説明

証明書用シート及び証明書

【課題】金属光沢面上に地紋と印字を設けた定期券などの証明書の金属光沢層による偽造防止効果を損なうことなく、地紋、印字、特に印字の視認性を高めた証明書及びそのための証明書用シートを提供する。
【解決手段】金属光沢面に45度の角度で入射した光を90度の方向で測定した際の光学反射率を高めて、地紋や印字の背景となる金属光沢層を明るく見えるようにして、印字の視認性を向上させた。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、交通機関の定期乗車券(以下において定期券という。)、入場証、食堂の食券、通行証、商店が売上金額に応じて発行する点数カード等、一定の金額を払い込んだ事により生じる資格やその他の資格等を証明する、改良された証明書、およびそのための用紙に関するものである。
【0002】
【従来の技術】これらの証明書は、一定の経済的価値や効果を持っているため、不正に偽造されたり、変造されたりすることが後を絶たず、特に所持人口の多い定期券では、有効期間や区間、氏名、年齢等を改ざんするケースが多く、発行者側で改ざん防止策を講じておく必要がある。また、上記のその他の証明書においても、入場証であれば、有効期間、氏名、及び年齢等、食券であれば、金額、及び対象商品等、点数カードであれば点数、及び有効期間等の改ざんの可能性がある。
【0003】特に近年のカラー複写機の進歩は目ざましく、通常の手段で複雑な紋様を設けた程度では、偽造が容易であり、単に複写しただけでは、複写が難しいか又は複写をすることにより、「複写である旨」や「無効である旨」の文字が浮かび上がるような工夫もなされている。
【0004】出願人は、以前に、印字面の一部に金属光沢面を形成し、地紋印刷層、印字層を順に積層した定期券を提案している(特開平9−234942号公報)。この従来技術が、不正な複写による改ざん防止に役立つ仕組みを、図3を用いて説明する。図3は、カラー複写機の光源、受光角度、及び原稿との関係を示した図であって、原稿10の表面に対し45度の角度で光源11からの入射光L1が入射し、原稿10に到達した点において反射した反射光L2を、原稿10の表面とは90度の角度に位置する受光部12で捕捉し、感光ドラムに像情報を与えるようになっている。実際には、一般的な紙に対して光が入射するとあらゆる角度に散乱するため、図では真上に位置する受光部12において十分に反射光を捉えることができ、紙に何も像情報が載っていなければ、現像された紙の該当箇所は白いままになる。なお、本明細書では、光反射率を上記のような45度の角度で入射した光L1と、90度の角度で捉える反射光L2を用いて、90度光反射率 = L2 / L1 × 100として計測するものとする。
【0005】図3中、受光部13は理解の参考のために示したもので、入射した光が正反射、即ち、法線から見て対象な線に沿って反射して到達する位置に置かれている。今、原稿の表面が反射率の高い金属光沢面であったとすると、入射光L1は正反射し、正反射光L3はほとんどすべてが受光部3に向かうため、カラー複写機の正規の受光部12には反射光が到達せず、結果として、現像された紙は黒色になる。従来技術はこの事を利用して、金属光沢面に地紋印刷層、印字層を形成し、肉眼では地紋も印字も判読できるが、複写すると地紋や印字は金属光沢面の存在によって生じる黒地の中に埋没して視認不能になる事を実現したものである。
【0006】この従来技術によれば、上記の効果を挙げることができるが、金属光沢面上の地紋や印字は、短時間で肉眼判定をする場合には、視認性が十分とは言えず、特に、定期券のように、一瞬の間に判定をするものには、さらに視認性の向上が望まれている。金属光沢面と地紋、印字を分離すれば、金属光沢面が黒色に複写されるだけでも、ある程度の偽造防止効果はありそうだが、この場合には、金属光沢面があるべき位置に金属光沢を持つものを貼れば偽造が可能になるため、やはり、金属光沢面に地紋、印字を行なうことは避けられない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】従って、本発明においては、金属光沢面上に地紋、印字を設けることを前提として、前記したような偽造防止効果を損なうことなく、地紋、印字、特に印字の視認性を高めた証明書、証明書用紙を提供することを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】発明者の検討によれば、金属光沢面に45度の角度で入射した光を90度の方向で測定した際の光学反射率を、従来よりも高めて、地紋や印字の背景となる金属光沢層を明るく見えるようにして、印字の視認性を向上させ、それに伴って、金属光沢面の存在によって生じる黒色の複写部分の明度が上がって、灰色になって行くのを、実用上支障がない濃灰色で止め、上記の課題を解決することができた。
【0009】請求項1の発明は、基材シートの少なくとも一部分に金属光沢層を有しており、前記金属光沢層表面に対し、45度の角度で入射した光を90度の方向で測定した前記金属光沢層表面の光学反射率が10〜25%であることを特徴とする証明書用シートに関するものである。
【0010】請求項2の発明は、請求項1において、前記金属光沢層表面に地紋が形成されている証明書用シートに関するものである。
【0011】請求項3の発明は、基材シートの少なくとも一部分に金属光沢層を有しており、前記金属光沢層表面に対し、45度の角度で入射した光を90度の方向で測定した前記金属光沢層表面の光学反射率が10〜25%であり、さらに前記金属光沢層表面に印字部を有している証明書に関するものである。
【0012】請求項4の発明は、請求項3において、前記金属光沢層表面に地紋が形成されており、前記地紋上に印字部を有している証明書に関するものである。
【0013】
【発明の実施の形態】図1、図2は、本発明を定期券を作成する際に使用する定期券用シートおよび定期券に適用した場合の積層構造を説明するための断面図であり、この場合の証明書用シートは、基材シート1の下面には磁気記録層2が積層され、基材シート1の上面には、蒸着アンカー層3、蒸着アンカー層3上の一部に金属光沢面を持つ金属薄膜4、金属薄膜4を含む蒸着アンカー層3上に受像層5が順に積層されたものである。あるいは、証明書用シートは、受像層上に地紋6(図2に図示)が形成されたものであってもよい。
