試料の作製方法
【課題】集束イオンビームを用いたマイクロサンプリングにおいて、試料加工の妨げとなる、スパッタリングされた物質の試料表面への付着を防止する試料の作製方法を提供する。
【解決手段】試料片12の一方の側方に試料基板10と接続した支持部25を残し、他方の側方である側方側領域27、前方側領域21、及び後方側領域23を掘り下げ加工する。具体的には、抽出すべき試料片12の周囲を、前方側領域21において、表面26から65°〜90°の傾斜角で試料片12から離れた位置から試料片12へ向かって深くなるように、かつ試料片12に隣接する前方側隣接領域21aを、試料片12の高さの1.2〜1.5倍の深さに掘り下げる。
【解決手段】試料片12の一方の側方に試料基板10と接続した支持部25を残し、他方の側方である側方側領域27、前方側領域21、及び後方側領域23を掘り下げ加工する。具体的には、抽出すべき試料片12の周囲を、前方側領域21において、表面26から65°〜90°の傾斜角で試料片12から離れた位置から試料片12へ向かって深くなるように、かつ試料片12に隣接する前方側隣接領域21aを、試料片12の高さの1.2〜1.5倍の深さに掘り下げる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集束イオンビームを用いて試料基板の一部から試料片を抽出する試料の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体等の電子顕微鏡観察のための試料作製にマイクロサンプリング法が用いられている。マイクロサンプリング法は、任意の方向と形状に試料(マイクロサンプル)を切り出し、抽出することができる手法で、集束イオンビームを利用する方法が知られている。集束イオンビーム(Focused Ion Beam; FIB)法は、加速電圧数十keVに加速されたガリウム(Ga)イオンを試料表面に走査しながら照射し、そのスパッタリング効果により試料をエッチングする加工技術である(例えば、特許文献1〜3)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−100995号公報
【特許文献2】特開2005−12208号公報
【特許文献3】特開2001−202916号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
FIB加工では、一度スパッタリングされた物質が、再度、試料表面に付着する「再付着」という現象が起こる。特に、窒化ガリウム(GaN)やインジウム燐(InP)のように低融点金属から構成される化合物では、他の材料に比べてその「再付着」が顕著であり、その「再付着」が主に球状の粒子として現れる。この現象は、特にマイクロサンプリングを行う上で問題となり、考えられる問題点としては、以下の通りである。(1)マイクロサンプリング法で抽出したい箇所の周囲を穴加工する際、球状の再付着粒子が周辺に大量に生成されるため、それらが後の抽出工程の妨げとなる。つまり、再付着物がマイクロサンプルの周辺部及び母体との間に大量に生成され、マイクロサンプル及び母体とを接着するため、マイクロサンプルを抽出できないという問題が発生する。(2)再付着粒子の生成速度は速いため、再付着粒子に対してFIB加工を別途行う必要がある。そのため、(3)従来法では、所望箇所の抽出までに要する時間が他の材料よりも大幅に延長される。そこで、マイクロサンプル周りを粗加工する際、再付着物による影響が最も少ない加工方法が求められている。
【0005】
本発明の課題は、集束イオンビームを用いたマイクロサンプリングにおいて、試料加工の妨げとなる、スパッタリングされた物質の試料表面への付着の影響の少ない試料の作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前方側領域において、表面から65°〜90°の傾斜角で試料片から離れた位置から試料片へ向かって深くなるように、かつ試料片に隣接する前方側隣接領域を、試料片の高さの1.2〜1.5倍の深さに、粗加工をすることにより、上記課題を解決しうることを見出した。すなわち、本発明によれば、以下の試料の作製方法が提供される。
【0007】
[1] 試料基板の表面に集束イオンビームを照射し、前記試料基板の一部から試料片を抽出する試料の作製方法であって、前記集束イオンビームを前記試料基板の前記表面に走査しつつ照射し、抽出すべき前記試料片の周囲を、前方側領域において、前記表面から65°〜90°の傾斜角で前記試料片から離れた位置から前記試料片へ向かって深くなるように、かつ前記試料片に隣接する前方側隣接領域を、前記試料片の高さの1.2〜1.5倍の深さに、また、前記試料片の一方の側方において、前記試料基板と接続した支持部を残して掘り下げ加工し、その後に前記試料片を前記試料基板から抽出する試料の作製方法。
【0008】
[2] 前記前方側領域の前記試料片に隣接する前記前方側隣接領域に、平坦な前方側平坦部を形成する前記[1]に記載の試料の作製方法。
【0009】
[3] 前記前方側平坦部は、前記試料片に遠い前方側離隔領域を前記前方側隣接領域よりも浅くして複数段に形成する前記[2]に記載の試料の作製方法。
【0010】
[4] 前記前方側領域を、前記試料片から前記試料片の高さの1.2〜1.5倍離れた位置から掘り始める前記[1]〜[3]のいずれかに記載の試料の作製方法。
【0011】
[5] 前記試料片の後方側領域において、前記試料片に隣接する後方側隣接領域を深く、前記試料片から離れた後方側離隔領域を浅くなるように複数段に掘り下げ加工する前記[1]〜[4]のいずれかに記載の試料の作製方法。
