説明

記録装置、記録方法、記録再生装置、及び記録再生方法

【課題】位相合わせの工程を要することなく、再生ヘッドの出力に対するゲイン調整を良好に行い、データ再生を良好に行うことのできる記録再生装置を提供する。
【解決手段】記録ヘッドアレイ150には1つの幅広記録ヘッドW0とM個の記録ヘッドW1,W2,W3とが搭載されている。幅広記録ヘッドW0のヘッド幅は、データ再生のための信号処理の一単位である複数のトラックを記録するM個の記録ヘッドW1,W2,W3によって磁気記録メディア2に同時に記録されるM個の信号の幅と同等、もしくはそれ以上とされている。幅広記録ヘッドW0により、複数のトラックに位相の揃ったAGC用信号を一度で記録することで、再生時にAGC用信号の位相ずれによる劣化が生じない。これにより、再生ヘッドの出力に対するゲイン調整を良好に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録メディアに複数のトラックをデータ再生のための信号処理の一単位として記録する記録装置、記録方法、記録再生装置、及び記録再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気ヘッドにおいては、磁気記録メディアの大容量化を図るために、更なる高密度記録が求められ、トラックのトラック幅を狭くすること(以下、「狭幅化」という。)に適した磁気ヘッドが採用されるようになってきている。一般的には、トラックの狭幅化にはトラック・サーボの精度向上が鍵となる。
【0003】
磁気テープ記録再生装置においては、狭幅化に伴い、サーボが困難になる対策案として、所謂ノントラッキング・システムが提唱され、実用化に至っている(たとえば特許文献1−5など)。このノントラッキング方式は、ヘリカル・スキャンにてダブルアジマス記録を行ったトラックに対し、識別のために、ブロックに分けてデータを記録することによって、目的のトラックを1回のトレースで再生できなくても、データを再構成できるものである。このノントラッキング方式によって、従来のトラック・サーボで必要とされる1トラック以内のトラック制御に対して、4倍以上のマージンが許容されるようになる。
【0004】
また、ノントラッキング技術は、ヘリカル・スキャンに留まらずリニア記録で使用されるための可能性が検討されている(たとえば特許文献6,7など)。
【0005】
ところで、磁気記録メディアの基板に、たとえばポリエステルフィルムのような伸縮性をもった非磁性支持体を使用した場合、ダブルアジマス記録を行ったとしても、許容できる変形量はトラック・サーボを併用して、例えばトラック幅の2倍程度までであり、これ以上の変形が発生する場合は、十分なSN比をもって信号を再生することができなかった。また、ダブルアジマスを持たない記録の場合では、トラックをまたがない所謂ガードバンドの幅を、トラック・サーボを併用した状態でも、エラーレート等の信頼性を劣化させないために、テープの変形量以下に押さえ込む必要があった
【0006】
このような問題は、これまで実現されていた信号再生方式においては、少なくとも1つの再生ヘッドが同時に複数のトラックから信号を読み込むことによって信号品質が著しく劣化することに起因する。それを回避するために、ガードバンドやダブルアジマス記録を行い、また再生ヘッドからは1つのトラックからの信号のみを拾うように工夫されてきた。
しかし、さらに高トラック密度化を行う場合においては、先ずガードバンドの設置はその妨げとなる。また、再生時において隣接するトラックからの干渉を少なくすることができるダブルアジマス記録は、狭幅化した場合その効果は減少してしまう。
【0007】
このことは、ノントラッキング方式であっても同じであり、再生ヘッドは複数のトラックに跨って信号を再生するように見えるが、時間分割した場合、再生している信号は常に1つのトラックに対してだけであり、同一時間に複数のトラックを再生するということは行っていなかった。
【0008】
また、ノントラッキング方式で高トラック密度化に対応しようとした際に、対象トラックの隣接するトラックからの信号を拾うことによってノイズが混入するようになるため、トラックの狭幅化対応が限界になってきている。
【0009】
磁気ヘッド装置の背景技術としてこのほか、記録密度を向上させるために、1つのブロックに複数のヘッドを配置し、同一アジマスのブロックで形成する方式として、一度に複数のデータ・フレームを記録する技術がある(たとえば特許文献8及び特許文献9など)。
【0010】
これらの公知技術は、再生ヘッド幅をトラックの幅の半分程度にしなければならなくなるため、再生信号の出力を大きくとることができないという制約が生じ、たとえばSN比の確保の点で不利であり、更なる高密度記録化には必ずしも向いていなかった。
【0011】
MIMO(Multi-Input/Multi-Output)技術は、無線通信に用いられるものとして広く知られている(たとえば特許文献10など)。
【0012】
また、MIMOに関する技術を磁気記録に使用する技術も知られている(たとえば非特許文献1など)。しかし、たとえば記録したトラックよりも広幅の再生ヘッドを使用する場合など、実用化に際して発生する課題が解決されていなかった。
【0013】
本発明においては、MIMOを使用した磁気記録方法としては前項で紹介した論文をもって実現しえなかった、磁気記録再生方法へのMIMO技術の実用化を実現するにあたり、公知技術からは予見しえなかった技術内容を明らかにするものである。
【特許文献1】特許1842057号公報
【特許文献2】特許1842058号公報
【特許文献3】特許1842059号公報
【特許文献4】特開平04−370580号公報
【特許文献5】特開平05−020788号公報
【特許文献6】特開平10−283620号公報
【特許文献7】特開2003−132504号公報
【特許文献8】特開2003−338012号公報
【特許文献9】特開2004−071014号公報
【特許文献10】特許3664993号公報
【非特許文献1】論文IEEE Trans.Mag.Vol.30.No.6 Nov.1994 5100ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述したように従来の磁気記録再生方式では、記録密度を高めるに磁気記録メディアでのトラック幅を狭くする方法が採用されてきた。しかし、このまま高記録密度を追い求めてトラック幅を狭くしていくと、再生時にトラックを追いきれなくなるという問題が生じる。そこで、トラックに対する再生ヘッドの位置が多少とも外れていても、そのトラックから信号を読み取ることができるノントラッキング方式が提案されている。しかしながら、ノントラッキング方式で適切に再生信号を得るためには、再生ヘッドの設定に厳しい制約が伴う。この面からトラック幅の狭小化による高記録密度化には限界があった。
