診断装置、電池パック及び電池価値指標の製造方法
【課題】 精度の良い電池の劣化状態判定手法と共に、今後の用途が考慮された合理的な電池の現在価値指標を提供する。
【解決手段】 電池の電解液抵抗成分RSOLおよび電荷移行抵抗成分RCTを決定する抵抗成分決定部と、使用サイクル数をパラメータとするRSOLおよびRCTの劣化推移情報を参照して、決定したRSOLおよびRCTの内からより劣化が進行している抵抗成分について、推定現在使用サイクル数を求め、この推定現在使用サイクル数を用いて放電容量が下限値に到達するまでの残サイクル数と放電時間が下限値に到達するまでの残サイクル数の内小さい残サイクル数を電池の現在価値を表す指標とする指標算出部とを備えた診断装置である。
【解決手段】 電池の電解液抵抗成分RSOLおよび電荷移行抵抗成分RCTを決定する抵抗成分決定部と、使用サイクル数をパラメータとするRSOLおよびRCTの劣化推移情報を参照して、決定したRSOLおよびRCTの内からより劣化が進行している抵抗成分について、推定現在使用サイクル数を求め、この推定現在使用サイクル数を用いて放電容量が下限値に到達するまでの残サイクル数と放電時間が下限値に到達するまでの残サイクル数の内小さい残サイクル数を電池の現在価値を表す指標とする指標算出部とを備えた診断装置である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池の劣化状態、電池の現在価値を判定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車(EV)に搭載される電池は高価であり、ノート型パソコンや携帯電話などの電子機器と比べても、本体価格に占める電池の価格割合が高い。例えば、電気自動車の最大のコスト要因は高価格の電池であるとの指摘もなされている。従って、中古車市場などで電気自動車の流通を図ろうとした場合、電池部分の現在価格を把握することが重要となる。
【0003】
しかし、電池はその使用状況に応じて劣化度合いが異なり、使用年数や充放電サイクル数などから単純に価値を算定することができない。そのため、中古車市場などにおける電池部分の現在価格設定が困難となる。
【0004】
そこで電池の劣化判定に関して種々の提案がなされている。
特許文献1には、電池の劣化度を電池の内部抵抗を用いて判定する方法が提案されている。また特許文献2に開示された技術では、充放電電流の積算値を用いて電池の現在容量を求め、初期電池容量との比を求めて劣化度合いを判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−254573号公報
【特許文献2】特開2000−131404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、電池容量や電力に影響を与える電池の内部抵抗成分は、実際には電解液の抵抗成分である直流抵抗だけではない。従って、特許文献1に記載されたような直流抵抗成分だけを用いる判定方法では将来の劣化傾向予測は困難である。
【0007】
また電池が劣化してきた履歴(劣化パターン)が異なれば、現在、同じ電池容量をもつ電池同士であったとしても将来の劣化状態も同じであるとは言えない。従って、特許文献2に開示されたように、電池容量を用いた劣化度のみで現在価値を判定するのでは信頼性に欠ける。
【0008】
また一般に、電気自動車に搭載されるバッテリはその他の用途に比して大電流・大容量という高い性能を要求されるが、その高性能な要求ゆえに車載用途を満足しなくなった使用済みバッテリも、他用途であれば十分に転用可能な場合が考えられる。
従って、車載用として価値のなくなった電池であっても、他の用途としては価値が認められることから、電池部分の現在価格は、今後使用される用途も考慮して決定されなければならない。
【0009】
以上述べたように、精度の良い電池の劣化状態判定手法と共に、今後の用途が考慮された合理的な電池の現在価値指標が求められる。
【0010】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、精度の良い電池の劣化状態判定手法と共に、今後の用途が考慮された合理的な電池の現在価値指標を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明は、電池の電解液抵抗成分RSOLおよび電荷移行抵抗成分RCTを決定する抵抗成分決定部と、使用サイクル数をパラメータとするRSOLおよびRCTの劣化推移情報を参照して、決定したRSOLおよびRCTの内からより劣化が進行している抵抗成分について、推定現在使用サイクル数を求め、この推定現在使用サイクル数を用いて放電容量が下限値に到達するまでの残サイクル数と放電時間が下限値に到達するまでの残サイクル数の内小さい残サイクル数を電池の現在価値を表す指標とする指標算出部とを備えた診断装置である。
【0012】
また本発明は、上記記載の発明である診断装置と接続可能になされた電池パックであって、少なくとも複数の単電池が直列に接続された電池モジュールと、前記単電池の電圧、温度を測定する電圧・温度測定器と、前記診断装置との情報授受を行うための通信線を接続する通信端子と、前記少なくとも一つの単電池の両端からの配線を接続する第1の端子と、前記電池モジュールの両端からの配線を接続する第2の端子とを有し、前記電池モジュールの外装には、前記少なくとも一つの単電池の両端と接続するための配線導通孔が設けられている。
【0013】
また本発明は、診断装置を電池に接続して各Cレート時の電池容量、RSOLおよびRCTを取得して履歴情報として蓄積する工程と、電池の特性を表す前記各Cレート時の電池容量、RSOLおよびRCTの履歴情報を取得して、前記履歴情報と参照用劣化データとを比較して最も合致する劣化データを選択し、選択した劣化データに基づいて現在の電池の劣化状態をそれぞれの特性について数値化する工程と、将来の用途に応じた係数で前記数値を重み付けした新たな数値を合計して前記電池の現在価値指標を作成する工程とを具備することを特徴とする電池価値指標の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、精度の良い電池の劣化状態判定手法と共に、今後の用途が考慮された合理的な電池の現在価値指標を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】二次電池の性能に関連する指標それぞれの推移を示す図。
【図2】診断装置と電池パックとの接続を示す図。
【図3】診断装置の制御器の測定動作を示す概略のフロー図。
【図4】測定結果をコール・コールプロットで表した図。
【図5】フィッティングに使用する電池の等価回路を示す図。
【図6】不揮発性メモリに保存される情報を例示する図。
【図7】使用可能サイクル数を算出する方法を示す図。
【図8】充放電を行って各Cレートでの容量を求める概略の処理手順を示すフロー図。
【図9】充放電によって得られる電流積算量の関係を示す図。
【図10】各Cレート容量でのリファレンス情報例を示す図。
【図11】RSOL、RCTでのリファレンス情報例を示す図。
【図12】点数を求めるための点数表を示す図。
【図13】電池の用途に応じた係数を表す係数表を示す図。
【図14】充電によって得られる時間TH4、時間TH1の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[第1の実施の形態]
一般に、電池の内部抵抗とは、電池内部に存在する直流の抵抗成分のことを意味することが多い。しかし電池に直流電圧を印加し続けると、イオンが時間の経過と共に電極に偏ることで電流が流れにくくなる。この現象は、オーミック(ohmic)な抵抗以外に電流と電圧に位相差を生じさせるインピーダンス成分が存在していることを示している。
【0017】
一般に電池には、直流の抵抗成分であり電解液に起因する電解液抵抗成分RSOL(solution resistant)、及び交流の抵抗成分である電荷移行抵抗成分RCT(charge transfer resistant)が存在する。本発明の第1の実施の形態では、RCT、RSOL双方の抵抗成分を考慮することにより信頼性の高い二次電池の現在価値判定手法を提供する。
【0018】
図1は、二次電池の性能に関連する指標それぞれの推移を示す図である。図1の横軸は二次電池の使用サイクル数を表している。左側の縦軸は、連続放電時間(min)及び放電容量(Ah)を表し、右側の縦軸は、RCT(mΩ)及びRSOL(mΩ)を表している。
【0019】
図1に示すように、RSOLは900サイクルまではほぼリニアに増加するが、それ以降に不連続とも言えるほど急激な増加を示す。この急激な抵抗増加を検知することによって電池の劣化が加速していると把握することができる。一方、二次電池の性能の指標である連続放電時間および放電容量の推移曲線では、RSOLの変化に先んじて700サイクル付近から性能劣化が見られている。しかし、RSOLの推移曲線は、700サイクル付近では増加傾向に変化が見られず、従って、RSOLの測定だけでは劣化を捉えるには不十分であることがわかる。
【0020】
これに対して、RCTでは700サイクル付近で既に増加の傾向を示しており、900サイクル付近ではその傾向は更に顕著なものとなっている。
通常、二次電池の使用によって電極の表面には皮膜が蓄積し、これによってRCTが増加する。電極の表面に皮膜が蓄積していく場合は、RCTの増加はリニアである。ところで、二次電池では電極の結晶構造の崩壊やバルククラックと呼ばれる電極の微細化現象が発生すると、微細化した隙間に皮膜が蓄積する。この電極の微細化が発生するとそれに伴って電極の表面積が増加するためRCTは加速度的に増加する。図1に示すRCTの曲線はこの特性を良く表している。
