説明

誘電体材料の製造方法

【課題】微粒でありながら凝集が防止されており、比誘電率が高い誘電体材料を容易に製造し得る方法を提供すること。
【解決手段】下記の無定形微粒子粉末を空気中230℃以上530℃未満で加熱して中間生成物を得る第1の工程と、第1の工程で得られた中間生成物を、減圧下700℃以上1000℃以下で加熱する第2の工程とを備えることを特徴とする。
〔無定形微粒子粉末〕
チタン、バリウム、乳酸及び蓚酸を含み、BET比表面積が6m2/g以上で、Ba原子とTi原子のモル比(Ba/Ti)が0.98〜1.02で、乳酸に由来する1120〜1140cm-1及び1040〜1060cm-1に赤外線吸収スペクトルピークを有することを特徴とする無定形微粒子粉末。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン酸バリウム等の製造に特に有用な誘電体材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子デバイスの急速な小型化、高性能化、高信頼化に伴い、これを構成する素子や、それらの出発原料の微細化が求められている。例えば、積層セラミックコンデンサ(MLCC)に現在使用されている誘電体の厚さは700〜800nm程度であり、その原料となるチタン酸バリウム(BaTiO3)微粒子の粒子径は100〜300nmであると報告されている。微細化技術はデバイス・機器の小型軽量化ばかりでなく、新材料、高機能材料の創成、更には生産方式まで一変させる可能性を有し、今後の大きなブレイクスルーテクノロジーとなる。
【0003】
近年、セラミックスも様々な形態となってデバイス化されている。近い将来、微粒子をそのままの状態で用いたデバイスも開発されるだろうと期待される。高周波で利用が期待されている微粒子とポリマーのコンポジット誘電体がその一例である。
【0004】
従来知られているチタン酸バリウムの合成法の一つとして、蓚酸バリウムチタニル四水和物の熱分解法がある。この方法によれば、不純物や欠陥のないチタン酸バリウム粒子を合成できる。この方法を改良し更に発展させた方法も報告されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
前記の方法とは別に、発明者らは、チタン酸バリウムの製造方法を報告した(非特許文献1及び2参照)。
【0006】
しかしながら、蓚酸バリウムチタニル四水和物を原料に用い、熱分解よってチタン酸バリウムを合成する場合には、原料の形骸を残した形で、一次粒子が強固に凝集した凝集物が生成してしまうという問題があった(非特許文献3参照)。また、チタン酸バリウムの粒径が68nmの場合には、比誘電率が14900という高い値を示すものの、粒径を59nmまで小さくすると、比誘電率は1800にまで下がってしまうという問題もあった。この問題は「サイズ効果」として知られている。サイズ効果に関連して、非特許文献4においては、チタン酸バリウムナノ粒子の表面立方晶を数nmまで薄くできれば、チタン酸バリウムの粒径を小さくしても比誘電率が低下しないことが報告されている。表面立方晶の厚さは、チタン酸バリウムの各粒径における(002)面と(200)面との分離の程度で判断できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−26423号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】日本セラミックス協会2003年年会講演予稿集、日本セラミックス協会2003年年会、3月22日−3月24日、八王子、東京
【非特許文献2】Annual Meeting Abstract,105th Annual Meeting & Exposition, April 27 − April 30, 2003, Nashville, TN
【非特許文献3】日本化学工業株式会社技術報告書CREATIVE、2002年、p.61−P71
【非特許文献4】保科ら、日本セラミックス協会2007年年会講演予稿集、2A22(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得る誘電体材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下記の無定形微粒子粉末を空気中230℃以上530℃未満で加熱して中間生成物を得る第1の工程と、
第1の工程で得られた中間生成物を、減圧下700℃以上1000℃以下で加熱する第2の工程とを備えることを特徴とする誘電体材料の製造方法を提供するものである。
〔無定形微粒子粉末〕
チタン、バリウム、乳酸及び蓚酸を含み、BET比表面積が6m2/g以上で、Ba原子とTi原子のモル比(Ba/Ti)が0.98〜1.02で、乳酸に由来する1120〜1140cm-1及び1040〜1060cm-1に赤外線吸収スペクトルピークを有することを特徴とする無定形微粒子粉末。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、微粒でありながら凝集が防止されており、比誘電率が高い誘電体材料を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1で用いた無定形微粒子粉末のX線回折チャートである。
