説明

試料分析装置

【課題】分析対象である特定位置に電子線を長時間照射することによって生じる熱の発生やチャージアップ現象を防止し、それによって試料から発せられた電子線に基づいた表面像を精度よく作成することができる試料分析装置を提供する。
【解決手段】試料の所定領域に、電子線を照射する電子線照射装置と、電子線が照射された試料から発生した第1のエネルギ線を検出し、試料の分析を行う第1の分析部と、電子線が照射された試料から発生した第2のエネルギ線を検出し、試料の分析を行う第2の分析部と、を備えた試料分析装置において、第2の分析部が、第2のエネルギ線を検出するための検出部が前記試料の所定領域内に含まれる特定位置に対して電子線が照射されたときのみ、試料から発生した第2のエネルギ線を検出するようにし、さらに、前記第2の分析部が、その検出値を蓄積し、その蓄積された検出値から前記試料の分析を行うようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線を試料表面に向けて照射し、試料から発生した二次電子線等の第1のエネルギ線を検出して試料の所定領域についての分析を行うとともに、試料から発生したX線やカソードルミネッセンス、電子線等の第2のエネルギ線を検出することで、前記所定領域内に含まれる試料の特定位置に関する分析を行う試料分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子線を分析対象の試料表面に照射し、その試料表面から発生するエネルギ線を検出して試料表面の分析を行うような分析装置が利用されている。このような分析装置の一例として、例えば電子線を照射したときに試料表面から発生した特性X線のスペクトルを検出し、着目する元素に対応する特性X線の強度比より、電子線を照射した試料表面の元素分布の情報を得るものが知られている。(例えば特許文献1)
【0003】
また、他の分析装置の一例としては、電子線を照射したときに試料表面から発生した光(例えばCL)を検出し、この光の波長ごとの強度から光のスペクトル波形を示すデータであるスペクトルデータを生成し、このスペクトルデータから、試料表面上の電子線の照射箇所に含まれる成分や応力状態等を特定するものも知られている。(例えば特許文献2)
【0004】
さらに、その他の分析装置としては、電子線を照射した試料表面から発生したオージェ電子を検出して試料表面の分析を行うものもある。
【0005】
一方、電子線を試料表面全体に対して走査するように照射し、試料表面から発生した二次電子線や透過電子線、特性X線等のエネルギ線を検出して、前記試料表面の像を得るような分析装置も知られている。このような分析装置の一例として、試料表面の全面または一部の領域に対して、電子線を略一定速度で走査するように照射し、試料表面から得られる二次電子線の強度から、試料表面の形状を電子線像として表すことができるものがある。これによって、光学顕微鏡では観察し得ないような微小な凹凸や傾き等を視覚的に観察することが可能となる。(例えば特許文献3)
【0006】
さらに、近年では、試料の特定箇所に含まれる成分等を分析する分析装置と、試料表面の電子線像を得るような分析装置とを組み合わせることで、分析対象となる試料の表面に電子線を照射し、試料表面を視覚的に観察するとともに、試料表面の特定箇所についての成分を分析可能とした、試料分析装置も知られている。(例えば特許文献4)
【特許文献1】特開平5−275044号公報
【特許文献2】特開2002−310959号公報
【特許文献3】特開昭63−254649号公報
【特許文献4】特開平10−172492号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような試料分析装置においては、試料の特定位置に関する分析を行う場合、分析対象である前記特定位置において電子線の走査を停止し、充分な量のエネルギ線の信号が得られるまで電子線を照射し続けなければならない。そのため、試料の表面全体または所定領域について、電子線を照射することで得られるエネルギ線に基づいた分析を行うことができないという欠点がある。さらに、前記特定位置において電子線を照射した結果得られる信号が微弱な場合、電子線の走査を長時間停止し、その特定位置に電子線を照射し続けなければならない。そのため、電子線の照射箇所の温度が上昇するだけでなく、照射箇所に電荷が蓄積する、いわゆるチャージアップ現象が発生する恐れがある。
