説明

試料の構造を空間的に高分解能で結像するための装置および方法

試料の構造を空間的に高分解能で結像するための装置、とりわけ顕微鏡および方法であって、回折の制限された分解能体積を特徴とし、種々異なる状態間で切り替えることのできる複数の色素分子(UF)を備え、少なくとも1つの状態が蛍光状態であり、蛍光が対物レンズ(O)により集光され、光学システムにより位置分解能のある検出器上に結像され、UFが、試料の少なくとも一部分において、回折の制限された分解能体積の逆数よりも大きな分布密度を有し、この装置はさらに、試料内における第1の部分量のUFを切り替えるための切替ビームを送信し、この第1の部分量のUFを励起するための励起ビームを送信するための、1つまたは複数の光源を有し、この光源の少なくとも1つは、試料を透過するように配置されており、試料中のUFの切替および蛍光励起の少なくとも一方が、光軸に対して近似的に垂直な少なくとも1つの方向で、とりわけ対物レンズ(O)の焦点内で行われ、有利には切替がUFの光活性化または光非活性化であり、切替用の光源および励起用の光源の少なくとも一方に対して、照明領域を生じさせる集束装置が設けられており、この照明領域は、照明方向に延びており、対物レンズの光軸に対して少なくとも近似的に垂直な少なくとも1つの方向で線形である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の構造を空間的に高分解能で結像するための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆるSPIM技法(Selective−Plane−Illumination−Microscopy:選択的平面照明顕微鏡)は、例えばステルツァーら(非特許文献1、2、特許文献1、2参照)に顕微鏡法として記載されている。
【0003】
共焦点レーザ走査顕微鏡と同じように、SPIMは、広視野技術として、3D対象物を光学的断面の形で記録することができる。その利点はとりわけ、速度、試料の退色の少ないこと、ならびに浸透深度の拡大に見られる。通常はそのために、試料中の蛍光体を、シート光の形のレーザ光によって励起させる。このシート光を、試料を通して走査することができる。
【0004】
種々異なる角度から記録された画像を(コンピュータで)組み合わせることによって、ボール状のPSFを形成することができる。通常、その拡がりは、使用される検出対物レンズの横方向分解能によって決まるが、この横方向分解能が全体として、従来のSPIM法では、達成可能な光学的分解能を制限する。
【0005】
非特許文献3には、周期的な構造をもたせたシート光によるSPIM法が記載されている。周期的な構造をもたせたシート光によって、強度の高い個所で蛍光励起が行われる。この構造化は、焦点のずれた平面からの散乱光を抑制し、構造化された照明により分解能を向上させるために使用される(後の非特許文献8を参照のこと)。
【0006】
特許文献3には、いわゆるPALM法(photoactivated light microscopy:光活性化光学顕微鏡法)が記載されている。この方法は、検出PSFの拡がりにしたがって互いに分離された個々の分子の光活性化と、蛍光検出によるその分子の高精度の位置特定に基づくものである。
【0007】
PALM法は、特許文献3に記載のように、従来の顕微鏡と比べて高い光学的分解能をもつ顕微鏡画像を形成するために、実質的に以下の基本ステップを使用する。
1.)個々の分子の光活性化:活性化によって分子の蛍光特性が変化する(オン/オフ、発光スペクトルの変化)。その際、活性化は、活性化された分子間の間隔が、基準顕微鏡の(アッベの分解能限界によって与えられる)光学的分解能以上になるように行われる。
2.)活性化された分子の励起と、位置分解能のある検出器による分子の位置特定。
3.)活性化された分子の非活性化。
4.)ステップ1〜3を繰り返し、異なる反復ステップから得られた、ステップ2.)からの位置特定された点を重畳して1つの高分解能画像にする。
【0008】
活性化は好ましくは広視野照明で、ランダムに分散させて行う。活性化エネルギーを選択することにより、重なったエアリーディスク(2)を有する分子(1)が、カメラ上にできるだけ少数しか/まったく発生しないように試みる(図1a参照)。しかし重なったエアリーディスクは甘んじて受け入れるしかないが、評価することができない(図1bの(3))。これによって、活性化された分子の間隔が、カメラ上のエアリーディスクより大きい、または非常に大きい領域が発生する(4)。分子をランダムに活性化することにより、分子の位置を特定するために高分解能の画像を生成するには約10000の個別画像を評価しなければならない。そのため大きなデータ量を処理しなければならず、測定が遅くなる(高分解能画像1つ当たり約1分)。個別画像を計算処理して1つの高分解能画像にするには、約4時間が必要である。
【0009】
PALM法を3D画像に適用するのは困難である。なぜなら焦点面の外側の分子も活性化され、したがって退色するが、その蛍光が画像形成の際に使用できないからである。とりわけ生体試料の場合は、集束コーン全体内で自己蛍光が励起され、この自己蛍光はノイズ信号として評価され、コントラストを極端に低下させる。これによりz方向走査の記録が妨げられ、そのため試料の3D画像を獲得することができない。
