説明

記録装置

【課題】排出口から被記録材の排出経路を介して記録実行手段へ手差しで被記録材を給送することを可能にする手差し給送装置を備えた記録装置において、手差し給送装置を介して被記録材を手差し給送する際に、その被記録材に折れ曲がりや損傷等が生ずる虞を低減させる。
【解決手段】手差し給送用トレイ23の変位により、手差し給送用トレイ23の凸部232による補助トレイ25の係止が解除され、コイルバネ255のバネ力によって補助トレイ25が符号Dで示した方向へ変位して排出経路Paに進出する。第1位置にある手差し給送用トレイ23と第2排出駆動ローラー15との間に、補助トレイ25の支持面部251により記録紙の支持面が構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被記録材の記録面に記録を実行する記録実行手段と、記録実行後の被記録材を排出口から排出する排出装置と、排出口から被記録材の排出経路を介して記録実行手段へ手差しで被記録材を給送することを可能にする手差し給送装置とを備えた記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆるインクジェットプリンター等の記録装置には、普通紙や写真用紙等の被記録材を記録実行手段へ給送するための自動給送装置が設けられている。しかしボード紙や厚紙等の被記録材又はディスク用トレイ等は、撓ませることができないため、一般的な自動給送装置では記録実行手段へ給送することが困難な場合が多い。このような課題を解決可能な従来技術の一例としては、記録実行後の被記録材が排出される排出口から排出経路を介して、ボード紙や厚紙等の被記録材又はディスク用トレイ等を手差し挿入により記録実行手段へ給送することを可能にする手差し給送装置を備えた記録装置が公知である(例えば特許文献1又は2を参照)。このような手差し給送装置を備えた記録装置によれば、自動給送装置では給送することが困難なボード紙や厚紙等の被記録材(以下、「厚紙等」という。)にも記録を実行することが可能になる。また、ディスク用トレイに装着した光ディスクのレーベル面に記録を実行することも可能になる。
【0003】
上記のような手差し給送装置を備えた記録装置の一例としては、記録装置の前面の排出口近傍に揺動可能に支持された手差し給送用トレイを備えたものが公知である(例えば特許文献1を参照)。この手差し給送用トレイは、厚紙等を記録実行手段へ手差し挿入する際に、その厚紙等を裏面側から支持するためのものである。例えば特許文献1に開示されている記録装置において手差し給送用トレイは、通常時には立位姿勢で保持されている。そして手差し給送時には、ユーザーが手差し給送用トレイを手前側へ揺動させることによって、その手差し給送用トレイにより、排出装置より排出方向の下流側に被記録材の支持面が構成される。ユーザーは、その手差し給送用トレイの載置面に厚紙等を載置するとともに、その載置面に沿って厚紙等を記録装置内部へ向けて押し入れることによって、排出口から排出経路を介して厚紙等を手差し給送することを簡単かつ正確に行うことができる。
【0004】
また手差し給送装置を備えた記録装置の一例としては、記録装置内部に退避した状態と被記録材の排出口から進出した状態とをとり得るようにスライド可能に手差し給送用トレイが設けられたものが公知である(例えば特許文献2を参照)。例えば特許文献2に開示されている記録装置の手差し給送用トレイは、記録装置内部に退避した状態でプッシュラッチ機構により係止されている。手差し給送時には、記録装置内部に退避した状態にある手差し給送用トレイの先端を押動する操作をユーザーが行うことによって、プッシュラッチ機構による手差し給送用トレイの係止が解除される。それによって手差し給送用トレイは、付勢手段の付勢力により、被記録材の排出口から進出した状態となる位置へ変位し、その手差し給送用トレイによって、排出装置より排出方向の下流側に被記録材の支持面が構成される。ユーザーは、その手差し給送用トレイの載置面に厚紙等を載置するとともに、その載置面に沿って厚紙等を記録装置内部へ向けて押し入れることによって、排出口から排出経路を介して厚紙等を手差し給送することを簡単かつ正確に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−226590号公報
