説明

試料観察装置

【課題】本発明は試料観察装置に関し、薄膜が破損した時に真空室内に試料溶液が飛翔することを防止することができる試料観察装置を提供することを目的としている。
【解決手段】第1の面に試料が保持される薄膜41と、該薄膜41の第2の面に接する雰囲気を減圧する真空室と、該真空室に接続され、前記薄膜41を介して試料20に1次線を照射する1次線照射手段と、該1次線の照射により試料から発生する2次的信号を検出する信号検出手段4を具備する試料観察装置において、前記薄膜41をその中央部に配置するシャーレ40と、該シャーレ40を支持する台座42’よりなる試料保持手段を有し、該試料保持手段の台座42’の真空室側に試料溶液が飛翔することを防止するための溶液飛翔防止壁47を設けて構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は試料観察装置に関し、更に詳しくは薄膜を介して試料を観察する試料観察装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、薄膜を介して電子線を試料に照射し、これにより試料を大気圧下で観察可能な装置(試料観察装置)が知られている。図7は従来装置(特許文献1)の構成例を示す図である。図において、鏡筒1には電子銃2が配置されている。電子銃2から加速された状態で放出された1次線としての電子線(又は荷電粒子線)7は、対物レンズ3により集束される。これにより集束された電子線7は、試料保持膜32を通過し、試料保持体18に保持された大気圧下の試料20に照射される。この時、電子線7は図示しない偏向手段により偏向され、これにより電子線7は当該試料20を走査する。
【0003】
なお、鏡筒1の先端側は真空室11に接続されている。また、電子銃2が設けられた鏡筒1の基端側は、真空室11の下方に位置している。よって、電子銃2から放出された電子線7は、鏡筒1内を上方向に進み、鏡筒1の先端に設けられた開口を介して真空室11内の空間を通過後、試料20に到達する。このように、この鏡筒1は1次線照射手段を構成し、この実施例では倒立型鏡筒となっている。
【0004】
真空室11内であって、鏡筒1の先端側には、反射電子検出器4が設けられている。鏡筒1内は排気手段8により真空引きされて、所定の圧力まで減圧される。また、真空室11内は、図示しない排気手段により真空引きされ、これにより所定の圧力まで減圧される。ここで、真空室11は、除振装置13を介して架台10に載置されている。真空室11の上部には、試料保持体載置部12が設けられている。試料保持体載置部12には、電子線7が通過するための孔が形成されている。この試料保持体載置部12には、Oリング(図示せず)を介して試料保持体18が載置されている。
【0005】
これにより、試料保持体18は真空室11に着脱自在に支持される。試料保持体18は、試料保持膜32を備えている。この試料保持膜32の上面(第1の面)32aは大気中に露出されている。この試料保持膜32の第1の面32aには、ピペット21により液状の試料20が供給される。また、試料保持体18は、試料保持膜32の下面(第2の面)に設けられた本体部34を備えている。
【0006】
本体部34の中央には開口が形成されており、試料保持膜32の第2の面の中央部は該開口を介して真空室11の内部雰囲気に露出されている。また、真空室11の上側部分には、開閉バルブ14が設置されている。この開閉バルブ14は、真空室11において、試料保持体18の試料保持膜32と鏡筒(1次線照射手段)1の先端部との間の空間19を仕切るためのものである。開閉バルブ14が、図7において14aに示す位置に配置された時が、閉じられた状態である。このように、開閉バルブ14を閉じると、真空室11内の当該空間19が仕切られたことになる。9は空間19を真空引きする排気手段である。
【0007】
また、特許文献2には、光を使用する顕微鏡を用いた装置が開示されている。この装置は、倒立型顕微鏡、高感度冷却型CCDカメラ装置及び細胞培養チャンバーからなっており、該細胞培養チャンバーは上側ホルダー及び下側ホルダーを有しており、これらのホルダーはそれぞれ樹脂性ホルダー及び金属製ホルダー部によって構成され、これらの金属製ホルダー部にはシートヒータが設けられると共に、細胞培養チャンバー内のシャーレの培養液は、該チャンバーを開放することなく定期的に交換可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−292702号公報(段落0027〜0039、図1)
