説明

詰め綿用混合原綿及び詰め綿

【課題】 嵩高性に優れると共に、柔らかくかつ羽毛に近似した風合いに富み、軽量で、保温性に優れ、体に沿いやすく、圧縮後の嵩高回復性が高く、寝装寝具、衣類などに好適に用いられる詰め綿及び詰め綿用原綿を提供する。
【解決手段】 重量比10〜49%の割合で単繊維繊度が0.5〜3.0dtexの細短繊維Aと、重量比50〜80%の割合で単繊維繊度が5.0〜20.0dtexの中空太短繊維Bと、重量比1〜30%の割合で単繊維繊度が1.0〜5.0dtexの熱接着性短繊維Cとが混合されてなり、かつ、細短繊維A及び/又は中空太短繊維Bにポリシロキサンを含む油剤が重量比0.1〜3%の範囲で付着している詰め綿用混合原綿である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風合いに富み、軽量で、保温性に優れ、体に沿いやすく、嵩高性に優れ、圧縮後の嵩高回復率が高い等の優れた特性を有し、敷き布団や掛け布団等の用途に好適に用いられる詰め綿、及びそのための詰め綿用混合原綿に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、敷き布団、掛け布団および枕等の寝装寝具用の詰め綿の一種として羽毛が用いられている。特に欧米では羽毛は古来より使われており、近年、我が国でもその需要が増加してきている。
【0003】
羽毛を詰め綿として用いた羽毛布団は、風合いに富み、軽量で、保温性に優れ、体に沿いやすく、嵩高性に優れ、そして回復率の高いことが知られている。しかしながら、羽毛を得るためには、水鳥を多く飼育しなければならず、その結果、多量の飼料を必要とするばかりか、水鳥の排泄物による水質汚染、または感染症の発生とその拡散という問題が生じている。また、羽毛を詰め綿として使用できるようにするにためには、採毛、選別、消毒、脱脂および布団詰めなどの多くの工程を経る必要があり、かつ、羽毛が舞い上がるという点でも作業が繁雑になり、結果、羽毛を使った寝装寝具の価格は高くなる。
【0004】
また、詰め綿の素材としては木綿も用いられるが、木綿は重く、嵩高性に優れておらず、体に沿いにくく、かつ圧縮後の回復率も低いという問題がある。さらに、詰め綿の素材としてポリエステル原綿も用いられるが、ポリエステル原綿は、安価で、軽量かつ嵩高性に優れているが、体に沿いにくく、そして圧縮後の回復率が低いという問題があった。
【0005】
そこで、合成繊維原綿に羽毛の特長を付与する試みがなされている。例えば、異形断面繊維と中空繊維とが混在している詰め綿を入れたふとんが提案されている(特許文献1、2参照)。また別に、単繊維繊度1.5デニール以下の繊維からなる層と短繊維繊度が2.5〜15デニールの繊維からなる層とが積層されてなる詰め綿が提案されている(特許文献3参照)。さらに、単繊維繊度の異なる中空太短繊維と細繊度短繊維とからなりポリキシロサンを含む油剤が付与された繊維からなる詰め綿が提案されている(特許文献4参照)。
【0006】
しかしながら、特許文献1、2で提案されている、異形断面繊維と中空繊維とが混在している詰め綿は、異形断面繊維を混ぜることで嵩高性を出すことはできるが、羽毛のような優れた圧縮回復性とすることはできない。これは、繊維の異形断面化により嵩高化することはできても、繊維表面特性を考慮していないので圧縮回復性を高めることはできないためである。
【0007】
また、上記特許文献3では、単繊維繊度の細い繊維の層(ウェブ)と単繊維繊度の太い繊維の層(ウエブ)を積層しているだけであるので、羽毛のような優れた圧縮回復性とすることはできない。また、異なる繊度の繊維が絡み合っていないので、2種類の異なる繊度の繊維を用いていても嵩高性を高める効果がほとんどない。
【0008】
さらにまた、上記特許文献4で提案されている、単繊維繊度の異なる中空太短繊維と細繊度短繊維とからなり、かつポリキシロサンを含む油剤が付与されている詰め綿は、風合いに富み嵩高性を有することができるが、圧縮されたとき繊維同士が絡みすぎフェルト状となるため圧縮回復率と保温性を十分に高めることができなかった。
