説明

記録装置

【課題】 加熱プラテンを備えた記録装置において、被記録材の収縮に起因して記録精度が低下してしまう虞を低減させる。
【解決手段】 水分測定装置76は、加熱プラテン53に支持される前に粘着紙Pの基材FPの水分率を測定するための装置であり、例えば公知の水分計等を用いることができる。記録制御部100は、水分測定装置76により測定した粘着紙Pの基材FPの水分率に基づいて粘着紙Pに対する記録制御を変更する。加熱プラテン53に支持されたときの基材FPの収縮率に応じて適切な記録制御を実行することが可能になるので、粘着紙Pの基材FPの収縮に起因して記録精度が低下してしまう虞を低減させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱プラテンに支持される被記録材に記録ヘッドからインクを噴射して記録を実行する記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタ等の記録装置においては、記録ヘッドからインクを噴射する領域において被記録材を支持するプラテンを加熱する手段を備えた記録装置が公知である。例えば、常温では固形であり所定温度以上に加熱すると溶融する性質を有する熱溶融性固形インクを使用するインクジェットプリンタにおいては、被記録材の記録面に噴射されて固化したインクドットがプラテンの熱で再溶融するため、被記録材の記録面で隆起状に固化したインクドットを平坦にすることができる(例えば、特許文献1を参照)。他方、一般的な水性インク等を使用するインクジェットプリンタにおいては、被記録材に噴射したインクの乾燥による固化がプラテンの熱によって促進されるため、インクドットのにじみ等がより少ない高画質な記録を実現することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−138985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に被記録材は、数%程度の水分率で水分を含んでいることから、温度変化に対する伸縮性を有している。つまり被記録材は、温度が変化することによって水分率が変動すると、それによって収縮したり伸張したりする性質を有している。そのため、上記のような加熱手段により加熱されるプラテン(以下、「加熱プラテン」と言う。)を備えた記録装置において、加熱プラテンに支持された被記録材は、加熱されることで水分率が低下して収縮する。すなわち、加熱プラテンに支持された被記録材は記録実行中に徐々に収縮していくため、被記録材に対するインク着弾位置が本来着弾すべき位置から徐々にずれていってしまうこととなり、それによって記録精度が低下してしまう虞が生ずる。
【0005】
このような記録精度の低下を回避する方法としては、例えば、被記録材が加熱プラテンに支持された状態のまま記録をすぐには実行せずに、被記録材の収縮が安定するまで一定時間待ってから記録を開始することが考えられる。しかし、このような方法は、被記録材に記録を実行する度に長い待ち時間が不可欠になることから、記録装置のスループットが大幅に低下することになるため、現実的ではない。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑み成されたものであり、その課題は、加熱プラテンを備えた記録装置において、被記録材の収縮に起因して記録精度が低下してしまう虞を低減させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するため、本発明の第1の態様は、加熱プラテンに支持される被記録材に記録ヘッドからインクを噴射して記録を実行する記録実行手段と、前記記録実行手段を制御する制御装置と、を備えた記録装置において、前記加熱プラテンに支持される前の被記録材の水分率を測定するための水分測定装置を備え、前記制御装置は、前記水分測定装置により測定した被記録材の水分率に基づいて当該被記録材に対する記録制御を変更する、ことを特徴とした記録装置である。
【0008】
被記録材の収縮率は、例えば収縮前後の被記録材の寸法差を収縮前の被記録材の寸法で除算することにより得ることができる。加熱により水分率が低下したときの被記録材の収縮率は、多くの場合、常温時における水分率に比例する傾向がある。つまり被記録材は、常温時における水分率が高い程、大きな収縮が生じやすいことになる。すなわち、加熱プラテンで加熱されたときの被記録材の収縮率は、加熱プラテンに支持される前の常温時における被記録材の水分率から予測することが可能である。
【0009】
このようなことから本発明は、水分測定装置により測定した常温時における被記録材の水分率に基づいて当該被記録材に対する記録制御を変更することを特徴とする。それによって、加熱プラテンに支持されたときの被記録材の収縮率に応じて適切な記録制御を実行することが可能になる。したがって本発明によれば、加熱プラテンを備えた記録装置において、被記録材の収縮に起因して記録精度が低下してしまう虞を低減させることができるという作用効果が得られる。
【0010】
ここで、被記録材の水分率に基づく記録制御の変更とは、加熱プラテンで支持されたときの被記録材の収縮率を常温時における水分率から予測し、予測した収縮率が許容範囲内か否か(被記録材の収縮に起因する記録精度の低下が許容範囲内か否か)で当該被記録材に記録を実行するか中止するかを選択することを含む。また、記録ヘッドから噴射するインクが本来着弾すべき位置に着弾するように、予測した被記録材の収縮率に応じてインク噴射タイミングを調整する制御を含む。さらに、記録ヘッドから噴射するインクが本来着弾すべき位置に着弾するように、予測した被記録材の収縮率に応じて、被記録材に対する相対的なインク噴射位置を調整することを含む。さらに、加熱プラテンで支持されたときの被記録材の収縮率が許容範囲内となるように、予測した被記録材の収縮率に応じて、被記録材に直接働きかけることにより被記録材の収縮を抑制する制御を実行することを含む。
【0011】
本発明の第2の態様は、前述した第1の態様に記載の記録装置において、前記加熱プラテンに支持される前の被記録材の水分率を調整するための調湿装置を備え、前記制御装置は、前記水分測定装置により測定した被記録材の水分率に基づいて前記調湿装置を制御する、ことを特徴とした記録装置である。
【0012】
加熱プラテンに支持されたときの被記録材の収縮率は、記録実行前に被記録材の水分率を調整することによって抑制することができる。したがって、水分測定装置により測定した水分率に基づいて被記録材の水分率を記録実行前に調整することによって、加熱プラテンに支持されたときの被記録材の収縮率を許容範囲内に低減させることが可能になる。それによって、加熱プラテンを備えた記録装置において、被記録材の収縮に起因して記録精度が低下してしまう虞を低減させることができるという作用効果が得られる。
【0013】
本発明の第3の態様は、前述した第1の態様又は第2の態様に記載の記録装置において、前記加熱プラテンの温度を調整する温度調整装置を備え、前記制御装置は、前記水分測定装置により測定した被記録材の水分率に基づいて前記加熱プラテンの温度を調整する、ことを特徴とした記録装置である。
【0014】
加熱プラテンに支持されたときの被記録材の収縮率は、その加熱プラテンの温度によって変動する。つまり、加熱プラテンに支持されたときの被記録材の収縮率は、その加熱プラテンの温度を増減調整することによって調整することが可能である。したがって、水分測定装置により測定した水分率に基づいて、加熱プラテンが有効に機能する範囲内で加熱プラテンの温度を適切な温度に設定することによって、加熱プラテンに支持されたときの被記録材の収縮率を許容範囲内に低減させることが可能になる。それによって、加熱プラテンを備えた記録装置において、被記録材の収縮に起因して記録精度が低下してしまう虞を低減させることができるという作用効果が得られる。
【0015】