【図2】実施例1で用いた無定形微粒子粉末のFT−IRチャートである。
【図3】実施例1で用いた無定形微粒子粉末の走査型電子顕微鏡像である。
【図4】実施例2で得られたチタン酸バリウムの走査型電子顕微鏡像である。
【図5】比較例3で得られたチタン酸バリウムの走査型電子顕微鏡像である。
【図6】実施例2及び比較例3で得られたチタン酸バリウム粒子の(002)面と(200)面のXRDパターンを表す図である。
【図7】実施例1ないし4及び比較例2ないし5で得られたチタン酸バリウムについて結晶子径と立方晶に対する正方晶の比率(正方晶/立方晶)との関係を示すグラフである。
【図8】実施例1ないし4及び比較例2ないし5で得られたチタン酸バリウムについて結晶子径と表面立方晶の厚さとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の製造方法は、大別して以下の二段階の工程を具備している。
(1)第1の工程:特定の無定形微粒子粉末を、空気中230℃以上530℃未満で加熱して中間生成物を得る。
(2)第2の工程:第1の工程で得られた中間生成物を、減圧下700℃以上1000℃以下で加熱して誘電体材料を得る。
以下、それぞれの工程について詳述する。
【0014】
先ず、本発明の製造方法において原料として用いられる前記の無定形微粒子粉末について説明する。この無定形微粒子粉末は、蓚酸バリウムチタニル四水和物と同様にペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造原料として好適に用い得るものである。無定形微粒子粉末は、チタン原子、バリウム原子、乳酸及び蓚酸を含むものである。ここでいう乳酸及び蓚酸とは、乳酸根及び蓚酸根(つまり乳酸や蓚酸の塩ないし陰イオン)のことである。また無定形微粒子粉末は、BET比表面積が6m2/g以上で、Ba原子とTi原子のモル比(Ba/Ti)が0.98〜1.02である。更に無定形微粒子粉末は、乳酸に由来する1120〜1140cm-1及び1040〜1060cm-1に赤外線吸収スペクトルピークを有する。この無定形微粒子粉末は、X線回折分析法において回折ピークが観察されない非晶質(=無定形、アモルファス)なものであり、本発明者らが初めて開発した新規な物質である。
【0015】
無定形微粒子粉末は、走査型電子顕微鏡(SEM)から求めた平均粒径が好ましくは3μm以下、更に好ましくは0.3μm以下、一層好ましくは0.1μm以下、更に一層好ましくは0.0001〜0.1μmという微粒のものである。この範囲の粒径は、チタン酸バリウムの製造に通常用いられている蓚酸バリウムチタニル四水和物粉末に比べて著しく細かいものである。また、後述する実施例から明らかなように、無定形微粒子粉末は、前記の範囲の一次粒子が過度に凝集することなく、高い分散状態となっている。分散状態が高いことは、無定形微粒子粉末を原料として、高比誘電率を有するチタン酸バリウムを容易に得られる点から有利である。通常、蓚酸バリウムチタニル四水和物を原料として用いた場合には、得られるチタン酸バリウムも、原料の蓚酸バリウムチタニル四水和物に由来する凝集構造を持つ。このため該チタン酸バリウムを粉砕すると、粉砕により粒子がダメージを受け、この結果、誘電率の低下につながることもある。
【0016】
また、無定形微粒子粉末は、BET比表面積が上述のとおり6m2/g以上であり、好ましくは10m2/g以上200m2/g以下、更に好ましくは20m2/g以上200m2/g以下である。
【0017】
無定形微粒子粉末はBa原子とTi原子を含有し、Ba原子とTi原子のモル比(Ba/Ti)は上述のとおり0.98〜1.02であり、好ましくは0.99〜1.00である。Ba/Tiの比がこの範囲内であることによって、無定形微粒子粉末は、ペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の製造原料として好適なものとなる。
【0018】
無定形微粒子粉末は、チタン原子及びバリウム原子に加えて、化学構造中に蓚酸根及び乳酸根を含有している。特に、乳酸根を含有していることに起因して無定形微粒子粉末は、乳酸に由来する1120〜1140cm-1及び1040〜1060cm-1にそれぞれ赤外線吸収スペクトルのピークを有する。また蓚酸根を含有していることは、FT−IR等を用いて無定形微粒子粉末の赤外線スペクトルを測定したときに、そのチャートがシュウ酸バリウムチタニルの赤外線スペクトルのチャートと同じピークを有しているか否かで判断する。同じピークを有している場合には、無定形微粒子粉末は蓚酸根を含有していると判断する。なお蓚酸バリウムチタニルの赤外線スペクトルについては、例えばCREATIVE、日本化学工業株式会社発行、2002年、No.3、p.61−70等に記載されている。無定形微粒子粉末の化学組成は明らかではないが、Ba及びTiを前記の範囲で含有し、更に蓚酸根及び乳酸根を適度な配合割合で含有するBaとTiを含む複合有機酸塩と考えられる。かかる無定形微粒子粉末を熱によって脱有機酸処理することにより、炭酸バリウムを副生することなく該無定形微粒子粉末からペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末を容易に製造することができる。
