記録装置および記録装置の制御方法
【課題】記録ヘッドからのインクの吐出を利用してインク残量を推定する際に、インクの消費を抑えつつ、高精度にインク残量を推定することができる記録装置および記録装置の制御方法を提供すること。
【解決手段】インクタンクにインク残量が十分にある基準タイミングで取得した、記録ヘッドから所定回数のインク吐出を行った前後の記録ヘッドの基準温度差と、その際の記録装置の基準環境温度とを記憶しておく。それらの基準温度差、基準環境温度、およびインク残量を判断する際の温度差を取得する際の環境温度に基づいて、比較温度を設定する。この比較温度と記録ヘッドから基準タイミングにおける回数と同じ所定回数のインク吐出を行った前後の記録ヘッドの温度差とを比較することで、インク残量が所定量以上か否かを判断する。
【解決手段】インクタンクにインク残量が十分にある基準タイミングで取得した、記録ヘッドから所定回数のインク吐出を行った前後の記録ヘッドの基準温度差と、その際の記録装置の基準環境温度とを記憶しておく。それらの基準温度差、基準環境温度、およびインク残量を判断する際の温度差を取得する際の環境温度に基づいて、比較温度を設定する。この比較温度と記録ヘッドから基準タイミングにおける回数と同じ所定回数のインク吐出を行った前後の記録ヘッドの温度差とを比較することで、インク残量が所定量以上か否かを判断する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録ヘッドに供給可能なインクタンクのインク残量を推定可能な記録装置および記録装置の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、プリンタ、複写機、ファクシミリ等の記録装置においては、微小なインク滴を高周波の駆動信号に応じて吐出可能な記録ヘッドを用いたインクジェット記録方式が普及している。インクタンクを交換して使用するインクジェット記録方式においては、インクタンク内のインクが無くなったことをユーザに知らせることが重要である。特に、記録データがユーザの手元に残らないファクシミリ等の機器においては、インクが無くなったために記録ヘッドからインクが吐出されないまま、記録動作(空記録)を行うような事態は避けなければならない。そのため、記録ヘッドに供給可能なインクの供給可能量(以下、「インク残量」ともいう)の推定精度を高めることが要求される。
【0003】
インク残量の推定方法として、特許文献1,2,3に記載の方法が知られている。特許文献1には、記録ヘッドの温度および記録ヘッドに流れる電流値に基づいて、インク残量を推定する方法が記載されている。特許文献2には、インクが吹き付けられた振動板の振動に基づいて、インク残量を推定する方法が記載され、特許文献3には、吐出したインクが光学素子間を通過したときに生じる電流値の変化に基づいて、インク残量を推定する方法が記載されている。これらの推定方法は、記録ヘッドからインクを吐出させるための信号に基づいて記録ヘッドを作動させ、そのときに記録ヘッドから実際にインクが吐出されたか否かを何らかの方法で検出する点で共通している。そして、記録ヘッドからインクが吐出されなかったときには、インク残量が無いと判断する。このようなインク量の推定方法は、記録ヘッドからインクが実際に吐出されたか否かを検出するため、インク残量の推定精度が高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平03−259662公報
【特許文献2】特開平07−032608公報
【特許文献3】特開平09−094947公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述の推定方法は、高い精度でインク残量を推定することができるものの、インク残量を推定するためには、わざわざ記録ヘッドからインクを吐出しなければならず、その分、記録に使用できるインクの量が減ってしまう。
【0006】
本発明は、記録ヘッドからのインクの吐出を利用してインク残量を推定する際に、インクの消費を抑えつつ、高精度にインク残量を推定することができる記録装置および記録装置の制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の記録装置は、インクタンクから供給されるインクを複数の吐出口から吐出して記録媒体に記録を行う記録ヘッドと、
前記記録ヘッドから所定回数のインク吐出を行った前後の記録ヘッドの温度差と比較温度とを比較することで、前記インクタンク内のインク残量が所定量以上か否かを判断する判断手段と、を有する記録装置であって、前記インクタンクにインク残量が十分にある基準タイミングで取得した、前記記録ヘッドから前記所定回数と同じ回数のインク吐出を行った前後の前記記録ヘッドの基準温度差と、その際の前記記録装置の基準環境温度とを記憶しておく記憶手段と、前記基準温度差、前記基準環境温度、およびインク残量を判断する際の温度差を取得する際の環境温度に基づいて、前記比較温度を設定する設定手段と、を有することを特徴とする。
【0008】
本発明の記録装置の制御方法は、インクタンクから供給されるインクを複数の吐出口から吐出して記録媒体に記録を行う記録ヘッドを備えた記録装置の制御方法であって、前記インクタンクにインク残量が十分にある基準タイミングで取得した、前記記録ヘッドから所定回数のインク吐出を行った前後の前記記録ヘッドの基準温度差と、当該基準タイミングにおける基準環境温度とを記憶手段から取得する工程、前記基準温度変化、前記基準環境温度、及び現在の環境温度に基づいて前記比較温度を設定する工程と、前記記録ヘッドから前記所定回数と同じ回数のインク吐出を行った前後の前記記録ヘッドの温度差を取得する工程と、取得された前記温度差と前記比較温度とを比較することで、前記インクタンク内のインク残量が所定量以上か否かを判断する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、確実にインクがあると判断できる状態で、記録ヘッド固有の昇温特性を測定することにより、インク吐出後の記録ヘッド温度の温度差をより少ない温度差とすることができる。これにより、インク残量推定制御におけるインク使用量を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(a)は、本発明の第1の実施形態における記録装置の概略斜視図、(b)は、(a)における記録ヘッドの側面図である。
【図2】(a)は、図1における記録ヘッドの斜視図、(b)は、その記録ヘッドの断面図、(c)は、その記録ヘッドの底面図、(d)は、その記録ヘッドのノズル部分の拡大図である。
【図3】図1の記録装置の制御系のブロック構成図である。
【図4】単位時間あたりのインク吐出量と、使用可能なインク量の関係の説明図である。
【図5】本発明の第1の実施形態における記録およびインク残量推定の動作を説明するためのフローチャートである。
【図6】図5におけるインク残量推定制御1を説明するためのフローチャートである。
【図7】記録ヘッド温度とインク残量との関係の一例の説明図である。
【図8】記録ヘッド温度とインク残量との関係の他の例の説明図である。
【図9】本発明の第2の実施形態における記録およびインク残量推定の動作を説明するためのフローチャートである。
【図10】図9におけるインク残量推定制御2を説明するためのフローチャートである。
【図11】本発明の第3の実施形態における記録およびインク残量推定の動作を説明するためのフローチャートである。
【図12】図11におけるインク残量推定制御3を説明するためのフローチャートである。
【図13】記録パス数と用紙サイズとインク残量との関係の説明図である。
【図14】記録パス数と用紙サイズとインク吐出数とを対応付けた吐出数テーブルの説明図である。
【図15】インク吐出数とインク残量の判断温度とを対応付けた温度判断テーブルの説明図である。
【図16】インク残量と負圧との関係の説明図である。
【図17】本発明の第4の実施形態における記録およびインク残量推定の動作を説明するためのフローチャートである。
【図18】図17におけるヘッド昇温参考値取得制御を説明するためのフローチャートである。
【図19】(a)は、図18のヘッド昇温参考値取得制御における環境温度と駆動パルスとの関係の説明図、(b)は、(a)におけるプレパルス、インターバル、およびメインパルスの説明図である。
【図20】図17におけるインク残量推定制御4を説明するためのフローチャートである。
【図21】環境温度毎における記録ヘッドの昇温値の説明図である。
【図22】インクの吐出数と記録ヘッド温度との関係の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
この明細書において、「記録」(「プリント」という場合もある)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わない情報を形成する場合を含む。つまり、「記録(プリント)」は、人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する場合、または媒体の加工を行う場合をも含む。
【0012】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
【0013】
さらに、「インク」(「液体」という場合もある)とは、上記「記録(プリント)」の定義と同様広く解釈されるべきものである。したがって、「インク(液体)」は、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成、または記録媒体の加工、或いはインクの処理(例えば、記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供される液体を表すものとする。
【0014】
またさらに、「ノズル」(「記録素子」、「記録要素」という場合もある)とは、特にことわらない限り、吐出口、これに連通する液路、およびインク吐出に利用されるエネルギーを発生する素子を総括していうものとする。
【0015】
(第1の実施形態)
図1から図3は、本実施形態における記録装置の基本構成を説明するための図である。
【0016】
図1(a)は記録装置の斜視図であり、図1(b)は、図1(a)における記録ヘッドの側面視図である。これらの図1(a),(b)において、100および101は、インクタンクと一体に構成された記録ヘッドである。記録ヘッド100および101は、必ずしも本例のようにインクタンク一体型である必要はなく、インクタンクと分離可能な構成であってもよい。
【0017】
記録ヘッド100側のインクタンクは、ブラックインク、淡シアンインク、淡マゼンタインクを収容し、記録ヘッド101側のインクタンクは、シアンインク、マゼンタインク、イエロインクを収容する。記録ヘッド100、101は、それらのインクタンクに収容するインク以外、構成は同じである。また、記録ヘッド100、101は、それぞれの色のインクに対応するように複数配列された吐出口102を有する。103は搬送ローラ、104は補助ローラであり、これらローラは、協働して記録媒体Pを抑えながら図中の矢印方向に回転することにより、記録媒体Pを矢印Y方向に搬送する。105は給紙ローラであり、記録媒体Pの給紙を行うと共に、搬送ローラ103および補助ローラ104と同様に、記録媒体Pを抑える役割も果たす。106は、記録ヘッド100、101を搭載可能なキャリッジであり、記録動作時に矢印Xの主走査方向に沿って往復移動する。キャリッジ106は、記録を行わないとき、あるいは記録ヘッドの回復動作などを行うときには、図1(a)中の点線の位置(ホームポジション)hに待機する。本例の記録装置において、記録可能な記録媒体の最大サイズはA4サイズ版である。107はプラテンであり、記録位置において記録媒体Pを安定的に支える役割を果たす。108は、キャリッジ106を主走査方向に移動させるためのキャリッジベルトである。
【0018】
図2は、記録ヘッドの構成を示す図である。記録ヘッド100、101は同一構造であるため、ここでは、記録ヘッド101の構成を代表して説明する。図2(a)は記録ヘッド101の斜視図、図2(b)は記録ヘッド101の断面図、図2(c)は記録ヘッド101をZ方向から見たとき下面図、図2(d)は、図2(c)における吐出口周りの拡大図である。図2(a)において、201はコンタクトパッドであり、これを介して記録ヘッドが記録装置本体から記録信号を受信し、また記録ヘッドの駆動に必要な電力を受給する。図2(a)において、破線は記録ヘッド内部壁を示し、その内部壁によって区分けされたインクタンク室202、203、204のそれぞれに、シアンインク、マゼンタインク、イエロインクが10gずつ注入されている。記録ヘッド100、101は、前述したように、インクの色以外、インクタンク室の構造等は同じである。
【0019】
図2(b)は、シアンインクタンク室202の断面図である。205は、インクタンク室202に収容されたインク吸収体、206はインク流路、207は記録ヘッドチップである。インク吸収体205に保持されているインクIは、インク流路206を通して記録ヘッドチップ207へ供給される。図2(c)において、記録ヘッドチップ207には、記録ヘッド基板の温度を検出するダイオードセンサ208が備えられている。記録ヘッド内のインクの温度を直接検出することは困難であるため、一般には、記録ヘッド基板の温度(以下、「記録ヘッド温度」という)を検出し、この記録ヘッド温度をインク温度として代用している。記録ヘッド温度を検出するための構成としては、ダイオードセンサ208を用いる以外に、例えば、金属薄膜センサ等を用いる構成であってもよい。209は、シアンインクを吐出するための吐出口列、210は、マゼンタインクを吐出するための吐出口列、211は、イエロインクを吐出するための吐出口列である。
【0020】
図2(d)は、シアンインクを吐出するための吐出口列(以下、「シアン吐出口列」ともいう)209の拡大図である。図2(d)において、シアン吐出口列209上には複数の吐出口102が配列され、各吐出口102の下側(Z方向側)にはヒータ212が設けられている。ヒータ212の発熱によってインク中に気泡を発生させることにより、その発泡エネルギーを利用して吐出口102からインクを吐出することができる。本例の場合、シアン吐出口列209上に配列された吐出口102の数は600個(600ノズル分)、吐出口102の間隔は1/600インチであり、これにより、主走査方向における記録画素密度が600dpiになるように構成されている。また、記録ヘッドは、吐出口102から吐出されるインク滴が1滴当り約2plとなるように構成されている。本例において、このインク滴を吐出するためのヒータ212の最大駆動周波数(以下、「最大吐出周波数」ともいう)は24kHzであるが、記録に適した最大吐出周波数は12kHzとなっている。主走査方向にインク滴を1200dpiの間隔に記録する場合、記録ヘッド100、101を搭載したキャリッジ106の主走査方向の移動速度は、下式によって10インチ/秒となる。
【0021】
12000(ドット/秒)÷1200(ドット/インチ)=10インチ/秒
図3は、記録装置の制御系のブロック構成図である。本例の制御系における構成要素は、ソフト系制御手段とハード系処理手段とに大別することができる。ソフト系制御手段には、メインバスライン305に対してアクセス可能な画像入力部303、画像信号処理部304、および中央制御部CPU300などの処理手段が含まれる。また、ハード系処理手段には、操作部308、回復系制御回路309、ヘッド温度制御回路314、ヘッド駆動制御回路316、キャリッジ駆動制御回路306、紙送り制御回路307などの処理手段が含まれる。CPU300は、ROM301とRAM302を有し、入力情報に対して適正な記録条件を与えて、記録ヘッド100、101内のインク吐出用ヒータ212を駆動する。RAM302内には、回復タイミングチャートにしたがって記録ヘッドの回復処理を実行するためのプログラムが格納されており、必要に応じて、予備吐出条件等の回復条件を回復系制御回路309、および記録ヘッド100、101等に与える。
【0022】
回復処理は、記録ヘッドにおけるインクの吐出状態を良好に維持するための処理であり、本例においては、予備吐出、吸引回復処理、およびワイピングを含む。予備吐出は、記録ヘッドの吐出口から後述するキャップ312内に向かって、画像の記録に寄与しないインクを吐出させる処理である。吸引回復処理は、後述する吸引ポンプ313からキャップ312内に負圧を導入することにより、記録ヘッドの吐出口からキャップ312内に、画像の記録に寄与しないインクを吸引排出させる処理である。ワイピングは、吐出口が形成されている面(吐出口形成面)を後述するクリーニングブレード311によってワイピングする処理である。
