説明

記録装置およびその制御方法

【課題】電源ON時やヘッド装着時の直後等記録ヘッドが交換されたと想定される場合にも、簡易な方法で記録ヘッドの温度センサの校正を高精度に行なう。
【解決手段】記録ヘッドの温度に基づいて記録制御を実行する記録装置であって、記録ヘッドは、記録ヘッドの温度に係わる電気信号を検知する第1検知手段と、第1検知手段の特性値を格納するメモリとを備え、記録装置は、環境温度を検知する第2検知手段と、第1検知手段により検知した記録ヘッド温度に係わる信号を増幅する手段と、増幅手段の特性値を格納するメモリと、記録ヘッド温度に係わる信号を増幅した値に対して、所定のオフセット値に基づく補正を行い、記録ヘッドの温度を獲得する補正手段とを備え、オフセット値は、第1検知手段により検知した記録ヘッドの温度に係わる電気信号と、第2検知手段により検知した環境温度と、第1検知手段の特性値と、増幅手段の特性値とに基づいて算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録データに応じて記録媒体上に文字や画像を記録する記録装置に関するものであり、特には記録ヘッドの温度検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、プリンタ、複写機、ファクシミリ等に用いられる記録装置に対する性能要求はますます高まってきており、高速記録・フルカラー記録のみに留まらず銀塩写真並みの高精細な画像記録が求められている。このような要求に対して、インクジェット記録装置は微小なインク滴を高周波で吐出することが可能なため、高速記録、高画質記録といった点で他の記録方式の記録装置に比べて優れている。また、インクジェット記録装置の中でも、ヒータ(電気熱変換体)により発生した気泡(バブル)を利用して、インクを吐出するサーマルインクジェット記録方式の記録装置は、高密度なノズルの形成が可能であり、高精細な画質を記録することができる。
【0003】
ところで、上述のサーマルインクジェット記録方法(以下、単にインクジェット記録方法と呼ぶ)には、次のような特徴がある。インクジェット記録方法によれば、ヒータに通電することにより熱エネルギーを発生させ、インク中に気泡を発生させるが、その発生した気泡の成長は近傍のインク温度に大きく影響される。気泡とインクの界面においては、気泡内の気体の状態にある分子がインクへ飛び込む過程と、インクの液体の状態にある分子が気泡中に飛び出す過程とが発生するが、気泡近傍のインクの温度は後者の過程に影響する。このインク温度が高いと、インク中から気泡へと飛び出す分子が多く、気泡は比較的大きく成長する。逆にインク温度が低いと、インク中から気泡へ飛び出す分子は比較的少なく、気泡の大きさはインク温度が高い場合に比べ小さい。この気泡の大きさは、ノズルから押し出されるインクの体積(以下、インク吐出量)やインクの吐出速度(以下、吐出速度)に反映される。
【0004】
従って、インクジェット記録装置では、インク吐出量と吐出速度はヒータ近傍のインク温度(以下、インク温度)の影響を強く受け、インク温度が高い場合にはインク吐出量が大きく、また吐出速度は速くなる。一方、インク温度が低い場合にはインク吐出量が小さく、吐出速度は遅くなる。
【0005】
インク吐出量が変化すると出力画像の濃度に、またインク吐出速度が変化すると記録媒体上でのインク付着位置に変化が発生する。その結果、記録される画像中に濃度分布が発生し、記録品位の低下を引き起こすことがある。
【0006】
以上述べたように、インクジェット記録装置においては、インク温度に対してインクを一定に吐出させるインク吐出制御技術が記録品位を向上させる鍵であり、前述のインク吐出制御を実施可能にする前提としてインク温度を正確に把握することが非常に重要となる。しかしながら、インク温度を直接検出することは困難であるので、記録ヘッド基板の温度(以下、記録ヘッド温度)を検出し、その温度に基づいてインク吐出制御や記録ヘッド温調制御を行なうのが一般的である。記録ヘッド温度を検知するためのセンサは、吐出用ヒータと同一のシリコンチップ上に形成するダイオードセンサを用いることが多い。これは製膜によって製造することで低コストであると同時に熱伝導率が高いSi基板上に形成する為に応答性にすぐれている為である。しかしこのダイオードセンサにおいて温度と電圧に対する関係をグラフ化した場合、製造におけるバラツキに関して、傾きについては抑えられるものの、0切片(オフセット)に関しては実使用においての許容範囲内に抑えることが大変困難である。また、ダイオードセンサの電圧は微弱であるためA/D変換を行なう前に記録装置上でダイオードセンサ出力電圧を増幅することが一般的であるが、増幅回路も製造バラツキを持っておりダイオードセンサ出力電圧が同じであったとしても、増幅回路の個体差によってA/D変換前の電圧値がばらつく結果となる。