【0009】
以上のような従来技術では、細繊度と太繊度の短繊維を絡ませたり、異形断面繊維、中空繊維、自己捲縮性異形断面繊維を用いたりすることにより嵩高性を高めているが、圧縮回復性は不十分であり、羽毛の代替となるような優れた特性を備えるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公昭63−23796号公報
【特許文献2】特公平2−57953号公報
【特許文献3】特公昭63−23797号公報
【特許文献4】特開2006−115987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで本発明の目的は、上述した従来技術における問題点を解決し、優れた嵩高性を有するだけでなく、柔らかくかつ羽毛に近似した風合いに富み、軽量で、体に沿いやすく、保温性に優れ、圧縮回復率が高く、更に、抗菌、防かび、抗ウイルス、消臭あるいは防臭性能を有する詰め綿であって、敷き布団、掛け布団、枕、クッション等の寝装寝具、ダウンジャケットなどの衣類などに好適に用いられる詰め綿を製造することができる詰め綿用混合原綿、及び詰め綿を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した目的を達成するために、本発明は次の構成を有するものである。
【0013】
すなわち、本発明の詰め綿用混合原綿は、重量比10〜49%の割合で単繊維繊度が0.5〜3.0dtexの細短繊維Aと、重量比50〜80%の割合で単繊維繊度が5.0〜20.0dtexの中空太短繊維Bと、重量比1〜30%の割合で単繊維繊度が1.0〜5.0dtexの熱接着性繊維Cとが混合されてなり、かつ、細短繊維A及び/又は中空太短繊維Bにポリシロキサンが重量比0.1〜3%の範囲で付着していることを特徴とするものである。
【0014】
本発明における熱接着性繊維は、低融点樹脂を鞘とする芯鞘型熱可塑性繊維、もしくは、低融点樹脂が繊維表面の一部を構成する複合構造の熱可塑性繊維であることが好ましい。また、本発明における細短繊維A及び/又は中空太短繊維Bは、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィンもしくはそれらの共重合体からなることが好ましい。さらにまた、本発明の詰め綿用混合原綿は、ポリシロキサンが付着した短繊維の繊維間摩擦係数μSが、0.2以下であることが好ましい。
【0015】
また、上記した本発明の詰め綿用混合原綿が加熱処理されてなる詰め綿であって、細短繊維A及び/又は中空太短繊維Bどうしが部分的に、熱接着性短繊維Cにより接着されていることを特徴とするものである。
【0016】
さらにまた、上記した本発明の詰め綿用混合原綿を、熱接着性短繊維Cの表面樹脂の融点以上の温度で加熱処理することにより、細短繊維A及び/又は中空太短繊維Bどうしを部分的に接着させることによる詰め綿の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、風合いに富み、軽量で、保温特性に優れ、体に沿いやすく、嵩高性に優れ、回復率の高く、更に、抗菌、防かび、抗ウイルス、消臭あるいは防臭性能を有する詰め綿であって、敷き布団、掛け布団、枕、クッション等の寝装寝具、ダウンジャケットなどの衣類などの用途に好適に用いられる詰め綿、及びそのための詰め綿用混合原綿が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)は、厚み変化を測定する透明な箱を示す斜視図であり、(b)は、その箱にサンプル詰め綿を入れた状態を示す斜視図である。