【0015】
そこで、本発明者らは、磁気記録メディアに記録ヘッドにより、データ検出のための信号処理の一単位である複数のトラックを記録し、磁気記録メディアの複数のトラックに跨って信号を再生することが可能な再生ヘッドにより、複数のトラックに対する信号を、複数のトラックに対して異なる位置関係で複数再生し、これら再生信号を一単位にまとめ、信号処理を行うことで、トラックごとの再生信号を生成するという方式を提案した。これによると、再生ヘッドの幅を決める制約が軽減し、トラック幅の狭小化、高記録密度化が可能である。
【0016】
ところで同方式を採用する場合における、より安定した再生信号を得るための技術的課題の一つとして、隣接する各トラックの記録信号の位相合わせがある。すなわち、隣接する各トラックの記録信号の間に位相ずれがある場合には、再生時に再生ヘッドがこれら隣接する複数のトラックに跨って再生を行ったときに得られる信号が劣化する。特に、このような信号の劣化は、トラックごとにプリアンブルとして記録されているAGC(Automatic Gain Control)用の学習信号を用いて再生ヘッドの出力に対するゲイン調整を行うときに大きな弊害を来たし、データ再生に悪影響をもたらすおそれがある。
【0017】
そこで、工場出荷前あるいは記録前に、再生ヘッドの出力を計測して、最大レベルとなるように、各トラックの記録の遅延量を調整することによって位相合わせを行う方法が検討されている。しかし、この位相合わせの工程には相応のコストがかかる。
【0018】
本発明は、かかる事情を鑑み、位相合わせの工程を要することなく、再生ヘッドの出力に対するゲイン調整を良好に行い、データ再生を良好に行うことのできる記録装置、記録方法、記録再生装置、及び記録再生方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の課題を解決するために、本発明の記録装置は、記録ヘッドを有し、この記録ヘッドにより、磁気記録メディアにデータ再生のための信号処理の一単位である複数のトラックを記録する記録部と、前記記録ヘッドのヘッド幅より大きなヘッド幅を持つ幅広記録ヘッドを有し、前記記録部によって前記磁気記録メディアに記録される複数のトラックに対して、前記幅広記録ヘッドにより自動利得制御のための学習信号を記録する自動利得制御信号記録部とを具備する。
【0020】
本発明の記録装置によれば、記録部によって磁気記録メディアに記録される複数のトラックに対して、幅広記録ヘッドにより自動利得制御のための学習信号を記録することで、複数のトラックに位相の揃った自動利得制御のための学習信号を記録することができ、再生時に学習信号の劣化が生じないため、再生ヘッドの出力に対するゲイン調整を良好に行うことができる。
【0021】
本発明の記録装置において、前記幅広記録ヘッドのヘッド幅は、前記記録部によって前記磁気記録メディアに同時に記録される複数の信号の幅と同等もしくはそれ以上とする。これにより、再生時に確実に、複数のトラックから位相の揃った自動利得制御のための学習信号を再生することができ、再生時に学習信号の劣化が生じないため、再生ヘッドの出力に対するゲイン調整を良好に行うことができる。
【0022】
本発明の記録装置において、前記記録部は、データ再生のための制御に必要なプリアンブルを、トラックごとの記録用データの符号列の前に付加して記録することとしてもよい。すなわち、自動利得制御のための学習信号以外のプリアンブルを、記録部によって記録するようにしてもよい。
【0023】
本発明の記録装置において、プリアンブルが、再生時に再生ヘッドと1ユニット分の複数のトラックとのトラック幅方向の位置関係に相当するチャネル行列を演算するために必要な分離用信号を含むこととしてもよい。
【0024】
本発明の別の観点に基づく記録方法は、記録ヘッドにより、磁気記録メディアにデータ再生のための信号処理の一単位である複数のトラックを記録するステップと、前記記録ヘッドのヘッド幅より大きなヘッド幅を持つ幅広記録ヘッドにより、前記磁気記録メディアに記録される複数のトラックに対して、前記幅広記録ヘッドにより自動利得制御のための学習信号を記録するステップとを具備する。
【0025】
本発明の記録方法によれば、記録部によって磁気記録メディアに記録される複数のトラックに対して、幅広記録ヘッドにより自動利得制御のための学習信号を記録することで、複数のトラックに位相の揃った自動利得制御のための学習信号を記録することができ、再生時に学習信号の劣化が生じないため、再生ヘッドの出力に対するゲイン調整を良好に行うことができる。
【0026】
本発明の別の観点に基づく記録再生装置は、記録ヘッドを有し、この記録ヘッドにより、磁気記録メディアにデータ再生のための信号処理の一単位である複数のトラックを記録する記録部と、前記記録ヘッドのヘッド幅より大きなヘッド幅を持つ幅広記録ヘッドを有し、前記記録部によって前記磁気記録メディアに記録される複数のトラックに対して、前記各トラック間で同一位相の自動利得制御のための学習信号を前記幅広記録ヘッドにより記録する自動利得制御信号記録部と、前記磁気記録メディアの複数の前記トラックに跨って信号を再生することが可能な再生ヘッドと、前記磁気記録メディアから再生された前記学習信号を用いて、前記再生ヘッドの再生信号に対する自動利得制御を行うゲイン調整部と、前記ゲイン調整部にてレベルが調整された、前記再生ヘッドの再生信号から前記トラックごとの再生信号を分離する信号分離処理部と、前記信号分離処理部によって分離されたトラックごとの再生信号を用いてデータを復元するデータ復元部とを具備する。
【0027】
本発明の記録再生装置によれば、記録部によって磁気記録メディアに記録される複数のトラックに対して、幅広記録ヘッドにより自動利得制御のための学習信号を記録することで、複数のトラックに位相の揃った自動利得制御のための学習信号を記録することができ、再生時に学習信号の劣化が生じないため、再生ヘッドの出力に対するゲイン調整を良好に行うことができる。
【0028】
本発明の記録再生装置において、前記記録部は、データ再生のための制御に必要なプリアンブルとして、少なくとも、再生時に再生ヘッドと1ユニット分の複数のトラックとのトラック幅方向の位置関係に相当するチャネル行列を演算するために必要な分離用信号をトラックごとの記録用データの符号列の前に付加して記録し、前記信号分離処理部は、前記磁気記録メディアから再生された前記分離用信号を用いて前記チャネル行列を求め、このチャネル行列をもとに、前記再生ヘッドの再生信号から前記トラックごとの再生信号を分離することとしてもよい。
