説明

誘導結合プラズマ分析装置

【課題】 プラズマトーチと高周波誘導コイルとの相対位置を所定位置に固定して、プラズマを安定化して発生すること。
【解決手段】 誘導結合プラズマ分析装置であって、プラズマ用ガスと霧滴化した試料が導入されるプラズマトーチ4と、プラズマトーチ4に高周波電圧を印加する誘導コイル6とを備え、この誘導コイル6は、プラズマトーチ4を通す空洞を備えた誘導コイル押さえ11で固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES)、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)などの誘導結合プラズマ分析装置(以下、ICP装置と称する)に関し、特にICP装置のプラズマ生成部に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図2に、従来のICP装置のプラズマ生成部の概略構成図の一例を示す。プラズマ生成部1は、誘導結合プラズマを生じさせるプラズマトーチ4、そのプラズマトーチ4の最外管を着脱自在に固定するためのプラズマトーチ押さえ部材5、プラズマトーチ4に高周波電圧を印加する誘導コイル6、プラズマトーチ4の取り付け位置を位置決めするための位置決め凸部19とからなっている。
【0003】
そして、位置決め凸部19は、プラズマトーチ4の所定位置に外嵌されてプラズマトーチ4と一体化された管状部材であって、プラズマトーチ4が所定位置に位置決めする時に、位置決め凸部19が、プラズマトーチ押さえ5に当接されて固定されている。
【0004】
そして、誘導コイル6に高周波電圧を印加することより形成される高周波電磁界が、プラズマトーチ4内に流されるアルゴンガスからなるプラズマ用ガスを励起してプラズマAを形成する。
【0005】
そして、別の導入口からアルゴンガスからなるキャリアガスと共にプラズマトーチ4内に噴出された試料は、このプラズマAにより励起して原子化され発光する。(例えば、特許文献1を参照)
このプラズマの発光スペクトルを分光器により分光したり、質量分析器により質量分離したりすることで、試料中の元素の定性定量測定がなされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−40100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した従来のICP装置では、以下の課題が生じていた。
【0008】
即ち、従来技術ではプラズマトーチ押さえに対するプラズマトーチの相対位置を容易に位置決めすることができるので、簡便且つ精度良くプラズマトーチを所定位置に取り付けることができるが、誘導コイルとプラズマトーチの相対位置が安定して位置決めができないので、プラズマが点火し難いかまたは点火しない、またはプラズマ点火しても不安定になるという問題点があった。
【0009】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、簡便にプラズマトーチと誘導コイルとの相対位置を所定位置に取り付けることができるようにすることで、常にプラズマ点火やプラズマ状態安定化が可能なICP装置を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0011】
本発明に係るICP装置は、プラズマ用ガスと霧滴化した試料が導入される管状のプラズマトーチと、プラズマトーチに高周波電圧を印加する誘導コイルと、誘導コイルの高周波電圧で発生させるプラズマにより試料を励起して発光させ、その発光の検出する検出器と、検出した発光のスペクトルを分析する分析処理部を備え、この誘導コイルは前記プラズマトーチを通す中空筒状の空洞を備えた誘導コイル押さえで固定するようにした。
【0012】
または、誘導コイル押さえの空洞の形状は、プラズマトーチの外周形状とほぼ同じにすることにより、プラズマトーチの管状の断面(短軸)方向に対して、プラズマトーチ外周と誘導コイルとの相対的な位置関係が固定できるようになる。
【0013】
または、プラズマが放出される側のプラズマトーチ先端部と誘導コイル押さえの空洞の一方の面とが、ほぼ同一面上となる配置になるようにプラズマトーチを固定することにより、プラズマトーチの長軸方向に対して、プラズマトーチと誘導コイルの相対的な位置関係が固定できるようになる。
【0014】
さらに、誘導コイル押さえは、押出ポリスチレンなどの比誘電率が空気と同程度の材料を用いるようにした。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るICP装置によれば、プラズマトーチと高周波誘導コイルとの相対位置を簡便に所定位置に取り付けることができるので、プラズマの点火が安定化することができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るICP装置の第1実施形態を示す構成図である。
【図2】従来に係るICP装置のプラズマトーチ周辺部分の一例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るICP(誘導結合プラズマ分析装置)装置の第1実施形態を、図1を参照して説明する。
【0018】
図1は、本実施形態のICP装置の概略構成図の一例を示す。
【0019】
本実施形態のICP装置は、大別すると試料導入部2、プラズマ生成部1、検出部3から構成されている。試料導入部2では、ネブライザ9でキャリアガスとなるアルゴンガスを流すことにより試料容器7内の液体試料が吸引される。そして、ネブライザ9に吸引された試料はスプレーチャンバー10に放出されて霧滴化される。そして、プラズマ生成部1では、プラズマトーチ4にアルゴンなどのプラズマ用ガスと霧滴化した試料とキャリアガスを流し、プラズマトーチ4の周りに設けた誘導コイル6に高周波電圧をかけることにことで、プラズマを発生させて試料を励起して電離化する。そして、検出部3では、プラズマ生成部1のプラズマトーチ4の試料導入部2側と反対側に生成された電離化した試料を含むプラズマ発光を、分光器や質量分析器など検出器で検出し、その検出された波長や質量から分析制御部15で試料の元素などの定性定量分析をするものである。
【0020】