【0010】
焦点面の外での光活性化と、障害となる自己蛍光を回避するために、特許文献3には多光子励起を使用することが記載されている。しかしこの構成は技術的に面倒である。例えば色素(PA−GFP)が非線形に活性化可能でなければならず、また色素の損傷または試料の損傷を引き起こしかねないほどの高い強度を使用しなければならない。
【0011】
自己蛍光の問題を回避するために使用される別の方法は、PALM法とTIRF技法との組合せである。ここではz方向の励起体積が、エバネッセント波のみに制限することで非常に小さく維持される。ただしTIRFを用いると、3D画像を形成することはできない。
【0012】
基本的にPALMは、位置分解能のある検出によって、さしあたり横方向分解能の改善しか提供しない。軸方向分解能は、まず第1に使用される検出PSFの拡がりによって決まる。これが、PALMとTIRF技法を組み合わせるさらに別の理由であり、この組合せは高い軸方向分解能を提供する(特許文献3も参照)。
【0013】
PALMの他にも、アッベの回折限界に相当するよりも小さい、蛍光によって検出可能な領域が発生するように試料を照明する、分解能を高める別の方法が公知である。
このことは、種々の方法による非線形の相互作用によって達成される。
・前もって励起された分子を誘導発光により脱励起する(STED、非特許文献4参照)
・前もって励起された分子をさらなる励起によってより高い蛍光不能状態に脱励起する(励起状態吸収(xcited tate bsorption)、非特許文献5参照)。
・三重項占有により基底状態を空にする(基底状態の空乏化(round tate epletion)、非特許文献6参照)
・色素を、蛍光状態と、非蛍光状態、さほど蛍光しない状態、または他の特徴付けられた蛍光状態(別の発光波長、偏光)との間で切り替える(非特許文献7参照)
この場合、通例、高速のデータ記録には欠点がある点走査法が問題になる。加えて、焦点外の領域にある試料に不必要な負荷がかかる。
【0014】
非特許文献8には、分解能向上のための別のコンセプトとして、蛍光遷移を直接飽和させる形の非線形プロセスが提案されている。この場合、分解能の向上は、周期的な格子状の構造の照明により試料を照明することに基づくものである。これにより高い物体空間周波数が、顕微鏡の光学的伝達関数の範囲内に変換される。この変換は、データの理論的後処理によって間接的に後付けることができる。この方法でも、構造化された照明が試料空間全体を通過するので、焦点外の領域にある試料に不必要な負荷がかかることが欠点と見なすべきである。さらにこの方法は現在のところ、厚い試料に使用することができない。なぜなら、焦点外で励起された蛍光がバックグランド信号としてともに検出器に達し、したがってダイナミックレンジを低下させるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】ドイツ特許出願公開第10257423号明細書
【特許文献2】国際公開第2004/0530558号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2006/127692号パンフレット
【特許文献4】ドイツ特許第102006017841号明細書
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】ステルツァーら(Stelzer et al.)、Optics Letters 31、1477(2006)
【非特許文献2】ステルツァーら(Stelzer et al.)、Science 305、1007(2004)
【非特許文献3】ブロイニンガーら(Breuninger et al.)、Optics Letters Vol.32、No.13、2007
【非特許文献4】クラーおよびヘル(Klar and Hell)、Opt.Lett.24(1999)954〜956
【非特許文献5】ワタナベら(Watanabe et al.)、Optics Express 11(2003)3271
【非特許文献6】ヘルおよびクロウク(Hell and Kroug)、Appl.Phys. B60(1995)、495〜497
【非特許文献7】ヘル、ジャコブスおよびカストルップ(Hell、Jakobs and Kastrup)、Appl.Phys.A77(2003)859〜860
【非特許文献8】ハインツマンら(R.Heintzmann、T.M.Jovin and C.Cremer)、JOSA A 19、1599−1609(2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の課題は、上記方法の欠点を回避することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、高い画像速度を実現するために最適化された光活性化を用いてPALM顕微鏡法を実現する方法および装置を記述する。PALMと比較して、3D画像形成による高分解能が、非線形の光活性化なしで達成される。焦点外の自己蛍光を低減するためのPALM−TIRFの組合せは、必要ない。