【0029】
本発明の別の観点に基づく記録再生方法は、記録ヘッドにより、磁気記録メディアにデータ再生のための信号処理の一単位である複数のトラックを記録するステップと、前記磁気記録メディアに記録される複数のトラックに対して、前記記録ヘッドのヘッド幅より大きなヘッド幅を持つ幅広記録ヘッドにより自動利得制御のための学習信号を記録するステップと、前記磁気記録メディアから再生された前記学習信号を用いて、前記磁気記録メディアの複数の前記トラックに跨って信号を再生することが可能な再生ヘッドの再生信号に対する自動利得制御を行うステップと、前記ゲイン調整部にてレベルが調整された、前記再生ヘッドの再生信号から前記トラックごとの再生信号を分離するステップと、前記分離されたトラックごとの再生信号をもとにデータを復元するステップとを具備する。
【0030】
本発明の記録再生方法によれば、記録部によって磁気記録メディアに記録される複数のトラックに対して、幅広記録ヘッドにより自動利得制御のための学習信号を記録することで、複数のトラックに位相の揃った自動利得制御のための学習信号を記録することができ、再生時に学習信号の劣化が生じないため、再生ヘッドの出力に対するゲイン調整を良好に行うことができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、位相合わせの工程を要することなく、再生ヘッドの出力に対するゲイン調整を良好に行うことができ、データ再生を良好に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明を実施した形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0033】
(第1の実施形態)
【0034】
図1は、本発明の第1の実施形態に係るリニア記録方式の磁気記録再生装置における記録装置100の構成を示す図である。
【0035】
同図に示すように、この記録装置100は、マルチトラック化部110と、マルチトラック記録符号化部120と、マルチトラックプリアンブル付加部130と、マルチトラック記録部140と、記録ヘッドアレイ150とを備えている。
【0036】
記録ヘッドアレイ150は、M(例えばM=3)個の記録ヘッドW1,W2,W3と1個の幅広記録ヘッドW0とを備えている。
【0037】
マルチトラック化部110は、マルチトラック化のために記録データ1を記録ヘッドアレイ150に設けられた記録ヘッドW1,W2,W3の数(M=3)のデータに振り分けるデータ分配器111で構成される。
【0038】
マルチトラック記録符号化部120は、データ分配器111にて振り分けられたM個の記録データを符号化するM個の記録符号化部121−1,121−2,121−3で構成される。
【0039】
マルチトラックプリアンブル付加部130は、符号化されたM個の記録データそれぞれに、ユニット単位のデータ再生の制御のために必要なプリアンブルを付加する手段である。すなわち、マルチトラックプリアンブル付加部130は、シンク用信号を付加するM個のシンク用信号付加部131−1,131−2,131−3と、分離用信号を付加するM個の分離用信号付加部133−1,133−2,133−3と、PLL用信号を付加するM個のPLL用信号付加部134−1,134−2,134−3とを有する。さらに、マルチトラックプリアンブル付加部130は、幅広記録ヘッドW0に供給するAGC(Automatic Gain Control)用信号を発生する1つのAGC用信号発生部132とを有する。
【0040】
マルチトラック記録部140は、AGC用信号発生部132より発生されたAGC用信号及びPLL用信号付加部134−1,134−2,134−3よりそれぞれ出力されたM個の記録データにそれぞれ所望のタイミングを与える(M+1)個の出力タイミング設定部141−0,141−1,141−2,141−3と、出力タイミング設定部141−0,141−1,141−2,141−3の出力に対して記録補償処理を行う(M+1)個の記録補償部144−0,144−1,144−2,144−3と、記録補償処理後の信号をもとに幅広記録ヘッドW0及びM個の記録ヘッドW1,W2,W3を駆動する(M+1)個の記録アンプ147−0,147−1,147−2,147−3とで構成される。
【0041】
図2は、この記録装置100による記録時の動作を示すフローチャートである。この記録装置100では、まず、入力された記録データ1がマルチトラック化部110にて、記録ヘッドW1,W2,W3の数(M=3)のデータ、すなわちユニットを構成するトラック数分のデータに分配される(ステップS101)。
【0042】
分配された各データは、それぞれマルチトラック記録符号化部120の記録符号化部121−1,121−2,121−3にて、磁気記録メディア2の記録再生特性を考慮した符号列に符号化される。このときデータの符号列に、復調用同期パターンなどの、データ復調時に必要な情報も付加される(ステップS102)。
【0043】
次に、マルチトラック記録符号化部120より出力されたM個のデータ符号列それぞれに対して、マルチトラックプリアンブル付加部130のシンク用信号付加部131−1,131−2,131−3にてシンク用信号が、分離用信号付加部131−3,133−2,133−3にて分離用信号が、そしてPLL用信号付加部134−1,134−2,134−3にてPLL用信号が順に付加されてマルチトラック記録部140に出力される(ステップS103)。
【0044】
マルチトラックプリアンブル付加部130のPLL用信号付加部134−1,134−2,134−3より出力された記録符号列は、マルチトラック記録部140の出力タイミング設定部141−1,141−2,141−3にてそれぞれ所望のタイミングが与えられた後、記録補償部144−1,144−2,144−3にて、磁気記録メディア2への記録に最適化するための記録補償処理が施され、記録アンプ147−1,147−2,147−3において電圧から電流に変換されて、記録ヘッドW1,W2,W3によって磁気記録メディア2に記録される(ステップS104)。
【0045】
一方、AGC用信号発生部132からはAGC用信号が発生される(ステップS105)。このAGC用信号はマルチトラック記録部140内の出力タイミング設定部141−0に入力され、ここで所望のタイミングが与えられた後、記録補償部144−0にて磁気記録メディア2への記録に最適化するための記録補償処理が施され、記録アンプ147−0において電圧から電流に変換されて幅広記録ヘッドW0によって磁気記録メディア2に記録される(ステップS106)。
