試料作製方法及び試料作製装置
【課題】本発明は、TEMやSEM等の観察に用いる断面試料をイオンビームエッチング法により作製するに当たり、試料表面の凹凸の少ない試料を作製する方法及び装置を提供する。
【解決手段】試料1又はイオン銃5を回転させることにより、試料に対するイオンビームの入射方向を変化させ、角度αが30〜90度及び−30〜−90度である場合の試料又はイオン銃の移動速度が、角度αが−30〜30度である場合の移動速度の1/3〜2/3とすることで、イオンビームエッチング法によって生じる筋状の表面凹凸をなくすことができる試料作製方法及び装置である。
【解決手段】試料1又はイオン銃5を回転させることにより、試料に対するイオンビームの入射方向を変化させ、角度αが30〜90度及び−30〜−90度である場合の試料又はイオン銃の移動速度が、角度αが−30〜30度である場合の移動速度の1/3〜2/3とすることで、イオンビームエッチング法によって生じる筋状の表面凹凸をなくすことができる試料作製方法及び装置である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料作製方法及び試料作製装置に関し、特に、イオンビームエッチングによる試料作製方法及び試料作製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
透過型電子顕微鏡(TEM)観察に用いる薄膜試料や、走査型電子顕微鏡(SEM)観察に用いる断面試料の作製方法として、試料上面の一部に遮蔽材を配置し、遮蔽されていない部分をイオンビームエッチングにより取り除く方法(以下、イオンビームエッチング法と称する。)が、近年広く用いられるようになっている(特許文献1〜3)。
【0003】
電解研磨法や、イオンミリング法(特許文献4、5)、Ga集束イオンビーム加工法(特許文献6)等の他の試料作製方法と比較した場合、イオンビームエッチング法の長所は、(1)電解研磨法のように、試料表面に酸化膜や腐食生成物が付着しないこと、(2)イオンミリング法のように、試料観察面に対して角度を持ってイオンビーム照射をした場合、試料表層にダメージが蓄積されるが、前記方法では、観察面に平行にイオンビームを入射するため、試料にダメージが蓄積され難いこと、(3)不活性なArガスを用いるため、Ga集束イオンビーム加工法のように、照射イオン種のイオン注入が殆ど無いこと、(4)他の方法に比して高度な試料作製技術を要せず、簡便であること、等が挙げられる。
【0004】
しかしながら、イオンビームエッチング法で作製した試料には、試料観察面に筋状の表面凹凸ができることが避けられない。実際には、筋状の表面凹凸ができないように、試料を回転させながら、イオンビームエッチングを行う方法が用いられているが、殆ど効果がない。このような筋状の表面凹凸は、TEM観察やSEM観察において、像質を大きく低下させるため、問題となっている。
【0005】
【特許文献1】特許第3263920号公報
【特許文献2】特開2005−37164号公報
【特許文献3】特開2005−77359号公報
【特許文献4】特開平4−268434号公報
【特許文献5】特開昭61−139742号公報
【特許文献6】特開平2−132345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、TEMやSEM等の観察に用いる断面試料をイオンビームエッチング法により作製するに当たり、試料表面の筋状凹凸の少ない試料を作製する方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、試料の回転及び/又はイオン銃の移動により、試料に対するイオンビームの入射方向を変化させ、イオンビームの試料上面垂線に対する入射角度が高角度(30〜90度及び−30〜−90度)である場合の試料回転速度V1を、前記入射角度が低角度(−30〜30度)である場合の試料回転速度V2又はイオン銃移動速度V4の1/3〜2/3とすることで、断面イオンビームエッチング法によってできる筋状の表面凹凸をなくすことができることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
その主旨とするところは、以下の通りである。
(1)平板状試料の上面の一部に遮蔽材を配置し、前記遮蔽材の上方からイオンビームを照射し、前記遮蔽材によって遮蔽された試料部分をイオンエッチングせずに残し、前記遮蔽材によって遮蔽されていない部分だけをイオンエッチングによって取り除く試料作製方法であって、前記イオンビームを照射しながら前記試料を回転させ、かつ、前記イオンビームの試料上面垂線に対する入射角度が30〜90度及び−30〜−90度である場合の試料回転速度V1を、前記入射角度が−30〜30度である場合の試料回転速度V2の1/3〜2/3とすることを特徴とする、試料作製方法。
(2)イオン銃の位置を移動させることにより、イオンビームの試料上面垂線に対する入射角度を変化させることを特徴とする、(1)に記載の試料作製方法。
(3)平板状試料の上面の一部に遮蔽材を配置し、前記遮蔽材の上方からイオンビームを照射し、前記遮蔽材によって遮蔽された試料部分をイオンエッチングせずに残し、前記遮蔽材によって遮蔽されていない部分だけをイオンエッチングによって取り除く試料作製方法であって、イオン銃の位置を移動させることにより、前記イオンビームの試料上面垂線に対する入射角度を変化させ、かつ、前記イオンビームの試料上面垂線に対する入射角度が30〜90度及び−30〜−90度である場合のイオン銃移動速度V3を、前記入射角度が−30〜30度である場合のイオン銃移動速度V4の1/3〜2/3とすることを特徴とする、試料作製方法。
