説明

誘導加熱装置

【課題】万一加熱コイルの絶縁が破壊された場合にも地絡を確実に防止することができる誘導加熱装置を提供する。
【解決手段】板状の被加熱材1が通過する耐火材で角筒状に形成された被加熱材通過部3の外側に、絶縁板で箱状に形成して密閉されたコイルボックス10を設け、該コイルボックス10の内側に加熱コイル5を封入して外気と遮断し、該加熱コイル5を収納したコイルボックス10の外側に鉄心7を設けた誘導加熱装置において、前記鉄心7が絶縁処理されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱コイルにより被加熱材を誘導加熱する誘導加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、鉄鋼圧延ラインなどでは帯状の被加熱材(シートバー)を予め所定の温度に加熱してから連続的に走行させて、順次圧延ミルで圧延して薄板に成形する。かかる過程では、被加熱材全体の温度が次第に降下して行くため、これを防止するべく、鉄鋼圧延ラインの圧延ミルの上流側に被加熱材全体を加熱する誘導加熱装置が設置されている。
【0003】
この種の誘導加熱装置としては、下記特許文献1に示すように、被加熱材が通過する耐火材で角筒状に形成された被加熱材通過部の外側に、絶縁板で箱状に形成して密閉されたコイルボックスを設け、該コイルボックスの内側に加熱コイルを封入して外気と遮断し、該加熱コイルを収納したコイルボックスの外側に鉄心を設けてなるものが知られている。
【0004】
かかる誘導加熱装置によれば、コイルボックスにより加熱コイル全体が密閉されるため、長期間に亘ってスケールや水蒸気の侵入による加熱コイルの絶縁破壊を防止してコイル寿命を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−206901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、かかる誘導加熱装置が使用される鉄鋼圧延ラインなどは、冷却水の飛散や水蒸気が多量に発生する環境である。そのため、誘導加熱装置は、長年の使用により、耐火材が浸食されたり、その表面にスケールが付着したりし得る。特に、スケールが付着した部分は、湿潤して更にスケールが付着することを繰り返すことにより、堆積したスケールが塊となり、コイルの誘導電流の変化に伴って渦電流を生じて高温となる。
【0007】
このような堆積したスケールの誘導加熱により耐火材が溶損すると、耐火材の溶損箇所から水蒸気やスケールがコイルボックス内に流れ込み、加熱コイルの絶縁が破壊される可能性がある。このような加熱コイルの絶縁破壊は、当該誘導加熱装置の長年の使用により生じ得るものであり、これを完全に防止するためには、定期的な点検やメンテナンスが不可欠であるが、加熱コイルの絶縁破壊が発生した場合にもこれが地絡に繋がることを防止する構造が求められている。
【0008】
すなわち、加熱コイルとの他の構成部材との間で地絡が発生すると、これらの間で生じたスパークにより、加熱コイルが欠損したり、加熱コイルが水冷銅管により構成されている場合には水漏れが発生したりし得る。
【0009】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みて、万一加熱コイルの絶縁が破壊された場合にも地絡を確実に防止することができる誘導加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、板状の被加熱材が通過する耐火材で角筒状に形成された被加熱材通過部の外側に、絶縁板で箱状に形成して密閉されたコイルボックスを設け、該コイルボックスの内側に加熱コイルを封入して外気と遮断し、該加熱コイルを収納したコイルボックスの外側に鉄心を設けた誘導加熱装置において、前記鉄心が絶縁処理されてなることを特徴とする(第1発明)。
【0011】
本発明者は、上記構成の誘導加熱装置において発生する地絡に関して、加熱コイルの絶縁が破壊されることのみならず、絶縁破壊された加熱コイルが鉄心に電気的に接続されることで地絡が生じるとの知見を得た。
【0012】
具体的には、堆積したスケールが塊となり、コイルの誘導電流の変化に伴って渦電流を生じて高温となると、これにより耐火材およびこれに隣接するコイルボックスが溶損して貫通孔が形成される。そして、かかる貫通孔を通して水蒸気やスケールがコイルボックス内に流れ込むことで、加熱コイルの絶縁が破壊されると共に、コイルボックスが内側から浸食等されて、加熱コイルとその外側の鉄心とが電気的に接続されることで鉄心がアースとなり地絡が生じるとの知見を得た。
【0013】
かかる知見に基づいて、第1発明の誘導加熱装置は、コイルボックスの外側に設けられた鉄心を絶縁処理するで、仮にコイルボックス内に水蒸気やスケールが流れ込んで、加熱コイルやコイルボックスの絶縁が破壊された場合にも、鉄心がアースとなることがなく地絡の発生を確実に防止することができる。
【0014】
また、第1発明において、前記鉄心は、前記絶縁処理として、表面に絶縁樹脂が塗布されてなることが好ましい(第2発明)。
【0015】
この第2発明によれば、絶縁処理としては、例えば、絶縁性を有するテフロンシート(登録商標、以下同じ)を貼付することや絶縁ポリマによるモールド成形等が考えられるが、テフロンシートの場合には長年の使用によりシートの剥離する場合があり、モールド成形の場合には、施工が複雑である。そこで、絶縁処理として、例えば、粉体塗装のように絶縁樹脂を塗布することで、簡易に施工することができると共に、剥離等による絶縁性の低下を抑止することができる。これにより、万一加熱コイルの絶縁が破壊された場合にも鉄心がアースとなることがなく確実に地絡の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態の誘導加熱装置の斜視図。
【図2】図1のII−II線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1および図2を参照して、本実施形態の誘導加熱装置について説明する。本発明の誘導加熱装置の構成は、前記特許文献1と共通するため詳細な説明は省略するが、板状被加熱材1が通過する耐火材2で角筒状に形成された被加熱材通過部3の外側に、絶縁板9で箱状に形成されたコイルボックス10が設けられ、この内側に水冷銅管4を横長円状に巻回したソレノイドコイルで形成された加熱コイル5が封入されてなる。
