説明

誘導加熱式調理器の調理容器及び誘導加熱式調理器の調理容器の製造方法

【課題】調理の加熱時において、粉粒物が凝結した多孔質な成型品内に残留して膨張する気体を外部に放出して、塗膜に加わる外向きの応力を抑制して、使用中に塗膜のふくれが発生する恐れの少ない調理用構造体の塗装及び調理用構造体の塗装方法を提供することを目的とする。
【解決手段】この発明に係る誘導加熱式調理器の調理容器は、カーボン凝結体1等の多孔質セラミックス凝結体を用いた誘導加熱式調理器の調理容器において、調理容器の外面に、例えばマイカ3a等の平板状の充填材を含んだシリコーン樹脂液を吹き付けた後に揮発性溶媒を除去し、乾燥させて形成した透気性の保護層を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電磁誘導などによって加熱する炊飯器の釜などの高温調理器に関するものであって、更に詳しくは、カーボンの粉粒を焼結した素材などの多孔質セラミックスで成る成型品の外表面にシリコーン樹脂などの耐熱性に富んだ樹脂を主体とする、透気性に優れた塗膜を形成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
炊飯器や鍋などの高温での調理を行う調理器具のうち、カーボンやセラミックスの粉粒を凝結させて成る多孔質な成型品は、その表面から液状具材の過度な含浸や固着を防止するため、その表面を塗装することにより改質している。さらに、粉粒を凝結して成る多孔質な成型品の表面が脆いことから、外面にも塗装を施して耐摩耗性を向上させている。
【特許文献1】特開平10−211091号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、表面に塗装を施して改質した多孔質な成型品の一部が損傷するなどして内部に水分が侵入した場合、調理の際の加熱によって水分が蒸発、気化して成型品内部の圧力が過度に上昇することによって塗膜の剥離を来すことがあった。
【0004】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、調理の加熱時において、粉粒物が凝結した多孔質な成型品内に残留して膨張する気体を外部に放出して、塗膜に加わる外向きの応力を抑制して、使用中に塗膜のふくれが発生する恐れの少ない誘導加熱式調理器の調理容器及び誘導加熱式調理器の調理容器の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明に係る誘導加熱式調理器の調理容器は、多孔質セラミックス凝結体を用いた誘導加熱式調理器の調理容器において、調理容器の外面に、平板状の充填材又は粒子状の充填材を含んだ樹脂液を吹き付けた後に揮発性溶媒を除去し、乾燥させて形成した透気性の保護層を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
この発明に係る誘導加熱式調理器の調理容器は、上記構成により、樹脂の乾燥や硬化に伴う収縮応力が面方向に配列した平板状の充填材又は粒子状の充填材の粒子間近傍の樹脂に微細で連続した亀裂である空洞を形成することが出来る。その結果、調理の加熱時において、粉粒物が凝結した多孔質セラミックス凝結体内に残留して膨張する気体を系外に放出できるので、塗膜に掛かる外向きの応力を抑制して使用中のふくれを発生させないという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
実施の形態1.
図1乃至図5は実施の形態1を示す図で、図1は釜状加工物の製造工程図、図2は釜状加工物の内面塗装工程図、図3は釜状加工物の外面塗装工程図、図4はシリコーン樹脂含浸状態の概念図((a)は塗装面近傍におけるシリコーン樹脂含浸状態の概念図、(b)はカーボン粒子間の補強状態の概念図)、図5は塗装面断面による空洞の形成状態を示す概念図((a)は最表面の層に形成された塗膜にマイカの粉末が過度に含有した状態を示す概念図、(b)はシリコーン樹脂に発生する微細なクラックを示す概念図である。
【0008】
誘導加熱式調理器が備える加熱コイルに流れる電流により発生する磁界による誘導電流を受けて発熱するとともに、優れた熱伝導率に基づく均一加熱を達成して炊飯性能が向上できるカーボン凝結体を用いた炊飯器(誘導加熱式調理器の一例)の内釜(調理容器の一例)の製造方法を、以下に詳述する。
【0009】
