説明

試料の検査条件・測定条件の自動判定方法及び走査型顕微鏡

【課題】深さ方向に高アスペクト比を有するパターンの検査又は測定時に使用する予備帯電(プリドーズ)において、適切な照射条件の設定が、プリドーズ後に撮像された画像を目視するオペレータの判断に委ねられている。すなわち、照射条件の設定が属人的である。
【解決手段】予備帯電(プリドーズ)に使用する電子ビームの照射条件を変更しながら撮像された画像を画像分析し、分析結果に基づいて適切な照射条件を定量的に自動判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料表面を荷電粒子線で走査して試料の検査・測定を行う走査型顕微鏡に関する。例えば試料表面を1度目の走査で帯電させ、帯電した状態の試料を2度目の走査によって検査・測定する際における1度目の走査時に使用する荷電粒子線の照射条件の自動判定方法及びその方法を使用する走査型顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
近年における半導体素子の高集積化および微細化に伴い、試料(例えば半導体ウェーハ)上には、多種多様なパターンが形成されるようになっている。これに伴い、形成された形状や寸法の評価・測定が益々重要となっている。特に、多層化された層間を電気的に接続するコンタクトホールの評価・測定が重要になっている。コンタクトホールのホール径は、半導体素子の微細化に伴い微小化しており、現在では、アスペクト比(コンタクトホールの深さ/ホール径)が30を超えるものも珍しくはない。
【0003】
このようにアスペクト比の高いコンタクトホールを観察・測定するには、一次電子線(以下「電子ビーム」と称することもある。)によって励起された二次電子を検出する必要がある。しかし、アスペクト比が大きくなるほど、二次電子がホールの側壁に衝突してホール内で消滅する可能性が高くなり、その結果、ホール底の観察や測定が困難になるという問題が現われている。
【0004】
この問題の解決には、ホール底で発生した二次電子を、少なくともコンタクトホールの外へ引き出す必要がある。ホール底で発生した二次電子の引き出しを実現するために、以下に示す技術が提案されている。すなわち、検査・測定(以下、単に「観察」と称することもある。)のための一次電子線の走査に先立って、一次電子線を予備照射して検査・測定領域を正に帯電させ、コンタクトホールからの電子の引き出しを容易にする技術(以下、「プリドーズ」と称することもある。)がある。
【0005】
特許文献1には、観察のための電子ビームの走査前に、観察領域を含み、かつ、観察時の倍率より広い範囲(すなわち、観察時より低倍率)に電子ビームを照射し、プリドーズを実現する技術が説明されている。
【0006】
更に、特許文献2には、観察のための電子ビームの走査前に、二次電子放出効率δが1.0より大きい電子ビームを試料に予備照射して試料表面を正に帯電させ、その後、二次電子放出効率δが予備照射に用いた電子ビームよりも1.0に近い電子ビームで試料表面を走査し、正の帯電状態を安定に維持しつつ、試料観察を行う技術が説明されている。
【0007】
また、特許文献3には、予備照射を行うときの倍率と、正の帯電電圧との関係において、予備照射を行う面積が大きいと、試料上に形成される正の帯電電圧が高いことが説明されている。
【0008】
更に、特許文献4には、フラッドガンと呼ばれる観察や測定のための電子光学系とは別の電子放出手段を電子顕微鏡の鏡体内に併設し、大電流を一括的に照射することにより帯電状態を形成する方法が説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−151927号公報(対応米国特許USP 5,412,209)
【特許文献2】特開2000−200579号公報(対応米国特許USP 6,635,873)
【特許文献3】WO03/007330(対応米国特許USP 6,946,656)
