吐出されるインクの吐出速度に応じて設定する。これにより、いずれのインクにおいても、図6(c)に示すように、主滴Dmと副滴Dsの着弾位置を一致させることが可能になり、高品質な画像を形成することができる。
【0042】
次に図8を参照しつつ、単体の記録ヘッドHに上記のような異なる角度(例えば、図6のθ1,θ2)の吐出口面F1,F2を形成する加工方法の概略を説明する。
吐出エレメント11の製造過程においては、吐出口面Fの微小欠けや微小傷の除去、および平面度の向上を目的として、研磨を行う工程がある。これは吐出口面Fに対して、砥粒を固定した研磨シート(研磨部材)Sを接触、摺動させるものである。なお、この研磨シートSは、ローラR1,R2の回転によって平坦な面に沿って矢印方向に往復移動するよう構成されている。この研磨工程において、研磨シートSの平坦な面部分Pを所望の角度で吐出口面に摺接させて研磨することにより、吐出口面50を所望の傾斜角度に形成することができる。また、研磨シートSの幅を各色のインクを吐出する吐出口群の幅に合わせ、各吐出口群ごとに研磨シートSと吐出口面との接触角度を異ならせる。これにより、異なる傾斜角度で各吐出口群の吐出口面を形成することができる。
【0043】
なお、前述した第1の実施形態における記録ヘッド110は、いわゆるエッジシュータタイプであり、インクの吐出方向と、ノズル内へのインクの供給方向と、がほぼ一致する。しかし本発明は、いわゆるサイドシュータタイプの記録ヘッドに対しても適用することができる。そのサイドシュータタイプの記録ヘッドにおいては、インクの吐出方向と、ノズル内へのインクの供給方向と、が異なる。
【0044】
したがって、前述した実施形態と同様に、記録媒体W上における主滴Dmと副滴Dsの着弾位置を一致させて、高品位の画像を記録することができる。
【0045】
(他の実施形態)
本発明は、インクを吐出する記録ヘッドの他、画像の記録に直接または間接的に利用される種々の液体を吐出可能な記録ヘッド(液体吐出ヘッド)に対しても適用することができる。また、その記録ヘッドにおける液体の吐出方式は、電気熱変換体(ヒータ)を用いた方式の他、ピエゾ素子などを用いた方式であってもよい。また、前述した第1の実施形態のようなエッジシュータタイプの記録ヘッドにおいて、可動弁10は必ずしも備える必要はない。
【0046】
また、前述した実施形態においては、吐出口の周面を形成するノズル壁6、ノズル土手7、天板ノズル8を同一材料として、それらの物理的特性を同一とした。しかし、それらの周面の内、少なくとも、矢印Y1方向側の天板ノズル8と、矢印Y2方向側のノズル土手7と、を同一材料によって形成してもよい。それらの物理的特性としては、少なくとも液体に対する濡れ性、または表面粗さの一方を含むことができ、また、それらの物理的特性が等しければ、吐出口の周縁部分の形成材料を異ならせてもよい。また、液体流路の開口部に、吐出口が形成されたオリフィスプレートを取り付けてもよい。さらに、吐出口の周縁部の形成材料は、物理的特性(液体に対する濡れ性を含む)が異なるものであってもよく、その場合には、それらの物理的特性に起因する主滴と液滴の吐出方向の差をも考慮して、吐出口の傾斜角度を最適に設定することもできる。
【0047】
(インクジェット記録装置の実施形態)
次に、上記実施形態に記載のインクジェット記録ヘッドを用いた記録装置の一実施形態を図9および図10に基づき説明する。
図9は本実施形態における記録装置20の外観構成を概略的に示す斜視図である。ここに示す記録装置20は、記録媒体Pを一定方向(Y方向)に搬送すると共に、記録ヘッドHを記録媒体Pの搬送方向と交差する方向(X方向)に沿って往復移動させつつ記録を行う、いわゆるシリアルスキャン方式の記録装置を構成している。図中、21は上記実施形態に示す記録ヘッドHおよびこれに供給するインクを貯留するインクタンク22が搭載されるキャリッジであり、このキャリッジ21は、記録媒体Pの搬送方向Yと直交する方向(X方向)に沿って往復移動する。また、記録媒体を搬送する搬送機構としては、種々のものが適用可能であるが、ここではモータなどの駆動力によって回転する搬送ローラとこれに対向して設けられたピンチローラ(いずれも図示を省略)などによって構成されている。
【0048】
図10は、上記記録装置の駆動を制御する制御装置200の概略構成を示すブロック図である。この制御装置200は、ホストコンピュータ300から送られる印字データを処理するイメージコントローラ201を備える。さらに、制御装置200は、記録媒体の搬送やキャリッジ21の移動を制御するエンジンコントローラ202と、インク滴の吐出を制御する記録ヘッドコントローラ203などを有する。
【0049】
