説明

診断方法

本発明は被験者における1以上の症状を同定する方法に関する。特に、本発明は、被験者のケラチン含有成分における脂質プロファイルを変化させる症状を同定する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は被験者における1以上の症状を同定する方法に関する。特に、本発明は、被験者のケラチン含有成分における脂質プロファイルを変化させる症状を同定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書の全体にわたり、従来技術に関するいかなる議論も、かかる従来技術が周知であるかまたは本技術分野における技術常識の一部を成すことを認容したものと判断してはならない。
【0003】
治療結果を最大化するための、疾患の早期段階検出法は明らかに望ましい。癌、とりわけ乳癌は、早期段階疾患を現行の治療法で処置したときの、極めて良好な生存統計を明確に実証する一つの例である。しかしながら、多くの患者にとっては、診断は遅きに失してなされる。全ての乳癌の症例を転移の前に検出することができれば、個体の死亡率および社会全体に対する経済的負担のいずれもが著しく低減される。したがって、乳癌の研究を含め、癌研究における鍵となる要請は、疾患の早期検出のための効果的なスクリーニングツールの開発の必要性である。
【0004】
バイオマーカーは、生物学的もしくは病理学的過程または薬剤処置に対する生理学的および薬理学的応答の指標となる生物学的分子である。バイオマーカーは疾患の進行または治療に対する応答を測定するために使用できることから、疾患の診断および予後の両方において極めて重要な役割を占める。理想的には、乳癌の事例においては、バイオマーカー特徴は、無症状の患者における癌を検出することができ、かつスクリーニングマンモグラムの精度を改善することができるであろう。信頼できるバイオマーカー特徴はまた、正常な身体検査結果の環境においても、新しい癌を知らせることができ、さらに集中的な診断的精密検査および/または予防的処置を示しうる。
【0005】
乳癌を有する個体由来の毛髪のX線小角散乱と健常な個体のそれとの比較における差異は、James et al 1999 (Nature 398: 33-34)において報告され、またWO 00/34774の主題である。これらの文献の内容を参照により本明細書に組み入れるものとする。
【0006】
癌患者由来の毛髪のSAXSパターンは、比較的低密度のリングを含有し、これが健常なコントロール被験者から取得された正常なα-ケラチンパターンと重ね合わせられた。
【0007】
James et al 1999の結果は再現するのが困難であることが報告されている。Trounova et al 2003 (X-ray Spectrometry 31: 314-318)は少なくとも5つのチームがリングの存在と患者の臨床的状態の間の関連性を見出すことができなかった、と指摘している。さらに、Briki et al 1999 (Nature 400: 226)は該リングが全ての健常被験者において観察され、乳癌患者の80%のみにおいて観察されたことを見出した。
【0008】
かくして、SAXSパターンに見られるリングの正確な性質は今もってなお知られていない。Trounova et al 2003はリングが脂質的性質を有しておらず、その代わりに、石灰化または重金属沈着に起因すると結論付けた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO 00/34774
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】James et al 1999 (Nature 398: 33-34)
【非特許文献2】Trounova et al 2003 (X-ray Spectrometry 31: 314-318)
【非特許文献3】Briki et al 1999 (Nature 400: 226)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、従来技術の少なくとも1つの欠点を克服もしくは改善すること、または有用な代替手段を提供することである。
【0012】
好ましい形態における本発明の目的は、被験者における1以上の症状を同定する改善された方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の態様によると、本発明は、被験体のケラチン含有成分における脂質プロファイルを変化させる症状を同定する方法であって、以下のステップ:
該ケラチン含有成分に1以上の抽出剤を適用して1以上の脂質を抽出すること;および
該1以上の脂質を同定すること、を含み、
ここで該1以上の脂質の正体は、被験体がケラチン含有成分における脂質プロファイルを変化させる症状を有することを示す、前記方法を提供する。