本発明の第4の態様は、前述した第1〜第3の態様のいずれかに記載の記録装置において、被記録材の基材から剥離紙を剥離し、剥離した基材又は剥離紙の少なくともいずれか一方を加熱した後、基材と剥離紙とを再接着する記録前処理手段と、被記録材が前記記録前処理手段を経由して前記加熱プラテンへ搬送される第1搬送路と、被記録材が前記記録前処理手段を経由せずに前記加熱プラテンへ搬送される第2搬送路と、を備えている、ことを特徴とした記録装置である。
【0016】
被記録材の一例として公知の粘着紙は、表面に記録が実行される基材(上紙とも言う。)の裏面に粘着剤を塗布等して粘着剤層を形成し、剥離紙(セパレータとも言う。)を粘着剤層に剥離可能に接着して粘着剤層を剥離紙で覆った被記録材である。このような粘着紙は、基材と剥離紙とが異なる材料や構造で形成されていることから、常温時における基材の水分率と剥離紙の水分率とが異なる場合が多く、また温度変化に対する伸縮性も基材と剥離紙とで異なる場合が多い。そのため、加熱プラテンを備えた記録装置においては、粘着紙が加熱プラテンに支持されて加熱され、それによって基材及び剥離紙の水分率が低下したときに、その基材と剥離紙の収縮率の差に起因して粘着紙に反りが生じてしまうことがある。さらに、基材の性質及び剥離紙の性質は粘着紙の種類によって千差万別であることから、加熱プラテンに支持された粘着紙に生ずる反りの形状及び程度は、粘着紙の種類によってそれぞれ異なってくる。
【0017】
そして、加熱プラテン上における粘着紙の反りはヘッド擦れが生ずる要因となる。ここでヘッド擦れとは、粘着紙の一部が加熱プラテンの支持面から浮き上がることによって、本来接触すべきでない記録ヘッドに粘着紙の一部が接触してしまうことを言う。このようなヘッド擦れが生ずると、基材の記録面に傷が付いたり余分なインクが付着したりして記録画質が低下してしまうとともに、接触時の衝撃で記録ヘッドが損傷等してしまう虞が生ずる。
【0018】
本発明の第4の態様に記載の記録装置において、記録前処理手段を経た粘着紙は、少なくとも基材又は剥離紙のいずれか一方が予め加熱されて収縮した状態で基材と剥離紙とが再接着されているため、加熱プラテンに支持されて加熱されたときに生ずる基材又は剥離紙の収縮率が小さくなる。すなわち、上記の記録前処理手段を経ることによって、加熱プラテンに支持されたときの粘着紙の収縮率及び反りを小さくすることが可能になる。それによって、粘着紙の収縮に起因した記録精度の低下を低減させることができるとともに、粘着紙の反りに起因したヘッド擦れが生ずる虞も低減させることができる。
【0019】
例えば、水分測定装置により測定した水分率に基づいて、記録精度の観点から粘着紙の基材の収縮率が許容範囲を超えてしまうと予測される場合、又は粘着紙が加熱プラテンに支持されたときに一定の大きさ以上の反りが生じてヘッド擦れが生ずる可能性が高いと予測される場合には、記録前処理手段を経由して粘着紙が加熱プラテンへ搬送されるように第1搬送路を選択して粘着紙を給送すれば良い。それによって、加熱プラテンを備えた記録装置において、粘着紙の収縮に起因して記録精度が低下する虞を低減させることができるとともに、粘着紙の反りに起因してヘッド擦れが生ずる虞も低減させることができるという作用効果が得られる。
【0020】
本発明の第5の態様は、前述した第1〜第4の態様のいずれかに記載の記録装置において、前記制御装置は、前記水分測定装置により測定した被記録材の水分率と当該被記録材の種類に基づいて、当該被記録材に対する記録制御を変更する、ことを特徴とした記録装置である。
【0021】
被記録材を形成する材料や被記録材の構造は、被記録材の種類によって異なる。そのため温度変化に対する被記録材の伸縮性は、被記録材の種類によって異なることがある。したがって加熱により水分率が低下したときの被記録材の収縮率は、常温時における水分率の他、その被記録材の種類によっても異なる場合がある。このようなことから本発明においては、水分測定装置により測定した被記録材の水分率と当該被記録材の種類に基づいて、当該被記録材に対する記録制御を変更するのが好ましい。それによって、加熱プラテンで支持されたときの被記録材の収縮率をより正確に予測することが可能になるので、加熱プラテンを備えた記録装置において、被記録材の収縮に起因して記録精度が低下してしまう虞をより低減させることができるという作用効果が得られる。
【0022】
本発明の第6の態様は、加熱プラテンに支持される被記録材に記録ヘッドからインクを噴射して記録を実行する記録実行手段と、前記記録実行手段を制御する制御装置と、を備えた記録装置において、前記加熱プラテンに支持された状態にある被記録材の収縮率を測定する収縮率測定手段を備え、前記制御装置は、前記収縮率測定手段により測定した被記録材の収縮率に基づいて当該被記録材に対する記録制御を変更する、ことを特徴とした記録装置である。
【0023】
このような特徴によれば、収縮率測定手段により測定した被記録材の収縮率に基づいて当該被記録材に対する記録制御を変更することによって、加熱プラテンに支持されたときの被記録材の収縮率に応じて適切な記録制御を実行することが可能になる。それによって、加熱プラテンを備えた記録装置において、被記録材の収縮に起因して記録精度が低下してしまう虞を低減させることができるという作用効果が得られる。
【0024】
ここで、被記録材の収縮率に基づく記録制御の変更とは、測定した被記録材の収縮率が許容範囲内か否かによって当該被記録材に記録を実行するか中止するかを選択することを含む。また、記録ヘッドから噴射するインクが本来着弾すべき位置に着弾するように、測定した被記録材の収縮率に応じてインク噴射タイミングを調整する制御を含む。さらに、記録ヘッドから噴射するインクが本来着弾すべき位置に着弾するように、測定した被記録材の収縮率に応じて、被記録材に対する相対的なインク噴射位置を調整することを含む。さらに、加熱プラテンで支持されたときの被記録材の収縮率が許容範囲内となるように、測定した被記録材の収縮率に応じて、被記録材に直接働きかけることにより被記録材の収縮を抑制する制御を実行することを含む。
【0025】
本発明の第7の態様は、前述した第6の態様に記載の記録装置において、前記加熱プラテンに支持される前の被記録材の水分率を調整するための調湿装置を備え、前記制御装置は、前記収縮率測定手段により測定した被記録材の収縮率に基づいて前記調湿装置を制御する、ことを特徴とした記録装置である。
【0026】
加熱プラテンに支持されたときの被記録材の収縮率は、記録実行前に被記録材の水分率を調整することによって抑制することができる。したがって、収縮率測定手段により測定した被記録材の収縮率に基づいて被記録材の水分率を記録実行前に調整することによって、加熱プラテンに支持されたときの被記録材の収縮率を許容範囲内に低減させることが可能になる。それによって、加熱プラテンを備えた記録装置において、被記録材の収縮に起因して記録精度が低下してしまう虞を低減させることができるという作用効果が得られる。
【0027】
本発明の第8の態様は、前述した第6の態様又は第7の態様に記載の記録装置において、前記加熱プラテンの温度を調整する温度調整装置を備え、前記制御装置は、前記収縮率測定手段により測定した被記録材の収縮率に基づいて前記加熱プラテンの温度を調整する、ことを特徴とした記録装置である。
【0028】
加熱プラテンに支持されたときの被記録材の収縮率は、その加熱プラテンの温度によって変動する。つまり、加熱プラテンに支持されたときの被記録材の収縮率は、その加熱プラテンの温度を増減調整することによって調整することが可能である。したがって、収縮率測定手段により測定した被記録材の収縮率に基づいて、加熱プラテンが有効に機能する範囲内で加熱プラテンの温度を適切な温度に設定することによって、加熱プラテンに支持されたときの被記録材の収縮率を許容範囲内に低減させることが可能になる。それによって、加熱プラテンを備えた記録装置において、被記録材の収縮に起因して記録精度が低下してしまう虞を低減させることができるという作用効果が得られる。
【0029】