【特許文献2】特開2006−088657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように可動式の手差し給送用トレイを設けた手差し給送装置は、手差し給送用トレイを使用することにより簡単かつ正確に厚紙等の手差し給送を行うことできるとともに、使用しないときには手差し給送用トレイを記録装置にコンパクトに収納することができるという利点がある。
【0007】
しかしながら可動式の手差し給送用トレイを設けた従来の手差し給送装置は、その構造上、排出装置より排出方向の下流側に手差し給送用トレイが被記録材の支持面を構成する状態において、その手差し給送用トレイと被記録材の排出装置との間隔が広くなりやすい。これは、手差し給送用トレイが可動範囲において排出装置や他の構成要素に干渉することを回避しつつ、手差し給送用トレイの良好な操作感を実現する上では、この間隔を小さくすることが実際上困難な場合が多いことによるものである。そして厚紙等の被記録材を手差し給送する際に、その厚紙等の被記録材の先端が手差し給送用トレイと排出装置との間に入り込んで引っ掛かってしまい、その被記録材に折れ曲がりや損傷等が生ずる虞がある。この手差し給送時における被記録材の引っ掛かりは、腰が弱く先端の垂れ下がりが生じやすい被記録材を手差し給送する際に特に生じやすくなる。
【0008】
本発明は、このような状況に鑑み成されたものであり、本発明に係る幾つかの態様が解決する課題は、排出口から被記録材の排出経路を介して記録実行手段へ手差しで被記録材を給送することを可能にする手差し給送装置を備えた記録装置において、手差し給送装置を介して被記録材を手差し給送する際に、その被記録材に折れ曲がりや損傷等が生ずる虞を低減させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様は、被記録材の記録面に記録を実行する記録実行手段と、記録実行後の被記録材を排出口から排出する排出装置と、前記排出口から被記録材の排出経路を介して前記記録実行手段へ手差しで被記録材を給送することを可能にする手差し給送装置と、を備えた記録装置であって、前記手差し給送装置は、前記排出装置より排出方向の下流側に被記録材の支持面を構成する第1位置と所定の収納位置である第2位置とをとり得るように変位可能に設けられた手差し給送用トレイと、前記第2位置から前記第1位置への前記手差し給送用トレイの変位に連動して前記排出経路に進出し、前記第1位置にある前記手差し給送用トレイと前記排出装置との間に被記録材の支持面を構成する補助トレイと、を有する、ことを特徴とした記録装置である。
【0010】
手差し給送用トレイが排出装置より排出方向の下流側に被記録材の支持面を構成する状態(第1位置に変位させた状態)においては、補助トレイによって、その手差し給送用トレイと排出装置との間に被記録材の支持面が構成される。それによって、被記録材を手差し給送する際に、その被記録材が手差し給送用トレイと被記録材の排出装置との間に引っ掛かってしまうことを防止することができる。また補助トレイは、第2位置から第1位置への手差し給送用トレイの変位に連動して、被記録材の排出経路(手差し給送時には手差し給送経路となる経路)に進出する。すなわち、手差し給送用トレイを用いて被記録材の手差し給送を行わない状態(手差し給送用トレイを第2位置に変位させた状態)では、補助トレイは排出経路から退避した位置にあるため、排出装置による被記録材の排出が補助トレイによって妨げられることはない。
【0011】
これにより本発明の第1の態様に記載の記録装置によれば、排出口から被記録材の排出経路を介して記録実行手段へ手差しで被記録材を給送することを可能にする手差し給送装置を備えた記録装置において、手差し給送装置を介して被記録材を手差し給送する際に、その被記録材に折れ曲がりや損傷等が生ずる虞を低減させることができるという作用効果が得られる。
【0012】
本発明の第2の態様は、前述した第1の態様に記載の記録装置において、前記手差し給送装置は、前記第1位置にある前記手差し給送用トレイと前記排出装置との間に進出する方向へ前記補助トレイを付勢する付勢手段を有し、前記手差し給送用トレイが前記第2位置にあるときは、前記手差し給送用トレイが前記付勢手段の付勢力に抗して、前記排出経路から退避した位置に前記補助トレイを係止し、前記第2位置から前記第1位置へ前記手差し給送用トレイが変位することにより、前記手差し給送用トレイによる前記補助トレイの係止が解除され、前記付勢手段の付勢力によって前記補助トレイが前記排出経路に進出する、ことを特徴とした記録装置である。
【0013】
このような特徴によれば、手差し給送用トレイが補助トレイと直接係合して補助トレイを変位させる構成であるため、簡易な構成で低コストに本発明に係る記録装置を実現することができる。
