説明

誘導性セルバランシング処理

【課題】安価で効率の高いセルバランシング回路を提供する。
【解決手段】エネルギー蓄積セル配列が共有インダクタ60を有する。スイッチング配列62は、共有インダクタの一方の側を第1の組のセル端子の何れか1つに結合しうるようにするとともに、共有インダクタの他方の側を第2の組のセル端子の何れか1つに結合しうるように制御しうるものであり、第1の組のセル端子と第2の組のセル端子とが相俟って直列配列の全てのセル端子を具えるようになっている。このようにすることにより、共有インダクタを用いて、エネルギーを構造化可能な方法でセル間に伝達しうるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多セル電力供給分野における誘導性セルバランシング処理に関するものである。これらのセルはバッテリセル又はキャパシタ(スーパーキャパシタ)セルとすることができる。特に注目される一例は、電気自動車(又はビークル)のバッテリパックに用いられているセルである。
【背景技術】
【0002】
(ハイブリッド)電気自動車では、モータを駆動するための高電圧を発生させるのに、直列接続された多数のバッテリが用いられている。バッテリセルの寿命(及び自動車のドライブレンジ)を最適なものにするためには、全てのバッテリセルの充電状態(State of ChargeすなわちSoC)を常に同じにする必要がある。直列接続された一連のセルを充電する際、これらのセルは同じ電流を受け、従って、原理的にはこれらのセルは充電後に同じSoCにあるべきである。しかし、バッテリセル間には、例えば、漏洩電流や、電流を化学的に蓄積されるエネルギーに変換する効率において常に不一致が存在する。従って、バッテリセルのSoCは充電後に同じとならない。従って、何の手段も講じないと、各充電/放電サイクルとともに相違が増大する。
【0003】
全てのバッテリセルのSoCをできるだけ等しくするために、通常、セルバランシング回路が(ハイブリッド)電気自動車の高電圧バッテリパックに加えられている。
【0004】
本明細書等では、高電圧バッテリパックの種々の部分を説明するのに、以下の用語を用いる。図1は以下に規定する構成要素を有するバッテリパックの簡単化したブロック線図を示す。
‐ “セル”10又は“バッテリセル”10は基本的な構成要素である。電圧は化学的性質及びSoCに応じて代表的に2.5〜4.2Vとなる。
‐ “区分”12は多数の電子的なセルバランシング構成要素を共有するセル10の群である。2つの区分12a、12bのみを示してあり、区分12bのみに構成要素のセル10を示してある。電圧は代表的に、区分12におけるセル10の個数と、セルの化学的性質と、SoCとに応じて5〜12Vとなる。
‐ “モジュール”14は区分12の群である。2つのモジュールが示されており、モジュール14bのみに構成要素の区分12a、12bが示されている。電圧は通常“安全電圧”となるように、すなわち60Vまでの電圧に選択される。
‐ “スライス”16は、全バッテリパックと同じ電圧を発生する直列接続モジュールの群である。2つのスライス16a、16bが示されており、スライス16aのみに構成要素のモジュール14a、14bが示されている。電圧は、適用分野に依存させて100V〜600Vの範囲内の何れかとする。
【0005】
“パック”又は“バッテリパック”18は並列接続されたスライス16の群であり、これが適用分野で使用されるバッテリの全体を構成する。並列接続することにより、バッテリパックのエネルギー含量及び電力能力を増大させるが、その電圧は増大させない。多くの適用分野では、バッテリパック18は1つのみのスライス16をもって構成されている。電圧は適用分野に応じて100V〜600Vの範囲内の何れかの電圧(スライス電圧と同じ電圧)とする。
【0006】
図2〜4は、今日用いられているセルバランシング処理に対する3つの異なる手法を示す。
【0007】
図2はパッシブセルバランサを示す。この手法では、最高の電荷を有するセル10が、その両端間に抵抗20をスイッチングにより導入することにより簡単に(部分的に)放電される。この手法はエネルギー効率が良くない為、この手法は主としてハイブリッドの電気自動車に用いられる。その理由は、エンジンがドライブレンジを許容レベルに保つのに充分なエネルギーをバッテリパックに供給しうる為である。
【0008】
図3及び図4の手法は内燃機関のない電気自動車にとってより好都合である。
【0009】
図3は容量性システムを示している。電荷はキャパシタ30により2つの隣接セル10間に移動される。全てのキャパシタが電荷をこれらのセル間で充分な回数移動させると、全てのセル内の電荷は等しくなる。
【0010】
図4は、インダクタと変圧器とに基づく種類のシステムの一例である。最高充電セル10がスイッチ42によりインダクタ40に接続される。インダクタ中の電流は時間とともに増大する。予め決定した時間の後にスイッチ42が開放する。インダクタ中の電流は瞬時的に変化しえない為、(低位の電圧セルの)他のスイッチに並列なダイオードを通る経路が見出される。従って、この電流が(ほぼ)ゼロに低下しダイオードの導通が停止されるまで、この電流は他のバッテリセルを充電する。
