説明

試料中に存在するターゲットまたは対象物を結合/脱離させるためのデバイスおよび方法

本発明によるデバイスは、−表面を有した支持体であるとともに、その表面が、結合領域(Z)を備え、この結合領域(Z)には、ターゲット(B)と結合し得るプローブ(A)を付加することができ、これにより、結合領域(Z)には、プローブ(A)を介してターゲット(B)を結合させ得るようになっている、支持体と;−結合領域の近傍において支持体上に配置された、作用電極(WE)、および、この作用電極に対する対向電極(CE)であるとともに、作用電極が、結合領域の境界を規定しているあるいは結合領域を囲んでいるような、作用電極(WE)および対向電極(CE)と;−作用電極に対して与えられた電流または電位を印加するための印加手段であって、その印加によって、結合領域および両電極が水性溶液内へと含浸された際には、結合領域がなす局所的領域内におけるpHを局所的に変化させ得るような、印加手段と;を具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中に存在するターゲットまたは対象物を、支持体に対して取り付けられたプローブに対して結合させるためのあるいは支持体に対して取り付けられたプローブから脱離させるためのデバイスおよび方法に関するものである。
【0002】
ターゲットは、例えば、化学的分子や、生物学的分子や、細胞や、バクテリアや、ラテックスビードまたはガラスビードといったような機能付加された粒子や、タンパク質や、デオキシリボ核酸(DNAまたはcDNA)や、オリゴヌクレオチドや、リボ核酸や、ペプチド核酸(PNA)や、酵素や、感染させるべき分子や、例えば薬学的に興味があるといったような活性成分、等からなる基の中から選択することができる。プローブは、例えば、支持体とターゲットとの双方に対して結合し得るような化学的分子や生物学的分子や生物学的対象物とすることができる。対象物は、上述した成分のうちの1つとすることができ、ターゲットによって『付帯』される。
【0003】
本発明は、例えば、生物学的分子または対象物の分離方法あるいは精製方法や、生物学的分子または対象物の濃縮方法や、検出方法、等に応用することができる。
【0004】
本発明は、生物学的なおよび/または化学的なターゲットまたは対象物の結合および脱離を使用するようなすべてのマイクロシステムに対して適用される。本発明は、特に、例えばDNAチップやセルソーティングチップといったようなマイクロシステムに対して、あるいは、例えば基付加チップや検出チップといったような化学的マイクロシステムに対して、あるいは、例えば活性分子の捕捉のためといったような結合用化学チップに対して、適用される。
【背景技術】
【0005】
以下の説明においては、フック[]によって参考文献を示している。
【0006】
大多数の現在のシステムおよび技術は、電気化学以外のプロセスを使用している。典型的には、これら技術は、例えば静電気や親水性/疎水性や立体形状や局所的形状や物理的吸着などといったような物理的相互作用を利用している、あるいは、化学プロセスに依存している。いくつかのシステムにおいては、電気的指示や電気化学的指示や光化学指示が表面特性を変調させることにより、『能動的』と記述し得るようなプロセスを利用している。一般に、これらシステムによる分子の結合/脱離の組合せは、可逆的なものでもなく、また、制御可能なものでもない。なぜなら、多くの場合、受動的なプロセスおよび/または非特異性であるからである。
【0007】
生物学的応用および/または化学的応用に適した表面に対する分子の結合や脱離のためのシステムのいくつかにおいては、表面特性の変更を利用している。
【0008】
例えば、表面上に存在する活性基の電気化学的改質に言及することができる。その後、チオールの自己組立層の端部に位置した酸性の基および/または塩基性の基のプロトン付加/プロトン脱離といったような化学反応が行われ、表面においてあるいは溶液内において、X(−)/XH タイプの酸化還元結合が行われ、これにより、保護の解除が引き起こされる。このようなシステムは、例えば、参考文献[1][2]に記載されている。これらシステムにおいては、使用される酸化還元結合は、比較的複雑であり、また、化学合成のために使用される溶媒は、一般に、非水性である。このことは、必然的に、使用可能なスペクトルを制限してしまう。例えば、電気化学的還元または酸化が行われ、これにより、化学反応が引き起こされる。例えば、参考文献[2]に記載されているように、キニーネがヒドロキノンへと還元され、その後、ヒドロキノンのラクトン化(配位子またはセルの脱離)が行われる。あるいは、ヒドロキノンキノンがキニーネへと酸化され、その後、Diels-Alder 反応(配位子またはセルの不動化)が行われる。
【0009】
部分的に電気化学的であるようなこれら技術においては、うまくないことに、可逆的な結合をもたらすことができない。なぜなら、これら技術においては、参考文献[3]に示されているような合成化学といったような不可逆的な化学反応と関連しているからである。
【0010】
また、例えば参考文献[2]および[4]に記載されたものといったような、表面上に存在する基の光化学的活性化を使用したシステムに言及することができる。これらシステムは、フォトンによって誘起された異性化によ形状的変化を使用し、例えば酵素や抗体や配位子や化学基(参考文献[5])といったような光活性化された生成物との反応を行うあるいはそのような生成物を認識する。
【0011】
この場合、対象物の結合は、うまくないことに、非特異的な結合[2]となってしまい、光学的ベンチを必要とするとともに、使用が複雑で面倒な活性化システムを必要とする。
【0012】
また、参考文献[6]に記載されているように、特定のポリマーによってコーティングされた表面に関しての、親水性/疎水性の振舞いの変更を使用した技術(LCST:
Lower Critical Solution Temperature )に言及することができる。これらポリマーは、それらの温度が臨界温度(37℃の近辺)よりも低いかあるいは高い場合には、ある状態から他の状態へと移行する。これにより、冷却によって(あるいは、加熱によって)、親水性の/疎水性の吸引作用/反発作用に基づいて、対象物(親水性あるいは疎水性を有した対象物)を結合あるいは脱離させることができる。
【0013】
しかしながら、例えば細胞といったような、マイクロシステム的なスケール的には大きなサイズの対象物に関しては、脱離の場合に、反応が極めて不活発である。加えて、これらポリマーをマイクロシステムに対して一体化するには、マイクロ技術プロセスという観点においてまだまだ多くの研究および適応の努力を必要とする[7]。
【0014】
また、アンカー止めすべき対象物上に存在する基に対しての化学的認識および/または立体的認識をもたらし得るような基による表面の基付加を使用するシステムについて言及することができる(参考文献[8]、[9]および[10])。これらシステムにおいては、シラン化によってまたは機能化導電性ポリマーによって有機金属錯体や他のかご分子によって予め基付加されているチオールの自己組立単一層(self-assembled monolayers,SAM)を使用して、例えば酸性基やカルボキシル基やアミン基や水酸基などといったようなまたオリゴヌクレオチドといったような化学的な基または生物学的な基を不動化する(参考文献[11])。
【0015】
うまくないことに、これらシステムにおいては、結合および脱離を、制御することも、また、局所的に実行することも、できない。したがって、これらシステムは、精度を欠いている。
【0016】
また、参考文献[12]に記載されているように、電気的作用や静電気的作用を使用したシステムを参照することができる。これらシステムにおいては、例えば、電界を使用して帯電した分子アセンブリの2つの部分を分離させたり(参考文献[13])、あるいは、カソードによる脱着(静電気反発作用)を行ったり(参考文献[14])、あるいは、結合あるいは脱離を行って、結合領域や脱離領域やあるいはメンブランの内部(容積)における電気的中性を維持する。
【0017】
しかしながら、これら技術は、真の意味での特異性をもたらすものではなく、帯電しているすべての対象物は、吸引力と反発力とを同時に受けることとなる。例えば細胞やバクテリアといったような、マイクロシステム的スケールから見てかなり嵩張った複雑な対象物に関しては、このアプローチでは、可逆性を得ることができない。メンブランの電気的中性を維持する場合には、不動化し得る対象物のサイズが、制限因子となる。
【0018】
したがって、従来技術による上記様々なシステムにおける多くの問題点を有していないようなシステムが実際に要望されている。
【特許文献1】J. B. Oster (Combimatric Corporation), Overlaying electrodesfor electrochemical microarrays, 国際公開第02/090963号パンフレット、November 14,2002.(参考文献[3])
【特許文献2】W. E. Hennink (Universiteit van Utrecht (NL) and Stichtingvoor of Technische Weterschappen (NL)), LCST Polymers, 欧州特許出願公開第1 072 617号明細書, January 31, 2001.(参考文献[6])
【特許文献3】C. J. Stanley (Affymetric), Electrochemical denaturation ofdouble stranded nucleic acid, 米国特許第6,395,489号明細書, May 28,2002.(参考文献[13])
【特許文献4】仏国特許出願公開第2 818 287号明細書(参考文献[15])
【特許文献5】米国特許第5,919,523号明細書(参考文献[16])
【特許文献6】国際公開第02/051856号パンフレット(参考文献[17])
【特許文献7】仏国特許出願公開第2 103 359号明細書(参考文献[18])
【非特許文献1】E. Katz & al., pH switched electrochemistry ofpyrroloquinoline quinone at Au electrodes modified by functionalized monolayers,Journal of Electroanalytical Chemistry, 1996, 408, 107-112.(参考文献[1])
【非特許文献2】M. N. Yousaf & M. Mrksich, Dynamic substrates: modulatingthe behaviours of attached cells, New Technologies for life sciences: A trendsguide (Elsevier), Dec. 2000, 28-35.(参考文献[2])
【非特許文献3】V. Chechik & al., Reactions and reactivity in SAMs, AdvancedMaterials, 2000, 12(16), 1161.(参考文献[4])
【非特許文献4】E. Kaganer & al., Surface Plasmon Resonance Characterizationof Photoswitchable Antigen-Antibody Interactions, Langmuir, 1999, 15(11), 3920-3923.(参考文献[5])
【非特許文献5】M. Yamato et al., Novel patterned cell coculture utilizingthermally responsive grafted polymer surfaces, Journal of Biomedical MaterialsResearch, 2001, 55(1), 137-140.(参考文献[7])
【非特許文献6】D. J. Revell & al., SA carbohydrate Ms: formation andsurface selective molecular recognition, Langmuir, 1998, 14, 4517-4524.(参考文献[8])
【非特許文献7】J. Spinke & al., Molecular recognition at SAM: optimization of surface fictionalisation, Journal of Chemical Physics, 1993, 99(9), 7012-019.(参考文献[9])