【0014】
本発明の第3の態様は、前述した第1の態様に記載の記録装置において、前記手差し給送装置は、前記手差し給送用トレイの被記録材の支持面に沿う方向へ変位可能に前記補助トレイが前記手差し給送用トレイに支持されており、所定の変位軌跡で変位可能に前記手差し給送用トレイを支持する支持部と、前記手差し給送用トレイの変位軌跡に沿って前記支持部に設けられた第1ラックと、前記手差し給送用トレイに軸支され、前記第1ラックと噛合する第1ピニオン歯車と、前記手差し給送用トレイに軸支され、前記第1ピニオン歯車と噛合する逆転歯車と、前記手差し給送用トレイに軸支され、前記逆転歯車と一体的に回転する第2ピニオン歯車と、前記補助トレイに形成され、前記第2ピニオン歯車と噛合する第2ラックと、を有する、ことを特徴とした記録装置である。
【0015】
第1ラックは、手差し給送用トレイの変位軌跡に沿って支持部に設けられており、第1ピニオン歯車は、その第1ラックと噛合している。そのため、手差し給送用トレイの変位に連動して第1ピニオン歯車が回転する。そして、その第1ピニオン歯車の回転は、逆転歯車により逆方向の回転となって第2ピニオン歯車に伝達される。補助トレイは、その第2ピニオン歯車の回転に連動して、手差し給送用トレイの被記録材の支持面に沿う方向へ変位する。したがって補助トレイは、手差し給送用トレイの変位方向と相反する方向へ変位することとなる。
【0016】
すなわち、手差し給送用トレイと排出装置との間隔が広がっていく方向へ手差し給送用トレイを変位させるときには、補助トレイは、その手差し給送用トレイと排出装置との間に進出する方向へ変位する。他方、手差し給送用トレイと排出装置との間隔が狭くなっていく方向へ手差し給送用トレイを変位させるときには、補助トレイは、手差し給送用トレイと排出装置との間から退避する方向へ変位する。したがって、本来は第1位置にあるべき手差し給送用トレイの位置に多少のずれが生じても、補助トレイの先端(進出方向の端部)と排出装置との間隔を常に一定以下にすることが可能になる。
【0017】
また補助トレイは、手差し給送用トレイに支持されているため、手差し給送用トレイの変位に伴って手差し給送用トレイと一体的に変位する。したがって手差し給送用トレイと排出装置との間には、手差し給送用トレイの変位位置にかかわらず、常に手差し給送用トレイの支持面に連続する支持面を補助トレイにより構成することができる。
【0018】
本発明の第4の態様は、前述した第1〜第3の態様のいずれかに記載の記録装置において、前記補助トレイは、被記録材の支持面に従動回転可能に設けられた補助ローラーを有する、ことを特徴とした記録装置である。
【0019】
このような特徴によれば、手差し給送装置を使用して排出口から被記録材の排出経路を介して記録実行手段へ手差しで被記録材を給送する際に、その被記録材が補助トレイの支持面に引っ掛かってしまう虞を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】インクジェットプリンターの外観斜視図。
【図2】インクジェットプリンターの要部側面図。
【図3】斜め前方から観たインクジェットプリンターの要部斜視図(第1実施例)。
【図4】斜め前方から観たインクジェットプリンターの要部斜視図(第1実施例)。
【図5】斜め後方から観たインクジェットプリンターの要部斜視図(第1実施例)。
【図6】斜め後方から観たインクジェットプリンターの要部斜視図(第1実施例)。
【図7】インクジェットプリンターの要部側面図(第1実施例)。
【図8】斜め後方から観たインクジェットプリンターの要部斜視図(第2実施例)。
【図9】斜め後方から観たインクジェットプリンターの要部斜視図(第2実施例)。
【図10】インクジェットプリンターの要部側面図(第2実施例)。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
尚、本発明は、以下説明する実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれるものであることは言うまでもない。
【0022】
<インクジェットプリンター1の構成>
まず、「記録装置」としてのインクジェットプリンター1の構成について、図1及び図2を参照しながら説明する。
【0023】
図1は、インクジェットプリンター1の外観斜視図である。