【0021】
一方、直流抵抗成分RSOLに対し、結晶構造の崩壊やバルククラックなどの現象は、当初は影響を与えないが、電極に形成される皮膜の成長を加速するため、ある程度進行すると急激に電池性能を劣化させる傾向が強い。
RSOLの推移曲線が、700サイクル付近では増加傾向に変化が見られず、900サイクル以降で急激に増加しているのは、このことを示している。
【0022】
以上より、電池劣化の将来予測にはRSOLのみの観測では不十分であり、RCTの観測を併せて行うことが不可欠である。
【0023】
続いて、RSOL、RCTの測定方法について説明する。
図2は、第1の実施の形態に係る診断装置100と電池パック200との接続を示す図である。電池パック200は、通常は電気自動車などに搭載されて電源を供給する。診断装置100は、電池パック200と接続してRSOL、RCTを測定する。
【0024】
電池パック200では、電池モジュール201、202が直列に接続されて組電池を構成している。図2では、電池モジュールの直列数は2個となっているが、この数は2個以上、任意の個数で良い。また、一つの電池モジュールには8個の単電池(セル)が含まれているが、この数は2個以上、任意の個数で良い。さらに、単電池は直列のみでなく並列に接続されていても良い。
【0025】
組電池の正極は接続端子203に接続され、負極は電流検出器212を介して接続端子204に接続されている。
電池モジュールの外装にはホール(孔)が設けられて、このホールを介して単電池の一つの正極と負極とからの配線が端子205と接続している。この端子205に、RSOL、RCTを測定するための診断装置100からの信号線が接続される。
【0026】
また電池モジュール201、202の単電池の端子は、電圧温度測定器211に接続されている。電圧温度測定器211は、電池モジュール201、202に含まれる単電池の電圧、温度を監視のために周期的に測定する。
【0027】
電圧温度測定器211の測定情報は、BMS(Battery Management System)210に入力される。またBMS210は、電流検出器212で検出した電流値を信号線(不図示)を介して入力する。BMS210は、上述の電圧、温度、電流値を収集すると共に、収集した値に基づいて電池残量SOC(State of Charge)などの指数を算出する。
【0028】
更に、BMS210は、通信端子206を介して外部機器(例えば、自動車用エンジン制御装置ECU、診断装置100)と通信を行って各種情報を授受すると共に、不揮発性メモリ213に収集した情報、算出した情報、授受した情報などを格納する。
【0029】
診断装置100には、交流インピーダンス法測定器110、充放電器120、開始スイッチ121及び制御器122が設けられている。
交流インピーダンス法測定器110は、交流発振部111、電圧測定器112及び電流測定器113を備え、交流発振部111からの複数周波数をスイープした交流電圧を端子205を介して電池に付与する。そして、それぞれの周波数の下で電圧測定器112及び電流測定器113で電圧及び電流を測定する。
【0030】
充放電器120は、急速充放電が可能である。充放電器120の正極は電池パック200の接続端子203と接続し、負極は電池パック200の接続端子204と接続する。
制御器122は、充放電器120の動作を制御すると共に交流インピーダンス法測定器110からの測定信号に基づいてRSOL、RCTを測定する。開始スイッチ121は、制御器122に対して測定動作開始タイミングを指示する。
【0031】
なお、制御器122は、充放電器120、交流インピーダンス法測定器110内の交流発振部111、電圧測定器112および電流計測器113と通信線で接続されている。更に、制御器122は、電池パック200のBMS210とも通信線で接続される。
【0032】
次に、診断装置100によるRSOL、RCTの測定動作について説明する。
【0033】
電気自動車の定期診断などにおいて、測定者は、電池パック200の電気自動車との接続を外し、診断装置100と信号接続する。そして、測定者は図2に示す状態に電池パック200と診断装置100とを接続した後、測定を開始する。
【0034】
図3は、診断装置100の制御器122の測定動作を示す概略のフロー図である。
【0035】
ステップS01において、制御器122は、診断装置100に電池パック200が接続され開始スイッチ121が押下されたことを検知すると、ステップS02において、BMS210と通信を行って現在の電池のSOCを受信する。
【0036】
ステップS03において、制御器122は、BMS210と通信による情報授受を行って電池の現在のSOCを50%にセットする動作を行う。即ち、SOCが50%以上であれば急速充放電器を制御し放電して、50%未満であれば充電する。
ここで、SOCを50%にセットするのは、以降に実施する交流インピーダンス測定での充放電において電池が過充電状態、過放電状態となることを回避するためである。ところで、BMS210が算出するSOCは電池パック200全体としてのSOCであるため、交流インピーダンス測定の対象となる単電池がステップS03の動作の結果で50%になっているとはいえない。しかし、SOCを50%にセットする動作は、上述のように過充電状態を回避することが目的であるため、単電池が厳密に50%とならなくても良い。
【0037】
ステップS04において、交流インピーダンス法測定器110は、電圧振幅±10mVの交流電圧を周波数1mHz〜1000kHzの範囲で10倍刻み(1mHz、10mHz、100mHz・・・1000kHz)でスイープさせ、単電池(セル)に対して印加する。この動作に合わせて、電流検出器113および電圧検出器112は、それぞれ単電池に流れる電流及び電圧を測定する。
【0038】
続いて制御器122は、各周波数における電流変化と電圧変化波形を電流検出器113および電圧検出器112により取得し、その電流電圧比より得られるインピーダンスの複素表現から実数部と虚数部を抽出する。
【0039】
ステップS05において、制御器122は、各周波数の測定データを、一般にコール・コールプロットもしくは複素平面プロットと呼ばれる表現法を用いて表現する。
図4は、測定結果をコール・コールプロットで表した図である。図4の縦軸はインピーダンスの虚数部を表し、横軸は実数部を表している。そして、スイープした周波数毎に測定した複数の点を三角印でプロットしている。
【0040】
ステップS06において、制御器122は、得られた測定値と合致するように電池の等価回路の各パラメータをフィッティングにより決定する。
図5は、フィッティングに使用する電池の等価回路を示す図である。この等価回路によれば、高周波領域ではCのインピーダンスが無視できRSOLのみの回路と等価であるため、回路インピーダンスの虚数部は0となる。従って、コール・コールプロットにおける原点から実数部軸に最初にプロットされた点が現れるまでの距離がRSOLに相当する。また低周波領域ではCのインピーダンスは無限大と考えられ、フィッティング結果である半円曲線の直径がRCTに相当する。
【0041】
なお、上述の等価回路は、電池のインピーダンスを表す一つのモデルであり、この他にもバリエーションの等価回路が存在する。本実施の形態では、インピーダンスを表す等価回路とのフィッティングによってRSOL、RCTを特定することを主張している。
【0042】
以上説明した方法の他に、交流発振部111が予め各周波数の正弦波を重畳した交流を印加し、制御器122が得られた電圧電流波形をフーリエ変換することにより各周波数に対応するインピーダンス成分を求め、等価回路をフィッテイングする方法を用いても良い。
【0043】
ステップS07において、制御器122は、得られたRSOLおよびRCTをBMS210に通信線を介して送信する。
BMS210は送信されたRSOLおよびRCTと共に、電圧温度測定器211が測定した電池パック各部の温度、電圧に関する情報を暗号化した後、不揮発性メモリ213に保存する。図6は、不揮発性メモリ213に保存される情報を例示する図である。
【0044】
なお、上述の形態では電池パック内の特定の1セルを対象として測定したが、複数セルを対象として測定しても良い。また対象とするセルは電池モジュールの中央部に設けられたものに限られず、温度条件の悪い端部に設けられたものであっても良い。電池パック内の全セルを対象として上述の測定をすることもできるが、診断装置100のコスト増につながる。測定対象セル数はコスト増との関係を比較考量して決定すれば良い。
【0045】
続いて電池の現在価値を判定する方法について説明する。
電池の現在価値は、得られたRSOLとRCTと、電池評価で得られた劣化傾向データを基に、残りの使用可能サイクル数を求めることにより行う。
【0046】
図7は、使用可能サイクル数を算出する方法を示す図である。図7には、ある使用条件の下での標準の電池性能の劣化傾向データの推移が使用サイクル数を共通パラメータとして示されている。なお、図7のグラフの座標系は、図1のグラフの座標系と同じであるため、その詳細の説明は省略する。
【0047】
ある時点で抵抗値を測定した結果、RSOLが20mΩ、RCTが5mΩであったとする。それぞれの測定点を図7のRSOL、RCT曲線上にプロットする。図7では、それぞれ▲点、●点で表されている。
