試験機能を具備した電力用ディジタル保護リレー装置
【課題】特別な試験器をなくとも系統故障時の模擬による、リレー演算やシーケンスロジックの検証や総合動作試験が実施可能なディジタル保護リレーを提供する。
【解決手段】入力変換器3と、入力変換器3に接続されたアナログ入力部4と、アナログ入力部4にシステムバス2を介して接続されるリレー・シーケンス演算部5を有し、アナログ入力部4が、アナログフィルタ41と、アナログフィルタ41に接続されるA/D変換部42と、A/D変換部42に接続されるディジタルフィルタ処理部43と、系統故障時の電圧波形や電流波形のデータ及び系統側の機器条件等の入力条件をあらかじめ書き込みしたメモリ45と、ディジタルフィルタ処理部43の前段又は後段に設置される切替えスイッチ44を備え、外部からの指令により切替えスイッチ44を切替えてメモリ45上のデータに従って、リレー演算やシーケンス処理,ロジック処理を行う試験機能を具備した。
【解決手段】入力変換器3と、入力変換器3に接続されたアナログ入力部4と、アナログ入力部4にシステムバス2を介して接続されるリレー・シーケンス演算部5を有し、アナログ入力部4が、アナログフィルタ41と、アナログフィルタ41に接続されるA/D変換部42と、A/D変換部42に接続されるディジタルフィルタ処理部43と、系統故障時の電圧波形や電流波形のデータ及び系統側の機器条件等の入力条件をあらかじめ書き込みしたメモリ45と、ディジタルフィルタ処理部43の前段又は後段に設置される切替えスイッチ44を備え、外部からの指令により切替えスイッチ44を切替えてメモリ45上のデータに従って、リレー演算やシーケンス処理,ロジック処理を行う試験機能を具備した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験機能を具備した電力用ディジタル保護リレー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統に発生する短絡,地絡故障等の故障の除去は、電力系統を形成する送電線,変圧器,母線,発電機といった要素ごとに設置された保護リレー装置が、その守備範囲内に発生した故障に対して動作し、当該故障点を含む区間を遮断器により、残りの健全な電力系統から切り離しすることで行われている。
【0003】
現在は、系統の電流,電圧情報をディジタル化し、ソフトウェア処理によって、系統故障を判別するアルゴリズムを実現したディジタル保護リレー装置が保護リレー装置の主流となっている。
【0004】
ディジタル保護リレー装置の概略について述べると、特高向けのディジタル保護リレー装置では、電力系統の電流,電圧情報を電気角30度や、高速なものでは3.75度といった周期でサンプリングしてディジタル化し、このデータに対して、ディジタルフィルタ処理や故障検出を実現するためのアルゴリズム演算、いわゆる保護リレー演算を実施して、系統の故障を検出する。さらに、機器の状態や他装置の状態等の入力条件及び、いくつかのリレー演算結果の組み合わせにより構成されるシーケンスロジックを実施し、最終的な引き外し指令、いわゆるトリップ指令を出力する。
【0005】
保護リレー装置の試験方法について述べると、保護リレーの故障検出機能であるリレー単体の特性試験については、静特性の検証と総合動作試験による検証がある。
【0006】
静特性の検証については、無歪み試験器により整定値近傍の交流量を入力することで、特性の誤差管理や動作時間の測定を実施している。
【0007】
一方、総合動作試験は、模擬送電線やディジタルシミュレータにより実施されている。例えば〔特許文献1〕には、系統定数を入力して系統解析プログラムによって系統現象を模擬することが記載されている。
【0008】
このような試験は、保護対象設備の実故障を模擬し、装置の総合的な機能を確認する試験である。その目的から、総合動作試験の検証設備は、その規模が大きくなり、また、意図する試験ケースを実現するには、模擬送電線設備の調整等が必要であり、試験にかかる工数も大きくなる。
【0009】
総合動作試験において実施されている、系統故障の模擬による検証は、リレー装置開発時や出荷試験時に実施するのが一般的であるが、リレー演算アルゴリズムの変更,シーケンスロジックの変更や改造を実施した際の総合動作試験の一環として実施される場合もある。また、実際に発生した複雑な系統故障に対して、リレー装置の動作の解析や再検証を実施するケースもあるが、この場合は、ディジタルシミュレータにより系統を模擬するか、系統故障時に記録した実際の系統側の電圧や電流等の波形データが利用できる場合は、この記録波形データに基づいて再現波形を作成する方法が考えられる。
【0010】
〔特許文献1〕には、外部に計算機を設けて、系統入力等のアナログ入力信号を受信しディジタル信号に変換して記憶する信号蓄積部,テスト用のディジタル入力信号を蓄積する第2の信号蓄積部を備え、これらの信号をディジタル演算処理部に入力して試験を行うことが記載されている。
【0011】
シミュレーションする場合は、系統モデルと現実の系統の差異がないようなモデルを作成する必要があり、所望の条件を実現するには系統のモデル作成に相当の労力を要する。系統故障時に記録されたデータが活用できる場合であっても、実際の記録波形をパソコン等で加工し、波形データをアンプ等に出力できる試験設備を用いて、波形を再現する必要があるなど、試験設備と波形データの加工等に労力を要している。
【0012】
したがって、リレーアルゴリズムやシーケンスロジックの変更や改造時に、総合動作試験により、検証を行うためには、試験設備の準備のみならず、その検証条件の準備に相当の労力を払う必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平8−317544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前述のように、系統故障時の過渡的な波形条件を模擬するには、ディジタルシミュレータや模擬送電線設備といった大規模な試験設備が必要な上、系統に見合った試験条件を調整する労力が必要であり、演算アルゴリズムやシーケンスロジックの検証には相当なコストを必要としている。このことは、リレー開発時のみならず、演算アルゴリズムやシーケンスロジックを改造した際も同様である。
【0015】
さらに装置を実系統に設置後は、上述したように設備の問題と時間制約によって、現地における総合動作試験の実施には制限があった。
【0016】
本発明の目的は、特別な試験器がなくとも系統故障時の模擬による、リレー演算やシーケンスロジックの検証や総合動作試験が実施可能な試験機能を具備した電力用ディジタル保護リレー装置を提供することにある。
【0017】
本発明の他の目的は、特別な設備がなくとも、リレー装置の機能として、系統故障の模擬による総合動作試験機能を設け、リレーの演算やシーケンスロジックの総合動作による確認が容易に実施可能な試験機能を具備した電力用ディジタル保護リレー装置を提供することにある。
【0018】
本発明のさらに他の目的は、リレーアルゴリズムの変更時やシーケンスロジックの変更時に、容易に短時間で検証が実施可能とする試験機能を具備した電力用ディジタル保護リレー装置を提供することにある。
【0019】
本発明のさらに他の目的は、実際の系統故障時の記録データの再現機能(プレイバック機能)を設けることで、複雑な系統故障に対する再現検証が容易に実施可能な試験機能を具備した電力用ディジタル保護リレー装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するために、本発明の試験機能を具備した電力用ディジタル保護リレー装置は、系統故障時の電圧波形や電流波形のデータ及び系統側の機器条件等の入力条件をあらかじめ書き込みしたメモリをディジタルリレー内部に設け、系統側から取り込みするアナログ入力量か、メモリに書き込みしてある波形データのいずれかを読出するように、外部から切替え可能な切替えスイッチを設けて、リレー装置の検証を実施する場合には、切替えスイッチを波形データのメモリ側に切替し、メモリに書き込まれている波形データを保護リレーのサンプリング周期で逐次読出し、この読出したデータに従って、リレーの演算を実施することで、模擬送電線等を利用して、系統故障を模擬した電流,電圧波形を外部から印加した場合と同様の効果が得られるようにしたものである。
【0021】
切替えスイッチは、保護リレーのヒューマンインターフェイス部の試験設定等でソフト制御により切替える形態であっても、リレー装置に設けたハード的なスイッチにより切替える方式であっても良い。
【0022】