【図2】(a)は、図1(b)のサンプル詰め綿の上に30gの板を載せて1分後の状態を示す斜視図であり、(b)は、合計400gの荷重をかけ圧縮状態にして1分後を示す斜視図であり、(c)は、30gの板を載せた状態に戻してから10分後の状態を示す斜視図であり、(d)は、30gの板を載せた状態に戻してから60分後の状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の詰め綿用混合原綿は、ポリシロキサンが重量比0.1〜3%で付着した細繊度の短繊維Aと中空構造を有する太繊度の短繊維Bと、さらに熱接着性短繊維Cとが所定の比率で混綿されてなる。この混合原綿に、熱接着性短繊維Cの低融点樹脂の融点以上の温度で熱処理することにより、細繊度の短繊維Aと中空構造を有する太繊度の短繊維Bとの間に、細繊度の短繊維Aどうしの間に接着点を作ることができるので、繊維間の絡みを抑制し、繰り返し圧縮されてもへたりが小さく圧縮回復性に優れた詰め綿とすることができる。
【0020】
また、詰め綿の保温性は微細な断熱性に優れる空気層により保持されるものであるが、繊維間に接着点を作ることにより微細な空気層の数をより多く形成することができ、保温性を向上させることができる。
【0021】
本発明において用いる熱接着性短繊維Cは、繊維表面の少なくとも一部が低融点樹脂からなる繊維であって、その低融点樹脂の融点以上に加熱した場合に接着機能を発揮する繊維である。この熱接着性短繊維Cの代表例は、低融点樹脂を鞘とする芯鞘型熱可塑性繊維であるが、低融点樹脂が繊維表面の一部を構成する複合構造の熱可塑性繊維を用いることもできる。
【0022】
ポリエステル系の熱接着性短繊維Cの場合には、低融点樹脂として、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートに、イソフタル酸、アジピン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、セバシン酸などを共重合させてなる低融点ポリエステルが用いられ、低融点樹脂の融点は110〜150℃であることが好ましい。
【0023】
本発明において用いる細短繊維Aは、短繊維繊度が0.5〜3.0dtexであり、好ましくは0.5〜2.0dtexであり、最も好ましくは0.5〜1.1dtexである。また、細短繊維Aの重量比は10〜49%であり、好ましくは10〜30%である。また、中空太短繊維Bは、短繊維繊度が5.0〜20.0dtexであり、好ましくは5.0〜18.0dtexであり、最も好ましくは5.0〜15.0dtexである。また、中空太短繊維Bの重量比は50〜80%であり、好ましい重量比は60〜80%である。また、熱接着性短繊維Cは、短繊維繊度が1.0〜5.0dtexであり、好ましくは1.0〜4.0dtexであり、最も好ましくは1.0〜3.0dtexである。また、熱接着性短繊維Cの重量比は1〜30%の割合であり、好ましい重量比は1〜15%である。
【0024】
細短繊維Aは上記した細繊度を有すれば丸断面繊維でも異形断面繊維でもよい。中空太短繊維Bは中空部を有する断面形状でかつ上記した繊度を有すれば丸断面繊維でも異形断面繊維でもよい。これら細短繊維Aや中空太短繊維Bは異形断面構造の繊維であることが好ましい。
【0025】
さらに、本発明の詰め綿用原綿を構成する細短繊維Aや中空太短繊維Bには、繊維間の滑り性を高めるために、ポリシロキサンが繊維の重量比0.1〜3%で付着している。その付着量は好ましくは0.3〜1%であり、これにより繊維間の滑り性が高く、詰め綿を圧縮した後の回復率が高くなる。ポリシロキサンとしては、例えば、アミノ変性シリコンなどを使用することができる。繊維にポリシロキサンを付着させるためにはポリシロキサン含む油剤を付与すればよい。この油剤には、ポリシロキサンの他に、リン酸系化合物、脂肪族化合物、ハロゲン系化合物を含むことが好ましく、さらには、酸化防止剤、防燃剤、電防止剤を含んでいることが好ましい。
【0026】
このポリシロキサンを含む油剤は、それら短繊維を製造する工程においてトウをカットする直前において付与されることが好ましいが、カットした後の短繊維(原綿)に付与し乾燥させることでもよい。その油剤付与の際には、ポリシロキサンの濃度が1〜10wt%、さらに好ましくは1〜8wt%である油剤水溶液にして繊維に付与し、その後に乾燥すればよい。