【0008】
そして、このような温度上昇による試料表面の試料ドリフトや、電荷の蓄積による電界の乱れから生じる電子線の曲がりから、電子線を照射する位置精度が低下し、前記エネルギ線に基づいた分析が正確に行えなくなるという問題が生じる。
【0009】
本発明は、上述のような問題点を鑑みてなされたものであり、試料の表面全体または所定領域について、試料から発せられたエネルギ線に基づいた分析を可能にするとともに、試料内の特定位置についてのエネルギ線に基づいた分析を可能とするものであって、分析対象である前記特定位置に電子線を長時間照射することで生じる試料の温度上昇やその位置でもチャージアップを防止し、それによって、試料内の特定位置についての分析を精度よく行うことができる試料分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、試料の所定領域に対して、試料表面に向けて電子線を走査するように照射する電子線照射装置と、前記電子線が照射された試料から発生した第1のエネルギ線を検出し、この検出された第1のエネルギ線から前記試料の分析を行う第1の分析部と、前記電子線が照射された試料から発生した第2のエネルギ線を検出し、この検出された第2のエネルギ線から前記試料の分析を行う第2の分析部と、を備えた試料分析装置であって、前記第2の分析部が、第2のエネルギ線を検出するための検出部を備えるとともに、この検出部が前記試料の所定領域内に含まれる特定位置に対して電子線が照射されたときのみ、試料から発生した第2のエネルギ線を検出するものであり、前記第2の分析部が、その検出値を蓄積し、その蓄積された検出値から前記試料の分析を行うことを特徴とする試料分析装置を提供する。
【0011】
このように構成された試料分析装置においては、分析対象の試料表面の所定領域に向けて電子線を照射することで、試料から得られる第1のエネルギ線を検出し、前記所定領域全体についての分析を行うと同時に、所定領域内に含まれる特定位置から発生する第2のエネルギ線を積算して検出することで、前記所定領域全体についての電子線の走査を停止することなく、前記特定位置の分析を行うことが可能となる。さらに、このような試料分析装置においては、前記特定位置に電子線を継続して長時間照射することがないため、前記特定位置において熱の発生やチャージアップ現象が発生せず、試料から発生する前記第2のエネルギ線に基づく分析を精度よく行うことができる。なお、前記第1のエネルギ線と第2のエネルギ線とは、異なるエネルギ線であってもよいし、同一のエネルギ線であってもよい。また、前記第1のエネルギ線および第2のエネルギ線は、試料表面から発生したエネルギ線のみならず、試料内部から発生したエネルギ線であってもよく、試料表面を透過したものであってもよい。ここでエネルギ線とは、電磁波、電子線、アルファ線などのエネルギを有した粒子線あるいは波動のことをいう。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、試料表面の所定領域に向けて電子線を走査するように照射する電子線照射装置と、前記電子線が照射された試料から発生した電子線を検出し、この検出された電子線から前記試料表面の電子線像を作成する電子線像作成装置と、前記電子線が照射された試料から発生した光に基づいて、この光を発生した位置における前記試料の分析を行う分析部と、を備えた試料分析装置であって、前記分析部が、前記試料から発生した光を検出する光検出部と、前記光検出部によって検出された光の波長毎の強度を算出して、光のスペクトル波形を示すデータであるスペクトルデータを生成するスペクトルデータ生成部と、を備えており、前記光検出部が、所定領域内に含まれる特定位置に対して電子線が照射されたときのみ、前記試料から発生した光を検出し、その検出値を蓄積するとともに、前記スペクトルデータ生成部が、その蓄積された検出値からスペクトルデータを生成可能であることを特徴とする試料分析装置を提供する。
【0013】