【特許文献2】特開2005−323509号公報(段落0009〜0017、図1,図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図7に示した従来装置では、試料を保持する膜と、1次線照射手段との間の空間を仕切るための開閉バルブが備えられている。よって、試料交換をする際には、当該開閉バルブにより当該空間を仕切り、その後当該膜側の空間部のみを常圧復帰させることができる。これにより、試料交換時に必要な常圧復帰に要する時間を短縮することができ、試料交換を迅速に行なうことができる。
【0010】
また、当該膜の上面に試料を保持し、該膜の下面側から1次線を照射するようにすることにより、試料に含有された検査対象となる細胞が該膜の上面に接して沈殿した状態で、該細胞に1次線を照射できる。これにより、該膜と該細胞との間に水分が多量に介在されることを回避できるので、水分による1次線の散乱を極力少なくすることができ、取得される像の分解能の低下を確実に防止することができる。
【0011】
そして、試料の観察及び検査前に、試料の該膜への供給前及び供給後での当該膜の破損(破壊)の有無を確認することができ、真空室内の試料による汚染を事前に防止することができる。更に、試料の観察及び検査中に万が一にも当該膜が破損した時には、直ちに当該開閉バルブを閉じて当該空間(真空室内の空間)を仕切ることにより、真空室内の汚染を確実に防止することができる。
【0012】
しかしながら、当該開閉バルブを閉じる動作速度が十分でなく、鏡筒1内部も汚染される可能性があった。開閉バルブ14が閉じた時、下側の面は鏡筒1により電子線を照射可能な真空状態を保持する機能が求められ、そのためにはOリングを構成することになる。
【0013】
よって、Oリングによる確実な鏡筒先端のシールが動作速度低下要因の一つになる。このように、仕切り弁では、動作速度を短縮することが困難である。そこで、鏡筒・試料間遮蔽手段(シャッタ)を用いることとした。ここに記載する鏡筒・試料間遮蔽手段とは、膜破壊の際に鏡筒内部への該細胞や水分の侵入を抑止するための抑止壁である。開閉バルブ14の如く大気と真空を圧力隔壁として完全に仕切る機能は有しないので、この部位でのOリングは不要である。
【0014】
バルブ構造を持たない鏡筒・試料間遮蔽手段の場合、シャッタに溶液の受け皿を設け、試料に含まれた溶液を溶液受け皿部に留めることになる。受け皿を薄膜が破損した開口部の下に即時に移動させる。しかしながら、大気との圧力差により吸い込まれる溶液が、溶液の受け皿の底面から跳ね返り、受け皿部の外に溶液が拡散する問題が存在する。受け皿の外側に飛翔拡散する量を減らすことは装置の保守条件としては重要な問題になる。
【0015】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、シャーレ交換台座を用意することで、倒立SEM鏡筒へのシャーレ取り付け前に品質確認ができると共に、薄膜が破損した時に真空室内に試料溶液が飛翔することを防止することができる試料観察装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の問題を解決するために、本発明は以下に示すような構成をとっている。
(1)請求項1記載の発明は、第1の面に試料が保持される薄膜と、該薄膜の第2の面に接する雰囲気を減圧する真空室と、該真空室に接続され、前記薄膜を介して試料に1次線を照射する1次線照射手段と、該1次線の照射により試料から発生する2次的信号を検出する信号検出手段を具備する試料観察装置において、前記薄膜をその中央部に配置するシャーレと、該シャーレを支持する台座よりなる試料保持手段を有し、該試料保持手段の台座の真空室側に試料溶液が飛翔することを防止するための溶液飛翔防止壁を設けたことを特徴とする。
【0017】
(2)請求項2記載の発明は、前記溶液飛翔防止壁は、前記台座の下面に少なくとも一重に設けることを特徴とする。
(3)請求項3記載の発明は、前記溶液飛翔防止壁を、前記薄膜中央部から3〜20mmの位置に1〜2mmの高さで二重に設けることを特徴とする。
【0018】
(4)請求項4記載の発明は、前記真空室の真空度を測定する真空ゲージを設け、該真空ゲージが真空室の真空度の急激な劣化を検出したら、試料の下部に配置されている2次的信号を検出する信号検出手段を退避させる信号検出手段退避機構を設けたことを特徴とする。
【0019】
(5)請求項5記載の発明は、前記台座とシャーレ及び薄膜の正常性を確認するために、耐圧確認装置を用いて薄膜の状態を検査し、検査に合格した台座とシャーレ及び薄膜を本発明の試料観察装置に用いるようにしたことを特徴とする。
【0020】
(6)請求項6記載の発明は、前記台座に試料に物理状態を変化させるためのマニピュレータとして機能する実験用刺激部材を取り付けたことを特徴とする。