【0019】
比較的高い浸透深度と、x、y、zでの等方性の光学的分解能を達成するために、マルチビュー法(試料上での複数の照明角度)を有利に使用することができる。
できるだけ多数の分子が「隙間」(図1bの(4))なく、分子のエアリーディスクがカメラ上で重なることなく(図1bの(3))図2に対応して活性化される。個別分子のエアリーディスクを互いに接して配置すると、有利には球の密な充填が得られる。
【0020】
これによってPALM法の速度が上昇し、個別画像の数の低減が達成される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】従来のPALM法における分子活性化を示す図である。
【図2】本願発明の分子活性化を示す図である。
【図3】z方向における局在化された活性化のための構成を示す図である。
【図4】x,z方向における局在化された活性化のための構造化された活性化を示す図である。
【図5】x,y,z方向における局在化された活性化のための球の最密充填における活性化を示す図である。
【図6】z方向における局在化された活性化とゼロ位置を有する非活性化のための構成を示す図である。
【図7】本願発明の光学的実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の装置、その作用、ならびに利点を、図3〜7に基づいてより詳しく説明する。
本発明によれば有利には、驚くほど有利にSPIM法をPALM法と結び付けることが提案される。
【0023】
図3は、平坦なシート光LB(円盤光とも称される)を概略的に側面から(照射方向と観察方向が等しい)示す。このシート光は、例えば円柱レンズ(O2−ZL)によって生成され、試料(P)を通過する。
【0024】
試料の上方には、顕微鏡、例えばCCDカメラを備える広視野顕微鏡、レーザ走査顕微鏡、または構造化された照明を用いる顕微鏡の対物レンズOがある。
試料に側方からSPIMシート光の形で入射するシート光LBによって、図3において、蛍光励起および蛍光検出の光軸に対して垂直に光活性化が行われる。このシート光は、実質的にちょうど対物レンズOの焦点面(F)内にある。ここで蛍光励起は、焦点面(F)内だけで起こり得る。蛍光励起および蛍光検出は、(特許文献3参照)によれば、顕微鏡対物レンズOを介して行われる。したがって、局在化された励起がz方向で行われ、非線形の光活性化がなくても、試料を3次元でPALM法により探査することができる。
【0025】
光活性化のための光ビームの幅、すなわちそのz方向の拡がりは、有利には、対物レンズOの開口数によって規定されるPSFの軸方向拡がり以下となるように適合されている。これによって有利には、焦点面の外で蛍光分子が活性化され退色するのが回避される。加えて、活性化ビームによって規定されるこの平面からしか、蛍光が出現し得ない。したがってこの装置は、内在的に3D分解能がよい。
【0026】
検出は、従来の手段により、例えば従来からの広視野顕微鏡、共焦点顕微鏡、または構造化された照明(ZEISS APOTOM)によって行われる。
ただしこの場合は、励起ビームが試料空間全体にわたり自己蛍光を励起してしまうという問題がある。このことは、図3において蛍光を励起するための光ビームに加えて(光活性化の後に)、シート光(LB)を検出方向に対して垂直に、O2−ZLを介して入射することにより防止される。これによって、画像形成を妨げる作用をする、焦点外の自己蛍光信号が発生しないことが保証される。加えて、励起光から特に効率的に分離して蛍光を検出することができる。なぜならダイクロイックビームスプリッタを用いたスペクトル分離が必要ないからである。いくつかの切替可能な色素、例えばDENTRAの場合、光活性化と蛍光励起が同じ波長により行われる。これは、この方法で特に簡単に実現できる。
【0027】
さらに、光活性化が対物レンズOを介して行われ、蛍光励起が側方から入射されるシート光O2を介して行われる装置も考えられる。やはり対物レンズOが検出に用いられる。この場合も、焦点外の自己蛍光が回避される。活性化ビームにより発生する焦点外の自己蛍光は、スペクトル的に、それも特に時間的に(蛍光励起は活性化の後に行われる)、本来の対象となる蛍光信号から分離される。
【0028】
この方法の問題は、焦点外で活性化された分子が発生することである。したがってこの方法では有利には、一画像面を記録した後で、試料領域全体にわたり例えば広帯域照明によって非活性化できる、分子が使用される。
【0029】
高分解能画像の記録は、本発明の装置においては、(特許文献3参照)に記載のように上記のステップ1〜4により行われる。活性化可能な蛍光色素として、有利には、従来技術から公知の蛍光性タンパク質、例えばPA−GFPまたはDRONPAも使用される。この際、光活性化は405nmで、蛍光励起は488nmで、領域中の検出は490nm超より上で行われる。さらに、可逆的に切替可能な合成色素、例えばAlexa/Cyan構造体を使用することもできる。
【0030】