【0027】
本発明の詰め綿において、ポリシロキサンが付着した短繊維の繊維間摩擦係数μSが0.2以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.1以下である。これは、繊維間の滑り性が高くなるため、詰め綿を圧縮したときに繊維が移動し易いので圧縮されやすくなる。
【0028】
本発明の詰め綿においては、細短繊維Aと中空太短繊維Bと熱接着性短繊維Cとの混合割合を前記した特定の割合の範囲内とすることが必要であり、これによって詰め綿にした際の柔らかさと風合いが向上し嵩高性が維持される。
【0029】
本発明の詰綿用原綿において、詰め綿の嵩高性を高めるために、詰め綿を構成する中空太短繊維Bは、中空率が20〜50%であることが好ましく、さらに好ましくは30〜50%である。この中空率は、繊維横断面拡大写真にて、中空部分を含めた繊維断面の全面積に対する中空部分面積の割合を算出し、%で表示する。
【0030】
さらに、中空太短繊維Bは、少なくとも2種のポリマからなるサイドバイサイド構造の非対称構造中空繊維とすることにより、あるいは、紡糸時の片方急冷による非対称構造とすることにより、繊維に自己捲縮性を与えた中空繊維を用いることもできる。このようにすると、捲縮性がより高められ、より繊維間同士の反発が強くなり、嵩高性をより高くすることができる。
【0031】
また、本発明の詰め綿用混合原綿を構成する細短繊維Aと中空太短繊維Bと熱接着性短繊維Cは、ポリエステルからなる繊維であることが好ましい。細短繊維Aと中空太短繊維Bに用いられるポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、およびそれら共重合体等が挙げられる。また、ポリエステル以外としては、脂肪族ポリアミドやポリオレフィンを用いることができ、例えば、ポリカプラミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリウンデカナミド(ナイロン11)、ポリラウロラクタミド(ナイロン12)、およびこれらの共重合体や、ポリプロピレン、ポリエチレン等が挙げられる。
【0032】
また、廃棄処分時の環境負担軽減のためには生分解性のポリマからなる繊維を用いることもできる。生分解性のポリマとしては、例えば、ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネートカーボネート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートサクシネートまたはこれらの共重合体などが挙げられる。これら以外の生分解性共重合体、例えば、ポリエステルアミド系共重合体や芳香族系ポリエステルを生分解性を有するように改質された共重合体でも良い。
【0033】
また、細短繊維Aや中空太短繊維Bは、所望の単繊維繊度や所望の断面形状となるような条件を採用すれば、ポリエステル等の熱可塑性短繊維の通常の製糸方法によって製造することができる。
【0034】
細短繊維Aの製造の場合は、例えば、ポリエステルを溶融し、孔径0.2〜0.4mmの吐出孔を550〜1300孔有する紡糸口金を通して、融点よりも20〜40℃高い紡糸温度にて溶融紡糸し、口金より紡糸された繊維に、10〜25℃の空気を50〜100m/分の流れで吹き付けて冷却させた後、紡糸油剤を付与し、引き取り速度900〜1500m/分で一旦、缶に納めることで未延伸糸トウを得る。次いで、得られた未延伸糸トウを2.5〜3.5倍の延伸倍率にて、温度80〜95℃の液浴を用いて1段延伸を施し、スタフイングボックスを用いて7〜20山/25mmの機械捲縮を付与し、アミノ変性シリコン等のポリシロキサンが濃度1〜10wtで含まれた油剤水溶液をスプレーで付与し、80〜165℃の温度で15〜30分乾燥し、長さ10〜76mmに切断して、単繊維繊度が0.5〜1.0dtexの短繊維を製造する。