まず、カーボン凝結体(多孔質セラミックス凝結体の一例)の製造工程について、図1により説明する。コークス粉粒物を主体とする原料に、300℃に加熱して溶融状態にある石油タールピッチを加えて混練した後加圧してブロック状に成形して(S10)得た前駆体を1000℃の無酸素状態で焼結(S20)、さらに3000℃の無酸素状態で加熱処理(S30)をすることにより、カーボンが99.9%以上の純度で密度が約1.7g/cmのカーボン凝結体が得られる。このカーボン凝結体は、旋盤を用いて切削加工を行い、肉厚が5mmの釜状に加工する(S40)。この際、切削屑が気孔内に残留して後述する液状樹脂の含浸を阻害しないように、切削時に切削屑を吸引するなどして排除することが肝要である。
【0010】
次に、釜状加工物の内面塗装について、図2を用いて説明する。
まず、PES(ポリエーテルスルフォン)の水分散溶液に、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(4.6フッ化))微粉末の10容積%を分散させて200cP(センチポアズ)の低粘度である液状樹脂をプライマーとして、釜状加工物の調理面に相当する内面からカーボン凝結体の釜状加工物への含浸が十分に行われるように、スプレーを用いて複数回に分けて、表面に薄く残留する程度まで吹き付ける(S50)。
【0011】
その後、釜状加工物の内面に吹き付けた液状樹脂を、200℃で20分間の加熱処理によって乾燥状態を確保する(S60)。液状樹脂が乾燥した表面にFEPと相溶するPFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)微粉末を均一に付着させる(S70)。その後、370〜400℃の炉中に30分間の加熱によって溶融させて平滑なPFAの薄膜をカーボン凝結体の釜状加工物の内面塗膜を形成する(S80)。
【0012】
図2の工程によって釜状加工物の内面に形成したフッ素系樹脂の塗装は、ピンホールなどの気孔を含まない塗膜を形成するので、液状の具材を投入して調理に供したとしても漏洩することが無く、過度な加熱に伴う焦げ付きが生じたとしても固着する恐れが少ないという特徴を有するので、調理容器として用いる上で都合がよい。
【0013】
次に、以上に述べた釜状加工物の内面塗装に対して、釜状加工物壁の対面に相当する外面に本実施の形態の特徴部分である外面塗装を行う。図3により、釜状加工物の外面塗装工程を説明する。
【0014】
釜状加工物の外面の塗装に用いる塗料は、シンナーを揮発性溶媒としたシリコーン樹脂(樹脂液の一例)に、直径が0.05〜0.3mmのマイカ(平板状の充填材の一例)を30容積%含有して均一分散させたものであって、これをスプレーで釜状加工物の外面に吹き付け(S90)、その後硬化させることによって外面の塗膜を形成する(S100)。
【0015】
カーボンが凝結して形成した釜状加工物は多孔質であって、多くの空隙を粒子間に含有した状態にある。つまり、カーボン粒子が結合する部分が少ないために粒子の欠落が容易に生じ、この結果、単に塗膜面を塗布したのみでは塗膜面が容易に剥離することになる上、カーボン自体も樹脂との接着性に劣るという欠点がある。
【0016】
このため、図3に示すように、シリコーン樹脂等の塗料をスプレーすることにより、表面近傍の基材であるカーボン粉粒のカーボン凝結体1に塗料のシリコーン樹脂2が含浸して、カーボン粒子1a間の結合を補強するとともに、凝結したカーボン粒子1aが接触して形成した空隙1bにシリコーン樹脂2を侵入させ(図4(a))、カーボン粒子1a同士の接触部分を覆うようにして補強する(図4(b))ことにより、見掛けの接着性が向上する。
【0017】
同時に、図5に示すように、最表面の層に形成した塗膜であるマイカ粉末含有シリコーン樹脂3(保護層の一例)には、マイカの粉末が過度に含有された状態となっている(図5(a))。そして、マイカ粉末含有シリコーン樹脂3中のマイカ3aは成型品の表面と平行に配列し、マイカ3a粒子間に形成した空隙に樹脂液が残留して成る。この状態で塗装を施した成型品を280℃の炉中に投入して乾燥させるので、樹脂液に含有していた溶媒であるシンナーが気散して収縮して空隙が生じる。
【0018】
塗装後の乾燥時における溶媒気散に伴う空隙の生成は、溶媒の気散時に発生する収縮応力が厚さ方向では容易に収縮変形を来して前記応力を解放するのに対し、面方向の変形は成型品や配向したマイカ3aに拘束されて収縮を来し難い態様を成すため、マイカ3aに比較して十分に強度の低いシリコーン樹脂2に引っ張り応力が作用してマイカ3aとシリコーン樹脂2との接触界面近傍にあって未熟な硬化状態にあるシリコーン樹脂2に微細なクラック4を発生させ、連続した微細な空洞を形成して、前記応力を解放する(図5(b))。
【0019】