図4aには、2つのシート光LB1とLB2によって照明を行う本発明による別の装置が概略的に示されている。シート光を複数の方向から(ただし検出によって規定される焦点面内で)干渉計で重畳することによって、図示のx方向に沿って焦点面内に干渉パターンが発生する。シート光はまた、光活性化および蛍光励起の少なくとも一方のためのレーザ光を含むことができる。重畳によっていわゆる定在波場(Stehwellenfeld:SW)が生成され、これが図4bに縞パターンとして概略的に示されている。例えば2つのシート光を光活性化のために使用する場合、活性化すべき蛍光発光体の間隔が、検出のPSFの幅(図4aのO)以上となることを達成することができる。これによって有利には、x方向に沿って空間的に重畳され、さらにz方向で焦点面Fの個所に局在する蛍光発光体が発生しなくなる。検出は、図3による装置と同様に行われる。強度の最小点にある試料を照明するために定在波場を焦点面内でずらすことは、2つのシート光間の相対位相を、例えば位相変調器(Phasenmodulator:PH)により調整することによって行われる。
【0031】
2つのビームを使用する場合、干渉により、縞状の、xおよびz方向に局在する活性化が生じる。2つを超える、有利には3つのシート光LB1〜LB3(角度120゜)が入射する場合、図5に示すような点パターンPM、すなわちx、zおよびy方向に局在する活性化が生じ、したがって活性化された蛍光放射体の間隔(1)は、検出のPSFの幅(図4aのO)以上となる。蛍光励起は有利には、1つまたは複数のシート光を介しても行われ、これによりやはり焦点外の自己蛍光が回避される。
【0032】
図4aで方向Oからの蛍光励起も1つまたは複数の方向で構造化することができ、例えば1つのホールパターン(xおよびy方向での構造化)を有することもできる。これによって、蛍光発光体の間隔が検出のPSFの幅以上になることを保証することができる。この種の構造化は、例えば格子構造(ドイツ特許出願公開第10257237号明細書)により、またはマルチスポット励起(特許文献4参照)により行うことができる。
【0033】
さらに光活性化は対物レンズOを介して行うことができ、蛍光励起を複数の円盤光ビームにより実現することができる。これらの円盤光ビームは、上記の形式の干渉パターンを生じさせる。したがって、重なり合うエアリーディスクによって活性化された分子は、異なる強さで励起される。このようにしてカメラ画像中の隙間も回避される。活性化ビームにより発生した自己蛍光は、時間的および/または空間的に分離される。一平面を記録した後、3D記録のために、試料領域全体にわたり非活性化を行わなければならない。
【0034】
光活性化が対物レンズOにより行われる場合は、構造化された活性化を(例えば上に述べたような格子の)特別な結像によって、またはスキャンメカニズムによって実現することができる。そのために光ビームで例えば画像野を走査することができ、その強度を、運動中に例えば高速のAOTFによって、活性化パターンが例えば図5に対応して焦点面内に発生するように変化させる。ただしこの方法では、焦点面の外の分子も活性化される。横方向のシート光蛍光励起によって、それでも焦点面からの蛍光だけが検出されることを保証することができる。ただし一平面を記録した後、3D記録のためには、試料領域全体にわたって非活性化を行わなければならない。活性化ビームの強度は理想的には、活性化スポット(ほぼPSFの大きさに相当する)当たり統計的平均で1つの分子だけが励起されるように選択される。このようにして、重なり合うエアリーディスクにより、2つの分子が同時に活性化される可能性が低減される。画像記録中に、すべての分子を均等に活性化するために、もちろん活性化パターンの位相をずらさなければならない。活性化ビームにより発生した自己蛍光は、時間的および/または空間的に分離される。しかし通常は、活性化強度は小さく、したがって自己蛍光は何の役割も果たさないはずである。
【0035】
ここで、光活性化ビームと蛍光励起ビームを交換することができる。そのことの利点は、焦点面の外で光活性化が生じないことである。そのために、活性化は、構造化せずにシート光を介して、励起は、PSFに同調して構造化して対物レンズを介して実行することができる。したがって、重なり合うエアリーディスクによって活性化された分子は、異なる強さで励起される。またこのようにしてカメラ画像中の隙間を回避することができる。ただしこの場合、焦点外での自己蛍光の問題が生じる。
【0036】
説明したすべての変形形態における1つの問題は、SPIM法では一般に使用されるシート光の幅によって決定される軸方向分解能である。シート光を生成するために使用されるNAは、検出対物レンズのNAよりも通常は格段に小さいため、システムPSFが非常に細長くなるという問題が直接的に発生する(横方向の拡がりはPALM法の分解能(ナノメートル範囲)によって決まり、軸方向の拡がりはシート光の幅(マイクロメートル範囲)によって決まる)。このことは、3D結像の場合に欠点となる。従来技術から公知のマルチビュー技法(異なる角度から積層体を記録する)を用いることによってこの問題を回避することができ、横方向のPALM分解能に対応する、効果的で十分に均等な空間的分解能を生じさせることができる。