このような試料分析装置においては、前記電子像作成装置によって、試料表面から発生した二次電子線、反射電子線等の電子線から、分析する対象の試料の性質に応じて適切な電子線を選択し、その選択した電子線を検出することで試料表面の電子線像を作成するとともに、前記分析部によって、電子線を照射された試料表面から発生する蛍光X線等の特性X線、CL(カソードルミネッセンス)などの光を検出し、その検出した光の波長毎の強度から、電子線が照射され、光を発した特定位置における元素の定量分析や応力等を分析することができる。すなわち、光検出部によって試料から発生した光の信号を蓄積し、十分な量の信号が蓄積された後に、その信号を波長毎のスペクトルデータに変換させることで、前記特定位置における試料の元素分析や、応力状態といった分析を、試料から発生した光の信号が微弱な場合であっても容易にかつ精度よく行うことができる。
【0014】
また、請求項3に記載の発明は、前記電子線照射装置が、前記特定位置を含む試料の所定領域内の各照射位置について、それぞれ複数回電子線を照射するように電子線を走査することを特徴とする試料分析装置を提供する。
【0015】
このような試料分析装置によれば、試料表面の所定領域内の電子線照射位置にそれぞれ電子線を照射することで、試料表面の所定領域内に含まれる特定位置についての元素の定量分析や応力分析を行うことができるとともに、各照射位置から生じる二次電子線等のエネルギ線を複数回検出することができるため、試料の表面像を作成するための信号量が多くなり、各電子線照射位置の像がより正確に作成できるという効果がある。
【0016】
また、請求項4に記載の発明は、前記電子線照射装置が、試料表面の所定領域に対して電子線を走査する経路が同一経路となるように、電子線を前記所定領域内において複数回走査することを特徴とする試料分析装置を提供する。
【0017】
このような試料分析装置においては、電子線の走査を複数回行う際に、各走査が同一経路となるように電子線を走査させることで、電子線を走査させるための制御を簡単なものとすることができる。また、このように電子線を走査させる場合、試料表面から得られる二次電子線や光等のエネルギ線を、走査毎に同じ手順で検出し、解析すればよいため、検出値の解析や分析の制御を簡単なものにすることができるという効果がある。
【0018】
また、請求項5に記載の発明は、前記電子線照射装置が、電子線発生部と、走査信号が与えられ、その走査信号に基づいて前記電子線発生部から発せられた電子線を試料表面に対して走査する電子線走査部とを備え、前記光検出部が試料からの光等のエネルギ線を検出するタイミングを、前記電子線走査部に与えられる走査信号に同期して制御することを特徴とする試料分析装置を提供する。
【0019】
このような試料分析装置においては、電子線走査部に対して送信する走査信号に同期した検出信号を前記光検出部に送信した場合にのみ、試料表面からの光を検出するため、特定位置に電子線が照射された際に生じる光のみを選択的に検出することが容易に可能となる。
【0020】
また、請求項6に記載の発明は、前記光検出部が、光を受光して電荷に変換可能な受光素子と、前記受光素子によって変換された電荷を一時的に蓄積可能な電荷転送部とを備えており、前記受光素子と、前記電荷転送部との電気的な通電状態がON/OFF切換え可能に構成されていることを特徴とする試料分析装置を提供する。
【0021】
すなわち、前記検出部として、例えばCCDのような受光した光を電荷に変換し、この電荷を電気信号として出力可能なものを用いることで、受光した光の信号の蓄積を簡単に行うことができる。また、このような検出部を用いることで、試料の特定位置から生じた光のみを容易に検出することができる。
【0022】
また、請求項7に記載の発明は、前記電子線走査部が、電子線発生部から発せられた電子線を偏向するものであり、前記走査信号によって、試料表面に向けて電子線を走査するように電子線を偏向するものであることを特徴とする試料分析装置を提供する。
【0023】
このような試料分析装置においては、偏向部によって電子線を偏向させることで試料表面に電子線を走査させているため、電子線発生部を2次元的に走査するように駆動することで試料表面に電子線を照射する位置を変える必要がなく、電子線の走査を迅速かつ容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0024】