(4)平板状試料の上面の一部に遮蔽材を配置し、前記遮蔽材の上方からイオンビームを照射し、前記遮蔽材によって遮蔽された試料部分をイオンエッチングせずに残し、前記遮蔽材によって遮蔽されていない部分だけをイオンエッチングによって取り除く試料作製装置であって、イオンビームに平行な面内において前記試料を回転させる試料回転手段と、前記試料の回転速度を変更する試料回転速度変更手段と、イオンビーム入射方向と前記試料上面垂線とのなす角度を検知する角度検知手段と、を有することを特徴とする、試料作製装置。
(5)イオンビーム照射中におけるイオン銃の位置を移動させる位置移動手段と、イオン銃の移動速度を変更する移動速度変更手段と、を更に有することを特徴とする、(4)記載の試料作製装置。
(6)平板状試料の上面の一部に遮蔽材を配置し、前記遮蔽材の上方からイオンビームを照射し、前記遮蔽材によって遮蔽された試料部分をイオンエッチングせずに残し、前記遮蔽材によって遮蔽されていない部分だけをイオンエッチングによって取り除く試料作製装置であって、イオンビーム照射中におけるイオン銃の位置を移動させる位置移動手段と、イオン銃の移動速度を変更する移動速度変更手段と、イオンビーム入射方向と前記試料上面垂線とのなす角度を検知する角度検知手段と、を有することを特徴とする、試料作製装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法及び装置により、試料上面の一部に遮蔽材を配置し、遮蔽されていない部分をイオンビームエッチングにより取り除く場合に、試料観察面の筋状表面凹凸が少ない試料を作製することが可能になり、TEMやSEMにおける画質が格段に向上し、試料の詳細な観察・解析が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について、添付図面に基づいて説明する。
図1は、本装置の概観図である。平板状試料1を真空試料室2内に置き、試料上面に遮蔽材3を配置する。遮蔽材3は、試料上面全体を覆うのではなく、一部遮蔽しない部分ができるように配置する。通常、遮蔽材の端から10〜20μm程度試料を露出させることが望ましい(図2に示した露出幅X)。試料の幅W(図2)に特に制約は無いが、イオンビーム照射領域が数百μm〜1mm程度であるため、それ以上大きくても、エッチングされる領域は変わらない。また、後述するように、試料回転による筋状凹凸の除去効果を高めるためには、イオンビーム照射領域よりも小さいことが望ましい。
【0011】
Ar等の不活性ガス4をイオン銃5内に送り、イオンビームを発生させ、イオンビームを試料1及び遮蔽材3の上方から照射する。イオンビーム照射により、試料の遮蔽されていない部分をエッチングにより取り除くことによって、断面試料を作製することができる。ここで、遮蔽材の幅を細くすれば、薄膜試料となる(図3)。
【0012】
遮蔽材の大きさに特に制約はないが、できるだけ広い領域を観察するためには、イオンビーム照射領域よりも広いことが望ましい。遮蔽材の高さY(図2)は、0.5mm〜5mm程度が望ましい。試料と同時に遮蔽材もエッチングされるため、遮蔽材高さが低過ぎると、試料のエッチングによる除去が終了する前に、遮蔽材が消失してしまう。また、試料露出幅を調整する際、通常、光学顕微鏡を見ながら位置調整を行うが、遮蔽材の高さが高過ぎると、光学顕微鏡観察における試料と遮蔽材の焦点位置の違いが大き過ぎて、位置調整が難しい。つまり、遮蔽材高さは、エッチングによって消失しない程度で、できるだけ低い方が望ましい。したがって、最適の高さは、遮蔽材の材質とエッチング時間に依存する。材質は、できるだけ硬いものが望ましく、Mo、Ta、W等が適している。
【0013】
試料に対するイオンビームの照射角度が一定の場合、観察面6上に、イオンビームの入射方向と平行な筋状の凹凸ができる。この筋状表面凹凸を小さくするために、通常、イオンビームを照射しながら、観察面6と平行な面での面内回転を試料に与える。試料回転は、連続回転させても良いし、あるいは、ある角度範囲(例えば、角度αが45度〜−45度の範囲)を往復させても良い。しかしながら、試料回転速度が一定の場合、筋状表面凹凸の程度は殆ど軽減されない(図4)。
【0014】
図4は、試料回転速度を一定(0.9rpm)にして、Arイオンエッチングによって作製した断面試料をSEM観察したものである。イオン銃は動かさず、試料を−45度〜45度の範囲で回転させ、Arイオンビームの加速電圧は5kV、ビーム電流150μAであった。遮蔽材はMo製で、高さ1mmのものを用いた。試料は、表1に示す組成の鋼である。エッチングに要した時間は、3時間である。図4において、縦の筋が、表面凹凸に起因するコントラストである。横の縞模様は試料の組織を現している。表面凹凸起因のコントラストによって、組織が見え難くなっていることが分かる。
【0015】
このような筋状表面凹凸が発生する原因は、不明である。ただし、試料に対するイオンビームの方向が関係していることは確かである。例えば、試料もイオン銃も回転させずにエッチングした場合、イオンビーム方向に平行な筋状凹凸が、顕著に発生する。これは、試料の硬さが均一ではなく、場所毎にエッチング容易性が異なることが原因と思われる。試料又はイオン銃を回転させて、試料に対するイオンビーム入射方向を変化させた場合でも、その場合の筋の方向は、最初のイオンビーム入射方向、つまり回転角が0度における入射方向に平行になる。イオンビームが最初に試料上面に入射した際、削れ易い部位と削れ難い部位で、凹凸が発生する(図5)。理由は判らないが、最初にできた表面凹凸がその後のエッチングでもなくならず、筋状になるようである。
【0016】
発明者は、図4に示した筋状凹凸のできた試料を90度回転させて、再度イオンビームエッチングを実施したところ、最初の筋状凹凸が消えて、二度目のイオンビーム方向に平行な筋状凹凸ができることを見出した(図6)。二度目のイオンエッチングの条件も、前記条件と同じである。エッチング時間も最初のエッチングと同様に3時間とした。
【0017】