【特許文献4】特開2000−208579号公報(対応米国特許USP 6,232,787)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、コンタクトホールの観察には、電子ビームの照射条件(加速電圧、倍率、照射時間)の最適化が必要とされる。現状における照射条件の調整は、オペレータが様々な条件を手動で設定し、その上で試料を撮像し、撮像された画像が観察に適しているか否かをオペレータ自身が目視により判定するという一連の操作により行われている。
【0011】
本作業は、オペレータに多くの知見を要求し、オペレータの習熟度によっては非常に長い時間を必要とする。その上、本作業による判定は、定量化されたものではない。このため、判定結果が属人化して不定となり易く、不安定であった。
【0012】
この技術問題を鋭意検討した結果、発明者は、検査・測定のための電子線の走査の前に、一次電子線による予備照射を行い、検査・測定領域に位置する深さ方向にアスペクト比の大きいパターンからの電子の引き出しを容易にする技術において、予備照射における電子線の照射条件の良否判定を自動化するための技術を発明した。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、予備帯電(プリドーズ)に使用する電子ビームの照射条件を変更しながら撮像された複数の画像を分析し、分析結果に基づいて適切な照射条件を自動的に判定する方法、及びその方法を実現する走査型顕微鏡を提案する。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、プリドーズ照射条件の設定に要する時間の削減、オペレータの労力の軽減、及び高アスペクト比を有するパターンの安定的な観察を実現することができる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】走査型電子顕微鏡の全体構成を示す図。
【図2A】ウェーハ上に形成されたコンタクトホールの形状と、表面に帯電が形成されていない場合に発生する二次電子軌道を示す図。
【図2B】ウェーハ上に形成されたコンタクトホールの形状と、表面に帯電が形成されている場合に発生する二次電子軌道を示す図。
【図3】プリドーズ照射条件を自動判定するための画像取得手順と取得された画像の評価手順を説明するフローチャート。
【図4】プリドーズ照射条件の違いによる画像の変化を説明する模式図。
【図5】画像評価の際に使用する輝度プロファイル、エッジピーク輝度取得部、ボトム輝度平均取得部を説明する図。
【図6】プリドーズ照射条件の判定結果の表示画面例を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明の実施態様は、後述する形態例に限定されるものではなく、その技術思想の範囲において、種々の変形が可能である。
【0017】
[全体構成]
図1に、走査型電子顕微鏡の全体構成例を示す。走査型電子顕微鏡は、装置全体を制御する全体制御部43を有している。全体制御部43には、ユーザーインターフェース42を通じ、電子の加速電圧、ウェーハ21の情報、観察位置情報などの情報が入力される。これらの情報の入力は、キーボード、マウス、GUI等を用いたオペレータの操作入力を通じて実行される。全体制御部43は、入力された情報に基づく制御を、電子光学系制御装置44、ステージ制御装置45を通じて実行する。
【0018】
ウェーハ21は、不図示のウェーハ搬送装置によって、試料交換室を経由した後、試料室26にある試料ステージ25上に載置される。
【0019】
電子光学系制御装置44は、全体制御部43から与えられた命令に従い、高電圧制御装置31、リターディング制御部39、第一コンデンサレンズ制御部32、第二コンデンサレンズ制御部33、二次電子信号増幅器34、アライメント制御部35、偏向信号制御部40、対物レンズ制御部37を制御する。
【0020】
高電圧制御装置31は、電子源11及び引出電極12に対する印加電圧を制御する。一次電子線13は、引出電極12により電子源11から引き出される。一次電子線13は、第一コンデンサレンズ14、第二コンデンサレンズ16、対物レンズ20により収束された後、ウェーハ21の照射領域を照射する。一次電子線13は、アライメントコイル18によりその軌道が調整される。
【0021】