【0023】
画像入力部303は、記録装置に接続された外部装置(ホスト装置)から、画像データ、コマンド、ステータス信号等を受信する。回復系モータ310は、回復処理を行うために、記録ヘッド100、101、クリーニングブレード311、キャップ312、および吸引ポンプ313を駆動する。ヘッド駆動制御回路316は、記録装置の周囲温度を検出するサーミスタ315、および記録ヘッド温度を検出するダイオードセンサ208の出力値に基づいて、記録ヘッド100、101上のヒータ212を駆動する。ヘッド駆動制御回路316は、記録ヘッド100、101を駆動制御して、記録のためのインク吐出、予備吐出、および保温制御のためのインク温度調整を行う。
【0024】
図4は、記録ヘッド101におけるシアンインクの吐出周波数と、シアンインクの使用可能量と、の関係の説明図である。マゼンタインクおよびイエロインクも、シアンインクと同じ特性を持つ。600ノズルから吐出周波数12kHzでインクの吐出を続けた場合、インクタンク内に注入したインク量10gに対して、使用可能なインク量は7gとなる。一方、600ノズルから吐出周波数1kHzでインクの吐出を続けた場合、使用可能なインク量は9gとなる。以下に、このように使用可能なインク量に差が生じる主要因の1つについて説明する。
【0025】
通常、記録ヘッドの吐出口からインクを吐出しない非吐出時に、その吐出口からインクがこぼれ出ないように、インクタンク内のインクは吸収体205等の負圧発生部材によって保持されている。つまり、インクタンク内のインクには負圧が付与されており、記録ヘッド内のインクにもインクタンク側に引っ張られる圧力(以下、「負圧」という)が付与されている。記録に伴ってインクタンク内のインク量が減少した場合、インクの負圧は徐々に増大する傾向となる。インクの負圧が大きくなり過ぎた場合には、記録ヘッド内のインクがインクタンク側に強く引っ張られるため、インクタンクから吐出口へのインク供給が困難となる場合がある。この場合には、インクタンク内にインクが残っているにも拘わらず、吐出口からインクを吐出できなくなることもある。
【0026】
また、このようなインクタンク内のインクの負圧は、単位時間当たりに記録ヘッドから吐出されるインク量によっても変化する。すなわち、単位時間当たりに吐出されるインク量を多く設定すると、インクの動的負圧が増大する方向に変化し、記録ヘッド内のインクはインクタンク側に強く引っ張られるようになる。一方、単位時間当たりに吐出されるインク量を少なく設定すると、インクの動的負圧は減少する方向へと変化する。
【0027】
図16は、単位時間当たりに吐出されるインク量(吐出周波数)を変化させた際の、インク残量とインク負圧との関係を説明するための説明図である。本例の場合、インク残量が10gの時点において、記録ヘッドからインクを吐出していないときのインクの初期負圧は−1kPaである。また、吐出口へのインク供給が不可能となるインクの負圧は−7kPaである。
【0028】
600ノズルから吐出周波数12kHzで連続してインクを吐出した場合、インクの吐出による動的負圧が大きく掛かり、インク残量が10gの時点でもインクの負圧が−3kPaとなる。そして、インク残量が3gとなった時点でインクの負圧が−7kPaとなるため、インク残量が3g未満となったときには吐出口へのインク供給が不可能となり、吐出口からインク吐出を行うことができなくなる。一方、600ノズルから吐出周波数1kHzで連続してインクを吐出した場合は、インク残量が10gの時点のインクの負圧が−1kPaとなり、インク残量が1gの時点においてインクの負圧が−7kPaとなる。したがって、吐出周波数が1kHzの場合には、インク残量が1gとなるまで吐出口からインクを吐出することができる。
【0029】
したがって、吐出周波数を12kHzとしたときに使用可能なインク量は7g(=10g−3g)となり、吐出周波数を1kHzとしたときに使用可能なインク量は9g(=10g−1g)となる。なお、このような吐出周波数とインクの使用可能量との関係は、インク流路や吐出口の構造等によってその値が変化するが、その値によらず本発明は適用可能である。また、上記の説明では、吐出周波数を異ならせた場合の、インク残量とインク負圧との関係を示したが、マルチパス記録において記録パス数を異ならせた場合も同様の関係となる。
【0030】
図5は、本実施形態におけるインク残量の推定方法を含めた記録動作を示すフローチャートである。記録ヘッド100、101に供給されるインクのそれぞれに関しては、このフローチャートにしたがって同じように管理される。以下においては、記録ヘッド101に供給されるシアンインクの場合を代表して説明する。
【0031】
記録装置が記録データを受信すると、ステップS501においてインク残量推定制御1を行う。インク残量推定制御1のフローの詳細を図6に示す。インク残量推定制御1では、まず、ステップS601において、ダイオードセンサ208の出力に基づいてインク吐出前の記録ヘッド温度(Tb)を検出する。次に、ステップS602において、記録ヘッドの吐出周波数を24kHzに設定する。その後、ステップS603において、記録ヘッド101のシアンインク吐出用の600ノズルから、吐出周波数24kHzで1000発のインク滴を吐出する。そのインク滴は、予備吐出と同様にキャップ312内に吐出することができる。そして、そのインク吐出の終了後、ステップS604において、インク吐出後の記録ヘッド温度(Ta)を検出する。
【0032】
ここで、本実施形態におけるインク残量の推定方法の詳細について説明する。まず、図7に吐出周波数24kHzでインクを吐出した際の記録ヘッド温度の時間推移を示す。図7中の実線、点線、一点鎖線は、それぞれインク残量が10g、3g、1gのときの記録ヘッド温度の推移を示している。上記のような1000発のインク滴の吐出を記録ヘッド温度が25℃の状態から開始した場合、インク残量が10g、3g、1gのときでは、インク吐出後の記録ヘッド温度はそれぞれ45℃、55℃、60℃となる。これは、インク残量が減少すると、インクに付与される負圧が増大してインクが吐出口に供給されにくくなるためである。つまり、インクが吐出口に供給されにくくなって、吐出されるインク量(実際に消費されたインク量)が減少するために、ヒータからのエネルギーが記録ヘッドに蓄積されやすくなり、結果として記録ヘッド温度は高くなる。よって、同じ吐出周波数で同じ数のインク滴を吐出した場合でも、インク残量の減少に伴ってインク吐出後の記録ヘッド温度は高くなる傾向にある。
【0033】
そこで、本例では、上述したインク残量の減少に伴って生じる記録ヘッドまたはインクタンク内のインクに付与される負圧の変化を利用して、インク残量を推定する。より具体的には、インク残量の減少に伴って、インク吐出前後の記録ヘッド温度の差が大きくなることを利用して、インク残量を推定するものである。
【0034】
本例の記録ヘッド101は、インク残量が3g以上のときには、記録ヘッドを吐出周波数12kHzで駆動する限り、A4サイズ版の1ページの記録媒体に対して、どのような記録パターンであってもかすれることなく記録することができる。一方、インク残量が3gに満たないときには、記録される画像がかすれて、画像品位が損なわれるおそれがある。つまり、インク残量推定後に、1ページの記録媒体に対して画像品位を損なわずに記録を行うために必要なインク残量は、3gである。そこで本例では、インク吐出前の記録ヘッド温度(Tb)とインク吐出後の記録ヘッド温度(Ta)との差に基づいて、インク残量が当初の10gから3gへと変化したことを判断する。
【0035】
ここで、インク残量が当初の10gから3gへと変化したことを判断するためには、所定温度においてインク吐出を行った場合に、インク残量が10gのときと3gのときとでインク吐出後の記録ヘッド温度(Ta)に所定以上の温度差が生じることが必要である。本例では、ダイオードセンサ208の温度検出の誤差等を含めて、記録ヘッド温度(Ta)に10℃の温度差があれば、インク残量を判断することができる。なお、本例のように記録開始前にインク残量の推定制御を実施する場合、記録ヘッド温度は凡そ室温(25℃)であることから、25℃においてインク吐出を行った後の記録ヘッド温度(Ta)に10℃の温度差が必要である。図7を参照すると、室温(25℃)において1000発のインク吐出を行った後の記録ヘッド温度(Ta)は、インク残量が10gのときは45℃、3gのときは55℃であり、温度差が10℃(=55℃−45℃)となる。そのため、本例のインク残量推定制御1では、上記ステップS603でインク吐出の設定量として1000発を設定している。
【0036】
したがって、図7中の点線で示すように、インク残量3gで1000発のインク吐出を行った際の、記録ヘッド温度(Tb=25℃)と(Ta=55℃)との温度差30℃を基準にして、インク残量が3g以上あるか否かを判断することが可能となる。すなわち、ステップS601およびS604で検出した記録ヘッド温度(Tb)と(Ta)との間の差が30℃未満のときには、インク残量が3g以上であると判断することができる。
【0037】
このような記録ヘッド温度とインク残量との関係に基づき、ステップS605では、インク吐出後の記録ヘッド温度(Ta)と、インク吐出前の記録ヘッド温度(Tb)と、の差を計算して、その計算結果が30℃未満であるか否かを判定する。その計算結果が30℃未満のときには、インク残量が3g以上であると判断する(ステップS606)。一方、計算結果が30℃以上のときには、インク残量が3g未満であると判断する(ステップS607)。
【0038】
ここで再び図5に戻り、ステップS502において、先のステップS606またS607の判断結果に基づいて、次の1ページの記録媒体に記録できるだけのインクが残っているか否かを判定する。
【0039】
すなわち、インク残量が先のステップS606において3g以上であると判断された場合には、次の1ページの記録ができるだけのインクが残っていると判定して、ステップS503に移行する。そして、ステップS503において記録ヘッドの吐出周波数を12kHzに設定してから、ステップS504において次の1ページ分の記録を行う。その1ページ分の記録を行った後は、ステップS505において、次のページの記録があるか否かを判定し、次のページの記録データがある場合にはステップS501に戻って、上述した一連のフローを繰り返す。一方、次のページの記録データが無い場合には記録を終了する。
【0040】
先のステップS502において、インク残量が3g未満であると判断された場合には、次の1ページの記録ができるだけのインクが残っていないと判定して、ステップS506に移行する。そのステップS506においては、インクが無いことをホスト装置に通知して、インクが無いことをユーザにディスプレイなどを利用して知らせる。それから、次のステップS507において、まだ記録を行っていないページ分の記録データをRAMに記憶して、記録を終了する。
【0041】
図8は、本実施形態に対する比較例を説明するための図である。この比較例におけるインク残量推定制御では、図6中のステップS602にて、記録ヘッドの吐出周波数を24kHzではなく12kHzに設定してから、次のステップS603でインクを1000発吐出させた。図8は、このようにインクを吐出した場合における記録ヘッド温度の時間推移を示す。
【0042】
この比較例の場合、1000発のインク吐出後の記録ヘッド温度(Ta)は、インク残量が10gまたは3gのいずれのときにも同じ38℃となり、それらの記録ヘッド温度に差がない。そのため、インク残量が10gか3gかの判断をヘッド温度差に基づいて行うことができない。つまり、上述した本実施形態のように、次の1ページの記録媒体に記録が可能なだけのインク残量があるか否かの判定をすることができない。仮に、本実施形態と同様に、インク残量が10gと3gのときとの間に、10℃の温度差を生じさせるためには、吐出周波数12kHzの場合、インク吐出設定量を2000発とし、2000発のインク吐出後の記録ヘッド温度(Ta’’)を使用する必要がある。
【0043】
つまり、このような比較例との対比から明らかなように、本実施形態においては、インク残量推定時の吐出周波数を、記録時の吐出周波数の12kHzよりも高い24kHzに設定することにより、より少ないインク消費量でインク残量が判断できることになる。
【0044】
以上のように、本実施形態においては、通常の記録時よりも吐出周波数を高めてインク残量を推定することにより、少ないインク消費量でも、次の記録を行えるだけのインク残量を推定することが可能となった。
【0045】
さらに、本実施形態においては、1ページ単位で記録が可能なインク残量があるか否かを判定したが、これに限らず、数スキャンや数ページ単位でインク残量を判定してもよい。
【0046】
(第2の実施形態)
上述した第1の実施形態では、インク残量推定時の吐出周波数を記録時よりも高く設定することによって、インク残量推定時のインク消費量を抑制することができた。しかし、インク残量が充分に存在する新品の記録ヘッド(インクが満充填されたインクタンクを含む記録ヘッド)を搭載したときから、記録データを受信する度にインク吐出を伴うインク残量推定を行った場合には、それに伴って消費されるインク量が多くなる。さらに、インク残量推定後の記録時の記録条件については、インク残量推定時のインク消費量の抑制という観点から、その記録条件を考慮するようなことはしていなかった。そこで、以上のことを踏まえ、本発明の第2の実施形態では、インク残量推定によるインク消費量をより抑制することを目的とする。
【0047】
図9は、第2の実施形態におけるインク残量の推定方法を含めた記録動作を説明するためのフローチャートである。記録ヘッド100、101に供給されるインクのそれぞれに関しては、このフローチャートにしたがって同じように管理される。以下においては、記録ヘッド101に供給されるシアンインクの場合を代表して説明する。
【0048】
記録装置が記録データを受信すると、ステップS901において、インク残量が充分であるか否か(本例では、インク残量が5g以上か否か)を判断する。ここでのインク残量の判断には、それほど高い推定精度を必要としない。そこで、本例では、これまでのインク吐出回数に基づいてインク消費量を計算し、その消費量をインクタンク内の初期のインク量から減算することによってインク残量を求め、そのインク残量が5g未満であるか否かを判断している。インク残量が5g以上である場合には、ステップS908にて吐出周波数を12kHzに設定し、その後、ステップS909にて記録モードを1パス記録に設定してから、S906にて1ページ分の記録を開始する。インク残量が5g未満の場合には、ステップS902にてインク残量推定制御2を行う。先のステップS901は、このステップS902とは異なる方法(第2の推定手段)によって、インク残量を推定することになる。
【0049】
そのインク残量推定制御2のフローの詳細を図10に示す。
【0050】
インク残量推定制御2におけるステップS1001からS1007は、前述した第1の実施形態のインク残量推定制御1におけるステップS601からS607に対応するが、次の3つの点においてインク残量推定制御1と異なる。すなわち、インク残量推定制御1のステップS603においては、インクの吐出設定量が1000発であったが、ステップS1003ではインクの吐出設定量が500発となっている。また、インク残量推定制御1のステップS605においては、記録ヘッド温度の差(Ta−Tb)が30℃未満であるか否かを判定しているが、ステップS1005では、記録ヘッド温度の差(Ta′−Tb)が22℃未満であるか否かを判定している。また、インク残量推定制御1のステップS606、S607においては、インク残量が3g以上であるか否かを判断していたが、S1006、S1007では、インク残量が1g以上であるか否かを判断している。
【0051】
本実施形態における記録ヘッド101は、インク残量が1g以上のときは、12kHzの吐出周波数で駆動して12パス記録を行う限り、どのような記録パターンであってもA4サイズ版の1ページをかすれることなく記録できる。これは、図16を用いて既に説明したように、単位時間当たりに吐出されるインク量としてマルチパス記録の記録パス数を異ならせることによって、インク残量とインク負圧との関係が変化するからである。なお、12パス記録というのは、所定領域の画像を記録ヘッドの12回の記録走査によって完成させる記録方法である。このような記録条件の下において、記録ヘッド101のインク残量が1g未満のときには、画像品位が損なわれるおそれがある。そこで、インク残量推定制御2においては、インク吐出前後の記録ヘッドの温度差に基づいて、インク残量が当初の10gから1gへと変化したか否かを判断する。