【0011】
図5は、誘導性のセルバランシング区分を如何に組み合わせて長い連鎖回路を形成するかを示している。
【0012】
2つの区分12a、12bは1つのバッテリセル50を共有しており、一方の区分12bの最高充電セルが次の区分12aの最低充電セルとして作用する(“次の”区分とは高い方の電圧にある次の区分を意味する)。他の構成要素は区分間で共有されていない。
【0013】
一般に、区分Mの最低充電セルは区分M−1の最高充電セルでもある。この規則を適用することにより、任意の長さの連鎖回路を形成しうる。図5のシステムはN個のバッテリセルの連鎖回路に対しN−1個のインダクタを必要とする。従って、長い連鎖回路(例えば、100個のセル)では、1つのバッテリセル当りほぼ1つのインダクタを必要とするものである。
【0014】
図2のシステムには、極めて低価格となるという大きな利点がある。その理由は、このシステムには如何なるキャパシタ、インダクタ又は変圧器をも必要としない為である。図3及び図4のシステムは、バッテリセルの直列接続連鎖回路の各区分当りほぼ1つのリアクティブ素子を必要とし、従って、より高価となる。しかし、これらのシステムには、効率が高くなるという利点がある。抵抗性の方法の効率は0%である。その理由は、この方法は、最低位の充電セルを除いて全てのセルの全ての過剰電力を消散させる為である。容量性システムは、バランスをとるセルのエネルギー差の50%を消散させる。誘導性のシステムの効率はほぼ100%としうる。
【0015】
抵抗性の解決策に比べた誘導性の解決策の特定の問題は構成要素の費用である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従って、回路の費用と効率との間のバランスを見出すセルバランシング手法が必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明によれば、
少なくとも2つのセルを有するセル直列配列と、
インダクタと、
スイッチング配列と
を有するエネルギー蓄積セル配列であって、
前記スイッチング配列は、前記インダクタの一方の側を第1の組のセル端子の何れか1つに結合しうるようにするとともに、前記インダクタの他方の側を第2の組のセル端子の何れか1つに結合しうるように制御しうるものであり、前記第1の組のセル端子と前記第2の組のセル端子とが相俟って前記セル直列配列の全てのセル端子を具えるようになっているエネルギー蓄積セル配列を提供する。
【0018】
このエネルギー蓄積セル配列によれば、セル間にエネルギーを伝達するのに用いるインダクタをセル間で共有するようにしうる。
【0019】
本発明の第1の組の例では、第1の組のセル端子を第2の組のセル端子と異ならせる。このようにすることにより、如何なるセル端子をもインダクタの一方又は他方の端子に結合しうるようにする接続ライン数を最少にする。
【0020】
あるエネルギー蓄積セル配列では、スイッチング配列が、各セル端子とインダクタ端子の一方との間の個別の(それぞれの)スイッチと、各スイッチに対し並列の個別のダイオードとを有するようにしうる。このようにすることにより、各セル端子に対しスイッチ及びダイオードを有し、従って、追加の回路を少数とするエネルギー蓄積セル配列を提供する。
【0021】
他のエネルギー蓄積セル配列では、スイッチング配列が、各セル端子とインダクタ端子の一方との間の個別のスイッチと、各インダクタ端子と最上位のセル端子との間の個別のダイオードと、各インダクタ端子と最下位のセル端子との間の個別のダイオードとを有するようにする。このエネルギー蓄積セル配列はダイオードを4つしか必要としない。
【0022】
更に他のエネルギー蓄積セル配列では、スイッチング配列が、一方のインダクタ端子に対する入力端における第1の三路スイッチと、他方のインダクタ端子に対する入力端における第2の三路スイッチと、各セル端子とこれらの双方の三路スイッチとの間の個別のスイッチとを具えており、前記三路スイッチは、前記個別のスイッチの各々がインダクタ端子の一方又は他方に接続されるように制御されるようにする。この場合、スイッチング配列は、一方のインダクタ端子と最上位のセル端子との間の第1のダイオードと、他方のインダクタ端子と最下位のセル端子との間の第2のダイオードとを有するようにしうる。
【0023】
このエネルギー蓄積セル配列では、回路中に多くのスイッチを設ける代わりにダイオードを2つ必要とするだけである。
【0024】
本発明の第2の組の例では、第1の組のセル端子に全てのセル端子を設け、第2の組のセル端子に全てのセル端子を設けることができる。このようにすることにより、全てのセル端子を何れかのインダクタ端子に接続しうるという点で融通性を最大としうる。