【0019】
更に、無定形微粒子粉末は、上述した特性を有することに加え、塩素含有量が好ましくは70ppm以下、更に好ましくは50ppm以下、一層好ましくは15ppm以下である。これによって、該無定形微粒子粉末から得られるチタン酸バリウムに含有される塩素の量を低減することが容易となる。チタン酸バリウムに含有されている塩素の量を低減できることは、チタン酸バリウム粉末を原料として積層コンデンサ等の誘電体を製造する場合に、その信頼性を確保する点で特に好ましい。
【0020】
無定形微粒子粉末には、ペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の誘電特性や温度特性を調整する目的で、副成分元素を含有させることができる。副成分元素としては、例えば、希土類元素、Li、Bi、Zn、Mn、Al、Ca、Sr、Co、Ni、Cr、Fe、Mg、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、Sn及びSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素が挙げられる。希土類元素としては、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等を用いることができる。副成分元素の含有量は、目的とする誘電特性に合わせて任意に設定することができる。例えばペロブスカイト型チタン酸バリウム中に0.001〜10重量%の範囲で含有されるように、無定形微粒子粉末での含有量を調整することが望ましい。
【0021】
無定形微粒子粉末は、好適には、チタン成分、バリウム成分及び乳酸成分を含む溶液(A液)と、蓚酸成分を含む溶液(B液)とをアルコールを含む溶媒中で接触させ反応を行うことにより製造される。
【0022】
A液中のチタン成分となるチタン源としては、塩化チタン、硫酸チタン、チタンアルコキシドあるいはこれらのチタン化合物の加水分解物を用いることができる。チタン化合物の加水分解物としては、例えば、塩化チタン、硫酸チタンなどの水溶液をアンモニア、水酸化ナトリウムなどのアルカリ溶液で加水分解したものや、チタンアルコキシド溶液を水で加水分解したものなどを使用することができる。これらのうち、チタンアルコキシドは副生物がアルコールのみで、塩素や他の不純物の混入を避けることができるので特に好ましく用いられる。チタンアルコキシドの具体例としては、チタンメトキシド、チタンエトキシド、チタンプロポキシド、チタンイソプロポキシド、チタンブトキシド等が挙げられる。これらのうち、チタンブトキシドが工業的に容易に入手可能で、原料自体の安定性もよく、また、分離生成するブタノール自体も取り扱いが容易である等の諸物性面から特に好ましく用いられる。チタンアルコキシドは、例えば、アルコール等の溶媒に溶解した溶液として用いることもできる。
【0023】
A液中のバリウム成分となるバリウム源としては、例えば、水酸化バリウム、塩化バリウム、硝酸バリウム、炭酸バリウム、酢酸バリウム、乳酸バリウム、バリウムアルコキシド等を用いることができる。これらのうち、安価で、かつ塩素や他の不純物の混入がなく反応を行える点で、水酸化バリウムが特に好ましく用いられる。
【0024】
A液中の乳酸成分となる乳酸源としては、乳酸、乳酸ナトリウム及び乳酸カリウム等の乳酸アルカリ金属塩、乳酸アンモニウム等が挙げられる。これらのうち、副生物がなく不要な不純物の混入を避けることができる点で、乳酸が特に好ましく用いられる。
【0025】
また、本発明では、チタン成分と乳酸成分の両方の成分源となるヒドロキシビス(ラクタト)チタン等の乳酸チタンを用いることもできる。
【0026】
チタン成分、バリウム成分及び乳酸成分を溶解する溶媒としては例えば水を用いることができる。あるいは水とアルコールの混合溶媒であってもよい。
【0027】
A液は、チタン成分、バリウム成分及び乳酸成分を溶解した透明な溶液であることが、目的とする無定形微粒子粉末を首尾良く製造し得る点から好ましい。この目的ため、A液はチタン源、乳酸源及び水を含む透明な溶液を調製する工程Iと、該溶液にバリウム源を添加する工程IIによって調製されたものであることが好ましい。
【0028】
工程Iでの操作では、乳酸源を溶解した水溶液にチタン源を添加するか、又はチタン源と水を含む懸濁液に乳酸源を添加する。液状のチタン化合物を用いる場合はそのまま乳酸源をチタン化合物に添加し、次いで水を添加して水溶液を調製してもよい。乳酸源を添加する温度は、使用する溶媒の凝固点以上であれば特に限定されない。
【0029】
A液中の乳酸源の量は、Ti成分中のTiに対するモル比(乳酸/Ti)で表して好ましくは2〜10、更に好ましくは4〜8とする。この理由は、Tiに対する乳酸のモル比が2未満では、チタン化合物の加水分解反応が起こりやすくなったり、安定なチタン成分を溶解した水溶液を得ることが難しくなったりするからである。一方、このモル比が10を超えても効果が飽和し、工業的に有利でないからである。
【0030】
工程Iでの水の配合量は、各成分が溶解した透明な液となるような量であれば特に制限されるものではないが、通常、Tiの濃度が好ましくは0.05〜1.7mol/L、更に好ましくは0.1〜0.7mol/Lとなり、乳酸の濃度が好ましくは0.1〜17mol/L、更に好ましくは0.4〜2.8mol/Lとなるような量とする。