一次電子線13は、偏向コイル19の発生磁場により偏向制御され、ウェーハ21の表面を二次元的に走査する。ここで、偏向コイル19には、偏向信号増幅器36を介して偏向信号制御部40から偏向信号が与えられる。
【0022】
ウェーハ21には、リターディング制御部39からリターディング電圧が印加されている。リターディング電圧は、電子線を減速するための電圧である。従って、電子顕微鏡の場合、リターディング電圧は負電圧である。
【0023】
一次電子線13の照射に起因し、ウェーハ21からは二次電子24が放出される。二次電子24は、二次電子検出器17により捕捉され、二次電子信号増幅器34を介して二次電子像表示装置41の輝度信号として使用される。
【0024】
二次電子像表示装置41の偏向信号と、偏向コイル19の偏向信号とは同期している。このため、二次電子像表示装置41上には、ウェーハ21上のパターン形状が忠実に再現される。
【0025】
一次電子線13の照射光軸上には、絞り15が設けられている。絞り15はウェーハ21に照射される一次電子線13の量を調整する機能を有すると共に、対物レンズ20の収差(回折収差,色収差,球面収差)の総量が最小となるビーム開角を作る作用を有している。
【0026】
電子光学系制御装置44は、設定された電子ビームのウェーハ21への到達エネルギー、倍率、ビーム径等に応じ、ウェーハ21に印加されるリターディング電圧(負電圧)、偏向コイル19(走査偏向器)及び対物レンズ20を制御する。例えば電子ビームのウェーハ21への到達エネルギーの切り替えは、ウェーハ21に印加するリターディング電圧(負電圧)の調整を通じて実現される。なお、ウェーハ21への到達エネルギーの切り替えは、例えば加速電極(図示せず)やそれに相当する電極への印加電圧の変化によって行うこともできる。
【0027】
ウェーハ21に形成されたパターンを高速に検査又は観察するには、試料ステージ25が所望の観察点に移動したときのウェーハ21の高さを検出し、その高さに応じて対物レンズ20のフォーカスを合わせることが必要である。そのため、本実施例では、光を用いたウェーハ高さ検出機能を採用する。
【0028】
試料ステージ25の位置の検出には、試料ステージ位置検出部38が用いられる。試料ステージ25が所定の高さ位置の近傍に接近したことは、試料ステージ位置検出部38からステージ制御装置45を通じ、高さ検出用レーザー発光器22及びポジションセンサ23に通知される。この通知を受信すると、高さ検出用レーザー発光器22は、ウェーハ21に向けて光を照射し、ポジションセンサ23はウェーハ21で反射された光を受光する。ポジションセンサ23の受光位置により、ウェーハ21の高さが検出される。検出された高さに応じたフォーカス量が、対物レンズ制御部37を介して、対物レンズ20にフィードバックされる。このフィードバックにより試料ステージ25が所定の位置に到達した時点で、フォーカスは最適な状態に既に設定された状態にある。従って、オペレータによる操作なしに、パターンを自動検出することができる。
【0029】
[アスペクト比の高い観察対象を観察する技術の現状と問題]
以下の説明では、電子ビームを用いた観察対象が半導体ウェーハである場合について説明する。勿論、観察対象はこれに限られるものではなく、例えば半導体パターンを転写する際に用いられるマスク等でも良い。
【0030】
半導体プロセスにおいて、走査型電子顕微鏡による計測対象は、トランジスタのゲート線、ビット呼び出し用の線幅、層間の電気的な導通を取るためのコンタクトホールの開口径である。特に、コンタクトホールについては、半導体の高集積化に伴う多層化が進むほどコンタクトホールは深くなり、微細化に伴い開口径は小さくなる。
【0031】
例えば現在製品化に向けて開発が進められている45nmノードの半導体においては、コンタクトホールの深さは1.5から2.0μmであり、開口径は50nm程度である。このようなコンタクトホールの場合、ホールの深さと開口径の比率を表すアスペクト比が30を超える。
【0032】