【0012】
[6] 前記後方側領域を平坦な後方側平坦部として形成し、前記後方側隣接領域を、前記試料片の高さの1.2〜1.5倍の深さに、前記後方側離隔領域を、前記試料片の高さの1.0〜1.2倍の深さに掘り下げ加工する前記[5]に記載の試料の作製方法。
【0013】
[7] 前記試料基板が、融点が300℃以下の低融点金属から構成される前記[1]〜[6]のいずれかに記載の試料の作製方法。
【0014】
[8] 前記試料基板が、GaN、InPのいずれかである前記[1]〜[7]のいずれかに記載の試料の作製方法。
【発明の効果】
【0015】
抽出すべき試料片の周囲を、前方側領域において、表面から65°〜90°の傾斜角で試料片から試料片の高さの1.2〜1.5倍離れた位置から試料片へ向かって深くなるように、かつ試料片に隣接する前方側隣接領域を、試料片の高さの1.2〜1.5倍の深さで平坦部となるように集束イオンビームにて掘り下げることにより、スパッタされた物質の再付着を抑えることができる。
【0016】
さらに、試料片の後方側領域において、試料片に隣接する後方側隣接領域を深く、試料片から離れた後方側離隔領域を浅くなるように複数段に掘り下げ加工することにより、スパッタされた物質の再付着を抑えつつ、効率よく加工することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0018】
図1は、本発明の試料の作製方法を用いたマイクロサンプリングを示す斜視図である。
試料作製装置1は、試料基板10の加工を行うための集束イオンビーム3を照射する照射光学系2と、試料基板10を載置する試料ステージ5とを備える。照射光学系2は、加速電圧数十keVに加速されたガリウム(Ga)イオンの集束イオンビーム(Focused Ion Beam; FIB)3を試料表面に走査しながら照射するように構成されている。
【0019】
試料作製装置1は、試料ステージ5に載置された試料基板10の表面26に集束イオンビーム3を照射し、試料基板10の一部から試料片12を抽出するものである。具体的には、照射光学系2は、イオンを放出する液体金属イオン源、ビーム制限アパチャ、集束レンズ、対物レンズを備えており(図示せず)、イオンをビーム制限アパチャ、集束レンズ、対物レンズに通すことで10nm径程度から1ミクロン径程度の集束イオンビーム3を形成する。さらに、試料作製装置1は、偏光器を備えており(図示せず)、集束イオンビーム3を偏向器を用いて試料基板10上を走査することで、走査形状に試料基板10にミクロンからサブミクロンレベルの加工ができる。
【0020】
試料ステージ5は、照射光学系2等とともに真空容器内に配置されている。試料ステージ5は、3次元(X,Y,Z)方向の移動及び傾斜、回転機構を備える。
【0021】
試料ステージ5に載置される試料基板10は、半導体ウエハ等であり、本発明の試料の作製方法は、窒化ガリウム(GaN)やインジウム燐(InP)、インジウム(In)、スズ(Sn)、ビスマス(Bi)、鉛フリーはんだ等の低融点金属から構成される化合物に適用することができる。ここで、低融点金属とは、融点が300℃以下の金属のことをいう。
【0022】
以上に説明した試料作製装置1を用いて、以下に説明する試料作製方法により試料基板10から試料片12を効率よく抽出することができる。図1に示すように、試料ステージ5に試料基板10を載置し固定する。試料基板10の抽出すべき試料片12の周囲に、集束イオンビーム3を走査しつつ照射し、試料片12の一方の側方に試料基板10と接続した支持部を残して掘り下げ加工する。
【0023】
(実施形態1)
実施形態1の加工領域20の平面図を図2の左側、及び断面図を右側に示す。試料片12の一方の側方に試料基板10と接続した支持部25を残し、他方の側方である側方側領域27、前方側領域21、及び後方側領域23を掘り下げ加工する。具体的には、抽出すべき試料片12の周囲を、前方側領域21において、表面26から65°〜90°の傾斜角で試料片12から試料片12の高さの1.2〜1.5倍離れた位置から試料片12へ向かって深くなるように(ただし、90°の場合は、向かって深くなるわけではない)、かつ試料片12に隣接する前方側隣接領域21aを、試料片12の高さの1.2〜1.5倍の深さで平坦部21fとなるように掘り下げることが好ましい。なお、前方側領域21は、後述するように、試料片12を分離するために集束イオンビーム3を照射する側である。
【0024】
図2は、前方側領域21のうち、試料片12から離隔した前方側離隔領域21bを試料片12から試料片12の高さの1.2倍離れた位置から65°の傾斜角で傾斜溝として、試料片12に隣接する前方側隣接領域21aを、試料片12の高さの1.5倍の深さで平坦に前方側平坦部21fとして掘り下げた例である。試料片12に近い領域を深くすることにより、試料片12の抽出の障害となる近い領域における付着物発生を防止し、遠い領域が浅くなるように傾斜溝として加工することにより、加工時間を短縮することができる。
【0025】
また、試料片12の後方側領域23において、試料片12に隣接する後方側隣接領域23aを深く、試料片12から離れた後方側離隔領域23bを浅くなるように複数段に掘り下げ加工する。後方側隣接領域23a及び後方側離隔領域23bをそれぞれ後方側平坦部23fとして形成し、後方側隣接領域23aの後方側平坦部23fを、試料片12の高さの1.2〜1.5倍の深さに、後方側離隔領域23bを試料片12の高さの1.0〜1.2倍の深さに、掘り下げ加工する。図2は、後方側隣接領域23aの後方側平坦部23fを、試料片12の高さの1.5倍の深さに、後方側離隔領域23bを試料片12の高さの1.2倍の深さに、掘り下げ加工した例である。このように、試料片12に近い領域を深くすることにより、試料片12の抽出の障害となる近い領域における付着物発生を防止し、遠い領域を浅くすることにより、加工時間を短縮することができる。