インクジェットプリンター1の外装10の前面側には、開閉カバー2、操作パネル4及び排出口5が設けられている。排出口5は、記録実行後の「被記録材」としての記録紙Pが排出され、開閉カバー2は、その排出口5を開閉可能に設けられている。操作パネル4は、インクジェットプリンター1を操作するための複数の操作ボタン及びインクジェットプリンター1の操作状態等を表示する表示部とを含む。またインクジェットプリンター1の後面側には、公知の自動給送装置により記録紙Pを給送する際に記録紙Pを載置するための給送用トレイ3が設けられている。
【0024】
排出口5の内側の下方には、第1トレイ部21及び第2トレイ部22からなる多段スライド構造体が配設されており、開閉カバー2は、その第2トレイ部22の先端に揺動可能に支持されている。記録紙Pに記録を実行する際には、まず開閉カバー2を符号Aで示した方向へ開き、その状態から開閉カバー2を符号Bで示した方向へ引くことにより第1トレイ部21及び第2トレイ部22を符号Bで示した方向へ引き出した状態とする。この状態おいて、排出口5から排出される記録実行後の記録紙Pは、開閉カバー2、第1トレイ部21及び第2トレイ部22により構成される排出トレイに積重される。
【0025】
また排出口5の上方には、手差し給送用トレイ23が変位可能に設けられている。「手差し給送装置」を構成する手差し給送用トレイ23は、排出口5から記録紙Pの排出経路を介して記録実行手段へ厚紙等の記録紙Pを手差しで給送する際に使用され、符号Cで示した方向へ引き出した状態で使用可能な状態となる。
【0026】
図2は、インクジェットプリンター1の要部側面図である。
インクジェットプリンター1は、記録紙Pに記録を実行する「記録実行手段」として、搬送駆動ローラー11、搬送従動ローラー12、記録紙支持部材13及びキャリッジ31を備えている。搬送駆動ローラー11は、外周面に高摩擦被膜が施されており、図示していない搬送用モーターの回転駆動力が伝達されて回転する。搬送従動ローラー12は、従動回転可能にローラーホルダー121に軸支され、ねじりコイルバネ122のバネ力により搬送駆動ローラー11に当接する方向へ付勢されている。記録紙支持部材13は記録紙Pを裏面側から支持する。キャリッジ31の底部に設けられた記録ヘッド311のヘッド面と記録紙Pの記録面(記録が実行される面。以下同じ。)との間隔は、この記録紙支持部材13によって一定の間隔に維持される。
【0027】
キャリッジ31は、底部に記録ヘッド311が設けられており、キャリッジガイド軸32及びガイドフレーム33によって主走査方向Xへ往復動可能に支持されている。ここで主走査方向Xは、記録紙支持部材13に支持された状態の記録紙Pの記録面に沿って副走査方向Y(記録紙Pの搬送方向)と交差する方向である。キャリッジガイド軸32は、主走査方向Xに沿って配設された金属軸体からなる部品であり、キャリッジ31の軸受部312を軸支する。ガイドフレーム33は、金属板を曲げ加工等して形成された部品であり、主走査方向Xに沿って配設され、キャリッジ31の被当接部313と摺接係合する。キャリッジ31の背面には、公知のリニアスケールセンサー314が配設されている。
【0028】
キャリッジ31は、キャリッジ駆動用モーター34の駆動プーリー341と従動プーリー35との間に掛架された無端ベルト(図示せず)が連結されている。キャリッジ31は、キャリッジ駆動用モーター34の回転駆動力で無端ベルトを双方向回転させることによって主走査方向Xへ往復動する。記録ヘッド311は、記録紙支持部材13に支持された状態の記録紙Pの記録面にヘッド面が対面するようにキャリッジ31に搭載されている。記録ヘッド311のヘッド面には、記録紙Pの記録面にインクを噴射してドットを形成するための多数の噴射ノズルが配設されている(図示せず)。記録紙Pの記録面に噴射するためのインクは、インクチューブ36を介して記録ヘッド311に供給される。
【0029】
インクジェットプリンター1は、記録実行後の記録紙Pを排出する「排出装置」として、第1排出駆動ローラー14、第2排出駆動ローラー15、第1排出従動ローラー16、第2排出従動ローラー17及び第3排出従動ローラー18を備えている。
第1排出駆動ローラー14及び第2排出駆動ローラー15は、図示していない搬送用モーターの回転駆動力が伝達されて回転する。第1排出従動ローラー16、第2排出従動ローラー17及び第3排出従動ローラー18は、従動回転可能にローラー支持フレーム24に軸支されている。第1排出従動ローラー16は、第1排出駆動ローラー14より上流側に配設され、記録実行後の記録紙Pを第1排出駆動ローラー14の外周面へ案内する。第2排出従動ローラー17は、第1排出駆動ローラー14の外周面に当接可能な位置に配設され、記録実行後の記録紙Pを第1排出駆動ローラー14の外周面に当接させる。第3排出従動ローラー18は、第2排出駆動ローラー15の外周面に当接可能な位置に配設され、記録実行後の記録紙Pを第2排出駆動ローラー15の外周面に当接させる。