【0031】
次いで、工程Iで得られたチタン源、乳酸源及び水を含む透明な溶液に、前述したバリウム源を工程IIで添加する。バリウム源の添加量は、反応効率を考慮してチタン成分中のTiに対するBaのモル比(Ba/Ti)が好ましくは0.93〜1.02、更に好ましくは0.95〜1.00となるような量とする。この理由は、Tiに対するBaのモル比が0.93未満では反応効率が低下する傾向にあり、得られる無定形微粒子粉末の(Ba/Ti)が0.98以下になる場合があるからである。一方、1.02を超えると、無定形微粒子粉末の(Ba/Ti)が1.02以上になりやすくなってしまう。バリウム源を添加する温度は使用する溶媒の凝固点以上であれば特に限定されない。
【0032】
A液は必要により水又は/及びアルコールにより濃度調整を行ってもよい。使用できるアルコールは、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等をはじめとする炭素数1〜4の1種又は2種以上である。
【0033】
A液中の各成分の濃度は、チタン成分がTiとして好ましくは0.05〜1.7mol/L、更に好ましくは0.1〜0.7mol/Lである。バリウム成分は、Baとして好ましくは0.0465〜1.734mol/L、更に好ましくは0.095〜0.7mol/Lである。乳酸成分は、乳酸として好ましくは0.1〜17mol/L、更に好ましくは0.4〜5.6mol/Lである。
【0034】
A液には、必要により、ペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末の誘電特性や温度特性を調整する目的で、副成分元素を含有させることができる。副成分元素としては、例えば希土類元素、Li、Bi、Zn、Mn、Al、Ca、Sr、Co、Ni、Cr、Fe、Mg、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、Sn及びSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素が挙げられる。希土類元素としては、例えばSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等が挙げられる。副成分元素は、酢酸塩、炭酸塩、硝酸塩、乳酸塩又はアルコキシド等の化合物として添加することが好ましい。副成分元素を含有する化合物の添加量は、目的とする誘電特性に合わせて任意に設定することができる。例えば、副成分元素を含有する化合物中の元素に換算した量が、ペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末に対して0.001〜10重量%であることが好ましい。
【0035】
一方、B液は蓚酸を含む溶液である。蓚酸をアルコールで溶解したものをB液とすることが、BET比表面積の高い無定形微粒子粉末を得ることができる点で特に好ましい。アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等をはじめとする炭素数1〜4の一価の低級アルコールの1種又は2種以上が挙げられる。
【0036】
B液においては、蓚酸の濃度が好ましくは0.04〜5.1mol/L、更に好ましくは0.1〜2.1mol/Lである。この範囲とすることで、目的とする無定形微粒子粉末が高収率で得られるので好ましい。
【0037】
A液とB液とをアルコールを含む溶媒中で接触させる方法としては、A液を攪拌下にB液へ添加する方法や、A液とB液をアルコールを含む溶液(C液)に同時に攪拌下に添加する方法が望ましい。これらのうち、A液とB液をアルコールを含む溶液(C液)に同時に攪拌下に添加する方法が、均一な化学組成比の無定形微粒子粉末を製造する点で特に好ましい。この場合C液に使用できるアルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等をはじめとする炭素数1〜4の一価の低級アルコールの1種又は2種以上が挙げられる。特に、A液中及びB液中のアルコールと同じものを使用することが好ましい。この場合C液のアルコールの溶媒量は特に制限されるものではない。
【0038】
B液に対するA液の添加量、あるいはA液及びB液のC液への添加量は、A液中のTiに対するB液中の蓚酸のモル比(蓚酸/Ti)が、好ましくは1.3〜2.3となるような量であることが、高収率で無定形微粒子粉末を得ることができることから好ましい。攪拌速度は、添加開始から反応終了までの間に生成する無定形微粒子を含むスラリーが常に流動性を示す状態となる程度であればよく、特に限定されるものではない。
【0039】
A液とB液との接触温度は、使用する溶媒の沸点以下で、かつ凝固点以上であれば特に限定されない。添加を一定速度で連続的に行うと、先に述べた範囲内のBET比表面積やBa/Tiモル比を有し、バラツキが小さく安定した品質の無定形微粒子粉末を容易に得ることができるので好ましい。
【0040】