【非特許文献8】C. D. Tidwell & al., Endothelial cell growth and proteinadsorption on terminally functionalized, SAMs of alkanethiolates on gold,Langmuir, 1997, 13, 3404-3413.(参考文献[10])
【非特許文献9】A. E. Kaifer, Functionalised coil-assembled monolayerscontaining preformed binding sites, Israel Journal of Chemistry, 1996, 36, 3899-397.(参考文献[11])
【非特許文献10】B. Piro & al., A polyamide film for dopamine entrapmentand delivery, Journal of Electroanalitical Chemistry, 2001, 499, 103-111.(参考文献[12])
【非特許文献11】J. Wang & al., One-demand electrochemical release of DNAfrom gold surfaces, Bioelectrochemistry, 2000, 52, 111-114.(参考文献[14])
【非特許文献12】J. Voldmann, et al., Microfabrication in biology andmedicine; Annu. Rev. Biomed Eng., 1999, 01: 401-425.(参考文献[19])
【非特許文献13】Hofmann F, et al., (Infineon Technologies); Fullyelectronic DNA detection on a CMOS chip: device and process issues; ElectronDevices Meeting; 2002. IEDM '02. Digest. International; 2002 Page(s): 488-491.(参考文献[20])
【非特許文献14】Godillot P. & al., Synthetic Materials, 1996, 83, pp ll7-123.(参考文献[21])
【非特許文献15】Baueler P et al., Adv. Mat., 1996, 8, 3, pp 214.(参考文献[22])
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明によるシステムは、デバイスという態様やこのデバイスを使用した方法という態様をなすものであって、実際に、従来技術に関する上記多くの問題点を解決することができる。特に、本発明においては、水性溶液を使用し、本発明は、可逆的なものであり、特定的なものであり、正確なものであり、再現性のあるものであり、容易に実施可能なものであり、例えば細胞といったような大きなターゲットまたは対象物に対しても、また、例えば化学分子といったような小さなターゲットまたは対象物に対しても、適合することができる。本発明は、マイクロ技術手法に容易に適合することができ、局所的な制御および実施を可能とする。加えて、結合/脱離を行うためのデバイスの活性化は、小さな反応慣性を有している。
【0020】
以下の説明においては、『ターゲット』という用語は、プローブに対して直接的に結合しこれによりプローブ−ターゲット結合を形成するような分子または対象物のことを意味している。『対象物』という用語は、『ターゲット』を介してプローブに対して結合しこれにより対象物−ターゲット結合を形成するような分子または対象物を意味している。言い換えれば、対象物は、プローブに対して直接的に結合するのではなく、ターゲットを介して結合され、これにより、プローブによって認識される。
【0021】
図1および図2は、本発明によるデバイスを概略的に示している。
【0022】
本発明によるデバイスは、支持体に対して結合されたプローブ(A)に対してターゲット(B)を局所的に結合させ得るような、あるいは、支持体に対して結合されたプローブ(A)からターゲット(B)を局所的に脱離させ得るような、デバイスである。
【0023】
本発明によるデバイスは、
−表面を有した支持体であるとともに、その表面が、結合領域(Z)を備え、この結合領域(Z)には、ターゲット(B)と結合し得るプローブ(A)を付加することができ、これにより、結合領域(Z)には、プローブ(A)を介してターゲット(B)を結合させ得るようになっている、支持体と;
−結合領域の近傍において支持体上に配置された、作用電極(WE)、および、この作用電極に対する対向電極(CE)と;
−作用電極に対して与えられた電流または電位を印加するための印加手段であって、その印加によって、結合領域および両電極が水性溶液内へと含浸された際には、結合領域がなす局所的領域内におけるpHを局所的に変化させ得るような、印加手段と;
を具備している。
【0024】
本発明による方法は、第1実施形態においては、水性試料内に存在するターゲット(B)をプローブ(A)に対して結合させるための方法であって、
a)本発明によるデバイスにおける結合領域であるとともにpHに応じてターゲット(B)を結合させ得るプローブ(A)が付加されているような結合領域を、水性試料に対して接触させ;
b)デバイスの作用電極に対して電流または電位を印加し、これにより、結合領域のところにおいて水性試料のpHを局所的に変化させ、これにより、プローブに対して、ターゲットを特定的に認識させて結合させる;
という方法である。
【0025】
本発明による方法は、第2実施形態においては、水性試料内に存在するターゲット(B)をプローブ(A)に対して結合させるための方法であって、
a’)本発明によるデバイスにおける結合領域であるとともにプローブ(A)が付加されているような結合領域を、ターゲット(B)を含有した水性試料に対して接触させ;
a’)本発明によるデバイスにおける結合領域であるとともにターゲット(B)を結合しているプローブ(A)が付加されているような結合領域を、水性試料に対して接触させ、これにより、ターゲット(B)をプローブに対して結合させ;
b’)デバイスの作用電極に対して電流または電位を印加し、これにより、結合領域のところにおいて作用溶液のpHを局所的に変化させ、これにより、プローブ(A)からターゲット(B)を脱離させる;
という方法である。
【0026】
水性試料は、プローブに対して結合させるべきターゲットを含有した水性溶液である。水性溶液は、例えば、水性溶液に対してターゲットを単に混合しただけのものとされる、あるいは、動物または植物から採取した試料に基づくものとされる、あるいは、培地に基づくものとされる、あるいは、生物学的培地(細胞培地、イースト、菌類、藻類、酵素、等)に基づくものとされる、あるいは、化学的反応剤に基づくものとされる、あるいは、気体(例えば、雰囲気エア)に基づくものとされる、あるいは、液体に基づくものとされる、あるいは、ガス状産業廃水に基づくものとされる。試料が、例えばその性質(気体、固体)という理由によりあるいは濃度という理由によりあるいは含有している成分(固体残留物、廃棄物、懸濁液、妨害分子、等)という理由により、本発明による方法の実施に適しないものである場合には、本発明による方法においては、さらに、当業者に公知の技術を使用して水性溶液内に試料を溶解させるという予備的ステップを備えている。本質は、本発明による方法の適用対象をなす試料が、水性であるということである。
【0027】
実際、本発明においては、試料の中に存在する水は、作用電極に対して印加された電気化学的条件(電流あるいは電位)により、酸化または還元のいずれかを受けることができる。含まれる対(O/HOおよびHO/H)は、それぞれ、E =1.23−0.06pHおよびE =−0.06pHによって決定された電位を有している。作用溶液の初期的pH、および、反応の運動学的不活性状態は、使用される電解質と電極とに依存するものであって、所望のpH変化を得ることができる作用電圧を決定する。運動学的不活性状態の範囲は、理論的な予想に反して何の反応も生じないような理論的電位(上記の式により与えられた)よりも大きな電圧範囲である。したがって、運動学的不活性状態に打ち勝つには、過電圧を印加する必要がある。例えば、白金電極上においては、カソードの過電圧は−0.2Vとされ、アノードの過電圧は0.6Vとされる。
【0028】
本発明においては、結合プロセスにおいて、プローブとターゲットとの間に化学的ブリッジを形成する。化学的ブリッジの形成は、本発明によるデバイスによって局所的なpH変化によって引き起こされる。この場合、結合領域の近傍における媒体は、本発明の第1実施形態(『能動的結合』)による電気化学的活性化によって局所的に酸性または塩基性とされる。あるいは、自発的に引き起こされる。例えば、本発明の第2実施形態(『受動的結合』)においてプローブとターゲットとを接触させた際に、作用水性溶液のpHに基づいて、あるいは、プローブとターゲットとの間の化学的親和性または生物学的親和性に基づいて、あるいは、立体的認識に基づいて、自発的に引き起こされる。化学的ブリッジの形成は、2つのグループの間において引き起こされる。すなわち、一方は、結合領域の表面上に不動化されたプローブに属するものであり、他方は、ターゲットに属するものである。
【0029】
したがって、本発明の実施形態の選択により、ターゲットが試料中に存在する場合には、ターゲットは、電気化学的マイクロセルによって結合領域内に誘起されたpHの局所的変化により、あるいは、自発的に、プローブを介して結合領域に対して結合される。
【0030】
本発明の第1実施形態においては、例えばpHに基づいてといったようにして、プローブ−ターゲット結合が可逆的な場合には、ターゲットは、作用電極に対しての電流あるいは電位の印加を遮断することによってあるいは作用電極に対して異なる電流あるいは電位を印加することによって、作用溶液のpHを局所的に変化させることにより、あるいは、ターゲットをプローブから脱離させるための濯ぎ溶液のpHを局所的に変化させることにより、プローブから脱離させることができる。この場合、したがって、本発明による方法においては、結合と、『能動的な』脱離と、を行う。例えば、作用電極に対して、初期的なpH値へとあるいはターゲットを脱離させ得るようなpH値へと復帰させ得るような電流または電位を印加することができる。
【0031】
本発明の第1実施形態においては、プローブ−ターゲット結合が可逆的である場合には、ターゲットは、また、濯ぎ溶液を使用して脱離させることができる。この場合、濯ぎ溶液は、例えばpHに基づいてあるいはこの濯ぎ溶液の化学的性質に基づいて、プローブ−ターゲット結合を破壊する。
【0032】
ステップb)の前においておよび/または後において結合領域を濯ぐという1つまたは複数のステップを、プローブに対して結合されたターゲットを清浄化するという目的で、行うこともできる。その場合、濯ぎ溶液は、当然のことながら、好ましくは、プローブ−ターゲット結合を維持させる溶液とされる。この溶液は、例えば、試料の調製を可能とした水性溶液と同じものとすることができる。
【0033】
第2実施形態の変形例においては、ステップa’)におけるプローブに対するターゲットの結合は、デバイスの作用電極に対して電流または電位を印加することによって結合領域のところにおいて作用溶液のpHを局所的に変更することにより、行うことができ、これにより、ターゲット(B)をプローブ(A)に対して結合させることができる。この場合、ターゲットの結合および脱離は、『能動的』と称される。この変形例においては、結合を、本発明の第1実施形態によって実行することができ、脱離を、本発明の第2実施形態によって実行することができる。
【0034】
上述した従来文献は、本発明による純粋な電気化学的手法が、すなわち、他のタイプの非可逆反応を付随していない電気化学的手法が、例えばマイクロシステムといったような場合において、プローブが付加された表面に対する結合特性やそのような表面からの脱離特性を制御したり変更したりするという目的では、従来技術においては使用されたことがなかったことを、示している。
【0035】