【0046】
以上により、磁気記録メディア2に、それぞれプリアンブルとデータからなるM(M=3)本のトラックが、そのデータを再生するための信号処理の一単位であるユニットとして記録される。
【0047】
図3は、幅広記録ヘッドW0及びM個の記録ヘッドW1,W2,W3と、磁気記録メディア2に記録されるプリアンブル及びデータとの関係を示す図である。
【0048】
同図に示すように、記録ヘッドアレイ150には1つの幅広記録ヘッドW0とM個の記録ヘッドW1,W2,W3とが搭載されている。幅広記録ヘッドW0のヘッド幅は、M個の記録ヘッドW1,W2,W3によって磁気記録メディア2に同時に記録されるM個の信号の幅と同等、もしくはそれ以上とされている。
【0049】
磁気記録メディア2上には、データを再生する制御のために必要なプリアンブル15として、AGC用信号11、シンク用信号12、分離用信号13(13−1,13−2,13−3)及びPLL用信号14が記録され、これらのプリアンブル15の後にデータ用信号16が記録される。ここで、AGC用信号11は、再生ヘッドごとの再生信号に対するゲイン制御のための学習に用いられる信号である。シンク用信号12は、ビット同期処理などのための同期検出に用いられる信号である。また、シンク用信号12は、再生時に、各トラック#1,#2,#3の分離用信号13(13−1,13−2,13−3)及びデータ用信号16の先頭位置を知るための情報として使用される。分離用信号13(13−1,13−2,13−3)は、再生時に各再生ヘッドの再生信号からトラックごとの再生信号を分離するために必要な信号であり、さらに具体的には、各再生ヘッドと1ユニット分の複数のトラックとのトラック幅方向の位置関係に相当するチャネル行列を演算するために必要な信号である。13−1は記録ヘッドW1によって記録された分離用信号、13−2は記録ヘッドW2によって記録された分離用信号、13−3は記録ヘッドW3によって記録された分離用信号である。各トラック#1,#2,#3の分離用信号13(13−1,13−2,13−3)はトラックの進行する方向において互いに重ならない位置に記録されており、さらには、隣り合うトラックの分離用信号13(13−1,13−2,13−3)の記録区間の間には、マージンのための所定の時間分の隙間が設けられている。また、分離用信号13(13−1,13−2,13−3)は、最小記録波長と同等か、あるいはそれ以上の所定の記録波長で記録されたものである。PLL用信号14は、データ再生のためのPLL処理で用いられる信号である。
【0050】
幅広記録ヘッドW0及びM個の記録ヘッドW1,W2,W3による磁気記録メディア2へのプリアンブル及びデータの記録順は以下の通りである。まず、幅広記録ヘッドW0によってAGC用信号11が記録される。次に、各記録ヘッドW1,W2,W3によって、シンク用信号12が記録される。続いて、各記録ヘッドW1,W2,W3によって、トラックごとの分離用信号13(13−1,13−2,13−3)がトラックの進行する方向において互いに重なり合わないように記録される。次に、各記録ヘッドW1,W2,W3によって、データ検出の際に必要となるPLL用信号14が記録される。最後に、各記録ヘッドW1,W2,W3によってデータ用信号16が記録される。
【0051】
次に、本発明の第1の実施形態に係る磁気記録再生装置における再生装置について説明する。
【0052】
図4は、この再生装置200の構成を示すブロック図である。
【0053】
同図に示すように、再生装置200は、再生ヘッドアレイ210、チャネル再生部220、信号分離処理部230、マルチトラック復調部240、及び復元部260を備える。
【0054】
再生ヘッドアレイ210は、磁気記録メディア2に記録された各トラックから信号を読み出すN(たとえば3)個の再生ヘッドR1,R2,R3を有する。再生ヘッドアレイ210の各再生ヘッドR1,R2,R3はそれぞれ、磁気記録メディア2上の1以上のトラックから信号を再生可能とされ、少なくとも一部の再生ヘッドは、隣接する複数のトラックに跨って信号を再生可能なように設けられている。例えば、図3の例では、再生ヘッドR1は、トラック#1とトラック#2とに跨って信号を再生し、再生ヘッドR2は、3本のトラック#1,#2,#3に跨って信号を再生する。
【0055】
チャネル再生部220は、再生ヘッドアレイ210に搭載されたN個の再生ヘッドR1,R2,R3によって再生された信号を増幅するN個の再生アンプ221−1,221−2,221−3と、N個の再生アンプ221−1,221−2,221−3の出力の振幅レベルが所定の値になるようにAGC用信号11を用いてゲインを制御するAGC224−1,224−2,224−3と、AGC224−1,224−2,224−3の出力を所定のビット幅のディジタル値に量子化するA/Dコンバータ225−1,225−2,225−3とを備える。なお、A/Dコンバータ225−1,225−2,225−3の直前には必要に応じて不要な高域成分を除去するローパス・フィルタが備えられていてもよい。さらにAGC224−1,224−2,224−3をA/Dコンバータ225−1,225−2,225−3の後段に設置して、量子化後にゲインを制御するようにしてもよい。
【0056】
信号分離処理部230は、A/Dコンバータ225−1,225−2,225−3の出力から前記分離パターンの先頭位置を知るための同期パターンの検出を行う同期信号検出器231と、同期信号検出器231によって検出されたシンク用信号12をもとにトラックごとの分離用信号13(13−1,13−2,13−3)の先頭位置を特定して、そのトラックごとの分離用信号13(13−1,13−2,13−3)を用いてチャネル推定演算および信号分離演算を行うことによって、複数の再生ヘッドR1,R2,R3によってそれぞれ再生された1ユニット分の再生信号からトラックごとの再生信号を分離する信号分離演算部236とを備える。
【0057】
マルチトラック復調部240は、各トラックごとに分離された再生信号に対して等化処理を行うM個の等化器241−1,241−2,241−3と、等化器241−1,241−2,241−3の出力からPLL用信号14を用いてビット同期信号を生成するM個のPLL242−1,242−2,242−3と、PLL242−1,242−2,242−3で生成されたビット同期信号を用いて各トラックごとの再生信号を二値化して符号語列を生成する、たとえばビタビ検出器などM個の検出器243−1,243−2,243−3と、検出器243−1,243−2,243−3の出力である2値化された再生信号から符号語列上の同期信号を検出するM個の後段の同期信号検出器244−1,244−2,244−3と、後段の同期信号検出器244−1,244−2,244−3により検出されたデータ領域の同期信号で、データの先頭位置を特定して符号語列からデータ列を復号するM個の復号器245−1,245−2,245−3とを備える。