さらに、回転角度とエッチング時間を変えて実験してみた結果、回転角度が30度未満の場合、最初の筋状凹凸が、少なくとも実験の時間範囲内(最大5時間まで実施した。)では、消えないことが判った。ただし、この実験では、二度目のエッチングによる筋状凹凸が残るため、できた試料は組織観察に適さない。
【0018】
次に、試料回転速度を変化させて、実験を繰り返した。その結果、筋状凹凸が消える条件を見出した。イオンビーム入射方向と試料上面垂線のなす角度をαとしたとき、αが30〜−30度の範囲を低角度入射とし、αがそれ以外の角度範囲にある場合を高角度入射とする。高角度入射時の試料回転速度をV1、低角度入射時の試料回転速度をV2としたとき、V1がV2の1/3〜2/3となるように、試料回転速度を変化させる。これにより、試料回転速度が一定の場合に見られる観察面上の筋状表面凹凸を大幅に低減することができた。V1がV2の1/3未満の場合、試料上面垂線に対して、斜め45度方向の筋状凹凸が発生した。V1がV2の2/3超の場合、試料上面垂線と平行な方向の筋状凹凸が発生した。
【0019】
角度αを変化させるには、試料を回転させずにイオン銃を移動させることでも達成できる。重要なのは、試料とイオンビームとの配置関係を示す角度αであり、試料を回転させても、イオン銃を移動させても同等の効果が得られる。イオン銃を回転させる場合の装置構成を図7に示す。試料を回転させる場合(図1)でも、イオン銃を回転させる場合(図7)でも、回転角度αを制御しなければならない。回転角度αの制御方法としては、例えば、モーター回転数を制御することで可能である。図1に示した装置例では、試料1を試料台7にワックス等で固定し、試料台を回転させることで、試料回転を実現できる。図7の例では、イオン銃5を支持棒12に取り付け、支持棒12を回転させることで、イオン銃5を移動できる。いずれの場合も、試料台又は支持棒の回転角度は、ギヤ10のギヤ比と、モーター回転数で決定される。モーター回転数はできるだけ厳密に制御する方が望ましい。例えば、ホールIC式回転検出機能が付いたモーター等を利用することが望ましい。
【0020】
また、試料を回転させる場合も、イオン銃を回転させる場合も、イオンビームが常に試料の同一箇所を照射できるようにすることが望ましい。そのためには、試料台7及びイオン銃支持棒12の回転軸11が、エッチング領域6の真後ろになるよう、試料位置を調整することが望ましい。
【0021】
試料又はイオン銃の回転速度は、モーターに印加される電圧を調整することで制御可能である。回転速度には適切な範囲がある。回転速度が速過ぎると、試料やイオン銃の振動が大きくなり、イオンビーム照射領域がずれる可能性がある。回転速度が遅過ぎると、筋状凹凸の程度が大きくなり、回転速度を制御することによる筋状凹凸除去効果が弱くなる虞がある。したがって、低角度時の試料回転速度V2において、0.1rpm〜3rpm程度が望ましい。
【0022】
試料形状は、イオンビーム照射領域よりも試料幅Wが小さい方が、より効果的に筋状凹凸を除去することができる。試料幅Wがイオン照射領域よりも大きいと、エッチング領域とエッチングされない領域が形成される。試料又はイオン銃を回転させた際、イオンビーム入射方向と試料上面垂線のなす角度αが高角度になるにつれて、エッチングされていない領域の陰になる領域が増えて、エッチング領域が狭くなる。したがって、試料幅は、イオンビームの直径と同程度、即ち500μm〜1mm程度が適している。なお、イオンビーム直径は、イオンビームの加速電圧、ビーム電流量によって変化する。したがって、試験片サイズもイオンビームの加速電圧、ビーム電流量によって変化させることが望ましい。しかしながら、試料幅Wがイオンビーム照射領域よりも大きい場合でも、十分時間をかければ、筋状凹凸は除去可能である。
【実施例】
【0023】
(実施例1)
表1に示す化学組成を有する鋼を作製し、図8に示す形状の試験片を、機械研磨により作製した。
【0024】
【表1】
【0025】
その後、イオンビームエッチング装置内に試料を配置し、試料上面に遮蔽板を置き(図9)、試料を回転させながらArイオンビームを照射した。Arイオンビームの加速電圧は5kVとし、イオン電流量は110〜120μAであった。イオンビームの照射領域の大きさは、直径約500μmであった。試料回転は、前記角度α(試料上面垂線とイオンビームの角度)が45〜−45度の範囲で往復回転させ、αが30〜−30度の範囲の回転速度V2を2rpmとし、αが30〜45度及び−30〜−45度の範囲の回転速度V1を0.5〜1.8rpmの範囲のある値とした。3時間イオンビームを照射し、断面試料を作製した。
【0026】
V1=1rpmの条件で作製した試料についてSEM観察した結果を、図10に示す。図4で見られるような筋状の表面凹凸は、殆ど観察されない。V1の各値で作製した試料についてもSEM観察を行い、筋状凹凸が見られるかどうかを判定した。その結果を表2にまとめて示す。
【0027】
【表2】
【0028】
V1がV2の2/3超では、縦方向の筋状凹凸の低減効果が見られない。V1がV2の1/3未満になると、今度は斜めの筋状凹凸が見られるようになることが確認された。
【0029】
(実施例2)
実施例1で用いた鋼を、図11に示す形状の試験片に成形した。実施例1と同様に、イオンビームエッチング装置内に試料を配置し、試料上面に遮蔽板を置き(図12)、試料を回転させながらArイオンビームを照射した。イオン加速電圧、イオン電流量は、実施例1と同じである。試料回転は、αが+90〜−90度の範囲で往復回転させた。高角度イオンビーム照射時の試料回転速度V1と、低角度イオンビーム照射時の試料回転速度V2を変化させて、断面試料を作製し、作製した試料に筋状凹凸が観察されるかどうかをSEM観察により判定した。
【0030】
【表3】
【0031】
結果を表3にまとめる。実施例1と同様に、V1がV2の2/3以上では、効果が見られず、V1がV2の1/3未満になると、斜め方向の筋状凹凸が見られるようになった。
【0032】
(実施例3)