A液とB液との接触終了後は、必要により熟成反応を行う。この熟成を行うと、生成する無定形微粒子の反応が完結するため、先に述べた範囲内のBET比表面積やBa/Tiモル比を有し、かつ組成のバラツキが少ない無定形微粒子粉末を容易に得ることができるので好ましい。熟成における温度に特に制限はないが、好ましくは10〜50℃とする。熟成時間は3分以上であれば良い。熟成温度とは、A液とB液の接触後における混合物全体の温度をいう。
【0041】
熟成終了後は、常法により固液分離し、必要により洗浄、乾燥及び解砕して目的とする無定形微粒子粉末を得る。この場合、チタン源としてチタンアルコキシド、バリウム源として水酸化バリウムを用いた場合には、塩素等の不純物を洗浄する洗浄工程を省くことができるという利点を有する。
【0042】
前記の解砕の手段としては、フードプロセッサ等の回転刀、ロールミル、ピン型ミル等を採用することができる。このようにして得られた無定形微粒子粉末は、その分散性を高めるために、粉砕処理に付されることが好ましい。場合によっては、乾燥後、解砕を行うことなく、直接に粉砕を行ってもよい。解砕後に粉砕を行う場合及び解砕を行わずに粉砕を行う場合のいずれの場合においても、粉砕処理を行うことで、凝集した粗粉(例えば、2μm以上)を無くし、分散性を高める効果がある。この粉砕処理には、例えばジェットミル等の粉砕装置を用いることができる。粉砕後の無定形微粒子粉末は、SEMから求めた平均一次粒子径が好ましくは0.3μm以下、更に好ましくは0.1μm以下、一層好ましくは0.0001〜0.1μmという微粒のもので、かつ凝集した粗粉が少なく、分散性の高い粉体となる。なお解砕とは、塊状の物質を解いて粗粉、いわゆる一次粒子の凝集体の割合が多い粉体を得る操作をいい、粉砕とは、該凝集体を砕いて一次粒子又は一次粒子に近い粉体を得る操作をいう。
【0043】
このようにして得られた無定形微粒子粉末は、先に述べたとおりの粒径を有する微粒のものである。この無定形微粒子粉末を、空気中230℃以上530℃未満、好ましくは430〜490℃で加熱する第1工程に付す。第1工程においては、最終目的物、すなわち誘電体材料であるチタン酸バリウムの中間生成物を得る。第1工程における加熱温度を230℃以上とすることで、無定形微粒子粉末の熱分解により、該無定形微粒子粉末に含まれている余分な有機物を除去できるという利点がある。加熱温度を530℃未満にすることで、中間生成物が更に分解することに起因するチタン酸バリウムの生成を抑制できるという利点がある。第1工程における加熱温度を更に高めて、第1工程のみでチタン酸バリウムを製造することも考えられるが、その場合には、粒成長が進行してしまい、微粒のチタン酸バリウムを得ることができない。第1工程で得られる中間生成物は、無定形微粒子粉末の一部が炭酸塩に変化した物質であると推測される。
【0044】
第1工程における昇温速度は0.2〜10℃/分、特に0.5〜5℃/分であることが、酸化が十分に行われるという点で好ましい。この昇温速度で目的とする温度に達した後、その温度を好ましくは0.2〜20時間、更に好ましくは0.5〜5時間維持する。この範囲の加熱時間とすることで、無定形微粒子粉末の熱分解を適度に進行させることができ、後述する減圧下の第2工程において速やかに中間生成物の熱分解を行うことができる。
【0045】
第1工程における昇温に関しては、これを複数段で行うこともできる。例えば、第1の昇温速度で昇温を行い、所定温度に到達した後、その温度を一定時間保持し、次いで第2の昇温速度で昇温を行い、所定温度に到達した後、その温度を一定時間保持することで、第1工程を行うことができる。
【0046】
第1工程は、無定形微粒子粉末を加熱炉内に静置して空気を流通させながら行うことができる。あるいは、ロータリーキルン炉等を用い、無定形微粒子粉末を流動(転動)させた状態下に空気を流通させながら行うことができる。
【0047】
第1工程の完了後、引き続き第2工程を行う。第2工程では、第1工程で得られた中間生成物を減圧下で加熱してチタン酸バリウムに転換させる。第2工程は、第1工程からの連続操作として、第1工程での加熱温度から更に昇温することで行うことができる。場合によっては、第1工程の終了後、一旦室温まで冷却した後に、必要により粉砕或いは解砕等を行った後、第2工程を行ってもよい。なお、前者の場合、すなわち第1工程での加熱温度から更に昇温する場合には、昇温速度は特に制限されるものではない。
【0048】
第2工程での加熱温度は700℃以上1000℃以下、好ましくは750〜1000℃とする。加熱温度が700℃より低いと、得られるチタン酸バリウムの結晶性が低下して、比誘電率を高めることが容易でなくなる。加熱温度が1000℃よりも高いと、チタン酸バリウムの粒子の粒成長が進行して、得られるチタン酸バリウムの粒径が大きくなってしまう。
【0049】
第2工程は減圧下で行う。本明細書において減圧とは、大気圧よりも低い圧力のことである。圧力条件は、200Pa〜10-4Paとすることが好ましく、10Pa〜10-2Paとすることが更に好ましい。第2工程を空気中(大気圧下)で行ったり、窒素ガス等の不活性ガス中で行ったりすることも考えられるが、その場合には、得られるチタン酸バリウムの結晶性を十分に高めることはできない。本発明に従い、減圧下において速やかに中間生成物の熱分解を行うことにより、結晶性の高いチタン酸バリウムを製造することができる。
【0050】