【0030】
このような構成のインクジェットプリンター1において記録紙Pは、搬送駆動ローラー11と搬送従動ローラー12とで挟持され、搬送駆動ローラー11の駆動回転によって記録紙支持部材13上を副走査方向Yへ搬送される。記録紙支持部材13上の記録紙Pは、キャリッジ31が主走査方向Xへ往復動しながら記録ヘッド311のヘッド面から記録面にインクを噴射してドットを形成する動作と、搬送駆動ローラー11の駆動回転により所定の搬送量で副走査方向Yへ搬送される動作とが交互に繰り返されることによって、記録面に記録が実行される。そして、記録面に記録が実行された記録紙Pは、第1排出駆動ローラー14及び第2排出駆動ローラー15の駆動回転によって、副走査方向Yへ搬送されて排出口5から排出され、排出トレイ(開閉カバー2、第1トレイ部21及び第2トレイ部22)に積重される。これらの一連の記録制御は、公知のマイコン制御回路を有する制御装置(図示せず)により実行される。
【0031】
<第1実施例>
本発明に係るインクジェットプリンター1の第1実施例について、図3〜図7を参照しながら説明する。
図3及び図4は、斜め前方から観たインクジェットプリンター1の要部斜視図であり、図3は手差し給送用トレイ23が内部に収容された状態、図4は手差し給送用トレイ23が排出口5から進出して使用可能な状態をそれぞれ図示したものである。図5及び図6は、斜め後方から観たインクジェットプリンター1の要部斜視図であり、図5は手差し給送用トレイ23が内部に収容された状態、図6は手差し給送用トレイ23が排出口5から進出して使用可能な状態をそれぞれ図示したものである。図7は、インクジェットプリンター1の要部側面図である。
【0032】
まず第1実施例の「手差し給送装置」の構成について説明する。第1実施例の「手差し給送装置」は、手差し給送用トレイ23、補助トレイ25及び2つのトレイ支持部材26を有している。
【0033】
手差し給送用トレイ23は、厚紙等の記録紙Pを手差し給送する際にその記録紙Pを支持する支持面部231を有している。手差し給送用トレイ23の主走査方向Xの両端には、凸部232が形成されている。また、手差し給送用トレイ23には回転軸27が軸支されている。回転軸27は、手差し給送用トレイ23の主走査方向Xの両端から突出しており、その両端にはピニオン歯車28が取り付けられている。
【0034】
補助トレイ25は、支持面部251、第1腕部253及び第2腕部256を有している。支持面部251は、厚紙等の記録紙Pを手差し給送する際にその記録紙Pを支持する面である。支持面部251には、2つの補助ローラー252が従動回転可能に軸支されている。第1腕部253は、支持面部251の下側に支持面部251と交差する方向へ延出している。第2腕部256は、支持面部251に略沿う方向へ第1腕部253から延出しており、先端近傍に凸部257が形成されている。第1腕部253と第2腕部256の間には、バネ係止部254が形成されている。
【0035】
「支持部」としてのトレイ支持部材26は、手差し給送用トレイ23及び補助トレイ25の主走査方向Xの両外側に配設されている。トレイ支持部材26は、ラック261、第1ガイド孔262、第2ガイド孔263、第3ガイド孔264、バネ係止部265及び補助トレイ係止部266を有している。第1ガイド孔262及び第2ガイド孔263は、手差し給送用トレイ23を変位可能に支持する。ラック261は、第1ガイド孔262の近傍に第1ガイド孔262に沿って形成されている。第3ガイド孔264は、補助トレイ25を変位可能に支持する。補助トレイ係止部266は、補助トレイ25の可動範囲において補助トレイ25の第1腕部253が当接し、その状態で補助トレイ25の姿勢を規制するために設けられている。
【0036】
手差し給送用トレイ23は、トレイ支持部材26の第1ガイド孔262に回転軸27が挿通され、トレイ支持部材26の第2ガイド孔263に凸部232が挿通された状態で、トレイ支持部材26に支持されている。つまり手差し給送用トレイ23は、第1ガイド孔262及び第2ガイド孔263の形状に沿って変位可能にトレイ支持部材26に支持されている。それによって手差し給送用トレイ23は、第1排出駆動ローラー14及び第2排出駆動ローラー15より副走査方向Yの下流側に記録紙Pの支持面が支持面部231により構成される位置(以下、「第1位置」という。)と所定の収納位置(以下、「第2位置」という。)とをとり得るように変位可能に支持される。