【0007】
従って、このオフセットを校正するために従来、次のような処理が行われる。即ち、記録ヘッドが昇温していなくて室温と同等である場合の電圧値に対応する温度(Tdef)と記録装置本体のサーミスタによって得られる室温(Tr)を記憶しておき、ある状態でのヘッドダイオードセンサの電圧値を増幅した値に対応する温度をTdiであったとすると記録ヘッド温度(Th)は
Th=Tdi+Tadj
Tadj=Tr−Tdef
で得ることができる。上記の数式のTadjがヘッドダイオードセンサのオフセットとなる。
【0008】
しかしながら、この処理は記録ヘッドと環境温度が等しい状態を前提としているため、記録ヘッドの温度が昇温した状態で記録ヘッドの再交換が行なわれたり、記録装置本体の電源のON/OFFの繰り返しの動作をユーザーが行なったりするような場合、記録ヘッドの温度が室温よりも高くなるので、ダイオードセンサの示すヘッドの基準温度となるTdefを誤った値に設定することになる。
【0009】
このような課題を解決するべく、記録ヘッド温度の校正方法に対しての提案がなされている。特許文献1によると、まず電源ON時もしくはヘッド装着時に記録ヘッド温度の校正を行なった後も所定時間経過後に逐次更新することでオフセット値をより正確な値に近づけるという手法とともに、環境温度との差が過剰に大きい場合にはそのオフセット値に制限を設けるという手法で、異常な補正値で校正される事態に対してその被害を軽減する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平7−209031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1においては、補正値に制限を設ける手法が提案されているが、前記制限値はダイオードセンサやセンサ出力を増幅する回路の製造バラツキ範囲により決定されるものであり、そのオフセットバラツキは前述の通り実使用において許容できるレベルではない。つまり、制限値の存在により、記録ヘッドが高温に至ることは抑制できたとしても、記録品位向上を目的とした正確な温度取得を実行することは困難である。
【0012】
上述のように、電源ON時やヘッド装着時の直後においては、記録ヘッドの実際の温度と記録装置の環境温度との間に差がある場合に誤った補正値を取得してしまう。特に記録ヘッドの実際の温度が記録装置の環境温度よりも高い場合には、環境温度よりも高い方向で補正を行なってしまう可能性もある。即ち、記録ヘッドの実際の温度が記録装置の環境温度よりも高い場合に補正を行なうと、記録装置は記録ヘッド温度が高いにも関わらず温度が低いと認識するため、必要以上に高温になっていたとしても記録動作を停止せずに記録を続けてしまい、結果インク粘度低下によるノズルへのインクリフィル不足によって吐出不良を引き起こすことになる。
【0013】
この問題を起こさないためには、ダイオードセンサおよび増幅回路の製造バラツキを抑えることが重要であるが、製造技術そのままに公差を抑えることは歩留まり低下につながり、結果としてコストアップにつながる。
【0014】
本発明は、上述の問題点を鑑みてなされたものであり、簡易な方法で記録ヘッドの温度センサの校正が高精度に行なえるものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記的を達成するため、本発明の記録装置は以下の構成から成る。
【0016】
即ち、記録ヘッドの温度に基づいて記録制御を実行する記録装置であって、
記録ヘッドの温度に基づいて記録制御を実行する記録装置であって、
前記記録ヘッドは、
前記記録ヘッドの温度に係わる電気信号を検知する第1検知手段と、
前記第1検知手段の特性値を格納するメモリとを備え、
前記記録装置は、
前記記録ヘッドの周辺の温度である環境温度を検知する第2検知手段と、
前記第1検知手段により検知した記録ヘッド温度に係わる信号を増幅する手段と、
前記増幅手段の特性値を格納するメモリと、
前記記録ヘッド温度に係わる信号を増幅した値に対して、所定のオフセット値に基づく補正を行い、前記記録ヘッドの温度であるヘッド温度を獲得する補正手段とを備え、