第2工程における加熱においては、上述の昇温速度で目的とする温度に達した後、その温度を好ましくは0.2〜24時間、更に好ましくは1〜10時間維持することが、チタン酸バリウムの結晶性を十分に高め、比誘電率を十分に高める点から好ましい。
【0051】
第2工程は、第1工程と同様に、静置加熱炉を用いて行うことができる。あるいは、ロータリーキルン炉等を用いることもできる。
【0052】
第2工程での熱処理によって、目的とするチタン酸バリウムが得られる。得られたチタン酸バリウムは、常法に従い粉砕処理に付され、目的とする粒径の粉体となる。得られたチタン酸バリウムは、一次粒子の粒径が小さいにもかかわらず凝集の程度が低く、分散性の高いものとなる。また、結晶性が高く、比誘電率の高いものとなる。
【0053】
具体的には、得られるペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末は、走査型電子顕微鏡(SEM)から求めた平均粒径が好ましくは0.02〜0.3μm、更に好ましくは0.05〜0.15μmであり、BET比表面積が好ましくは6m2/g以上、更に好ましくは8〜20m2/gで、粒径のバラツキが少ないものである。更にこれらの物性に加え、塩素含有量が、好ましくは70ppm以下、更に好ましくは50ppm以下であり、BaとTiのモル比が好ましくは0.98〜1.02、更に好ましくは0.99〜1.00の結晶性に優れたものである。
【0054】
更に、得られるペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末は、粉末としての比誘電率が非常に高いものである。粉末の比誘電率を正確に測定する技術はその困難さのため、これまで確立されなかった。本発明者らは、この技術を開発し公開した。具体的な測定方法は、S.WADA,T.HOSHINA,H.KAKEMOTO and T.TSURUMI,”Preparation of nm−ordered Barium Titanate Fine Particles using the 2−step Thermal Decomposition of Barium Titanyl Oxalate and Their Dielectric Properties”,the Proceedings of the 12th IEEE International Symposium on Applications of Ferroelectrics, Nara,p.263−p.266(2002)に記載されている。
【0055】
また、得られるペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末は、立方晶に対する正方晶の比率(正方晶/立方晶)が高いものである。すなわち、表面立方晶厚さが薄く、このことが比誘電率を高める因子の1つとなっていると考えられる。表面立方晶の厚さは、チタン酸バリウムの各粒径における(002)面と(200)面との分離の程度で判断でき、2つの面の分離がはっきりと観察されるほど、内部正方晶層の表面立方晶層に対する体積分率が高く、表面立方晶の厚さが薄いことを表す。この立方晶に対する正方晶の比率(正方晶/立方晶)は、例えば、特開2006−117446号公報に記載されているように、リートベルト法において、正方晶構造に帰属できるすべてのチタン酸バリウム粒子が、内部の正方晶構造と表面層の立方晶構造の2相構造であると仮定して、リートベルト解析を行うことにより求めることができる。
【0056】
本発明の方法に従い製造された誘電体材料であるペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末は、例えば積層セラミックコンデンサの原料として好適に用いられる。チタン酸バリウム粉末を、従来公知の添加剤、有機系バインダ、可塑剤、分散剤等の配合剤とともに適当な溶媒中に混合分散させてスラリー化し、シート成形を行うことにより、積層セラミックコンデンサの製造に用いられるセラミックシートを得ることができる。
【0057】
前記のセラミックシートから積層セラミックコンデンサを作製するには、先ず該セラミックシートの一面に内部電極形成用導電ペーストを印刷する。ペーストの乾燥後、複数枚の前記セラミックシートを積層し、厚み方向に圧着することにより積層体とする。次に、この積層体を加熱処理して脱バインダ処理を行い、焼成して焼成体を得る。更に、該燒成体にNiペースト、Agペースト、ニッケル合金ペースト、銅ペースト、銅合金ペースト等を塗布して焼き付けて積層コンデンサが得られる。
【0058】
また、本発明の方法に従い製造されたペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末を、例えばエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂等の樹脂に配合して、樹脂シート、樹脂フィルム、接着剤等とすると、プリント配線板や多層プリント配線板等の材料、電極セラミック回路基板、ガラスセラミックス回路基板及び回路周辺材料として用いることができる。
【0059】