【0037】
またピニオン歯車28は、トレイ支持部材26のラック261と噛合している。つまり、トレイ支持部材26の第1ガイド孔262及び第2ガイド孔263の形状に沿って手差し給送用トレイ23が変位する際には、2つのピニオン歯車28及び回転軸27が一体となって符号Eで示した方向へ回転しながら転動する。それによって、手差し給送用トレイ23が変位する際の負荷が軽減され、手差し給送用トレイ23を滑らかに変位させることが可能になる。
【0038】
補助トレイ25は、トレイ支持部材26の第3ガイド孔264に第1腕部253の凸部257が挿通された状態でトレイ支持部材26に支持されている。つまり補助トレイ25は、第3ガイド孔264の形状に沿って変位可能にトレイ支持部材26に支持されている。また、補助トレイ25のバネ係止部254とトレイ支持部材26のバネ係止部265との間には、「付勢手段」としてのコイルバネ255が掛架されている。補助トレイ25は、そのコイルバネ255のバネ力によって符号Fで示した方向へ付勢されている。つまりコイルバネ255は、第1位置にある手差し給送用トレイ23と第2排出駆動ローラー15との間に進出する方向へ補助トレイ25を付勢している。
【0039】
つづいて第1実施例の「手差し給送装置」の動作について説明する。
【0040】
手差し給送用トレイ23が第2位置にある状態(図3、図5及び図7(a)に図示した状態)では、第1排出駆動ローラー14及び第2排出駆動ローラー15による記録実行後の記録紙Pの排出経路Pa(手差し給送時には手差し給送経路となる経路)より上方に手差し給送用トレイ23が退避した状態となる。この手差し給送用トレイ23が第2位置にある状態は、図示していない公知のプッシュラッチ機構を利用したロック機構により保持される。またこの状態においては、コイルバネ255のバネ力に抗して、手差し給送用トレイ23の凸部232が補助トレイ25を上方へ押し上げた状態となる。それによって補助トレイ25は、記録実行後の記録紙Pの排出経路Paより上方に退避した位置に係止された状態となる(図7(a))。
【0041】
すなわち手差し給送用トレイ23が所定の収納位置(第2位置)にある状態では、手差し給送用トレイ23及び補助トレイ25は、いずれも記録実行後の記録紙Pの排出経路Paより上方に退避した状態となる。したがって、この状態においては、手差し給送用トレイ23及び補助トレイ25によって妨げられることなく、記録実行後の記録紙Pの排出が可能な状態となる。
【0042】
手差し給送用トレイ23が第2位置にある状態から、手差し給送用トレイ23を押し込むプッシュ操作を行うことによって、プッシュラッチ機構を利用したロック機構のロックが解除される。手差し給送用トレイ23は、補助トレイ25を介して作用するコイルバネ255のバネ力によって、符号Cで示した方向へ変位して第1位置へ移動する。それによって、第1排出駆動ローラー14及び第2排出駆動ローラー15より副走査方向Yの下流側に、手差し給送用トレイ23の支持面部231により記録紙Pの支持面が構成される(図4、図6及び図7(b)に図示した状態)。この状態においては、その手差し給送用トレイ23の支持面部231に厚紙等の記録紙Pを載置するとともに、その支持面部231に沿って厚紙等の記録紙Pをインクジェットプリンター1の内部へ向けて手差し給送方向YRへ押し入れることが可能な状態となる。それによって、排出口5から排出経路Paを介して厚紙等の記録紙Pを手差し給送することを簡単かつ正確に行うことができる。
【0043】
また、その手差し給送用トレイ23の変位により、手差し給送用トレイ23の凸部232による補助トレイ25の係止が解除される。それによって、コイルバネ255のバネ力により補助トレイ25が符号Dで示した方向へ変位して排出経路Paに進出する。すなわち、第1位置にある手差し給送用トレイ23と第2排出駆動ローラー15との間に、補助トレイ25の支持面部251により記録紙Pの支持面が構成される。それによって、厚紙等の記録紙Pを手差し給送方向YRへ押し入れて手差し給送する際に、その記録紙Pが手差し給送用トレイ23と第2排出駆動ローラー15との間に引っ掛かってしまうことを防止することができる。
【0044】
このようにして本発明によれば、手差し給送用トレイ23を介して記録紙Pを手差し給送する際に、その記録紙Pに折れ曲がりや損傷等が生ずる虞を低減させることができる。