【0052】
上記実施例で説明したとおり、インク残量が当初の10gから1gへと変化したことを判断するためには、インク残量が10gのときと1gのときとでインク吐出後の記録ヘッド温度(Ta)に所定以上の温度差が生じることが必要である。本例の場合、ダイオードセンサ208の温度検出の誤差等を含めて、インク残量が10gのときと1gのときとでインク吐出後の記録ヘッド温度(Ta)に少なくとも10℃の温度差が必要である。本例の場合、図7のように500発のインク吐出を行った後の記録ヘッド温度(Ta′)は、インク残量が10gのときは37℃、1gのときは47℃となり、それらの温度差は10℃(=47℃−37℃)となる。そのため、本例のインク残量推定制御2では、ステップ1003で500発のインク吐出を行うようにしている。なお、第1の実施形態よりも少ないインク吐出設定数になる理由は、インク残量が3gよりも少なければ吐出口に対してインクが供給されにくくなるため、少ないインク吐出設定数でも所定以上の温度差が得られるからである。
【0053】
したがって、図7中の二点鎖線のように記録ヘッド温度(Tb=25℃)と(Ta′=47℃)との間の差22℃を基準にして、インク残量が1g以上であるか否かを判断することができる。なお、インク残量推定制御2における他の動作は、インク残量推定制御1と同じであるため説明は省略する。
【0054】
ここで再び図9に戻り、ステップS903において、先のステップS1006またS1007の判断結果に基づいて、次の1ページの記録媒体に記録できるだけのインクが残っているか否かを判定する。
【0055】
すなわち、インク残量が先のステップS1006において1g以上であると判断された場合には、次の1ページの記録ができるだけのインクが残っていると判定して、ステップS904に移行する。そして、そのステップS904において記録ヘッドの吐出周波数を12kHzに設定した後、ステップS905において記録モードを12パス記録に設定してから、ステップS906において次の1ページ分の記録を行う。その1ページ分の記録を行った後は、ステップS907において、次のページの記録があるか否かを判断し、次のページの記録データがある場合にはステップS901に戻って、上述した一連のフローを繰り返す。一方、次のページの記録データが無い場合には記録を終了する。
【0056】
先のステップS1007において、インク残量が1g未満であると判断された場合には、次の1ページの記録ができるだけのインクが残っていないと判定して、ステップS910に移行する。そのステップS910においては、インクが無いことをホスト装置に通知して、インクが無いことをユーザにディスプレイなどを利用して知らせる。それから、次のステップS911において、まだ記録を行っていないページ分の記録データをRAMに記憶して、記録を終了する。
【0057】
本実施形態においては、インク残量が充分にあると判断できる場合、つまりインク残量が5g未満になるまでは、インクの吐出を伴うインク残量推定制御を行わないため、インクの消費量を抑えることができる。また、インク残量が5g未満になり、インク吐出を伴うインク残量推定制御を行う際には、インク残量推定後の記録時の記録条件として、記録モードを12パス記録モードに変更するようにした。これにより、インク残量が1gになるまで記録を行うことができるようになり、インクタンク内のインクをより無駄なく使用することができる。さらに、インク残量推定制御2では、インク残量が1g以上あるか否かを判断するようになったことで、インク吐出設定量を第1の実施形態における1000発から500発にまで抑えることができた。
【0058】
つまり、インク吐出を伴うインク残量推定時に記録パス数を多くすることによって、より少ないインク残量までインクタンク内のインクを使用できるとともに、少ないインク吐出設定量でも高精度にインク残量を推定することが可能となった。
【0059】
本実施形態では、基準値を5gとし、インク残量がその基準値未満のときに、インク吐出を利用してインク量推定した。その際、インク吐出を利用することなく、基準値までのインク残量を推定する方法としては、それまでのインク吐出回数から推定する方法に特定されるものではない。例えば、インクタンクにプリズムを設けて光学的な情報を取得するインク残量推定方法など、種々の方法を用いることもできる。
【0060】
(第3の実施形態)
前述した第1、第2の実施形態では、インク残量推定時には、次のページの記録データ量や記録媒体のサイズなどによらず、所定のインク残量があるか否かを判断するようになっていた。そのため、12kHzで記録ヘッドを駆動する限り、どのような記録パターンであってもA4サイズ版1ページの記録媒体にかすれることなく記録できるインク残量、つまり1g以上のインク残量がなければインク残量なしと判断している。なお、A4サイズ版は、本実施形態の記録装置において記録可能な記録媒体の最大サイズである。
【0061】
しかしながら、次のページの記録データ量がわずかであったり、記録媒体のサイズが小さかったりした場合には、記録に使用するインク量が少ないため、次の1ページを記録できるだけのインク残量があるか否かを判断する基準は少なくてもよい。
【0062】
さらには、次のページを記録する際の単位時間当たりに吐出されるインク量(例えば、記録パス数)によっても、インク残量の判断基準は異なる。すなわち、単位時間当たりに吐出されるインク量が少なければ、インクの動的負圧は減少する方向へ変化するため、上記インク残量の判断基準は少なくてよい。
【0063】
このように、インク残量の判断基準を少なくした場合には、第2の実施形態でも説明したように、インク残量推定制御のインク吐出設定量を少なく設定することが可能となる。以上のことを踏まえ、第3の実施形態では、次ページの記録における使用インク量及び単位時間当たりに吐出されるのインク量に応じたインク残量推定を行うことによって、インク残量推定時のインク消費量を抑制することを目的とする。
【0064】
図11は、第3の実施形態におけるインク残量の推定方法を含めた記録動作を説明するためのフローチャートである。記録ヘッド100、101に供給されるインクのそれぞれに関しては、このフローチャートにしたがって同じように管理される。以下においては、記録ヘッド101に供給されるシアンインクの場合を代表して説明する。
【0065】
図11中のステップS1101からS1111は、前述した第2の実施形態の図9中のステップ901から911に対応するが、次の2つの点において図9のフローチャートと異なる。すなわち、図9中のステップS902におけるインク残量推定制御2が、ステップS1102におけるインク残量推定制御3に置き換わっている。また、図9中のステップS905において12パス記録を設定する処理が、ステップS1105において記録モードを設定する処理に置き換わっている。ステップS1105においては、後述するように指定された記録モードを設定することになる。本例においては、設定可能な記録モードとして、1パス記録によってA4サイズの用紙に記録するモード、および12パス記録によって名刺サイズの用紙に記録するモードを含んでいる。
【0066】
図12に、インク残量推定制御3のフローの詳細を示す。
【0067】
まず、ステップS1201において、ダイオードセンサ208の出力に基づいてインク吐出前の記録ヘッド温度(Tb)を検出してから、ステップS1202において記録ヘッドの吐出周波数を24kHzに設定する。その後、ステップS1203において、次のページを記録するときの記録パス数と記録媒体のサイズとに基づいて、ROM301内の後述する図14の吐出数テーブルを参照し、そのテーブルによって指定された量のインクを吐出する。
【0068】
次のページを記録する際には、その記録のデータ量がわずかであったり、記録媒体のサイズが小さかったりする場合がある。このような場合には、記録に使用するインク量が少ないために、そのページの記録をかすれることなく確実に行えるだけのインク残量があるか否かの判断基準は少なくてもよい。また、次のページを記録する際の単位時間当たりに吐出されるインク量が少ない場合にも、インクの動的負圧が減少する方向へ変化するため、インク残量の判断基準は少なくてよい。
【0069】
図13は、記録パス数および記録媒体のサイズの各条件と、次の1ページの記録を確実に行うために必要なインク残量と、の関係の説明図である。
【0070】
同図に示すように、1パス記録によってA4サイズの用紙に記録を行う場合、インク残量が3g以上なければ、1ページの記録の途中からインクがかすれるおそれがある。また、A4サイズの用紙に12パス記録によって記録を行う場合には、インク残量が1g以上であれば、1ページをかすれることなく確実に記録することができる。
【0071】
第2の実施形態と同様に、次ページを確実に記録できるだけのインク残量があるか否かを判断するときの基準となるインク残量(以下、「判断基準インク残量」という)を少なくした場合には、インクの残量推定に必要なインクの吐出設定量を抑えることができる。
【0072】
本実施形態においても、インク残量が判断基準インク残量となったことを判断するには、当初のインク残量(10g)と判断基準インク残量とで、記録ヘッド温度(Ta)に10℃の温度差が必要となる。記録ヘッド温度(Ta)に10℃の温度差を得るには、判断基準インク残量を3gとした場合には、前述した第1の実施形態のように1000発のインク吐出が必要となる。また、判断基準インク残量を1gとした場合には、前述した第2の実施形態のように500発のインク吐出が必要となる。
【0073】
図13は、記録パス数および記録媒体サイズの条件毎の判断基準インク残量を示した図である。また、図14は、ROM301内の吐出数テーブルの説明図である。
【0074】
図14に示した吐出数テーブルは、前述したように、インク残量推定制御時に参照されるものであり、記録パス数および記録媒体サイズの条件毎に、判断基準インク残量が関係付けられている。例えば、次のページの記録として、1パス記録によってA4サイズの用紙に記録を行う場合、そのページの記録には3gのインク残量が必要なる(図13参照)。そして、その3gのインク残量があるか否かを判断するためには、1000発のインク吐出が必要となる(図14参照)。
【0075】
ここでは、次のページの記録例として、12パス記録によって名刺サイズの用紙に記録を行うモードの場合について説明する。この場合には、図12のステップS1203において、図14の吐出数テーブルを参照して対応するインク吐出設定量の440発を選択し、その440発のインク吐出を行う。そして、440発のインク吐出終了後、ステップS1204においてインク吐出後の記録ヘッド温度(Ta)を検出する。次に、ステップS1205において、インク吐出後の記録ヘッド温度(Ta)とインク吐出前の記録ヘッド温度(Tb)との差(Ta−Tb)を計算し、その結果と、後述する図15の温度判断テーブルから選択された値(判断温度)と、を比較する。そして、温度差(Ta−Tb)が温度判断テーブルから選択した判断温度に満たないときは、ステップS1206において、次のページの記録を行うことができるだけのインクが残っていると判断する。一方、温度差(Ta−Tb)が温度判断テーブルの判断温度以上のときには、ステップS1207において、次のページの記録を行えるだけのインクが残っていないと判断する。
【0076】
図15の温度判断テーブルは、ステップ1203において吐出したインク吐出数と、インク残量を推定するために実際の記録ヘッドの温度差(と比較する値(判断温度)と、を関連付けている。例えば、ステップS1203で1000発のインク吐出を行ってインク残量を推定する場合には、温度判断テーブルから選択される判断温度は30℃となる。また、500発のインク吐出を行ってインク残量を推定する場合に選択される判断温度は22℃となる。このように、本例においては、図15のような温度判断にテーブルを使用する。しかし、インク吐出数に応じてインク残量を推定するための温度差は、計算により導出してもよく、この場合にも同等の効果を得ることができる。
【0077】
本例の場合は、ステップS1203において440発のインク吐出を行っているため、図15の温度判断テーブルから対応する判断温度21℃が選択され、ステップS1205においては、記録ヘッドの温度差(Ta−Tb)が21℃未満であるか否かを判断する。温度差(Ta−Tb)が21℃未満のときには、ステップS1206において、インク残量が0.5g以上であって、次のページの記録が可能なインク残量があると判断する。一方、温度差(Ta−Tb)が21℃以上のときには、ステップS1207において、インク残量が0.5g未満であって、次のページの記録を行えるだけのインク残量がないと判断する。
【0078】
ここで再び図11に戻り、ステップS1103において、先のステップS1206またはS1207の判断結果を判定する。先のステップS1206において、1ページの記録が可能なインクが残っていると判断された場合には、ステップS1104において記録ヘッドの吐出周波数を12kHzに設定する。そして、ステップS1105において、記録モードとして12パス記録により名刺サイズの記録媒体に記録するモードを設定してから、ステップS1106において1ページ分の記録を行う。その1ページ分の記録を行った後は、ステップS1107において、次のページの記録があるか否かを判断する。そして、次のページの記録データがある場合には、ステップS1101に戻って上述した一連のフローを繰り返す。一方、次のページの記録データが無い場合には、記録を終了する。
【0079】
一方、先のS1207において、1ページの記録が可能なインクが残っていないと判断された場合には、ステップS1110において、インクが無いことをホスト装置に通知して、インクが無いことをユーザにディスプレイなどを利用して知らせる。それから、次のステップS1111において、まだ記録を行っていないページ分の記録データをRAMに記憶して、記録を終了する。
【0080】
本実施形態においては、12パス記録のように単位時間当たりのインク吐出量が少ない記録モードにおいて、名刺サイズのような小サイズの記録媒体に記録を行う場合、インクの残量推定に必要なインクの吐出数を440発に抑制することができる。ただし、1パス記録によってA4サイズの記録媒体に記録を行う場合には、インクの残量推定のために1000発のインク吐出が必要となる。
【0081】
以上のように、本実施形態においては、次ページの記録における記録パス数及び記録媒体サイズに基づいて、インクの吐出設定量および判断温度を変更してインク残量の推定を行った。これにより、本実施形態によれば、インク残量推定時のインク消費量を抑制することが可能となった。
【0082】
本実施形態のインク残量推定方法では、記録パス数と記録媒体のサイズとに基づいて判断基準インク残量を取得するように構成した。しかしながら、次ページの記録における使用インク量及び単位時間当たりに吐出されるインク量に応じたインク残量推定を行う場合、この構成に限定されるものではない。例えば、記録データ量やインクの最大打ち込み量を基に、次ページの使用インク量に合わせて判断基準インク残量を変更して、インク残量推定を行うようにしてもよい。
【0083】
また、本実施形態においては、記録パス数と記録媒体のサイズに基づいて、次ページの記録における使用インク量及び単位時間当たりのインク吐出量に合わせたインク残量の推定を行うようにした。しかし、このようなインク残量の推定は、記録パス数と記録媒体のサイズの他、次の所定単位の記録動作に関連する種々の情報に基づいて行うことができる。つまり、インクの最大打ち込み量、記録パス数、インクの吐出に使用する吐出口の数、記録データの間引きの程度、記録媒体のサイズ、記録データ量などに基づいて、行うことができる。また、これらの情報の1つを用いる他、それらの情報を複数組み合わせて用いてもよい。
【0084】
また、本実施形態において、次のページの記録における記録バス数と記録媒体とのサイズを取得するタイミングは、ステップS1203により吐出テーブルを参照する前のタイミングであればよく、そのタイミングが限定されるものではない。
【0085】
(第4の実施形態)
前述の実施形態では、記録ヘッドの温度が25℃の状態でインク吐出を開始したときには、ダイオードセンサの温度検出誤差等も含めて、当初のインク残量(10g)と判断基準となるインク残量との間で、記録ヘッド温度(Ta)に10℃の温度差が必要である。しかし、この10℃という温度差は、記録ヘッドの昇温特性やダイオードセンサの温度読取精度に個体間バラツキが生じることを考慮して、多めに見積もった数値である。