本発明によるデバイスは、有利には、本発明に基づく1つまたは複数のデバイスを有したマイクロシステムという形態とすることができる。各デバイスは、実際に電気化学的マイクロセルを形成し、各セルは、少なくとも2つの電極と、結合および/または脱離領域と、を備えている。少なくとも2つの電極は、作用電極、および、対向電極とされ、付加的に、参照電極(RE)を追加することもできる。参照電極も、また、電極であって、例えば、プローブを付加する際に、電気懸架といったようにして電気的にあるいは電気化学的に行うことを補助する。
【0036】
本発明においては、結合および/または脱離を行うための電気化学的マイクロセルは、pHの局所的変化を得ることができるものであることが好ましく、したがって、十分に局在化したターゲットの結合を行い得るものであることが好ましい。したがって、本発明のデバイスであれば、特異的にかつ高精度でかつ他のものとは独立的に、マイクロシステムの表面上に位置した複数の可能な結合/脱離領域からなるマトリクスの中からターゲットの結合または脱離を行いたい領域を選択し得るようにして、さらに、1つまたは複数の互いに同種のあるいは互いに異種のプローブを付加し得るように、結合および/または脱離を局在化し得る方法を実行することができる。
【0037】
本発明によるデバイスを上面上で製造し得るような支持体は、本発明の実施を可能とし得る限りにおいては、いかなる支持体とすることもできる。支持体は、例えばバイオチップの支持体として従来から使用されているものとすることができ、また例えば、シリコンやガラスやポリマーや金属やプラスチック等から形成することができる。本発明において使用可能な支持体は、例えば、参考文献[15]および[16]に記載されている。
【0038】
結合および/または脱離領域は、有利には、電気的な機能付加や電気化学的な機能付加が必要な場合には、導電性材料から形成することができる。そのような領域は、例えば化学的な機能付加技術といったような他の機能付加技術が選択される場合には、プローブを懸架するために使用し得るような他の任意の材料から形成ことができる。化学的にあるいは生物学的に修正した材料を使用した場合には、プローブを結合させることができる。結合および/または脱離領域は、支持体の実際の表面とすることも、また、当業者に公知であるような従来的成膜技術を使用して支持体上に成膜されたコーティング膜の表面とすることも、できる。いずれにしても、プローブの付加(すなわち、プローブの結合)を行うことができる。コーティング膜は、例えば、Siや、ガラスや、 SiO(シラン化を可能とする)や、例えばバイオチップを形成するために使用されているものといったような特にバイオチップの分子プローブの結合に際して使用されているものといったような適切な導電性ポリマーまたは導電性コポリマー、とすることができ、例えば、ポリピロールや、AuやAgやPtのような金属、とすることができる。これにより、例えば、電気懸架を行うことができ、また、自己組立単一層を形成することができる。結合領域は、例えば、付加されたプローブの局在化によって、また、電極の近傍によって、延在範囲を規定することができる。
【0039】
本発明によるデバイスは、例えば市販の目的といったようなもののために、機能付加されていない結合領域と複数の電極とを備えてなる基板として、提供することができる。その場合、このデバイスの使用者は、バイオチップの表面を機能付加するに際して使用されている従来技術を使用することによって、ターゲットを結合させるためにターゲットに応じて選択した領域を、プローブによって容易に機能付加することができる。これにより、本発明によるいずれかの方法を実施し得るデバイスを得ることができる。
【0040】
本発明によるデバイスは、また、市販の目的のために、pHに応じてターゲット(B)と結合し得るようなプローブ(A)が既に結合領域上に付加された形態でもって、提供することができる。この場合には、プローブに対応するターゲットを結合/脱離領域上へと前もって付加する必要なく、本発明によるいずれかの方法を即座に実施することができる。
【0041】
一般に、結合領域上においてプローブを不動化するといったような結合領域上へのプローブの付加は、例えば参考文献[8]〜[12]および[17][18]に記載されているように、化学的な懸架または電気化学的な懸架(電気懸架)に関する通常的技術によって、行うことができる。
【0042】
図1および図2は、例えば生物学的プローブまたは化学的プローブといったようなプローブ“A”が付加された結合領域(Z)を示している。
【0043】
プローブは、一般に、ターゲットに応じて選択される。プローブ“A”およびターゲット“B”(図1および図2を参照)は、好ましくは、pHに対して安定な結合を有しているとともに電気化学的結合時に酸性pHまたは塩基性pHの存在下において相互作用して結合し得るような化学基を含有しているような1つまたは複数の成分から構成される。例えば、プローブ“A”は、酸性媒体または塩基性媒体内においてターゲット“B”によって付帯された1つの(あるいは、複数の)求核基に対して反応し得るような1つの(あるいは、複数の)求電子基を付帯することができる。あるいは、逆に、プローブ“A”は、酸性媒体または塩基性媒体内においてターゲット“B”によって付帯された1つの(あるいは、複数の)求電子基に対して反応し得るような1つの(あるいは、複数の)求核基を付帯することができる。プローブ“A”とターゲット“B”との間の結合は、また、 A-SH + HS-B → A-S-S-B という反応に基づく媒体の酸性化によって1つまたは複数のジスルフィドブリッジを形成することができる。
【0044】
したがって、本発明においては、プローブは、例えば、求電子基を介してターゲットに対して結合し得るようなものとして選択することができ、例えば、アルデヒド基や、ハライド基や、チオシアン酸基や、イソシアン酸基や、活性化されたエステル基や、カーバメート基や、エポキシド基、等の中から選択することができる。
【0045】
プローブは、また、例えば、求核基を介してターゲットに対して結合し得るようなものとして選択することができ、例えば、アミン基や、アルコキシド基や、フェノール基や、フェノキシド基や、オキシアミン基や、ヒドラジン基、等の中から選択することができる。本発明による方法においては、プローブは、例えば、作用溶液内において、ターゲット分子に対して、水素結合や、ペプチド結合や、アミド結合や、スルホンアミド結合や、カルボン酸エステル結合や、スルホン酸エステル結合や、あるいは、置換されたシラノエート結合、といったような結合を形成し得るものとして選択することができる。
【0046】
一般に、本発明においては、プローブは、デオキシリボ核酸(DNAまたはcDNA)や、オリゴヌクレオチドや、リボ核酸や、ペプチド核酸(PNA)や、タンパク質や、酵素や、酵素基体や、ホルモン受容体や、ホルモンや、抗体や、抗原や、真核細胞あるいは原核細胞あるいはこれらのフラグメントや、藻類や、菌類、の中から選択することができる。この選択は、ターゲットに応じて行われる。例えば、上記の中では、ターゲットは、プローブをなすオリゴヌクレオチドに対して相補的なオリゴヌクレオチドや、酵素基体や、あるいは、抗原に関して特定の抗体、等とすることができる。
【0047】
結合領域上のプローブに対してのターゲットの結合の局所化は、プローブとターゲットとからなるアセンブリが一義的な相補性を有している場合には、特定の結合によって規定することができる。例えば、RNAあるいはDNAといったような2つのオリゴヌクレオチドストランドのシーケンス相補性を利用して、プローブとターゲットとを結合させることができる。この場合、一方のストランドは、支持体に対して結合するものであって、機能付加された結合領域を形成するものであり、他方のストランドは、プローブに対して結合されるべきターゲットを構成するものである。その場合、プローブとターゲットとの間の結合は、2つのストランドの相補的塩基どうしの対形成という態様で、引き起こされる。互いに相補的なオリゴヌクレオチド以外の当業者に公知の生物学的分子の対形成を行うことができる。例えば、上述したようなpH感応的な結合や、基板/酵素結合や、抗体/抗原結合や、ホルモン/受容体結合、等とすることができる。特定的結合というこの可能性は、有利には、与えられた対象物に関する結合ポイントを精度良く選択することを可能とする。
【0048】
本発明の上記2つの実施形態の変形例においては、図1に示されているように、ターゲット“B”を使用して、対象物“C”を搬送することができる。この場合の対象物は、例えば、試料から抽出すべきものであったり、隔離すべきものであったり、あるいは、時間的な遅延を有しつつ脱離させるべきものであったり、等とすることができる。
【0049】
この対象物は、“A”+“B”というアセンブリの形成の、前であってもまた最中であってもまた後であっても、ターゲット“B”に対して結合することができる。Bが対象物“C”を搬送する場合には、対象物“C”は、その後、Aに対して“B”を介して結合させることも、および/または、Aから“B”を介して脱離させることも、できる。例えばマイクロシステムの表面といったようなものに対しての対象物“C”の電気化学的方法による結合に際しては、例えば電界といったような他の電気的に生成されたいかなる現象も、介在していない。
【0050】
したがって、本発明においては、一方または他方の実施形態において、本発明による方法は、さらに、ターゲットに対しての対象物の結合というステップを備えることができる。
【0051】
この変形例は、特に、例えば本発明による結合/脱離条件が周知でありかつ制御可能であるような与えられたプローブ/ターゲットの組合せに関し、例えば互いに相補的なオリゴヌクレオチドストランドという態様とされたあるいは以下の様々な実施例において示されるような1つまたは複数の態様とされた与えられたプローブ/ターゲットの組合せに関し、ターゲットと対象物との間に結合を形成し得る限りにおいては、本発明による方法を使用して上述した様々な対象物の中の任意の対象物を結合/脱離させ得るという利点を有している。この変形例は、さらに、このようなターゲット/対象物の対形成は、本発明による方法によって、プローブに対して結合し得る、あるいは、/プローブから脱離させ得る、という利点を有している。
【0052】
この変形例は、さらに、本発明による方法において対象物の結合/脱離を行う場合に、対象物とプローブとの間において化学的には直接的な電気化学的相互作用を確立し得ない場合に(この場合には、対象物は、本発明の目的におけるターゲットをなすこととなる)、対象物を、ターゲットによって『搬送』し得るという利点を有している。これにより、対象物は、(対象物を介して間接的ではあるものの)プローブに対して相互作用することができ、結合領域に対しての結合/脱離を引き起こすことができる。この場合、当業者に公知であるような任意の手法を使用することによって、ターゲットに対して対象物を十分に結合させることができる。
【0053】
好ましくは、対象物“C”が決定された際には、ターゲットに対しての対象物“C”の結合が認識および結合を妨害しないようなプローブとターゲットとの組合せが、選択される。逆に、プローブとターゲットとの組合せが与えられている場合には、対象物“C”は、ターゲットに対するその対象物の結合がプローブとターゲットとの間の結合を妨害しないようなものとして、選択される。
【0054】
対象物“C”は、分子や、細胞や、バクテリアや、例えばラテックスやビーズやガラスビーズといったような機能付加されたビーズや、タンパク質や、酵素や、例えば細胞の認識や不動化のためといったような抗体や、生物学的フラグメントや、感染対象をなす分子や、生物学的に興味のある分子や、活性成分や、薬学的に興味のある分子や、化学的官能基、等からなるグループの中から選択することができる。対象物“C”は、また、分子とすることも、また、例えばターゲット“B”といったような対象物とすることも、できる。
【0055】
例示するならば、対象物“C”は、プローブとターゲットとの間の結合を強調するようなラベルとすることができる。ラベルは、例えば、化学的な分子、あるいは、生物学的な分子、あるいは、バイオチップ上のプローブとターゲットとの間の分子認識反応、を強調するために使用されているような当業者に公知の任意のラベルとすることができる。ラベルは、例えば、蛍光性分子や、電気活性を有した分子、等とすることができる。このyとうな組合せの例は、以下に与えられている。
【0056】
ターゲットに対して対象物を結合させるという上記ステップにおいては、対象物がラベルである場合には、本発明による方法において、さらに、ラベル付きターゲットを検出するというステップを行うことができる。上記ラベルが公知であることにより、ここでは、ラベルを検出するに際しての、当業者に公知の技術に関して、これ以上の説明を行う必要はない。