【0025】
あるエネルギー蓄積セル配列では、スイッチング配列が、各セル端子とインダクタ端子の一方との間の個別のスイッチと、各セル端子とインダクタ端子の他方との間の個別のスイッチと、一方のインダクタ端子と最上位のセル端子との間の個別のダイオードと、他方のインダクタ端子と最下位のセル端子との間の個別のダイオードとを有するようにしうる。このエネルギー蓄積セル配列によれば、ダイオードを2つしか必要としないが、各セル端子と関連する2つのスイッチを有する。
【0026】
他のエネルギー蓄積セル配列では、スイッチング配列が、各インダクタ端子と最上位のセル端子との間の個別のダイオードと、各インダクタ端子と最下位のセル端子との間の個別のダイオードとを有するようにする。
【0027】
エネルギー蓄積セル配列は更に、
電荷を除去する必要がある1つの又は複数のセルを識別し、
この識別された1つの又は複数のセルからインダクタにエネルギーを伝達するようにスイッチング配列を制御し、
インダクタから他の1つの又は複数のセルにエネルギーを伝達するようにスイッチング配列を制御する
ようにした制御装置を有するようにしうる。
【0028】
このスイッチング制御によれば、セル間にエネルギーを所望通りに伝達しうるようになる。
【0029】
本発明は更に、本発明の1つ以上のバッテリセル配列を有する電気自動車用バッテリセルパックをも提供する。
【0030】
本発明は更に、少なくとも2つのセルを有するセルの直列配列と、全てのセル間で共有するインダクタとを具えるエネルギー蓄積セル配列内でセルバランシング処理を実行する方法であって、
電荷を除去する必要がある1つの又は複数のセルを識別するステップと、
識別された1つの又は複数のセルから共有のインダクタにエネルギーを伝達するようにスイッチング配列を制御するステップと、
インダクタから他の1つの又は複数のセルにエネルギーを伝達するように前記スイッチング配列を制御するステップと
を具える方法をも提供する。
【0031】
以下に本発明の実施例を、添付図面を参照して詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、種々の構成素子を示すバッテリパックの簡単化したブロック線図である。
【図2】図2は、既知のパッシブセルバランシングシステムを示す線図である。
【図3】図3は、既知の容量性セルバランシングシステムを示す線図である。
【図4】図4は、インダクタ及び変圧器に基づく既知のセルバランシングシステムを示す線図である。
【図5】図5は、長い連鎖回路を形成するのに、図4の誘導性セルバランシング区分を如何に組み合わせる必要があるかを示す線図である。
【図6】図6は、本発明のセルバランシング回路の第1の例を示す線図である。
【図7】図7は、図6の回路における電流経路を示す線図である。
【図8】図8は、本発明のセルバランシング回路の第2の例を示す線図である。
【図9】図9は、本発明のセルバランシング回路の第3の例を示す線図である。
【図10】図10は、本発明のセルバランシング回路の第4の例を示す線図である。
【図11】図11は、本発明のセルバランシング回路の第5の例を示す線図である。
【図12】図12は、図11及び図4の回路の比較を示す線図である。
【図13】図13は、図11の回路を、MOSトランジスタを用いて構成した例を示す線図である。
【図14】図14は、図12の回路の動作を説明するためのタイミング線図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
異なる図で同じ構成要素を示すのに同じ参照符号を用いている。これらの図の回路線図は、上述した従来の回路に比べた変更を表すものであり、その理由で共通の構成要素の説明は繰り返さない。
【0034】
本発明は、共有インダクタを用いるエネルギー蓄積セル配列を提供する。スイッチング配列は、前記インダクタの一方の側を第1の組のセル端子の何れか1つに結合しうるようにするとともに、前記インダクタの他方の側を第2の組のセル端子の何れか1つに結合しうるように制御しうるものとし、前記第1の組のセル端子と前記第2の組のセル端子とが相俟ってセル直列配列の全てのセル端子を具えるようにする。このようにすることにより、共有インダクタを用いて、エネルギーを構造化可能な方法でセル間に伝達しうるようになる。
【0035】
図6は、(理論的に)1つのインダクタ60により任意の長さのセル連鎖回路をバランシングしうる配列を示す。実際には、例えば、3つか4つのセルの比較的短い区分と1つのインダクタとを組み合わせて長い連鎖回路にする。短い区分を使用することにより、スイッチ及びダイオードの仕様を現実的なものに保つ。
【0036】
図6では、各セル端子(セル10は直列接続されている為、図示の3つのセルに対しては4つの電気的なセル端子がある)は個別のスイッチ62を経てインダクタの一方の端子64aに接続されるとともに、他の個別のスイッチ62を経てインダクタの他方の端子64bに接続される。
【0037】