また、波形データ書き込み用のメモリは、着脱可能な可搬型のメモリであっても、基板上に固定されたメモリであってもよい。
【0023】
切替えスイッチは、アナログ量をディジタル量に変換するA/D変換器とマイクロプロセッサ等のリレー演算部の間に設けても、演算部で実施されるソフトウェア処理の途中、例えば、ディジタルフィルタ処理実施後の電流,電圧データをリレーアルゴリズムの演算部に受け渡しする処理部分等に、ソフトウェアで実装する形態であっても良い。
【0024】
また、検証範囲をディジタルリレーを構成するアナログフィルタやA/D変換器等のハードウェアまで拡大する場合には、アナログフィルタの前段に、切替えスイッチを設け、メモリからの読出結果をディジタル・アナログ変換器(D/A変換器)を通して、所定のレベルのアナログ信号に変換し、再度、フィルタ前段よりスイッチを介して取り込みする回路構成とする。この構成により、あらかじめ波形データメモリに書き込まれている系統故障時の波形データに対するリレー動作の確認が、アナログフィルタやA/D変換器等のハードウェアを含めて検証することが可能である。
【0025】
また、波形データ書き込み用のメモリと外部とのインターフェイスを設けることで、実際の系統故障時に他装置で記録された波形データやシミュレーション等により取得した波形データを外部からメモリに書き込みすることで、容易にリレー応動の検証が可能である。尚、可搬型のメモリを適用している場合は、メモリの着脱により、データの移動が容易に実施可能である。
【発明の効果】
【0026】
あらかじめ系統の内部故障や外部故障の代表的なケースをメモリに書き込みしておき、それらを切替えて演算結果を評価することで、リレー演算部のアルゴリズム変更時やシーケンスロジック変更時の評価が容易に実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施例であるディジタル保護リレー装置の構成図である。
【図2】アナログ入力部におけるアナログ入力データの処理フロー図である。
【図3】本実施例の故障模擬機能を実装した保護リレーを実現するアナログ入力回路の構成例1の詳細を示すブロック図である。
【図4】アナログ入力回路の構成例2の詳細を示すブロック図である。
【図5】A/D変換後のアナログデータを切替えるアナログ入力部の回路構成図である。
【図6】可搬型のメモリを採用したアナログ入力部の回路構成図である。
【図7】A/D変換出力と波形データの切替えをハードウェアで実現したアナログ入力部の回路構成図である。
【図8】アナログフィルタの前段より故障模擬データを印加するアナログ入力部の回路構成図である。
【図9】データセーブメモリの例を示す図である。
【図10】試験設定用ヒューマンインターフェイスの例を示す図である。
【図11】模擬波形の例を示す図である。
【図12】試験データ管理テーブルの例を示す図である。
【図13】波形データメモリの配置例を示す図である。
【図14】アナログ部処理フローの例を示す流れ図である。
【図15】入力条件の模擬データのメモリ配置例を示す図である。
【図16】入力条件の模擬データの例を示す図である。
【図17】再現試験機能のヒューマンインターフェイスの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の一実施例を図1から図17を用いて説明する。図1は、本実施例のディジタル保護リレー装置の構成図である。
【0029】
本実施例のディジタル保護リレー装置1は、入力変換器3,入力変換器3に接続されたアナログ入力部4,アナログ入力部4にシステムバス2を介して接続されるリレー・シーケンス演算部5及びI/O部6を含んで構成される。
【0030】
入力変換器3は、変圧器や遮断器といった電力機器に設置されるPTやCTを介して取り込んだ系統の電流や電圧を、アナログ入力部4で取扱いできる低圧の電圧信号に変換する変換器である。
【0031】
アナログ入力部4は、アナログフィルタ41,アナログフィルタ41に接続されるA/D変換部42,A/D変換部42に接続されるディジタルフィルタ処理部43,ディジタルフィルタ処理部43に接続される切替えスイッチ44,切替えスイッチ44に接続されるメモリ45及びバスインターフェイス46を含んで構成される。メモリ45には、系統故障時の電圧波形や電流波形のデータ及び系統側の機器条件等の入力条件をあらかじめ書き込みされている。
【0032】
入力変換器3によって低電圧に変換された系統側のアナログ信号は、アナログフィルタ41に取り込まれる。アナログフィルタ41は、不要な周波数成分を除去する特性を持つ。アナログフィルタ41の出力は、A/D変換部42に入力され、ディジタル化処理が実施される。ディジタルフィルタ処理部43は、ハードウェアやマイクロプロセッサによるソフトウェア処理により実現されており、ディジタルフィルタ処理部43では、次段のディジタルリレー演算に不要な周波数をカットしたり、必要な周波数の抽出を行う。この結果をバスインターフェイス46およびシステムバス2を通して、リレー・シーケンス演算部5に受け渡しする。
【0033】
リレー・シーケンス演算部5は、システムバスインターフェイス51,システムバスインターフェイス51に内部バス54を介して接続される演算部52及びメモリ53を含んで構成される。なお、ディジタルフィルタ処理部43にリレー・シーケンス演算部5を含んだ構成とすることもできる。
【0034】
リレー・シーケンス演算部5はシステムバス2を介してディジタルデータを読出する。演算部52は、アナログ入力部4の出力結果をシステムバスインターフェイス51を介して読出し、リレー演算およびリレー演算結果に基づいたシーケンス演算を実施する。シーケンス演算に必要な外部状態の取り込みは、I/O部6を介して実施する。また、最終的なトリップ指令や表示出力もI/O部6を経由して実施する。
【0035】
I/O部6は、システムバスインターフェイス61,システムバスインターフェイス61に内部バス64を介して接続され、補助リレードライバおよび補助リレーから構成されるDO部62及びバッファやフォトカプラ等から構成されるDI部63を含んで構成される。なお、DO部62とDI部63を分離し、個別に設けた構成であっても構わない。
【0036】
ディジタルリレー内部のデータの処理の流れについて説明する。系統側の電圧や電流等のアナログ情報は、入力変換器3,アナログフィルタ41,A/D変換部42,ディジタルフィルタ処理部43,バスインターフェイス46及びシステムバス2を経由して、リレー・シーケンス演算部5に受け渡され、演算結果に従って、I/O部6を制御する。
【0037】
ディジタルリレーのアナログ入力部4におけるアナログ入力データの処理フローを図2に示す。アナログフィルタ41で不要な周波数成分を除去し、その結果をA/D変換部42でディジタル変換処理する。さらに、ディジタル変換されたデータに対して、ディジタルフィルタ処理部43でディジタルフィルタ処理を実施し、この結果をバスインターフェイス46のインターフェイス部を介して、さらに次段のリレー演算部へ受け渡しする。
【0038】
本実施例では、試験用のアナログ波形データを書き込みしたメモリ45をアナログ入力部4に設け、リレー演算に使用するアナログ入力データ取り込みの前段に、切替えスイッチ44を設け、リレー運用時には、系統側からのアナログ取り込みデータを切替えスイッチ44により選択し、リレー演算を実施し、リレー試験設定時には、切替えスイッチ44を切替えし、メモリ45側のデータを選択取り込みしてリレー演算を実施するようにしている。この回路構成により、試験条件により系統側のデータの代わりに波形データを読出し、運用時と同様に、リレー演算を実施させ、あたかも系統側から取り込みした如く、メモリ45上のデータを取り込みし、リレー演算やシーケンス演算を実施させ、リレーの動作の検証を行うことができるようになっている。
【0039】
図3は、本実施例の故障模擬機能を実装した保護リレーを実現するアナログ入力回路の構成例1の詳細を示すブロック図である。直列にアナログフィルタ41,A/D変換部42,ディジタルフィルタ処理部43を設けている。構成例1では、ディジタルフィルタ処理部43とバスインターフェイス46の間に切替えスイッチ44を設け、試験用波形データ書き込み用のメモリ45を設け、切替えスイッチ44により、バスインターフェイス46に受け渡しするデータをディジタルフィルタ処理部43の出力か、試験用波形データのメモリ45の内容かのいずれかを選択切替えできる構成としている。バスインターフェイス46は、さらに次段のリレー演算部へデータを受け渡しする。なお、試験用波形データのメモリ45には、あらかじめ試験用の波形データを書き込みしておく。