【0014】基材シート1としては、破れにくく、剛性があり、印字を行なうために適度な隠蔽性を有していることが望ましく、紙、各種プラスチックフィルム又はシート、金属の箔又はシートもしくは板が使用できる。紙としては、厚さ150μm以上の紙や厚紙、200μm前後の各種プラスチックフィルムンプラスチックとしては、ポリプロピレン、ボリカーボネート、ポリエステル、ポリスチレン、等のプラスチックであるもの、金属としては、鉄、銅、錫、アルミニウム等の金属を主体とするものが優れている。
【0015】磁気記録層2は、定期券の自動改札等に見られるように、磁気ヘッドに接触させて、記録されている信号を読み取り、証明書が真正であるか、あるいは使用が正当である旨を判定するためのもので、磁性の酸化物を高分子マトリックス中に分散させたものであるか、あるいは、磁性金属の蒸着又はスパッタリング等による薄膜である。
【0016】蒸着アンカー層3は、上層の金属薄膜部4を設ける際に、基材シート1と金属薄膜部4との密着性を高め、また基材シートの表面の平滑性を調整するものである。蒸着アンカー層3は、少なくとも後記する金属薄膜部4の下にのみ存在すれば足りる。
【0017】蒸着アンカー層3は、具体的には、上記の条件を満たす合成樹脂のバインダーを主成分とし、溶剤で希釈した塗料組成物を塗布して形成する。ここで、塗料組成物の主成分として使用する合成樹脂は、例えば、ポリエステル樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体系樹脂、ポリウレタン樹脂等の合成樹脂を単体もしくは混合して用いる他、各種熱硬化性樹脂、電離放射線硬化性樹脂も使用できる。蒸着アンカー層は、1〜5μmの厚みになるよう設けるのがよい。
【0018】金属光沢面を持つ金属薄膜4は、蒸着アンカー層3を設けた上に、蒸着、スパッタリング等により設けるものである。金属としては、アルミニウムが使用しやすいが、その他の金属である、金、銀銅等、錫、クロム、ニッケル等の蒸着を行なっても差し支えない。金属薄膜の厚みは、300〜1,000Åが好ましい。
【0019】受像層5は、金属薄膜4の表面を含めた全面の印刷適性、印字適性を向上させるためのもので、特に金属薄膜上は、印刷や印字を行なうと、密着強度が低いため、密着強度を上げておく。受像層5は、受像層形成用組成物を用いて塗布し、形成でき、具体的な受像層形成用組成物としては、合成樹脂として、ポリエステル樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体系樹脂、ポリウレタン樹脂等の合成樹脂を単体もしくは混合して用い、溶剤に希釈して適宜な粘度とし、塗布・乾燥して形成する。受像層5の厚みは、1〜10μmが好ましい。
【0020】本発明においては、金属薄膜の金属光沢面の反射率を従来よりも向上させている点が特徴である。金属光沢面の90度光反射率を従来よりも向上させるには2つの方法があるので、個々に説明する。
(A)蒸着アンカー層3の表面性を従来にくらべて粗面化する。
(B)受像層5内に、光散乱材を分散させて、90度光反射率を上げる。
【0021】もともと、蒸着アンカー層3は、基材シートが紙のような多孔質のものである場合には、紙の表面の凹凸をならす役目も果たしていたが、紙でもカード用紙のような平滑なものや、プラスチックフィルム、金属類を使用する際には、もともと平滑な上にさらに塗装を施すため、より平滑になるため、蒸着した後に金属光沢面を見ると、かなり平滑度が高く、90度光反射率はほとんど無いか、ごく、低いものであった。ここでは、蒸着アンカー層3を形成する際に使用する、蒸着アンカー層形成用組成物中に、合成樹脂バインダー100重量部に対し、0.1〜5重量部程度の体質顔料や、マット剤と称するものを添加して混練し、得られた組成物を使用して蒸着アンカー層を形成する。体質顔料、マット剤としては、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ポリエチレンパウダー、ポリスチレンパウダー等が挙げられる。
【0022】受像層5は、金属薄膜層4を含む蒸着アンカー層3上に設けられる、本発明の証明用シートの最表面に位置する。受像層5は、もともと、透明でよいのだが、体質顔料、マット剤等を含有させることにより、光の散乱性を付与し、正反射する割合を減らして、90度光反射率を高めようとするものである。具体的には、シリカ、炭酸カルシウム、又はアルミナ等を、受像層形成用組成物中に、樹脂分100重量部に対し、0.1〜5重量部程度とし、実際には90度光反射率が、10〜25%になるよう、配合量を調節し、添加する。
【0023】地紋6は、証明書用シートの全体に適用して差し支えないが、本発明において特に改ざん防止効果があるのは、金属薄膜4上に設ける場合である。地紋6としては、細かい線で構成した模様、社章等の記号、社名等の文字を一面に印刷により形成する。地紋6は複数の異なる模様を設けることにより形成してもよい。なお、地紋6を省いても、金属光沢層4と印字7との関係で改ざん防止は可能ではあるが、地紋6を設けて要素を付与した方が改ざん防止には有効である。なお、ここまでが、本発明の証明書用シートに関するものである。
【0024】受像層の上、若しくは受像層上の地紋の上には、印字部7を施す。印字部7は証明書の証明事項、定期券であれば、有効期間、乗車区間、氏名、年齢、等の情報をコンピュータ端末から出力して使用する。
【0025】本発明は、基本的には、以上の構成からなっているが、幾つかの変形があり得る。上記の例では、基材シート1の下名に磁気記録層2を有しているが、これとは別に、あるいはこれに代えて光学記録部及び/又はICによる記録部を有していても良い。また、用途としても、定期券ではなく、入場証、食堂の食券、通行証、点数カード等、種々の用途に適用でき、それぞれの用途に合わせて適した材料を使用して構成することができる。
【0026】
【実施例】以下に、図1で示した構造から下面の磁気記録層を省いたものを、実施例1〜4、及び比較例に示す条件により試料を作成した。作成条件を「表1」及び「表2」に、また得られた試料を評価した結果として、金属薄膜の反射率、金属薄膜が複写された状況、金属薄膜上の印字部の視認性等について、「表3」にまとめる。なお、実施例1〜4、及び比較例の試料については、いずれも、同一条件で地紋印刷と印字を行ない、カラー複写機で複写を行なった。
【0027】
【表1】