【0058】
復元部260は、M個の復号器245−1,245−2,245−3より出力された各トラックのデータを、記録時と逆の動作により連結して再生データ3を復元するデータ結合器261を備える。
【0059】
図5は、この再生装置200による再生時の動作を示すフローチャートである。
【0060】
まず、各再生ヘッドR1,R2,R3によって、磁気記録メディア2の各トラックから信号が再生される(ステップS201)。図3に示したように、磁気記録メディア2には、先頭側より、AGC用信号11、シンク用信号12、分離用信号13、PLL用信号14、及びデータ用信号16の順で記録されているので、最初に、AGC用信号11が再生される。このAGC用信号11を用いて、AGC224−1,224−2,224−3にて各再生アンプ221−1,221−2,221−3の出力に対するゲインの制御が行われ、再生アンプ221−1,221−2,221−3ごとの出力の振幅レベルが調整される。ここで、AGC用信号11は、幅広記録ヘッドW0によって、M個の記録ヘッドW1,W2,W3によって磁気記録メディア2に同時に記録されるM個の信号の幅と同等、もしくはそれ以上の幅で一度に記録されたものであるから、隣接するトラック間でのAGC用信号11の位相ずれによる劣化が起こらず、良好なAGC用信号11が再生される。
【0061】
AGC224−1,224−2,224−3の出力はA/Dコンバータ225−1,225−2,225−3にてディジタル値に変換されて同期信号検出器231に出力される(ステップS202)。同期信号検出器231では、A/Dコンバータ225−1,225−2,225−3の出力から、トラックごとの分離用信号13−1,13−2,13−3、PLL用信号14、及びデータ用信号16の先頭位置を知るためのシンク用信号12の検出が行われて図示せぬシステムコントローラに与えられる(ステップS203)。
【0062】
システムコントローラは、シンク用信号12の検出結果をもとに、分離用信号13−1,13−2,13−3、PLL用信号14、データ用信号16の先頭位置を信号分離処理部230及びマルチトラック復調部240などに知らせるなどの制御を行う。
【0063】
信号分離演算部236では、システムコントローラからの制御信号をもとに、各再生信号に配置されている分離用信号13(13−1,13−2,13−3)の先頭位置を特定し、これらの分離用信号13(13−1,13−2,13−3)を用いて所定のチャネル推定演算を行う(ステップS204)。ここで、チャネル推定演算とは、複数のトラックに対する再生ヘッドの位置情報に相当するチャネル行列Hを演算する処理である。この後、信号分離演算部236では、そのチャネル行列Hの逆行列を求め、この逆行列と1ユニット分の再生信号とからトラックごとの再生信号を分離する処理が行われる。この処理によって、分離用信号13(13−1,13−2,13−3)より後のPLL用信号14とデータ用信号16は、トラックごとの信号に分離される(ステップS205)。
【0064】
この後は、マルチトラック復調部240の各等化器241−1,241−2,241−3にて、各トラックごとに分離された再生信号に対して等化処理が行われ、PLL242−1,242−2,242−3にて、PLL用信号14を用いて生成されたビット同期信号を用いて検出器243−1,243−2,243−3にて各トラックごとの再生信号の二値化が行われることによって各トラックごとの符号語列が生成される。
【0065】
さらに、後段の同期信号検出器244−1,244−2,244−3にて、各トラックごとの符号語列上の同期信号を検出し復号器245−1,245−2,245−3での各トラックごとの符号語列からのデータ列の復号が行われる(ステップS206)。そして復元部260にて各トラックごとのデータが連結されて再生データが得られる(ステップS207)。
【0066】
以上のように、この実施形態によれば、幅広記録ヘッドW0によってAGC用信号11を、M個の記録ヘッドW1,W2,W3によって磁気記録メディア2に同時に記録されるM個の信号の幅と同等、もしくはそれ以上の幅で一度に記録したので、再生時に、トラック間での位相ずれによるAGC用信号11の劣化が起こらない。これによって、記録開始前や工場出荷前などでの位相合わせ工程を要することなく、再生信号に対するゲイン調整を良好に行うことができ、データ再生を良好に行うことができる。
【0067】
(第2の実施形態)
【0068】
図6は、本発明の第2の実施形態に係るリニア記録方式の磁気記録再生装置における記録装置300の構成を示す図である。
【0069】
第1の実施形態の記録装置100において幅広記録ヘッドW0と各記録ヘッドW1,W2,W3は1つの記録ヘッドアレイ150に設けられていたのに対し、本実施形態の記録装置300において、幅広記録ヘッドW0は、記録ヘッドW1,W2,W3を搭載した記録ヘッドアレイ150とは別個に設けられている。その他の構成は、第1の実施形態の記録装置100と同じである。
【0070】
図7は、図6に示した幅広記録ヘッドW0及びM個の記録ヘッドW1,W2,W3と、磁気記録メディア2に記録されるプリアンブル及びデータとの関係を示す図である。
【0071】
同図に示すように、記録ヘッドアレイ150にはM個の記録ヘッドW1,W2,W3が設けられており、記録ヘッドアレイ150とは別に設けられた幅広記録ヘッドW0のヘッド幅は、記録ヘッドアレイ150に設けられたM個の記録ヘッドW1,W2,W3によって磁気記録メディア2に同時に記録されるM個の信号の幅と同等、もしくはそれ以上に設定されている。
【0072】
磁気記録メディア2上には、データを再生する制御のために必要なプリアンブル15として、AGC用信号11、シンク用信号12、分離用信号13(13−1,13−2,13−3)及びPLL用信号14が記録され、これらのプリアンブル15の後にデータ用信号16が記録される。幅広記録ヘッドW0及び各記録ヘッドW1,W2,W3による、磁気記録メディア2へのプリアンブル15及びデータ用信号16の記録順は、第1の実施形態と同じである。すなわち、まず、幅広記録ヘッドW0によってAGC用信号11が記録される。次に、記録ヘッドアレイ150の各記録ヘッドW1,W2,W3によって、シンク用信号12が記録される。続いて、記録ヘッドアレイ150の各記録ヘッドW1,W2,W3によって、トラックごとの分離用信号13(13−1,13−2,13−3)がトラックの進行する方向において互いに重なり合わないように記録される。次に、記録ヘッドアレイ150の各記録ヘッドW1,W2,W3によって、データ検出の際に必要となるPLL用信号14が記録される。最後に、記録ヘッドアレイ150の各記録ヘッドW1,W2,Wによってデータ用信号16が記録される。