【0040】
常時のリレー運用時は、切替えスイッチ44は、ディジタルフィルタ処理部43の結果を選択し、系統側から取り込まれたアナログデータを次段のリレー演算部へ受け渡しする処理となるので、図2で説明したアナログ入力部のアナログ入力データ処理フローが行われる。
【0041】
一方、切替えスイッチ44を試験用波形データのメモリ45側に切替えた際には、リレーは試験モードとなり、系統側のアナログデータを取り込む代わりに、あらかじめ書き込みされている波形データを読出しし、その内容に基づいて、次段のリレー演算が実施されることになる。
【0042】
図3では、切替えスイッチ44をディジタルフィルタ処理部43とリレー演算部とのインターフェイス部であるバスインターフェイス46の間に設けたが、切替えスイッチ44をディジタルフィルタ処理部43の前段に設けても同様な機能が実現できる。
【0043】
図4は、アナログ入力回路の構成例2の詳細を示すブロック図である。直列にアナログフィルタ41、A/D変換部42を直列に設け、A/D変換部42の出力とディジタルフィルタ処理部43の間に切替えスイッチ44を設ける。切替えスイッチ44は、構成例1と同様に、A/D変換部42の出力か、試験用波形データ書き込み用のメモリ45の出力かのいずれかを選択切替し、次段のディジタルフィルタ処理部43に受け渡しする回路構成となっている。
【0044】
図5は、本実施例のアナログ入力部4を実現しうるハードウェア回路構成例を示す。図5に示す回路構成例は、基板上に固定的に実装されるメモリで実現した例である。直列に系統側情報を入力変換器から入力するアナログフィルタ41,信号をA/D変換するA/D変換部42が設けられ、アナログ入力部4の内部バス48を介して、このバス上にA/D変換部42,演算部100,メモリ45,バスインターフェイス46,メモリ内容の読出や書き込み用のインターフェイス49が設けられている。
【0045】
図6は、本実施例のアナログ入力部4を実現しうる他のハードウェア回路の構成例を示す。図6に示す回路構成例は、可搬型のメモリ、いわゆるフラッシュメモリカードやUSBメモリ等を利用した構成例である。直列に系統側情報を入力変換器から入力するアナログフィルタ41,信号をA/D変換するA/D変換部42が設けられ、アナログ入力部4の内部バス48を介して、このバス上にA/D変換部42,演算部100,バスインターフェイス46が設けられている。また、内部バス48上に可搬型メモリ用のインターフェイス101とメモリ45の物理使用に合わせたソケット102を設け、波形データ書き込み用のメモリ45はソケット102を介して接続される。
【0046】
なお、図5および図6の例では、切替えスイッチをソフトウェアで実現することを想定しているが、ハードウェアで構成した例を図7に示す。
【0047】
図7では、A/D変換部42の出力と演算部100の内部バス48の間に切替えスイッチを実現するセレクタ103を設けている。本実施例では、セレクタ103は、波形データ書き込み用のメモリ45とA/D変換部42の出力のいずれかを選択し、演算部100の内部バス48へ出力する構成としている。メモリ45の読出や書き込み用のインターフェイス49は、本例では、独立した構成としているが、内部バス48を経由してメモリ45を読出する構成としても良い。
【0048】
図5,図6,図7に示す例では、あらかじめメモリに書き込みした波形データにより、リレー演算のアルゴリズムやシーケンスロジックの検証を行うための構成を示したが、アナログフィルタやA/D変換器を含めたリレーシステムの健全性確認まで実施する場合の構成図を図8に示す。
【0049】
本例では、アナログフィルタ41の前段に切替えスイッチ106を設けている。切替えスイッチ106は、入力信号107または入力信号108のいずれかを設定により選択する回路となっている。本例では、入力信号107には系統のアナログ入力情報を取り込みする入力変換器の出力信号が接続されている。演算部100の内部バス48には、A/D変換部42の出力,波形データ書き込み用のメモリ45,バスインターフェイス46,メモリ読出,書き込み用のインターフェイス49が接続されている。また、内部バス48上に波形データからアナログ波形を生成するD/A変換出力部105を設け、D/A変換出力部105は、切替えスイッチ106の入力信号108と接続されている。
【0050】
通常の運用時には、切替えスイッチ106は、系統側の入力信号107を選択し、系統側の入力情報にしたがい、リレー演算が実施される。一方、試験波形印加のモードでは、切替えスイッチ108は、入力信号108側に切替え、演算部100は、あらかじめ試験用の波形が書き込まれている波形データのメモリ45より、波形データを読出し、D/A変換出力部105より出力する。演算部100は、波形データのメモリ45に書き込まれているデータのサンプリング周期に従って、データを読出し、D/A変換出力部105へ出力指令を与える処理を繰り返す。
【0051】
この処理によって、D/A変換器105より、波形データが出力され、切替えスイッチ106を介して、再びアナログフィルタ41,A/D変換部42,リレー演算部100へ取り込まれ、リレー演算処理が実施される。この処理により、あらかじめ書き込まれている波形データによるアナログフィルタやA/D変換器を含めたリレーシステムの健全性の確認が実現できる。
【0052】
図9は、メモリ45に記録されているデータの構成例を示す図である。図9に示すように、記録データには、サンプリングした入力電気量が時系列に配置され、リレーの状態,遮断器の状態等が記録されている。
【0053】
図10に、保護リレー装置における試験設定の画面の例を示す。図10に示すようなヒューマンインターフェイスを設け、総合動作模擬の項目71が設定72側に選ばれたことを条件に切替えスイッチ44を系統側からメモリ45側に切替えするものとする。
【0054】
また、模擬ケース選択80のように模擬選択の機能を設けることで、内部故障や外部故障等、あらかじめ決めておいた複数の故障ケースの模擬が可能となる。
【0055】
図10では、ケース1(74)が選択された状態を示している。メモリ45に準備される系統故障の波形データは模擬故障の時間的な長さが有限となるため、模擬開始のトリガ信号が必要となる。このトリガ信号は、ヒューマンインターフェイス上のスイッチであっても、ハード的なスイッチであっても、設定72やケース1(74)の選択された条件を兼用してもよい。
【0056】
図12に、試験データの管理用のデータテーブルを示す。試験データ1(91)はケース1のデータを意味し、試験データ1から試験データNについて、メモリ45上のデータの開始アドレス92,データのサンプル数93、およびその他の管理情報94が格納されている。
【0057】
図13に、実際の波形データをメモリに格納した例を示す。波形データ1(121)がケース1の波形データのエリアである。波形データは、規則的に時系列にデータをならべて配置してあれば良いが、この例では、メモリアドレス131から順に波形データを格納したケースを示している。
【0058】
図11に、模擬波形の例を示す。サンプリング点141から順にサンプリング点142,143,144と1サンプリング周期Δtの時間を隔てて、波形の瞬時値を図13に示すようにメモリに格納する。
【0059】
この例では、サンプリング点141のデータをメモリアドレス131に格納し、サンプリング点142をメモリアドレス132に格納するといった具合に時系列的に配置,格納している。また、先頭のデータとなる131のメモリアドレスを図12に示すデータテーブル中のデータ開始アドレス92に格納しておく。
【0060】
この構成により、選択された試験データケースに対応したデータ開始アドレスを読出すことで、波形データの先頭のメモリアドレスを取得できる。さらに、模擬波形を形成するデータのサンプル数を図12に示す管理テーブル中の管理情報94に保存しておくことで、故障模擬を実施する際に、読出し回数を指定することが可能である。
【0061】
この構成により、模擬故障データの長さが一定でない複数の試験ケースを装備することが可能となる。また、ディジタルリレーのサンプリング周期と波形データのサンプリング周期が同一でない場合を考慮し、図12に示す管理テーブルには、サンプリング周波数等を管理情報94にもたせておき、リレーのサンプリング周期と波形データのサンプリング周期が合致しない場合は、波形データを間引いて使用することで多様なデータの活用も可能である。管理情報としては、ゲインやオフセットの補正等への使用も考えられる。
【0062】