実施例1で用いた鋼を、図11に示す形状の試験片に成形した。実施例2と同様に、イオンビームエッチング装置内に試料を配置し、試料上面に遮蔽板を置き(図12)、試料を固定したまま、イオン銃を図7に示したように回転させながらArイオンビームを照射した。イオン加速電圧、イオン電流量は、実施例1と同様である。イオン銃回転は、αが90〜−90度の範囲で往復回転させた。高角度イオンビーム照射時のイオン銃移動速度V3と、低角度イオンビーム照射時のイオン銃移動速度V4を変化させて、断面試料を作製し、作製した試料に筋状凹凸が観察されるかどうかをSEM観察により判定した。
【0033】
【表4】
【0034】
結果を表4にまとめる。実施例1、2と同様に、V3がV4の2/3超では、効果が見られず、V3がV4の1/3未満になると、斜め方向の筋状凹凸が見られるようになった。
【0035】
(実施例4)
実施例1で用いた鋼を、図11に示す形状の試験片に成形した。実施例3と同様に、イオンビームエッチング装置内に試料を配置し、試料上面に遮蔽板を置き(図12)、試料とイオン銃の両方を図13に示したように回転させながらArイオンビームを照射した。イオン加速電圧、イオン電流量は、実施例1と同じである。試料とイオン銃を同じ回転速度で、反対方向に45〜−45度の範囲で回転させ、試料とイオンビームのなす角度αが90〜−90度の範囲で変化するようにした。図13において、試料上面垂線Lsと装置軸方向Lとの角度をαsとし、イオン銃の軸方向Lgと装置軸方向Lとの角度をαgとすると、試料とイオンビームのなす角度αはα=αs+αgである。角度αの変化速度Vは、試料の回転速度Vsとイオン銃の回転速度Vgの和Vs+Vgで規定できる。試料とイオンビームのなす角度αが高角度(30〜90度及び−30〜−90度)の場合の角度αの変化速度V5と、低角度(−30〜30度)の場合の変化速度V6を変化させて、断面試料を作製し、作製した試料に筋状凹凸が観察されるかどうかをSEM観察により判定した。
【0036】
【表5】
【0037】
結果を表5にまとめる。実施例1、2と同様に、V5がV6の2/3超では、効果が見られず、V5がV6の1/3未満になると、斜め方向の筋状凹凸が見られるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明装置の外観図である。
【図2】本発明で用いる試料及び遮蔽材の形状例である。
【図3】本発明で用いる試料及び遮蔽材の形状例(薄膜試料作製用)である。
【図4】試料回転速度が一定の場合の断面試料観察例である。
【図5】筋模様の発生機構の推定模式図である。
【図6】筋模様の試料を90度回転させてイオンエッチングする場合の外観模式図である。
【図7】本発明装置の外観図である。
【図8】実施例1で用いた試験片の形状を説明するための説明図である。
【図9】実施例1での遮蔽状況を説明するための説明図である。
【図10】試料回転速度を変化させた場合の断面試料観察例である。
【図11】実施例2、3、4で用いた試験片の形状を説明するための説明図である。
【図12】実施例2、3、4での遮蔽状況を説明するための説明図である。
【図13】本発明装置の外観図である。
【符号の説明】
【0039】
1 試料
2 真空試料室
3 遮蔽板
4 不活性ガス
5 イオン銃
6 エッチング領域
7 試料台
8 モーター
9 イオンビーム
10 ギヤ
11 回転軸
12 支持棒
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料作製方法及び試料作製装置に関し、特に、イオンビームエッチングによる試料作製方法及び試料作製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
透過型電子顕微鏡(TEM)観察に用いる薄膜試料や、走査型電子顕微鏡(SEM)観察に用いる断面試料の作製方法として、試料上面の一部に遮蔽材を配置し、遮蔽されていない部分をイオンビームエッチングにより取り除く方法(以下、イオンビームエッチング法と称する。)が、近年広く用いられるようになっている(特許文献1〜3)。
【0003】
電解研磨法や、イオンミリング法(特許文献4、5)、Ga集束イオンビーム加工法(特許文献6)等の他の試料作製方法と比較した場合、イオンビームエッチング法の長所は、(1)電解研磨法のように、試料表面に酸化膜や腐食生成物が付着しないこと、(2)イオンミリング法のように、試料観察面に対して角度を持ってイオンビーム照射をした場合、試料表層にダメージが蓄積されるが、前記方法では、観察面に平行にイオンビームを入射するため、試料にダメージが蓄積され難いこと、(3)不活性なArガスを用いるため、Ga集束イオンビーム加工法のように、照射イオン種のイオン注入が殆ど無いこと、(4)他の方法に比して高度な試料作製技術を要せず、簡便であること、等が挙げられる。
【0004】
しかしながら、イオンビームエッチング法で作製した試料には、試料観察面に筋状の表面凹凸ができることが避けられない。実際には、筋状の表面凹凸ができないように、試料を回転させながら、イオンビームエッチングを行う方法が用いられているが、殆ど効果がない。このような筋状の表面凹凸は、TEM観察やSEM観察において、像質を大きく低下させるため、問題となっている。
【0005】
【特許文献1】特許第3263920号公報
【特許文献2】特開2005−37164号公報
【特許文献3】特開2005−77359号公報
【特許文献4】特開平4−268434号公報
【特許文献5】特開昭61−139742号公報