更に、本発明の方法に従い製造されたペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末は、排ガス除去、化学合成等の反応時に使用される触媒や、帯電防止、クリーニング効果を付与する印刷トナーの表面改質材、その他、圧電体、オプトエレクトロニクス材、半導体、センサー等としても好適に用いることができる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0061】
〔実施例1〕
(1)無定形微粒子粉末の製造
【0062】
テトラ−n−ブチルチタネート8.56gに、乳酸18.22g、次いで純水30gを25℃で攪拌下に少しずつ加えて透明な液を調製した。次に、水酸化バリウム八水和物7.75gを加えて25℃で溶解させた後、エタノールで希釈して100mlのA液を調製した。これとは別に、蓚酸二水和物6.67gをエタノール100mlに25℃で溶解しB液とした。
【0063】
次に、25℃において攪拌下、エタノール(C液)100mlに対して、A液及びB液を同時に5分で全量滴下した。滴下終了後、25℃で15分熟成して沈殿物を得た。この沈殿物を濾過し、80℃で乾燥して粉末を得た。この粉末について、蛍光X線法によってBa/Tiモル比を測定したところ、1.00であった。またBET比表面積を、全自動比表面積計(Macsorb model−1201)を用いて測定したところ67m2/gであった。更に、平均粒径を測定したところ30nmであった。更に、イオンクロマトグラフィーにより塩素含有量を測定したところ2ppmであった。平均粒径は、倍率7万倍での走査型電子顕微鏡観察において任意に抽出した粒子200個の粒径の平均値とした。
【0064】
更に、得られた粉末のX線回折チャートを図1に示し、FT−IRチャートを図2に示す。また、走査型電子顕微鏡像を図3に示す。図1に示す結果から明らかなように、得られた粉末に回折ピークは観察されず非晶質であることが判る。また図2に示す結果から明らかなように、乳酸に由来する1120〜1140cm-1及び1040〜1060cm-1の吸収ピークが観察される。
【0065】
(2)誘電体材料の製造
無定形微粒子粉末50gを電気炉内に静置し、空気中、昇温速度1℃/minで250℃まで昇温した。次に250℃で3時間保持し、250℃から昇温速度1℃/minで460℃まで昇温後、2時間保持した。このようにして中間生成物を得た(第1工程)。第1工程での詳細な操作条件は以下のとおりである。
〔操作条件〕
・室温〜250℃:昇温速度1℃/min
・250℃:保持時間3時間
・250〜460℃:昇温速度1℃/min
・460℃:保持時間2時間
【0066】
引き続き、電気炉内を真空排気(2.66Pa)しながら、この状態下に3℃/minの速度で800℃まで昇温後、1時間保持した。その後、電気炉の電源を切り、排気しながら室温まで徐冷した(第2工程)。この操作によりチタン酸バリウム粒子を合成した。
【0067】
(3)評価1
得られたチタン酸バリウム粒子について、(a)Ba/Tiモル比、(b)結晶子径、(c)(002)面と(200)面との分離、(d)BET比表面積、(e)密度、(f)BET比表面積径、(g)BET比表面積径/結晶子径及び(h)比誘電率を以下の方法で測定した。それらの結果を以下の表1に示す。なお、(c)の(002)面と(200)面との分離は、チタン酸バリウムの表面立方晶の厚さの程度の尺度となるものであり、同一の粒径で比較した場合、分離が明確であるほど表面立方晶が薄いことを意味する。また(g)のBET比表面積径/結晶子径は、チタン酸バリウムの粒子の凝集の程度の尺度となるものであり、その値が大きいほど凝集の程度が大きいことを意味する。
【0068】
(a)Ba/Tiモル比
蛍光X線法によって測定した。
(b)結晶子径
X線回折法によって測定した。測定は、チタン酸バリウムの回折ピークのうち(111)面の半値幅を用い、シェラーの式(Dhkl=Κλ/βcosθ)を用いて評価した。式中、Dhklは(hkl)面に垂直な方向の結晶子の大きさ、λはX線の波長、βは回折線幅(半値幅)、θは回折角である。Κは定数である。回折線の幅の拡がりは光学系による拡がりも含まれているので、実際に観測した回折線幅Bから光学系に基づく拡がりbを補正する必要がある(β=B−b)。そのための標準試料としては、測定試料と同じ物質で結晶子が大きく不均一歪のない試料が得られれば理想的である。本実施例では第2工程を1400℃で行って得られたチタン酸バリウムを用いた。
(c)(002)面と(200)面との分離
大型放射光施設Spring−8のビームラインBL02B2を用いて測定した。
(d)BET比表面積
全自動比表面積計(Macsorb model−1201)を用いて測定した。
(e)密度
ピクノメーター法によって測定した。
(f)BET比表面積径
BET比表面積と密度から下記計算式(1)により算出した。
BET比表面積径=6/DS ・・・・計算式(1)
式中、Dは密度(g/cm3)、SはBET比表面積(m2/g)を表す。
(g)BET比表面積径/結晶子径
BET比表面積径と結晶子径から算出した。
(h)比誘電率
上述の方法に従い測定した。
【0069】
〔実施例2ないし4〕
第2工程の加熱温度を表1に示す温度とする以外は実施例1と同様にしてチタン酸バリウム粒子を得た。得られたチタン酸バリウム粒子について実施例1と同様の測定を行った。その結果を表1に示す。また、実施例2で得られたチタン酸バリウムの走査型電子顕微鏡(SEM)像を図4に示し、(002)面と(200)面のXRDパターンを図6に示す。