図14は、本実施例の模擬故障機能を実現する処理フローチャートの例を示す。図14では、図1に示すアナログ入力回路構成を実施する場合の処理フローチャートを代表して示し、ディジタルリレーで定周期、通常はサンプリング周期等で実施される一連の処理を示している。
【0063】
ステップ151で、アナログデータの読出し処理を開始する。従来は、ステップ153からのA/D変換器のデータ読出処理になるが、本実施例では、ステップ152で、総合動作模擬試験のモードであるかどうかの判定を実施する。
【0064】
この判定により、切替えスイッチの切替え有無の判断が行われ、通常の運用の場合には、ステップ153へ進み、A/D変換器のデータ読出し,ステップ163のリレー演算,ステップ164のシーケンスロジック演算が行われ、サンプリング周期毎に実施されるリレー機能部の主たる処理が完了する。
【0065】
総合動作模擬試験のモードが選択されている場合は、ステップ153のA/D変換器の読出し処理へは進まず、ステップ154で、模擬試験中か、開始前かの判定を実施する。
【0066】
模擬試験を開始していない場合は、ステップ155で、試験開始のトリガを受け付けしたかを判定する。これは前述のようにヒューマンインターフェイスの設定や、外部からのスイッチ条件等で構成する。
【0067】
トリガを受け付けしていない場合は、ステップ163のリレー演算処理へ進む。この場合は、リレー演算に使用する波形データが読出されていないので、リレーとしては無入力の状態になる。
【0068】
トリガを受け付けした場合は、ステップ156で、図10において選択されている試験ケースに従って、図12に示す管理情報を取得する。ステップ157で、読出アドレスカウンタをこの情報に従ってセットし、ステップ158で、データを読出し、ステップ159で、リレー演算部へのデータ受け渡しを実施する。
【0069】
ステップ160は読出回数の判定部分であり、試験データの管理情報において指定されるデータサンプル数まで順次読み出すための判定箇所である。選択されている試験ケースの波形データの最後まで達していない、つまりサンプル数だけ読出ししていない場合は、ステップ161で、読出アドレスを次のサンプルデータのアドレスを指定するように加算する。
【0070】
図13に示すケースでは、メモリアドレス131からメモリアドレス132,メモリアドレス133といった具合に1周期ごとに順番に読出する。ステップ161の読出アドレスの加算では、管理情報94に従って、波形データのサンプリング周期とリレーの演算周期が合致していない場合は、読み飛ばしを実施するように加算値を調整することで、対応が可能である。逆にリレーの演算周期が波形データのサンプリング周期より大きい場合や、サンプリング周波数が整数倍になっていない場合等は、数学的な補間処理を実施することでも対応が可能である。
【0071】
ステップ160で、波形データのサンプル数だけ読出し完了した場合は、ステップ162に進んで模擬試験の処理を終了し、次のトリガ受信待ちになる。
【0072】
図7に示した例により記録されたデータによる再現試験は、図17に示す試験設定画面において、記録データの選択と再現試験を実施するプレイバックモード211を設定して行う。上述した総合動作模擬試験の構成と大きく変わる点はなく、あらかじめ準備しておく故障模擬用の波形データメモリから読出す処理を、図9に示す記録データメモリからの読出しに変えて実現できる。
【0073】
これまでの説明では、系統側のアナログ情報をメモリ上の波形データにて模擬する構成を述べたが、系統側の機器や他装置から取り込みするON/OFF情報を模擬する方法について説明する。
【0074】
図16に、模擬対象の入力情報のタイムチャートを示す。本来、これらの情報は、入力回路を通して外部機器から取り込まれている。図1に示す構成では、DI部63から取り込みされている。これらの入力情報は、シーケンスロジック演算を実施する演算部52で使用される。メモリ45上のデータでこれらの模擬する場合も波形データ同様に、これらの情報をメモリ45に配置し、実際の入力回路からの取り込み情報から、メモリ45からの読出し情報に切替えることで、外部条件を含めた模擬試験が可能である。
【0075】
図15に、メモリ45上に図16に示す模擬入力情報を実現するデータを記載した例を示す。図16に示す例では、入力条件191〜194を含めた8点の入力条件を示している。サンプリング周期ごとに、これら8点の情報をデータ化して、メモリ上に準備し、各々サンプリング点201〜205に割り付けしている。このデータを波形データ同様にサンプリング周期で読出し、外部からの入力条件の代わりとしてシーケンスロジック演算に使用することで、外部条件を含めた模擬試験が実現できる。
【0076】
ここでは、あらかじめ試験用としてメモリに書き込まれたデータを使うケースを説明したが、保護リレーの記録機能によってメモリに記録された故障時のデータを使うようにしてもよい。すなわち、ディジタルリレーには、リレー動作の解析用として、データ記録機能を具備しているものが知られているが、前記の切替えスイッチをデータ記録用のメモリと接続することで、系統故障時に記録したデータを直接読出しして、系統故障時のリレー動作の再現が容易に実現可能である。また、系統故障のデータを書き込みするメモリは、データ記録機能用のメモリと共用する構成であっても、メモリを個別に配置する構成であっても良い。
【0077】
以上の構成により、系統故障の模擬機能や系統故障時のプレイバック機能を有したディジタル保護リレーを実現できる。
本実施例によれば、あらかじめ系統の内部故障や外部故障の代表的なケースをメモリに書き込みしておき、それらを切替えて演算結果を評価することで、リレー演算部のアルゴリズム変更時やシーケンスロジック変更時の評価が容易に実施可能である。
【0078】
又、試運転時の試験において、容易に系統故障の模擬による総合動作の検証が可能であり、外部表示や他装置との接続等の確認や総合動作検証が容易に実施可能であり、現地における試験工数の削減に大いに貢献できる。
【0079】
又、保護リレーに実装される波形再生用のメモリに、複雑な系統故障の際に別の保護リレーやオシロ記録装置によって保存されたデータを書き込みするだけで、容易にリレー応動の再現や検証が実現でき、試験設備の大幅な簡素化と再現試験や検証にかかる作業工数を大幅に短縮できる。
【0080】
又、可搬型のメモリを用いることで、データ記録元の保護リレーから、試験に供する保護リレーへのデータの受け渡しが容易となり、試験効率の向上に寄与する。
【0081】
又、保護リレーが備えている系統故障時の波形記録メモリの内容をリレー演算用のデータとして読出しし、リレー演算やシーケンスロジックを動作させる機能を設けることで、リレー動作の再現機能を実現できる。本機能は、複雑な系統事象発生時のリレー動作の再現機能を実現するものであり、リレー応動の解析のみならず、他装置の応動検証にも有効である。
【符号の説明】
【0082】
41 アナログフィルタ
42 A/D変換部
43 ディジタルフィルタ処理部
44 切替えスイッチ
45 メモリ
46 バスインターフェイス
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験機能を具備した電力用ディジタル保護リレー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統に発生する短絡,地絡故障等の故障の除去は、電力系統を形成する送電線,変圧器,母線,発電機といった要素ごとに設置された保護リレー装置が、その守備範囲内に発生した故障に対して動作し、当該故障点を含む区間を遮断器により、残りの健全な電力系統から切り離しすることで行われている。
【0003】
現在は、系統の電流,電圧情報をディジタル化し、ソフトウェア処理によって、系統故障を判別するアルゴリズムを実現したディジタル保護リレー装置が保護リレー装置の主流となっている。
【0004】
ディジタル保護リレー装置の概略について述べると、特高向けのディジタル保護リレー装置では、電力系統の電流,電圧情報を電気角30度や、高速なものでは3.75度といった周期でサンプリングしてディジタル化し、このデータに対して、ディジタルフィルタ処理や故障検出を実現するためのアルゴリズム演算、いわゆる保護リレー演算を実施して、系統の故障を検出する。さらに、機器の状態や他装置の状態等の入力条件及び、いくつかのリレー演算結果の組み合わせにより構成されるシーケンスロジックを実施し、最終的な引き外し指令、いわゆるトリップ指令を出力する。
【0005】
保護リレー装置の試験方法について述べると、保護リレーの故障検出機能であるリレー単体の特性試験については、静特性の検証と総合動作試験による検証がある。