前記オフセット値は、前記第1検知手段により検知した前記記録ヘッドの温度に係わる電気信号と、前記第2検知手段により検知した前記環境温度と、前記第1検知手段の特性値と、前期増幅手段の特性値とに基づいて算出する
ことを特徴とする。
【0017】
また他の発明によれば、前記第1検知手段の特性値とは、所定の温度環境で前記第1検知手段が出力する値に基づく値であることを特徴とする。
【0018】
また他の発明によれば、前記増幅手段の特性値とは、同一の記録ヘッドが前記記録装置に搭載されたときに前記第1検知手段が出力する信号を増幅した値に基づく値であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、簡易な方法で記録ヘッドの温度センサの校正が高精度に行なうことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の代表的な実施例であるインクジェット記録ヘッドを搭載した記録装置の概略構成を示す図である。
【図2】記録ヘッドの構成を示す図である。
【図3】図1に示す記録装置の制御構成を示すブロック図である。
【図4】ヘッド温度制御回路の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施形態1における記録動作を示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施形態1における記録ヘッド温度取得制御を示すフローチャートである。
【図7】本発明の実施形態1における電源ON時および記録ヘッド装着時の記録ヘッド温度補正値の更新タイミングを示すフローチャートである。
【図8】本発明の実施形態1における記録開始時の記録ヘッド温度補正値の更新タイミングを示すフローチャートである。
【図9】本発明の実施形態1における記録ヘッド温度補正値更新制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0022】
<インクジェット記録装置の基本構成(図1〜図3)>
図1は、本発明の代表的な実施形態である記録装置の概略構成を示す図である。図1において、(a)は記録装置の斜視図を示し、(b)は(a)において記録ヘッドを通るY−Z断面図である。図1において、100、101はインクタンクと一体となって構成された記録ヘッドである。記録ヘッド100は、インクタンクにブラックインク、淡シアンインク、淡マゼンタインクを収容し、記録ヘッド101はインクタンクにシアンインク、マゼンタインク、イエロインクを収容する。記録ヘッド100、101は、収容するインク以外の構成は同じである。また、記録ヘッド100、101は各色インクに対応して複数配列された吐出口102を有する。103は搬送ローラ、104は補助ローラであり、これらローラが協働し記録媒体Pを抑えながら図中の矢印の方向に回転し、記録媒体PをY方向に随時搬送する。また、105は給紙ローラであり記録媒体Pの給紙を行うとともに、搬送ローラ103、補助ローラ104と同様、記録紙Pを抑える役割も果たす。106は記録ヘッド100、101を支持し、記録とともにこれらを移動させるキャリッジである。キャリッジ106は記録を行っていないとき、あるいは記録ヘッドの回復動作などを行うときには図の点線で示した位置のホームポジションhに待機する。107はプラテンであり、記録位置において記録媒体Pを安定的に支える役割を果たしている。108はキャリッジ106をX方向に走査するキャリッジベルトである。
【0023】
図2は、記録ヘッドの構成を示す図である。なお、記録ヘッド100、101は同一構造のため、ここでは記録ヘッド101の構成を説明する。図2において、(a)は記録ヘッド101の斜視図を、(b)はZ方向に記録ヘッドを見たときの下面図を、(c)は(b)における吐出口周りの拡大図を示す。図2(a)において、201はコンタクトパッドであり、これを介して記録装置本体から記録信号を受信し、記録ヘッドの駆動に必要な電力が供給される。図2(b)において、102は記録ヘッドチップ、202は記録ヘッド基板の温度を検出するダイオードセンサである。203はシアンインクを吐出する吐出口列、204はマゼンタインクを吐出する吐出口列、205はイエロインクを吐出する吐出口列であり、インク色以外の吐出吐出口構造等は同じである。また、206は吐出口列203、204、205を大きく囲む形で存在する抵抗100Ωのインク加熱用のサブヒータであり、20Vの電圧を印加するか否かによって、記録ヘッド基板を加熱、若しくは非加熱とする。