説明

誘電体磁器組成物

【課題】 従来の誘電体磁器組成物は、焼成温度が高く、小型化、薄型化が可能な積層型電子部品に用いることができなかった。また、共振周波数における温度係数が高いため、特に、バンドパスフィルタに用いた場合、通過帯域における信号の挿入損失が大きく、バンドパスフィルタとして十分な特性が得られない。
【解決手段】 MgTiO、MgTiO、CaTiOを含有し、一般式でxMgTiO・yMgTiO・zCaTiOと表される組成において、x、y、zがモル%でそれぞれ、75.8≦x≦82.5、14.1≦y≦18.1、1.5≦z≦6.1の範囲にあるセラミックスであり、セラミックス100重量部に対して、結晶化ガラスを25〜30重量部添加する。
【効果】 共振周波数における温度係数を小さくできると共に、積層型電子部品の誘電体層間の導体パターンを構成する銀や銅等の融点よりも低い温度で焼結可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波やミリ波等の高周波領域で使用される誘電体フィルタや共振器等の材料に適した誘電体磁器組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話を中心とする移動体通信分野が急速な発展を遂げている一方、それらの端末機器で使用される電子部品には小型化、薄型化、高機能化という要求が益々強くなっている。誘電体フィルタや共振器の分野でも例外ではなく、この様な要求を実現するために構造の改良のみならず、材料の改良も必要になってきている。
誘電体フィルタや共振器に用いられる誘電体磁器組成物は、誘電率が高く、誘電損失が小さい、すなわち、Q値が高いことが望まれている。また、誘電体フィルタや共振器が積層型電子部品の場合、誘電体磁器組成物と銀や銅等の導体パターンを積層し、これらの積層体を焼成する必要があるため、銀や銅等の融点よりも低い温度で焼結することが可能な誘電体磁器組成物が望まれている。さらに、バンドパスフィルタに用いられる誘電体磁器組成物としては共振周波数における温度係数が小さいことが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−181549号公報
【特許文献2】特開2007−28139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の誘電体磁器組成物において、誘電率が比較的高く、Q値が高いものとしてMgTiO−CaTiO等が知られている。しかしながら、これらの従来の誘電体磁器組成物は、焼成温度が高いという問題があり、小型化、薄型化が可能な積層型電子部品に用いることができず、電子部品の小型化、薄型化に貢献できなかった。また、これらの従来の誘電体磁器組成物は、焼成温度を低くするために添加物を加えると、共振周波数における温度係数が高くなるので、特にバンドパスフィルタに用いた場合、通過帯域における信号の挿入損失が大きく、バンドパスフィルタとして十分な特性を得られなくなるという問題があった。
【0005】
本発明は、誘電率とQ値を高く、共振周波数における温度係数を小さくして、誘電体フィルタや共振器等の小型化、低損失化を可能にすると共に、銀や銅等の融点よりも低い温度で焼結する、内部導体と同時焼成可能な誘電体磁器組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の誘電体磁器組成物は、MgTiO、MgTiO、CaTiOを含有し、一般式でxMgTiO・yMgTiO・zCaTiOと表される組成において、x、y、zがモル%でそれぞれ、75.8≦x≦82.5、14.1≦y≦18.1、1.5≦z≦6.1の範囲にあるセラミックスであり、このセラミックス100重量部に対して、結晶化ガラスを25〜30重量部添加する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の誘電体磁器組成物は、MgTiO、MgTiO、CaTiOを含有し、一般式でxMgTiO・yMgTiO・zCaTiOと表される組成において、x、y、zがモル%でそれぞれ、75.8≦x≦82.5、14.1≦y≦18.1、1.5≦z≦6.1の範囲にあるセラミックスであり、このセラミックス100重量部に対して、結晶化ガラスを25〜30重量部添加するので、誘電率とQ値を向上させることができると共に、共振周波数における温度係数を改善することができ、さらに、焼結温度も銀や銅等の融点よりも低くできる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の誘電体磁器組成物の特性を説明するための表である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の誘電体磁器組成物は、MgTiO、MgTiO、CaTiOを含有し、一般式でxMgTiO・yMgTiO・zCaTiOと表されるセラミックスであり、x、y、zがモル%でそれぞれ、75.8≦x≦82.5、14.1≦y≦18.1、1.5≦z≦6.1の範囲にあるセラミックス主成分に結晶化ガラスが添加される。この結晶化ガラスは、セラミックス主成分100重量部に対して、25〜30重量部添加される。また、この結晶化ガラスは、SiO、CaO、BaO、LiO及び、Bを含有し、これにTiOとAlを添加して、結晶化させたものが用いられる。
【0010】