従って、2N個のスイッチが存在する。ここで、Nはセルの個数に1を加算した数である。
【0038】
一方のインダクタ端子64aと最上位のセル端子68との間には個別のダイオード66aが接続されている。他方のインダクタ端子64bと最上位のセル端子68との間には個別のダイオード66bが接続されている。一方のインダクタ端子64aと最下位のセル端子70との間には個別のダイオード66cが接続されている。他方のインダクタ端子64bと最下位のセル端子70との間には個別のダイオード66dが接続されている。
【0039】
これらのダイオードはセルの連鎖回路に対する電流経路を提供する為、全てのスイッチがたとえ開放していてもインダクタ電流は流れ続ける。ダイオードの向きは、セルがダイオードを経て放電しえないように設定する。従って、ダイオードとセルとから成る回路は、セル電圧により逆バイアスされるダイオードを有するループの状態でダイオード及びセルを有する。
【0040】
図6のインダクタは、“フライング”インダクタとみなすことができる。任意のセル(そのサブグループ)からエネルギーを取り出し、このエネルギーを他の任意のセル(そのサブグループ)にダンプすることができる。エネルギー(電荷ではない)は1つのセルから他のセルにポンピングする必要があることに注意することが重要である。電荷をポンピングする場合には、回路の効率は容量性のセルバランサの効率に等しくなる(すなわち、セルの初期のエネルギー差の50%が失われる)。エネルギーを確実にポンピングするには、電流がゼロに降下するまで、インダクタを、充電されているセルに接続する必要がある。
【0041】
電流がゼロまで降下できない場合には、回路はエネルギーポンプと電荷ポンプとの組み合わせのように作用し始める。スイッチング周波数が、DC電流がコイルを流れる程度に高い場合には、回路は純粋な電荷ポンプとして動作する。
【0042】
図7は、エネルギーが最上位のセルから最下位のセルにポンピングされる場合の図6の回路における電流経路を示す。
【0043】
経路80は、この場合最上位のセルである最高充電セルの放電を示す。これによりインダクタに磁束を形成する。この目的のために、1つのスイッチにより最上位のセル端子をインダクタ端子64aに結合し、他の1つのスイッチによりもう1つのセル端子をインダクタ端子64bに結合する。
【0044】
経路80におけるスイッチが開放すると、インダクタは電流を経路82に強制的に流す作用をする。経路82は、放電から充電への切換え中のスピルオーバーを示し、これにより電流をダイオードに流す。
【0045】
経路84は、インダクタ電流を最下位のセルに流す経路を示す。この目的のために、1つのスイッチが最下位のセル端子をインダクタ端子64aに結合し、他のスイッチがもう1つのセル端子をインダクタ端子64bに結合する。
【0046】
経路84におけるスイッチが閉成されると直ちに、インダクタ電流が最下位のセルを流れる。
【0047】
経路80におけるスイッチ解放時と経路84におけるスイッチ閉成時との間の時間は通常できるだけ短く選択する。その理由は、電流流路82が電荷を全てのセルに伝達する為である。目標は最上位のセルから最下位のセルにエネルギーを伝達することである為、上述したことは一種のスピルオーバーとみなすことができる。レッド(red )経路82におけるエネルギーは、3つの全てのセルに伝達される為に失われることはないが、これにより最上位のせるから最下位のセルへのエネルギーの有効な伝達を低減させる。
【0048】
しかし、電荷をインダクタから全てのセルに伝達する目的にスピルオーバー経路を用いることができないという理由は存在しない。設計者は1つ、2つ又は3つのセルからエネルギーを取り出して、このエネルギーを1つ、2つ又は3つのセルにダンプすることを選択することができる。回路はこのことを達成するのに必要なあらゆる適応性を提供する。
【0049】
図8は、図6の回路から2つのダイオードを省略しうる変形例を示す。
【0050】
この場合、一方のインダクタ端子64aと最上位のセル端子68との間の1つのダイオード(又はダイオード連鎖回路)と、他方のインダクタ端子64bと最下位のセル端子70との間の1つのダイオード(又はダイオード連鎖回路)とのみが存在する。
【0051】
インダクタを流れる電流は、エネルギーの次のパケットが、あるセルから他のセルに移動しうる前に、ゼロに戻す必要がある。従って、新たなエネルギー伝達サイクルが開始される度に、インダクタを流れる電流の方向を選択しうるようにする。インダクタ60を流れる電流が常に同じ方向に流れれば、同じ2つのダイオードが常にスピルオーバー電流を流す。従って、他の2つのダイオードを何の問題も生ぜしめることなく回路から省略させることができる。
【0052】
所望の電流の流れは、インダクタを正しい極性で接続することにより達成しうる。
【0053】
図8の回路は、Nをセルの個数として、2・(N+1)個のスイッチを必要とする。
【0054】
図9は、スイッチの個数を減少させた回路を示す。