【0026】
なお、前方側領域21と後方側領域23との加工領域20の形状が異なるのは、集束イオンビーム3を前方側領域21から試料片12の下側に照射して、最終的に試料片12を試料基板10から分離するためである。
【0027】
(実施形態2)
実施形態2の加工領域20の平面図を図3の左側、及び断面図を右側に示す。実施形態2では、前方側領域21の試料片12に近い前方側隣接領域21aが、試料片12の高さの1.5倍の深さに掘り下げられて平坦部21fが形成されており、離れた領域(前方側離隔領域21b)に、それよりも浅い平坦部21fが形成されている。このように、平坦部21fを2段とすることにより、試料片12の抽出の障害となる近い領域における付着物発生を防止し、遠い領域を浅くして、加工時間を短縮することができる。なお、前方側隣接領域21aとして、試料片12の高さの1.2〜1.5倍の深さに掘り下げ加工する範囲は、再付着粒子の大きさや付着範囲等を考慮すると、試料片12から3μm以上が好ましい。ただし、この領域を大きくすると、加工時間の短縮化が難しくなるため、3〜4μmが最も好ましい。
【0028】
(実施形態3)
実施形態2の加工領域20の平面図を図4の左側、及び断面図を右側に示す。実施形態3では、前方側領域21において、表面26から90°の傾斜角で試料片12から試料片の高さの1.2〜1.5倍離れた位置から掘り下げる。図4は、試料片12の高さの1.2倍離れた位置から掘り始めている。そして、表面26に対して垂直に前方側離隔領域21bを試料片12の高さの1.0〜1.2倍の深さに、試料片12に隣接する前方側隣接領域21aを、試料片12の高さの1.2〜1.5倍の深さに2段に掘り下げる。深さ(平坦部21f)を2段とすることにより、試料片12の抽出の障害となる近い領域における付着物発生を防止し、遠い領域を浅くして、加工時間を短縮することができる。
【0029】
上記の実施形態1〜3のように、抽出すべき試料片12の周囲を、前方側領域21において、表面26から65°〜90°の傾斜角で試料片12から試料片12の高さの1.2〜1.5倍離れた位置から試料片12へ向かって深くなるように、かつ試料片12に隣接する前方側隣接領域21aを、試料片12の高さの1.2〜1.5倍の深さで平坦部21fとなるように掘り下げ、試料片12の後方側領域23において、試料片12に隣接する後方側隣接領域23aを深く、試料片12から離れた後方側離隔領域23bを浅くなるように複数段に掘り下げ加工する。この後、試料基板10を傾斜して底部29を切断し、その後、メカニカルプローブを試料片12の表面端部に接着し、支持部25を切断して試料片12を試料(マイクロサンプル)として抽出する。上記の実施形態1〜3のように、加工することにより、集束イオンビーム3によってスパッタリングされた物質の試料表面への付着を抑えることができるため、再度、付着物を加工する必要が無い。このため、加工時間を従来よりも短縮することができる。抽出した試料は、試料台に固定した後、メカニカルプローブを切断する。そして、抽出した試料を、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)観察、走査透過電子顕微鏡(STEM)観察等に用いる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
GaNバルク結晶を試料とし、試料作製装置1としてマイクロサンプリング装置(HITACHI製FB−2100)を使用して、マイクロサンプリング法によってマイクロサンプル(試料片12)を抽出した。抽出条件は、集束イオンビームにGaイオン使用し、集束イオンビームの加速電圧40kV、ビーム電流35nA、アパチャ径650μmであった。抽出したマイクロサンプルは、縦4〜5μm×横10μm×高さ10μmであった。加工方法について、以下の5通り(実施例1〜2、比較例1〜3)を行った。
【0032】
(実施例1)
図2に示す形状に加工し、マイクロサンプルを抽出した(実施例1は、実施形態1に相当)。加工領域の寸法は、図2に記載の通りである(詳細は、図2の説明参照)。所要時間は、22分であった。図9に、SIM像(走査イオン顕微鏡)を示す。撮像条件は、加速電圧40kV、ビーム電流0.01nA、アパチャ径20μmであった。
【0033】
(実施例2)
図4に示す形状に加工し、マイクロサンプルを抽出した(実施例2は、実施形態3に相当)。加工領域の寸法は、図4に記載の通りである(詳細は、図4の説明参照)。所要時間は、22分であった。図10に、SIM像を示す。
【0034】
(比較例1)
図5に示す形状に加工し、マイクロサンプルを抽出した。加工領域の寸法は、図5に記載の通りである。比較例1は、従来の加工方法であり、前方側領域21のうち、試料片12から離隔した前方側離隔領域21bを試料片12から試料片12の高さの1.2倍離れた位置から45°の傾斜角で傾斜溝として、試料片12に隣接する前方側隣接領域21aまで掘り下げた。所要時間は、20分であった。図11に、SIM像を示す。
【0035】
(比較例2)