【0037】
光活性化された分子が、活性化のために使用されるシート光の縁部領域で、別の構造化されたシート光によって非線形の相互作用という意味で、再び非活性化されて、より高いz方向分解能が達成されると特に有利であることが判明した。これは、上記の方法の1つ、好ましくは切替法により行うことができる。非活性化ビームとしては、観察される画像領域の範囲全体にわたって、焦点面にゼロ位置を有するように構造化されたシート光を使用することもできる。これは図6に示されている。ここでシート光ビームの瞳強度分布(I)は、適切な光学系により(例えばパウエル・レンズにより)前もって形成されたラインに相当する。瞳内には、ラインの半分にわたってπ位相跳躍を生じさせる領域(III)を有する、位相プレート(II)が取り付けられている。xy平面内に広がるシート光(V)が、適切な光学系(IV)によって生成される。照明光学系(IV)の被写界深度の範囲内に、検出光学系(VII)の焦点面に対して平行なゼロ位置平面(VI)が生じ、このゼロ位置平面内では分子が脱励起されない。STED様の方法に対応して、これにより、シート光の軸方向拡がりを、光活性化された分子により非線形に強く制限することができ、軸方向分解能を改善することができる。
【0038】
図7は、(x方向に構造化された)シート光によって光活性化/光非活性化を行い、CCD広視野検出を行う、前述の有利な方法および適用例を使用するための、一般的な光学的実施形態を示す。
【0039】
試料は例えばDronpaでマーキングされており、405nmでスイッチオン(活性化)し、488nmで励起しまたは再スイッチオフすることができる。
405nm(光活性化)および488nm(蛍光励起および光非活性化)用のレーザ(1)が設けられており、ビーム結合器(2)とダイクロイックミラーによって1つにまとめられる。光非活性化と蛍光励起用に、上にDENTRAの例で説明したように1つの同じ波長を使用することもできる。これにより1つのレーザ(この場合は405nm)とビーム結合器(2)を省略することができる。
【0040】
AOTF(3)が、波長選択と、レーザ波長の高速の切替/減衰のために用いられる。AOTFの照明方向で下流側に、好ましくは、回転可能なλ/2プレート(4)と、2チャネルのためのファイバ結合部を備えるポールスプリッタ(PBS)(5)とが配置されている。λ/2プレートを回転することにより、両方のチャネルにおける出力を調整することができる。
【0041】
シングルモードファイバ(6)を経由して、光は、シート光を生成するための円筒光学系(7)と結像光学系(8)を通り、光活性化(または非活性化または励起)のためのビーム路(10)またはビーム路(11)を経て、試料(12)に入射する。図4による焦点面(x構造化)にゼロ位置を生じさせるために、光波長が相応に適合される。強度の最小点にある試料を照明するために定在波場を焦点面内でずらすことは、2つのシート光間の相対位相を、例えば位相変調器(PH)により調整することによって行われる。
【0042】
試料(12)内で生成された光は、検出光学系(13)(顕微鏡対物レンズ)を通り、検出ビーム路(14)内を鏡筒レンズ(15)と放射フィルタ(16)を経由して、CCDカメラによって検出される。検出ビーム路内には、蛍光励起が検出光学系によって行われる場合にレーザ(22)または広視野光源(23)を入力反射するための、オプションとしての(旋回可能な)カラースプリッタ(18)が破線で示されている。レーザと広視野光源の間の選択は、オプションとして旋回可能なミラー(20)を用いて行うことができる。レーザ(22)または広視野光源(23)は活性化のためにも使用することができる。この場合、DRONPAが色素として使用されるなら、488nmの波長の代わりに405nmの波長を用意すべきである。とりわけレーザビーム路(22)には、画像野を点で走査することのできるスキャナユニット(21)が設けられている。スキャナユニット(21)とカラースプリッタ(18)との間に、このために適合された結像光学系(19)が設けられている。
【0043】
図6に関して上記で述べたシート光のz構造化のために、位相プレート(9)を照明ビーム路内に取り付けることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回折の制限された分解能体積を特徴とする装置、とりわけ顕微鏡であって、
種々異なる状態間で切替え可能な複数の色素分子(UF)を備え、
少なくとも1つの状態が蛍光状態であり、蛍光が対物レンズ(O)により集光され、光学システムにより位置分解能のある検出器上に結像され、
該UFが、試料の少なくとも一部分において、回折の制限された分解能体積の逆数よりも大きな分布密度を有し、
該装置はさらに、試料内における第1の部分量のUFを切り替えるための切替ビームを送信し、該第1の部分量のUFを励起するための励起ビームを送信するための、1つまたは複数の光源を有し、
該光源の少なくとも1つが、試料を透過するように配置されており、
試料中のUFの切替および蛍光励起の少なくとも一方が、光軸に対して近似的に垂直な少なくとも1つの方向で、とりわけ対物レンズ(O)の焦点内で行われる、装置。