【0014】
第2の態様によると、本発明は、被験体におけるケラチン含有成分の脂質プロファイルを変化させる症状を同定する方法であって、以下のステップ:
該ケラチン含有成分に1以上の抽出剤を適用して1以上の脂質を抽出すること;および
該1以上の脂質のレベルを分析すること;を含み、
ここで予め決定された標準と比較した該1以上の脂質のレベルは、被験体がケラチン含有成分における脂質プロファイルを変化させる症状を有することを示す、前記方法を提供する。
【0015】
第3の態様によると、本発明は、被験体におけるケラチン含有成分の脂質プロファイルを変化させる症状を同定する方法であって、以下のステップ:
該ケラチン含有成分に1以上の抽出剤を適用して1以上の脂質を抽出すること;
該1以上の脂質を同定すること;および
該1以上の脂質のレベルを分析すること;を含み、
ここで予め決定された標準と比較した該1以上の脂質の正体およびレベルは、被験体がケラチン含有成分における脂質プロファイルを変化させる症状を有することを示す、前記方法を提供する。
【0016】
第4の態様によると、本発明は被験体における癌を同定する方法であって、以下のステップ:
メタノール、クロロホルムおよび水の混合物を毛髪に適用して1以上の脂質を抽出すること;
該1以上の脂質の質量およびレベルを質量分析により測定すること;および
該1以上の脂質を同定すること、を含み、
ここで該1以上の脂質の正体またはレベルは癌を示す、前記方法を提供する。
【0017】
ある実施形態において、本発明は、被験体におけるケラチン含有成分の脂質プロファイルを変化させる症状を同定する方法であって、以下のステップ:
被験体からケラチン含有サンプルを取得すること;
前記サンプルに1以上の抽出剤を適用して、ケラチン含有サンプルから1以上の脂質を抽出すること;および
該脂質を同定すること;を含み、
ここで抽出された脂質(複数可)の正体は、被験体が前記ケラチン含有成分における脂質プロファイルを変化させる疾患を有することを示す、前記方法を提供する。
【0018】
別の実施形態において、本発明は、被験体におけるケラチン含有成分の脂質プロファイルを変化させる症状を同定する方法であって、以下のステップ:
該被験体からケラチン含有サンプルを取得すること;
前記サンプルに1以上の抽出剤を適用してケラチン含有サンプルから1以上の脂質を抽出すること;および
前記サンプル中の前記1以上の脂質のレベルを分析すること;
前記1以上の脂質のレベルを対照と比較すること;を含み
ここで前記サンプルにおける前記1以上の脂質のレベルが対照の外側にあることは、被験体が前記ケラチン含有成分における脂質プロファイルを変化させる症状を有する被験体ことを示す、前記方法を提供する。
【0019】
症状は腫瘍性の疾患を含みうる。腫瘍性の疾患は広範な癌を包含でき、特定の癌に限定されないが、ただし前記癌がケラチンの脂質プロファイルを変更することが条件となる。癌の例としては、乳房、大腸、肺、頸部、膵臓、胃、膣、食道、腎臓、卵巣、十二指腸、小腸、直腸、唾液腺、および盲腸の癌が挙げられる。
【0020】
ある実施形態において、症状は、予め決定された標準と比較した該1以上の脂質のレベルの増大をもたらす症状である。例えば、該1以上の脂質は、質量503.3176、512.4602、524.4594、525.4528、526.4751、537.4822、538.5113、540.5266、541.5297、552.4901、556.5215、557.5250、568.5560、580.5202、582.4656、596.5884、619.3451、624.6197、634.7441、652.6506、682.5185、786.4917、786.6695および850.5314を有する脂質から選択され得る。
【0021】
ある実施形態において、症状は、予め決定された標準と比較した該1以上の脂質のレベルの減少をもたらす症状である。例えば、該1以上の脂質は、質量508.4652、510.3930、510.4808、511.4835、524.4957、534.4798、536.4961、549.4811、550.4853、554.4182、555.5365、574.5314、581.5520、582.4502、583.5682、598.4452、616.5435、618.5588、619.5619、626.4753、643.4452、646.5901、670.5014、707.6126、715.5302、723.5633および758.5524を有する脂質から選択され得る。
【0022】
症状は、任意の数の経路によりケラチン含有成分における脂質プロファイルの変化をもたらし得る。症状は、1以上の脂質種の組成または正常な代謝経路における変更を引き起こしうる。
【0023】