RSOL曲線では、約600サイクル使用した状態に相当しているのに対し、RCT曲線では、約700サイクル使用した状態に相当している。そうすると、RCTの方がRSOLより劣化が進んでいることが分かる。従って以降の処理では、RCTを判定のための指標とする。
【0048】
ところで、ある電気自動車に使用される電池の下限性能が、放電容量6Ah以上、放電時間8分であった場合、RCTから求めた現在サイクル数(700サイクル)からそれぞれの下限値に達するまでのサイクル数を求める。
放電時間では、下限に達するときのサイクル数が950サイクルであるため、残サイクル数は250サイクルとなる。放電容量では、下限に達するときのサイクル数が900サイクルであるため、残サイクル数は200サイクルとなる。
【0049】
放電容量が下限に達するまでの残サイクル数が、放電時間が下限に達するまでの残サイクル数よりも小さいと予想できることから、本例では、電池の現在価値は残り使用可能回数200サイクルと判定する。
【0050】
なお、放電容量、放電時間とRSOL、RCTとの関係は、電池の形式などによって異なる。従って、図7に示すそれぞれの標準曲線は電池の形式などに対応して作成されている。
【0051】
[第2の実施の形態]
第2の実施の形態では、測定したRSOL、RCTに加え、測定した電流容量を用いて電池の現在価値を判定する点が第1の実施の形態と異なっている。従って、第1の実施の形態と同一の部位には同一の符号を付して、詳細の説明は省略する。
【0052】
第2の実施の形態では、第1の実施の形態と同様に、電気自動車の定期診断などにおいて、電池パック200と診断装置100とが接続された状態でRSOL、RCTが測定される。
【0053】
次に、電池の複数Cレートでの容量を測定する。
なお、診断装置100の充放電器120は、ステップダウン放電とステップダウン充電の機能を備えており、1C、2C、4C、8Cの各Cレートにおける電池容量を測定可能である。
【0054】
図8は、充放電を行って各Cレートでの容量を求める概略の処理手順を示すフロー図である。
【0055】
ステップS11において、制御器122が充放電を制御するモードに切り替えられて、開始スイッチ121がオンされると、ステップS12において、まず制御器122は充放電器120を制御し8C放電を行う。1Cは公称容量を1時間で放電する時の電流を意味する。従って、8Cは1Cの電流の8倍の電流で放電することを表している。
【0056】
ステップS13において、制御器122は、電池パック200の総電圧が過放電検出のための閾値電圧VLに達したことをBMS210からの通信によって検出すると、放電を停止し、その際に放電した電流積算量QL1をBMS210からの通信によって取得して記録する。
【0057】
次にステップS14において、制御器122は充放電器120を制御し4C放電を開始する。8Cよりも少ない4C放電電流を使用することによって内部抵抗による電圧降下が減少するため、電池パック200の総電圧は閾値電圧VLよりも高くなり、更に放電を進めることができる。ステップS15において、制御器122は8C放電と同様に閾値電圧VLに達したことを検出すると、放電を停止し、その際に放電した電流積算量QL2を記録する。
【0058】
次にステップS16において、制御器122は充放電器120を制御し2C放電を開始する。以下ステップS17〜ステップ19において、同様に1C放電までの動作を実行して電流積算量QL3、QL4を得る。
【0059】
次にステップS20において、制御器122は充放電器120を制御し8C充電を行う。ステップS21において、制御器122は、電池パック200の総電圧が過充電検出のための閾値電圧VHに達したことを検出すると、充放電器120を制御して充電を停止して、その際に放電した電流積算量QH1を記録する。
【0060】
次にステップS22において、制御器122は充放電器120を制御し4C充電を行う。以下ステップS23〜ステップ27において、同様に1C充電までの動作を実行して電流積算量QH2、QH3、QH4を得て、充放電を停止する。ステップS28において、制御器122は各Cレート時の容量を求める。
図9は、充放電によって得られる電流積算量QL1〜QL4、QH1〜QH4の関係を示す図である。また制御器122は、図9の下部に示す式に従って、各Cレート時の容量を計算する。
【0061】
その後、制御器122は1C、2C、4C、8Cの各電池パック容量をBMS210に通知する。BMS210は、充放電時の温度と各Cレート時の容量を、暗号化した後、不揮発性メモリ213に記録する。記録される内容は、図6に示す情報に各Cレート時の容量が付加されたものとなる。
【0062】
続いて電池パック200の現在価値を判定する方法について説明する。
【0063】
制御器122は、BMS210と通信を行って、過去のRSOL、RCTおよび各Cレート時の電池容量の履歴情報を取得する。そして取得した履歴情報の内、測定時温度が15〜25℃のものを抽出する。測定時温度を抽出の条件としているのは、電池の性能は温度によって影響されるためである。なお、この温度は電池の特性、当該電池を搭載した自動車が使用される地域に応じて決定しても良い。
【0064】
次に、取得した履歴情報を、横軸を時間軸とするデカルト座標にプロットし、リファレンス情報と比較する。リファレンス情報とは、電池パックを評価するために様々な条件下で測定された電池の劣化傾向を表すデータである。リファレンス情報は、複数温度条件について準備され、指定された温度条件に最も近い温度条件のリファレンス情報が選択される。そして、リファレンス情報は、一つの温度条件について複数のパターンを持つ。
【0065】
図10は、各Cレート容量でのリファレンス情報例を示す図である。図11は、RSOL、RCTでのリファレンス情報例を示す図である。
図10の左上の座標を例として説明する。測定により得られた8Cレート時電池容量の履歴情報をプロットする。この履歴情報は▲点で表されている。次に、リファレンス情報として表されている各パターン(パターンA〜C)の中から履歴情報に最も合致するものを選択する。この例では、パターンAが選択できる。
【0066】
他の指標についても同様にしてパターンを選択する。その結果、図10に示すように、4Cレート時電池容量ではパターンBが選択される。2Cレート時電池容量ではパターンCが選択される。1Cレート時電池容量ではパターンAが選択される。図11に示すように、RSOLではパターンCが選択される。RCTではパターンBが選択される。
【0067】
次に、それぞれの指標毎に点数を求める。
図12は、点数を求めるための点数表を示す図である。当該電池の使用年数が2年とする。
【0068】
8Cレート時電池容量ではパターンAが選択されるため点数は9である。4Cレート時電池容量ではパターンBが選択されるため点数は7である。2Cレート時電池容量ではパターンCが選択されるため点数は6である。1Cレート時電池容量ではパターンAが選択されるため点数は9である。RSOLではパターンCが選択されるため点数は5である。RCTではパターンBが選択されるため点数は7である。
【0069】
上述の点数表は、点数が高いほど価値が高くなるように設定されている。しかし、これらの点数を単純に加算するだけでは電池の価値を正しく評価しているとはいえない。なぜならば、ここで求めた点数は過去の履歴に基づいた点数となっているからである。電池の価値は将来の使用に対して与えられるものでなければならない。
【0070】
そこで、将来の使用、即ち用途によってそれぞれの指標に重みを付与する。
図13は、電池の用途に応じた係数を表す係数表を示す図である。上述の指標にこの係数表から得た係数を乗じた値をそれぞれ合算した値を電池パックの現在価値とする。
【0071】
例えば、電池を将来車載用に使用する場合の電池の価値は、26.6(=9×1+7×0.5+6×0.2+9×0.1+5×1.0+7×1.0)となる。また、電池を将来バイク用に使用する場合の電池の価値は、19.7(=9×0.4+7×0.5+6×0.3+9×0.3+5×0.5+7×0.8)となる。
【0072】
以上のように、電池のそれぞれの特性について、これまでの履歴情報を取得して、この履歴情報からそれぞれの特性について、劣化状態を数値化する。そして、将来の用途に対応した係数で前記数値を重み付けした新たな数値を求めて、この新たな数値を合算した値を電池の価値評価値とすることで合理的な電池の現在価値判定を行うことが可能となる。
【0073】
また、使用する電池の特性として、RSOL、RCTを用いることで、精度の良く電池の劣化状態を判定することができる。
【0074】
[第3の実施の形態]
第2の実施の形態では、1C、2C、4C、8Cの各電流での電池容量を充放電器120の充放電動作を制御して測定した。これに対して第3の実施の形態では、充電のみの動作によって指標を測定する点が第2の実施の形態と異なっている。従って、第1の実施の形態と同一の部位には同一の符号を付して、詳細の説明は省略する。
【0075】
図14は、充電によって得られる時間TH4、時間TH1の関係を示す図である。図14を参照しつつ制御器122の動作を説明する。
【0076】
電池パック200に診断装置100が接続され、制御器122が充電を制御するモードに切り替えられて、開始スイッチ121がオンされると、制御器122は充放電器120を制御し8C充電を行う。制御器122は、電池パック200の総電圧が過充電検出のための閾値電圧VHに達したことをBMS210からの通信によって検出すると、充放電器120を制御して充電を停止し、その時点の時間TH1を記録し、次に4C充電を行う。
【0077】