【特許文献6】特開平2−132345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、TEMやSEM等の観察に用いる断面試料をイオンビームエッチング法により作製するに当たり、試料表面の筋状凹凸の少ない試料を作製する方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、試料の回転及び/又はイオン銃の移動により、試料に対するイオンビームの入射方向を変化させ、イオンビームの試料上面垂線に対する入射角度が高角度(30〜90度及び−30〜−90度)である場合の試料回転速度V1を、前記入射角度が低角度(−30〜30度)である場合の試料回転速度V2又はイオン銃移動速度V4の1/3〜2/3とすることで、断面イオンビームエッチング法によってできる筋状の表面凹凸をなくすことができることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
その主旨とするところは、以下の通りである。
(1)平板状試料の上面の一部に遮蔽材を配置し、前記遮蔽材の上方からイオンビームを照射し、前記遮蔽材によって遮蔽された試料部分をイオンエッチングせずに残し、前記遮蔽材によって遮蔽されていない部分だけをイオンエッチングによって取り除く試料作製方法であって、前記イオンビームを照射しながら前記試料を回転させ、かつ、前記イオンビームの試料上面垂線に対する入射角度が30〜90度及び−30〜−90度である場合の試料回転速度V1を、前記入射角度が−30〜30度である場合の試料回転速度V2の1/3〜2/3とすることを特徴とする、試料作製方法。
(2)イオン銃の位置を移動させることにより、イオンビームの試料上面垂線に対する入射角度を変化させることを特徴とする、(1)に記載の試料作製方法。
(3)平板状試料の上面の一部に遮蔽材を配置し、前記遮蔽材の上方からイオンビームを照射し、前記遮蔽材によって遮蔽された試料部分をイオンエッチングせずに残し、前記遮蔽材によって遮蔽されていない部分だけをイオンエッチングによって取り除く試料作製方法であって、イオン銃の位置を移動させることにより、前記イオンビームの試料上面垂線に対する入射角度を変化させ、かつ、前記イオンビームの試料上面垂線に対する入射角度が30〜90度及び−30〜−90度である場合のイオン銃移動速度V3を、前記入射角度が−30〜30度である場合のイオン銃移動速度V4の1/3〜2/3とすることを特徴とする、試料作製方法。
(4)平板状試料の上面の一部に遮蔽材を配置し、前記遮蔽材の上方からイオンビームを照射し、前記遮蔽材によって遮蔽された試料部分をイオンエッチングせずに残し、前記遮蔽材によって遮蔽されていない部分だけをイオンエッチングによって取り除く試料作製装置であって、イオンビームに平行な面内において前記試料を回転させる試料回転手段と、前記試料の回転速度を変更する試料回転速度変更手段と、イオンビーム入射方向と前記試料上面垂線とのなす角度を検知する角度検知手段と、を有することを特徴とする、試料作製装置。
(5)イオンビーム照射中におけるイオン銃の位置を移動させる位置移動手段と、イオン銃の移動速度を変更する移動速度変更手段と、を更に有することを特徴とする、(4)記載の試料作製装置。
(6)平板状試料の上面の一部に遮蔽材を配置し、前記遮蔽材の上方からイオンビームを照射し、前記遮蔽材によって遮蔽された試料部分をイオンエッチングせずに残し、前記遮蔽材によって遮蔽されていない部分だけをイオンエッチングによって取り除く試料作製装置であって、イオンビーム照射中におけるイオン銃の位置を移動させる位置移動手段と、イオン銃の移動速度を変更する移動速度変更手段と、イオンビーム入射方向と前記試料上面垂線とのなす角度を検知する角度検知手段と、を有することを特徴とする、試料作製装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法及び装置により、試料上面の一部に遮蔽材を配置し、遮蔽されていない部分をイオンビームエッチングにより取り除く場合に、試料観察面の筋状表面凹凸が少ない試料を作製することが可能になり、TEMやSEMにおける画質が格段に向上し、試料の詳細な観察・解析が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について、添付図面に基づいて説明する。
図1は、本装置の概観図である。平板状試料1を真空試料室2内に置き、試料上面に遮蔽材3を配置する。遮蔽材3は、試料上面全体を覆うのではなく、一部遮蔽しない部分ができるように配置する。通常、遮蔽材の端から10〜20μm程度試料を露出させることが望ましい(図2に示した露出幅X)。試料の幅W(図2)に特に制約は無いが、イオンビーム照射領域が数百μm〜1mm程度であるため、それ以上大きくても、エッチングされる領域は変わらない。また、後述するように、試料回転による筋状凹凸の除去効果を高めるためには、イオンビーム照射領域よりも小さいことが望ましい。
【0011】
Ar等の不活性ガス4をイオン銃5内に送り、イオンビームを発生させ、イオンビームを試料1及び遮蔽材3の上方から照射する。イオンビーム照射により、試料の遮蔽されていない部分をエッチングにより取り除くことによって、断面試料を作製することができる。ここで、遮蔽材の幅を細くすれば、薄膜試料となる(図3)。
【0012】
遮蔽材の大きさに特に制約はないが、できるだけ広い領域を観察するためには、イオンビーム照射領域よりも広いことが望ましい。遮蔽材の高さY(図2)は、0.5mm〜5mm程度が望ましい。試料と同時に遮蔽材もエッチングされるため、遮蔽材高さが低過ぎると、試料のエッチングによる除去が終了する前に、遮蔽材が消失してしまう。また、試料露出幅を調整する際、通常、光学顕微鏡を見ながら位置調整を行うが、遮蔽材の高さが高過ぎると、光学顕微鏡観察における試料と遮蔽材の焦点位置の違いが大き過ぎて、位置調整が難しい。つまり、遮蔽材高さは、エッチングによって消失しない程度で、できるだけ低い方が望ましい。したがって、最適の高さは、遮蔽材の材質とエッチング時間に依存する。材質は、できるだけ硬いものが望ましく、Mo、Ta、W等が適している。
【0013】