(7)請求項7記載の発明は、前記実験用刺激部材は、物理的刺激又は電気的刺激又は各種放射線による刺激、又は生化学的な刺激又はバクテリア等の微生物による刺激を試料に与えるように構成されたことを特徴とする。
【0021】
(8)請求項8記載の発明は、前記1次線は電子線、前記2次的信号は反射電子であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、以下のような効果がえられる。
(1)請求項1記載の発明によれば、シャーレ交換台座を用意することで、倒立SEM鏡筒へのシャーレ取り付け前に品質確認ができると共に、薄膜が破損した時に真空室内に試料溶液が飛翔することを防止することができる試料観察装置を提供することができる。
【0023】
(2)請求項2記載の発明によれば、薄膜が破損した時に、真空室内に試料溶液が飛翔することを防止することができる。
(3)請求項3記載の発明によれば、薄膜が破損した時に、真空室内に試料溶液が飛翔することを更に確実に防止することができる。
【0024】
(4)請求項4記載の発明によれば、真空室内真空度の急激な劣化を検出した時に、2次的信号を検出する信号検出手段を退避させ、該信号検出手段が試料溶液で汚染されることを防止することができる。
【0025】
(5)請求項5記載の発明によれば、薄膜の耐圧試験に合格した交換用台座ごと試料観察装置に取り付けるようにしたので、薄膜の破損を未然に防止することができる。
(6)請求項6記載の発明によれば、試料に対して物理的状態を変化させることができる。
【0026】
(7)請求項7記載の発明によれば、物理的刺激又は電気的刺激又は各種放射線による刺激、又は生化学的な刺激又はバクテリア等の微生物による刺激を試料に与え、試料の変化を観察することができる。
【0027】
(8)請求項8記載の発明によれば、電子顕微鏡で試料を観察する場合に、試料から放出された反射電子を検出して反射電子像を観察することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の基礎となる試料観察装置の要部断面図である。
【図2】本発明の第1の実施例の要部断面図である。
【図3】本発明の第2の実施例のSEM画像観察時の状態を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施例の溶液受け皿移動時の状態を示す図である。
【図5】耐圧確認装置の構成例を示す図である。
【図6】本発明の第3の実施例の要部断面図である。
【図7】従来装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の基礎となる試料観察装置の要部断面図である。本発明の全体の構成は図7に示す装置と同じである。図7と同一のものは、同一の符号を付して示す。図において、42は台座、40は該台座42の上に載置されるシャーレ(ディッシュ)である。以下、台座42をシャーレ交換台座ということもある。この実施例によれば、シャーレ40は台座42上に載置されているため、シャーレ40の交換は台座42を含めて交換する。このとき、台座42を両手で持つ必要があるため、シャーレ40を誤って落下させることがなくなる。
【0030】
台座42及びシャーレ40の中心部には開口が設けられており、この開口から電子線が試料20に向けて照射される。41は前記開口をふさぐ状態で位置する薄膜である。該薄膜41は、電子線及び反射電子が透過できるようになっている。薄膜41から下方は真空、上方は大気圧である。従って、該薄膜41には上下面での圧力差による過大な圧力がかかることになる。49は真空室の真空を維持するためにシャーレ40の外周に設けられたOリングである。
【0031】
4は試料20から放出される反射電子を検出する反射電子検出器、43は該反射電子検出器4の下側に配置された溶液受け皿である。3は電子線を試料20上に細く絞る対物レンズ、45はその内部を電子線が通過するインナーパイプ(IP)、46は電子線を絞る対物絞り(アパーチャ)が取り付けられるアパーチャホルダである。台座42から対物レンズ3までの各構成要素間の距離は図に示した通りである。台座42の底面から対物レンズ3上面までの距離は約7mmである。
【0032】
図2は本発明の第1の実施例の要部断面図である。図1と同一のものは同一の符号を付して示す。図において、42’は改良台座である。47は該改良台座42’の底面に設けられた試料溶液が飛翔することを防止するための溶液飛翔防止壁である。図では、該溶液飛翔防止壁47が二重に設けられた場合を示しているが、一重でもよい。但し、試料溶液の飛翔を防止する効果は二重の方が一重の場合よりも高い。以下、図1と図2を比較対比しながら説明する。