4C充電において、電池パック200の総電圧が過充電検出のための閾値電圧VHに達したことを検出すると、充電を停止し、以下同様に2C充電、1C充電を行い、1C充電終了時点の時間TH4を記録する。
【0078】
その後、制御器122は得られる時間情報(TH4−TH1)を、電池パック200内のBMS210に通知する。BMS210は、充電時の温度と時間情報(TH4−TH1)とを、暗号化した後、不揮発性メモリ213に記録する。
【0079】
電池の劣化が進み、電池の内部抵抗が増大すると、上述の時間(TH4−TH1)も増大していくと考えられる。従って、上述の時間は、大電流時の電池容量の劣化傾向指標の代替とすることができる。
【0080】
[実施の形態の効果]
本発明の第1の実施の形態で述べた診断装置100を用いた評価手法により、将来の電池の現在価値を確度高く判定することが可能となる。また、第2の実施の形態に代表される診断装置100を用いた判定手法により、将来の用途に応じた価値算定が可能となる。また、第3の実施の形態で述べた診断方法では、ステップダウン充電における高レート充電終了から低レート充電終了までの時間を、高レートにおける電池容量の代替指標とする。これにより充電器120に放電機能を搭載する必要がなくなり、診断装置100の設計を簡素化、コストを低減させることができる。また、測定されたデータを暗号化して不揮発性メモリなどのデータストレージに保存するBMSにより、データの改ざんを防ぎ、電池の正確・公平な価値算定を保障することができる。
【0081】
なお、上述の実施の形態では、履歴情報は電池パック200の不揮発性メモリ213に格納しているが、この形態に限られず、例えば電池価値を評価するための情報を一元的に管理するデータ集積会社に、履歴情報として集約して保存させても良い。そして、データ集積会社において、本実施の形態の診断装置が実施している電池価値の判定を実行するようにしても良い。
【0082】
なお、上述の実施の形態で説明した各機能は、ハードウエアを用いて構成しても良く、また、ソフトウエアを用いて各機能を記載したプログラムをコンピュータに読み込ませて実現しても良い。また、各機能は、適宜ソフトウエア、ハードウエアのいずれかを選択して構成するものであっても良い。
【0083】
更に、各機能は図示しない記録媒体に格納したプログラムをコンピュータに読み込ませることで実現させることもできる。ここで本実施の形態における記録媒体は、プログラムを記録でき、かつコンピュータが読み取り可能な記録媒体であれば、その記録形式は何れの形態であってもよい。
【0084】
尚、本発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。
また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0085】
RSOL…電解液抵抗成分、RCT…電荷移行抵抗成分、SOC…電池残量、100…診断装置、110…交流インピーダンス法測定器、111…交流発振部、112…電圧測定器、113…電流測定器、120…充放電器、121…開始スイッチ、122…制御器、200…電池パック、201,202…電池モジュール、203…接続端子、204…接続端子、205…端子、206…通信端子、210…BMS、211…電圧温度測定器、212…電流検出器、213…不揮発性メモリ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池の劣化状態、電池の現在価値を判定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車(EV)に搭載される電池は高価であり、ノート型パソコンや携帯電話などの電子機器と比べても、本体価格に占める電池の価格割合が高い。例えば、電気自動車の最大のコスト要因は高価格の電池であるとの指摘もなされている。従って、中古車市場などで電気自動車の流通を図ろうとした場合、電池部分の現在価格を把握することが重要となる。
【0003】
しかし、電池はその使用状況に応じて劣化度合いが異なり、使用年数や充放電サイクル数などから単純に価値を算定することができない。そのため、中古車市場などにおける電池部分の現在価格設定が困難となる。
【0004】
そこで電池の劣化判定に関して種々の提案がなされている。
特許文献1には、電池の劣化度を電池の内部抵抗を用いて判定する方法が提案されている。また特許文献2に開示された技術では、充放電電流の積算値を用いて電池の現在容量を求め、初期電池容量との比を求めて劣化度合いを判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−254573号公報
【特許文献2】特開2000−131404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、電池容量や電力に影響を与える電池の内部抵抗成分は、実際には電解液の抵抗成分である直流抵抗だけではない。従って、特許文献1に記載されたような直流抵抗成分だけを用いる判定方法では将来の劣化傾向予測は困難である。
【0007】
また電池が劣化してきた履歴(劣化パターン)が異なれば、現在、同じ電池容量をもつ電池同士であったとしても将来の劣化状態も同じであるとは言えない。従って、特許文献2に開示されたように、電池容量を用いた劣化度のみで現在価値を判定するのでは信頼性に欠ける。
【0008】
また一般に、電気自動車に搭載されるバッテリはその他の用途に比して大電流・大容量という高い性能を要求されるが、その高性能な要求ゆえに車載用途を満足しなくなった使用済みバッテリも、他用途であれば十分に転用可能な場合が考えられる。
従って、車載用として価値のなくなった電池であっても、他の用途としては価値が認められることから、電池部分の現在価格は、今後使用される用途も考慮して決定されなければならない。
【0009】
以上述べたように、精度の良い電池の劣化状態判定手法と共に、今後の用途が考慮された合理的な電池の現在価値指標が求められる。
【0010】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、精度の良い電池の劣化状態判定手法と共に、今後の用途が考慮された合理的な電池の現在価値指標を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明は、電池の電解液抵抗成分RSOLおよび電荷移行抵抗成分RCTを決定する抵抗成分決定部と、使用サイクル数をパラメータとするRSOLおよびRCTの劣化推移情報を参照して、決定したRSOLおよびRCTの内からより劣化が進行している抵抗成分について、推定現在使用サイクル数を求め、この推定現在使用サイクル数を用いて放電容量が下限値に到達するまでの残サイクル数と放電時間が下限値に到達するまでの残サイクル数の内小さい残サイクル数を電池の現在価値を表す指標とする指標算出部とを備えた診断装置である。
【0012】
また本発明は、上記記載の発明である診断装置と接続可能になされた電池パックであって、少なくとも複数の単電池が直列に接続された電池モジュールと、前記単電池の電圧、温度を測定する電圧・温度測定器と、前記診断装置との情報授受を行うための通信線を接続する通信端子と、前記少なくとも一つの単電池の両端からの配線を接続する第1の端子と、前記電池モジュールの両端からの配線を接続する第2の端子とを有し、前記電池モジュールの外装には、前記少なくとも一つの単電池の両端と接続するための配線導通孔が設けられている。
【0013】
また本発明は、診断装置を電池に接続して各Cレート時の電池容量、RSOLおよびRCTを取得して履歴情報として蓄積する工程と、電池の特性を表す前記各Cレート時の電池容量、RSOLおよびRCTの履歴情報を取得して、前記履歴情報と参照用劣化データとを比較して最も合致する劣化データを選択し、選択した劣化データに基づいて現在の電池の劣化状態をそれぞれの特性について数値化する工程と、将来の用途に応じた係数で前記数値を重み付けした新たな数値を合計して前記電池の現在価値指標を作成する工程とを具備することを特徴とする電池価値指標の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、精度の良い電池の劣化状態判定手法と共に、今後の用途が考慮された合理的な電池の現在価値指標を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】二次電池の性能に関連する指標それぞれの推移を示す図。
【図2】診断装置と電池パックとの接続を示す図。
【図3】診断装置の制御器の測定動作を示す概略のフロー図。
【図4】測定結果をコール・コールプロットで表した図。
【図5】フィッティングに使用する電池の等価回路を示す図。
【図6】不揮発性メモリに保存される情報を例示する図。
【図7】使用可能サイクル数を算出する方法を示す図。
【図8】充放電を行って各Cレートでの容量を求める概略の処理手順を示すフロー図。
【図9】充放電によって得られる電流積算量の関係を示す図。
【図10】各Cレート容量でのリファレンス情報例を示す図。
【図11】RSOL、RCTでのリファレンス情報例を示す図。
【図12】点数を求めるための点数表を示す図。
【図13】電池の用途に応じた係数を表す係数表を示す図。
【図14】充電によって得られる時間TH4、時間TH1の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[第1の実施の形態]