ケラチン含有サンプルから抽出され、症状を示す該1以上の脂質は、薄層クロマトグラフィー (TLC)を含め、いくつかの手段により同定され得る。さらなる実施形態においては、抽出された脂質を同定するために質量分析 (MS)を用いる。特定の脂質については、プローブは抽出された脂質(複数も含みうる)に結合しかつそれを同定するために構築することができる。かかるプローブとしては、特定の脂質に特異的な抗原に特異的なモノクローナル抗体が挙げられる。
【0024】
ケラチン含有成分の脂質プロファイルにおける変更は、ケラチンにおける任意の1以上の脂質の変更に起因し得る。例としては、限定するものではないが、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、リソホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスホコリンを含むリン脂質; スフィンゴミエリン、スフィンゴシンを含むスフィンゴ脂質; パルミチン酸、パルミトレイン酸、アラキドン酸; リノール酸およびコリンが挙げられる。
【0025】
ある実施形態において、症状は、体組織および/または液体における正常なリン脂質代謝もしくは組成を変更し得る。この実施形態において、リン脂質代謝経路における種々の代謝産物が変更されうる。例として、コリンの代謝経路が変更されて、最終的にはケラチン含有成分におけるコリンリン脂質の組成または生合成の変更が引き起こされうる。
【0026】
さらなる実施形態において、症状は、被験者のケラチン含有成分中の皮脂のような脂肪酸含有化合物のプロファイルの変化を引き起こしうる。
【0027】
「プロファイルにおける変化」というときに、この表現には、いくつかの実施形態が含まれると理解されるべきである。例えば、ケラチン含有成分は健常な被験者のケラチン含有成分に通常は見出されない1以上の脂質を含みうる。あるいはまた、プロファイルにおける変化は、健常な被験者のケラチンに正常に見出される1以上の脂質を含むが、ケラチンにおけるその脂質のレベルが変更されていることを包含しうる(すなわち、ケラチンレベルは増加または減少している場合がある)。
【0028】
本発明のケラチン含有成分としては、任意の種類の体毛、爪、皮膚およびキューティクルが挙げられるがこれに限定されるものではない。ケラチン含有サンプルはこれらの成分のいずれかから取得され得る。
【0029】
抽出剤は脂質を抽出する任意の物質でありうる。例えば、抽出剤は、脂質を可溶化する任意の有機溶媒または溶媒の任意の組合せとすることができる。例としては非極性および極性溶媒が挙げられる。非極性溶媒としては、クロロホルム、ヘキサン、トルエン、ベンゼン、ジエチルエーテルおよび酢酸エチルが挙げられる。極性溶媒としては、メタノール、エタノール、アセトン、n-プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、酢酸、ギ酸、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、テトラヒドロフランおよび1,4-ジオキサンが挙げられる。ある実施形態において抽出剤は、クロロホルムおよびメタノールを含む。
【0030】
ある実施形態においては、被験者由来のケラチン含有材料に対し抽出剤を使用すると脂質(複数も可)が抽出され、その存在または量が乳癌を示す。脂質の存在および/または量を特定するための手段は、任意数の手段とすることができ、これには薄層クロマトグラフィー、質量分析、ガスクロマトグラフィーおよび高速液体クロマトグラフィーが含まれるがこれらに限定されない。
【0031】
症状が乳癌を含むある実施形態において抽出された脂質は、ホスファチジルコリン、リソホスファチジルコリン、ホスホコリンまたはホスファチジルエタノールアミンのようなリン脂質であり得る。
【0032】
ケラチン含有サンプルの脂質プロファイルが、この脂質プロファイルを変更する症状を罹患している被験体に起因して変更されている場合には、該脂質を抽出する特定の物質の使用は、慣用の手段、例えばマンモグラフィー、超音波またはMRIによるイメージングよりも早期に症状を検出する手段を提供し得る。
【0033】
本発明の文脈に置いて、「脂質プロファイル」という用語はケラチン含有サンプルから抽出された該1以上の脂質の特性をいう。例えば、かかる特性は、該1以上の脂質の正体、質量、レベルまたは保持時間であり得る。
【0034】
脂質は任意の手段により同定することができる。例えば、脂質は、取得された脂質の質量を、参照脂質と質量分析により比較することにより同定することができる。
【0035】
本発明の文脈において、「予め決定された標準」という用語は、ケラチン含有成分における脂質プロファイルを変化させる症状を有しない被験体の対応するケラチン含有成分において見出される脂質レベルを意味する。
【0036】