【0055】
スイッチング配列は、一方のインダクタ端子64aに対する入力端における第1の三路スイッチ90と、他方のインダクタ端子64bに対する入力端における第2の三路スイッチ92と、各セル端子とこれらの双方の三路スイッチとの間の個別のスイッチ94とを具えている。前記三路スイッチ90、92は、各スイッチ94がインダクタ端子の一方又は他方に接続されるように制御されるようにする。
【0056】
このことは、セル端子と三路スイッチ90、92との間に1つのみのスイッチ94が必要であることを意味する。
【0057】
第1のダイオードは、一方のインダクタ端子64aと最上位のセル端子68との間にあり、第2のダイオードは、他方のインダクタ端子64bと最下位のセル端子70との間にある。
【0058】
図9の回路では、セルの選択とインダクタを流れる電流の方向とは分離されている。この回路では、スイッチの個数はN+5である(トグルスイッチは実際には2つのスイッチである為、N+1個のノーマルスイッチと4個のトグルスイッチとが存在する)。3個よりも多いセルを有する回路に対しては、図9の回路が必要とするスイッチは図8の回路の場合よりも少なくなる。
【0059】
トグルスイッチ90、92とスイッチ94とは直列であり、従って、図9は、(特にセルが3個よりも多い区分に対しては)セル区分に対する直列接続スイッチとコイル電流方向とを用いることにより、スイッチを節約しうることを示している。
【0060】
上述したところから明らかなように、図8及び9は図6の回路に基づくものである。図6の回路は、エネルギーをセル間に伝達するこれらセルの選択と、電流の方向とに関する多数の適応性を提供する。図8及び9に示すように、ある適応性を断念することにより、回路中の構成要素の個数を減少させる。
【0061】
図10は、この手法を更なるステップとして取り入れている。この回路では、インダクタ電流の方向を自由に選択しえない。その結果、スイッチの個数を図6に対して半分としうる。インダクタ電流の方向はもはや固定させることができない為、ダイオードを除去することができない。
【0062】
図10では、第1の組のセル端子(第1及び第3端子)が個別のスイッチ100を介して一方のインダクタ端子64aに接続され、第2の組のセル端子(第2及び第4端子)が個別のスイッチ102を介して他方のインダクタ端子64bに接続される。
【0063】
各インダクタ端子と最上位のセル端子との間には個別のダイオードが存在し、各インダクタ端子と最下位のセル端子との間にも個別のダイオードが存在する(すなわち、このダイオード配列は図6のものと同じである)。
【0064】
この場合、適応性が低減される。例えば、一対の隣接セルを単一ユニットとして切換えることができない。しかし、スイッチの個数は減少する。
【0065】
図11では、ダイオードは、これらがスイッチ100、102に対し並列となるように移動されている。並列回路では、スイッチはNMOS及びPMOSトランジスタである。この場合、図11のダイオードは単に、MOSトランジスタのドレイン‐バルクダイオードとすることができる。このことは、これらダイオードは回路の動作にとって重要であるが、レイアウト中の個々の構成要素として表せないことを意味する。このようにすると、図11の回路は図10の回路よりも小型となる。
【0066】
図10及び図11の回路は、ほぼ同じように動作するが、1つの重要な相違がある。すなわち図10の区分は、任意に長くしうるが、図11の区分は、1区分当り3つのセルの長さに限定するのが好ましい。図11の区分を長くすると、ダイオードが短絡を生ぜしめるおそれがある。
【0067】
図6のインダクタは、エネルギーを如何なるセルから他の如何なるせるにも伝達しうるために“フライング”インダクタとみなすことができる。図11のインダクタはむしろ“ローリング”インダクタに近い。このインダクタはエネルギーを奇数番目のセルから偶数番目のセルに、又はその逆に伝達しうるだけである。
【0068】
以下の表は、上述した種々の実施例に対しN個のセルを有するバッテリパックをバランシング処理する構成要素数の状況を示す。
【表1】

【0069】
上述した表は、図11の回路が特に優れていることを示している。この図11の回路では、スイッチの個数とダイオードの個数とを完全に同じにでき、しかも図4の回路と同じ個数のセルに作用するインダクタの個数は半分で足りる。更に、図4の区分で形成した完全なバッテリパックの回路と図11の区分で形成した完全なバッテリパックの回路とを比較することから明らかなように、これらの双方の回路トポロジーはセル、スイッチ及びダイオードに対して全く同じである。インダクタが異なるように接続されるだけである。
【0070】
図12は、2つのインダクタ120、122に対しては図5の回路を示しており、従って、これと同じであるがインダクタ120及び122の代わりにインダクタ124を有する回路は図11に相当する。
【0071】