試料に対するイオンビームの照射角度が一定の場合、観察面6上に、イオンビームの入射方向と平行な筋状の凹凸ができる。この筋状表面凹凸を小さくするために、通常、イオンビームを照射しながら、観察面6と平行な面での面内回転を試料に与える。試料回転は、連続回転させても良いし、あるいは、ある角度範囲(例えば、角度αが45度〜−45度の範囲)を往復させても良い。しかしながら、試料回転速度が一定の場合、筋状表面凹凸の程度は殆ど軽減されない(図4)。
【0014】
図4は、試料回転速度を一定(0.9rpm)にして、Arイオンエッチングによって作製した断面試料をSEM観察したものである。イオン銃は動かさず、試料を−45度〜45度の範囲で回転させ、Arイオンビームの加速電圧は5kV、ビーム電流150μAであった。遮蔽材はMo製で、高さ1mmのものを用いた。試料は、表1に示す組成の鋼である。エッチングに要した時間は、3時間である。図4において、縦の筋が、表面凹凸に起因するコントラストである。横の縞模様は試料の組織を現している。表面凹凸起因のコントラストによって、組織が見え難くなっていることが分かる。
【0015】
このような筋状表面凹凸が発生する原因は、不明である。ただし、試料に対するイオンビームの方向が関係していることは確かである。例えば、試料もイオン銃も回転させずにエッチングした場合、イオンビーム方向に平行な筋状凹凸が、顕著に発生する。これは、試料の硬さが均一ではなく、場所毎にエッチング容易性が異なることが原因と思われる。試料又はイオン銃を回転させて、試料に対するイオンビーム入射方向を変化させた場合でも、その場合の筋の方向は、最初のイオンビーム入射方向、つまり回転角が0度における入射方向に平行になる。イオンビームが最初に試料上面に入射した際、削れ易い部位と削れ難い部位で、凹凸が発生する(図5)。理由は判らないが、最初にできた表面凹凸がその後のエッチングでもなくならず、筋状になるようである。
【0016】
発明者は、図4に示した筋状凹凸のできた試料を90度回転させて、再度イオンビームエッチングを実施したところ、最初の筋状凹凸が消えて、二度目のイオンビーム方向に平行な筋状凹凸ができることを見出した(図6)。二度目のイオンエッチングの条件も、前記条件と同じである。エッチング時間も最初のエッチングと同様に3時間とした。
【0017】
さらに、回転角度とエッチング時間を変えて実験してみた結果、回転角度が30度未満の場合、最初の筋状凹凸が、少なくとも実験の時間範囲内(最大5時間まで実施した。)では、消えないことが判った。ただし、この実験では、二度目のエッチングによる筋状凹凸が残るため、できた試料は組織観察に適さない。
【0018】
次に、試料回転速度を変化させて、実験を繰り返した。その結果、筋状凹凸が消える条件を見出した。イオンビーム入射方向と試料上面垂線のなす角度をαとしたとき、αが30〜−30度の範囲を低角度入射とし、αがそれ以外の角度範囲にある場合を高角度入射とする。高角度入射時の試料回転速度をV1、低角度入射時の試料回転速度をV2としたとき、V1がV2の1/3〜2/3となるように、試料回転速度を変化させる。これにより、試料回転速度が一定の場合に見られる観察面上の筋状表面凹凸を大幅に低減することができた。V1がV2の1/3未満の場合、試料上面垂線に対して、斜め45度方向の筋状凹凸が発生した。V1がV2の2/3超の場合、試料上面垂線と平行な方向の筋状凹凸が発生した。
【0019】
角度αを変化させるには、試料を回転させずにイオン銃を移動させることでも達成できる。重要なのは、試料とイオンビームとの配置関係を示す角度αであり、試料を回転させても、イオン銃を移動させても同等の効果が得られる。イオン銃を回転させる場合の装置構成を図7に示す。試料を回転させる場合(図1)でも、イオン銃を回転させる場合(図7)でも、回転角度αを制御しなければならない。回転角度αの制御方法としては、例えば、モーター回転数を制御することで可能である。図1に示した装置例では、試料1を試料台7にワックス等で固定し、試料台を回転させることで、試料回転を実現できる。図7の例では、イオン銃5を支持棒12に取り付け、支持棒12を回転させることで、イオン銃5を移動できる。いずれの場合も、試料台又は支持棒の回転角度は、ギヤ10のギヤ比と、モーター回転数で決定される。モーター回転数はできるだけ厳密に制御する方が望ましい。例えば、ホールIC式回転検出機能が付いたモーター等を利用することが望ましい。
【0020】
また、試料を回転させる場合も、イオン銃を回転させる場合も、イオンビームが常に試料の同一箇所を照射できるようにすることが望ましい。そのためには、試料台7及びイオン銃支持棒12の回転軸11が、エッチング領域6の真後ろになるよう、試料位置を調整することが望ましい。
【0021】
試料又はイオン銃の回転速度は、モーターに印加される電圧を調整することで制御可能である。回転速度には適切な範囲がある。回転速度が速過ぎると、試料やイオン銃の振動が大きくなり、イオンビーム照射領域がずれる可能性がある。回転速度が遅過ぎると、筋状凹凸の程度が大きくなり、回転速度を制御することによる筋状凹凸除去効果が弱くなる虞がある。したがって、低角度時の試料回転速度V2において、0.1rpm〜3rpm程度が望ましい。
【0022】
試料形状は、イオンビーム照射領域よりも試料幅Wが小さい方が、より効果的に筋状凹凸を除去することができる。試料幅Wがイオン照射領域よりも大きいと、エッチング領域とエッチングされない領域が形成される。試料又はイオン銃を回転させた際、イオンビーム入射方向と試料上面垂線のなす角度αが高角度になるにつれて、エッチングされていない領域の陰になる領域が増えて、エッチング領域が狭くなる。したがって、試料幅は、イオンビームの直径と同程度、即ち500μm〜1mm程度が適している。なお、イオンビーム直径は、イオンビームの加速電圧、ビーム電流量によって変化する。したがって、試験片サイズもイオンビームの加速電圧、ビーム電流量によって変化させることが望ましい。しかしながら、試料幅Wがイオンビーム照射領域よりも大きい場合でも、十分時間をかければ、筋状凹凸は除去可能である。