図6に示す形状に加工し、マイクロサンプルを抽出した。加工領域の寸法は、図6に記載の通りである。比較例2は、抽出すべき試料片12の周囲を、前方側領域21において、試料片12から離隔した前方側離隔領域21bを試料片12から試料片12の高さの1.2倍離れた位置から45°の傾斜角で前方側隣接領域21aまで傾斜溝として、試料片12から離れた位置から試料片12へ向かって深くなるように掘り下げた。比較例2においては、前方側領域に前方側平坦部を設けず、試料片12の下方まで、傾斜溝で掘り下げた。また、後方領域23のうち、後方側隣接領域23aを15μm、後方側離隔領域23bを12μmとして2段の平坦部を設けた。所要時間は、20分であった。図12に、SIM像を示す。
【0036】
(比較例3)
図7に示す形状に加工し、マイクロサンプルを抽出した。加工領域の寸法は、図7に記載の通りである。比較例3は、前方側領域21のうち、試料片12から離隔した前方側離隔領域21bを試料片12から試料片12の高さの1.2倍離れた位置から45°の傾斜角で傾斜溝として、試料片12に隣接する前方側隣接領域21aまで掘り下げた。前方側隣接領域21aを前方側平坦部21fとして15μmまで掘り下げた。また、後方領域23のうち、後方側隣接領域23aを15μm、後方側離隔領域23bを12μmとして2段の平坦部を設けた。所要時間は、22分であった。図13に、SIM像を示す。
【0037】
(比較例4)
図8に示す形状に加工し、マイクロサンプルを抽出した。加工領域の寸法は、図8に記載の通りである。比較例4は、前方側領域21のうち、試料片12から離隔した前方側離隔領域21bを試料片12から試料片12の高さの1.2倍離れた位置から65°の傾斜角で傾斜溝として、24μmまで掘り下げた。また、後方領域23のうち、後方側隣接領域23aを15μm、後方側離隔領域23bを12μmとして2段の平坦部を設けた。所要時間は、25分であった。図14に、SIM像を示す。
【0038】
結果を表1に示す。なお、表中の時間は、図2〜図8に示した加工領域を掘り下げる加工(粗加工)にかかった時間である。
【0039】
【表1】
【0040】
図9〜図10に示すように、実施例1〜2は、深い位置に再付着物が堆積し、別途再付着物の加工をする必要がなかった。一方、比較例1〜2は、実施例1〜2に比べ、粗加工の時間は、短かったものの、図11〜図14に示すように、比較例1〜4は、再付着物が浅い位置にも堆積し、別途再付着物を加工する必要があった。このため、実施例1〜2の方が、全加工時間が比較例1〜4に比べ、短時間であった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、集束イオンビームを用いてマイクロサンプルを抽出するマイクロサンプリング法に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の試料の作製方法を説明するための図である。
【図2】実施形態1(実施例1)の加工方法を説明するための図である。
【図3】実施形態2の加工方法を説明するための図である。
【図4】実施形態3(実施例2)の加工方法を説明するための図である。
【図5】比較例1の加工方法を説明するための図である。
【図6】比較例2の加工方法を説明するための図である。
【図7】比較例3の加工方法を説明するための図である。
【図8】比較例4の加工方法を説明するための図である。
【図9】実施例1のSIM像を示す写真である。
【図10】実施例2のSIM像を示す写真である。
【図11】比較例1のSIM像を示す写真である。
【図12】比較例2のSIM像を示す写真である。
【図13】比較例3のSIM像を示す写真である。
【図14】比較例4のSIM像を示す写真である。
【符号の説明】
【0043】
1:試料作製装置、2:照射光学系、3:集束イオンビーム、5:試料ステージ、10:試料基板、12:試料片、20:加工領域、21:前方側領域、21a:前方側隣接領域、21b:前方側離隔領域、21f:前方側平坦部、23:後方側領域、23a:後方側隣接領域、23b:後方側離隔領域、23f:後方側平坦部、25:支持部、26:表面、27:側方側領域、29:底部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、集束イオンビームを用いて試料基板の一部から試料片を抽出する試料の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体等の電子顕微鏡観察のための試料作製にマイクロサンプリング法が用いられている。マイクロサンプリング法は、任意の方向と形状に試料(マイクロサンプル)を切り出し、抽出することができる手法で、集束イオンビームを利用する方法が知られている。集束イオンビーム(Focused Ion Beam; FIB)法は、加速電圧数十keVに加速されたガリウム(Ga)イオンを試料表面に走査しながら照射し、そのスパッタリング効果により試料をエッチングする加工技術である(例えば、特許文献1〜3)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−100995号公報
【特許文献2】特開2005−12208号公報
【特許文献3】特開2001−202916号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