エンジンコントローラ202は、データラスタライズ部205と、吐出パルスジェネレータ206と、搬送制御部207と、モータ制御部208などが設けられている。このうち、データラスタライズ部205は、イメージコントローラ101から送られるシリアルの印字データを、各ノズルに割り当てるためのラスタライズ処理を行う。また、吐出パルスジェネレータ206は、記録ヘッドの駆動タイミングを表す吐出パルスを記録ヘッドコントローラ203に送出する。記録ヘッドコントローラ203は、吐出パルスジェネレータ205からのパルスとデータラスタライズ部205から送出されたイメージデータとに基づき記録ヘッドの各ノズル(ヒータ)を駆動する。
【0050】
また、搬送制御部207は、搬送モータの駆動を制御し、搬送モータの駆動力によって回転する搬送ローラの回転を制御する。キャリッジモータ制御部107は、キャリッジスケールエンコーダ204からの信号に基づき、キャリッジ22の移動位置を検出してキャリッジモータ210を制御し、キャリッジの駆動、停止および加速、定速移動、減速などの制御を行う。
【0051】
以上のように構成された記録装置において、記録媒体Pは、搬送モータ105によって回転する搬送ローラと、これに対向して設けられたピンチローラとに挟持されつつ間欠的にY方向へと搬送される。また、記録ヘッドHを搭載したキャリッジ21は、記録媒体Pの停止期間中に移動し、その移動中に記録ヘッドHからインクを吐出することによってノズルの配列範囲内に記録を行う。この記録動作と記録媒体Pの間欠的な搬送動作とを繰り返すことにより、記録媒体Pには所定の画像が形成される。
【0052】
また本発明は、図9のようなシリアルスキャンタイプのインクジェット記録装置の他、フルラインタイプのインクジェット記録装置に対しても適用することができる。この場合、単一の記録ヘッド内には、使用する記録媒体の最大幅以上の幅に亘って吐出口を配列した吐出口列(吐出口群)を複数列並設し、各吐出口列からそれぞれ異なるインクを吐出させるようにする。さらに、各吐出口群毎に、その吐出口群から吐出されるインクの物理的特性に応じて、各吐出口の軸線と直交する基準平面と、各吐出口群の形成される吐出口面とのなす角度θ(θ=0°を除く)を定める。これは、記録ヘッドと記録媒体との相対移動方向、および各インクの吐出速度に基き、前述の式2を用いて定めれば良い。つまり、いずれのインクにおいても、各ノズルの軸線(L1)と、吐出口が位置する吐出口面(オリフィス面F)の法線(L2)とを一致させないようにすることで、主滴と、副的との着弾位置を一致させることが可能となる。
以上説明したように、本発明に係る液体吐出ヘッドにおいては、吐出するインクに応じて、吐出エレメント内で異なる吐出口面角度を有する領域をもつ構成をとる。これにより、複数の条件の異なる液体を、吐出可能な記録ヘッドにおいても、記録媒体上における主滴とサテライトの着弾位置ズレが発生するのを防ぐことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明が適用された記録ヘッドを示す斜視図である。
【図2】図1に示す記録ヘッドのノズル近傍部分の一部切欠斜視図である。
【図3】図1に示す記録ヘッドの吐出口における液滴の吐出過程を示す説明図である。
【図4】図1に示す記録ヘッドにおける液体の吐出方向の説明図である。
【図5】図1に示す記録ヘッドから吐出される液滴の着弾位置を示す説明図である。
【図6】記録ヘッドから吐出された主滴および副滴の着弾位置を示す説明図である。
【図7】図1に示す記録ヘッドにおける吐出エレメントを示す図であり、(a)は斜視図、(b)は同図(a)のB−B線断面図、(c)は同図(a)のC−C線断面図である。
【図8】図6に示す吐出エレメントの各吐出口面の製造装置を概念的に示す斜視図である。
【図9】本発明の実施形態におけるシリアルスキャンタイプのインクジェット記録装置を示す斜視図である。
【図10】本発明の実施形態におけるインクジェット記録装置の制御系の概略構成を示すブロック図である。
【図11】従来の記録ヘッドの吐出口における液滴の吐出過程を示す説明図である。
【図12】従来の記録ヘッドにおける液滴の着弾位置を示す説明図である。
【符号の説明】
【0054】
1 ヒータボード
2 ヒータ
3 流路
4 吐出口
11 吐出エレメント
F1,F2 吐出口面
θ 角度
L1 軸線
L2 法線
F0 基準平面
Dm 主滴
Ds 副滴
B 気泡
Y1 記録媒体の搬送方向
Y2 記録ヘッドの相対移動方向
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する複数の吐出口からなる吐出口群が複数形成された記録ヘッドにおいて、
前記吐出口を先端に有するノズルの軸線と直交する基準平面に対し、異なる角度で交差する二以上の平面上に位置する吐出口面に前記複数の吐出口群が形成されていることを特徴とする記録ヘッド。
【請求項2】
前記各吐出口面と基準平面とのなす角度は、前記各吐出口面に位置する前記各吐出口群から吐出される液体の種類に応じて定められていることを特徴とする記録ヘッド。
【請求項3】