【0045】
また補助トレイ25の支持面部251には、当該実施例のように、2つの補助ローラー252を従動回転可能に設けるのが好ましい。これは本発明に必須の構成要素ではないが、このような補助ローラー252を設けることによって、手差し給送用トレイ23を介して記録紙Pを手差し給送する際に、その記録紙Pに折れ曲がりや損傷等が生ずる虞をさらに低減させることができる。
【0046】
さらに、排出経路Paから退避した状態(図7(a))にある補助トレイ25は、記録実行後の記録紙Pが排出経路Paに沿って副走査方向Yへ排出される際に、その排出される記録紙Pのガイド部材として機能させることもできる。つまり、排出経路Paから退避した位置にある補助トレイ25の裏面(支持面部251の裏側)によって、例えば上向きの反りが生じていることに起因して本来の排出経路Paから逸脱しようとする記録実行後の記録紙Pを本来の排出経路Paへ案内することもできる。より具体的には、例えば補助トレイ25の退避位置を排出経路Paに干渉しない範囲で排出経路Paの上側直近に設定すればよい。それによって、記録紙Pが本来の排出経路Paから逸脱して紙ジャム等が生ずる虞を低減させることができる。さらに、補助トレイ25の支持面部251及びその裏面のいずれにおいても記録紙Pに接触可能に前記の補助ローラー252を配設し、本来の排出経路Paから逸脱しようとする記録紙Pが補助ローラー252に接して本来の排出経路Paへ案内されるようにしても良い。
【0047】
<第2実施例>
本発明に係るインクジェットプリンター1の第2実施例について、図8〜図10を参照しながら説明する。
図8及び図9は、斜め後方から観たインクジェットプリンター1の要部斜視図であり、図8は手差し給送用トレイ23が内部に収容された状態、図9は手差し給送用トレイ23が排出口5から進出して使用可能な状態をそれぞれ図示したものである。図10は、インクジェットプリンター1の要部側面図である。
【0048】
まず第2実施例の「手差し給送装置」の構成について説明する。第2実施例の「手差し給送装置」は、第1実施例の補助トレイ25に代えてスライド式補助トレイ29を有している。また第2実施例の「手差し給送装置」は、手差し給送用トレイ23の変位に連動して、その変位方向と相反する方向へスライド式補助トレイ29をスライドさせるための逆転歯車41及び第2ピニオン歯車43を有している。
尚、これ以外の構成については第1実施例と同様であるため説明を省略し、以下、第1実施例と相違する部分を中心に説明する。
【0049】
「補助トレイ」としてのスライド式補助トレイ29は、手差し給送用トレイ23の支持面部231に沿う方向へスライド変位可能に手差し給送用トレイ23に支持されている。逆転歯車41は、手差し給送用トレイ23に軸支されており(支持構造は図示省略)、ピニオン歯車28(第1ピニオン歯車)と噛合している。第2ピニオン歯車43は、手差し給送用トレイ23に軸支されており(支持構造は図示省略)、連結軸42によって、一体的に回転可能に逆転歯車41と連結されている。またスライド式補助トレイ29には、第2ピニオン歯車43と噛合する第2ラック291が形成されている。
【0050】
前記の通り、ラック261(第1ラック)は、手差し給送用トレイ23の変位軌跡に沿ってトレイ支持部材26に設けられており、ピニオン歯車28(第1ピニオン歯車)は、そのラック261と噛合している。そのため、手差し給送用トレイ23の変位(符号C)に連動してピニオン歯車28が回転(符号G)する。そして、そのピニオン歯車28の回転は、逆転歯車41により逆方向の回転(符号H)となって第2ピニオン歯車43に伝達される。スライド式補助トレイ29は、その第2ピニオン歯車43の回転(符号J)に連動して、手差し給送用トレイ23の支持面部231に沿う方向(符号K)へ変位する。したがってスライド式補助トレイ29は、手差し給送用トレイ23の変位方向と相反する方向へ変位することとなる。
【0051】
すなわち、手差し給送用トレイ23と第2排出駆動ローラー15との間隔が広がっていく方向へ手差し給送用トレイ23を変位させるときには、スライド式補助トレイ29は、その手差し給送用トレイ23と第2排出駆動ローラー15との間に進出する方向(符号K)へ変位する。他方、手差し給送用トレイ23と第2排出駆動ローラー15との間隔が狭くなっていく方向へ手差し給送用トレイ23を変位させるときには、スライド式補助トレイ29は、手差し給送用トレイ23と第2排出駆動ローラー15との間から退避する方向(符号Kで示した方向と逆方向)へ変位する。したがって、本来は第1位置にあるべき手差し給送用トレイ23の位置に多少のずれが生じても、スライド式補助トレイ29の先端(進出方向Kの端部)と第2排出駆動ローラー15との間隔を常に一定以下にすることが可能になる。