本発明の第9の態様は、被記録材の水分率を測定するための水分測定装置と、被記録材の基材から剥離紙を剥離し、剥離した基材又は剥離紙の少なくともいずれか一方を加熱した後、基材と剥離紙とを再接着する記録前処理手段と、加熱プラテンに支持される被記録材に記録ヘッドからインクを噴射して記録を実行する記録実行手段と、前記記録前処理手段及び前記記録実行手段を制御する制御装置と、前記水分測定装置を経由した被記録材が前記記録前処理手段を経由して前記加熱プラテンへ搬送される第1搬送路と、を備え、前記制御装置は、前記水分測定装置により測定した被記録材の水分率に基づいて、前記記録前処理手段における剥離した基材又は剥離紙の加熱制御を実行する、ことを特徴とした記録装置である。
【0030】
本発明の第10の態様は、前述した第9の態様に記載の記録装置において、前記水分測定装置は、被記録材の基材の水分率を測定するための第1水分測定装置と、被記録材の剥離紙の水分率を測定するための第2水分測定装置と、を有し、前記制御装置は、前記第1水分測定装置により測定した基材の水分率及び前記第2水分測定装置により測定した剥離紙の水分率に基づいて、前記記録前処理手段における剥離した基材又は剥離紙の加熱制御を実行する、ことを特徴とした記録装置である。
【0031】
本発明の第11の態様は、前述した第9の態様又は第10の態様に記載の記録装置において、前記水分測定装置を経由した被記録材が前記記録前処理手段を経由せずに前記加熱プラテンへ搬送される第2搬送路を備える、ことを特徴とした記録装置である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係るインクジェットプリンタの第1実施例の要部平面図。
【図2】本発明に係るインクジェットプリンタの第1実施例の要部側面図。
【図3】本発明に係るインクジェットプリンタの第2実施例の要部側面図。
【図4】本発明に係るインクジェットプリンタの第2実施例の要部側面図。
【図5】本発明に係るインクジェットプリンタの第3実施例の要部平面図。
【図6】粘着紙の基材にテストパターンを記録する手順を模式的に図示した平面図。
【図7】本発明に係るインクジェットプリンタの第4実施例の要部側面図。
【図8】本発明に係るインクジェットプリンタの第5実施例の要部側面図。
【図9】本発明に係るインクジェットプリンタの第6実施例の要部側面図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0034】
<第1実施例>
本発明に係るインクジェットプリンタ50の第1実施例について、図1及び図2を参照しながら説明する。
【0035】
図1は、インクジェットプリンタ50の第1実施例の要部平面図であり、図2は、その要部側面図である。
インクジェットプリンタ50は、加熱プラテン53に支持される「被記録材」としての粘着紙Pの基材FPに記録ヘッド62から水性インクを噴射して記録を実行する記録装置である。粘着紙Pは、表面に記録が実行される基材FPの裏面に粘着剤を塗布して粘着剤層を形成し、剥離紙RPを粘着剤層に剥離可能に接着して粘着剤層を剥離紙RPで覆った記録紙である。
尚、本発明に係るインクジェットプリンタ50は、粘着紙Pに限らず、普通紙や写真用紙等の一般的な記録紙に記録を実行することも可能であり、さらにロール状に巻かれた粘着紙Pやロール状に巻かれた記録紙の他、単票状の記録紙にも記録を実行することが可能であるが、以下、ロール状に巻かれた粘着紙Pを例に説明していく。
【0036】
加熱プラテン53は、記録ヘッド62によりインクを噴射可能な領域において、粘着紙Pを裏側(剥離紙側)から支持するとともに、粘着紙Pを加熱する部材である。このような加熱プラテン53を備えたインクジェットプリンタ50においては、粘着紙Pの基材FPに噴射されたインクの乾燥が加熱プラテン53の熱によって促進されるため、インクドットのにじみ等が少ない高画質な記録を実現することが可能になる。
【0037】
記録ヘッド62は、キャリッジ61に搭載されており、加熱プラテン53に支持された粘着紙Pの基材FPと対面するヘッド面に多数のインク噴射ノズルが配設されている。記録ヘッド62の駆動回路(図示せず)は、記録制御部100により制御される。
【0038】
Y方向可動ユニット64は、二本のX方向ガイド軸63、左可動部材64L及び右可動部材64Rを有している。左可動部材64Lは、副走査方向Yへ往復動可能にY方向ガイド軸65Lに支持されている。右可動部材64Rは、副走査方向Yへ往復動可能にY方向ガイド軸65Rに支持されている。二本のX方向ガイド軸63は、一端側が左可動部材64Lに支持されており、他端側が右可動部材64Rに支持されている。キャリッジ61は、この二本のX方向ガイド軸63に主走査方向Xへ往復動可能に支持されている。
【0039】
すなわち、Y方向可動ユニット64は、副走査方向Yへ往復動可能に支持されており、キャリッジ61は、主走査方向Xへ往復動可能にY方向可動ユニット64に支持されている。それによってキャリッジ61は、主走査方向X及び副走査方向Yへ往復動可能に支持される。
【0040】
またY方向可動ユニット64は、主走査方向Xへキャリッジ61を往復動させるX方向駆動手段を有している。X方向駆動手段は、例えば、主走査方向Xに沿ってプーリ間に掛架された無端ベルトをモータで回転させる駆動機構であり(図示せず)、その無端ベルトの一部はキャリッジ61に連結される。さらにX方向駆動手段は、その無端ベルトを回転させるモータの回転を検出する手段として、公知のロータリエンコーダ(図示せず)を有している。記録制御部100は、このロータリエンコーダの出力信号に基づいて当該モータの回転を制御することで、主走査方向Xにおけるキャリッジ61の位置制御及び速度制御を実行する。
【0041】
そしてY方向可動ユニット64は、Y方向駆動手段により副走査方向Yへ往復動する。Y方向駆動手段は、例えば、副走査方向Yに沿ってプーリ間に掛架された無端ベルトをモータで回転させる駆動機構であり(図示せず)、その無端ベルトの一部は、Y方向可動ユニット64の左可動部材64L又は右可動部材64Rに連結される。さらにY方向駆動手段は、その無端ベルトを回転させるモータの回転を検出する手段として、公知のロータリエンコーダ(図示せず)を有している。記録制御部100は、このロータリエンコーダの出力信号に基づいて当該モータの回転を制御することで、副走査方向Yにおけるキャリッジ61の位置制御及び速度制御を実行する。
【0042】
記録制御部100は、記録ヘッド62を主走査方向Xへ走査させながら記録ヘッド62からインクを噴射して基材FPの記録面にインクドットを形成する制御と記録ヘッド62を副走査方向Yへ走査させる制御とを繰り返すことによって、加熱プラテン53に支持された状態の粘着紙Pの基材FPに記録を実行する。
【0043】
加熱プラテン53の搬送方向YFの上流側には、第1搬送駆動ローラ51と第1搬送従動ローラ52とからなるローラ対が配設されている。また加熱プラテン53の搬送方向YFの下流側には、第2搬送駆動ローラ54と第2搬送従動ローラ55とからなるローラ対が配設されている。これらは粘着紙Pを搬送方向YFへ搬送して加熱プラテン53上へ搬送する手段であるとともに、粘着紙Pの記録実行後の部分を搬送方向YFへ排出する手段である。第1搬送駆動ローラ51及び第2搬送駆動ローラ54は、図示していないモータの回転駆動力で回転する。第1搬送駆動ローラ51及び第2搬送駆動ローラ54の回転は、記録制御部100により制御される。
【0044】
尚、以下の説明において「上流側」及び「下流側」は、特に断りがない限り、搬送方向YFの上流側及び下流側を意味するものとする。
【0045】
上記説明した「記録実行手段」の上流側には、粘着紙Pの給送手段が配設されている。給送手段は、粘着紙支持軸71、従動案内ローラ72、給送ローラ73及び従動ローラ74を有している。粘着紙支持軸71は、ロール状に巻かれた粘着紙Pを軸支する。従動案内ローラ72は、給送ローラ73と従動ローラ74とのニップ点に粘着紙Pを案内するためのローラであり、回転自在に軸支されている。給送ローラ73は、粘着紙支持軸71に軸支されるロール状に巻かれた粘着紙Pを給送するためのローラであり、図示していないモータの回転駆動力が伝達されて回転する。従動ローラ74は、給送ローラ73の外周面に粘着紙Pを当接させるためのローラであり、回転自在に軸支されている。
【0046】