前記基準平面に対する角度が異なる吐出口面の連結部分には段差が形成されていることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の記録ヘッド。
【請求項4】
前記各吐出口は、1回の液体吐出動作において、主滴と、該主滴より液量の少ない副滴とを吐出し、
前記主滴の吐出方向は、当該主滴を吐出する前記吐出口が形成される前記領域と前記基準平面とのなす角度に応じて変化すると共に、
前記副滴の吐出方向は、前記ノズル当該副滴を吐出する前記ノズルの軸線と前記基準平面とのなす角度に応じて変化することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の記録ヘッド。
【請求項5】
前記記録ヘッドは、前記基準平面と平行する位置に存在する記録媒体に対し、当該記録媒体の表面と平行する平面上を直線方向に沿って相対的に移動可能に保持されることを特徴とする請求項4に記載の記録ヘッド。
【請求項6】
前記主滴の吐出速度をVm、前記副滴の吐出速度をVs、前記記録ヘッドと前記記録媒体との相対移動速度をVf、前記ノズルから前記記録媒体までの距離をhとしたとき、
前記領域と前記基準平面とのなす角度θは、
1/Vs−1/(Vm・cosθ)=tanθ/Vf
の条件を満たすことを特徴とする請求項5に記載の記録ヘッド。
【請求項7】
前記吐出口が位置する吐出口面は、前記基準平面に対し、前記記録ヘッドの相対移動方向を向いて傾斜していることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の記録ヘッド。
【請求項8】
前記ノズルは、液体を吐出するための熱エネルギを発生する電気熱変換体を含むことを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の記録ヘッド。
【請求項9】
前記ノズルは、前記熱エネルギによって生じる液体の発泡に応じて変位する可動板を含むことを特徴とする請求項9に記載の記録ヘッド。
【請求項10】
液体を吐出する複数の吐出口からなる吐出口群を複数備えた記録ヘッドの製造方法であって、
前記複数の吐出口群を形成してなる吐出口形成部の少なくとも一部に、平面状の研磨部材を吐出口に連通するノズルの軸線と直交しない角度で摺動させることにより、前記吐出口形成部に複数の異なる平面を形成することを特徴とする記録ヘッドの製造方法。
【請求項11】
前記研磨部材は、平面的な移動経路に沿って走行可能なベルト状の研磨部材により構成されることを特徴とする請求項11に記載の記録ヘッドの製造方法。
【請求項12】
請求項1ないし12のいずれかに記載の記録ヘッドと前記記録媒体とを相対移動させる移動手段と、
前記記録ヘッドと前記記録媒体とを相対移動させつつ、前記記録ヘッドから液体を吐出させる制御手段と、
を備えることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項13】
前記移動手段は、前記記録ヘッドを主走査方向に移動させる移動機構と、前記記録媒体を前記主走査方向と交差する副走査方向に搬送する搬送機構と、を含むことを特徴とする請求項13に記載のインクジェット記録装置。
【請求項14】
前記記録ヘッドにおける前記ノズルは、所定のノズル列方向に沿って並ぶように複数備えられ、
前記移動手段は、前記ノズル列と交差する方向に前記記録媒体を搬送する搬送機構を含むことを特徴とする請求項14に記載のインクジェット記録装置。
【請求項15】
液体を吐出する複数の吐出口を形成する吐出口形成部を有し、前記吐出口形成部には異なるインクを吐出する複数種の吐出口群が形成された記録ヘッドを用いて画像の記録を行うインクジェット記録方法において、
前記記録ヘッドは、前記吐出口を先端に有するノズルの軸線と直交する基準平面に対し、異なる角度で交差する二以上の平面上に位置する吐出口面に前記複数の吐出口群が形成され、
前記基準平面上に位置させた記録媒体と前記記録ヘッドとを相対移動させつつ前記複数の吐出口群から異なるインクを吐出させて記録媒体上に記録を行うことを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項1】
液体を吐出する複数の吐出口からなる吐出口群が複数形成された記録ヘッドにおいて、
前記吐出口を先端に有するノズルの軸線と直交する基準平面に対し、異なる角度で交差する二以上の平面上に位置する吐出口面に前記複数の吐出口群が形成されていることを特徴とする記録ヘッド。
【請求項2】
前記各吐出口面と基準平面とのなす角度は、前記各吐出口面に位置する前記各吐出口群から吐出される液体の種類に応じて定められていることを特徴とする記録ヘッド。
【請求項3】
前記基準平面に対する角度が異なる吐出口面の連結部分には段差が形成されていることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の記録ヘッド。
【請求項4】
前記各吐出口は、1回の液体吐出動作において、主滴と、該主滴より液量の少ない副滴とを吐出し、