【請求項2】
前記切替が、色素分子の光活性化または光非活性化である、請求項1記載の装置。
【請求項3】
蛍光状態にある前記色素分子の分布密度が、前記装置の回折の制限された分解能体積の逆数よりも小さいことを保証するために、前記切替ビームをコントロールするための制御ユニットが設けられている、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
切替用の光源および励起用の光源の少なくとも一方に対して、照明領域を生じさせる集束装置が設けられており、該照明領域は、照明方向に延びており、対物レンズの光軸に対して少なくとも近似的に垂直な少なくとも1つの方向で線形である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
平坦なシート光が集束装置により生成され、該シート光は試料を透過し、対物レンズの光軸に対して少なくとも近似的に垂直である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記集束装置が、非点収差光学系および非球形光学系の少なくとも一方である、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
切替および励起のために使用される光源が、波長が切替可能な1つの光源にまとめられている、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
切替および励起のために使用される光源が、同じ波長を有する、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
1つの波長を有する異なる光源が、切替および励起のために設けられている、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の装置。
【請求項10】
異なる方向から励起すること、および切り替えることの少なくとも一方のために複数の光源が設けられている、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の装置。
【請求項11】
互いに対向する2つの光源が設けられている、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の装置。
【請求項12】
異なる方向から入射する少なくとも3つの光源が設けられている、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の装置。
【請求項13】
複数の光源が、1つの光源の光を分割することによって形成される、請求項1乃至12のいずれか1項に記載の装置。
【請求項14】
干渉を生じさせるための複数の光源が、同じ波長を有する、請求項1乃至13のいずれか1項に記載の装置。
【請求項15】
少なくとも1つの光源が側方から入射され、検出方向で構造化を生じさせる適切な光学的手段が設けられている、請求項1乃至14のいずれか1項に記載の装置。
【請求項16】
試料の構造を空間的に高分解能で結像する方法であって、
切替信号により、第1の光学特性を備える第1の状態から、第2の光学特性を備える第2の状態へ少なくとも一度移行可能である、一群の物質から1つの物質を選択するステップと、
該切替信号により変化する割合の該物質を第2の状態へ移行させるステップであって、該切替が、切り替えられた分子間の間隔が顕微鏡の回折制限された光学的分解能以上になるように行われるステップと、
第2の状態に移行した部分を励起し、分子を位置分解能のある検出器により位置特定するステップと、
第2の状態にある色素分子から発する光学的測定信号を、対物レンズを介して検出器により空間的に分解して記録するステップとを含み、
少なくとも該第2の状態への移行および該励起の少なくとも一方が、検出方向および対物レンズの光軸の少なくとも一方に対して少なくとも近似的に垂直である、方法。
【請求項17】
第2の状態から第1の状態への分子の非活性化が行われる、請求項16記載の方法。
【請求項18】
第2の状態に移行させるための光源および励起するための光源の少なくとも一方について、照明方向に、少なくとも1つの方向で線形に延びる照明領域を集束することによって行われる、請求項16乃至17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
照明領域が、対物レンズの視野内に線形の光分布を表す、請求項16乃至18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
照明領域が、対物レンズの視野内での平坦なシート光である、請求項16乃至19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記第2の状態への移行が、光活性化によって行われる、請求項16乃至20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