【0070】
〔比較例1〕
第2工程の加熱温度を表2に示す温度とする以外は実施例1と同様にしてチタン酸バリウム粒子を得た。得られたチタン酸バリウム粒子について実施例1と同様の測定を行った。その結果を表2に示す。
【0071】
〔比較例2ないし5〕
実施例1で用いた無定形微粒子粉末に代えて、蓚酸バリウムチタニル(平均粒径200μm)を用いた。また、第1工程の加熱温度を500℃とし、第2工程の加熱温度を表2に示す温度とした。これら以外は実施例1と同様にしてチタン酸バリウム粒子を得た。得られたチタン酸バリウム粒子について実施例1と同様の測定を行った。その結果を表2に示す。また、比較例3で得られたチタン酸バリウムの走査型電子顕微鏡像を図5に示し、(002)面と(200)面のXRDパターンを図6に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
表1及び表2に示す結果から明らかなように、各実施例で得られたチタン酸バリウムは、BET比表面積径/結晶子径の値が小さく、粒径が小さいにもかかわらず凝集の程度が低いことが判る。また、X線回折における(002)面と(200)面との分離が観察され、表面立方晶層の厚さが薄いことが判る。これらのことに起因して、各実施例で得られたチタン酸バリウムは比誘電率が高いことが判る。これに対し、比較例で得られたチタン酸バリウムは、BET比表面積径/結晶子径の値が大きく、凝集の程度が大きい。また比較例5の加熱処理温度を1000℃とした結晶子径が大きいもの以外では、X線回折における(002)面と(200)面との分離が観察されない。これらのことに起因して、各比較例で得られたチタン酸バリウムは比誘電率が低いことが判る。また、図6より、実施例2と比較例3で得られたチタン酸バリウムは結晶子径が約62nmとほぼ同じ大きさであるにも関わらず、実施例2で得られたものは、2つの面の分離がはっきり観察でき、内部正方晶層の表面立方晶に対する体積分率が高く、表面立方晶の厚さが薄いことが分かる。更に、図4と図5の対比から明らかなように、実施例で得られたチタン酸バリウムは一次粒子の凝集の程度が低いのに対し、比較例で得られたチタン酸バリウムは一次粒子の凝集が甚だしいことが判る。
【0075】
(4)評価2
実施例1ないし4及び比較例2及び5で得られたチタン酸バリウムにおいて、立方晶に対する正方晶の比率(正方晶/立方晶)を、特開2006−117446号公報に記載されている方法に基づいて、大型放射光施設Spring−8のビームラインBL02B2を用いて測定し、リートベルト法において正方晶構造に帰属できるすべてのチタン酸バリウム粒子が、内部の正方晶構造と立方晶構造の2相構造であると仮定して、解析を行うことにより求めた。図7に実施例1ないし4及び比較例2ないし5で得られたチタン酸バリウムについて結晶子径と立方晶に対する正方晶の比率(正方晶/立方晶)との関係を示すグラフを示す。図8に実施例1ないし4及び比較例2ないし5で得られたチタン酸バリウムについて結晶子径と表面立方晶の厚さとの関係を示すグラフを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の無定形微粒子粉末を空気中230℃以上530℃未満で加熱して中間生成物を得る第1の工程と、
第1の工程で得られた中間生成物を、減圧下700℃以上1000℃以下で加熱する第2の工程とを備えることを特徴とする誘電体材料の製造方法。
〔無定形微粒子粉末〕
チタン、バリウム、乳酸及び蓚酸を含み、BET比表面積が6m2/g以上で、Ba原子とTi原子のモル比(Ba/Ti)が0.98〜1.02で、乳酸に由来する1120〜1140cm-1及び1040〜1060cm-1に赤外線吸収スペクトルピークを有することを特徴とする無定形微粒子粉末。
【請求項2】
前記無定形微粒子粉末として塩素含有量が70ppm以下であるものを用いる請求項1記載の誘電体材料の製造方法。
【請求項3】
前記無定形微粒子粉末として、更に希土類元素、Li、Bi、Zn、Mn、Al、Ca、Sr、Co、Ni、Cr、Fe、Mg、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、Sn及びSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の副成分元素を含むものを用いる請求項1又は2記載の誘電体材料の製造方法。
【請求項4】
前記無定形粒子粉末を加熱して中間生成物を得る前に、該無定形微粒子粉末を粉砕処理に付す請求項1ないし3のいずれかに記載の誘電体材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−256190(P2009−256190A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61689(P2009−61689)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【出願人】(304023994)国立大学法人山梨大学 (223)
【Fターム(参考)】