説明

誘電体多層膜及びそれを用いた光学部品

【課題】本発明は、真空蒸着法よりも安価に生産することが可能な誘電体多層膜を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、透明基板の表裏面のうち、少なくとも一方の面に、高屈折率樹脂層と低屈折率樹脂層とを両者が交互に積層するように、2層以上有する多層構造体からなることを特徴とする誘電体多層膜であって、前記高屈折率樹脂層が、平均粒子径が1〜80nmである、炭素系微粒子を含有することを特徴とする誘電体多層膜に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用ライトやプロジェクターなどの光源カバーや、可視光線選択反射用ミラー、光通信システム等において用いられる薄型化した誘電体多層膜、その製造方法およびこれを用いた光学部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学多層膜フィルターの透過波長域から不透過波長域への変化部分の波長帯域を狭くして傾斜を急竣にするためには、光学多層膜フィルターを構成する層の数を多くすることが必要である。そのため、従来、5層以上の層からなるものも存在するが、近年では特性的及び経済的見地から9〜15層から構成されるものが主に開発されつつある。しかしながら高性能多層フィルターでは、100層近くの多層にしなければ、要求性能を満足できないものもある。
【0003】
また、これら光学多層膜フィルターの製造には、蒸着法やスパッタ法によって交互に繰り返し成膜を行って製造されるが、この場合、それだけの設備をもった装置でなければ作製することができず、製造時間の長さなどからくるコスト高が避けられない。また、光通信システムなどにおいて、誘電体多層膜フィルターを挿入したときに生じる過剰損失を低減するために薄いものが要求される。
【0004】
この問題に対し、特許文献1では、基板がフッ素化ポリイミド膜である誘電体多層膜フィルターを開示している。この技術を用いることにより、厚さ10数μmの誘電体多層膜フィルターを歩留りよく製造することが可能である。また、特許文献2では、低屈折率材料をフッ素化ポリイミド膜とする誘電体多層膜フィルターを開示している。この技術により、支持基板を用いることなく、薄膜の誘電体多層膜の提供が可能である。しかしながら、いずれの場合も、高屈折率層は蒸着法やスパッタ法によって成膜されており、製造時間の長さなどから、生産コストの大幅増加は回避できていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
特許文献1特開平4−211203号公報
特許文献2特開2000−47028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題を鑑み、解決するためになされたものである。すなわち本発明は、真空蒸着法よりも安価に生産することが可能な誘電体多層膜を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは前記した課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、低屈折率層との屈折率差を大きく保つため、高屈折率樹脂層を構成する樹脂組成物が前記課題を解決するものであることを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。
即ち本発明は、
(1)透明基板の表裏面のうち、少なくとも一方の面に、屈折率比(低屈折率樹脂層の屈折率n/高屈折率樹脂層の屈折率n)が、n/n=0.98以下である高屈折率樹脂層と低屈折率樹脂層とを交互に積層するように、2層以上有する多層構造体からなることを特徴とする誘電体多層膜であって、前記高屈折率樹脂層が、平均粒子径が1〜80nmである、炭素系微粒子を含有することを特徴とする、誘電体多層膜
(2)平均粒子径が1〜80nmである炭素系微粒子が、ダイヤモンド構造を有する炭素系微粒子であることを特徴とする、上記(1)記載の誘電体多層膜
(3)炭素系微粒子が、爆薬組成物の爆発合成により得られた微細ダイヤモンドであることを特徴とする、上記(1)〜(2)に記載の誘電体多層膜。
(4)炭素系微粒子が高屈折率樹脂膜成分中、60vol%以下であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の誘電体多層膜
(5)高屈折率樹脂層と低屈折率樹脂層の組み合わせを1積層膜とし、積層膜数が3〜20層であることを特徴とする、上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の誘電体多層膜