上述のように、本発明に係る試料分析装置によれば、試料表面全体または所定領域について、エネルギ線に基づいた試料の分析を行うと同時に、前記試料の特定位置を分析する場合に、この特定位置に電子線を長時間継続して照射することないため、電子線の照射によって生じる熱の発生やチャージアップ現象を防止することができる。したがって、熱の発生による試料表面での試料ドリフトや、電荷の蓄積による電界の乱れから生じる電子線の曲がりが抑制され、電子線を照射する位置精度が増し、試料の特定位置を分析する際の分析精度を向上させることができる同時に、試料表面全体または所定領域について、エネルギ線に基づいた試料の分析を行うことも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本願発明の第一の実施形態について、図1から図5を参照しつつ説明する。図1は、本願発明に係る試料分析装置1の一実施形態について、その全体の外観を示す概略図である。なお、本実施形態においては、試料表面から発生する第1のエネルギ線が二次電子線であり、同じく第2のエネルギ線が特性X線等の光としている。さらに、前記第1のエネルギ線(すなわち二次電子線)から前記試料の分析を行う第1の分析部を電子線像作成装置20とし、第2のエネルギ線(すなわち光)から前記試料の分析を行う第2の分析部を、電子線EBが照射された試料Sから発生した光を光検出部(検出部)31で検出し、光を発生した位置における試料Sの分析を行う分析部30とした一例を示すものとする。
【0026】
試料分析装置1は、電子線発生部としての電子銃11と、電子銃11から発せられた電子線EBを偏向し、試料台50上に載置された試料Sの表面上を走査させるための電子線走査部12とで構成される電子線照射装置10を備えている。この電子線照射装置10は、電子線EBを試料Sの所定領域に収斂させるためのコンデンサレンズ、アパーチャ等の図示しないレンズ機構を備えるとともに、電子線EBを試料Sの表面上を二次元的に走査するように偏向する偏向部121〜124と、試料Sの表面に対して電子線EBを照射する位置を指示するための偏向信号を偏向部121〜124に送信するための偏向信号発生器13とを備えている。なお、前記偏向信号を送信するタイミング等は、後述するように、別途構成されるコンピュータ40の備える情報処理部41に記憶されたプログラムにしたがって制御される。
【0027】
さらに、試料分析装置1は、電子線EBを照射された試料Sからの二次電子線Eを検出し、電子線EBが照射された試料Sの表面の電子線像を作成するための電子線像作成装置20と、試料Sから発生した光Lによって試料表面の分析を行う分析部30とを備えている。以下、詳細に説明する。
【0028】
前記電子線像作成装置20は、試料Sからの二次電子を検出するための電子線検出部21と、電子線検出部21によって検出された信号に基づいて、試料表面の電子線像を作成するためのコンピュータ40とで構成されている。この電子線像作成装置20は、試料S表面の所定領域が、電子線EBを走査するように照射されると、試料Sから発生した電子線Eを連続的に電子線検出部21で検出し、その検出信号をコンピュータ40の情報処理部41において演算処理することで、電子線像を得るものである。なお、情報処理部41は、図2に示すように、CPU、メモリ、AD変換機、入力手段等を備えており、前記メモリの所定位置に格納されたプログラムに基づいて前記CPU等が作動し、前述のような電子線像を作成する。なお、この情報処理部41は、オペレータから前記入力手段を介して入力された指示データに基づいて、あるいは自動で、電子銃11や、電子線検出部21といった、試料分析装置1を構成する各部の制御や、印字、画面表示のためのデータ処理等を必要に応じて行うものである。
【0029】