励起が蛍光励起によって行われる、請求項16乃至21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
少なくとも、光活性化および蛍光励起の少なくとも一方が、蛍光検出方向に対して垂直に行われる、請求項16乃至22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
1.分子の蛍光特性を変化させることによって個別の分子が光活性化され、ここで該活性化は、活性化された分子間の間隔が顕微鏡の光学的分解能以上になるように行われ、
2.活性化された分子が励起され、位置分解能のある検出器により分子の位置が特定され、
3.活性化された分子が非活性化され、
4.該ステップ1から3が繰り返され、ここで検出画像の重畳によって1つの高分解能画像に統合する、請求項16乃至23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
1.少なくとも1つのシート光を介して、分子の蛍光特性を変化させることによって個別の分子が光活性化され、
2.z方向に構造化されたシート光を用いて分子が非活性化され、これにより、活性化された分子の層が、z方向では、検出光学系のアッベの分解能または照明光学系の開口数に相当するよりも少なく延び、
3.活性化された分子が励起され、位置分解能のある検出器により分子の位置が特定され、
4.活性化された分子が非活性化され、
5.該ステップ1から4が繰り返され、ここで検出画像の重畳によって1つの高分解能画像に統合する、請求項16乃至24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
試料領域の活性化および励起の少なくとも一方が、片側から行われる、請求項16乃至25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
試料領域の活性化および励起の少なくとも一方が、両側から行われる、請求項16乃至26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
試料領域の活性化および励起の少なくとも一方が、2つを超える側、好ましくは3つの側から行われる、請求項16乃至27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
干渉を生じさせるための複数の光源が、同じ波長を有する、請求項16乃至28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
2つの光源および干渉によって、縞パターンが試料中に生成される、請求項16乃至29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
少なくとも3つの光源および干渉によって、点パターンが試料中に生成される、請求項16乃至30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
複数の光源が、1つの光源の光を分割することにより形成される、請求項16乃至31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
励起が対物レンズによって行われ、活性化がシート光を介して行われる、請求項16乃至32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
励起および活性化がシート光を介して行われる、請求項16乃至33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
励起光が構造化されている、請求項16乃至34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
励起ビーム路中に配置された格子によって前記構造化がもたらされる、請求項36記載の方法。
【請求項37】
励起光が点分布(マルチスポット)を有する、請求項16乃至36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
活性化が対物レンズによって行われ、励起がシート光を介して行われ、変調された走査運動または格子結像による活性化光が、点分布を示す、請求項16乃至37のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2011−511966(P2011−511966A)
【公表日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−546236(P2010−546236)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【国際出願番号】PCT/EP2009/000677
【国際公開番号】WO2009/100830
【国際公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(506151659)カール ツァイス マイクロイメージング ゲーエムベーハー (71)
【氏名又は名称原語表記】Carl Zeiss MicroImaging GmbH
【Fターム(参考)】