【0086】
そこで、本実施形態では、確実にインクがあると判断できる状態で、記録ヘッド固有の温度特性を測定する。これにより、記録ヘッド温度(Ta)が少ない温度差であってもインク残量を判断することが可能となるので、インク残量推定制御におけるインク消費量を低減することができる。
【0087】
図17は、第4の実施形態において、記録ヘッドのインク残量推定方法を含めた記録動作の概略を示すフローチャートである。本フローチャートにおいても、記録ヘッド100、101の両方に対して同じ制御を行うが、ここでは記録ヘッド101におけるシアンインクの場合を代表して説明する。本実施形態における記録装置が記録データを受信すると、S1701で、インク残量が3.5g未満であるかを判断する。ここでのインク残量の判断はそれほど高い精度は必要なく、吐出されるインク量の理論値とこれまでにインク吐出を行った回数からインク消費量を計算し(以下、ドットカウント制御)、インク残量が3.5g未満であるかを判断する。この3.5gという値は、これまでのインク使用量の理論値の最大公差を考慮しても1パス記録でA4サイズ1頁分の記録が行えるインクがあると判断できる最低量に、次記録に必要な最大インク量と次記録時の回復制御に必要なインク量を加味した値である。なお、これまでのインク使用量の理論値とは、1ノズルから吐出されるインク量と回復制御に必要なインク量との理論値に相当する。S1701でインク残量が3.5g以上存在する場合は、S1702において1パス記録に設定し、S1703で1ページ分を記録する。1ページの記録が終了すると、S1704で次ページの記録が無いかどうか判断し、記録が無い場合は記録を終了、記録が有る場合は再びS1701に移る。一方、S1701でインク残量が3.5g未満と判断すると、S1705で12パス記録に設定し、S1706で1ページ分を記録する。記録パス数を12パスに設定する理由は、第2の実施形態ですでに説明した通りである。1ページの記録が終了すると、S1707でインク残量が2g未満であるかどうかを判断する。この2gという値は、これまでのインク使用量の最大公差を考慮しても、12パス記録でA4サイズ1ページ分の記録が行えるインクが残っていると判断できる最低量に、次のようなインク量を加味した値である。その加味した値とは、次記録に必要な最大インク量、次記録の回復制御に必要なインク量、および後述するヘッド昇温参考値取得制御に必要なインク量である。このS1707において、インク残量が2g以上ある場合は、S1704に移って、次ページ記録の有無を判断する。一方、インク残量が2g未満の場合は、S1708でヘッド昇温参考値が既に取得されているかどうかを判断する。ここで、ヘッド昇温参考値を取得が取得されていない場合は、ヘッド昇温参考値を取得するために、S1709に移りヘッド昇温参考値取得制御を実施する。
【0088】
ヘッド昇温参考値取得制御の詳細を図18に示す。ヘッド昇温参考値取得制御では、まずS1801においてダイオードセンサ208の出力に基づき、インク吐出前の記録ヘッド温度(Tb)を検出する。次にS1802においてヒータ212に印加する駆動パルスをPWM4に設定する。
【0089】
ここで、PWM制御について説明する。通常、同一の駆動パルスでヒータ駆動を行うと、インク特性により低温環境の方が高温環境よりも1ノズルから吐出されるインクの吐出量が小さくなる。また一方で、ヒータにパルスを複数回に分割して印加する場合、先に印加したパルス幅を長くすることでインク吐出量が増大することが知られている(例えば、特開平7−32355)。そこで本例では、図19(a),(b)に示すように、18℃未満の低温環境ではプレパルス幅の長いPWM4、逆に28℃以上の高温環境ではプレパルス幅の短いPWM1、というように駆動パルスを選択してヒータ駆動を行う。これにより、記録環境によらずインク吐出量が一定となるように記録を行っている。
【0090】
しかしながら、インク残量推定制御に関しては、ヘッド昇温参考値を取得する時と実際にインク残量の推定を行う時とで環境温度が異なる場合があり、参考値として取得したヘッド昇温特性に駆動パルス分のずれが生じる可能性がある。また、本例のインク残量推定では、単位時間あたりに吐出されるインク量を記録時よりも多くなるように設定している。これらの理由により、S1802では駆動パルスをPWM4に設定している。
【0091】
駆動パルスの設定が終わると、S1803において記録ヘッド101のシアンインクの600ノズルから800発の吐出を行い、S1804でインク吐出後の記録ヘッド温度(Ta)を検出する。インク吐出前後のヘッド温度を検出した後は、S1805において、(Ta−Tb)の値をインク残量が充分にある時のヘッド昇温参考値dTrefとしてRAM302に記憶する。また、ヘッド昇温参考値取得制御を行ったときの環境温度envTrefも同じくRAM302に記憶する。環境温度を記憶しているのは、環境温度によってヘッド昇温特性が変わることに対応するためであり、後のインク残量推定時の補正パラメータとして利用する。
【0092】
図17に戻って説明を続けると、ヘッド昇温参考値取得後はS1704に移って、次ページ記録の有無を判断する。次の記録でS1701、S1705、S1706、S1707を経てS1708に至ると、ヘッド昇温参考値は取得済みのためS1710に移り、インク残量が1.5g未満であるかどうかを判断する。この1.5gという値は、これまでのインク使用量の理論値の最大公差を考慮しても、12パス記録でA4サイズ1ページ分の記録が行えるインクが残っていると判断できる最低量である。一方、S1710において、インク残量が1.5g以上の場合は、S1704に移って次ページ記録の有無を判断する。一方、S1710でインク残量が1.5g未満と判断された場合は、1ページ分の記録を行えるだけのインク量が残っていない可能性があるため、S1711に移ってインク残量推定制御4を実施する。
【0093】
インク残量推定制御4の詳細を図20に示す。ヒータの駆動動作については、前記ヘッド昇温参考値取得制御と同じであるが、順に説明すると、S2001においてダイオードセンサ208の出力に基づきインク吐出前の記録ヘッド温度(Tb)を検出する。次にS2002において、駆動パルスをPWM4に設定する。パルス設定後はS2003において記録ヘッド101のシアンインク600ノズルから800発の吐出を行い、インク吐出終了後のS2004でインク吐出後の記録ヘッド温度(Ta)を検出する。インク吐出前後のヘッド温度を算出した後は、S2005において(Ta−Tb)をヘッド昇温値dTとして、またこのときの環境温度envTとして取得する。
【0094】
これらのパラメータを取得した後にインク残量を判断するが、まずS2006において、ヘッド昇温参考値取得制御を実施したときとインク残量推定制御4を実施したときの環境温度変化によるヘッド昇温特性の変化分を補正するパラメータを算出する。環境温度補正値(envTcal)は、ヘッド昇温参考値取得制御を行ったときの環境温度(envTref)からインク残量推定制御4を行ったときの環境温度(envT)を減算した値に、定数Cenvを掛けて算出する。図21は、インクタンク内にインクが充分に存在する状態で、吐出周波数12kHzで800発のインク吐出をしたときのヘッド昇温値(dT)を、環境温度ごとに測定した結果である。図21に示すように、定数Cenvは環境温度に対するヘッド昇温特性の傾きから導かれる値であり、本例では、その値は0.2となる。
【0095】
環境温度補正値導出後のS2007において、インク残量推定制御4を実施したときのヘッド昇温値(dT)が、ヘッド昇温参考値(dTref)に環境温度補正値(envTcal)とインク有無判定値(dTjdg)を加算した値よりも大きいか否かを判断する。このインク有無判定値とは、インク残量の有無を判断するのに必要な記録ヘッド温度(Ta)の温度差のことであり、第1の実施形態では10℃であった。しかしながら、本例では、ヘッド昇温参考値取得しているため、記録ヘッドの昇温特性やダイオードセンサに個体間バラツキを考慮して高めの温度差にする必要はないので、インク有無判定値(dTjdg)は10℃よりも少ない温度に設定できる。ここでは、テスト回数バラツキを考慮した値として5℃とする。これにより、ヘッド昇温値(dT)と比較する温度をより低く設定することが出来るので、インク残量推定制御におけるインク使用量を少なくすることが可能となる。
【0096】
インク残量検知制御4を行ったときのヘッド昇温値(dT)が上記3値を加算した値よりも小さいときは、S2008に移って1ページ記録できるだけのインクが残っていると判断する。一方、ヘッド昇温値(dT)が上記3値を加算した値よりも大きいときはS2009に移って1ページ記録できるだけのインクが残っていないと判断する。
【0097】
ここで再び図17に戻り、S1712においてインク残量推定制御4の判断結果をもとに、1ページ記録できるだけのインクが残っている場合はS1704移って次ページ記録の有無を判断する。1ページ記録できるだけのインクが残っていないと判断した場合は、S1713に移り、ユーザにインク残量がないことをホストを通じてディスプレイ上に通知し、S1714でまだ記録を行っていない現在のページ以降の記録データをRAMに記憶し記録を終了する。
【0098】
本実施形態においては、確実にインクがあると判断できる状態で、記録ヘッド固有の昇温特性を測定することにより、インク吐出後の記録ヘッド温度(Ta)の温度差をより少ない温度差とすることが可能となった。これにより、インク残量推定制御におけるインク使用量を低減することが可能となった。具体的に説明すると、図22は吐出周波数12kHzでヒータを駆動したときの記録ヘッド温度の推移を示している。12パス記録でA4サイズ1ページ分の記録が行えるインクが残っていると判断できるインク残量は1gである。そのため、インク残量推定時のインク吐出発数は、インク有無判定値を10℃に設定していたときは1000発であったのに対し、本例では800発にまで抑えることが可能となった。
【0099】
以上より、本実施形態によれば、インク消費量を抑えるとともに、高精度にインク残量を推定することが可能となった。なお、本実施形態では、記録時、インク残量推定時ともにインク吐出周波数を12kHzで固定したが、インク残量推定時の周波数を12kHzよりも上げることによりインク残量推定に必要なインク量をさらに低減することが可能である。
【0100】
(他の実施形態)
本発明を適用可能なインクジェット記録装置は、上述したような所謂シリアルスキャンタイプのみに限定されず、所謂フルラインタイプなどであってもよい。要は、インクタンク吐出口に供給可能なインク供給可能量の変化に応じて、記録ヘッドまたはインクタンクの状態変化(インクを吐出させた際のインク吐出量の変化)が生じる記録装置であれば記録方式に限定されるものではない。
【0101】
さらに、インク残量を推定ためのインク吐出において、単位時間当たりに吐出されるインク量を記録時よりも多くする方法は、上述したインクの吐出周波数を高める方法のみに特定されない。例えば、インクの吐出に使用する吐出口の数を増加させる方法であってもよい。また、吐出周波数を高める方法と、吐出口の数を増加させる方法と、を組み合わせて用いてもよい。
【符号の説明】
【0102】
100、101 記録ヘッド
102 吐出口
106 キャリッジ
202,203,204 インクタンク室
300 CPU
301 ROM
302 RAM
314 ヘッド温度制御回路
315 サーミスタ
P 記録媒体
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録ヘッドに供給可能なインクタンクのインク残量を推定可能な記録装置および記録装置の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、プリンタ、複写機、ファクシミリ等の記録装置においては、微小なインク滴を高周波の駆動信号に応じて吐出可能な記録ヘッドを用いたインクジェット記録方式が普及している。インクタンクを交換して使用するインクジェット記録方式においては、インクタンク内のインクが無くなったことをユーザに知らせることが重要である。特に、記録データがユーザの手元に残らないファクシミリ等の機器においては、インクが無くなったために記録ヘッドからインクが吐出されないまま、記録動作(空記録)を行うような事態は避けなければならない。そのため、記録ヘッドに供給可能なインクの供給可能量(以下、「インク残量」ともいう)の推定精度を高めることが要求される。
【0003】
インク残量の推定方法として、特許文献1,2,3に記載の方法が知られている。特許文献1には、記録ヘッドの温度および記録ヘッドに流れる電流値に基づいて、インク残量を推定する方法が記載されている。特許文献2には、インクが吹き付けられた振動板の振動に基づいて、インク残量を推定する方法が記載され、特許文献3には、吐出したインクが光学素子間を通過したときに生じる電流値の変化に基づいて、インク残量を推定する方法が記載されている。これらの推定方法は、記録ヘッドからインクを吐出させるための信号に基づいて記録ヘッドを作動させ、そのときに記録ヘッドから実際にインクが吐出されたか否かを何らかの方法で検出する点で共通している。そして、記録ヘッドからインクが吐出されなかったときには、インク残量が無いと判断する。このようなインク量の推定方法は、記録ヘッドからインクが実際に吐出されたか否かを検出するため、インク残量の推定精度が高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平03−259662公報
【特許文献2】特開平07−032608公報
【特許文献3】特開平09−094947公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述の推定方法は、高い精度でインク残量を推定することができるものの、インク残量を推定するためには、わざわざ記録ヘッドからインクを吐出しなければならず、その分、記録に使用できるインクの量が減ってしまう。
【0006】
本発明は、記録ヘッドからのインクの吐出を利用してインク残量を推定する際に、インクの消費を抑えつつ、高精度にインク残量を推定することができる記録装置および記録装置の制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の記録装置は、インクタンクから供給されるインクを複数の吐出口から吐出して記録媒体に記録を行う記録ヘッドと、
前記記録ヘッドから所定回数のインク吐出を行った前後の記録ヘッドの温度差と比較温度とを比較することで、前記インクタンク内のインク残量が所定量以上か否かを判断する判断手段と、を有する記録装置であって、前記インクタンクにインク残量が十分にある基準タイミングで取得した、前記記録ヘッドから前記所定回数と同じ回数のインク吐出を行った前後の前記記録ヘッドの基準温度差と、その際の前記記録装置の基準環境温度とを記憶しておく記憶手段と、前記基準温度差、前記基準環境温度、およびインク残量を判断する際の温度差を取得する際の環境温度に基づいて、前記比較温度を設定する設定手段と、を有することを特徴とする。
【0008】
本発明の記録装置の制御方法は、インクタンクから供給されるインクを複数の吐出口から吐出して記録媒体に記録を行う記録ヘッドを備えた記録装置の制御方法であって、前記インクタンクにインク残量が十分にある基準タイミングで取得した、前記記録ヘッドから所定回数のインク吐出を行った前後の前記記録ヘッドの基準温度差と、当該基準タイミングにおける基準環境温度とを記憶手段から取得する工程、前記基準温度変化、前記基準環境温度、及び現在の環境温度に基づいて前記比較温度を設定する工程と、前記記録ヘッドから前記所定回数と同じ回数のインク吐出を行った前後の前記記録ヘッドの温度差を取得する工程と、取得された前記温度差と前記比較温度とを比較することで、前記インクタンク内のインク残量が所定量以上か否かを判断する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、確実にインクがあると判断できる状態で、記録ヘッド固有の昇温特性を測定することにより、インク吐出後の記録ヘッド温度の温度差をより少ない温度差とすることができる。これにより、インク残量推定制御におけるインク使用量を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(a)は、本発明の第1の実施形態における記録装置の概略斜視図、(b)は、(a)における記録ヘッドの側面図である。
【図2】(a)は、図1における記録ヘッドの斜視図、(b)は、その記録ヘッドの断面図、(c)は、その記録ヘッドの底面図、(d)は、その記録ヘッドのノズル部分の拡大図である。