本発明の誘電体磁器組成物は、セラミックス主成分100重量部に対して、25〜30重量部の範囲で結晶化ガラスの量を調節することにより、焼結温度を低くすることが可能になる。また、MgTiOとMgTiOとCaTiOの比率を前述の範囲で調節することにより、誘電率とQ値を向上させることができる。さらに、結晶化ガラスは、SiO、CaO、BaO、LiO及び、Bを含有するガラスに、TiOとAlを所定量添加することにより、共振周波数における温度係数を小さくすることができると共に、積層型電子部品の誘電体層間の導体パターンを構成する銀や銅等の融点よりも低い900℃以下の温度で焼結が可能になる。
【実施例】
【0011】
以下、本発明の誘電体磁器組成物の実施例について説明する。
まず、本発明による誘電体磁器組成物の製造方法について説明する。SiO、CaO、BaO、LiO及び、Bを含有するガラス原料にTiOとAlを添加し、これらを所定比率で秤量、混合し、焼成して結晶化させた後、粉砕することにより結晶化ガラス粉末が形成される。そして、MgTiO、MgTiO、CaTiO等のセラミック原料粉末とこの結晶化ガラス粉末を所定の組成となるように秤量して、これをボールミル等を用いて16時間湿式混合し、これを乾燥させて脱水した。これらの混合粉末を800〜850℃で仮焼し、この仮焼粉末をボールミル等を用いて20時間湿式粉砕した。この粉砕物を乾燥、脱水した後、これにバインダーを加えて混合し、ふるいを用いて造粒した。この造粒粉末に3t/cmの圧力を加えて円柱状に形成し、大気中において850〜1050℃で焼成することにより本発明による材料を得た。
【0012】
本発明の誘電体磁器組成物の特性の測定は、前述の誘電体磁器組成物を成形、焼成して評価サンプルを得て行った。この特性の測定は、Hakki&Coleman法により、周波数が7〜8GHzにおける比誘電率(εr)とQ値(Qf)を測定した。また、共振周波数における温度係数(τf)は、誘電体フィルタや共振器等の通過帯域である7〜8GHzにおいて−25〜85℃の温度範囲で測定した。
【0013】
図1は、xMgTiO・yMgTiO・zCaTiOにおいて、それぞれの組成のモル比x、y、zを変え、かつ、結晶化ガラスの添加量と結晶化ガラスを構成する組成の比率を変えたときの焼結温度、比誘電率(εr)、Q値(Qf)及び、共振周波数における温度係数を表にまとめたものである。なお、結晶化ガラスは、SiO、CaO、BaO、LiO及び、Bを含有し、これにTiOとAlを添加して、結晶化させたものを用い、SiO、CaO、BaO、LiO及び、Bを含有し、これにTiOとZrOを添加して、結晶化させたものと対比した。試料Noの*印は本発明の範囲外のものであることを示している。
本発明の誘電体磁器組成物は、MgTiOの比率xが75.8≦x≦82.5、MgTiOの比率yが14.1≦y≦18.1、CaTiOの比率zが1.5≦z≦6.1、結晶化ガラスの添加量が25〜30重量部の範囲内で、比誘電率が15〜17、Q値が10000以上にすることができた。この時、SiO、CaO、BaO、LiO及び、Bを含有する結晶化ガラスに、TiOとAlを添加することにより、共振周波数における温度係数を小さくでき、TiOとAlの添加量をそれぞれTiOが2重量部、Alが4重量部とすることにより、共振周波数における温度係数を0±20ppm以内、焼結温度を900℃以下にすることができた。
【0014】
この様に本発明の誘電体磁器組成物は、xの値が75.8≦x≦82.5、yの値が14.1≦y≦18.1、zの値が1.5≦z≦6.1、結晶化ガラスの添加量が25〜30重量部の範囲内で、SiO、CaO、BaO、LiO及び、Bを含有する結晶化ガラスに添加されるTiOとAlの添加量をそれぞれTiOが2重量部、Alが4重量部とすることにより、積層タイプの誘電体フィルタ等において望まれる比誘電率15〜17、Q値が10000以上、共振周波数における温度係数が0±20ppm以内の特性を得ることができると共に、焼結温度を銀や銅等の融点よりも低い900℃以下とすることができる。
また、本発明の誘電体磁器組成物は、誘電体や共振器等に用いることにより、誘電体や共振器等の小型化、低損失化が可能になる。さらに、本発明の誘電体磁器組成物は、焼結温度を銀や銅等の融点よりも低くできるので、銀や銅によって形成された内部導体が積層体内に形成される積層タイプの誘電体フィルタ等にも利用が可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MgTiO、MgTiO、CaTiOを含有し、一般式でxMgTiO・yMgTiO・zCaTiOと表される組成において、
x、y、zがモル%でそれぞれ、75.8≦x≦82.5、14.1≦y≦18.1、1.5≦z≦6.1の範囲にあるセラミックスであり、該セラミックス100重量部に対して、結晶化ガラスを25〜30重量部添加したことを特徴とする誘電体磁器組成物。
【請求項2】
前記結晶化ガラスは、SiOが20重量部、CaOが5.6重量部、BaOが6.4重量部、LiOが12重量部及び、Bが50重量部を含有し、これらにTiOを2重量部、Alを4重量部それぞれ添加した請求項1に記載の誘電体磁器組成物。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−79719(P2011−79719A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234892(P2009−234892)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000003089)東光株式会社 (243)
【Fターム(参考)】