図2A及びBに、コンタクトホールの形状例と二次電子の軌道を示す。コンタクトホール52は、一般に、半導体デバイスの層間を接続するために設けられている。従って、基板51はシリコンなどの導電体で構成され、その上層には絶縁膜50が形成されている。コンタクトホール52は、絶縁膜50をエッチングすることで形成される。図中の記号Hはコンタクトホール52の深さ、記号Dはコンタクトホール52の底の開口径を示している。このようなコンタクトホール52のアスペクト比はH/Dで表される。
【0033】
コンタクトホール52の底の開口径Dを測定するには、ホール表面からの二次電子ばかりではなく、底部から放出される二次電子24を検出しなければならない。
【0034】
しかし、アスペクト比の大きなコンタクトホールにおいては、コンタクト表面が帯電されていない場合(図2Aの場合)、ホール底部で発生した二次電子24の多くがホール底部から上方に走行する途中でホールの側壁に衝突して消滅する。このため、ホール底部で発生した二次電子24を、二次電子検出器17によって補足することができない。その結果、開口部の形状を二次電子像として構成することができない。すなわち、開口径も計測することができない。
【0035】
この問題を解決するための手法として、プリドーズと呼ばれるウェーハ21の表面を帯電させる手法が考えられている。プリドーズは、図2Bに示すように、コンタクトホールが形成されているウェーハ21の表面に電子線を照射して正の帯電53を生成し、ホール表面とホール底部の間に生じる電位差により、二次電子をウェーハ21の表面まで引き上げる方法をいう。
【0036】
例えば特許文献2には、帯電を作るために照射する一次電子線の加速電圧について、二次電子発生効率(ウェーハ21への一次電子線の入射量に対する、ウェーハ21からの二次電子の発生比率)が1以上でなければならないことが開示されている。この条件の下にプリドーズを行うと、コンタクトホール52の底から発生した二次電子の検出が容易になり、形状観察や寸法計測が可能となる。
【0037】
ここで、コンタクトホールの適正な観察には、電子ビームの照射条件(加速電圧、倍率、照射時間)の適正な調整が必要とされる。しかし、現状では、オペレータが手動により様々な条件を設定した上でコンタクトホールを撮像し、撮像された画像の良否を目視で判定することが行われているのみである。
【0038】
多くの知見が必要な本作業は、オペレータの習熟度によっては非常に長い時間を要する上に、判定が属人化して不定となり易く、判定そのものが不安定であった。
【0039】
[判断基準の定量化]
以下においては、オペレータの主観的な判断を定量化し、定量化された判断基準に基づいて、プリドーズ照射条件の良否を判断する手法及びアルゴリズムについて説明する。
【0040】
図3に、プリドーズ照射条件判定用の画像取得及び良否判定を自動的に実行するための処理手順例を示す。本実施例において、当該処理は、全体制御部43が実行する。以下に示す処理手順は、コンピュータによるコンピュータプログラムの実行を通じて実現される。
【0041】
ステップ61において、全体制御部43は、プリドーズ照射条件(加速電圧、倍率、照射条件)の設定を行う。本実施例における条件の設定は、予めオペレータによって指定された各条件の最大値、最小値、刻み幅の組合せにより決定される。なお、これらの値は、不図示の記憶領域に格納されている。もっとも、試料の特性を考慮した組み合わせ条件がデータベース等に予め登録されている場合には、それらの中から検査対象とする試料に適していると思われる条件を自動的に検索して用いても良い。
【0042】
ステップ62及び63において、全体制御部43は、指定された条件でプリドーズ照射が実行されたウェーハ21の画像を撮像し、保存する。
【0043】
ステップ64において、全体制御部43は、設定可能な全ての組み合わせについてプリドーズ照射と画像の取得が終了したか否かを判定する。否定的な判定結果が得られている間、全体制御部43は、ステップ61〜63までの手順を繰り返し実行する。これに対し、肯定的な判定結果が得られた場合、全体制御部43は、ステップ65に進む。
【0044】
図4に、プリドーズ照射条件を変化させて順に取得した画像の模式図を示す。図4には、照射倍率と照射時間の組み合わせを変化させた場合における8個の画像例が示されている。図4より、コンタクトホールの中心部の見え方が変化していくことが分かる。