これにより、記録ヘッド温度(インク温度)を調整する。本実施形態の記録装置にあっては、ダイオードセンサ202及び後述するサーミスタ315によって検出される温度情報を基に、調整温度に近づくように記録ヘッド基板の加熱/非加熱を切換えて、フィードバック制御する。図2(c)は、シアンインクを吐出する吐出口列203の拡大図である。207はシアンインクが流れるインク液室である。インク液室207の両側には5plのインクを吐出する吐出口208と2plのインクを吐出する吐出口210が存在し、それぞれのノズルの直下(+Z方向側)には抵抗値500Ωの5pl吐出用ヒータ209と抵抗値700Ωの2pl吐出用ヒータ211とが配置されている。ヒータ209、211はともに20Vの電圧がかかると発熱して気泡を発生させ、それぞれのノズルからインクを吐出する。吐出口208、211の口数はともに600個で、吐出口の間隔が1/600インチにより記録画素密度が600dpiになるように構成されている。
【0024】
また、インク滴を安定して吐出するためのヒータ209、211の吐出周波数は24kHzとなっている。この記録ヘッド100および101を搭載したキャリッジの主走査方向への速度は、主走査方向にインク滴を1200dpi間隔に記録する場合、24000(ドット/秒)÷1200(ドット/インチ)=20インチ/秒となる。インク特性としては、記録ヘッド100および101に詰められたブラック、淡シアン、淡マゼンタ、シアン、マゼンタ、イエローのインクは温度に対する吐出量/吐出速度等の吐出特性は全て同じになっている。インク吐出量が5pl、2plともにインク吐出速度が15m/sとなるときに記録に最適な条件となり、それを満足させるインク温度は50℃である。30℃以下の温度ではインクの吐出速度が遅いために記録媒体に届かず記録品位が低下し、室温(約25℃)くらい低い温度であるとインクが高粘度であるために吐出しない場合もある。また一方で70℃以上の高温であってもインク吐出量が増大しすぎ、吐出に対してインク供給が間に合わないために結果として吐出不良を引き起こすことになる。
【0025】
図3は、記録装置の制御構成を示すブロック図である。図3で、本制御構成の各構成要素は、ソフト系制御手段とハード系処理手段とに大別することができる。ソフト系制御手段には、メインバスライン305に対してそれぞれアクセスする画像入力部303、それに対応する画像信号処理部304、中央制御部CPU300といった処理手段が含まれる。また、ハード系処理手段には、操作部308、回復動作制御回路309、ヘッド温度制御回路314、ヘッド駆動制御回路316、主走査方向へのキャリッジ駆動制御回路306、副走査方向への搬送制御回路307といった処理手段が含まれる。CPU300は、通常ROM301とRAM302を有し、入力情報に対して適正な記録条件を与えて、記録ヘッド100、101内のインク吐出用ヒータ208を駆動して記録を行なう。
【0026】
また、RAM302内には、予め記録ヘッドの回復タイミングチャートを実行するプログラムが格納されており、必要に応じて予備吐出条件等の回復条件を回復動作制御回路309、記録ヘッド100、101等に与える。回復モータ310は、記録ヘッド100、101と、これに対向離間するクリーニングブレード311、キャップ312、吸引ポンプ313を駆動する。ヘッド温度制御回路314は、記録装置の周囲温度を検出するサーミスタ315や記録ヘッド温度を検出するダイオードセンサ202の出力値に基づいて、記録ヘッド100、101上のサブヒータ206の駆動条件を決定する。そして、駆動制御回路316により上記駆動条件に基づきヘッドサブヒータ206の駆動を行う。ヘッド駆動制御回路316は、サブヒータ206だけでなく、記録ヘッド100、101上の5plインク吐出用ヒータ209及び2plインク吐出用ヒータ211の駆動も行ない、予備吐出やインク吐出、及び温調制御のためのインク温度調整を記録ヘッド100、101に行なわせる。温調制御を実行するためのプログラムは、例えばRAM302内に格納されており、記録ヘッド温度の検出及びサブヒータ206の駆動等をヘッド温度制御回路314及びヘッド駆動制御回路316等を介して実行させる。
【0027】