本発明は、James et al に言及されたSAXSパターンにおいて見られるリングを基礎付ける分子的原因に対する理解を提供し、被験体におけるケラチン含有成分の脂質プロファイルを変化させる乳癌のような症状を同定するための改善された方法を提供する。この理解および本明細書に記載されている知見はまた、乳癌以外の症状の同定を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、A)毛髪の正常なX線回折パターンおよびB) 毛髪の異常なX線回折パターン;を示す。
【図2】図2は、A)リングを有しない毛髪のX線回折パターン およびB) 前記A)の毛髪をオリーブ油に浸した後のX線回折パターン;を示す。
【図3】図3は、リングを示す毛髪のX線回折パターンに対する溶媒の影響を示す。
【図4】図4は、硝酸鉛を用いることによるX線回折の結果観察されるリングの増強を示す。
【図5】図5は、乳癌患者および対照由来の毛髪サンプルから抽出された総ホスファチジルコリン/リソホスファチジルコリンを示す。
【図6−1】図6は、乳癌患者および対照由来の毛髪サンプルから抽出された脂質についての、主成分分析スコア (A) およびローディング (B)を示す。
【図6−2】図6は、乳癌患者および対照由来の毛髪サンプルから抽出された脂質についての、主成分分析スコア (A) およびローディング (B)を示す。
【図7−1】図7は、乳癌患者および対照由来の毛髪サンプルから抽出された脂質についての、部分最小二乗法スコア (A)およびローディング (B)を示す。
【図7−2】図7は、乳癌患者および対照由来の毛髪サンプルから抽出された脂質についての、部分最小二乗法スコア (A)およびローディング (B)を示す。
【図8】図8は、乳癌患者において> 2フォールド増強された(A)、および対照において> 2フォールド増強された(B)、脂質の質量および保持時間を示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の例示的実施形態の説明
本発明の好ましい実施形態を以下に記載するが、これは例示のみを目的とする。
【0039】
本発明を、特定の実施例を参照して説明したが、本発明は多くの他の形態により具体化することができることが当業者には理解されよう。
【0040】
(実施例)
以下に説明する実験において、使用するX線は、5〜25keVのエネルギー範囲内のX線を発生させる、シンクロトロン放射または他の単色性X線源から誘導される。
【0041】
調べるケラチン含有成分が毛髪である場合、単一の毛髪を使用した。アライメントを維持するために、毛髪を適切な張力の元でホルダーに搭載した。該ホルダーを、
垂直平面および水平平面に1μm刻みで動かすことのできる電動移動デバイス上にマウントし、これにより各サンプルをX線ビームに正確に配置することができた。毛髪繊維は、毛髪の軸を平行平面とし、X線源に対して角度90度の入射角にてマウントした。X線ビームの波長は約1.1Åであり解像度は(ΔE/E)が1x10-4であった。
【0042】
各繊維は、ビームの強度に応じてある設定された期間、X線源に曝露された。一般に、各サンプルは、合計約1x1014光子に曝露された。得られた回折パターンは、MAR165 CCD検出器にて回収された。サンプルと検出器の距離は約600 mmであった。
【0043】
実験
乳癌患者由来の毛髪のサンプルにおいて見出されるリング(図1Bに示されるようなもの)が脂質によりもたらされるものであることを決定するため、そしてそうであるならば、該脂質を特徴付けするため。
【0044】
出願人の過去の研究からは、乳癌、結腸癌およびアルツハイマー病のような特定の症状は、毛髪のようなケラチン含有成分の変更をもたらすことは明らかである。この変更は、上記のX線回折技術を用いて検出することができる。乳癌を罹患している患者では、リングが観察される。健常な人間由来の毛髪のサンプルの回折パターンを1Aに示し、乳癌患者由来のそれを図1Bに示す。乳癌の存在と関連すると報告されているリングは、図1Bの回折パターンに見ることができる。今日までに、このリングが出現する原因が何であるかは不明確であった。「乳癌」から分泌され毛髪により吸収される「追加成分」に起因すると推測されてきた。本発明は、該リングがケラチン含有成分の構造中に組み入れられる特定の脂質の量の増大または追加の脂質の存在に起因するとの知見により、この課題に対処する(下記参照)。
【0045】
実験1
毛髪への脂肪酸の添加
(X線回折により確認した)リングを有しない毛髪サンプルを選択した。この毛髪の回折パターンを図2Aに示す。
【0046】
次に該毛髪を10分間オリーブ油に浸し、拭いて乾燥させ、その後、X線に再度曝露した。その結果得られた回折パターンは図2Bに示され、ここでは明瞭なリングを見ることができる。オリーブ油中で浸すことに起因するリングは、乳癌患者由来の図1Bに示されるリングと、見かけ上、およびd-スペーシングにおいて非常に類似している。