【図3】図1の記録装置の制御系のブロック構成図である。
【図4】単位時間あたりのインク吐出量と、使用可能なインク量の関係の説明図である。
【図5】本発明の第1の実施形態における記録およびインク残量推定の動作を説明するためのフローチャートである。
【図6】図5におけるインク残量推定制御1を説明するためのフローチャートである。
【図7】記録ヘッド温度とインク残量との関係の一例の説明図である。
【図8】記録ヘッド温度とインク残量との関係の他の例の説明図である。
【図9】本発明の第2の実施形態における記録およびインク残量推定の動作を説明するためのフローチャートである。
【図10】図9におけるインク残量推定制御2を説明するためのフローチャートである。
【図11】本発明の第3の実施形態における記録およびインク残量推定の動作を説明するためのフローチャートである。
【図12】図11におけるインク残量推定制御3を説明するためのフローチャートである。
【図13】記録パス数と用紙サイズとインク残量との関係の説明図である。
【図14】記録パス数と用紙サイズとインク吐出数とを対応付けた吐出数テーブルの説明図である。
【図15】インク吐出数とインク残量の判断温度とを対応付けた温度判断テーブルの説明図である。
【図16】インク残量と負圧との関係の説明図である。
【図17】本発明の第4の実施形態における記録およびインク残量推定の動作を説明するためのフローチャートである。
【図18】図17におけるヘッド昇温参考値取得制御を説明するためのフローチャートである。
【図19】(a)は、図18のヘッド昇温参考値取得制御における環境温度と駆動パルスとの関係の説明図、(b)は、(a)におけるプレパルス、インターバル、およびメインパルスの説明図である。
【図20】図17におけるインク残量推定制御4を説明するためのフローチャートである。
【図21】環境温度毎における記録ヘッドの昇温値の説明図である。
【図22】インクの吐出数と記録ヘッド温度との関係の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
この明細書において、「記録」(「プリント」という場合もある)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わない情報を形成する場合を含む。つまり、「記録(プリント)」は、人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する場合、または媒体の加工を行う場合をも含む。
【0012】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
【0013】
さらに、「インク」(「液体」という場合もある)とは、上記「記録(プリント)」の定義と同様広く解釈されるべきものである。したがって、「インク(液体)」は、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成、または記録媒体の加工、或いはインクの処理(例えば、記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供される液体を表すものとする。
【0014】
またさらに、「ノズル」(「記録素子」、「記録要素」という場合もある)とは、特にことわらない限り、吐出口、これに連通する液路、およびインク吐出に利用されるエネルギーを発生する素子を総括していうものとする。
【0015】
(第1の実施形態)
図1から図3は、本実施形態における記録装置の基本構成を説明するための図である。
【0016】
図1(a)は記録装置の斜視図であり、図1(b)は、図1(a)における記録ヘッドの側面視図である。これらの図1(a),(b)において、100および101は、インクタンクと一体に構成された記録ヘッドである。記録ヘッド100および101は、必ずしも本例のようにインクタンク一体型である必要はなく、インクタンクと分離可能な構成であってもよい。
【0017】
記録ヘッド100側のインクタンクは、ブラックインク、淡シアンインク、淡マゼンタインクを収容し、記録ヘッド101側のインクタンクは、シアンインク、マゼンタインク、イエロインクを収容する。記録ヘッド100、101は、それらのインクタンクに収容するインク以外、構成は同じである。また、記録ヘッド100、101は、それぞれの色のインクに対応するように複数配列された吐出口102を有する。103は搬送ローラ、104は補助ローラであり、これらローラは、協働して記録媒体Pを抑えながら図中の矢印方向に回転することにより、記録媒体Pを矢印Y方向に搬送する。105は給紙ローラであり、記録媒体Pの給紙を行うと共に、搬送ローラ103および補助ローラ104と同様に、記録媒体Pを抑える役割も果たす。106は、記録ヘッド100、101を搭載可能なキャリッジであり、記録動作時に矢印Xの主走査方向に沿って往復移動する。キャリッジ106は、記録を行わないとき、あるいは記録ヘッドの回復動作などを行うときには、図1(a)中の点線の位置(ホームポジション)hに待機する。本例の記録装置において、記録可能な記録媒体の最大サイズはA4サイズ版である。107はプラテンであり、記録位置において記録媒体Pを安定的に支える役割を果たす。108は、キャリッジ106を主走査方向に移動させるためのキャリッジベルトである。
【0018】
図2は、記録ヘッドの構成を示す図である。記録ヘッド100、101は同一構造であるため、ここでは、記録ヘッド101の構成を代表して説明する。図2(a)は記録ヘッド101の斜視図、図2(b)は記録ヘッド101の断面図、図2(c)は記録ヘッド101をZ方向から見たとき下面図、図2(d)は、図2(c)における吐出口周りの拡大図である。図2(a)において、201はコンタクトパッドであり、これを介して記録ヘッドが記録装置本体から記録信号を受信し、また記録ヘッドの駆動に必要な電力を受給する。図2(a)において、破線は記録ヘッド内部壁を示し、その内部壁によって区分けされたインクタンク室202、203、204のそれぞれに、シアンインク、マゼンタインク、イエロインクが10gずつ注入されている。記録ヘッド100、101は、前述したように、インクの色以外、インクタンク室の構造等は同じである。
【0019】
図2(b)は、シアンインクタンク室202の断面図である。205は、インクタンク室202に収容されたインク吸収体、206はインク流路、207は記録ヘッドチップである。インク吸収体205に保持されているインクIは、インク流路206を通して記録ヘッドチップ207へ供給される。図2(c)において、記録ヘッドチップ207には、記録ヘッド基板の温度を検出するダイオードセンサ208が備えられている。記録ヘッド内のインクの温度を直接検出することは困難であるため、一般には、記録ヘッド基板の温度(以下、「記録ヘッド温度」という)を検出し、この記録ヘッド温度をインク温度として代用している。記録ヘッド温度を検出するための構成としては、ダイオードセンサ208を用いる以外に、例えば、金属薄膜センサ等を用いる構成であってもよい。209は、シアンインクを吐出するための吐出口列、210は、マゼンタインクを吐出するための吐出口列、211は、イエロインクを吐出するための吐出口列である。
【0020】
図2(d)は、シアンインクを吐出するための吐出口列(以下、「シアン吐出口列」ともいう)209の拡大図である。図2(d)において、シアン吐出口列209上には複数の吐出口102が配列され、各吐出口102の下側(Z方向側)にはヒータ212が設けられている。ヒータ212の発熱によってインク中に気泡を発生させることにより、その発泡エネルギーを利用して吐出口102からインクを吐出することができる。本例の場合、シアン吐出口列209上に配列された吐出口102の数は600個(600ノズル分)、吐出口102の間隔は1/600インチであり、これにより、主走査方向における記録画素密度が600dpiになるように構成されている。また、記録ヘッドは、吐出口102から吐出されるインク滴が1滴当り約2plとなるように構成されている。本例において、このインク滴を吐出するためのヒータ212の最大駆動周波数(以下、「最大吐出周波数」ともいう)は24kHzであるが、記録に適した最大吐出周波数は12kHzとなっている。主走査方向にインク滴を1200dpiの間隔に記録する場合、記録ヘッド100、101を搭載したキャリッジ106の主走査方向の移動速度は、下式によって10インチ/秒となる。
【0021】
12000(ドット/秒)÷1200(ドット/インチ)=10インチ/秒
図3は、記録装置の制御系のブロック構成図である。本例の制御系における構成要素は、ソフト系制御手段とハード系処理手段とに大別することができる。ソフト系制御手段には、メインバスライン305に対してアクセス可能な画像入力部303、画像信号処理部304、および中央制御部CPU300などの処理手段が含まれる。また、ハード系処理手段には、操作部308、回復系制御回路309、ヘッド温度制御回路314、ヘッド駆動制御回路316、キャリッジ駆動制御回路306、紙送り制御回路307などの処理手段が含まれる。CPU300は、ROM301とRAM302を有し、入力情報に対して適正な記録条件を与えて、記録ヘッド100、101内のインク吐出用ヒータ212を駆動する。RAM302内には、回復タイミングチャートにしたがって記録ヘッドの回復処理を実行するためのプログラムが格納されており、必要に応じて、予備吐出条件等の回復条件を回復系制御回路309、および記録ヘッド100、101等に与える。
【0022】
回復処理は、記録ヘッドにおけるインクの吐出状態を良好に維持するための処理であり、本例においては、予備吐出、吸引回復処理、およびワイピングを含む。予備吐出は、記録ヘッドの吐出口から後述するキャップ312内に向かって、画像の記録に寄与しないインクを吐出させる処理である。吸引回復処理は、後述する吸引ポンプ313からキャップ312内に負圧を導入することにより、記録ヘッドの吐出口からキャップ312内に、画像の記録に寄与しないインクを吸引排出させる処理である。ワイピングは、吐出口が形成されている面(吐出口形成面)を後述するクリーニングブレード311によってワイピングする処理である。
【0023】
画像入力部303は、記録装置に接続された外部装置(ホスト装置)から、画像データ、コマンド、ステータス信号等を受信する。回復系モータ310は、回復処理を行うために、記録ヘッド100、101、クリーニングブレード311、キャップ312、および吸引ポンプ313を駆動する。ヘッド駆動制御回路316は、記録装置の周囲温度を検出するサーミスタ315、および記録ヘッド温度を検出するダイオードセンサ208の出力値に基づいて、記録ヘッド100、101上のヒータ212を駆動する。ヘッド駆動制御回路316は、記録ヘッド100、101を駆動制御して、記録のためのインク吐出、予備吐出、および保温制御のためのインク温度調整を行う。
【0024】
図4は、記録ヘッド101におけるシアンインクの吐出周波数と、シアンインクの使用可能量と、の関係の説明図である。マゼンタインクおよびイエロインクも、シアンインクと同じ特性を持つ。600ノズルから吐出周波数12kHzでインクの吐出を続けた場合、インクタンク内に注入したインク量10gに対して、使用可能なインク量は7gとなる。一方、600ノズルから吐出周波数1kHzでインクの吐出を続けた場合、使用可能なインク量は9gとなる。以下に、このように使用可能なインク量に差が生じる主要因の1つについて説明する。
【0025】
通常、記録ヘッドの吐出口からインクを吐出しない非吐出時に、その吐出口からインクがこぼれ出ないように、インクタンク内のインクは吸収体205等の負圧発生部材によって保持されている。つまり、インクタンク内のインクには負圧が付与されており、記録ヘッド内のインクにもインクタンク側に引っ張られる圧力(以下、「負圧」という)が付与されている。記録に伴ってインクタンク内のインク量が減少した場合、インクの負圧は徐々に増大する傾向となる。インクの負圧が大きくなり過ぎた場合には、記録ヘッド内のインクがインクタンク側に強く引っ張られるため、インクタンクから吐出口へのインク供給が困難となる場合がある。この場合には、インクタンク内にインクが残っているにも拘わらず、吐出口からインクを吐出できなくなることもある。
【0026】
また、このようなインクタンク内のインクの負圧は、単位時間当たりに記録ヘッドから吐出されるインク量によっても変化する。すなわち、単位時間当たりに吐出されるインク量を多く設定すると、インクの動的負圧が増大する方向に変化し、記録ヘッド内のインクはインクタンク側に強く引っ張られるようになる。一方、単位時間当たりに吐出されるインク量を少なく設定すると、インクの動的負圧は減少する方向へと変化する。
【0027】
図16は、単位時間当たりに吐出されるインク量(吐出周波数)を変化させた際の、インク残量とインク負圧との関係を説明するための説明図である。本例の場合、インク残量が10gの時点において、記録ヘッドからインクを吐出していないときのインクの初期負圧は−1kPaである。また、吐出口へのインク供給が不可能となるインクの負圧は−7kPaである。
【0028】
600ノズルから吐出周波数12kHzで連続してインクを吐出した場合、インクの吐出による動的負圧が大きく掛かり、インク残量が10gの時点でもインクの負圧が−3kPaとなる。そして、インク残量が3gとなった時点でインクの負圧が−7kPaとなるため、インク残量が3g未満となったときには吐出口へのインク供給が不可能となり、吐出口からインク吐出を行うことができなくなる。一方、600ノズルから吐出周波数1kHzで連続してインクを吐出した場合は、インク残量が10gの時点のインクの負圧が−1kPaとなり、インク残量が1gの時点においてインクの負圧が−7kPaとなる。したがって、吐出周波数が1kHzの場合には、インク残量が1gとなるまで吐出口からインクを吐出することができる。
【0029】
したがって、吐出周波数を12kHzとしたときに使用可能なインク量は7g(=10g−3g)となり、吐出周波数を1kHzとしたときに使用可能なインク量は9g(=10g−1g)となる。なお、このような吐出周波数とインクの使用可能量との関係は、インク流路や吐出口の構造等によってその値が変化するが、その値によらず本発明は適用可能である。また、上記の説明では、吐出周波数を異ならせた場合の、インク残量とインク負圧との関係を示したが、マルチパス記録において記録パス数を異ならせた場合も同様の関係となる。
【0030】
図5は、本実施形態におけるインク残量の推定方法を含めた記録動作を示すフローチャートである。記録ヘッド100、101に供給されるインクのそれぞれに関しては、このフローチャートにしたがって同じように管理される。以下においては、記録ヘッド101に供給されるシアンインクの場合を代表して説明する。
【0031】
記録装置が記録データを受信すると、ステップS501においてインク残量推定制御1を行う。インク残量推定制御1のフローの詳細を図6に示す。インク残量推定制御1では、まず、ステップS601において、ダイオードセンサ208の出力に基づいてインク吐出前の記録ヘッド温度(Tb)を検出する。次に、ステップS602において、記録ヘッドの吐出周波数を24kHzに設定する。その後、ステップS603において、記録ヘッド101のシアンインク吐出用の600ノズルから、吐出周波数24kHzで1000発のインク滴を吐出する。そのインク滴は、予備吐出と同様にキャップ312内に吐出することができる。そして、そのインク吐出の終了後、ステップS604において、インク吐出後の記録ヘッド温度(Ta)を検出する。
【0032】
ここで、本実施形態におけるインク残量の推定方法の詳細について説明する。まず、図7に吐出周波数24kHzでインクを吐出した際の記録ヘッド温度の時間推移を示す。図7中の実線、点線、一点鎖線は、それぞれインク残量が10g、3g、1gのときの記録ヘッド温度の推移を示している。上記のような1000発のインク滴の吐出を記録ヘッド温度が25℃の状態から開始した場合、インク残量が10g、3g、1gのときでは、インク吐出後の記録ヘッド温度はそれぞれ45℃、55℃、60℃となる。これは、インク残量が減少すると、インクに付与される負圧が増大してインクが吐出口に供給されにくくなるためである。つまり、インクが吐出口に供給されにくくなって、吐出されるインク量(実際に消費されたインク量)が減少するために、ヒータからのエネルギーが記録ヘッドに蓄積されやすくなり、結果として記録ヘッド温度は高くなる。よって、同じ吐出周波数で同じ数のインク滴を吐出した場合でも、インク残量の減少に伴ってインク吐出後の記録ヘッド温度は高くなる傾向にある。