なお、ヘッド駆動制御回路316は、プレパルスとメインパルスとからなる駆動信号によってインク吐出用ヒータ207を駆動することで、PWM制御を行なうことも出来る。FuseROM212はヒューズの切断/未切断の組み合せにより記録ヘッドの特性値を記憶するものである。記憶されている記録ヘッド特性としては、記録ヘッドの製造過程で書き込まれるものと記録装置上で書き込まれるものの2つに大別され、前者には記録ヘッドの仕向け先を示す仕向けナンバー、記録装置上で5plノズルに対して最適なパルスを選択するための5pl吐出パルスナンバー、2plノズルに対して最適なパルスを選択するための2pl吐出パルスナンバー、製造年月を示す製造時ナンバー、ダイオードセンサのオフセット値の範囲を示すダイオードセンサランクがあり、後者としてはインク残量の範囲を示すインク残量ランクが挙げられる。FuseROM212の記憶容量は記録ヘッド100、101ともに24bitであり、その内訳は、仕向けナンバーが3bit、5pl吐出パルスナンバーが4bit、2pl吐出パルスナンバーが4bit、製造時ナンバーが4bit、ダイオードセンサランクが4bit、インク残量ランクが5bitとなっている。ダイオードセンサランクについて、同環境におけるダイオードセンサの製造バラツキによるオフセット誤差Di_offsetは+16℃から−16℃であり、表1に示すように4bit分のランク分けを行なうことにより、同ランクのダイオードセンサにおいてはレンジで2℃の誤差範囲内で出力されることになる。
【0028】
【表1】

【0029】
また、本実施形態においては記録ヘッドの個体識別情報(ID)については記憶容量の観点からFuseROM212に書き込まれていない。また、ダイオードセンサランクと同様に、ダイオードセンサ出力電圧を増幅する増幅器に対してもランクを設けており、ROM301に対応するランクが書き込まれている。基準となるダイオードセンサをつけたときの増幅器の表2に対応した製造バラツキによるオフセット誤差Amp_offsetは+8℃から−8℃であり、表2に示すように3bit分のランク分けを行なうことにより、同ランクの増幅器においてはレンジで2℃の誤差範囲内で出力されることになる。
【0030】
【表2】

【0031】
ヘッド温度取得制御について説明を補足する。図4はヘッド温度制御回路314内の処理を及びROM301/RAM302を通してソフト上で処理されるフロー示すブロック図である。記録ヘッド100及び101のダイオードセンサ202から記録ヘッド温度に基づく電圧がヘッド温度制御回路314に入力されると、増幅器401において電圧値を増幅し、ADコンバータ402により電圧値のデジタル化を行なう。デジタル化されたダイオードセンサ電圧値ADdiは、ROM301内のADdi−温度変換テーブル403によりダイオード温度Tdiに変換される。Tdi補正部407ではダイオード温度Tdiに対して、ダイオードセンサの個体バラツキと増幅器の個体バラツキに対する補正としてダイオードセンサランクに応じたダイオードセンサのオフセットDi_offsetと、増幅回路ランクに応じた増幅回路のオフセットAmp_offsetとが加算され、ダイオード補正温度Tdicalを導出する。
【0032】
一方、サーミスタ315から記録装置の環境温度に基づく電圧がヘッド温度制御回路314に入力されると、ADコンバータ405によりデジタル化を行なう。デジタル化されたサーミスタ電圧値ADtmは、ROM301内のADtm−温度変換テーブル406によりサーミスタ温度Ttmに変換される。以上のようにして得られたダイオード温度Tdiとサーミスタ温度Ttmはヘッド温度検出部404に入力される。ヘッド温度検出部404はサーミスタ温度Ttmを用いてダイオード補正温度Tdicalのオフセット値を設定して記録ヘッド温度を取得する。
【0033】
以下、上記構成の記録装置における記録ヘッドの記録方法の実施形態を説明する。
【0034】
[第1の実施形態]
図5は記録ヘッド101のシアン・マゼンタ・イエローインクで記録を行なう際の記録動作を示すフローチャートである。記録データを受信すると、S501において記録ヘッドの温調制御を開始する。本実施形態における温調制御は、記録ヘッド100及び記録ヘッド101のダイオードセンサ202に基づく記録ヘッド温度を取得し、各々の記録ヘッドの記録ヘッド温度が50℃未満である場合は、当該記録ヘッドのサブヒータ206に20Vの電圧を印加することで記録ヘッドの加熱を行ない、50℃以上である場合はサブヒータ206への電圧印加を行なわないものである。
【0035】