(6)上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の高屈折率樹脂層を構成する高分子溶液と低屈折率樹脂層を構成する高分子溶液とを、(a)高分子材料を基板上に塗布・乾燥させ低屈折率樹脂膜を形成する工程、(b)該低屈折率樹脂膜上に塗布・乾燥させ高屈折率樹脂膜を形成する工程、(c)(a)および(b)の塗布成膜工程を交互に繰り返し、多層構造体を形成する工程を備えることを特徴とする誘電体多層膜の製造方法
(7)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の誘電体多層膜を備えることを特徴とする光学部品
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の誘電体多層膜では、低屈折率層並びに高屈折率層に高分子材料を用いることにより、従来、使用されてきた、無機材料を蒸着法やスパッタ法によって交互に繰り返し成膜を行う製造方法に比べ、安価なコストで多層膜フィルターを製造する事が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1〜3の誘電体多層膜の反射率を示す図。
【図2】実施例3〜4の誘電体多層膜の反射率を示す図。
【図3】実施例5〜7および比較例1の誘電体多層膜の反射率を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の誘電体多層膜では、透明基板の表裏面のうち、少なくとも一方の面に、高屈折率を示す樹脂膜層とこの層よりも低屈折を示す樹脂膜層とを交互に積層した多層構造体であり、この高屈折率樹脂層には、平均粒子径が1〜80nmである、炭素系微粒子を含有することを特徴とする。
【0011】
本発明で用いられる炭素系微粒子は、平均粒子径が1〜80nmである炭素系微粒子であり、高屈折率層を構成する樹脂の屈折率より高ければ特に限定されず、例えば、アダマンタン、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、アモルファスカーボン、ダイヤモンドライクカーボン、アセチレンブラック、天然ダイヤモンド、高温高圧法、衝撃圧縮法、爆轟法等により得られる、単結晶ナノダイヤモンド、多結晶ダイヤモンド等が挙げられる。これらのうち、アダマンタン又は天然ダイヤモンド、高温高圧法、衝撃圧縮法、爆轟法等により得られる、単結晶ナノダイヤモンド若しくは多結晶ダイヤモンド等のダイヤモンド構造を有する炭素系微粒子が好ましく、中でも爆轟法で得られるナノダイヤモンドが特に好ましい。
【0012】
本発明で特に好ましく用いられる爆轟法ナノダイヤモンドは、爆薬組成物を炭素原料として、通常密閉容器内もしくは水中等で爆発させることにより合成することができる。爆発は通常の爆薬の爆発と同様に、雷管等により起爆すればよい。密閉容器の大きさは、特に限定は無いが、合成ダイヤモンドの回収等の容易さ等から、例えば爆薬100g〜200gに対して、5〜50リッター程度、より好ましくは10〜30リッター程度の爆発に耐えうる容器が好ましい。
【0013】
上記記載の爆薬組成物における爆薬成分としては、爆速7000m/s以上のものが好ましく、通常現在使用されているものは爆速9000m/s以下程度である。該爆薬成分としては、ニトロ基を含む化合物、好ましくはニトロ基を3個以上含む化合物、例えば、芳香族ニトロ化合物(好ましくはアミノ基又は/及びメチル基で置換されていてもよいトリ又はテトラニトロベンゼン)、ニトロアミン(好ましくはC3〜C6アルキル(3〜6ニトロ)アミン)、硝酸エステルが挙げられる。その具体例としては、TNT(トリニトロトルエン)、テトリル(テトラニトロメチルアニリン)、RDX(トリメチレントリニトロアミン)、HMX(テトラメチレンテトラニトロアミン)、PETN(ペンタエリスリトールテトラナイトレート)等が挙げられる。これらは単独で又は2種類以上混合して用いられる。また、ダイヤモンドの生成に必要な爆発衝撃圧を与え得るものであれば、他の産業用爆薬も勿論使用可能である。
【0014】
本発明における炭素系微粒子は、平均粒子径が1〜80nmである事が好ましい。平均粒子経が80nmより大きいと、可視領域での光の散乱を生じ、塗布後に得られる成膜の透過率が低減してしまう。また、屈折率の観点から、天然ダイヤモンドは高屈折率であるものの、材料硬度が極めて高いため、その平均粒子径を80nm以下に低下させる事が技術的に困難であるため、炭素系微粒子として、前記ダイヤモンド構造を有する物質を選択する場合、天然ダイヤモンド以外の合成ダイヤモンドを選択するほうが平均粒子径を調整しやすい。なお、非炭素系微粒子で樹脂の屈折率より高い材料もあるが、例えば、TiOなどは光触媒能を有するため、ポリマー層を劣化させてしまう恐れがある。上記記載の炭素系微粒子は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