【0006】
静特性の検証については、無歪み試験器により整定値近傍の交流量を入力することで、特性の誤差管理や動作時間の測定を実施している。
【0007】
一方、総合動作試験は、模擬送電線やディジタルシミュレータにより実施されている。例えば〔特許文献1〕には、系統定数を入力して系統解析プログラムによって系統現象を模擬することが記載されている。
【0008】
このような試験は、保護対象設備の実故障を模擬し、装置の総合的な機能を確認する試験である。その目的から、総合動作試験の検証設備は、その規模が大きくなり、また、意図する試験ケースを実現するには、模擬送電線設備の調整等が必要であり、試験にかかる工数も大きくなる。
【0009】
総合動作試験において実施されている、系統故障の模擬による検証は、リレー装置開発時や出荷試験時に実施するのが一般的であるが、リレー演算アルゴリズムの変更,シーケンスロジックの変更や改造を実施した際の総合動作試験の一環として実施される場合もある。また、実際に発生した複雑な系統故障に対して、リレー装置の動作の解析や再検証を実施するケースもあるが、この場合は、ディジタルシミュレータにより系統を模擬するか、系統故障時に記録した実際の系統側の電圧や電流等の波形データが利用できる場合は、この記録波形データに基づいて再現波形を作成する方法が考えられる。
【0010】
〔特許文献1〕には、外部に計算機を設けて、系統入力等のアナログ入力信号を受信しディジタル信号に変換して記憶する信号蓄積部,テスト用のディジタル入力信号を蓄積する第2の信号蓄積部を備え、これらの信号をディジタル演算処理部に入力して試験を行うことが記載されている。
【0011】
シミュレーションする場合は、系統モデルと現実の系統の差異がないようなモデルを作成する必要があり、所望の条件を実現するには系統のモデル作成に相当の労力を要する。系統故障時に記録されたデータが活用できる場合であっても、実際の記録波形をパソコン等で加工し、波形データをアンプ等に出力できる試験設備を用いて、波形を再現する必要があるなど、試験設備と波形データの加工等に労力を要している。
【0012】
したがって、リレーアルゴリズムやシーケンスロジックの変更や改造時に、総合動作試験により、検証を行うためには、試験設備の準備のみならず、その検証条件の準備に相当の労力を払う必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平8−317544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前述のように、系統故障時の過渡的な波形条件を模擬するには、ディジタルシミュレータや模擬送電線設備といった大規模な試験設備が必要な上、系統に見合った試験条件を調整する労力が必要であり、演算アルゴリズムやシーケンスロジックの検証には相当なコストを必要としている。このことは、リレー開発時のみならず、演算アルゴリズムやシーケンスロジックを改造した際も同様である。
【0015】
さらに装置を実系統に設置後は、上述したように設備の問題と時間制約によって、現地における総合動作試験の実施には制限があった。
【0016】
本発明の目的は、特別な試験器がなくとも系統故障時の模擬による、リレー演算やシーケンスロジックの検証や総合動作試験が実施可能な試験機能を具備した電力用ディジタル保護リレー装置を提供することにある。
【0017】
本発明の他の目的は、特別な設備がなくとも、リレー装置の機能として、系統故障の模擬による総合動作試験機能を設け、リレーの演算やシーケンスロジックの総合動作による確認が容易に実施可能な試験機能を具備した電力用ディジタル保護リレー装置を提供することにある。
【0018】
本発明のさらに他の目的は、リレーアルゴリズムの変更時やシーケンスロジックの変更時に、容易に短時間で検証が実施可能とする試験機能を具備した電力用ディジタル保護リレー装置を提供することにある。
【0019】
本発明のさらに他の目的は、実際の系統故障時の記録データの再現機能(プレイバック機能)を設けることで、複雑な系統故障に対する再現検証が容易に実施可能な試験機能を具備した電力用ディジタル保護リレー装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するために、本発明の試験機能を具備した電力用ディジタル保護リレー装置は、系統故障時の電圧波形や電流波形のデータ及び系統側の機器条件等の入力条件をあらかじめ書き込みしたメモリをディジタルリレー内部に設け、系統側から取り込みするアナログ入力量か、メモリに書き込みしてある波形データのいずれかを読出するように、外部から切替え可能な切替えスイッチを設けて、リレー装置の検証を実施する場合には、切替えスイッチを波形データのメモリ側に切替し、メモリに書き込まれている波形データを保護リレーのサンプリング周期で逐次読出し、この読出したデータに従って、リレーの演算を実施することで、模擬送電線等を利用して、系統故障を模擬した電流,電圧波形を外部から印加した場合と同様の効果が得られるようにしたものである。
【0021】
切替えスイッチは、保護リレーのヒューマンインターフェイス部の試験設定等でソフト制御により切替える形態であっても、リレー装置に設けたハード的なスイッチにより切替える方式であっても良い。
【0022】
また、波形データ書き込み用のメモリは、着脱可能な可搬型のメモリであっても、基板上に固定されたメモリであってもよい。
【0023】
切替えスイッチは、アナログ量をディジタル量に変換するA/D変換器とマイクロプロセッサ等のリレー演算部の間に設けても、演算部で実施されるソフトウェア処理の途中、例えば、ディジタルフィルタ処理実施後の電流,電圧データをリレーアルゴリズムの演算部に受け渡しする処理部分等に、ソフトウェアで実装する形態であっても良い。
【0024】
また、検証範囲をディジタルリレーを構成するアナログフィルタやA/D変換器等のハードウェアまで拡大する場合には、アナログフィルタの前段に、切替えスイッチを設け、メモリからの読出結果をディジタル・アナログ変換器(D/A変換器)を通して、所定のレベルのアナログ信号に変換し、再度、フィルタ前段よりスイッチを介して取り込みする回路構成とする。この構成により、あらかじめ波形データメモリに書き込まれている系統故障時の波形データに対するリレー動作の確認が、アナログフィルタやA/D変換器等のハードウェアを含めて検証することが可能である。
【0025】
また、波形データ書き込み用のメモリと外部とのインターフェイスを設けることで、実際の系統故障時に他装置で記録された波形データやシミュレーション等により取得した波形データを外部からメモリに書き込みすることで、容易にリレー応動の検証が可能である。尚、可搬型のメモリを適用している場合は、メモリの着脱により、データの移動が容易に実施可能である。
【発明の効果】
【0026】
あらかじめ系統の内部故障や外部故障の代表的なケースをメモリに書き込みしておき、それらを切替えて演算結果を評価することで、リレー演算部のアルゴリズム変更時やシーケンスロジック変更時の評価が容易に実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施例であるディジタル保護リレー装置の構成図である。
【図2】アナログ入力部におけるアナログ入力データの処理フロー図である。
【図3】本実施例の故障模擬機能を実装した保護リレーを実現するアナログ入力回路の構成例1の詳細を示すブロック図である。
【図4】アナログ入力回路の構成例2の詳細を示すブロック図である。
【図5】A/D変換後のアナログデータを切替えるアナログ入力部の回路構成図である。
【図6】可搬型のメモリを採用したアナログ入力部の回路構成図である。
【図7】A/D変換出力と波形データの切替えをハードウェアで実現したアナログ入力部の回路構成図である。
【図8】アナログフィルタの前段より故障模擬データを印加するアナログ入力部の回路構成図である。
【図9】データセーブメモリの例を示す図である。
【図10】試験設定用ヒューマンインターフェイスの例を示す図である。
【図11】模擬波形の例を示す図である。
【図12】試験データ管理テーブルの例を示す図である。
【図13】波形データメモリの配置例を示す図である。
【図14】アナログ部処理フローの例を示す流れ図である。
【図15】入力条件の模擬データのメモリ配置例を示す図である。
【図16】入力条件の模擬データの例を示す図である。