【0057】
本発明による方法においては、プローブは、さらに、例えばラベルといったような分子を付帯することができる。これにより、例えば、その分子がプローブとターゲットとの間の結合が妨害しない限りにおいては、プローブとターゲットとの間の結合を強調することができる。この分子は、結合領域に対してのプローブの付加の前にあるいはその付加の後に、通常の化学的技術を使用してプローブに対して結合させることができる。例えば、この分子がラベルである場合には、その分子は、化学的分子(例えば、ジオキシゲニン)や、蛍光物質(例えば、フルオレセインや、『分子ビーコン』や、その蛍光性ラベル)や、電気化学的に活性な分子(例えば、フェロセン)や、生物学的に活性な分子(例えば酵素)や、放射性ラベル(例えば、リン[P32]の1つまたは複数のアイソトープを含んだもの)、の中から選択することができる。本発明の他の実施形態においては、例えば、ビオチンを、プローブに対して結合させることができ(プローブは、ビオチンを付帯している)、ターゲットを、ストレプトアビジン−フィコエリスリンによってラベル付けされたものとすることができる。
【0058】
本発明においては、プローブ“A”に対するターゲット“B”の結合を行う前に、作用電極に対しての1つまたは複数の電気化学的な電圧または電流の印加によって、プローブの電気化学的活性化を行うことができる。この活性化により、作用電極(活性電極)の近傍にかつ結合領域の近傍に限定された態様で、pHの局所的変化(酸性化または塩基性化)を引き起こすことができる。1つまたは複数の適切な電気化学的な電位あるいは電流の印加により、電気化学的反応が引き起こされ、これにより、例えば、マイクロシステムと接触した溶液の瞬時的なかつ局所的なヒドロキシル化やプロトン付加に基づく生成物が形成される。これにより、プローブとターゲットとの間に結合が形成され、さらに、プローブを介して結合領域に対してターゲットが結合される。例えば、プローブおよびターゲットのそれぞれ求電子基および求核基が、相互作用し、 A+B → A-B に基づいて結合する。
【0059】
電気化学的活性化は、例えば、“A”+“B-C”や、“A”+“B”+“C”や、
“A-B”+“C” )、といったようなアセンブリのために使用されている1つまたは複数の溶液の中で行うことができる。したがって、システムの濯ぎを必要としない。また、含まれている結合が本発明による方法の実施において妨害されないものである限りにおいては、“アセンブリ後の”溶液が少なくとも部分的に水性であれば、好ましくは生理的食塩水であれば、より好ましくは緩衝溶液であれば、“アセンブリ後の”溶液をさらに準備する必要がない。
【0060】
電気化学的プロセスを使用しての、ターゲットBの脱離プロセスにおいては、あるいは、ターゲットに対して対象物“C”が結合している場合には B-Cの脱離プロセスにおいては、まず最初に、上述したようなpH感受性基を有した結合ブリッジを使用してプローブ“A”とターゲット“B”との間に可逆的な結合を形成し、次に、pHを局所的にかつ可逆的に変更することによって、局所的に(結合サイトにおいて)結合ブリッジを破壊する。この脱離プロセスは、図2に概略的に示されている。
【0061】
1つまたは複数の適切な電気化学的な電位または電流を印加することにより、電気化学的反応が引き起こされ、これにより、例えば、マイクロシステムに対して接触している溶液の瞬時的かつ局所的なヒドロキシル化あるいはプロトン付加が起こり、これにより、プローブとターゲットとの間の結合が破裂される。脱離ステップ時には、pHの電気化学的変化の影響下において、pH変化に敏感な基(例えば、水素結合、ペプチド結合、アミド結合、スルホンアミド結合、カルボン酸エステル結合、スルホン酸エステル結合、置換されたシラノエート結合)が、A-B → A + B に従って分裂する。このような可逆的かつ局所的な結合ブリッジの分裂は、また、対象物“C”が存在する場合にはこの対象物“C”の脱離を引き起こすことができる。この場合、対象物Cは、B-C という形態で、あるいは、B+Cという形態で、溶液内へと戻る。対象物Cの脱離は、当然のことながら、BとCとの間の結合の化学的性質に依存する。
【0062】
1つまたは複数の適切な電気化学的な電位または電流を印加することにより、電気化学的反応が引き起こされ、これにより、例えばマイクロシステムといったようなものの結合領域に対して接触している溶液(アセンブリを行う溶液、あるいは、アセンブリを行った後の溶液)の瞬時的かつ局所的なヒドロキシル化あるいはプロトン付加が起こり、これにより、プローブとターゲットとの間の結合に含まれている基に応じて、プローブとターゲットとの間の分離が起こる。
【0063】
例えば電界といったような電気的に生成されたいかなる現象も、電気化学的プロセスを介しての表面変調(すなわち、結合状態、あるいは、脱離状態)には、関与していない。このことは、本発明の多数の利点の中の1つである。
【0064】
本発明者らによって行われたような、同一表面上での連続的な結合および脱離は、本発明による方法が再現性を有したものであることを証明した。実際、結合方法および/または脱離方法は、最終的なものではない。例えば、アセンブリブリッジ“A-B” 内における例えば上述したような可逆結合の存在のために、以下の様々な実施例に示されているように、マイクロシステムの表面特性を何ら劣化させることなく、結合と脱離とを繰り返すことができる。このことは、本発明の多数の利点の中の1つである。
【0065】
本発明によるデバイスにおいては、作用電極および対向電極は、とりわけ当業者に公知のマイクロシステムにおいて通常的に使用されているようなものと同様に、導電性材料から形成され、好ましくは貴金属やあるいは貴金属の合金から、例えばAuやPtやPdやIrから、形成される。あるいは、電極は、使用される電圧範囲において電気化学的手法に関して適切であるような、例えばドーピングされたシリコンや炭化されたシリコンといったような、半導体材料から形成される。電極は、導電性ポリマーや、導電性接着剤や、ポリピロール、等から形成することができる。
【0066】
電極は、例えばバイオチップといったようなマイクロシステム上に電極を配置するための通常のマイクロエレクトロニクス的手法を使用することによって、結合領域の近傍に配置することができる。電極の配置は、例えば、プラズマによって増強された化学気相蒸着法(PECVD)やスパッタリング等といったような、金属を成膜するための真空技術を使用して行うことができる。本発明において使用可能な技術は、参考文献[19]および[20]に記載されている。
【0067】
結合領域は、特に例えばプローブを結合させるための処理といったような処理を必要とする場合には、電極を形成した後に、電極の近傍に配置することができる。また、結合領域は、電極を形成する前に、支持体の表面上に配置することができる。
【0068】
図3および図5は、本発明によるデバイスを構成するために使用し得るような、電極の配置および結合領域の配置に関するいくつかの例である。当然のことながら、本発明においては、上記内容に基づいて、他の配置を使用することができる。
【0069】
本発明においては、作用電極は、好ましくは、結合領域の境界を規定している、あるいは、結合領域を囲んでいる。より好ましくは、作用電極は、結合領域の境界を規定しているあるいは結合領域を囲んでおり、対向電極は、作用電極の境界を規定しているあるいは作用電極を囲んでいる。本発明においては、作用電極と対向電極と結合領域とは、有利には、相互噛合した櫛という構成や、または、螺線的構成や、または、同心状構成(例えば、図3および図5参照))、とされる。これは、これら構成が、本発明による方法の実施に際して好適であるからである。
【0070】
結合および/または脱離領域は、好ましくは、電気化学的活性化のために使用される電極(作用電極)に対してできるだけ接近して配置され、好ましくは、より良好な電気化学的作用を保証し得るよう、電極に対して同一平面的なものとされる。
【0071】
図1および図2は、デバイスの様々な構成部材をより明瞭に識別し得るよう、非同一平面的な構造のものとして図示している。図3においては、各構成部材は、同一平面的なものとされている。対向電極の配置は、結合および/または脱離領域に対して同一平面的なものともまた非同一平面的なものともすることができる。
【0072】
さらに、参照電極(RE)を、デバイスに設けることができる。参照電極は、作用電極に対して印加される電位を測定し得るように、配置される。小型化の理由のために、参照電極は、マイクロシステム内において一体化することができる。参照電極は、例えば、Ag/AgCl電極とすることができる。あるいは、本発明によるデバイスにおいて使用し得るような当業者に公知の他の任意の参照電極を使用することができる。図3および図5には、本発明によるデバイス上における参照電極の可能な配置が示されている。
【0073】
例示するならば、これらの図において、本発明によるデバイスを得るために使用された電極や構成部材のサイズは、バイオチップへの応用を意図したマイクロシステムに関しては、以下のようなものとすることができる。
−結合領域(Z):直径が1〜1000μm。
−結合領域(Z)と作用電極(WE)との間の距離、および、作用電極と対向電極(CE)との間の距離:10〜200μm。
−作用電極(Z)および対向電極(CE)の幅:10〜50μm。
−参照電極(RE):10×500μmという平行六面体。
【0074】
これらのサイズは、実際、現在の技術を使用してマイクロエレクトロニクスにおいて得ることができるような寸法限界によってのみ、制限されるものである。
【0075】
当業者であれば、当然のことながら、上述した記載内容に基づいておよび一般的知識に基づいて、他のサイズを有したデバイスを容易に製造することができる。
【0076】
作用電極に対して所定の電流または電位を印加するための印加手段は、マイクロシステムにおいて通常的に使用されているものとされ、特に、電気化学的セルににおいて通常的に使用されているものとされる。印加手段は、作用電極に電流を印加するための電源に対して、デバイスの電極を接続するための接続手段を備えることができる。印加手段は、さらに、作用電極に印加された電位を制御しかつ観測し得るよう、制御手段と観測手段とを備えることができる。
【0077】
結合および/または脱離を行い得るよう、作用電極に対して印加すべき電気化学的電位は、マイクロシステム(作用電極)に対して接触している水性電解質溶液上におけるプローブとターゲットとの間のアセンブリブリッジ(“A-B”) のタイプに依存し、また、使用している電極の構成および材料に依存する。
【0078】
本発明においては、電流は、連続的にあるいは不連続的にあるいは増加する態様であるいは減少する態様で等といったようにして、作用電極に対して印加することができる。この印加は、特に、使用者が誘起しようとする局所的なpH変化に依存する。本発明においては、電位や電流は、カソード的なものとも、アノード的なものとも、また、これら双方とも、することができる。
【0079】
電流は、有利には、電位列(すなわち、連続した複数の電位パルス等からなる列)の形態として印加することができる。実際、本発明者らは、電位列を使用した場合には、より良好にpH変化を局在化させることができるとともに可逆性を高めることができて有利であることを、実証した。この場合、作用電極に対して所定の電流または所定の電位を印加するための印加手段は、有利には、1つまたは複数の所定期間において、1つまたは複数の所定電流または電位列を印加するための印加手段を備えている。
【0080】
電位列または電流列は、好ましくは、最少数の信号(パルス、傾斜電位、等)から構成される。印加される電気化学的な電流列または電位列は、例えば、周囲環境の残部を変化させることなく、pH変化を引き起こし得るようなものとして、また、pH変化を即座に補償し得るようなものとして、選択することができる。
【0081】
一般に、使用される電気化学的電位の値は、所望の局所的pH変化に依存するものであり、したがって、対象となるプローブ−ターゲット結合の性質に依存するものである。一般に、本発明において指向する可逆的プローブ−ターゲット結合のタイプが与えられると、電圧値は、限定するものではないけれども、好ましくは、−3.0V〜+4.0V(Ag/AgCl参照電極に対する電位差)という範囲にあり、より好ましくは、−1.8V〜−0.8Vという範囲あるいは+1.2V〜+2.2Vという範囲(Ag/AgCl参照電極に対する電位差)にある。使用される電流の値は、ポテンシオメトリーによって電位ウィンドウの上方で得ることができるようなものである。