粒度分布の測定は、特に限定される事はなく、公知のレーザー光源等を用いた、回折法や散乱法等により行うことが可能である。
【0015】
本発明における高屈折率樹脂層中に含まれる炭素系微粒子は、低屈折率樹脂層との屈折率比を大きくするために添加するため、高濃度であるほうが望ましいが、好ましくは、70Vol%以下であり、更に好ましくは、60Vol%以下である。70Vol%以上だと、屈折率は上がるものの、高屈折率樹脂層の強度が脆くなり、下層の低屈折率樹脂層との密着性が低下してしまう。
【0016】
本発明で用いられる高屈折率樹脂層に含まれるポリマーとしては特に限定されず、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレンなどのポリオレフィン類、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリ(エチレン?ビニルアルコール)共重合体、ポリ(エチレン?酢酸ビニル)共重合体、ポリスチレン、ヒドロキシポリスチレンなどのポリビニル誘導体類、ポリビスフェノールAカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)などのポリカーボネート類、6?ナイロン、6,6?ナイロン、11?ナイロン、12?ナイロン等のポリアミド類、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチルなどのポリ(メタ)アクリル酸誘導体類や、各種イソシアネート化合物の付加反応から得られる、ポリカルボジイミド類、ポリアリレート類、ポリサルフォン類、ポリケトン類、ポリエーテルケトン類、シリコーン樹脂類等が挙げられる。好ましくは、可視領域で着色の少ないポリオレフィン類、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリ(エチレン?ビニルアルコール)共重合体、ポリ(エチレン?酢酸ビニル)共重合体、ポリスチレン、ヒドロキシポリスチレン、ポリカーボネート類、ポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステル類、ポリカルボジイミド類、ポリアリレート類、シリコーン樹脂類等が挙げられる。これらポリマー類は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
本発明で用いられる低屈折率樹脂層は、屈折率比(低屈折率樹脂層の屈折率n/高屈折率樹脂層の屈折率n)が、n/n=0.98以下であり、好ましくはn/n=0.97以下、特に好ましくはn/n=0.96以下であれば、それを構成するポリマー等の成分に特に限定はない。
なお、前記屈折率の測定は、特に限定される事はなく、既に公知のアッベ屈折率計や、エリプソメーターを用いたエリプソ法等により行うことが可能である。
低屈折率樹脂層に含まれるポリマーとしては、例えば、前記記載のポリオレフィン類、ポリビニル誘導体類、ポリカーボネート類、ポリ(メタ)アクリル酸誘導体類、ポリアリレート類、ポリサルフォン類、ポリケトン類、ポリエーテルケトン類等の他、低屈折率を呈しやすいポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂類等が挙げられる。これらポリマー類は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
また本発明で用いられる低屈折率樹脂層には、必要に応じて前記ポリマーよりも低屈折率を示す微粒子を分散する事も出来る。低屈折率を示す微粒子としては、例えば、MgF、CaF、SiO、中空SiO、Si等が挙げられる。これら微粒子は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これら低屈折率を示す微粒子の添加量としては、好ましくは、低屈折率樹脂層中で70Vol%以下であり、更に好ましくは、60Vol%以下である。70Vol%を超えると、屈折率は低下するものの、低屈折率樹脂層の膜強度が脆くなり、下層の高屈折率樹脂層との密着性が低下してしまう。
【0019】