さらに第1実施例のインクジェットプリンタ50は、上記説明した給送手段と「記録実行手段」との間に水分測定装置76が配設されている。水分測定装置76は、加熱プラテン53に支持される前に粘着紙Pの基材FPの水分率を測定するための装置であり、例えば、対象物の電気伝導率から水分率を計測する公知の水分計等を用いることができる。記録制御部100は、水分測定装置76により測定した粘着紙Pの基材FPの水分率に基づいて粘着紙Pに対する記録制御を変更する。それによって、加熱プラテン53に支持されたときの基材FPの収縮率に応じて適切な記録制御を実行することが可能になるので、粘着紙Pの基材FPの収縮に起因して記録精度が低下してしまう虞を低減させることができる。
【0047】
例えば、加熱プラテン53で支持されたときの基材FPの収縮率を常温時における水分率から予測し、予測した収縮率が許容範囲内か否かによって当該粘着紙Pに記録を実行するか中止するかを選択することができる。許容範囲内か否かの基準は、予測した基材FPの収縮率から基材FPの収縮に伴う記録画質の低下の程度を推測し、記録画質の低下が許容範囲内か否かによって判定すれば良い。
【0048】
また例えば、記録ヘッド62から噴射するインクが基材FPに対して本来着弾すべき位置に着弾するように、予測した基材FPの収縮率に応じてインク噴射タイミングを調整することができる。より具体的には、予測した基材FPの収縮率、記録ヘッド62のヘッド面と基材FPの記録面との間隔、主走査方向Xへの記録ヘッド62の移動速度等から、基材FPに対するインク着弾位置のずれ量を推測する。そして、その推測したずれ量に基づいて、記録ヘッド62の主走査方向Xの移動位置に対するインク噴射タイミングを調整すれば良い。
【0049】
また例えば、記録ヘッド62から噴射するインクが基材FPに対して本来着弾すべき位置に着弾するように、予測した基材FPの収縮率に応じて、基材FPに対する相対的なインク噴射位置を調整することができる。より具体的には、予測した基材FPの収縮率、記録ヘッド62のヘッド面と基材FPの記録面との間隔、主走査方向Xへの記録ヘッド62の移動速度等から、基材FPに対するインク着弾位置のずれ量を推測する。そして、その推測したずれ量に基づいて、記録ヘッド62の副走査方向Yの走査位置を調整すれば良い。あるいは、その推測したずれ量と記録ヘッド62のインク噴射ノズルの間隔(ノズルピッチ)等に基づいて、記録ヘッド62の使用ノズルパターンを変更すれば良い。使用ノズルパターンの変更とは、例えば、あるドットを形成する際に使用するインク噴射ノズルを本来指定されていたインク噴射ノズルに隣接する他のインク噴射ノズルにシフトすることである。
【0050】
さらに第1実施例のインクジェットプリンタ50は、水分測定装置76の上流側に調湿装置75が配設されている。調湿装置75は、加熱プラテン53に支持される前に粘着紙Pの基材FPの水分率を調整するための装置である。この調湿装置75は、例えば、基材FPの表面に温風を噴射する等して基材FPを乾燥させる乾燥装置、若しくは基材FPの表面に水蒸気を噴射する等して基材FPを加湿する加湿装置、又はこれらを組み合わせた装置である。
【0051】
水分測定装置76により測定した粘着紙Pの基材FPの水分率に基づいて記録制御部100が調湿装置75を制御することによって、粘着紙Pの基材FPの水分率を記録実行前に調整することができる。それによって、加熱プラテン53に支持されたときの基材FPの収縮を許容範囲内に抑制することが可能になるので、基材FPの収縮に起因して記録精度が低下してしまう虞を低減させることができる。例えば、粘着紙Pが加熱プラテン53に支持されたときに生ずる基材FPの収縮率を小さくするためには、調湿装置75で基材FPを予め加熱して収縮させておけば良い。あるいは、粘着紙Pが加熱プラテン53に支持されたときに基材FPの収縮がほとんど生じない程度に、粘着紙Pが加熱プラテン53に支持される時間等も考慮して、調湿装置75で基材FPを予め充分に加湿するようにしても良い。
【0052】
さらに第1実施例のインクジェットプリンタ50は、加熱プラテン53の温度を調整する温度調整装置531を備えている。加熱プラテン53は、図示していないヒータやサーミスタを有しており、温度調整装置531は、そのヒータの制御回路等を有している。サーミスタの出力信号に基づいて温度調整装置531の制御回路を記録制御部100が制御することによって、加熱プラテン53の粘着紙Pが接する支持面の温度は、加熱プラテン53が有効に機能する約35〜60度の範囲で任意の温度に維持することができる。
【0053】
水分測定装置76により測定した粘着紙Pの基材FPの水分率に基づいて、加熱プラテン53の温度を記録制御部100が調整することによって、加熱プラテン53に支持されたときの基材FPの収縮を許容範囲内に抑制することが可能になる。それによって、基材FPの収縮に起因して記録精度が低下してしまう虞を低減させることができる。例えば、加熱プラテン53の温度に対する基材FPの収縮率の相関関係を予め実験等によって特定しておく。そして、その実験結果等に基づいて、粘着紙Pが加熱プラテン53に支持される時間等も考慮して、加熱プラテン53に支持されたときの基材FPの収縮率が許容範囲内になるように加熱プラテン53の温度を調整すれば良い。
【0054】
尚、水分測定装置76により測定した粘着紙Pの基材FPの水分率に基づいて記録制御部100が実行することができる上記説明した各制御は、いずれかを単独で実行しても良いし、可能な範囲で複合的に実行しても良い。
【0055】
また、粘着紙Pの基材FPを形成する材料や構造は基材FPの種類によって異なるため、基材FPの種類によって温度変化に対する伸縮性が異なることがある。例えば、表面に光沢がある光沢紙等からなる基材FPは、表面のコート層が水分の吸脱湿を妨げるため、比較的水分が入りにくく抜けにくいという特性を有する。他方、例えば表面にコート層がない上質紙等の基材FPは、比較的水分が入りやすく抜けやすい特性を有する。つまり基材FPの吸脱湿特性(吸脱湿速度等)は、基材FPの種類によって異なる場合がある。したがって、加熱プラテン53で支持されて加熱されることにより水分率が低下するときの基材FPの収縮率は、常温時における基材FPの水分率の他、その基材FPの種類によっても異なる場合がある。
【0056】
このようなことから、水分測定装置76により測定した基材FPの水分率に基づいて記録制御部100が実行することができる上記説明した各制御は、水分測定装置76により測定した基材FPの水分率に加えて、さらにその基材FPの種類も考慮して実行するのが好ましい。それによって、加熱プラテン53で支持されたときの基材FPの収縮率をより正確に予測することが可能になるので、基材FPの収縮に起因して記録精度が低下してしまう虞をより低減させることができる。より具体的には、例えば、加熱温度に対する基材FPの収縮率の相関関係を基材FPの種類毎に実験等により測定し、それをデータベース化したテーブルデータ等を記録制御部100の不揮発性メモリ(図示せず)等に予め記憶させておき、ユーザが設定した粘着紙Pの基材FPの種類に応じて参照するようにすれば良い。
【0057】
以上説明したように本発明によれば、加熱プラテンを備えた記録装置において、被記録材の収縮に起因して記録精度が低下してしまう虞を低減させることができる。
【0058】
<第2実施例>
本発明に係るインクジェットプリンタ50の第2実施例について、図3及び図4を参照しながら説明する。
【0059】
図3及び図4は、インクジェットプリンタ50の第2実施例の要部側面図である。
第2実施例のインクジェットプリンタ50は、図1及び図2に図示して説明した「記録実行手段」及び記録制御部100を備えているとともに、給送手段と「記録実行手段」との間に「記録前処理手段」を備えている。「記録実行手段」及び記録制御部100の各構成については、第1実施例と同様であるため説明は省略する。
【0060】
第2実施例のインクジェットプリンタ50の給送手段は、粘着紙支持軸81、第1従動案内ローラ82、第1給送ローラ83及び第1従動ローラ84を有している。第1給送ローラ83及び第1従動ローラ84によって給送される粘着紙Pは、「記録前処理手段」を経由して加熱プラテン53へ搬送される(第1搬送路R1)。