【0082】
電流の印加の選択に基づき、電位あるいは電位列あるいは電流列は、好ましくは、例えば0.001s〜58000sという範囲といったようなあるいは例えば0.001s〜20000sという範囲といったような十分な長さの時間にわたって印加される。これにより、pHを変化させることができて、使用される本発明による方法に応じて、ターゲットを結合させたりターゲットの脱離させたりすることができる。
【0083】
電位列または電流列の各要素は、電位列の他の要素とは独立的であるような特定の時間や値や形態を有している。
【0084】
本発明による方法の実施に際しては、基付加結合領域と電極とは、水性試料内へと含浸される。pH変化が結合領域のところにおいて精度良く局在化していることのために、試料の容積は、重要ではない。水性試料は、水性溶液に対して試料(上記)を単に混合することにより、あるいは、水性溶液に対してターゲットを単に混合することにより、得られる。試料の調製に際しては、緩衝水溶液が好ましい。しかしながら、緩衝水溶液は、本発明による方法の実施に際して必須ではない。実現で非実質的である。実際、電気化学的活性化には水で十分である。
【0085】
緩衝溶液は、溶液の残部において電気化学的反応生成物(OHあるいはH)の拡散を制限することができて有利であり、作用電極の近傍および結合/脱離領域の近傍におけるこれら生成物の流れを改良することができる。これにより、pH変化を、より限定的に局在化させることができ、結合領域および作用電極のところにおける結合現象および脱離現象の局在化を促進させることができる。この水性溶液は、例えば、NaHPOやNaHPOやKHPO等といったようなリン酸緩衝溶液や、あるいは、これら緩衝溶液の混合溶液、とすることができる。濃度、一般に、0.001mM〜10Mとされ、好ましくは、1mM〜1Mとされる。
【0086】
好ましくは、水性溶液は、生理的食塩水である。その理由は、このタイプの溶液が、電気電導度を改良するからである。この場合、例えば、生物学的分子(例えば、一般に、タンパク質)電気電導度を改良するからである。生物学的分子を、活性状態(タンパク質の多重化)に維持することができる。また、本発明による方法の実施に際して、プローブとターゲットとの間の結合を可能とする。プローブおよび/またはターゲットが、生物学的分子である場合には、生理的食塩水により、本発明による方法を、適切なイオン強度を有した水性溶液内において実施することができる。
【0087】
より好ましくは、この溶液は、生理的食塩水とされ、緩衝溶液とされる。
【0088】
一般に、この溶液の選択は、特に、プローブおよびターゲットの性質に基づいて行うことができる。特に、この溶液は、プローブおよびターゲットの化学的機能および構造を保存すべきであり、また、プローブとターゲットとの結合を可能にすべきである。加えて、その溶液は、適切な電解質媒体を構成することによって、本発明による電気化学的方法の実施を容易なものとする。
【0089】
本発明においては、したがって、ターゲットの結合および/または脱離の局在化を、特に、以下の選択によって制御することができる。
−電気化学的デバイスの選択。マイクロシステムの表面における電極の特別の配置が、pH変化の局在化を可能とするからである。
−本発明による複数の電気化学的マイクロセルがマトリクス状でもってあるいは一組をなすものとして支持体の表面上にわたって分散配置されている場合、1つまたは複数の所定のセルに対してのみ選択されたような、電流および電位の選択。この場合には、また、操作者が望んだ位置のところで、pH変化を局在化することができる。
−マイクロシステムに接触する溶液の選択。緩衝生理食塩水の使用が好ましい。
−適切な電気化学的方法の選択。例えば、本発明者らは、電気化学的な電位列の印加によって、pHの変化を、より効果的に制御し得ることに、注目している。
【0090】
本発明は、非常に多くの応用を有している。ここでは、その中のいくつかの例についてのみ、言及する。
【0091】
本発明は、特に、生物学的対象物および/または化学的対象物の分離方法および回収方法に適用することができる。例えば、マイクロシステムの表面に対しての、このタイプの細胞に特有の抗体を介しての選択的結合といったような選択的結合による細胞の分級に適用することができる。その後、別の溶液中でおよび/またはマイクロシステムの他の部分に向けて、脱離させることができる。これにより、例えば分析や検出等といったような他のタスクを行うことができる。
【0092】
本発明は、また、生物学的対象物および/または化学的対象物の濃縮を伴うような操作に対して適用することができる。例えば、結合表面の上方を循環している溶液内に存在する対象物を結合させ、その後、より少量の容積とされた他の溶液内で脱離させることができる。これにより、例えば分析や検出等といったような他のタスクを行うことができる。
【0093】
本発明は、また、時間遅延を必要とするような生物学的反応および/または化学反応の実施に際して適用することができる。例えば、化学的な保護解除や、薬学的に興味のある分子のスクリーニング、等を行うことができる。
【0094】
本発明は、また、物理化学や、熱や、物理的や、表面特性や、化学特性や、結合前や結合最中や結合後における対象物の特性変化、に関連した基礎的研究に対して適用することができる。例えば、細胞の結合のメカニズムに関するエネルギー的研究を行うことができる。
【0095】
したがって、本発明によるデバイスは、例えば、ターゲット“B”の精製や抽出を意図した方法において、あるいは、“B-C” という形態でターゲットに対して結合した対象物“C”の精製や抽出を意図した方法において;ターゲット“B”の濃縮を意図した方法において、あるいは、“B-C” という形態でターゲットに対して結合した対象物“C”の濃縮を意図した方法において;ターゲット、または、ターゲットに対して結合した対象物を、スクリーニングすることを意図した方法において;あるいは、ターゲット、または、ターゲットに対して結合した対象物を、検出することを意図した方法において;使用することができる。ターゲット“B”および対象物“C”は、上述したようなものである。
【0096】
本発明は、また、例えば、ターゲット“B”または対象物“C”の精製方法に適用することができる。この精製方法においては、例えば、本発明による適切なデバイスを使用することによって、ターゲット“B”に関して、または、ターゲットに対して拘束された対象物“C”(この対象物は、ターゲットに対する結合の前にあるいはその結合の後に、プローブを介して、ターゲットに対して結合している)(“B-C”) に関して、本発明による『能動的な』または『受動的な』結合を実施し;その水性溶液によって、あるいは、プローブ−ターゲット結合( “A-B”)あるいはプローブ−ターゲット−対象物結合(“A-B-C”)を保存し得るような他の水性溶液によって、結合領域を濯ぎ;作用電極に対しての電流印加を遮断することによって、あるいは、当該結合領域のところにおいて異なる電流値または異なる電圧値を印加することによって、作用溶液のpHを局所的に変更して、プローブから、ターゲットをまたはターゲット−対象物を脱離させることにより、または、対象物を脱離させ得るような適切な溶液によってデバイスを濯ぐことにより、ターゲット“B”の脱離を行い、または、ターゲット−対象物“B-C” の脱離を行い;さらに付加的に、結合領域を濯ぐことによって、脱離したターゲット、または、脱離したターゲット−対象物、を回収する。ターゲット“B”および対象物“C”は、上述したようなものである。
【0097】
この方法は、また、ターゲット“B”を、または、“B-C” という形態でターゲットに対して結合した対象物“C”を、濃縮することができる。この濃縮は、例えば、上記精製方法において、脱離したターゲットまたは脱離したターゲット−対象物を濯ぐのに使用する溶液の容積を、試料の初期的容積よりも少ないものとする。ターゲット“B”および対象物“C”は、上述したようなものである。
【0098】
したがって、本発明は、新世代をなすバイオチップ、すなわち、“lab-on-chip” の製造に関して、非常に多数の応用を有している。例えば、1つまたは複数の隔室内において様々な作業ステップが連続的に実施されるマイクロシステムがある。結合操作または脱離操作は、これら様々なステップの一部として使用することができる、あるいは、それ自身のステップとして使用することができる。結合および/または脱離は、様々なタイプの操作の実施を可能とする。例えば、以下のような操作の実施を可能とする。
−生物学的対象物および/または化学的対象物の分離および回収を伴う操作。マイクロシステムの表面に対しての、このタイプの細胞に特有の抗体を介しての選択的結合といったような選択的結合による細胞の分級を想定することができる。その後、別の溶液中でおよび/またはマイクロシステムの他の部分に向けて、脱離させることができる。これにより、他のタスク(分析、検出、等)を行うことができる。
−生物学的対象物および/または化学的対象物の濃縮を伴う操作。例えば、結合表面の上方を循環している溶液内に存在する対象物を結合させ、その後、より少量の容積とされた他の溶液内で脱離させることができる。これにより、例えば分析や検出等といったような他のタスクを行うことができる。
−時間遅延を必要とするような生物学的反応および/または化学反応を行うような操作。例えば、薬学的に興味のある分子のスクリーニング、化学的な保護解除、等を行うことができる。
−物理化学や、熱や、物理的や、表面特性や、化学特性や、結合前や結合最中や結合後における対象物の特性変化、に関連した基礎的研究に関する操作。例えば、細胞の結合のメカニズムに関するエネルギー的研究を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0099】
本発明の他の特徴点や利点や可能な応用は、添付図面を参照しつつ、本発明を何ら限定するものではなく単なる例示としての好ましい実施形態に関する以下の詳細な説明を読むことにより、明瞭となるであろう。
【0100】
実施例1:本発明によるデバイスの製造
この実施例においては、本発明によるデバイスを、参考文献[15]に記載された手順に基づいて、シリカ支持体上において製造する。デバイスの製造は、以下のような複数のステップを備えている。
【0101】
シリコン基板上において:
−1μmよりも厚い厚さにわたって、基板表面を酸化し;
−蒸着技術を使用して、Ti製連結層上に、金属(Pt、あるいは、Au)層を成膜し;
−光リソグラフィーとエッチングとを行って、複数の電極を形成し;
−シリコン酸化物を成膜することによってトラック(導電路)を不動態化し、その後、測定電極内に開口(酸化物に対して光リソグラフィー写真とエッチングとを行うことにより形成)を形成し;
−参照電極上に銀を電気化学的に成膜し;
−電極の化学的な塩素化に関する研究を行う。
【0102】
その後、製造したデバイスを、定電位源(Ecochemie 社による AutoLab PGstat 100 )に対して接続する。これにより、印加する電位および/または電流を測定し制御することができる。使用される電極配置は、電気化学的セルとしては従来的なものである。すなわち、作用電極と対向電極と参照電極とを備えた3電極配置である。ここで、参照電極は、付加的なものである。
【0103】
実施例2:本発明によるデバイス(電気化学的マイクロセル)の構成に関する複数の例
本発明に基づく電気化学的プロセスを介しての結合/脱離に適した構成とされた様々な電気化学的マイクロシステムを、実施例1の手順によって製造した。
【0104】
これらデバイスは、図5に概略的に示されている。この図においては、“CE”は、対向電極を示しており、“WE”は、作用電極を示しており、“Z”は、結合および/または脱離領域を示しており、“RE”は、参照電極を示している。
【0105】
紙面上における電極のサイズ、および、この実施例において製造されたデバイスにおいて使用された各構成要素のサイズ、を例示するならば、図5において左から3番目の構成例に関しては、以下のようなものである。
−結合領域:直径が300μm。
−結合領域(Z)と作用電極(WE)との間の間隔、および、作用電極と対向電極(CE)との間の間隔:約70μmという一定の間隔。
−作用電極(WE)の幅、および、対向電極(CE)の幅:130μm。
−参照電極(RE):50×200μmという平行六面体。
【0106】
図5における他のデバイスは、実質的に同じスケールで示されている。
【0107】
実施例3:結合領域の調製、および、プローブを使用したこの領域の機能化