【0028】
【表2】


【0029】
【表3】


【0030】
【発明の効果】請求項1及び2の発明によれば、必要に応じ地紋印刷を行ない、印字を行なうと、複写により金属光沢層の部分は濃い灰色に複写されるため、複写したものであることが歴然とするため、複写による偽造を防止できる証明書用紙を提供できる。また、90度光反射率を従来のものにくらべて上げたため、印字の視認性が向上し、目視によるチェックが容易になる可能性がある。
【0031】請求項3及び4の発明によれば、必要に応じ地紋形成を行ない、印字部を形成した証明書は、複写により金属光沢層の部分は濃い灰色に複写されるため、複写したものであることが歴然とするため、このようにして得られた証明書は複写による偽造を防止できる。また、90度光反射率を従来のものにくらべて上げたため、印字の視認性が向上し、目視によるチェックが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明の証明書用シートの断面図である
【図2】図2は本発明の証明書の断面図である。
【図3】図3は、光の反射と複写との関係を示した図である。
【符号の説明】
1 基材シート
2 磁気記録層
3 蒸着アンカー層
4 金属薄膜
5 受像層
6 地紋
7 印字部
10 原稿
11 光源
12、13 受光部
L1 入射光
L2 90度反射光
L3 正反射光

【特許請求の範囲】
【請求項1】 基材シートの少なくとも一部分に金属光沢層を有しており、前記金属光沢層表面に対し、45度の角度で入射した光を90度の方向で測定した前記金属光沢層表面の光学反射率が10〜25%であることを特徴とする証明書用シート。
【請求項2】 前記金属光沢層表面に地紋が形成されている請求項1記載の証明書用シート。
【請求項3】 基材シートの少なくとも一部分に金属光沢層を有しており、前記金属光沢層表面に対し、45度の角度で入射した光を90度の方向で測定した前記金属光沢層表面の光学反射率が10〜25%であり、さらに前記金属光沢層表面に印字部を有している証明書。
【請求項4】 前記金属光沢層表面に地紋が形成されており、前記地紋上に印字部を有している請求項3記載の証明書。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2000−94876(P2000−94876A)
【公開日】平成12年4月4日(2000.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−272314
【出願日】平成10年9月25日(1998.9.25)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】