尚、粘着紙支持軸81、第1従動案内ローラ82、第1給送ローラ83及び第1従動ローラ84については、それぞれ第1実施例の粘着紙支持軸71、従動案内ローラ72、給送ローラ73及び従動ローラ74と同様の構成要素であるため説明は省略する。
【0061】
さらに第2実施例のインクジェットプリンタ50の給送手段は、第2従動案内ローラ85、第2給送ローラ86及び第2従動ローラ87を有している。第2給送ローラ86及び第2従動ローラ87によって給送される粘着紙Pは、「記録前処理手段」を経由せずに加熱プラテン53へ搬送される(第2搬送路R2)。第2従動案内ローラ85、第2給送ローラ86及び第2従動ローラ87は、それぞれ第1従動案内ローラ82、第1給送ローラ83及び第1従動ローラ84と同様の構成要素である。
【0062】
さらに第2実施例のインクジェットプリンタ50は、第1従動案内ローラ82及び第2従動案内ローラ85と粘着紙支持軸81との間に、水分測定装置76が配設されている。水分測定装置76は、粘着紙支持軸81に支持されている粘着紙Pの基材FPの水分率を測定するための装置であり、第1実施例と同様の構成要素であるため説明は省略する。
【0063】
「記録前処理手段」は、粘着紙Pの基材FPから剥離紙RPを剥離する「剥離手段」と、剥離後の基材FPを加熱する「加熱手段」と、加熱後の基材FPと剥離紙RPとを再接着する「再接着手段」とを備えている。
【0064】
「剥離手段」は、剥離部材91及び剥離紙搬送ローラ92を有している。剥離部材91は、第1給送ローラ83の下流側に配設されており、主走査方向Xに長尺な楔形状の部材である。第1給送ローラ83の回転により給送される粘着紙Pは、基材FPと剥離紙RPとの間に剥離部材91の楔形状の刃先部分が進入することによって基材FPから剥離紙RPが剥離される。このとき予め手作業によって、粘着紙Pの先端部分を剥離しておくか、基材FP又は剥離紙RPの一部を除去する等して基材FPの先端と剥離紙RPの先端とに段差を設けておけば、剥離部材91で容易かつ確実に粘着紙Pを剥離することができる。剥離部材91で剥離された後、基材FPは符号Aで示した搬送経路を進行し、剥離紙RPは符号Bで示した搬送経路を進行する。剥離紙搬送ローラ92は、剥離部材91で剥離された後の剥離紙RPを搬送するためのローラであり、図示していないモータの回転駆動力が伝達されて回転する。
【0065】
「加熱手段」は、加熱装置93を有している。加熱装置93は、第1給送ローラ83の下流側に配設されており、剥離部材91で剥離された後の基材FPに面接触して基材FPを所定温度に加熱する装置である。加熱装置93は、図示していないヒータやサーミスタ、ヒータの制御回路等を有している。記録制御部100は、サーミスタの出力信号に基づいてヒータの制御回路を制御する。それによって、加熱装置93の基材FPが接する部分の温度が所定温度に維持される。この加熱装置93の温度や基材FPの加熱時間は、例えば基材FPの温度に対する伸縮特性や常温時の水分率等に応じて調整するのが好ましい。
【0066】
「再接着手段」は、第1再接着ローラ94及び第2再接着ローラ95を有している。第1再接着ローラ94及び第2再接着ローラ95は、加熱装置93の下流側に配設されており、図示していないモータの回転駆動力が伝達されて同期回転する。剥離後に加熱された基材FPと剥離後の剥離紙RPは、第1再接着ローラ94と第2再接着ローラ95とのニップ点に案内されて合流し、重なった状態になり、第1再接着ローラ94と第2再接着ローラ95とで狭圧されることによって再接着される。再接着後の粘着紙Pは、第1再接着ローラ94及び第2再接着ローラ95の回転によって、第1搬送駆動ローラ51と搬送従動ローラ52とのニップ点へ送出される。
【0067】
第1給送ローラ83の回転により第2搬送路R2へ給送される粘着紙Pは、まず、剥離部材91によって基材FPから剥離紙RPが剥離される。つづいて、加熱装置93によって基材FPが加熱される。このとき基材FPは、水分率が低下することによって収縮する。つづいて、加熱されて収縮した状態の基材FPと剥離紙RPとが再接着される。このような記録前処理工程を経た粘着紙Pは、基材FPが予め加熱されて収縮した状態で剥離紙RPと再接着されているため、粘着紙Pが加熱プラテン53に支持されて加熱されたときに生ずる基材FPの収縮率が小さくなる。
【0068】
すなわち、第1搬送路R1の「記録前処理手段」を粘着紙Pが経由することによって、加熱プラテン53に支持されたときの粘着紙Pの収縮率及び反りを小さくすることが可能になる。それによって、粘着紙Pの収縮に起因した記録精度の低下を低減させることができるとともに、粘着紙Pの反りに起因したヘッド擦れが生ずる虞も低減させることができる。
【0069】
このような構成の第2実施例のインクジェットプリンタ50においては、粘着紙Pに記録を実行する前に、粘着紙支持軸81に支持されている粘着紙Pの基材FPの水分率を水分測定装置76で測定し、その測定した水分率に応じて、前記の第1搬送路R1又は第2搬送路R2のいずれを経由して加熱プラテン53に粘着紙Pを搬送するかを作業者が選択することができる。
【0070】
より具体的には、測定した基材FPの水分率から基材FPの収縮率を予測する。さらに、その予測した基材FPの収縮率から、粘着紙Pが加熱プラテン53に支持されたときに生ずる反りの大きさを予測する。そして、粘着紙Pの基材FPの収縮率が許容範囲を超えてしまうと予測される場合、又は粘着紙Pが加熱プラテン53に支持されたときに一定の大きさ以上の反りが生じてヘッド擦れが生ずる可能性が高いと予測される場合には、第1給送ローラ83と第1従動ローラ84とのニップ点に粘着紙Pの先端を挟持させ、第1搬送路R1の「記録前処理手段」を経由して粘着紙Pが加熱プラテン53へ搬送されるようにすれば良い。それによって、粘着紙Pの収縮に起因して記録精度が低下する虞を低減させることができるとともに、粘着紙Pの反りに起因してヘッド擦れが生ずる虞も低減させることができる。他方、基材FPの収縮率が許容範囲を超えないと予測される場合、又は粘着紙Pが加熱プラテン53に支持されたときに一定の大きさ以上の反りが生じないと予測される場合には、第2給送ローラ86と第2従動ローラ87とのニップ点に粘着紙Pの先端を挟持させ、第2搬送路R2を経由して粘着紙Pが加熱プラテン53へ搬送されるようにすれば良い。
【0071】
ここで「剥離手段」は、上記実施例の構成に限定されないのは言うまでもなく、粘着紙Pの基材FPから剥離紙RPを剥離することが可能な手段であれば、どのような手段であっても良い。例えば、第1給送ローラ83の下流側に剥離部材91を設けずに、第1給送ローラ83の下流側において、作業者が手作業で粘着紙Pを先端側から剥離しても良い。より具体的には、第1給送ローラ83の下流側で粘着紙Pの先端を剥離し、加熱装置93を経由させた基材FPの先端と剥離紙搬送ローラ92の外周面を経由させた剥離紙RPの先端とを重ね合わせて、第1再接着ローラ94と第2再接着ローラ95とに挟持させれば良い。最初にこの作業を行えば、当該粘着紙Pは、搬送方向YFへ搬送されるに従って、第1給送ローラ83の下流側で順次剥離されていくことになる。
【0072】
また「加熱手段」は、上記実施例の構成に限定されないのは言うまでもなく、剥離後の基材FPを加熱することが可能な手段であれば、どのような手段であっても良い。また「加熱手段」は、加熱時の収縮率が基材FPよりも剥離紙RPの方が大きい粘着紙Pに記録を実行する場合には、剥離後の剥離紙RPを加熱する構成としても良い。あるいは剥離後の基材FPと剥離紙RPの両方を加熱することが可能な構成として、粘着紙Pの特性等に応じて基材FP又は剥離紙RPのいずれかを選択的に加熱するか、あるいは両者を加熱するようにしても良い。
【0073】
さらに「再接着手段」は、上記実施例の構成に限定されないのは言うまでもなく、加熱後の基材FPと剥離紙RPとを再接着することが可能な手段であれば、どのような手段であっても良い。
【0074】
<第3実施例>
本発明に係るインクジェットプリンタ50の第3実施例について、図5及び図6を参照しながら説明する。
【0075】