本発明の誘電体多層膜各樹脂層には、目的に応じ難燃剤、カップリング剤、レベリング剤等を適宜添加することが出来る。難燃剤としてはハロゲン化エポキシ樹脂、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、酸化錫、水酸化錫、酸化モリブデン、硼酸亜鉛、メタ硼酸バリウム、赤燐、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、アルミン酸カルシウム等の無機難燃剤、トリス(トリブロモフェニル)フォスフェート等の燐酸系難燃剤が挙げられる。
【0020】
カップリング剤としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)3 −アミノプロピルメチルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、N−(2−(ビニルベンジルアミノ)エチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン等のシラン系カップリング剤、イソプロピル(N−エチルアミノエチルアミノ)チタネート、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、チタニウムジ(ジオクチルピロフォスフェート)オキシアセテート、テトライソプロ ピルジ(ジオクチルフォスファイト)チタネート、ネオアルコキシトリ(p−N−(β−アミ ノエチル)アミノフェニル)チタネート等のチタン系カップリング剤、Zr−アセチルアセ トネート、Zr−メタクリレート、Zr−プロピオネート、ネオアルコキシジルコネート、ネオアルコキシトリスネオデカノイルジルコネート、ネオアルコキシトリス(ドデカノイル)ベンゼンスルフォニルジルコネート、ネオアルコキシトリス(エチレンジアミノエチル)ジルコネート、ネオアルコキシトリス(m−アミノフェニル)ジルコネート、アンモニウムジルコニウムカーボネート、Al−アセチルアセトネート、Al−メタクリレート、Al−プロピオネート等のジルコニウム、或いはアルミニウム系カップリング剤が挙げられるが、好ましくはシリコン系カップリング剤である。カップリング剤を使用する事により耐湿信頼性が優れ、吸湿後の接着強度の低下が少ない硬化物が得られる。
【0021】
レベリング剤としてはエチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等のアクリレート類からなる分子量4000〜12000のオリゴマー類、エポキシ化大豆脂肪酸、エポキシ化アビエチルアルコール、水添ひまし油、チタン系カップリング剤、変性シリコーン、アニオン・ノニオン界面活性剤等が挙げられる。
【0022】
本発明の誘電体多層膜は、高屈折率樹脂層及び低屈折率樹脂層を溶媒と混合したワニスを各々調製し、これを交互に塗布する事で得られる。高屈折率樹脂層ワニスは、例えば、高屈折率樹脂層を構成する上記記載のポリマーを、ポリマーが可溶な液状媒体(有機溶剤若しくは水)中に溶解し、ここに、平均粒子径が1〜80nmである炭素系微粒子、並びに必要により難燃剤、カップリング剤、レベリング剤等を均一に混合/分散させることにより得ることができる。低屈折率樹脂層ワニスも同様に、例えば、低屈折率樹脂層を構成する上記記載のポリマーを、ポリマーが可溶な液状媒体(有機溶剤若しくは水)中に溶解し、必要により低屈折率を示す微粒子、難燃剤、カップリング剤、レベリング剤等を均一に混合/分散させることにより得ることができる。得られたワニス中の固形分濃度は質量割合で通常10〜80%、好ましくは30〜70%、より好ましくは40〜65%である。
【0023】
上記記載の方法で得られた、高屈折率樹脂層ワニス及び低屈折率樹脂層ワニスは、ガラス基板、プラスチック板、プラスチックフィルムなどの透明基材上に、ロールコーター、コンマコーター、ダイコーター 、スピンコーター、スプレーコーター、ディップコーター、スクリーン印刷、シルク印刷、インクジェット印刷、フィルム転写等により、塗布された後、大気中あるいは加熱オーブン中で乾燥すればよい。乾燥条件は使用する溶剤、膜厚に大きく左右されるが、室温あるいは概ね80〜180℃、30秒〜30分の範囲で選択される。
【0024】
本発明の誘電体多層膜を構成する高屈折率樹脂層と低屈折率樹脂層とは、各層が交互にそれぞれ1層以上積層していれば、その積層数に特に制限はないが、その反射率を所望の範囲に調整可能で、例えば、高屈折率樹脂層と低屈折率樹脂層の組み合わせを1積層膜とした場合、積層膜数が3〜20層であるのが好ましい。このような積層膜数であると、可視光線または赤外線、すなわち、約350〜1700nm程度の波長の光に対し反射率が通常35%以上となり実用上好ましい。なお、高屈折率樹脂層と低屈折率樹脂層の総層数は奇数であっても、偶数であってもよい。
【0025】