【0033】
そこで、本例では、上述したインク残量の減少に伴って生じる記録ヘッドまたはインクタンク内のインクに付与される負圧の変化を利用して、インク残量を推定する。より具体的には、インク残量の減少に伴って、インク吐出前後の記録ヘッド温度の差が大きくなることを利用して、インク残量を推定するものである。
【0034】
本例の記録ヘッド101は、インク残量が3g以上のときには、記録ヘッドを吐出周波数12kHzで駆動する限り、A4サイズ版の1ページの記録媒体に対して、どのような記録パターンであってもかすれることなく記録することができる。一方、インク残量が3gに満たないときには、記録される画像がかすれて、画像品位が損なわれるおそれがある。つまり、インク残量推定後に、1ページの記録媒体に対して画像品位を損なわずに記録を行うために必要なインク残量は、3gである。そこで本例では、インク吐出前の記録ヘッド温度(Tb)とインク吐出後の記録ヘッド温度(Ta)との差に基づいて、インク残量が当初の10gから3gへと変化したことを判断する。
【0035】
ここで、インク残量が当初の10gから3gへと変化したことを判断するためには、所定温度においてインク吐出を行った場合に、インク残量が10gのときと3gのときとでインク吐出後の記録ヘッド温度(Ta)に所定以上の温度差が生じることが必要である。本例では、ダイオードセンサ208の温度検出の誤差等を含めて、記録ヘッド温度(Ta)に10℃の温度差があれば、インク残量を判断することができる。なお、本例のように記録開始前にインク残量の推定制御を実施する場合、記録ヘッド温度は凡そ室温(25℃)であることから、25℃においてインク吐出を行った後の記録ヘッド温度(Ta)に10℃の温度差が必要である。図7を参照すると、室温(25℃)において1000発のインク吐出を行った後の記録ヘッド温度(Ta)は、インク残量が10gのときは45℃、3gのときは55℃であり、温度差が10℃(=55℃−45℃)となる。そのため、本例のインク残量推定制御1では、上記ステップS603でインク吐出の設定量として1000発を設定している。
【0036】
したがって、図7中の点線で示すように、インク残量3gで1000発のインク吐出を行った際の、記録ヘッド温度(Tb=25℃)と(Ta=55℃)との温度差30℃を基準にして、インク残量が3g以上あるか否かを判断することが可能となる。すなわち、ステップS601およびS604で検出した記録ヘッド温度(Tb)と(Ta)との間の差が30℃未満のときには、インク残量が3g以上であると判断することができる。
【0037】
このような記録ヘッド温度とインク残量との関係に基づき、ステップS605では、インク吐出後の記録ヘッド温度(Ta)と、インク吐出前の記録ヘッド温度(Tb)と、の差を計算して、その計算結果が30℃未満であるか否かを判定する。その計算結果が30℃未満のときには、インク残量が3g以上であると判断する(ステップS606)。一方、計算結果が30℃以上のときには、インク残量が3g未満であると判断する(ステップS607)。
【0038】
ここで再び図5に戻り、ステップS502において、先のステップS606またS607の判断結果に基づいて、次の1ページの記録媒体に記録できるだけのインクが残っているか否かを判定する。
【0039】
すなわち、インク残量が先のステップS606において3g以上であると判断された場合には、次の1ページの記録ができるだけのインクが残っていると判定して、ステップS503に移行する。そして、ステップS503において記録ヘッドの吐出周波数を12kHzに設定してから、ステップS504において次の1ページ分の記録を行う。その1ページ分の記録を行った後は、ステップS505において、次のページの記録があるか否かを判定し、次のページの記録データがある場合にはステップS501に戻って、上述した一連のフローを繰り返す。一方、次のページの記録データが無い場合には記録を終了する。
【0040】
先のステップS502において、インク残量が3g未満であると判断された場合には、次の1ページの記録ができるだけのインクが残っていないと判定して、ステップS506に移行する。そのステップS506においては、インクが無いことをホスト装置に通知して、インクが無いことをユーザにディスプレイなどを利用して知らせる。それから、次のステップS507において、まだ記録を行っていないページ分の記録データをRAMに記憶して、記録を終了する。
【0041】
図8は、本実施形態に対する比較例を説明するための図である。この比較例におけるインク残量推定制御では、図6中のステップS602にて、記録ヘッドの吐出周波数を24kHzではなく12kHzに設定してから、次のステップS603でインクを1000発吐出させた。図8は、このようにインクを吐出した場合における記録ヘッド温度の時間推移を示す。
【0042】
この比較例の場合、1000発のインク吐出後の記録ヘッド温度(Ta)は、インク残量が10gまたは3gのいずれのときにも同じ38℃となり、それらの記録ヘッド温度に差がない。そのため、インク残量が10gか3gかの判断をヘッド温度差に基づいて行うことができない。つまり、上述した本実施形態のように、次の1ページの記録媒体に記録が可能なだけのインク残量があるか否かの判定をすることができない。仮に、本実施形態と同様に、インク残量が10gと3gのときとの間に、10℃の温度差を生じさせるためには、吐出周波数12kHzの場合、インク吐出設定量を2000発とし、2000発のインク吐出後の記録ヘッド温度(Ta’’)を使用する必要がある。
【0043】
つまり、このような比較例との対比から明らかなように、本実施形態においては、インク残量推定時の吐出周波数を、記録時の吐出周波数の12kHzよりも高い24kHzに設定することにより、より少ないインク消費量でインク残量が判断できることになる。
【0044】
以上のように、本実施形態においては、通常の記録時よりも吐出周波数を高めてインク残量を推定することにより、少ないインク消費量でも、次の記録を行えるだけのインク残量を推定することが可能となった。
【0045】
さらに、本実施形態においては、1ページ単位で記録が可能なインク残量があるか否かを判定したが、これに限らず、数スキャンや数ページ単位でインク残量を判定してもよい。
【0046】
(第2の実施形態)
上述した第1の実施形態では、インク残量推定時の吐出周波数を記録時よりも高く設定することによって、インク残量推定時のインク消費量を抑制することができた。しかし、インク残量が充分に存在する新品の記録ヘッド(インクが満充填されたインクタンクを含む記録ヘッド)を搭載したときから、記録データを受信する度にインク吐出を伴うインク残量推定を行った場合には、それに伴って消費されるインク量が多くなる。さらに、インク残量推定後の記録時の記録条件については、インク残量推定時のインク消費量の抑制という観点から、その記録条件を考慮するようなことはしていなかった。そこで、以上のことを踏まえ、本発明の第2の実施形態では、インク残量推定によるインク消費量をより抑制することを目的とする。
【0047】
図9は、第2の実施形態におけるインク残量の推定方法を含めた記録動作を説明するためのフローチャートである。記録ヘッド100、101に供給されるインクのそれぞれに関しては、このフローチャートにしたがって同じように管理される。以下においては、記録ヘッド101に供給されるシアンインクの場合を代表して説明する。
【0048】
記録装置が記録データを受信すると、ステップS901において、インク残量が充分であるか否か(本例では、インク残量が5g以上か否か)を判断する。ここでのインク残量の判断には、それほど高い推定精度を必要としない。そこで、本例では、これまでのインク吐出回数に基づいてインク消費量を計算し、その消費量をインクタンク内の初期のインク量から減算することによってインク残量を求め、そのインク残量が5g未満であるか否かを判断している。インク残量が5g以上である場合には、ステップS908にて吐出周波数を12kHzに設定し、その後、ステップS909にて記録モードを1パス記録に設定してから、S906にて1ページ分の記録を開始する。インク残量が5g未満の場合には、ステップS902にてインク残量推定制御2を行う。先のステップS901は、このステップS902とは異なる方法(第2の推定手段)によって、インク残量を推定することになる。
【0049】
そのインク残量推定制御2のフローの詳細を図10に示す。
【0050】
インク残量推定制御2におけるステップS1001からS1007は、前述した第1の実施形態のインク残量推定制御1におけるステップS601からS607に対応するが、次の3つの点においてインク残量推定制御1と異なる。すなわち、インク残量推定制御1のステップS603においては、インクの吐出設定量が1000発であったが、ステップS1003ではインクの吐出設定量が500発となっている。また、インク残量推定制御1のステップS605においては、記録ヘッド温度の差(Ta−Tb)が30℃未満であるか否かを判定しているが、ステップS1005では、記録ヘッド温度の差(Ta′−Tb)が22℃未満であるか否かを判定している。また、インク残量推定制御1のステップS606、S607においては、インク残量が3g以上であるか否かを判断していたが、S1006、S1007では、インク残量が1g以上であるか否かを判断している。
【0051】
本実施形態における記録ヘッド101は、インク残量が1g以上のときは、12kHzの吐出周波数で駆動して12パス記録を行う限り、どのような記録パターンであってもA4サイズ版の1ページをかすれることなく記録できる。これは、図16を用いて既に説明したように、単位時間当たりに吐出されるインク量としてマルチパス記録の記録パス数を異ならせることによって、インク残量とインク負圧との関係が変化するからである。なお、12パス記録というのは、所定領域の画像を記録ヘッドの12回の記録走査によって完成させる記録方法である。このような記録条件の下において、記録ヘッド101のインク残量が1g未満のときには、画像品位が損なわれるおそれがある。そこで、インク残量推定制御2においては、インク吐出前後の記録ヘッドの温度差に基づいて、インク残量が当初の10gから1gへと変化したか否かを判断する。
【0052】
上記実施例で説明したとおり、インク残量が当初の10gから1gへと変化したことを判断するためには、インク残量が10gのときと1gのときとでインク吐出後の記録ヘッド温度(Ta)に所定以上の温度差が生じることが必要である。本例の場合、ダイオードセンサ208の温度検出の誤差等を含めて、インク残量が10gのときと1gのときとでインク吐出後の記録ヘッド温度(Ta)に少なくとも10℃の温度差が必要である。本例の場合、図7のように500発のインク吐出を行った後の記録ヘッド温度(Ta′)は、インク残量が10gのときは37℃、1gのときは47℃となり、それらの温度差は10℃(=47℃−37℃)となる。そのため、本例のインク残量推定制御2では、ステップ1003で500発のインク吐出を行うようにしている。なお、第1の実施形態よりも少ないインク吐出設定数になる理由は、インク残量が3gよりも少なければ吐出口に対してインクが供給されにくくなるため、少ないインク吐出設定数でも所定以上の温度差が得られるからである。
【0053】
したがって、図7中の二点鎖線のように記録ヘッド温度(Tb=25℃)と(Ta′=47℃)との間の差22℃を基準にして、インク残量が1g以上であるか否かを判断することができる。なお、インク残量推定制御2における他の動作は、インク残量推定制御1と同じであるため説明は省略する。
【0054】
ここで再び図9に戻り、ステップS903において、先のステップS1006またS1007の判断結果に基づいて、次の1ページの記録媒体に記録できるだけのインクが残っているか否かを判定する。
【0055】
すなわち、インク残量が先のステップS1006において1g以上であると判断された場合には、次の1ページの記録ができるだけのインクが残っていると判定して、ステップS904に移行する。そして、そのステップS904において記録ヘッドの吐出周波数を12kHzに設定した後、ステップS905において記録モードを12パス記録に設定してから、ステップS906において次の1ページ分の記録を行う。その1ページ分の記録を行った後は、ステップS907において、次のページの記録があるか否かを判断し、次のページの記録データがある場合にはステップS901に戻って、上述した一連のフローを繰り返す。一方、次のページの記録データが無い場合には記録を終了する。
【0056】
先のステップS1007において、インク残量が1g未満であると判断された場合には、次の1ページの記録ができるだけのインクが残っていないと判定して、ステップS910に移行する。そのステップS910においては、インクが無いことをホスト装置に通知して、インクが無いことをユーザにディスプレイなどを利用して知らせる。それから、次のステップS911において、まだ記録を行っていないページ分の記録データをRAMに記憶して、記録を終了する。
【0057】
本実施形態においては、インク残量が充分にあると判断できる場合、つまりインク残量が5g未満になるまでは、インクの吐出を伴うインク残量推定制御を行わないため、インクの消費量を抑えることができる。また、インク残量が5g未満になり、インク吐出を伴うインク残量推定制御を行う際には、インク残量推定後の記録時の記録条件として、記録モードを12パス記録モードに変更するようにした。これにより、インク残量が1gになるまで記録を行うことができるようになり、インクタンク内のインクをより無駄なく使用することができる。さらに、インク残量推定制御2では、インク残量が1g以上あるか否かを判断するようになったことで、インク吐出設定量を第1の実施形態における1000発から500発にまで抑えることができた。
【0058】
つまり、インク吐出を伴うインク残量推定時に記録パス数を多くすることによって、より少ないインク残量までインクタンク内のインクを使用できるとともに、少ないインク吐出設定量でも高精度にインク残量を推定することが可能となった。
【0059】
本実施形態では、基準値を5gとし、インク残量がその基準値未満のときに、インク吐出を利用してインク量推定した。その際、インク吐出を利用することなく、基準値までのインク残量を推定する方法としては、それまでのインク吐出回数から推定する方法に特定されるものではない。例えば、インクタンクにプリズムを設けて光学的な情報を取得するインク残量推定方法など、種々の方法を用いることもできる。
【0060】
(第3の実施形態)
前述した第1、第2の実施形態では、インク残量推定時には、次のページの記録データ量や記録媒体のサイズなどによらず、所定のインク残量があるか否かを判断するようになっていた。そのため、12kHzで記録ヘッドを駆動する限り、どのような記録パターンであってもA4サイズ版1ページの記録媒体にかすれることなく記録できるインク残量、つまり1g以上のインク残量がなければインク残量なしと判断している。なお、A4サイズ版は、本実施形態の記録装置において記録可能な記録媒体の最大サイズである。
【0061】
しかしながら、次のページの記録データ量がわずかであったり、記録媒体のサイズが小さかったりした場合には、記録に使用するインク量が少ないため、次の1ページを記録できるだけのインク残量があるか否かを判断する基準は少なくてもよい。
【0062】
さらには、次のページを記録する際の単位時間当たりに吐出されるインク量(例えば、記録パス数)によっても、インク残量の判断基準は異なる。すなわち、単位時間当たりに吐出されるインク量が少なければ、インクの動的負圧は減少する方向へ変化するため、上記インク残量の判断基準は少なくてよい。
【0063】
このように、インク残量の判断基準を少なくした場合には、第2の実施形態でも説明したように、インク残量推定制御のインク吐出設定量を少なく設定することが可能となる。以上のことを踏まえ、第3の実施形態では、次ページの記録における使用インク量及び単位時間当たりに吐出されるのインク量に応じたインク残量推定を行うことによって、インク残量推定時のインク消費量を抑制することを目的とする。
【0064】
図11は、第3の実施形態におけるインク残量の推定方法を含めた記録動作を説明するためのフローチャートである。記録ヘッド100、101に供給されるインクのそれぞれに関しては、このフローチャートにしたがって同じように管理される。以下においては、記録ヘッド101に供給されるシアンインクの場合を代表して説明する。
【0065】