一般に、電池の内部抵抗とは、電池内部に存在する直流の抵抗成分のことを意味することが多い。しかし電池に直流電圧を印加し続けると、イオンが時間の経過と共に電極に偏ることで電流が流れにくくなる。この現象は、オーミック(ohmic)な抵抗以外に電流と電圧に位相差を生じさせるインピーダンス成分が存在していることを示している。
【0017】
一般に電池には、直流の抵抗成分であり電解液に起因する電解液抵抗成分RSOL(solution resistant)、及び交流の抵抗成分である電荷移行抵抗成分RCT(charge transfer resistant)が存在する。本発明の第1の実施の形態では、RCT、RSOL双方の抵抗成分を考慮することにより信頼性の高い二次電池の現在価値判定手法を提供する。
【0018】
図1は、二次電池の性能に関連する指標それぞれの推移を示す図である。図1の横軸は二次電池の使用サイクル数を表している。左側の縦軸は、連続放電時間(min)及び放電容量(Ah)を表し、右側の縦軸は、RCT(mΩ)及びRSOL(mΩ)を表している。
【0019】
図1に示すように、RSOLは900サイクルまではほぼリニアに増加するが、それ以降に不連続とも言えるほど急激な増加を示す。この急激な抵抗増加を検知することによって電池の劣化が加速していると把握することができる。一方、二次電池の性能の指標である連続放電時間および放電容量の推移曲線では、RSOLの変化に先んじて700サイクル付近から性能劣化が見られている。しかし、RSOLの推移曲線は、700サイクル付近では増加傾向に変化が見られず、従って、RSOLの測定だけでは劣化を捉えるには不十分であることがわかる。
【0020】
これに対して、RCTでは700サイクル付近で既に増加の傾向を示しており、900サイクル付近ではその傾向は更に顕著なものとなっている。
通常、二次電池の使用によって電極の表面には皮膜が蓄積し、これによってRCTが増加する。電極の表面に皮膜が蓄積していく場合は、RCTの増加はリニアである。ところで、二次電池では電極の結晶構造の崩壊やバルククラックと呼ばれる電極の微細化現象が発生すると、微細化した隙間に皮膜が蓄積する。この電極の微細化が発生するとそれに伴って電極の表面積が増加するためRCTは加速度的に増加する。図1に示すRCTの曲線はこの特性を良く表している。
【0021】
一方、直流抵抗成分RSOLに対し、結晶構造の崩壊やバルククラックなどの現象は、当初は影響を与えないが、電極に形成される皮膜の成長を加速するため、ある程度進行すると急激に電池性能を劣化させる傾向が強い。
RSOLの推移曲線が、700サイクル付近では増加傾向に変化が見られず、900サイクル以降で急激に増加しているのは、このことを示している。
【0022】
以上より、電池劣化の将来予測にはRSOLのみの観測では不十分であり、RCTの観測を併せて行うことが不可欠である。
【0023】
続いて、RSOL、RCTの測定方法について説明する。
図2は、第1の実施の形態に係る診断装置100と電池パック200との接続を示す図である。電池パック200は、通常は電気自動車などに搭載されて電源を供給する。診断装置100は、電池パック200と接続してRSOL、RCTを測定する。
【0024】
電池パック200では、電池モジュール201、202が直列に接続されて組電池を構成している。図2では、電池モジュールの直列数は2個となっているが、この数は2個以上、任意の個数で良い。また、一つの電池モジュールには8個の単電池(セル)が含まれているが、この数は2個以上、任意の個数で良い。さらに、単電池は直列のみでなく並列に接続されていても良い。
【0025】
組電池の正極は接続端子203に接続され、負極は電流検出器212を介して接続端子204に接続されている。
電池モジュールの外装にはホール(孔)が設けられて、このホールを介して単電池の一つの正極と負極とからの配線が端子205と接続している。この端子205に、RSOL、RCTを測定するための診断装置100からの信号線が接続される。
【0026】
また電池モジュール201、202の単電池の端子は、電圧温度測定器211に接続されている。電圧温度測定器211は、電池モジュール201、202に含まれる単電池の電圧、温度を監視のために周期的に測定する。
【0027】
電圧温度測定器211の測定情報は、BMS(Battery Management System)210に入力される。またBMS210は、電流検出器212で検出した電流値を信号線(不図示)を介して入力する。BMS210は、上述の電圧、温度、電流値を収集すると共に、収集した値に基づいて電池残量SOC(State of Charge)などの指数を算出する。
【0028】
更に、BMS210は、通信端子206を介して外部機器(例えば、自動車用エンジン制御装置ECU、診断装置100)と通信を行って各種情報を授受すると共に、不揮発性メモリ213に収集した情報、算出した情報、授受した情報などを格納する。
【0029】
診断装置100には、交流インピーダンス法測定器110、充放電器120、開始スイッチ121及び制御器122が設けられている。
交流インピーダンス法測定器110は、交流発振部111、電圧測定器112及び電流測定器113を備え、交流発振部111からの複数周波数をスイープした交流電圧を端子205を介して電池に付与する。そして、それぞれの周波数の下で電圧測定器112及び電流測定器113で電圧及び電流を測定する。
【0030】
充放電器120は、急速充放電が可能である。充放電器120の正極は電池パック200の接続端子203と接続し、負極は電池パック200の接続端子204と接続する。
制御器122は、充放電器120の動作を制御すると共に交流インピーダンス法測定器110からの測定信号に基づいてRSOL、RCTを測定する。開始スイッチ121は、制御器122に対して測定動作開始タイミングを指示する。
【0031】
なお、制御器122は、充放電器120、交流インピーダンス法測定器110内の交流発振部111、電圧測定器112および電流計測器113と通信線で接続されている。更に、制御器122は、電池パック200のBMS210とも通信線で接続される。
【0032】
次に、診断装置100によるRSOL、RCTの測定動作について説明する。
【0033】
電気自動車の定期診断などにおいて、測定者は、電池パック200の電気自動車との接続を外し、診断装置100と信号接続する。そして、測定者は図2に示す状態に電池パック200と診断装置100とを接続した後、測定を開始する。
【0034】
図3は、診断装置100の制御器122の測定動作を示す概略のフロー図である。
【0035】
ステップS01において、制御器122は、診断装置100に電池パック200が接続され開始スイッチ121が押下されたことを検知すると、ステップS02において、BMS210と通信を行って現在の電池のSOCを受信する。
【0036】
ステップS03において、制御器122は、BMS210と通信による情報授受を行って電池の現在のSOCを50%にセットする動作を行う。即ち、SOCが50%以上であれば急速充放電器を制御し放電して、50%未満であれば充電する。
ここで、SOCを50%にセットするのは、以降に実施する交流インピーダンス測定での充放電において電池が過充電状態、過放電状態となることを回避するためである。ところで、BMS210が算出するSOCは電池パック200全体としてのSOCであるため、交流インピーダンス測定の対象となる単電池がステップS03の動作の結果で50%になっているとはいえない。しかし、SOCを50%にセットする動作は、上述のように過充電状態を回避することが目的であるため、単電池が厳密に50%とならなくても良い。
【0037】
ステップS04において、交流インピーダンス法測定器110は、電圧振幅±10mVの交流電圧を周波数1mHz〜1000kHzの範囲で10倍刻み(1mHz、10mHz、100mHz・・・1000kHz)でスイープさせ、単電池(セル)に対して印加する。この動作に合わせて、電流検出器113および電圧検出器112は、それぞれ単電池に流れる電流及び電圧を測定する。
【0038】
続いて制御器122は、各周波数における電流変化と電圧変化波形を電流検出器113および電圧検出器112により取得し、その電流電圧比より得られるインピーダンスの複素表現から実数部と虚数部を抽出する。
【0039】
ステップS05において、制御器122は、各周波数の測定データを、一般にコール・コールプロットもしくは複素平面プロットと呼ばれる表現法を用いて表現する。
図4は、測定結果をコール・コールプロットで表した図である。図4の縦軸はインピーダンスの虚数部を表し、横軸は実数部を表している。そして、スイープした周波数毎に測定した複数の点を三角印でプロットしている。
【0040】
ステップS06において、制御器122は、得られた測定値と合致するように電池の等価回路の各パラメータをフィッティングにより決定する。
図5は、フィッティングに使用する電池の等価回路を示す図である。この等価回路によれば、高周波領域ではCのインピーダンスが無視できRSOLのみの回路と等価であるため、回路インピーダンスの虚数部は0となる。従って、コール・コールプロットにおける原点から実数部軸に最初にプロットされた点が現れるまでの距離がRSOLに相当する。また低周波領域ではCのインピーダンスは無限大と考えられ、フィッティング結果である半円曲線の直径がRCTに相当する。
【0041】
なお、上述の等価回路は、電池のインピーダンスを表す一つのモデルであり、この他にもバリエーションの等価回路が存在する。本実施の形態では、インピーダンスを表す等価回路とのフィッティングによってRSOL、RCTを特定することを主張している。