この実施例においては、様々な領域の調製を、様々な技術を使用した様々な試行によって、行った。
【0108】
A)導電性ポリマーの電気懸架による結合領域の調製、および、オリゴヌクレオチドによる機能化
この実施例においては、結合領域を、参考文献[18]に記載されているような条件および手順に基づいて、ピロールとピロール−オリゴヌクレオチドとから構成されたポリマー層の電気懸架によって、調製した。
【0109】
2つのモノマーからなるポリマーの電解重合においては、ピロールによって終端することにより、オリゴヌクレオチドストランド(すなわち、プローブ)を不動化させる。
【0110】
B)シラン化による結合領域の調製、および、様々な化学基の不動化
様々な基を付帯したシランの懸架に関し、以下の手順が与えられる。これら手順においては、プローブは、シランによって付帯された基である。
【0111】
(i)エポキシド基
国際公開第02/051856号パンフレットに記載されたシラン化手順を使用する。
−7gのNaOHと21mlの蒸留水と28mlのエタノールとからなる溶液内において、マイクロシステムの表面の再水和(シラノール基すなわちSiOHの形成)を、雰囲気温度において2時間にわたって撹拌することにより、行い;
−脱イオン化水によって洗浄し;
−80℃でもって15分間にわたって乾燥させ;
−30mlのトルエンと0.9mlのトリエチルアミンと36μlの5,6−エポキシヘキシルトリエトキシシランとからなる混合物内において、80℃において16時間にわたって反応させ;
−アセトンによって濯ぎ;
−110℃でもって3時間にわたって架橋させる。
【0112】
(ii)アルデヒド基
国際公開第02/051856号パンフレットに記載されたシラン化手順を使用する。
−7gのNaOHと21mlの蒸留水と28mlのエタノールとからなる溶液内において、マイクロシステムの表面の再水和(SiOHの形成)を、雰囲気温度において2時間にわたって撹拌することにより、行い;
−脱イオン化水によって洗浄し;
−80℃でもって15分間にわたって乾燥させ;
−30mlのトルエンと0.9mlのトリエチルアミンと36μlの5,6−エポキシヘキシルトリエトキシシランとからなる混合物内において、80℃において16時間にわたって反応させ;
−アセトンによって濯ぎ;
−110℃でもって3時間にわたって架橋させ;
−0.2NのHCl内において、雰囲気温度において3時間にわたって、酸による加水分解を行い;
−蒸留水で濯ぎ;
−NaIO溶液(660mgのNaIO、および、30mlの脱イオン化水)内において、雰囲気温度でもって1時間にわたって、表面のジオール基をアルデヒド基へと酸化する。
【0113】
(iii)ハライド基
以下の手順を使用する。
−7gのNaOHと21mlの蒸留水と28mlのエタノールとからなる溶液内において、マイクロシステムの表面の再水和(SiOHの形成)を、雰囲気温度において2時間にわたって撹拌することにより、行い;
−脱イオン化水によって洗浄し;
−80℃でもって15分間にわたって乾燥させ;
−20mlのトルエンと0.6mlのトリエチルアミンと50μlの((p−クロロメチル)−フェニルエチル)トリメトキシシランとからなる混合物内において、雰囲気温度において24時間にわたって反応させ;
−エタノールによって濯ぎ;
−110℃でもって3時間にわたって架橋させる。
【0114】
C)化学基を付帯したポリマーまたはタンパク質またはチオールの吸着による結合領域の調製
すべての場合において、電極を、あるいは、結合領域を構成する表面を、各分子のタイプに適合した溶媒を構成する溶液内へと、含浸する。
−タンパク質の場合には、水性溶液。
−チオールの場合には、エタノール。
また、(雰囲気温度において)十分な時間にわたって含浸させる。
−タンパク質の場合には、1時間。
−チオールの場合には、アルゴン雰囲気下において、24時間。
【0115】
使用する方法は、参考文献[8]〜[12]に記載されている。上記すべての方法においては、蒸留水を、脱イオン化水によって代替することができる。
【0116】
これらの場合においては、プローブは、懸架されたチオールによって付帯された基、あるいは、例えばマイクロシステムの表面といったようなところにおいて不動化されたタンパク質またはポリマー、のいずれかである。これにより、結合領域を形成することができる。
【0117】
実施例4:本発明の電気化学的プロセス方法による可逆的な『受動的』結合および『能動的』脱離に関する実施例
この実施例においては、使用される結合は、以下のようなものである。
−プローブ(“A”)が、実施例1および実施例2のようにして形成された本発明によるデバイスの結合領域上においてポリピロールを介して不動化されたオリゴヌクレオチドストランドとされる。
−ターゲット“B”が、プローブ“A”に対して相補的なオリゴヌクレオチドであり、ビオチンを付帯している。
−結合領域に対してターゲットを介してアンカー止めされるべき対象物をなす“C”と称される他の分子が、ラベルとされる。すなわち、ストレプトアビジン−フィコエリスリン(蛍光性共役体)とされる。
【0118】
プローブの結合手順は、参考文献[18]に記載されているものとされる。オリゴヌクレオチドは、ピロール基を含有するように、修正される。修正済みのオリゴヌクレオチドは、その後、結合領域上において電気懸架により不動化される。
【0119】
ビオチン化された相補的なターゲット(0.1μM)を、15分間にわたって50℃でハイブリッド化し、その後、対象物(ストレプトアビジン−フィコエリスリン、市販の溶液を10倍に希釈したもの)を、ビオチンとストレプトアビジンとの間の化学的親和力により、雰囲気温度において5分間にわたって、結合領域上において不動化した。
【0120】
濯ぎステップは、リン酸緩衝食塩水(NaCl=27mM、KC1=138mM)+0.3%Tween を使用して実行した。
【0121】
蛍光の存在は、対象物“C”の結合状態の特徴である。この蛍光は、蛍光顕微鏡(Provis(登録商標))を使用して観測した。
【0122】
電気化学的活性化のためには、マイクロシステムを、定電位源(Ecochemie 社による AutoLab PGstat 100 )に対して接続し、クロノアンペロメトリーによって、Ag/AgCl参照電極に対してのV=−1.2Vという電圧を、2秒間にわたってマイクロシステムの作用電極に対して印加する。
【0123】
プローブによってターゲットがアンカー止めされた状態は、図4における左側の写真に示されるように、蛍光信号の観測によって確認される。脱離状態は、図4における中央の写真に示されるように、蛍光信号が消えることによって確認される。
【0124】
この電気化学的プロセスは、結合の可逆性に影響を与えない。なぜなら、蛍光性対象物のさらなる結合が、同じ条件下で行われるからであり、図4における右側の写真に示されるように、新たな蛍光信号の観測によって確認されるからである。
【0125】
また、同じ結合/脱離領域上における連続的な結合および脱離は、このプロセスを、結合/脱離領域の基付加“A”の劣化を伴うことなく繰り返し得ることを示した。
【0126】
実施例5:本発明による方法において、電気化学的に電位列を印加することにより、電気的に制御されるpH変化を管理することができて局在化させ得るという実施例
電極配置の選択によりおよびキャリア溶液の選択により、また、適切な電位列の選択により、脱離プロセスの局在化を制御することができる。
【0127】
例えば、実施例2において製造されたものといったような同心状マイクロ電極を使用して実行した比色的な電気化学的試験により、電気化学的なpH変化という現象を、作用電極(活性電極)の近傍に、正確に局在化させ得る可能性を示した。
【0128】
例えば、ブロモクレゾールブルーやブロモクレゾールグリーンやチモールブルーやフェノールフタレインやクロロフェノールレッドやクレゾールレッドやトロペオリンOといったようなものの中から選択されたカラーインジケータを含有した水性溶液の滴下によって、活性電極の上方と結合/脱離領域の上方とだけにおいてのみ色が変化し、図6に示すように、電気化学的電位列を連続的に印加したときには急速に消えることとなる。上述した色変化は、0.2〜13というpHにおいて起こる。
【0129】
手順:様々な試行においては、実施例1および実施例2のようにして形成された電気化学的マイクロセルを、0.2〜10といpHのフェノールフタレインやクレゾールレッドやチモールブルーやブロモチモールブルーやブロモクレゾールグリーンやメチルイエローやクロロフェノールレッドといったような様々なカラーインジケータを数%含有したような4.6,5.1,6.0,7.0,7.4,8.0,9という様々なpHのリン酸緩衝溶液(KHPOおよびNaHPO)によって、カバーした。
【0130】
その後、マイクロシステムを、定電位源に対して接続し、−0.8V〜−1.4Vという電圧と、+0.8V〜+2.0Vという電圧とを、2〜10秒間にわたって印加した。
【0131】
色の変化を、双眼鏡とカラーCDDカメラと画像撮影システムとから構成された光学台を使用して、白色光下において、観測した。
【0132】
作用電極(WE)上においておよび結合領域(Z)上において得られたpH変化は、図7のグラフ上に示されるように、±3というpH範囲にわたるものである。
【0133】
電位列の印加により、pHの変化を即座に補償することができる。
【0134】
この場合にはクレゾールレッドというカラーインジケータによって示されたpH変化の局在化の写真を、撮影した。同心状マイクロセル上における電気化学的プロセスによって、局所的なpH変化が示された。
【0135】
変化は、本発明を使用した場合には、本発明者の期待通りに、作用電極の上方と中央基付加領域(結合/脱離表面)の上方とに、明確に限定された。
【0136】
図6は、3つのパルスを有した電位列を示しているとともに、本発明によるデバイスの対応する写真(各パルスの前後)を示している。
【0137】
この図においては、I=f(t)である(Iは、電流であって単位がAであり、tは、時間であって単位はsである)。すなわち、電気化学的電位列の印加後に得られた電流は、pHを変更し得るとともに、そのpH変化を補償することができる。
【0138】
これら写真は、クレゾールレッドが添加された緩衝溶液(PBS、pH=7.4)の滴下によるpH変化の補償を示している。赤色は、pHが8.8を超えていることを示している。電圧(単位:V)も、また、示されている。
【0139】
実施例6:電気化学的プロセスによる結合の実施例
国際公開第02/051856号パンフレットに記載されたシラン化方法においては、エポキシド基が、本発明によるマイクロシステムの表面上に懸架され、これにより、結合領域を形成することができる。
【0140】
その後、結合領域を、オリゴヌクレオチド(ODN)であって5’の位置がアミン基で終端したもの(ODN−NH )を含有した、リン酸+10%グリセロールの溶液の存在下に、配置する。この溶液は、本発明の目的のための作用溶液を形成する。
【0141】
結合領域に対してODN−NH を結合させるために:エポキシド基とアミン基との間の反応を、本発明の方法による電気化学的ヒドロキシル化によって活性化する。すなわち、作用電極に対して、Ag/AgCl参照電極に対して−1.2Vという電圧を、1200s間にわたって印加する。
【0142】
この手順により、ODN−NH の中のアミン基とエポキシド基との間の反応が引き起こされる。その後、オリゴヌクレオチドを、結合領域に結合させる。この結合を、蛍光測定によって検出する。すなわち、蛍光物質(ストレプトアビジン−CY3)によってラベル付けされたターゲットODNを、ハイブリッド化し、蛍光顕微鏡を使用してマイクロシステムを観測する。
【0143】
電気化学的プロセスによるオリゴヌクレオチドの結合は、蛍光下において白色光イメージによって観測された。
【0144】
実施例7:マイクロシステムの表面上において不動化されたで細胞の脱離
タンパク質マトリクスを、本発明によるデバイス上に、雰囲気温度における1時間にわたっての吸着によって懸架し、これにより、本発明による結合領域を形成した。それら結合領域を、HELA細胞(約2.76×10 c/ml)を含有した細胞培養媒体内に含浸した。
【0145】
2時間にわたる培養の後に、いくつかの細胞は、広げられた形状を示した。これは、細胞が表面上において不動化されたことの特徴である。
【0146】
本発明の方法による電気化学的脱離を、細胞を保護し得るようpHを調整しつつ、PBS(pH=7.4、[NaCl]=2.7mM、[KCl]=138mM)の液滴内において実施した。電気化学的活性化は、実施例5において示したものと同様である。