図11中のステップS1101からS1111は、前述した第2の実施形態の図9中のステップ901から911に対応するが、次の2つの点において図9のフローチャートと異なる。すなわち、図9中のステップS902におけるインク残量推定制御2が、ステップS1102におけるインク残量推定制御3に置き換わっている。また、図9中のステップS905において12パス記録を設定する処理が、ステップS1105において記録モードを設定する処理に置き換わっている。ステップS1105においては、後述するように指定された記録モードを設定することになる。本例においては、設定可能な記録モードとして、1パス記録によってA4サイズの用紙に記録するモード、および12パス記録によって名刺サイズの用紙に記録するモードを含んでいる。
【0066】
図12に、インク残量推定制御3のフローの詳細を示す。
【0067】
まず、ステップS1201において、ダイオードセンサ208の出力に基づいてインク吐出前の記録ヘッド温度(Tb)を検出してから、ステップS1202において記録ヘッドの吐出周波数を24kHzに設定する。その後、ステップS1203において、次のページを記録するときの記録パス数と記録媒体のサイズとに基づいて、ROM301内の後述する図14の吐出数テーブルを参照し、そのテーブルによって指定された量のインクを吐出する。
【0068】
次のページを記録する際には、その記録のデータ量がわずかであったり、記録媒体のサイズが小さかったりする場合がある。このような場合には、記録に使用するインク量が少ないために、そのページの記録をかすれることなく確実に行えるだけのインク残量があるか否かの判断基準は少なくてもよい。また、次のページを記録する際の単位時間当たりに吐出されるインク量が少ない場合にも、インクの動的負圧が減少する方向へ変化するため、インク残量の判断基準は少なくてよい。
【0069】
図13は、記録パス数および記録媒体のサイズの各条件と、次の1ページの記録を確実に行うために必要なインク残量と、の関係の説明図である。
【0070】
同図に示すように、1パス記録によってA4サイズの用紙に記録を行う場合、インク残量が3g以上なければ、1ページの記録の途中からインクがかすれるおそれがある。また、A4サイズの用紙に12パス記録によって記録を行う場合には、インク残量が1g以上であれば、1ページをかすれることなく確実に記録することができる。
【0071】
第2の実施形態と同様に、次ページを確実に記録できるだけのインク残量があるか否かを判断するときの基準となるインク残量(以下、「判断基準インク残量」という)を少なくした場合には、インクの残量推定に必要なインクの吐出設定量を抑えることができる。
【0072】
本実施形態においても、インク残量が判断基準インク残量となったことを判断するには、当初のインク残量(10g)と判断基準インク残量とで、記録ヘッド温度(Ta)に10℃の温度差が必要となる。記録ヘッド温度(Ta)に10℃の温度差を得るには、判断基準インク残量を3gとした場合には、前述した第1の実施形態のように1000発のインク吐出が必要となる。また、判断基準インク残量を1gとした場合には、前述した第2の実施形態のように500発のインク吐出が必要となる。
【0073】
図13は、記録パス数および記録媒体サイズの条件毎の判断基準インク残量を示した図である。また、図14は、ROM301内の吐出数テーブルの説明図である。
【0074】
図14に示した吐出数テーブルは、前述したように、インク残量推定制御時に参照されるものであり、記録パス数および記録媒体サイズの条件毎に、判断基準インク残量が関係付けられている。例えば、次のページの記録として、1パス記録によってA4サイズの用紙に記録を行う場合、そのページの記録には3gのインク残量が必要なる(図13参照)。そして、その3gのインク残量があるか否かを判断するためには、1000発のインク吐出が必要となる(図14参照)。
【0075】
ここでは、次のページの記録例として、12パス記録によって名刺サイズの用紙に記録を行うモードの場合について説明する。この場合には、図12のステップS1203において、図14の吐出数テーブルを参照して対応するインク吐出設定量の440発を選択し、その440発のインク吐出を行う。そして、440発のインク吐出終了後、ステップS1204においてインク吐出後の記録ヘッド温度(Ta)を検出する。次に、ステップS1205において、インク吐出後の記録ヘッド温度(Ta)とインク吐出前の記録ヘッド温度(Tb)との差(Ta−Tb)を計算し、その結果と、後述する図15の温度判断テーブルから選択された値(判断温度)と、を比較する。そして、温度差(Ta−Tb)が温度判断テーブルから選択した判断温度に満たないときは、ステップS1206において、次のページの記録を行うことができるだけのインクが残っていると判断する。一方、温度差(Ta−Tb)が温度判断テーブルの判断温度以上のときには、ステップS1207において、次のページの記録を行えるだけのインクが残っていないと判断する。
【0076】
図15の温度判断テーブルは、ステップ1203において吐出したインク吐出数と、インク残量を推定するために実際の記録ヘッドの温度差(と比較する値(判断温度)と、を関連付けている。例えば、ステップS1203で1000発のインク吐出を行ってインク残量を推定する場合には、温度判断テーブルから選択される判断温度は30℃となる。また、500発のインク吐出を行ってインク残量を推定する場合に選択される判断温度は22℃となる。このように、本例においては、図15のような温度判断にテーブルを使用する。しかし、インク吐出数に応じてインク残量を推定するための温度差は、計算により導出してもよく、この場合にも同等の効果を得ることができる。
【0077】
本例の場合は、ステップS1203において440発のインク吐出を行っているため、図15の温度判断テーブルから対応する判断温度21℃が選択され、ステップS1205においては、記録ヘッドの温度差(Ta−Tb)が21℃未満であるか否かを判断する。温度差(Ta−Tb)が21℃未満のときには、ステップS1206において、インク残量が0.5g以上であって、次のページの記録が可能なインク残量があると判断する。一方、温度差(Ta−Tb)が21℃以上のときには、ステップS1207において、インク残量が0.5g未満であって、次のページの記録を行えるだけのインク残量がないと判断する。
【0078】
ここで再び図11に戻り、ステップS1103において、先のステップS1206またはS1207の判断結果を判定する。先のステップS1206において、1ページの記録が可能なインクが残っていると判断された場合には、ステップS1104において記録ヘッドの吐出周波数を12kHzに設定する。そして、ステップS1105において、記録モードとして12パス記録により名刺サイズの記録媒体に記録するモードを設定してから、ステップS1106において1ページ分の記録を行う。その1ページ分の記録を行った後は、ステップS1107において、次のページの記録があるか否かを判断する。そして、次のページの記録データがある場合には、ステップS1101に戻って上述した一連のフローを繰り返す。一方、次のページの記録データが無い場合には、記録を終了する。
【0079】
一方、先のS1207において、1ページの記録が可能なインクが残っていないと判断された場合には、ステップS1110において、インクが無いことをホスト装置に通知して、インクが無いことをユーザにディスプレイなどを利用して知らせる。それから、次のステップS1111において、まだ記録を行っていないページ分の記録データをRAMに記憶して、記録を終了する。
【0080】
本実施形態においては、12パス記録のように単位時間当たりのインク吐出量が少ない記録モードにおいて、名刺サイズのような小サイズの記録媒体に記録を行う場合、インクの残量推定に必要なインクの吐出数を440発に抑制することができる。ただし、1パス記録によってA4サイズの記録媒体に記録を行う場合には、インクの残量推定のために1000発のインク吐出が必要となる。
【0081】
以上のように、本実施形態においては、次ページの記録における記録パス数及び記録媒体サイズに基づいて、インクの吐出設定量および判断温度を変更してインク残量の推定を行った。これにより、本実施形態によれば、インク残量推定時のインク消費量を抑制することが可能となった。
【0082】
本実施形態のインク残量推定方法では、記録パス数と記録媒体のサイズとに基づいて判断基準インク残量を取得するように構成した。しかしながら、次ページの記録における使用インク量及び単位時間当たりに吐出されるインク量に応じたインク残量推定を行う場合、この構成に限定されるものではない。例えば、記録データ量やインクの最大打ち込み量を基に、次ページの使用インク量に合わせて判断基準インク残量を変更して、インク残量推定を行うようにしてもよい。
【0083】
また、本実施形態においては、記録パス数と記録媒体のサイズに基づいて、次ページの記録における使用インク量及び単位時間当たりのインク吐出量に合わせたインク残量の推定を行うようにした。しかし、このようなインク残量の推定は、記録パス数と記録媒体のサイズの他、次の所定単位の記録動作に関連する種々の情報に基づいて行うことができる。つまり、インクの最大打ち込み量、記録パス数、インクの吐出に使用する吐出口の数、記録データの間引きの程度、記録媒体のサイズ、記録データ量などに基づいて、行うことができる。また、これらの情報の1つを用いる他、それらの情報を複数組み合わせて用いてもよい。
【0084】
また、本実施形態において、次のページの記録における記録バス数と記録媒体とのサイズを取得するタイミングは、ステップS1203により吐出テーブルを参照する前のタイミングであればよく、そのタイミングが限定されるものではない。
【0085】
(第4の実施形態)
前述の実施形態では、記録ヘッドの温度が25℃の状態でインク吐出を開始したときには、ダイオードセンサの温度検出誤差等も含めて、当初のインク残量(10g)と判断基準となるインク残量との間で、記録ヘッド温度(Ta)に10℃の温度差が必要である。しかし、この10℃という温度差は、記録ヘッドの昇温特性やダイオードセンサの温度読取精度に個体間バラツキが生じることを考慮して、多めに見積もった数値である。
【0086】
そこで、本実施形態では、確実にインクがあると判断できる状態で、記録ヘッド固有の温度特性を測定する。これにより、記録ヘッド温度(Ta)が少ない温度差であってもインク残量を判断することが可能となるので、インク残量推定制御におけるインク消費量を低減することができる。
【0087】
図17は、第4の実施形態において、記録ヘッドのインク残量推定方法を含めた記録動作の概略を示すフローチャートである。本フローチャートにおいても、記録ヘッド100、101の両方に対して同じ制御を行うが、ここでは記録ヘッド101におけるシアンインクの場合を代表して説明する。本実施形態における記録装置が記録データを受信すると、S1701で、インク残量が3.5g未満であるかを判断する。ここでのインク残量の判断はそれほど高い精度は必要なく、吐出されるインク量の理論値とこれまでにインク吐出を行った回数からインク消費量を計算し(以下、ドットカウント制御)、インク残量が3.5g未満であるかを判断する。この3.5gという値は、これまでのインク使用量の理論値の最大公差を考慮しても1パス記録でA4サイズ1頁分の記録が行えるインクがあると判断できる最低量に、次記録に必要な最大インク量と次記録時の回復制御に必要なインク量を加味した値である。なお、これまでのインク使用量の理論値とは、1ノズルから吐出されるインク量と回復制御に必要なインク量との理論値に相当する。S1701でインク残量が3.5g以上存在する場合は、S1702において1パス記録に設定し、S1703で1ページ分を記録する。1ページの記録が終了すると、S1704で次ページの記録が無いかどうか判断し、記録が無い場合は記録を終了、記録が有る場合は再びS1701に移る。一方、S1701でインク残量が3.5g未満と判断すると、S1705で12パス記録に設定し、S1706で1ページ分を記録する。記録パス数を12パスに設定する理由は、第2の実施形態ですでに説明した通りである。1ページの記録が終了すると、S1707でインク残量が2g未満であるかどうかを判断する。この2gという値は、これまでのインク使用量の最大公差を考慮しても、12パス記録でA4サイズ1ページ分の記録が行えるインクが残っていると判断できる最低量に、次のようなインク量を加味した値である。その加味した値とは、次記録に必要な最大インク量、次記録の回復制御に必要なインク量、および後述するヘッド昇温参考値取得制御に必要なインク量である。このS1707において、インク残量が2g以上ある場合は、S1704に移って、次ページ記録の有無を判断する。一方、インク残量が2g未満の場合は、S1708でヘッド昇温参考値が既に取得されているかどうかを判断する。ここで、ヘッド昇温参考値を取得が取得されていない場合は、ヘッド昇温参考値を取得するために、S1709に移りヘッド昇温参考値取得制御を実施する。
【0088】
ヘッド昇温参考値取得制御の詳細を図18に示す。ヘッド昇温参考値取得制御では、まずS1801においてダイオードセンサ208の出力に基づき、インク吐出前の記録ヘッド温度(Tb)を検出する。次にS1802においてヒータ212に印加する駆動パルスをPWM4に設定する。
【0089】
ここで、PWM制御について説明する。通常、同一の駆動パルスでヒータ駆動を行うと、インク特性により低温環境の方が高温環境よりも1ノズルから吐出されるインクの吐出量が小さくなる。また一方で、ヒータにパルスを複数回に分割して印加する場合、先に印加したパルス幅を長くすることでインク吐出量が増大することが知られている(例えば、特開平7−32355)。そこで本例では、図19(a),(b)に示すように、18℃未満の低温環境ではプレパルス幅の長いPWM4、逆に28℃以上の高温環境ではプレパルス幅の短いPWM1、というように駆動パルスを選択してヒータ駆動を行う。これにより、記録環境によらずインク吐出量が一定となるように記録を行っている。
【0090】
しかしながら、インク残量推定制御に関しては、ヘッド昇温参考値を取得する時と実際にインク残量の推定を行う時とで環境温度が異なる場合があり、参考値として取得したヘッド昇温特性に駆動パルス分のずれが生じる可能性がある。また、本例のインク残量推定では、単位時間あたりに吐出されるインク量を記録時よりも多くなるように設定している。これらの理由により、S1802では駆動パルスをPWM4に設定している。
【0091】
駆動パルスの設定が終わると、S1803において記録ヘッド101のシアンインクの600ノズルから800発の吐出を行い、S1804でインク吐出後の記録ヘッド温度(Ta)を検出する。インク吐出前後のヘッド温度を検出した後は、S1805において、(Ta−Tb)の値をインク残量が充分にある時のヘッド昇温参考値dTrefとしてRAM302に記憶する。また、ヘッド昇温参考値取得制御を行ったときの環境温度envTrefも同じくRAM302に記憶する。環境温度を記憶しているのは、環境温度によってヘッド昇温特性が変わることに対応するためであり、後のインク残量推定時の補正パラメータとして利用する。
【0092】
図17に戻って説明を続けると、ヘッド昇温参考値取得後はS1704に移って、次ページ記録の有無を判断する。次の記録でS1701、S1705、S1706、S1707を経てS1708に至ると、ヘッド昇温参考値は取得済みのためS1710に移り、インク残量が1.5g未満であるかどうかを判断する。この1.5gという値は、これまでのインク使用量の理論値の最大公差を考慮しても、12パス記録でA4サイズ1ページ分の記録が行えるインクが残っていると判断できる最低量である。一方、S1710において、インク残量が1.5g以上の場合は、S1704に移って次ページ記録の有無を判断する。一方、S1710でインク残量が1.5g未満と判断された場合は、1ページ分の記録を行えるだけのインク量が残っていない可能性があるため、S1711に移ってインク残量推定制御4を実施する。
【0093】
インク残量推定制御4の詳細を図20に示す。ヒータの駆動動作については、前記ヘッド昇温参考値取得制御と同じであるが、順に説明すると、S2001においてダイオードセンサ208の出力に基づきインク吐出前の記録ヘッド温度(Tb)を検出する。次にS2002において、駆動パルスをPWM4に設定する。パルス設定後はS2003において記録ヘッド101のシアンインク600ノズルから800発の吐出を行い、インク吐出終了後のS2004でインク吐出後の記録ヘッド温度(Ta)を検出する。インク吐出前後のヘッド温度を算出した後は、S2005において(Ta−Tb)をヘッド昇温値dTとして、またこのときの環境温度envTとして取得する。