記録ヘッド温度については、図6に示すフローに従って取得を行なう。なお、図6のフローにおいて、記録ヘッド100及び101は同様のフローで実施されるため、記録ヘッド100と101を特定しての説明は省略する。記録装置の電源が入ると、10ms間隔の割り込みルーチンによりS601で記録ヘッドのダイオードセンサ202よりダイオードセンサAD値ADdiを取得する。次にS602において、ROM301内にあるダイオードセンサADdi値―温度変換テーブルにより、ダイオードセンサAD値ADdiをダイオード温度Tdiに変換する。S603では、ダイオードの個体バラツキおよび増幅器の個体バラツキを補正するために、ダイオードセンサのオフセットDi_offsetおよび増幅回路のオフセットAmp_offsetを加算してTdicalを導く。このときDi_offsetは記録ヘッドのFuseROM212に書き込まれているダイオードセンサランクより、表1で対応する値を適用する。またAmp_offsetは記録装置のROM301に書き込まれている増幅器ランクより、表2で対応する値を適用する。そして、S604で、ダイオード補正温度Tdicalに当該記録ヘッドの記録ヘッド温度補正値Tadjustを加えて、記録ヘッド温度Thを取得する。記録ヘッド温度補正値Tadjustの取得方法については後述する。S603で取得した記録ヘッド温度Thは、10ms後に再び前述のフローにより更新されることになる。この温度取得制御により、本実施形態の温調制御は10ms間隔で50℃以上か否かの判断を行なうとともに、10msの分解能でサブヒータ202のON/OFFを制御することになる。
【0036】
説明を再び図5に戻すと、S501で温調制御を開始した後にS502に移り記録媒体Pを給紙し、S503においてキャリッジ106を+X方向に走査して1スキャン分の記録を行なう。1スキャン分の記録が終わると、S504で記録データが残っているかどうかを判断する。記録データがまだ残っている場合は、S505に移って記録すべき位置まで記録媒体Pを+Y方向に搬送した後、再びS503に移り、走査方向が交互になるようキャリッジ106を今度は−X方向に走査して記録を行なう。1スキャン分の記録が終了すると再びS504に移って記録データが残っているかどうかを判断する。記録データが残っていない場合は、S506に移って温調制御を終了し、S507で記録媒体Pを排紙した後、記録を終了する。
【0037】
上述したように本実施形態においては、記録ヘッドの温調制御を行なうため、記録ヘッド温度を正確に取得すること、すなわち記録ヘッド温度補正値Tadjustを正確に取得することが重要である。
【0038】
上述してきた記録ヘッド温度補正値Tadjustの取得方法について、図7に示すフローチャートを用いて説明する。なお、図7のフローにおいて、記録ヘッド100及び101は同様のフローで実施されるため、記録ヘッド100と101を特定しての説明は省略する。記録装置の電源を入れると、S701で環境温度を更新する。図4のヘッド温度検出部404よりサーミスタ温度Ttmを取得し、その値を環境温度Tenvに設定し記録装置上のRAM302に記憶する。次に、S702において既に記録ヘッドが装着されているかどうかを判断する。本実施形態においては記録ヘッドを装着した状態で記録装置を出荷するわけではないため、S702の判定はNoとなり、温度補正値を取得しないまま終了する。次に記録ヘッドが装着された時、S704に移って記録ヘッド温度補正値更新シーケンスに入る。図9に記録ヘッド温度補正値更新シーケンスを示す。
【0039】
まずS901においてダイオードセンサのAD値ADdiを50msの間に5ポイント取得し、S902において取得した5ポイントの平均値ADaveを算出する。ここで言う5ポイントは瞬間的にのる電気ノイズを避けるための処理であり、5ポイントよりも数が多くても問題はない。S903ではADdi−温度変換テーブルによりADaveをダイオード温度Tdiに変換する。次にS904においてダイオードセンサの個体バラツキおよび増幅器の個体バラツキを補正するために、ダイオードセンサのオフセットDi_offsetおよび増幅器のオフセットAmp_offsetを加算してダイオード補正温度Tdicalを導く。そしてS905において、環境温度Tenvとダイオード補正温度Tdicalとの差分より、記録ヘッド温度補正値Tadjustを導く。このとき、環境温度と記録ヘッド温度が十分に馴染んでいないと記録ヘッド温度補正値Tadjustが異常な値が入ることになる。そのため、続くS906からS909において記録ヘッド温度補正値Tadjustに制限を設ける処理を組む。まずS906で、算出した記録ヘッド温度補正値Tadjustが最大補正値Tadjust_maxより大きいかどうかを判定する。