【0042】
以上説明した方法の他に、交流発振部111が予め各周波数の正弦波を重畳した交流を印加し、制御器122が得られた電圧電流波形をフーリエ変換することにより各周波数に対応するインピーダンス成分を求め、等価回路をフィッテイングする方法を用いても良い。
【0043】
ステップS07において、制御器122は、得られたRSOLおよびRCTをBMS210に通信線を介して送信する。
BMS210は送信されたRSOLおよびRCTと共に、電圧温度測定器211が測定した電池パック各部の温度、電圧に関する情報を暗号化した後、不揮発性メモリ213に保存する。図6は、不揮発性メモリ213に保存される情報を例示する図である。
【0044】
なお、上述の形態では電池パック内の特定の1セルを対象として測定したが、複数セルを対象として測定しても良い。また対象とするセルは電池モジュールの中央部に設けられたものに限られず、温度条件の悪い端部に設けられたものであっても良い。電池パック内の全セルを対象として上述の測定をすることもできるが、診断装置100のコスト増につながる。測定対象セル数はコスト増との関係を比較考量して決定すれば良い。
【0045】
続いて電池の現在価値を判定する方法について説明する。
電池の現在価値は、得られたRSOLとRCTと、電池評価で得られた劣化傾向データを基に、残りの使用可能サイクル数を求めることにより行う。
【0046】
図7は、使用可能サイクル数を算出する方法を示す図である。図7には、ある使用条件の下での標準の電池性能の劣化傾向データの推移が使用サイクル数を共通パラメータとして示されている。なお、図7のグラフの座標系は、図1のグラフの座標系と同じであるため、その詳細の説明は省略する。
【0047】
ある時点で抵抗値を測定した結果、RSOLが20mΩ、RCTが5mΩであったとする。それぞれの測定点を図7のRSOL、RCT曲線上にプロットする。図7では、それぞれ▲点、●点で表されている。
RSOL曲線では、約600サイクル使用した状態に相当しているのに対し、RCT曲線では、約700サイクル使用した状態に相当している。そうすると、RCTの方がRSOLより劣化が進んでいることが分かる。従って以降の処理では、RCTを判定のための指標とする。
【0048】
ところで、ある電気自動車に使用される電池の下限性能が、放電容量6Ah以上、放電時間8分であった場合、RCTから求めた現在サイクル数(700サイクル)からそれぞれの下限値に達するまでのサイクル数を求める。
放電時間では、下限に達するときのサイクル数が950サイクルであるため、残サイクル数は250サイクルとなる。放電容量では、下限に達するときのサイクル数が900サイクルであるため、残サイクル数は200サイクルとなる。
【0049】
放電容量が下限に達するまでの残サイクル数が、放電時間が下限に達するまでの残サイクル数よりも小さいと予想できることから、本例では、電池の現在価値は残り使用可能回数200サイクルと判定する。
【0050】
なお、放電容量、放電時間とRSOL、RCTとの関係は、電池の形式などによって異なる。従って、図7に示すそれぞれの標準曲線は電池の形式などに対応して作成されている。
【0051】
[第2の実施の形態]
第2の実施の形態では、測定したRSOL、RCTに加え、測定した電流容量を用いて電池の現在価値を判定する点が第1の実施の形態と異なっている。従って、第1の実施の形態と同一の部位には同一の符号を付して、詳細の説明は省略する。
【0052】
第2の実施の形態では、第1の実施の形態と同様に、電気自動車の定期診断などにおいて、電池パック200と診断装置100とが接続された状態でRSOL、RCTが測定される。
【0053】
次に、電池の複数Cレートでの容量を測定する。
なお、診断装置100の充放電器120は、ステップダウン放電とステップダウン充電の機能を備えており、1C、2C、4C、8Cの各Cレートにおける電池容量を測定可能である。
【0054】
図8は、充放電を行って各Cレートでの容量を求める概略の処理手順を示すフロー図である。
【0055】
ステップS11において、制御器122が充放電を制御するモードに切り替えられて、開始スイッチ121がオンされると、ステップS12において、まず制御器122は充放電器120を制御し8C放電を行う。1Cは公称容量を1時間で放電する時の電流を意味する。従って、8Cは1Cの電流の8倍の電流で放電することを表している。
【0056】
ステップS13において、制御器122は、電池パック200の総電圧が過放電検出のための閾値電圧VLに達したことをBMS210からの通信によって検出すると、放電を停止し、その際に放電した電流積算量QL1をBMS210からの通信によって取得して記録する。
【0057】
次にステップS14において、制御器122は充放電器120を制御し4C放電を開始する。8Cよりも少ない4C放電電流を使用することによって内部抵抗による電圧降下が減少するため、電池パック200の総電圧は閾値電圧VLよりも高くなり、更に放電を進めることができる。ステップS15において、制御器122は8C放電と同様に閾値電圧VLに達したことを検出すると、放電を停止し、その際に放電した電流積算量QL2を記録する。
【0058】
次にステップS16において、制御器122は充放電器120を制御し2C放電を開始する。以下ステップS17〜ステップ19において、同様に1C放電までの動作を実行して電流積算量QL3、QL4を得る。
【0059】
次にステップS20において、制御器122は充放電器120を制御し8C充電を行う。ステップS21において、制御器122は、電池パック200の総電圧が過充電検出のための閾値電圧VHに達したことを検出すると、充放電器120を制御して充電を停止して、その際に放電した電流積算量QH1を記録する。
【0060】
次にステップS22において、制御器122は充放電器120を制御し4C充電を行う。以下ステップS23〜ステップ27において、同様に1C充電までの動作を実行して電流積算量QH2、QH3、QH4を得て、充放電を停止する。ステップS28において、制御器122は各Cレート時の容量を求める。
図9は、充放電によって得られる電流積算量QL1〜QL4、QH1〜QH4の関係を示す図である。また制御器122は、図9の下部に示す式に従って、各Cレート時の容量を計算する。
【0061】
その後、制御器122は1C、2C、4C、8Cの各電池パック容量をBMS210に通知する。BMS210は、充放電時の温度と各Cレート時の容量を、暗号化した後、不揮発性メモリ213に記録する。記録される内容は、図6に示す情報に各Cレート時の容量が付加されたものとなる。
【0062】
続いて電池パック200の現在価値を判定する方法について説明する。
【0063】
制御器122は、BMS210と通信を行って、過去のRSOL、RCTおよび各Cレート時の電池容量の履歴情報を取得する。そして取得した履歴情報の内、測定時温度が15〜25℃のものを抽出する。測定時温度を抽出の条件としているのは、電池の性能は温度によって影響されるためである。なお、この温度は電池の特性、当該電池を搭載した自動車が使用される地域に応じて決定しても良い。
【0064】
次に、取得した履歴情報を、横軸を時間軸とするデカルト座標にプロットし、リファレンス情報と比較する。リファレンス情報とは、電池パックを評価するために様々な条件下で測定された電池の劣化傾向を表すデータである。リファレンス情報は、複数温度条件について準備され、指定された温度条件に最も近い温度条件のリファレンス情報が選択される。そして、リファレンス情報は、一つの温度条件について複数のパターンを持つ。
【0065】
図10は、各Cレート容量でのリファレンス情報例を示す図である。図11は、RSOL、RCTでのリファレンス情報例を示す図である。
図10の左上の座標を例として説明する。測定により得られた8Cレート時電池容量の履歴情報をプロットする。この履歴情報は▲点で表されている。次に、リファレンス情報として表されている各パターン(パターンA〜C)の中から履歴情報に最も合致するものを選択する。この例では、パターンAが選択できる。
【0066】
他の指標についても同様にしてパターンを選択する。その結果、図10に示すように、4Cレート時電池容量ではパターンBが選択される。2Cレート時電池容量ではパターンCが選択される。1Cレート時電池容量ではパターンAが選択される。図11に示すように、RSOLではパターンCが選択される。RCTではパターンBが選択される。
【0067】
次に、それぞれの指標毎に点数を求める。
図12は、点数を求めるための点数表を示す図である。当該電池の使用年数が2年とする。
【0068】
8Cレート時電池容量ではパターンAが選択されるため点数は9である。4Cレート時電池容量ではパターンBが選択されるため点数は7である。2Cレート時電池容量ではパターンCが選択されるため点数は6である。1Cレート時電池容量ではパターンAが選択されるため点数は9である。RSOLではパターンCが選択されるため点数は5である。RCTではパターンBが選択されるため点数は7である。
【0069】
上述の点数表は、点数が高いほど価値が高くなるように設定されている。しかし、これらの点数を単純に加算するだけでは電池の価値を正しく評価しているとはいえない。なぜならば、ここで求めた点数は過去の履歴に基づいた点数となっているからである。電池の価値は将来の使用に対して与えられるものでなければならない。
【0070】
そこで、将来の使用、即ち用途によってそれぞれの指標に重みを付与する。