【0035】
中空太短繊維Bの製造の場合は、例えば、ポリエステルを溶融し、中空繊維用吐出孔(例えば複数のスリットを円周上に並べた吐出孔)を90〜200孔有する紡糸口金を通して、融点よりも20〜40℃高い紡糸温度にて中空部が形成されるように溶融紡糸し、口金から紡糸された繊維に、10〜25℃の空気を100〜180m/分の流れで吹き付けて冷却させた後、紡糸油剤を付与し、引き取り速度1000〜1700m/分で一旦、缶に納めることで未延伸糸トウを得る。次いで、得られた未延伸糸トウを2.5〜3.5倍の延伸倍率にて、温度80〜100℃の液浴を用いて1段延伸を施し、スタフイングボックスを用いて5〜10山/25mmの構造差捲縮を付与し、アミノ変性シリコン等のポリシロキサンが濃度1〜10wt%で含まれた油剤水溶液をスプレーで付与し、80〜165℃の温度で15〜30分乾燥し、長さ10〜76mmに切断して、単繊維繊度が5.0〜20.0dtexの中空太短繊維を製造する。
【0036】
熱接着性短繊維Cの製造の場合は、例えば、鞘の低融点ポリエステルと、芯の通常のポリエステルとをそれぞれ溶融し、芯鞘型複合構造となる吐出孔を300〜600孔有する芯鞘型紡糸口金を通して所定の紡糸温度にて溶融紡糸し、口金より紡糸された繊維を15〜25℃の空気を50〜100m/分の流れで吹き付けて冷却させた後、紡糸油剤を付与し、引き取り速度900〜1500m/分で一旦、缶に納めることで未延伸糸トウを得る。次いで、得られた未延伸糸トウを2.5〜3.5倍の延伸倍率にて、温度80〜95℃の液浴を用いて1段延伸を施し、スタフイングボックスを用いて7〜15山/25mmの機械捲縮を付与し、40〜60℃の温度で15〜30分乾燥し、長さ10〜76mmに切断して、単繊維繊度が1.0〜5.0dtexの熱接着性短繊維を製造する。
【0037】
また、細短繊維Aと中空太短繊維Bと熱接着性短繊維Cとを混合して混合原綿を製造する方法としては、例えば、各々の短繊維を積層して開繊機を通過させた後に、風送及び/又はカード機で混ぜる方法を採用することができる。また、それら短繊維とする前のトウ同士を重ねて同時にカットすることで混合させた後、開繊機を通過させ、風送及び/又はカード機で混ぜる方法を採用してもよい。
【0038】
このようにして得られる詰め綿用混合原綿は、熱接着性短繊維Cの表面の低融点樹脂の融点以上の温度で加熱処理され、細短繊維A及び/又は中空太短繊維Bどうしが部分的に、熱接着性短繊維Cにより接着されて、詰め綿が製造される。この熱処理は任意の段階で行えばよい。
【0039】
熱処理して得られる本発明の詰め綿の密度は、使用する繊維や用途により異なるが、例えば、0.002〜0.03g/cmが好ましく、さらに好ましくは0.005〜0.02g/cmであり、最も好ましくは0.007〜0.015g/cmである。
【0040】
本発明の詰め綿は、混合させた熱接着性短繊維Cによって、細短繊維A及び/又は中空太短繊維Bどうしに部分的な接着を生じさせているで、羽毛と同様に、嵩高性を持ちながら、圧縮されやすさにより風合いが柔らくなりながら、圧縮後の嵩高性の回復が優れ、さらには保温性も優れたものとなる。
【0041】
また、詰め綿を構成する繊維、すなわち細短繊維Aと中空太短繊維Bと熱接着性短繊維Cのうち、少なくとも1種の繊維に、銀、カルシウム、または銅を含む油剤成分を、重量比0.1〜10%の範囲で付与させれば、抗菌、防かび、抗ウイルス、消臭、あるいは防臭性能を有する詰め綿とすることができる。
【0042】
ここで、銀、カルシウム、または銅を含む油剤成分としては、例えば、リン酸カルシウム・ハイドロオキサイトからなる直径1〜50マイクロメートル粒子に、銀または、銅の酸化化合物や、塩化化合物、窒素化合物、アミノ化合物、配位化合物を、または他の金属配位化合物を含む粒子が挙げられ、これらをリン酸系水溶剤に分散させて繊維に付与し、繊維表面に固着させればよい。