本発明の誘電体多層膜における、高屈折率樹脂層と低屈折率樹脂層の厚さは、その用途に応じて適宜決定すればよいが、各層の厚さは、ブラッグの反射式に基づき、反射光の波長は周期長と屈折率の積の二倍に比例することに基づき決定される。すなわち、反射を所望する光の波長と各層の平均屈折率から一義的に決定すればよいが、通常40〜1000nm程度であり、80〜600nmが好ましい。
【0026】
本発明の接着剤層を有する誘電体多層膜を得るには、例えば、光学ガラスを基板とし、この基板上に、(a)高屈折率層樹脂ワニスを滴下し、スピンコーターにより塗布した後、乾燥し高屈折率層を形成する。(b)更に、この高屈折率樹脂層の上に、低屈折率層樹脂ワニスを滴下し、スピンコーターにより塗布した後、乾燥して、低屈折率樹脂層を得る。(c)(a)および(b)の塗布成膜工程を交互に繰り返し、多層構造体を形成することにより、本発明の誘電体多層膜を得る事が出来る。
【実施例】
【0027】
以下、更に実施例を以って本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下において「部」は「質量部」を意味する。
【0028】
調製例1
高屈折率樹脂層ワニスA
ポリビニルアルコール(和光純薬株式会社製、重合度500)10.0部に純水90.0部を加え、撹拌、完溶させた。これにUstalla5%分散体(爆轟法により得られたナノダイヤモンド水分散体、日本化薬株式会社製、一次粒子経5nm、濃度5質量%)51.5部を加え、室温で撹拌/混合させ、本発明の高屈折率樹脂層ワニスを得た。得られた高屈折率樹脂層ワニスをスピンコーター(ACT−220DII、株式会社アクティブ製)を用いて、シリコン基板上に塗布、140℃の熱風循環式乾燥機で4分間乾燥して、厚さ30nmの高屈折率樹脂層が積層したシリコン基板を得た。得られたシリコン基板上の高屈折率樹脂層を分光エリプソメーター(FE−5000S、大塚電子株式会社製)によりその屈折率を測定した。結果を表1に示す。
【0029】
調製例2
高屈折率樹脂層ワニスB
調製例1のUstalla5%分散体の混合量を95.0部に変更した以外は、調製例1と同様の方法で行い、高屈折率樹脂層が積層したシリコン基板を得た。得られたシリコン基板上の高屈折率樹脂層の屈折率を表1に示す。
【0030】
調製例3
高屈折率樹脂層ワニスC
調製例1のUstalla5%分散体をUstalla10%分散体(ナノダイヤモンド水分散体、日本化薬株式会社製、一次粒子経5nm、濃度10質量%)に変え、混合量を99.1部に変更した以外は、調整例1と同様の方法で行い、高屈折率樹脂層が積層したシリコン基板を得た。得られたシリコン基板上の高屈折率樹脂層の屈折率を表1に示す。
【0031】
調製例4
高屈折率樹脂層ワニスD
調製例3のUstalla10%分散体の混合量を197.65部に変更した以外は、調整例1と同様の方法で行い、高屈折率樹脂層が積層したシリコン基板を得た。得られたシリコン基板上の高屈折率樹脂層の屈折率を表1に示す。
【0032】
調製例5
高屈折率樹脂層ワニスE
調製例3のUstalla10%分散体の混合量を384.0部に変更した以外は、調整例3と同様の方法で行い、高屈折率樹脂層が積層したシリコン基板を得た。得られたシリコン基板上の高屈折率樹脂層の屈折率を表1に示す。
【0033】
調製例6
高屈折率樹脂層ワニスF
調製例1のUstella5%分散体を混合しなかった以外は、調整例1と同様の方法で行い、高屈折率樹脂層が積層したシリコン基板を得た。得られたシリコン基板上の高屈折率樹脂層の屈折率を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
調製例7
低屈折率樹脂層ワニス
ポリメタクリル酸メチル(和光純薬株式会社製)2.0部にトルエン98.0部を加え、室温で撹拌、完溶させ、低屈折率樹脂層ワニスを得た。得られた低屈折率樹脂層ワニスを調整例1に記載の方法でシリコン基板上に塗布し、140℃の熱風循環式乾燥機で4分間乾燥して、厚さ30nmの低屈折率樹脂層が積層したシリコン基板を得た。得られたシリコン基板上の低屈折率樹脂層を分光エリプソメーター(FE−5000S、大塚電子株式会社製)によりその屈折率を測定したところ、1.49であった。
【0036】
実施例1
上記記載の方法で得られた、調製例1の樹脂層ワニスを高屈折率樹脂層、調製例7の樹脂層ワニスを低屈折率樹脂層として用いた。スピンコーター(ACT−220DII、株式会社アクティブ製)を用いて、ガラス基板上に、低屈折率樹脂層ワニスを滴下し、4000rpmで塗布・乾燥し、低屈折率樹脂層を形成した。更に、この低屈折率樹脂層の上に、高屈折率樹脂層ワニスを同様な方法で塗布乾燥し、高屈折率樹脂層を形成した。この2層を1bilayerとし、10回繰り返し積層して、10bilayerの誘電体多層膜を得た。得られた多層膜の反射率を測定し、結果を表2に示す。