また、分析部30は、試料Sの特定位置における分析を行うものであって、電子線EBが照射された試料Sの表面からの光Lを検出するための光検出部31と、検出した光を分光する分光部32と、分光部32によって分光された光を検出するためのディテクタ33とを備えている。ディテクタ33により検出された信号は、前記コンピュータ40に送信され、試料表面に含まれる元素の特定等の分析を行う。すなわち、本実施形態においては、電子線像作成装置20および分析部30は、1台のコンピュータ40を共通に使用するものであり、このコンピュータ40の備える情報処理部41は、CPUが作動することでスペクトルデータ生成部としても作用し、後述するように試料表面の分析結果を出力することを可能としている。なお、これらの試料の分析結果や、前述した電子線像は、ディスプレイ42を通じて視覚的に出力される。
【0030】
光検出部31は、試料Sからの光Lを集光するための、集光部311と、光ファイバ312とを備えており、この集光部311によって、試料Sから発生する光Lは最小限の損失で分光部32に導かれる。前記集光部311は、本実施形態では楕円面鏡が用いられているが、このような楕円面鏡に代えて、放物面鏡、凹面鏡、レンズ等を用いることもできる。
【0031】
分光部32は、集光部311で集光された光Lを単色光に分離するものであり、本実施形態ではモノクロメータが用いられている。
【0032】
ディテクタ33は、分光部32で波長毎に分光された各単色光の強度をそれぞれ測定するものであり、測定された各単色光の強度に応じた電気信号(電流値または電圧値)を含む光強度信号をコンピュータ40に出力するものである。本実施形態においては、図3に示すように、ディテクタ33はCCD(charge-coupled device)であり、直線的または平面的に配設され、光を受光するための受光素子331と、トランスファーゲート332を介して受光素子331に通電する電荷転送部としての垂直転送路333とを備えている。また、受光素子331は、図示しない電子シャッターにより、分光部32からの光の受光が可能な状態と、光を受光しない状態とに切換え可能となっている。なお、この電子シャッターの開閉は、情報処理部41からの指令によって行われる。
【0033】
なお、受光素子331において受光した光が電気信号(電荷)に変換されると、この電気信号(電荷)は、トランスファーゲート332を介して垂直転送路333に移動する。垂直転送路333に移動した電気信号(電荷)は、その電気信号をコンピュータ40に送信する旨の指令を情報処理部41から受けるまで蓄積される。なお、受光素子331において光を受光するための電子シャッターの開閉を切換えるタイミングについては、後述する。
【0034】
このように、分析部30においては試料Sの表面から得られた光の波長毎の強度を電気信号に変換して求め、スペクトルデータを作成し、そのスペクトルデータから試料表面の分析を行う。本実施形態において、分析部30は、予め記憶された基準スペクトルデータと、分析部30から得られたスペクトルデータとを比較することで、試料Sの表面について元素分析を行うことができる。
【0035】
このような試料分析装置1が、試料Sの所定領域に関する電子線像を作成するとともに、前記所定領域内に含まれる、試料Sの特定位置の分析を行う場合の動作について、図4に示すフローチャートを参照しつつ説明する。
【0036】
まず、試料Sの分析を開始する以前の状態において、受光素子331は電荷を検出しない状態で電子シャッターが閉じられた状態となっている。そして、図4に示すように、ステップS101においては、メモリに記憶された、試料台50上に載置された試料Sの表面における所定の電子線照射領域Rに関する情報に基づいて、情報処理部41が電子線照射領域Rにおける電子線走査経路を特定する。詳細には、図5に示すように、情報処理部41は、試料S内の電子線照射領域R内における照射開始位置Pおよび照射終了位置Pを定め、その間の電子線走査経路を特定する。この電子線走査経路の途中には、特定位置Pが含まれているものとする。
【0037】
次に、情報処理部41は、電子銃11および偏向信号発生器13に向けて信号を送信し、電子銃11により発生した電子線EBを前記照射開始位置Pから前記電子線走査経路に沿って、一定の速度で走査する(ステップS102)。このとき、電子線EBが走査された試料Sの表面から発生する二次電子線Eは、電子線検出部21で所定のタイミングで連続的に検出され、検出された信号は情報処理部41に送信されてデータ格納部(図示せず)に記憶される。このデータ格納部に記憶された二次電子線Eについてのデータは、後述するように、試料Sの表面の電子線像を得るために所定の信号処理がなされるものである。なお、電子線EBが照射開始位置Pから特定位置Pに到達するまでは、情報処理部41の制御により、ディテクタ33に含まれる受光素子331の電子シャッターは閉じられた状態が継続しており、試料Sの表面から発生する光Lは、受光されない状態となっている。