上述したようにすれば、現存のセルバランサの回路から全てのインダクタを除去し、これらのインダクタの半分を異なる位置に再投入することにより、この現存のセルバランサの価格を極めて容易に安くすることができる。
【0072】
第1の欠点は、図11で最も悪い場合のバランシング時間が図4の場合の2倍となるということである(同じ構成要素の値を用いた場合)。2つの隣接セル間のアンバランスのみを排除する必要がある場合には、これら2つの(図11及び図4の)回路のバランシング時間は互いに等しくなる。しかし、エネルギーをセル間から長い距離に亘って除去する必要がある場合には、バランシング時間は2倍まで長くかかるおそれがある。その理由は、極めて簡単であり、各インダクタが1クロックサイクル当りある量のエネルギーしか除去できない為である。従って、2つのインダクタが1クロック周期当りその2倍のエネルギーしか除去できない。
【0073】
第2の欠点は、図11の効率が(僅かに)低くなるということである。その理由は、インダクタと直列に2つのスイッチがある為である。インダクタと直列に2つのスイッチを設けることにより、利点も得られる。すなわち、一方のスイッチがこわれても、他方のスイッチが開放してインダクタ中の過大電流を回避しうる。図4の回路では、インダクタの寄生抵抗が極めて低く、スイッチがこわれることにより電流を制限する。
【0074】
以下の表は、M個のセルの(M個のセルより成る)区分で構成されたN個のセルを有する(すなわち、M個のセルの区分が相俟ってN個のセルを構成する)バッテリパックにおける構成要素の個数を示している。
【表2】

【0075】
例えば9個のセルの場合、3個のセルの4つの組があり、セル区分の対間で3番目、5番目及び7番目のセルが重複している。従って、N=9、M=3であり、4個のインダクタが必要となる((N−1)/(M−1)=4)。セル区分間の重複を同じにすることにより、スイッチ及びダイオードに対する個数が分かる。
【0076】
図13は、図11の理想的なスイッチを、NMOS及びPMOSトランジスタで置き換えた回路を示す。前述したように、トランジスタの両端間に接続されたダイオードD1 〜D4 はトランジスタのボディダイオードに代えることができる。
【0077】
前述したように、エネルギー(電荷ではない)をポンピングして効率を最大にすることが重要である。この目的のために、新たな各ポンピングサイクルが開始される前にインダクタ電流をゼロに戻す必要がある。ダイオードはポンピングサイクルの終了時にインダクタ中の電流をゼロにする作用をする。しかし、ダイオードの順方向電圧により、このダイオードは電流がこれを流れている間にある電力を常に消費する。このエネルギーはポンピング処理中に失われる。エネルギーポンプの効率をできるだけ高めるためには、ダイオードの両端間の電圧降下をできるだけ低くする必要がある。このことは、ショットキーダイオードを用いることにより容易に達成しうる。ショットキーダイオードの欠点は、このショットキーダイオードは追加の構成要素であり、従って、価格を高める要素である。廉価な解決策は、スイッチのトランジスタボディダイオードを用いることである。しかし、これらのトランジスタボディダイオードの順方向電圧はショットキーダイオードの順方向電圧よりも高くなる。
【0078】
効率を高める他の手法は、フライバック電流を流しているダイオードのスイッチをターンオンさせることである。このスイッチがターンオンされると、ダイオードは実質的に如何なる電流も流さない。その理由は、全ての電流がスイッチを流れる為である。低オーム抵抗のスイッチの場合、損失は極めて低くなる。
【0079】
この場合の新たな問題は、電流がゼロである場合にスイッチがターンオフされないと、逆電流がインダクタを流れ始めるということである。この逆電流によると、ポンプの特性をエネルギーポンプと電荷ポンプとの間のある状態に変化させる。このことは効率にとって悪いことである。この問題は、スイッチの両端間の電圧を測定し、この電圧がゼロである際にこのスイッチングをスイッチオフさせることにより解決しうる。この手法には、追加の比較器が必要となる為に費用が嵩むという欠点がある。
【0080】
より良好な手法は、エネルギーが高充電セルから低充電セルに常にポンピングされるという事実を用いることである。このことは、高電圧セルから低電圧セルにポンピングすることと等価である(これらのセルが同じ温度を有するものとする)。単位時間当りのインダクタにおける電流変化は最高充電セルに接続された場合に高くなる。フライバックダイオードの両端間のスイッチが、インダクタを最高充電セルに接続するスイッチと正確に同じ期間閉成状態に保たれていれば、インダクタ中の電流は依然として、スイッチがフライバックダイオードの両端間で開放している時間だけゼロよりも(僅かに)高くなる。従って、フライバックダイオードはフライバック電流の“テール”を流す必要があるだけである。
【0081】