【0147】
それらの形状が円形になることを観測した。このことは、それらが予め付着していた表面から、徐々に脱離していることを意味している。
【0148】
これら実験結果は、本発明において、本発明による電気化学的マイクロシステムに対しての、生物学的対象物の結合および脱離が行われていることを、確信させるものである。
【0149】
実施例8:電気化学的プロセスによるビオチンの結合および脱離という実施例
実施例3B)(ii)において上述したシラン化による基付加方法により、アルデヒド基を、表面に対して結合し、次に、ビオチン−アミン分子([20mM])(分子プローブで利用可能な分子)を含有しているリン酸緩衝食塩水溶液(“PBS”、pH=7.4、NaCl=27mM、KCl=138mM)の存在下に配置した。
【0150】
アルデヒド基とアミン基との間の反応は、湿気のあるチャンバ内における電気化学的ヒドロキシル化(Ecochemie 社による AutoLab PGstat 100 を使用した7200s間にわたっての、Ag/AgCl参照電極に対しての−1.2Vという電圧の印加)によって活性化される。これにより、イミン結合が形成される。その後、ビオチン−アミンからなるアセンブリが、表面に対して結合する。
【0151】
結合を確認するために、蛍光物質(ストレプトアビジン−フィコエリスリン)を、ビオチンに対して結合させる(5分間にわたって配置し、その後、PBS溶液によって濯ぐ)。結合状態は、蛍光顕微鏡を使用して検出される。
【0152】
その後、イミン基の分裂を、マイクロシステムに対して接触している溶液の局所的な電気化学的プロトン付加によって、実行する。Ag/AgClに対しての+1.6Vという電圧を、7200s間にわたって印加し(Ecochemie 社による AutoLab PGstat 100 )、緩衝溶液を使用して濯いだ後に、マイクロシステムを蛍光顕微鏡によって観測する。
【0153】
信号の消失は、脱離を示している。
【0154】
他の結合反応を行うことにより、完全な可逆性を検証した。これにより、信号の消失が、ターゲットすなわちビオチンの脱離だけに基づくものであることを証明した。
【0155】
実施例9:電気化学的プロセスによるターゲットの結合および脱離の実施例
この実施例においては、対象物“C”を『付帯』し得るようなターゲット“B”を結合させ得る結合領域を、調製する。
【0156】
結合領域に対しては、アルデヒド基(プローブ“A”)が付加されており、ターゲット“B”は、ヒドラジン基を付帯した2−ヒドラジンオピリジンジヒドロクロライドとする。
【0157】
実施例3B)(ii)において上述したシラン化による基付加方法により、アルデヒド基を、表面に対して結合し、次に、ヒドラジン基([25mg/ml])を付帯している2−ヒドラジンオピリジンジヒドロクロライドを含有しているリン酸緩衝食塩水溶液の存在下に配置した。
【0158】
湿気のあるチャンバ内における電気化学的ヒドロキシル化( Ecochemie 社による AutoLab PGstat 100を使用した58000s間にわたっての、Ag/AgCl参照電極に対しての−1.2Vという電圧の印加)により、アルデヒド基とヒドラジン基との間において(アルカリ媒体内におけるヒドラジンヒドロクロライドにおける保護解除)、ヒドラゾン結合が形成される。
【0159】
結合は、赤外線の多重反射においてピリジン基に特徴的なピークが検出されたことによって、確認された。
【0160】
その後、ヒドラゾン基の分裂を、マイクロシステムに対して接触している溶液の局所的な電気化学的プロトン付加によって、促進させる。Ag/AgClに対しての+1.6Vという電圧を、22000s間にわたって印加し(Ecochemie 社による AutoLab PGstat 100 )、緩衝溶液を使用して濯いだ後に、マイクロシステムを観測する。
【0161】
ピークの消失は、脱離を示している。
【0162】
実施例10:電気化学的プロセスによる対象物の結合および脱離の実施例
実施例9の基付加領域およびターゲットを使用した。
【0163】
タンパク質(対象物“C”)を、活性化されたエステル基と保護されたヒドラジン基(例えば、スクシニミジルヒドラジニウムニコニネートヒドロクロライド)とからなるターゲット上に懸架し、次に、ヒドラジン基を、保護解除し、これにより、結合可能なものとした。
【0164】
ターゲットと対象物とからなるアセンブリは、本発明のプロセスによって、ここでは結合手段として使用されるターゲットを介して基付加領域に対して『結合可能』かつ『脱離可能』なものである。
【0165】
実施例11:抗体の結合および脱離という実施例
この実施例は、生物学的分子に関しての、本発明の使用を実証する。
【0166】
プローブ結合手順は、参考文献[18]に記載されているものとされる。修正済みのオリゴヌクレオチド(ピロール基を含有するように修正された)を、電気懸架により不動化する。ビオチン化された相補的なターゲット(0.1μM)を、15分間にわたって50℃でハイブリッド化する。
【0167】
その後、タンパク質の積層化(アビジン/ビオチン化されたタンパク質A/抗体)を行う。積層化に関する様々なステップは、インサイチュであるいは溶液(PBS)内で行う。積層化は、要素ごとに行うことも、また、混合物全体として行うことも、できる。いずれにしても、各ステップは、要素を、雰囲気温度において1時間30分間にわたって撹拌することにより行う。使用する濃度は、アビジンおよびタンパク質Aが1mg/mlであり、抗体(anti-E. coli AB )が20mg/mlである。濯ぎステップは、リン酸緩衝食塩水(PBS、pH=7.4、NaCl=27mM、KC1=138mM)+0.3%のTween を使用して実行した。結合を確認するために、蛍光物質によってラベル付けされた抗体を使用した。顕微鏡下における蛍光信号の観測は、対象物の結合状態において特徴的なものであった。
【0168】
電気化学的な脱離を行うに際しては、マイクロシステムを、定電位源(Ecochemie 社による AutoLab PGstat 100 )に対して接続し、クロノアンペロメトリーによって、Ag/AgCl参照電極に対してのV=−1.2Vという電圧を、4秒間にわたってマイクロシステムに対して印加する。
【0169】
PBS+0.3%Tween という溶液を使用して濯いだ後に、マイクロシステムを、蛍光顕微鏡下において観測する。信号の消失は、脱離を示している。
【0170】
他の結合反応を行うことにより、完全な可逆性を検証した。これにより、信号の消失が、ターゲットの脱離だけに基づくものであることを、すなわち、抗体およびタンパク質積層体の残部の脱離だけに基づくものであることを、証明した。
【0171】
実施例12:フェロセンの結合という実施例
この実施例は、化学的分子に関しての、本発明の使用を実証する。
【0172】
基付加は、酸チオールの懸架により実行される。すなわち、マイクロシステムの表面を、アルゴン雰囲気下において24時間にわたってエタノール内における1mMという11−メルカプト−ウンデカン酸溶液内に含浸し、その後、10分間にわたってエタノール中において超音波バス内で濯ぐ。その後、活性化されたエステル基を、酸性基とN−ヒドロキシスクシニミドとの間の反応によって合成する。酸を、参考文献[21]の手順にしたがって、N−ヒドロキシスクシニミド(4mM)およびN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(4mM)の存在下において、雰囲気温度において2時間にわたってクロロホルム中に配置する。
【0173】
その後、マイクロシステムの表面は、活性化されたエステル基の特性を示す。その後、参考文献[22]に記載された手順によって合成されたような、フェロセン−アミン分子([20mM])を含有しているリン酸緩衝食塩水(pH7.4)内に配置する。
【0174】
電気化学的活性化により、アミド結合の形成が助長される。ヒドロキシル化による結合は、下記条件のもとで起こる。すなわち、22000s間にわたっての、Ag/AgCl参照電極に対しての−1.4Vという電圧の印加(Ecochemie 社による AutoLab PGstat 100 )。その後、フェロセンが、表面に対して結合する。検出は、電気化学的に行う(Ag/AgCl参照電極に対しての0V〜0.5Vという電圧掃引を50mV/sでもって行うようなサイクリックボルトアンメトリー)。この電圧範囲内における酸化ピークの観測は、フェロセンの存在の特徴である。
【0175】
実施例13:バクテリアの結合および脱離に関する第1の実施例
この実施例は、生物学的対象物に関しての、本発明の使用を実証する。
【0176】
プローブ結合手順は、参考文献[18]に記載されているものとされる。修正済みのオリゴヌクレオチド(ピロール基を含有するように修正された)を、電気懸架により不動化する。ビオチン化された相補的なターゲット(0.1μM)を、15分間にわたって50℃でハイブリッド化する。その後、タンパク質の積層化(アビジン/ビオチン化されたタンパク質A/抗体+バクテリア)を行う。
【0177】
積層化に関する様々なステップは、インサイチュであるいは溶液内で行う。積層化は、要素ごとに行うことも、また、混合物全体として行うことも、できる。いずれにしても、各ステップは、要素を、雰囲気温度において1時間30分間にわたって撹拌することにより行う。
【0178】
使用する濃度は、アビジンおよびタンパク質Aが1mg/mlであり、抗体(anti-E. coli AB )が20mg/mlである。E.coli(DH5α)懸濁液の濃度は、一晩置いた培地(Gibco-BRL 社によるLB培地に2mlを滴下した)を15倍に濃縮したものである。濯ぎステップは、リン酸緩衝食塩水(PBS、pH=7.4、NaCl=27mM、KC1=138mM)+0.3%のTween を使用して実行した。
【0179】
バクテリアの存在を、顕微鏡下において、白色光下でもって観測した。
【0180】
電気化学的な脱離を行うに際しては、マイクロシステムを、定電位源(Ecochemie 社による AutoLab PGstat 100 )に対して接続し、クロノアンペロメトリーによって、Ag/AgCl参照電極に対してのV=−1.2Vという電圧を、4秒間にわたってマイクロシステムに対して印加する。
【0181】
前もって、これらバクテリアが、このような電気化学的条件に耐え得ることは、検証済みである。アクリジンによってラベル付けされたバクテリア(アクリジンは、生存状態であるかあるいは死亡状態であるかを示す)を、マイクロシステム上に載置し、同じ電気化学的条件を印加した。この時のバクテリアを、蛍光下において観測した。
【0182】
バクテリアは、電気化学的pHの印加後においても、生きていた。
【0183】
PBS溶液によって濯いだ後に、マイクロシステムを、白色光下で顕微鏡によって観測した。これにより、バクテリアの欠如を検証した。
【0184】
実施例14:バクテリアの結合および脱離に関する第2の実施例
この実施例において適用された手順は、実施例13と同様の手順である。ただし、手順中の、積層化までの最初の部分が、相違しており、この部分は、実施例8にしたがって行った。
【0185】
実施例13のものと等価な結果が観測された。
【0186】
実施例15:アミノグリカンの結合の実施例
この実施例は、薬学的に興味のある生物学的分子に関して、本発明の使用を実証する。
【0187】
ハライド基(Cl)を、実施例3B)(iii)において上述した手順により、マイクロシステムの表面に対して懸架した。
【0188】
ハライド(Cl)を、グルコースアミン溶液(100mM)の存在下に配置した。アミン基によるハライド基(Cl)の置換反応は、電気化学的ヒドロキシル化(Ecochemie 社による AutoLab PGstat 100 を使用した7200s間にわたってのAg/AgCl参照電極に対しての−1.2Vという電圧の印加)によって活性化される。
【0189】
砂糖の存在は、赤外線の多重反射によって、確認された。すなわち、赤外線の多重反射において、砂糖のうちの、ヘテロサイクル結合(例えば、C−C、C−O、C−H、O−C−OH、C−N、O−H、N−H、等の結合)をなす複数の特定の基に特徴的なピークが検出されたことによって、確認された。
【図面の簡単な説明】
【0190】