【0043】
この場合、例えば、銀、カルシウム、または銅を含む油剤成分を、ポリシロキサンを含む油剤に混ぜて繊維に同時に付与することができる。また、各々油剤を独立して前後に個別に付与することもできる。
【実施例】
【0044】
本発明の詰め綿用混合原綿及び詰め綿について、以下の実施例を用いて詳細に説明する。詰め綿特性の測定は、以下の方法によった。
【0045】
(密度、嵩高回復性能の測定)
図1及び図2を参照して説明する。図1(a)に示す底辺100mm角の厚み変化用透明箱1の中に、図1(b)に示すように、測定用サンプル詰め綿2を10g入れる。
次いで、図2(a)に示すように、サンプル詰め綿2の上に初期荷重30gの板3を載せ、1分後のサンプル詰め綿2の厚みを測定し、初期厚み4とする。この初期厚み4から、詰め綿の密度を算出する。
【0046】
さらに図2(b)に示すように、370gの荷重5を板3の上に載せて、合計400gの荷重をサンプル詰め綿2にかけた状態とし、1分後のサンプル詰め綿2の厚みを測定し、圧縮厚み6とする。次式により圧縮率イを求める。
圧縮率イ(%)=[(初期厚み4−圧縮厚み6)/初期厚み6]×100
【0047】
次に、図2(c)に示すように、370gの荷重5を外し、30gの板3のみの荷重状態に戻し、10分後のサンプル詰め綿2の厚みを測定し、初期回復厚み7とする。次式により初期回復率ロを求める。
初期回復率ロ(%)=[(初期回復厚み7−圧縮厚み6)/(初期厚み4−圧縮厚み6)]×100
【0048】
さらに、図2(d)に示すように、370gの荷重5を外してから60分後のサンプル詰め綿2の厚みを測定し、回復厚み8とする。次式により後期回復率ハを求める。
後期回復率ハ(%)=[(後期回復厚み8−圧縮厚み6)/(初期厚み4−圧縮厚み6)]×100
【0049】
(clo値の測定)
JIS L1096に準じて詰め綿のclo値を測定した。
【0050】
(実施例1)
ポリエチレンテレフタレートを溶融し、孔径0.3mmの丸断面吐出孔を930孔有する紡糸口金を通して紡糸温度285℃で溶融紡糸し、口金より紡糸された繊維に、20℃の空気を60m/分の流れで吹き付けて冷却させた後、紡糸油剤を付与し、引き取り速度1200m/分で一旦、缶に納めることで未延伸糸トウを得る。次いで、得られた未延伸糸トウを2.85倍の延伸倍率にて、温度90℃の液浴を用いて1段延伸を施し、スタフイングボックスを用いて15山/25mmの機械捲縮を付与し、ポリシロキサンが濃度8wt%で含まれた油剤水溶液をスプレーで付与し、145℃の温度で20分乾燥し、長さ38mmに切断して、単繊維繊度が1.1dtex、繊維長が38mm、ポリシロキサン付着量が0.5重量%の丸断面の細短繊維Aの原綿(a1)を製造した。得られた細短繊維Aの繊維間摩擦係数は0.15である。
【0051】
また、ポリエチレンテレフタレートを溶融し、中空繊維用吐出孔(スリット幅0.1mmのスリット3つが円周上に配置されている吐出孔)を180孔有する紡糸口金を通して、紡糸温度275℃で中空部が形成されるように溶融紡糸し、口金から紡糸された繊維に、20℃の空気を160m/分の流れで吹き付けて冷却させた後、紡糸油剤を付与し、引き取り速度1650m/分で一旦、缶に納めることで未延伸糸トウを得る。次いで、得られた未延伸糸トウを2.45倍の延伸倍率にて、温度90℃の液浴を用いて1段延伸を施し、スタフイングボックスを用いて7山/25mmの構造差捲縮を付与し、ポリシロキサンが濃度4wt%で含まれた油剤水溶液をスプレーで付与し、145℃の温度で20分乾燥し、長さ30mmに切断して、単繊維繊度が7.3dtex、繊維長が30mm、ポリシロキサン付着量が0.5重量%、中空率30%の中空丸断面の中空太短繊維Bの原綿(b1)を製造した。得られた中空太短繊維Bの繊維間摩擦係数は0.17である。
【0052】
さらにまた、熱接着性短繊維Cとして、イソフタル酸共重合体からなる低融点ポリエステル(融点110℃)を鞘として、ポリエチレンテレフタレートを芯とする芯鞘型複合繊維(芯と鞘との複合比50:50)を、次の方法で製造した。