【実施例】
【0023】
(実施例1)
表1に示す化学組成を有する鋼を作製し、図8に示す形状の試験片を、機械研磨により作製した。
【0024】
【表1】
【0025】
その後、イオンビームエッチング装置内に試料を配置し、試料上面に遮蔽板を置き(図9)、試料を回転させながらArイオンビームを照射した。Arイオンビームの加速電圧は5kVとし、イオン電流量は110〜120μAであった。イオンビームの照射領域の大きさは、直径約500μmであった。試料回転は、前記角度α(試料上面垂線とイオンビームの角度)が45〜−45度の範囲で往復回転させ、αが30〜−30度の範囲の回転速度V2を2rpmとし、αが30〜45度及び−30〜−45度の範囲の回転速度V1を0.5〜1.8rpmの範囲のある値とした。3時間イオンビームを照射し、断面試料を作製した。
【0026】
V1=1rpmの条件で作製した試料についてSEM観察した結果を、図10に示す。図4で見られるような筋状の表面凹凸は、殆ど観察されない。V1の各値で作製した試料についてもSEM観察を行い、筋状凹凸が見られるかどうかを判定した。その結果を表2にまとめて示す。
【0027】
【表2】
【0028】
V1がV2の2/3超では、縦方向の筋状凹凸の低減効果が見られない。V1がV2の1/3未満になると、今度は斜めの筋状凹凸が見られるようになることが確認された。
【0029】
(実施例2)
実施例1で用いた鋼を、図11に示す形状の試験片に成形した。実施例1と同様に、イオンビームエッチング装置内に試料を配置し、試料上面に遮蔽板を置き(図12)、試料を回転させながらArイオンビームを照射した。イオン加速電圧、イオン電流量は、実施例1と同じである。試料回転は、αが+90〜−90度の範囲で往復回転させた。高角度イオンビーム照射時の試料回転速度V1と、低角度イオンビーム照射時の試料回転速度V2を変化させて、断面試料を作製し、作製した試料に筋状凹凸が観察されるかどうかをSEM観察により判定した。
【0030】
【表3】
【0031】
結果を表3にまとめる。実施例1と同様に、V1がV2の2/3以上では、効果が見られず、V1がV2の1/3未満になると、斜め方向の筋状凹凸が見られるようになった。
【0032】
(実施例3)
実施例1で用いた鋼を、図11に示す形状の試験片に成形した。実施例2と同様に、イオンビームエッチング装置内に試料を配置し、試料上面に遮蔽板を置き(図12)、試料を固定したまま、イオン銃を図7に示したように回転させながらArイオンビームを照射した。イオン加速電圧、イオン電流量は、実施例1と同様である。イオン銃回転は、αが90〜−90度の範囲で往復回転させた。高角度イオンビーム照射時のイオン銃移動速度V3と、低角度イオンビーム照射時のイオン銃移動速度V4を変化させて、断面試料を作製し、作製した試料に筋状凹凸が観察されるかどうかをSEM観察により判定した。
【0033】
【表4】
【0034】
結果を表4にまとめる。実施例1、2と同様に、V3がV4の2/3超では、効果が見られず、V3がV4の1/3未満になると、斜め方向の筋状凹凸が見られるようになった。
【0035】
(実施例4)
実施例1で用いた鋼を、図11に示す形状の試験片に成形した。実施例3と同様に、イオンビームエッチング装置内に試料を配置し、試料上面に遮蔽板を置き(図12)、試料とイオン銃の両方を図13に示したように回転させながらArイオンビームを照射した。イオン加速電圧、イオン電流量は、実施例1と同じである。試料とイオン銃を同じ回転速度で、反対方向に45〜−45度の範囲で回転させ、試料とイオンビームのなす角度αが90〜−90度の範囲で変化するようにした。図13において、試料上面垂線Lsと装置軸方向Lとの角度をαsとし、イオン銃の軸方向Lgと装置軸方向Lとの角度をαgとすると、試料とイオンビームのなす角度αはα=αs+αgである。角度αの変化速度Vは、試料の回転速度Vsとイオン銃の回転速度Vgの和Vs+Vgで規定できる。試料とイオンビームのなす角度αが高角度(30〜90度及び−30〜−90度)の場合の角度αの変化速度V5と、低角度(−30〜30度)の場合の変化速度V6を変化させて、断面試料を作製し、作製した試料に筋状凹凸が観察されるかどうかをSEM観察により判定した。
【0036】
【表5】
【0037】
結果を表5にまとめる。実施例1、2と同様に、V5がV6の2/3超では、効果が見られず、V5がV6の1/3未満になると、斜め方向の筋状凹凸が見られるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明装置の外観図である。
【図2】本発明で用いる試料及び遮蔽材の形状例である。
【図3】本発明で用いる試料及び遮蔽材の形状例(薄膜試料作製用)である。
【図4】試料回転速度が一定の場合の断面試料観察例である。
【図5】筋模様の発生機構の推定模式図である。
【図6】筋模様の試料を90度回転させてイオンエッチングする場合の外観模式図である。
【図7】本発明装置の外観図である。
【図8】実施例1で用いた試験片の形状を説明するための説明図である。
【図9】実施例1での遮蔽状況を説明するための説明図である。
【図10】試料回転速度を変化させた場合の断面試料観察例である。
【図11】実施例2、3、4で用いた試験片の形状を説明するための説明図である。
【図12】実施例2、3、4での遮蔽状況を説明するための説明図である。
【図13】本発明装置の外観図である。
【符号の説明】
【0039】
1 試料
2 真空試料室
3 遮蔽板
4 不活性ガス
5 イオン銃
6 エッチング領域
7 試料台
8 モーター
9 イオンビーム
10 ギヤ
11 回転軸
12 支持棒
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状試料の上面の一部に遮蔽材を配置し、前記遮蔽材の上方からイオンビームを照射し、前記遮蔽材によって遮蔽された試料部分をイオンエッチングせずに残し、前記遮蔽材によって遮蔽されていない部分だけをイオンエッチングによって取り除く試料作製方法であって、