【図1】本発明による方法に基づき、電気化学的プロセスによって、1つまたは複数の生物学的要素および/または化学的要素を結合させるための手法を概略的に示す説明図であって、左側の図においては、様々な要素(プローブ“A”、ターゲット“B”、対象物“C”)が寄せ集められており、中央の図においては、電気化学的プロセスを使用して活性化が行われ、さらに、pHが局所的に変更され(矢印によって、および、小さな+記号によって示されている)、これにより、組立が促進されており、右側の図においては、対象物“C”が、ターゲットを介して、プローブに対して結合している。
【図2】本発明による方法に基づき、電気化学的プロセスによって、1つまたは複数の生物学的要素および/または化学的要素を結合させるための手法を概略的に示す説明図であって、左側の図においては、プローブ“A”上に、ターゲット“B”と対象物“C”とが組み立てられ、中央の図においては、作用電極“WE”を使用した電気化学的プロセスによって活性化が行われ、さらに、pHが局所的に変更され(矢印によって、および、小さな雷的記号によって示されている)、これにより、脱離がもたらされており、右側の図においては、対象物“C”が、ターゲット“B”と一緒になって(“B−C”)脱離している。
【図3】デバイスの構成に関する2つの例を概略的に示す図であって、3つの電極(左側の図)あるいは4つの電極(右側の図)を使用している。
【図4】本発明による方法に基づいて既に蛍光性対象物を結合させた結合/脱離領域を示す3つの写真であって、結合の直後(左側の写真)、電気化学的な脱離後(中央の写真)、および、さらなる結合の後(右側の写真)、をそれぞれ示している。
【図5】本発明によるデバイスの構成に関する複数の例を概略的に示す図であって、結合領域(Z)と、作用電極(WE)と、対向電極(CE)と、参照電極(RE)と、が設けられており、左側の図から右側の図にかけて、本発明に基づく対象物の結合/脱離に適した電気化学的マイクロセルを構成するような、相互噛合した形態から螺旋的かつ同心的な形態を示しており、黒色によって、結合および/または脱離領域を示しており、ダークグレー色によって、動作電極を示しており、ライトグレー色によって、対向電極を示しており、ハッチングによって、参照電極を示している。
【図6】本発明による電気化学的マイクロセルの3つの状態を示す写真であり、ここで、3つの状態とは、待機状態(左側の写真)と、電気化学的活性化時の状態(中央の写真)と、pH変更の電気化学的修正後の状態(右側の写真)と、であり、pH変更は、この場合にはクレゾールレッドといったようなカラーインジケータを使用して示され、さらに、上記3つの写真が、時間(t)(単位:s)の関数として、作用電極に対する電圧(P)(単位:V)および得られた電流(I)(単位:A)を示すグラフに関連づけて、示されている。
【図7】本発明によるデバイスの作用電極の近傍および結合/脱離領域の近傍に関し、デバイスが含浸されている媒体(緩衝溶液)のpH(初期pH)の関数として、電気化学的プロセスを介して得られたpH変化(ΔpH)を示すグラフである。
【符号の説明】
【0191】
A プローブ
B ターゲット
C 対象物
CE 対向電極
RE 参照電極
WE 作用電極
Z 結合領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デバイスであって、
−表面を有した支持体であるとともに、その表面が、結合領域(Z)を備え、この結合領域(Z)には、ターゲット(B)と結合し得るプローブ(A)を付加することができ、これにより、前記結合領域(Z)には、前記プローブ(A)を介して前記ターゲット(B)を結合させ得るようになっている、支持体と;
−前記結合領域の近傍において前記支持体上に配置された、作用電極(WE)、および、この作用電極に対する対向電極(CE)であるとともに、前記作用電極が、前記結合領域の境界を規定しているあるいは前記結合領域を囲んでいるような、作用電極(WE)および対向電極(CE)と;
−前記作用電極に対して与えられた電流または電位を印加するための印加手段であって、その印加によって、前記結合領域および前記両電極が水性溶液内へと含浸された際には、前記結合領域がなす局所的領域内におけるpHを局所的に変化させ得るような、印加手段と;
を具備していることを特徴とするデバイス。
【請求項2】
請求項1記載のデバイスにおいて、
前記作用電極が、前記結合領域の境界を規定しているあるいは前記結合領域を囲んでおり、
前記対向電極が、前記作用電極の境界を規定しているあるいは前記作用電極を囲んでいることを特徴とするデバイス。
【請求項3】
請求項1記載のデバイスにおいて、
前記作用電極と前記対向電極と前記結合領域とが、相互噛合した櫛という構成、または、螺線的構成、または、同心状構成、とされていることを特徴とするデバイス。
【請求項4】
請求項1記載のデバイスにおいて、
前記作用電極に対して与えられた電流または電位を印加するための前記印加手段が、1つまたは複数の与えられた時間にわたって1つまたは複数の電流列または電位列を印加することを特徴とするデバイス。
【請求項5】
請求項1記載のデバイスにおいて、
さらに、前記作用電極に対して印加された電位を測定し得るようにして配置された参照電極を具備していることを特徴とするデバイス。
【請求項6】
請求項1記載のデバイスにおいて、
前記結合領域が、電極の形態とされていることを特徴とするデバイス。
【請求項7】
請求項1記載のデバイスにおいて、
前記結合領域に対しては、pHに基づいて、前記ターゲット(B)と結合し得る前記プローブ(A)が付加されるようになっていることを特徴とするデバイス。
【請求項8】
請求項7記載のデバイスにおいて、
前記プローブが、求電子基または求核基を介して前記ターゲットと結合し得るものとされていることを特徴とするデバイス。
【請求項9】
請求項7記載のデバイスにおいて、
前記プローブが、アルデヒド基、ハライド基、チオシアン酸塩、イソシアン酸塩、活性化されたエステル基、カーバメート基、および、エポキシド基、からなるグループの中から選択された求電子基を介して前記ターゲットと結合し得るものとされていることを特徴とするデバイス。
【請求項10】
請求項7記載のデバイスにおいて、
前記プローブが、アミン基、アルコキシド基、フェノール基、フェノキシド基、オキシアミン基、および、ヒドラジン基、からなるグループの中から選択された求核基を介して前記ターゲットと結合し得るものとされていることを特徴とするデバイス。
【請求項11】
請求項7記載のデバイスにおいて、
前記プローブが、作用溶液内において、前記ターゲットに対して、水素結合、ペプチド結合、アミド結合、スルホンアミド結合、カルボン酸エステル結合、スルホン酸エステル結合、置換されたシラノエート結合、からなるグループの中から選択された結合を形成し得るものとして選択されていることを特徴とするデバイス。
【請求項12】
請求項7記載のデバイスにおいて、
前記結合領域に対して、オリゴヌクレオチド、タンパク質、酵素、酵素基体、ホルモン受容体、ホルモン、抗体、抗原、真核細胞あるいは原核細胞あるいはそれら細胞のフラグメント、藻類、および、微視的菌類、からなるグループの中から選択されたプローブが、付加されることを特徴とするデバイス。
【請求項13】
電気化学的マイクロシステムであって、
請求項1〜12のいずれか1項に記載された1つまたは複数のデバイスを具備していることを特徴とする電気化学的マイクロシステム。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれか1項に記載された1つまたは複数のデバイスの使用であって、
前記デバイスを、ターゲットまたは対象物に関しての清浄化や濃縮やスクリーニングや検出を意図した方法において使用することを特徴とする使用。
【請求項15】
水性試料内に存在するターゲット(B)をプローブ(A)に対して結合させるための方法であって、
a)請求項1記載のデバイスにおける前記結合領域であるとともにpHに応じて前記ターゲット(B)を結合させ得る前記プローブ(A)が付加されているような前記結合領域を、前記水性試料に対して接触させ;
b)前記デバイスの前記作用電極に対して電流または電位を印加し、これにより、前記結合領域のところにおいて前記水性試料のpHを局所的に変化させ、これにより、前記プローブに対して、前記ターゲットを特定的に認識させて結合させる;
ことを特徴とする方法。
【請求項16】
水性試料内に存在するターゲット(B)を、プローブ(A)に対して結合させるためのおよびプローブ(A)から脱離させるための方法であって、
a’)請求項1記載のデバイスにおける前記結合領域であるとともに前記プローブ(A)が付加されているような前記結合領域を、前記ターゲット(B)を含有した前記水性試料に対して接触させ、これにより、前記ターゲット(B)を前記プローブに対して結合させ;
b’)前記デバイスの前記作用電極に対して電流または電位を印加し、これにより、前記結合領域のところにおいて作用溶液のpHを局所的に変化させ、これにより、前記プローブ(A)から前記ターゲット(B)を脱離させる;
ことを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項16記載の方法において、
前記ステップa’)における前記プローブに対しての前記ターゲットの結合を行うに際しては、前記デバイスの前記作用電極に対して電流または電位を印加し、これにより、前記結合領域のところにおいて前記作用溶液のpHを局所的に変化させ、これにより、前記プローブ(A)に対して前記ターゲット(B)を結合させることを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項15または16記載の方法において、
さらに、前記プローブに対して前記ターゲットを結合させる前にあるいはその結合の後に、前記ターゲット上に対象物を結合させるというステップを行うことを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項18記載の方法において、
前記対象物を、分子、細胞、バクテリア、機能付加されたビーズ、タンパク質、オリゴヌクレオチド、酵素、抗体、生物学的フラグメント、感染対象をなす分子、生物学的に興味のある分子、活性成分、薬学的に興味のある分子、からなるグループの中から選択されたものとすることを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項18記載の方法において、
前記対象物を、前記ターゲットを検出するためのラベルとし、
この方法においては、ラベル付けされたターゲットの検出を行うことを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項15または16記載の方法において、
前記ターゲットを含有した前記試料を、緩衝水性溶液の形態とすることを特徴とする方法。
【請求項22】
請求項15または16記載の方法において、
前記ターゲットおよび前記プローブを、互いに相補的なオリゴヌクレオチドとすることを特徴とする方法。
【請求項23】
請求項20記載の方法において、
前記プローブを、ビオチンを付帯したものとし、
前記ターゲットを、ストレプトアビジン−フィコエリスリンによってラベル付けされたものとすることを特徴とする方法。
【請求項24】
請求項15または16記載の方法において、
前記デバイスを、請求項7〜13のいずれか1項に記載されたデバイスとすることを特徴とする方法。
【請求項25】
請求項15〜23のいずれか1項に記載の方法の使用であって、
前記方法を、前記ターゲットまたは前記対象物に関しての、抽出や濃縮やスクリーニングや検出を意図した方法とすることを特徴とする使用。
【請求項26】
請求項25記載の使用において、
前記ターゲットまたは前記対象物を、オリゴヌクレオチド、タンパク質、酵素、酵素基体、ホルモン受容体、ホルモン、抗体、抗原、真核細胞あるいは原核細胞あるいはそれら細胞のフラグメント、藻類、および、微視的菌類、からなるグループの中から選択されたものとすることを特徴とする使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−509733(P2007−509733A)
【公表日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−530439(P2006−530439)
【出願日】平成16年5月17日(2004.5.17)
【国際出願番号】PCT/FR2004/050195
【国際公開番号】WO2004/104580
【国際公開日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(590000514)コミツサリア タ レネルジー アトミーク (429)
【Fターム(参考)】