TdicalとTenvの差であるTadjustは、ダイオードセンサの同ランク内誤差±1℃と増幅器の同ランク内誤差±1℃を加えた±2℃は実際の温度とずれている可能性がある。したがって、Tadjust_maxは+2℃に設定される。Tadjustが+2℃より大きい場合は、記録ヘッド温度が環境温度よりも高い状態にあるとして補正値に制限を設けるべく、S907でTadjustをTadjust_max(+2℃)に上書き設定する。S906でTadjustが+2℃以下であった場合、S908に移って記録ヘッド温度補正値Tadjustが最小補正値Tadjust_minより小さいかどうかを判定する。上述したように、ダイオードセンサおよび増幅器のランク内誤差の±2℃は誤差として存在するため、Tadjust_maxは−2℃に設定される。Tadjustが−2℃より小さい場合は、記録ヘッド温度が環境温度よりも低い状態にあるとして補正値に制限を設けるべく、S907でTadjustをTadjust_min(−2℃)に上書き設定する。S905で取得したTadjustが±2℃以内にある場合は、そのまま算出したTadjustを使用する。
【0040】
以上、示したように本発明によれば記録ヘッド温度が環境温度と馴染んでいない場合であっても±2℃の誤差で補正を行なうことが可能となる。従来であれば、20℃環境で50℃に温調して記録していた記録ヘッドを記録直後に脱着した場合など、記録ヘッドと環境温度が大幅にずれていた場合、ダイオードセンサの製造バラツキ誤差±16℃と増幅器の製造バラツキ誤差±8℃を加味した±24℃で補正制限をかけていた(Tadjust_max=+24℃、Tadjust_min=−24℃)。この場合、ダイオードセンサの製造バラツキ誤差が0℃の記録ヘッド、増幅器の製造バラツキ誤差が0℃の記録装置を使用していたとしても+24℃の補正がかかり、次記録においては50℃に温調しているつもりが実際は74℃に温調していることとなり、記録ヘッドが70℃以上になることから吐出不良を引き起こす可能性があった。本実施例では同条件であっても+2℃の補正しかかからないため、次記録においては50℃温調のところを実際には52℃温調で記録することになるため、著しい画像劣化を抑制して記録することが可能となる。
【0041】
上述のように本発明によると記録ヘッドと環境温度に差がある場合においても高精度に記録ヘッドの温度センサの校正を行なうことができるが、それでも最大±2℃の誤差は発生してしまう。本発明をより最適な形で実施するには、温調制御を止めて長時間経過し、温まっていた記録ヘッドが環境温度と等温になったときに、再度記録ヘッド温度補正値Tadjustを更新することが望ましい。具体例としては、図7のS703のように前回の記録終了してからの経過時間が30分以上と判断した場合には、記録ヘッドが環境温度に馴染んでいるものとして、記録ヘッド補正値更新シーケンスに移る方法や、図8の記録準備フローに示すように記録データを受信して記録を開始する前に、S801で前回の記録終了してからの経過時間が30分以上と判断した場合には、記録ヘッドが環境温度に馴染んでいるとして、記録ヘッド補正値更新シーケンスに移る方法が挙げられる。
【0042】
また、本実施形態においては記録ヘッドおよび記録装置のメモリ容量をできるだけ小さくするため、ダイオードセンサの個体バラツキおよび増幅器の個体バラツキをランク付けして記憶する方法について説明したが、より精度を上げるために小数点レベルまでの補正すべき温度をメモリに書き込む方法であっても良い。
【0043】
以上のように本発明によれば、電源ON時やヘッド装着時の直後にも記録ヘッドの温度センサの校正が簡易かつ高精度に行なうことが可能となる。
【符号の説明】
【0044】
100、101 記録ヘッド
102 記録ヘッドチップ
103 紙送りローラ
104 補助ローラ
105 給紙ローラ
106 キャリッジ
107 プラテン
108 キャリッジベルト
P 記録媒体
h ホームポジション
201 コンタクトパッド
202 ダイオードセンサ
203、204、205 吐出口列
206 サブヒータ
207 インク液室
208、210 吐出口
209、211 吐出用ヒータ
212 FuseROM
300 中央制御部(CPU)
301 ROM
302 RAM
303 画像入力部
304 画像信号処理部
305 メインバスライン
306 キャリッジ駆動制御回路
307 紙送り制御回路
308 操作部
309 回復系制御回路