【図17】再現試験機能のヒューマンインターフェイスの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の一実施例を図1から図17を用いて説明する。図1は、本実施例のディジタル保護リレー装置の構成図である。
【0029】
本実施例のディジタル保護リレー装置1は、入力変換器3,入力変換器3に接続されたアナログ入力部4,アナログ入力部4にシステムバス2を介して接続されるリレー・シーケンス演算部5及びI/O部6を含んで構成される。
【0030】
入力変換器3は、変圧器や遮断器といった電力機器に設置されるPTやCTを介して取り込んだ系統の電流や電圧を、アナログ入力部4で取扱いできる低圧の電圧信号に変換する変換器である。
【0031】
アナログ入力部4は、アナログフィルタ41,アナログフィルタ41に接続されるA/D変換部42,A/D変換部42に接続されるディジタルフィルタ処理部43,ディジタルフィルタ処理部43に接続される切替えスイッチ44,切替えスイッチ44に接続されるメモリ45及びバスインターフェイス46を含んで構成される。メモリ45には、系統故障時の電圧波形や電流波形のデータ及び系統側の機器条件等の入力条件をあらかじめ書き込みされている。
【0032】
入力変換器3によって低電圧に変換された系統側のアナログ信号は、アナログフィルタ41に取り込まれる。アナログフィルタ41は、不要な周波数成分を除去する特性を持つ。アナログフィルタ41の出力は、A/D変換部42に入力され、ディジタル化処理が実施される。ディジタルフィルタ処理部43は、ハードウェアやマイクロプロセッサによるソフトウェア処理により実現されており、ディジタルフィルタ処理部43では、次段のディジタルリレー演算に不要な周波数をカットしたり、必要な周波数の抽出を行う。この結果をバスインターフェイス46およびシステムバス2を通して、リレー・シーケンス演算部5に受け渡しする。
【0033】
リレー・シーケンス演算部5は、システムバスインターフェイス51,システムバスインターフェイス51に内部バス54を介して接続される演算部52及びメモリ53を含んで構成される。なお、ディジタルフィルタ処理部43にリレー・シーケンス演算部5を含んだ構成とすることもできる。
【0034】
リレー・シーケンス演算部5はシステムバス2を介してディジタルデータを読出する。演算部52は、アナログ入力部4の出力結果をシステムバスインターフェイス51を介して読出し、リレー演算およびリレー演算結果に基づいたシーケンス演算を実施する。シーケンス演算に必要な外部状態の取り込みは、I/O部6を介して実施する。また、最終的なトリップ指令や表示出力もI/O部6を経由して実施する。
【0035】
I/O部6は、システムバスインターフェイス61,システムバスインターフェイス61に内部バス64を介して接続され、補助リレードライバおよび補助リレーから構成されるDO部62及びバッファやフォトカプラ等から構成されるDI部63を含んで構成される。なお、DO部62とDI部63を分離し、個別に設けた構成であっても構わない。
【0036】
ディジタルリレー内部のデータの処理の流れについて説明する。系統側の電圧や電流等のアナログ情報は、入力変換器3,アナログフィルタ41,A/D変換部42,ディジタルフィルタ処理部43,バスインターフェイス46及びシステムバス2を経由して、リレー・シーケンス演算部5に受け渡され、演算結果に従って、I/O部6を制御する。
【0037】
ディジタルリレーのアナログ入力部4におけるアナログ入力データの処理フローを図2に示す。アナログフィルタ41で不要な周波数成分を除去し、その結果をA/D変換部42でディジタル変換処理する。さらに、ディジタル変換されたデータに対して、ディジタルフィルタ処理部43でディジタルフィルタ処理を実施し、この結果をバスインターフェイス46のインターフェイス部を介して、さらに次段のリレー演算部へ受け渡しする。
【0038】
本実施例では、試験用のアナログ波形データを書き込みしたメモリ45をアナログ入力部4に設け、リレー演算に使用するアナログ入力データ取り込みの前段に、切替えスイッチ44を設け、リレー運用時には、系統側からのアナログ取り込みデータを切替えスイッチ44により選択し、リレー演算を実施し、リレー試験設定時には、切替えスイッチ44を切替えし、メモリ45側のデータを選択取り込みしてリレー演算を実施するようにしている。この回路構成により、試験条件により系統側のデータの代わりに波形データを読出し、運用時と同様に、リレー演算を実施させ、あたかも系統側から取り込みした如く、メモリ45上のデータを取り込みし、リレー演算やシーケンス演算を実施させ、リレーの動作の検証を行うことができるようになっている。
【0039】
図3は、本実施例の故障模擬機能を実装した保護リレーを実現するアナログ入力回路の構成例1の詳細を示すブロック図である。直列にアナログフィルタ41,A/D変換部42,ディジタルフィルタ処理部43を設けている。構成例1では、ディジタルフィルタ処理部43とバスインターフェイス46の間に切替えスイッチ44を設け、試験用波形データ書き込み用のメモリ45を設け、切替えスイッチ44により、バスインターフェイス46に受け渡しするデータをディジタルフィルタ処理部43の出力か、試験用波形データのメモリ45の内容かのいずれかを選択切替えできる構成としている。バスインターフェイス46は、さらに次段のリレー演算部へデータを受け渡しする。なお、試験用波形データのメモリ45には、あらかじめ試験用の波形データを書き込みしておく。
【0040】
常時のリレー運用時は、切替えスイッチ44は、ディジタルフィルタ処理部43の結果を選択し、系統側から取り込まれたアナログデータを次段のリレー演算部へ受け渡しする処理となるので、図2で説明したアナログ入力部のアナログ入力データ処理フローが行われる。
【0041】
一方、切替えスイッチ44を試験用波形データのメモリ45側に切替えた際には、リレーは試験モードとなり、系統側のアナログデータを取り込む代わりに、あらかじめ書き込みされている波形データを読出しし、その内容に基づいて、次段のリレー演算が実施されることになる。
【0042】
図3では、切替えスイッチ44をディジタルフィルタ処理部43とリレー演算部とのインターフェイス部であるバスインターフェイス46の間に設けたが、切替えスイッチ44をディジタルフィルタ処理部43の前段に設けても同様な機能が実現できる。
【0043】
図4は、アナログ入力回路の構成例2の詳細を示すブロック図である。直列にアナログフィルタ41、A/D変換部42を直列に設け、A/D変換部42の出力とディジタルフィルタ処理部43の間に切替えスイッチ44を設ける。切替えスイッチ44は、構成例1と同様に、A/D変換部42の出力か、試験用波形データ書き込み用のメモリ45の出力かのいずれかを選択切替し、次段のディジタルフィルタ処理部43に受け渡しする回路構成となっている。
【0044】
図5は、本実施例のアナログ入力部4を実現しうるハードウェア回路構成例を示す。図5に示す回路構成例は、基板上に固定的に実装されるメモリで実現した例である。直列に系統側情報を入力変換器から入力するアナログフィルタ41,信号をA/D変換するA/D変換部42が設けられ、アナログ入力部4の内部バス48を介して、このバス上にA/D変換部42,演算部100,メモリ45,バスインターフェイス46,メモリ内容の読出や書き込み用のインターフェイス49が設けられている。
【0045】
図6は、本実施例のアナログ入力部4を実現しうる他のハードウェア回路の構成例を示す。図6に示す回路構成例は、可搬型のメモリ、いわゆるフラッシュメモリカードやUSBメモリ等を利用した構成例である。直列に系統側情報を入力変換器から入力するアナログフィルタ41,信号をA/D変換するA/D変換部42が設けられ、アナログ入力部4の内部バス48を介して、このバス上にA/D変換部42,演算部100,バスインターフェイス46が設けられている。また、内部バス48上に可搬型メモリ用のインターフェイス101とメモリ45の物理使用に合わせたソケット102を設け、波形データ書き込み用のメモリ45はソケット102を介して接続される。
【0046】
なお、図5および図6の例では、切替えスイッチをソフトウェアで実現することを想定しているが、ハードウェアで構成した例を図7に示す。
【0047】
図7では、A/D変換部42の出力と演算部100の内部バス48の間に切替えスイッチを実現するセレクタ103を設けている。本実施例では、セレクタ103は、波形データ書き込み用のメモリ45とA/D変換部42の出力のいずれかを選択し、演算部100の内部バス48へ出力する構成としている。メモリ45の読出や書き込み用のインターフェイス49は、本例では、独立した構成としているが、内部バス48を経由してメモリ45を読出する構成としても良い。