【0045】
ステップ65において、全体制御部43は、不図示の記憶領域から一組の画像を読み出す。この実施例の場合、8個の画像が読み出される。
【0046】
ステップ66において、全体制御部43は、画像の輝度プロファイル情報からコンタクトホールの底部の輝度値とエッジピーク部分の輝度値を取得する。全体制御部43は、取得されたコンタクトホールの穴底部の平均輝度値を算出し、当該平均輝度値とエッジピークの輝度値との輝度差分を算出する。
【0047】
輝度差分=(エッジピークの輝度値)−(穴底部の平均輝度値)
【0048】
図5に、輝度プロファイルの情報と、取得部位別の輝度値の関係を示す。ここでの輝度プロファイルには、コンタクトホールの底部を横断する領域のプロファイルが用いられる。
【0049】
コンタクトホールの穴底部の平均輝度値を算出する理由は、一点のみの輝度値を用いる場合、特異的に輝度値が変化している場所が含まれていると、判定結果が不正となる可能性があるためである。穴底部の平均輝度値を用いることにより、判定結果の不正を回避することができる。
【0050】
ステップ67において、全体制御部43は、前ステップで算出された輝度差分値からプリドーズ照射条件の良否を判定し、判定結果を不図示の記憶領域に保存する。判定処理において、全体制御部43は、算出された輝度差分値とオペレータが予め指定した上下限閾値とを比較し、比較結果に基づいて良否を判定する。
【0051】
具体的には、全体制御部43は、上限閾値と下限閾値で挟まれた範囲内に輝度差分値が存在するか否かを判定し、範囲外と判定されたプリドーズ照射条件を「不良」、範囲内と判定されたプリドーズ照射条件を「良」と判定する。
【0052】
ステップ68において、全体制御部43は、輝度差分値に基づく判定が、取得された全ての画像(実行された全てのプリドーズ照射条件に対応する画像)について終了されたか否かを判定する。否定的な判定結果が得られている間、全体制御部43は、ステップ65〜67の処理動作を繰り返し実行する。一方、肯定的な判定結果が得られた場合、全体制御部43は、ステップ69に進む。
【0053】
ステップ69において、全体制御部43は、全てのプリドーズ照射条件に対する判定結果を一覧表示する。判定結果は、例えば二次電子像表示装置41に表示される。図6に、判定結果の表示画面例を示す。照射条件と照射時間の組み合わせの配列は、図4の場合と同じである。図6に示す判定結果の表示画面では、各プリドーズ照射条件に対応する画像の近傍位置に、輝度差分の値と判定結果(○/×形式)が表示される。図6の場合、上限閾値は15000であり、下限閾値は8000である。従って、輝度差分値が8000〜15000の範囲に含まれるプリドーズ照射条件が「良」(すなわち「○」)と判定され、それ以外のプリドーズ照射条件は「不良」(すなわち「×」)と判定される。図6の場合、適切なプリドーズ照射条件は、倍率が3000であって、照射時間が1秒〜7秒の組み合わせの場合であることが分かる。
【0054】
ここで、良好なプリドーズ照射条件がただ一つだけの場合には、全体制御部43において自動的にプリドーズ照射条件を決定しても良いが、図6に示すように、良好なプリドーズ照射条件が複数検出された場合には、全体制御部43が、許容範囲を狭めて良好と判定されるプリドーズ照射条件の数の絞り込みを自動的に実行しても良い。良好な許容範囲が複数検出された場合に適用する上下限閾値の組はオペレータが予め1又は複数設定する。もっとも、予め与えられた上下限閾値や判定結果に基づいて、全体制御部43自体が、次の判定に使用する許容範囲を自動的に設定しても良い。勿論、オペレータ自身が、図6に示す表示画面を目視して判断し、プリドーズに使用する条件を絞り込んでも良い。この場合、オペレータは、ユーザーインタレース42を通じ、絞り込んだプリドーズ照射条件を全体制御部43に指示する。
【0055】
[まとめ]
以上説明したように、本実施例に係る走査型電子顕微鏡においては、深さ方向に高アスペクト比を有するコンタクトホールの検査・計測に適したプリドーズ照射条件の判定処理を定量化することができる。この結果、条件設定に要する時間の削減、オペレータの労力の軽減、及び安定したコンタクトホールの観察を実現することができる。