【0033】
シャーレ40を固定している台座42,42’は、図上では省略した真空壁の壁面に固定されており、シャーレ40の上方は大気圧であり、シャーレ40の薄膜41より下方は真空である。薄膜41の上には液体中の細胞試料20が載せられ、該薄膜41が破損した場合には、圧力差で試料溶液が真空室内部に急速に侵入する。
【0034】
改良前の図1の装置では、反射電子検出器4が溶液受け皿43の上部にあるため、試料溶液が溶液受け皿43より上の反射電子検出器4に飛翔しやすい状態にある。しかしながら、この条件で、特に溶液飛翔防止壁47を設けた図2の装置では、この溶液飛翔防止壁47のために溶液受け皿43の外に試料溶液が飛翔するのを大幅に減らすことが可能になる。図中のaは試料溶液の液滴である。
【0035】
図1に示す装置の場合、シャッタ(図示せず)移動前の試料溶液が侵入し、台座42と溶液受け皿43の隙間を経由して試料溶液の一部が溶液受け皿43の下部に侵入する。オリフィス48内の侵入溶液の量が一定量になると、インナーパイプ45やOLアパーチャホルダ46への溶液侵入の危険が高まる。図2に示す装置の場合、溶液飛翔防止壁47で試料溶液の飛翔が抑えられ、インナーパイプ45やOLアパーチャ46への侵入を防止することができる。
【0036】
更に詳細に説明すると、改良前の図1に示す装置の状態は、シャッタへの摩擦等の影響を避け、真空部品の組み立てに障害を起こさないために、2.5mm近い隙間が存在した。本発明による溶液飛翔防止壁47を薄膜41の中央部から約5mm(直径10mm)の位置に、内壁面と溶液受け皿43の外壁面の近くに1〜2mmの高さで二重に設けると、垂直落下の場合に鉛直方向から45°近辺までの跳ね返りを内側の壁面で抑制することができる。実験結果によると、溶液飛翔量の半分以上を内側の壁面で捕捉が可能であった。更に、外側の壁面で溶液受け皿43からの飛翔を抑えられ、溶液受け皿43から外への抑制効果を確認することができた。
【0037】
このように、実施例1によれば、シャーレ交換台座を用意することで、倒立SEM鏡筒へのシャーレ取り付け前に品質確認ができる(後述)と共に、薄膜が破損した時に真空室内に試料溶液が飛翔することを防止することができる試料観察装置を提供することができる。また、溶液飛翔防止壁を少なくとも一重に設けることで、薄膜が破損した時に、真空室内に試料溶液が飛翔することを防止することができる。更に、溶液飛翔防止壁を二重にすることで、薄膜が破損した時に、真空室内に試料溶液が飛翔することを更に確実に防止することができる。
【0038】
図3は本発明の第2の実施例のSEM画像観察時の状態を示す図である。図2と同一のものは、同一の符号を付して示す。この実施例では、溶液飛翔防止壁47は一重の場合を示している。50は真空室内の真空度を測定する真空ゲージ、51は溶液受け皿43を図の矢印方向に移動させるシャッタである。該シャッタ51としては、種々のものが考えられるが、例えばステッピングモータで移動させる機構が考えられる。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0039】
シャーレ40を固定している台座42’の上方は大気圧であり、真空壁の内部は真空状態である。この状態では、倒立しているSEMの対物レンズ3の先端より上に反射電子検出器4が配置され、その中央の開口部より薄膜41へ電子線を照射することができる。この状態で、電子線を薄膜41を経由して照射し、その反射電子を反射電子検出器4で検出し、照射位置を走査することでSEM像を取得することができる。シャッタ51は、反射電子検出器4の中心が光軸上になるように位置決めしている。
【0040】
一方、真空ゲージ50は真空室の真空度を常時測定している。ここで、薄膜41が破損すると、真空ゲージ50の測定値は異常値を出力する。コンピュータ等の制御装置(図示せず)は、薄膜41の破損によりこの真空ゲージ50の異常を検知したら、先ずSEMに供給される高電圧を回路連動でオフにし、図3に示す状態から図4に示す状態に瞬時に移行させる。図4は本発明の第2の実施例の溶液受け皿移動時の状態を示す図である。シャッタ51は図の矢印方向に移動し、図3に示すように反射電子検出器4が薄膜41の下にある状態から、図4に示すように溶液受け皿43が薄膜41の下にある状態に移行する。これにより、反射電子検出器4の退避が行われる。
【0041】
この発明によれば、薄膜41が破損により開口した部位からの液滴が溶液受け皿43に溜まる。この結果、液滴aが溶液受け皿43の底面乃至液面で散乱した試料溶液aが溶液飛翔防止壁47で遮られて、溶液受け皿43の外に飛翔することを防止することができる。
【0042】