プラズマトーチ4は、石英からなる同心円筒状の三重管構造になっており、その中心にアルゴン(Ar)ガスなどのキャリアガスと共に導入される試料のための試料ガス管(インナーチューブ)12が位置し、その周囲にプラズマの上下位置を制御するための補助ガス管(ミドルチューブ)13が、さらにその周りにプラズマ用のガスを流すためのプラズマ用ガス管(アウターチューブ)14が取り囲むという構成からなっている。このプラズマトーチ4は、プラズマトーチ押さえ5に当接されて固定されている。
【0021】
さらに、プラズマ用ガス管14の外側に、誘導コイル押さえ11によって固定されて誘導コイル6が3ターン巻き付けられている。
【0022】
誘導コイル押さえ11は、比誘電率が空気に近い材料を用いるのが望ましく、例えば押出ポリスチレンの一つである、比誘電率が空気に近くかつ耐熱性も高いスチロフォーム(登録商標)からなり、所定の位置に誘導コイル6を取り囲みプラズマ用ガス管14の外形とほぼ同一形状の中空筒状の形状を有して一体型成型したものを用いている。
【0023】
さらに、プラズマトーチ4の出口側の誘導コイル押さえ11の面と、プラズマ用ガス管14の出口側の面を同一平面となる位置で固定することで、誘導コイル6とプラズマトーチ4の相対的な位置が所定の位置に固定できるようになる。
【0024】
そして、誘導コイル6により形成される高周波電磁界が、プラズマ用ガス管14に流されるアルゴンガスを電離して、プラズマを形成する。
【0025】
ネブライザ9にキャリアガスが流されると、液体試料を入れた試料容器7からチューブ8を介して、霧吹きの原理によって試料が吸い上げられ、霧滴化してスプレーチャンバー10に吹き込まれる。そして、この霧滴化した試料がキャリアガスと共に試料ガス管12を通って試料ガス管12の先端部からプラズマ用ガス管14内に噴出される。
【0026】
そして、試料ガス管12の先端部から噴出した試料は、このプラズマにより励起して発光する。
【0027】
この励起した試料を含むプラズマ発光を、検出器16であるシーケンシャル型分光器により分光され、試料中の元素の定性・定量測定がなされる。
【0028】
シーケンシャル型分光器は、モノクロメータと呼ばれるタイプであり、光電子増倍管(PMT ;Photo Multiplier Tube) を用い、回折格子をステッピングモータで回転させ、元素の波長位置を次々に移動しながら測定をする。
【0029】
そして、分析制御部15では、分光器16からのデータからマススペクトルを作成して、試料中の元素の定性・定量分析をして、その結果をディスプレイ(図示せず)にマススペクトルや数値で表示するようにしている。
【0030】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0031】
例えば、本実施形態では、検出器としてシーケンシャル型分光器を用いたが、マルチ型分光器や質量分析計を用いても構わない。マルチチャンネル型分光器は、ポリクロメータとよばれる分光系と電荷結合素子(CCD;Charge Coupled Device)などの二次元検出素子を用いて、多波長を同時測定します。また、質量分析計は、電離化した試料を質量電荷比ごとに分離することにより測定する。
【0032】
また、実施形態では、ファッセル形の三重管トーチを用いているが、これに限定されるものではなく四重管トーチでも構わない。
【0033】
尚、本実施形態では、プラズマトーチ4の外周を配置された誘導コイル6の全体を取り囲むように誘導コイル押さえ11で固定しているが、それには限定はされない。例えば、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂の材料を用いて、誘導コイル6のターン部の一部を固定し、かつプラズマトーチ4の外形の一部を支持する形状にしてもよい。
【0034】
また、誘導コイル押さえ11とプラズマトーチ4の間に、放電防止用のシールドとなる石英などからなるボンネットを設けてもよい。この場合に、プラズマトーチ4の出口側の誘導コイル押さえ11の面をボンネットの位置に合わせても良い。
【0035】
尚、誘導コイル押さえ11と誘導コイル6の間の放電を防ぐために、その間に石英などの絶縁層を設けても良い。
【符号の説明】
【0036】
1 プラズマ生成部
2 試料導入部
3 検出部
4 プラズマトーチ
5 プラズマトーチ押さえ
6 誘導コイル
7 試料容器
8 チューブ
9 ネブライザ
10 スプレーチャンバー
11 誘導コイル押さえ
12 試料ガス管
13 補助ガス管
14 プラズマ用ガス管
15 分析制御部
16 検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ用ガスと霧滴化した試料が導入されるプラズマトーチと、
前記プラズマトーチに高周波電圧を印加する誘導コイルと、
誘導コイルの高周波電圧で発生させるプラズマにより試料を電離して、
その電離した試料を試料中の元素の測定する検出器と、
を備えた誘導結合プラズマ分析装置において、
前記誘導コイルは、前記プラズマトーチを通す空洞を備えた誘導コイル押さえで固定されていることを特徴とする誘導結合プラズマ分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の誘導結合プラズマ分析装置において、
前記プラズマトーチは、円筒形であって、
前記誘導コイル押さえの空洞の形状は、前記円筒形プラズマトーチの外周とほぼ同じであることを特徴とする誘導結合プラズマ分析装置。
【請求項3】
請求項2に記載の誘導結合プラズマ分析装置において、
前記プラズマトーチの先端部と前記誘導コイル押さえの空洞の一方の出口側とが、ほぼ同一面上になるような配置で、前記プラズマトーチを固定することを特徴とする誘導結合プラズマ分析装置。
【請求項4】
請求項1に記載の誘導結合プラズマ分析装置において、
前記誘導コイル押さえは、比誘電率が空気と同程度の材料からなることを特徴とする誘導結合プラズマ分析装置。
【請求項5】
請求項4に記載の誘導結合プラズマ分析装置において、
前記誘導コイル押さえは、押出ポリスチレンからなることを特徴とする誘導結合プラズマ分析装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−197080(P2010−197080A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−39342(P2009−39342)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)
【Fターム(参考)】