【0037】
実施例2
調製例2の樹脂層ワニスを高屈折率樹脂層として用いた他は、実施例1と同様に行った。得られた10bilayerの誘電体多層膜の反射率を表2に示す。
【0038】
実施例3
調製例3の樹脂層ワニスを高屈折率樹脂層として用いた他は、実施例1と同様に行った。得られた10bilayerの誘電体多層膜の反射率を表2に示す。
【0039】
実施例4
繰り返し積層回数を8回で行った以外は、実施例3と同様に行った。得られた8bilayerの誘電体多層膜の反射率を表2に示す。
【0040】
実施例5
繰り返し積層回数を6回で行った以外は、実施例3と同様に行った。得られた6bilayerの誘電体多層膜の反射率を表2に示す。
【0041】
実施例6
繰り返し積層回数を4回で行った以外は、実施例3と同様に行った。得られた4bilayerの誘電体多層膜の反射率を表2に示す。
【0042】
実施例7
繰り返し積層回数を2回で行った以外は、実施例3と同様に行った。得られた2bilayerの誘電体多層膜の反射率を表2に示す。
【0043】
比較例1
調製例6の樹脂層ワニスを高屈折率樹脂層、調製例7の樹脂層ワニスを低屈折率樹脂層として用いた。スピンコーター(ACT−220DII、株式会社アクティブ製)を用いて、ガラス基板上に、低屈折率樹脂層ワニスを滴下し、4000rpmで塗布・乾燥し、低屈折率樹脂層を形成した。更に、この低屈折率樹脂層の上に、高屈折率樹脂層ワニスを同様な方法で塗布乾燥し、高屈折率樹脂層を形成した。この2層を1bilayerとし、10回繰り返し積層して、10bilayerの誘電体多層膜を得た。
【0044】
【表2】

【0045】
実施例1〜3の誘電体多層膜の分光反射率を図1に示した。図1より炭素系微粒子を混合する事により、容易に屈折率比を変化させることができ、その結果、誘電多層膜の反射率が容易にかつ劇的に向上しているこという点がわかる。
【0046】
実施例3〜4の誘電体多層膜の分光反射率を図2に、また、実施例5〜7および比較例1の誘電体多層膜の分光反射率を図3にそれぞれ示した。図2〜3より少ない積層数で、劇的な反射率を発現できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板の表裏面のうち、少なくとも一方の面に、屈折率比(低屈折率樹脂層の屈折率n/高屈折率樹脂層の屈折率n)が、n/n=0.98以下である高屈折率樹脂層と低屈折率樹脂層とを両者が交互に積層するように、2層以上有する多層構造体からなることを特徴とする誘電体多層膜であって、前記高屈折率樹脂層が、平均粒子径が1〜80nmである、炭素系微粒子を含有することを特徴とする、誘電体多層膜。
【請求項2】
平均粒子径が1〜80nmである炭素系微粒子が、ダイヤモンド構造を有する炭素系微粒子であることを特徴とする、請求項1記載の誘電体多層膜。
【請求項3】
炭素系微粒子が、爆薬組成物の爆発合成により得られた微細ダイヤモンドであることを特徴とする、請求項1〜2に記載の誘電体多層膜。
【請求項4】
炭素系微粒子が高屈折率樹脂膜成分中、60vol%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の誘電体多層膜。
【請求項5】
高屈折率樹脂層と低屈折率樹脂層の組み合わせを1積層膜とし、積層膜数が3〜20層であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の誘電体多層膜。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の高屈折率樹脂層を構成する高分子溶液と低屈折率樹脂層を構成する高分子溶液とを、(a)高分子材料を基板上に塗布・乾燥させ低屈折率樹脂膜を形成する工程、(b)該低屈折率樹脂膜上に塗布・乾燥させ高屈折率樹脂膜を形成する工程、(c)(a)および(b)の塗布成膜工程を交互に繰り返し、多層構造体を形成する工程を備えることを特徴とする誘電体多層膜の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の誘電体多層膜を備えることを特徴とする光学部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−237510(P2011−237510A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107058(P2010−107058)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】