このテール中のエネルギーは極めて低い為、スイッチのトランジスタボディダイオードをショットキーダイオードの代わりに用いたとしても、このエネルギーは効率に大きな影響を及ぼさない。実際の回路では、“フライバックスイッチ”は“ポンプスイッチ”よりも僅かに短く閉成される。このことは、寄生効果がインダクタ中の電流を反転させないことを確実にする。
【0082】
図14は、スイッチの機能上のゲート電圧(すなわち、高レベルは、トランジスタがN型であるかP型であるかにかかわらず、トランジスタが閉成されたスイッチとして作用することを意味する)と、インダクタ、スイッチ及びダイオードD3 を流れる電流の絶対値とを示す。この図14は、図13の信号の波形を示しており、これらの信号は、エネルギーが最上位のセルから中央のセルへポンピングされた場合に対して示してある。
【0083】
図14の左側の組のプロットは、上述したフライバックスイッチを用いることなくセカンドフェーズを実行した場合を示している。
【0084】
最初に、トランジスタT1 及びT2 がターンオンされ、インダクタ電流が最上位のセルT1 から取り出されて上昇する。次に、トランジスタT1 がターンオフされる。すると、インダクタ電流がダイオードD2 、D3 を経て第2のセルに流れる。この第2のセルと、ダイオードD2 及びD3 と、インダクタとが閉回路を構成している。この時間中トランジスタT2 はターンオン状態となるが、電流は(逆方向で)ダイオードD2 を流れる。次のサイクルが開始される前には、全てのトランジスタがオフ状態となる。
【0085】
図14の右側の組のプロットは、上述したフライバックスイッチを用いてセカンドフェーズを実行した場合を示している。セカンドフェーズ(第2のセルへのエネルギー伝達)では、トランジスタT3 がインダクタ電流のタイミングの最初の部分の間ターンオンされる。このことは、トランジスタT3 がターンオンしている間、電流がダイオードD3 を流れるよりはむしろ(逆方向で)このトランジスタT3 を流れるということを意味する。僅かなインダクタ電流のテールのみがダイオードD3 を経て流れる。
【0086】
セルバランシングに用いるセル電圧の測定用回路は既知であり既に用いられており、これらには本発明に用いるために如何なる変形をも施す必要はない。これらは、セルバランシング区分に対する制御回路の一部分を形成するものであり、(本発明を実施するのに用い得るような)このような制御回路は、図1に区分12bの一部として符号19で線図的に示してある。
【0087】
上述した全ての回路では、1つのセルを一群のセルと置き換えることができる。このことは、階層的なセルバランシングシステムをかなり容易に形成しうることを意味する。最下位のレベルでは、複数のバッテリセルより成る区分をバランシング処理し、最高位のレベルでは、複数のバッテリモジュールの区分をバランシング処理する。この場合の回路トポロジーは同じであるが、異なるレベルの構成要素の仕様は極めて異なること勿論である。その理由は、モジュールの電圧はセルの電圧のほぼ10倍である為である。
【0088】
本明細書で述べた技術は、バッテリセルの代わりにスーパーキャパシタにも適用しうるものである。
【0089】
上述した実施例に対する他の変形は、特許請求の範囲に記載した本発明の実施に当り、図面、明細書の開示及び特許請求の範囲の研究から当業者により理解でき実施しうるものである。ある手段を互いに異なる独立請求項に述べているという単なる事実は、これらの手段の組み合わせを用いることが有利でないということを意味するものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つのセルを有する、セルの直列配列と、
インダクタと、
スイッチング配列と
を具えるエネルギー蓄積セル配列であって、
前記スイッチング配列は、前記インダクタの一方の側を第1の組のセル端子の何れか1つに結合しうるようにするとともに、前記インダクタの他方の側を第2の組のセル端子の何れか1つに結合しうるように制御しうるものであり、前記第1の組のセル端子と前記第2の組のセル端子とが相俟って前記直列配列の全てのセル端子を具えるようになっているエネルギー蓄積セル配列。
【請求項2】
請求項1に記載のエネルギー蓄積セル配列において、前記第1の組のセル端子は全て前記第2の組のセル端子と異なっているエネルギー蓄積セル配列。
【請求項3】
請求項2に記載のエネルギー蓄積セル配列において、前記スイッチング配列は、各セル端子とインダクタ端子の一方との間の個別のスイッチと、各スイッチに対し並列の個別のダイオードとを有しているエネルギー蓄積セル配列。
【請求項4】
請求項2に記載のエネルギー蓄積セル配列において、前記スイッチング配列は、各セル端子とインダクタ端子の一方との間の個別のスイッチと、各インダクタ端子と最上位のセル端子との間の個別のダイオードと、各インダクタ端子と最下位のセル端子との間の個別のダイオードとを有しているエネルギー蓄積セル配列。
【請求項5】