なお、溶液飛翔防止壁47を溶液受け皿43の周囲の壁面より内側、かつ溶液受け皿の側壁上面より下に配置した場合について補足説明する。組み立て時は、シャーレ台座42’を外した状態で、先に反射電子検出器付きの受け皿43を設けたシャッタ51を横から取り付け固定する。次に、シャーレ台座42’を取り付けるのであれば、高さ等の構造上の干渉はない。
【0043】
また、膜破損の事故の後の分解の際には、本台座42’を先に取り外し、溶液受け皿43に溜まった溶液aを上から可能な範囲で吸い取り、次に反射電子検出器付きの受け皿43を設けたシャッタ51を横から抜き取る順番で取り外すことで、分解時の干渉の障害は無い。
【0044】
ここで、薄膜41が不良となるシャーレを利用すると様々な障害がある。これを避けるために、図5に示す装置を用意する。図5は薄膜41の耐圧確認装置の構成例を示す図である。図3と同一のものは、同一の符号を付して示す。シャーレ40を台座42’に載せて、その台座と共にシャーレの耐圧確認装置に取り付ける。本装置は、台座の保持台と真空ポンプ56、真空ゲージ55、バルブ57及び溶液受け皿59で構成されている。
【0045】
この装置は、台座42’にシャーレ40を載せた状態で薄膜41の下方にある空間を真空排気できる。真空排気状態を真空ゲージ55で検査することができ、薄膜41が正常であれば真空ゲージ55は真空ポンプ56での排気開始後の10〜30秒程度で適正な真空度を表示する。
【0046】
しかしながら、薄膜41の耐圧が不適当な場合は、目視で十分溶液の侵入が確認できる。このような場合に、溶液受け皿59を図5の確認装置内部に用意するのが適当で、溶液受け皿59により溶液を受け止めることで、溶液による真空ゲージ55や真空ポンプ56等への影響が低減できる。
【0047】
このような装置での確認後に、シャーレ交換台座42’と共にシャーレ40を図2の装置に取り付けることで、溶液侵入による装置事故を予防する環境を提供することができる。なお、耐圧確認装置に取り付けの際にシャーレ内に溶液を入れている場合がありうるので、内部の汚染が真空ポンプ56や真空ゲージ55に影響しないために、台座42’の下に交換可能な溶液受け皿を配置するのが適切である。
【0048】
このように、本発明によれば、薄膜の耐圧試験に合格したシャーレを交換用台座と共に試料観察装置に取り付けるようにしたので、試料観察装置へのシャーレの載置時における薄膜の破損の発生を格段に低減させることができる。
【0049】
図6は本発明の第3の実施例の要部断面図である。図3と同一のものは、同一の符号を付して示す。図において、60は試料に刺激を与える実験用刺激部材である。61は該実験用刺激部材をシャーレ交換台座42’に保持する保持具である。その他の構成は、図3に示すものと同じである。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0050】
この実施例は、薄膜41を取り付けたシャーレ40について、シャーレ40を取り付けた後に、実験用刺激部材60を保持具61でシャーレ交換台座42’に固定する。シャーレ40と実験用刺激部材60とは、装置から取り外した状態で固定できるので、自由な配置が可能になる。
【0051】
特に、シャーレ交換台座42’に対して、各種の実験用刺激部材60の保持具61を固定するネジ穴を多数用意することで、ユーザの自作の各種装置が取り付けられ、本装置に固有の各種実験を実施しやすくすることができる。実験用刺激部材60で与える刺激としては、物理的刺激又は電気的刺激又は各種放射線による刺激、又は生化学的な刺激又はバクテリア等の微生物による刺激を試料に与えるようにすることができる。これらの実験用刺激部材60の取り付けには、適当な物理的保持部がシャーレ40の近傍に必要であり、当該ネジ穴の数は複数で、2〜40個もあれば十分である。
【0052】
また、外形及びOリング49での真空保持部が同一形状になるシャーレ交換台座42’を複数作成し、これらのシャーレ交換台座42’の用途を変えることも可能である。特にμTASなどの専用の実験流路を持つ機器の一部に薄膜部を構成した特殊シャーレ等への対応には、固定部材の大幅変更が不可欠であり、元になる観察装置の利用拡大に、このような交換台座を用意し、このような応用的改良をできることは、装置運用上で重要である。
【0053】
この実施例によれば、試料に対して実験用刺激部材60により試料20の物理的状態を変化させることができ、それによる試料20の変化を観察することができる。また、物理的刺激又は電気的刺激又は各種放射線による刺激、又は生化学的な刺激又はバクテリア等の微生物による刺激を試料に与え、試料の変化を観察することができる。
【0054】