FIB加工では、一度スパッタリングされた物質が、再度、試料表面に付着する「再付着」という現象が起こる。特に、窒化ガリウム(GaN)やインジウム燐(InP)のように低融点金属から構成される化合物では、他の材料に比べてその「再付着」が顕著であり、その「再付着」が主に球状の粒子として現れる。この現象は、特にマイクロサンプリングを行う上で問題となり、考えられる問題点としては、以下の通りである。(1)マイクロサンプリング法で抽出したい箇所の周囲を穴加工する際、球状の再付着粒子が周辺に大量に生成されるため、それらが後の抽出工程の妨げとなる。つまり、再付着物がマイクロサンプルの周辺部及び母体との間に大量に生成され、マイクロサンプル及び母体とを接着するため、マイクロサンプルを抽出できないという問題が発生する。(2)再付着粒子の生成速度は速いため、再付着粒子に対してFIB加工を別途行う必要がある。そのため、(3)従来法では、所望箇所の抽出までに要する時間が他の材料よりも大幅に延長される。そこで、マイクロサンプル周りを粗加工する際、再付着物による影響が最も少ない加工方法が求められている。
【0005】
本発明の課題は、集束イオンビームを用いたマイクロサンプリングにおいて、試料加工の妨げとなる、スパッタリングされた物質の試料表面への付着の影響の少ない試料の作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前方側領域において、表面から65°〜90°の傾斜角で試料片から離れた位置から試料片へ向かって深くなるように、かつ試料片に隣接する前方側隣接領域を、試料片の高さの1.2〜1.5倍の深さに、粗加工をすることにより、上記課題を解決しうることを見出した。すなわち、本発明によれば、以下の試料の作製方法が提供される。
【0007】
[1] 試料基板の表面に集束イオンビームを照射し、前記試料基板の一部から試料片を抽出する試料の作製方法であって、前記集束イオンビームを前記試料基板の前記表面に走査しつつ照射し、抽出すべき前記試料片の周囲を、前方側領域において、前記表面から65°〜90°の傾斜角で前記試料片から離れた位置から前記試料片へ向かって深くなるように、かつ前記試料片に隣接する前方側隣接領域を、前記試料片の高さの1.2〜1.5倍の深さに、また、前記試料片の一方の側方において、前記試料基板と接続した支持部を残して掘り下げ加工し、その後に前記試料片を前記試料基板から抽出する試料の作製方法。
【0008】
[2] 前記前方側領域の前記試料片に隣接する前記前方側隣接領域に、平坦な前方側平坦部を形成する前記[1]に記載の試料の作製方法。
【0009】
[3] 前記前方側平坦部は、前記試料片に遠い前方側離隔領域を前記前方側隣接領域よりも浅くして複数段に形成する前記[2]に記載の試料の作製方法。
【0010】
[4] 前記前方側領域を、前記試料片から前記試料片の高さの1.2〜1.5倍離れた位置から掘り始める前記[1]〜[3]のいずれかに記載の試料の作製方法。
【0011】
[5] 前記試料片の後方側領域において、前記試料片に隣接する後方側隣接領域を深く、前記試料片から離れた後方側離隔領域を浅くなるように複数段に掘り下げ加工する前記[1]〜[4]のいずれかに記載の試料の作製方法。
【0012】
[6] 前記後方側領域を平坦な後方側平坦部として形成し、前記後方側隣接領域を、前記試料片の高さの1.2〜1.5倍の深さに、前記後方側離隔領域を、前記試料片の高さの1.0〜1.2倍の深さに掘り下げ加工する前記[5]に記載の試料の作製方法。
【0013】
[7] 前記試料基板が、融点が300℃以下の低融点金属から構成される前記[1]〜[6]のいずれかに記載の試料の作製方法。
【0014】
[8] 前記試料基板が、GaN、InPのいずれかである前記[1]〜[7]のいずれかに記載の試料の作製方法。
【発明の効果】
【0015】
抽出すべき試料片の周囲を、前方側領域において、表面から65°〜90°の傾斜角で試料片から試料片の高さの1.2〜1.5倍離れた位置から試料片へ向かって深くなるように、かつ試料片に隣接する前方側隣接領域を、試料片の高さの1.2〜1.5倍の深さで平坦部となるように集束イオンビームにて掘り下げることにより、スパッタされた物質の再付着を抑えることができる。
【0016】
さらに、試料片の後方側領域において、試料片に隣接する後方側隣接領域を深く、試料片から離れた後方側離隔領域を浅くなるように複数段に掘り下げ加工することにより、スパッタされた物質の再付着を抑えつつ、効率よく加工することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0018】
図1は、本発明の試料の作製方法を用いたマイクロサンプリングを示す斜視図である。
試料作製装置1は、試料基板10の加工を行うための集束イオンビーム3を照射する照射光学系2と、試料基板10を載置する試料ステージ5とを備える。照射光学系2は、加速電圧数十keVに加速されたガリウム(Ga)イオンの集束イオンビーム(Focused Ion Beam; FIB)3を試料表面に走査しながら照射するように構成されている。
【0019】
試料作製装置1は、試料ステージ5に載置された試料基板10の表面26に集束イオンビーム3を照射し、試料基板10の一部から試料片12を抽出するものである。具体的には、照射光学系2は、イオンを放出する液体金属イオン源、ビーム制限アパチャ、集束レンズ、対物レンズを備えており(図示せず)、イオンをビーム制限アパチャ、集束レンズ、対物レンズに通すことで10nm径程度から1ミクロン径程度の集束イオンビーム3を形成する。さらに、試料作製装置1は、偏光器を備えており(図示せず)、集束イオンビーム3を偏向器を用いて試料基板10上を走査することで、走査形状に試料基板10にミクロンからサブミクロンレベルの加工ができる。
【0020】
試料ステージ5は、照射光学系2等とともに真空容器内に配置されている。試料ステージ5は、3次元(X,Y,Z)方向の移動及び傾斜、回転機構を備える。
【0021】