【0048】
図5,図6,図7に示す例では、あらかじめメモリに書き込みした波形データにより、リレー演算のアルゴリズムやシーケンスロジックの検証を行うための構成を示したが、アナログフィルタやA/D変換器を含めたリレーシステムの健全性確認まで実施する場合の構成図を図8に示す。
【0049】
本例では、アナログフィルタ41の前段に切替えスイッチ106を設けている。切替えスイッチ106は、入力信号107または入力信号108のいずれかを設定により選択する回路となっている。本例では、入力信号107には系統のアナログ入力情報を取り込みする入力変換器の出力信号が接続されている。演算部100の内部バス48には、A/D変換部42の出力,波形データ書き込み用のメモリ45,バスインターフェイス46,メモリ読出,書き込み用のインターフェイス49が接続されている。また、内部バス48上に波形データからアナログ波形を生成するD/A変換出力部105を設け、D/A変換出力部105は、切替えスイッチ106の入力信号108と接続されている。
【0050】
通常の運用時には、切替えスイッチ106は、系統側の入力信号107を選択し、系統側の入力情報にしたがい、リレー演算が実施される。一方、試験波形印加のモードでは、切替えスイッチ108は、入力信号108側に切替え、演算部100は、あらかじめ試験用の波形が書き込まれている波形データのメモリ45より、波形データを読出し、D/A変換出力部105より出力する。演算部100は、波形データのメモリ45に書き込まれているデータのサンプリング周期に従って、データを読出し、D/A変換出力部105へ出力指令を与える処理を繰り返す。
【0051】
この処理によって、D/A変換器105より、波形データが出力され、切替えスイッチ106を介して、再びアナログフィルタ41,A/D変換部42,リレー演算部100へ取り込まれ、リレー演算処理が実施される。この処理により、あらかじめ書き込まれている波形データによるアナログフィルタやA/D変換器を含めたリレーシステムの健全性の確認が実現できる。
【0052】
図9は、メモリ45に記録されているデータの構成例を示す図である。図9に示すように、記録データには、サンプリングした入力電気量が時系列に配置され、リレーの状態,遮断器の状態等が記録されている。
【0053】
図10に、保護リレー装置における試験設定の画面の例を示す。図10に示すようなヒューマンインターフェイスを設け、総合動作模擬の項目71が設定72側に選ばれたことを条件に切替えスイッチ44を系統側からメモリ45側に切替えするものとする。
【0054】
また、模擬ケース選択80のように模擬選択の機能を設けることで、内部故障や外部故障等、あらかじめ決めておいた複数の故障ケースの模擬が可能となる。
【0055】
図10では、ケース1(74)が選択された状態を示している。メモリ45に準備される系統故障の波形データは模擬故障の時間的な長さが有限となるため、模擬開始のトリガ信号が必要となる。このトリガ信号は、ヒューマンインターフェイス上のスイッチであっても、ハード的なスイッチであっても、設定72やケース1(74)の選択された条件を兼用してもよい。
【0056】
図12に、試験データの管理用のデータテーブルを示す。試験データ1(91)はケース1のデータを意味し、試験データ1から試験データNについて、メモリ45上のデータの開始アドレス92,データのサンプル数93、およびその他の管理情報94が格納されている。
【0057】
図13に、実際の波形データをメモリに格納した例を示す。波形データ1(121)がケース1の波形データのエリアである。波形データは、規則的に時系列にデータをならべて配置してあれば良いが、この例では、メモリアドレス131から順に波形データを格納したケースを示している。
【0058】
図11に、模擬波形の例を示す。サンプリング点141から順にサンプリング点142,143,144と1サンプリング周期Δtの時間を隔てて、波形の瞬時値を図13に示すようにメモリに格納する。
【0059】
この例では、サンプリング点141のデータをメモリアドレス131に格納し、サンプリング点142をメモリアドレス132に格納するといった具合に時系列的に配置,格納している。また、先頭のデータとなる131のメモリアドレスを図12に示すデータテーブル中のデータ開始アドレス92に格納しておく。
【0060】
この構成により、選択された試験データケースに対応したデータ開始アドレスを読出すことで、波形データの先頭のメモリアドレスを取得できる。さらに、模擬波形を形成するデータのサンプル数を図12に示す管理テーブル中の管理情報94に保存しておくことで、故障模擬を実施する際に、読出し回数を指定することが可能である。
【0061】
この構成により、模擬故障データの長さが一定でない複数の試験ケースを装備することが可能となる。また、ディジタルリレーのサンプリング周期と波形データのサンプリング周期が同一でない場合を考慮し、図12に示す管理テーブルには、サンプリング周波数等を管理情報94にもたせておき、リレーのサンプリング周期と波形データのサンプリング周期が合致しない場合は、波形データを間引いて使用することで多様なデータの活用も可能である。管理情報としては、ゲインやオフセットの補正等への使用も考えられる。
【0062】
図14は、本実施例の模擬故障機能を実現する処理フローチャートの例を示す。図14では、図1に示すアナログ入力回路構成を実施する場合の処理フローチャートを代表して示し、ディジタルリレーで定周期、通常はサンプリング周期等で実施される一連の処理を示している。
【0063】
ステップ151で、アナログデータの読出し処理を開始する。従来は、ステップ153からのA/D変換器のデータ読出処理になるが、本実施例では、ステップ152で、総合動作模擬試験のモードであるかどうかの判定を実施する。
【0064】
この判定により、切替えスイッチの切替え有無の判断が行われ、通常の運用の場合には、ステップ153へ進み、A/D変換器のデータ読出し,ステップ163のリレー演算,ステップ164のシーケンスロジック演算が行われ、サンプリング周期毎に実施されるリレー機能部の主たる処理が完了する。
【0065】
総合動作模擬試験のモードが選択されている場合は、ステップ153のA/D変換器の読出し処理へは進まず、ステップ154で、模擬試験中か、開始前かの判定を実施する。
【0066】
模擬試験を開始していない場合は、ステップ155で、試験開始のトリガを受け付けしたかを判定する。これは前述のようにヒューマンインターフェイスの設定や、外部からのスイッチ条件等で構成する。
【0067】
トリガを受け付けしていない場合は、ステップ163のリレー演算処理へ進む。この場合は、リレー演算に使用する波形データが読出されていないので、リレーとしては無入力の状態になる。
【0068】
トリガを受け付けした場合は、ステップ156で、図10において選択されている試験ケースに従って、図12に示す管理情報を取得する。ステップ157で、読出アドレスカウンタをこの情報に従ってセットし、ステップ158で、データを読出し、ステップ159で、リレー演算部へのデータ受け渡しを実施する。
【0069】
ステップ160は読出回数の判定部分であり、試験データの管理情報において指定されるデータサンプル数まで順次読み出すための判定箇所である。選択されている試験ケースの波形データの最後まで達していない、つまりサンプル数だけ読出ししていない場合は、ステップ161で、読出アドレスを次のサンプルデータのアドレスを指定するように加算する。
【0070】
図13に示すケースでは、メモリアドレス131からメモリアドレス132,メモリアドレス133といった具合に1周期ごとに順番に読出する。ステップ161の読出アドレスの加算では、管理情報94に従って、波形データのサンプリング周期とリレーの演算周期が合致していない場合は、読み飛ばしを実施するように加算値を調整することで、対応が可能である。逆にリレーの演算周期が波形データのサンプリング周期より大きい場合や、サンプリング周波数が整数倍になっていない場合等は、数学的な補間処理を実施することでも対応が可能である。
【0071】
ステップ160で、波形データのサンプル数だけ読出し完了した場合は、ステップ162に進んで模擬試験の処理を終了し、次のトリガ受信待ちになる。
【0072】
図7に示した例により記録されたデータによる再現試験は、図17に示す試験設定画面において、記録データの選択と再現試験を実施するプレイバックモード211を設定して行う。上述した総合動作模擬試験の構成と大きく変わる点はなく、あらかじめ準備しておく故障模擬用の波形データメモリから読出す処理を、図9に示す記録データメモリからの読出しに変えて実現できる。