【0038】
次に、電子銃11からの電子線EBの照射される位置が、特定位置Pの直前の位置になると、情報処理部41からの指令によって、偏向信号発生器13は偏向部121〜124に対して送信する偏向信号に同期して、光検出部31に検出信号を送信し、受光素子331の電子シャッターをごく短時間開いた状態とする(ステップS103)。このとき、電子シャッターを開く時間は、電子線EBが特定位置Pを通過する時間と略等しい時間となっている。
【0039】
このように、電子シャッターが開かれた受光素子331は、図6(A)に示すように、試料Sの表面から発生した光Lを受光し、その表面に受光した光の強度に応じた電荷eを蓄える。そして、受光素子331に蓄えられた電荷eは、図6(B)に示すように、トランスファーゲート332を通じて垂直転送路333に転送され、その後、図6(C)に示すように、垂直転送路333内に一時的に蓄積される(ステップS104)。
【0040】
次に、特定位置Pを通過した電子線EBは、その後も一定の速度で試料Sの表面を前記照射終了位置Pまで走査され、試料S内の電子線照射領域全体に電子線EBが走査される(ステップS105)。このとき、前述のように、電子線EBが走査された試料S内の表面から発生する二次電子線Eは、電子線検出部21において前述と同様に連続的に検出されている。
【0041】
次に、情報処理部41は、試料S内の前記特定位置Pについての分析を十分に行うことができるほどの電荷が垂直転送路333内に蓄えられたか否かを判断する(ステップS106)。特定位置Pから得られた光量が不十分で、この特定位置Pについての分析が行えないと判断した場合は、再度電子線EBを試料S内の電子線照射領域に走査する。このとき、情報処理部41は、偏向信号発生器13から偏向部121〜124に対して偏向信号を送信し、電子線を照射開始位置Pに戻すように指示する(ステップS201)。次に、電子線を早く走査して、その際に検出された二次電子像または光の検出値と、前回の電子線走査の際に得られた二次電子像または光の検出値とを比較し、電子線の走査軌跡(電子線走査経路)がずれたか否かを判断する(ステップS202)。この比較の結果、電子線の走査軌跡がずれていないと判断すると、ステップS102に戻って再度同様の電子線走査を行う。そして、前述のステップS102〜105を繰り返すことで、特定位置Pから発生した光をディテクタ33で受光し、垂直転送路333に電荷を蓄積する。
【0042】
また、ステップS202において、電子線の走査軌跡がずれたと判断した場合は、前述した比較結果から、電子線を照射開始位置Pに戻すように電子線を偏向させる位置を補正する(ステップS203)。そして、この電子線を偏向させる位置を補正した後、ステップS102に戻って再度同様の電子線走査を行う。
【0043】
このように、電子線EBの走査が繰り返し行われ、前記ステップS106を終えた時点で、特定位置Pから得られた光によって垂直転送路333に電荷が十分蓄積され、特定位置Pを分析可能であると情報処理部41が判断した場合は、電子線の照射を停止し、蓄積された電荷(検出値)を順次取得して、電子線走査を終了する(ステップS107)。そして、情報処理部41において、特定位置Pのスペクトル分析を行い、これらの結果をディスプレイ42に出力した後(ステップS108)、一連の作業を終了する。また、電子線EBの走査が複数回繰り返して行われるステップによって、試料Sの表面から発生する二次電子線がより多く検出され、検出された信号は情報処理部41に送信されてデータ格納部(図示せず)に記憶される。このように、試料表面から生じた二次電子線の検出値に基づいて電子線像を作成する際に、一度の電子線走査によって得られる二次電子線の検出値よりも多くの検出値に基づいて電子線像が作成される。
【0044】