【0018】
加熱コイル5は、水冷銅管4の外周を絶縁テープ11で被覆したものを巻回し、この間に間隔板12を介在させたものである。またコイルボックス10は、ガラスエポキシ積層板で形成された絶縁板9を箱状に組み合わせ、面取りした端部を接着剤13で接合したもので、内部に封入した加熱コイル5を外気から遮断して密閉した構造となっている。
【0019】
コイルボックス10は、耐火材2で角筒状に形成された被加熱材通過部3の外側を囲むように設けられ、更にコイルボックス10の上下の平面部分の外側には、板状被加熱材1の搬送方向に沿って複数本の鉄心7が取付けられている。
【0020】
上記構成の誘導加熱装置によれば、加熱コイル5が密閉されたコイルボックス10内に封入されて外気から遮断されているので、水蒸気やスケールが多量に発生する鉄鋼熱間圧延ラインに設置しても、加熱コイル5はコイルボックス10で保護される。
【0021】
ところで、長年の使用によっては、スケールが付着した部分が湿潤して更にスケールが付着してスケールが塊となり、加熱コイル5の誘導電流の変化に伴う磁束の変化で、この部分が渦電流を生じて高温となる場合がある。このような堆積したスケールの誘導加熱により耐火材2およびコイルボックス10が溶損すると、溶損箇所から水蒸気やスケールがコイルボックス10内に流れ込み、加熱コイル5の絶縁が破壊される可能性がある。さらに、コイルボックス10が内面より浸食等されて、加熱コイル5とその外側の鉄心7とが電気的に接続されることで鉄心7がアースとなり地絡が生じ得る。
【0022】
そこで、本実施形態では、鉄心7の表面全体7aに、エポキシ系の絶縁樹脂を静電粉体塗装している。エポキシ系樹脂は、被塗装物に浸透しやすく、均一に塗布しやすい。
【0023】
静電粉体塗装方法としては、公知の手法を用いることができる。一例を示せば、供給機から静電ガンに供給された粉体塗料(エポキシ樹脂)を、静電発生機で得られた直流高電圧で帯電させると共に、供給機から静電ガンに供給されたエアーで、鉄心7の表面全体7aに塗布する。珪素鋼板7bを積層させた鉄心7は、もともとこれを支持する支持体等(図示省略)を介してアースされており、マイナスに帯電された粉体状のエポキシ樹脂がプラスの電荷に帯電した鉄心7の表面全体7aで付着する。樹脂塗布の後、鉄心7の表面全体7aに塗着されたエポキシ樹脂は、焼付炉で加熱溶融、硬化させて連続皮膜を形成させる。
【0024】
そして、これらの塗布工程および焼付工程を2回に亘って行う(2コート・2ベーク)。なお、2回目の塗布工程では、1回目の塗布工程とは、塗布方向を変えることが望ましい。このように、静電粉体塗装を2コート・2ベークで行うことで、1コート・1ベークでは防止し切れないピンホールや亀裂等を2回目の塗布により確実に塞ぐことができ、ピンホール等の発生を防止して絶縁性を確保することができると共に、水密性も向上させることができる。
【0025】
このように、本実施形態の誘導加熱装置によれば、鉄心7の表面全体7aにエポキシ樹脂を静電粉体塗装することで、仮にコイルボックス10内に水蒸気やスケールが流れ込んで、加熱コイル5やコイルボックス10の絶縁が破壊された場合にも、鉄心7を介しての地絡の発生を確実に防止することができる。
【0026】
次に、本実施形態の誘導加熱装置の変更例について説明する。
【0027】
上記実施形態では、絶縁樹脂にエポキシ樹脂を用いたがこれに限定されるものではなく、シリコン系をはじめとする種々の絶縁樹脂を用いてもよい。
【0028】
また、上記実施形態では、絶縁処理として、絶縁樹脂が塗布する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、絶縁性を有するテフロンシートを貼付することや絶縁ポリマによるモールド成形等による絶縁処理を、鉄心7の表面全体7aに施してもよい。また、本実施形態では、地絡を確実に防止する観点から、鉄心7の表面全体7aに絶縁処理を施したが、その代わりに、鉄心7のコイルボックス10に隣接する面のみを絶縁処理してもよく、静電粉体塗装を行う場合に、鉄心7の表面全体7aを1コート1ベークとして特にコイルボックス10に隣接する面のみを2コート2ベークとしてもよい。
【0029】
また、本実施形態では、加熱コイル5全体がコイルボックス10により密閉する構成について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、加熱コイル5の両端の湾曲したコーナー部分は露出させて、ここを絶縁物でモールドしたものに適用してもよい。
【符号の説明】
【0030】
1…被加熱材、2…耐火材、5…加熱コイル、6…絶縁物、7…鉄心、10…コイルボックス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の被加熱材が通過する耐火材で角筒状に形成された被加熱材通過部の外側に、絶縁板で箱状に形成して密閉されたコイルボックスを設け、該コイルボックスの内側に加熱コイルを封入して外気と遮断し、該加熱コイルを収納したコイルボックスの外側に鉄心を設けた誘導加熱装置において、
前記鉄心が絶縁処理されてなることを特徴とする誘導加熱装置。
【請求項2】
請求項1記載の誘導加熱装置において、
前記鉄心は、前記絶縁処理として、表面に絶縁樹脂が塗布されてなることを特徴とする誘導加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−154805(P2011−154805A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14066(P2010−14066)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(501137636)東芝三菱電機産業システム株式会社 (904)
【出願人】(000242127)北芝電機株式会社 (53)
【Fターム(参考)】