【0073】
これまでの説明では、系統側のアナログ情報をメモリ上の波形データにて模擬する構成を述べたが、系統側の機器や他装置から取り込みするON/OFF情報を模擬する方法について説明する。
【0074】
図16に、模擬対象の入力情報のタイムチャートを示す。本来、これらの情報は、入力回路を通して外部機器から取り込まれている。図1に示す構成では、DI部63から取り込みされている。これらの入力情報は、シーケンスロジック演算を実施する演算部52で使用される。メモリ45上のデータでこれらの模擬する場合も波形データ同様に、これらの情報をメモリ45に配置し、実際の入力回路からの取り込み情報から、メモリ45からの読出し情報に切替えることで、外部条件を含めた模擬試験が可能である。
【0075】
図15に、メモリ45上に図16に示す模擬入力情報を実現するデータを記載した例を示す。図16に示す例では、入力条件191〜194を含めた8点の入力条件を示している。サンプリング周期ごとに、これら8点の情報をデータ化して、メモリ上に準備し、各々サンプリング点201〜205に割り付けしている。このデータを波形データ同様にサンプリング周期で読出し、外部からの入力条件の代わりとしてシーケンスロジック演算に使用することで、外部条件を含めた模擬試験が実現できる。
【0076】
ここでは、あらかじめ試験用としてメモリに書き込まれたデータを使うケースを説明したが、保護リレーの記録機能によってメモリに記録された故障時のデータを使うようにしてもよい。すなわち、ディジタルリレーには、リレー動作の解析用として、データ記録機能を具備しているものが知られているが、前記の切替えスイッチをデータ記録用のメモリと接続することで、系統故障時に記録したデータを直接読出しして、系統故障時のリレー動作の再現が容易に実現可能である。また、系統故障のデータを書き込みするメモリは、データ記録機能用のメモリと共用する構成であっても、メモリを個別に配置する構成であっても良い。
【0077】
以上の構成により、系統故障の模擬機能や系統故障時のプレイバック機能を有したディジタル保護リレーを実現できる。
本実施例によれば、あらかじめ系統の内部故障や外部故障の代表的なケースをメモリに書き込みしておき、それらを切替えて演算結果を評価することで、リレー演算部のアルゴリズム変更時やシーケンスロジック変更時の評価が容易に実施可能である。
【0078】
又、試運転時の試験において、容易に系統故障の模擬による総合動作の検証が可能であり、外部表示や他装置との接続等の確認や総合動作検証が容易に実施可能であり、現地における試験工数の削減に大いに貢献できる。
【0079】
又、保護リレーに実装される波形再生用のメモリに、複雑な系統故障の際に別の保護リレーやオシロ記録装置によって保存されたデータを書き込みするだけで、容易にリレー応動の再現や検証が実現でき、試験設備の大幅な簡素化と再現試験や検証にかかる作業工数を大幅に短縮できる。
【0080】
又、可搬型のメモリを用いることで、データ記録元の保護リレーから、試験に供する保護リレーへのデータの受け渡しが容易となり、試験効率の向上に寄与する。
【0081】
又、保護リレーが備えている系統故障時の波形記録メモリの内容をリレー演算用のデータとして読出しし、リレー演算やシーケンスロジックを動作させる機能を設けることで、リレー動作の再現機能を実現できる。本機能は、複雑な系統事象発生時のリレー動作の再現機能を実現するものであり、リレー応動の解析のみならず、他装置の応動検証にも有効である。
【符号の説明】
【0082】
41 アナログフィルタ
42 A/D変換部
43 ディジタルフィルタ処理部
44 切替えスイッチ
45 メモリ
46 バスインターフェイス
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力変換器と、該入力変換器に接続されたアナログ入力部と、該アナログ入力部にシステムバスを介して接続されるリレー・シーケンス演算部を有し、前記アナログ入力部が、アナログフィルタと、該アナログフィルタに接続されるA/D変換部と、該A/D変換部に接続されるディジタルフィルタ処理部と、系統故障時の電圧波形や電流波形のデータ及び系統側の機器条件等の入力条件をあらかじめ書き込みしたメモリと、前記ディジタルフィルタ処理部の前段又は後段に設置される切替えスイッチを備え、外部からの指令により前記切替えスイッチを切替えて前記メモリ上のデータに従って、リレー演算やシーケンス処理、ロジック処理を行う試験機能を具備した電力用ディジタル保護リレー装置。
【請求項2】
試験設定により、系統側から取り込みするアナログデータの代わりに、前記メモリ上にデータとして存在する波形データを読出して、保護リレー演算を実施する請求項1に記載の試験機能を具備した電力用ディジタル保護リレー装置。
【請求項3】
試験設定により、外部から取り込みするON/OFFデータの代わりに、前記メモリ上にデータとして存在するON/OFFデータを読出しして、シーケンス処理を実施する請求項1に記載の試験機能を具備した電力用ディジタル保護リレー装置。
【請求項4】
前記メモリが、USBメモリやフラッシュメモリを含む着脱可能な可搬型メモリであって、該可搬型メモリを実装可能なインターフェイスを設けた請求項1に記載の保護リレー演算を実施する試験機能を具備した電力用ディジタル保護リレー装置。
【請求項5】
前記メモリに系統故障時のデータを記録し、試験設定により、系統側のデータの代わりに、前記記録したデータを読出し、その際のリレー応動を再現するプレイバック機能を有する請求項1に記載の試験機能を具備した電力用ディジタル保護リレー装置。
【請求項6】
波形データのサンプリング周期が、リレー側のサンプリング周期と異なる場合であっても、データの間引き処理や補間を実施することによって、リレーの演算周期と整合をとり、リレー動作の検証を行う請求項1に記載の試験機能を具備した電力用ディジタル保護リレー装置。
【請求項1】
入力変換器と、該入力変換器に接続されたアナログ入力部と、該アナログ入力部にシステムバスを介して接続されるリレー・シーケンス演算部を有し、前記アナログ入力部が、アナログフィルタと、該アナログフィルタに接続されるA/D変換部と、該A/D変換部に接続されるディジタルフィルタ処理部と、系統故障時の電圧波形や電流波形のデータ及び系統側の機器条件等の入力条件をあらかじめ書き込みしたメモリと、前記ディジタルフィルタ処理部の前段又は後段に設置される切替えスイッチを備え、外部からの指令により前記切替えスイッチを切替えて前記メモリ上のデータに従って、リレー演算やシーケンス処理、ロジック処理を行う試験機能を具備した電力用ディジタル保護リレー装置。
【請求項2】
試験設定により、系統側から取り込みするアナログデータの代わりに、前記メモリ上にデータとして存在する波形データを読出して、保護リレー演算を実施する請求項1に記載の試験機能を具備した電力用ディジタル保護リレー装置。
【請求項3】
試験設定により、外部から取り込みするON/OFFデータの代わりに、前記メモリ上にデータとして存在するON/OFFデータを読出しして、シーケンス処理を実施する請求項1に記載の試験機能を具備した電力用ディジタル保護リレー装置。
【請求項4】
前記メモリが、USBメモリやフラッシュメモリを含む着脱可能な可搬型メモリであって、該可搬型メモリを実装可能なインターフェイスを設けた請求項1に記載の保護リレー演算を実施する試験機能を具備した電力用ディジタル保護リレー装置。
【請求項5】
前記メモリに系統故障時のデータを記録し、試験設定により、系統側のデータの代わりに、前記記録したデータを読出し、その際のリレー応動を再現するプレイバック機能を有する請求項1に記載の試験機能を具備した電力用ディジタル保護リレー装置。
【請求項6】
波形データのサンプリング周期が、リレー側のサンプリング周期と異なる場合であっても、データの間引き処理や補間を実施することによって、リレーの演算周期と整合をとり、リレー動作の検証を行う請求項1に記載の試験機能を具備した電力用ディジタル保護リレー装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2011−155779(P2011−155779A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16134(P2010−16134)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]