試料ステージ5に載置される試料基板10は、半導体ウエハ等であり、本発明の試料の作製方法は、窒化ガリウム(GaN)やインジウム燐(InP)、インジウム(In)、スズ(Sn)、ビスマス(Bi)、鉛フリーはんだ等の低融点金属から構成される化合物に適用することができる。ここで、低融点金属とは、融点が300℃以下の金属のことをいう。
【0022】
以上に説明した試料作製装置1を用いて、以下に説明する試料作製方法により試料基板10から試料片12を効率よく抽出することができる。図1に示すように、試料ステージ5に試料基板10を載置し固定する。試料基板10の抽出すべき試料片12の周囲に、集束イオンビーム3を走査しつつ照射し、試料片12の一方の側方に試料基板10と接続した支持部を残して掘り下げ加工する。
【0023】
(実施形態1)
実施形態1の加工領域20の平面図を図2の左側、及び断面図を右側に示す。試料片12の一方の側方に試料基板10と接続した支持部25を残し、他方の側方である側方側領域27、前方側領域21、及び後方側領域23を掘り下げ加工する。具体的には、抽出すべき試料片12の周囲を、前方側領域21において、表面26から65°〜90°の傾斜角で試料片12から試料片12の高さの1.2〜1.5倍離れた位置から試料片12へ向かって深くなるように(ただし、90°の場合は、向かって深くなるわけではない)、かつ試料片12に隣接する前方側隣接領域21aを、試料片12の高さの1.2〜1.5倍の深さで平坦部21fとなるように掘り下げることが好ましい。なお、前方側領域21は、後述するように、試料片12を分離するために集束イオンビーム3を照射する側である。
【0024】
図2は、前方側領域21のうち、試料片12から離隔した前方側離隔領域21bを試料片12から試料片12の高さの1.2倍離れた位置から65°の傾斜角で傾斜溝として、試料片12に隣接する前方側隣接領域21aを、試料片12の高さの1.5倍の深さで平坦に前方側平坦部21fとして掘り下げた例である。試料片12に近い領域を深くすることにより、試料片12の抽出の障害となる近い領域における付着物発生を防止し、遠い領域が浅くなるように傾斜溝として加工することにより、加工時間を短縮することができる。
【0025】
また、試料片12の後方側領域23において、試料片12に隣接する後方側隣接領域23aを深く、試料片12から離れた後方側離隔領域23bを浅くなるように複数段に掘り下げ加工する。後方側隣接領域23a及び後方側離隔領域23bをそれぞれ後方側平坦部23fとして形成し、後方側隣接領域23aの後方側平坦部23fを、試料片12の高さの1.2〜1.5倍の深さに、後方側離隔領域23bを試料片12の高さの1.0〜1.2倍の深さに、掘り下げ加工する。図2は、後方側隣接領域23aの後方側平坦部23fを、試料片12の高さの1.5倍の深さに、後方側離隔領域23bを試料片12の高さの1.2倍の深さに、掘り下げ加工した例である。このように、試料片12に近い領域を深くすることにより、試料片12の抽出の障害となる近い領域における付着物発生を防止し、遠い領域を浅くすることにより、加工時間を短縮することができる。
【0026】
なお、前方側領域21と後方側領域23との加工領域20の形状が異なるのは、集束イオンビーム3を前方側領域21から試料片12の下側に照射して、最終的に試料片12を試料基板10から分離するためである。
【0027】
(実施形態2)
実施形態2の加工領域20の平面図を図3の左側、及び断面図を右側に示す。実施形態2では、前方側領域21の試料片12に近い前方側隣接領域21aが、試料片12の高さの1.5倍の深さに掘り下げられて平坦部21fが形成されており、離れた領域(前方側離隔領域21b)に、それよりも浅い平坦部21fが形成されている。このように、平坦部21fを2段とすることにより、試料片12の抽出の障害となる近い領域における付着物発生を防止し、遠い領域を浅くして、加工時間を短縮することができる。なお、前方側隣接領域21aとして、試料片12の高さの1.2〜1.5倍の深さに掘り下げ加工する範囲は、再付着粒子の大きさや付着範囲等を考慮すると、試料片12から3μm以上が好ましい。ただし、この領域を大きくすると、加工時間の短縮化が難しくなるため、3〜4μmが最も好ましい。
【0028】
(実施形態3)
実施形態2の加工領域20の平面図を図4の左側、及び断面図を右側に示す。実施形態3では、前方側領域21において、表面26から90°の傾斜角で試料片12から試料片の高さの1.2〜1.5倍離れた位置から掘り下げる。図4は、試料片12の高さの1.2倍離れた位置から掘り始めている。そして、表面26に対して垂直に前方側離隔領域21bを試料片12の高さの1.0〜1.2倍の深さに、試料片12に隣接する前方側隣接領域21aを、試料片12の高さの1.2〜1.5倍の深さに2段に掘り下げる。深さ(平坦部21f)を2段とすることにより、試料片12の抽出の障害となる近い領域における付着物発生を防止し、遠い領域を浅くして、加工時間を短縮することができる。
【0029】