前記イオンビームを照射しながら前記試料を回転させ、かつ、
前記イオンビームの試料上面垂線に対する入射角度が30〜90度及び−30〜−90度である場合の試料回転速度V1を、前記入射角度が−30〜30度である場合の試料回転速度V2の1/3〜2/3とする
ことを特徴とする、試料作製方法。
【請求項2】
イオン銃の位置を移動させることにより、イオンビームの試料上面垂線に対する入射角度を変化させることを特徴とする、請求項1に記載の試料作製方法。
【請求項3】
平板状試料の上面の一部に遮蔽材を配置し、前記遮蔽材の上方からイオンビームを照射し、前記遮蔽材によって遮蔽された試料部分をイオンエッチングせずに残し、前記遮蔽材によって遮蔽されていない部分だけをイオンエッチングによって取り除く試料作製方法であって、
イオン銃の位置を移動させることにより、前記イオンビームの試料上面垂線に対する入射角度を変化させ、かつ、
前記イオンビームの試料上面垂線に対する入射角度が30〜90度及び−30〜−90度である場合のイオン銃移動速度V3を、前記入射角度が−30〜30度である場合のイオン銃移動速度V4の1/3〜2/3とする
ことを特徴とする、試料作製方法。
【請求項4】
平板状試料の上面の一部に遮蔽材を配置し、前記遮蔽材の上方からイオンビームを照射し、前記遮蔽材によって遮蔽された試料部分をイオンエッチングせずに残し、前記遮蔽材によって遮蔽されていない部分だけをイオンエッチングによって取り除く試料作製装置であって、
イオンビームに平行な面内での試料回転手段と、
試料回転速度変更手段と、
イオンビーム入射方向と試料上面垂線との角度検知手段と、
を有することを特徴とする、試料作製装置。
【請求項5】
イオンビーム照射中におけるイオン銃の位置移動手段と、
イオン銃の移動速度変更手段と、
を更に有することを特徴とする、請求項4に記載の試料作製装置。
【請求項6】
平板状試料の上面の一部に遮蔽材を配置し、前記遮蔽材の上方からイオンビームを照射し、前記遮蔽材によって遮蔽された試料部分をイオンエッチングせずに残し、前記遮蔽材によって遮蔽されていない部分だけをイオンエッチングによって取り除く試料作製装置であって、
イオンビーム照射中におけるイオン銃の位置移動手段と、
イオン銃の移動速度変更手段と、
イオンビーム入射方向と試料上面垂線との角度検知手段と、
を有することを特徴とする、試料作製装置。
【請求項1】
平板状試料の上面の一部に遮蔽材を配置し、前記遮蔽材の上方からイオンビームを照射し、前記遮蔽材によって遮蔽された試料部分をイオンエッチングせずに残し、前記遮蔽材によって遮蔽されていない部分だけをイオンエッチングによって取り除く試料作製方法であって、
前記イオンビームを照射しながら前記試料を回転させ、かつ、
前記イオンビームの試料上面垂線に対する入射角度が30〜90度及び−30〜−90度である場合の試料回転速度V1を、前記入射角度が−30〜30度である場合の試料回転速度V2の1/3〜2/3とする
ことを特徴とする、試料作製方法。
【請求項2】
イオン銃の位置を移動させることにより、イオンビームの試料上面垂線に対する入射角度を変化させることを特徴とする、請求項1に記載の試料作製方法。
【請求項3】
平板状試料の上面の一部に遮蔽材を配置し、前記遮蔽材の上方からイオンビームを照射し、前記遮蔽材によって遮蔽された試料部分をイオンエッチングせずに残し、前記遮蔽材によって遮蔽されていない部分だけをイオンエッチングによって取り除く試料作製方法であって、
イオン銃の位置を移動させることにより、前記イオンビームの試料上面垂線に対する入射角度を変化させ、かつ、
前記イオンビームの試料上面垂線に対する入射角度が30〜90度及び−30〜−90度である場合のイオン銃移動速度V3を、前記入射角度が−30〜30度である場合のイオン銃移動速度V4の1/3〜2/3とする
ことを特徴とする、試料作製方法。
【請求項4】
平板状試料の上面の一部に遮蔽材を配置し、前記遮蔽材の上方からイオンビームを照射し、前記遮蔽材によって遮蔽された試料部分をイオンエッチングせずに残し、前記遮蔽材によって遮蔽されていない部分だけをイオンエッチングによって取り除く試料作製装置であって、
イオンビームに平行な面内での試料回転手段と、
試料回転速度変更手段と、
イオンビーム入射方向と試料上面垂線との角度検知手段と、
を有することを特徴とする、試料作製装置。
【請求項5】
イオンビーム照射中におけるイオン銃の位置移動手段と、
イオン銃の移動速度変更手段と、
を更に有することを特徴とする、請求項4に記載の試料作製装置。
【請求項6】
平板状試料の上面の一部に遮蔽材を配置し、前記遮蔽材の上方からイオンビームを照射し、前記遮蔽材によって遮蔽された試料部分をイオンエッチングせずに残し、前記遮蔽材によって遮蔽されていない部分だけをイオンエッチングによって取り除く試料作製装置であって、
イオンビーム照射中におけるイオン銃の位置移動手段と、
イオン銃の移動速度変更手段と、
イオンビーム入射方向と試料上面垂線との角度検知手段と、
を有することを特徴とする、試料作製装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図4】
【図10】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図4】
【図10】
【公開番号】特開2009−25133(P2009−25133A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−188201(P2007−188201)
【出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
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