図13は、電池の用途に応じた係数を表す係数表を示す図である。上述の指標にこの係数表から得た係数を乗じた値をそれぞれ合算した値を電池パックの現在価値とする。
【0071】
例えば、電池を将来車載用に使用する場合の電池の価値は、26.6(=9×1+7×0.5+6×0.2+9×0.1+5×1.0+7×1.0)となる。また、電池を将来バイク用に使用する場合の電池の価値は、19.7(=9×0.4+7×0.5+6×0.3+9×0.3+5×0.5+7×0.8)となる。
【0072】
以上のように、電池のそれぞれの特性について、これまでの履歴情報を取得して、この履歴情報からそれぞれの特性について、劣化状態を数値化する。そして、将来の用途に対応した係数で前記数値を重み付けした新たな数値を求めて、この新たな数値を合算した値を電池の価値評価値とすることで合理的な電池の現在価値判定を行うことが可能となる。
【0073】
また、使用する電池の特性として、RSOL、RCTを用いることで、精度の良く電池の劣化状態を判定することができる。
【0074】
[第3の実施の形態]
第2の実施の形態では、1C、2C、4C、8Cの各電流での電池容量を充放電器120の充放電動作を制御して測定した。これに対して第3の実施の形態では、充電のみの動作によって指標を測定する点が第2の実施の形態と異なっている。従って、第1の実施の形態と同一の部位には同一の符号を付して、詳細の説明は省略する。
【0075】
図14は、充電によって得られる時間TH4、時間TH1の関係を示す図である。図14を参照しつつ制御器122の動作を説明する。
【0076】
電池パック200に診断装置100が接続され、制御器122が充電を制御するモードに切り替えられて、開始スイッチ121がオンされると、制御器122は充放電器120を制御し8C充電を行う。制御器122は、電池パック200の総電圧が過充電検出のための閾値電圧VHに達したことをBMS210からの通信によって検出すると、充放電器120を制御して充電を停止し、その時点の時間TH1を記録し、次に4C充電を行う。
【0077】
4C充電において、電池パック200の総電圧が過充電検出のための閾値電圧VHに達したことを検出すると、充電を停止し、以下同様に2C充電、1C充電を行い、1C充電終了時点の時間TH4を記録する。
【0078】
その後、制御器122は得られる時間情報(TH4−TH1)を、電池パック200内のBMS210に通知する。BMS210は、充電時の温度と時間情報(TH4−TH1)とを、暗号化した後、不揮発性メモリ213に記録する。
【0079】
電池の劣化が進み、電池の内部抵抗が増大すると、上述の時間(TH4−TH1)も増大していくと考えられる。従って、上述の時間は、大電流時の電池容量の劣化傾向指標の代替とすることができる。
【0080】
[実施の形態の効果]
本発明の第1の実施の形態で述べた診断装置100を用いた評価手法により、将来の電池の現在価値を確度高く判定することが可能となる。また、第2の実施の形態に代表される診断装置100を用いた判定手法により、将来の用途に応じた価値算定が可能となる。また、第3の実施の形態で述べた診断方法では、ステップダウン充電における高レート充電終了から低レート充電終了までの時間を、高レートにおける電池容量の代替指標とする。これにより充電器120に放電機能を搭載する必要がなくなり、診断装置100の設計を簡素化、コストを低減させることができる。また、測定されたデータを暗号化して不揮発性メモリなどのデータストレージに保存するBMSにより、データの改ざんを防ぎ、電池の正確・公平な価値算定を保障することができる。
【0081】
なお、上述の実施の形態では、履歴情報は電池パック200の不揮発性メモリ213に格納しているが、この形態に限られず、例えば電池価値を評価するための情報を一元的に管理するデータ集積会社に、履歴情報として集約して保存させても良い。そして、データ集積会社において、本実施の形態の診断装置が実施している電池価値の判定を実行するようにしても良い。
【0082】
なお、上述の実施の形態で説明した各機能は、ハードウエアを用いて構成しても良く、また、ソフトウエアを用いて各機能を記載したプログラムをコンピュータに読み込ませて実現しても良い。また、各機能は、適宜ソフトウエア、ハードウエアのいずれかを選択して構成するものであっても良い。
【0083】
更に、各機能は図示しない記録媒体に格納したプログラムをコンピュータに読み込ませることで実現させることもできる。ここで本実施の形態における記録媒体は、プログラムを記録でき、かつコンピュータが読み取り可能な記録媒体であれば、その記録形式は何れの形態であってもよい。
【0084】
尚、本発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。
また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0085】
RSOL…電解液抵抗成分、RCT…電荷移行抵抗成分、SOC…電池残量、100…診断装置、110…交流インピーダンス法測定器、111…交流発振部、112…電圧測定器、113…電流測定器、120…充放電器、121…開始スイッチ、122…制御器、200…電池パック、201,202…電池モジュール、203…接続端子、204…接続端子、205…端子、206…通信端子、210…BMS、211…電圧温度測定器、212…電流検出器、213…不揮発性メモリ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池の電解液抵抗成分RSOLおよび電荷移行抵抗成分RCTを決定する抵抗成分決定部と、
使用サイクル数をパラメータとするRSOLおよびRCTの劣化推移情報を参照して、決定したRSOLおよびRCTの内からより劣化が進行している抵抗成分について、推定現在使用サイクル数を求め、この推定現在使用サイクル数を用いて放電容量が下限値に到達するまでの残サイクル数と放電時間が下限値に到達するまでの残サイクル数の内小さい残サイクル数を電池の現在価値を表す指標とする指標算出部と
を備えたことを特徴とする診断装置。
【請求項2】
電池の電解液抵抗成分RSOLおよび電荷移行抵抗成分RCTを決定する抵抗成分決定部と、
前記少なくとも一つの電池を含む電池パックをステップダウン充放電する充放電器と、
前記充放電器を動作させて複数の電流による充放電を制御して各Cレート時の電池容量を求める電池容量決定部と、
電池の特性を表す前記各Cレート時の電池容量、RSOLおよびRCTの履歴情報を取得して、前記履歴情報と参照用劣化データとを比較して最も合致する劣化データを選択し、選択した劣化データに基づいて現在の電池の劣化状態をそれぞれの特性について数値化し、将来の用途に応じた係数で前記数値を重み付けした新たな数値を合計した値を電池の現在価値指標とする現在価値指標算出部と
を備えたことを特徴とする診断装置。
【請求項3】
電池の電解液抵抗成分RSOLおよび電荷移行抵抗成分RCTを決定する抵抗成分決定部と、
前記少なくとも一つの電池を含む電池パックをステップダウン充電する充電器と、
前記制御部は、
前記充電器を動作させて複数のステップダウン電流による充電を制御して、最初の電流による充電終了時から最後の電流による充電終了時までの時間情報を求める時間情報取得部と、
電池の特性を表す前記時間情報、RSOLおよびRCTの履歴情報を取得して、前記履歴情報と参照用劣化データとを比較して最も合致する劣化データを選択し、選択した劣化データに基づいて現在の電池の劣化状態をそれぞれの特性について数値化し、将来の用途に応じた係数で前記数値を重み付けした新たな数値を合計した値を電池の現在価値指標とする現在価値指標算出部と
を備えたことを特徴とする診断装置。
【請求項4】
少なくとも一つの電池の両端に複数の周波数の交流電圧をスイープして印加する交流発振部と、
印加される周波数毎に前記少なくとも一つの電池の両端に発生する電圧変化と電流変化とをそれぞれ測定する電圧測定部及び電流測定部とを有し、
前記抵抗成分決定部は、前記測定した周波数毎の電圧変化と電流変化とから電池の周波数毎のインピーダンスを複素表現として求め、前記電池の電解液抵抗成分RSOLおよび電荷移行抵抗成分RCTを含む等価回路のインピーダンスが、前記複素表現のインピーダンスとフィットするように前記RSOLおよびRCTを決定することを特徴とする請求項1乃至3の内いずれか1項に記載の診断装置。
【請求項5】
少なくとも一つの電池の両端に複数の周波数の正弦波を重畳した交流電圧を印加する交流発振部と、
印加される交流電圧によって前記少なくとも一つの電池の両端に発生する電圧変化と電流変化とをそれぞれ測定する電圧測定部及び電流測定部とを有し、
前記抵抗成分決定部は、前記電圧変化と電流変化の波形をフーリエ変換して前記電池の周波数毎のインピーダンスを複素表現として求め、前記電池の電解液抵抗成分RSOLおよび電荷移行抵抗成分RCTを含む等価回路のインピーダンスが、前記複素表現のインピーダンスとフィットするように前記RSOLおよびRCTを決定することを特徴とする請求項1乃至3の内いずれか1項に記載の診断装置
【請求項6】
少なくとも一つの電池を含む電池パックを充放電する充放電器を有し、
前記抵抗成分決定部は、前記RSOLおよびRCTを決定するに際し、前記充放電器を制御して前記電池パックの充電状態SOCを略50%とすることを特徴とする請求項1に記載の診断装置。
【請求項7】
請求項1乃至3の内1項に記載の診断装置と接続可能になされた電池パックであって、
少なくとも複数の電池が直列に接続された電池モジュールと、
前記電池の電圧、温度を測定する電圧・温度測定器と、