【0053】
低融点ポリエステルとポリエチレンテレフタレートとをそれぞれ溶融し、芯鞘型複合構造となる吐出孔を532孔有する芯鞘型紡糸口金を通して紡糸温度280℃にて溶融紡糸し、口金より紡糸された繊維を20℃の空気を60m/分の流れで吹き付けて冷却させた後、紡糸油剤を付与し、引き取り速度1350m/分で一旦、缶に納めることで未延伸糸トウを得る。次いで、得られた未延伸糸トウを3.00倍の延伸倍率にて、温度80℃の液浴を用いて1段延伸を施し、スタフイングボックスを用いて12山/25mmの機械捲縮を付与し、55℃の温度で20分乾燥し、長さ38mmに切断して、単繊維繊度が2.2dtexで繊維長が38mmの芯鞘複合の熱接着性短繊維Cの原綿(c1)を製造した。
【0054】
上記で得られた細短繊維Aの原綿a1と中空太短繊維Bの原綿b1と熱接着性短繊維Cの原綿c1とを、重量比30対65対5の割合で積層して開繊機を通過させた後にカード機を通して混合原綿とした。この混合原綿を、熱風乾燥機に通して140℃、10分の熱処理を行い詰め綿を製造した。
【0055】
得られた詰め綿10gを用いて、詰め綿の密度、嵩高回復性能及びclo値を測定した。その結果は表1に示すとおりであった。得られた詰め綿は、羽毛と同じように、嵩高性に優れ、圧縮後の厚み回復性能が高く、且つ保温性に優れたものであることがわかる。
【0056】
(実施例2)
ポリエチレンテレフタレートを溶融し、Y型繊維用吐出孔(スリット幅0.08mm)を745孔有する紡糸口金を通して紡糸温度290℃で溶融紡糸し、口金より紡糸された繊維に、20℃の空気を60m/分の流れで吹き付けて冷却させた後、紡糸油剤を付与し、引き取り速度1200m/分で一旦、缶に納めることで未延伸糸トウを得る。次いで、得られた未延伸糸トウを3.15倍の延伸倍率にて、温度90℃の液浴を用いて1段延伸を施し、スタフイングボックスを用いて12山/25mmの機械捲縮を付与し、ポリシロキサンが重量比4%含まれた油剤水溶液をスプレーで付与し、145℃の温度で20分乾燥し、長さ38mmに切断して、単繊維繊度が1.7dtex、繊維長が38mm、ポリシロキサン付着量が0.5重量%のY断面の細短繊維Aの原綿(a2)を製造した。得られた細短繊維Aの繊維間摩擦係数は0.16である。
【0057】
また、中空太短繊維Bおよび熱接着性短繊維Cとしては、実施例1の場合と同じ原綿b1、原綿c1を用いた。
【0058】
上記で得られた細短繊維Aの原綿a2と中空太短繊維Bの原綿b1と熱接着性短繊維Cの原綿c1とを、重量比30対65対5の割合で積層して開繊機を通過させた後にカード機を通して混合原綿とした。この混合原綿を、熱風乾燥機に通して140℃、10分の熱処理を行い詰め綿を製造した。
【0059】
得られた詰め綿10gを用いて、詰め綿の密度、嵩高回復性能及びclo値を測定した。その結果は表1に示すとおりであった。得られた詰め綿は、羽毛と同じように、嵩高性に優れ、圧縮後の厚み回復性能が高く、且つ保温性に優れたものであることがわかる。
【0060】
(比較例1)
細短繊維Aとしては、実施例1の場合と同じ原綿a1を用いた。また、中空太短繊維Bとしては、実施例1の場合に準じて製造した、単繊維繊度が6.0dtex、繊維長が64mm、ポリシロキサン付着量が0.5重量%、中空率35%の中空丸断面のポリエチレンテレフタレート中空太短繊維Bの原綿(b2)を用いた。これら細短繊維Aの原綿a1と中空太短繊維Bの原綿b2とを、重量比20対80対の割合で積層して開繊機を通過させた後にカード機を通して混合原綿(詰め綿)を製造した。
【0061】
得られた詰め綿10gを用いて、詰め綿の密度、嵩高回復性能及びclo値を測定した。その結果は表1に示すとおりであった。比較例1で得られた詰め綿は初期回復率ロと後期回復率ハが実施例1より低く、圧縮後の回復性能が低く且つ保温性に劣っていた。
【0062】
(比較例2)