310 回復系モータ
311 ブレード
312 キャップ
313 ポンプ
314 ヘッド温度制御回路
315 サーミスタ
316 ヘッド駆動制御回路
401 増幅器
402、405 A/Dコンバータ
403、405 AD値−温度変換テーブル
407 ダイオード温度補正部
404 記録ヘッド温度検出部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録ヘッドの温度に基づいて記録制御を実行する記録装置であって、
前記記録ヘッドは、
前記記録ヘッドの温度に係わる電気信号を検知する第1検知手段と、
前記第1検知手段の特性値を格納するメモリとを備え、
前記記録装置は、
前記記録ヘッドの周辺の温度である環境温度を検知する第2検知手段と、
前記第1検知手段により検知した記録ヘッド温度に係わる信号を増幅する手段と、
前記増幅手段の特性値を格納するメモリと、
前記記録ヘッド温度に係わる信号を増幅した値に対して、所定のオフセット値に基づく補正を行い、前記記録ヘッドの温度であるヘッド温度を獲得する補正手段とを備え、
前記オフセット値は、前記第1検知手段により検知した前記記録ヘッドの温度に係わる電気信号と、前記第2検知手段により検知した前記環境温度と、前記第1検知手段の特性値と、前期増幅手段の特性値とに基づいて算出する
ことを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記オフセット値算出手段において、前記第1検知手段により取得した前記記録ヘッド温度に係わる電気信号に前記第1検知手段の特性値に応じた値と前記増幅手段の特性値に応じた値とを加算した温度が、前記第2検知手段により前記環境温度と等しくなるようにオフセット値を設定することを特徴とする
請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記第1検知手段の特性値とは、所定の環境温度で前記第1検知手段が出力する値に基づく値であることを特徴とする
請求項1または請求項2に記載の記録装置。
【請求項4】
前期記録ヘッドのメモリに書き込まれた前記第1検出手段の特性値は、前記記録ヘッドの製造過程で前記メモリに書き込まれることを特徴とする
請求項3に記載の記録装置。
【請求項5】
前期記録ヘッドのメモリに書き込まれた前記第1検出手段の特性値は、複数のランクにランク付けされていることを特徴とする
請求項3または請求項4に記載の記録装置。
【請求項6】
前記増幅手段の特性値とは、同一の記録ヘッドが前記記録装置に搭載されたときに前記第1検知手段が出力する信号を増幅した値に基づく値であることを特徴とする
請求項1または請求項2に記載の記録装置。
【請求項7】
前期記録装置のメモリに書き込まれた前記増幅手段の特性値は、前記記録装置の製造過程で前記メモリに書き込まれることを特徴とする
請求項6に記載の記録装置。
【請求項8】
前期記録装置のメモリに書き込まれた前記増幅手段の特性値は、複数のランクにランク付けされていることを特徴とする
請求項6または請求項7に記載の記録装置。
【請求項9】
前記第1検知手段と前記第2検知手段とでは、前記第2検知手段の方が絶対温度の検知精度が高いことを特徴とする
請求項1乃至請求項8の何れか1項に記載の記録装置。
【請求項10】
前記オフセット値設定手段において、所定のタイミングとは、前記記録装置の電源ON時もしくは記録ヘッドの装着時であることを特徴とする
請求項1乃至請求項9の何れか1項に記載の記録装置。
【請求項11】
前記記録ヘッドには記録に使用するインクを格納するインクタンクが付属していることを特徴とする
請求項1乃至請求項10の何れか1項に記載の記録装置。
【請求項12】
前記記録装置は前記記録ヘッドに対して加熱/非加熱をすること前記記録ヘッドの温度を調整しながら記録を行なうことを特徴とする
請求項1乃至請求項10の何れか1項に記載の記録装置。
【請求項13】
前記記録ヘッドはサーマルインクジェット方式であることを特徴とする
請求項1乃至請求項12何れか1項に記載の記録装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−6337(P2013−6337A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140006(P2011−140006)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】