【0073】
本実施形態の磁気記録再生装置における再生装置の構成及び動作は第1の実施形態の再生装置200と同じであるので、説明は省略する。
【0074】
この実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、記録ヘッドアレイ150とは別個に設けられた幅広記録ヘッドW0によってAGC用信号11を、M個の記録ヘッドW1,W2,W3によって磁気記録メディア2に同時に記録されるM個の信号の幅と同等、もしくはそれ以上の幅で一度に記録したので、再生時に、トラック間での位相ずれによるAGC用信号11の劣化が起こらず、良好なAGC用信号11が再生される。これによって、記録開始前や工場出荷前などでの位相合わせ工程を要することなく、再生信号に対するゲイン調整を良好に行うことができ、データ再生を良好に行うことができる。
【0075】
(第3の実施形態)
【0076】
次に、本発明の第3の実施形態として、ヘリカル・スキャン記録方式の磁気記録再生装置について説明する。
【0077】
図8は、本実施形態の磁気記録再生装置における記録装置400の構成を示す図である。同図に示すように、この記録装置400の幅広記録ヘッドW0及び各記録ヘッドW1,W2,W3は、回転ドラム40の周面にそれぞれ独立して配置されており、その他の構成は、図1に示した第1の実施形態のリニア記録方式の記録装置100と同様である。
【0078】
図9は、本実施形態の磁気記録再生装置における再生装置500の構成を示す図である。同図に示すように、この再生装置500の各再生ヘッドR1,R2,R3は、回転ドラム40の周面にそれぞれ独立して配置されており、その他の構成は、図4に示した第1の実施形態のリニア記録方式の再生装置200と同様である。
【0079】
図10は、図8の記録装置400及び図9の再生装置500の回転ドラムにおける記録ヘッド及び再生ヘッドの配置を示す図である。
【0080】
ヘリカル・スキャン記録方式では、回転する回転ドラム40上に記録用及び再生用の各ヘッドが搭載される。ここで、W0は幅広記録ヘッド、W1,W2,W3は記録ヘッド、R1,R2,R3は再生ヘッドである。図10に示すように、幅広記録ヘッドW0及び記録ヘッドW1,W2,W3は、図中の矢印41の方向に回転する回転ドラム40上に、例えば、90度間隔の回転角度位置にそれぞれ配置されている。また、回転ドラム40上の幅広記録ヘッドW0と記録ヘッドW1との間、記録ヘッドW1と記録ヘッドW2との間、そして記録ヘッドW2と記録ヘッドW3との間にはそれぞれ再生ヘッドR1,R2,R3が配置されている。磁気記録メディア2は、図中の矢印42の方向(左から右方向)に移動される。
【0081】
図11は、幅広記録ヘッドW0及びM個の記録ヘッドW1,W2,W3と、磁気記録メディア2に記録されるプリアンブル及びデータとの関係を示す図である。
【0082】
同図に示すように、回転ドラム40に設けられた幅広記録ヘッドW0のヘッド幅は、同じく回転ドラム40に設けられたM個の記録ヘッドW1,W2,W3によって磁気記録メディア2に同時に記録されるM個の信号の幅と同等、もしくはそれ以上に設定されている。
【0083】
磁気記録メディア2上には、データを再生する制御のために必要なプリアンブル15として、AGC用信号11、シンク用信号12、分離用信号13(13−1,13−2,13−3)及びPLL用信号14が順に記録され、これらのプリアンブル15の後にデータ用信号16が記録される。
【0084】
幅広記録ヘッドW0及び各記録ヘッドW1,W2,W3による、磁気記録メディア2へのプリアンブル及びデータの記録順は以下の通りである。まず、幅広記録ヘッドW0によってAGC用信号11が記録される。次に、各記録ヘッドW1,W2,W3によって、シンク用信号12が記録される。続いて、各記録ヘッドW1,W2,W3によって、トラックごとの分離用信号13(13−1,13−2,13−3)がトラックの進行する方向において互いに重なり合わないように記録される。次に、各記録ヘッドW1,W2,W3によって、データ検出の際に必要となるPLL用信号14が記録される。最後に、各記録ヘッドW1,W2,W3によってデータ用信号16が記録される。
【0085】
ヘリカル・スキャン記録方式では、以上の記録過程が回転ドラム40が1回転する間に行われる。この後、磁気記録メディア2が矢印42のテープ走行方向に一定量搬送されてから、回転ドラム40が再度一回転する間に、上記の記録過程が同様に繰り返される。なお、回転ドラム40の一回の記録過程で記録されたトラック列と次回の記録過程で記録されたトラック列との間には、何も有意な信号が記録されていないガードエリア17が設けられるように、磁気記録メディア2の搬送が制御される。
【0086】
なお、ガードエリア17については、回転ドラム40に消去用ヘッドを配置しておき、この消去ヘッドで、データの記録と同時にガードエリア17を形成するようにしてもよい。
【0087】
次に、この再生装置500による再生時の動作を説明する。
【0088】
まず、回転ドラム40に設けられた各再生ヘッドR1,R2,R3によって、磁気記録メディア2の各トラックから信号が再生される。図11に示したように、磁気記録メディア2には、AGC用信号11、シンク用信号12、分離用信号13(13−1,13−2,13−3)、PLL用信号14、及びデータ用信号16の順で記録されているので、最初に、AGC用信号11が再生される。このAGC用信号11を用いて、AGC224−1,224−2,224−3にて各再生アンプ221−1,221−2,221−3の出力に対するゲインの制御が行われ、再生アンプ221−1,221−2,221−3ごとの出力の振幅レベルが調整される。ここで、AGC用信号11は、幅広記録ヘッドW0によって、M個の記録ヘッドW1,W2,W3によって磁気記録メディア2に同時に記録されるM個の信号の幅と同等、もしくはそれ以上の幅で一度に記録されたものであるから、トラック間でのAGC用信号11の位相ずれによる劣化が起こらず、良好なAGC用信号11が再生される。
【0089】