上記の実施形態1〜3のように、抽出すべき試料片12の周囲を、前方側領域21において、表面26から65°〜90°の傾斜角で試料片12から試料片12の高さの1.2〜1.5倍離れた位置から試料片12へ向かって深くなるように、かつ試料片12に隣接する前方側隣接領域21aを、試料片12の高さの1.2〜1.5倍の深さで平坦部21fとなるように掘り下げ、試料片12の後方側領域23において、試料片12に隣接する後方側隣接領域23aを深く、試料片12から離れた後方側離隔領域23bを浅くなるように複数段に掘り下げ加工する。この後、試料基板10を傾斜して底部29を切断し、その後、メカニカルプローブを試料片12の表面端部に接着し、支持部25を切断して試料片12を試料(マイクロサンプル)として抽出する。上記の実施形態1〜3のように、加工することにより、集束イオンビーム3によってスパッタリングされた物質の試料表面への付着を抑えることができるため、再度、付着物を加工する必要が無い。このため、加工時間を従来よりも短縮することができる。抽出した試料は、試料台に固定した後、メカニカルプローブを切断する。そして、抽出した試料を、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)観察、走査透過電子顕微鏡(STEM)観察等に用いる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
GaNバルク結晶を試料とし、試料作製装置1としてマイクロサンプリング装置(HITACHI製FB−2100)を使用して、マイクロサンプリング法によってマイクロサンプル(試料片12)を抽出した。抽出条件は、集束イオンビームにGaイオン使用し、集束イオンビームの加速電圧40kV、ビーム電流35nA、アパチャ径650μmであった。抽出したマイクロサンプルは、縦4〜5μm×横10μm×高さ10μmであった。加工方法について、以下の5通り(実施例1〜2、比較例1〜3)を行った。
【0032】
(実施例1)
図2に示す形状に加工し、マイクロサンプルを抽出した(実施例1は、実施形態1に相当)。加工領域の寸法は、図2に記載の通りである(詳細は、図2の説明参照)。所要時間は、22分であった。図9に、SIM像(走査イオン顕微鏡)を示す。撮像条件は、加速電圧40kV、ビーム電流0.01nA、アパチャ径20μmであった。
【0033】
(実施例2)
図4に示す形状に加工し、マイクロサンプルを抽出した(実施例2は、実施形態3に相当)。加工領域の寸法は、図4に記載の通りである(詳細は、図4の説明参照)。所要時間は、22分であった。図10に、SIM像を示す。
【0034】
(比較例1)
図5に示す形状に加工し、マイクロサンプルを抽出した。加工領域の寸法は、図5に記載の通りである。比較例1は、従来の加工方法であり、前方側領域21のうち、試料片12から離隔した前方側離隔領域21bを試料片12から試料片12の高さの1.2倍離れた位置から45°の傾斜角で傾斜溝として、試料片12に隣接する前方側隣接領域21aまで掘り下げた。所要時間は、20分であった。図11に、SIM像を示す。
【0035】
(比較例2)
図6に示す形状に加工し、マイクロサンプルを抽出した。加工領域の寸法は、図6に記載の通りである。比較例2は、抽出すべき試料片12の周囲を、前方側領域21において、試料片12から離隔した前方側離隔領域21bを試料片12から試料片12の高さの1.2倍離れた位置から45°の傾斜角で前方側隣接領域21aまで傾斜溝として、試料片12から離れた位置から試料片12へ向かって深くなるように掘り下げた。比較例2においては、前方側領域に前方側平坦部を設けず、試料片12の下方まで、傾斜溝で掘り下げた。また、後方領域23のうち、後方側隣接領域23aを15μm、後方側離隔領域23bを12μmとして2段の平坦部を設けた。所要時間は、20分であった。図12に、SIM像を示す。
【0036】
(比較例3)
図7に示す形状に加工し、マイクロサンプルを抽出した。加工領域の寸法は、図7に記載の通りである。比較例3は、前方側領域21のうち、試料片12から離隔した前方側離隔領域21bを試料片12から試料片12の高さの1.2倍離れた位置から45°の傾斜角で傾斜溝として、試料片12に隣接する前方側隣接領域21aまで掘り下げた。前方側隣接領域21aを前方側平坦部21fとして15μmまで掘り下げた。また、後方領域23のうち、後方側隣接領域23aを15μm、後方側離隔領域23bを12μmとして2段の平坦部を設けた。所要時間は、22分であった。図13に、SIM像を示す。
【0037】
(比較例4)
図8に示す形状に加工し、マイクロサンプルを抽出した。加工領域の寸法は、図8に記載の通りである。比較例4は、前方側領域21のうち、試料片12から離隔した前方側離隔領域21bを試料片12から試料片12の高さの1.2倍離れた位置から65°の傾斜角で傾斜溝として、24μmまで掘り下げた。また、後方領域23のうち、後方側隣接領域23aを15μm、後方側離隔領域23bを12μmとして2段の平坦部を設けた。所要時間は、25分であった。図14に、SIM像を示す。
【0038】
結果を表1に示す。なお、表中の時間は、図2〜図8に示した加工領域を掘り下げる加工(粗加工)にかかった時間である。
【0039】
【表1】
【0040】
図9〜図10に示すように、実施例1〜2は、深い位置に再付着物が堆積し、別途再付着物の加工をする必要がなかった。一方、比較例1〜2は、実施例1〜2に比べ、粗加工の時間は、短かったものの、図11〜図14に示すように、比較例1〜4は、再付着物が浅い位置にも堆積し、別途再付着物を加工する必要があった。このため、実施例1〜2の方が、全加工時間が比較例1〜4に比べ、短時間であった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、集束イオンビームを用いてマイクロサンプルを抽出するマイクロサンプリング法に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の試料の作製方法を説明するための図である。
【図2】実施形態1(実施例1)の加工方法を説明するための図である。
【図3】実施形態2の加工方法を説明するための図である。
【図4】実施形態3(実施例2)の加工方法を説明するための図である。