【0052】
またスライド式補助トレイ29は、手差し給送用トレイ23に支持されているため、手差し給送用トレイ23の変位に伴って手差し給送用トレイ23と一体的に変位する。したがって手差し給送用トレイ23と第2排出駆動ローラー15との間には、手差し給送用トレイ23の変位位置にかかわらず、常に手差し給送用トレイ23の支持面部231に連続する支持面をスライド式補助トレイ29により構成することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 インクジェットプリンター、23 手差し給送用トレイ、25 補助トレイ、26 トレイ支持部材、27 回転軸、28 ピニオン歯車(第1ピニオン歯車)、29 スライド式補助トレイ、41 逆転歯車、42 連結軸、43 第2ピニオン歯車、231 手差し給送用トレイの支持面部、232 凸部、251 補助トレイの支持面部、252 補助ローラー、253 第1腕部、254 バネ係止部、255 コイルバネ、256 第2腕部、257 凸部、261 ラック(第1ラック)、262 第1ガイド孔、263 第2ガイド孔、264 第3ガイド孔、265 バネ係止部、266 補助トレイ係止部、291 第2ラック、P 記録紙、Pa 排出経路、X 主走査方向、Y 副走査方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被記録材の記録面に記録を実行する記録実行手段と、
記録実行後の被記録材を排出口から排出する排出装置と、
前記排出口から被記録材の排出経路を介して前記記録実行手段へ手差しで被記録材を給送することを可能にする手差し給送装置と、を備えた記録装置であって、
前記手差し給送装置は、前記排出装置より排出方向の下流側に被記録材の支持面を構成する第1位置と所定の収納位置である第2位置とをとり得るように変位可能に設けられた手差し給送用トレイと、
前記第2位置から前記第1位置への前記手差し給送用トレイの変位に連動して前記排出経路に進出し、前記第1位置にある前記手差し給送用トレイと前記排出装置との間に被記録材の支持面を構成する補助トレイと、を有する、ことを特徴とした記録装置。
【請求項2】
請求項1に記載の記録装置において、前記手差し給送装置は、前記第1位置にある前記手差し給送用トレイと前記排出装置との間に進出する方向へ前記補助トレイを付勢する付勢手段を有し、
前記手差し給送用トレイが前記第2位置にあるときは、前記手差し給送用トレイが前記付勢手段の付勢力に抗して、前記排出経路から退避した位置に前記補助トレイを係止し、
前記第2位置から前記第1位置へ前記手差し給送用トレイが変位することにより、前記手差し給送用トレイによる前記補助トレイの係止が解除され、前記付勢手段の付勢力によって前記補助トレイが前記排出経路に進出する、ことを特徴とした記録装置。
【請求項3】
請求項1に記載の記録装置において、前記手差し給送装置は、前記手差し給送用トレイの被記録材の支持面に沿う方向へ変位可能に前記補助トレイが前記手差し給送用トレイに支持されており、
所定の変位軌跡で変位可能に前記手差し給送用トレイを支持する支持部と、
前記手差し給送用トレイの変位軌跡に沿って前記支持部に設けられた第1ラックと、
前記手差し給送用トレイに軸支され、前記第1ラックと噛合する第1ピニオン歯車と、
前記手差し給送用トレイに軸支され、前記第1ピニオン歯車と噛合する逆転歯車と、
前記手差し給送用トレイに軸支され、前記逆転歯車と一体的に回転する第2ピニオン歯車と、
前記補助トレイに形成され、前記第2ピニオン歯車と噛合する第2ラックと、を有する、ことを特徴とした記録装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の記録装置において、前記補助トレイは、被記録材の支持面に従動回転可能に設けられた補助ローラーを有する、ことを特徴とした記録装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−105478(P2011−105478A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263668(P2009−263668)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】