AGC224−1,224−2,224−3の出力はA/Dコンバータ225−1,225−2,225−3にてディジタル値に変換されて同期信号検出器231に出力される。同期信号検出器231では、A/Dコンバータ225−1,225−2,225−3の出力から、トラックごとの分離用信号13−1,13−2,13−3、PLL用信号14、及びデータ用信号16の先頭位置を知るためのシンク用信号12の検出が行われて図示せぬシステムコントローラに与えられる。
【0090】
システムコントローラは、シンク用信号12の検出結果をもとに、分離用信号13(13−1,13−2,13−3)、PLL用信号14、データ用信号15の先頭位置を信号分離処理部230及びマルチトラック復調部240などに知らせるなどの制御を行う。
【0091】
信号分離演算部236では、システムコントローラからの制御信号をもとに、各再生信号に配置されている分離用信号13(13−1,13−2,13−3)の先頭位置を特定し、これらの分離用信号13(13−1,13−2,13−3)を用いて所定のチャネル推定演算を行う。ここで、チャネル推定演算とは、複数のトラックに対する再生ヘッドの位置情報に相当するチャネル行列Hを演算する処理である。この後、信号分離演算部236では、そのチャネル行列Hの逆行列を求め、この逆行列と1ユニット分の再生信号とからトラックごとの再生信号を分離する処理が行われる。この処理によって、分離用信号13−1,13−2,13−3より後のPLL用信号14とデータ用信号16は、トラックごとの信号に分離される
【0092】
この後は、マルチトラック復調部240の各等化器241−1,241−2,241−3にて、各トラックごとに分離された再生信号に対して等化処理が行われ、PLL242−1,242−2,242−3にて、PLL用信号14を用いて生成されたビット同期信号を用いて検出器243−1,243−2,243−3にて各トラックごとの再生信号の二値化が行われることによって各トラックごとの符号語列が生成される。
【0093】
さらに、後段の同期信号検出器244−1,244−2,244−3にて、各トラックごとの符号語列上の同期信号を検出し復号器245−1,245−2,245−3での各トラックごとの符号語列からのデータ列の復号が行われる。そして復元部260にて各トラックごとのデータが連結されて再生データが得られる。
【0094】
以上の再生過程は、回転ドラム40が1回転する間に行われる。この後、磁気記録メディア2が矢印42のテープ走行方向に一定量搬送されてから、回転ドラム40が再度一回転する間に、次のユニットに対する再生過程が同様に繰り返される。
【0095】
以上のように、この実施形態によれば、幅広記録ヘッドW0によってAGC用信号11を、M個の記録ヘッドW1,W2,W3によって磁気記録メディア2に同時に記録されるM個の信号の幅と同等、もしくはそれ以上の幅で一度に記録したので、再生時に、トラック間での位相ずれによるAGC用信号11の劣化が起こらない。これによって、記録開始前や工場出荷前などでの位相合わせ工程を要することなく、再生信号に対するゲイン調整を良好に行うことができ、データ再生を良好に行うことができる。
【0096】
次に、本実施形態の変形例を示す。
【0097】
各再生ヘッドと1ユニット分の複数のトラックとの再生時のトラック幅方向の位置関係を検出するために必要なパターンとして、上記の実施形態では、分離用信号を用いたが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、トラッキングサーボ情報などを用いることも可能である。この場合には、トラッキングサーボ情報の各記録パターンと各再生ヘッドとの位置関係をユニット単位にまとめたものがチャネル推定情報として生成される。
【0098】
また、分離パターンを用いて上記の位置関係を検出する手段と、トラッキングサーボ情報を用いて位置関係を検出する手段の両方を併用して、チャネル推定演算を行ってもよい。
【0099】
さらに、上記の実施形態では、3行3列の行列をチャネル推定情報として算出する場合を説明したが、その他の正方行列であっても、その一般化逆行列を求めることによって信号分離処理を行うことが可能である。さらに、正方行列以外の行列でも、同様にしてその一般化逆行列を求めるようにすればよい。
【0100】
なお、行列の一般化逆行列を求められるようにするために、分離パターンの種類はトラック数に対応させておく必要がある。
【0101】
AGC用信号を、シンク用信号の後方に追加配置することによって、ゲイン制御のための情報量を増やしてもよい。
【0102】
AGC用信号と分離用信号とには、同一のパターンを採用してもかまわない。
【0103】
上記の実施形態では、時間軸上で直交する分離パターンを用いたが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、周波数軸上で直交するような分離パターン、あるいは、直交符号を用いた分離パターンなどを用いてもよい。
【0104】
信号分離処理の演算方法としては、例えば、チャネル行列に対する一般化逆行列を求める方法などが挙げられる。このチャネル行列に対して一般化逆行列を求める方法は、一般に、ゼロ・フォーシング(Zero・Forcing)法と呼ばれる。但し、信号分離処理の方法はこれに限定されるものではなく、例えば、MMSE(Minimum Mean Squared Error)法を用いることもできる。
【0105】
なお、本発明は、上記実施の形態に示す構成のものに限定されるものではなく、請求項に記載した技術的範囲を逸脱しない範囲において種々に変更し変形することは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るリニア記録方式の磁気記録再生装置における記録装置100の構成を示す図である。
【図2】図1の記録装置による記録時の動作を示すフローチャートである。
【図3】図1の記録装置の幅広記録ヘッド及びM個の記録ヘッドと磁気記録メディアに記録されるプリアンブル及びデータとの関係を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る磁気記録再生装置における再生装置の構成を示すブロック図である。
【図5】図4の再生装置による再生時の動作を示すフローチャートである。
【図6】本発明の第2の実施形態に係るリニア記録方式の磁気記録再生装置における記録装置の構成を示す図である。
【図7】図6の記録装置の幅広記録ヘッド及びM個の記録ヘッドと磁気記録メディアに記録されるプリアンブル及びデータとの関係を示す図である。
【図8】本発明の第3の実施形態に係るヘリカル・スキャン記録方式の磁気記録再生装置における記録装置の構成を示す図である。
【図9】本発明の第3の実施形態に係る磁気記録再生装置における再生装置の構成を示すブロック図である。