請求項2に記載のエネルギー蓄積セル配列において、前記スイッチング配列は、一方のインダクタ端子に対する入力端における第1の三路スイッチと、他方のインダクタ端子に対する入力端における第2の三路スイッチと、各セル端子とこれらの双方の三路スイッチとの間の個別のスイッチとを具えており、前記三路スイッチは、前記個別のスイッチの各々がインダクタ端子の一方又は他方に接続されるように制御されるようになっているエネルギー蓄積セル配列。
【請求項6】
請求項5に記載のエネルギー蓄積セル配列において、前記スイッチング配列は、一方のインダクタ端子と最上位のセル端子との間の第1のダイオードと、他方のインダクタ端子と最下位のセル端子との間の第2のダイオードとを有しているエネルギー蓄積セル配列。
【請求項7】
請求項1に記載のエネルギー蓄積セル配列において、前記第1の組のセル端子が全てのセル端子を有するとともに、前記第2の組のセル端子が全てのセル端子を有しているエネルギー蓄積セル配列。
【請求項8】
請求項7に記載のエネルギー蓄積セル配列において、前記スイッチング配列は、各セル端子とインダクタ端子の一方との間の個別のスイッチと、各セル端子とインダクタ端子の他方との間の個別のスイッチと、前記インダクタ端子の一方と最上位のセル端子との間の個別のダイオードと、前記インダクタ端子の他方と最下位のセル端子との間の個別のダイオードとを有しているエネルギー蓄積セル配列。
【請求項9】
請求項8に記載のエネルギー蓄積セル配列において、前記スイッチング配列は、各インダクタ端子と前記最上位のセル端子との間の個別のダイオードと、各インダクタ端子と前記最下位のセル端子との間の個別のダイオードとを有しているエネルギー蓄積セル配列。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか一項に記載のエネルギー蓄積セル配列において、このエネルギー蓄積セル配列が更に、
電荷を除去する必要がある1つの又は複数のセルを識別し、
この識別された1つの又は複数のセルからインダクタにエネルギーを伝達するように前記スイッチング配列を制御し、
インダクタから他の1つの又は複数のセルにエネルギーを伝達するように前記スイッチング配列を制御する
ようにした制御装置を有しているようにしたエネルギー蓄積セル配列。
【請求項11】
請求項1〜10の何れか一項に記載の1つ以上のバッテリセル配列を具える電気ビークルバッテリセルパック。
【請求項12】
少なくとも2つのセルを有する、セルの直列配列と、全てのセル間で共有されるインダクタとを具えるエネルギー蓄積セル配列内でセルバランシング処理を実行する方法であって、この方法が、
電荷を除去する必要がある1つの又は複数のセルを識別するステップと、
識別された1つの又は複数のセルから共有のインダクタにエネルギーを伝達するようにスイッチング配列を制御するステップと、
インダクタから他の1つの又は複数のセルにエネルギーを伝達するように前記スイッチング配列を制御するステップと
を具える方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、スイッチング配列を制御する前記ステップが、インダクタの一方の側を第1の組のセル端子のうちの選択した1つに結合するステップと、インダクタの他方の側を第2の組のセル端子のうちの選択した1つに結合するステップとを有している方法。
【請求項14】
請求項12に記載の方法において、識別された1つの又は複数のセルから共有のインダクタにエネルギーを伝達するようにスイッチング配列を制御する前記ステップが、スイッチ及びインダクタを電流が通過するようにするステップを有し、インダクタから他の1つの又は複数のセルにエネルギーを伝達するように前記スイッチング配列を制御する前記ステップが、ダイオード配列を電流が通過するようにするステップを有するようにする方法。

【図2】
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【図3】
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【図7】
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【図14】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−39855(P2012−39855A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−142074(P2011−142074)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(507219491)エヌエックスピー ビー ヴィ (657)
【氏名又は名称原語表記】NXP B.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 60, NL−5656 AG Eindhoven, Netherlands
【Fターム(参考)】