【0047】
実験2
毛髪の溶媒抽出
リングを示した乳癌患者由来の毛髪を、シンクロトロンSAXSビームライン(Australian Synchrotron)にかけて、リングの存在を確認した。次いで個々の毛髪を溶媒に2時間浸し、MilliQ水で洗い、乾燥し、次いで毛髪繊維の同じ位置に非常に近いところで再度該装置にかけた。以下の溶媒を用いた:
A イソプロパノール (100%);
B クロロホルム (100%)
C クロロホルム/メタノール(1:1);
D クロロホルム/メタノール(1:2)。
【0048】
結果を図3に示す。
【0049】
すべての溶媒は、ほとんどの繊維におけるリングの強度を減少させたが、一貫して最も効果的でないのはイソプロパノールであり、最も効果的なのはクロロホルム/メタノール(1:2)であった。これは、関連する脂質の種類を指し示すデータを提供した。
【0050】
とりわけ、この比率でのクロロホルム/メタノールを使用して、低脂質含量の生物学的材料から中性脂質、ジアシルグリセロリン脂質およびほとんどのスフィンゴ脂質を抽出する。
【0051】
実験3
鉛円の使用による脂質リングの増強
毛髪を、0.1 mol/l 硝酸鉛中でpH 5.8にて、室温で2時間浸した。Bertrand et al (Bertrand L, Doucet J, Simionovici A, Tsoucaris G, Walter P, 2003. Lead revealed lipid organization in human hair BBA 1620: 218-224.)の手法を用いて、毛髪を3回連続的に5分MilliQ水中に浸して、十分に洗浄した。結果は、乳癌リングがほとんどの事例において顕著に増強されたことを示した。図4は、サンプル毛髪の、硝酸鉛による脂質増強の前および後の回折パターンを示す。増強後のリングは、硝酸鉛に曝露される前よりもずっと強い。
【0052】
実験4
毛髪から抽出された脂質の特徴付け
この実験に用いたサンプルは次のとおりであった:
・ S2: プールされた患者番号第11018および11019 - ステージ2乳癌(複製S2-1およびS2-2に分割)
・ S2B: プールされた患者番号第11023および11010 - ステージ2B乳癌
・ SP: プールされた患者番号11009、11034および11029 - それぞれステージ4、2Aおよび不明
・ 健常な対照C1〜C5 (C1は複製C1-1およびC1-2に分割、C2は複製C2-1〜C2-3に分割、およびC3は複製C3-1〜C3-2に分割)。
【0053】
毛髪サンプルをアセトン中で5-10分洗浄した。乾燥させたサンプルを計量して冷凍-ミルチューブに入れ、各チューブに1000μLの抽出溶液 (メタノール、クロロホルム、水(2:1:0.6)) を加えた。サンプルは、10μlの100μM内部標準 (コレステロールエステル(18:0)d)でスパイクし最終濃度10μMとした。毛髪は、低温破砕ミル(cryo-mill, Precellys)を使用し、1.4mmセラミックビーズを用いてインターバルの間を45秒はさんで6800rpmにて30秒、3回にわたってすり潰し、ついでサンプルを10000rpmにて10分遠心分離した。上清(500μL)をエッペンドルフチューブに移し、speed-vac(登録商標)内で乾燥させた。サンプルを100μlのn-ブタノールおよびメタノール (v/v 1:1)中に再懸濁し、10000rpmにて10分遠心分離し、50μLの上清を、液体クロマトグラフィー質量分析(LCMS)のために高速液体クロマトグラフィー(HPLC)バイアルに移した。
【0054】
脂質は、5μLのアリコートを50mm × 2.1mm × 2.7μm Ascentis Express RP アミドカラム(Supelco)にAgilent LC 1200を使用して注入することにより分離した。脂質サンプルは、0.2 mL分-1 での水/メタノール/テトラヒドロフラン (50:20:30、v/v/v)から水/メタノール/テトラヒドロフラン(5:20:75、v/v/v)への5分濃度勾配で、最終バッファーを3分保持して、溶出させた。脂質はエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)Agilent Triple Quad 6460を用いて分析した。質量分析計は、ポジティブモードで、ホスファチジルコリン(m/z 184.1の前駆体)、スフィンゴミエリン(m/z 184.1の前駆体)、セラミド (m/z 264.6の前駆体)、(m/z 369.4)のコレステロールエステル前駆体、(m/z 189の前駆体)ホスファチジルグリセロール、ならびにネガティブモードでホスファチジルイノシトール(m/z 241の前駆体)を同定するように前駆イオンモードにてスキャンするように設定した。質量分析計は、ホスファチジルエタノールアミン(ポジティブモードでのm/z 141の喪失)および ホスファチジルセリン(ネガティブイオンモードでのm/z 87の喪失)を同定するためにニュートラルロスモードにてスキャンするように設定した。複数反応モニタリング(MRM) スキャンは、同定した脂質を定量するために使用し、キャピラリーボルテージ、フラグメンターボルテージ、および衝突エネルギーは、それぞれ4000 V、140 - 380 V、および15-60 Vであった。いずれの場合にも、衝突ガスは7 L分-1での窒素であった。