前記主滴の吐出方向は、当該主滴を吐出する前記吐出口が形成される前記領域と前記基準平面とのなす角度に応じて変化すると共に、
前記副滴の吐出方向は、前記ノズル当該副滴を吐出する前記ノズルの軸線と前記基準平面とのなす角度に応じて変化することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の記録ヘッド。
【請求項5】
前記記録ヘッドは、前記基準平面と平行する位置に存在する記録媒体に対し、当該記録媒体の表面と平行する平面上を直線方向に沿って相対的に移動可能に保持されることを特徴とする請求項4に記載の記録ヘッド。
【請求項6】
前記主滴の吐出速度をVm、前記副滴の吐出速度をVs、前記記録ヘッドと前記記録媒体との相対移動速度をVf、前記ノズルから前記記録媒体までの距離をhとしたとき、
前記領域と前記基準平面とのなす角度θは、
1/Vs−1/(Vm・cosθ)=tanθ/Vf
の条件を満たすことを特徴とする請求項5に記載の記録ヘッド。
【請求項7】
前記吐出口が位置する吐出口面は、前記基準平面に対し、前記記録ヘッドの相対移動方向を向いて傾斜していることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の記録ヘッド。
【請求項8】
前記ノズルは、液体を吐出するための熱エネルギを発生する電気熱変換体を含むことを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の記録ヘッド。
【請求項9】
前記ノズルは、前記熱エネルギによって生じる液体の発泡に応じて変位する可動板を含むことを特徴とする請求項9に記載の記録ヘッド。
【請求項10】
液体を吐出する複数の吐出口からなる吐出口群を複数備えた記録ヘッドの製造方法であって、
前記複数の吐出口群を形成してなる吐出口形成部の少なくとも一部に、平面状の研磨部材を吐出口に連通するノズルの軸線と直交しない角度で摺動させることにより、前記吐出口形成部に複数の異なる平面を形成することを特徴とする記録ヘッドの製造方法。
【請求項11】
前記研磨部材は、平面的な移動経路に沿って走行可能なベルト状の研磨部材により構成されることを特徴とする請求項11に記載の記録ヘッドの製造方法。
【請求項12】
請求項1ないし12のいずれかに記載の記録ヘッドと前記記録媒体とを相対移動させる移動手段と、
前記記録ヘッドと前記記録媒体とを相対移動させつつ、前記記録ヘッドから液体を吐出させる制御手段と、
を備えることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項13】
前記移動手段は、前記記録ヘッドを主走査方向に移動させる移動機構と、前記記録媒体を前記主走査方向と交差する副走査方向に搬送する搬送機構と、を含むことを特徴とする請求項13に記載のインクジェット記録装置。
【請求項14】
前記記録ヘッドにおける前記ノズルは、所定のノズル列方向に沿って並ぶように複数備えられ、
前記移動手段は、前記ノズル列と交差する方向に前記記録媒体を搬送する搬送機構を含むことを特徴とする請求項14に記載のインクジェット記録装置。
【請求項15】
液体を吐出する複数の吐出口を形成する吐出口形成部を有し、前記吐出口形成部には異なるインクを吐出する複数種の吐出口群が形成された記録ヘッドを用いて画像の記録を行うインクジェット記録方法において、
前記記録ヘッドは、前記吐出口を先端に有するノズルの軸線と直交する基準平面に対し、異なる角度で交差する二以上の平面上に位置する吐出口面に前記複数の吐出口群が形成され、
前記基準平面上に位置させた記録媒体と前記記録ヘッドとを相対移動させつつ前記複数の吐出口群から異なるインクを吐出させて記録媒体上に記録を行うことを特徴とするインクジェット記録方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−120040(P2008−120040A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−309137(P2006−309137)
【出願日】平成18年11月15日(2006.11.15)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.バブルジェット
【出願人】(000208743)キヤノンファインテック株式会社 (1,218)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年11月15日(2006.11.15)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.バブルジェット
【出願人】(000208743)キヤノンファインテック株式会社 (1,218)
【Fターム(参考)】
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