炊飯調理に供する釜状加工物は、加熱時に生じるカーボン凝結体1内部に存在する空隙1bにある空気の膨張や、表面の損傷などによる欠陥部分から侵入した水分などの気化によって、内圧が上昇することがある。外面の塗装までもが通気を遮断して密閉された状態にあれば、内外面に塗装には外向きの応力が発生するので、カーボン凝結体1との密着に劣る部位では剥離が発生することになる。
【0020】
マイカ3aとシリコーン樹脂2との接着性は、シリコーン樹脂2の硬化課程においては十分に発現されているが、硬化の進行とともに接着性の急激な低下を来して容易に剥離を来すようになるので、マイカ3aとの界面部分に剥離に伴う連続した空洞を発生させる。
【0021】
図2、図3による釜状加工物内外面の塗装によれば、内面塗装にはピンホールをも保有せずに通気を遮断してなる反面、外面塗装は空洞を有して通気性を備えるので、釜状成型品をなすカーボン凝結体1が備える空隙1bにある気体が調理に伴う加熱によって急激な温度上昇を来して釜状加工物内部にある気体が膨張するなどして塗装面にかかる圧力を増したとしても、膨張した気体を容易に外部に放出して塗装面を剥離する応力の発生を抑制することが出来るとともに、塗装面とカーボン凝結体1の見掛けの接着力を向上させているので、剥離を防止することが出来る。
【0022】
なお、ここでは塗料としてシリコーン樹脂2を用いたが、調理器具が受ける最高温度以上の耐熱性を備える樹脂であれば上述の樹脂にこだわる必要はなく、例えば、エポキシ樹脂やポリエステル系樹脂などの熱硬化性樹脂のほか、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の耐熱性を有する熱可塑性樹脂を用いてもよい。
【0023】
なお、本実施の形態に用いたシリコーン樹脂2に比較して接着性に優れる上記樹脂の使用に際しては、マイカ3aなどの充填剤の表面に非接着性を促す薬剤を塗布するなどして、表面の保護層を形成する樹脂との接着を阻害する態様を成したものを用いることが好ましい。
【0024】
また、平板状の充填材にマイカ3aを用いたが、粒子状の充填材である窒化硼素、アルミナなどに代替しても良い。同様に、塗装方法として刷毛塗りや浸漬による手段に代えるなど、種々態様を変えて用いても良い。
【0025】
上記実施の形態では、釜状加工物をカーボン凝結体で構成したものについて説明したが、カーボン凝結体以外に、例えば、陶器等でもよい。これらを総称して、多孔質セラミックス凝結体と呼ぶ。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施の形態1を示す図で、釜状加工物の製造工程図である。
【図2】実施の形態1を示す図で、釜状加工物の内面塗装工程図である。
【図3】実施の形態1を示す図で、釜状加工物の外面塗装工程図である。
【図4】実施の形態1を示す図で、シリコーン樹脂含浸状態の概念図((a)は塗装面近傍におけるシリコーン樹脂含浸状態の概念図、(b)はカーボン粒子間の補強状態の概念図)である。
【図5】実施の形態1を示す図で、塗装面断面による空洞の形成状態を示す概念図((a)は最表面の層に形成された塗膜にマイカの粉末が過度に含有した状態を示す概念図、(b)はシリコーン樹脂に発生する微細なクラックを示す概念図である。
【符号の説明】
【0027】
1 カーボン凝結体、1a カーボン粒子、1b 空隙、2 シリコーン樹脂、3 マイカ粉末含有シリコーン樹脂、3a マイカ、4 クラック。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質セラミックス凝結体を用いた誘導加熱式調理器の調理容器において、
当該調理容器の外面に、平板状の充填材又は粒子状の充填材を含んだ樹脂液を吹き付けた後に揮発性溶媒を除去し、乾燥させて形成した透気性の保護層を備えたことを特徴とする誘導加熱式調理器の調理容器。
【請求項2】
多孔質セラミックス凝結体を用いた誘導加熱式調理器の調理容器の製造方法において、
当該調理容器の外面に、平板状の充填材又は粒子状の充填材を含んだ樹脂液を吹き付けた後に揮発性溶媒を除去し、乾燥させて透気性の保護層を形成することを特徴とする誘導加熱式調理器の調理容器の製造方法。
【請求項3】
前記平板状の充填材又は粒子状の充填材と、前記保護層を形成する樹脂との接着性は、前記樹脂の硬化の進行とともに接着性が低下することを特徴とする請求項2記載の誘導加熱式調理器の調理容器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−195849(P2007−195849A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−20126(P2006−20126)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】