【0056】
[他の実施例]
前述の実施例においては、プリドーズ照射条件の良否の判定に、エッジピーク輝度と穴底部の平均輝度値の差分値を用いたが、これ以外のパラメータを用いてプリドーズ照射条件の良否を判定しても良い。例えば輝度プロファイルから計測されるコンタクトホールのホール径の寸法計測値による画像分析、FFTによる輝度プロファイルの特徴量解析等による画像分析、それらの組み合わせ等により実行しても良い。
【0057】
また、前述の実施例において、走査型電子顕微鏡に基づいてウェーハ21に形成されたコンタクトホールの開口径を観察・測定する場合について説明したが、汎用的なSEM(Scanning Electron Microscope)に限らず、CD−SEM(Critical-Dimension SEM)、レビュー装置、FIB(focused ion beam)装置等にも用いることができる。
【0058】
なお、本発明は上述した例に限定されるものでなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある形態例の一部を他の形態例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある形態例の構成に他の形態例の構成を加えることも可能である。また、各形態例の構成の一部について、他の構成を追加、削除又は置換することも可能である。
【0059】
また、上述した各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路その他のハードウェアとして実現しても良い。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することにより実現しても良い。すなわち、ソフトウェアとして実現しても良い。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリやハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置、ICカード、SDカード、DVD等の記憶媒体に格納することができる。
【0060】
また、制御線や情報線は、説明上必要と考えられるものを示すものであり、製品上必要な全ての制御線や情報線を表すものでない。実際にはほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えて良い。
【符号の説明】
【0061】
11 電子源
12 引出電極
13 一次電子線
14 第一コンデンサレンズ
15 絞り
16 第二コンデンサレンズ
17 二次電子検出器
18 アライメントコイル
19 偏向コイル
20 対物レンズ
21 ウェーハ
22 高さ検出用レーザー発光器
23 ポジションセンサ
24 二次電子
25 試料ステージ
26 試料室
31 高電圧制御装置
32 第一コンデンサレンズ制御部
33 第二コンデンサレンズ制御部
34 二次電子信号増幅器
35 アライメント制御部
36 偏向信号増幅器
37 対物レンズ制御部
38 試料ステージ位置検出部
39 リターディング制御部
40 偏向信号制御部
41 二次電子像表示装置
42 ユーザーインターフェース
43 全体制御部
44 電子光学系制御装置
45 ステージ制御装置
50 絶縁膜
51 基板
52 コンタクトホール
53 正の帯電

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリドーズ後の試料を荷電粒子線によって走査し、試料を検査又は測定する走査型顕微鏡において、
荷電粒子線源と、
前記荷電粒子線源から発生される荷電粒子線の偏向走査時に試料から発生する信号を検出する検出部と、
複数のプリドーズ照射条件の候補を設定するプリドーズ照射条件候補設定部と、
前記複数の候補に対応するプリドーズ照射条件を満たす荷電粒子線により試料を偏向走査し、試料を帯電させるプリドーズ実行部と、