図5は、インクジェットプリンタ50の第3実施例の要部平面図である。
第3実施例のインクジェットプリンタ50は、図1及び図2に図示して説明した「記録実行手段」、給送手段及び記録制御部100を備えているとともに、加熱プラテン53に支持された状態にある粘着紙Pの基材FPの収縮率を測定する「収縮率測定手段」を備えている。「記録実行手段」、給送手段及び記録制御部100の各構成については、第1実施例と同様であるため説明は省略する。
【0076】
当該実施例においてはキャリッジ61には、記録ヘッド62の他、センサ66が搭載されている。センサ66は、反射型の光学式センサであり、粘着紙Pの基材FPに記録したテストパターンTPを非接触で検出可能なセンサである。主走査方向X及び副走査方向Yへキャリッジ61を往復動させることによって、加熱プラテン53上の基材FPの記録面をセンサ66で走査して検出することができる。テストパターンTPは、記録ヘッド62からインクを噴射してインクドットを形成することで基材FPの記録面に記録される。
【0077】
記録制御部100は、加熱プラテン53上に粘着紙Pが搬送された状態で、基材FPに記録を実行するに先立って、以下のような手順で粘着紙Pの基材FPの収縮率を測定する。以下、図6を参照しながら説明する。
【0078】
図6は、基材FPにテストパターンTPを記録する手順を模式的に図示した平面図である。
加熱プラテン53上に粘着紙Pが搬送されると、粘着紙Pは加熱プラテン53の温度で加熱され、その時点から徐々に収縮していく。記録制御部100は、加熱プラテン53上に粘着紙Pが搬送された時点で、まずテストパターンTP1を基材FPの所定位置に記録する(図6(a))。つづいて、一定時間が経過した時点で、テストパターンTP1の記録実行位置と同じ記録実行位置に、テストパターンTP1と同じ形状のテストパターンTP2を記録する制御を実行する。このとき、テストパターンTP1を記録してからテストパターンTP2を記録するまでの間に一定時間が経過していることから、加熱プラテン53上で加熱されることによって基材FPに収縮が生じている場合には、その収縮した分だけ、基材FPにおけるテストパターンTP1の記録位置とテストパターンTP2の記録位置との間にずれが生ずることになる(図6(b))。以後、同様の手順により一定時間間隔でテストパターンTP3及びテストパターンTP4を基材FPに記録する(図6(c)、(d))。
【0079】
つづいて、基材FPのテストパターンTP1〜4を記録した部分をセンサ66で走査し、テストパターンTP1〜4のパターン間隔をそれぞれ検出する。その検出したテストパターンTP1〜4のパターン間隔と当該粘着紙Pの寸法等からは、加熱プラテン53の加熱温度における基材FPの収縮率、さらには加熱時間と基材FPの収縮率との相関関係を測定することが可能になる(収縮率測定手段)。このとき、基材FPの収縮率が主走査方向Xと副走査方向Yとで異なる場合もあることを考慮すれば、テストパターンTP1〜4の形状は、主走査方向Xに略平行な線と副走査方向Yに略平行な線を含む形状(例えば図示の如くL字形状)とし、主走査方向Xの間隔(ずれ量)と副走査方向Yの間隔(ずれ量)の双方をセンサ66で検出して両方向の収縮率をそれぞれ測定するのが好ましい。
【0080】
テストパターンTPは、基材FPの収縮率を測定する上では、少なくとも2つのテストパターン(例えばテストパターンTP1とTP2)を記録すれば良いのは言うまでもないが、加熱プラテン53で加熱される時間と基材FPの収縮率との相関関係をより正確に特定する上では、テストパターンの数は可能な限り多い方が好ましい。また、各テストパターン間の時間は任意に設定することが可能であり、一般的な基材FPは10〜20秒前後加熱した後には略安定してほとんど収縮が生じなくなる点を考慮して設定すると良い。テストパターンTP1〜4は、例えば1〜2秒前後の一定間隔で記録すれば良い。
【0081】
そして記録制御部100は、測定した粘着紙Pの基材FPの収縮率に基づいて当該粘着紙Pに対する記録制御を変更する。それによって、加熱プラテン53に支持されたときの基材FPの収縮率に応じて適切な記録制御を実行することが可能になるので、粘着紙Pの基材FPの収縮に起因して記録精度が低下してしまう虞を低減させることができる。
【0082】
例えば、テストパターンTPから測定した基材FPの収縮率が許容範囲内か否かによって、当該粘着紙Pに記録を実行するか中止するかを選択することができる。許容範囲内か否かの基準は、測定した基材FPの収縮率から基材FPの収縮に伴う記録画質の低下の程度を推測し、記録画質の低下が許容範囲内か否かによって判定すれば良い。
【0083】
また例えば、記録ヘッド62から噴射するインクが基材FPに対して本来着弾すべき位置に着弾するように、テストパターンTPから測定した基材FPの収縮率に応じてインク噴射タイミングを調整することができる。より具体的には、測定した基材FPの収縮率、記録ヘッド62のヘッド面と基材FPの記録面との間隔、主走査方向Xへの記録ヘッド62の移動速度等から、基材FPに対するインク着弾位置のずれ量を推測し、その推測したずれ量に基づいて、記録ヘッド62の主走査方向Xの移動位置に対するインク噴射タイミングを調整すれば良い。
【0084】
また例えば、記録ヘッド62から噴射するインクが基材FPに対して本来着弾すべき位置に着弾するように、テストパターンTPから測定した基材FPの収縮率に応じて、基材FPに対する相対的なインク噴射位置を調整することができる。より具体的には、予測した基材FPの収縮率、記録ヘッド62のヘッド面と基材FPの記録面との間隔、主走査方向Xへの記録ヘッド62の移動速度等から、基材FPに対するインク着弾位置のずれ量を推測する。そして、その推測したずれ量に基づいて、記録ヘッド62の副走査方向Yの走査位置を調整すれば良い。あるいは、その推測したずれ量と記録ヘッド62のノズルピッチ等に基づいて、記録ヘッド62の使用ノズルパターンを変更すれば良い。使用ノズルパターンの変更とは、例えば、あるドットを形成する際に使用するインク噴射ノズルを本来指定されていたインク噴射ノズルに隣接する他のインク噴射ノズルにシフトすることである。
【0085】
<第4実施例>
本発明に係るインクジェットプリンタ50の第4実施例について、図7を参照しながら説明する。
【0086】
図7は、インクジェットプリンタ50の第4実施例の要部側面図である。
第4実施例のインクジェットプリンタ50は、第2実施例に加えて、さらに水分測定装置77及び加熱装置96を備えている。それ以外の構成については第2実施例と同様であるため、共通する部分の説明は省略する。
【0087】
水分測定装置77は、第1従動案内ローラ82及び第2従動案内ローラ85と粘着紙支持軸81との間に配設されている。水分測定装置77は、粘着紙支持軸81に支持されている粘着紙Pの剥離紙RPの水分率を測定するための装置であり、基材FPの水分率を測定するための水分測定装置76と同様の構成要素である。以下、基材FPの水分率を測定するための水分測定装置76を「第1水分測定装置76」と言い、剥離紙RPの水分率を測定するための水分測定装置77を「第2水分測定装置77」と言う。
【0088】
加熱装置96は、第1給送ローラ83の下流側に配設されており、剥離部材91で剥離された後の剥離紙RPに面接触して剥離紙RPを所定温度に加熱する装置である。剥離された後の基材FPを所定温度に加熱するための加熱装置93と同様に、加熱装置96は、図示していないヒータやサーミスタ、ヒータの制御回路等を有している。記録制御部100は、サーミスタの出力信号に基づいてヒータの制御回路を制御する。それによって、加熱装置96の剥離紙RPが接する部分の温度が所定温度に維持される。以下、剥離された後の基材FPを所定温度に加熱するための加熱装置93を「第1加熱装置93」と言い、剥離された後の剥離紙RPを所定温度に加熱するための加熱装置96を「第2加熱装置96」と言う。
【0089】