上述の実施例では、1次線として電子線を用いた場合を例にとったが、本発明はこれに限るものではなく、その他の荷電粒子線、例えばイオンビームを用いることもできる。
以上、説明した本発明の効果を列挙すれば、以下の通りである。
1)シャーレ交換台座を用意し、シャーレの装置取り付けをこの台座により行なうことで、シャーレの工作精度や薄膜性能に依存した不具合を図5に示す確認装置の上で確認することができ、倒立SEM鏡筒を備える装置へのシャーレ取り付け前の品質確認ができる。
2)シャーレ交換台座は適度な重量とサイズになり、両手での取り付け操作になる。これにより、シャーレ単体を片手で装置に取り付ける場合に比べて、中の溶液をうっかりこぼす危険を少なくすることができる。
3)シャーレ交換台座の下に溶液飛翔防止壁を設け、溶液受け皿の壁面と台座下側の間隙を減らし、溶液が受け皿の外に飛翔する受け皿外への汚染の危険を低減することができる。
4)3)の効果は、溶液受け皿の壁面を高くしてシャーレ交換台座の下側ぎりぎりに設ける場合に比べて、組み立ての容易性を向上することができ、かつ摩擦による問題を減らすことができる。
5)シャーレ交換台座の下に多重に溶液飛翔防止壁を作成すると、溶液の受け皿外への飛翔を更に減らすことができる。
6)薄膜破損での汚染部位にシャーレの取り付け台座も含まれ、これを取り外し、交換ないし洗浄できることは、保守性の向上につながる。
7)シャーレ交換台座に実験用刺激部材の取り付け穴を複数(2〜40個程度)用意し、ユーザが自作した様々な機器の先端部をシャーレの近傍に固定することができる。
8)シャーレ交換台座そのものが取り外し交換できるので、μTASなどの専用の実験流路を持つ専用の機器を取り付ける専用の台座の作成や交換を容易に行なうことができる。
【符号の説明】
【0055】
3 対物レンズ
4 反射電子検出器
20 試料
40 シャーレ
41 薄膜
42’ 改良台座
43 溶液受け皿
45 インナーパイプ
46 OLアパーチャホルダ
47 溶液飛翔防止壁
48 オリフィス
49 Oリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面に試料が保持される薄膜と、該薄膜の第2の面に接する雰囲気を減圧する真空室と、該真空室に接続され、前記薄膜を介して試料に1次線を照射する1次線照射手段と、該1次線の照射により試料から発生する2次的信号を検出する信号検出手段を具備する試料観察装置において、
前記薄膜をその中央部に配置するシャーレと、該シャーレを支持する台座よりなる試料保持手段を有し、該試料保持手段の台座の真空室側に試料溶液が飛翔することを防止するための溶液飛翔防止壁を設けたことを特徴とする試料観察装置。
【請求項2】
前記溶液飛翔防止壁は、前記台座の下面に少なくとも一重に設けることを特徴とする請求項1記載の試料観察装置。
【請求項3】
前記溶液飛翔防止壁を、前記薄膜中央部から3〜20mmの位置に1〜2mmの高さで二重に設けることを特徴とする請求項1又は2記載の試料観察装置。
【請求項4】
前記真空室の真空度を測定する真空ゲージを設け、該真空ゲージが真空室内の真空度の急激な劣化を検出したら、試料の下部に配置されている2次的信号を検出する信号検出手段を退避させる信号検出手段退避機構を設けたことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の試料観察装置。
【請求項5】
前記台座とシャーレと薄膜の正常性を確認するために、耐圧確認装置を用いて薄膜の状態を検査し、検査に合格した台座とシャーレと薄膜を本発明の試料観察装置に用いるようにしたことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の試料観察装置。
【請求項6】
前記台座に試料に物理状態を変化させるためのマニピュレータとして機能する実験用刺激部材を取り付けたことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の試料観察装置。
【請求項7】
前記実験用刺激部材は、物理的刺激又は電気的刺激又は各種放射線による刺激、又は生化学的な刺激又はバクテリア等の微生物による刺激を試料に与えるように構成されたことを特徴とする請求項6記載の試料観察装置。
【請求項8】
前記1次線は電子線、前記2次的信号は反射電子であることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の試料観察装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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