各候補に対応するプリドーズ照射条件により帯電された試料の画像を画像分析し、各分析結果が判定条件を満たすか否かを自動的に判定するプリドーズ照射条件自動判定部と
を有することを特徴とする走査型顕微鏡。
【請求項2】
請求項1に記載の走査型顕微鏡において、
前記プリドーズ照射条件自動判定部は、判定対象とするパターンのエッジ部分に現われるピーク輝度とエッジパターンの内側に現われるパターン底部の平均輝度との差分値を算出し、当該差分値が判定条件を満たすか否かを自動的に判定する
ことを特徴とする走査型顕微鏡。
【請求項3】
請求項1に記載の走査型顕微鏡において、
前記プリドーズ照射条件自動判定部は、前記複数のプリドーズ照射条件の候補に対する判定結果を表示画面上に表示する
ことを特徴とする走査型顕微鏡。
【請求項4】
請求項1に記載の走査型顕微鏡において、
前記プリドーズ照射条件自動判定部は、前記判定条件を満たすプリドーズ照射条件の候補が一つのみに絞られた場合、当該候補を検査用又は測定用のプリドーズ照射条件に設定する
ことを特徴とする走査型顕微鏡。
【請求項5】
請求項1に記載の走査型顕微鏡において、
前記プリドーズ照射条件自動判定部は、前記判定条件を満たすプリドーズ照射条件の候補が複数残る場合、判定条件を自動的に再設定し、前記複数のプリドーズ照射条件の候補が再設定後の判定条件を満たすか否かを自動的に判定する
ことを特徴とする走査型顕微鏡。
【請求項6】
請求項1に記載の走査型顕微鏡において、
前記プリドーズ照射条件自動判定部は、前記判定条件を満たすプリドーズ照射条件の候補が複数の場合にあってオペレータから特定の候補が指定されたとき、当該候補を検査用又は測定用のプリドーズ照射条件に設定する
ことを特徴とする走査型顕微鏡。
【請求項7】
請求項1に記載の走査型顕微鏡において、
前記荷電粒子線は電子線である
ことを特徴とする走査型顕微鏡。
【請求項8】
プリドーズ後の試料を荷電粒子線によって走査し、試料を検査又は測定する走査型顕微鏡におけるプリドーズ照射条件の自動判定方法において、
複数のプリドーズ照射条件の候補を設定する処理と、
前記複数の候補に対応するプリドーズ照射条件を満たす荷電粒子線により試料を偏向走査し、試料を帯電させる処理と、
各候補に対応するプリドーズ照射条件により帯電された試料を個別に撮像する処理と、
各プリドーズ照射条件の候補に対応する複数の画像を画像分析し、各分析結果が判定条件を満たすか否かを自動的に判定する処理と
を有することを特徴とする自動判定方法。
【請求項9】
請求項8に記載の自動判定方法において、
判定対象とするパターンのエッジ部分に現われるピーク輝度とエッジパターンの内側に現われるパターン底部の平均輝度との差分値を算出し、当該差分値が判定条件を満たすか否かを自動的に判定する
ことを特徴とする自動判定方法。
【請求項10】
請求項8に記載の自動判定方法において、
前記複数のプリドーズ照射条件の候補に対する判定結果を表示画面上に表示する
ことを特徴とする自動判定方法。
【請求項11】
請求項8に記載の自動判定方法において、
前記判定条件を満たすプリドーズ照射条件の候補が一つのみに絞られた場合、当該候補を検査用又は測定用のプリドーズ照射条件に設定する
ことを特徴とする自動判定方法。
【請求項12】
請求項8に記載の自動判定方法において、
前記判定条件を満たすプリドーズ照射条件の候補が複数残る場合、判定条件を自動的に再設定し、前記複数のプリドーズ照射条件の候補が再設定後の判定条件を満たすか否かを自動的に判定する
ことを特徴とする自動判定方法。
【請求項13】
請求項8に記載の自動判定方法において、
前記判定条件を満たすプリドーズ照射条件の候補が複数の場合にあってオペレータから特定の候補が指定されたとき、当該候補を検査用又は測定用のプリドーズ照射条件に設定する
ことを特徴とする自動判定方法。
【請求項14】
請求項8に記載の自動判定方法において、
前記荷電粒子線は電子線である
ことを特徴とする自動判定方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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