このような構成の第4実施例のインクジェットプリンタ50においては、粘着紙Pに記録を実行する前に、粘着紙支持軸81に支持されている粘着紙Pの基材FPの水分率を第1水分測定装置76で測定し、剥離紙RPの水分率を第2水分測定装置77で測定し、その測定した水分率に応じて、前記の第1搬送路R1又は第2搬送路R2のいずれを経由して加熱プラテン53に粘着紙Pを搬送するかを作業者が選択することができる。
【0090】
より具体的には、測定した基材FPの水分率から基材FPの収縮率を予測し、測定した剥離紙RPの水分率から剥離紙RPの収縮率を予測する。さらに、その予測した基材FPの収縮率及び予測した剥離紙RPの収縮率から、粘着紙Pが加熱プラテン53に支持されたときに生ずる反りの大きさ及び反りの態様(凸面状の反りか凹面状の反りか)を予測する。そして、粘着紙Pの基材FPの収縮率が許容範囲を超えてしまうと予測される場合、又は粘着紙Pが加熱プラテン53に支持されたときに生ずる粘着紙Pの反りの大きさ及び反りの態様からヘッド擦れが生ずる可能性が高いと予測される場合には、第1給送ローラ83と第1従動ローラ84とのニップ点に粘着紙Pの先端を挟持させ、第1搬送路R1の「記録前処理手段」を経由して粘着紙Pが加熱プラテン53へ搬送されるようにすれば良い。それによって、粘着紙Pの収縮に起因して記録精度が低下する虞を低減させることができるとともに、粘着紙Pの反りに起因してヘッド擦れが生ずる虞も低減させることができる。他方、基材FPの収縮率が許容範囲を超えないと予測される場合、又は粘着紙Pが加熱プラテン53に支持されたときに生ずる粘着紙Pの反りの大きさ及び反りの態様からヘッド擦れが生ずる可能性が低いと予測される場合には、第2給送ローラ86と第2従動ローラ87とのニップ点に粘着紙Pの先端を挟持させ、第2搬送路R2を経由して粘着紙Pが加熱プラテン53へ搬送されるようにすれば良い。
【0091】
第1加熱装置93における加熱温度、第2加熱装置96における加熱温度、第1加熱装置93及び第2加熱装置96による加熱時間等は、様々な条件に基づいて適宜設定することができる。例えば、粘着紙Pの基材FPの種類(材質、構造等)、粘着紙Pの剥離紙RPの種類(材質、構造等)、第1水分測定装置76で測定した基材FPの水分率、第2水分測定装置77で測定した剥離紙RPの水分率に基づいて、適宜設定すれば良い。より具体的には、第1加熱装置93又は第2加熱装置96により加熱されながら搬送される過程で、基材FPの水分率及び剥離紙RPの水分率が目標となる水分率(以下、「目標水分率」と言う。)になるように設定すれば良い。
【0092】
目標水分率は、基材FP又は剥離紙RPの種類や表面の粗さ(表面の凹凸)等によって異なる吸脱湿特性に応じて、基材FP又は剥離紙RPの種類ごとに設定すれば良い。例えば、加熱により水分が蒸発する速度が比較的速い基材FP及び剥離紙RPについては、目標水分率をより低く設定するのが好ましい。他方、加熱により水分が蒸発する速度が比較的遅い基材FP及び剥離紙RPについては、目標水分率を高めに設定しても良い。具体的な一例としては、クラフト紙は2〜3%以下、上質紙は4%以下、光沢紙等のコート紙は5〜6%以下、キャスト紙は5〜7%以下に設定すれば良い。
【0093】
より具体的には、例えばインクジェットプリンタ50において、第1加熱装置93における加熱温度及び第2加熱装置96における加熱温度を変化させながら粘着紙Pに記録を実行する実験を予め行う。そして、第1加熱装置93を通過した後の基材FPの水分率、及び第2加熱装置96を通過した後の剥離紙RPの水分率をそれぞれ測定するとともに、それらが再接着された後の粘着紙Pが加熱プラテン53を通過したときに主ずる反りの大きさ等を確認する。そして、反りの大きさ等が許容範囲内となるときの基材FP及び剥離紙RPの水分率を目標水分率として設定すれば良い。この実験を基材FP又は剥離紙RPの種類ごとに行えば、基材FP又は剥離紙RPの種類ごとに目標水分率を決定することができる。
【0094】
また、粘着紙Pの剥離紙RPがPET等からなるフィルム紙やグラシン紙等である場合には、加熱による剥離紙RPの収縮がほとんど生じないため、基材FPの収縮によって粘着紙Pに凹面状の反りが生じやすくなる。凹面状の反りが生じた粘着紙Pは、加熱プラテン53において浮き上がりを抑制する対策(加熱プラテン53の粘着紙支持面に吸引孔を設ける等)が容易ではない場合が多い。したがって、このような粘着紙Pの場合には、基材FPの目標水分率をより低く設定して、凹面状の反りが極力生じないようにするのが好ましい。他方、粘着紙Pの剥離紙RPがクラフト紙等である場合には、クラフト紙は加熱により水分が蒸発する速度が比較的速いことから、剥離紙RPの収縮によって粘着紙Pに凸面状の反りが生じやすくなる。凸面状の反りが生じた粘着紙Pは、加熱プラテン53において浮き上がりを抑制する対策が比較的容易な場合が多い。したがって、このような粘着紙Pの場合には、剥離紙RPの目標水分率を比較的高めに設定しても良い。
【0095】
さらに第4実施例の変形例としては、第2加熱装置96に代えて、剥離された後の剥離紙RPの水分率を調整するための調湿装置を設けても良い。
【0096】
<第5実施例>
本発明に係るインクジェットプリンタ50の第5実施例について、図8を参照しながら説明する。
【0097】
図8は、インクジェットプリンタ50の第5実施例の要部側面図である。
第5実施例のインクジェットプリンタ50は、加熱プラテン53に支持される前に粘着紙Pの剥離紙RPの水分率を測定するための水分測定装置76、及び加熱プラテン53に支持される前に粘着紙Pの剥離紙RPの水分率を調整するための調湿装置75が設けられている。つまり第5実施例のインクジェットプリンタ50は、調湿装置75及び水分測定装置76の位置が第1実施例と異なっている。それ以外の構成は第1実施例と同様であるため、共通する部分の説明は省略する。
【0098】
記録制御部100は、水分測定装置76により測定した粘着紙Pの剥離紙RPの水分率に基づいて粘着紙Pに対する記録制御を変更する。それによって、加熱プラテン53に支持されたときの剥離紙RPの収縮率に応じて適切な記録制御を実行することが可能になるので、粘着紙Pの剥離紙RPの収縮に起因して記録精度が低下してしまう虞を低減させることができる。また記録制御部100は、水分測定装置76により測定した粘着紙Pの剥離紙RPの水分率に基づいて調湿装置75を制御する。それによって、粘着紙Pの剥離紙RPの水分率を記録実行前に調整することができる。加熱プラテン53に支持されたときの剥離紙RPの収縮を許容範囲内に抑制することが可能になるので、剥離紙RPの収縮に起因して記録精度が低下してしまう虞を低減させることができる。例えば、粘着紙Pが加熱プラテン53に支持されたときに生ずる剥離紙RPの収縮率を小さくするためには、調湿装置75で剥離紙RPを予め加熱して収縮させておけば良い。あるいは、粘着紙Pが加熱プラテン53に支持されたときに剥離紙RPの収縮がほとんど生じない程度に、粘着紙Pが加熱プラテン53に支持される時間等も考慮して、調湿装置75で剥離紙RPを予め充分に加湿するようにしても良い。
【0099】
<第6実施例>
本発明に係るインクジェットプリンタ50の第6実施例について、図9を参照しながら説明する。
【0100】
図9は、インクジェットプリンタ50の第6実施例の要部側面図である。
第6実施例は、前述した第1実施例〜第5実施例のいずれかに加えて、記録実行後の粘着紙Pをロール状に巻き取る粘着紙巻き取り手段、及びロール状に巻き取る前に記録実行後の粘着紙Pに対して所定の処理を行う記録後処理手段をさらに設けたインクジェットプリンタ50である。第1実施例〜第5実施例と共通する部分の説明は省略する。
【0101】
粘着紙巻き取り手段は、排出駆動ローラ101、103、排出従動ローラ102、104、従動案内ローラ105及び粘着紙巻き取り軸106を備えている。
【0102】
排出駆動ローラ101、103は、「記録実行手段」から排出される記録実行後の粘着紙Pを粘着紙巻き取り軸106へ搬送するためのローラであり、図示していないモータの回転駆動力が伝達されて回転する。排出従動ローラ102、104は、排出駆動ローラ101、103の外周面に粘着紙Pを当接させるためのローラであり、回転自在に軸支されている。従動案内ローラ105は、記録実行後の粘着紙Pを粘着紙巻き取り軸106へ案内するためのローラであり、回転自在に軸支されている。粘着紙巻き取り軸106は、記録実行後の粘着紙Pがロール状に巻き付けられる軸である。