【図10】図8の記録装置及び図9の再生装置の回転ドラムにおける記録ヘッド及び再生ヘッドの配置を示す図である。
【図11】図8の幅広記録ヘッド及びM個の記録ヘッドと磁気記録メディアに記録されるプリアンブル及びデータとの関係を示す図である。
【符号の説明】
【0107】
1 記録データ
2 磁気記録メディア
3 再生データ
11 AGC用信号
12 シンク用信号
13 分離用信号
14 PLL用信号
15 プリアンブル
16 データ用信号
100 記録装置
110 マルチトラック化部
111 データ分配器
120 マルチトラック記録符号化部
121−1,121−2,121−3 記録符号化部
130 マルチトラックプリアンブル付加部
131−1,131−2,131−3 シンク用信号付加部
132 AGC用信号発生部
133−1,133−2,133−3 分離用信号付加部
134−1,134−2,134−3 PLL用信号付加部
140 マルチトラック記録部
141−0,141−1,141−2,141−3 出力タイミング設定部
144−0,144−1,144−2,144−3 記録補償部
147−0,147−1,147−2,147−3 記録アンプ
150 記録ヘッドアレイ
200 再生装置
210 再生ヘッドアレイ
220 チャネル再生部
221−1,221−2,221−3 再生アンプ
224−1,224−2,224−3 ゲイン調整部
225−1,225−2,225−3 A/Dコンバータ
230 信号分離処理部
231 同期信号検出器
236 信号分離演算部
240 マルチトラック復調部
241−1,241−2,241−3 等化器
242−1,242−2,242−3 PLL
243−1,243−2,243−3 検出器
244−1,244−2,244−3 同期信号検出器
245−1,245−2,245−3 復号器
260 復元部
261 データ結合器
R−1,R−2,R−3 再生ヘッド
W−0 幅広記録ヘッド
W−1,W−2,W−3 記録ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録ヘッドを有し、この記録ヘッドにより、磁気記録メディアにデータ再生のための信号処理の一単位である複数のトラックを記録する記録部と、
前記記録ヘッドのヘッド幅より大きなヘッド幅を持つ幅広記録ヘッドを有し、前記記録部によって前記磁気記録メディアに記録される複数のトラックに対して、前記幅広記録ヘッドにより自動利得制御のための学習信号を記録する自動利得制御信号記録部と
を具備することを特徴とする記録装置。
【請求項2】
請求項1に記載の記録装置であって、
前記幅広記録ヘッドのヘッド幅は、前記記録部によって前記磁気記録メディアに同時に記録される複数の信号の幅と同等もしくはそれ以上であることを特徴とする記録装置。
【請求項3】
請求項1に記載の記録装置であって、
前記記録部は、データ再生のための制御に必要なプリアンブルを、トラックごとの記録用データの符号列の前に付加して記録することを特徴とする記録装置。
【請求項4】
請求項3に記載の記録装置であって、
前記プリアンブルが、再生時に再生ヘッドと1ユニット分の複数のトラックとのトラック幅方向の位置関係に相当するチャネル行列を演算するために必要な分離用信号を含むことを特徴とする記録装置。
【請求項5】
記録ヘッドにより、磁気記録メディアにデータ再生のための信号処理の一単位である複数のトラックを記録するステップと、
前記記録ヘッドのヘッド幅より大きなヘッド幅を持つ幅広記録ヘッドにより、前記磁気記録メディアに記録される複数のトラックに対して、前記幅広記録ヘッドにより自動利得制御のための学習信号を記録するステップと
を具備することを特徴とする記録方法。
【請求項6】
記録ヘッドを有し、この記録ヘッドにより、磁気記録メディアにデータ再生のための信号処理の一単位である複数のトラックを記録する記録部と、
前記記録ヘッドのヘッド幅より大きなヘッド幅を持つ幅広記録ヘッドを有し、前記記録部によって前記磁気記録メディアに記録される複数のトラックに対して、前記各トラック間で同一位相の自動利得制御のための学習信号を前記幅広記録ヘッドにより記録する自動利得制御信号記録部と、
前記磁気記録メディアの複数の前記トラックに跨って信号を再生することが可能な再生ヘッドと、
前記磁気記録メディアから再生された前記学習信号を用いて、前記再生ヘッドの再生信号に対する自動利得制御を行うゲイン調整部と、
前記ゲイン調整部にてレベルが調整された、前記再生ヘッドの再生信号から前記トラックごとの再生信号を分離する信号分離処理部と、
前記信号分離処理部によって分離されたトラックごとの再生信号をもとにデータを復元するデータ復元部と
を具備することを特徴とする記録再生装置。
【請求項7】
請求項6に記載の記録再生装置であって、
前記記録部は、データ再生のための制御に必要なプリアンブルとして、少なくとも、再生時に再生ヘッドと1ユニット分の複数のトラックとのトラック幅方向の位置関係に相当するチャネル行列を演算するために必要な分離用信号をトラックごとの記録用データの符号列の前に付加して記録し、
前記信号分離処理部は、前記磁気記録メディアから再生された前記分離用信号を用いて前記チャネル行列を求め、このチャネル行列をもとに、前記再生ヘッドの再生信号から前記トラックごとの再生信号を分離することを特徴とする記録再生装置。
【請求項8】
記録ヘッドにより、磁気記録メディアにデータ再生のための信号処理の一単位である複数のトラックを記録するステップと、
前記磁気記録メディアに記録される複数のトラックに対して、前記記録ヘッドのヘッド幅より大きなヘッド幅を持つ幅広記録ヘッドにより自動利得制御のための学習信号を記録するステップと、
前記磁気記録メディアから再生された前記学習信号を用いて、前記磁気記録メディアの複数の前記トラックに跨って信号を再生することが可能な再生ヘッドの再生信号に対する自動利得制御を行うステップと、
前記ゲイン調整部にてレベルが調整された、前記再生ヘッドの再生信号から前記トラックごとの再生信号を分離するステップと、
前記分離されたトラックごとの再生信号をもとにデータを復元するステップと
を具備することを特徴とする記録再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−32374(P2009−32374A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−197991(P2007−197991)
【出願日】平成19年7月30日(2007.7.30)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】