【0094】
これらのパラメータを取得した後にインク残量を判断するが、まずS2006において、ヘッド昇温参考値取得制御を実施したときとインク残量推定制御4を実施したときの環境温度変化によるヘッド昇温特性の変化分を補正するパラメータを算出する。環境温度補正値(envTcal)は、ヘッド昇温参考値取得制御を行ったときの環境温度(envTref)からインク残量推定制御4を行ったときの環境温度(envT)を減算した値に、定数Cenvを掛けて算出する。図21は、インクタンク内にインクが充分に存在する状態で、吐出周波数12kHzで800発のインク吐出をしたときのヘッド昇温値(dT)を、環境温度ごとに測定した結果である。図21に示すように、定数Cenvは環境温度に対するヘッド昇温特性の傾きから導かれる値であり、本例では、その値は0.2となる。
【0095】
環境温度補正値導出後のS2007において、インク残量推定制御4を実施したときのヘッド昇温値(dT)が、ヘッド昇温参考値(dTref)に環境温度補正値(envTcal)とインク有無判定値(dTjdg)を加算した値よりも大きいか否かを判断する。このインク有無判定値とは、インク残量の有無を判断するのに必要な記録ヘッド温度(Ta)の温度差のことであり、第1の実施形態では10℃であった。しかしながら、本例では、ヘッド昇温参考値取得しているため、記録ヘッドの昇温特性やダイオードセンサに個体間バラツキを考慮して高めの温度差にする必要はないので、インク有無判定値(dTjdg)は10℃よりも少ない温度に設定できる。ここでは、テスト回数バラツキを考慮した値として5℃とする。これにより、ヘッド昇温値(dT)と比較する温度をより低く設定することが出来るので、インク残量推定制御におけるインク使用量を少なくすることが可能となる。
【0096】
インク残量検知制御4を行ったときのヘッド昇温値(dT)が上記3値を加算した値よりも小さいときは、S2008に移って1ページ記録できるだけのインクが残っていると判断する。一方、ヘッド昇温値(dT)が上記3値を加算した値よりも大きいときはS2009に移って1ページ記録できるだけのインクが残っていないと判断する。
【0097】
ここで再び図17に戻り、S1712においてインク残量推定制御4の判断結果をもとに、1ページ記録できるだけのインクが残っている場合はS1704移って次ページ記録の有無を判断する。1ページ記録できるだけのインクが残っていないと判断した場合は、S1713に移り、ユーザにインク残量がないことをホストを通じてディスプレイ上に通知し、S1714でまだ記録を行っていない現在のページ以降の記録データをRAMに記憶し記録を終了する。
【0098】
本実施形態においては、確実にインクがあると判断できる状態で、記録ヘッド固有の昇温特性を測定することにより、インク吐出後の記録ヘッド温度(Ta)の温度差をより少ない温度差とすることが可能となった。これにより、インク残量推定制御におけるインク使用量を低減することが可能となった。具体的に説明すると、図22は吐出周波数12kHzでヒータを駆動したときの記録ヘッド温度の推移を示している。12パス記録でA4サイズ1ページ分の記録が行えるインクが残っていると判断できるインク残量は1gである。そのため、インク残量推定時のインク吐出発数は、インク有無判定値を10℃に設定していたときは1000発であったのに対し、本例では800発にまで抑えることが可能となった。
【0099】
以上より、本実施形態によれば、インク消費量を抑えるとともに、高精度にインク残量を推定することが可能となった。なお、本実施形態では、記録時、インク残量推定時ともにインク吐出周波数を12kHzで固定したが、インク残量推定時の周波数を12kHzよりも上げることによりインク残量推定に必要なインク量をさらに低減することが可能である。
【0100】
(他の実施形態)
本発明を適用可能なインクジェット記録装置は、上述したような所謂シリアルスキャンタイプのみに限定されず、所謂フルラインタイプなどであってもよい。要は、インクタンク吐出口に供給可能なインク供給可能量の変化に応じて、記録ヘッドまたはインクタンクの状態変化(インクを吐出させた際のインク吐出量の変化)が生じる記録装置であれば記録方式に限定されるものではない。
【0101】
さらに、インク残量を推定ためのインク吐出において、単位時間当たりに吐出されるインク量を記録時よりも多くする方法は、上述したインクの吐出周波数を高める方法のみに特定されない。例えば、インクの吐出に使用する吐出口の数を増加させる方法であってもよい。また、吐出周波数を高める方法と、吐出口の数を増加させる方法と、を組み合わせて用いてもよい。
【符号の説明】
【0102】
100、101 記録ヘッド
102 吐出口
106 キャリッジ
202,203,204 インクタンク室
300 CPU
301 ROM
302 RAM
314 ヘッド温度制御回路
315 サーミスタ
P 記録媒体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクタンクから供給されるインクを複数の吐出口から吐出して記録媒体に記録を行う記録ヘッドと、
前記記録ヘッドから所定回数のインク吐出を行った前後の記録ヘッドの温度差と比較温度とを比較することで、前記インクタンク内のインク残量が所定量以上か否かを判断する判断手段と、を有する記録装置であって、
前記インクタンクにインク残量が十分にある基準タイミングで取得した、前記記録ヘッドから前記所定回数と同じ回数のインク吐出を行った前後の前記記録ヘッドの基準温度差と、その際の前記記録装置の基準環境温度とを記憶しておく記憶手段と、
前記基準温度差、前記基準環境温度、およびインク残量を判断する際の温度差を取得する際の環境温度に基づいて、前記比較温度を設定する設定手段と、を有することを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記インクタンクのインク残量の減少に伴って、前記記録ヘッドから吐出されるインク滴の量が減少することを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記インクタンクのインク残量の減少に伴って、前記インクタンクから前記記録ヘッドにインクが供給されにくくなることを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項4】
前記判断手段は、前記温度差が前記比較温度より高い場合に、前記インク残量が所定量以上であると判断することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項5】
前記所定量とは、少なくとも1ページの記録媒体に記録が行える量であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項6】
前記複数の吐出口のそれぞれには、当該吐出口からインクを吐出するために用いられる熱を発生する発熱素子が設けられていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項7】
前記設定手段は、前記基準環境温度と、前記温度差を取得する際の環境温度と、の差に基づいて補正温度を求め、前記基準温度差に前記補正温度を加算した値に基づいて前記比較温度を設定することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項8】
前記記録ヘッドから吐出されるインクの吐出回数に基づいて前記インクタンクのインク残量を見積もる見積もり手段をさらに有し、
前記判断手段は、前記見積もり手段で見積もられた前記インク残量が基準値よりも少ない場合に、前記インク残量が前記所定量以上か否かを判断することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項9】
インクタンクから供給されるインクを複数の吐出口から吐出して記録媒体に記録を行う記録ヘッドを備えた記録装置の制御方法であって、
前記インクタンクにインク残量が十分にある基準タイミングで取得した、前記記録ヘッドから所定回数のインク吐出を行った前後の前記記録ヘッドの基準温度差と、当該基準タイミングにおける基準環境温度とを記憶手段から取得する工程、
前記基準温度変化、前記基準環境温度、及び現在の環境温度に基づいて前記比較温度を設定する工程と、
前記記録ヘッドから前記所定回数と同じ回数のインク吐出を行った前後の前記記録ヘッドの温度差を取得する工程と、
取得された前記温度差と前記比較温度とを比較することで、前記インクタンク内のインク残量が所定量以上か否かを判断する工程と、
を有することを特徴とする記録装置の制御方法。
【請求項10】
前記インクタンクのインク残量の減少に伴って、前記記録ヘッドから吐出されるインク滴の量が減少することを特徴とする請求項9に記載の記録装置の制御方法。
【請求項11】
前記インクタンクのインク残量の減少に伴って、前記インクタンクから前記記録ヘッドにインクが供給されにくくなることを特徴とする請求項9に記載の記録装置の制御方法。
【請求項12】
前記判断する工程は、前記温度差が前記比較温度より高い場合に、前記インク残量が前記所定量以上であると判断することを特徴とする請求項9乃至11のいずれか1項に記載の記録装置の制御方法
【請求項13】
前記所定量とは、少なくとも1ページの記録媒体に記録が行える量であることを特徴とする請求項9乃至12のいずれか1項に記載の記録装置の制御方法。
【請求項14】
前記複数の吐出口のそれぞれには、当該吐出口からインクを吐出するために用いられる熱を発生する発熱素子が設けられていることを特徴とする請求項9乃至13のいずれか1項に記載の記録装置の制御方法。
【請求項15】
前記設定する工程は、前記基準環境温度と現在の環境温度の差に基づいて補正温度を求め、前記基準温度差に前記補正温度を加算した値に基づいて前記比較温度を設定することを特徴とする請求項9乃至14のいずれか1項に記載の記録装置の制御方法。
【請求項16】
前記記録ヘッドから吐出されるインクの吐出回数に基づいて前記インクタンクのインク残量を見積もる工程をさらに有し、
前記判断する工程は、前記見積もり工程で見積もられた前記インク残量が基準値よりも少ない場合に、前記インク残量が前記所定量以上か否かを判断することを特徴とする請求項9乃至15のいずれか1項に記載の記録装置の制御方法。
【請求項1】
インクタンクから供給されるインクを複数の吐出口から吐出して記録媒体に記録を行う記録ヘッドと、
前記記録ヘッドから所定回数のインク吐出を行った前後の記録ヘッドの温度差と比較温度とを比較することで、前記インクタンク内のインク残量が所定量以上か否かを判断する判断手段と、を有する記録装置であって、
前記インクタンクにインク残量が十分にある基準タイミングで取得した、前記記録ヘッドから前記所定回数と同じ回数のインク吐出を行った前後の前記記録ヘッドの基準温度差と、その際の前記記録装置の基準環境温度とを記憶しておく記憶手段と、
前記基準温度差、前記基準環境温度、およびインク残量を判断する際の温度差を取得する際の環境温度に基づいて、前記比較温度を設定する設定手段と、を有することを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記インクタンクのインク残量の減少に伴って、前記記録ヘッドから吐出されるインク滴の量が減少することを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記インクタンクのインク残量の減少に伴って、前記インクタンクから前記記録ヘッドにインクが供給されにくくなることを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項4】
前記判断手段は、前記温度差が前記比較温度より高い場合に、前記インク残量が所定量以上であると判断することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項5】
前記所定量とは、少なくとも1ページの記録媒体に記録が行える量であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項6】
前記複数の吐出口のそれぞれには、当該吐出口からインクを吐出するために用いられる熱を発生する発熱素子が設けられていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項7】
前記設定手段は、前記基準環境温度と、前記温度差を取得する際の環境温度と、の差に基づいて補正温度を求め、前記基準温度差に前記補正温度を加算した値に基づいて前記比較温度を設定することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項8】
前記記録ヘッドから吐出されるインクの吐出回数に基づいて前記インクタンクのインク残量を見積もる見積もり手段をさらに有し、
前記判断手段は、前記見積もり手段で見積もられた前記インク残量が基準値よりも少ない場合に、前記インク残量が前記所定量以上か否かを判断することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項9】
インクタンクから供給されるインクを複数の吐出口から吐出して記録媒体に記録を行う記録ヘッドを備えた記録装置の制御方法であって、
前記インクタンクにインク残量が十分にある基準タイミングで取得した、前記記録ヘッドから所定回数のインク吐出を行った前後の前記記録ヘッドの基準温度差と、当該基準タイミングにおける基準環境温度とを記憶手段から取得する工程、
前記基準温度変化、前記基準環境温度、及び現在の環境温度に基づいて前記比較温度を設定する工程と、
前記記録ヘッドから前記所定回数と同じ回数のインク吐出を行った前後の前記記録ヘッドの温度差を取得する工程と、
取得された前記温度差と前記比較温度とを比較することで、前記インクタンク内のインク残量が所定量以上か否かを判断する工程と、
を有することを特徴とする記録装置の制御方法。
【請求項10】
前記インクタンクのインク残量の減少に伴って、前記記録ヘッドから吐出されるインク滴の量が減少することを特徴とする請求項9に記載の記録装置の制御方法。
【請求項11】
前記インクタンクのインク残量の減少に伴って、前記インクタンクから前記記録ヘッドにインクが供給されにくくなることを特徴とする請求項9に記載の記録装置の制御方法。
【請求項12】
前記判断する工程は、前記温度差が前記比較温度より高い場合に、前記インク残量が前記所定量以上であると判断することを特徴とする請求項9乃至11のいずれか1項に記載の記録装置の制御方法
【請求項13】
前記所定量とは、少なくとも1ページの記録媒体に記録が行える量であることを特徴とする請求項9乃至12のいずれか1項に記載の記録装置の制御方法。
【請求項14】
前記複数の吐出口のそれぞれには、当該吐出口からインクを吐出するために用いられる熱を発生する発熱素子が設けられていることを特徴とする請求項9乃至13のいずれか1項に記載の記録装置の制御方法。
【請求項15】
前記設定する工程は、前記基準環境温度と現在の環境温度の差に基づいて補正温度を求め、前記基準温度差に前記補正温度を加算した値に基づいて前記比較温度を設定することを特徴とする請求項9乃至14のいずれか1項に記載の記録装置の制御方法。
【請求項16】
前記記録ヘッドから吐出されるインクの吐出回数に基づいて前記インクタンクのインク残量を見積もる工程をさらに有し、
前記判断する工程は、前記見積もり工程で見積もられた前記インク残量が基準値よりも少ない場合に、前記インク残量が前記所定量以上か否かを判断することを特徴とする請求項9乃至15のいずれか1項に記載の記録装置の制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2013−18294(P2013−18294A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−241865(P2012−241865)
【出願日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【分割の表示】特願2008−116010(P2008−116010)の分割
【原出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【分割の表示】特願2008−116010(P2008−116010)の分割
【原出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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