【0103】
記録後処理手段は、記録後乾燥装置107、記録後調湿装置108及び記録後水分測定装置109を備えている。
【0104】
記録後乾燥装置107は、「記録実行手段」より下流側に配設されており、記録実行後の粘着紙Pの基材FPに温風を噴射して、基材FPの記録面のインクを乾燥させる装置である。記録後調湿装置108は、記録後乾燥装置107より下流側に配設されており、ロール状に巻き取る前に記録実行後の粘着紙Pの水分率を調整する装置である。記録後水分測定装置109は、記録後調湿装置108より下流側に配設されており、ロール状に巻き取る前に記録実行後の粘着紙Pの水分率を測定するための装置である。
【0105】
記録実行後の粘着紙Pは、まず記録後乾燥装置107から基材FPに温風が噴射されることによって、基材FPの記録面のインクに含まれる溶剤(親水性のある油分等)が気化し、基材FPの記録面のインクを完全に乾燥させることができる。つづいて記録実行後の粘着紙Pは、粘着紙巻き取り軸106に巻き取られる前に、記録後調湿装置108によって水分率の調整が行われる。具体的には、記録後調湿装置108によって、加熱プラテン53による加熱や記録後乾燥装置107による乾燥によって粘着紙Pから失われた水分に相当する量の水分が粘着紙Pへ供給される。例えば、記録後水分測定装置109により測定した水分率が記録実行前に測定した粘着紙Pの水分率(常温、常湿における粘着紙Pの水分率)と略同じ水分率となるように、記録後調湿装置108を制御すれば良い。それによって、粘着紙Pの水分率を記録実行前の状態に戻すことができるので、粘着紙巻き取り軸106に巻き取られた粘着紙Pに巻ずれ等が生ずる虞を低減させることができる。
【0106】
<他の実施例>
本発明は、上記説明した実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれるものであることは言うまでもない。
【0107】
例えば、上記説明した第3実施例のインクジェットプリンタ50においては、給送手段と「記録実行手段」との間に、第1実施例で説明した調湿装置75をさらに設けても良い。テストパターンTPから測定した基材FPの収縮率に基づいて記録制御部100が調湿装置75を制御することによって、粘着紙Pの基材FPの水分率を記録実行前に調整することができる。それによって、加熱プラテン53に支持されたときの基材FPの収縮を抑制して収縮率を許容範囲内に低減させることが可能になるので、基材FPの収縮に起因して記録精度が低下してしまう虞を低減させることができる。
【0108】
例えば、上記説明した第3実施例のインクジェットプリンタ50においては、第1実施例で説明した温度調整装置531をさらに設けても良い。テストパターンTPから測定した基材FPの収縮率に基づいて加熱プラテン53の温度を調整することによって、加熱プラテン53に支持されたときの基材FPの収縮を許容範囲内に抑制することが可能になる。それによって、基材FPの収縮に起因して記録精度が低下してしまう虞を低減させることができる。
【0109】
例えば、上記説明した第3実施例のインクジェットプリンタ50においては、第1実施例で説明した調湿装置75及び温度調整装置531を両方設けても良い。
【0110】
また上記第1実施例〜第6実施例では、水性インクを使用するインクジェットプリンタ50を例示して説明したが、本発明は、加熱プラテンを備えた記録装置の全てにおいて適用可能である。例えば、熱溶融性固形インクを使用するインクジェットプリンタにおいても本発明は実施可能であり、本発明による作用効果を得ることができるのは言うまでもないことである。また本発明を実施可能な記録装置としては、上記第1実施例〜第6実施例に例示して説明した構成のインクジェットプリンタ50の他、例えば、被記録材を副走査方向Yへ移動させることによって副走査方向Yのヘッド走査を行う方式のシリアルヘッド型インクジェットプリンタ、さらには公知のラインヘッド型インクジェットプリンタ等の記録装置も含まれる。
【符号の説明】
【0111】
50 インクジェットプリンタ、51 第1搬送駆動ローラ、52 第1搬送従動ローラ、53 加熱プラテン、54 第2搬送駆動ローラ、55 第2搬送従動ローラ、61 キャリッジ、62 記録ヘッド、64 Y方向可動ユニット、66 センサ、71 粘着紙支持軸、72 従動案内ローラ、73 給送ローラ、74 従動ローラ、75 調湿装置、76 水分測定装置、91 剥離部材、92 剥離紙搬送ローラ、93 加熱装置、94 第1再接着ローラ、95 第2再接着ローラ、100 記録制御部、101、103 排出駆動ローラ、102、104 排出従動ローラ、105 従動案内ローラ、106 粘着紙巻き取り軸、107 記録後乾燥装置、108 記録後調湿装置、109 記録後水分測定装置、531 温度調節装置、P 粘着紙、FP 基材、RP 剥離紙、X 主走査方向、Y 副走査方向、YF 搬送方向


【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱プラテンに支持される被記録材に記録ヘッドからインクを噴射して記録を実行する記録実行手段と、
前記記録実行手段を制御する制御装置と、を備えた記録装置において、
前記加熱プラテンに支持される前の被記録材の水分率を測定するための水分測定装置を備え、
前記制御装置は、前記水分測定装置により測定した被記録材の水分率に基づいて当該被記録材に対する記録制御を変更する、ことを特徴とした記録装置。
【請求項2】
請求項1に記載の記録装置において、前記制御装置は、前記水分測定装置により測定した被記録材の水分率から前記加熱プラテンで支持されたときの当該被記録材の収縮率を予測し、予測した当該被記録材の収縮率に基づいて、当該被記録材に記録を実行するか中止するかを選択する、ことを特徴とした記録装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の記録装置において、前記加熱プラテンの温度を調整する温度調整装置を備え、
前記制御装置は、前記水分測定装置により測定した被記録材の水分率に基づいて前記加熱プラテンの温度を調整する、ことを特徴とした記録装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の記録装置において、前記制御装置は、前記水分測定装置により測定した被記録材の水分率から前記加熱プラテンで支持されたときの当該被記録材の収縮率を予測し、予測した当該被記録材の収縮率に基づいて、前記記録ヘッドから噴射するインクが当該被記録材の本来着弾すべき位置に着弾するように、当該被記録材に対するインク噴射タイミングを調整する、ことを特徴とした記録装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の記録装置において、前記制御装置は、前記水分測定装置により測定した被記録材の水分率から前記加熱プラテンで支持されたときの当該被記録材の収縮率を予測し、予測した当該被記録材の収縮率に基づいて、前記記録ヘッドから噴射するインクが当該被記録材の本来着弾すべき位置に着弾するように、当該被記録材に対する相対的なインク噴射位置を調整する、ことを特徴とした記録装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の記録装置において、前記制御装置は、前記水分測定装置により測定した被記録材の水分率と当該被記録材の種類に基づいて、当該被記録材に対する記録制御を変更する、ことを特徴とした記録装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−105389(P2010−105389A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188640(P2009−188640)
【出願日】平成21年8月17日(2009.8.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】