【0055】
LCMSデータは、Agilent MassHunter定量ソフトウェアを用いて処理し、乳癌患者および健常な対照の毛髪から抽出した脂質の質量およびレベルを決定した。
【0056】
結果は、乳癌患者の毛髪は、健常な対照の毛髪よりも特定の脂質(ホスファチジルコリン/リソホスファチジルコリン)のレベルが高いことを示した(図5)。主成分分析スコアプロット(図6A)および部分最少二乗法分析スコアプロット(図7A) は、乳癌患者の毛髪および健常な対照の毛髪から抽出された脂質の間の違いを示した。主成分分析ローディングプロット(図6B)および部分最少二乗法分析ローディングプロット(図7B)は乳癌患者または健常な対照において上昇した脂質の質量を示す。乳癌患者または健常な対照において>2フォールド増大の脂質の質量および保持時間は図8に示す。
【0057】
まとめ
リングまたはハローの形態での、異常の存在を確立するためのX線回折の使用は、サンプルが取得された患者が毛髪のようなケラチン含有成分に影響を及ぼす症状を罹患していることを示唆する。本発明者らは、パターン中の、関連するリングが、ケラチン含有成分の脂質構成における変化に起因することを見出した。
【0058】
この知見に基づき、本発明者らは、症状と関連している、1以上の脂質である、ある成分の存在について毛髪を試験する方法を見出し、そのことにより、乳癌を含む症状の早期検出における信頼できる診断ツールを提供する。
【0059】
ケラチン含有成分における脂質プロファイルを変化させる症状を有する被験者のケラチン含有成分中の脂質の正体およびレベルの特徴付けは、乳癌のようなかかる疾患を示し得る脂質プロファイルの同定を可能にする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体におけるケラチン含有成分の脂質プロファイルを変化させる症状を同定する方法であって、以下のステップ、すなわち
該ケラチン含有成分に1以上の抽出剤を適用して1以上の脂質を抽出すること、および
該1以上の脂質を同定すること、を含み、
ここで該1以上の脂質の正体は、被験体がケラチン含有成分における脂質プロファイルを変化させる症状を有することを示す、前記方法。
【請求項2】
被験体におけるケラチン含有成分の脂質プロファイルを変化させる症状を同定する方法であって、以下のステップ、すなわち
該ケラチン含有成分に1以上の抽出剤を適用して1以上の脂質を抽出すること、および
該1以上の脂質のレベルを分析すること、を含み、
ここで予め決定された標準と比較した該1以上の脂質のレベルは、被験体がケラチン含有成分における脂質プロファイルを変化させる症状を有することを示す、前記方法。
【請求項3】
被験体におけるケラチン含有成分の脂質プロファイルを変化させる症状を同定する方法であって、以下のステップ、すなわち
該ケラチン含有成分に1以上の抽出剤を適用して1以上の脂質を抽出すること、
該1以上の脂質を同定すること、および
該1以上の脂質のレベルを分析すること、を含み、
ここで予め決定された標準と比較した該1以上の脂質の正体およびレベルは、被験体がケラチン含有成分における脂質プロファイルを変化させる症状を有することを示す、前記方法。
【請求項4】
症状が腫瘍性の疾患である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
腫瘍性の疾患が癌である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
癌が、乳、大腸、肺、頸部、膵臓、胃、膣、食道、腎臓、卵巣、十二指腸、小腸、直腸、唾液腺、および盲腸の癌から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ケラチン含有成分が毛髪である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
抽出剤が、極性溶媒、非極性溶媒、またはその組合せを含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