【図5】比較例1の加工方法を説明するための図である。
【図6】比較例2の加工方法を説明するための図である。
【図7】比較例3の加工方法を説明するための図である。
【図8】比較例4の加工方法を説明するための図である。
【図9】実施例1のSIM像を示す写真である。
【図10】実施例2のSIM像を示す写真である。
【図11】比較例1のSIM像を示す写真である。
【図12】比較例2のSIM像を示す写真である。
【図13】比較例3のSIM像を示す写真である。
【図14】比較例4のSIM像を示す写真である。
【符号の説明】
【0043】
1:試料作製装置、2:照射光学系、3:集束イオンビーム、5:試料ステージ、10:試料基板、12:試料片、20:加工領域、21:前方側領域、21a:前方側隣接領域、21b:前方側離隔領域、21f:前方側平坦部、23:後方側領域、23a:後方側隣接領域、23b:後方側離隔領域、23f:後方側平坦部、25:支持部、26:表面、27:側方側領域、29:底部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料基板の表面に集束イオンビームを照射し、前記試料基板の一部から試料片を抽出する試料の作製方法であって、
前記集束イオンビームを前記試料基板の前記表面に走査しつつ照射し、抽出すべき前記試料片の周囲を、
前方側領域において、前記表面から65°〜90°の傾斜角で前記試料片から離れた位置から前記試料片へ向かって深くなるように、かつ前記試料片に隣接する前方側隣接領域を、前記試料片の高さの1.2〜1.5倍の深さに、
また、前記試料片の一方の側方において、前記試料基板と接続した支持部を残して掘り下げ加工し、
その後に前記試料片を前記試料基板から抽出する試料の作製方法。
【請求項2】
前記前方側領域の前記試料片に隣接する前記前方側隣接領域に、平坦な前方側平坦部を形成する請求項1に記載の試料の作製方法。
【請求項3】
前記前方側平坦部は、前記試料片に遠い前方側離隔領域を前記前方側隣接領域よりも浅くして複数段に形成する請求項2に記載の試料の作製方法。
【請求項4】
前記前方側領域を、前記試料片から前記試料片の高さの1.2〜1.5倍離れた位置から掘り始める請求項1〜3のいずれか1項に記載の試料の作製方法。
【請求項5】
前記試料片の後方側領域において、前記試料片に隣接する後方側隣接領域を深く、前記試料片から離れた後方側離隔領域を浅くなるように複数段に掘り下げ加工する請求項1〜4のいずれか1項に記載の試料の作製方法。
【請求項6】
前記後方側領域を平坦な後方側平坦部として形成し、前記後方側隣接領域を、前記試料片の高さの1.2〜1.5倍の深さに、前記後方側離隔領域を、前記試料片の高さの1.0〜1.2倍の深さに掘り下げ加工する請求項5に記載の試料の作製方法。
【請求項7】
前記試料基板が、融点が300℃以下の低融点金属から構成される請求項1〜6のいずれか1項に記載の試料の作製方法。
【請求項8】
前記試料基板が、GaN、InPのいずれかである請求項1〜7のいずれか1項に記載の試料の作製方法。
【請求項1】
試料基板の表面に集束イオンビームを照射し、前記試料基板の一部から試料片を抽出する試料の作製方法であって、
前記集束イオンビームを前記試料基板の前記表面に走査しつつ照射し、抽出すべき前記試料片の周囲を、
前方側領域において、前記表面から65°〜90°の傾斜角で前記試料片から離れた位置から前記試料片へ向かって深くなるように、かつ前記試料片に隣接する前方側隣接領域を、前記試料片の高さの1.2〜1.5倍の深さに、
また、前記試料片の一方の側方において、前記試料基板と接続した支持部を残して掘り下げ加工し、
その後に前記試料片を前記試料基板から抽出する試料の作製方法。
【請求項2】
前記前方側領域の前記試料片に隣接する前記前方側隣接領域に、平坦な前方側平坦部を形成する請求項1に記載の試料の作製方法。
【請求項3】
前記前方側平坦部は、前記試料片に遠い前方側離隔領域を前記前方側隣接領域よりも浅くして複数段に形成する請求項2に記載の試料の作製方法。
【請求項4】
前記前方側領域を、前記試料片から前記試料片の高さの1.2〜1.5倍離れた位置から掘り始める請求項1〜3のいずれか1項に記載の試料の作製方法。
【請求項5】
前記試料片の後方側領域において、前記試料片に隣接する後方側隣接領域を深く、前記試料片から離れた後方側離隔領域を浅くなるように複数段に掘り下げ加工する請求項1〜4のいずれか1項に記載の試料の作製方法。
【請求項6】
前記後方側領域を平坦な後方側平坦部として形成し、前記後方側隣接領域を、前記試料片の高さの1.2〜1.5倍の深さに、前記後方側離隔領域を、前記試料片の高さの1.0〜1.2倍の深さに掘り下げ加工する請求項5に記載の試料の作製方法。
【請求項7】
前記試料基板が、融点が300℃以下の低融点金属から構成される請求項1〜6のいずれか1項に記載の試料の作製方法。
【請求項8】
前記試料基板が、GaN、InPのいずれかである請求項1〜7のいずれか1項に記載の試料の作製方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−186327(P2009−186327A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−26713(P2008−26713)
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】
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