前記診断装置との情報授受を行うための通信線を接続する通信端子と、
前記少なくとも一つの電池の両端からの配線を接続する第1の端子と、
前記電池モジュールの両端からの配線を接続する第2の端子とを有し、
前記電池モジュールの外装には、前記少なくとも一つの電池の両端と接続するための配線導通孔が設けられていることを特徴とする電池パック。
【請求項8】
接続された診断装置より電池容量、RSOLおよびRCTを前記通信端子を介して取得し、
前記電圧・温度測定器が測定した温度情報とともに履歴情報としてメモリに蓄積することを特徴とする請求項7に記載の電池パック。
【請求項9】
接続された診断装置より時間情報、RSOLおよびRCTを前記通信端子を介して取得し、
前記電圧・温度測定器が測定した温度情報とともに履歴情報としてメモリに蓄積し、
前記時間情報は、当該診断装置が複数のステップダウン電流による前記電池の充電を制御することで取得した、最初の電流による充電終了時から最後の電流による充電終了時までの時間情報であることを特徴とする請求項7に記載の電池パック。
【請求項10】
診断装置を電池に接続して各Cレート時の電池容量、RSOLおよびRCTを取得して履歴情報として蓄積する工程と、
電池の特性を表す前記各Cレート時の電池容量、RSOLおよびRCTの履歴情報を取得して、前記履歴情報と参照用劣化データとを比較して最も合致する劣化データを選択し、選択した劣化データに基づいて現在の電池の劣化状態をそれぞれの特性について数値化する工程と、
将来の用途に応じた係数で前記数値を重み付けした新たな数値を合計して前記電池の現在価値指標を作成する工程と
を具備することを特徴とする電池価値指標の製造方法。
【請求項11】
診断装置を電池に接続して時間情報、RSOLおよびRCTを取得して、履歴情報として蓄積する工程と、
電池の特性を表す前記時間情報、RSOLおよびRCTの履歴情報を取得して、前記履歴情報と参照用劣化データとを比較して最も合致する劣化データを選択し、選択した劣化データに基づいて現在の電池の劣化状態をそれぞれの特性について数値化する工程と、
将来の用途に応じた係数で前記数値を重み付けした新たな数値を合計して電池の現在価値指標を作成する工程とを具備し、
前記時間情報は、当該診断装置が複数のステップダウン電流による前記電池の充電を制御することで取得した、最初の電流による充電終了時から最後の電流による充電終了時までの時間情報であることを特徴とする電池価値指標の製造方法。
【請求項1】
電池の電解液抵抗成分RSOLおよび電荷移行抵抗成分RCTを決定する抵抗成分決定部と、
使用サイクル数をパラメータとするRSOLおよびRCTの劣化推移情報を参照して、決定したRSOLおよびRCTの内からより劣化が進行している抵抗成分について、推定現在使用サイクル数を求め、この推定現在使用サイクル数を用いて放電容量が下限値に到達するまでの残サイクル数と放電時間が下限値に到達するまでの残サイクル数の内小さい残サイクル数を電池の現在価値を表す指標とする指標算出部と
を備えたことを特徴とする診断装置。
【請求項2】
電池の電解液抵抗成分RSOLおよび電荷移行抵抗成分RCTを決定する抵抗成分決定部と、
前記少なくとも一つの電池を含む電池パックをステップダウン充放電する充放電器と、
前記充放電器を動作させて複数の電流による充放電を制御して各Cレート時の電池容量を求める電池容量決定部と、
電池の特性を表す前記各Cレート時の電池容量、RSOLおよびRCTの履歴情報を取得して、前記履歴情報と参照用劣化データとを比較して最も合致する劣化データを選択し、選択した劣化データに基づいて現在の電池の劣化状態をそれぞれの特性について数値化し、将来の用途に応じた係数で前記数値を重み付けした新たな数値を合計した値を電池の現在価値指標とする現在価値指標算出部と
を備えたことを特徴とする診断装置。
【請求項3】
電池の電解液抵抗成分RSOLおよび電荷移行抵抗成分RCTを決定する抵抗成分決定部と、
前記少なくとも一つの電池を含む電池パックをステップダウン充電する充電器と、
前記制御部は、
前記充電器を動作させて複数のステップダウン電流による充電を制御して、最初の電流による充電終了時から最後の電流による充電終了時までの時間情報を求める時間情報取得部と、
電池の特性を表す前記時間情報、RSOLおよびRCTの履歴情報を取得して、前記履歴情報と参照用劣化データとを比較して最も合致する劣化データを選択し、選択した劣化データに基づいて現在の電池の劣化状態をそれぞれの特性について数値化し、将来の用途に応じた係数で前記数値を重み付けした新たな数値を合計した値を電池の現在価値指標とする現在価値指標算出部と
を備えたことを特徴とする診断装置。
【請求項4】
少なくとも一つの電池の両端に複数の周波数の交流電圧をスイープして印加する交流発振部と、
印加される周波数毎に前記少なくとも一つの電池の両端に発生する電圧変化と電流変化とをそれぞれ測定する電圧測定部及び電流測定部とを有し、
前記抵抗成分決定部は、前記測定した周波数毎の電圧変化と電流変化とから電池の周波数毎のインピーダンスを複素表現として求め、前記電池の電解液抵抗成分RSOLおよび電荷移行抵抗成分RCTを含む等価回路のインピーダンスが、前記複素表現のインピーダンスとフィットするように前記RSOLおよびRCTを決定することを特徴とする請求項1乃至3の内いずれか1項に記載の診断装置。
【請求項5】
少なくとも一つの電池の両端に複数の周波数の正弦波を重畳した交流電圧を印加する交流発振部と、
印加される交流電圧によって前記少なくとも一つの電池の両端に発生する電圧変化と電流変化とをそれぞれ測定する電圧測定部及び電流測定部とを有し、
前記抵抗成分決定部は、前記電圧変化と電流変化の波形をフーリエ変換して前記電池の周波数毎のインピーダンスを複素表現として求め、前記電池の電解液抵抗成分RSOLおよび電荷移行抵抗成分RCTを含む等価回路のインピーダンスが、前記複素表現のインピーダンスとフィットするように前記RSOLおよびRCTを決定することを特徴とする請求項1乃至3の内いずれか1項に記載の診断装置
【請求項6】
少なくとも一つの電池を含む電池パックを充放電する充放電器を有し、
前記抵抗成分決定部は、前記RSOLおよびRCTを決定するに際し、前記充放電器を制御して前記電池パックの充電状態SOCを略50%とすることを特徴とする請求項1に記載の診断装置。
【請求項7】
請求項1乃至3の内1項に記載の診断装置と接続可能になされた電池パックであって、
少なくとも複数の電池が直列に接続された電池モジュールと、
前記電池の電圧、温度を測定する電圧・温度測定器と、
前記診断装置との情報授受を行うための通信線を接続する通信端子と、
前記少なくとも一つの電池の両端からの配線を接続する第1の端子と、
前記電池モジュールの両端からの配線を接続する第2の端子とを有し、
前記電池モジュールの外装には、前記少なくとも一つの電池の両端と接続するための配線導通孔が設けられていることを特徴とする電池パック。
【請求項8】
接続された診断装置より電池容量、RSOLおよびRCTを前記通信端子を介して取得し、
前記電圧・温度測定器が測定した温度情報とともに履歴情報としてメモリに蓄積することを特徴とする請求項7に記載の電池パック。
【請求項9】
接続された診断装置より時間情報、RSOLおよびRCTを前記通信端子を介して取得し、
前記電圧・温度測定器が測定した温度情報とともに履歴情報としてメモリに蓄積し、
前記時間情報は、当該診断装置が複数のステップダウン電流による前記電池の充電を制御することで取得した、最初の電流による充電終了時から最後の電流による充電終了時までの時間情報であることを特徴とする請求項7に記載の電池パック。
【請求項10】
診断装置を電池に接続して各Cレート時の電池容量、RSOLおよびRCTを取得して履歴情報として蓄積する工程と、
電池の特性を表す前記各Cレート時の電池容量、RSOLおよびRCTの履歴情報を取得して、前記履歴情報と参照用劣化データとを比較して最も合致する劣化データを選択し、選択した劣化データに基づいて現在の電池の劣化状態をそれぞれの特性について数値化する工程と、
将来の用途に応じた係数で前記数値を重み付けした新たな数値を合計して前記電池の現在価値指標を作成する工程と
を具備することを特徴とする電池価値指標の製造方法。
【請求項11】
診断装置を電池に接続して時間情報、RSOLおよびRCTを取得して、履歴情報として蓄積する工程と、
電池の特性を表す前記時間情報、RSOLおよびRCTの履歴情報を取得して、前記履歴情報と参照用劣化データとを比較して最も合致する劣化データを選択し、選択した劣化データに基づいて現在の電池の劣化状態をそれぞれの特性について数値化する工程と、
将来の用途に応じた係数で前記数値を重み付けした新たな数値を合計して電池の現在価値指標を作成する工程とを具備し、
前記時間情報は、当該診断装置が複数のステップダウン電流による前記電池の充電を制御することで取得した、最初の電流による充電終了時から最後の電流による充電終了時までの時間情報であることを特徴とする電池価値指標の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−133443(P2011−133443A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−295627(P2009−295627)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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