上述の実施形態においては、試料Sの電子線照射領域について電子線像を得ると同時に、特定位置に電子線を長時間照射し続けることなく、電子線照射領域に含まれる特定位置Pの分析を行うことができる。したがって、電子線の照射によって生じる、試料表面における熱の発生やチャージアップ現象を抑制することができる。これによって、試料表面に生じる試料ドリフトや電子線の曲がりが抑制され、電子線を照射する試料表面の特定位置の位置精度が増し、分析精度の高い試料分析を行うことができると同時に、試料表面の所定領域についての電子線像を作成することも可能となる。
【0045】
また、前記二次電子線による試料表面の電子線像は、複数回電子線を走査した結果得られた二次電子線情報から作成されているため、通常の電子線情報と比べてより精度が高いものとなっている。すなわち、電子線を走査する経路を、各走査ごとに同経路となるようにしているため、電子線像を作成するための情報が複数回得られることとなり、これらの情報を平均化したり、異常値と判断できる信号を除去することが可能となる。これによって、より精度の高い電子線像情報を得ることができる。
【0046】
なお、上記実施形態においては、試料の表面像を作成する手段として、試料から発生する二次電子線を検出する場合を開示しているが、本願発明はこれに限られるものではない。すなわち、試料から発生するX線や他のエネルギ線を検出して、試料の表面像を作成したり、試料の元素分析等を行うようにしてもよい。同様に、試料の特定位置における分析も、試料から発生する光に限定されるものではなく、例えば反射電子線等の他のエネルギ線を用いて分析を行うことも可能である。さらに、このようなエネルギ線を用いて分析を行う場合、前述の実施形態のように元素分析を行うだけでなく、試料表面の応力状態や温度情報等を分析するものであってもよい。また、前記特定位置は、試料の表面上の位置のみに限定されるものではなく、試料の内部であってもよい。
【0047】
また、この実施形態においては、電子線の走査を電子線を偏向させる偏向部を用いて行っていたが、本発明はこれに限られるものではなく、電子線の照射位置を固定し、試料Sを載置する試料台を移動させるように構成されていてもよい。
【0048】
また、前述の実施形態においては、試料表面の特定位置が点である場合を示しているが、この特定位置はある程度の幅を有するものであってもよく、線状または面状であってもよい。また、この特定位置が試料内部に位置する場合は、ある程度の体積を有するものであってもよい。
【0049】
また、前述した実施形態については、試料S上の特定位置Pにおける光を検出し、電気信号として垂直転送路333に蓄積するような光検出部の形態を示しているが、垂直転送路333に蓄積した電気信号(電荷)を、他の電荷蓄積部(例えば情報処理部41)に転送し、連続的に蓄積するようにしてもよい。
【0050】
さらに、走査はジグザグに行うのみならず、特定点だけは多数回にわたって通るものの、その他の領域についてはそれよりも少ない回数(1回または数回)通るような走査経路でも構わない。その一例としては少しずつ位相を変えて8の字を描き、その8の字の交差点が特定点となるように走査する経路が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本願発明の1実施形態である試料分析装置1の全体を示す概略図でである。
【図2】図1に示す試料分析装置1に備えられた情報処理部の概略構成を示す構成図である。
【図3】図1に示す試料分析装置1に備えられた光検出部のディテクタ33の構成を簡単に示す構成図である。
【図4】図1に示す試料分析装置1によって、試料Sの表面像を作成するとともに、試料Sの特定位置についての分析を行うための各ステップを示すフローチャートである。
【図5】図1に示す試料分析装置1において、試料S上に電子線を走査する経路を示す図である。
【図6】ディテクタ33において、試料Sからの光を受光し、受光した光を電荷に変換した後に蓄積する流れを示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1 ・・・試料分析装置
10 ・・・電子線照射装置
11 ・・・電子銃(電子線発生部)
12 ・・・電子線走査部
13 ・・・偏向信号発生器