極性溶媒が、メタノール、エタノール、アセトン、n-プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、酢酸、ギ酸、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、テトラヒドロフランおよび1,4-ジオキサンからなる群より選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
非極性溶媒がクロロホルム、ヘキサン、トルエン、ベンゼン、ジエチルエーテルおよび酢酸エチルからなる群より選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
抽出剤がクロロホルムおよびメタノールを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
該1以上の脂質の同定が、薄層クロマトグラフィー、質量分析、ガスクロマトグラフィーまたは高速液体クロマトグラフィーによるものである、請求項1または3〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
該1以上の脂質がリン脂質である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
リン脂質がホスファチジルコリン、リソホスファチジルコリン、ホスホコリンおよびホスファチジルエタノールアミンからなる群より選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
該1以上の脂質のレベルを予め決定された標準と比較する該分析が、薄層クロマトグラフィー、質量分析、ガスクロマトグラフィーまたは高速液体クロマトグラフィーによるものである、請求項2〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
症状が、予め決定された標準と比較して該1以上の脂質のレベルの増大をもたらす症状である、請求項2〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
該1以上の脂質は、質量が503.3176、512.4602、524.4594、525.4528、526.4751、537.4822、538.5113、540.5266、541.5297、552.4901、556.5215、557.5250、568.5560、580.5202、582.4656、596.5884、619.3451、624.6197、634.7441、652.6506、682.5185、786.4917、786.6695および850.5314である脂質から選択されるものである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
症状が、予め決定された標準と比較して該1以上の脂質のレベルの減少をもたらす症状である、請求項2〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
該1以上の脂質は、質量が508.4652、510.3930、510.4808、511.4835、524.4957、534.4798、536.4961、549.4811、550.4853、554.4182、555.5365、574.5314、581.5520、582.4502、583.5682、598.4452、616.5435、618.5588、619.5619、626.4753、643.4452、646.5901、670.5014、707.6126、715.5302、723.5633および758.5524である脂質から選択されるものである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
被験者における癌を同定する方法であって、以下のステップ、すなわち
1以上の脂質を抽出するために、メタノール、クロロホルムおよび水の混合物を毛髪に適用すること、
質量分析により該1以上の脂質の質量およびレベルを測定すること、および
該1以上の脂質を同定すること、を含み、
ここで該1以上の脂質の正体またはレベルが癌を示す、前記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−529630(P2012−529630A)
【公表日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−514297(P2012−514297)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【国際出願番号】PCT/AU2010/000727
【国際公開番号】WO2010/141998
【国際公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(511300374)エスビーシー リサーチ ピーティーワイ リミテッド (1)
【Fターム(参考)】