細短繊維Aとしては、実施例1の場合と同じ原綿a1を用いた。また、中空太短繊維Bとしては、実施例1の場合に準じて製造した、単繊維繊度が14.0dtex、繊維長が64mm、ポリシロキサン付着量が0.5重量%、中空率35%の中空丸断面のポリエチレンテレフタレート中空太短繊維Bの原綿(b3)を用いた。これら細短繊維Aの原綿a1と中空太短繊維Bの原綿b3とを、重量比30対70対の割合で積層して開繊機を通過させた後にカード機を通して混合原綿(詰め綿)を製造した。
【0063】
得られた詰め綿10gを用いて、詰め綿の密度、嵩高回復性能及びclo値を測定した。その結果は表1に示すとおりであった。比較例2で得られた詰め綿は初期回復率ロと後期回復率ハが実施例1より低く、圧縮後の回復性能が低く且つ保温性に劣っていた。
【0064】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の詰め綿は、嵩高性と圧縮回復性と保温性と風合いに優れた性能を有する点から、敷き布団、掛け布団、枕およびクッション等の寝装寝具に、ジャケット、ズボン、スカートおよびコートなどの衣類に、また、詰め綿として羽毛が使用されるその他製品に好適である。さらにまた、おむつ、お尻拭き、ナプキンおよびワイピングクロスなどの衛生基材に適用することもできる。
【符号の説明】
【0066】
1:透明な箱
2:サンプル詰め綿
3:30gの板
4:初期厚み
5:370g荷重
6:圧縮厚み
7:初期回復厚み
8:後期回復厚み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量比10〜49%の割合で単繊維繊度が0.5〜3.0dtexの細短繊維Aと、重量比50〜80%の割合で単繊維繊度が5.0〜20.0dtexの中空太短繊維Bと、重量比1〜30%の割合で単繊維繊度が1.0〜5.0dtexの熱接着性短繊維Cとが混合されてなり、かつ、細短繊維A及び/又は中空太短繊維Bにポリシロキサンが重量比0.1〜3%の範囲で付着していることを特徴とする詰め綿用混合原綿。
【請求項2】
熱接着性繊維が、低融点樹脂を鞘とする芯鞘型熱可塑性繊維、もしくは、低融点樹脂が繊維表面の一部を構成する複合構造の熱可塑性繊維であることを特徴とする請求項1記載の詰め綿用混合原綿。
【請求項3】
細短繊維A及び/又は中空太短繊維Bが、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、もしくはそれらの共重合体からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の詰め綿用混合原綿。
【請求項4】
ポリシロキサンが付着した短繊維の繊維間摩擦係数μSが、0.2以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の詰め綿用混合原綿。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の詰め綿用混合原綿が加熱処理されてなる詰め綿であって、細短繊維A及び/又は中空太短繊維Bどうしが部分的に、熱接着性短繊維Cにより接着されていることを特徴とする詰め綿。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の詰め綿用混合原綿を、熱接着性短繊維Cの表面の低融点樹脂の融点以上の温度で加熱処理することにより、細短繊維A及び/又は中空太短繊維Bどうしを部分的に接着させることを特徴とする詰め綿の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−202302(P2011−202302A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69773(P2010−69773)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】