20 ・・・電子線像作成装置(第1の分析部)
21 ・・・電子線検出部
30 ・・・分析部(第2の分析部)
31 ・・・光検出部(検出部)
32 ・・・分光部
33 ・・・ディテクタ
331 ・・・受光素子
332 ・・・トランスファーゲート
333 ・・・垂直転送路(電荷転送路)
40 ・・・コンピュータ
41 ・・・情報処理部(スペクトルデータ生成部)
42 ・・・ディスプレイ
50 ・・・試料台
S ・・・試料
EB ・・・電子線
E ・・・二次電子線
L ・・・光
e ・・・電荷

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の所定領域に対して、試料表面に向けて電子線を走査するように照射する電子線照射装置と、
前記電子線が照射された試料から発生した第1のエネルギ線を検出し、この検出された第1のエネルギ線から前記試料の分析を行う第1の分析部と、
前記電子線が照射された試料から発生した第2のエネルギ線を検出し、この検出された第2のエネルギ線から前記試料の分析を行う第2の分析部と、を備えた試料分析装置であって、
前記第2の分析部が、第2のエネルギ線を検出するための検出部を備えるとともに、この検出部が前記試料の所定領域内に含まれる特定位置に対して電子線が照射されたときのみ、試料から発生した第2のエネルギ線を検出するものであり、
前記第2の分析部が、その検出値を蓄積し、その蓄積された検出値から前記試料の分析を行うことを特徴とする試料分析装置。
【請求項2】
試料表面の所定領域に向けて電子線を走査するように照射する電子線照射装置と、
前記電子線が照射された試料から発生した電子線を検出し、この検出された電子線から前記試料表面の電子線像を作成する電子線像作成装置と、
前記電子線が照射された試料から発生した光に基づいて、この光を発生した位置における前記試料の分析を行う分析部と、を備えた試料分析装置であって、
前記分析部が、前記試料から発生した光を検出する光検出部と、
前記光検出部によって検出された光の波長毎の強度を算出して、光のスペクトル波形を示すデータであるスペクトルデータを生成するスペクトルデータ生成部と、を備えており、
前記光検出部が、所定領域内に含まれる特定位置に対して電子線が照射されたときのみ、前記試料から発生した光を検出し、その検出値を蓄積するとともに、前記スペクトルデータ生成部が、その蓄積された検出値からスペクトルデータを生成可能であることを特徴とする試料分析装置。
【請求項3】
前記電子線照射装置が、前記特定位置を含む試料の所定領域内の各照射位置について、それぞれ複数回電子線を照射するように電子線を走査することを特徴とする請求項2に記載の試料分析装置。
【請求項4】
前記電子線照射装置が、試料表面の所定領域に対して電子線を走査する経路が同一経路となるように、電子線を前記所定領域内において複数回走査することを特徴とする請求項2または3に記載の試料分析装置。
【請求項5】
前記電子線照射装置が、電子線発生部と、走査信号が与えられ、その走査信号に基づいて前記電子線発生部から発せられた電子線を試料表面に対して走査する電子線走査部とを備え、前記光検出部が試料からの光を検出するタイミングを、前記電子線走査部に与えられる走査信号に同期して制御することを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載の試料分析装置。
【請求項6】
前記光検出部が、光を受光して電荷に変換可能な受光素子と、前記受光素子によって変換された電荷を一時的に蓄積可能な電荷転送部とを備えており、前記受光素子と、前記電荷転送部との電気的な通電状態がON/OFF切換え可能に構成されていることを特徴とする請求項2から5のいずれかに記載の試料分析装置。
【請求項7】
前記電子線走査部が、電子線発生部から発せられた電子線を偏向するものであり、前記走査信号によって、試料表面に向けて電子線を走査するように電子線を偏向するものであることを特徴と請求項2から6のいずれかに記載の試料分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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